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明細書 :Y染色体標識トランスジェニック非ヒト動物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4271120号 (P4271120)
公開番号 特開2005-137367 (P2005-137367A)
登録日 平成21年3月6日(2009.3.6)
発行日 平成21年6月3日(2009.6.3)
公開日 平成17年6月2日(2005.6.2)
発明の名称または考案の名称 Y染色体標識トランスジェニック非ヒト動物
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A01K 67/027 ZNA
C12N 5/00 B
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 4
全頁数 16
出願番号 特願2004-298672 (P2004-298672)
出願日 平成16年10月13日(2004.10.13)
優先権出願番号 2003354416
優先日 平成15年10月14日(2003.10.14)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成17年11月22日(2005.11.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】遠藤 仁司
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
審査官 【審査官】長井 啓子
参考文献・文献 日本実験動物学会総会講演要旨集,Vol.47th, p.127 D-18 (2000)
Nature Biotechnol., vol.20, pp.455-459 (2002)
調査した分野 A01K 67/027
C12N 15/00
C12N 5/10
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus(JDreamII)
JMEDPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
サイトメガロウィルスエンハンサー及びチキンベーターアクチンプロモーターのDNA配列の下流に、標識タンパク質の遺伝子を連結したトランスジーンを構築し、該トランスジーンを、非ヒト動物の受精卵の前核に導入し、発生させ、トランスジェニック非ヒト動物の胚盤胞からY染色体上に標識タンパク質の遺伝子が局在したトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞を樹立し、該トランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞を継代培養し、該標識タンパク質の標識をマーカーに、Y染色体が特異的に脱落したクローンを単離することを特徴とするY染色体が特異的に脱落したトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞の取得方法。
【請求項2】
標識タンパク質が、緑色蛍光タンパク質であることを特徴とする請求項1記載のY染色体が特異的に脱落したトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞の取得方法。
【請求項3】
Y染色体が標識された胚性幹細胞を用いて特定遺伝子をノックアウトした胚性幹細胞を作成し、該胚性幹細胞を継代培養し、該標識タンパク質の標識をマーカーに、Y染色体が特異的に脱落したクローンを単離することにより、Y染色体が特異的に脱落したトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞を取得し、該Y染色体が特異的に脱落し、特定遺伝子がノックアウトされたトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞と、Y染色体を保持し、特定遺伝子がノックアウトされたトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞とを用い、ホモ接合体を作製することを特徴とする遺伝子ノックアウト非ヒト動物の作出方法。
【請求項4】
Y染色体が標識された胚性幹細胞を用いて特定遺伝子を導入した胚性幹細胞を作成し、該胚性幹細胞を継代培養し、該標識タンパク質の標識をマーカーに、Y染色体が特異的に脱落したクローンを単離することにより、Y染色体が特異的に脱落したトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞を取得し、該Y染色体が特異的に脱落し、特定遺伝子が導入されたトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞と、Y染色体を保持し、特定遺伝子が導入されたトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞とを用い、ホモ接合体を作製することを特徴とする遺伝子トランスジェニック非ヒト動物の作出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させたトランスジェニック非ヒト動物、そのES細胞、その作出方法、及び該Y染色体上に局在させた標識タンパク質の遺伝子を用いたトランスジェニック非ヒト動物の雌雄判別方法、該Y染色体上に局在させた標識タンパク質の遺伝子を用いた遺伝子ノックアウト非ヒト動物或いはトランスジェニック非ヒト動物の作出方法、及び該Y染色体上に局在させた標識タンパク質の遺伝子を用いたキメラ非ヒト動物の由来判別方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
1980年にGordonらにより(Proc. Natl. Acad. Sci. USA,77:7380-7384,1980)、マウス受精卵の前核に組換えDNAを直接注入する方法でトランスジェニックマウスの作成が報告されて以来、近年の遺伝子操作技術や遺伝子導入技術の進展により、多くのトランスジェニック動物が作出されている。数々の改変遺伝子を導入したトランスジェニックマウスのような遺伝子改変動物は、発生生物学、細胞生物学、免疫学、及び医療などの分野で新たな研究の展開を生み出している。
【0003】
例えば、遺伝子を導入したトランスジェニック動物や胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)を用いたジ-ンターゲッティングにより作製したノックアウト動物により、哺乳動物の遺伝子の機能解析が進んでいる。また、哺乳動物の遺伝子の機能解析により、その遺伝子と他の遺伝子の相互作用の解明も行われ、それらの関連から発生する疾病の機序解明に重要な役割を果たしている。また、最近では体細胞を用いた核移植の技術により、ヒツジ(Nature,385:810-813,1997)やウシ(Science,280:1256-1258,1998)の体細胞クローン動物の作製に成功しており、これをヒツジのような家畜のトランスジェニック動物の作製に応用してトランスジェニックヒツジが作出されている(Science,278:2130-2133,1997)。
