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明細書 :乾燥耐性が高められた植物の作出における、ZPT2-3ジンクフィンガー型転写因子の利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4238358号 (P4238358)
公開番号 特開2005-073669 (P2005-073669A)
登録日 平成21年1月9日(2009.1.9)
発行日 平成21年3月18日(2009.3.18)
公開日 平成17年3月24日(2005.3.24)
発明の名称または考案の名称 乾燥耐性が高められた植物の作出における、ZPT2-3ジンクフィンガー型転写因子の利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 5/00 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 11
出願番号 特願2003-311535 (P2003-311535)
出願日 平成15年9月3日(2003.9.3)
審査請求日 平成18年3月14日(2006.3.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】高辻 博志
【氏名】菅野 正治
【氏名】上中 弘典
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
審査官 【審査官】山中 隆幸
参考文献・文献 The Plant Cell,1994年,vol.6,p.947-958
調査した分野 C12N15/00-15/90
BIOSIS/WPI(DIALOG)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
SwissProt/PIR/GeneSeq
PubMed
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記の(a)から(d)のいずれかに記載のDNAまたは該DNAが挿入されたベクターを含む、植物の乾燥耐性を高めるための薬剤。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:3に記載のアミノ酸配列と95%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1または10以内のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
【請求項2】
下記の(a)から(d)のいずれかに記載のDNAまたは該DNAが挿入されたベクターが導入された形質転換植物細胞であって、乾燥耐性が高められた植物体を再生しうる形質転換植物細胞。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:3に記載のアミノ酸配列と95%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1または10以内のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
【請求項3】
請求項2に記載の形質転換植物細胞から再生された、乾燥耐性が高められた植物体。
【請求項4】
請求項3に記載の植物体の子孫またはクローンである、乾燥耐性が高められた植物体。
【請求項5】
請求項3または4に記載の乾燥耐性が高められた植物体の繁殖材料。
【請求項6】
乾燥耐性が高められた植物体の製造方法であって、
(I)下記の(a)から(d)のいずれかに記載のDNAまたは該DNAが挿入されたベクターを植物細胞に導入する工程、
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:3に記載のアミノ酸配列と95%以上の同一性を示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1または10以内のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(II) 工程(I)においてベクターが導入された形質転換植物細胞から植物体を再生する工程、
を含む方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥耐性が高められた植物の作出における、ZPT2-3ジンクフィンガー型転写因子の利用に関し、主として植物育種の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
乾燥に対する植物の耐性は、様々な作物や園芸植物において栽培の省力化や栽培可能な地域の拡大に関わる重要な要素である。遺伝子組換えによる乾燥耐性の改良によって、乾燥した地域における作物栽培の困難さが克服できれば、世界的な食糧不足への対応策の一つとしての可能性が期待される。これまで、遺伝子組換えによって乾燥耐性が改善される実験例の報告として、トレハロース合成を高めたもの(非特許文献2;Garg et al., (2002)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 15898-15903)やパーオキシダーゼ遺伝子を導入したもの(非特許文献6;Llorente et al., (2002)Plant J. 32, 13-24.)などがある。また転写因子の遺伝子を用いて乾燥耐性を高めた例としてAP2ドメインをもつDREBの遺伝子を導入した例がある(非特許文献4;Kasuga et al., (1999)Nat Biotechnol 17, 287-291.)。
【0003】
ZPT2-3(EPF2-7から改名)はペチュニアのジンクフィンガー型転写因子である。本発明者らは以前、ペチュニアからその遺伝子を単離し、花器官に特異的に発現することを見出していたが、その機能については不明であった(非特許文献7;Takatsuji et al., (1994)Plant Cell 6, 947-958.)。最近、ZPT2-3遺伝子が傷害、低温、重金属処理によって発現誘導を受けること、この発現誘導にはジャスモン酸を介したシグナリング経路が関与していることを明らかにした。一方、この遺伝子は、成葉においては、乾燥処理や高塩濃度に対しては発現応答を示さないこともわかった(日本植物生理学会2001年度年会講演要旨集、第25回日本分子生物学会年会)。構造が類似しているジンクフィンガー遺伝子として、凍結耐性を与える大豆のSCOF-1(非特許文献5;Kim et al., (2001)Plant J. 25, 247-259.)や強光耐性を与えるアラビドプシスのRHL41(非特許文献3;Iida et al., (2000)Plant J. 24, 191-203.)、アルファルファの根粒形成に関与しているMszpt2-1(非特許文献1;Frugier et al.,(2000)organogenesis. Genes Dev. 14, 475-482.)が知られているが、植物に導入して乾燥耐性を付与する作用を示すジンクフィンガー遺伝子はこれまで知られていない。
【0004】

【非特許文献1】Frugier et al.,(2000)organogenesis. Genes Dev. 14, 475-482.
