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明細書 :酵母の形質転換方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3682530号 (P3682530)
公開番号 特開2003-250542 (P2003-250542A)
登録日 平成17年6月3日(2005.6.3)
発行日 平成17年8月10日(2005.8.10)
公開日 平成15年9月9日(2003.9.9)
発明の名称または考案の名称 酵母の形質転換方法
国際特許分類 C12N 15/09      
C12N  1/19      
FI C12N 15/00 A
C12N 1/19
請求項の数または発明の数 5
全頁数 19
出願番号 特願2002-054965 (P2002-054965)
出願日 平成14年2月28日(2002.2.28)
審査請求日 平成14年2月28日(2002.2.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】村田 幸作
【氏名】橋本 渉
【氏名】河井 重幸
【氏名】葉山 善幸
【氏名】福田 泰樹
個別代理人の代理人 【識別番号】100058479、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦
【識別番号】100091351、【弁理士】、【氏名又は名称】河野 哲
【識別番号】100088683、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 誠
【識別番号】100108855、【弁理士】、【氏名又は名称】蔵田 昌俊
【識別番号】100075672、【弁理士】、【氏名又は名称】峰 隆司
【識別番号】100109830、【弁理士】、【氏名又は名称】福原 淑弘
【識別番号】100084618、【弁理士】、【氏名又は名称】村松 貞男
【識別番号】100092196、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 良郎
審査官 【審査官】阪野 誠司
参考文献・文献 特開2002-027989(JP,A)
Yamakawa et al.,Agric. Biol. Chem.,1985年,49,869-871
Klebe et al.,Gene,1983年,25,333-341
蛋白質 核酸 酵素,1983年,第28巻/第14号,1522-1539
Liu et al.,J. Clin. Invest.,1999年,104,577-588
Pereira & Oliveira,Free. Radic. Biol. Med.,1997年,23,637-647
Carpaneto et al.,FEBS Letter,1999年,442,129-132
Gietz & Woods,Biotechniques,2001年,30,816-831
Gietz et al.,Yeast,1995年,11,355-360
Ito et al.,J. Bacteriol.,1983年,153,163-168
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-1/38
PubMed
JICSTファイル(JOIS)
特許請求の範囲 【請求項1】
対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子、ポリエチレングリコール、および酸化型グルタチオンを含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする酵母の形質転換方法。
【請求項2】
前記維持後の溶液に、ヒートパルス処理もしくはpHジャンプ処理を行う工程を更に具備することを特徴とする請求項1に記載の酵母の形質転換方法。
【請求項3】
前記遺伝子が、環状プラスミドに組み込まれた形態であることを特徴とする請求項1または2に記載の酵母の形質転換方法。
【請求項4】
前記遺伝子が、線状化されたプラスミドに組み込まれた形態であることを特徴とする請求項1または2に記載の酵母の形質転換方法。
【請求項5】
対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子、ポリエチレングリコール、および酸化型グルタチオンを含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする形質転換酵母の調製方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、酵母に、遺伝子を簡便、高効率、且つ短時間に導入する新たな形質転換法に関する。本発明は、酵母が遺伝子を細胞内に取り込む能力(自然形質転換能)を有していることを新たに見出したことに基づくものである。なお、本発明は、バイオテクノロジーの根幹に関わる新技術を提示するものであり、そのため、バイオテクノロジー一般のみならず、微生物の遺伝学、生化学、生態学、進化学にも大きな影響を持つと考えられる。
【0002】
【従来の技術】
現在、バイオテクノロジーは、全ての生物の遺伝子を操作することを可能にしている。また、コンピューターサイエンスやバイオインフォーマティクス(生物情報学)は、多くの生物の全ゲノム構造の決定と遺伝子の機能解析を加速している。その結果、細胞を構成するタンパク質の機能、構造、並びにタンパク質間相互作用の網羅的解析を基軸とするプロテオミクスの格段の進歩が求められている。そのためには、正確な遺伝的背景とその制御が可能な大腸菌や枯草菌などの原核微生物、或いは酵母やカビなどの真核微生物での遺伝子発現によるタンパク質の構造・機能相関解析が不可欠であり、それを可能にする形質転換法(細胞に遺伝子を導入する方法論)の確立も極めて重要となる。
