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明細書 :有害物質の除去方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4420496号 (P4420496)
公開番号 特開2001-149775 (P2001-149775A)
登録日 平成21年12月11日(2009.12.11)
発行日 平成22年2月24日(2010.2.24)
公開日 平成13年6月5日(2001.6.5)
発明の名称または考案の名称 有害物質の除去方法
国際特許分類 B01D  53/72        (2006.01)
B01D  53/70        (2006.01)
B09B   3/00        (2006.01)
B01J  35/02        (2006.01)
B01J  20/02        (2006.01)
B01J  20/30        (2006.01)
FI B01D 53/34 120D
B01D 53/34 134E
B09B 3/00 303F
B01J 35/02 J
B01J 20/02 B
B01J 20/30
請求項の数または発明の数 9
全頁数 11
出願番号 特願平11-334310 (P1999-334310)
出願日 平成11年11月25日(1999.11.25)
審査請求日 平成18年10月30日(2006.10.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】渡部 俊也
【氏名】橋本 和仁
【氏名】中島 章
【氏名】藤嶋 昭
【氏名】西川 貴志
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100108774、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 一憲
審査官 【審査官】三崎 仁
参考文献・文献 特開平08-024633(JP,A)
特開平08-010739(JP,A)
特開平11-293225(JP,A)
調査した分野 B01D53/70,53/72
B09B3/00,5/00
B01J20/00-20/34
B01J35/02
特許請求の範囲 【請求項1】
廃棄物を吸着剤とともに燃焼させ、燃焼に伴って生成する有害物質を吸着剤によって除去する方法であって、この吸着剤が酸処理した酸化チタンであり、かつ前記有害物質が芳香族環を含む化合物である方法
【請求項2】
吸着剤である酸処理した酸化チタンの光触媒作用により前記有害物質を除去する請求項1に記載の方法
【請求項3】
吸着剤である酸処理した酸化チタンの熱触媒作用により前記有害物質を除去する請求項1に記載の方法
【請求項4】
酸処理が、フッ化水素酸、硫酸、塩酸、および硝酸からなる群から選択されるいずれかの酸によって行われる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
廃棄物がポリマーである請求項1-4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ポリマーが有機塩素化合物である請求項に記載の方法。
【請求項7】
ポリマーが予め前記吸着剤を添加したものである請求項に記載の方法。
【請求項8】
芳香族環を含む化合物が、多環式芳香族化合物である請求項1-7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
芳香族環を含む化合物が、ポリスチレン、スチレンモノマー、ナフタレン、およびダイオキシン類からなる群から選択された少なくとも1種の化合物である請求項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ダイオキシン類のような有害物質の除去方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