【0004】
これまでに作製されたトランスジェニック動物は多岐に渡っており、例えば種々のサイトカイン遺伝子を組込んだトランスジェニック動物について見てみても、ヒトIL-2を発現し、脱毛症や肺炎を高率に発症するトランスジェニックマウス(Int. Immunol. 1:113-120,1989)や、骨組織における骨芽細胞、破骨細胞の活性低下に伴う骨粗鬆症を起こすヒトIL-4を持つトランスジェニックマウス(Cell,62:457-467,1990; Eur. J.Immunol. 22:1179-1184,1992; Proc. Natl. Acad. Sci. USA,90:11618-11622,1993)や、自己免疫疾患や形質細胞腫を引き起こすヒトIL-6導入トランスジェニックマウス(Proc. Natl. Acad. Sci. USA,86:7547-7551,1989; Proc. Natl. Acad. Sci. USA,89:232-235,1992)や、各々リンパ腫、好中球の移動障害及び眼房内へのマクロフアージ集積による白内障等を引き起こすヒトIL-7、ヒトIL-8及びヒトGM-CSFを過剰発現するトランスジェニックマウス(J. Exp. Med. 177:305-316,1993; J. Clin. Invest. 94:1310-1319,1994; Cell 51:675-686,1987)等多くのものが、報告されている。
【0005】
また、外来遺伝子を導入したトランスジェニック動物を作製することにより、各種の有用な物質を生産する例もある。例えば、ヒツジ胎仔線維芽細胞にヒト血液凝固第IX因子遺伝子を導入し、その細胞核をドナー核として核移植を行い、トランスジェニックヒツジを作製した報告(Science 278:2130-2133,1997)、或いは、ヒツジ乳汁中へのα1-アンチトリプシンの生産を行った報告(Bio/Technology 9:830-834,1991)、ブタ乳汁中へのヒトプロテインCの生産を行った報告(WO 94/05796)、ヤギ乳汁中へのヒト t-PAの生産を行った報告(Bio/Technology 12:699-702,1994)等、トランスジェニック動物を作製して、動物の乳汁中へ有用物質を生産することに関する報告だけでも多数のものがある。その他、胚性幹細胞(ES細胞)を用いたジ-ンターゲッティングにより特定の遺伝子をノックアウトして作出した(Molecular Medicine 34,1997)各種のノックアウト動物の報告もなされている。このように現在、種々の目的からトランスジェニック動物が作製されており、遺伝子やそれに関連する疾病の機構の解明やそれを利用した薬剤のスクリーニング、或いは家畜等の動物自体の改良への利用等がなされている。
【0006】
現在、トランスジェニック動物を作製するために用いられている遺伝子の導入方法としては、一般的には、受精卵の前核内に目的遺伝子をマイクロインジェクションで直接的に導入する方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:7380-7384, 1980)、或いは、胚性幹細胞(ES細胞)に目的遺伝子を導入し、キメラ動物を介して次世代の動物に導入する方法(Science, 244:1288-1292, 1989)が用いられている。
【0007】
更に、最近ではクローン動物作製技術が確立されたことにより、体細胞を用いた遺伝子導入技術を合体させトランスジェニック動物を作製する方法も用いられている。トランスジェニック動物の作製において、目的とする外来遺伝子を組込んだ卵は形質転換卵と呼ばれ、この形質転換卵を偽妊娠させたレシピエント(受容雌)の生殖器道(卵管又は子宮)に移植することにより、成長させることができる。得られた成体のトランスジェニック動物は、外来性遺伝子を自らの染色体に組込んでおり、プロモーター等の適当な調節遺伝子の影響下で外来性遺伝子を発現することができる。こうして取り込まれた外来性遺伝子は、トランスジーン(Transgene)と呼ばれている。トランスジーンは、細胞への遺伝子導入に際して、適切なプロモーター領域の選択等、種々の調節遺伝子を選択して構築される。トランスジェニック動物の染色体内に組込まれたトランスジーンは、その発現によって、該遺伝子がコードするタンパク質をトランスジェニック動物内に生産する。
【0008】
トランスジェニック動物の作製に際して、トランスジェニック動物がトランスジーンを自らの染色体に取り込んでいるかどうかは、一般的にはPCR法やサザンブロット法等の解析により確認される。この取り込みが確認された場合、更に、in vivoにおける遺伝子発現解析、例えば、ノーザンブロット法や免疫抗体法等による解析が行われる。一方、トランスジェニック動物の作製において、遺伝子プロモーター活性の検定、遺伝子発現程度の確認、遺伝子発現部位及び発育ステージの同定に、レポーター遺伝子が用いられる。レポーター遺伝子としては、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコール、アセチルトランスフェラーゼ、ルシフェラーゼ、β-グルクロニダーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)等が用いられる。これらのレポーター遺伝子を標識として、トランスジェニック動物の作製における、遺伝子の取り込み状況、その発現の状況の確認や、遺伝子導入胚の選別等が行われる。
【0009】
近年、トランスジェニック動物の作製に関する技術として、作出されたトランスジェニック動物の胚や胎児の性の判別や、該判別方法を雌雄の分離等に利用する技術が開示されている。特開平8-154685号公報には、マウス及びウシの性決定遺伝子Sry関連DNAの塩基配列を解明し、これを性判別、種同定又はキメラ細胞のキメリズムの決定、或いは染色体のマーカーとして利用することが開示されている。特開平8-256778号公報には、ウシの雄特異的DNA断片、或いは雌雄共通の繰り返し配列等をマーカーとして、種の同定、核と細胞質の別、性染色体と常染色体の別、及び性染色体であればX染色体とY染色体の別等の同定や特定を行う方法が開示されている。また、特表2001-509381号公報には、ウマのY染色体に特異的なDNA配列をプローブとして、ウマ、ウマ胎児、ウマの胚、ウマ細胞の性を決定する方法について開示されている。これらはいずれも、動物の性染色体の特異塩基配列を検知して、動物の胎児や胚の性を決定する方法が採られており、その判定が複雑になっている。したがって、トランスジェニック動物の作製過程等において、逐次、作製された胚や胎児等の性の判別に用いる技術としては不便な点があった。