【0003】
酵母は、単細胞でありながら真核細胞のモデルとして生物学的に重要な位置にあり、多くの生物の遺伝子発現系として多用されている。サッカロミセス属酵母、就中サッカロミセス セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)は、清酒、パン、ビールなどの発酵食品の製造に重要であり、その諸性質の改良を目的とした分子育種が盛んに行われている。しかし、酵母細胞は極めて強固な細胞壁を有しているため、酵母への遺伝子導入は、原核細胞への遺伝子導入ほどには容易ではない。
【0004】
現在、酵母への遺伝子導入法として、(1)プロトプラスト法、(2)金属処理法、(3)エレクトロポレーションが知られている。以下、各方法とその問題について説明する。
【0005】
(1)プロトプラスト法
1978年に酵母の細胞壁を適当な細胞壁溶解酵素で除去して生成するプロトプラストに、ポリエチレングリコールとカルシウム存在下で遺伝子を導入する方法が開発された(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75: 1929 (1978))。このプロトプラスト法は、その後5年間に渉って酵母の形質転換に多用されてきたが、本法は多くの問題点を有していた。特に、裸の細胞であるプロトプラストが不安定で取扱操作が容易でないこと、形質転換頻度が低いこと、プロトプラスト融合などで目的以外の細胞が生成すること、またプロトプラストの再生のために寒天培地中に埋め込む操作が煩雑で、且つその再生に多大な時間を要することが大きな欠点であった。
【0006】
(2)金属処理法
1983年には、プロトプラスト法に代わる新たな方法が開発された(J. Bacteriol., 153: 163 (1983))。これは、酵母細胞をリチウム、セシウム、ルビジウムなどのアルカリ一価カチオンで処理することによって、酵母細胞にコンピテント能(遺伝子取り込み能力)を賦与し、ポリエチレングリコール存在下で酵母細胞に遺伝子を取り込ませる方法である(以下、アルカリ一価カチオン処理法ともいう)。これにより、酵母細胞の形質転換は大腸菌並に簡便化された。つまり、プロトプラストの調製と再生に必要な、煩雑で時間の掛かる操作が省かれ、上記の諸問題が改善された。また、アルカリ一価カチオンで処理する代わりに2-メルカプトエタノールのようなスルフヒドリル基(SH基)含有化合物で処理する変法も開発された(Agric. Biol, Chem., 48: 341 (1984))。
【0007】
これらの化学物質処理細胞、就中、リチウム処理細胞を用いる形質転換法は、プロトプラスト法に付随していた多くの問題点を一挙に解決したものであり、現在、世界中で酵母の研究に採用されている、しかし、これらの化学物質処理細胞を用いる形質転換法も解決すべき問題点を有している。それは、高い形質転換頻度を得るために、大半の酵母細胞が死滅するほどの過度なアルカリ一価カチオン処理が要求されること、並びに操作回数が多く、形質転換操作に長時間を要することなどである。
【0008】
(3)エレクトロポレーション
プロトプラスト法やアルカリ一価カチオン処理法以外に、プロトプラストに遺伝子を導入するエレクトロポレーション法(Nature, 319: 791 (1986))やエレクトロインジェクション法(Virology, 52: 456 (1973))なども考案されたが、低い形質転換頻度や操作性、装置の問題など解決すべき問題点を有している。
【0009】
一方、ある種の細菌は、化学的・物理的処理をすることなく、DNA(遺伝子)を細胞内に取り込む能力を有する(この現象を自然形質転換という)。この自然形質転換は、Bacillus subtilis, Haemophilus influenzae, Acinetobacter calcoaceticus, Pseudomonas stutzeriなど数種の限られた細菌で確認されている。その現象論、生態学的、進化学的側面については、分子生物学の手段で解析され、DNA取り込み機構に関しても基本的なモデルが提出されている。自然形質転換は、自然界において細胞がDNA取り込み能を獲得(コンピテント化)し、自らの形質を転換させる現象を指す。すなわち、自然形質転換は、カルシウム処理による大腸菌のDNA取り込み能の付与(J. Mol. Biol., 166: 557-580 (1983); Molecular cloning: a laboratory manual, 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.(1989))やアルカリ一価カチオン処理による酵母のDNA取り込み能の付与など、人為的なコンピテント化とは基本的に異なり、細胞増殖過程の特定時期(主に、対数増殖期)に自らその能力を発現する極めて生理的な現象である。自然形質転換は、DNAの垂直・水平伝達を許容し、微生物進化の原動力になってきたと考えられる。実際、土壌中には相当量の裸のDNAが存在することが確認されており、それらが自然形質転換に利用されている可能性がある。
【0010】
しかし、この自然形質転換は細菌において確認されている現象であり、真核微生物である酵母においては全く知られていなかった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
