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明細書 :アレルゲン特異的T細胞抗原決定基を植物へ集積させる方法、および該抗原決定基を集積させた植物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4512816号 (P4512816)
公開番号 特開2004-321079 (P2004-321079A)
登録日 平成22年5月21日(2010.5.21)
発行日 平成22年7月28日(2010.7.28)
公開日 平成16年11月18日(2004.11.18)
発明の名称または考案の名称 アレルゲン特異的T細胞抗原決定基を植物へ集積させる方法、および該抗原決定基を集積させた植物
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
A61K  36/899       (2006.01)
A61P  37/08        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 5/00 A
A61K 35/78 U
A61P 37/08
C12N 5/00 103
請求項の数または発明の数 17
全頁数 34
出願番号 特願2003-120639 (P2003-120639)
出願日 平成15年4月24日(2003.4.24)
審査請求日 平成17年12月14日(2005.12.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】高岩 文雄
【氏名】高木 英典
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100102118、【弁理士】、【氏名又は名称】春名 雅夫
【識別番号】100160923、【弁理士】、【氏名又は名称】山口 裕孝
【識別番号】100119507、【弁理士】、【氏名又は名称】刑部 俊
【識別番号】100142929、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 隆一
【識別番号】100148699、【弁理士】、【氏名又は名称】佐藤 利光
【識別番号】100128048、【弁理士】、【氏名又は名称】新見 浩一
【識別番号】100129506、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 智彦
【識別番号】100130845、【弁理士】、【氏名又は名称】渡邉 伸一
【識別番号】100114340、【弁理士】、【氏名又は名称】大関 雅人
【識別番号】100121072、【弁理士】、【氏名又は名称】川本 和弥
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 特開2000-327699(JP,A)
化学と生物,2001年,Vol.39, No.3,p.193-199
日本免疫学会総会・学術集会記録,2002年,Vol.32,p.100
日経ビジネス,2003年 2月24日,No.1180,p.120-122
Protein Expr. Purif.,2002年,Vol.24, No.3,p.384-394
育種学研究,2002年 8月26日,第4巻、別冊2号,第196頁
育種学研究,2002年,第4巻,第33-42頁
調査した分野 C12N 15/09
A01H 5/00
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
CiNii
G-Search
特許請求の範囲 【請求項1】
ADPグルコースピロホスホリラーゼプロモーターの制御下に以下の(a)~(c)のいずれかのDNAが配置された構造を有するDNA。
(a)配列番号:1に記載のペプチド又は該ペプチドが2回以上タンデムに繋がれたペプチドをコードするDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAが付加されたDNA
(b)配列番号:1に記載のペプチド又は該ペプチドが2回以上タンデムに繋がれたペプチドのN末端に貯蔵タンパク質シグナル配列、および/またはC末端に小胞体係留シグナル配列が付加されたポリペプチドをコードするDNA
(c)貯蔵タンパク質の可変領域へ、配列番号:1に記載のペプチド又は該ペプチドが2回以上タンデムに繋がれたペプチドが挿入された構造を有するポリペプチドをコードするDNA
【請求項2】
請求項1に記載のDNAを含む、T細胞エピトープ集積植物作製用ベクター。
【請求項3】
請求項1に記載のDNA、または請求項2に記載のベクターを保持する宿主細胞。
【請求項4】
アレルゲン特異的なT細胞エピトープをイネ植物の胚乳に集積させる方法であって、請求項1に記載のDNA、または請求項2に記載のベクターをイネ植物へ導入することを特徴とする方法。
【請求項5】
以下の工程(a)~(c)を含む、T細胞エピトープをイネ植物の胚乳に集積させる方法。
(a)配列番号:1に記載のペプチド又は該ペプチドが2回以上タンデムに繋がれたペプチドをコードするDNAを取得する工程、
(b)前記(a)で取得されたDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAを付加する工程、
(c)前記(b)のDNAを、イネ植物の胚乳においてADPグルコースピロホスホリラーゼプロモーターの制御下で発現させる工程
【請求項6】
以下の工程(a)および(b)を含む、T細胞エピトープをイネ植物の胚乳に集積させる方法。
(a)配列番号:1に記載のペプチド又は該ペプチドが2回以上タンデムに繋がれたペプチドをコードするDNAを取得する工程、
(b)前記(a)のDNAを、植物の貯蔵タンパク質の可変領域をコードするDNA領域へ挿入しADPグルコースピロホスホリラーゼプロモーターの制御下で発現させる工程
【請求項7】
請求項4~のいずれかに記載の方法により作出される、T細胞エピトープが集積したトランスジェニックイネ植物。
【請求項8】
請求項に記載のイネ植物の子孫またはクローンである、トランスジェニック植物。
【請求項9】
請求項またはに記載のイネ植物に由来する細胞。
【請求項10】
請求項またはに記載のイネ植物の繁殖材料。
【請求項11】
請求項またはに記載のイネ植物の種子。
【請求項12】
熱に安定であることを特徴とする、請求項11に記載の種子。
【請求項13】
請求項4~6のいずれかに記載の方法により作出される、T細胞エピトープが集積したコメ。
【請求項14】
請求項11もしくは12に記載の種子、または請求項13に記載のコメを有効成分とする、アレルギー性疾患の治療または予防のための食品組成物。
【請求項15】
アレルギー性疾患がI型アレルギーである、請求項14に記載の食品組成物。
【請求項16】
請求項4~のいずれかに記載の方法を用いた、胚乳にT細胞エピトープが集積したトランスジェニックイネ植物の製造方法。
【請求項17】
請求項4~6のいずれかに記載の方法を用いた、胚乳にT細胞エピトープが集積したコメの製造方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【従来の技術】
近年、アレルギー疾患に対する根治的治療法は、従来注射によりアレルゲンそのものを投与し、長期間にわたり段階的に増加させアレルゲン特異的な免疫反応性を鈍らせる減感作療法であった。しかしこの療法では、アレルギー症状を引き起こす肥満細胞に結合しているIgE抗体との反応性が残っており、アナフィラキシーショック等の副作用が見られる問題があることが指摘されている。
【0002】
近年、アレルゲンに由来するT細胞エピトープペプチドを投与するペプチド免疫療法が注目されている。その作用機構として、アレルゲン特異的なヘルパーII型のT細胞の不応答や欠失が起こると考えられる。T細胞エピトープを利用するペプチド免疫療法は一般にアレルギー反応を起こすB細胞エピトープを含まず、アレルゲン特異的なIgE抗体との結合性もないことから、従来の減感作療法で起きている副作用が起きにくく安全である。
【0003】
スギ花粉症のアレルゲンに由来するT細胞エピトープペプチドについても、特異的T細胞に対する高い反応性を示すことから、経口投与によりT細胞の不応答化を誘導する能力を持つことが示唆されている(例えば、非特許文献1~4参照)。このことから、T細胞エピトープペプチドをペプチドワクチンとしてスギ花粉症の治療への応用が期待されていたものの、実際の応用形態については、未開発の状態であった。
【0004】
アレルゲン特異的なT細胞エピトープを実際に有用な植物へ集積させる方法、および集積された有用な植物等については、これまでのところ知られていなかった。
【0005】
【非特許文献1】
ヒラハラ・カズキ(Kazuki Hirahara)ら著, J. Allergy Clin. Immunol., Vol. 102, p.961-967, 1998年
【0006】
【非特許文献2】
ヒラハラ・カズキ(Kazuki Hirahara)ら著, J. Allergy Clin. Immunol., Vol. 108, p.94-100, 2001年