【0010】
更に最近、動物の雌雄判別の方法として、Nagyらにより、トランスポーター遺伝子のような標識遺伝子を用いて雌雄の判別を行う方法が報告されている(Nat. Genet. 19:220-222,1998)。この方法は、緑色蛍光タンパク質(green fluorescence protein:GFP)を利用した方法であり、非侵襲的(non-invasive)な雌雄判別が可能な方法である。この雌雄の判別方法は、GFPで標識化したXGFPYのオスと野生型のXXのメスのマウスを掛け合わせることにより、子供はXGFPXのメスとXYのオスに別れ、雌雄判別が可能となるものである。しかし、この方法の場合、メスはX染色体の不活化が生じ、同じXGFPXでも緑色蛍光を発する場合と発しない場合があり、発した場合は必ずメスであるが、発しない場合はオスかメスかの判別ができないという不確実性の問題が生じる。
【0011】
一方、極く最近に、トランスジェニック動物の作出に関連して、Jaenischらによって、遺伝子破壊胚性幹細胞(ES細胞)からノックアウトマウスを作製する迅速な方法が報告された(Nat. Biotech. 20:455-459, 2002)。この方法は、40,XY ES細胞から遺伝子破壊ES細胞を作成し、このES細胞からY染色体の不安定性を用いて39,XO ES細胞を単離する。それぞれのES細胞からオスとメスのヘテロ接合体マウスを直接作成することが可能となり、次世代でノックアウトマウスのホモ接合体を作成することが可能である。この方法を行うためには、遺伝子破壊40,XY ES細胞から先ずオスのマウスを作成し、そのマウスを親としてオスとメスのヘテロ接合体マウスを作成する。Jaenischらは、このノックアウトマウスを作製する方法の報告において、39,XO ES細胞を選別する方法として、約200コロニーのES細胞からDNAを抽出し、Southern Blot法を用いたことを報告しているように、この方法は、細胞数が多く必要であり、煩雑で時間がかかるという問題を有している。
【0012】
上記のように、昨今、各種の目的から、多岐に渡りトランスジェニック動物の作出が行われ、その開発の重要性が高まる中で、そのトランスジェニック動物の作出方法や作出過程の判別方法、更にはそれらの利用において、より確実で、容易な技術の更なる開発が望まれているところである。
【0013】

【特許文献1】特開平8-154685号公報。
【特許文献2】特開平8-256778号公報。
【特許文献3】特開2001-509381号公報。
【特許文献4】WO 94/05796。
【非特許文献1】Proc. Natl. Acad. Sci. USA,77:7380-7384,1980。
【非特許文献2】Nature,385:810-813,1997。
【非特許文献3】Science,280:1256-1258,1998。
【非特許文献4】Science,278:2130-2133,1997。
【非特許文献5】Int. Immunol. 1:113-120,1989。
【非特許文献6】Cell, 62:457-467,1990。
【非特許文献7】Eur. J.Immunol. 22:1179-1184,1992。
【非特許文献8】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:11618-11622, 1993。
【非特許文献9】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:7547-7551, 1989。
【非特許文献10】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:232-235, 1992。
【非特許文献11】J. Exp. Med. 177:305-316, 1993。
【非特許文献12】J. Clin. Invest. 94:1310-1319, 1994。
【非特許文献13】Cell 51:675-686, 1987。
【非特許文献14】Bio/Technology 9:830-834, 1991。
【非特許文献15】Bio/Technology 12:699-702, 1994。
【非特許文献16】Molecular Medicine 34, 1997。
【非特許文献18】Science, 244:1288-1292, 1989。
【非特許文献19】Nat. Genet. 19:220-222, 1998。
【非特許文献20】Nat. Biotech. 20:455-459, 2002。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、トランスジェニック動物の作出や判別或いはその利用を、より確実で、容易に行うことができる方法及び材料を提供すること、特に、トランスジェニック非ヒト動物の作出過程において、該動物由来の組織や細胞の判別や、雌雄の判別が確実かつ容易な標識化されたトランスジェニック非ヒト動物、そのES細胞を提供すること、及び、該標識化されたトランスジェニック非ヒト動物の作出方法、該標識化によるトランスジェニック非ヒト動物の雌雄判別方法、該標識遺伝子で標識した胚性幹細胞(ES細胞)を用いた遺伝子ノックアウト非ヒト動物或いはトランスジェニック非ヒト動物の作出方法、更には、該標識を用いたキメラ非ヒト動物の由来判別方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく標識遺伝子を導入したトランスジェニック動物について鋭意研究する中で、緑色蛍光タンパク質(green fluorescence protein:GFP)のような標識タンパク質の遺伝子を、サイトメガロウイルス エンハンサー(cytomegalovirus enhancer)とチキンベーターアクチンプロモーター(chicken β-actin promoter)のような調節遺伝子の下流に連結したトランスジーンを構築し、該トランスジ-ンをマウスのような哺乳動物の受精卵の前核に導入することにより、該標識タンパク質の遺伝子をトランスジェニック動物のY染色体上に局在させることができ、該Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させたトランスジェニック動物を作出することが可能であることを見い出した。また、該トランスジェニック動物の作製法を用いることにより、作製したトランスジェニック動物の雌雄の判別や、作製したトランスジェニック動物の組織、細胞、胚、胎児等の由来の判別をより確実で、容易に行うことができ、更に、該Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させたトランスジェニック動物から、ES細胞(胚性幹細胞)を構築し、該ES細胞から標識タンパク質をマーカーにしてY染色体が特異的に脱落したクローンを選別し、該ES細胞のY染色体が特異的に脱落した細胞とY染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させた細胞とを用いて、迅速かつ簡便な方法でトランスジェニック動物或いはノックアウト動物のホモ接合体を作製することが可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、標識タンパク質の遺伝子がY染色体上に局在したトランスジェニック動物及びその作出方法からなる。