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明細書 :シリコンで構成される偏光フィルター及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4403538号 (P4403538)
公開番号 特開2005-173206 (P2005-173206A)
登録日 平成21年11月13日(2009.11.13)
発行日 平成22年1月27日(2010.1.27)
公開日 平成17年6月30日(2005.6.30)
発明の名称または考案の名称 シリコンで構成される偏光フィルター及びその製造方法
国際特許分類 G02B   5/30        (2006.01)
G02B   5/28        (2006.01)
FI G02B 5/30
G02B 5/28
請求項の数または発明の数 16
全頁数 18
出願番号 特願2003-413133 (P2003-413133)
出願日 平成15年12月11日(2003.12.11)
審査請求日 平成18年11月30日(2006.11.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】藤井 稔
【氏名】ヨーヒム ディーナー
【氏名】ニコライ クンツナー
【氏名】エーゴン グロス
【氏名】ドミトリー コバレフ
個別代理人の代理人 【識別番号】100123504、【弁理士】、【氏名又は名称】小倉 啓七
審査官 【審査官】大橋 憲
参考文献・文献 特開平07-077674(JP,A)
特開平06-021509(JP,A)
特開2004-034270(JP,A)
N. Kunzner, et.al.,Giant birefringence in anisotropically nanostructureed silicon,Optics Letters,米国,2001年 8月15日,Vol. 26, No.16,pp. 1265-1267
調査した分野 G02B 5/30
G02B 5/28
特許請求の範囲 【請求項1】
光に対して面内に異方性を持つ面方位(110)のポーラスシリコンが用いられ、前記ポーラスシリコンの特性(平均誘電率及び/又は誘電率の異方性及び/又は膜厚)が異なる3種類以上の層の組み合わせによる多層膜で形成されたことを特徴とする偏光フィルター。
【請求項2】
前記多層膜が、2種類以上のダイクロイックミラーを積層した構造を含むことを特徴とする請求項1に記載の偏光フィルター。
【請求項3】
前記多層膜が、1種類以上のダイクロイックミラーと1種類以上のダイクロイックマイクロキャビティーを積層した構造を含むことを特徴とする請求項1に記載の偏光フィルター。
【請求項4】
前記多層膜が対称構造を有し、偏光フィルターの面のどちらから光を照射しても光透過特性及び反射特性が同じであることを特徴とする請求項1に記載の偏光フィルター。
【請求項5】
前記多層膜が非対称構造を有し、偏光フィルターへの光の照射面により、光透過特性及び/又は反射特性が異なることを特徴とする請求項1に記載の偏光フィルター。
【請求項6】
前記ポーラスシリコン面の少なくともどちらか一方の面に、特定の波長域のみを透過又は反射する特性を持つ物質を有することを特徴とする請求項1に記載の偏光フィルター。
【請求項7】
請求項1の偏光フィルターの上部又は下部に波長板を形成することによりランダム偏光の光を円偏光に変換する素子(円偏光板)。
【請求項8】
前記多層膜中に、空気の誘電率とは異なる誘電率を有する物質を注入したことを特徴とする請求項1に記載の偏光フィルター。
【請求項9】
前記空気と異なる誘電率を有する物質が、温度又は電圧により誘電率が変化することを特徴とする請求項8に記載の偏光フィルター。
【請求項10】
請求項9の偏光フィルターにおいて、温度又は電圧を制御することにより、偏光フィルターの性状をチューニング若しくはスイッチングを行うことを特徴とする偏光フィルター。
【請求項11】
請求項1の偏光フィルターにおいて、誘電率が連続的に変わるRugateフィルターを形成することを特徴とする偏光フィルター。
