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明細書 :金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4280221号 (P4280221)
公開番号 特開2005-139438 (P2005-139438A)
登録日 平成21年3月19日(2009.3.19)
発行日 平成21年6月17日(2009.6.17)
公開日 平成17年6月2日(2005.6.2)
発明の名称または考案の名称 金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法
国際特許分類 C08J   7/00        (2006.01)
B82B   3/00        (2006.01)
G11B   5/714       (2006.01)
G11B   5/842       (2006.01)
FI C08J 7/00 CFGA
C08J 7/00 301
B82B 3/00
G11B 5/714
G11B 5/842
請求項の数または発明の数 7
全頁数 21
出願番号 特願2004-298300 (P2004-298300)
出願日 平成16年10月13日(2004.10.13)
優先権出願番号 2003353130
優先日 平成15年10月14日(2003.10.14)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年4月10日(2007.4.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】冨田 知志
【氏名】縄舟 秀美
【氏名】赤松 謙祐
個別代理人の代理人 【識別番号】100102299、【弁理士】、【氏名又は名称】芳村 武彦
審査官 【審査官】▲吉▼澤 英一
参考文献・文献 特開2003-082475(JP,A)
特開昭49-083765(JP,A)
特開平08-209354(JP,A)
特開2005-045236(JP,A)
特開2005-029735(JP,A)
調査した分野 C08J 7/00-7/18
特許請求の範囲 【請求項1】
(a)ポリイミド樹脂膜をアルカリ水溶液で処理してカルボキシル基を導入し、つぎに(b)金属イオン含有液と接触させて樹脂膜中に金属イオンをドープした後に、(c)還元性ガス中で金属イオンの還元温度以上で熱処理を行ってポリイミド樹脂中に金属ナノ粒子が分散した層を形成させ、(d)前記熱処理温度とは異なる温度で更に熱処理を行うことにより金属ナノ粒子分散層の厚さを調整して、コンポジット膜中の金属ナノ粒子の体積充填率を制御することを特徴とするポリイミド樹脂膜中に金属ナノ粒子が分散した金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法。
【請求項2】
(d)金属ナノ粒子分散層形成後の熱処理を、金属ナノ粒子分散層を形成させる温度よりも低温で行うことを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法。
【請求項3】
(d)金属ナノ粒子分散層形成後の熱処理を、金属ナノ粒子分散層を形成させる温度よりも高温で行うことを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法。
【請求項4】
(d)金属ナノ粒子分散層形成後の熱処理を、不活性ガス中で行うことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法。
【請求項5】
(a)アルカリ性水溶液として、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムの水溶液を使用することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法。
【請求項6】
(b)金属イオン含有液が、ニッケル、コバルト、鉄から選択された1種以上の金属イオンを含有するものであることを特徴とする請求項~5のいずれかに記載の金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法。
【請求項7】