【0007】
【非特許文献3】
ソネ・トシオ(Toshio Sone)ら著, J. Immunology, p.448-457, 1998年
【0008】
【非特許文献4】
ヨシトミ・トモミ(Tomomi Yoshitomi)ら著, Immunology, Vol. 107, p.517-522, 2002年
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、T細胞エピトープペプチドをペプチドワクチンとしてスギ花粉症の治療もしくは予防のために応用するために、該エピトープを集積させた植物を開発することにある。より詳しくは、本発明は、アレルゲン特異的T細胞エピトープを植物へ集積させる方法、および該エピトープを集積させた植物の提供を目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。本発明者らは、スギ花粉アレルゲンCryj1およびCryj2に見られる抗原提示細胞(マクロファージ)により提示される、ヒトの7個の主要な12~19アミノ酸残基からなるT細胞エピトープを連結させたハイブリッドペプチド(7crp)をコードする人工遺伝子を作出し、この遺伝子をコメの可食部である胚乳に特異的に発現させることにより、T細胞エピトープペプチドが集積したコメの開発に成功した。
【0011】
本発明のコメを食べること(経口投与)で免疫寛容の機構によりヘルパーII型のスギアレルゲン特異的なT細胞を不応答化または死滅化させて、根治的にスギ花粉症を治療することが可能であるものと考えられる。
【0012】
本発明におけるヒトT細胞エピトープをコメの胚乳中に集積させる手法として、7crpペプチドを直接種子中に集積させる方法、およびイネの主要な貯蔵タンパク質であるグルテリンの可変領域の中に挿入し、グルテリン貯蔵タンパク質の一部として発現・集積させる方法が開発された。本発明によるこれらの手法により、イネ種子中でT細胞エピトープ7連結ペプチド(7crp)を高度に集積させることに成功した。該種子では、1粒あたり最大60μg のT細胞エピトープ連結ペプチドが集積した。この集積量は、種子に含まれる全タンパク質の約4 %に相当する。
【0013】
こうした可食部に集積させたアレルゲンのエピトープペプチドは、高度に集積されている場合、経口で摂取することで、こうしたアレルゲンに由来するアレルギー反応を免疫寛容機構で治療することが可能になる。
【0014】
これまでにマウスを対象としてマウスT細胞エピトープ連結ペプチドを経口投与した研究が報告され、40~200μgまたは2.5~250μgの投与により免疫寛容が誘導されることが示されている(Hirahara et al. Oral adminstration of a dominant T-cell determinant peptide inhibit allerge-specific TH1 and TH2 cell responses in Cryj2-primed mice J Allergy Clin Immunol 1998 102, 961-967、Yoshitomi et al. Immunology 2002, 107,517-522)。この結果をヒトに適応すると、マウス重量を20g、ヒトの重量を60kgと仮定したとき、ヒトにおいて免疫寛容を誘導するために必要なT細胞エピトープ連結ペプチドの量は7.5mg(2.5μg)~250mgと推定される。この推定必要量の場合は、T細胞エピトープ連結ペプチドを生産する種子(1粒あたり30μg集積する種子の場合、1種子の重量は約20mg)3.75mg~375mgが必要となり、その種子量で換算すると2.5g~250gで充分であることから、日常の食事量(100g~150g)で充分免疫寛容できる量といえる。従って、本発明で開発したT細胞エピトープ連結ペプチドを生産するイネは、スギ花粉症に対する食べるワクチンとして現実的に機能することが強く期待される。
【0015】
さらに、本発明の方法で集積させた7crpペプチドは、胚乳中での集積部位が異なることから、粘膜免疫系を介した誘導機構も若干異なると期待される。
【0016】
また、本発明の形質転換体種子に対する20分間の加熱処理の前後で、種子中のT細胞エピトープ連結ペプチドに変化が認められないことから、お米を炊飯してもT細胞エピトープ連結ペプチドが安定に存在することが分かった。また、お米の主要なアレルゲンタンパク質についても大きな変化は認められないことや、アレルギーを引き起こす可能性のある糖鎖はT細胞エピトープ連結ペプチドには結合していないことなど、現在までの研究において、花粉症に対する食べるワクチンとしての機能や安全性に関して、危険性を危惧されるような知見は得られていない。
【0017】
さらに、従来の大腸菌等の培養によるペプチドタンパク質の生産に比較して、安価に生産できる。すなわち1種子からイネの場合、1000~2000個の種子を作出できる。また種子で生産できることから、精製することなく、そのまま経口摂取できる。種子で生産されたペプチドは極めて安定であり、室温で種子を放置しても1年以上分解、活性が失われることがない。またタンク培養と比較して、生産量をコントロールことが容易である。播種するタネの数で生産量をコントロールできる。
【0018】
上記の如く本発明者らは、アレルゲン特異的T細胞エピトープを植物へ集積させる方法、および該エピトープを集積させた植物の開発に成功し、本発明を完成させた。より詳しくは、本発明は、
〔1〕 貯蔵タンパク質プロモーターの制御下に以下の(a)~(c)のいずれかのDNAが配置された構造を有するDNA、
(a)アレルゲン特異的なT細胞エピトープペプチドをコードするDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAが付加されたDNA
(b)アレルゲン特異的なT細胞エピトープペプチドのN末端に貯蔵タンパク質シグナル配列、および/またはC末端に小胞体係留シグナル配列が付加されたポリペプチドをコードするDNA
(c)貯蔵タンパク質の可変領域へ、アレルゲン特異的なT細胞エピトープペプチドが挿入された構造を有するポリペプチドをコードするDNA
〔2〕 T細胞エピトープペプチドが、ヒトT細胞エピトープを少なくとも2個以上、好ましくは7回連結させたものである、〔1〕に記載のDNA、
〔3〕 ヒトT細胞エピトープを7個連結させたものである、〔2〕に記載のDNA、
〔4〕 貯蔵タンパク質プロモーターが、グルテリンGluB-1プロモーターである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のDNA、
〔5〕 小胞体係留シグナル配列が、KDEL配列、SEKDEL配列、またはHDEL配列である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のDNA、
〔6〕 〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のDNAを含む、T細胞エピトープ集積植物作製用ベクター、
〔7〕 〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のDNA、または〔6〕に記載のベクターを保持する宿主細胞、
〔8〕 アレルゲン特異的なT細胞エピトープを植物に集積させる方法であって、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のDNA、または〔6〕に記載のベクターを植物へ導入することを特徴とする方法、
〔9〕 以下の工程(a)~(c)を含む、T細胞エピトープを植物に集積させる方法、
(a)アレルゲン特異的なT細胞エピトープペプチドをコードするDNAを取得する工程、
(b)前記(a)で取得されたDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAを付加する工程、
(c)前記(b)のDNAを、植物において貯蔵タンパク質プロモーターの制御下で発現させる工程
〔10〕 以下の工程(a)および(b)を含む、T細胞エピトープを植物に集積させる方法、
(a)アレルゲン特異的なT細胞エピトープペプチドをコードするDNAを取得する工程、
(b)前記(a)のDNAを、植物の貯蔵タンパク質の可変領域をコードするDNA領域へ挿入し発現させる工程
〔11〕 貯蔵タンパク質がグルテリンである、〔8〕~〔10〕のいずれかに記載の方法、
〔12〕 エピトープペプチドが、ヒトT細胞エピトープを少なくとも2個以上、好ましくは7回連結させたものである、〔8〕~〔11〕のいずれかに記載の方法、
〔13〕 アレルゲンがスギ花粉アレルゲンである、〔8〕~〔12〕のいずれかに記載の方法、
〔14〕 スギ花粉アレルゲンがCryj1およびCryj2である、〔13〕に記載の方法、
〔15〕 T細胞エピトープが植物の可食部位に集積されることを特徴とする、〔8〕~〔14〕のいずれかに記載の方法、
〔16〕 可食部位が種子である、〔15〕に記載の方法、
〔17〕 植物が被子植物である、〔8〕~〔16〕のいずれかに記載の方法、
