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明細書 :免疫調節性機能を誘導する乳酸菌類とその成分

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4589618号 (P4589618)
公開番号 特開2005-154387 (P2005-154387A)
登録日 平成22年9月17日(2010.9.17)
発行日 平成22年12月1日(2010.12.1)
公開日 平成17年6月16日(2005.6.16)
発明の名称または考案の名称 免疫調節性機能を誘導する乳酸菌類とその成分
国際特許分類 A61K  35/74        (2006.01)
A23K   1/16        (2006.01)
A23L   1/30        (2006.01)
A61P   1/04        (2006.01)
A61P  37/02        (2006.01)
A61P  37/08        (2006.01)
C12N   1/20        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
C12Q   1/00        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
FI A61K 35/74 A
A61K 35/74 G
A23K 1/16 304B
A23L 1/30 Z
A61P 1/04
A61P 37/02
A61P 37/08
C12N 1/20 E
C12P 21/02 A
C12Q 1/00 Z
C12Q 1/02
請求項の数または発明の数 3
微生物の受託番号 FERM BP-08559
全頁数 19
出願番号 特願2003-398662 (P2003-398662)
出願日 平成15年11月28日(2003.11.28)
審査請求日 平成18年9月21日(2006.9.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】辻 典子
【氏名】木元 広実
個別代理人の代理人 【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】鶴見 秀紀
参考文献・文献 特開平07-099986(JP,A)
特開2000-256201(JP,A)
特開平05-065229(JP,A)
MIETTINEN M ET AL,Production of human tumor necrosis factor alpha, interleukin-6, and interleukin - 10 is induced by lactic acid bacteria,INFECTION AND IMMUNITY,1996年,64(12),pp.5403-5405
VON DER WEID T ET AL,Induction by a lactic acid bacterium of a population of CD4<+> T cells with low proliferative capacity that produce transforming growth factor [beta] and interleukin-10,CLINICAL AND DIAGNOSTIC LABORATORY IMMUNOLOGY 2001 UNITED STATES ,2001年,vol.8,no.4,pages 695-701
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調査した分野 A61K 35/74
A23K 1/16
A23L 1/30
A61P 1/04
A61P 37/02
A61P 37/08
C12N 1/20
C12P 21/02
C12Q 1/00
C12Q 1/02
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris) C60株(FERM BP-08559)及び/又は該乳酸球菌由来の成分からなる哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導するための免疫調節
【請求項2】
ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris) C60株(FERM BP-08559)が、生菌体又は死菌体である請求項1記載の哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導するための免疫調節剤
【請求項3】
ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris) C60株(FERM BP-08559)及び/又は該乳酸球菌由来の成分を有効成分として含有する哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導するための免疫調節用医薬品。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫調節性機能を誘導する微生物株、例えば乳酸菌類、又は該微生物由来の免疫調節性機能を有する成分に関し、詳しくは、哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導し、免疫調節性機能を付与するラクトコッカス属乳酸球菌などの微生物又は該微生物由来の成分、並びに前記菌を含有する医薬品に関する。

【背景技術】
【0002】
免疫恒常性の維持は、健康を保つ上で根本的な条件のひとつである。
ここで、「健康な状態における免疫恒常性とは何か」を考慮する際に、免疫関連遺伝子の機能発現、すなわち免疫細胞の分化・機能成熟が環境因子により大きく左右されるという事実が重要である。
【0003】
特に、皮膚の200倍もの面積を持つ消化管は、外部環境に対する主要な作用面であり、従って消化管における外部環境の代表である腸内細菌、食物成分などは、生体にとって量的に主たる環境因子である。体内における免疫細胞の過半が消化管に存在することを考えると、消化管は、多種多様、かつ大量の非自己成分に常に曝される生体防御システムの最前線であると言える。
これに関連して、近年顕著な増加が社会問題となっている食物アレルギー疾患や大腸性潰瘍炎など炎症性腸疾患を初めとする自己免疫疾患等の免疫病の急増、ひいてはアレルギー体質や生活習慣病の発症等に、腸内環境に対する生体応答が反映されている可能性があると指摘されている(非特許文献1参照)。
【0004】
ここで、免疫恒常性の維持においては、免疫調節性(制御性)細胞が重要である。免疫調節性細胞は、免疫応答のバランスを司る細胞群のうち、過剰な免疫応答を抑制する、いわゆる自己防御機構を構築する細胞群の総称である。近年、この免疫調節性細胞の分化・機能成熟機構が徐々に明らかにされつつあり、とりわけ消化管で効率良く誘導されていることが明らかとなってきた(非特許文献2参照)。
【0005】
消化管には、上述のように夥しい量の環境因子が存在するので、これら非自己成分に対し過剰応答しないためのシステムを免疫調節性細胞が担っていることから、腸内における免疫調節性細胞の誘導メカニズムの解析が免疫病の予防・治療につながるとして注目されている。
その過程で、消化管はトレランス誘導に適した環境にあること、かつ消化管に存在する免疫細胞の多くは活性化された状態にあることが明らかとなってきた。免疫恒常性維持のために、消化管では免疫調節性細胞が「積極的に」誘導され、活性化されるのであるとしたら、その現象を支える環境要因が消化管にあると考えられる。
【0006】
消化管ではインターロイキン-10(IL-10)、TGF-βといった抑制性サイトカインが豊富に存在することが知られている。本発明者らは、インターロイキン(IL-18)が環境分子として重要であることを既に明らかにしている(非特許文献3参照)。
例えば、デキサメタゾン等の化学物質が、免疫調節性細胞を誘導するとして、医薬品の開発が進められている(非特許文献4参照)。
【0007】
一方、消化管における免疫調節性細胞を誘導する微生物及びその成分の検索も進められている。特に食品成分として用いられている微生物であれば、上記デキサメタゾン等の化学物質のように安全性に問題がなく経口摂取が可能であり、いわゆるプロバイオティクス(宿主の健康維持に有益に働く生きた微生物)として免疫病の予防・治療用の食品への応用も期待されている。
【0008】
ここで、乳酸菌は、代表的なプロバイオティクスとして微生物の中でも安全性が高く、かつ発酵食品や生分解樹脂製造など食品関連産業応用の蓄積がある。乳酸菌は、発酵乳等の形で体内に摂取されることにより、整腸作用や血清コレステロール低下作用、免疫賦活作用等、乳酸菌の機能性に基づく様々な生理的効用を発揮することが知られている(非特許文献5参照)。
しかし、免疫調節性細胞を誘導する微生物及びその成分についての研究は、端緒についたばかりであり、その検索・評価方法もまだ確立されたものがない。このため、免疫調節性細胞を誘導する微生物及びその成分は、乳酸菌の中にも見出されていなかった。
【0009】