(c)還元性ガスが水素ガスであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂膜中に金属ナノ粒子が分散した金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法、及び金属ナノ粒子コンポジット膜の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直径数~数十ナノメートルのナノ粒子が、粒子の材料とは別材料のマトリックス(膜)に埋め込まれたものを、ナノ粒子コンポジット膜と呼ぶ(図4参照)。例えば、鉄やニッケルなど強磁性金属のナノ粒子がマトリックス中に埋め込まれたものは、強磁性金属ナノ粒子コンポジット膜と呼ばれる。強磁性金属ナノ粒子コンポジット膜は、ハードディスクなど、超高密度磁気記録媒体へ応用の観点から近年注目を集めている。
【0003】
一般的にコンポジット膜の性質は、それを構成するナノ粒子の、(1)材質、(2)粒子径、(3)体積充填率、等で決定される。特に、粒子サイズと体積充填率は、粒子間相互作用に重大な影響を及ぼすため、重要なパラメーターである。よって、所望の性質・特性を持つナノ粒子コンポジット膜を実現するためには、ナノ粒子の粒子径と体積充填率を独立に制御することが不可欠である。
【0004】
ナノ粒子コンポジット膜の製造には、大きく分けて、原子・分子を積み上げてナノ粒子を作製するボトムアップ型と、バルクを切り崩してゆくトップダウン型の二種類の製造方法が存在する。
ボトムアップ型のナノ粒子コンポジット膜の製造方法としては、例えば、コロイドを用いた自己組織化法、分子線エピタキシー(MBE)法、スパッタリング法等が挙げられる。しかしながら、これらの方法では、コンポジットを構成するナノ粒子の、粒子径と体積充填率を独立して制御することが困難である。
【0005】
一方、トップダウン型のナノ粒子コンポジット膜の製造方法の代表としては、光リソグラフィ法、電子線リソグラフィ法等が挙げられる。これらの方法では、粒子径と体積充填率の独立した制御は可能であるが、現在の技術では、粒子径はせいぜい数十ナノメートルレベルが限界で、数ナノメートルレベルでの制御は困難である。
【0006】
これらの方法に対して、本発明者等は、(a)ポリイミド樹脂膜を水酸化カルシウム水溶液等の強アルカリ溶液で処理してカルボキシル基を導入し、つぎに(b)ニッケル、銅等の金属イオン含有液と接触させて樹脂膜中に金属イオンをドープした後に、(c)水素ガス中で加熱還元処理することによって、ポリイミド樹脂膜中に金属ナノ粒子が分散した金属ナノ粒子コンポジット膜が得られることを見出し、先に提案した。(特許文献1、非特許文献1及び2参照)
【0007】

【特許文献1】特開2003-82475号公報
【非特許文献1】Chem. Mater. 2003, Vol.15, pp.2488-2491
【非特許文献2】Eur. Phys. J. D Vol.24, pp.377-380 (2003)
【0008】
この方法によれば、ポリイミド樹脂膜中に金属ナノ粒子が均一に分散したコンポジット膜を製造することが可能となり、熱処理温度を調整することによって金属ナノ粒子の粒子径を制御することができる。
しかしながら、この方法では得られるコンポジット膜中の金属ナノ粒子の体積充填率を制御することは難しく、所望の性状を有するコンポジット膜を得ることは困難であった。また、コンポジット膜の表裏両面に同じ層厚の金属ナノ粒子分散層を形成することも困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、特許文献1及び非特許文献1、2に記載されたコンポジット膜の製造方法における問題点を解消して、金属ナノ粒子コンポジット膜中の金属ナノ粒子の粒子径と体積充填率を独立に制御可能とする金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は鋭意検討した結果、(1)金属ナノ粒子コンポジット膜の金属ナノ粒子の粒子径は最初のアルカリ処理によって決まり、還元性ガス中での熱処理によって金属ナノ粒子分散層が形成された後は粒子径が変化しないこと、及び(2)金属ナノ粒子分散層が形成された後に、マトリックスであるポリイミドを熱分解させて金属ナノ粒子分散層の厚さを調整することにより、コンポジット膜中の金属ナノ粒子の体積充填率を制御できること、を見出し本発明を完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明では上記課題を解決するために、つぎの1~9の構成を採用する。