〔18〕 被子植物がイネ科植物である、〔17〕に記載の方法、
〔19〕 イネ科植物がイネである、〔18〕に記載の方法、
〔20〕 〔8〕~〔19〕のいずれかに記載の方法により作出される、T細胞エピトープが集積したトランスジェニック植物、
〔21〕 〔20〕に記載の植物の子孫またはクローンである、トランスジェニック植物、
〔22〕 〔20〕または〔21〕に記載の植物に由来する細胞、
〔23〕 〔20〕または〔21〕に記載の植物の繁殖材料、
〔24〕 〔20〕または〔21〕に記載の植物の種子、
〔25〕 熱に安定であることを特徴とする、〔24〕に記載の種子、
〔26〕 〔19〕に記載の方法により作出される、T細胞エピトープが集積したコメ、
〔27〕 〔24〕もしくは〔25〕に記載の種子、または〔26〕に記載のコメを有効成分とする、アレルギー性疾患の治療または予防のための食品組成物、
〔28〕 アレルギー性疾患がI型アレルギーである、〔27〕に記載の食品組成物、
〔29〕 I型アレルギーが花粉症またはダニアレルギーである、〔28〕に記載の食品組成物、
〔30〕 花粉がスギ、ヒノキ、ハンノキ、ブタクサ、またはカモガヤである、
〔29〕に記載の食品組成物、
〔31〕 アレルギーが食物アレルギーである、〔27〕に記載の食品組成物、
〔32〕 食物がソバである、〔31〕に記載の食品組成物、
〔33〕 〔8〕~〔19〕のいずれかに記載の方法を用いた、T細胞エピトープが集積したトランスジェニック植物の製造方法、
〔34〕 〔19〕に記載の方法を用いた、T細胞エピトープが集積したコメの製造方法、を提供するものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明は、アレルゲン特異的なT細胞エピトープを植物へ集積させる方法を提供する。
本発明は、アレルゲンを抗原として抗原提示細胞(マクロファージ)によって提示されるT細胞抗原決定基(エピトープ)を、植物中において発現させることを特徴とする方法である。本発明において「アレルゲン特異的なT細胞エピトープ」とは、アレルゲンを抗原として抗原提示細胞によって提示されるT細胞エピトープを言う。
【0020】
アレルゲンとは一般的に、アレルギー疾患(アレルギー反応)の原因となる抗原物質を言う。本発明におけるアレルゲンには、特に限定されるものではないが、タンパク質、糖タンパク質等の自然界にある物質のみならず、合成されたタンパク質も含まれる。自然界におけるアレルゲンとしては、例えば、花粉(スギ、ヒノキ、ハンノキ、ブタクサ、イネ科のカモガヤ花粉等)アレルゲン、動物(イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウマ、ウシ等)由来アレルゲン、昆虫アレルゲン、寄生虫アレルゲン、食物アレルゲン、カビアレルゲン等を挙げることができる。
【0021】
本発明において好適に使用されるアレルゲンとしては、花粉アレルゲン、ダニアレルゲン、食物アレルゲン等を挙げることができ、さらに好ましくは、スギ花粉由来の花粉アレルゲンである。より具体的には、上記スギ花粉アレルゲンとして、Cryj1(H. Yasueda, Y. Yui, T. Shimizu, T. Shida. Isolation and partial characterization of the major allergen from Japanese cedar (Cryptomeria japonica) pollen. J. Allergy Clin. Immunol. 1983; vol. 71, p. 77-86.; T Sone, N. Komiyama, K Shimizu, T Kusakabe, K. Morikubo and K Kino Cloning and sequencing of cDNA coding for Cry jI,a major allergen of Japanese cedar pollen Biochem. Biophy. Res. Comm. 199, 619-625 (1994))またはCryj2(M. Sakaguchi, S. Inoue, M. Taniai, S. Ando, M. Usui, T. Matuhasi. Identification of the second major allergen of Japanese cedar pollen. Allergy 1990; vol. 45, p. 309-312.; N Komiyama, T Sone, K Shimizu, K Morikubo and K Kino, cDNA cloning and expression of Cry j II, the second major allergen of Japanese cedar pollen. Biochem. Biophy. Res. Comm 201,, 1021-1028 (1994))等を例示することができる。また、上記「食物」として、例えば、ソバ、コムギ、卵、牛乳、落花生等を挙げることができる。
【0022】
上記方法に使用されるT細胞抗原決定基(本明細書においては、「エピトープ」もしくは「エピトープペプチド」と記載する場合あり)は、通常、上記のアレルゲンが抗原提示細胞によって分解され(抗原処理され)、細胞表面に提示される抗原ペプチド、もしくは該ペプチドの部分領域である。即ち、本発明のエピトープは、T細胞レセプターによってアレルゲン由来抗原ペプチドとして認識し得るようなペプチドであれば、そのアミノ酸配列は、特に制限されない。
【0023】
本発明のT細胞エピトープは、特に制限されるものではないが、好ましくは、ヒトT細胞エピトープである。
【0024】
本発明のエピトープ(エピトープペプチド)は、アレルゲンの種類等によりそのペプチド長は異なるため、特定することは困難であるが、通常、約10~25アミノ酸残基からなり、より好ましくは12~19アミノ酸残基からなる。
【0025】
また、本発明のエピトープは、好ましくはヒトT細胞エピトープを2個以上連結させたものがよい。2個以上連結させることにより、免疫寛容機構の誘導効果が上昇することが期待される。より具体的には、本発明のエピトープとして、後述の実施例で示すようにエピトープを7個連結させたペプチド(例えば、7crp(配列番号:1)等)を好適に使用することができる。また、複数個連結させた、例えば7crp等のエピトープペプチドを、さらに2回(配列番号:2)、3回と複数回タンデムに繋いだペプチドもまた、本発明に利用可能である。
【0026】
エピトープを利用したペプチド免疫の場合、個々人の遺伝子型により認識されるエピトープが異なるため、多くのひとに効果を持たせるために、本発明においては複数のエピトープが好適に使用される。
【0027】
本発明の方法の好ましい態様においては、本発明のエピトープを植物体内において貯蔵タンパク質プロモーターの支配下(制御下)で発現させる方法である。より具体的には、まずアレルゲン特異的なヒトT細胞エピトープペプチドをコードするDNAを取得し(工程(a))、次いで、工程(a)で取得されたDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAを付加する(工程(b))。次いで、前記(b)のDNAを、植物において貯蔵タンパク質プロモーターの制御下で発現させる(工程(c))。
【0028】
本発明における貯蔵タンパク質とは、通常、植物体で主にエネルギー源として種子中に貯わえられるタンパク質を指す。貯蔵タンパク質としては、例えば、単純タンパク質であるグルテリン(glutelin)やプロラミン(prolamin)を挙げることができる。本発明の貯蔵タンパク質としては、好ましくはグルテリンを示すことができる。グルテリンをコードする遺伝子のGenBankのアクセッション番号は、X54314(O.sativa GluB-1 gene for glutelin)であり、該遺伝子のcDNAのアクセッション番号は、XO5664である。
【0029】
本発明におけるプロモーターは、発現させたい遺伝子の種類や導入する細胞の種類に応じて、当業者においては公知のプロモーターを適宜選択、もしくは改変して使用することができる。本発明の好ましい態様においては、貯蔵タンパク質プロモーターが利用することができる。本発明において用いられる貯蔵タンパク質プロモーターの一例を示せば、グルテリンGluB-1プロモーターを挙げることができる。該プロモーターの長さは、通常1.3kb以上であり、好ましくは2.3kb以上であるが、本発明のプロモーターと同等の機能を有する限り、この長さに特に制限されるものではない。好ましくは、2.3k GluB-1プロモーターを挙げることができる。通常、プロモーターを長くすることにより、下流に存在する遺伝子によってコードされるタンパク質の発現・集積効率が高くなる。グルテリンGluB-1プロモーターは強力なプロモーター活性を有するため、イネまたはイネ以外の穀類についても好適に使用することができる。
【0030】