生物にとって有害な物質の環境汚染が深刻化している。特に塩化ビニル等の塩素を含むポリマーの焼却の際に発生するダイオキシン類は、そのホルモン様活性のみならず、発癌性や催奇形性等の毒性も高いため、対策が急がれる汚染物質の一つである。ダイオキシン類とは、ダイオキシン(PCDD)に加え、ダイオキシンと毒性や性質が似ているポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)やコプラナPCB(Co-PCB)を含めた化合物の総称で、2,7-ジクロロ-ジベンゾダイオキシン(2,7-dichloro-p-dibenzodioxin)等の化合物が知られている。ダイオキシン類は塩素が混入した物質を燃焼させる際には必ず発生することから、根本的な対策が困難で近年大きな問題になっている。ダイオキシン類は焼却炉から排出される排気ガスや、焼却後に残る灰(焼却灰)に残留する。焼却灰は最終処分場に埋め立てられるが、この処分場の上空では飛散した焼却灰によるダイオキシン類汚染が検出されている。
【0003】
廃棄物のみならず、化石燃料の燃焼によって生成する化合物の中にも様々な有害物質が存在する。たとえばディーゼルエンジン等の排気ガスには、アントラセンやピレンのような発ガン性の強い多環式芳香族炭化水素化合物が含まれる。二酸化炭素や窒素酸化物などの排気ガス規制と並んで、これら芳香族環を有する有害物質の対策も急務である。
【0004】
これらの環境汚染物質は、比較的安定で環境中での微生物分解が期待できないものも多く、いったん環境中に排出されると除去は困難である。たとえばダイオキシン類は熱や酸、アルカリに対して比較的安定で、水にも溶けにくい性質があり、残留性が高い。ダイオキシン類は廃棄物の焼却過程で生じることが多いので、ダイオキシン類の吸着フィルターを焼却炉に付設するといったような工夫で環境中への放出を低減できる可能性がある。しかし現実には、ダイオキシン類に対して、安価で効果的な吸着剤は知られていない。また一般廃棄物以外にも、農業資材のように山間部で野焼きされる製品も多く、焼却にともなって発生するダイオキシン類の対策は完全ではなかった。
【0005】
他方、光触媒は光によって活性化されて、接触する物質に触媒作用を及ぼす化合物の総称である。光照射のみで強い触媒作用を発現するため、幅広い分野への応用が試みられている。特に酸化チタンからなる光触媒は、紫外線の照射によって強力な有機物の分解作用を示す。この作用を利用して、酸化チタンは、交通標識のような屋外設備の汚染防止、脱臭、あるいは水質浄化などに利用されている。光触媒のような触媒活性物質が持っている、物質を吸着し分解する作用を利用してダイオキシン類を除去することができれば有用である。しかしながら、先に述べたように現在問題となっている有害物質の多くは、化学的に安定な物質が多い。そのため、有害物質の吸着と分解を短時間で行うために、より強力な触媒活性が望まれている。
【0006】
酸化チタンの光触媒活性は、結晶構造によって左右されることが古くから知られている。すなわち、ルチル型は光触媒活性が低く、アナターゼ型の光触媒活性は高い。一般にアナターゼ型の結晶は比表面積が大きくなるので、触媒活性も高まるとされている。更に、酸化チタンの物性と光触媒活性の関係に関する知見が集積するのに伴って、光触媒活性を様々な手法によって制御することが可能になってきている。たとえば特開平7-303835号公報には、酸化チタン粒子の内部や表面に鉄化合物を含有させたり、あるいは鉱酸で処理すると、光触媒活性が高まることが開示されている。
【0007】
また、触媒作用が触媒の表面で発現することから、一般に、触媒の比表面積を大きくすることによって触媒活性が向上することが知られている。光触媒においても、比表面積の増大は触媒活性を増強する。しかし、比表面積は触媒化合物の物理的な性状や最終的な製品形態に制限される。一方、熱触媒においては、触媒の固体酸量が触媒活性を左右することが知られている(工業化学雑誌,74巻,p1085-1090,1971)。固体酸量が触媒表面における有機物の吸着量を増やし、結果的に触媒活性を増強するものと推測されている。つまり、比表面積が一定の場合、固体酸量の増加によって吸着量を増やせば、触媒活性の改善につながる。
しかし公知の固体酸量の増加方法は、一般に他の化合物との混合や複合化による方法(dope)を利用している。この方法は、金属酸化物の表面状態を変えてしまうので、その金属酸化物がもともと持っている物質の吸着活性を損なっている恐れがある。つまり、公知の固体酸量の増加方法は、金属酸化物本来の吸着量や触媒活性を犠牲にしている可能性が考えられた。