【請求項12】
請求項1に記載の偏光フィルターの製造方法であって、前記ポーラスシリコンが、シリコンを陽極化成することにより形成されることを特徴とする偏光フィルターの製造方法。
【請求項13】
前記ポーラスシリコン作製工程における陽極化成の電流値及び/又はエッチング時間を制御することにより、前記ポーラスシリコンの特性をコントロールすることを特徴とする請求項12に記載の偏光フィルターの製造方法。
【請求項14】
急峻な電流制御をすることにより、前記多層膜の層間に急峻な界面を形成させることを特徴とする請求項12に記載の偏光フィルターの製造方法。
【請求項15】
連続的で、滑らかな変化を有する電流制御をすることにより、前記多層膜の層間に滑らかな界面を形成させることを特徴とする請求項12に記載の偏光フィルターの製造方法。
【請求項16】
前記ポーラスシリコンの表面を強制的に酸化又は窒化することによって、偏光フィルターの安定性向上もしくは光学特性を制御することを特徴とする請求項12に記載の偏光フィルターの製造方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品として用いられる偏光フィルター及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然光や無偏光の入射光から直線偏光を得る光学素子には、主に高分子からなる偏光フィルタとブロック型の偏光プリズムがある。
ここで、偏光フィルターとは、ランダムに偏光した光からある特定の方向に偏光した光を取り出す光学素子であり、光が関与する分野で必ず必要とされている素子である。そのため利用分野を限定するのが困難なほど利用分野は多岐にわたっているが、代表的な利用分野として、光通信分野などが挙げられる。
【0003】
偏光性能(消光比)は、一般には、偏光プリズムの方が偏光フィルターよりも優れている。また、偏光プリズムは、高出力レーザーに対して使用できるという特徴がある。そのため、高い偏光能が求められる光通信の偏光制御等には、一般に、偏光プリズムが使用されている。
【0004】
また、素子に白色光(いろいろな波長の光が混じりあっている)を入射した場合、ある特定の波長の光のみを透過し、それ以外の光は透過しないものとして、誘電体多層膜フイルタが知られている。
【0005】
一方で、ポーラス(多孔質)シリコン(Si)は、光学異方性を持たせることが可能であることが知られており、光学異方性を持つポーラスシリコンは、従来から、波長板などに利用できることが知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1、非特許文献2)。
【0006】

【特許文献1】DE19962199A1
【非特許文献1】N. Kunzner, D. Kovalev, J. Diener, E. Gross, V. Yu. Timoshenko, G. Polisski, F. Koch, and M. Fujii, "Giant Birefringence in Anisotropically Nanostructured Silicon," Optics Letters, Volume 26, Issue 16, pp. 1265-1267, August (2001)
【非特許文献2】J. Diener, N. Kunzner, D. Kovalev, E. Gross, F. Koch, and M. Fujii, " Dichroic behavior of multilayer structures based on anisotropically nanostructured silicon," Journal of Applied Physics, Volume 91, Issue 10, pp. 6704-6709, May (2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
偏光プリズムは2枚のプリズムにより構成されるため、数mm以上のブロック型の形状となるため小型化が難しく、小さいものでも直径6mm長さ15mm程度ある。そのため、小型の光学系機器に組み込むことが困難であるという問題がある。また、偏光プリズムは、高価である。