本発明の、標識タンパク質の遺伝子がY染色体上に局在したトランスジェニック動物の作出方法の具体的方法としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)のような蛍光タンパク質の遺伝子を、サイトメガロウイルス エンハンサーとチキンベーターアクチンプロモーター等の調節遺伝子の下流に連結したトランスジーンを構築し、C57BL/6Jマウスのような動物の受精卵の前核にマイクロインジェクションして作出する。本発明の具体例としては、14クローンのラインを作成中、オスだけにGFPが発現するラインを1クローン見い出した。FISH法にてトランスジーンの局在を検討すると、GFP遺伝子はY染色体に局在することが確認された。
【0017】
また、本発明は、本発明のY染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させたトランスジェニック動物の作製に用いるトランスジーンを用いて樹立したトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞(ES細胞)を包含する。
【0018】
更に、本発明は、本発明のY染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させたトランスジェニック動物の標識を用いて、該動物の受精卵から発生する胚や胎児等の雌雄の判別を行う方法を包含する。本標識タンパク質の遺伝子の発現は、蛍光顕微鏡下で胚盤胞期から確認できる。本発明は、標識タンパク質遺伝子として緑色蛍光タンパク質(GFP)のような蛍光タンパク質を用いたために、非侵襲的(non-invasive)な雌雄判別が可能であり、本標識タンパク質遺伝子がY染色体上に局在しているために、胚盤胞期以降では非侵襲的、かつ容易に、雌雄の判別を行うことが可能である。
【0019】
因みに、性染色体を標識化したトランスジェニック動物の例として、Nagyらの報告した、X染色体にGFPを局在させたトランスジェニックマウスの例がある(Nat. Genet. 19:220-222, 1998)。この報告のものでは、GFPで標識化した、XGFPYのオスと野生型XXのメスのマウスを掛け合わせることにより、子供はXGFPXのメスとXYのオスに別れ、雌雄判別が可能であると報告されている。しかし、メスの場合X染色体の不活化が生じ、同じXGFPXでも緑色蛍光を発する場合と発しない場合があり、緑色蛍光を発した場合は必ずメスではあるが、発しない場合はオスかメスか判別できないと言う問題がある。本発明のごとく、Y染色体に局在する標識遺伝子(例えばGFP,RFP,CFP,BFPなどの蛍光タンパク質やLacZやルシフェラーゼなど簡便に検出できるタンパク質をコードする遺伝子)は、オスであれば必ず発現するため、確実な雌雄判別が可能である。
【0020】
また、本発明は、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させたトランスジェニック動物から樹立した胚性幹細胞(ES細胞)を用いて、トランスジェニック動物或いはノックアウト動物のホモ接合体を迅速かつ簡便な方法で作出する方法を包含する。
【0021】
すなわち、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させたトランスジェニックマウス或いはノックアウトマウスのような動物から、ES細胞を樹立することが可能である。本発明では、一実施例としてXYGFPマウスの胚盤胞からES細胞を樹立した。このES細胞は緑色蛍光を発し、核型は40,XYである。3代継代後、共焦点レーザー顕微鏡下で緑色蛍光陽性細胞と陰性細胞をおのおのクローン化した。それぞれの核型は、緑色蛍光陽性細胞が40,XY、緑色蛍光陰性細胞が39,XOであった。単離した緑色蛍光陽性クローンは、継代1代目では100%陽性であったが、継代3代目では約1.7%で陰性細胞が観察された。以上から、Y染色体は他の染色体より不安定であり、継代が進むにつれ脱落しやすいこと、また、Y染色体を標識したトランスジーンをマーカーにすることで、Y染色体が特異的に脱落した39,XOの核型のクローンを容易に単離が可能であることを示した。
【0022】
最近、このようなY染色体の不安定性を用いて、ノックアウトマウスを作成する迅速な方法としてJaenischらが、遺伝子破壊ES細胞からノックアウトマウスを作成する迅速な方法を報告した(Nat. Biotech. 20:455-459,2002)。この方法は、40,XY ES細胞から遺伝子破壊ES細胞を作成し、このES細胞からY染色体の不安定性を用いて39,XO ES細胞を容易に単離する。それぞれのES細胞からオスとメスのヘテロ接合体マウスを直接作成することが可能となり、次世代でノックアウトマウスのホモ接合体を作成することが可能となる。通常の方法であれば、遺伝子破壊40,XY ES細胞から先ずオスのマウスを作成し、そのマウスを親としてオスとメスのヘテロ接合体マウスを作成する。
【0023】
この方法では、遺伝子破壊40、XY ES細胞から39,XO ES細胞を単離し、後者の細胞からメスのヘテロ接合体マウスを作成することで、通常の方法より一世代短縮することが可能である。しかし、Jaenischらの方法は、本発明におけるような標識タンパク質の遺伝子を用いた方法でなかったため、簡便に行うことが可能な方法ではなかった。すなわち、Jaenischらは、39,XO ES細胞を選別する方法として、約200コロニーのES細胞からDNAを抽出し、Southern Blot法を用いた。この方法では、細胞数が多く必要であり、煩雑で時間がかかる。これに対して、本発明の方法では、Y染色体のマーカーとして標識タンパク質を識別し、容易にY染色体が特異的に脱落した39、XO ES細胞を選別することが可能であるため、容易かつ迅速なホモ接合体の作出が可能となる。
【0024】
更に、本発明は、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させた標識を用いて、キメラ非ヒト動物の由来判別を行う方法を包含する。キメラ個体作成の際には、1)Y染色体を標識したトランスジェニックマウスから樹立したES細胞を用いて作成した遺伝子改変ES細胞を野生型胚に注入する場合、または2)通常の遺伝子改変ES細胞をY染色体標識トランスジェニックマウスの胚へ注入する場合が考えられる。いずれの場合にも、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させた標識を用いて、作成したキメラ個体の子供を産生させることで、遺伝子改変ES細胞の生殖細胞への伝播を容易に検討することが可能である。
