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明細書 :リパーゼによる加水分解方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3650813号 (P3650813)
公開番号 特開2001-333789 (P2001-333789A)
登録日 平成17年3月4日(2005.3.4)
発行日 平成17年5月25日(2005.5.25)
公開日 平成13年12月4日(2001.12.4)
発明の名称または考案の名称 リパーゼによる加水分解方法
国際特許分類 C12P  7/64      
C12P  7/40      
C12P 17/06      
FI C12P 7/64
C12P 7/40
C12P 17/06
請求項の数または発明の数 4
全頁数 11
出願番号 特願2000-152569 (P2000-152569)
出願日 平成12年5月24日(2000.5.24)
審査請求日 平成12年5月24日(2000.5.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501145295
【氏名又は名称】独立行政法人食品総合研究所
発明者または考案者 【氏名】北村 義明
【氏名】都築 和香子
個別代理人の代理人 【識別番号】100074077、【弁理士】、【氏名又は名称】久保田 藤郎
【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】新留 豊
参考文献・文献 Enzyme and Microbial Technology,1995年,Vol.17,pp.1067-1072
Applied and Environmental Microbiology,1992年,Vol.58, No.1,pp.174-180
調査した分野 C12P 7/64
C12P 7/40
C12P 17/06
CA(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
水系で4メチルウンベリフェリルオレイト、4メチルウンベリフェリルパルミテイト、モノオレインおよびショ糖脂肪酸エステルから選ばれた基質にムコール属微生物由来のリパーゼを作用させて加水分解反応を行うにあたり、反応系に有機溶媒としてジメチルホルムアミドを10~25%、ジメチルスルホキシドを20~45%1,4 -ジオキサンを10~25%またはジメトキシエタンを7.5~25%添加することを特徴とするリパーゼによる加水分解方法。
【請求項2】
水系で4メチルウンベリフェリルオレイトおよび4メチルウンベリフェリルパルミテイトから選ばれた基質にキャンディダ属微生物およびシュードモナス・フルオレッセンスから選ばれた微生物由来のリパーゼを作用させて加水分解反応を行うにあたり、反応系に有機溶媒としてジメチルホルムアミドを10~30%またはジメチルスルホキシドを20~45%添加することを特徴とするリパーゼによる加水分解方法
【請求項3】
水系で4メチルウンベリフェリルオレイトおよび4メチルウンベリフェリルパルミテイトから選ばれた基質にリゾープス・ニベウス由来のリパーゼを作用させて加水分解反応を行うにあたり、反応系に有機溶媒としてジメチルスルホキシドを25~45%添加することを特徴とするリパーゼによる加水分解方法
【請求項4】
水系で4メチルウンベリフェリルオレイトおよび4メチルウンベリフェリルパルミテイトから選ばれた基質にアスペルギルス属微生物由来のリパーゼを作用させて加水分解反応を行うにあたり、反応系に有機溶媒としてジメチルホルムアミドを10~30%添加することを特徴とするリパーゼによる加水分解方法
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リパーゼによる加水分解方法に関し、詳しくは水系で基質に微生物由来のリパーゼを作用させて加水分解反応を行うにあたり、反応系に特定の有機溶媒を添加することによって、酵素の基質特異性を変化させ、効率よく加水分解反応を行う方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
脂質分解酵素リパーゼは、生体内において脂肪の分解や貯蔵に関与している酵素であり、生物界に広く分布している。通常、生体内ではリパーゼは、脂肪を分解したり合成したりする反応を触媒している。
