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明細書 :カイコのキヌレニン酸化酵素遺伝子をコードするDNAの利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4431739号 (P4431739)
公開番号 特開2005-143428 (P2005-143428A)
登録日 平成22年1月8日(2010.1.8)
発行日 平成22年3月17日(2010.3.17)
公開日 平成17年6月9日(2005.6.9)
発明の名称または考案の名称 カイコのキヌレニン酸化酵素遺伝子をコードするDNAの利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01K  67/033       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01K 67/033 501
請求項の数または発明の数 6
全頁数 15
出願番号 特願2003-387764 (P2003-387764)
出願日 平成15年11月18日(2003.11.18)
審査請求日 平成18年6月2日(2006.6.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】田村 俊樹
【氏名】小林 功
【氏名】全 国興
【氏名】神田 俊男
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
審査官 【審査官】吉森 晃
参考文献・文献 特開2003-088273(JP,A)
特開2003-088274(JP,A)
特開2000-000094(JP,A)
特開2002-306167(JP,A)
Mol. Genet. Genomics,2002年,Vol.267,pp.1-9
Nature Biotechnol.,2000年,Vol.18,pp.81-84
Insect Biochem. Molec. Biol.,1997年,Vol.27, No.12,pp.993-997
Insect Mol. Biol.,2003年10月,Vol.12, No.5,pp.483-490
調査した分野 C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
Science Direct
特許請求の範囲 【請求項1】
以下(a)~()のいずれかに記載のキヌレニン酸化酵素をコードするDNAを、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じた、第一白卵突然変異系統のカイコの卵に導入する工程を含む、カイコの皮膚を変色させる方法であって、キヌレニン酸化酵素をコードするDNAが、カイコの細胞質アクチンプロモーター領域と機能的に結合している、前記方法
(a)配列番号:1に記載のDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において30アミノ酸以内のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなり、カイコのキヌレニン酸化酵素と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、カイコのキヌレニン酸化酵素と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA。
【請求項2】
キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコが、第一白卵突然変異系統のカイコおよび着色非休眠卵系統のカイコを交配することで得られる白卵系統のカイコである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1齢幼虫の皮膚が変色する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
以下(a)~()のいずれかに記載のキヌレニン酸化酵素をコードするDNAを有効成分として含有する、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じた、第一白卵突然変異系統のカイコの皮膚を変色させるための薬剤であって、キヌレニン酸化酵素をコードするDNAが、カイコの細胞質アクチンプロモーター領域と機能的に結合している、前記薬剤
(a)配列番号:1に記載のDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において30アミノ酸以内のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなり、カイコのキヌレニン酸化酵素と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、カイコのキヌレニン酸化酵素と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA。
【請求項5】
キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコが、第一白卵突然変異系統のカイコおよび着色非休眠卵系統のカイコを交配することで得られる白卵系統のカイコである請求項に記載の薬剤。
【請求項6】
1齢幼虫の皮膚が変色する、請求項又は記載の薬剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はカイコのキヌレニン酸化酵素遺伝子をコードするDNAの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子操作技術を利用して、組み換えタンパク質を生産する方法には、大腸菌や酵母、哺乳動物の培養細胞、植物や動物の個体を使う方法等が知られている。昆虫を使った組み換えタンパク質の生産系については、これまでに鱗翅目昆虫の核多核体病ウイルスによる方法とトランスジェニックカイコを用いる方法(非特許文献1~7)が開発されている。前者はベクターとしてDNA型のウイルスを用いている。そのため、比較的容易に組み換えウイルスを作出し、これをカイコなどの幼虫個体に感染させることができる。感染後、ウイルスは昆虫の個体内で増殖し、これに伴ってウイルス中に導入した遺伝子から組み換えタンパク質が合成される。この場合、ウイルス感染後の幼虫は数日後には死滅し、死ぬ直前のカイコ体液を採取してタンパク質を精製する。そのため、生産できるタンパク質量は多くの場合、体液1ml当たり1mg以下で、精製に多くの労力を要するという問題点がある。トランスジェニックカイコに関しては、近年、トランスポゾンやマーカー遺伝子を利用した新しいトランスジェニックカイコの作出方法が開発された(非特許文献1~7)。該方法は、DNA型のトランスポゾンpiggyBacをベクターとして用いており、マーカー遺伝子としては緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子が用いられている。この方法は効率良く組み換え体を作ることができることから、有用なタンパク質の生産や新しい繊維の生産、ウイルス抵抗性を付与した品種の作出など多くの実用的な面で利用することができ、その研究の一部については既に着手されている。
【0003】
しかしながら、組み換え体をスクリーニングするためのマーカーとして用いるGFPを検出するには高価な蛍光実体顕微鏡を用いる必要があり、加えてこの遺伝子は他者により特許が取得されている。にもかかわらず、これまでのところ、特殊な装置が不要で、使用に制約の無いマーカー遺伝子は開発されていない。
【0004】
なお、本発明に関連する先行技術文献情報を以下に記す。

【非特許文献1】田村俊樹(1999)トランスポソンを利用した形質転換カイコの作出方法.第7回昆虫機能研究会講演要旨、p10-22.
