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明細書 :鉄粉被覆稲種子の製造法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4441645号 (P4441645)
公開番号 特開2005-192458 (P2005-192458A)
登録日 平成22年1月22日(2010.1.22)
発行日 平成22年3月31日(2010.3.31)
公開日 平成17年7月21日(2005.7.21)
発明の名称または考案の名称 鉄粉被覆稲種子の製造法
国際特許分類 A01C   1/06        (2006.01)
FI A01C 1/06 Z
請求項の数または発明の数 5
全頁数 17
出願番号 特願2004-000884 (P2004-000884)
出願日 平成16年1月6日(2004.1.6)
審査請求日 平成18年4月21日(2006.4.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】山内 稔
個別代理人の代理人 【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】松本 隆彦
参考文献・文献 山内 稔,湛水直播水稲における種子の鉄コーティングによる比重の増加と浮き苗回避,日本作物学会紀事,日本,2002年,第71巻(別1号),150-151
調査した分野 A01C1/00-1/08
JSTPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
稲種子に、鉄粉、並びに鉄粉に対する質量比で0.5~2%の硫酸塩(但し、硫酸カルシウムは除く)及び/又は塩化物を加え、さらに水を添加して造粒し、水と酸素を供給して金属鉄粉の酸化反応によって生成した錆により、鉄粉を稲種子に付着、固化させた後、乾燥させることを特徴とする鉄粉被覆稲種子の製造法。
【請求項2】
硫酸塩及び/又は塩化物が、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びこれらの水和物から選ばれた1種又は2種以上である請求項1に記載の鉄粉被覆稲種子の製造法。
【請求項3】
稲種子に、鉄粉、並びに鉄粉に対する質量比で0.5~35%の硫酸カルシウム及び/又はその水和物を加え、さらに水を添加して造粒し、水と酸素を供給して金属鉄粉の酸化反応によって生成した錆により、鉄粉を稲種子に付着、固化させた後、乾燥させることを特徴とする鉄粉被覆稲種子の製造法。
【請求項4】
鉄粉にシリカゲル及び/又は農薬を混合して使用することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の鉄粉被覆稲種子の製造法。
【請求項5】
金属鉄粉の酸化反応によって生成した錆により、稲種子表面に鉄粉を付着させた後、硫酸カルシウム又はその水和物を加えて鉄粉の外層に該硫酸カルシウム又はその水和物の層を形成させることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の鉄粉被覆稲種子の製造法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、水稲の湛水直播栽培に用いる鉄粉被覆稲種子の製造法に関する。詳しくは、金属鉄粉の酸化反応を促進することにより、稲種子表面に鉄粉を付着、固化させることを特徴とする鉄粉被覆稲種子の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
米生産費を削減する目的で直播栽培の導入が試みられている。直播栽培には様々な栽培形態がある。その一つの例として、水田に播いた稲種子が、発芽生育中に、水中で浮かないように比重を高める鉄コーティング湛水直播栽培技術がある(例えば、非特許文献1参照)。この方法では、はじめにコーティング資材として稲種子に付着しやすい金属鉄粉を選定する。次に、皿型回転造粒機に乾燥稲種子、選定された鉄粉及び結合剤として焼セッコウ、即ち硫酸カルシウム0.5水和物を入れ、水をスプレーしながら造粒する。造粒した種子は造粒機から取り出し、底に網を張った網箱などに入れ薄く広げて、通風条件下で乾燥させた後、保存しておき、適期に湛水条件下で水田に播種する。
この方法は、農閑期に予め稲種子に鉄粉をコーティングしておくことができるので、省力化が可能である上に、水田において播種前後の強制的な落水を必要としないために、環境に優しく、しかも低コストである(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】

