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明細書 :イグサ品種「ひのみどり」の識別マーカー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4441638号 (P4441638)
公開番号 特開2005-168309 (P2005-168309A)
登録日 平成22年1月22日(2010.1.22)
発行日 平成22年3月31日(2010.3.31)
公開日 平成17年6月30日(2005.6.30)
発明の名称または考案の名称 イグサ品種「ひのみどり」の識別マーカー
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/566       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/68 A
G01N 33/53 M
G01N 33/566
請求項の数または発明の数 19
全頁数 30
出願番号 特願2003-408330 (P2003-408330)
出願日 平成15年12月5日(2003.12.5)
審査請求日 平成18年8月15日(2006.8.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】齋藤 彰
【氏名】土門 英司
個別代理人の代理人 【識別番号】100078282、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 秀策
【識別番号】100062409、【弁理士】、【氏名又は名称】安村 高明
【識別番号】100113413、【弁理士】、【氏名又は名称】森下 夏樹
審査官 【審査官】滝口 尚良
参考文献・文献 特開2003-245071(JP,A)
特開2003-265173(JP,A)
林 健志 編,「PCR法の最新技術」,株式会社 羊土社,1995年,pp.18
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
WPI
BIOSIS(STN)
CAplus(STN)
MEDLINE(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
イグサ「ひのみどり」の識別マーカーとしての配列番号1の333~334位の使用。
【請求項2】
配列番号1に示される塩基配列に存在する多型を判別するためのプライマーであって、
プライマーが、少なくとも17ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドであり、該オリゴヌクレオチドの配列は、配列番号1の333~334位に対応する領域を含む配列番号1に示す塩基配列またはその対応鎖の一部であって、
但し、プライマーは、該配列番号1の333~334位に対応する領域においてAAまたはTTの塩基配列を含み、ここで該AAまたはTTの塩基配列は、プライマーの3’末端に位置する、プライマー。
【請求項3】
少なくとも20ヌクレオチドである、請求項2に記載のプライマー。
【請求項4】
配列番号6のオリゴヌクレオチドである、プライマー。
【請求項5】
配列番号1に示される塩基配列に存在する多型を判別するためのプライマー対であって、プライマーの各々は、独立して、少なくとも17ヌクレオチドの連続する配列を含むオリゴヌクレオチドであり、鋳型となる二本鎖ポリヌクレオチドの一方の鎖が配列番号1に示され、ここで少なくとも17ヌクレオチドの連続する配列の一方は、配列番号1に示す塩基配列における配列番号1の333~334位に示す塩基配列より5’側にある領域の配列の対応する対応鎖にハイブリダイズし得、かつ少なくとも17ヌクレオチドの連続する配列の他方は、該配列番号1に示す塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列における配列番号1の333~334位に示す塩基配列に対応する塩基配列より5’側にある領域の配列に対応する対応鎖にハイブリダイズし得、それによって配列番号1に示す塩基配列の一部であって配列番号1の333~334位に示す塩基配列を含む領域の増幅を可能にする、プライマー対。
【請求項6】
各々のプライマーが少なくとも20ヌクレオチドである、請求項5に記載のプライマー対。
【請求項7】
配列番号4のオリゴヌクレオチドであるプライマーと配列番号5のオリゴヌクレオチドであるプライマーとからなる、プライマー対。
【請求項8】
配列番号1に示される塩基配列に存在する多型を判別するためのプライマーであって、
配列番号1に示す塩基配列の対応鎖の一部であって、配列番号1の333~334位の3’側に隣接する領域に特異的にハイブリダイズし得るか、または
配列番号1に示す塩基配列の一部であって、配列番号1の対応鎖における配列番号1の333~334位に対応する部位の3’側に隣接する領域に特異的にハイブリダイズし得、そして
プライマーは少なくとも17ヌクレオチドである、プライマー。
【請求項9】
少なくとも20ヌクレオチドである、請求項8に記載のプライマー。
【請求項10】
前記プライマーの融解温度が34℃~80℃である、請求項1からのいずれかに記載のプライマーまたはプライマー対
【請求項11】
イグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別する方法であって、
品種識別を行うことを望むイグサまたはイグサ製品において、配列番号1の333~334位に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応するDNAの塩基配列の相違を検出することによって、配列番号1に示される塩基配列に存在する多型を判別する工程
を包含する、方法。
【請求項12】
前記配列番号1の333~334位に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応するDNAの塩基配列の相違の検出が、下記工程を包含する、請求項11に記載の方法:
(a)請求項2~4のうちのいずれか1つに記載のプライマーと、少なくとも1つの別のプライマーであって、該配列番号1に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応するDNAの塩基配列にハイブリダイズするプライマーとを用いて、イグサの試料DNAを増幅させる工程;および
(b)該増幅産物を検出する工程。
【請求項13】
前記配列番号1の333~334位に示すゲノムDNAの塩基配列または塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列の相違の検出が、下記工程を包含する、請求項11に記載の方法:
(a)請求項5~7のうちのいずれか1つに記載のプライマー対を用いて、イグサの試料DNAを増幅させる工程;
(b)該増幅産物を検出する工程;および
(c)該増幅産物の塩基配列を決定する工程。
【請求項14】
前記増幅産物の塩基配列を決定する工程(c)が、前記増幅産物を請求項8または9に記載のプライマーとハイブリダイズさせ、該プライマーの3’側に標識アデニンまたは標識グアニンを取り込ませてプライマー伸長反応を行う工程、および該標識アデニンまたは標識グアニンの取り込みを検出する工程を包含する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
イグサまたはイグサ製品から試料DNAを抽出する工程をさらに包含する、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
イグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別するためのキットであって、請求項2~4のうちのいずれか1つに記載のプライマーを備える、キット。
【請求項17】
該配列番号1に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応するDNAの塩基配列にハイブリダイズする少なくとも1つの別のプライマーをさらに備える、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
イグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別するためのキットであって、請求項5~7のうちのいずれか1つに記載のプライマー対を備える、キット。
【請求項19】
請求項8または9に記載のプライマーをさらに備える、請求項18に記載のキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イグサ品種識別に関し、より詳細には、イグサ主要栽培品種のうち、最も優良な品質を持ち産業価値の高い品種「ひのみどり」と他の品種を識別するためのDNAマーカーおよび該マーカーを標的としてイグサ主要栽培品種から品種「ひのみどり」を識別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イグサは主に栄養繁殖で増殖・栽培されており、これまで育成された品種は、栄養系品種である。
【0003】
従来、イグサの品種特性は茎長(草丈)、茎の太さ、幹茎色(茎の色)、茎数(一株あたりの茎の数)花序着生率(着花の頻度)、先枯程度(先端部分の枯れの程度)など産業上の品質に関わる特徴で表されてきた。しかし、これらの特性は量的形質であって、生育環境の変化に応じてそれらの形質も変化するため、一定の栽培環境における品種の特徴を説明することはできても、確実に品種を識別するマーカーとしては利用できなかった。このため、いったん入手経路が不確実になるとどの品種であるのか断定することは困難であった。その結果、いくつかの品種が混ざって製品の均一性が失われたり、あるいは優良品種の盗難、不法栽培を防止・規制することができなかった。
【0004】