上記工程(a)におけるアレルゲン特異的なヒトT細胞エピトープペプチドをコードするDNAは、ゲノムDNA、cDNA、および化学合成DNAが含まれる。アレルゲンの由来となる生物(例えば、イネ等)からのゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、アレルゲンの由来となる生物からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、アレルゲン特異的なヒトT細胞エピトープペプチドをコードするDNAの塩基配列情報を基に作製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、本発明のアレルゲン特異的なヒトT細胞エピトープペプチドをコードするDNAに特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、アレルゲンの由来となる生物から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0031】
本発明のエピトープペプチドをコードするDNAは、好ましくは、該ペプチドのアミノ酸配列情報を基に、適宜、人工的に合成することも可能である。その際、貯蔵タンパク質遺伝子でよく使用されるコドンを参考に、アミノ酸の縮重等を考慮して目的のDNAを合成することができる。また、本発明のエピトープペプチド、例えば、7crpを用いる場合、イネ種子で効率良く翻訳されるように、該ペプチドをコードするDNA配列は、イネ種子貯蔵タンパク質遺伝子において高頻度に使用されるコドンを使用して作製することができる。
【0032】
本発明において好適に使用されるコドンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、表1のコドンを示すことができる。
【0033】
【表1】
JP0004512816B2_000002t.gif
【0034】
DNAの合成は、当業者においては、市販のDNA合成機等を利用して、適宜実施することができる。
【0035】
上記工程(b)における貯蔵タンパク質シグナル(ペプチド)配列としては、公知の種々の貯蔵タンパク質シグナル配列を、適宜、使用することが可能である。本発明の貯蔵タンパク質シグナル配列のアミノ酸配列に関する情報は、当業者においては公知の文献等により容易に入手することが可能である。貯蔵タンパク質シグナルは、本発明のエピトープペプチドを、小胞体へ移行させる働きを有し、該ペプチドが細胞質へ移行し分解を受けたり、あるいは細胞外へ分泌されることを防ぐ役割を担う。
【0036】
本発明の貯蔵タンパク質シグナル配列としては、好ましくは、グルテリン(GluB-1)タンパク質のシグナル配列を用いることができる。具体的には、本発明に使用可能な貯蔵タンパク質シグナル配列として、以下の配列を示すことができる。
MASSVFSRFSIYFCVLLLCHGSMA(配列番号:3)
また、他のグルテリン(GluA-2)のシグナル配列である、MASINRPIVFFTVCLFLLCDGSLA(配列番号:4)、あるいは、26kDのグロブリンのシグナル配列である、MASKVVFFAAALMAAMVAISGAQ(配列番号:5)を用いることも可能である。
【0037】
また、本発明の小胞体係留シグナル(ER-retention signal)配列としては、例えば、KDEL配列、SEKDEL配列、またはHDEL配列等を利用することができるが、これらに特に制限されるものではない。また、本発明の小胞体係留シグナル配列をコードするDNAは、例えば、KDEL配列をコードするDNAの下流の3'非翻訳領域を含んでいてもよい。この3'非翻訳領域は、特に制限されるものではないが、通常100~1000 bp程度の長さである。一例を示せば、本発明の小胞体係留シグナル配列をコードするDNAとして、KDEL配列をコードするDNAと該DNAの下流の約650bp程度のグルテリン3'非翻訳領域を含む領域を合わせたDNAを示すことができる。一般的に、上記3'非翻訳領域として、グルテリン等の貯蔵タンパク質遺伝子の3'非翻訳領域を好適に使用することができる。また、NOSターミネータ、または35SCaMVターミネータを使用することも可能である。上記の配列は、種子等の貯蔵部位において、外来タンパク質の集積量を向上させる機能を有する。
【0038】
上記貯蔵タンパク質シグナル配列または小胞体係留シグナル配列をコードするDNAは、当業者においては、アミノ酸配列の縮重等を考慮して、適宜、市販のDNA合成機等を利用して取得(合成)することができる。
【0039】
また、工程(a)で取得されるDNAの5'末端への貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNAの付加、および3'末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAの付加は、当業者においては、公知の遺伝子工学技術を利用して行うことができる。上記の「5'末端」または「3'末端」とは、通常、プロモーターから転写を受ける方向が、5'末端→3'末端であるような向きを示す末端として定義される。従って、プロモーター側(方向)のDNAの末端部は、「5'末端」として定義される。
【0040】
上記工程(c)において、DNAを植物体内において貯蔵タンパク質プロモーターの制御下で発現させるためには、通常、該DNAの発現が可能なように貯蔵タンパク質プロモーターと該DNAとを結合させたDNAを植物体へ導入することによって実施することができる。プロモーターの制御を受けるように該プロモーターの下流に発現させたい所望のDNAを配置させることは、当業者においては一般的な遺伝子工学技術を用いて容易に行い得ることである。
【0041】
また、本発明の方法によってエピトープの集積が可能な植物としては、特定の種に限定されるものではないが、通常、被子植物であり、好ましくは単子葉植物であり、より好ましくはイネ科植物である。本発明の植物は、双子葉植物であってもよく、例えば、双子葉植物の種子プロモーター(例えば、子葉や胚特異的)を利用することにより、マメ等の植物へもエピトープを集積させることが可能である。また、イネ科植物の例としては、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ等の穀類を挙げることができるが、本発明の植物として最も好ましくは、イネである。本発明の方法においては、使用するプロモーターを植物の種類を考慮して、適宜選択することにより、多くの種類の植物においてエピトープを集積させることが可能である。
【0042】
本発明の方法においてエピトープが集積される植物体における部位が、可食部位である場合には、例えば、該部位をヒトが食することにより、本発明のエピトープを容易に体内に取り入れることが可能である。例えば、本発明の植物がイネである場合には、エピトープを胚乳中に集積させることが可能である。
【0043】
本発明の方法は、T細胞エピトープが、好ましくは植物体の可食部位に集積されることを特徴とする有用な方法である。可食部位は、植物の種類によって異なるため、必ずしも限定されるものではないが、例えば、種子、葉、根等を挙げることができる。
【0044】
集積部位として、より具体的には、イネ、コムギ、トウモロコシ等の場合胚乳、ダイズなどのマメの場合子葉や胚、ジャガイモ等の塊茎、にんじんの根、トマト、バナナ等の果実を挙げることができる。
【0045】
本発明の上記方法において使用される本発明のエピトープを植物体内において発現し得るDNAもまた、本発明に含まれる。このようなDNAとしては、例えば、貯蔵タンパク質プロモーターの制御下に以下のいずれかに記載のDNAが配置された構造を有するDNAを示すことができる。
(a)アレルゲン特異的なT細胞エピトープペプチドをコードするDNAの5’末端に貯蔵タンパク質シグナル配列をコードするDNA、および/または3’末端に小胞体係留シグナル配列をコードするDNAが付加されたDNA
(b)アレルゲン特異的なT細胞エピトープペプチドのN末端に貯蔵タンパク質シグナル配列、および/またはC末端に小胞体係留シグナル配列が付加されたポリペプチドをコードするDNA
【0046】
上記の「貯蔵タンパク質プロモーターの制御下にDNAが配置された」とは、該DNAの発現が可能なように貯蔵タンパク質プロモーターと該DNAとが結合していることを言う。即ち、プロモーターの転写の活性化に伴い、下流のDNAの発現が誘導されるようにプロモーターと下流のDNAが結合していることを指す。
【0047】
また本発明の別の態様においては、T細胞エピトープを貯蔵タンパク質の中へ挿入し、該エピトープを貯蔵タンパク質の一部として発現・集積させる方法を提供する。
【0048】
上記方法の好ましい態様においては、まず、アレルゲン特異的なT細胞エピトープペプチドをコードするDNAを取得し、次いで、該DNAを、植物の貯蔵タンパク質の可変領域をコードするDNA領域へ挿入し発現させる。
【0049】
上記方法においてエピトープが挿入される貯蔵タンパク質における部位は、貯蔵タンパク質の可変領域であることが好ましい。「可変領域」とは、進化過程でアミノ酸配列の種類や長さなどで極めて変異に富んだ領域を言う。従って、外来ペプチドを挿入しても立体構造に影響を及ぼさないことから、外来ペプチドを貯蔵タンパク質の一部として集積することが可能であり、また貯蔵タンパク質の一部として挙動するため、導入した貯蔵タンパク質と同じ貯蔵部位に集積させることが可能である。