一方、偏光フィルターは、安価であり、また、フィルム状のものは小型化が可能である点で、偏光プリズムよりも優れているが、性能(消光比)的には偏光プリズムより劣るという問題がある。
特に、フィルム状の偏光フィルターは通常、吸収型であるため、強光度のレーザーには使用できないことが最大の欠点になっていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ポーラスシリコンに関する性状について鋭意研究を重ねた結果、上述の問題を解決するための手段について、ポーラスシリコンを用いることで、偏光プリズムと偏光フィルターの長所を併せ持つ新規の偏光フィルターを開発することに成功するに至った。
【0009】
本発明に係る偏光フィルターを開発するに先立ち、本発明者等は、面方位が(110)のシリコンウエハーをフッ化水素酸溶液中で陽極化成すると、面内に光学異方性(2つの光学軸の誘電率が異なる)をもつポーラスシリコンが形成され、その結果、シリコンのみからなる波長板(光の偏光状態を変える光学素子)を形成できることを知見した(非特許文献1)。
【0010】
また、光に対して面内に光学異方性をもつポーラスシリコンの多層膜構造(誘電率、膜厚が異なる層の積層構造)を形成することにより、ダイクロイックミラーやダイクロイックマイクロキャビティーを作製できることを知見した(非特許文献2)。
ここで、ダイクロイックミラーとは、入射光の偏光方向により反射帯の波長が異なるミラー、言い換えれば、偏光に依存した反射率をもつミラーをいう。
また、ダイクロイックマイクロキャビティーとは、誘電体多層膜ミラーを形成する周期的な多層膜の途中に欠陥層(周期性を崩す層)を挿入し、誘電体多層膜ミラーの反射帯中でシャープな透過バンドを形成した構造を有するものをいう。ダイクロイックマイクロキャビティーの光特性は、入射光の偏光方向により、シャープな透過バンドの波長が異なるものである。用途としては、白色光からある波長の光だけを取り出すことなどに用いられる。
【0011】
ところで、偏光フィルターを形成するためには面内に光学異方性を持つ(面に垂直に光を入射した場合に、光の偏光方向により誘電率が異なる)材料が必要である。しかし、シリコン結晶は、本来、光学異方性が非常に小さい材料であり、そのままでは偏光フィルターとしての機能を実現することが出来ない。すなわち、シリコンのみで構成される偏光フィルタを開発するためには、シリコン結晶の構造に異方性を持たせるように工夫する必要がある。
【0012】
本発明では、シリコン結晶に構造異方性を持たせるために、シリコン結晶を加工し、ポーラスシリコンを形成した。しかしながら、通常使用される面方位が(100)もしくは(111)のシリコン結晶から作成したポーラスSiでは、面内方向に異方性をもたない。本発明では、面方位が(110)のシリコン結晶からポーラスシリコンを作成した。面方位が異方性をもつシリコン結晶から作成したポーラスシリコンは構造異方性を持ち、結果として、面内に光学異方性を持つのである。
【0013】
本発明に係る偏光フィルターは、光に対して面内に光学異方性をもつポーラスシリコンであって、特性の異なる3種類以上のポーラスシリコン層で形成される多層膜からなるものである。
ここで、特性とは、平均誘電率、誘電率の異方性(光学異方性の度合い)、膜厚をいう。特性の異なるというのは、これらの平均誘電率、誘電率の異方性(光学異方性の度合い)、膜厚のいずれかが異なることを意味する。
なお、光に対して面内に異方性を持つシリコン又はポーラスシリコンのみで構成される偏光フィルターは、まだ実現されておらず、本発明によって初めて実現されるものである。
【0014】
上述した如く、面内に光学異方性をもつポーラスシリコンは、シリコンウエハーをフッ化水素酸水溶液中で陽極化成することにより作製される。陽極化成はフッ化水素酸水溶液中で、数分間~数時間のエッチングプロセスで行われる。ここで、エッチング電流が異なると、作製されるポーラスシリコン層の誘電率および光学異方性の度合いが異なる。したがって、エッチング電流の異なる層どうしでは、誘電率も光学異方性の度合いも異なることになるのである。すなわち、ポーラスシリコン作製工程における陽極化成の電流値やエッチング時間を制御することにより特性をコントロールすることができるのである。