近年の分子生物学的技術の適用に関しては、九州農業試験場と熊本県農業研究センターい業研究所が平成9~10年に「RAPD法によるイグサ品種識別」について共同研究を行った。しかし、DNA多型率が極めて低い結果となり、実用的な品種識別マーカーは全く得られなかった。このため、イグサの品種を識別することは極めて困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、イグサの品種識別に利用しうるDNAマーカーを同定し、イグサ産業における品種識別の判断材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を行った結果、イグサ主要栽培品種16品種をSNP分析法に供することにより、これら品種のゲノムDNA断片の中から、優良イグサ品種「ひのみどり」に特異的なDNA断片を同定することに成功した。本発明者らにより同定された、このようなDNA断片に含まれる特異的な塩基配列は、イグサ品種から品種「ひのみどり」を識別するための重要なDNAマーカーとなる。特に、制限酵素HpaIIおよびPstIを用いてクローニングされたゲノムDNA断片は、その特異性が顕著である(品種「ひのみどり」では検出されず、他のイグサ品種では明確に検出された)ことから、イグサ品種識別のためのDNAマーカーとして好適である。本発明は、イグサ品種の識別に成功しうる実用的なDNAマーカーを同定したものである。
【0007】
即ち、本発明は、イグサ主要栽培品種のうち、最も優良な品質を持ち産業価値の高い品種「ひのみどり」と他の品種を識別するための方法に関し、より詳しくは、下記(1)から(27)に記載の発明を提供するものである。
【0008】
(1)配列番号1に示すヌクレオチド配列からなるDNA断片。
【0009】
(2)配列番号11に示すヌクレオチド配列からなるDNA断片。
【0010】
(3)配列番号1に示される塩基配列に存在する多型を判別するためのプライマーであって、該プライマーが、少なくとも10ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドであり、該オリゴヌクレオチドの配列は、配列番号1に示す塩基配列の一部であって、配列番号1の333~334位に示す塩基配列を含む領域、または該領域の該塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列に由来し得、但し、該プライマーは、該配列番号1の333~334位に示される塩基配列またはこれに対応する対応鎖の塩基配列には由来せず、AAまたはTTの塩基配列を含み、ここで該AAまたはTTの塩基配列は、該プライマーの3’末端領域内に位置する、プライマー。
【0011】
(4)配列番号1に示される塩基配列に存在する多型を判別するためのプライマー対であって、該プライマーの各々は、独立して、少なくとも10ヌクレオチドの連続する配列を含むオリゴヌクレオチドであり、鋳型となる二本鎖ポリヌクレオチドの一方の鎖が配列番号1に示され、ここで該少なくとも10ヌクレオチドの連続する配列の一方は、配列番号1に示す塩基配列において、該配列番号1の333~334位に示す塩基配列より5’側にある領域の配列に由来し得、かつ該少なくとも10ヌクレオチドの連続する配列の他方は、該配列番号1に示す塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列において、該配列番号1の333~334位に示す塩基配列に対応する塩基配列より5’側にある領域の配列に由来し得、それによって配列番号1に示す塩基配列の一部であって、配列番号1の333~334位に示す塩基配列を含む領域の増幅を可能にする、プライマー対。
【0012】
(5)配列番号1に示される塩基配列に存在する多型を判別するためのプライマーであって、配列番号1に示す塩基配列の一部であって、配列番号1の333~334位に示す塩基配列に隣接する領域の塩基配列、または該領域の該塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列に特異的にハイブリダイズし得、そして該プライマーは少なくとも10ヌクレオチドである、プライマー。
【0013】
(6)配列番号11に示される塩基配列に存在する多型を判別するためのプライマーであって、該プライマーは、CGTGCGTGCTGTGGTGAGCAAAGAATC(配列番号12)に由来し得る配列を含む、プライマー。
【0014】
(7)配列番号11に示される塩基配列に存在する多型を判別するためのプライマーであって、該プライマーは、GCACATTCGGGCGATTAC(配列番号14)に由来し得る配列を含む、プライマー。
【0015】
(8)前記プライマーの融解温度が34℃~80℃である、項1から7のいずれかに記載のプライマー。
【0016】
(9)イグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別する方法であって、品種識別を行うことを望むイグサまたはイグサ製品において、配列番号1に示される塩基配列に存在する多型を判別する工程を包含する、方法。
【0017】
(10)前記配列番号1に示される塩基配列に存在する多型を判別する工程が、品種識別を行うことを望むイグサまたはイグサ製品において、配列番号1の333~334位に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列の相違を検出することによる、項9に記載の方法。
【0018】
(11)前記配列番号1の333~334位に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列の相違の検出が、下記工程を包含する、項10に記載の方法:
(a)項3に記載のプライマーと、少なくとも1つの別のプライマーであって、該配列番号1に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列にハイブリダイズするプライマーとを用いて、イグサの試料DNAを増幅させる工程;および
(b)該増幅産物を検出する工程。
【0019】
(12)前記配列番号1の333~334位に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列の相違の検出が、下記工程を包含する、項10に記載の方法:
(a)項4に記載のプライマー対を用いて、イグサの試料DNAを増幅させる工程;
(b)該増幅産物を検出する工程;および
(c)該増幅産物の塩基配列を決定する工程。
【0020】
(13)上記増幅産物の塩基配列を決定する工程(c)が、前記増幅産物を項5に記載のプライマーとハイブリダイズさせ、該プライマーの3’側に標識アデニンまたは標識グアニンを取り込ませてプライマー伸長反応を行う工程、および該標識アデニンまたは標識グアニンの取り込みを検出する工程を包含する、項12に記載の方法。
【0021】
(14)イグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別する方法であって、品種識別を行うことを望むイグサまたはイグサ製品において、配列番号11に示される塩基配列に存在する多型を判別する工程を包含する、方法。
【0022】
(15)前記配列番号11に示される塩基配列に存在する多型を判別する工程が、以下の工程を包含する、項14に記載の方法:
(a)項6に記載のプライマーと、少なくとも1つの別のプライマーであって、該配列番号1に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列にハイブリダイズするプライマーとを用いて、イグサの試料DNAを増幅させる工程;および
(b)該増幅産物を検出する工程。
【0023】
(16)前記配列番号11に示される塩基配列に存在する多型を判別する工程が、以下の工程を包含する、項14に記載の方法:
(a)項7に記載のプライマーと、少なくとも1つの別のプライマーであって、該配列番号1に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列にハイブリダイズするプライマーとを用いて、イグサの試料DNAを増幅させる工程;および
(b)該増幅産物を検出する工程。
【0024】
(17)前記配列番号11に示される塩基配列に存在する多型を判別する工程が、以下の工程を包含する、項14に記載の方法:
(a)項6に記載のプライマーと、項7に記載のプライマーとを用いて、イグサの試料DNAを増幅させる工程;および
(b)該増幅産物を検出する工程。
【0025】
(18)前記配列番号11に示される塩基配列に存在する多型を判別する工程が、以下の工程を包含する、項13に記載の方法:
(a)プライマーとして、Pst109L-CGT GCT GTG GTG AGC AAA GAA TC(配列番号15),およびPst109R-GCT TGC ACA TTC GGG CGA TTA C(配列番号16)を用いて、イグサから抽出したDNAを増幅させる工程;および
(b)該増幅産物を検出する工程。
【0026】
(19)イグサまたはイグサ製品から試料DNAを抽出する工程をさらに包含する、項15から18のいずれか一項に記載の方法。
【0027】
(20)イグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別するためのキットであって、項3に記載のプライマーを備える、キット。
【0028】
(21)該配列番号1に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列にハイブリダイズする少なくとも1つの別のプライマーをさらに備える、項20に記載のキット。
【0029】
(22)イグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別するためのキットであって、項4に記載のプライマー対を備える、キット。
【0030】
(23)項5に記載のプライマーをさらに備える、項22に記載のキット。
【0031】
(24)イグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別するためのキットであって、項6に記載のプライマーを備える、キット。
【0032】
(25)イグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別するためのキットであって、項7に記載のプライマーを備える、キット。
【0033】