【非特許文献1】Kalliomaki M et al.Lancet 2001;357:1076.
【非特許文献2】Tsuji NM et al,Immunology 2001;103:458,Int Immunol 2003;15:525.
【非特許文献3】2002年度日本免疫学会総会・学術集会記録 p256
【非特許文献4】Barrat FJ et al. JEM 2002; 195 :603
【非特許文献5】Fuller,R.J Appl.Bacteriol.1989;66:365.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、以上のような背景に基づき、アレルギー疾患や大腸性潰瘍炎など炎症性腸疾患を初めとする自己免疫疾患等の免疫病の予防・治療に資する微生物及び該乳酸球菌由来の成分を提供すること、前記微生物又は成分の効率的な選抜方法を提供すること、及び、免疫恒常性を保つ上で重要な役割を担う免疫調節性細胞を前記微生物又は成分を用いて効率的に誘導する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成するために、鋭意検討を重ねた。その過程で、微生物の中でも安全性が高く、かつ発酵食品や生分解樹脂製造など食品関連産業応用の蓄積がある乳酸菌の中に、マウスの骨髄由来樹状細胞及び脾臓細胞からのIL-10産生を強力にサポートするラクトコッカス属乳酸球菌の存在を見出した。
また、一般に、無菌マウスでは、免疫寛容状態が成立しないなど免疫制御能が低いことが知られているが、炎症性サイトカインの1つであるIL-18は、微生物成分で誘導されることから、微生物及びその成分が免疫調節性細胞の機能成熟に重要であることが強く示唆される。未熟型IL-18を活性型IL-18へ変換する酵素のひとつとしてカスパーゼ-1が知られているが、驚くべきことに、前記ラクトコッカス属乳酸球菌は、腸上皮細胞株において、カスパーゼ-1非依存的にIL-18を産生する特徴を有することが明らかとなり、IL-18及びカスパーゼ-1活性により免疫調節性細胞誘導物質を効率よく検索できることを見出し、本発明に到達した。
本発明は、係る知見に基づくものである。
【0012】
請求項1に係る本発明は、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris) C60株(FERM BP-08559)及び/又は該乳酸球菌由来の成分からなる哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導するための免疫調節である。
請求項2に係る本発明は、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris) C60株(FERM BP-08559)が、生菌体又は死菌体である請求項1記載の哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導するための免疫調節剤である。

【0013】
請求項3に係る本発明は、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris) C60株(FERM BP-08559)及び/又は該乳酸球菌由来の成分を有効成分として含有する哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導するための免疫調節用医薬品である。

【発明の効果】
【0014】
本発明のラクトコッカス属乳酸球菌などの微生物及び該微生物由来の成分は、アレルギー疾患や大腸性潰瘍炎など炎症性腸疾患を初めとする自己免疫疾患等の免疫病の予防・治療に資する。また、ヒト・家畜・ペット等哺乳動物の免疫恒常性維持(健康維持)に資する。
即ち、本発明の微生物、特にラクトコッカス属乳酸球菌及び該乳酸球菌由来の成分は、安全性が高く経口摂取が可能であることから、食品又は食品素材、並びに動物飼料の有効成分として利用することにより体内で効率的に免疫調節性細胞を誘導することができる点で有用である。
また、本発明の取得方法によれば、上述のようなラクトコッカス属乳酸球菌を効率的に取得することができる。
更に、本発明の選抜方法によれば、免疫恒常性を保つ上で重要な役割を担う免疫調節性細胞を効率的に誘導する微生物又は成分、例えばラクトコッカス属乳酸球菌を選抜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、請求項1に係る本発明について説明する。
請求項1に係る本発明は、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris) C60株(FERM BP-08559)及び/又は該乳酸球菌由来の成分からなる哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導するための免疫調節を提供する。