【0015】
また、本発明に係る偏光フィルターは、ポーラスシリコン作製工程における陽極化成の電流に関して、急峻な電流制御をすることによりポーラスシリコンの多層膜の層間に急峻な界面を形成させることができる。
【0016】
さらに、本発明に係る偏光フィルターは、ポーラスシリコン作製工程における陽極化成の電流に関して、連続的で、滑らかな変化を有する電流制御をすることによりポーラスシリコンの多層膜の層間に滑らかな界面を形成させることができる。
【0017】
また、本発明に係る偏光フィルターは、ナノメートルサイズの厚みであるポーラスシリコン層の多層膜で構成されるため、薄膜状の平面型となり、かつ、反射型であるため、強光度のレーザー光に対して使用可能な偏光フィルターを提供することができる。
【0018】
また、本発明に係る偏光フィルターは、ポーラスシリコンに形成される多層膜が対称構造を有することが可能であり、多層膜が対称構造と有する場合は、偏光フィルターの面のどちらから光を照射しても光透過特性及び反射特性が同じになるという特徴がある。
【0019】
また、一方、本発明に係る偏光フィルターは、ポーラスシリコンに形成される多層膜が非対称構造を有することが可能であり、この場合は、偏光フィルターへの光の照射面により、光透過特性や反射特性が異なることとなる。
【0020】
また、本発明に係る偏光フィルターは、ポーラスシリコン面の少なくともどちらか一方の面に、特定の波長域のみを透過又は反射する特性を持つ物質を有することが可能であり、この場合は、ある波長域の光に絞り込んだ状態で、前記偏光フィルターに光を通すことができるため、透過又は反射する光をより狭い波長領域に限定することが可能となる。
【0021】
また、本発明に係る偏光フィルターの上部又は下部に、波長板を形成することによりランダム偏光の光を円偏光に変換する素子(円偏光板)を作製することができる。この円偏光板(円偏光フィルム)は、ランダムに偏光した白色光から円偏光したある特定の波長の光を取り出すことができるものである。
【0022】
上述した如く、本発明に係る偏光フィルターは、面方位が(110)のシリコン結晶からポーラスシリコンを作成しているが、他の面方位のシリコン結晶であっても、そのシリコン結晶から作製したポーラスシリコンが面内方向に屈折率異方性をもてば、同様の作用があるのは勿論のことである。
【0023】
また、本発明に係る偏光フィルターは、ポーラスシリコンの多層膜中に、空気の誘電率とは異なる誘電率を有する物質を注入することが可能である。これにより、ポーラス構造のポアに液体又は気体を注入することにより、前記偏光フィルターの素子作成後に特性を制御(微調整)できるというメリットがある。例えば、ポーラスシリコンの空隙部に、エタノール、メタノール、アセトン等の蒸気や液体を注入することにより、偏光フィルターの素子のスイッチングや素子特性チューニングを行うことができるのである。
【0024】
さらに、空気の誘電率とは異なる誘電率を有する物質を注入した偏光フィルターは、温度又は電圧を制御することによって、この物質の誘電率を変化させることができる。例えば、ポーラスシリコンの空隙部に、液晶などのように温度又は電圧により誘電率が変化する物質を注入することにより、温度又は電圧を制御することにより、偏光フィルターの素子のスイッチングや素子特性チューニングを行うことができるのである。
【0025】
また、本発明に係る偏光フィルターは、表面を強制的に酸化又は窒化することにより、偏光フィルターの安定性向上もしくは光学特性を制御することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る偏光フィルターの最も顕著な効果は、ポーラスシリコンの各層を作製するエッチング電流値とエッチング時間を制御することにより、多層膜の各ポーラスシリコン層を任意に組み合わせて、偏光フィルターを形成できることである。これにより、透過又は反射させたい波長域が決まれば、まるでブロックのおもちゃのように、様々な光学特性を有する層を自由に組み合わせて、その層の組み合わせに従い、エッチング電流値とエッチング時間のシーケンスプログラム設計を作り、目的とする偏光フィルターを得ることができるということである。