(26)イグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別するためのキットであって、請求項6に記載のプライマーおよび項7に記載のプライマーを備える、キット。
【0034】
(27)イグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別するためのキットであって、プライマーとして、Pst109L-CGT GCT GTG GTG AGC AAA GAA TC(配列番号15)、およびPst109R-GCT TGC ACA TTC GGG CGA TTA C(配列番号16)を備える、キット。
【発明の効果】
【0035】
本発明により、イグサの主要品種を識別するための実用的なDNAマーカーが提供された。また、該DNAマーカーを指標としたイグサ品種の識別方法が提供された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0037】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0038】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’-O-メチル-リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’-P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC-5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC-5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC-5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’-O-プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’-メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。必要に応じて、プライマーは、デオキシイノシン残基で置換された塩基を含む。
【0039】
用語「核酸」はまた、本明細書において、遺伝子、DNA、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。特定の核酸配列はまた、「スプライス改変体」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を暗黙に包含する。その名が示唆するように「スプライス改変体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス改変体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。
【0040】
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド-核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
本件明細書においてヌクレオチドを1文字表記する場合、Gはグアニンを、Tはチミンを、Aはアデニンを、Cはシトシンを示す。
【0042】
本明細書において、「断片」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1~n-1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。断片の長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上(例えば、500~1000もの長さのヌクレオチド長も含まれ得る)のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。
【0043】
本明細書において使用する場合、用語「プライマー」とは、適切な条件下(例えば、4つの異なるヌクレオシド三リン酸およびポリメライゼーション剤(例えば、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、または逆転写酵素)の存在下)で、適切な緩衝液中で、そして適切な温度において、鋳型指向性のDNA合成を開始する点として作用する一本鎖オリゴヌクレオチドをいう。プライマーの適切な長さは、プライマーの意図される使用に依存する。本発明のプライマーは、少なくとも10ヌクレオチドの長さであり、好ましくは、少なくとも15ヌクレオチドであり、より好ましくは少なくとも17ヌクレオチドである。プライマーは、代表的には、40ヌクレオチド未満であり得、好ましくは、30ヌクレオチド未満であり得る。さらに好ましくは、本発明のプライマーは、長さが20~29ヌクレオチドの範囲であり得る。短いプライマー分子は、鋳型との十分に安定なハイブリッド複合体を形成するために、一般により低い温度を必要とする。プライマーは、鋳型の正確な配列に完全にマッチする必要はないが、鋳型とハイブリダイズするのに十分相補的であるべきである。用語「プライマー部位」とは、プライマーがハイブリダイズする標的である鋳型核酸の配列をいう。用語「プライマー対」とは、増幅される核酸配列の5’末端とハイブリダイズする5’(上流)プライマーおよび増幅されるその配列の3’末端の相補物とハイブリダイズする3’(下流)プライマーを含む一組のプライマーをいう。
【0044】
本明細書において使用する場合、「1塩基多型」とは、遺伝子の塩基配列が一ヶ所だけ異なる状態、およびその部位をいう。本明細書において、「1塩基多型」は、「SNP」および「SNPs」と互換可能に使用される。
【0045】
本明細書において使用する場合、「多型判別用プライマー」とは、そのプライマーを用いたPCRなどの核酸増幅反応によって、その増幅産物の有無から多型部位の遺伝子型を判別するために使用されるプライマーを意味する。
【0046】
また、本明細書においては、核酸増幅反応として、例示的に用語「PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)」を用いているが、本発明の実施のためにPCR以外の核酸増幅反応も使用可能である。従って、本発明のプライマーが使用されるのは、PCRに限定されない。
【0047】
本明細書において、「プライマー」の3’末端から塩基を数える場合、「プライマーの3’末端から1番目の塩基」とは、3’末端の塩基をいう。従って、例えば、配列番号6の配列(5’-AGTTTTGTTGGATTTAATTGTTAAAGGAA-3’)を有するプライマーにおいて、「プライマーの3’末端から1番目の塩基」は「A」であり、「プライマーの3’末端から3番目の塩基」は「G」である。
【0048】
本明細書において、「プライマーの3’末端からX番目の塩基に対応する塩基」とは、プライマーが鋳型核酸とハイブリダイズした場合に、そのプライマーの3’末端から数えてX番目の位置の塩基がハイブリダイズする位置に存在する塩基をいう。また、プライマーの設計において、「(ある)塩基配列に対応するDNAの塩基配列」とは、前者の(ある)塩基配列にハイブリダイズ(またはアニール)する(例えば、相補的な)塩基配列をいい、前者の(ある)塩基配列が、GGである場合、「(ある)塩基配列に対応するDNAの塩基配列」とはCCであり得る。
【0049】
本明細書において、(ある)塩基配列に「対応する対応鎖」とは、当該(ある)塩基配列とDNA二本鎖を形成するもう一方の鎖をいう。「対応する対応鎖」の塩基配列は、当該(ある)塩基配列に対して相補的である(例えば、aに対してt、tに対してa、gに対してc、cに対してgである)ことが当業者には理解され得る。
【0050】
本発明のプライマーを用いるPCRにおける鋳型DNAの調製は、周知の種々の方法(例えば、CTBA法、ボイル法など)によって、細胞および組織などからDNA(好ましくは、ゲノムDNA)を調製することによって、行われ得る。
【0051】
鋳型核酸としてDNA断片を使用する場合、鋳型核酸は、例えば、ゲノムDNAまたはプラスミドDNAを消化することによって、あるいはPCRの使用によって、調製され得る。プライマーまたはプローブとしての使用のためのオリゴヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの化学合成の分野において公知の方法(非限定的例として、BeaucageおよびCarruthers(Tetrahedron Lett 22:1859~1862(1981))によって記載されるホスホロアミダイト法、およびMatteucciら(J.Am.Chem.Soc.、103:3185(1981))によって提供されるトリエステル法(両方を本明細書において参考として援用する)によって化学的に合成される。これらの合成は、Needham-VanDevanter,D.R.ら(Nucleic Acids Res.12:6159~6168(1984)において記載されるような自動合成機を使用し得る。オリゴヌクレオチドの精製は、Pearson,J.D.およびRegnier,F.E.(J.Chrom、255:137~149(1983))に記載されるように、未変性アクリルアミドゲル電気泳動またはアニオン交換HPLCのいずれかによって行われ得る。次に、所望される場合、二本鎖断片は、適切な相補的な一本鎖の対を適切な条件下でアニールすることによってか、または適切なプライマー配列とともにDNAポリメラーゼを使用して相補鎖を合成することによって、得られ得る。核酸プローブのための特定の配列が与えられる場合、相補的鎖もまた同定され、そして含まれることが理解される。その相補的鎖は、標的が二本鎖核酸である場合、同等に良く作用する。
【0052】
合成オリゴヌクレオチドの配列または任意の核酸断片の配列は、ジデオキシチェーンターミネーション法またはマクサム-ギルバート法のいずれかを使用して得られ得る(Sambrookら、Molecular Cloning-a Laboratory Manual(第2版)、第1~3巻、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、New York、(1989)、本明細書において参考として援用する)。このマニュアルを、本明細書において、「Sambrookら」という;「Zyskindら(1988)」。Recombinant DNA Laboratory Manual、(Acad.Press、New York)。