【非特許文献2】Horn, C., B. Jaunich and E. A. Wimmer,(2000)Highly sensitive, fluorescent transformation marker for Drosophila transgenesis. Dev Genes Evol 210: 623-629.
【非特許文献3】Horn, C., and E. A. Wimmer,(2000)A versatile vector set for animal transgenesis. Dev Genes Evol 210: 630-637.
【非特許文献4】Thomas, J. L., M. Da Rocha, A. Besse, B. Mauchamp and G. Chavancy, 2002 3xP3-EGFP marker facilitates screening for transgenic silkworm Bombyx mori L. from the embryonic stage onwards. Insect Biochem Mol Biol 32: 247-253.
【非特許文献5】Tamura, T., Thibert, C., Royer ,C., Kanda, T., Abraham, E., Kamba, M., Komoto, N., Thomas, J.-L., Mauchamp, B., Chavancy, G., Shirk, P., Fraser, M., Prudhomme, J.-C. and Couble, P. (2000) A piggyBac element-derived vector efficiently promotes germ-line transformation in the silkworm Bombyx mori L. Nature Biotechnology 18, 81-84.
【非特許文献6】Berghammer, A. J., M. Klingler and E. A. Wimmer,(1999) A universal marker for transgenic insects. Nature 402: 370-371.
【非特許文献7】富田正浩、佐藤勉、安達敬泰、宗綱洋人、田村俊樹、神田俊男、吉里勝利(2001)ヒトコラーゲン遺伝子を組み込んだトランスジェニックカイコの作出.第24回日本分子生物学会年会講演要旨.
【非特許文献8】田村俊樹(2000)トランスジェニックカイコ:現状と展望.日蚕雑69、1-12.
【非特許文献9】田村俊樹(2000)カイコ発生における有用遺伝子導入.第21回基礎育種シンポジウム報告:動植物分子育種における発生工学的手法の展開。p23-29.
【非特許文献10】Tamura, T., Quan, G.X., Kanda, T., and Kuwabara, N. (2001) Transgenic silkworm research in Japan: Recent progress and future. Proceeding of Joint International Symposium of Insect COE Research Program and Insect Factory Research Project. p77-82.
【非特許文献11】Tomita M, M. H., Sato T, Adachi T, Hino R, Hayashi M, Shimizu K, Nakamura N, Tamura T, Yoshizato K.,(2003)Transgenic silkworms produce recombinant human type III procollagen in cocoons. Nat Biotechnol 21, 52-56.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的はカイコの組み換え体をスクリーニングするための新たなマーカー遺伝子の開発である。すなわち、本発明は、トランスジェニックカイコの選別マーカーとして、カイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAを利用する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
カイコには多くの突然変異系統があり、その中の一つの系統である第一白卵突然変異w-1の原因遺伝子がキヌレニン酸化酵素であること、w-1突然変異ではこの遺伝子の第9・10エクソンが欠失していることが明らかになっている(Quan, G.-X., Kim, I. Komoto, N., Sezutsu, H. Ote, M. Shimada, T., Kanda T., Mita, K., Kobayashi,M., and Tamura, T. (2002) Characterization of the kynurenine 3-monooxygenase gene corresponding to the white egg 1 mutant in the silkworm, Bombyx mori. Mol.Genet.Genomics 267, 1-9)。突然変異系統のカイコに野生型遺伝子を導入することにより、変異形質を野生型に戻すことができる。本発明者らは、組み換え体を作るためのホストとして突然変異系統を用いることにより、野生型の遺伝子を組み換え体を検出するためのマーカー遺伝子として利用することが可能であると考えた。このような観点から、本発明では、まず、トランスポゾンpiggyBac由来のベクターに野生型のカイコより作成したキヌレニン酸化酵素cDNAの上流にカイコの細胞質アクチンのプロモーターを繋いだ新しいベクタープラスミドの構築を行った。構築したベクターを利用して、第一白卵突然変異系統(w-1)のカイコおよび着色非休眠卵系統(pnd)のカイコを交配して得た白卵系統のカイコの卵に、アクチンプロモーターを持つキヌレニン酸化酵素cDNAを導入したところ、この遺伝子が導入された成虫の蛾の眼や次世代の卵色が茶褐色に変色することがわかった。さらに驚くべきことに、この遺伝子が導入された幼虫個体の皮膚も茶褐色に変色し、肉眼で同定することができることが判明した。
【0007】
即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔19〕を提供するものである。