【0027】
本発明に係る偏光フィルターは、100ミクロン程度もしくはそれ以下といった非常に薄く、薄膜状の平面型でありながら、反射型であって吸収型ではないため、高出力レーザ光に対しても使用可能であるという効果がある。
【0028】
また、本発明に係る偏光フィルターは、材料にシリコンを用いる、いわゆるシリコンプロセスのため、集積化が可能で小型装置に組込みが容易であるという効果がある。
【0029】
また、本発明に係る偏光フィルターは、シリコンを電流でエッチングする製造工程のため、極めて短時間に、かつ、ありふれた材料を使用することと、製造に真空装置を使用しないことから、低コストで製造できるという効果がある。
【0030】
また、本発明に係る偏光フィルターは、シリコンのみで形成されるため、無害、無毒であり、また、半導体などのシリコンプロセスとの整合性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。先ず、本発明に係る偏光フィルターにおける2種類の積層構造について説明する。
【0032】
一つ目の偏光フィルターの構造は、2種類のダイクロイックミラーを積層したものである。それぞれのダイクロイックミラーを形成するのに少なくとも2種類の層が必要なため、偏光フィルターを作製するためには、少なくとも4種類の層が必要になる。但し、それぞれのダイクロイックミラーを形成する2種類の層のうちの一方の層が、それぞれのダイクロイックミラーで共通である場合は、層の種類は3種類となる。例えば、A層,B層,C層と異なる3種類の層を用いて、一種のダイクロイックミラーをA層とB層により形成し、もう一種のダイクロイックミラーをA層とC層により形成する場合などが該当する。
【0033】
2つ目の偏光フィルターの構造は、ダイクロイックミラーとダイクロイックマイクロキャビティーを積層したものである。ダイクロイックマイクロキャビティーの形成には少なくとも3種類の異なる層が必要であるため、偏光フィルターを作製するためには、少なくとも5種類の異なる層が必要になる。但し、ダイクロイックミラーを形成する2種類の層、及びダイクロイックマイクロキャビティーを形成する3種類の層の間で共通の層がある場合は、層の種類は3種類もしくは4種類となる。例えば、A層,B層,C層と異なる3種類の層を用いて、ダイクロイックミラーをA層とB層により形成し、マイクロキャビティーをA層とB層とC層で形成する場合、あるいは、A層,B層,C層,D層と異なる4種類の層を用いて、ダイクロイックミラーをA層とB層により形成し、マイクロキャビティーをB層とC層とD層で形成する場合、などが該当する。
【0034】
すなわち、本発明に係る偏光フィルターは、特性(平均誘電率,誘電率の異方性,膜厚)の異なるポーラスシリコン層の組み合わせによる多層膜で形成されているが、前記多層膜は少なくとも3種類以上とする必要があることを意味するものである。
【0035】
ここで、ポーラスシリコン層の屈折率の異方性は、30%程度以下で制御している。なお、一般に、屈折率の異方性は、大きければ大きいほど素子設計の自由度が大きい。
【0036】
また、ポーラスシリコン層の1層の膜厚は30~500nmとしている。これを3種類以上組み合わせて、例えば、50層以上100層程度までの異なる特性を持つ層を積層するのである。本発明に係る偏光フィルターの全体の膜厚は数10μm程度となる。
【0037】
次に、ポーラスシリコンの光学異方性に関して説明する。
ポーラスシリコンの陽極化成による作製において、面方位が(110)のシリコンを用いる場合には、エッチングが面に対して垂直ではなく、斜め方向に進行するため、構造異方性が形成される。