リパーゼには、グリセリンに結合している3個の脂肪酸のすべてを切断する位置特異性の低いものや、グリセリンの1位と3位の部分の脂肪酸だけを切断する等位置特異性の高いリパーゼがあることも知られ、酵素反応の条件を整えることにより、脂肪の分解だけではなく、グリセリンと脂肪酸から脂肪を合成する反応を触媒する作用もある。その他、リパーゼはエステル交換作用を有しており、この反応は食品産業等の様々な工業分野で利用されている。
【0003】
このようなリパーゼの酵素的な特徴は、基質特異性が緩く、本来の基質である脂肪だけでなく、他の多くの化合物に対して作用することである。このため、リパーゼは様々な有用物質を合成するための触媒としても利用されており、それに関する多数の報告がなされている。
また、有機溶媒に対する耐性が高いこともリパーゼの特性の一つとして挙げられる。そのため、有機溶媒を含む系で酵素反応を行うことも検討されている。この方法は、リパーゼが有機溶媒中で失活しない上に、リパーゼの作用する基質は一般に水に不溶又は難溶性のものが多いため、反応系に有機溶媒を添加して基質を可溶化することにより、リパーゼが基質に作用し易くすることができるという利点がある。また、エステル交換反応や縮合反応では、水の存在しない有機溶媒下の方が酵素反応が進み易く、しかも加水分解反応が起こらないため、これらの反応の生成物の収量が高くなる。
【0004】
実際に、リパーゼの反応系を水の全く存在しない100%有機溶媒で調製し、これにジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記することがある。)等を添加すると、該反応が促進されるという報告がある(Biotechnology and Bioengineering, Vol. 49, p.87-92 (1996))。
しかし、この方法は、上記の如く、反応系が有機溶媒に特定の有機溶媒を添加した系であり、しかもエステル交換反応のみが対象とされ、加水分解反応については全く言及していない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、リパーゼの加水分解反応系において、基質特異性を変化させることによって、酵素活性を高めて効率的な酵素反応を行う方法を提供することである。
本発明者らは上記課題を解決すべく検討を重ね、その過程で水系において基質にリパーゼを作用させて加水分解反応を行うにあたり、各種の有機溶媒を添加して、種々の基質に対するリパーゼの反応特性(基質特異性)の解析を行った。
【0006】
その結果、リパーゼの加水分解の反応特性が、ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記することがある。)、DMSO、1,4 -ジオキサンやジメトキシエタン(以下、DMEと略記することがある。)の添加によって影響を受け、疎水性の強い基質に対しては反応速度が速くなるのに対して、疎水性の弱い基質に対しては反応速度が遅くなるという知見を得た。すなわち、リパーゼの加水分解活性は向上する場合と低下する場合があり、これは基質の溶解性の変化によるものではなく、酵素の立体構造変化に依存するものであることが明らかとなった。
さらに、多種の生物由来のリパーゼを用いた場合においても、上記のようなDMFやDMSO等による基質特異性の変化(加水分解の反応特性の変化)が認められること、基質についても脂肪だけでなく、脂肪酸エステル化合物や蛍光基質に対しても適用できることが明らかとなった。
本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の本発明は、水系で4メチルウンベリフェリルオレイト、4メチルウンベリフェリルパルミテイト、モノオレインおよびショ糖脂肪酸エステルから選ばれた基質にムコール属微生物由来のリパーゼを作用させて加水分解反応を行うにあたり、反応系に有機溶媒としてジメチルホルムアミドを10~25%、ジメチルスルホキシドを20~45%1,4 -ジオキサンを10~25%またはジメトキシエタンを7.5~25%添加することを特徴とするリパーゼによる加水分解方法である。
請求項2記載の本発明は、水系で4メチルウンベリフェリルオレイトおよび4メチルウンベリフェリルパルミテイトから選ばれた基質にキャンディダ属微生物およびシュードモナス・フルオレッセンスから選ばれた微生物由来のリパーゼを作用させて加水分解反応を行うにあたり、反応系に有機溶媒としてジメチルホルムアミドを10~30%またはジメチルスルホキシドを20~45%添加することを特徴とするリパーゼによる加水分解方法である
請求項3記載の本発明は、水系で4メチルウンベリフェリルオレイトおよび4メチルウンベリフェリルパルミテイトから選ばれた基質にリゾープス・ニベウス由来のリパーゼを作用させて加水分解反応を行うにあたり、反応系に有機溶媒としてジメチルスルホキシドを25~45%添加することを特徴とするリパーゼによる加水分解方法である。