バイオテクノロジーの研究を加速するためには、更に簡便で、時間を要さず、且つ高効率の形質転換法の開発が求められている。このような現状に鑑み、本発明は、従来の形質転換手法に代わり得る斬新な形質転換法を開発し、もってバイオテクノロジーの発展を期すことを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、酵母における自然形質転換の存在を明らかにし、それを新規な酵母の形質転換技術として確立したものである。
【0013】
すなわち、本発明は、以下に記載の手段により達成される。
【0014】
(1)対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子およびポリエチレングリコールを含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする酵母の形質転換方法。
(2)対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子およびグルタチオンを含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする酵母の形質転換方法。
(3)対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子および酵母細胞成分を含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする酵母の形質転換方法。
(4)対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子、ポリエチレングリコール、およびグルタチオンを含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする酵母の形質転換方法。
(5)対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子、ポリエチレングリコール、および酸化型グルタチオンを含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする酵母の形質転換方法。
(6)前記維持後の溶液に、ヒートパルス処理もしくはpHジャンプ処理を行う工程を更に具備することを特徴とする(1)~(5)の何れか1に記載の酵母の形質転換方法。
(7)前記遺伝子が、任意のサイズと複製開始点を有し、かつ環状、線状、右巻きであることを特徴とする(1)~(6)の何れか1に記載の酵母の形質転換方法。
(8)対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子およびポリエチレングリコールを含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする形質転換酵母の調製方法。
(9)対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子およびグルタチオンを含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする形質転換酵母の調製方法。
(10)対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子および酵母細胞成分を含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする形質転換酵母の調製方法。
(11)対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子、ポリエチレングリコール、およびグルタチオンを含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする形質転換酵母の調製方法。
(12)対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子、ポリエチレングリコール、および酸化型グルタチオンを含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする形質転換酵母の調製方法。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の酵母の形質転換方法について説明する。なお、以下の記載は、本発明を説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。
【0016】
本発明の酵母の形質転換方法は、対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子およびポリエチレングリコールを含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする。また、本発明の酵母の形質転換方法は、対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子およびグルタチオンを含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする。更に、本発明の酵母の形質転換方法は、対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子および酵母細胞成分を含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする。
【0017】