ここで、ポーラスシリコンのポロシティは90%程度以下で制御している。この光学異方性をもつポーラスシリコンからポラライザーを形成するためには、この光学異方性ポーラスシリコンを多層膜構造にする必要があるのである。このポーラスシリコンの2種類の層を交互に積層することにより、ダイクロイックミラーを形成することができる。また、途中に一層だけ欠陥層を導入することによりダイクロイックマイクロキャビティーを形成することができる。
【0038】
ここで、陽極化成はフッ化水素酸水溶液中で、予め設計された条件で数分間程度のエッチングプロセスで行っている。各層の特性(平均誘電率や誘電率の異方性や膜厚)は、ポーラスシリコン作成時の電流値とエッチング時間の制御によって決定される。すなわち、陽極化成の電流条件でポロシティを変化させ、時間で膜厚を制御しているのである。予め計算により求めたシーケンスプログラム(電流値とエッチング時間の制御プログラム)により電流をより複雑に制御することにより、例えば、赤~赤外領域の任意の波長で機能する狭帯域偏光フィルターを形成することができるのである。また、急峻な電流制御をすることにより層間に急峻な界面を形成することができ、逆に、電流を滑らかに変化させることにより滑らかな界面を形成することができるのである。
以下に、具体的な多層膜構造の実施例を挙げて、その作製におけるシーケンスプログラム、光学特性について詳細に説明する。
【実施例1】
【0039】
本発明に係る偏光フィルターの一実施例として、近赤外用狭帯域偏光フィルターについて以下説明する。
面方位が(110)のシリコンウエハー(P型、抵抗率1.5mΩ・cm)の陽極化成により面内に屈折率異方性を有するポーラスシリコン層を形成する。ここで、大きい異方性を有するポーラスシリコン層を形成するためには、低い抵抗率のシリコンウエハーを使用することが望ましい。エッチング液は、エタノール:フッ化水素酸(50容積%水溶液)=1:1として調合する。尚、本実施例では、エッチング領域は、1cmとしている。ここで、エッチングの条件(エッチング電流と時間、結果として得られる膜厚)として次の5通り(A層~E層)を採用した。
【0040】
A層:22mA,12.9sec, 膜厚 174nm
B層:22mA,11.86sec,膜厚 160nm
C層:22mA,17.9sec, 膜厚 242nm
D層:70mA, 6.1sec, 膜厚 218nm
E層:70mA, 5.58sec,膜厚 198nm
【0041】
A,B,C層はエッチング電流22mA、D,E層はエッチング電流70mAで作製している。それぞれのエッチング電流でポーラスシリコン層を形成した場合において、光の電場ベクトルが[001]方向と平行な場合の屈折率(n[001])、[1,-1,0] と平行な場合の方向の屈折率(n[1,-1,0])、屈折率の差△nを表1に示す。 なお、屈折率の測定は、波長1240nmで行っている。
【0042】
【表1】
JP0004403538B2_000002t.gif

【0043】
A層-D層のペア(見かけ上のダイクロイックミラー)を20層、B層-E層のペア(見かけ上のダイクロイックミラー)を10層、C層を1層(これが欠陥層となる)、E層-B層のペア(見かけ上のダイクロイックミラー)を10層、各々積層し(合計81層)、狭帯域偏光フィルターを形成した。ここで、下部の41層は、見かけ上ダイクロイックマイクロキャビティーを形成している。
図1に、実施例1の偏光フィルターの多層膜構造の断面の模式図を示す。
また、この偏光フィルターの多層膜を作製するために、実際に用いた電流のパターン(シーケンスプログラム)を図2に示す。
【0044】
図1のような構成の多層膜において、膜に垂直に光を入射した状況下で、図3、図4に示すような透過率の特性が得られている。図3、図4とも縦軸は光の透過率、横軸は光の波長を示している。なお、図4の縦軸は対数軸になっている。図3、図4に示すように、入射光の偏光方向が[001]方向と平行の場合は、光はほとんど透過していない(透過率1%以下)が、入射光の偏光方向が[1,-1,0]の場合は、波長1342nmを中心とする狭い波長領域の光のみを透過している。
【0045】