〔1〕カイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAを、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコの卵に導入する工程を含む、カイコを変色させる方法。
〔2〕カイコの皮膚、眼、または卵を変色させる、〔1〕に記載の方法。
〔3〕カイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAを、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコの卵に導入する工程を含む、キヌレニン酸化酵素をコードするDNAをトランスジェニックカイコの選別マーカーとして用いる方法。
〔4〕以下の(a)および(b)の工程を含む、トランスジェニックカイコの製造方法。
(a)カイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAを、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコの卵に導入する工程
(b)該DNAが導入された卵から生じたカイコの中から、トランスジェニックカイコを選択する工程
〔5〕キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコが、第一白卵突然変異系統のカイコである〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコが、第一白卵突然変異系統のカイコおよび着色非休眠卵系統のカイコを交配することで得られる白卵系統のカイコである〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコに、カイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAが導入されたトランスジェニックカイコ。
〔8〕皮膚、眼、または卵が変色した〔7〕に記載のトランスジェニックカイコ。
〔9〕キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコが、第一白卵突然変異系統のカイコである〔7〕または〔8〕に記載のトランスジェニックカイコ。
〔10〕キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコが、第一白卵突然変異系統のカイコおよび着色非休眠卵系統のカイコを交配することで得られる白卵系統のカイコである〔7〕または〔8〕に記載のトランスジェニックカイコ。
〔11〕トランスポゾンに、カイコの細胞質アクチンプロモーター領域の下流にカイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAが機能的に結合したDNAが挿入されたベクター。
〔12〕トランスポソンの逆位末端反復配列の間に、カイコの細胞質アクチンプロモーター領域の下流にカイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAが機能的に結合したDNAが挿入されたベクター。
〔13〕〔11〕または〔12〕に記載のベクターとトランスポゾン転移酵素をコードするDNAを有するベクターを含むキット。
〔14〕カイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAを有効成分として含有する、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコを変色させるための薬剤。
〔15〕〔11〕または〔12〕に記載のベクターを有効成分として含有する、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコを変色させるための薬剤。
〔16〕〔13〕に記載のキットを有効成分として含有する、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコを変色させるための薬剤。
〔17〕カイコの皮膚、眼、または卵を変色させるための、〔14〕~〔16〕のいずれかに記載の薬剤。
〔18〕キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコが、第一白卵突然変異系統のカイコである〔14〕~〔17〕のいずれかに記載の薬剤。
〔19〕キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコが、第一白卵突然変異系統のカイコおよび着色非休眠卵系統のカイコを交配することで得られる白卵系統のカイコである〔14〕~〔17〕のいずれかに記載の薬剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明者らは、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコを組み換え体作出のためのホストとして利用することにより、カイコのアクチンをプロモーターとするカイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAが、組み換え体を検出するためのマーカー遺伝子として有効であることを見出した。このマーカー遺伝子はこれまで用いられてきたGFP遺伝子に比べ、検出のための蛍光顕微鏡などの装置が不要で、肉眼で組み換え体を見分けることができる。そのため、大量の個体を迅速にスクリーニングできる。また、カイコではキヌレニン酸化酵素をコードするDNAを導入した組み換え体は作出されたことがなく、個体に導入し、発現させた場合の影響は調べられていない。さらに、これまで用いられてきた蛍光タンパク質遺伝子と組み合わせ、数種類の遺伝子を導入した組み換えカイコを作るためにも有効であると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者らは、第一白卵突然変異系統(w-1)のカイコおよび着色非休眠卵系統(pnd)のカイコを交配して得た白卵系統のカイコの卵に、カイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAの上流にカイコの細胞質アクチンのプロモーターを繋いだベクタープラスミドを導入することによって、この遺伝子が導入された幼虫個体の皮膚、および成虫の蛾の眼や次世代の卵色が変色することを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0010】