【0050】
本発明の可変領域としては、例えばイネのグルテリンの場合、酸性サブユニットの3ヶ所(グルテリンGluB-1遺伝子の場合N末端からアミノ酸140,210、270~310の領域)、および塩基性サブユニットのC末端領域を挙げることができ、これらの領域へ発現させたい所望の外来ペプチドを挿入することができる。また、上記のそれぞれの可変領域に本発明のエピトープを1個ずつ挿入することも可能である。また、グルテリンは11Sグロブリンファミリー(ダイズのグリシニンやエンバクのグロブリンが仲間)に属し、このファミリーに属するグルテリン以外のタンパク質であっても、上記で例示した可変領域へ、外来ペプチドを挿入することができる。ただし、イネグロブリン(エンバクグロブリンとは異なる仲間)の場合には、N末端から110くらいの可変領域にエピトープを挿入することが可能である。
【0051】
上記方法の一例を示せば、ヒトT細胞エピトープをグルテリン貯蔵タンパク質の一部として集積させるには、グルテリンGluA-2遺伝子、pREE99 cDNAクローンのグルテリン前駆体コード領域のアミノ酸残基No275から305の間(酸性サブユニットコード領域)に7crpコード領域96アミノ酸配列を1個(1×7crp)、または2個(2×7crp)直列に挿入して、グルテリンの一部として発現させる方法が挙げられる。
【0052】
上記方法において、本発明のエピトープをコードするDNAを、貯蔵タンパク質の可変領域をコードするDNA領域へ挿入することは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術を用いて容易に行い得ることである。
【0053】
上記方法において使用されるT細胞エピトープが貯蔵タンパク質の中へ挿入された構造を有するポリペプチドをコードするDNAもまた、本発明に含まれる。このようなDNAとしては、例えば、貯蔵タンパク質プロモーターの制御下に、(c)貯蔵タンパク質のアミノ酸配列中(好ましくは、可変領域)へ、アレルゲン特異的なT細胞エピトープペプチドが挿入された構造を有するポリペプチドをコードするDNA、を挙げることができる。通常、貯蔵タンパク質の上流に本来備わっているプロモーターを、上記のプロモーターとして利用することができる。
【0054】
また本発明は、本発明のDNAを含むベクター、および本発明のDNAもしくは本発明のベクターを保持する宿主細胞を提供する。本発明のベクターとしては、本発明のDNAを安定に保持するものであれば特に制限されない。本発明のベクターは、当業者においては、発現させたい植物の種類を適宜考慮して、公知の種々のベクターへ上記DNAをクローニングすることにより、作製することができる。公知ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0055】
本発明のベクターの一例として、後述の実施例に記載のベクターpGluBsig7CrpKDELを挙げることができる。本発明のベクターは、本発明のエピトープ集積方法に使用可能であり、T細胞エピトープ集積植物作製用ベクターとして有用である。
【0056】
本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の公知の細胞が用いられる。ここでいう「宿主細胞」には、種々の形態の植物細胞が含まれ、その形態としては、植物体に再生可能なあらゆる種類の形態の植物細胞が含まれる。例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根、カルスなどが含まれるが、これらに制限されない。また、本ベクターの保存、複製等が目的の場合には、本発明の宿主細胞は、必ずしも植物由来の細胞である必要はなく、例えば、大腸菌、酵母または動物細胞等であってもよい。
【0057】
宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクタミン法(GIBCO-BRL社製)、マイクロインジェクション法等の公知の方法で行うことができる。
【0058】
また本発明は、本発明の上記DNAもしくはベクターを植物へ導入することを特徴とするT細胞エピトープを植物に集積させる方法、並びに、本発明のDNAもしくはベクターを植物へ導入することを特徴とするT細胞エピトープを集積した植物の製造方法に関する。本発明の好ましい態様においては、本発明の方法を用いた、T細胞エピトープが集積したトランスジェニック植物の製造方法、および、本発明の方法を用いた、T細胞エピトープが集積したコメの製造方法を提供する。
【0059】
本発明のDNAを利用して、アレルゲン特異的なヒトT細胞エピトープが集積した形質転換植物体を作製する場合には、例えば、本発明のDNAを適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を生育(再生)させる。植物体の生育(再生)は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Tokiら (1995) Plant Physiol. 100:1503-1507参照)。例えば、イネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を生育(再生)させる方法(Datta,S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.) pp66-74)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を生育(再生)させる方法(Toki et al (1992) Plant Physiol. 100, 1503-1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を生育(再生)させる方法(Christou et al. (1991) Bio/technology, 9: 957-962.)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を生育(再生)させる方法(Hiei et al. (1994) Plant J. 6: 271-282.)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を適宜利用することができる。上記アグロバクテリウム法を用いる場合、例えばNagelらの方法(Microbiol. Lett., 1990, 67, 325.)が用いられる。この方法によれば、ベクターをアグロバクテリウム細菌中に形質転換して、次いで形質転換されたアグロバクテリウムを、リーフディスク法等の公知の方法により植物細胞へ導入する。
【0060】
また、本発明のDNAまたはベクターを導入する植物は、外植片であってもよく、これらの植物から培養細胞を調製し、得られた培養細胞に導入してもよい。本発明の「植物細胞」は、例えば葉、根、茎、花および種子中の胚盤等の植物細胞、カルス、懸濁培養細胞等が挙げられる。
【0061】
また、本発明のDNAまたは核酸の導入により形質転換された植物細胞を効率的に選択するために、本発明のDNAまたはベクターは、適当な選抜マーカー遺伝子を含む、もしくは選抜マーカー遺伝子を含むプラスミドベクターと共に植物細胞へ導入するのが好ましい。この目的に使用される選抜マーカー遺伝子は、例えば抗生物質ハイグロマイシンに耐性であるハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、カナマイシンまたはゲンタマイシンに耐性であるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ、および除草剤ホスフィノスリシンに耐性であるアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。
【0062】
組み換えベクターを導入した植物細胞は、導入された選抜マーカー遺伝子の種類に従って適当な選抜用薬剤を含む公知の選抜用培地に置床し培養する。これにより形質転換された植物培養細胞を得ることができる。
【0063】
形質転換細胞から再生させた植物体は、次いで順化用培地で培養する。その後、順化した再生植物体を、通常の栽培条件で栽培すると、植物体が得られ、成熟して結実して種子を得ることも可能である。
【0064】
なお、このように生育(再生)された形質転換植物体へ導入された本発明のDNAの存在は、公知のPCR法やサザンハイブリダイゼーション法によって確認することができる。この場合、形質転換植物体からのDNAの抽出は、公知のJ.Sambrookらの方法(Molecular Cloning, 第2版, Cold SpringHarbor laboratory Press, 1989)に準じて実施することができる。
【0065】