【0008】
熱触媒活性における物質の吸着量と触媒活性の関係は、既に明らかにされている(Applied Catalysis B:Environmental; Vol.20, p249-256,1999)。この報告によれば、酸化チタンTiO2に担持したV2O5-WO3触媒が、200℃~300℃で塩素含有多環式芳香族化合物を分解する。これに対して、例えばSiO2のようなルイス酸点が少ない酸化物は、200℃~300℃で塩素含有多環式芳香族化合物を保持することができず、蒸発させてしまう。この報告に用いられた触媒は、ルイス酸点の多い金属酸化物であるが、報告中に固体酸量と分解活性の関連性に関する記載は無い。なお固体酸量とは、触媒として用いられる金属酸化物表面の酸点の数を意味する。通常、指示薬を加えた試料を塩基で滴定することによって求められる。固体酸点にはルイス酸点とプレンステット酸点とがあるが、この方法によって求められるのはルイス酸点である。
しかしながら、上記のような物質の吸着量や触媒活性の増強方法は、いずれもその対象となる化合物を考慮していない。つまりこれらの報告は、いずれも物質の単なる性状を述べているのにすぎない。したがって、現在のところ、燃焼に伴って生成する有害物質の除去を目的として酸処理した金属酸化物を利用する試みは報告されていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、燃焼に伴って生成する有害物質の、吸着による除去方法を提供することである。公知の吸着剤に代えて、より吸着能力に優れた吸着剤を提供し、これを燃焼に伴って生成する有害物質の吸着に利用することが本発明の課題である。更に本発明は、単なる有害物質の吸着のみならず、吸着した有害物質を触媒活性によって効果的に分解することができる方法をも提供する。また本発明は、これらの方法に基づいて化石燃料や廃棄物等の燃焼に伴って生成する各種の有害物質の除去方法を提供する。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、金属酸化物による物質の吸着量が酸処理によって増強される現象に着目した。物質吸着能の改善によって、燃焼に伴って生成する有害物質の効果的な除去が達成できるのではないかと考えた。そして、実際に金属酸化物の酸処理によって、燃焼に伴って生成する有害物質の吸着能が劇的に改善されることを見出し本発明を完成した。
更に本発明者らは、吸着のみならず有害物質の分解までも行わせるためには、触媒活性物質との組み合わせが有用なのではないかと考えた。そして、前記金属酸化物として触媒作用を備えた化合物を利用することによって、きわめて効果的に有害物質を分解できることを見出し本発明を完成した。
すなわち本発明は、次の有害物質の吸着方法、あるいは分解方法とその用途に関する。
【0011】
〔1〕廃棄物を吸着剤とともに燃焼させ、燃焼に伴って生成する有害物質を吸着剤によって除去する方法であって、この吸着剤が酸処理した酸化チタンであり、かつ前記有害物質が芳香族環を含む化合物である方法
〔2〕吸着剤である酸処理した酸化チタンの光触媒作用により前記有害物質を除去する〔1〕に記載の方法
〔3〕吸着剤である酸処理した酸化チタンの熱触媒作用により前記有害物質を除去する〔1〕に記載の方法
〔4〕酸処理が、フッ化水素酸、硫酸、塩酸、および硝酸からなる群から選択されるいずれかの酸によって行われる〔1〕に記載の方法。
〔5〕廃棄物がポリマーである〔1〕-〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕ポリマーが有機塩素化合物である〔5〕に記載の方法。
〔7〕ポリマーが予め前記吸着剤を添加したものである〔5〕に記載の方法。