本発明で使用されるポリエチレングリコール、グルタチオン、および酵母細胞成分は、それぞれ、酵母細胞にコンピテンス(即ち、外来のDNAを摂取し得る能力)を誘導する物質であり得る。よって、以下の説明において、ポリエチレングリコール、グルタチオン、および酵母細胞成分を総称して「コンピテンス誘導物質」ともいう。
【0018】
<酵母について>
本発明に用いる酵母細胞は、酵母と称されるものの細胞であれば特に限定されず、出芽酵母、分裂酵母の何れのものでもよい。代表的な酵母としては、サッカロミセス科(Saccharomycetaceae)、シゾサッカロミセス科(Schizosaccharomycetaceae)に属するものが挙げられる。より具体的には、真核生物のモデル生物として汎用されている、出芽酵母の一種であるサッカロミセス・セレビッシエ(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母の一種であるシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)が挙げられる。
【0019】
酵母細胞は、新しい栄養培地に移植されると、図1に示すいわゆる「増殖曲線」に従って増殖する。すなわち、酵母細胞は、移植後しばらくは増殖せずに潜伏期にあり、その後対数増殖期に入って指数関数的に増殖し、細胞密度がある限界値を超えて高くなると定常期に入る。
【0020】
本発明の方法において酵母細胞は、対数増殖期にあるものを用いる。対数増殖期にない酵母細胞では、遺伝子導入が起こらないことは後述の実施例1で実証されている。また、対数増殖期を、図1に示すとおり順に、初期、中期、後期に分けた場合、中期にある酵母細胞が好ましく、初期から中期にある酵母細胞がより好ましい(実施例1参照)。
【0021】
対数増殖期にある酵母細胞は、以下のように調製することができる。すなわち、酵母細胞を新しい栄養培地に移植して培養し、所定の時間経過した後に細胞を集めることにより調製することができる。ここで所定の時間は、対数増殖期にある酵母細胞を集めることができるまでの時間を指すが、この時間は培養条件等によっても変化するため、予め培養時間と酵母細胞数との関係を調べて増殖曲線を作成し、酵母細胞が対数増殖期にある培養時間を把握しておくことが望ましい。例えば、後述の実施例1においては、培養を開始してから3~5時間経過後に、酵母細胞は対数増殖期にあった。
【0022】
<酵母細胞に導入する遺伝子について>
本発明において、酵母細胞に導入する遺伝子は、一般に酵母を形質転換する際に用いられる、任意のサイズの遺伝子であり得る。すなわち、酵母細胞に導入する遺伝子は、酵母の形質転換に利用される既知のプラスミドに、所望の遺伝子を組み込んだものであり得る。酵母の形質転換に利用される既知のプラスミドとしては、例えば、YEpと略される酵母エピソーム様プラスミド(yeast episomal plasmid)、YRpと略される酵母自己複製型プラスミド(yeast replicating plasmid)などが挙げられる。
【0023】
酵母細胞に導入する遺伝子は、後述の実施例8で実証されるとおり、環状、線状の何れであってもよい。また、酵母細胞に導入する遺伝子は、酵母細胞内で該遺伝子の複製を可能にする複製開始点を有していることが好ましい。また、後述の実施例11で実証されるとおり、酵母細胞に導入する遺伝子は右巻きであることが好ましい。
【0024】
なお、酵母細胞に導入する遺伝子は、該遺伝子が導入された形質転換体を後の操作で選別するために、既知のマーカー遺伝子を含んでいてもよい。
【0025】
<コンピテンス誘導物質について>
本発明において、コンピテンス誘導物質として、ポリエチレングリコール、グルタチオン、および酵母細胞成分の何れかを使用することができる。このことは、後述の実施例7で実証されている。
【0026】
ポリエチレングリコールを使用する場合、平均分子量500(PEG500)~6000(PEG6000)、好ましくは1000(PEG1000)~4000(PEG4000)のものを用いることができる(実施例6、図7参照)。
【0027】
グルタチオンを使用する場合、酸化型、還元型の何れもコンピテンス誘導効果を奏するが、酸化型グルタチオンの方が形質転換効率が高いためより好ましい(実施例7、表3参照)。
【0028】
酵母細胞成分を使用する場合、酵母細胞の成分が含有されているものであれば特に限定されないが、例えば、酵母細胞を加熱処理したものを使用することができる(実施例7参照)。酵母細胞成分のうちどの成分がコンピテンス誘導効果を有しているかは不明であるが、酵母細胞成分もコンピテンス誘導物質として有用である。この有効成分は、熱に安定であることが推測される。
【0029】
なお、コンピテンス誘導効果を奏する限り、ポリエチレングリコール、グルタチオン、酵母細胞成分を併用してもよい(実施例7、表4参照)。特に、ポリエチレングリコールとグルタチオンを併用するとコンピテンス誘導効果は顕著になり、ポリエチレングリコールと酸化型グルタチオンを併用すると更にコンピテンス誘導効果は顕著になる。また、2種類以上のポリエチレングリコールを併用すること、酸化型、還元型のグルタチオンを混合して用いること、2種類以上の酵母に由来する酵母細胞成分を用いることも、コンピテンス誘導効果を発揮する限り本発明において有効である。
【0030】
<形質転換反応について>
本発明による酵母の形質転換は、酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子とコンピテンス誘導物質を含有する溶液中で維持することにより行われる。