請求項4記載の本発明は、水系で4メチルウンベリフェリルオレイトおよび4メチルウンベリフェリルパルミテイトから選ばれた基質にアスペルギルス属微生物由来のリパーゼを作用させて加水分解反応を行うにあたり、反応系に有機溶媒としてジメチルホルムアミドを10~30%添加することを特徴とするリパーゼによる加水分解方法である
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明では、水系で基質に微生物由来のリパーゼを作用させて加水分解反応を行うにあたり、反応系にDMF、DMSO、1,4 -ジオキサンおよびDMEの中から選ばれた少なくとも1種の有機溶媒を添加する。なお、本発明者らは、上記の有機溶媒の代わりに水溶性の有機溶媒であるテトラヒドロフラン(以下、THFと略記することがある。)、アセトニトリル、アセトン等を用いた場合は、リパーゼの基質特異性の変化が認められないことを知見している。また、DMFとDMSOを比較した場合、DMSOの方が基質特異性に与える影響が大きい。
【0009】
リパーゼによる加水分解反応は水系で行われるが、使用する基質はリパーゼの基質となり得るものであればよく、例えば蛍光基質、脂肪、脂肪酸エステル化合物等が挙げられ、具体的にはアシル-4メチルウンベリフェロン類、モノグリセリド類、ショ糖の脂肪酸エステル化合物等がある。これらの具体例としては、4メチルウンベリフェリルオレイト(以下、4MUOと略記することがある。)、4メチルウンベリフェリルパルミテイト(以下、4MUPと略記することがある。)、1モノカプリン、1モノカプリリン、1モノラウリン、モノオレイン、ショ糖ラウリン酸エステル等がある。
【0010】
水系に対する上記有機溶媒の添加量については、請求項1では、DMFの場合、10~25%、好ましくは15~25%であり、DMSOの場合、20~45%、好ましくは30~40%であり、1,4 -ジオキサンの場合、10~25%、好ましくは15~25%であり、DMEの場合、7.5~25%、好ましくは10~20%である。請求項2では、DMFの場合、10~30%、DMSOの場合、20~45%である。また、請求項3では、DMSOの場合、25~45%であり、請求項4では、DMFの場合、10~30%である
【0011】
また、リパーゼとしては、微生物起源の酵素が用いられ、例えばムコール・ミーヘイ(Mucor miehei) 、キャンディダ・ルゴサ(Candida rugosa) 、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescence) 、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae) 、リゾープス・ニベウス(Rhizopus niveus)に由来するものが好適である。
【0012】
本発明の方法により水系にDMF、DMSO、1,4 -ジオキサンやDMEを添加したときの基質に対するリパーゼの反応特性は、例えば酵素として微生物ムコール・ミーヘイ由来リパーゼ、基質としてアシル-4メチルウンベリフェロン類を用いた場合、4MUOや4MUPのように疎水性の強い基質に対しては、酵素の加水分解活性が上昇する。しかし、4MUNや4MUHなどの疎水性の弱い基質に対しては、加水分解活性が著しく阻害される。つまり、反応系にDMF等の有機溶媒を添加すると、基質の性質によってリパーゼの基質特異性が変化する。このようなリパーゼの基質特異性の変化、すなわち加水分解の反応特性の変化は、ムコール・ミーヘイ由来のリパーゼの他に、上記した各種微生物に由来する酵素を用いた場合にも同様に認められ、その変化の程度は酵素の種類に依存する傾向を示した。また、基質特異性と同時に、酵素化学的な解析から、上記の有機溶媒を含む系においては、基質に対するリパーゼの最大速度(Vmax)も変化することが示された。
しかし、微生物由来の酵素の代わりに、ブタ膵臓リパーゼを使用しても、有機溶媒の添加による加水分解活性の促進は認められなかった。
【0013】
リパーゼの加水分解活性に影響を与える因子は、基質の性質、酵素の起源、有機溶媒の添加濃度だけではなく、有機溶媒の種類によってもリパーゼの加水分解活性が変化することが明らかとなった。例えば、基質として4MUOを用いた場合、リパーゼの加水分解活性は、100%緩衝液中での反応に比べて、20% DMF、30% DMSO中では約2倍に、15% 1,4 -ジオキサン中では約1.8倍に、20% DME中では約1.4倍に促進される。
【0014】