〔8〕芳香族環を含む化合物が、多環式芳香族化合物である〔1-7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕芳香族環を含む化合物が、ポリスチレン、スチレンモノマー、ナフタレン、およびダイオキシン類からなる群から選択された少なくとも1種の化合物である〔1〕に記載の方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明における吸着剤は、目的とする有害物質を吸着しうる物質であって、酸処理によって物質の吸着能を増強することができる金属酸化物であれば、任意の金属酸化物を利用することができる。本発明における金属酸化物には、2種類以上の金属元素を構成元素とする金属酸化物が含まれる。このような条件を満たす金属酸化物としては、以下のような物質を例示することができる。
(光)(熱) 酸化チタン
(光)(熱) 酸化亜鉛
(光)(熱) 酸化タングステン
(光)(熱) 酸化鉄
(光) - 酸化錫
(光) - チタン酸ストロンチウム
(光) - 酸化ビスマス
- (熱) 酸化アルミニウム
- (熱) 酸化ケイ素
- (熱) ゼオライト
- (熱) 酸化マグネシウム
- (熱) 酸化ニッケル
- (熱) 酸化銅
- (熱) 酸化バナジウム
- (熱) 酸化クロム
- (熱) 酸化モリブデン
- (熱) 酸化コバルト
望ましくは、金属酸化物そのものの毒性が無い、あるいは低いものを用いる。ただし吸着剤の毒性が低いことは、望ましい条件ではあるが、本発明の目的の達成のために必須の条件ではない。たとえば、吸着剤の環境への拡散を確実に制御することができる条件下であれば、自身が毒性を持つものであっても利用することは可能である。
本発明の吸着剤は、酸処理した金属酸化物が有効成分として配合されていれば、任意の剤型とすることができる。したがって、本発明の吸着剤は、単独で用いることもできるし、複数種を組み合わせることもできる。更に、例えば充填剤や補強剤、あるいはその他の吸着剤を配合することができる。
【0013】
本発明において吸着剤として用いる金属酸化物は、触媒作用を持つものとすることができる。吸着剤自身が触媒活性を持つときには、その増強された有害物質の吸着能によってより多くの有害物質が触媒表面に吸着される。その結果、有害物質のより効果的な除去を実現することができる。先に示した金属酸化物のうち、触媒作用を持つものについては、光触媒であれば(光)、熱触媒であれば(熱)と示してある。
【0014】
本発明における光触媒とは、光の照射によって有機物の分解を促進する触媒作用を示す化合物である。光触媒としては、酸化チタンを始め、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、酸化鉄等を示すことができる。中でも、酸化チタンが最も高い分解能力を有し、また安定なことから望ましい。酸化チタンの分解能力は、燃焼によって生成する分解が困難な有害物質にも及び、水と二酸化炭素、塩酸等の無機物に変化させる無機化が可能である。酸化チタンの触媒作用は、紫外線照射を受けた酸化チタン表面に活性酸素が生成し、この活性酸素が有機物に作用して分解を促進すると説明されている。
【0015】
一般に触媒活性は結晶構造によって大きく変わるので、優れた触媒活性を持つ結晶型を用いることが望ましいことは言うまでも無い。たとえば、酸化チタンの場合には、比表面積を大きくすることができるアナターゼ型で高度な光触媒活性が観察される。光触媒は、その比表面積を大きくするために、できるだけ粒子径の小さい粉体とするのが好ましい。たとえば、平均粒子径0.001~0.5μmの酸化チタンは、優れた光触媒活性を示すことが知られている。
【0016】
一方熱触媒とは、加熱条件下で有害物質の分解を促進する触媒作用を示す化合物である。熱触媒としては、酸化チタンを始めとする前記のような化合物を示すことができる。酸化チタンは、熱触媒としても高い分解能力を有し、また安定なことから望ましい熱触媒である。
酸化チタンの熱触媒作用は、光触媒作用と同様にアナターゼ型の結晶で高まる。また比表面積の増大が触媒活性を改善する点も光触媒作用と同様である。
【0017】
本発明においては、これらの金属酸化物を酸で処理することによって、有害物質の吸着量が増強される。酸処理とは、たとえば、フッ化水素酸、硫酸、塩酸、あるいは硝酸等による処理を示すことができる。特に効果的な処理方法としては、フッ化水素酸処理が挙げられる。このような酸処理は、金属酸化物がもともと備えている表面状態を変えることなく、その有害物質の吸着量を増強することができる望ましい表面改質方法である。