【0031】
まず、▲1▼酵母細胞、▲2▼導入する遺伝子、▲3▼コンピテンス誘導物質を含有させる溶液は、特に限定されない。任意の緩衝液を使用することができるが、例えば、TE緩衝液(EDTAを含むトリス緩衝液)、リン酸緩衝液、HEPES(ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルフォン酸)緩衝液を使用することができる。該溶液は、pH4~9のものを使用することができ、pH5~7のものが好ましく、pH6付近のものがより好ましい(実施例3、図4参照)。
【0032】
上述の溶液に、▲1▼酵母細胞、▲2▼導入する遺伝子、▲3▼コンピテンス誘導物質を、それぞれ適切な濃度で含有させる。高い頻度の形質転換を可能にするためには、▲1▼~▲3▼の適切な濃度を予め実験により設定しておくことが望ましい。
【0033】
本発明においても▲1▼~▲3▼の適切な濃度について、それぞれ、実施例4~6で調べた。その結果は以下に記載のとおりであるが、本発明で用いる▲1▼~▲3▼の各濃度が、実施例で得られた各濃度に限定されないことはいうまでもない。
【0034】
例えば、▲1▼酵母細胞は、形質転換時の溶液1mLあたり、細胞数105~108に設定することができる。ただし、本発明では酵母細胞の数は多いほど好ましいという結果が得られている(実施例4、図5参照)。▲2▼導入する遺伝子は、形質転換時の溶液1mLあたり、遺伝子(プラスミド)重量、例えば3~100μg、好ましくは30~50μgに設定することができる(実施例5、図6参照)。▲3▼コンピテンス誘導物質は、ポリエチレングリコールの場合、形質転換時の溶液中に例えば30~50重量%、好ましくは35重量%の濃度で含有させることができる(実施例6、図7参照)。グルタチオンの場合、還元型と酸化型を問わず、形質転換時の溶液中に例えば5~30mMの濃度で含有させることができ、酵母細胞成分の場合、形質転換時の溶液1mLあたり、酵母細胞数、例えば107~1010から得られる成分を含有させることができる。なお、数種類のコンピテンス誘導物質を併用する場合においても、それぞれ上記濃度を適用することができる。
【0035】
形質転換の反応時間は、例えば5~120分の間で適宜設定できる。後述の実施例2で実証されるとおり、時間が長いほど好ましいが、本発明の形質転換法は、非常に短時間の反応である点で優れている(表2参照)。形質転換の反応温度は、例えば20~40℃、好ましくは30℃で行うことができる。
【0036】
形質転換反応の反応液を調製する際、▲1▼酵母細胞、▲2▼導入する遺伝子、▲3▼コンピテンス誘導物質は、順次、速やかに溶液に添加して形質転換反応を開始させることが好ましい。というのは、コンピテンス誘導物質としてポリエチレングリコールを使用した場合に、導入する遺伝子とコンピテンス誘導物質を予め混合し、その後しばらくして酵母細胞を加えると、形質転換反応が抑制されてしまうからである(後述の実施例10参照)。このように形質転換反応が抑制される場合を除いて、本発明で反応液の調製の仕方が制限されることはないが、形質転換反応が抑制される場合があるので注意すべきである。
【0037】
酵母細胞を、導入する遺伝子とコンピテンス誘導物質を含有する溶液中で維持する操作は、具体的には、該反応液を調製後、充分に混合して静置しておけばよい。なお、形質転換反応の途中で、該溶液を適宜攪拌しても差し支えない。
【0038】
このように、酵母細胞を、導入する遺伝子とコンピテンス誘導物質を含有する溶液中で維持することにより、形質転換(自然形質転換)が起こる。形質転換体の選別は、選択培地を利用した公知の手法により行うことができる。
【0039】
<ヒートパルス処理、pHジャンプ処理について>
上述のとおり形質転換反応を行った後、更に形質転換の効率を高めるために、ヒートパルス処理もしくはpHジャンプ処理を行うことが好ましい。ヒートパルス処理もしくはpHジャンプ処理は、該処理を行わなかった場合よりも、形質転換体数を著しく増大させる(実施例2、表2参照)。
【0040】
ヒートパルス処理とは、形質転換反応を行った反応液を、形質転換反応時の温度より高い温度に晒す処理をいう。ただし、酵母細胞を死滅させる程の高い温度は避けるべきである。より具体的には、形質転換反応時の温度が30℃であった場合、反応液を、40~45℃の温水に2~5分浸す処理であり得る。なお、本発明においてヒートパルス処理がこのような具体的な処理の記載に限定されないことはいうまでもない。
【0041】
pHジャンプ処理とは、形質転換反応を行った反応液を、形質転換反応時のpHより高いpHもしくは低いpHに変える処理をいう。より具体的には、形質転換反応時のpHが7.0であった場合、反応液を、酸性溶液の添加により例えばpH4~5に変化させる処理であり得る。あるいは逆に、形質転換反応時のpHが7.0であった場合、反応液を、アルカリ性溶液の添加により例えばpH9~10に変化させる処理であり得る。なお、本発明においてpHジャンプ処理がこのような具体的な処理の記載に限定されないことはいうまでもない。
【0042】
また、ヒートパルス処理およびpHジャンプ処理は、形質転換の効率を高め得る限り、2種類の処理を併用してもよい。
【0043】
<本発明の別の側面>
別の側面によれば、本発明は、対数増殖期の酵母細胞を、該酵母細胞に導入する遺伝子およびコンピテンス誘導物質を含有する溶液中で維持する工程を具備することを特徴とする形質転換酵母の調製方法に関する。ここで、コンピテンス誘導物質は、上述のとおり、ポリエチレングリコール、グルタチオン、酵母細胞成分、その任意の組み合わせであり得る。なお、形質転換酵母の調製方法の詳細は、上述の形質転換方法の詳細を参照されたい。
