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明細書 :キトサン誘導体とキトサン高分子界面活性剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4394483号 (P4394483)
公開番号 特開2005-213494 (P2005-213494A)
登録日 平成21年10月23日(2009.10.23)
発行日 平成22年1月6日(2010.1.6)
公開日 平成17年8月11日(2005.8.11)
発明の名称または考案の名称 キトサン誘導体とキトサン高分子界面活性剤
国際特許分類 C08B  37/08        (2006.01)
B01F  17/32        (2006.01)
A61K   8/73        (2006.01)
FI C08B 37/08 A
B01F 17/32
A61K 8/73
請求項の数または発明の数 9
全頁数 9
出願番号 特願2004-056846 (P2004-056846)
出願日 平成16年1月31日(2004.1.31)
審査請求日 平成17年12月15日(2005.12.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】吉岡 寿
【氏名】酒井 康雄
【氏名】伊藤 智博
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】福井 悟
参考文献・文献 特開昭61-253065(JP,A)
特開2000-143704(JP,A)
J.Jpn.Oil.Chem.Soc.,1998年,47,3,239(7)-246(14)
調査した分野 C08B 1/00-37/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
長鎖脂肪酸もしくはその無水物により部分アシル化されたキトサンにおいて、アミノ基の少くとも一部が多価脂肪酸またはその無水物によりアシル化されていることを特徴とするキトサン高分子界面活性剤
【請求項2】
アミノ基の15%以上が多価脂肪酸またはその無水物によりアシル化されていることを特徴とする請求項1のキトサン高分子界面活性剤
【請求項3】
多価脂肪酸またはその無水物が生分解性もしくは自然環境での分解性を有している脂肪酸またはその無水物であることを特徴とする請求項1または2のキトサン高分子界面活性剤
【請求項4】
多価脂肪酸またはその無水物が二価脂肪酸またはその無水物であることを特徴とする請求項1から3のいずれかのキトサン高分子界面活性剤
【請求項5】
二価脂肪酸またはその無水物がコハク酸または無水コハク酸であることを特徴とする請求項4のキトサン高分子界面活性剤
【請求項6】
長鎖脂肪酸もしくはその無水物が炭素数7~20の脂肪酸であることを特徴とする請求項1から5のいずれかのキトサン高分子界面活性剤
【請求項7】
長鎖脂肪酸もしくはその無水物によるアシル基の導入率が1~30%であることを特徴とする請求項1から6のいずれかのキトサン高分子界面活性剤
【請求項8】
請求項1から7のいずれかのキトサン高分子界面活性剤の製造方法であって、キトサンのアミノ基の対イオンをもっての塩を長鎖脂肪酸もしくはその無水物により部分アシル化反応させ、次いで多価脂肪酸またはその無水物を反応させることを特徴とするキトサン高分子界面活性剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかのキトサン高分子界面活性剤とこれに低分子の界面活性剤が併用されることを特徴とするキトサン高分子界面剤組成物。
発明の詳細な説明 【背景技術】
【0001】
カニやエビの殻から取れるキトサンは、抗菌性や免疫賦活作用などの色々な薬理的な効果を示すため、最近その応用研究が盛んに行われている。一方、界面活性剤は薬品、化粧品、食品などの多様な分野においてきわめて重要な基礎材料であることが知られているが、多くのものは毒性を示したり、皮膚への刺激性があったりしてその使用が制限されるのが現状である。このような界面活性剤の問題点は、その大半が石油系の合成低分子界面活性剤であることから、人体及び環境中において非分解性で、かつ長期間に渡り残存するという点で是非とも解消されなければならない課題となっている。しかし現状では、これらに代わる新たな界面活性剤がほとんど実現されていないため、利便性や価格等を重視した従来どおりの製品作りが進められている。そこで、この出願の発明者らは、このような問題点は、界面活性剤を高分子化することによって避けられると考え、これまですでに天然高分子であるキトサンを原料とした界面活性剤を創案した(特許文献1-3)。
【0002】