フッ化水素酸処理に用いるフッ化水素酸の濃度は、一般に0.001~40 wt%、通常0.002~20wt%、望ましくは0.02~10wt%とすることができる。処理のためのフッ化水素酸水溶液のpHは4以下が望ましい。処理温度は、一般に0~100℃、通常10~80℃、望ましくは20~60℃である。このような反応条件で金属酸化物を処理溶液に浸漬するとき、反応時間は一般に0.1~48時間程度、通常は0.5~12時間、望ましくは0.5~5時間処理とすることによって、十分な物質吸着量の増強効果を期待できる。処理の条件は、金属酸化物と酸処理に用いる酸の種類、温度、得られる吸着剤に求められる性能などを考慮して、当業者であれば本明細書の開示に基づいて最適化することができる。処理後の光触媒は、100~150℃で十分に乾燥させる(通常2~24時間)ことによって、本発明による吸着剤とすることができる。
【0018】
本発明において、酸処理は、金属酸化物の固体酸量を、2~3倍以上に増加する。たとえば一般的な酸化チタンの固体酸量は、200℃で焼成したときに0.5mmol/g程度(pKa≦4.8)である。この酸化チタンを上記のような条件でフッ化水素酸処理した場合の固体酸量は、1.5mmol/g前後(pKa≦4.8)とおよそ3倍に増加する。未処理の光触媒における固体酸量のレベルは、その比表面積にも左右されるので、一般的な数値を示すことができない。しかしいずれにせよ処理前のレベルと比較して、固体酸量は酸処理によって明らかに増加する。酸処理による光触媒活性の増強は、固体酸量の増大に起因するものと推定される。
【0019】
本発明に基づく有害物質の除去方法は、特に電子密度の高い有機物に対して有効である。電子密度の高い有機物からなる有害物質とは、たとえば多環式芳香族化合物などの芳香族環を含む化合物を示すことができる。中でもアントラセン、ピレン、あるいはコロネンのような多環式芳香族炭化水素化合物は、化石燃料の燃焼に付随して生成する有害物質として重要である。化石燃料の燃焼には、この他にも窒素含有多環式芳香族化合物やイオウ含有多環式芳香族化合物の生成が伴う。窒素含有多環式芳香族化合物には、アクリデンや2-ニトロアントラセン等を示すことができる。一方、イオウ含有多環式芳香族化合物にはジベンゾチオフェン等が含まれる。
【0020】
化石燃料の他、廃棄物の焼却に伴って生成する各種の有機物質にも重要な有害物質が含まれる。ダイオキシン類は、廃棄物の焼却によって生成する代表的な有害物質の一つである。ダイオキシン類のようにベンゼン環に塩素置換を含む化合物は、毒性が高い上に安定な化合物が多く、環境汚染源として重要である。本発明の有害物質の除去方法は、塩素置換を含む化合物に対しても有効な脱塩化水素反応を促進し、高い分解活性を示す。
なお本発明においては、燃焼と焼却という用語を用いる。本発明において、燃焼とは目的を問わず有機化合物の燃焼を伴う燃焼現象を広く意味する。一方焼却とは、廃棄物の処理を目的として有機物の燃焼を行うときに用いる用語である。
【0021】
本発明における有害物質とは、動植物に対するなんらかの毒性を示す有機化合物を意味する。毒性とは、たとえば慢性または急性の臓器障害、発ガン性、催奇形性、あるいはホルモン様作用等を示すことができる。先に例示した化石燃料の燃焼に伴って生成する多環式芳香族化合物は、いずれも発ガン性を示す化合物として重要である。その他、たとえ特筆すべき毒性を持たないとしても、異臭や煤塵のような環境被害をもたらす有機化合物も、本発明における有害物質に含まれる。
【0022】
さて、本発明では燃焼に伴って生成する有害物質の除去を目的とする。したがって本発明における吸着剤は、燃焼に伴って生成する有害物質が存在する場所に存在させることによって除去方法が成立する。具体的には、たとえば次のような形で、燃焼に伴って生成する有害物質と本発明の吸着剤との接触が可能である。
・燃焼させる物質に吸着剤を加えて燃焼させる
・吸着剤を加えながら燃焼させる
・燃焼後に残る灰に吸着剤を接触させる
・燃焼に伴って生成するガスに吸着剤を接触させる
これらの接触形態は、いずれかを単独で行うこともできる。また、適宜複数の接触方法を組み合わせることもできる。たとえば、燃焼させるべき物質に吸着剤を加えておき、更に燃焼によって生成するガスを吸着剤に接触させれば、灰とガスとの両方について、有害物質の除去を期待することができる。