【0016】
ここで、哺乳類としては、マウス、ラット、ハムスター等の実験動物のほか、ヒトや、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等の家畜を挙げることができる。
樹状細胞とは、免疫担当細胞の1つであり、例えば、マウス等の哺乳類の骨髄細胞の初代短期培養細胞として得ることができる。具体的には例えば、BALB/c系マウスの骨髄細胞を採取した後、B220、Thy-1抗原陽性の群を除去し、GM-CFS、TNF-α等のサイトカインを添加したRPMI培地や、DMEM培地等で常法により培養し、浮遊細胞として得られる群(成熟型)を用いることができる。また、末梢血中の単球細胞(モノサイト)にインターロイキン-4(IL-4)、TNF-α、GM-CFS等のサイトカインを添加して本発明に適した樹状細胞を得ることもできる。
【0017】
ここで、培養期間は、例えばGM-CFSを添加したRPMI培地を用いる場合は、8日間以上、好ましくは8~15日培養とすることができる。8日未満であるとB細胞等の混入のおそれがあり、また15日を超えると、細胞増殖能の低下が見られ、採取できる細胞数が少なくなるためである。
【0018】
一方、脾臓細胞とは、免疫臓器のひとつである脾臓に由来する細胞を意味し、樹状細胞、マクロファージ等の抗原提示細胞の他、T細胞や抗体産生細胞となるB細胞の集合体を意味する。脾臓細胞は、例えば、哺乳類の脾臓の初代培養細胞として得ることができる。
具体的には例えば、BALB/c系マウスの脾臓細胞を採取した後、赤血球を除去し、10% ウシ胎児血清等の血清を添加したRPMI培地や、DMEM培地等に必要に応じてコンカナバリンAを添加して常法により培養し、浮遊細胞として得られる群を用いることができる。
培養期間については、例えば10% ウシ胎児血清等の血清を添加したRPMI培地を用いる場合は、2~7日培養とすることができる。2日未満であるとIL-10産生誘導機能が十分に発現されないおそれがあり、また7日を超えると、初代培養細胞の機能低下が見られるためである。
このような樹状細胞や脾臓細胞としては、哺乳類から直接採取した細胞を利用することもできるし、あらかじめ株化された細胞を利用することもできる。
【0019】
ラクトコッカス属乳酸球菌とは、ラクトコッカス属に属しL型乳酸生産能を有する球菌を意味し、請求項2に記載するように、生菌体であっても良く、また死菌体であっても良い。
このような本発明のラクトコッカス属乳酸球菌としては、例えば、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp.cremoris)、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis biovar diacetylactis)、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ホルディニア(Lactococcus lactis subsp.hordniae)を挙げることができる。
ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティスとしては、527株(日本国茨城県つくば市東1-1-1 中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号は、FERM P-18216である。)、712株(日本国茨城県つくば市東1-1-1 中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号は、FERM P-15235である。)、G53株、G50株(日本国茨城県つくば市東1-1-1 中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号は、FERM P-18415である。)及びH45株を挙げることができ、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリスとしては、C60株、HP株、及びML株を挙げることができ、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティスとしては、N7株(日本国茨城県つくば市東1-1-1 中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号は、FERM P-18217である。)、8W株(日本国茨城県つくば市東1-1-1 中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号は、FERM P-14165である。)、及びDRC-1株を挙げることができる。これらのラクトコッカス属乳酸球菌は、独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 畜産草地研究所(茨城県つくば市)や理化学研究所(埼玉県和光市)から入手することができる。

【0020】
このようなラクトコッカス属乳酸球菌のうち、とりわけIL-10産生誘導効率が高い菌株である点で、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス DRC-1株、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス C60株が好ましい。
ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス DRC-1は、独立行政法人 農業生物資源研究所の農業生物資源ジーンバンクに寄託されており、その受託番号はMAFF-400206である。また、その性質についてはPowell I.B.et al.FEMS Microbiol.Lett.1990;72:209.に記載されている。
また、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス C60株は、日本国茨城県つくば市東1-1-1 中央第6の独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号はFERM BP-08559である。
【0021】
また、本発明のラクトコッカス属乳酸球菌由来の免疫調節性機能を有する成分とは、上記のようなラクトコッカス属乳酸球菌の菌体を構成する成分であって、免疫調節性機能を有する成分を意味し、生菌体の成分であっても、また死菌体の成分であっても良い。
このような本発明のラクトコッカス属乳酸球菌由来の成分としては、上記のようなラクトコッカス属乳酸球菌を構成する多糖類等の成分であって、哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導する機能を有するものを挙げることができる。
そして、上記の本発明の成分は、ラクトコッカス属乳酸球菌の生菌体又は死菌体から、通常用いられる抽出・精製方法を用いて得ることができる。
尚、哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導する機能を有するラクトコッカス属乳酸球菌の成分と同様の多糖類等の成分は、ラクトコッカス属乳酸球菌以外の微生物(例えば、藻類)にも存在する可能性が高く、これらの微生物の成分も、同様にして利用することができる。

【0022】
このような請求項1に係る本発明のラクトコッカス属乳酸球菌は、哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞から効率よくインターロイキン-10産生を誘導するので、インターロイキン-10誘導能により選抜することにより効率よく取得することができる。このようなラクトコッカス属乳酸球菌の取得方法を提供するのが、本発明である。
即ち、本発明は、被検菌であるラクトコッカス属乳酸球菌を、哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞と共培養し、インターロイキン-10産生誘導能が高い菌株を選抜することを特徴とする哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導するラクトコッカス属乳酸球菌の取得方法である。

【0023】
本発明の取得方法は、被検菌を、哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞と共培養し、インターロイキン-10産生誘導能が高い菌株を選抜することを特徴とする。
ここで、哺乳類の樹状細胞、及び脾臓細胞については、それぞれ請求項1に係る本発明の説明中において述べた通りである。

【0024】
被検菌としては特に制限はなく、例えばラクトコッカス属乳酸球菌としては、ラクトコッカス属に属する乳酸球菌であれば特に限定はなく、例えば、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ホルディニアを用いることができる。これらの微生物は、独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 畜産草地研究所(茨城県つくば市)や理化学研究所(埼玉県和光市)から入手することができる。
これらのラクトコッカス属乳酸球菌は、生菌体であっても、死菌体であっても良い。あらかじめ乳酸菌の培養の常法に従って任意の条件で培養した後、死菌体の場合は加熱等の手段により殺菌し、1~2回、好ましくは2回、生理食塩水や滅菌水などで洗浄して、本発明の目的に用いることができる。
【0025】
共培養の際の培養条件は、細胞が生育できる条件であれば特に限定されない。例えば、血清を添加したRPMI培地、DMEM培地等を用いて、5%CO存在下、37℃で樹状細胞の場合15~30時間、好ましくは20~25時間、脾臓細胞の場合40~55時間、好ましくは45~50時間培養する。
インターロイキン-10産生誘導能が高い菌株の選抜は、IL-10産生量を測定するための方法を利用して行うことができる。このような方法としては例えば、ELISA(固相酵素免疫測定法、エライザ)の他、細胞内IL-10染色後フローサイトメーターで測定する方法、RT-PCR等が挙げられる。ELISAにより測定する場合には、OptEIAマウスIL-10測定キット(ファーミンジェン社製)を用い、プロトコールに従って行うことができる。
【0026】
本発明の取得方法によれば、哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導するラクトコッカス属乳酸球菌などの微生物、又は該微生物由来の免疫調節性機能を有する成分を効率よく取得することができる。従って、取得されたラクトコッカス属乳酸球菌は、本発明のラクトコッカス属乳酸球菌として用いることができる。