【0053】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。「種相同体またはホモログ」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ」とは、オルソロガス遺伝子ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトとマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子とβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。
【0054】
本発明において利用され得る一般的な分子生物学的手法としては、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、 Wiley、 New York、NY;Sambrook Jら(1987) Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NYなどを参酌して当業者であれば容易に実施をすることができる。
【0055】
本発明は、イグサ品種のうち品種「ひのみどり」に特異的なゲノムDNAの塩基配列を含むゲノムDNA断片を提供する。このようなゲノムDNA断片は、品種「ひのみどり」に特異的に存在しない塩基配列を含むものであっても、品種「ひのみどり」に特異的に存在する塩基配列を含むものであってもよい。当該ゲノムDNA断片は、約500~1,000塩基対の断片長を有することが望ましい。この長さは、1passで配列決定を行うのに適した断片長である。当該ゲノムDNA断片は、例えば、以下のように、ランダムクローニングおよびPCRダイレクトシーケンシングを行うことにより、同定され得る:
1.制限酵素で消化した「ひのみどり」のゲノムDNAをサイズ分画し、500~1000塩基対の断片をクローニングする;
2.クローニングしたDNAの塩基配列を決定し、決定された塩基配列をもとにプライマーを設計する;
3.設計されたプライマーを使用して、多数のイグサ品種(ひのみどりを含む、少なくとも8品種、好ましくは、代表的な下記の表1に示すイグサ16品種を含む)のゲノムDNAを鋳型にPCRを行い、全ての品種で増幅断片が得られたものについて、増幅されたDNA断片の塩基配列を決定する。これら増幅されたDNA断片の塩基配列を比較することにより、(ひのみどり以外の)他の品種には共通に存在し,なおかつ品種「ひのみどり」に特異的に存在しないDNAの点突然変異(例えば、1塩基多型)が検出される。上記ランダムクローニングにおいて用いられる制限酵素としては、4塩基(CCGG)を認識切断する制限酵素HpaIIあるいは6塩基(CTGCAG)を認識切断する制限酵素PstIが挙げられる。
【0056】
上記のようにして同定されたゲノムDNA断片の形態の一つは、図1(配列番号1)に示すゲノムDNA断片である。この断片において、比較品種においてはA/Gヘテロ接合型であるのに対し品種「ひのみどり」ではG型ホモ接合型となっている(図2中のPosition230-231の箇所)。上記のようにして同定されたゲノムDNA断片の別の形態は、図8(配列番号11)に示すゲノムDNA断片である。これらのゲノムDNA断片の塩基配列は、イグサ品種識別のための優れたDNAマーカーとなる。
【0057】
本発明は、イグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別する方法を提供する。イグサ品種間で「ひのみどり」を識別することは、上記DNAマーカーを検出することによって実施され得る。
【0058】
本発明は、イグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別する方法であって、品種識別を行うことを望むイグサまたはイグサ製品において、配列番号1に示される塩基配列に存在する多型を判別する工程を包含する、方法を提供する。
【0059】
本発明はまた、イグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別する方法であって、品種識別を行うことを望むイグサまたはイグサ製品において、配列番号11に示される塩基配列に存在する多型を判別する工程を包含する、方法を提供する。
【0060】
本発明の方法のある実施形態では、品種識別を行うことを望むイグサまたはイグサ製品において、配列番号1の333~334位に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応するDNAの塩基配列の相違を検出する工程を包含する。
【0061】
本発明の品種「ひのみどり」の識別方法の一つの態様は、上述したランダムクローニングおよびPCRダイレクトシーケンシングを利用した方法である。即ち、品種識別を行うことを望むイグサにおいて、そのゲノムDNAを制限酵素で消化してクローニングし、クローンの塩基配列を決定してプライマーを設計し、続いてPCRダイレクトシーケンシングに供し、他の品種に共通に存在し、かつ品種「ひのみどり」には特異的に存在しない点突然変異を検出する。
【0062】
ランダムクローニングにおける制限酵素としてHpaIIを使用してこのPCRダイレクトシーケンシングにおいて、検出の対象とするゲノムDNA断片は、配列番号1の333~334位における、比較品種においてはA/Gヘテロ接合型であるのに対し、品種「ひのみどり」ではG型ホモ接合型(すなわち、GG)であるゲノムDNA断片である。品種識別の対象としたイグサにおいて、G型ホモ接合型(すなわち、GGまたは対応する鎖中のCC)であるゲノムDNA断片が検出されれば、このイグサは、品種「ひのみどり」であると判定され得る。逆に、このDNA断片が検出されなければ、あるいは、A/Gヘテロ接合型であるゲノムDNA断片が検出されれば、品種「ひのみどり」ではないと判定され得る。
【0063】
本発明の品種「ひのみどり」の識別方法の他の一つの態様は、核酸増幅反応(好ましくは、ポリメラーゼ連鎖反応)を利用した方法である。この方法については以下に説明する。
【0064】
本発明は、品種「ひのみどり」を識別するためのプライマーを提供する。プライマーの適切な長さは、プライマーの意図される使用に依存するが、本発明のプライマーは、少なくとも10ヌクレオチドの長さであり、好ましくは、少なくとも15ヌクレオチドであり、より好ましくは少なくとも17ヌクレオチドである。プライマーは、代表的には、40ヌクレオチド未満であり得、好ましくは、30ヌクレオチド未満であり得る。さらに好ましくは、本発明のプライマーは、長さが20~29ヌクレオチドの範囲であり得る。
【0065】
1つの局面において、このプライマーは、配列番号1に示される塩基配列の相違を判別するために用いられるPCRプライマーである。1つの局面において、本発明のプライマーにおいては、そのオリゴヌクレオチドの配列は、配列番号1に示す塩基配列の一部であって、配列番号1の333~334位に示す塩基配列を含む領域、または該領域の該塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列に由来し得、但し、該配列番号1の333~334位に示される塩基配列またはこれに対応する対応鎖の塩基配列には由来せず、AAまたはTTの塩基配列を含む。このAAまたはTTの塩基配列は、当該プライマーの3’末端領域内に位置する。このプライマーを、本明細書中以下においては、便宜的に、プライマー1と称する。プライマー1は、配列番号1の333~334位に示す塩基がA/Gヘテロ接合型である、イグサ比較品種のゲノムDNA断片にアニールして伸長する条件(例えば、以下の実施例2または3と実質的に同等の増幅反応条件)下で、配列番号1の333~334位に示す塩基がG型ホモ接合型(すなわちGG)である、品種「ひのみどり」のゲノムDNA断片にアニールして伸長し得ない。
【0066】
本明細書において、プライマー1の「3’末端領域」とは、配列番号1の333~334位に示す塩基がA/Gヘテロ接合型であるイグサ比較品種のゲノムDNA断片にはアニールして伸長する条件下で、配列番号1の333~334位に示す塩基がG型ホモ接合型である品種「ひのみどり」のゲノムDNA断片にはアニールして伸長し得ないように設計される限りの、プライマーの3’末端側にある領域をいう。好ましくは、プライマー1の「3’末端領域」とは、プライマー1の3’末端から1番目の塩基から6番目の塩基に及ぶ領域である。
【0067】
例えば、「プライマー1の『3’末端から1番目の塩基から6番目の塩基』中にAAまたはTTの塩基配列を含む」とは、長さが17ヌクレオチドのプライマーの場合、このプライマー1は、5’から3’の順に表記して、XXXXXXXXXXXXXXXAA、XXXXXXXXXXXXXXAAX、XXXXXXXXXXXXXAAXX、XXXXXXXXXXXXAAXXX、またはXXXXXXXXXXXAAXXXX(ここで、AAはTTでもあり得る)の塩基配列を有するプライマーであり得る。
【0068】
本明細書において、特定の領域(例えば、配列番号1に示す塩基配列の領域)に「由来し得る」とは、当該領域の対応する対応鎖にハイブリダイズ可能であるように設計される塩基配列を有することをいう。上記プライマー1中のAA以外の領域は、配列番号1の333~334位の5’側または3’側のいずれかの領域の対応する対応鎖にハイブリダイズ可能であるような塩基配列を有し得る。好ましくは、上記プライマー1中のAA以外の塩基は、本プライマーがアニールするのに対応する、配列番号1の333~334位の5’側または3’側のいずれかの領域の対応する対応鎖中の塩基に相補的である。好ましいプライマー1は、プライマーの3’末端から1番目の塩基および2番目の塩基にAAを含む(すなわち、長さが17ヌクレオチドのプライマー1の場合、5’から3’の順に表記して、XXXXXXXXXXXXXXXAAで表される)。より好ましくは、AAの5’末端側の配列は、配列番号1の333~334位に隣接する塩基配列の対応する対応鎖の塩基配列に完全に相補的である。