【0023】
吸着剤が触媒作用を持つ金属酸化物であるとき、本発明による有害物質の除去方法を実施することによって、有害物質の分解までも実現することができる。触媒作用を持つ物質としては、酸化チタンなどが有用であることは既に述べた。本発明に基づいて、酸処理した酸化チタンを吸着剤として用いる場合を例として、本発明の除去方法を具体的に説明する。
【0024】
酸化チタンの存在下で物質を燃焼させることにより、生成する有害物質は酸化チタンに吸着される。このとき、熱触媒として機能しうる温度にあれば、吸着された有害物質は急速に分解され、無機化が進む。酸化チタンは200℃以上の温度条件下で熱触媒作用を十分に発現することから、通常の燃焼条件であれば、十分に熱触媒としての機能を発揮することができる。
酸化チタンは、熱触媒であると同時に光触媒でもある。したがって、酸化チタンに光触媒としての作用を期待する場合には、光触媒作用に必要な光源を照射するとよい。酸化チタンは波長400nm以下の紫外線によって、光触媒作用を示す。酸化チタンにおいては、熱触媒としての作用よりも光触媒作用による有害物質分解作用が非常に大きい。したがって、燃焼後に十分に紫外線を照射することにより有害物質の分解をより効果的に行うことができる。一般に燃焼中は紫外線照射の条件としては不利なので、焼却後の照射が望ましい。光触媒作用は、紫外線が照射された部分でのみ生じる。したがって光触媒を効率的に紫外線照射できるように、照射中は十分に撹拌を行いことが望ましい。
【0025】
本発明による有害物質の除去方法の特に望ましい応用分野として、廃棄物の燃焼(焼却)に伴って生成する有害物質の除去を挙げることができる。廃棄物の焼却はダイオキシン類の発生源として問題視されている。ダイオキシン類のような芳香族化合物は電子密度が高いため、酸処理した金属酸化物に吸着されやすい。したがって、本発明の除去方法が好適である。廃棄物として、ポリマー、特に有機塩素化合物からなるポリマーが含まれる場合には、ダイオキシン類を生成しやすいことから、本発明による除去方法が有効である。
具体的には、廃棄物に本発明における吸着剤を添加して焼却することにより、本発明の方法を適用することができる。吸着剤は、焼却時にしても良いし、製品が製造されるときに添加しておくこともできる。製品に添加しておけば、既存の焼却施設で簡単に本発明による除去方法を実施することができる。つまり、廃棄物として自動的に本発明の吸着剤が混入されることになるので、なんら特別な工程は必要としない。焼却に伴って発生する有害物質は、焼却中に吸着剤に吸着されてしまう。このとき、吸着剤として酸化チタンのような熱触媒作用を持つものを利用していれば、吸着に続いて分解が進行する。焼却によって発生している熱が熱触媒作用を支える。酸化チタン表面では、有害物質の吸着と分解が繰り返し行われる結果、焼却後の灰に含まれる有害物質の量は著しく低下する。酸化チタンは光触媒作用を持つことから、焼却時に紫外線を照射すれば、光触媒作用による分解も進行する。更に、より確実に有害物質を除去するために、焼却後の灰を集めて、再び加熱、あるいは紫外線照射することができる。
あるいは、吸着剤の不存在下で焼却した後に残る灰に吸着剤を加えて本発明による有害物質の除去方法を実施することもできる。したがって、これまでに有害物質を含むまま放置されていた焼却灰を本発明の有害物質の除去方法によって処理することもできる。
【0026】
廃棄物の焼却に伴って生成するガスにも有害物質は含まれている。この有害物質の除去に本発明を応用することもできる。通常の廃棄物焼却施設には、排気ガスの捕集設備が備えられている。その構成要素の一つとして、本発明による吸着剤を利用することができる。本発明における吸着剤が酸化チタンのように触媒作用を持つものであるときには、触媒作用の発現に必要な条件を与える。たとえば、焼却炉後段のバグフィルター構成物への混合や、触媒層への充填により排気ガスとの接触が行われる。触媒作用を得るには、この部分を必要な温度に加熱できるような手段を組み合わせれば良い。
【0027】