このような有機溶媒を含む系でのリパーゼの基質特異性の変化は、基質として4MUOような蛍光基質を用いた場合だけでなく、各種のモノグリセリド(1モノカプリン、1モノカプリリン、1モノラウリン、モノオレイン等)やショ糖脂ラウリン酸エステルを基質としたときにも同様の結果が得られる。
【0015】
【実施例】
次に、本発明を実施例により詳しく説明する。
実施例1
リパーゼとしてムコール・ミーヘイ由来のリパーゼ(フルカ社製)を用い、基質として蛍光を有する4メチルウンベリフェリルオレイト(4MUO)を用いて各種の有機溶媒(DMF、DMSO、1,4 -ジオキサン、DME)を添加した反応系におけるリパーゼの反応特性の変化について検討した。
【0016】
酵素反応液の組成は、リパーゼ(10-5~10-1mg/mL)を含む緩衝液(0.04M Britton-Robinson緩衝液、pH7.0)50μLと基質溶液(4MUO、基質濃度10-4~10-2mM)50μLからなる溶液に、各種の有機溶媒を所定の濃度となるように添加した緩衝液900μLを加えたものである。例えば酵素溶液(ムコール・ミーヘイ由来のリパーゼ、0.1mg/mL)50μL、基質溶液(4MUO,10-4mM)50μL、0.04M Britton-Robinson緩衝液(pH7.0)700μLおよび有機溶媒(DMF)200μLからなる。また、対照として有機溶媒を添加しない反応液を調製したが、その組成は酵素溶液(ムコール・ミーヘイ由来のリパーゼ 0.1mg/mL)50μL、基質溶液(4MUO,10-4mM)50μL、0.04M Britton-Robinson緩衝液(pH7.0)900μLである。
【0017】
上記の酵素反応液を、水浴中にて37℃で20分間インキュベートし、リパーゼによる蛍光基質の加水分解反応を行った。続いて、酵素反応停止のために0.1N HClを1mL添加した後、反応液のpHを元に戻すために0.1M クエン酸ナトリウムを2mL添加した。
上記の酵素反応により、基質である4MUOはオレイン酸と4メチルウンベリフェロンに分解され、このうち遊離した4メチルウンベリフェロンの蛍光強度を、蛍光分光光度計(JASCO FP-770、日本分光社製)を用いて測定した。なお、励起波長は320nm、観測波長は450nmに設定した。一方、あらかじめ既知濃度の4メチルウンベリフェロンの蛍光強度を同様にして測定し、検量線を作成しておいた。この検量線を用いてリパーゼの加水分解反応によって遊離された4メチルウンベリフェロンの量を推定し、これより酵素活性を算出した。なお、酵素活性は対照を100としたときの相対リパーゼ加水分解活性として求めた。
結果を図1(a)~(c)に示す。
【0018】
比較例1
有機溶媒としてTHF、1,3 -ジオキサン、ジメトキシメタン、ジメトキシプロパン、アニソール、メタノール、エタノール、プロパノール又はブタノールを用いたこと以外は、すべて実施例1と同様に行った。結果を図1(b)~(d)に示す。
【0019】
図1(a)~(d)から明らかなように、ムコール・ミーヘイ由来のリパーゼは、有機溶媒としてDMF、DMSO、1,4 -ジオキサン、DMEを添加した場合に加水分解活性が上昇した。しかし、THF,1,3 -ジオキサン,ジメトキシメタン、ジメトキシプロパン、アニソール,メタノール,エタノール,プロパノールやブタノールを用いた場合は、加水分解活性の向上は認められず、対照よりも劣っていた。
一方、リパーゼの種類による影響を調べたところ、ムコール・ミーヘイ由来のリパーゼ以外の他の微生物由来のリパーゼについても同様の結果が得られたが、ブタ膵臓リパーゼは、いずれの有機溶媒でも効果が認められなかった。
【0020】
以上のことから、微生物由来のリパーゼの加水分解活性を増大させるためには、水溶性の有機溶媒の中でも特にDMF、DMSO、1,4 -ジオキサン、DMEを用いることが好ましいことが明らかとなった。さらに、その添加量によってリパーゼの加水分解反応が促進又は阻害の方向に変化することも明らかとなった。また、酵素量や基質濃度を変化させても、上記と同様の傾向を示した。
【0021】
なお、ムコール・ミーヘイ由来のリパーゼの活性を促進させる効果のある有機溶媒を反応系に添加したときに、酵素活性が最大になるときの有機溶媒の濃度や最大活性の大きさは、添加する有機溶媒の種類に依存していた。例えば、このリパーゼが最大活性を示すときの有機溶媒の添加濃度は、DMFが20%、DMSOが35%、1,4 -ジオキサンが15%、DMEが20%であった。また、緩衝液100%の中での加水分解活性と比較すると、これらの有機溶媒存在下での活性は、それぞれ2倍(20% DMF)、2倍(35% DMSO)、1.8倍(15% 1,4-ジオキサン)、1.4倍(20% DME)となった。