本発明は、カイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAを、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコの卵に導入する工程を含む、カイコを変色させる方法を提供する。該遺伝子の導入による変色対象としては、カイコの皮膚、眼(複眼または単眼)またはカイコの卵が挙げられるが、より好ましくは、皮膚、複眼あるいは卵、さらにより好ましくは幼虫個体の皮膚が挙げられる。変色後の色の色相としては、好ましくは茶褐色~小豆色の範囲の色相、より好ましくは茶褐色または小豆色が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、改変後の色の濃度(明度)および彩度は特に制限されるものではない。
【0011】
カイコのキヌレニン酸化酵素はキヌレニンを3-ハイドロキシキヌレニンに変える酵素活性を有する。該活性は、Ogawaらの方法(Ogawa, H., and Hasegawa, K, (1975 )Kynurenine 3-hydoroxylase activity and follicle development in the silkworm, Bombyx mori. Insect Biochem., 5, 119-134)によって測定することができる。カイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAの塩基配列を配列番号:1に、カイコのキヌレニン酸化酵素のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
【0012】
本発明のカイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAは、配列番号:1の塩基配列に限定されるわけではなく、カイコのキヌレニン酸化酵素と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAも含まれる。「機能的に同等」とは、キヌレニンを3-ハイドロキシキヌレニンに酸化する活性を有することを意味し、該活性の有無は通常のキヌレニン酸化酵素活性の測定法(たとえば、Ogawa, H., and Hasegawa, K, (1975 )Kynurenine 3-hydoroxylase activity and follicle development in the silkworm, Bombyx mori. Insect Biochem., 5, 119-134)によって測定し、判定することができる。
【0013】
該タンパク質と機能的に同等なタンパク質には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質が含まれる。配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを調製するために、当業者によく知られた他の方法としては、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション技術(Southern EM: J Mol Biol 98: 503, 1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki RK, et al: Science 230: 1350, 1985、Saiki RK, et al: Science 239: 487, 1988)を利用する方法が挙げられる。
【0014】
本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、6M 尿素、0.4% SDS、0.5×SSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M 尿素、0.4% SDS、0.1×SSCの条件下では、より相同性の高いDNAを単離できると期待される。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上の配列の同一性を指す。また、変異体における、変異するアミノ酸数は、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、より好ましくは5アミノ酸以内、さらに好ましくは3アミノ酸以内であり、よりさらに好ましくは2アミノ酸以内である。アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873, 1993)を用いて判定することができる。
【0015】
また、本発明においてカイコの卵に導入される、カイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAとしては、カイコの細胞質アクチンプロモーター領域の下流にカイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAが機能的に結合したDNAが好ましい。本発明はこのようなDNAもまた、提供するものである。
【0016】
ここで、「機能的に結合した」とは、プロモーター領域に転写因子が結合することにより、プロモーター領域の下流に存在するカイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAの発現が誘導されるように、該プロモーターと該DNAとが結合していることをいう。従って、該DNAが他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、該プロモーターに転写制御因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。
【0017】
本発明におけるキヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域(コード領域、プロモーター領域、非翻訳領域を含む)に変異が生じたカイコとしては、好ましくは、w-1座位に変位が生じた結果白卵となる第一白卵突然変異系統のカイコ(w-1)であり、より好ましくは、第一白卵突然変異系統のカイコおよび着色非休眠卵系統のカイコを交配することで得られる白卵系統の非休眠カイコである。着色非休眠卵系統のカイコとしては好ましくはpndまたはpnd-2であり、より好ましくはpndであるが、これに限定されない。第一白卵突然変異系統のカイコおよび非休眠卵系統のカイコを交配することで得られる白卵系統のカイコとしては、w-1,pndが好ましいが、これに限定されず、その他の組み合わせも可能である。ここで、非休眠卵系統とは、非休眠卵を産下する性質を有する突然変異系統を意味する。また、非休眠卵とは産卵後胚発生が停止せず、幼虫が孵化する卵を言い、休眠卵とは産卵後胚発生が一時的に停止する卵を言う。