【0027】
一方、本発明のラクトコッカス属乳酸球菌のインターロイキン-10産生誘導は、内因性IL-18に部分的に依存するが、カスパーゼ-1の活性化には依存しない。従って、IL-18及びカスパーゼ-1の活性測定を組み合わせることにより、かかるIL-10産生誘導能を有するラクトコッカス属乳酸球菌などの微生物を選抜することができる。このような選抜方法を提供するのが、本発明である。
即ち、本発明は、被検菌を、腸上皮細胞株と共培養し、カスパーゼ-1活性の誘導能が低く、かつインターロイキン-18産生誘導能が高い細胞を誘導することを特徴とする、哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導する微生物株、又は該微生物由来の免疫調節性機能を有する成分の選抜方法を提供するものである。

【0028】
被検菌については、哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導する活性成分が含まれるかどうか解析したいものであれば特に限定されず、ラクトコッカス属乳酸球菌などの微生物やその成分などがある。哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導するラクトコッカス属乳酸球菌については、前記した本発明の説明において述べた通りである。
腸上皮細胞株としては、哺乳類のものであれば特に限定されず、また、ヒト腫瘍細胞由来腸上皮細胞株であるCaco-2細胞の他、HT-29等株化されたものであっても良い。例えば、Caco-2細胞を用いる場合は、常法によりあらかじめ培養したものを共培養に供することができる。即ち、トリプシン/EDTAを含むRPMI培地で30~40℃、5~15分処理して浮遊細胞とした後、FCSを含むRPMI培地に懸濁して10~14日培養後、FCSを含むRPMI培地で微生物菌体を懸濁したものと共培養したものを用いることができる。

【0029】
本発明の選抜方法においては、例えば、請求項1又は2に記載のラクトコッカス属乳酸球菌などの微生物を、腸上皮細胞株と共培養するが、その際の培養条件は、腸上皮細胞株が生育できる条件であれば特に限定されない。例えば、Caco-2細胞の場合、FCSを含むRPMI培地、DMEM培地等を用いて、5%CO存在下、30~40℃で15~30時間、好ましくは20~25時間培養する。

【0030】
本発明の選抜方法においては、上記共培養の後、カスパーゼ-1活性の誘導能が低く、かつインターロイキン-18産生誘導能が高い細胞を誘導する。即ち、カスパーゼ-1の誘導能及びインターロイキン-18産生誘導能を測定して、それぞれが低い、又は高い細胞を誘導する。
カスパーゼ-1の誘導能の測定には、蛍光ラベルしたオリゴペプチド(例えば、配列表の配列番号1記載のアミノ酸配列の5´末端にアセチル基を付加し、3´末端をMCAで蛍光標識したオリゴペプチド(ペプチド研究所、カスパーゼ-1活性測定試薬))及び蛍光分光光度計を用いることができる。

【0031】
遠心分離により沈殿した細胞を界面活性剤を添加したバッファーで溶解し、溶液中のカスパーゼ-1活性を、蛍光ラベルしたオリゴペプチド(配列表の配列番号1記載のアミノ酸配列の5´末端にアセチル基を付加し、3´末端をMCAで蛍光標識したオリゴペプチド:ペプチド研究所、カスパーゼ-1活性測定試薬)及び蛍光分光光度計を用いて測定した。
インターロイキン-18産生誘導能の測定には、ELISA(固相酵素免疫測定法、エライザ)が挙げられる。ELISAにより測定する場合には、IL-18測定キット(MBL社)を用い、プロトコールに従って行うことができる。
【0032】
こうして、カスパーゼ-1活性の誘導能が低く、かつインターロイキン-18産生誘導能が高い微生物株、又はその成分を選抜することができる。選抜された微生物株、又はその成分は、被検菌の中から哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導する機能を有する。
ラクトコッカス属乳酸球菌については、前記請求項1に係る本発明の項において、既に説明した通りである。
このようにして選抜された微生物株、又はその成分は、カスパーゼ-1活性の誘導能は低いものの、他のIL-18誘導試薬(リポポリサッカライド(LPS)等)活性は高い値を示す。
尚、内因性IL-18とIL-10との関係について詳細は不明であるが、本発明者らがIL-18欠損マウス由来の樹状細胞をラクトコッカス ラクティスと共培養したところ、産生されるIL-10量は顕著に低下したことから、両者の間には何らかの調節関係があることが示唆される。
【0033】
このように、本発明によれば、効率よく免疫調節性細胞を誘導する、即ちIL-10産生誘導性微生物またはその成分を選抜することができる。
一方、本発明のラクトコッカス属乳酸球菌は、乳酸菌の一種であるため、食品として経口投与が可能であり、消化管において免疫調節性を発揮するプロバイオティクスとして有用である。このような食品及び食品素材、並びに動物飼料を提供するのが、本発明である。
即ち、本発明の食品又は食品素材、並びに動物飼料は、本発明のラクトコッカス属乳酸球菌を有効成分として含有する。

【0034】
本発明の食品又は食品素材において、ラクトコッカス属乳酸球菌の含有量は、ヒトの場合、体重1kgあたり菌体重量で0.5~1mg/日程度の投与で十分な効果が奏され、上記の菌体量を1日1回もしくは数回に分けて摂取すれば良い。
また、本発明の動物飼料の対象となる動物の種類及び年齢としては、特に限定はなく、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ等の家畜の他、マウス等の実験動物とすることができる。ラクトコッカス属乳酸球菌の含有量は、体重1kgあたり菌体重量で0.5~1mg/日程度の投与で十分な効果が奏され、上記の菌体量を1日1回もしくは数回に分けて給餌すれば良い。

【0035】
本発明の食品又は食品素材、並びに本発明の動物飼料の製造方法について特に制限はなく、形態についても凍結乾燥粉末、噴霧乾燥粉末、液体への懸濁など、使用目的に応じて適宜決定すればよい。ラクトコッカス属乳酸球菌は牛乳中でもよく生育するため、スターター等として使用して製造された発酵食品、発酵飼料とすることもできる。
更に、本発明のラクトコッカス属乳酸球菌は、経口投与が可能であり、消化管において免疫調節性を発揮するプロバイオティクスとして有用であるという特性を生かして、医薬品としての応用も可能である。
更にまた、トウモロコシやイモを発酵して乳酸を製造し、これをポリマー化して製造される生分解プラスチックへの応用も可能である。