1.(a)ポリイミド樹脂膜をアルカリ水溶液で処理してカルボキシル基を導入し、つぎに(b)金属イオン含有液と接触させて樹脂膜中に金属イオンをドープした後に、(c)還元性ガス中で金属イオンの還元温度以上で熱処理を行ってポリイミド樹脂中に金属ナノ粒子が分散した層を形成させ、(d)前記熱処理温度とは異なる温度で更に熱処理を行うことにより金属ナノ粒子分散層の厚さを調整して、コンポジット膜中の金属ナノ粒子の体積充填率を制御することを特徴とするポリイミド樹脂膜中に金属ナノ粒子が分散した金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法。
2.(d)金属ナノ粒子分散層形成後の熱処理を、金属ナノ粒子分散層を形成させる温度よりも低温で行うことを特徴とする1に記載の金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法。
3.(d)金属ナノ粒子分散層形成後の熱処理を、金属ナノ粒子分散層を形成させる温度よりも高温で行うことを特徴とする1に記載の金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法。
4.(d)金属ナノ粒子分散層形成後の熱処理を、不活性ガス中で行うことを特徴とする1~3のいずれかに記載の金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法。
5.(a)アルカリ性水溶液として、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムの水溶液を使用することを特徴とする1~4のいずれかに記載の金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法。
6.(b)金属イオン含有液が、ニッケル、コバルト、鉄から選択された1種以上の金属イオンを含有するものであることを特徴とする~5のいずれかに記載の金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法。
7.(c)還元性ガスが水素ガスであることを特徴とする1~6のいずれかに記載の金属ナノ粒子コンポジット膜の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属ナノ粒子コンポジット膜中の金属ナノ粒子の粒子径と体積充填率を独立に制御することが可能となり、所望の粒子径と体積充填率を有する金属ナノ粒子コンポジット膜を簡単に、効率良く製造することができる。
本発明で得られる強磁性金属ナノ粒子コンポジット膜はより室温近くまで強磁性を示す等、優れた特性を有するものであり、超高密度磁気記録媒体や、磁気共鳴を利用した磁気ノイズ吸収材等として、様々な産業分野に応用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明によりポリイミド樹脂膜中に金属ナノ粒子コンポジット膜を製造する手順について、具体的に説明する。
本発明では、はじめに、(a)ポリイミド樹脂膜を水酸カリウム又は水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液で処理することによって、ポリイミド樹脂のイミド環を開裂させてカルボキシル基を導入する。
【0014】
水酸化アルカリの濃度は、1~10モル/リットル、特に3~7モル/リットル程度とすることが好ましく、室温~80℃程度、好ましくは40~60℃程度の水溶液に、ポリイミド樹脂膜を1~60分間、好ましくは3~10分間程度浸漬することによって、カルボキシル基を導入することができる。
【0015】
つぎに、(b)このカルボキシル基を導入したポリイミド樹脂膜(以下、「改質ポリイミド樹脂膜」ということがある)を金属陽イオンを含有する溶液と接触させて、カルボキシル基の陽イオン交換反応により改質ポリイミド樹脂膜の改質層(カルボキシル基を導入した層)中に、金属陽イオンをドープする。
金属陽イオンを含有する溶液としては、ニッケル、コバルト、鉄、銅、プラチナから選択された1種以上の金属イオンを含有する溶液を使用することが好ましい。選択された金属イオンは、最終的にコンポジット膜中に金属ナノ粒子として分散される。