【非特許文献2】Garg et al., (2002)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 15898-15903.
【非特許文献3】Iida et al., (2000)Plant J. 24, 191-203.
【非特許文献4】Kasuga et al., (1999)Nat Biotechnol 17, 287-291.
【非特許文献5】Kim et al., (2001)Plant J. 25, 247-259.
【非特許文献6】Llorente et al., (2002)Plant J. 32, 13-24.
【非特許文献7】Takatsuji et al., (1994)Plant Cell 6, 947-958.
【非特許文献8】Takatsuji et al., (1992)EMBO J. 11, 241-249.
【非特許文献9】日本植物生理学会2001年度年会および第41回シンポジウム講演要旨集p.174
【非特許文献10】第25回日本分子生物学会年会プログラム・講演要旨集 p.809
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ジンクフィンガー型転写因子遺伝子を利用して、植物の乾燥耐性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ZPT2-3の機能を調べるため、CaMV 35Sプロモーターの制御下でZPT2-3遺伝子を過剰発現する形質転換ペチュニアを作製し、乾燥ストレス処理に対する耐性の有無を検討した。その結果、驚くべきことに、形質転換ペチュニアが、野生型と比較して、乾燥に対して顕著な耐性を示すことが明らかとなった。さらに、形質転換ペチュニアには生育や形態上の異常は認められなかったことから、ZPT2-3遺伝子の過剰発現が植物の生育等に悪影響を及ぼさないことも明らかとなった。すなわち、本発明者らはZPT2-3遺伝子を植物において発現させることにより、効率よく、植物の乾燥ストレス耐性を高めることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
従って、本発明は、植物の乾燥耐性を高めるための、ジンクフィンガー型転写因子をコードする遺伝子の利用に関するものであり、より具体的には、以下に記載の発明を提供するものである。
(1)下記の(a)から(d)のいずれかに記載のDNAまたは該DNAが挿入されたベクターを含む、植物の乾燥耐性を高めるための薬剤
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(2)下記の(a)から(d)のいずれかに記載のDNAまたは該DNAが挿入されたベクターが導入された形質転換植物細胞であって、乾燥耐性が高められた植物体を再生しうる形質転換植物細胞
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(3)(2)に記載の形質転換植物細胞から再生された、乾燥耐性が高められた植物体
(4)(3)に記載の植物体の子孫またはクローンである、乾燥耐性が高められた植物体
(5)(3)または(4)に記載の乾燥耐性が高められた植物体の繁殖材料
(6)乾燥耐性が高められた植物体の製造方法であって、
(I)下記の(a)から(d)のいずれかに記載のDNAまたは該DNAが挿入されたベクターを植物細胞に導入する工程、
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(II) 工程(I)においてベクターが導入された形質転換植物細胞から植物体を再生する工程、を含む方法
【発明の効果】
【0008】
ジンクフィンガー型転写因子遺伝子の導入により植物の乾燥耐性を高めることが可能となった。乾燥耐性の増大によって、作物や園芸植物の栽培の省力化が期待できる。また、作物の栽培地域の拡大が可能となり、食料不足問題の対応手段を提供しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、ジンクフィンガー型転写因子をコードする遺伝子を利用した植物の乾燥耐性を高めるための薬剤を提供する。
【0010】
本発明において「植物の乾燥耐性を高める」とは、対象植物の乾燥に対する耐性を野生型の植物と比較して向上させることをいう。ある遺伝子を含む薬剤が植物に乾燥耐性を誘導するか否かは、実施例5に示したように、該薬剤に含まれる遺伝子が発現している植物と野生型の植物を栽培した後、水やりを一定期間停止し、再度水やりを開始した後の生存率を調べることにより評価することができる。
【0011】
本発明の薬剤の有効成分としての、ジンクフィンガー型転写因子の遺伝子の好適な例としては、ペチュニア由来のZPT2-3タンパク質(配列番号:3)をコードするDNAを挙げることができる。例えば、配列番号:1または2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNAは、本発明において特に好適に用いることができる。
【0012】