【実施例】
【0036】
以下において、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
実施例1(樹状細胞におけるIL-10の産生誘導能)
ラクトコッカス属乳酸球菌を含む各種微生物の死菌体を、骨髄由来樹状細胞と共培養し、IL-10産生誘導能が高い菌株の選抜を行った。
微生物としては、独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 畜産草地研究所(茨城県つくば市)に保存されているもの及び理化学研究所(埼玉県和光市)または発酵研究所(大阪府大阪市)から入手したエンテロコッカス属乳酸菌(IFO12964株、IFO13712株、FH8株)、ロイコノストック属乳酸菌(D4株及びD48株)、ラクトバチルス属乳酸菌(JCM1132株)、ラクトコッカス属乳酸球菌(ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(527株(FERM P-18216)、712株(FERM P-15235)、G53株及びH45株)、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス(C60株(FERM BP-08559)、HP株及びML株)、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス(N7株(FERM P-18217)、8W株(FERM P-14165)及びDRC-1株(MAFF-400206))の計16株を用いた。
これらの供試微生物は、予め常法に従い一昼夜培養した。培養後の微生物を70℃30分間加熱して殺菌し、微生物の死菌体として以下の操作に供した。
一方、比較対照として、免疫修飾物質を無添加の群(Med)、及び微生物の死菌体の代わりに免疫賦活微生物成分の代表とされるLPS(大腸菌由来LPS(シグマ社製))を用いて以下の操作を行った。
【0038】
一方、骨髄由来樹状細胞は、マウスから以下のようにして取得した。まず、BALB/c系マウスの骨髄細胞を採取した後、B220,Thy-1抗原陽性の群を除去し、GM-CFSを添加したRPMI培地(ローズウェル・パーク・メモリアル・インスティチュート)で10日間培養した。
得られた樹状細胞を、24ウェルプレートに、5x10cells/ウェルとなるように播種し、血清(10% ウシ胎児血清:FCS,シグマ社)を添加したRPMI培地を用いて24時間、37℃の条件で培養した。
【0039】
次に、上記微生物の死菌体を0.85%食塩水で2回洗浄し、血清を添加したRPMI培地に懸濁した後、25x10cells/ウェルになるように24ウェルプレートに接種し、5%CO存在下、37℃で24時間の条件で樹状細胞と共培養した。
共培養終了後、培養上清を遠心分離によって分離し、上清中に含まれるIL-10をELISA(固相酵素免疫測定法、エライザ)によって測定した。IL-10測定に際しては、OptEIAマウスIL-10測定キット(ファーミンジェン社製)を用い、プロトコールに従って行った。
各種微生物における骨髄由来樹状細胞からのIL-10産生量(pg/ml)の結果を、図1に示す。
【0040】
図1に示されるように、供試微生物のうち8株について高いIL-10産生量が見出され、これらはいずれもラクトコッカス属乳酸球菌であったことから、これらのラクトコッカス属乳酸球菌は骨髄由来樹状細胞からIL-10産生を誘導することが明らかとなった。
特に、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス C60株及びラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチルラクティス DRC-1株の2株は、非常に顕著なIL-10産生量が見出されたことから、骨髄由来樹状細胞からのIL-10産生誘導能にきわめて優れていることが示された。
一方、比較対照として、免疫賦活微生物成分の代表とされるLPSを添加した場合は、IL-10産生誘導能は観察されなかった。
【0041】
実施例2(脾臓細胞におけるIL-10の産生誘導能)
ラクトコッカス属乳酸球菌を含む各種微生物の死菌体を脾臓細胞と共培養し、IL-10産生誘導能が高い菌株の選抜を行った。
供試微生物については、独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 畜産草地研究所(茨城県つくば市)に保存されているもの及び理化学研究所(埼玉県和光市)から入手したエンテロコッカス属乳酸菌(FH8株)、ロイコノストック属乳酸菌(D4株及びD48株)、ラクトバチルス属乳酸菌(JCM1132株及びBY株)、ラクトコッカス属乳酸球菌(ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(G50株(FERM P-18415)、527株(FERM P-18216)、712株(FERM P-15235)、G53株及びH45株)、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス(C60株(FERM BP-08559)、HP株及びML株)、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス(N7株(FERM P-18217)、8W株(FERM P-14165)及びDRC-1株(MAFF-400206))の計16株を用いて、培養した微生物の死菌体を調製して以下の操作に供した。
【0042】
一方、脾臓細胞は、マウスから以下のようにして取得した。まず、BALB/c系マウスの脾臓細胞から赤血球を除去し、RPMI培地で2回洗浄した後、血清(10%FCS)を添加した同培地に懸濁し、4x10cells/ウェルになるように24ウェルプレートに播種した。更に、コンカナバリンAを最終濃度2μg/mlになるように添加して、2日間、37℃の条件で培養した。
【0043】
次に、上記微生物の死菌体を0.85%食塩水で2回洗浄し、血清を添加したRPMI培地に懸濁した後、4x10cells/ウェルになるように24ウェルプレートに接種し、5%CO存在下、37℃で48時間の条件で脾臓細胞と共培養した。
その後、実施例1と同様にしてELISA法にてIL-10産生量を測定した。
尚、比較対照(Med)として、微生物を接種しない他は同様にして培養及びIL-10測定を行った。
各種微生物における脾臓細胞からのIL-10産生量(pg/ml)の結果を、図2に示す。
【0044】
図2に示されるように、供試微生物のうち11株について高いIL-10産生量が見出され、これらはいずれもラクトコッカス属乳酸球菌であったことから、これらのラクトコッカス属乳酸球菌は脾臓細胞からもIL-10産生を誘導することが明らかとなった。
特に、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス 527株、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス C60株及びML株、並びにラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチルラクティス DRC-1株の4株は、非常に顕著なIL-10産生量が見出されたことから、脾臓細胞からのIL-10産生誘導能にきわめて優れていることが示された。
一方、比較対照として、免疫賦活微生物成分の代表とされるLPSを添加した場合は、IL-10産生誘導能は観察されなかった。