【0016】
金属イオンは、一般に金属塩として金属イオン含有液に配合される。使用する金属塩の種類については特に限定はなく、金属の種類に応じて、適度な可溶性を有する金属塩を用いればよい。例えば、ニッケルイオンの場合には、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等の形で配合することができる。
【0017】
金属イオン含有液における金属イオンの濃度は、通常、0.001~1.5モル/リットル程度が適当であり、0.01~1モル/リットル程度が好ましく、0.1~1モル/リットル程度がより好ましい。
金属イオン含有液は、一般的には水溶液として使用される。但し、使用する金属イオンによっては、メタノール等の有機媒体を用いても良い。また、必要に応じて、金属イオン含有液には、pHを維持するための緩衝剤や、金属イオンの沈澱防止のための錯化剤等を配合することができる。
【0018】
なお、イオン交換基と金属イオンとの反応により、金属イオン含有液のpHは徐々に低下するので、金属イオンを水酸化物の形態で補充する場合には、金属イオン含有液のpHは弱酸性~中性、具体的にはpH2~6程度、好ましくは3~4程度に調整することが望ましい。
【0019】
金属イオンを含有する溶液を、改質ポリイミド樹脂膜に接触させる方法には特に制限はないが、通常は、樹脂膜を金属イオン含有液に浸漬すればよい。この処理によって樹脂膜に含まれるイオン交換基に金属イオンが結合乃至吸着される。浸漬処理は、例えば、20~80℃程度、好ましくは25~80℃程度において、例えば、1~20分程度、好ましくは3~10分程度行えばよい。
【0020】
つぎに、(c)金属陽イオンをドープした改質ポリイミド樹脂膜を、水素ガスのような還元性ガス中で加熱処理し、金属陽イオンを還元して金属原子が凝集した金属ナノ粒子を形成するとともに、脱水縮合により改質ポリイミド樹脂膜の開裂したイミド環を復元し、ポリイミド樹脂膜中に金属ナノ粒子が分散した金属ナノ粒子分散層を形成する。そして、この金属ナノ粒子分散層の厚さを調整することによって、金属ナノ粒子コンポジット膜中の金属ナノ粒子の体積充填率を制御して、所望の性状を有する金属ナノ粒子コンポジット膜を得る。
【0021】
本発明者等は先に示した非特許文献1、2において、還元性ガス中での熱処理温度を調整することによってコンポジット膜中の金属ナノ粒子の粒子径を制御できることを発表したが、今回、コンポジット膜中の金属ナノ粒子分散層の層厚を調整することによって、金属ナノ粒子の体積充填率を粒子径とは独立に制御できることを見出した。
【0022】
この原理は、金属ナノ粒子分散層が形成された後に、さらに熱処理を行なうことでマトリックスであるポリイミド樹脂が熱分解により収縮するという性質を利用したもので、金属ナノ粒子の配置を制御するのではなく、マトリックスの厚さを調整することによって金属ナノ粒子の体積充填率を制御するものである。
【0023】
この金属ナノ粒子分散層の厚さを調整する方法としては、(1)還元性ガス中での加熱還元処理を行う際に、熱処理時間を制御することによってナノ粒子分散層の厚さを調整する、或いは(2)還元性ガス中で金属イオンの還元温度以上で熱処理を行ってポリイミド樹脂中に金属ナノ粒子が分散した層を形成させ、前記熱処理温度と異なる温度で更に熱処理を行うことにより金属ナノ粒子分散層の厚さを調整する、方法が挙げられる。
【0024】
(2)金属ナノ粒子分散層形成後に、還元性ガス中での最初の熱処理温度とは異なる温度でさらに熱処理を行なう方法によれば、金属ナノ粒子分散層の厚さの調整を容易に行なうことができるので、好ましい。後の熱処理温度は、最初の熱処理温度よりも低温、或いは高温のいずれにもすることができる。
金属ナノ粒子分散層形成後の熱処理を最初の熱処理温度よりも低温で行なう場合には、ポリイミド樹脂の熱分解速度を低く抑え、金属ナノ粒子の体積充填率の制御を容易に行なうことができる。一方、金属ナノ粒子分散層形成後の熱処理を最初の熱処理温度よりも高温で行なう場合には、熱分解速度を速めて全工程に必要となる時間を短縮することができる。したがって、目的とする金属ナノ粒子コンポジット膜に応じて、適宜温度を選択すればよい。
また、金属ナノ粒子分散層形成後の熱処理は、還元性ガス中に代えて窒素ガス等の不活性ガス中でも行なうことができる。