さらに本発明は、本発明の方法によって作出される、T細胞エピトープが集積したトランスジェニック植物(形質転換植物)、該植物に由来する細胞を提供する。例えば、本発明の方法により、スギ花粉アレルゲンヒトT細胞エピトープを種子に集積させた植物は、スギ花粉症緩和作物として有用である。
【0066】
一旦、本発明のT細胞エピトープが集積した形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明の方法により作出されるT細胞エピトープが集積したトランスジェニック植物の子孫またはクローン、該トランスジェニック植物あるいは子孫やクローン由来の細胞、繁殖材料、並びに種子が含まれる。本発明の種子は熱に安定な性質を有するものと期待される。本発明の好ましい態様においては、例えば、アレルゲン特異的なヒトT細胞エピトープが集積したコメ(イネ)を挙げることができる。
【0067】
さらに本発明は、アレルギー性疾患の治療または予防のための食品組成物を提供する。本発明の食品組成物は、本発明の方法によって作出される植物のエピトープが集積した部位(例えば、種子、コメ)、またはこれらから抽出されるエピトープを含む抽出物から構成される。より具体的には、本発明の方法によって得られるエピトープが集積した種子もしくはコメ、またはこれらから抽出される成分を含む、アレルギー性疾患の治療または予防のための食品組成物である。本発明の「組成物」は、必ずしも、種子もしくはコメにさらに複数種の物質が添加されている必要はなく、本発明の種子またはコメのみから構成される食品であってもよい。
【0068】
本発明の食品組成物は加熱等の調理法に供することも可能である。また、食品衛生上許容される配合物を混合して、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品等に加工して利用することができる。例えば安定化剤、保存剤、着色料、香料、ビタミン等の配合物を上記食品組成物に適宜添加し、混合し、常法により、錠剤、粒状、顆粒状、粉末状、カプセル状、液状、クリーム状、飲料等の組成物に適した形態とすることができる。
【0069】
また本発明の方法によって作出される植物由来のエピトープが集積した部位(種子、コメ等)を有効成分とする、アレルギー性疾患の治療または予防のための医薬組成物も、本発明に含まれる。
【0070】
本発明において、アレルギー性疾患(allergic disease)とはアレルギー反応の関与する疾患の総称である。代表的なアレルギー性疾患として例えば、花粉症、気管支喘息、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、または昆虫アレルギー等を示すことができる。また、アレルギー性疾患は、通常、I~IV型アレルギー反応を示す疾患に区別することができる。本発明のアレルギー性疾患としては、特に限定されるものではないが、好ましくはI型アレルギーである。I型アレルギーとしては、例えば、花粉症、ダニアレルギー、気管支喘息、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎等を挙げることができる。本発明のアレルギー性疾患として好ましくは、スギ花粉症またはダニアレルギーを挙げることができる。上記疾患に対応したアレルゲン特異的なエピトープを用いた本発明の方法によって、所謂テーラーメイド医療と呼ばれる治療への応用が期待される。
【0071】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕 T細胞エピトープ連結ペプチド発現プラスミドの作製とイネキタアケへの導入
スギ花粉アレルゲンT細胞エピトープ連結ペプチドをイネ種子中で発現させるための発現プラスミドを作製した。イネ種子主要タンパク質であるグルテリンGluB-1のプロモーター(従来は1.3kbを用いていたが、本発明では2.3kbを用いた;プロモーター活性は5倍以上高まる)、シグナル配列とT細胞エピトープ連結ペプチド遺伝子を連結した後、種子における外来遺伝子産物の集積量を向上させる機能を持つER係留シグナルKDEL配列をT細胞エピトープ連結ペプチドの3’末端に付加することにより、発現プラスミドpGluBsig7CrpKDELを構築した。2.3Kb GluB-1プロモーター配列、グルテリンシグナル配列、7crpエピトープ配列、KDEL配列、および0.6K GluB-1 3'配列を有する実施例において使用したDNAの塩基配列を配列番号:6に示し、該DNAによってコードされるアミノ酸配列を配列番号:7に示す。
【0072】
また、T細胞エピトープ連結ペプチド発現に対するシグナル配列やKDEL配列の作用を調べるため、pGluBsig7CrpKDELからシグナル配列を除いたプラスミドpGluB7CrpKDELやKDEL配列を除いたプラスミドpGluBsig7Crpを構築した。
【0073】
またイネの主要な貯蔵タンパク質であるグルテリン(GluA-2)の酸性サブユニットの可変領域に7crpペプチド配列を挿入して、7crpペプチドをグルテリンの一部として発現させた。これらのプラスミドをアグロバクテリア法によりイネキタアケに導入して、ハイグロマイシン耐性を指標として形質転換体の選抜を行った。これらの解析にはそれぞれのコンストラクトについて30系統以上の形質転換体を用いた。
【0074】
〔実施例2〕 形質転換体種子におけるT細胞エピトープ連結ペプチドの検出
シグナル配列を持たないpGluB7CrpKDEL形質転換体の登熟種子から全RNA画分を回収して、T細胞エピトープ連結ペプチド遺伝子をプローブとしたノーザン解析を行った。その結果、32系統のうち27系統で転写産物が検出されたことから、種子におけるT細胞エピトープ連結ペプチドの集積が期待された。
【0075】
そこで、完熟種子からタンパク質を抽出して電気泳動で分離した後、CBB染色あるいは特異抗体を用いたウェスタンブロット解析により可視化した。その結果、期待に反して、T細胞エピトープ連結ペプチドのシグナルは検出されなかった。その理由として、シグナル配列を持たないため、T細胞エピトープ連結ペプチドが粗面小胞体に移行せず細胞質へと移行して分解を受けているか、あるいは細胞外へ分泌されていることが考えられる。
【0076】
次に、シグナル配列を持つpGluBsig7CrpKDEL形質転換体の解析を行った。登熟種子から調製した全RNA画分に対するノーザン解析の結果、34系統のうち29系統で転写産物のシグナルが検出され、特に1番、5番、10番の系統で強いシグナルが認められた(図1)。そこで、系統番号10番の完熟種子から全タンパク質を調製して解析した結果、非形質転換体では認められない分子量約11,000の移動度を示すシグナルが検出された。この見かけの分子量はT細胞エピトープ連結ペプチドの遺伝子配列から推定される分子量11,229とよく一致することから、このシグナルがT細胞エピトープ連結ペプチドに由来するものであると判断した。
【0077】
次に、ウェスタンブロット解析におけるシグナル強度を指標として、種子中のT細胞エピトープ連結ペプチドの集積量を推定した。シグナル強度の基準タンパク質として、大腸菌で発現させ精製したT細胞エピトープ連結ペプチド-ヒスチジンタグ融合タンパク質を使用した。その結果、1番、10番、15番、17番、31番、34番などの系統で比較的多くのT細胞エピトープ連結ペプチドが蓄積した。このうち、最も高い集積量が認められた系統番号10番の種子では、全種子タンパク質の4 %に相当する60μgのT細胞エピトープ連結ペプチドの集積が確認された。
【0078】
一方、KDEL配列を除いたpGluBsig7Crp形質転換体について解析した結果、38系統のうち25系統で転写産物が検出され、完熟種子タンパク質に対するウェスタン解析の結果、T細胞エピトープ連結ペプチドの蓄積が認められた。しかし、KDEL配列を持つ pGluBsig7CrpKDEL形質転換体と比較すると、T細胞エピトープ連結ペプチドの蓄積量は大きく減少しており、最も高い蓄積量を示した系統の種子でも、全種子タンパク質の1.1 % に相当する16μgであった(図2)。
【0079】
以上の結果から、pGluBsig7CrpKDELプラスミドの導入により、イネ種子でのT細胞エピトープ連結ペプチドの生産に成功したこと、そしてT細胞エピトープ連結ペプチドの発現にはシグナル配列が必須であること、KDEL配列の付加により集積量が向上することが分かった。
【0080】
〔実施例3〕 イネに導入したT細胞エピトープ連結ペプチド遺伝子の検出
形質転換体のゲノムに導入されたT細胞エピトープ連結ペプチド遺伝子を検出してそのコピー数を同定するため、サザンブロット法による形質転換体のゲノムDNAの解析を行った。得られた形質転換体のうちT細胞エピトープ連結ペプチドの発現量の高い系統の形質転換体の葉からゲノムDNAを調製して制限酵素Sac Iで処理した後、T細胞エピトープ連結ペプチド遺伝子の全領域をプローブとして用いたサザンブロット解析を行った。形質転換に用いたプラスミドはSac Iにより1箇所だけ切断されることから、サザン解析で検出されるバンドの数がイネゲノムに導入されたT細胞エピトープ連結ペプチド遺伝子のコピー数に相当する。サザンブロット解析の結果、pGluBsig7CrpKDEL形質転換体では、1番では2コピー、10番では4コピー、17番では2コピーのT細胞エピトープ連結ペプチド遺伝子が形質転換体のゲノムに導入されていることが確認された。また、pGluBsig7Crp形質転換体では、17番で2コピー、19番で1コピー、25番では2コピーの遺伝子の導入が確認された(図3)。