【0044】
<本発明の特徴および従来法との比較>
本発明は、以下の発見に基づくものである。すなわち、本発明者らは、出芽酵母Saccharomyces cerevisiae DKD-5D-H(MATa leu2-3 leu2-112 trp1 his3)を栄養培地(YPD:5.0% グルコース、1.0% 酵母エキス(DIFCOラボラトリー、デトロイト、ミシガン)、1.5%バクトペプトン(DIFCOラボラトリー、デトロイト、ミシガン)、pH5.0)で増殖させると、対数増殖期の細胞にポリエチレングリコール(市販品として容易に入手できる)存在下でDNA(プラスミド ベクター:YEp13)を取り込む鋭い能力が発現することを発見した(図2)。この能力は、対数増殖期の極めて初期に出現し、対数増殖期中期に最大に達した後、対数増殖期後期に速やかに、且つ完全に消失する。
【0045】
本発明の方法による酵母の形質転換は、従来のプロトプラスト法は元より、形質転換能が全生育相の細胞に賦与されるアルカリ一価カチオン処理法とは明らかに区別される形質転換現象である。コンピテンス(DNA取り込み能力)の出現パターンとDNA取り込み頻度(形質転換率)は、細菌の自然形質転換率(10-5~10-7)を上回り、また形質転換株にはプラスミドの存在が確認される(図3)ため、自然突然(復帰)変異(自然突然変異率は、一般的に10-8程度以下)とは異なる。
【0046】
本発明の方法による酵母の形質転換は、生育相(対数増殖期)に厳密に依存するが、栄養条件(最少培地、栄養培地、炭素源、窒素源など)や培養の物理化学条件(通気量、pH、温度など)に左右されない。対数増殖期の酵母細胞を用いた場合、5~30分以内の極めて短時間に形質転換を終了することができる。
【0047】
以上の特異な諸性質は、観察された形質転換が自然形質転換現象によることを強く示唆している。つまり、自然形質転換現象を応用した本発明の酵母の形質転換法は、任意の培地で対数増殖している酵母細胞を、プラスミドDNA(遺伝子)を含むポリエチレングリコール溶液に懸濁し、適切な温度・pHの条件下で、適当な時間保つのみであり、従来のプロトプラスト法やアルカリ一価カチオン処理法に付随していた全ての諸問題を解決したものである。
【0048】
特に、形質転換反応溶液に酸化型グルタチオンを添加することにより、酵母の形質転換頻度を大腸菌並みに増大させることが可能であり、これにより、極めて単純、短時間、かつ高効率の形質転換を可能にした画期的な方法を確立したものである。
【0049】
また、殆どの出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの対数増殖期の細胞には自然形質転換能が発現しており、サイズ(サイズにより形質転換頻度は異なる)と複製開始領域の性質(ars、2ミクロンDNA)を異にする全てのプラスミドベクターが取り込まれ得る(表6)。このような事実に基づき、酵母の自然形質転換現象を、新規な形質転換法として確立するに至った。
【0050】
ここで、従来の人為的形質転換法(プロトプラスト法とアルカリ一価カチオン処理法)の特徴を、本発明の自然形質転換法の特徴と比較し、以下にまとめた。
【0051】
【表1】
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【0052】
プロトプラスト法の場合は、プロトプラスト調製の煩雑さ、再生のための寒天プレート内部への埋没処理、プロトプラストの破裂による死滅、再生のために長い時間を要すること、形質転換率の低さなど多くの問題がみられる。アルカリ一価カチオン処理法は、細胞の死滅率が高いという重大な欠点を有する。
【0053】
一方、本発明の自然形質転換による形質転換法は、表1に示すとおり、操作容易性、生菌状態、及び形質転換時間において、延いては生化学的・遺伝的解析対象としても、明らかに従来法に優る有意性を示している。
【0054】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0055】
(実施例1)生育相の効果
酵母サッカロミセス セレヴィシエ DKD-5D-HをYPD栄養培地に増殖させ、自然形質転換能を検討した。
【0056】
酵母サッカロミセス セレヴィシエ(S.cerevisiae)DKD-5D-H(MATa leu2-3 leu2-112 trpl his3)(J. Bacteriol., 153: 163(1983))を、栄養培地(YPD:5.0%グルコース、0.5%酵母エキス、0.5%バクトペプトン、pH5.0)に接種し、30℃で12時間振とう培養する(通気量は、形質転換に影響しない)。培地の濁度(600nmでの吸収度)が5~8に達した時、その一部を新鮮YPD培地に移し、大凡3~5×106細胞数/mlとする。上記条件で本培養を続け、経時的に培養液の一部を抜き取り、軽く室温で集菌した後、細胞数が2×108/mlとなるようTE緩衝液[5mM トリス(pH7.0)/0.1mM エチレンジアミンテトラアセテート]に懸濁する。この懸濁液50μlに10μlのDNA(プラスミド YEp13)溶液(1mg/ml)と150μlのポリエチレングリコール4000(PEG4000、平均分子量4,000)溶液を添加し、充分撹拌後、30℃で60分間保つ(形質転換終了)。
【0057】