【0022】
実施例2
リパーゼの加水分解反応の基質として、蛍光を有し、アシル側鎖の長さの異なる4種類のアシル4メチルウンベリフェロン(4MUO,4MUP, 4MUN, 4MUH)を用い、該基質の濃度を0~20μMの範囲で変化させた場合に、有機溶媒の添加によるリパーゼの加水分解活性への影響について検討した。
反応系に添加する有機溶媒としてDMFを用いたこと以外は、すべて実施例1と同様の条件で実施した。なお、DMFの添加濃度は20%とし、DMF無添加のものを対照として同様に試験を行った。
図2(a)~(d)は、20%DMFを含む反応液又は含まない反応液中で、リパーゼと基質を反応させたときの蛍光強度の変化を表したものである。図中、(a) は基質として4MUOを用いた場合、(b) は4MUPを用いた場合、(c)は4MUNを用いた場合、(d) は4MUHを用いた場合をそれぞれ表している。
【0023】
図2から明らかなように、疎水性の高い基質である4MUOや4MUPを用いた場合は、20%DMFを含む反応系で蛍光強度は増大し、加水分解活性が約2倍促進されるが、疎水性の低い基質である4MUNや4MUHを用いた場合は、20%DMFを含む反応系では蛍光強度が対照よりも著しく低下しており、酵素の加水分解活性が阻害されることがわかった。特に、基質として4MUHを用いた場合には、その蛍光強度は0に近く、加水分解が起こり難いことが明らかとなった。
以上のことから、同じ有機溶媒を使用しても、用いる基質の性質によって、リパーゼの加水分解活性を促進したり、阻害したりすることが明らかとなった。
有機溶媒として、DMFの代わりにDMSO、DME、1,4 -ジオキサンを使用した場合も、同様の結果が得られた。
【0024】
次に、有機溶媒としてDMF、DMSO、DME及び1,4 -ジオキサンの各所定量を反応液に加えたときの各種基質に対する酵素の加水分解の最大速度の変化を第1表に示す。
【0025】
【表1】
第 1 表
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【0026】
表から明らかなように、ムコール・ミーヘイ由来のリパーゼの場合、4種類の有機溶媒を添加したときの酵素の加水分解の最大速度は、疎水性の強い基質では上昇し、約1.4~2.1倍となった。一方、疎水性の弱い基質では逆に加水分解の最大速度は低下する。
【0027】
実施例3
本実施例では、脂肪酸エステル化合物を基質として用い、有機溶媒としてDMSOを反応液に添加した場合におけるリパーゼ(ムコール・ミーヘイ由来、フルカ社製)の加水分解活性に対する影響について検討した。
酵素反応液の組成は、リパーゼ(10-5~10-1mg/mL)を含む緩衝液(0.04M Britton-Robinson緩衝液、pH7.0)5μLと基質溶液(ショ糖ラウリン酸エステル、基質濃度10-3~10-1mM)5μLからなる溶液に、緩衝液90μLを加えたもの(対照)又は当該溶液に既知濃度のDMSOを含んだ緩衝液90μLを加えたものである。
リパーゼによる加水分解反応は、37℃で30分間実施した。
【0028】
酵素反応終了後、9ブロモメチルアクリジンのDMSO溶液(5mM)を200μL添加して酵素反応で遊離したラウリン酸のカルボキシル基の9ブロモメチルアクリジンによる蛍光標識反応を開始した。蛍光標識反応は、室温で20分間行い、高速液体クロマトグラフィー法により、蛍光標識されたラウリン酸を蛍光波長(425nm)で検出した。なお、励起波長は365nmに設定した。
酵素反応終了後の反応溶液中に存在するラウリン酸の9ブロモメチルアクリジンによる蛍光標識物(溶出時間6.3分のピーク)の高速液体クロマトグラムを図3A、Bに示す。図3Aは、100%緩衝液での加水分解反応の結果を、図3Bは、30%DMSO溶液での加水分解反応の結果を、それぞれ示す。反応溶液と同じ組成の溶液中に、既知濃度のラウリン酸を溶かして、同一条件下で蛍光検出を行った試料を検量線として用い、酵素反応によって生じたラウリン酸の定量を行うことによって、酵素活性に換算した。
【0029】
実施例4
脂質の1種であるモノオレイン(モノグリセリド)を基質としたときのリパーゼの加水分解活性に対する有機溶媒の影響について調べた。基質としてモノオレイン(濃度10-4~10-1mM)を用いたこと以外は、すべて実施例3と同様の条件で実施した。