【0025】
本発明において、金属ナノ粒子の体積充填率(%)は、化学分析によって求めた金属イオン吸着量(mol/cm)から、次の式によって算出する。
【0026】
【数1】
JP0004280221B2_000002t.gif

【0027】
本発明で金属ナノ粒子分散層を形成するポリイミド樹脂膜としては、ポリイミド樹脂フイルム自体の他に、ガラス、セラミックス、金属等の基材表面にポリイミド樹脂を被覆したもの等を使用することができる。
ポリイミド樹脂フイルム自体を使用する場合には、処理条件によって、フイルムの片面或いは両面に金属ナノ粒子分散層を形成することができる。また、ガラス、セラミックス、金属等の基材表面にポリイミド樹脂を被覆した材料を使用する場合には、金属ナノ粒子分散層はポリイミド樹脂膜の片面に形成される。
【0028】
本発明で使用する還元性ガスとしては特に制限はなく、例えば水素ガス、ジボランガス等が使用できるが、通常は水素ガスが使用される。還元性ガス中での熱処理温度、熱処理時間は、使用する還元性ガスやポリイミド樹脂にドープした金属の種類、目的とするコンポジット膜の性状等に応じて選択することができる。
【0029】
還元性ガス中で熱処理を行うことによって、ポリイミド樹脂膜の表面から数μm程度の範囲内に結合乃至吸着している金属イオンは、樹脂膜の表面に拡散することが制御され、逆に樹脂膜内部に拡散しながら還元反応が進行する。
その結果、粒径が数nm程度の非常に微細な金属の微粒子が、樹脂膜の表面から数十nm~数μmの範囲において、樹脂マトリックス中に均一に分散した金属ナノ粒子分散層が形成される。ポリイミド樹脂に2種類以上の金属イオンがドープされている場合には、熱処理によって合金微粒子が形成される。
【0030】
以下、還元性ガスとして水素ガスを使用し、ニッケルナノ粒子コンポジット膜を作製する場合を例にとり、二段階で熱処理を行なう手順を具体的に説明する。
水素雰囲気中でのNiイオンの還元終了温度は320℃程度であるので、第一段階熱処理は水素雰囲気中320℃で行う。その結果、コンポジット層中にNi粒子が形成される。Ni粒子の直径は、KOHで2分間処理した膜では約5nm、7分間処理した膜では約8nmである。
【0031】
Ni粒子形成後、第二段階の熱処理を行う。第二段階の熱処理により、マトリックスであるポリイミドは熱分解され質量損失を起こす。これにより、マトリックスの相対的な体積が減少し、Niナノ粒子の体積充填率が増加する。ここでの熱処理温度は、最初の熱処理温度である320℃よりも比較的低温、例えば280℃程度とすることができ、また、逆に最初の熱処理温度よりも比較的高温、例えば350℃程度とすることもできる。
第二段階の熱処理を比較的低温で行うことによる利点は、ポリイミドの熱分解速度を低く抑え体積充填率の制御がしやすくなることである。また、比較的高温で行うことによる利点は、熱分解速度を上げて工程にかかる時間が短縮できることにある。
【0032】
また、二段階目の熱処理雰囲気ガスは水素ガスのみに限らず、窒素など不活性ガスでもよい。この第二段階熱処理の間、Niナノ粒子の直径は一定のままである。よって、このような二段階熱処理を用いて、第二段階での熱処理温度及び時間を制御することにより、Niナノ粒子の直径は一定のまま、体積充填率のみ制御することが可能になる。
【0033】
本発明で金属ナノ粒子分散層を形成するポリイミド樹脂膜として、ポリイミド樹脂フイルム自体を使用する際に、還元性ガス中でポリイミド樹脂膜の表裏両面を均等に加熱処理した場合には、コンポジット膜の表裏両面に同じ層厚の金属ナノ粒子分散層が形成された金属ナノ粒子コンポジット膜を得ることができる。
還元性ガス中でポリイミド樹脂膜の表裏両面を均等に加熱処理するためには、例えば図1にみられるような管状の還元処理室を有するコンポジット膜の製造装置を使用し、還元性ガスが樹脂膜の表裏両面に均等に接触するようにして加熱処理を行なう。
【0034】
このコンポジット膜の製造装置1は、石英、セラミックス、耐熱性ガラス等の耐熱性材料により構成された管状の還元処理室2の外周部に管状の電気炉3を配置したもので、還元処理室2の両端部は耐熱性ゴム等により構成された栓4、4により密封されている。この栓4、4には配管5、5が固定されており、水素ガス等の還元性ガスを還元処理室2内に導入及び導出する。還元処理室2内には、セラミックス等の耐熱性材料により構成された試料台6が設けられ、この試料台6に加熱処理されるポリイミド樹脂膜7が還元処理室2の長手方向と平行に配置される。