発明者らが創案したこれらのキトサン界面活性剤においては、たとえば、キトサンを部分的(10%程度)に長鎖脂肪酸でアシル化し、フリーのアミノ基の対イオンとして、ピロリドンカルボン酸または乳酸を使用し、高級アシル化キトサン塩としたもの(特許文献2)では、水溶性で、油(スクアラン)と水の混合系において大きな乳化能を示し、化粧品に対して要求される各種の安全試験に合格したものが実現されており、これらについては、その他にもMRSAなどに対する抗菌性、環境中での生分解性などが確認されている。

【特許文献1】特許第3204620号公報 特開2000-212203号公報 特開2001-64149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、発明者の創案した上記のキトサン界面活性剤、つまり部分的にアシル化したキトサン(P-Cu-キトサン)の場合には、その優れた性質、機能は顕著であるものの、基本的にはカチオン性の界面活性剤であり、解離基としては弱塩基性のアミノ基が働くために、溶液のpHを中性からアルカリ性に変えると沈殿してしまうという制約があり、この点が、さらに改善すべき課題として残されていた。
【0004】
そこで、この出願の発明は、以上のような背景から、カチオン性である部分アシル化キトサン:P-Cu-キトサンの電荷を調製し、両性、あるいはアニオン性に変えることにより、中性あるいはアルカリ性の環境においても使用可能な、新しいキトサン高分子界面活性剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、長鎖脂肪酸もしくはその無水物により部分アシル化されたキトサンにおいて、アミノ基の少くとも一部が多価脂肪酸またはその無水物によりアシル化されていることを特徴とするキトサン高分子界面活性剤を提供する。
【0006】
そして、この出願の発明は、第2には、アミノ基の15%以上が多価脂肪酸またはその無水物によりアシル化されていることを特徴とする上記のキトサン高分子界面活性剤を、第3には、多価脂肪酸またはその無水物が生分解性もしくは自然環境での分解性を有している脂肪酸またはその無水物であることを特徴とするキトサン高分子界面活性剤を、第4には、多価脂肪酸またはその無水物が二価脂肪酸またはその無水物であることを特徴とするキトサン高分子界面活性剤を、第5には、二価脂肪酸またはその無水物がコハク酸または無水コハク酸であることを特徴とするキトサン高分子界面活性剤を提供する。
【0007】
また、第6には、長鎖脂肪酸もしくはその無水物が炭素数7~20の脂肪酸であることを特徴とするキトサン高分子界面活性剤を、第7には、長鎖脂肪酸もしくはその無水物によるアシル基の導入率が1~30%であることを特徴とするキトサン高分子界面活性剤を提供する。
【0008】
さらにこの出願の発明は、第8には、上記いずれかのキトサン高分子界面活性剤の製造方法であって、キトサンのアミノ基の対イオンをもっての塩を長鎖脂肪酸もしくはその無水物により部分アシル化反応させ、次いで多価脂肪酸またはその無水物を反応させることを特徴とするキトサン高分子界面活性剤の製造方法を提供する。
【0009】
第9には、上記いずれかのキトサン高分子界面活性剤とこれに低分子の界面活性剤が併用されることを特徴とするキトサン高分子界面剤組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
この出願の第1の発明によれば、従来、乳化剤等としてのその優れた作用効果があるにもかかわらず、長鎖脂肪酸による部分アシル化されたキトサンは、カチオン性の界面活性作用を有し、溶液のpHを中性からアルカリ性に変えると沈殿を生じるという制約があったが、このような問題が解消されて、任意に電荷を調節することが可能とされ、これにより両性あるいはアニオン性のキトサン高分子界面活性剤となる。
【0011】
第2の発明によれば、上記の効果がより具現化されたアニオン性高分子界面活性剤が提供される。
【0012】
第3の発明によれば、生分解性または自然環境分解性の多価カルボン酸またはその無水物によりアシル化されているために、天然物由来のキトサンとともに、完全に分解されるという、人と環境にやさしい、安全性に優れた界面活性剤が提供される。
【0013】
第4の発明によれば、より合成あるいは入手しやすい原料を用いての調製が可能な上記のキトサン高分子界面活性剤が提供される。
【0014】
そして第5の発明によれば、二枚貝、清酒、ソウ類、地衣類、菌類など動植物界に広く分布しているコハク酸またはその無水物を用いることから、上記の第3、第4の発明の効果はより大きなものとなる。
【0015】
第6そして第7の発明によれば、カチオン性の付与が確実となり、電荷の調節が容易とされたキトサン高分子界面活性剤が提供される。