【0069】
好ましいプライマーの一例としては、下記の実施例2に示されるIF Aプライマー(5’-AGT TTT GTT GGA TTT AAT TGT TAA AGG AA-3’(配列番号6))が挙げられる。このプライマーは、SNPの位置(配列番号1の333~334位に相当する)以外は、配列番号1に示す塩基配列の一部であって、配列番号1の333~334位に示す塩基配列を含む領域に由来し得る配列を有し、そしてAAを3’末端から1番目および2番目の塩基として有する。上記プライマーは、該領域の該塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列にも由来し得、このような配列を有するプライマーとしては、例えば、5’-TTG TAT CCA ACA TCT GAT ATC Ttt CC-3’(配列番号17)(「tt」の部分がSNPの位置に相当する)のような配列を有するプライマーもまた挙げられ得る。
【0070】
本発明はまた、以下に説明するような、配列番号1に示される塩基配列の相違を判別するために用いられるPCRプライマー対を提供する。当該プライマー対の各々のプライマーの長さは上記PCRプライマーと同様であり得る。当該プライマーの各々は、独立して、少なくとも10ヌクレオチド、好ましくは、少なくとも15ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも17ヌクレオチド、なおより好ましくは少なくとも20ヌクレオチド、さらにより好ましくは少なくとも22ヌクレオチド、なおさらにより好ましくは少なくとも25ヌクレオチド、なおさらにより好ましくは少なくとも27ヌクレオチドの連続する配列を含むオリゴヌクレオチドである。鋳型となる二本鎖ポリヌクレオチドの一方の鎖が配列番号1に示される。上記連続する配列の一方は、配列番号1に示す塩基配列において、該配列番号1の333~334位に示す塩基配列より5’側にある領域の配列に由来し得、かつ上記連続する配列の他方は、配列番号1に示す塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列において、該配列番号1の333~334位に示す塩基配列に対応する塩基配列より5’側にある領域の配列に由来し得る。これらプライマーがハイブリダイズするプライマー部位は、配列番号1の333~334位に示す塩基配列を含む領域および対応する対応鎖の塩基配列を増幅し得る、配列番号1に示される塩基配列および対応する対応鎖における任意の部位であり得る。従って、当該プライマー対は、配列番号1のヌクレオチド配列全体にて示されるゲノムDNA断片または配列番号1の333~334位に示す塩基配列を含む当該ゲノムDNA断片の一部の領域およびこれらの対応する対応鎖を増幅可能なプライマー対である。好ましくは、上記プライマーの塩基は、本プライマーがアニールするのに対応する部位の塩基に相補的である。プライマー対中の両プライマーがそれぞれ対応する部位にアニールし、伸長反応を生じさせることにより、配列番号1の333~334位に示す塩基配列を含む、上記部位間の領域および当該領域の対応する対応鎖を増幅し得る。また、このプライマー対の一方のプライマーはホスホロチオエート修飾され得る。
【0071】
本発明はまた、以下に説明するような、配列番号1に示される塩基配列の相違を判別するために用いられるPCRプライマーを提供する。当該プライマーの長さは上記PCRプライマーと同様であり得る。このプライマーは、配列番号1に示す塩基配列の一部であって、配列番号1の333~334位に示す塩基配列に隣接する領域の塩基配列、または該領域の該塩基配列に対応する対応鎖の塩基配列に特異的にハイブリダイズし得る。このプライマーを、本明細書中以下においては、便宜的に、プライマー2と称する。プライマー2は、好ましくは、その3’末端から1番目の塩基を、配列番号1の333~334位に示す塩基配列に隣接する領域、すなわち、配列番号1の332位または配列番号1の335位に対応する鎖中の塩基に相補的な塩基とするプライマーである。
【0072】
好ましくは、本発明のプライマーは、プライマーの3’末端の塩基と相補的な塩基を有する鋳型のみを増幅し得る。従って、本発明のプライマーを用いたPCR反応において、増幅産物が検出される場合には、鋳型中の、プライマー3’末端に対応する位置の塩基は、プライマー3’末端と相補的な塩基である。
【0073】
本発明はまた、配列番号11の28番目の塩基Cから54番目の塩基Cまでの塩基配列(CGTGCGTGCTGTGGTGAGCAAAGAATC(配列番号12))に由来し得る配列を有するプライマー(Lプライマーとも称する)および、409番目の塩基Gから427番目のCまでの塩基配列(GTAATCGCCCGAATGTGC(配列番号13))に対応する対応鎖の配列に由来し得るプライマー(Rプライマーとも称する)を提供する。慣用の増幅反応条件下で、Lプライマーは、配列番号11の28番目の塩基Cから54番目の塩基Cまでの塩基配列(CGTGCGTGCTGTGGTGAGCAAAGAATC(配列番号12))に対応する対応鎖の配列、そしてRプライマーは、409番目の塩基Gから427番目のCまでの塩基配列(GTAATCGCCCGAATGTGC(配列番号13))を認識して伸長反応を生じさせる配列を有し得る。Lプライマーは、配列番号12に示される塩基配列と少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは100%同一である配列を有する。Rプライマーは、配列番号13に対応する逆方向の配列GCACATTCGGGCGATTAC(配列番号14)と、少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは100%同一である配列を有する。上記LプライマーおよびRプライマーとしてはそれぞれ、例えば、後述の実施例4に記載のPstLプライマーおよびPstRプライマーが好適に使用され得る。
【0074】
1つの実施形態において、本発明のプライマーのTmは、34℃~80℃であり得る。好ましくは50℃以上、なお好ましくは、55℃以上、より好ましくは、60℃以上であり、そして、65℃以上、70℃以上のTmを有するプライマーも使用可能である。
【0075】
本発明の一実施形態において、本発明のイグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別する方法における、上記配列番号1の333~334位に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応するDNAの塩基配列の相違を検出する工程は、下記工程を包含する:(a)プライマー1と、少なくとも1つの別のプライマーであって、該配列番号1に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応するDNAの塩基配列にハイブリダイズするプライマーとを用いて、イグサの試料DNAを増幅させる工程;および(b)該増幅産物を検出する工程。
【0076】
このような設計のプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖法によれば、品種識別の対象となるイグサにおいて、品種「ひのみどり」に特異的に存在しない塩基配列が存在する場合のみ、ポリメラーゼ連鎖反応の増幅産物が検出される。従って、この増幅産物の有無を検出することにより、品種識別の対象となるイグサが、品種「ひのみどり」であるか否かを判定することができる。
【0077】
本方法の一実施形態では、PCR-CTPP法(Confronting Two-Pair Primers)(Hamajima N,Saito T,Matsuo K,Tajima K.Competitive amplification and unspecific amplification in polymerase chain reaction with confronting two-pair primers.J Mol Diagn.2002 May;4(2):103-7.およびWaterfall CM,Cobb BD.SNP genotyping using single-tube fluorescent bidirectional PCR.Biotechniques.2002 Jul;33(1):80,82-4,86)が利用され得る。PCR-CTPP法では、下記実施例にて例示されるように、配列番号1の333~334位に示す塩基配列を挟み込む領域またはその対応する対応鎖を増幅するように選択されたオリゴヌクレオチドプライマー対(OFおよびOR)および配列番号1の333~334位に示す塩基配列を3’末端領域に含む領域またはその対応する対応鎖のオリゴヌクレオチドに由来するプライマー対(IF-AおよびIR-CC)が設計され得、OF/IR-CCのプライマー対とIF-A/ORのプライマー対によって、それぞれに対応する対立遺伝子「AA/TT」と「GG/CC」の認識を行い得る。ここで使用され得るOFプライマー、ORプライマー、IF-Aプライマー、およびIR-CCプライマーは、OFおよびORに関しては、配列番号1の333~334位に示す塩基配列を挟み込む領域またはその対応する対応鎖を増幅し得るものであれば、そしてIF-AおよびIR-CCに関しては、配列番号1の333~334位に示す塩基配列を3’末端領域に含む領域またはその対応する対応鎖のオリゴヌクレオチドに由来する(但し、IF-Aに関しては、配列番号1の333~334位がAAである)(IFとIRとが逆の場合も同様である(但しTT))ものであれば、実施例に例示される配列に限定されない。
【0078】
「ひのみどり」の識別は、例えば、融解曲線分析または電気泳動による増幅産物のバンドの検出によって行われ得る。PCR-CTPP法では、例えば、OF/IR-CCによる増幅産物が生じる一方で、IF-A/ORによる増幅産物が生じなかったことをもって、PCRの失敗とも区別して、「ひのみどり」の識別を決定し得る。融解曲線分析では、DNA鎖の乖離に伴う蛍光強度の減衰を観察することにより増幅産物の融解温度の違いを検出し、この違いにより識別できる。増幅産物の電気泳動において、上記の各プライマー対による増幅産物バンドの有無を検出することによってもまた、識別できる。