本発明における植物に乾燥耐性を付与する薬剤に用いるDNAの形態に特に制限はなく、cDNAであってもゲノムDNAであってもよい。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。例えば、ゲノムDNAはジンクフィンガー型遺伝子の公知の塩基配列情報から適当なプライマー対を設計して、目的の植物から調製したゲノムDNAを鋳型にPCRを行い、得られる増幅DNA断片をプローブとしてゲノミックライブラリーをスクリーニングすることによって調製することができる。また、同様にプライマー対を設計して、目的の植物から調製したcDNAまたはmRNAを鋳型にPCRを行い、得られる増幅DNA断片をプローブとして用いてcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、ジンクフィンガー型転写因子をコードするcDNAを調製することができる。さらに市販のDNA合成機を用いれば、目的のDNAを合成により調製することも可能である。
【0013】
本発明の薬剤の有効成分としては、植物の乾燥耐性を高める機能を有している限り、ペチュニア由来のZPT2-3タンパク質(配列番号:3)に構造的に類似したタンパク質をコードするDNA(例えば、変異体、誘導体、アレル、バリアントおよびホモログ)を用いることもできる。このようなDNAには、例えば、配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAが含まれる。
【0014】
アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードするDNAを調製するための当業者によく知られた方法としては、例えば、site-directed mutagenesis法(Kramer, W.& Fritz,H.-J. (1987) Oligonucleotide-directed construction of mutagenesis via gapped duplex DNA.Methods in Enzymology, 154: 350-367)が挙げられる。また、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは、自然界においても生じ得る。このように天然型のZPT2-3タンパク質をコードするアミノ酸配列(配列番号:3)において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであっても、天然型のタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードする限り、本発明のDNAに含まれる。改変されるアミノ酸の数は、改変後のタンパク質が、植物の乾燥耐性を高める機能を有している限り、特に制限はないが、一般的には、50アミノ酸以内、好ましくは30アミノ酸以内、より好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内)である。アミノ酸の改変は、好ましくは保存的置換である。改変前と改変後の各アミノ酸についてのhydropathic index(Kyte and Doolitte,(1982) J Mol Biol. 1982 May 5;157(1):105-32)やHydrophilicity value(米国特許第4,554,101号)の数値は、±2以内が好ましく、さらに好ましくは±1以内であり、最も好ましくは±0.5以内である。
【0015】
また、たとえ、塩基配列が変異した場合でも、それがタンパク質中のアミノ酸の変異を伴わない場合(縮重変異)もあり、このような縮重変異体も本発明のDNAに含まれる。
【0016】
ペチュニア由来のZPT2-3タンパク質(配列番号:3)に構造的に類似したタンパク質をコードするDNAとしては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E.M. (1975) Journal of Molecular Biology, 98, 503)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K. et al. (1985) Science, 230, 1350-1354、Saiki, R. K. et al. (1988) Science, 239, 487-491)を利用して調製したものを用いることも可能である。即ち、本発明のDNAには、配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAが含まれる。このようなDNAを単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。本発明において「ストリンジェントな条件」とは、6M尿素、0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指すが、特にこれらの条件に限定されるものではない。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用いれば、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられるが、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。これにより単離されたDNAは、アミノ酸レベルにおいて、ペチュニア由来のZPT2-3タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:3)と高い相同性を有すると考えられる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%,96%,97%,98%,99%以上)の配列の同一性を指す。アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0017】