【0018】
本発明においては、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じた休眠卵を産下する性質を有するカイコに非休眠卵を産下させることもできる。すなわち、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコと、休眠卵を産下する性質を有するカイコ(例えば実用品種であるぐんま、200、春嶺、鐘月、錦秋、鐘和等)の交配によって得られた、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異を有するカイコに非休眠卵を産下させることができる。非休眠卵を産下させる工程を経るのは、休眠卵のままで外来遺伝子を導入するとふ化までに少なくとも数ヶ月を要し、事実上トランスジェニックカイコの作製に利用できないからである。非休眠卵を産下させる方法としては、例えば、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異を有するぐんまにおいては、休眠卵を15℃~21℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、好ましくは休眠卵を16℃~20℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、より好ましくは休眠卵を18℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、最も好ましくは休眠卵を18℃で培養することで該休眠卵から生じた幼虫を全明で飼育し、生育した成虫に非休眠卵を産下させる方法を挙げることができる。また、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異を有する200においては、休眠卵を15℃~21℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、好ましくは休眠卵を16℃~20℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、より好ましくは休眠卵を18℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、または休眠卵から生じた幼虫を全明で飼育し、生育した成虫に非休眠卵を産下させる方法、最も好ましくは休眠卵を25℃で培養することで該休眠卵から生じた幼虫を全明で飼育し、生育した成虫に非休眠卵を産下させる方法が挙げられる。
【0019】
卵の培養は、例えば、18℃~25℃のインキュベーター、または定温の部屋に入れることによって行うことができ、幼虫の飼育は20℃~29℃の飼育室で人工飼料を用いて行うことができる。
【0020】
本発明において、日長条件とは卵の培養、または幼虫の飼育中における一日毎の明暗サイクルを意味する。このような条件としては明条件と暗条件があり、特に全明条件とは暗の無い24時間明の条件を意味する。日長条件は、品種に応じて変化させることができる。
【0021】
本発明の上記休眠卵の培養は、当業者においては、一般的なカイコ卵の培養法に従って行うことができる。例えば、「文部省(1978)蚕種製造.pp193、実教出版社、東京」に記載の方法に従って培養を行う。また、本発明におけるカイコ幼虫の飼育は、当業者においては、周知の方法によって行うことができる。例えば、「文部省(1978)蚕種製造.pp193、実教出版社、東京」に記載の方法に従って飼育を行う。
【0022】
変異が人為的か否かに関わらず、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコであれば、本発明のカイコに含まれる。例えば、2重鎖のRNAを用いることにより、カイコのある遺伝子の機能が欠損した所謂トランスジェニックカイコの作製も可能である(Quan, G. X., Kanda, T. and Tamura, T.(2002):Induction of the white egg 3 mutant phenotype by injection of the double-stranded RNA of the silkworm white gene. Insect Molecular Biology 11217-222)。また、カイコのある遺伝子の機能が欠損した所謂トランスジェニックカイコの作製は、ウイルスをベクターとして用いることによっても行うことができる(Yamao, M., Katayama, N., Nakazawa, H., Yamakawa, M., Hayashi, Y., Hara, S., Kamei, K., & Mori, H. (1999). Gene targeting in the silkworm by use of a baculovirus. Genes Dev, 13(5), 511-516.)。
【0023】
このように作出されたカイコにおいて、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じているか否かは、カイコの皮膚、眼、または卵などの色で判定することができる。カイコの皮膚、眼、または卵などが変色していれば、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じていると判定することができる。
【0024】
カイコ卵へのDNAの導入は、例えば、カイコの発生初期卵へ、トランスポゾンpiggyBacをベクターとして注射する方法(Tamura, T., Thibert, C., Royer ,C., Kanda, T., Abraham, E., Kamba, M., Komoto, N., Thomas, J.-L., Mauchamp, B., Chavancy, G., Shirk, P., Fraser, M., Prudhomme, J.-C. and Couble, P., 2000, Nature Biotechnology 18, 81-84)に従って行うことができる。
【0025】