【0079】
本方法の一実施形態では、また、アンプリコン長多型(Amplicon Length Polymorphisms(ALP))法が利用され得る。この方法では、同じプライマー対を使用して異なる品種のDNAを鋳型に用いて増幅反応を行うと、鋳型の配列に依存して異なる大きさの増幅産物を生じ得る。増幅反応により生じた増幅産物のサイズの比較により、「ひのみどり」の識別を決定し得る。
【0080】
一実施形態では、上記配列番号1の333~334位に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応するDNAの塩基配列の相違を検出する工程は、(a)本発明の上記プライマー対を用いて、イグサの試料DNAを増幅させる工程;(b)該増幅産物を検出する工程;および(c)該増幅産物の塩基配列を決定する工程を包含する。
【0081】
例えば、この方法においては、まず、イグサ品種に共通に存在する塩基配列を挟み込むように設計された一対のオリゴヌクレオチドをプライマーとして、品種識別を行うことを望むイグサ由来のゲノムDNAを鋳型に、ポリメラーゼ連鎖反応を行い、次いで、該ポリメラーゼ連鎖反応による増幅産物を検出する。この方法においては、さらに、増幅産物の塩基配列を決定する工程を含むことができる。増幅産物の塩基配列の決定には、当該分野で周知の任意の方法が使用され得る。
【0082】
一実施形態において、上記方法における増幅産物の塩基配列を決定する工程は、前記増幅産物をプライマー2とハイブリダイズさせ、当該プライマーの3’側に標識アデニンまたは標識グアニンを取り込ませてプライマー伸長反応を行う工程、および該標識アデニンまたは標識グアニンの取り込みを検出する工程を包含し得る。本実施形態では、品種「ひのみどり」と他のイグサ品種の塩基配列の相違点に隣接するプライマー(例えば、プライマー2)を使用するプライマー伸長反応による増幅産物の種類および有無を判定することにより塩基の違いを決定し得、従って、品種「ひのみどり」か他の品種かを識別し得る。増幅産物の種類および有無の判定は、比色法あるいは蛍光測定法により行い得る。例えば、SureScoreTMキット(Invitrogen社)あるいはTaqman(量的PCR検出)システム(Roche社)を利用すれば、比色法あるいは蛍光測定法により増幅産物の種類および有無を判定することが可能である。比色法あるいは蛍光測定法は、もちろん他の同等の機能を有するシステムもまた使用し得る。これらのシステムによれば、電気泳動の手間も省けるため短時間で品種識別を行うことが可能であり、税関や植物検疫の検査への実用化に好適である。アデニンおよびグアニンの標識は、例えば、放射性物質、蛍光物質などによって標識され得る。これにより、品種識別の対象となるイグサが、品種「ひのみどり」であるか否かを、塩基配列を基に直接的かつ確実に判別することが可能となる。
【0083】
本発明の方法の一実施形態における、配列番号11に示される塩基配列に存在する多型を判別する工程は、一実施形態において、以下の工程を包含する:
(a)Lプライマーと、少なくとも1つの別のプライマーであって、該配列番号11に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応するDNAの塩基配列にハイブリダイズするプライマーとを用いて、イグサの試料DNAを増幅させる工程;および
(b)該増幅産物を検出する工程。
【0084】
本発明の方法の一実施形態における、配列番号11に示される塩基配列に存在する多型を判別する工程はまた、別の実施形態において、以下の工程を包含する:
(a)Rプライマーと、少なくとも1つの別のプライマーであって、該配列番号11に示すゲノムDNAの塩基配列または該塩基配列に対応するDNAの塩基配列にハイブリダイズするプライマーとを用いて、イグサの試料DNAを増幅させる工程;および
(b)該増幅産物を検出する工程。
【0085】
本発明の方法の一実施形態における、配列番号11に示される塩基配列に存在する多型を判別する工程はまた、別の実施形態において、以下の工程を包含する:
(a)Lプライマーと、Rプライマーとを用いて、イグサの試料DNAを増幅させる工程;および
(b)該増幅産物を検出する工程。
【0086】
本発明の方法の一実施形態における、配列番号11に示される塩基配列に存在する多型を判別する工程はまた、別の実施形態において、以下の工程を包含する:
(a)プライマーとして、Pst109L-CGT GCT GTG GTG AGC AAA GAA TC(配列番号15),およびPst109R-GCT TGC ACA TTC GGG CGA TTA C(配列番号16)を用いて、イグサの試料DNAを増幅させる工程;および
(b)該増幅産物を検出する工程。
【0087】
本方法の好ましい実施形態では、また、アンプリコン長多型(Amplicon Length Polymorphisms(ALP))法が利用され得る。この方法では、同じプライマー対を使用して異なる品種のDNAを鋳型に用いて増幅反応を行うと、鋳型の配列に依存して異なる大きさの増幅産物を生じ得る。増幅反応により生じた増幅産物のサイズの比較により、「ひのみどり」の識別を決定し得る。例えば、下記の実施例4では、図9に示すように、品種「ひのみどり」では約320bpの位置に1本のバンド、他の15品種では約320bpと約500bpの位置に2本のバンドが示され、品種「ひのみどり」とその他の15品種の間でAmplicon Length Polymorphisms(ALP)を明らかに示している。本方法は実施例の記載に限定されないが、本方法において実施例4に示される結果と実質的に同等の結果を示し得るプライマーは、配列番号11に示される塩基配列に存在する多型を判別する工程において使用され得る。。「実質的に同等の結果である」とは、下記の実施例4と実質的に同等の条件下で増幅反応を行ったとき、他のイグサ品種では、約320bpと約500bpの2つの増幅産物が検出され、品種「ひのみどり」では、約320bpの1つの増幅産物のみが示されることであるが、「ひのみどり」特異的な結果が示される限り、この増幅産物の大きさは必ずしも正確に一致し得なくてもよいことを意味する。プライマーは、鋳型とハイブリダイズするのに十分相補的であれば、鋳型の正確な配列に完全にマッチする必要はない。このようなプライマーの設計は、本明細書にて開示された配列番号11の配列情報のような本明細書の記載に基づいて、当業者によって実施され得る。プライマーの設計においては、商業的に入手可能なまたは公に利用可能なプログラムもまた用い得る。
【0088】
上述したように、本明細書においては、核酸増幅反応として、例示的に用語「PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)」を用いているが、本発明の実施のためにPCR以外の核酸増幅反応も使用可能である。好ましくは、増幅工程において、PCRが使用され得る。
【0089】
本発明におけるPCR反応において使用される鋳型としては、ゲノムDNA、cDNA、RNA、mRNAが挙げられるがこれらに限定されない。本発明において使用される鋳型は、天然から単離された状態であっても、単離された後に酵素などによって処理されたものあってもよい。鋳型を処理する酵素としては、逆転写酵素、制限酵素、ポリメラーゼなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0090】
本発明において使用されるプライマーは、例えば、放射性物質、蛍光物質などによって標識されていてもよい。
【0091】
PCR産物を検出する方法としては、電気泳動、リアルタイムPCR検出装置が挙げられるがこれに限定されない。
【0092】
PCR反応のためには、周知または市販の種々の酵素を使用しうる。また、PCR反応の条件は周知である。
【0093】
本発明の識別方法は、イグサまたはイグサ製品からDNAを抽出する工程をさらに包含し得る。本発明の識別方法にて品種を識別するための供試材料としては、イグサの植物体(例えば、茎)および加工されたイグサ製品(例えば、畳)のいずれもが用いられ得る。このような材料から当業者に周知の方法(例えば、上述したCTBA法、ボイル法など)によってDNAが抽出され得る。例えば、畳表製品からのサンプルの採取は、「裏毛」からとることになり得るが、イグサ植物体の株基と先端部とを見分けて、先端部から抽出することが望ましい。株基は原草を乾燥させる際に熱源に近い位置にあるため、DNAの分解が進んでいることが多い。しかし、本明細書中のいずれの方法も200~300塩基対程度の短い配列を標的としたPCR法に基づき得るので、株基のようなDNAの断片化したサンプルにも適用可能である。また、一つの畳表製品が単一の品種である保証は無いため、一つの製品について16~32点程度のサンプリングを行うことが望ましい。
【0094】
本発明はまた、イグサまたはイグサ製品が品種「ひのみどり」であるか否かを識別するためのキットを提供する。本キットは、一実施形態においては、プライマー1を備える。本キットの別の実施形態では、上記プライマー対を備える。このキットはさらに、プライマー2を備え得る。本キットは、別の実施形態においては、Lプライマーを備える。本キットは、別の実施形態においては、Rプライマーを備える。本キットは、別の実施形態においては、LプライマーおよびRプライマーを備える。本キットは、別の実施形態においては、プライマーとして、Pst109L-CGT GCT GTG GTG AGC AAA GAA TC(配列番号15),およびPst109R-GCT TGC ACA TTC GGG CGA TTA C(配列番号16)を備える。
【0095】
本キットはさらに、「ひのみどり」を識別するための手順を記載した説明書もまた備え得る。本キットはさらに、上述したような「ひのみどり」の識別方法において好適に使用するために用いられ得る他の任意の成分もまた備え得る。
【0096】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例1】
【0097】
(イグサの品種識別に利用可能なDNAマーカーの同定)
(1)試料の調製
表1.供試した品種
品種ID
品種名