以上より、この素子は、近赤外領域の狭帯域偏光フィルターとして機能することが容易に理解できる。つまり、ランダムに偏光した入射光の中で、波長1342nmで[1,-1,0]方向に偏光した光のみが実施例1の偏光フィルターを透過し、結果として波長1342nmで直線偏光した光が得られるのである。なお、直線偏光した透過光の半値幅を測定すると、16nmであり、フィネスFの値は84であった。式1にフィネスFを求める式を示す。
【0046】
(式1)
フィネスF=(透過光の半値幅)/(透過が最大の波長)
【実施例2】
【0047】
次に、本発明に係る偏光フィルターの他の実施例として、可視光用狭帯域偏光フィルターについて以下説明する。
先ず、実施例1と同様の方法で、容易に、可視光用狭帯域偏光フィルターを作製できることを説明する。作製時のエッチング電流は、実施例1と同じ22mA及び70mAとし、エッチング時間を変えて、次の5種類の膜を作製する。
【0048】
A層:22mA,5.4sec, 膜厚 73nm
B層:22mA,4.89sec,膜厚 66nm
C層:22mA,8.14sec,膜厚 110nm
D層:70mA,3.1sec, 膜厚 109nm
E層:70mA,2.79sec,膜厚 99nm
【0049】
A層-D層のペア(見かけ上のダイクロイックミラー)を20層、B層-E層のペア(見かけ上のダイクロイックミラー)を10層、C層を1層(欠陥層)、E層-B層のペア(見かけ上のダイクロイックミラー)を10層積層し(合計81層)狭帯域偏光フィルターを形成した。ここで、下部の41層は、見かけ上ダイクロイックマイクロキャビティーを形成している。
図5に、実施例2の偏光フィルターの多層膜構造の断面の模式図を示す。
【0050】
また、図6、図7、図8に、実施例2の偏光フィルターの多層膜における透過率の特性を示す。
ここで、図6は、電場ベクトルが[1,-1,0]と[001]を向いている場合の光の透過率の比較である。入射光の偏光方向が[001]方向と平行の場合は、光はほとんど透過していない(透過率1%以下)が、入射光の偏光方向が[1,-1,0]の場合は、波長632.8nmを中心とする狭い波長領域の光のみを透過していることがわかる。これは、図7に示すように、1つのダイクロイックミラーと1つのダイクロイックマイクロキャビティーの重なりのために生じるものであり、この素子は、可視領域の狭帯域偏光フィルターとして機能していることが容易に理解できる。この例からもわかるように、本発明に係る偏光フィルターは、ブロックおもちゃのように、部品となる光学素子(ダイクロイックミラー、ダイクロイックマイクロキャビティー、波長板等)の重なりを工夫することにより、任意の狭帯域偏光フィルターを設計・製作することができるのである。
【0051】
また、図8は、この素子に波長632.8nmのランダムに偏光した光を入射した場合の透過光強度の角度依存性を示したものである。透過光強度が角度に対してsin2(θ)の関係にあり、直線偏光していることがわかる。なお、直線偏光した透過光の半値幅は、約8nmであり、フィネスF値は80であった。
【実施例3】
【0052】
次に、本発明に係る偏光フィルターの他の実施例として、実施例1、実施例2と同様の特性をもう少し簡単な構造で実現することができる場合について説明する。エッチング電流は、実施例1と同じ22mA及び70mAとし、エッチング時間を変えて、次の4種類の層を作製する。
【0053】
A層:22mA,6.8sec, 膜厚 92nm
B層:22mA,5.04sec,膜厚 68nm
C層:70mA,2.69sec,膜厚 96nm
D層:70mA,2.27sec,膜厚 81nm
【0054】
A層-C層のペア(見かけ上のダイクロイックミラー)を20層、B層-D層のペア(見かけ上のダイクロイックミラー)を10層積層し(合計60層)狭帯域偏光フィルターを形成した。
図9に、実施例3の偏光フィルターの多層膜構造の断面の模式図を示す。図9の構成の多層膜において、膜に垂直に光を入射した状況下で、図10に示すような透過率の特性が得られる。
【0055】