【0025】
本発明は、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させたことを特徴とするトランスジェニック非ヒト動物()や、標識タンパク質が、蛍光タンパク質であることを特徴とする上記(1)記載のトランスジェニック非ヒト動物()や、蛍光タンパク質が、緑色蛍光タンパク質であることを特徴とする上記(2)記載のトランスジェニック非ヒト動物()や、サイトメガロウィルスエンハンサー及びチキンベーターアクチンプロモーターのDNA配列の下流に、上記(1)~(3)のいずれか記載の標識タンパク質の遺伝子を連結したトランスジーンを構築し、該トランスジーンを導入して、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させたことを特徴とするトランスジェニック非ヒト動物()や、トランスジェニック非ヒト動物が、トランスジェニックマウスであることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか記載のトランスジェニック非ヒト動物()や、サイトメガロウィルスエンハンサー及びチキンベーターアクチンプロモーターのDNA配列の下流に、標識タンパク質の遺伝子を連結してトランスジーンを構築し、このトランスジーンを、非ヒト動物の受精卵の前核に導入し、発生させて、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子が局在したトランスジェニック非ヒト動物を取得することを特徴とするトランスジェニック非ヒト動物の作出方法()や、標識タンパク質の遺伝子が、蛍光タンパク質の遺伝子であることを特徴とする上記()記載のトランスジェニック非ヒト動物の作出方法(に関する
【0026】
また本発明は、上記(1)~(5)のいずれか記載のトランスジェニック非ヒト動物の作出に用いるトランスジーンを、非ヒト動物の受精卵の前核に導入し、発生させたトランスジェニック非ヒト動物の胚盤胞から樹立したことを特徴とするY染色体上に標識タンパク質の遺伝子が局在したトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞()や、トランスジェニック非ヒト動物が、マウスであることを特徴とする上記(8)記載のY染色体上に標識タンパク質の遺伝子が局在したトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞()や、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させた上記(1)~(5)記載のトランスジェニック非ヒト動物を親として交配し、受精させたトランスジェニック非ヒト動物の受精卵から発生する胚及び胎児の雌雄の判別を、該標識タンパク質の標識を検知することにより行うことを特徴とするトランスジェニック非ヒト動物の雌雄判別方法(10)や、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子が局在したトランスジェニック非ヒト動物の胚から樹立した胚性幹細胞の遺伝子を改変し、該遺伝子改変胚性幹細胞を野生型胚に注入して作製したキメラ非ヒト動物、或いは遺伝子改変胚性幹細胞を、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子が局在したトランスジェニック非ヒト動物の胚に注入して作製したキメラ非ヒト動物において、該遺伝子改変胚性幹細胞の生殖細胞への伝播をY染色体上に局在させた標識タンパク質の標識により検知することを特徴とするキメラ非ヒト動物の由来判別方法に関する。
【0027】
すなわち本発明は具体的には、サイトメガロウィルスエンハンサー及びチキンベーターアクチンプロモーターのDNA配列の下流に、標識タンパク質の遺伝子を連結したトランスジーンを構築し、該トランスジーンを、非ヒト動物の受精卵の前核に導入し、発生させ、トランスジェニック非ヒト動物の胚盤胞からY染色体上に標識タンパク質の遺伝子が局在したトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞を樹立し、該トランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞を継代培養し、該標識タンパク質の標識をマーカーに、Y染色体が特異的に脱落したクローンを単離することを特徴とするY染色体が特異的に脱落したトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞の取得方法(請求項1)や、標識タンパク質が、緑色蛍光タンパク質であることを特徴とする請求項1記載のY染色体が特異的に脱落したトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞の取得方法(請求項2)や、Y染色体が標識された胚性幹細胞を用いて特定遺伝子をノックアウトした胚性幹細胞を作成し、該胚性幹細胞を継代培養し、該標識タンパク質の標識をマーカーに、Y染色体が特異的に脱落したクローンを単離することにより、Y染色体が特異的に脱落したトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞を取得し、該Y染色体が特異的に脱落し、特定遺伝子がノックアウトされたトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞と、Y染色体を保持し、特定遺伝子がノックアウトされたトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞とを用い、ホモ接合体を作製することを特徴とする遺伝子ノックアウト非ヒト動物の作出方法(請求項3)や、Y染色体が標識された胚性幹細胞を用いて特定遺伝子を導入した胚性幹細胞を作成し、該胚性幹細胞を継代培養し、該標識タンパク質の標識をマーカーに、Y染色体が特異的に脱落したクローンを単離することにより、Y染色体が特異的に脱落したトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞を取得し、該Y染色体が特異的に脱落し、特定遺伝子が導入されたトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞と、Y染色体を保持し、特定遺伝子が導入されたトランスジェニック非ヒト動物の胚性幹細胞とを用い、ホモ接合体を作製することを特徴とする遺伝子トランスジェニック非ヒト動物の作出方法(請求項4)からなる。
【発明の効果】
【0028】