1
ひのみどり

2
下増田在来

3
しらぬい

4
岡山3号

5
岡山みどり

6
さざなみ

7
きよなみ

8
ふくなみ

9
岡山F系

10
くまがわ

11
文政在来

12
筑後みどり

13
高須在来

14
千丁在来

15
あさなぎ

16
大原四号

品種ID 品種名
材料は“ひのみどり“を含むイグサ品種16品種(上記の表1)よりCTAB法によって抽出したゲノムDNAである。イグサの粉砕物0.1gに臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)緩衝液〔1%CTAB、0.1~0.5M EDTA(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)、0.5% SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、0.05M トリス-塩酸 pH8.0〕0.5mlを添加して、56℃で1時間保温した。つぎにPCI処理として、0.5mlのPCI(0.25mlフェノール、0.24mlクロロホルム、0.01mlイソアミルアルコール)を添加して、20分間振揺混合した。さらにCIA処理として、15,000rpm、10℃で10分間超遠心分離した後、1mlのCIA(0.96mlクロロホルム、0.04mlイソアミルアルコール)を添加して10分間振揺混合した。15,000rpm、20℃で10分間超遠心分離した後、イソプロパノール沈澱によりゲノムDNAを濃縮洗浄して乾燥し、0.2g/lになるようにRNaseA(リボ核酸分解酵素A)緩衝液(7g/l RNaseA、10mM トリス-塩酸pH7.9、50mM 塩化ナトリウム、10mM 塩化マグネシウム、1mM ジチオスレイトール)に溶解して、37℃で2時間保温した。そして、該PCI処理、該CIA処理を行い、20℃で15分間超遠心分離した後、エタノール沈殿を行いDNAを乾燥させた。
【0098】
(2)制限断片のクローン化
上記工程により得られたゲノムDNA,5マイクログラムを制限酵素HpaIIで切断し、アガロースゲル電気泳動によりサイズ分画し、800bp-1,000塩基対の制限断片をpBluescript II SK+に結合し,大腸菌に形質転換を行いゲノミックライブラリを作成した。
【0099】
(3)クローン化したゲノムDNAの塩基配列の決定
上記工程により得られたクローン化イグサ・ゲノムDNAの塩基配列を決定した。すなわち,抽出したプラスミドDNA500ナノグラムを鋳型とし、p7あるいはp8プライマーを使用してサイクルシーケンス反応を行い、DNAシーケンサを使用して挿入断片の塩基配列約800塩基対を決定した(図1)。図1には、このクローンHpaII01の塩基配列を示す(配列番号1)。
【0100】
(4)プライマーの設計およびゲノムDNAの増幅
上記工程により決定されたイグサ・ゲノムDNAの塩基配列をもとにプライマー設計ソフトウエアPrimer3を使用して,標的配列の大きさを700-800塩基対としてプライマー設計を行った。プライマーの配列は、以下の通りである:01U:5’-CTA GAC GTT CAA AAT CGT ACA CCT A-3’(配列番号3)、01L:5’-GCG GCT TGT AAT GAA ATA ATC TTA G-3’(配列番号2)(図1中、各々、ボールドフェイスで示される領域にアニールする)。これらプライマーを用いて、実施例1で抽出した各種イグサ品種のDNAを鋳型にPCRを行い,アガロースゲル電気泳動により単一のバンドとして増幅されることを確認した。
【0101】
(5)PCRダイレクトシーケンス
上記工程により得られたPCR産物を鋳型に,上記工程で設計されたプライマー01Lを使用してサイクルシーケンス反応を行い、DNAシーケンサを使用してPCR産物の塩基配列約800塩基対を決定した。この工程において,品種「ひのみどり」ではGG/GG型のホモ接合,他の15品種ではGG/AAのヘテロ接合の領域があることが明らかとなった(図2)。図2は、「ひのみどり」ではホモ接合、その他の品種ではヘテロ接合となっている領域のクロマトグラムを示す。上段は「ひのみどり」,下段は岡山3号である。この図では、Position230-231で「ひのみどり」がGG/GGであるのに対して,“岡山3号“ではGG/AA接合(図中、配列は、NNとして表される;当該箇所において、AのクロマトグラムとGのクロマトグラムとが重なっている)となっている。
【実施例2】
【0102】
(SNPプライマーを用いた「ひのみどり」の識別(PCR-CTPP法))
実施例1にて見出されたホモ接合/ヘテロ接合の多型をPCRで検出するため,4種類のプライマー(OF: 5’-GCT TGT TTG GGC TGG TAA AAG ATT A-3’(配列番号4),OR: 5’-AAT TCA GCC CCA AAT GAT TAA AAT G-3’(配列番号5),IF_A: 5’-AGT TTT GTT GGA TTT AAT TGT TAA AGG AA-3’(配列番号6),IF_CC: 5’-TTG TAT CCA ACA TCT GAT ATC TCC CC-3’(配列番号7))を設計し(図3),PCR-CTPP法(Confronting Two-Pair Primers)(Hamajima N,Saito T,Matsuo K,Tajima K.Competitive amplification and unspecific amplification in polymerase chain reaction with confronting two-pair primers.J Mol Diagn.2002 May;4(2):103-7.;およびWaterfall CM,Cobb BD.SNP genotyping using single-tube fluorescent bidirectional PCR.Biotechniques.2002 Jul;33(1):80,82-4,86)を利用した多型検出を行った。図3は、PCR-CTPPに使用したプライマーセットの配置図を示す。SNPの位置は灰色の背景のボールドフェイスで示した(OFプライマーおよびORプライマーのそれぞれがアニールし得る領域を、アンダーラインつきのボールドフェイスにて示す。IF-Aプライマーの配列を上段に示した配列に示す。IR_CCプライマーがアニールし得る領域を枠つきの配列にて示す。増幅産物はそれぞれOF/ORセット;193bp、OF/IR_CCセット;163bp、IF-A/ORセット;81bpである)。PCRの標的配列の大きさは、OF/IR-CC断片が81bp、またIF-A/OR断片が163bpである。PCRの反応体積20μl中にQuantiTectTM SYBR(登録商標)Green PCR溶液 10μl,0.15mM OF プライマー、0.15mM IR-CCプライマー,0.4mM ORプライマー、0.4mM IF-Aプライマー、120ng ゲノムDNAを含む反応液を調製し、LightCycler(Roche Diagnostics)を使用してPCRを行った。PCRの増幅条件は、95℃ 15分 1回;94℃ 10秒、45℃ 20秒、70℃ 20秒 60回とし、融解曲線分析は70℃ 50秒保持、0.4℃/秒で55℃まで降下、0.05℃/秒で55℃から85℃まで上昇させ、温度上昇中に蛍光光度を測定することで行った。反応後のDNA溶液は3%アガロースゲル、1×TBEバッファー中で電気泳動を行い、EtBr染色後トランスイルミネータ上で写真撮影した。
【0103】