この後、800μlのTE緩衝液を添加して軽く遠心し、上澄を捨てる。沈澱した細胞を適当量の0.85%生理的食塩水に懸濁し、形質転換体選択(1.5%寒天プレート)培地(SD最少培地:5.0%グルコース、0.5%イーストナイトロジェンベース(DIFCOラボラトリー、デトロイト、ミシガン)、10μg/ml L-トリプトファン、10μg/ml L-ヒスチジン、pH5.0)に塗布し、30℃で3~4日間保つ。出現したコロニーを計数し、形質転換体数とした。
【0058】
結果を図2に示す。図2のグラフにおいて、横軸は本培養を続けた時間を表し、-○-は、酵母細胞の生育(600nmでの吸収)を示し、-□-は、LiClを用いた人為的形質転換を行った場合の形質転換体数を、-●-は、自然形質転換(本発明)を行った場合の形質転換体数を示す。図2に示すとおり、本発明の方法による形質転換は、対数増殖期の細胞に特異的な現象であり、定常期以降の細胞にはコンピテンス能は認められなかった。
【0059】
尚、形質転換に用いるDNA(YEp13)は、本プラスミドを保持した大腸菌からManiatisらの方法[Molecular cloning: a laboratory manual, 2nd edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)]によって、容易に調製することができる。また、DNA、酵母細胞、ポリエチレングリコールは、TE緩衝液(pH7.0)で調製する。
【0060】
図2の自然形質転換で得られた転換株からDNAを抽出し、大腸菌エッシェリヒア コリーDH5αを形質転換する。この大腸菌形質転換株からDNAを抽出し、アガロースゲル電気泳動で解析した。その結果を図3に示す。図3の結果より、大腸菌形質転換株にプラスミドの存在が確認され、このことは、自然形質転換で得られた転換株に、プラスミドが取り込まれていることを示す。
【0061】
図3において各レーンは、以下のとおりである。
レーン1 : 分子量既知DNAマーカー
レーン2 : 宿主大腸菌のDNA抽出液
レーン3 : YEp13 DNA
レーン4 : 酵母形質転換株のDNAで形質転換した大腸菌のDNA抽出液
レーン5 : レーン2のEcoRI処理DNA
レーン6 : レーン3のEcoRI処理DNA
レーン7 : レーン4のEcoRI処理DNA
レーン8 : レーン2のPstI処理DNA
レーン9 : レーン3のPstI処理DNA
レーン10: レーン4のPstI処理DNA
レーン11: 分子量既知DNAマーカー(レーン1に同じ)
【0062】
(実施例2)
▲1▼ 形質転換時間の効果
実施例1において、5時間本培養して得られる対数増殖期中期の酵母細胞を用いて、実施例1と同じ条件下で、形質転換時間のみを変えて形質転換を行った。形質転換は、各成分を混合した直後から認められる極めて早い反応であり、120分間に渉って増大した(表2)。
【0063】
【表2】
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【0064】
▲2▼ ヒートパルスの効果
実施例2-▲1▼において、30分間形質転換反応を行った直後に容器(エッペンドルフーチューブ)を42℃の温水に2分間浸した(ヒートパルス処理)。形質転換頻度は、顕著に増大した(表2)。
【0065】
▲3▼ pHジャンプの効果
実施例2-▲1▼において、30分間形質転換反応を行った直後に10μlの1Mトリス溶液、又は70μlの1M酢酸緩衝液(pH4.0)を添加し、反応液のpHを瞬間的にpH9及びpH4に変化させた(pHジャンプ処理)。形質転換頻度は、顕著に増大した(表2)。
【0066】
(実施例3)pHの効果
実施例1において、5時間本培養して得られる対数増殖期中期の酵母細胞を用いて、実施例1と同じ条件下、形質転換溶液のpHのみを変えて形質転換を行った。この場合、細胞、DNA、ポリエチレングリコールは、10mM トリス/マレイン酸緩衝液で調製した。形質転換は、pH6付近で最適であった(図4)。
【0067】
(実施例4)細胞数の効果
実施例1において、5時間本培養して得られる対数増殖期中期の酵母細胞を用いて、実施例1と同じ条件下、形質転換時の細胞数のみを変えて形質転換を行った。形質転換頻度は、細胞数が多いほど増大した(図5)。なお、図5において横軸は、形質転換反応液1mLあたりの細胞数を示している。
【0068】
(実施例5)DNAの量
実施例1において、5時間本培養して得られる対数増殖期中期の酵母細胞を用いて、実施例1と同じ条件下、形質転換時のDNA(プラスミド YEp13)量のみを変えて形質転換を行った。形質転換頻度は、0~30μgまではYEp13の量に比例して増大した(図6)。なお、図6において横軸は、形質転換反応液1mLあたりのDNA量を示している。
【0069】
(実施例6)ポリエチレングリコールの効果
実施例1において、5時間本培養して得られる対数増殖期中期の酵母細胞を用いて、実施例1と同じ条件下、ポリエチレングリコールの種類(平均分子量)と濃度のみを変えて形質転換を行った。平均分子量1,000(PEG1000)~4,000(PEG4000)のポリエチレングリコールを用いることによって、高い形質転換頻度が得られた。ポリエチレングリコールの最適濃度は、PEG1000、PEG4000とも35%程度であった(図7)。
【0070】
(実施例7)コンピテンス誘導物質の効果