酵素反応終了後、9ブロモメチルアクリジンのDMSO溶液(5mM)を200μL添加して酵素反応で遊離したオレイン酸のカルボキシル基を蛍光標識し、高速液体クロマトグラフィー法により、蛍光標識物(溶出時間11.6分のピーク)の定量を行って酵素活性に換算した。結果を図4A,Bに示す。図4Aは、100%緩衝液での加水分解反応の結果を、図4Bは、30%DMSO溶液での加水分解反応の結果を、それぞれ示す。
一方、脂肪酸側鎖の長さが異なるモノカプリンを基質とした場合は、30% DMSO存在下では、リパーゼの加水分解活性は抑制されていた。このことは、基質が脂質や糖脂肪酸エステルの場合においても、反応溶液中に存在する有機溶媒は、リパーゼの基質特異性に影響を与えることを示唆している。
【0030】
実施例5
各種生物由来のリパーゼを用い、反応溶液に有機溶媒としてDMSOを添加したときの加水分解活性に対する影響について調べた。すなわち、基質として4MUOを用い、有機溶媒の濃度を変化させたときの各種酵素の加水分解活性に対する影響を調べた。結果を図5(a)~(g)に示す。
【0031】
図5(a)~(g)は、各種生物由来のリパーゼによる加水分解活性を、有機溶媒を含まない対照を100とした相対加水分解活性で表したものである。図中の記号(a)~(g)は酵素の起源を示しており、(a)はムコール・ミーヘイ由来(商品名:「リパーゼ」、フルカ社製)、(b)はキャンディダ・ルゴサ由来(商品名:「リパーゼAY」天野製薬(株)製)、(c)はシュードモナス・フルオレッセンス由来(商品名:「リパーゼ」フルカ社製)、(d)はリゾープス・デレマー由来(商品名:「リパーゼ」、生化学工業(株)製)、(e)はアスペルギルス・オリゼ由来(商品名:「リパーゼ」、フルカ社製)、(f)はリゾープス・ニベウス由来(商品名:「リパーゼ」、ナガセ生化学工業(株)製)、(g)はブタ膵臓由来(商品名:「リパーゼタイプII」、シグマ社製)を表している。
【0032】
図から明らかなように、微生物由来の6種のリパーゼは、反応液にDMSOを添加することによって加水分解活性がいずれも増大し、一部の場合を除いて添加濃度が約25~50%前後のときに最大活性を示した。加水分解活性に対する影響の大きさは、リパーゼの起源によって異なることも明らかとなった。
一方、ブタ膵臓リパーゼは、DMSOを添加することによって活性が増大することはなく、その添加濃度に依存して活性が阻害されることが示された。
以上のことから、有機溶媒を添加して加水分解活性が上昇するのは、微生物に由来する酵素を用いた場合であることがわかった。
【0033】
実施例6
本実施例では、構造の異なる蛍光基質に対するリパーゼの加水分解活性について調べた。すなわち、10~30% DMFを含む反応液と対照の緩衝液100%の反応液中において、4種類の蛍光基質(1)4MUO、(2)4MUP、(3)4MUN、(4)4MUHに対する各種生物由来のリパーゼの加水分解活性を比較した。結果を図6(a)~(g)に示す。なお、図中の記号(a)~(g)は酵素の起源を示しており、それぞれは実施例5における記号と同じである。
図から明らかなように、微生物由来の6種の酵素については、DMFを添加することにより加水分解反応の基質特異性を変化させることができた。
【0034】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、リパーゼの加水分解反応系に有機溶媒を所定濃度添加することによって、基質の性質や各種生物由来のリパーゼの種類に応じて該酵素の基質特異性を変化させ、加水分解反応を促進の方向に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)~(d)は、リパーゼの加水分解活性(相対活性)に及ぼす各種有機溶媒の影響を示すグラフである。
【図2】 (a)~(d)は、20% DMFを含む反応液と含まない反応液中で、4種類の基質の濃度を変えてリパーゼと反応させたときの蛍光強度の変化を表すグラフである。
【図3】 高速液体クロマトグラムを示し、Aは100%緩衝液での加水分解反応の結果を、Bは30%DMSO溶液での加水分解反応の結果を示す。
【図4】 高速液体クロマトグラムを示し、Aは100%緩衝液での加水分解反応の結果を、Bは30%DMSO溶液での加水分解反応の結果を示す。
【図5】 (a)~(g)は、各種微生物及びブタ膵臓由来のリパーゼを用いて、酵素反応溶液中のDMSOの濃度を変化させたときの加水分解活性(相対活性)にを示すグラフである。
【図6】 (a)~(g)は、各種微生物及びブタ膵臓由来のリパーゼを用いて、4種類の蛍光基質(1)4MUO、(2)4MUP、(3)4MUN、(4)4MUHに対する加水分解活性を比較したグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5