【0035】
図2は、還元処理室内に設けられる試料台の1例を示す図であり、(A)はその平面図、そして(B)はその正面図である。
この試料台6は、基板11上に6個のスタンド12を設け、スタンド12の間にポリイミド樹脂膜7の一辺を挟持して、樹脂膜7を垂直に立てて保持するようにしたものである。
【0036】
従来の技術で使用される試料台は、図3にみられるように、平板状の基台21の上に、樹脂膜7を単に載置するものであり、樹脂膜7の表裏両面を均等に加熱し、また表裏両面に還元性ガスを均等に接触させることはできなかった。
本発明では、上記のような構成を有する試料台6を使用し、ポリイミド樹脂膜7の一辺をこの試料台6で挟持し、還元処理室2の長手方向と平行に配置して加熱処理を行うことによって、樹脂膜7の表裏両面を均等に加熱し、また表裏両面に還元性ガスを均等に接触させることが可能となった。なお、上記のコンポジット膜の製造装置は、ポリイミド樹脂膜以外の樹脂をマトリックスとするコンポジット膜の製造や、ガラス、セラミックス、金属等の基材表面に被覆したポリイミド樹脂等の樹脂膜にコンポジット膜を製造するのにも使用することができる。
【0037】
図5は、図2の試料台を具備する図1の装置を使用して製造した金属ナノ粒子コンポジット膜の断面の透過型電子顕微鏡写真の1例であり、(A)はコンポジット膜の表側、(B)は膜の裏側の断面を示す。
また、図6は図3の試料台を具備する従来の装置を使用して製造した金属ナノ粒子コンポジット膜の断面の透過型電子顕微鏡写真であり、(A)はコンポジット膜の表側、(B)は膜の裏側の断面を示す。
【0038】
これらの写真において、2つの矢印に挟まれた層が、金属ナノ粒子分散層を表す。図1、2の装置により製造された図5のコンポジット膜では、表側(A)及び裏側(B)に形成されたナノ粒子分散層の層厚は同一である。一方、従来の図3の装置により製造された図6のコンポジット膜では、表側(A)及び裏側(B)に形成されたナノ粒子分散層の層厚は明らかに相違する。
したがって、図1、2の装置によれば表裏両面が均一な性状を示すコンポジット膜を得ることができるが、従来の装置ではこのようなコンポジット膜を得ることは極めて困難である。
【0039】
図2の試料台6では、基板11上に6個のスタンド12を設け、スタンド12の間に2枚のポリイミド樹脂膜7を挟持するように構成したが、スタンド12及び挟持する樹脂膜7の数は、適宜選択できることは勿論である。また、それらの寸法や形状も適宜選択することができるものであり、例えば図2(B)の2個のスタンド12を一体化し、樹脂膜7の下辺全長を保持するものとすることもできる。
【0040】
このような試料台6を使用して製造された金属ナノ粒子コンポジット膜は、試料台6のスタンド12に挟持された部分を、部分的に、或いは保持された辺の全長にわたって切除することにより、均一な性状を有するコンポジット膜を得ることができる。
【0041】
本発明によれば、例えば図1のような装置を使用し、還元性ガス中での加熱還元処理を行なう際に、熱処理時間を制御することによって、ポリイミド樹脂膜の表裏両面に層厚が等しく、所望の金属ナノ粒子の体積充填率を有する金属ナノ粒子分散層が形成されたコンポジット膜を得ることができる。
また、本発明によれば、還元性ガス中での加熱還元処理を行う際に、還元性ガス中で金属イオンの還元温度以上で熱処理を行ってポリイミド樹脂中に金属ナノ粒子が分散した層を形成させ、前記熱処理温度と異なる温度で更に熱処理を行うことにより金属ナノ粒子分散層の厚さを調整し、所望の金属ナノ粒子の体積充填率を有する金属ナノ粒子分散層が形成されたコンポジット膜を得ることができる。
これらのコンポジット膜は、従来の技術では得られない特性を有するものであり、磁気記録媒体、電子部品等幅広い分野に利用可能なものである。
【実施例】
【0042】
つぎに、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
参考例1:熱処理時間の制御による体積充填率の制御)
厚さ50μmのポリイミド樹脂フイルム(デュポン社製、商名「カプトン200-H」)を、水酸化カリウムの5モル/リットル水溶液に50℃で5分間浸漬することによって、ポリイミド樹脂フイルムの表面にカルボキシル基を導入した。