【0045】
実施例3(バイスタンダー抑制試験)
ラクトコッカス属乳酸球菌の死菌体の脾臓細胞からのIL-10産生誘導能とバイスタンダー(脾臓細胞増殖活性)抑制との関係について検討した。
ラクトコッカス属乳酸球菌としては、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス C60株(FERM BP-08559)、及びラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス DRC-1株(MAFF-400206)を用いた。また、比較対照として、ラクトバチルス属乳酸菌(JCM1132株及びBY株)を用いた。これらの供試微生物は、独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 畜産草地研究所(茨城県つくば市)に保存されているもの及び理化学研究所(埼玉県和光市)から入手した。各種微生物について、実施例1と同様にして微生物の死菌体を調製した。
【0046】
BALB/c系マウスから実施例2と同様の条件で調製した脾臓細胞を、上記微生物の死菌体と実施例2の条件で共培養した(第一次培養)。48時間後、それらの細胞を採取し、遠心分離で上清を除いた後、新しいRPMI培地(10%FCS添加)に懸濁した。
次に、新たに調製したBALB/c系マウスの脾臓細胞から、赤血球を除去し、RPMI培地で2回洗浄した後、血清(10%FCS)を添加した同培地に懸濁し、3x10cells/ウェル/1mlになるように24ウェルプレートに播種した。更に、コンカナバリンAを最終濃度2μg/mlとなるように添加した(下段の培養)。一方、各ウェルに、0.45μmの膜で仕切られたカルチャーインサートを装填し、その中(上段の培養)に前記の微生物の死菌体と前培養を行った脾臓細胞を2x10cells/ウェル/500μlの分量添加し、液性因子のみが膜を通過できる状態で、2日間、37℃の条件で共培養を行った(第二次培養)。
【0047】
64時間後に、下段の細胞(新しく準備した脾臓細胞)を採取し、遠心分離により上清を除いて、新しいRPMI培地(10%FCS)1mlに懸濁した。これを0.1mlずつ96ウェルプレートに播種し、0.1μCiの[H]-チミジンをパルスした。16時間後にセルハーベスターを用いてファイバーフィルター上に細胞を採取したものを液体シンチレーターに浸し、放射能の取り込みをシンチレーションカウンターで測定した。
【0048】
尚、比較対照(Control)として、微生物成分を接種しない他は同様にして培養及びIL-10測定を行った。
図3は、各種微生物における脾臓細胞からのIL-10産生量(pg/ml)を示し、図4は、各種微生物による脾臓細胞増殖活性(cpmx10)への影響を示す図である。尚、図3及び図4中の**は、Controlと比較して有意差(p<0.01)があった旨を示し、*は、Controlと比較して有意差(p<0.05)があった旨を示す。
【0049】
図3及び図4から明らかなように、実施例2で顕著なIL-10産生量が観察されたラクトコッカス属乳酸球菌を第一次培養で加えたものについては、培養上清中に高いIL-10産生が観察された(図3)と同時に、第二次培養下段の脾臓細胞増殖活性が抑制されていた(図4参照)。
【0050】
このバイスタンダー抑制試験は、免疫調節性細胞の評価方法として広く用いられるもので、本実施例においても上述のように脾臓細胞増殖活性が抑制されていたことから、ラクトコッカス属乳酸球菌の死菌体により脾臓細胞から免疫調節性細胞が誘導されたものと考えられる。
また、IL-10は、強い細胞増殖抑制活性を有するが、本実施例において観察された細胞増殖抑制も、免疫調節性細胞から誘導されたIL-10の細胞増殖抑制活性が重要な役割を果たしていると考えられる。
【0051】
実施例4(腸上皮細胞からの免疫調節性細胞の誘導によるIL-10産生誘導性ラクトコッカス属乳酸球菌の選抜)
ラクトコッカス属乳酸球菌が、消化管の最前線に位置する腸上皮細胞へ及ぼす効果を解析した。
ラクトコッカス属乳酸球菌としては、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス N7株(FERM P-18217)、DRC-1株(MAFF-400206)及び8W株(FERM P-14165)を用いた。また、比較対照として、ラクトバチルス属乳酸菌(JCM1132株)を用いた。これらの供試微生物は、独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 畜産草地研究所(茨城県つくば市)に保存されているもの及び理化学研究所(埼玉県和光市)から入手した。これらのそれぞれについて、実施例1と同様に培養して微生物の死菌体を調製した。
更に比較対照として、微生物の代わりに、免疫賦活微生物成分の代表とされるLPS(大腸菌由来LPS(シグマ社製))を1μg/mlとなるように添加して以下の処理を行った。
【0052】
腸上皮細胞として、ヒト腫瘍細胞由来腸上皮細胞株であるCaco-2細胞を用いた。即ち、コンフルエント培養のCaco-2細胞を、トリプシン/EDTAを含むRPMI培地で37℃、10分処理して浮遊細胞とした。RPMI培地で2回洗浄した後、10%FCSを含むRPMI培地に懸濁し、4x10cells/ウェルとなるよう24ウェルプレートに播種した。上清は一日おきに新しいRPMI培地(10%FCS)と置換し、10~14日後にコンフルエントになった培養(2x10cells/ウェル)の上清をすべて除き、新しいRPMI培地(10%FCS)で微生物菌体を1x10cells/ウェル/1mlに懸濁したものを各ウェルに添加した。
24時間後、遠心分離により培養上清を採取し、上清中のIL-18量をELISA法で測定した(MBL社、IL-18測定キット)。手順及び条件はキットに添付のプロトコールに従った。
【0053】
また、遠心分離により沈殿した細胞を界面活性剤を添加したバッファーで溶解し、溶液中のカスパーゼ-1活性を、蛍光ラベルしたオリゴペプチド(配列表の配列番号1記載のアミノ酸配列の5´末端にアセチル基を付加し、3´末端をMCAで蛍光標識したオリゴペプチド:ペプチド研究所、カスパーゼ-1活性測定試薬)及び蛍光分光光度計を用いて測定した。
図5に各微生物における腸上皮細胞からのIL-18産生量(pg/ml)を示し、図6に各微生物による腸上皮細胞のIL-18一定産生量あたりのカスパーゼ-1活性(pmol)を示す。