近年の遺伝子操作技術や遺伝子導入技術の進展により、多くのトランスジェニック動物が作出されており、遺伝子機能を改変した動物や新しい機能を持ったトランスジェニック動物の作製が行われている。また、最近の、ジーントラップ法や相同性組換え法などの技術の進歩により、これらの方法を用いて遺伝子を破壊し作製されたノックアウト動物は、個体レベルでの遺伝子機能の解析や疾病の機構の解明、更には、それを利用した薬剤のスクリーニング等に利用されている。
【0029】
このように、昨今、各種の目的から、多岐に渡りトランスジェニック動物の作出が行われ、その開発の重要性が高まる中で、本発明は、そのトランスジェニック動物の作出方法や作出過程の判別方法、更にはそれらの利用において、より確実で、容易な技術を提供することができ、発生生物学、細胞生物学、免疫学、及び医療などの分野でトランスジェニック動物を利用する新たな研究及び技術の展開に大いなる貢献が期待される。
【0030】
本発明により、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させたトランスジェニック非ヒト動物、及びそれから樹立されたES細胞を調製することにより、トランスジェニック非ヒト動物の作出過程において、該動物由来の組織や細胞の判別や、雌雄の判別が確実かつ容易に行うことができ、トランスジェニック動物の作出や判別或いはその利用を、より確実で、容易に行うことができる。また、本発明により、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させたトランスジェニック非ヒト動物から樹立されたES細胞及び該細胞からY染色体が特異的に脱落したES細胞を作製することにより、該ES細胞を用いて容易かつ迅速なホモ接合体の作出が可能となる。更に、本発明において標識化されたES細胞は、例えば再生医療に用いられるES細胞の基礎研究用マウスES細胞のような基礎研究用動物細胞の樹立を容易にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、蛍光タンパク質のような標識タンパク質の遺伝子をY染色体上に局在させたトランスジェニック非ヒト動物を作出することからなる。
【0032】
本発明で使用する標識タンパク質の遺伝子としては、トランスポータータンパク質の遺伝子として用いられている、LacZやルシフェラーゼ、或いは蛍光タンパク質の遺伝子等を用いることができるが、その発現を簡便かつ明瞭に検出することができる蛍光タンパク質の遺伝子、例えば、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescence Protein:GFP)、赤色蛍光タンパク質(Red Fluorescent Protein:RFP)、シアン蛍光タンパク質(Cyan Fluorescence Protein)、青色蛍光タンパク質(Blue Fluorescence Protein:BFP)、黄色蛍光タンパク質(Yellow Fluorescence Protein:YFP)(Gene,111:229-233,1992; Nat. Biotech. 17: 969-973, 1999; Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98:462-467, 2001; Annu. Rev. Biochem. 67:509-544)を用いるのが好ましく、その中でもGFPが特に好ましい。また、増強した緑色蛍光タンパク質(GFP)(enhanced green fluorescent protein:EGFP)(Biochem. Biophys. Res. Commun. 227:707-711, 1996)のような蛍光タンパク質も好適に用いることができる。
【0033】
本発明において、標識タンパク質の遺伝子をY染色体上に導入する具体的方法としては、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)のような蛍光タンパク質の遺伝子を、サイトメガロウイルス エンハンサーとチキンベーターアクチンプロモーター等の調節遺伝子の下流に連結して、トランスジーンを構築し、C57BL/6Jマウスのような動物の受精卵の前核にマイクロインジェクションして作出する(J. Biol. Chem. 275:15992-16001)。本発明において、Y染色体上のトランスジーンの局在の確認は、FISH法(Cytogenet. Cell Genet. 71:179-181, 1995; Cytogenet. Cell Genet. 77:180-181, 1997)により確認することができる。
【0034】
本発明における標識タンパク質の遺伝子の発現は、緑色蛍光タンパク質(GFP)のような蛍光タンパク質の遺伝子を用いることにより、蛍光顕微鏡下で胚盤胞期から確認することができる。本発明においては、標識タンパク質の遺伝子がY染色体上に局在しているために、胚盤胞期以降では非侵襲的に容易にその発現を検知することが可能である。
【0035】
本発明の方法を用いて、遺伝子の改変されたトランスジェニック動物を作製するには、本発明の方法によって作製した、Y染色体を局在的に標識化したトランスジェニック動物の受精卵の前核内に、公知の方法によって目的とする遺伝子をマイクロインジェクションで直接的に注入し、目的とする遺伝子が導入された標識化されたトランスジェニック動物を作製するか、或いは、本発明の方法によって作製した、Y染色体を局在的に標識化したトランスジェニック動物からES細胞を樹立し、このES細胞に公知の方法により、目的とする遺伝子を導入するか或いは改変し、遺伝子の改変された或いは目的とする遺伝子の導入された標識化されたトランスジェニック動物を作製するか、更には、該ES細胞の特定遺伝子を相同組換え法やジーントラップ方のようなジーンターゲッティングにより破壊して、目的とする遺伝子が破壊されかつ標識化されたノックアウト動物を作製する。
【0036】
本発明において、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させたトランスジェニック動物のES細胞(胚性幹細胞)を樹立するには、それ自体公知の方法で樹立することができる。すなわち、まず、本発明の方法によって作製したマウスのようなトランスジェニック動物の胚盤胞から内部細胞塊(inner cell mass:ICM)を分離する。内部細胞塊の分離方法としては、免疫外科手術法(Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 72:5099-5102,1975)、機械的分離法(J. Embryol. Exp. Morph. 28:279-312,1972)及びカルシウムイオノフォア処理法(J. Embryol. Exp. Morph. 45:237-247,1978)がある。分離した内部細胞塊を、適切な条件下で培養し、細胞を未分化な状態を維持しながら増殖させる。この内部細胞塊由来細胞を未分化な状態で更に継代培養し、ES細胞株を樹立する。通常、ES細胞の培養は、マウス胎仔線維芽細胞やSTO細胞(株化されたマウス胎仔線維芽細胞)などのフィーダー細胞上で行われる。樹立された細胞がES細胞であるかどうかを確認するには、直接的には、樹立した細胞を初期胚に導入し、キメラを作出して確認することができる。