例えば、トランスポゾンの逆位末端反復配列(Handler AM, McCombs SD, Fraser MJ, Saul SH.(1998) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95(13):7520-5)の間にカイコの細胞質アクチンプロモーター領域の下流にカイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAが機能的に結合したDNAを挿入したベクターとともに、トランスポゾン転移酵素をコードするDNAを有するベクター(ヘルパーベクター)をカイコ卵に導入する。ヘルパーベクターとしては、pHA3PIG (Tamura, T., Thibert, C., Royer ,C., Kanda, T., Abraham, E., Kamba, M., Komoto, N., Thomas, J.-L., Mauchamp, B., Chavancy, G., Shirk, P., Fraser, M., Prudhomme, J.-C. and Couble, P., 2000, Nature Biotechnology 18, 81-84)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0026】
本発明におけるトランスポゾンとしては、piggyBacが好ましいが、これに限定されるものではなく、マリーナ(mariner)、ミノス(minos)等を用いることもできる(Shimizu, K., Kamba, M., Sonobe, H., Kanda, T., Klinakis, A. G., Savakis, C. and Tamura, T. (2000) Insect Mol. Biol., 9, 277-281;Wang W, Swevers L, Iatrou K.(2000) Insect Mol Biol 9(2):145-55)。
【0027】
また、本発明では、バキュロウイルスベクターを使用することによりトランスジェニックカイコを作出することも可能である(Yamao, M., N. Katayama, H. Nakazawa, M. Yamakawa, Y. Hayashi et al., 1999, Genes Dev 13: 511-516)。
【0028】
以下、カイコ卵へのDNAの導入方法の具体例を記すが、本発明におけるカイコ卵へのDNAの導入方法は、この方法に限定されるものでない。例えば、カイコ卵へDNA注入用の管を使用して直接卵内へDNAを導入することが可能であるが、好ましい態様としては、前もって物理的または化学的に卵殻に穴を空け、該穴からDNAを導入する。この際、DNA注入用の管を挿入角度が該卵の腹側の側面に対してほぼ垂直となるように該穴から卵内に挿入することができる。
【0029】
本発明において、物理的に卵殻に穴を空ける方法としては、例えば針、微小レーザー等を用いて穴を空ける方法が挙げられる。好適には針を用いた方法によって卵殻に穴を空けることができる。該針は、カイコの卵殻に穴を空けることができるものであれば、その針の材質、強度等は、特に制限されない。なお、本発明における針とは、通常、先端が尖った棒状の針を指すが、この形状に限定されず、卵殻に穴を空けることができるものであれば、全体の形状は特に制限されない。例えば、先端の尖ったピラミッド型の物質、または先端の尖った三角錐の形状の物質もまた、本発明の「針」に含まれる。本発明においては、タングステン針を好適に使用することができる。本発明の針の太さ(直径)は、後述のキャピラリーが通過可能な穴を空けることができる程度の太さであればよく、通常2~20μm、好ましくは5~10μmである。一方、化学的に卵殻に穴を空ける方法としては、例えば薬品(次亜塩素酸等)等を用いて穴を空ける方法が挙げられる。
【0030】
本発明において、穴を空ける位置としては、該穴からDNA注入用の管を挿入した場合に卵の腹側の側面に対する挿入角度を、ほぼ垂直にできる位置ならば特に制限はないが、好ましくは腹側の側面またはその反対側であり、より好ましくは腹側の側面であり、さらにより好ましくは卵の腹側側面のやや降誕よりの中央部である。
【0031】
本発明において、「ほぼ垂直」とは、70°~120°を意味し、好ましくは80°~90°を意味する。本発明において、「将来的に生殖細胞になる位置」としては、通常、卵の腹側の卵表に近い位置(通常、卵表から0.01mm~0.05mmの位置)であり、好ましくは、卵の腹側中央の卵表に近い位置でやや後極よりの位置である。
【0032】
本発明のDNA注入用の管は、その管の材質、強度、内径等は特に制限されないが、DNA注入用の管を挿入する前に、物理的または化学的に卵殻に穴を空ける場合は、空けられた穴を通過できる太さ(外径)であることが好ましい。本発明のDNA注入用の管としては、例えば、ガラスキャピラリー等を挙げることができる。
【0033】
本発明のDNAの導入方法において、好ましい態様としては、上記のカイコ卵に物理的または化学的に穴を空け、DNA注入用の管を挿入角度が該卵の腹側の側面に対してほぼ垂直となるように該穴から卵内に挿入し、DNAを注入する工程を、針とDNA注入用の管が一体型となったマニュピュレーターを使用して行う。通常、該マニュピュレーターを構成要素の1つとする装置を使用して本発明は好適に実施される。
【0034】
このような装置としては、解剖顕微鏡、照明装置、可動式のステージ、顕微鏡に金具で固定した粗動マニュピュレーター、このマニュピュレーターに付けたマイクロマニュピュレーター、DNAを注射するための空気圧を調整するインジェクターから構成されている。インジェクターに用いる圧力は窒素ボンベから供給され、圧力のスイッチはフットスイッチによっていれることができる。注射はガラススライド等の基板上に固定した卵に対して行い、卵の位置は移動式のステージによって決める。また、マイクロマニュピュレーターのガラスキャピラリーは4本のチューブで繋がれた操作部によって操作する。実際の手順は、卵に対するタングステン針の位置を粗動マニュピュレーターで決め、ステージのレバーで水平方向に卵を動かし穴を空ける。続いて、マイクロマニュピュレーターの操作部のレバーを操作して、穴の位置にガラスキャピラリーの先端を誘導し、再びステージのレバーによりキャピラリーを卵に挿入する。この場合、卵の腹側の側面に対し垂直にガラスキャピラリーが挿入される必要がある。フットスイッチを入れDNAを注射し、レバーを操作して卵からキャピラリーを抜く。空けた穴を瞬間接着剤等でふさぎ、一定の温度および、一定の湿度のインキュベーターで保護する。本発明に使用される装置としては、好適には、特許第1654050号に記載の装置または該装置を改良した装置が挙げられる。