【0016】
第8の発明によれば、以上のキトサン高分子界面活性剤製造が簡便かつ容易に行うことが可能とされる。
【0017】
さらに第9の発明によって、アルカリ性または中性の条件下において有効に機能する界面活性剤組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが以下にその実施の形態について説明する。
【0019】
まず、この出願の発明におけるキトサンについて説明すると、キトサンは、周知のとおり、甲殻類や糸状菌から得られるキチンの脱アセチル化物であり、保湿性や抗コレステロール効果を有し、安全性に優れ、化粧品原料や機能性食品素材として実用化されているものである。この出願の発明のキトサン誘導体は、このような周知のキトサンをベースとして構成されている。すなわち、このようなキトサンが、
1)長鎖脂肪酸もしくはその無水物により部分アシル化されており、
2)アミノ基の少くとも一部が多価脂肪酸もしくはその無水物によりアシル化されている
ことを基本的な特徴としている。
【0020】
ここでの長鎖脂肪酸もしくはその無水物によるアシル化は、主としてキトサンのO-アシル化として実現されており、部分的にはN-アシル化として行われていてもよい。
【0021】
通常、キトサンは、遊離のアミノ基を有しており、その比率は、たとえばキトサンのアミノ基全体の75%以上に及ぶが、この比率は、キチンの由来やキトサンの調製方法、その条件によっても相違する。この出願の発明におけるアミノ基の多価脂肪酸またはその無水物によるアシル化は、実際的には、全アミノ基の10%以上、さらには15%以上で実現されていることが好ましい。これによって、カチオン性から、アニオン性、そして中性の条件下においても界面活性を有するキトサン誘導体が実現される。多価脂肪酸もしくはその無水物によるアミノ基のアシル化の度合をコントロールすることでキトサン誘導体の電荷調節が可能となる。
【0022】
アミノ基をアシル化するための多価脂肪酸としては、一般的には、炭素数2~10程度まで、好ましくは2~6までの脂肪族炭素鎖を有し、2価、あるいは3価のカルボン酸が、さらには2価のカルボン酸が好適なものとして示される。より好ましくは、生分解性あるいは自然環境においての分解性を有するものである。たとえば、コハク酸もしくはその無水物によりアシル化されたものが好適な例として示される。多価脂肪酸またはその無水物によるアシル化においては、アミノ基とのアミド結合が生成すると考えられるが、遊離のカルボキシル基の存在が、アニオン性をもたらすものとして重要となる。
【0023】
より実際的には、電荷調節のためには、アミノ基全体の15~45%が以上のような多価脂肪酸もしくはその無水物によりアシル化されていることが好ましい。
【0024】
一方、長鎖脂肪酸またはその無水物によるアシル化については、界面活性の観点からは、そのアシル基の導入率が1~30%であることが好ましい。ここでの導入率は、キトサンの構成単糖であるヘキソサミン1残基当りの導入率である。
【0025】
長鎖脂肪酸としては、炭素数が7~20の脂肪酸、もしくはその無水物が好適に用いられる。
【0026】
以上のようなこの出願のキトサン誘導体については、特に限定的ではないが、以下の方法によって簡便、かつ容易に、高い反応収率で合成することができる。すなわち、キトサンのアミノ基の対イオンをもっての塩を長鎖脂肪酸もしくはその無水物により部分アシル化反応させ、次いで多価脂肪酸またはその無水物をアシル化反応させる方法である。もちろん、この出願の発明のキトサン誘導体の合成がこの方法に限定されることはない。
【0027】
そして、この出願の発明においては、以上のいずれかのキトサン誘導体としてキトサン高分子界面活性剤が実現される。そして、pH7付近で電離して生じるカチオンとアニオンの量が同じくらいになるために高分子鎖間の反発力が減少し大きな会合体を生じて濁りや沈殿を生じる場合には、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等の低分子の界面活性剤を加える方法が極めて有効である。この場合の低分子の界面活性剤は各種であってよいが、なかでも、SDS、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウムや、ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウムのような硫酸ナトリウム型やスルホン酸ナトリウム型のものが効果的な例として示される。
【0028】
また、この出願の発明においては、高分子界面活性剤としてだけでなく、各種機能性高分子の原料、あるいは中間体、生体用材料としても有用な新しいキトサン誘導体が提供されることになる。