【0037】
本発明のY染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させたトランスジェニック動物によって、確実な雌雄の判別が可能となる。本発明において、標識タンパク質の遺伝子の発現は、蛍光顕微鏡下で胚盤胞期から確認できる。更に、本発明において、標識タンパク質遺伝子として緑色蛍光タンパク質(GFP)のような蛍光タンパク質を用いれば、非侵襲的(non-invasive)な雌雄判別が可能であり、本標識タンパク質遺伝子がY染色体上に局在しているために、胚盤胞期以降では、例えば、受精卵から発生する胚や胎児等の雌雄の判別が非侵襲的、かつ容易に行うことが可能である。また、本発明においてはY染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させたために、染色体の不活化の問題を生ずることがなく、X染色体を標識化した従来例のように、メスの場合にX染色体の不活化が生じ、同じXGFPXでも緑色蛍光を発する場合と発しない場合があるような不確実性の問題が生ずる余地がない。
【0038】
本発明の方法により、トランスジェニック動物或いはノックアウト動物のホモ接合体を迅速かつ簡便な方法で作出することができる。
【0039】
すなわち、本発明の方法により、トランスジェニック動物或いはノックアウト動物のホモ接合体を作出するには、まず、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させたトランスジェニックマウス或いはノックアウトマウスのような動物から、ES細胞を樹立する。例えば、GFPでY染色体を標識化したXYGFPマウスの胚盤胞からES細胞を樹立した。このES細胞は緑色蛍光を発し、核型は40,XYとなる。3代継代後、共焦点レーザー顕微鏡下で緑色蛍光陽性細胞と陰性細胞をおのおのクローン化する。それぞれの核型は、緑色蛍光陽性細胞が40,XY、緑色蛍光陰性細胞が39,XOとなる。単離した緑色蛍光陽性クローンは、例えば、継代1代目では100%陽性となるが、継代3代目では約1.7%のような割合で、陰性細胞が観察される。すなわち、Y染色体は他の染色体より不安定であり、継代が進むにつれ脱落しやすいこと、及び、該Y染色体を標識したトランスジーンをマーカーにすることで、Y染色体が特異的に脱落した39,XOの核型のクローンを容易に単離することが可能となる。
【0040】
このようにしてY染色体の不安定性を用いて単離した、Y染色体が特異的に脱落した39,XO ES細胞と、Y染色体が標識化された40,XY ES細胞からホモ接合体を迅速かつ容易に作出することができる。特に、本発明の方法では、Y染色体のマーカーとして標識タンパク質を識別し、容易にY染色体が特異的に脱落した39、XO ES細胞を選別することが可能であるため、従来の方法に比べて、容易かつ迅速なホモ接合体の作出が可能となる。
【0041】
本発明は、キメラ個体を作製する際に、生殖細胞の由来の判別に用いることができる。本発明のY染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させた標識を用いて、キメラ非ヒト動物の由来判別を行う場合としては、1)Y染色体を標識したトランスジェニックマウスから樹立したES細胞を用いて作成した遺伝子改変ES細胞を野生型胚に注入する場合、または2)通常の遺伝子改変ES細胞をY染色体標識トランスジェニックマウスの胚へ注入する場合があるが、いずれの場合にも、Y染色体上に標識タンパク質の遺伝子を局在させた標識を用いて、作成したキメラ個体の子供を産生させ、遺伝子改変ES細胞の生殖細胞への伝播を判別する。本発明において、標識タンパク質遺伝子として緑色蛍光タンパク質(GFP)のような蛍光タンパク質を用いれば、非侵襲的(non-invasive)な雌雄判別が可能であり、容易にその由来の確認を行うことができる。
【0042】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
(Y染色体上にGFP遺伝子が挿入されたトランスジェニックマウスの作製)
標識タンパク質遺伝子がY染色体上に局在して挿入されたトランスジェニックマウスを作製した。標識遺伝子の一実施例として、蛍光輝度が高く熱安定性の高い二重点変異(S65T/S147P)を持つ緑色蛍光タンパク質(GFP)をサイトメガロウイルス エンハンサーとチキン β-アクチンプロモーターの下流、およびグロビンのポリA付加シグナルの上流に連結したものをトランスジーンとして用いた。すなわち、発現ベクターpMG2(Biochem. Biophys. Res. Commun. 232:69-73, 1997)を、Sal I及びBam HIで消化した。次いで、精製したGFP DNA断片を混合し、トランスジーンを構築した。このトランスジーンを、C57BL/6Jマウスの受精卵の前核にマイクロインジェクションし、14クローンのトランスジェニックマウスのラインを作成したところ、オスだけにGFPが発現するラインを1クローンのみ見い出した。確認のためにオスのGFPマウスとメスの野生型マウスを掛け合わせてみると、オスにのみGFPの蛍光が確認された。また、GFP遺伝子をプローブとして、GFPマウス由来の線維芽細胞を用いてFISH法にてトランスジーンの局在を検討すると、GFP遺伝子はY染色体に局在した(図1:図は、FISH法によるトランスジーンの染色体座位の検討結果を示す。矢印で示されるように、GFPに対するシグナルはY染色体上に局在している。)。以上から、作製されたマウスはY染色体上に標識タンパク質GFPの遺伝子を局在するトランスジェニックマウスであることが示された。
【実施例2】
【0044】
(GFPタンパク質の発現と胎児の雌雄判別)
Y染色体連鎖GFPトランスジェニックマウスのGFPタンパク質の時期的・空間的発現を検討した。着床前の胚のGFPタンパク質を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて検討したところ、早期胚盤胞期で初めてGFPの蛍光が観察された。一般に、受精卵における精子由来の遺伝子は一細胞期ではメチル化により不活化されており、二細胞期から発現しはじめる。GFPの発現時期は二細胞期からずれているが、その理由としてGFPタンパク質の蛍光の検出限界などの影響が考えられる。常染色体上に局在するGFPトランスジェニックマウスでは受精卵からGFPの発現が検出できるので、Y染色体連鎖GFPトランスジェニックマウスの発現パターンはGFP遺伝子の上流にあるプロモーターの特性ではないと考えられる。本マウスにおけるGFPは胚盤胞期以降ずっと検出できるので、各時期における非侵襲的な雌雄判別が容易に可能である(図2:図は、トランスジーンの発現と雌雄判別の結果を示す。A,Bは胚盤胞期、C,Dは胎令10.5日、A、Cは透過像、B,Dは蛍光像を示す。)。