図10から、680nm付近においては、実施例1や実施例2と同様に、入射光の偏光方向が[001]方向と平行の場合は、光はほとんど透過していない(透過率1%以下である)が、入射光の偏光方向が[1,-1,0]の場合は、波長685nmを中心とする狭い波長領域の光のみを透過していることがわかる。以上より、この素子は、可視領域の狭帯域偏光フィルターとして機能することが容易に理解できる。図11に示すように、この例においても、部品となる光学素子(ダイクロイックミラー、ダイクロイックマイクロキャビティー、波長板等)の重なりを工夫することにより、任意の狭帯域偏光フィルターを設計・製作できることが容易に理解できる。
【0056】
しかしながら、ストップバンド(図9において入射光の偏光方向が[001]方向と平行の場合に光を透過しない領域)100nmに対して、透過光の半値幅は約35nmと実施例1、実施例2の場合に比べて非常にブロードであり、フィネスF値も20と非常に小さい。以上より、実施例3は狭帯域偏光フィルターとして機能するが、実施例1、実施例2に比べると帯域が広く波長選択性は劣ることがわかる。しかし、構造が簡単で、また、広帯域偏光フィルターとして利用できる点で実施例1や実施例2と比較して有利であると考えられる。
【実施例4】
【0057】
次に、本発明に係る偏光フィルターの他の実施例として、形成される多層膜が対称構造を有するものについて説明する。多層膜が対称構造と有する場合は、偏光フィルターの面のどちらから光を照射しても光透過特性及び反射特性が同じになる。
【0058】
図12に、多層膜が対称構造である偏光フィルターの多層膜構造の断面の模式図を示す。
作製時のエッチング電流は、実施例1と同じ22mA及び70mAとし、エッチング時間を変えて、次の5種類の膜を作製している。
【0059】
A層:22mA,5.4sec, 膜厚 73nm
B層:22mA,4.9sec, 膜厚 66nm
C層:22mA,8.14sec,膜厚 110nm
D層:70mA,3.1sec, 膜厚 109nm
E層:70mA,2.79sec,膜厚 99nm
【0060】
A層-D層のペア(見かけ上のダイクロイックミラー)を20層、B層-E層のペア(見かけ上のダイクロイックミラー)を10層、C層を1層(これが欠陥層となる)、E層-B層のペア(見かけ上のダイクロイックミラー)を10層、D層-A層のペア(見かけ上のダイクロイックミラー)を20層、各々積層し(合計121層)、偏光フィルターを形成した。ここで、中心の41層は、見かけ上ダイクロイックマイクロキャビティーを形成している。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の狭帯域偏光フイルターは、シリコンのみで偏光フィルターを形成できるため、近赤外領域で透過率が非常に高い偏光フィルターが形成できる。また、材質がシリコンのみであり、光集積回路と集積化できる可能性が高い。本発明に係る偏光フイルターは、小型光学系に組み込むことができる偏光フィルターとして、産業上の利用可能性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1の偏光フィルターの多層膜構造を示す断面概念図
【図2】実施例1の偏光フィルターの作製における電流パターン(シーケンスプログラム)を示すグラフ図
【図3】実施例1の偏光フィルターの光の透過率を示すグラフ図
【図4】実施例1の偏光フィルターの光の透過率を示すグラフ図(縦軸対数)
【図5】実施例2の偏光フィルターの多層膜構造を示す断面概念図
【図6】実施例2の偏光フィルターの光の透過率を示すグラフ図
【図7】実施例2の偏光フィルターの動作原理を示すグラフ図
【図8】実施例2の偏光フィルターの光の偏光方向と透過率の関係を示すグラフ図
【図9】実施例3の偏光フィルターの多層膜構造を示す断面概念図
【図10】実施例3の偏光フィルターの光の透過率を示すグラフ図
【図11】実施例3の偏光フィルターの動作原理を示すグラフ図
【図12】実施例4の偏光フィルターの多層膜構造を示す断面概念図
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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