【0043】
つぎに、該処理フイルムをイオン交換水で2分間水洗した後に、塩化ニッケルの0.5モル/リットル水溶液に室温で5分間浸漬して、ニッケルイオンをポリイミド樹脂フイルムにドープした。
【0044】
このフイルムをイオン交換水で2分間水洗した後に、図2の試料台にフイルムの一辺を挟持させて、図1の装置内にフイルムが管状の還元処理室の長手方向と平行になるように配置した。つぎに、還元処理室内に水素ガスを導入し、300℃で30分間熱処理して、ポリイミド樹脂フイルム中にニッケルナノ粒子が分散したコンポジット膜を製造した。
【0045】
得られたコンポジット膜の透過型電子顕微鏡による映像を図5に示す。図5において、(A)はコンポジット膜の表側、(B)は膜の裏側の断面の映像である。
【0046】
(参考例
参考例1において、図2の試料台に代えて図3の試料台を使用した以外は、参考例1と同様にしてポリイミド樹脂フイルム中にニッケルナノ粒子が分散したコンポジット膜を製造した。
得られたコンポジット膜の透過型電子顕微鏡による映像を図6に示す。図6において、(A)はコンポジット膜の表側、(B)は膜の裏側の断面の映像である。
【0047】
これらの写真において、2つの矢印に挟まれた層が、金属ナノ粒子分散層を表す。参考例1により製造された図5のコンポジット膜では、表側(A)及び裏側(B)に形成されたニッケルナノ粒子分散層の層厚は同一である。一方、参考例により製造された図6のコンポジット膜では、表側(A)及び裏側(B)に形成されたニッケルナノ粒子分散層の層厚は明らかに相違する。
【0048】
参考例3
水素ガス中での熱処理時間とコンポジット膜中の金属ナノ粒子の体積充填率との関係を調べるために、参考例1において、水素ガス中での熱処理時間を変化させてコンポジット膜を製造した。得られた各コンポジット膜の透過型電子顕微鏡による断面の映像から、ニッケルナノ粒子分散層の層厚、この層厚から見積ったニッケルナノ粒子の体積充填率と総熱処理時間との関係を図7に示した。
【0049】
図7において、横軸は総熱処理時間(分)を表す。また、▲はニッケルナノ粒子分散層の層厚(図7の左側縦軸に表示)、■はニッケルナノ粒子の体積充填率(図7の右側縦軸に表示)を表す。
この図7によれば、熱処理時間の経過とともにナノ粒子分散層の層厚が減少し、体積充填率が増加することが判る。したがって、熱処理時間を制御することによって、ナノ粒子分散層の層厚を調整し、ナノ粒子の体積充填率を制御することが可能となる。
【0050】
以下の例では、還元性ガス中での加熱還元処理を二段階で行なうことにより金属ナノ粒子分散層の厚さを調整し、所望の金属ナノ粒子の体積充填率を有する金属ナノ粒子分散層が形成されたコンポジット膜を製造する例について説明する。
(実施例:第一段階熱処理)
厚さ50μmのポリイミド樹脂フイルム(デュポン社製、商名「カプトン200-H」)を、水酸化カリウムの5モル/リットル水溶液に50℃で7分間浸漬することによって、ポリイミド樹脂フイルムの表面にカルボキシル基を導入した。
【0051】
つぎに、該処理フイルムをイオン交換水で2分間水洗した後に、塩化ニッケルの0.5モル/リットル水溶液に室温で5分間浸漬して、ニッケルイオンをポリイミド樹脂フイルムにドープした。
【0052】
このフイルムをイオン交換水で2分間水洗した後に、図2の試料台にフイルムの一辺を挟持させて、図1の装置内にフイルムが管状の還元処理室の長手方向と平行になるように配置した。つぎに、還元処理室内に水素ガスを導入し、320℃で5分間熱処理して、ポリイミド樹脂フイルム中にニッケルナノ粒子が分散したコンポジット膜(以下、「試料1」という)を製造した。
【0053】
得られた試料1の透過型電子顕微鏡による断面の片側表面近傍の映像を、図8(A)に示す。図8(A)において、2つの矢印に挟まれた層が、ニッケルナノ粒子分散層を表す。試料1のニッケルナノ粒子分散層の厚みは、1.9μmである。また、図8(B)は、図8(A)のニッケルナノ粒子分散層の高倍率の映像であり、ニッケルナノ粒子が確認できる。ニッケルナノ粒子の直径は、約8nmである。
なお、試料1の反対側表面にも、上記と同様のニッケル粒子層分散層が形成されていた。
【0054】