融解曲線分析の結果を図4に示した。横軸に測定時の温度、縦軸に符号を逆転させた蛍光強度の差を割り当てたグラフである。図4の各グラフ1~16は、以下に示す通りである:1.ひのみどり、2.下増田在来、3.しらぬい、4.岡山3号、5.岡山みどり、6.さざなみ、7.きよなみ、8.ふくなみ、9.岡山F系、10.くまがわ、11.文政在来、12.筑後みどり、13.高須在来、14.千丁在来、15.あさなぎ、16.大原四号。DNA鎖の乖離に伴う蛍光強度の減衰が大きくなる温度にピークが現れることから、増幅産物の融解温度の違いを検出できる。品種「ひのみどり」では、73℃にピークを持つ単峰分布の融解曲線が得られたが、その他の15品種ではいずれも70℃と73℃にピークを持つ二峰分布の融解曲線が得られたことから、融解曲線分析による品種識別が可能であった。また、PCRから融解曲線分析終了までの所要時間は1時間40分程度であった。
【0104】
電気泳動の結果を図5に示した。両端のバンドは分子量を表し、各レーン1~16は以下の通りである:1.ひのみどり、2.下増田在来、3.しらぬい、4.岡山3号、5.岡山みどり、6.さざなみ、7.きよなみ、8.ふくなみ、9.岡山F系、10.くまがわ、11.文政在来、12.筑後みどり、13.高須在来、14.千丁在来、15.あさなぎ、16.大原四号。品種「ひのみどり」では、OF/ORプライマーセットに由来する193bpのバンドとOF/IR_CCプライマーセットに由来する165bpのバンドのみが検出されたが(図5、レーン1)、それ以外の品種(図5、レーン2~16)では,これら2本のバンドの他に、さらにIF-A/ORに由来する81bpのバンドが検出された。この81bpのバンドの有無によって、PCR産物の電気泳動によっても品種“ひのみどり”をその他のイグサ品種から識別することが可能であった。
【実施例3】
【0105】
(SNPプライマーを用いた「ひのみどり」の識別)
実施例1により同定された点突然変異を含むように標的配列を80塩基対から175塩基対としてPCR用プライマーを設計し、あわせて点突然変異に隣接するSNPプライマーを設計した。なお、PCRプライマーのうち一方は後述のエクソヌクレアーゼ処理に備えてホスホロチオエート修飾した。プライマーの概要を図6に示す。
【0106】
実施例1に由来するゲノムDNAを鋳型にPCRを行い、PCR産物をエクソヌクレアーゼで分解し一本鎖DNAとして、シグナル検出用タイタープレートにあらかじめ固定したSNPプライマーとハイブリダイズさせた。続いて、プライマー伸長反応を行い、フルオロセイン標識グアニンあるいはビオチン標識アデニンをSNPプライマーの3’側に取り込ませた。PCRの条件は以下のとおりである:20ulの反応溶液中に以下の組成を含む:1×Amplitaq Gold buffer,200μM dNTP,0.3μM primers,0.5U ampliTaq Gold 60ng DNA。PCRの反応サイクルは、96℃ 10分、(96℃ 1分、46℃ 30秒、72℃ 40秒)を30サイクル、72℃ 1分である。
【0107】
フルオロセイン標識グアニンとパーオキシダーゼ標識抗フルオロセイン抗体反応させ,比色法によりパーオキシダーゼ標識抗フルオロセイン抗体を検出し、グアニン残基の同定を行った。続いて、ビオチン標識アデニンとアルカリフォスファターゼ標識アビジンを反応させ,比色法によりアルカリフォスファターゼ標識アビジンを検出し、アデニン残基の同定を行った。ここでは、SureScore Kit(Invitrogen社)を用いて比色測定を行った。
【0108】
この比色測定の結果を図7に示す。図7において、左の図は、品種についての各ウェルの位置を示し、そして中央の写真は、G型の結果を、そして右の写真はA型の結果を示す。その塩基を有すると発色する。AAコントロールは、A型でのみ反応して着色し、AGコントロールはG型およびA型の両方で反応して着色し、GGコントロールは、G型でのみ反応して着色した。この着色結果を参照することにより、塩基配列がGG、AG、AAのいずれかであるか判定可能である。ウェル1にて示される品種「ひのみどり」のみがG型でのみ反応し、A型では反応しなかった。他の品種はいずれもG型およびA型の両方で着色した。この結果より、品種「ひのみどり」を識別可能であった。
【実施例4】
【0109】
(Amplicon Length Polymorphisms(ALP)によるイグサ品種「ひのみどり」の識別)
材料は「ひのみどり」を含むイグサ品種16品種(上記の表1)よりCTAB法によって抽出したゲノムDNAである(実施例1と同様)。方法は、まずイグサ品種「ひのみどり」ゲノムDNAをPstIで消化したライブラリより単離したクローンであるPst109の塩基配列を決定し,プライマーセット(Pst109L-CGT GCT GTG GTG AGC AAA GAA TC(配列番号15),Pst109R-GCT TGC ACA TTC GGG CGA TTA C(配列番号16))を設計した(図8;図中の下線を付したボールドフェイスの領域は、これらプライマーの位置を示す(上方がPst109Lであり、下方がPst109Rに相当する))。DNAの増幅はPCRの反応体積20μl中に0.5U Ex Taq(TaKaRa),2μl 10× Ex Taq buffer,200mM dNTP,各0.2mM プライマー,60ng ゲノムDNAを含む反応液を調製し,ABI 9700(Applied Biosystems)を使用してPCRを行った。PCRの増幅条件は、96℃ 2分 1回;変性 96℃ 10秒,アニーリング52~55℃ 20秒,伸長反応 72℃ 40秒 35回とした。反応後のDNA溶液は2%アガロースゲル,1xTBEバッファー中で電気泳動を行い、EtBr染色後トランスイルミネータ上で写真撮影した。このプライマーを使用して16品種間の当該領域をPCRで増幅した。
【0110】
電気泳動の結果を図9に示した。両端のバンドは分子量を表し、各レーン1~16は以下の通りである:1.ひのみどり、2.下増田在来、3.しらぬい、4.岡山3号、5.岡山みどり、6.さざなみ、7.きよなみ、8.ふくなみ、9.岡山F系、10.くまがわ、11.文政在来、12.筑後みどり、13.高須在来、14.千丁在来、15.あさなぎ、16.大原四号。結果,図9に示すように、品種「ひのみどり」では約320bpの位置に1本のバンド、他の15品種では約320bpと約500bpの位置に2本のバンドを示した。このプライマーは品種「ひのみどり」とその他の15品種の間でAmplicon Length Polymorphisms(ALP)を示すことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
DNAマーカーを指標としたイグサ品種の識別方法が提供された。本発明のイグサ品種の識別方法は、DNA情報の品種間での違いを反映しているため、従来のような量的形質で識別する方法とは異なり、イグサの生育環境に影響されることはない。また、簡単に再現性の高い結果が得られるので、品種識別の誤認の可能性は低く、正確な品種判定を簡便・高速に実施できる。従って、本発明は、イグサの品種識別に多大な貢献をしうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】クローンHpaII01の塩基配列を示す図である。
【図2】「ひのみどり」ではホモ接合、その他の品種ではヘテロ接合となっている領域のクロマトグラムを示す図である。
【図3】実施例2のPCR-CTPP法に使用したプライマーセットの配置を示す図である。
【図4】実施例2の融解曲線分析の結果を示す図である。
【図5】実施例2のPCR-CTPP産物の電気泳動写真である。
【図6】実施例3において用いたプライマーセットを示す図である。
【図7】実施例3によるSNPの検出の結果を示す図である。
【図8】イグサ品種「ひのみどり」ゲノムDNAをPstIで消化したライブラリより単離したクローンであるPst109の塩基配列を示す図である。
【図9】実施例4によるPCR増幅の結果を示す電気泳動写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8