【0081】
〔実施例4〕 イネ種子におけるT細胞エピトープ連結ペプチドの発現特性
T細胞エピトープ連結ペプチドの発現量が最も高いpGluBsig7CrpKDELの系統番号10番の種子に対して、種子登熟期におけるT細胞エピトープ連結ペプチドの発現経過を解析するため、開花後種々の時点で種子からタンパク質を抽出し、ウェスタンブロットにより解析した。T細胞エピトープ連結ペプチドのシグナルは、開花後 5日後に初めて検出され、その後徐々に増加し、完熟種子のレベルに至った。この結果は、GluB-1タンパク質を特異的に認識する抗体を用いて解析した GluB-1 タンパク質の発現経過とよく一致している(図4)。
【0082】
同様に、ノーザン分析により種子登熟過程での7crp遺伝子の発現パターンを調査した。7crp mRNAの発現レベルは開花後15日目でピークになり、その後減少することが示された。この発現パターンは7crp遺伝子の発現に用いたグルテリン遺伝子プロモーターときわめて類似していた(図5)。また、タンパク質同様、他の組織での発現はmRNAレベルでも検出されなかった。
【0083】
次に、pGluBsig7CrpKDEL 10番の種子におけるT細胞エピトープ連結ペプチドの発現部位を解析するため、登熟種子を胚、胚乳、穎に分離した後、それぞれの画分からタンパク質を抽出して、ウェスタンブロット解析を行った。その結果、T細胞エピトープ連結ペプチドのシグナルは、胚乳にのみ検出され、胚、穎、葉から抽出した試料ではシグナルは検出されなかった(図6)。また、形質転換体種子の断面切片を調製して特異抗体を用いた組織免疫染色解析を行ったところ、やはりT細胞エピトープ連結ペプチドのシグナルは、胚乳にのみ検出され、胚では検出されなかった。これらのことから、T細胞エピトープ連結ペプチドは、形質転換体種子の胚乳に特異的に蓄積されることが確認された。これらの結果は、GluB-1タンパク質や、GluB-1プロモーターとシグナル配列を用いた外来タンパク質の発現部位と一致することから、本発明で作出したT細胞エピトープ連結ペプチドの発現系においても、GluB-1プロモーターの特性が発揮されていることが示された。
【0084】
また、世代が進んだ形質転換体種子におけるT細胞エピトープ連結ペプチドの蓄積量の変化の有無を検討する目的で、pGluBsig7CrpKDEL形質転換体1番、10番、17番の系統それぞれについて T1、T2、T3 完熟種子を回収し、種子から抽出したタンパク質に対するウェスタンブロット解析を行った。その結果、1番、10番、17番全ての系統について、T1、T2、T3 種子でT細胞エピトープ連結ペプチドのシグナルに変化は認められなかった。このことから、形質転換体の世代が進んでも、T細胞エピトープ連結ペプチドは種子で生産され、その集積量は変化しないことが分かった(図7)。
【0085】
〔実施例5〕 イネ種子で発現するT細胞エピトープ連結ペプチド産物の特性
T細胞エピトープ連結ペプチドを最も多く集積するpGluBsig7CrpKDEL形質転換体10番の種子を対象として、沸騰水中で20分間加熱処理したときの種子中のT細胞エピトープ連結ペプチドの安定性を検討した。ウェスタンブロット解析によりT細胞エピトープ連結ペプチドのシグナルを比較した結果、加熱処理の前後で変化は認められなかった(図8)。このことから、炊飯器などでイネ種子を炊飯した後でも、種子中に集積したT細胞エピトープ連結ペプチドは安定であることが分かった。
【0086】
また、いくつかのアレルゲンタンパク質では、アレルゲンに結合している糖鎖がアレルギー反応を引き起こす主要な原因であることが指摘されている。本発明で研究対象としているスギ花粉アレルゲン由来のT細胞エピトープ連結ペプチドの場合、一次構造配列上典型的なN-型糖鎖結合配列は存在しないことから、糖鎖は結合していないと考えられる。そこで、イネ種子で生産されたT細胞エピトープ連結ペプチドに対して、糖鎖が結合していないことをペプチドレベルで確かめる実験を行った。
【0087】
エンドグリコシダーゼは、N-型糖鎖の結合部に作用して糖鎖を遊離する活性を持つ酵素であり、N-型糖鎖の解析に用いられている。N-型糖鎖が結合している場合は、エンドグリコシダーゼによりタンパク質から糖鎖が遊離されるため、反応の前後でタンパク質の分子量が変化する。そこで、イネの種子からT細胞エピトープ連結ペプチドを含むタンパク質画分を抽出してエンドグリコシダーゼと反応させ、ウェスタンブロットによりT細胞エピトープ連結ペプチドの分子量を解析した。その結果、エンドグリコシダーゼ反応前後でT細胞エピトープ連結ペプチドの分子量に変化が認められなかった(図9)。このことから、イネ種子で生産されたT細胞エピトープ連結ペプチドに対して、N-型糖鎖が結合していないことが示された。
【0088】
一方、pGluBsig7CrpKDEL形質転換体種子中に集積したT細胞エピトープ連結ペプチドのN末端アミノ酸残基の同定を目的として、種子タンパク質を抽出して二次元電気泳動により分離してPVDF膜に転写した後、特異抗体によりT細胞エピトープ連結ペプチドのシグナルを検出した。その結果、T細胞エピトープ連結ペプチドは塩基性タンパク質としての挙動を示した。この結果は、T細胞エピトープ連結ペプチドのアミノ酸配列から求められる推定等電点が 9.76であることと符合する。
【0089】
このT細胞エピトープ連結ペプチドのスポットを回収して、N末端アミノ酸配列解析を依頼した。その結果、N末端アミノ酸残基の同定は困難であり、N末端が修飾を受けていることが示唆された。そこで、被修飾末端を解析する方法として現在使用可能な試薬である、N-ホルミル基、N-ピログルタミル基、N-アセチル基それぞれの修飾基を特異的に遊離する酵素を利用して、それぞれの修飾基を除去した後、N末端アミノ酸配列解析を行うことにより、N末端残基の同定を試みた。しかし、T細胞エピトープ連結ペプチドのN末端のアミノ酸残基を同定することはできなかった。このことから、種子中のT細胞エピトープ連結ペプチドのN末端は、ホルミル基、ピログルタミル基、アセチル基以外の修飾を受けていることが示唆された。
【0090】
〔実施例6〕 T細胞エピトープ連結ペプチド発現系の導入によるイネアレルゲンタンパク質への影響
pGluBsig7CrpKDELの導入による種子の主要アレルゲンタンパク質への影響を調べるため、これらのアレルゲンに対する特異抗体を用いてウェスタンブロット解析を行った。その結果、非形質転換体種子と比較して、pGluBsig7CrpKDEL 10番の種子では、グルテリンAの前駆体の増加及び14 - 16 k アレルゲンタンパク質の減少が認められた。現在、これらの差異が認められる理由は不明である。その他のアレルゲン(26kおよび33k グロブリン)に対する抗体を使用した場合では、アレルゲンタンパク質のシグナルに認められるような変化はなかった(図10)。
【0091】
〔実施例7〕 ADPグルコースピロホスホリラーゼプロモーターによるT細胞エピトープ連結ペプチドの集積
スギ花粉アレルゲンT細胞エピトープ連結ペプチドをイネ種子中で発現させるための発現プラスミドを作製した。ADPグルコースピロホスホリラーゼのプロモーター、シグナル配列とT細胞エピトープペプチドを連結した後、KDEL配列、Nos-T配列を3’末端に付加することにより、発現プラスミドpAGPase sig7CrpKDELを構築した。プラスミドの構造を図11上段に示す。
【0092】
次に、7crp遺伝子の発現パターンを調査したところ、種子の胚乳および胚又は維管束でも発現し、器官としては種子で最も強く発現したことから、ADPグルコースピロホスホリラーゼプロモーターを用いても、種子で蓄積できることが分かった。
【0093】
次に、得られた形質転換体完熟種子中の7crpの集積量を、実施例2と同様にウェスタンブロットにより解析した。図11中段に7Crp集積量の定量結果を示す。2.3 k GluB-1 プロモーターを用いた場合に比べて7Crpの集積量は減少していたが、多くの系統で7Crpの集積が認められた。また、T0世代形質転換体の登熟期種子における7Crp遺伝子の転写産物を、ノーザン解析により検討した。結果を図11下段の写真に示す。
【0094】
上記よりグルテリンプロモーター以外のプロモーター(種子の胚乳および胚、または維管束でも発現し、器官としては種子で最も強く発現)を用いた場合であっても、本発明の集積方法を実施することが可能であることが示された。
【0095】
〔実施例8〕 可変領域へ2個の7crpを挿入した貯蔵タンパク質の集積
グルテリンGluA-2遺伝子のcDNAクローンpREE99の可変領域に、2個の7crpペプチドを直列に挿入し発現させた。図12上段に、プラスミドpREE99 2x7Crp の構造を示す。
【0096】