上記DNAを挿入するベクターとしては、植物細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターや外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることも可能である。上記DNAが挿入されたベクターは、例えば、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法等の当業者に公知の方法によって、植物細胞に導入することができる。アグロバクテリウムを介する方法においては、例えばNagelらの方法(Microbiol.Lett.,67:325(1990))にしたがって、上記DNAが挿入された発現ベクターをアグロバクテリウムに導入し、このアグロバクテリウムを直接感染法やリーフディスク法で植物細胞に感染させることにより、上記DNAを植物細胞に導入することができる。
【0018】
本発明における「薬剤」は、上記DNAや該DNAが挿入されたベクター自体であってもよく、また、これらが植物細胞への導入のための他の成分と混合されているものであってもよい。例えば、上記DNA,上記DNAを挿入したベクター、上記DNAが導入されたアグロバクテリウム、これらを含む生化学的試薬や溶液は、本発明における薬剤に含まれる。
【0019】
本発明は、上記DNAやベクターが導入された形質転換植物細胞であって、乾燥耐性が高められた植物体を再生しうる形質転換植物細胞を提供する。本発明における形質転換植物細胞は、上記DNAやベクターが導入された植物の細胞または細胞の集合であって植物体を再生しうるものであれば、その形態を問わない。例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどは本発明における植物細胞に含まれる。
【0020】
本発明は、上記形質転換細胞から再生された、乾燥耐性が高められた植物体を提供する。本発明における「乾燥耐性が高められた植物体」とは、野生型の植物体と比較して乾燥に対する耐性が人為的に向上されている植物体をいう。
【0021】
また本発明は、上記DNAが導入された細胞から再生された植物体のみならず、その子孫あるいはクローンをも提供する。一旦、ゲノム内に上記DNAやベクターが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫あるいはクローンを得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。
【0022】
さらに本発明は、乾燥耐性が高められた植物体の製造方法を提供する。製造方法は、上記DNAやベクターを植物細胞に導入する工程および上記DNAやベクターを導入された細胞から植物体を再生する工程を含む。
【0023】
形質転換植物細胞から植物体を再生する工程は、植物の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。例えば、ペチュニアにおいては、オーキシン(IAA:indole acetic acid)およびサイトカイニン(BAP:benzylaminopurine)を含む培地上でシュートを再生させた後、IBA(indole butyric acid)を含む培地上で発根させて生育させる(van der Meer, I.M. (1999), Methods Mol Biol 111, 327-334.)。トレニア、タバコ、ガーベラでも類似の方法で植物体を再生させることができる(Elomaa, P., Mehto, M., Kotilainen, M., Helariutta, Y., Nevalainen, L., and Teeri, T. H. (1998), Plant J 16, 93-109.)。その他の植物の植物体の再生方法としては、例えば、イネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2:603(1990))の方法が挙げられ、ジャガイモであればVisserら(Theor.Appl.Genet 78:594 (1989))の方法が挙げられ、シロイヌナズナであればAkamaら(Plant Cell Reports12:7-11 (1992))の方法が挙げられ、ユーカリであれば土肥ら(特開平8-89113号公報)の方法が挙げられる。
【実施例】
【0024】
[実施例1]ZPT2-3遺伝子の単離および発現
ZPT2-3遺伝子(EPF2-7から改名)は、すでに単離していた別のジンクフィンガー遺伝子EPF1(Takatsuji et al., (1992)EMBO J. 11, 241-249.)のcDNAをプローブとしてペチュニアのゲノムDNAのライブラリーをスクリーニングすることにより単離した(Takatsuji et al., (1994)Plant Cell 6, 947-958.)。単離した遺伝子の塩基配列を配列番号:1に示す。本遺伝子の発現は、傷、低温、重金属(Cd, Ni, Cu, Zn)によって誘導を受けることが判明している。一方、乾燥および塩処理に対しては、成葉を用いて実験した限りは、発現誘導が認められなかった。
[実施例2]ZPT2-3をコードするポリヌクレオチドを含む植物発現ベクターの構築
【0025】