【非特許文献1】山内稔著 「湛水直播水稲における種子の鉄コーティングによる比重の増加と浮き苗回避」 日本作物学会紀事71巻(別1号)p.150-151、2002年
【非特許文献2】インターネットホームページ 近畿中国四国農業研究センター プレスリリースhttp://ss.cgk.affrc.go.jp/top.html http://ss.cgk.affrc.go.jp/tetu/tetucoat.htm http://ss.cgk.affrc.go.jp/tetu/01.html http://ss.cgk.affrc.go.jp/tetu/tetu2.htm
【0004】
さらに、上記技術に類似した栽培方法として、酸化鉄粉を稲種子にコーティングして、これを代掻き後落水した水田に播く技術がある。これは、酸素供給剤を催芽した稲種子にコーティングして播種するという従前の技術に対して、生産費削減のため、安価な酸化鉄粉を稲催芽種子に、カルボキシメチルセルロースを結合剤としてコーティングし、落水条件下で播種するものである(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】

【非特許文献3】北野順一、中山幸則、神田幸英 「水稲湛水散播栽培における酸化鉄粉被覆種子の出芽苗立ち」 日本作物学会紀事70巻(別2号)p.71-72、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した栽培技術の開発においては、鉄コーティング種子は近畿中国四国農業研究センター内で各種試作されたものが使われた。ここで、理論上求められる鉄コーティング種子は、以下の条件を満たす必要がある。播かれた種子は水中に位置するので、コーティングは水によって崩壊してはならない。そのため、鉄粉を水のみで稲種子に付着させること、並びに従来技術において使用されたカルボキシメチルセルロースのような水溶性の結合剤は使えない。
また、コーティング種子の比重を効率的に調節するためには、比重の小さい結合剤の使用量を減らす必要がある。また、金属鉄粉の比重は酸化鉄粉よりも大きいので、前者が適する。しかも、該稲種子は動力散布機や播種機を用いて播種されるため、機械的衝撃によって崩壊しない程度の強度特性と共に、播種され、水に浸かることにより、発芽できる程度に軟らかくなることも必要である。
さらに、稲種子に傷害を与えないため、コーティングが温和な条件で、かつ短時間で容易に行われ、コーティング資材のpHが中性に近いことも必要である。
【0007】
ところで、従来の技術において、稲種子の鉄コーティングは以下の通りに行われた。鉄粉の種類によっては、単に水をスプレーするだけで稲種子に付着するものがある一方、全く付着性の無いものもある。そこで、様々な種類の鉄粉の中から稲種子に水のスプレーのみによって付着し易いものを選定した結果、粒度の小さい、還元鉄粉が適しているようであった。しかし、該鉄粉を使用しても、水のみでは乾燥時に崩壊しやすい。そのため、結合剤として焼セッコウ、すなわち硫酸カルシウム0.5水和物を、鉄粉の重量に対して15%から30%程度混合して、稲種子と共に皿型回転造粒機に入れ、水をスプレーしながら造粒した。この様にして造粒した種子は、水分含量が高いので、皿型回転造粒機から取り出し、底に網を張った網箱に薄く広げて入れ、送風して乾燥させていた。硫酸カルシウム0.5水和物は、水の添加により凝結硬化する特性があるため、この特性を利用してコーティングを堅固にする方法であった。
【0008】
しかし、この結合剤を用いて得た鉄コーティング稲種子は、播種時に機械的衝撃によってコーティングが崩壊することもあり、実用化に向けて支障となっていた。播種時におけるコーティングの崩壊は、同じく硫酸カルシウム0.5水和物を結合剤として使い、酸素供給剤を稲種子にコーティングする従前の直播栽培技術においても問題であった。この場合には、コーティングを乾かさずに、湿った状態で播種することによって、崩壊を軽減している。
しかし、コーティングした稲種子は乾燥条件下で保存しておき、適期に播種することが望ましい。そこで、鉄コーティング稲種子を播種するにあたっては、種子に与える衝撃が小さい播種機を選定して使用し、崩壊を可及的に軽減する方法が採られていた。
【0009】