【実施例3】
【0045】
(Y染色体が標識されたES細胞の確立)
Y染色体連鎖GFPトランスジェニックマウスの胚盤胞から、免疫外科手術法(Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 72:5099-5102, 1975)または機械的分離法(J. Embryol. Exp. Morph. 28:279-312, 1972)を用いて、内部細胞塊(ICM)を分離し、これをマウス胎仔線維芽細胞を用いたフィーダー細胞上で、LIFを含むES細胞樹立・継代用培地を用いて継代培養し、GFPの蛍光を有する胚性幹細胞(ES細胞)を樹立した(図3:図は、40,XYGFPES細胞の樹立について示す。Aは透過像、Bはスライス像、Cは投影像を示し、いずれも共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。)。このES細胞の核型を検討したところ、40,XYであった。
【実施例4】
【0046】
(40,XYと39,XOの核型をもつES細胞のクローン化)
40,XYGFPES細胞を6cm径細胞培養用ディッシュに培養し、共焦点レーザー顕微鏡にて、各コロニーの蛍光を検出した(図4:図は、40,XYGFPES細胞のGFP蛍光の脱落と細胞のクローン化について示す。A,A’,B,B’は蛍光の完全脱落と部分脱落を矢印で示す。C,Dは単離したGFP蛍光陰性クローン(#1)、E,Fは単離したGFP陽性クローン(#16)を示す。)。顕微鏡下で、蛍光陽性および陰性のコロニーを単離した。それぞれの核型を検出したところ、蛍光陽性のコロニーは40,XYであり、蛍光陰性のコロニーはY染色体の脱落した39,XOであった(図5:図は、単離したGFP蛍光陰性クローン(#1)とGFP陽性クローン(#16)の核型の検討の結果を示す。Aは#1の核型(39,XO)、Bは#16の核型(40,XY)。なお矢印はY染色体を示す。)。以上のごとく、極小スケールで40,XYGFPES細胞からY染色体の脱落した39,XOの核型を有するコロニーを、簡便に単離することができる。
【実施例5】
【0047】
(クローン化した40,XY ES細胞の継代数とY染色体の脱落の頻度)
ノックアウトやジーントラップしたES細胞は、基本的にクローン化されている。このようにクローン化したES細胞からY染色体が脱落するかどうかを、クローン化した40,XYGFPES細胞を用いて検討した。クローン化した40,XYGFPES細胞の継代数が1世代目の場合は、ほぼ100%のコロニーでGFPの蛍光が陽性であったのに対し、3世代の継代を重ねると、GFP陰性のコロニーが約1.7%検出できた。すなわち、クローン化したオスES細胞でも継代を重ねるにつれY染色体が脱落すること、そして脱落したコロニーを容易に単離できることを示した。
【実施例6】
【0048】
(129XB6-YGFPマウス由来ES細胞の作成とY染色体脱落の頻度)
C57BL/6J純系マウス由来のES細胞は、一般に交雑系マウス由来のES細胞に比べ個体を形成しにくいことが知られている。そこで129マウスの雌と、C57BL/6J-YGFPマウスの雄を掛け合わせた雄マウス129×B6-YGFPの胚盤胞から、GFPの蛍光を有するES細胞を樹立した。この129×B6-YGFPのES細胞を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察すると、約3.2% (4/156コロニー)の割合でGFP陰性のES細胞が確認された。クローン化したES細胞は、Y染色体に存在するZfy遺伝子のPCRによって検討し、GFP陽性コロニーはZfy遺伝子が陽性、GFP陰性コロニーはZfy遺伝子が陰性であることを確認した。即ちGFP陰性コロニーはY染色体が脱落し39,XOの核型を持つと考えられた。以上の結果から、C57BL/6J-YGFP純系マウス由来のES細胞のみならず、129マウスなどとの交雑マウス由来のES細胞でも、Y染色体が同程度の頻度での脱落することを示した。交雑系マウス由来のES細胞は、純系に比べてより個体を形成しやすいため、本ES細胞を用いてより効率的にノックアウトマウスを作成することが可能である。
【0049】
「PCRの条件」
ES細胞コロニーそれぞれ3個から、Proteinase Kを用いてDNAを抽出して以下
のPCRに使用した。PCR用のZfy primer setは論文Kay GF, et al. Cell, 72:171-182, 1993のを参照し、5’-gac tag aca tgt ctt aac atc tgt cc-3’及び5’-cct att gca tgg aca gca gct tat g-3’を用いた。PCRの条件は、95℃ 5min、(95℃ 1min、55℃ 1min、72℃ 2min)× 35 cycles、72℃7minとした。PCR産物は3%アガロースゲルにて電気泳動した。
【0050】
「129xB6-Ylink GFP ES細胞の性判別」
上記方法により、PCR産物を3%アガロースゲルにて電気泳動し、129xB6-Ylink GFP ES細胞の性判別を行った結果を、図6に示す。図中、「1~5」の数字は、それぞれ、1.129xB6-YGFP,GFP(-)ES colony-4;2.129xB6-YGFP,GFP(-)ES colony-8;3.129xB6-YGFP,GFP(-)ES colony-10;4.129xB6-YGFP,GFP(-)ES colony-14;5.129xB6-YGFP,GFP(-)ES colony-4;1.129xB6-YGFP♂ES、GFP(+)(ポジコン)を、「M」は、100bp DNA ladder markerを示す。ピックアップしたES細胞4ラインは、全て核型がXOであることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施例におけるY染色体上にGFP遺伝子が挿入されたトランスジェニックマウスの作製例において、GFP遺伝子がY染色体上に局在する状況を示す図である。
【図2】本発明の実施例におけるGFPタンパク質の発現と胎児の雌雄判別の試験において、胚盤胞期以降のGFPの検出による非侵襲判別の結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例における、樹立されたY染色体が標識されたES細胞の写真である。
【図4】本発明の実施例で単離されたES細胞の蛍光陽性コロニー(40、XY)、蛍光陰性コロニー(39、XO)の写真である。
【図5】本発明の実施例で単離されたES細胞の蛍光陽性コロニー(40、XY)、蛍光陰性コロニー(39、XO)のそれぞれの核型の検出結果の写真である。
【図6】本発明の実施例で作成された129xB6-YlinkGFPのES細胞のPCRを用いた性判別の結果を示す写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5