ZPT2-3遺伝子を植物で構成的に発現させるためのベクターは以下のような手順で作製した。ZPT2-3遺伝子の全長コード領域を含むDNAを作製するには、ベクターpBluescript(ストラタジーンから購入)中に翻訳開始点周辺配列が欠損したZPT2-3遺伝子の配列を含むプラスミド中のXbaI-EcoRIサイト(ZPT2-3配列の5’側)に、上記欠損部分の配列をコードする相補的オリゴDNA(top鎖:5’-CTAGAGGATCCAACAATGGCACTTGAAGCATTG-3’/配列番号:4 およびbottom鎖:AATTCAATGCTTCAAGTGCCATTGTTGGATCCT/配列番号:5 をアニールしたもの)を挿入した(pBS-ZPT2-7F)。次に、pBS-ZPT2-7FをXhoIで切断、T4 DNAポリメラーゼで末端平滑化、XbaI切断して得たDNA断片をpBI121(クロンテックから購入)の35SプロモーターとNosターミネーターの間のXbaI-SacI(blunt)サイトに挿入した。構築されたZPT2-3遺伝子高発現ベクター(pBI121-35S::ZPT2-3)は、図1に示すように、CaMV35Sプロモーター領域(P35S, 0.8 kb)、本発明のZPT2-3 cDNAをコードするポリヌクレオチド(ZPT2-3, 0.8 kb)およびノパリン合成酵素のターミネーター領域(Tnos; 0.3 kb)を含む。ZPT2-3 cDNAの塩基配列を配列番号:2に示す。
[実施例3]各融合遺伝子のペチュニア細胞への導入
【0026】
(1)アグロバクテリウム・チュメファシエンスLBA4404株(Clontechから購入)を250g/mlのストレプトマイシンと50g/mlのリファンピシンを含むL培地中、28℃で培養した。Nagelら(1990) (Microbiol. Lett., 67:325) の方法に従って、細胞懸濁液を調製し、実施例2で構築したプラスミドベクターをエレクトロポレーションにより、上記菌株に導入した。
(2)各融合遺伝子をコードするポリヌクレオチドのペチュニア細胞への導入
【0027】
上記(1)で得られたアグロバクテリウム・チュメファシエンスLBA4404株をYEB培地(DNA Cloning第2巻、78頁)で振とう培養(28℃、200rpm)した後、滅菌水で20倍に希釈し、ペチュニア(Surfinia)の葉片と共存培養した。2から3日後、抗生物質を含む培地で上記細菌を除去し、2週間ごとに選択培地で継代し、上記2種類の融合遺伝子と共に導入されたpBINPLUS由来のNPTII遺伝子発現によるカナマイシン抵抗性の有無で形質転換されたペチュニア細胞を選抜し、常法によりカルスを誘導した後、植物体に再分化した(Jorgensen et al., (1996) Plant Mol. Biol. 31, 957-973.)。
[実施例4]ZPT2-3形質転換体におけるZPT2-3遺伝子の発現
【0028】
ZPT2-3遺伝子を導入・発現させた形質転換体19系統および野生型のペチュニアから全RNAを抽出し、10μgずつをアガロース電気泳動し、Genescreenplusフィルターにブロッティングした。DIG RNAラベリングキット(Boeringer Manheim)で標識したZPT2-3アンチセンスRNAを用い、ハイブリダイゼーションを行った結果を図2に示す。この結果から、形質転換体系統#5,6,14,22,24,33,34,35,36の9系統が導入ZPT2-3遺伝子を高レベルで発現していることが示された。
[実施例5]ZPT2-3形質転換体における乾燥耐性
【0029】
導入ZPT2-3遺伝子が高レベルで発現している系統のうち2系統(#34と#35、図2a)と非形質転換体(wild type)とを、パーライト:バーミキュライト(1:1)の人工土壌で発芽後4週間まで通常に栽培した後、30日間、水やりを停止して乾燥させる処理を行った。この時点でいずれの植物もしおれた状態になる。この後、再度水やりを開始し、1週間後の生存率を調べた。その結果、図2bのように、非形質転換体は回復せずにそのまま枯死するが、2系統の形質転換体の大部分は回復し、再び正常な生育を示すようになった。表1には、同様の実験を2回行った時の生存率の結果を示している。
【0030】
【表1】
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【0031】
これらの結果から、ZPT2-3遺伝子を35Sプロモーターの制御下に恒常的に発現させることによって、形質転換ペチュニアが乾燥に対する耐性を獲得することが示された。なお、これらの形質転換体は生育や形態上の異常は認められないことから、ZPT2-3遺伝子の過剰発現は植物の生育等にほとんど悪影響を及ぼさないと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ZPT-3の発現ベクターの構造を示す図である。
【図2】ZPT2-3遺伝子の過剰発現により乾燥耐性が高まったことを示す写真である。(a)野生型(WT)および35S::ZPT2-3形質転換ペチュニア(#1~#36)におけるZPT-3遺伝子の発現を示す。標識ZPT2-3アンチセンスRNAを用い、ハイブリダイゼーションを行った。形質転換体のうち#5,6,14,22,24,33,34,35,36の9系統が導入ZPT2-3遺伝子を高レベルで発現している。(b)2週間水やりを停止した後、1週間水やりをした後の植物を示す。野生型は回復せずにそのまま枯死するが、形質転換体は回復し、再び正常な生育を示した。
図面
【図1】
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【図2】
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