本発明による有害物質の除去方法は、内燃機関の排気ガスに含まれる有害物質の除去にも適用することができる。内燃機関においては、燃料の燃焼の場に本発明における吸着剤を供給することが難しい。したがって排気ガスを吸着剤に接触させる方法を採用することができる。自動車用ガソリンエンジンには、排気ガス処理のための熱触媒が既に装備されているが、その触媒の構成成分として本発明における吸着剤を利用することができる。このような実施形態においては、光触媒よりも熱触媒の応用が実用的である
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明する。
【0028】
【実施例】
(実施例)
(1)フッ化水素酸処理
酸化チタン(石原産業(株)製、ST-21)100gを酸化チタン濃度100g/Lになるように、純水1L中で攪拌し、酸化チタンスラリーを調整した。
この酸化チタンスラリー1Lに、フッ化水素酸(和光純薬工業(株)製、特級)10.5gを添加した。2時間攪拌後、濾過洗浄を行い、濾液の導電率が200μS/cm以下になるまで洗浄した。洗浄後の酸化チタン95gは酸化チタン濃度100g/Lになるよう純水950mLを用いて、再分散させた。酸化チタンスラリーのpHが7になるまで、5wt%水酸化ナトリウム水溶液でpHを調整した。次に濾液の導電率が50μS/cmになるまで、このスラリーを濾過洗浄してフッ化水素酸処理酸化チタン含水物を得た。本試料を110℃で1晩乾燥後、得られた試料を乳鉢で粉砕し、フッ化水素酸処理酸化チタン粉体(試料A)を得た。また、処理しない最初の酸化チタンを比較試料(試料B)とする。
【0029】
(2)固体酸量評価
(1)で得た試料の固体酸量を以下の方法により評価した。50mlの共栓付き三角フラスコにベンゼン10mlを秤量し、各試料300mgを添加した。さらに指示薬である0.05Mのメチルレッドベンゼン溶液を3滴滴下し、攪拌後、1時間放置した。メチルレッドが吸着した試料はブチルアミン滴定前は赤色である。同様の試料を10個準備し、0.01M n-ブチルアミンベンゼン溶液を0.5mlずつ増量し添加した。1晩放置後、中和の終点前後で赤色から黄色への変色が生じる中和当量前の試料に対して、さらに追加し0.5ml以下の増加分を滴定し、黄色になった量を滴定の終点とし、その滴定量から酸量(pKa(固体酸性度)≦4.7)を次の算出方法に基づいて算出した。
固体酸量(mmol/g)=(0.01×滴定量(L))/(試料(g))
【0030】
【表1】
JP0004420496B2_000002t.gif表1に示すように本発明による光触媒(試料A)は、比表面積がほぼ一定であるにも関わらず、フッ化水素酸処理により固体酸量が2倍に増加している。このことから、フッ化水素酸処理は固体酸量増加に有効であることがわかる。
【0031】
(3)芳香族化合物吸着評価
次に、試料の芳香族化合物に対する吸着量を以下の方法で調べた。10~100mgの試料をテフロン製セルに仕込み、ガスクロマトグラフの注入口とカラムの中間に接続した。芳香族化合物のモデル化合物として、1wt%のジベンゾフランヘキサン溶液を用意した。試料はマイクロシリンジによりジベンゾフランが0.03mgずつ導入されるように注入し、出口側の濃度を測定し、供給量と吸着量との関係を得た。得られた供給量と吸着量との関係は供給量が小さい範囲では比例関係が成立するので、比例定数を求め、見かけの吸着力(試料1gあたりのジベンゾフラン1gを投入した場合の吸着量(mg))として評価した。結果は表2に示した。表2より、フッ化水素酸処理により、固体酸量が増加した結果、試料Aでは芳香族化合物であるジベンゾフランの見かけの吸着力が増加することがわかる。
【表2】
JP0004420496B2_000003t.gif【0032】
(4)高温における燃焼特性の評価
ポリスチレンをモデルポリマーとし、燃焼温度350℃における、本発明の有害物質除去効果を分解生成物組成により評価した。
ポリスチレン1.5g(Aldrich製、平均分子量230,000)をキシレン(和光純薬工業(株)製、特級)に溶解し、(1)で得た試料A、B150mgを投入し、超音波により分散させた。分散後、アルミ製容器上でホットプレートにより加熱し、溶媒除去を行い、評価用複合材料を得た。