【0035】
また、本発明の態様においては、DNAの導入に用いるカイコ卵が基板に固定されていることが好ましい。本発明の基板として、例えば、スライドグラス、プラスチック板等を用いることができるが、これらに特に制限されない。本発明の上記態様においては、カイコ卵内の将来的に生殖細胞になる位置に正確にDNAを注射するために、卵の方向を揃えて固定することが望ましい。また、上記態様においては、基板へ固定するカイコ卵の数には、特に制限はない。また、複数個のカイコ卵を用いる場合、カイコ卵を基板へ固定する方向性としては、好ましくは背腹の向きが一定となるような方向である。本発明の上記カイコ卵の基板への固定は、例えば、水性の糊をあらかじめ塗布した市販の台紙(バラ種台紙)の上に産卵させ、台紙に水を加えて卵をはがし、次いで濡れた状態の卵を基板に整列させ、風乾することによって行う。卵をスライドグラス上に卵の方向を揃えて固定することが好ましい。また、卵の基盤への固定は両面テープや接着剤等を用いることによっても可能である。
【0036】
カイコ卵にDNAが導入されたかどうかを調べる方法として、例えば、注射したDNAを卵から再度抽出して測定する方法(Nagaraju, J., Kanda, T., Yukuhiro, K., Chavancy, G., Tamura, T., & Couble, P. (1996). Attempt of transgenesis of the silkworm(Bombyx mori L) by egg-injection of foreign DNA. Appl. Entomol. Zool., 31, 589-598)や、注射した遺伝子としてのDNAの卵内での発現を見る方法(Tamura, T., Kanda, T., Takiya, S., Okano, K., & Maekawa, H. (1990). Transient expression of chimeric CAT genes injected into early embryos of the domesticated silkworm, Bombyx mori. Jpn. J. Genet., 65, 401-410)等を挙げることができる。
【0037】
また、上述の方法を使用することにより、トランスジェニックカイコの選別が可能となる。すなわち、本発明は、カイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAを、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコの卵に導入する工程を含む、トランスジェニックカイコの選別マーカーとして用いる方法も提供する。
【0038】
本発明において、「選別マーカー」とは、変色したトランスジェニックカイコと、変色していないトランスジェニックカイコとを、肉眼、あるいは顕微鏡を用いて選別する際の指標になりうるマーカーを意味する。
【0039】
また、本発明は、カイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAを、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコの卵に導入する工程、および、該DNAが導入された卵から生じたカイコの中からトランスジェニックカイコを選択する工程を含む、トランスジェニックカイコの製造方法を提供する。該DNAをカイコの卵に導入する工程は上述の方法を用いることができる。また、上述のように、カイコの色を指標としてトランスジェニックカイコを選択することができる。
【0040】
本発明は、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコに、カイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAが導入されたトランスジェニックカイコを提供する。このようなカイコとしては、皮膚、眼、または卵が変色したトランスジェニックカイコが挙げられる。また、好ましくは、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコが、第一白卵突然変異系統のカイコであるトランスジェニックカイコであり、より好ましくは、第一白卵突然変異系統のカイコおよび着色非休眠卵系統のカイコを交配することで得られる白卵系統のトランスジェニックカイコである。該トランスジェニックカイコの状態は特に制限はなく、例えば卵の状態であってもよい。
【0041】
本発明は、上述の方法に用いるベクターやそのキットを提供する。すなわち、トランスポゾンにカイコの細胞質アクチンプロモーター領域の下流にカイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAが機能的に結合したDNAが挿入されたベクター、より好ましくは、トランスポゾンの逆位末端反復配列の間にカイコの細胞質アクチンプロモーター領域の下流にカイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAが機能的に結合したDNAが挿入されたベクターを提供する。このようなベクターとしては、piggyBac由来のベクター(Tamura, T., et al., 2000, Nature Biotechnology 18, 81-84)のトランスポソンの逆位末端反復配列の間に細胞質アクチン遺伝子の上流領域とイントロン675bpの下流にカイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNAが機能的に結合したDNA(配列番号:3に相当するポリヌクレオチド配列)が挿入されたベクターが挙げられる。また、上記ベクターと、トランスポゾン転移酵素をコードするDNAを有するベクター(ヘルパーベクター)を含むキットも提供する。該ヘルパーベクターとしては、pHA3PIG(Tamura, T., et al., 2000, Nature Biotechnology 18, 81-84)が挙げられる。さらに本発明は、本発明のDNA、ベクターおよびキットの用途も提供する。すなわち、カイコのキヌレニン酸化酵素をコードするDNA、ベクター、および/またはキットを有効成分として含有する、キヌレニン酸化酵素をコードする遺伝子領域に変異が生じたカイコを変色させるための薬剤としての用途も提供することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕
カイコの第一白卵突然変異系統(w-1)及びこの系統の発生初期胚へのDNA注射を容易にするための着色非休眠卵系統(pnd)は行政独立法人農業生物資源研究所より入手した。この2系統を交配し、白卵系統を選抜することにより、w-1,pnd系統を作出した。第一白卵系統のカイコの眼と卵は白色、皮膚は孵化直後が褐色で1齢後期には白くなる。なお、野生型カイコの眼と卵は茶褐色であり、皮膚は1齢3日目以後は白色である。
【0043】
野生型のキヌレニン酸化酵素cDNAはQuanら(2002)によって作成されたものを用いた。このcDNAの上流にPCRによってカイコの細胞質アクチン遺伝子の上流領域約450bpを繋いだ。また、下流にはSV40のpolyAシグナルを挿入した。得られた遺伝子をトランスポゾンpiggyBac由来のベクターpA3GFPに挿入し、ベクター中にGFPとキヌレニン酸化酵素の両方が挿入されたベクターを作出した(図1)。
【0044】
〔実施例2〕
次に、ホスト系統として用いたw-1,pnd系統の卵に上述の新しく作出されたベクタープラスミドと遺伝子の導入を促す転移酵素を生産するヘルパープラスミドを同時に注射した。より具体的には、ベクタープラスミドとヘルパープラスミドpHA3PIG(Tamura, T., et al., 2000, Nature Biotechnology 18, 81-84)を混合し、それぞれ0.2mg/mlの濃度で5mMKCLを含む0.5mMリン酸緩衝液に溶かし、これを産卵後3~6時間の卵に注射した。DNAの注射はTamura, T., et al., 2000, Nature Biotechnology 18, 81-84に記載の方法によって行った。
【0045】
注射した卵から孵化した個体は人工飼料(日本農産工、原種用)によって飼育した。約700の卵にDNAを注射し、約50蛾の次世代の幼虫をスクリーニングした結果、目的とする組み換えカイコが3系統得られた。
【0046】
これらのカイコを系統化するため、組み換え体の蛾にホスト系統であるw-1,pndを戻し交配し、得られた蛾区から孵化した次世代のカイコの1齢3日目の幼虫を肉眼と蛍光顕微鏡で観察した結果、遺伝子の挿入の無いものと比較して、幼虫の皮膚が茶褐色を帯びていた(図2)。茶褐色に変色していないホスト型の皮膚の幼虫との分離比は図からも分かるように1:1であった。これらのカイコが本当に組み換えカイコであるかどうかを確認するため、ベクターに存在するもう一つのマーカー遺伝子であるGFPの発現を調べた結果、皮膚の色の変わっているものは全てGFPを発現していた。さらにこれらの系統の蛾や次世代における卵色を調べた結果、図3に示したようにどの系統においても、蛾の眼も卵色も茶褐色になった。しかしながら、茶褐色になる度合いは眼色と卵色いずれにおいても組み換え系統129において高く、他の2系統は同程度でやや低い傾向にあった。
【0047】
〔実施例3〕
次に、キヌレニン酸化酵素が導入されたカイコにおいて、導入した遺伝子が発現しているかどうかを調べた。形態が変化した個体から絹糸腺を摘出し、DNAの精製を行い、サザンブロッテイングにより、遺伝子が挿入されていることを確認した。また、遺伝子の発現はRTPCRによって調べた。
【0048】
その結果、図4に示したようにどの系統においても導入した遺伝子由来のバンドがみられ、各組織で発現していることが分かった。発現レベルは系統129において強く、他の系統はやや低い傾向にあった。この結果は眼色や卵色の結果と良く一致し、茶褐色になる度合いは導入した遺伝子の発現レベルに依存していることがわかった。
【0049】
さらに、これらの系統における遺伝子の導入位置を調べるため、挿入部位の両側をPCRで増幅し、オートシークエンサーにより塩基配列を決定した。その結果、図5に示したように系統50と66は同じ配列であることが分かり、由来が同じの系統と判断された。
【0050】
以上の結果から、カイコの細胞質アクチンをプロモーターとする野生型カイコのキヌレニン酸化酵素遺伝子はカイコの皮膚や眼、卵色を茶褐色に変える能力があり、組み換え体をスクリーニングする場合のマーカー遺伝子として利用できることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】組み換えカイコ作出のために用いたベクターの構造を示す図である。SV40:SV40のポリAシグナル、GFP:緑色蛍光タンパク質遺伝子、A3およびA3P:カイコの細胞質アクチン遺伝子のプロモーター領域、KMO:野生型のカイコのキヌレニン酸化酵素遺伝子、R arm:トランスポゾンpiggyBacの右側逆位末端反復配列、L arm:トランスポゾンpiggyBacの左側逆位末端反復配列、pUC18:プラスミドpUC18の配列
【図2】キヌレニン酸化酵素遺伝子が導入された組み換えカイコを示す写真である。組み換えカイコを矢印で示す。
【図3】蛾の眼の色と産卵3日後の卵色を示す写真である。w-1:ホストとして用いた第1白卵突然変異系統、50:キヌレニン酸化酵素遺伝子を導入された組み換えカイコ系統50、66:キヌレニン酸化酵素遺伝子を導入された組み換えカイコ系統66、129:キヌレニン酸化酵素遺伝子を導入された組み換えカイコ系統129、眼:各系統の蛾の眼、卵:各系統の卵色
【図4】キヌレニン酸化酵素遺伝子を導入した組み換え系統の幼虫期における導入遺伝子の発現を示す写真である。遺伝子の発現レベルは各組織から抽出したRNAよりcDNAを合成し、RTPCRによって調べた。w-1:ホストとして用いた第1白卵突然変異系統、50:キヌレニン酸化酵素遺伝子を導入された組み換えカイコ系統50、66:キヌレニン酸化酵素遺伝子を導入された組み換えカイコ系統66、129:キヌレニン酸化酵素遺伝子を導入された組み換えカイコ系統129、KMO:導入したキヌレニン酸化酵素遺伝子の発現、A3:内在性のアクチン遺伝子の発現(対照)、1:絹糸腺、2:マルビギー管、3:中腸、4:脂肪体。
【図5】キヌレニン酸化酵素を導入した組み換えカイコ系統における遺伝子の挿入位置を示す図である。各系統の導入遺伝子の挿入部位の両側の配列はPCRによって増幅し、オートシークエンサーにより調べた。
図面
【図5】
0
【図1】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図4】
4