酵母サッカロミセス セレヴィシエ(S.cerevisiae)DKD-5D-H(MATa leu2-3 leu2-112 trp1 his3)を、実施例1と同様に栄養培地(YPD)で20時間培養する。集菌後、0.85%生理的食塩水で2回洗浄し、細胞数を2×108/mlになるようTE緩衝液に懸濁する。この懸濁液を100℃で5分間加熱処理し、その150μlをポリエチレングリコールの代わりに用い、実施例1と同様に形質転換を行う。ポリエチレングリコールに較べて形質転換頻度は低下したが、本発明における酵母細胞のコンピテンス誘導が、グルタチオン、生物由来物質によっても可能なことを示した。プロトプラスト法で用いられる塩化カルシウムやアルカリ一価カチオン処理法で用いられる酢酸リチウム、塩化リチウム、塩化セシウムなどにはコンピテンス誘導効果は認められなかった(表3)。
【0071】
【表3】
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【0072】
さらに、コンピテンス誘導物質の併用効果について調べた。すなわち、実施例1と同様に酵母サッカロミセス セレヴィシエ(S.cerevisiae)YNN27(MATa trp1 ura3 gal2)を15時間培養して得られる対数増殖期中期の細胞を用いて、実施例1と同じ条件下、コンピテンス誘導物質の種類と濃度のみを変えて形質転換を行った。その結果、ポリエチレングリコールとグルタチオン、特にポリエチレングリコールと酸化型グルタチオンを併用することによって極めて高い形質転換頻度を得ることができた(表4)。これも、本発明の大きな特徴である。
【0073】
【表4】
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【0074】
(実施例8)線状プラスミド
環状プラスミドYEp13を制限酵素BamHI或いはPvuIIを用いて線状化し、実施例1に記載した対数増殖期(5時間培養)の細胞を用いて60分間形質転換を行った。線状化したYEp13も環状YEp13と同様の頻度で取り込まれた(表5)。
【0075】
【表5】
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【0076】
(実施例9)酵母とプラスミドの種類
多種類の酵母サッカロミセス セレヴィシエ(S.cerevisiae)を実施例1と同様に培養した後、その対数増殖期(本培養5時間)の細胞を用いて種々のプラスミド(公知)の取り込みを調べた。その結果、酵母の種類、プラスミドの種類に関わらず形質転換が可能であった(表6)。
【0077】
【表6】
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【0078】
(実施例10)添加順序の効果
実施例1において、DNA、細胞、ポリエチレングリコールの添加順序を次のように設定し、形質転換への影響を調べた。その結果を図8に示す。図8において、-□-は、▲1▼DNAとポリエチレングリコールを指定時間インキュベートした後、細胞を加え、その直後に形質転換率を調べた場合を示す。-○-は、DNAと細胞を指定時間インキュベートした後、ポリエチレングリコールを加え、その直後に形質転換率を調べた場合を示す。-●-は、DNA、細胞、ポリエチレングリコールを同時に加えて、指定時間インキュベートし、形質転換率を調べた場合を示す。
【0079】
同時に添加した場合に最大の形質転換頻度が得られ、DNAとポリエチレングリコールを先に接触させた場合には形質転換は完全に抑制された(図8)。
【0080】
(実施例11)DNAの構造
実施例10において、DNAとポリエチレングリコールを接触させた後に細胞を加えた場合には形質転換は完全に抑制された(図8)。そこで、DNA(10μg/ml)とポリエチレングリコール(PEG4000、35%)をインキュベートし、円偏光二色性(CD)の変化を調べた。円偏光二色性スペクトルの解析結果を図9に示す。図9において、各線は以下のとおりである。
DNA : DNA(YEp13)のみ
PEG : PEG4000のみ
DNA+PEG(92分): DNA(YEp13)とPEG4000を混合し、92分インキュベート
DNA+PEG(110分): DNA(YEp13)とPEG4000を混合し、110分インキュベート
【0081】
PEG4000存在下でDNAの偏光性が完全に逆転した。このことは、DNAが右巻構造から左巻構造に(一部)変化したことを示す。図8の結果を合わすと、酵母の自然形質転換では、DNAは右巻構造を取っていることが必要である。従って、自然形質転換においては、左巻DNAは細胞に取り込まれず、自然に存在する右巻DNAのみが形質転換に利用される(図9)。
【0082】
【発明の効果】
以上説明したとおり、本発明の酵母の形質転換方法は、従来の人為的形質転換法と比べて、操作が簡便であり、形質転換に要する時間が短く、且つ高い形質転換率を有し、形質転換細胞が全て生きている点において優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の酵母の形質転換方法の概略を示す図。
【図2】 培養時間とコンピテンス誘導効果との関係を示すグラフ。
【図3】 形質転換が起こったことを示す電気泳動写真。
【図4】 反応液のpHと自然形質転換の頻度との関係を示すグラフ。
【図5】 酵母の細胞数と自然形質転換の頻度との関係を示すグラフ。
【図6】 DNA(YEp13)量と自然形質転換の頻度との関係を示すグラフ。
【図7】 ポリエチレングリコールの平均分子量と自然形質転換の頻度との関係を示すグラフ、およびポリエチレングリコール濃度と自然形質転換の頻度との関係を示すグラフ(挿入図)。
【図8】 形質転換液を調製する条件と形質転換頻度との関係を示すグラフ。
【図9】 円偏光二色性スペクトルの解析結果を示す図。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8