この例では、水酸化カリウム水溶液で7分間処理したポリイミド樹脂フイルムを熱処理することにより、ニッケルナノ粒子の直径は約8nmとなったが、第一段階熱処理後のナノ粒子の直径は、水酸化カリウム水溶液での処理時間を調整することによって、変化させることができる。
水酸化カリウム(KOH)水溶液での処理時間を変化させた以外は、試料1と同様に処理して得られたコンポジット膜中のニッケルナノ粒子の直径を、電子顕微鏡観察から見積もった。KOH処理時間に対する、ニッケルナノ粒子の直径の変化を図9に示した。図9によれば、KOH処理時間を0.5分から7分まで変化させることによって、ニッケルナノ粒子の直径を約5nmから約8nmまで変化させることが可能であることがわかる。
【0055】
(実施例:第二段階熱処理その1)
実施例で得られた試料1を、窒素雰囲気下、310℃で8時間熱処理したコンポジット膜(以下、「試料2」という)について、透過型電子顕微鏡により、断面の片側表面近傍を撮影した映像を、図10(A)に示す。図10(A)において、2つの矢印に挟まれた層が、ニッケルナノ粒子分散層を表す。試料2のニッケルナノ粒子分散層の厚みは、1.75μmであり、第二段階熱処理によって、ナノ粒子分散層の厚みが試料1よりも減少していることがわかる。図10(B)は、図10(A)のニッケルナノ粒子分散層の高倍率の映像であるが、第二段階熱処理によって、ニッケルナノ粒子の直径には、殆んど変化は見られなかった。
【0056】
(実施例:第二段階熱処理その2)
実施例で得られた試料1を、窒素雰囲気下、350℃で1時間熱処理したコンポジット膜(以下、「試料3」という)について、透過型電子顕微鏡により、断面の片側表面近傍を撮影した映像を、図11(A)に示す。図11(A)において、2つの矢印に挟まれた層が、ニッケルナノ粒子分散層を表す。試料3のニッケルナノ粒子分散層の厚みは、1.6μmであり、第二段階熱処理を第一段階熱処理よりも高温で行なえば、より短時間でニッケル粒子分散層の層厚、すなわちナノ粒子の体積充填率を制御できることが判明した。
図11(B)は、図11(A)のニッケルナノ粒子分散層の高倍率の映像であるが、第二段階熱処理によって、ニッケルナノ粒子の直径には、殆んど変化は見られなかった。
【0057】
上記の実施例1~3によれば、還元性ガス中での加熱還元処理を二段階で行なうことにより、金属ナノ粒子分散層中のナノ粒子の直径と、体積充填率を独立に制御できることがわかる。
上記の実施例1~3においては、金属ナノ粒子分散層を形成するポリイミド樹脂膜として、ポリイミド樹脂フイルム自体を使用し、フイルムの両面に金属ナノ粒子分散層を形成した例について説明したが、金属ナノ粒子分散層を形成するポリイミド樹脂膜として、ガラス、セラミックス、金属等の基材表面にポリイミド樹脂を被覆したものを使用できることは、勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明において、金属ナノ粒子コンポジット膜を製造する装置の1例を示す模式図である。
【図2】図1の装置で使用する試料台の1例を示す模式図である。
【図3】従来の技術で使用する試料台の1例を示す模式図である。
【図4】ナノ粒子コンポジット膜を説明する模式図である。
【図5】参考例1で得られたコンポジット膜の透過型電子顕微鏡による断面映像である。
【図6】参考例で得られたコンポジット膜の透過型電子顕微鏡による断面映像である。
【図7】参考例3における、コンポジット膜のニッケルナノ粒子の体積充填率と熱処理時間との関係を示す図である。
【図8】実施例で得られたコンポジット膜の透過型電子顕微鏡による断面映像である。
【図9】実施例における、KOH処理時間に対するニッケルナノ粒子の直径の変化を示す図である。
【図10】実施例で得られたコンポジット膜の透過型電子顕微鏡による断面映像である。
【図11】実施例で得られたコンポジット膜の透過型電子顕微鏡による断面映像である。
【符号の説明】
【0059】
1 コンポジット膜の製造装置
2 還元処理室
3 電気炉
4 栓
5 配管
6 試料台
7 ポリイミド樹脂膜
11 基板
12 スタンド
21 基台


















図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
9
【図11】
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