また、稲種子にコーティングする鉄粉の重さに関しては、従来は稲種子の重さの2倍を基準としている。しかし、使用する鉄粉の重さは、播種される水田土壌の物理的特性、代掻きの強さの程度、代掻きから播種するまでの間隔、生産費削減など様々な観点から決定され、場合によっては稲種子の重さの0.5倍程度の少量でコーティングすることも求められる。
硫酸カルシウム0.5水和物を結合剤として使うコーティング方法では、鉄の重さを稲種子の重さの1倍程度以下にすると、比重の小さい結合剤の使用量もそれに応じて減らす必要があるので、コーティング層が薄くなり、さらに崩壊しやすいという問題があった。
【0010】
加えて近年、農業における省力化や環境保全に対する要望が高まり、農薬や肥料を種子近傍に施用する技術が望まれている。そのため、農薬を鉄粉と同時にコーティングする技術も開発されたが、この場合は、コーティングはさらに崩壊しやすくなる。
コーティングの崩壊現象は、コーティング層が割れて大きな破片になる場合と、小さな破片や粉末状になる場合がある。また、崩壊後に稲種子にコーティング層が様々な程度に付着している場合や、全く付着していない場合がある。
多量の結合剤の使用は、経済的に無駄であるばかりでなく、環境への化学物質の流出を引き起こすので、好ましくない。
【0011】
次に、鉄粉の種類についても様々である。金属鉄粉として還元鉄粉やアトマイズ鉄粉などがあり、他に酸化鉄の鉄粉もある。鉄粉の粒度分布、粒子の形状や断面組織も様々である。前記した従来の栽培技術に使われる微細な還元鉄粉は、一般に製造コストが高く、経済的でない。
一方では、産業廃棄物として産出される安価な鉄粉も各種あり、それらには金属鉄粉と酸化鉄粉が様々な割合で含まれている。したがって、このような多種多様な鉄粉を稲種子に効率的に、しかも播種時に崩壊しない程度の強さでコーティングできることが望まれている。
【0012】
本発明は、金属鉄粉の稲種子への付着、固化方法を改善し、比重の調整が容易であり、かつ機械的衝撃によっても崩壊し難い稲種子のコーティング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる事情下において、本発明者は、経済的に稲種子の鉄コーティングを実施する方法を検討した結果、金属鉄粉粒子の表面の酸化が鉄粉同士の付着のみならず、稲種子表面への付着をも引き起こすこと、さらにコーティングの機械的衝撃による崩壊を低下させる効果があることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0014】
すなわち、請求項1に係る本発明は、稲種子に、鉄粉、並びに鉄粉に対する質量比で0.5~2%の硫酸塩(但し、硫酸カルシウムは除く)及び/又は塩化物を加え、さらに水を添加して造粒し、水と酸素を供給して金属鉄粉の酸化反応によって生成した錆により、鉄粉を稲種子に付着、固化させた後、乾燥させることを特徴とする鉄粉被覆稲種子の製造法である。

【0015】
次に、請求項2に係る本発明は、硫酸塩及び/又は塩化物が、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びこれらの水和物から選ばれた1種又は2種以上である請求項1に記載の鉄粉被覆稲種子の製造法である。
請求項3に係る本発明は、稲種子に、鉄粉、並びに鉄粉に対する質量比で0.5~35%の硫酸カルシウム及び/又はその水和物を加え、さらに水を添加して造粒し、水と酸素を供給して金属鉄粉の酸化反応によって生成した錆により、鉄粉を稲種子に付着、固化させた後、乾燥させることを特徴とする鉄粉被覆稲種子の製造法である。
そして、請求項4に係る本発明は、鉄粉にシリカゲル及び/又は農薬を混合して使用することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の鉄粉被覆稲種子の製造法である。
さらに、請求項5に係る本発明は、金属鉄粉の酸化反応によって生成した錆により、稲種子表面に鉄粉を付着させた後、硫酸カルシウム又はその水和物を加えて鉄粉の外層に該硫酸カルシウム又はその水和物の層を形成させることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の鉄粉被覆稲種子の製造法である。

【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属鉄粉を稲種子に効果的に、かつ経済的にコーティングできる。また、過度の温度上昇を回避し、かつ短時間にコーティングを実施できるため、稲種子に障害を与えない。さらに、鉄粉の酸化反応を利用し、かつ該反応を促進させて金属鉄粉を稲種子に付着させるので、少量の鉄粉でコーティングすることができ、かつ稲種子表面で固化した鉄粉は機械的衝撃によっても崩壊し難い。