次に、得られた形質転換体完熟種子における7Crpの集積量を、実施例2と同様にウェスタンブロットにより定量した。可変領域に挿入された2個の7Crpは、グルテリンの一部として集積した。結果を図12中段に示す。また、T0世代形質転換体の登熟期種子におけるpREE99に挿入された7Crp遺伝子の転写産物をノーザン解析により検討した。結果を図12下段の写真に示す。
【0097】
【発明の効果】
本発明により、スギ花粉症を緩和(治療)する効果を持つT細胞エピトープ連結ペプチドのイネ種子における生産に成功した。本発明の成果によって、現在行われている化学合成法を用いたT細胞エピトープ連結ペプチド合成系や大腸菌での合成よりも、より低コストでの生産が可能になる。
【0098】
種子中に蓄積されたT細胞エピトープペプチドは室温で貯蔵されても極めて安定である(1年以上)。また生産量の制御も容易である。また特別な施設も必要とせず、圃場のみである。さらに、日常の食生活を通じて経口摂取することにより、従来行われてきた皮下注射等による投与に必要な費用、医療費を省くことができ、より低コストでT細胞エピトープ連結ペプチドを投与することが可能になる。これらの利点を持つイネ種子生産システムを活用することにより、アレルギー疾患に対するワクチンや生活習慣病を緩和するペプチドなど、医学的に有用な成分をより低コストで生産して供給するという、新しい事業の創出も期待される。
【0099】
【配列表】
JP0004512816B2_000003t.gifJP0004512816B2_000004t.gifJP0004512816B2_000005t.gifJP0004512816B2_000006t.gifJP0004512816B2_000007t.gifJP0004512816B2_000008t.gifJP0004512816B2_000009t.gifJP0004512816B2_000010t.gifJP0004512816B2_000011t.gifJP0004512816B2_000012t.gifJP0004512816B2_000013t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のベクター pGluBsig7CrpKDELによる形質転換体における7Crpの発現解析結果を示す図および写真である。上図は、プラスミド pGluBsig7CrpKDELの構造を示す図である。グルテリンGluB-1 遺伝子の 2.3 kプロモーターの制御により7Crp が発現する。中図は、得られた形質転換体完熟種子における7Crp 集積量の定量結果を示す図であり、系統番号 #1、#10、#15、#17、#31、#34番などの種子で比較的高い集積量が認められる。下図は、T0世代の形質転換体の登熟期種子(開花後15日ころ)における7Crp遺伝子の転写産物を解析したノーザン解析の結果を示す写真である。
【図2】 本発明のベクターpGluBsig7Crpによる形質転換体における7Crpの発現解析結果を示す図および写真である。上図は、プラスミドpGluBsig7Crpの構造を示す図であり、7Crp の3'末端にKDEL配列は付加されていない。中図は、得られた形質転換体完熟種子における7Crp集積量の定量結果を示す図である。図1の7Crp 3'末端にKDEL配列を付加した場合に比べて、7Crpの集積量が減少している。下図は、T0世代形質転換イネ登熟期種子における7Crp遺伝子の転写産物を解析したノーザン解析の結果を示す写真である。
【図3】 本発明のベクター pGluBsig7CrpKDELによる形質転換体のゲノムDNAのサザン解析の結果を示す写真である。非形質転換体イネおよび系統番号#1、#10、#17、#34番形質転換体の葉から抽出したゲノムDNA(10μg)を、制限酵素Sac Iで消化し、0.9 % (w/v)アガロース電気泳動により分離した後、ナイロン膜へ転写した。その後、ラジオアイソトープで標識した7Crp遺伝子全長DNAをプローブとして7Crp遺伝子の検出を行った。
【図4】 ウェスタン解析による種子登熟過程でのグルテリンと7Crpペプチドの発現パターンを示す写真である。本発明のベクター pGluBsig7CrpKDELによる形質転換体#10番の種子の全蛋白質を、開花後 5、10、15、20、25日の時点で抽出して、SDS-PAGEにより分離し、PVDF膜へ転写した。その後、抗グルテリン抗体あるいは抗7Crp抗体を用いて、グルテリンあるいは7Crpペプチドを検出した。
【図5】 ノーザン分析による種子登熟過程でのグルテリン遺伝子と7Crp遺伝子の発現パターンを示す写真である。本発明のベクター pGluBsig7CrpKDEL による形質転換体#10番の種子、葉、茎それぞれの全RNAを抽出して、アガロースゲル電気泳動により分離し、ナイロン膜へ転写した。その後、ラジオアイソトープで標識したグルテリンあるいは7Crp遺伝子全長DNAをプローブとして、グルテリンあるいは7Crpの転写産物を検出した。上図では25Sおよび17SのrRNAが可視化され、中図ではグルテリン、下図では7Crp の転写産物の解析結果が示されている。
【図6】 本発明のベクターpGluBsig7CrpKDELによる形質転換体#10番の種子中における7Crpペプチドの集積部位の解析結果を示す写真である。左図は、胚乳、胚、穎、葉それぞれから抽出した蛋白質画分に対する抗7Crp抗体を用いたウェスタン解析の結果を示す。右図では、抗7Crp抗体を用いた登熟種子断面の組織免疫染色の結果が示されている。7Crpのシグナルを可視化するため、抗ウサギIgGアルカリフォスファターゼ標識抗体を用いた。
【図7】 本発明のベクター pGluBsig7CrpKDEL による形質転換体のT1、T2、T3世代の種子における7Crpペプチドの集積量を比較した結果の写真である。ホモ接合体として選抜し、生育させた形質転換体(系統番号#1-3、#10-1、#10-4、#17-1)について、それぞれの世代の種子から全蛋白質を抽出して抗7Crp抗体を用いたウェスタン解析を行った。
【図8】 本発明のベクターpGluBsig7CrpKDELによる形質転換体種子に集積した7Crpペプチドの熱処理に対する安定性を解析した結果を示す写真である。形質転換体系統番号#10の種子を沸騰水中で20分間加熱した後、全蛋白質を抽出してSDS-PAGEで分離した。対照として、熱処理を行わない種子の全蛋白質を分離した。左図ではCBBを用いて蛋白質を可視化し、右図では抗7Crp抗体を用いたウェスタン解析により7Crpを検出した。
【図9】 本発明のベクター pGluBsig7CrpKDELによる形質転換体種子に集積した7Crpペプチドに対するN-結合型糖鎖の解析結果を示す写真である。まず、形質転換体系統番号 #10の種子から抽出した全蛋白質画分をN-グリコシダーゼFと反応させた。グリコシダーゼ反応のコントロール基質として、N-結合型糖蛋白質であるトランスフェリンおよびリボヌクレアーゼBを用いた。次に、酵素との反応の前後での基質分子量の変化をSDS-PAGEにより解析した。左図では抗7Crp抗体を用いたウェスタン解析により、右図ではCBBを用いた染色により、7Crpペプチドや基質蛋白質の可視化を行った。
【図10】 7Crp ペプチドの発現によるイネアレルゲン蛋白質の発現への影響を解析した結果を示す写真である。非形質転換体イネおよび形質転換体系統番号 #10の種子から抽出した全蛋白質をSDS-PAGEで分離した後、イネアレルゲン蛋白質それぞれを特異的に認識する抗体を用いたウェスタン解析により、アレルゲン蛋白質を検出した。
【図11】 本発明のベクターpAGPasesig7CrpKDELによる形質転換体における7Crpの発現解析結果を示す図および写真である。上図は、プラスミドpAGPase sig7CrpKDELの構造を示す図であり、7Crpの発現はADPグルコースピロホスホリラーゼのプロモーターにより制御される。中図は、得られた形質転換体完熟種子における7Crp集積量の定量結果を示す図である。2.3 k GluB-1プロモーターを用いた場合に比べて7Crpの集積量は減少しているが、多くの系統で7Crpの集積が認められる。下図は、T0世代形質転換体の登熟期種子における7Crp遺伝子の転写産物を解析したノーザン解析の結果である。
【図12】 本発明のベクターpREE99 2x7Crpによる形質転換体における7Crpの発現解析結果を示す図および写真である。上図は、プラスミド pREE99 2x7Crp の構造を示す図である。グルテリン GluA-2 遺伝子の cDNA クローン pREE99 の可変領域へ、 2 個の 7Crp が直列に挿入されている。中図は、得られた形質転換体完熟種子における 7Crp 集積量の定量結果を示す図であり、可変領域に挿入された 2 個の 7Crp はグルテリンの一部として集積する。下図は、T0 世代形質転換体の登熟期種子において pREE99 に挿入された 7Crp 遺伝子の転写産物を解析したノーザン解析の結果である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
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