【0054】
実施例1~3で顕著なIL-10産生能を示したラクトコッカス属乳酸菌を腸上皮細胞株と共培養すると、他の微生物やLPSと共培養した場合に比べて、高いIL-18産生誘導能が示されたが(図5参照)、IL-18一定産生量あたりのカスパーゼー1活性は、低く抑えられていた(図6参照)。すなわち、ラクトコッカス属乳酸菌によって腸上皮細胞から誘導されるIL-18産生は、カスパーゼ-1に依存しないという特徴が明らかとなった。
尚、このようにラクトコッカス属乳酸菌(ラクトコッカス ラクティス)がカスパーゼ-1非依存性にIL-18産生を誘導し、かつ高いIL-10産生を誘導することは、樹状細胞の実験系でも確認された。すなわち、カスパーゼ-1遺伝子欠損マウス由来の樹状細胞は、ラクトコッカス属乳酸菌(ラクトコッカス ラクティス)の刺激に対してIL-18を産生することができた。
以上の結果より、ラクトコッカス ラクティスはカスパーゼー1非依存性にIL-18を産生し、樹状細胞、脾臓細胞よりIL-10産生を誘導すること、脾臓細胞との共培養により免疫調節性細胞を発現させることが見出された。
【0055】
実施例5(乳酸球菌を経口投与した際のin vivoにおける効果)
以上の実施例1~4において明らかにされたIL-10産生誘導機能が、ラクトコッカス属乳酸球菌の死菌体を経口投与した際にin vivoで再現されるか否かを解析した。
ラクトコッカス属乳酸球菌としては、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス DRC-1株(MAFF-400206)及び、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス C60株(FERM BP-08559)を用いた。これらの供試微生物は、独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 畜産草地研究所(茨城県つくば市)に保存されているものを用いた。これらのそれぞれについて、実施例1と同様に培養して微生物の死菌体を調製した。
【0056】
これらのラクトコッカス属乳酸球菌の死菌体を、6週齢から8週齢のNC/Nga系マウス5頭に、毎日1回、10日間連続経口投与した。
すなわち、それぞれの死菌体を0.85%食塩水に懸濁して乾燥菌体重量で1mg/mlとなるように調製し、一回一頭あたり200μl(乾燥菌体重量にすると200μg)を経口ゾンデを用いて胃内投与した。10回投与後、マウスを屠殺し、脾臓細胞を調製した。
マウスからの脾臓細胞の取得は、以下の手順で行った。まず、NC/Nga系マウスの脾臓細胞から赤血球を除去し、RPMI培地で2回洗浄した後、血清(10%FCS)を添加した同培地に懸濁し、5x10cells/ウェルになるように48ウェルプレートに播種した。更に、コンカナバリンAを最終濃度2μg/mlになるように添加して、2日間、37℃の条件で培養した。
その後、実施例1と同様にしてELISA法にてIL-10産生量を測定した。
【0057】
また、脾臓細胞増殖活性を測定した。
すなわち、48時間後の培養液を0.1mlずつ96ウェルプレートに播種し、実施例3と同様にして0.1μCiの[H]-チミジンをパルスした。16時間後にセルハーベスターを用いてファイバーフィルター上に細胞を採取したものを液体シンチレーターに浸し、放射能の取り込みをシンチレーションカウンターで測定した。
【0058】
尚、比較対照(saline)として、微生物を含まない0.85%食塩水を経口投与したNC/Nga系マウスの群について、同様に培養、IL-10測定及び脾臓細胞培養活性の測定を行った。
図7は、各種死菌体を経口摂取したマウス脾臓細胞からのIL-10産生量(pg/ml)を示し、図8は、各種微生物を経口摂取したマウスにおける脾臓細胞増殖活性(cpmx10)を示す。尚、図7及び図8中の***は、salineと比較して有意差(p<0.001)があった旨を示し、**は、salineと比較して有意差(p<0.01)があった旨を示す。
【0059】
図7から明らかなように、ラクトコッカス属乳酸球菌の死菌体を経口投与したマウスの脾臓細胞においては、比較対照に対し有意に高いレベルのIL-10産生能が見出された。このような高いIL-10産生能は、消化管においてラクトコッカス乳酸球菌の死菌体を取り込んだ樹状細胞が脾臓細胞に移動した結果であるか、死菌体成分が直接脾臓細胞に到達した結果であろうと推測される。
【0060】
また、図8から明らかなように、ラクトコッカス属乳酸球菌の死菌体を経口投与したマウスの脾臓細胞増殖活性は、比較対照に対し有意に低下していた。このような脾臓細胞増殖活性の低下は、IL-10産生能の結果を考慮すると、培養中に脾臓細胞から免疫調節性細胞が誘導された(IL-10が増強された)ことによる結果であると考えられる。尚、10日間の死菌体経口摂取期間中に、マウス体内のT細胞が不応答性又は抑制性の性質を獲得したことによる影響があると推察される。
このことから、ラクトコッカス属乳酸球菌を経口摂取した場合にも、IL-10産生誘導機能が保持され、かつ、脾臓細胞から免疫調製性細胞が誘導されたことが、in vivoにおいて実際に確認された。
【0061】
実施例6(乳酸菌体熱水抽出画分のIL-10産生促進機能の解析)
上記実施例の結果から、ラクトコッカス属乳酸球菌の死菌体が哺乳類の樹状細胞又は脾臓細胞からインターロイキン-10産生を誘導することが明らかとなった。そこで、本実施例においては、該乳酸球菌中の免疫調節性機能を有する成分の存在を明らかにすることを目的とした。
ラクトコッカス属乳酸球菌としては、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス DRC-1株(MAFF-400206)及び、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス C60株(FERM BP-08559)を用いた。これらの供試微生物は、独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 畜産草地研究所(茨城県つくば市)に保存されているものを用いた。
【0062】
これらのラクトコッカス属乳酸球菌の熱水抽出画分を調製した。尚、熱水で抽出される菌体成分は多糖類であると考えられる。