また、本発明によれば、硫酸塩、塩化物又はそれらの混合物及び水を用いて造粒し、水と酸素を供給して金属鉄粉の酸化反応を行うため、酸化反応を促進することができる。その際に、必要に応じて農薬や肥料成分等を混合して造粒することもできるので、農業における省力化や環境保全に対する要望に対して応えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において用いる稲種子としては、通常に水稲用品種として用いられる品種の種子を使用することができ、特に制限が無い。前処理は必須ではないが、皿型回転造粒機に入れるときに、種子の表面が湿っていることが望ましい。これは、稲種子を水に漬け、直ちに取り出し、水を切ることや、水を稲種子にスプレーすることで容易、かつ迅速に達成できる。
【0018】
稲種子の表面をコーティングするための鉄粉としては、これまでに使用されている金属鉄粉、即ち還元鉄粉やアトマイズ鉄粉を任意に用いることができる。ショットブラスト工程などから産業廃棄物として産出される鉄粉であっても、金属鉄粉の含有量が高ければよい。鉄粉の粒度分布、粒子の形状や断面組織についても特に制限はないが、粒度が小さいものが稲種子に付着しやすく、造粒機を用いた作業は短時間で完了できる。金属鉄粉の含有量が低いショットブラスト鉄粉や酸化鉄の鉄粉をコーティングするためには、別途金属鉄粉を添加して、金属鉄粉の含有量を高めた後に使用する。
【0019】
本発明では、金属鉄粉の酸化反応を促進することにより、稲種子表面に鉄粉を付着、固化させる。鉄粉の酸化反応は、水と酸素があれば、徐々にではあるが進行する。このとき、硫酸イオンや塩化物イオンが存在すると、反応は促進され、発熱する。大気に開放した皿型回転造粒機に表面の湿った稲種子、鉄粉、硫酸塩及び/又は塩化物を入れ、水をスプレーすると、酸化反応は促進される。このとき、酸化に伴う発熱はあるが、造粒機内で種子や鉄粉の内容物は回転混合されており、放熱が大きいため、蓄熱は殆ど認められない。鉄粉で造粒された種子は、造粒機から取り出し、蓄熱による高熱を避けるため、塊とせずに、底の広い箱の中などに薄く広げて置く。
造粒種子を入れた箱は、外気を遮断した、例えばプラスチック製の大型容器に入れ、中に加湿空気を流し、相対湿度を100%に保つ。このとき、酸化に伴い酸素が消費されるので、加湿空気は該容器に流し込み、流れ出るようにする。12時間で造粒した種子の鉄粉表面は酸化され、錆色を呈する。この種子を密閉容器から取り出し、40℃程度の通風乾燥機中で乾燥させる。乾燥により水が無くなり、酸化反応は停止する。
【0020】
なお、便法として、密閉容器を使わずに造粒した種子の鉄粉を酸化させることも可能である。即ち、造粒機から取り出し、箱の中に薄く広げられた種子を、そのまま大気中に放置する。種子は、造粒機の中で水をスプレーされており、酸化反応に必要な水を含んでおり、酸化は促進されている状態である。時間がたつと、種子は高熱にはならないが、酸化に伴う発熱により、造粒された種子表面から水が蒸発し、酸化反応は低下する。そこで、水をスプレーすると、硫酸イオン及び/又は塩化物イオンの存在下で、水と酸素により再び酸化反応は促進される。種子が錆色を呈した段階で、種子を40℃程度の通風乾燥機に入れ、乾燥させる。乾燥により水が無くなり、酸化反応は停止する。
【0021】
酸化反応についての詳細な機構は明らかではないが、一般に鉄は硫酸イオンや塩化物イオンの存在下で酸化して錆び、環境条件によって様々な比率でα、β、γ型オキシ水酸化鉄、マグネタイト及び無定形物質を産すると言われている。
また、金属鉄粉の酸化がコーティングの崩壊を抑制する機構は不明である。酸化によって生成される錆成分中で相当量を占めるといわれている無定形物質は糊剤の働きをしているとも推定されており、本発明においても、このような役割を推定できる。
【0022】
これまで、コーティングが崩壊するときには、コーティング層が種子から剥離して大きな破片になることが多かった。しかし、本発明の金属鉄粉の酸化反応を利用したコーティングの場合は、コーティング層が大きな破片になって剥離する現象はほとんど認められない。実際に観察した結果では、稲種子表面に錆びた鉄が粘着しており、この粘着作用が一因となってコーティング強度が向上したものと推定できる。
【0023】