【0029】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0030】
<実施例1>キトサン誘導体:P-Cn-Sucの合成
キトサン(平均分子量:約100000,脱アセチル化度:91%)4gと、キトサンのアミノ基の対イオン成分としての、キトサンのヘキンサミン残基に対して当量のPCA:ピロリドンカルボン酸(3.2g)を混合し、水80mlを加えて溶解した後、メタノール300mlを加えて攪拌し、均一な溶液にした。そこへキトサン1残基に対して0.1当量(0.96g)のラウリン酸無水物を、メタノール20mlに溶解した後加え、50℃で一晩攪拌し反応させた。次にその溶液に、キトサン1残基に対してそれぞれ0.25,0.5,0.75,1.0,1.5当量(ここでは1当量=2.5gに相当)の無水コハク酸をアセトン20mlに溶解した後加え、50℃で一晩攪反応させた。反応溶液から、エバポレーターでメタノールを除去した後、凍結乾燥して白い綿状の物質を得た。
【0031】
それぞれの試料:P-Cn-Sucを、DCIまたはNaODを用いてpHを調節したDOに溶かし、NMRを測定し、置換基の状態を調べた。この結果を表1に示した。この結果より以下のことがわかった。
【0032】
1)長鎖脂肪酸無水物によるアシル化では、反応がほぼ完全に進行しており、理論通りの結果が得られた。またその後コハク酸が反応しても、長鎖脂肪酸が解離することはなかった。
【0033】
2)無水コハク酸によるサクシニル化では、用いた無水コハク酸の40%程度が結合した。残りは加水分解されて消失したと考えられる。
【0034】
【表1】
JP0004394483B2_000002t.gif
なお、表1において、LL-キトサンは、原料を示し、P-C12-キトサンは、C12脂肪酸のみによって10%アシル化したキトサンを示し、それ以降の数字は、このP-C12-キトサンの1残基に対して用いた無水コハク酸の当量を示している。
<実施例2>
各種pH溶液へのP-Cn-Sucキトサンの溶解性
実施例1において合成したP-Cn-Suc(0.25)-キトサン、P-Cn-Suc(0.5)-キトサン、P-Cn-Suc(0.75)-キトサン、P-Cn-Suc(1.0)-キトサン、P-Cn-Suc(1.5)-キトサン、並びにコハク酸によるアシル化を行っていないP-Cn-Suc(0)を用いて各種pH溶液への部分アシル化キトサン誘導体の溶解性を評価した。なお、( )内の値はキトサン1残基に対して用いた無水コハク酸の当量を表している。結合しているコハク酸の量は前述の表1の通りである。
【0035】
(1)蒸留水に対する溶解性
各試料を蒸留水に対して1wt%になるように加え、溶解状態を見た。各溶液のpHはどれも3前後であった。図1に結果を示した。左側よりコハク酸の量が多くなる。Sucが大になるにつれて濁りが大きくなり、1.0及び1.5の試料では沈殿物が見られた(溶解しない)。
【0036】
(2)pHが5,7,9の溶液に対する溶解性
蒸留水に溶かした溶液に1規定のNaOH溶液を加えて行き、pHを5,7,9に調整し、溶解性を見た。pHが5ではSucが1.5のみ明らかな沈殿が生じた。pH7ではどれも濁るか沈殿した。pH9ではSucが0.75以上のものは良く溶けた。このことから、Sucが多く結合したものはアニオン性の界面活性剤に変わっていることがわかる。
【0037】
(3)中性領域での溶解性を高めるための低分子の界面活性剤との併用
pHが7付近では、電離して生じるカチオンとアニオンの量が同じ位になるために、高分子鎖間で反発力がなくなり、大きな会合体が生じて濁ったり、沈殿が生じる。一方、低分子の界面活性剤ではこのようなことは起こらない。そこで両者を混合して用いることにより、キトサン高分子界面活性剤を溶かすことを試みた。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)1%溶液20mlにそれぞれのキトサン界面活性剤0.2gを加え、1N-NaOHでpHを中性にした溶液を作った(図5)。その結果、P-Cu-Suc(0)-キトサン以外のSucを導入したものは、全てきれいに溶解した。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】蒸留水中でのキトサン誘導体の状態を例示した写真図である。
【図2】pH5の水溶液でのキトサン誘導体の状態を例示した写真図である。
【図3】pH7の水溶液でのキトサン誘導体の状態を例示した写真図である。
【図4】pH9の水溶液でのキトサン誘導体の状態を例示した写真図である。
【図5】pH7の水溶液でのキトサン誘導体+SDSの場合の様子を例示した図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4