評価用複合材料の燃焼特性を評価するため、燃焼ボート上に評価用複合材料を約600mg秤取り、所定の温度で1時間、合成空気1L/minを通じて燃焼させた。燃焼生成物中の、固体分は重量法で測定した。ガス中の芳香族化合物(例えば、スチレンモノマーなど)は、アセトニトリル吸収瓶で捕捉し、液体クロマトグラフィー(カラム:Crestpak C18T-5(日本分光)、移動相:アセトニトリル/水=60/40)により定量した。
【0033】
【表3】
JP0004420496B2_000004t.gif表3に示すように、残存固形分率が同じことから、スチレンモノマーへの分解は同程度生じていることが推定できる。一方で、試料Aでは燃焼ガス中に含まれるスチレンモノマーが減少していることから、燃焼分解により生じた芳香族化合物であるスチレンモノマーに対する吸着力が増加していることがわかる。すなわち本発明の光触媒が、焼却条件の下で有機物質の吸着量を高く維持していることが確認された。このことは、本発明の光触媒が、廃棄物の焼却に伴って生成するダイオキシン類の吸着に有効であることを示している。
【0034】
(5) 焼却灰の光触媒分解
(4)で得られた試料Aを使用した複合材料について光触媒分解を評価した。各試料を350℃で、セラミック製の灰皿上で焼却後、灰皿上の残留物を紫外線照射強度80mW/cm2で光照射した。GPC(TOSOH製、HLC-8120GPC:カラム、TOSOH製TSK gel GMHHR-H)による平均分子量測定により、92時間光照射前後の焼却灰の分解状態を比較した。試料はテトラヒドロフランを溶媒としたソックスレー抽出を行い、得られた抽出溶液をGPCにより、平均分子量で評価した。
【0035】
【表4】
焼却灰の平均分子量変化
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
照射時間(時間) 0 92
───────────────────
重量平均分子量 14174 449
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
以上の結果、重量平均分子量が減少していることより、焼却灰中の高分子成分が光触媒作用により分解し、分子量が低下していると考えられた。したがって、本発明による吸着剤が光触媒であるとき、複合材料の焼却後に高い光触媒活性を維持していることが裏付けれた。
これらの結果を総合し、本発明による光触媒は、酸処理によって有機物質の吸着量が増加することによって、有機物の分解作用が増強されていることが推定された。
【0036】
【発明の効果】
本発明においては、酸処理した金属酸化物を利用することにより、燃焼によって生成する有害物質を効果的に吸着除去できる。金属酸化物の酸処理は、安価で容易に行うことができる表面改質方法である。燃焼に伴って生成する有害物質が、酸処理を施した金属酸化物によって効果的に吸着できることを見出した点に本発明の大きな意義がある。化石燃料や廃棄物の燃焼に伴って生成する有害物質には、毒性が高い上に安定な化合物が多い。本発明によれば、このような処理の難しい有害物質の除去を、効果的に行うことができる。
特に本発明に基づく有害物質の吸着剤が触媒作用を併せ持つ場合には、実施例に示すように、有機物質とともに燃焼させた後にも、その有害物質除去性能が高く維持されている。したがって、本発明に基づく有害物質の吸着剤を焼却が見こまれる材料に予め添加しておくことによって、有機塩素化合物の焼却にともなって生成するダイオキシンの触媒作用による分解効果を期待することができる。同様の効果は、焼却すべき物質に本発明による有害物質の吸着剤を添加することによって達成することもできる。このように、廃棄物の焼却工程などにおいて、本発明の有害物質の除去方法は容易に応用することができる。
【0037】
本発明による有害物質の除去方法は、燃焼によって発生するガス中の有害物質の除去にも有効である。たとえば、廃棄物を焼却したときに生成するガス中には、多くの有害物質が検出される。また、化石燃料の燃焼に伴う排気ガスにも、様々な有害物質が含まれている。これらのガス中の有害物質において、特に有害なものの一つが芳香族環を構造中に含む物質である。酸処理した金属酸化物は、この種の電子密度の高い化合物の吸着能に優れることから、本発明による有害物質除去方法は、ガス中の有害物質の除去に特に有用である。