すなわち、上記ラクトコッカス属乳酸球菌を3回0.85%生理食塩水で洗浄し、上清を除いた後、1/10量の精製水に縣濁し、100℃で5時間加熱した。加熱後、50,000g、30分の遠心で残渣を沈殿後、上清を採取した。更に、分子量カットフィルターつきの遠心濃縮用チューブを用い、分子量30,000以上の高分子画分(フラクション1:Fr1)とそれ以下の画分(フラクション2:Fr2)を得た。尚、濃縮率20倍で調製したため、菌の培養液から考えた最終濃縮率は約200倍となった。
【0063】
この熱水抽出物を10%となるように骨髄由来樹状細胞及び脾臓細胞の各細胞培養系に添加した。
骨髄由来樹状細胞としては、BALB/c系マウス由来の10日間培養後の細胞群を用いた。細胞群を1x10/wellとなるように96穴プレートに播種し、Fr1、Fr2、あるいは実施例1と同様にして得たラクトコッカス属乳酸球菌の死菌体(heat-killed DRC-1、heat-killed C60)5x10を添加して24時間培養した。培養上清について実施例1と同様にIL-10産生を測定した。
脾臓細胞としては、NC/Nga系マウスの脾臓細胞から赤血球を除去後2回洗浄したものを用いた。この脾臓細胞を5x10/wellとなるように96穴プレートに播種し、Fr1、Fr2あるいは実施例1と同様にして得たラクトコッカス属乳酸球菌の死菌体5x10を添加して96時間培養した。培養上清については実施例1と同様にIL-10産生を測定した。
尚、比較対照(medium)として、Fr1、Fr2及び微生物活性成分を添加しない他は同様にして培養及びIL-10測定を行った。
【0064】
図9及び10には、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス DRC-1株(MAFF-400206)の場合のIL-10産生量(pg/ml)を、骨髄由来細胞、脾臓細胞のそれぞれについて示す。
また、図11及び12には、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス C60株(FERM BP-08559)の場合のIL-10産生量(pg/ml)を、骨髄由来細胞、脾臓細胞のそれぞれについて示す。
尚、図9~12中の**は、mediumと比較して有意差(p<0.01)があった旨を示し、*は、mediumと比較して有意差(p<0.05)があった旨を示す。
【0065】
図9~12から明らかなように、いずれの細胞においても、Fr1を添加した場合に比較対照と比べて有意に高いIL-10産生能が観察された。Fr1は熱水抽出画分から精製されたものであるから、多糖類画分を含むものと考えられる。
このことから、ラクトコッカス属乳酸球菌由来の分子量3万以上の高分子画分、すなわち多糖類画分が、免疫調節性機能、すなわちIL-10産生誘導促進機能を有する成分であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のラクトコッカス属乳酸球菌、及び該乳酸球菌由来の成分は、アレルギー疾患や大腸性潰瘍炎など炎症性腸疾患を初めとする自己免疫疾患等の免疫病の予防・治療に資する。また、ヒト・家畜・ペット等哺乳動物の免疫恒常性維持(健康維持)に資する。
即ち、本発明のラクトコッカス属乳酸球菌、及び該乳酸球菌由来の成分は、安全性が高く経口摂取が可能であることから、食品又は食品素材、並びに動物飼料の有効成分として利用することにより、体内で効率的に免疫調節性細胞を誘導することができる点で有用である。
また、本発明の取得方法によれば、上述のようなラクトコッカス属乳酸球菌を効率的に取得することができる。
更に、本発明の選抜方法によれば、ラクトコッカス属乳酸球菌の他に、免疫調節性細胞を効率的に誘導する微生物株とその成分を選抜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】各種微生物における骨髄由来樹状細胞からのIL-10産生量(pg/ml)を示す図である。
【図2】各種微生物における脾臓細胞からのIL-10産生量(pg/ml)を示す図である。
【図3】各種微生物(代表的菌株)における脾臓細胞からのIL-10産生量(pg/ml)を示す図である。
【図4】各種微生物(代表的菌株)による脾臓細胞増殖活性(cpmx10)への影響を示す図である。
【図5】各微生物における腸上皮細胞からのIL-18産生量(pg/ml)を示す図である。
【図6】各微生物による腸上皮細胞のIL-18一定産生量あたりのカスパーゼ-1活性(pmol)を示す図である。
【図7】各種死菌体を経口摂取したマウス脾臓細胞からのIL-10産生量(pg/ml)を示す図である。
【図8】各種微生物を経口摂取したマウスにおける脾臓細胞増殖活性(cpmx10)を示す。
【図9】ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス DRC-1株の場合のIL-10産生量(pg/ml)を、骨髄由来細胞について示した図である。
【図10】ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティー ジアセチラクティス DRC-1株の場合のIL-10産生量(pg/ml)を、脾臓細胞について示した図である。
【図11】ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス C60株の場合のIL-10産生量(pg/ml)を、骨髄由来細胞について示した図である。
【図12】ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス C60株の場合のIL-10産生量(pg/ml)を、脾臓細胞について示した図である。
【符号の説明】
【0068】
図3及び図4中の**は、Controlと比較して有意差(p<0.01)があった旨を示し、*は、Controlと比較して有意差(p<0.05)があった旨を示す。
図7及び図8中の***は、salineと比較して有意差(p<0.001)があった旨を示し、**は、salineと比較して有意差(p<0.01)があった旨を示す。
図9~12中の**は、mediumと比較して有意差(p<0.01)があった旨を示し、*は、mediumと比較して有意差(p<0.05)があった旨を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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