本発明では、上記したように、鉄粉の酸化反応を促進させるために酸化促進剤として硫酸塩及び/又は塩化物を使用する。この促進剤に関して、様々な植物養分のうち多量要素である窒素、カリウム、カルシウム及びマグネシウムの硫酸塩及び塩化物を、皿型回転造粒機を用いた鉄粉の稲種子コーティング試験に供した。その結果、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びこれらの水和物を単独で又はそれらの混合物として用いて、鉄粉を稲種子にコーティングすることにより、崩壊率を低下させることができることを究明した。しかし、これら物質のうち、硫酸アンモニウムは酸化反応に伴いアンモニアガスが発生するため、実用に供し得ない。
【0024】
この硫酸塩(但し、硫酸カルシウムを除く)及び塩化物は、粉末状態で鉄粉と混合、またはそれらの水溶液を鉄粉にスプレーすることにより供給することができる。これら酸化促進剤の使用量は、稲種子の発芽とそれに続く初期生育との関係から決められ、鉄粉重量に対して、すなわち質量比で0.5%から2%の範囲が好ましい。
0.5%未満の少量では、酸化反応が12時間から24時間程度の短時間のうちに十分に進行しないこともあり、コーティングの強度が弱まるだけでなく、酸化反応が長時間に及ぶと、稲種子に障害を与えることがあるため、好ましくない。
一方、水に対して溶解度の大きい硫酸塩及び/又は塩化物の2%以上の添加は、稲種子に塩障害を引き起こし、発芽生育を抑制する傾向にあるので好ましくない。これら硫酸塩及び/又は塩化物とは、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びこれらの水和物を指す。
なお、酸化促進剤のうち、硫酸カルシウム及びその水和物は、水に対する溶解度が低いため、使用量が大きくても稲種子に塩障害を引き起こさないので、鉄粉重量に対して(質量比)0.5%から35%の範囲で用いることが可能である。しかし、使用量が鉄粉重量に基づいて35%程度を超えると、皿型回転造粒機の中で造粒途中の種子が付着し合うこと、鉄粉と硫酸カルシウムの粉末状の混合物が造粒機の器壁に付着し易くなること、仕上がった造粒種子の大きさが不均一になること等のため、作業が難しくなる。それ故、通常は上限を鉄粉重量に基づいて35%とすることが好ましい。
【0025】
本発明において、金属鉄粉の酸化反応には水が必要である。酸化反応によって消費される水は、造粒時に水あるいは上記硫酸塩及び/又は塩化物の水溶液をスプレーすることにより供給する。造粒した種子を造粒機から取り出し、箱などに広げて置いているときも、酸化反応は進行するが、時間が経つと、酸化反応に伴う発熱によりコーティング層から水が蒸発し、酸化反応が弱まる。そこで、コーティング層の水含有量を維持し、酸化反応を継続させるために、造粒機から取り出した後、箱の中などに広げて置いてある種子を、外気と遮断した容器などに入れ、中を加湿条件に保ち、種子のコーティング層の水含有量を維持し、酸化反応を継続させる。便法として、大気に開放した条件下で酸化反応を継続させる場合は、コーティングが乾燥したときに水を適量スプレーし、必要に応じてこれを繰り返す。
また、この酸化反応においては、酸素も消費される。そのため、大気に開放した条件下で実施するか、外気と遮断した条件での場合は、加湿空気を送風しながら、酸化反応を進行させる。
【0026】
ところで、酸化反応に伴い発熱するので、稲種子への影響を避けるための工夫が必要である。すなわち、鉄粉でコーティングした稲種子を塊にして放置すると、熱により100℃近くまで上昇することもあり、そのような場合は、稲種子は死滅する。また、死滅しないときでも、高湿度条件下で50℃程度の高温に曝されると、稲種子は障害を受け、直播栽培において苗立ちの安定性に欠ける傾向がある。
したがって、鉄粉をコーティングした稲種子は、造粒機から取り出し、底の広い箱などの中に薄く広げて置き、蓄熱による稲種子の損傷を回避する必要がある。酸化反応時の稲種子の温度は低いことが望ましく、一時的に高くなっても40℃以下とすべきである。具体的には、田植え栽培用の育苗用苗箱のような底の浅い箱に造粒種子を3~6kg/m2の程度に入れる。造粒した種子の発熱の程度は、使用する鉄粉の種類や、コーティングに使う鉄粉の量などによって異なり、また蓄熱の程度は外気温によって影響を受ける。
【0027】
他面では、長時間の加湿条件は稲種子に障害を与えるので、上記酸化反応はなるべく短時間とし、長い場合でも24時間以内に、乾燥させることにより、酸化反応を停止すべきである。一般に、酸化反応は鉄表面の水層の厚さが小さくなることにより、また空気の相対湿度が50%程度以下になることにより停止すると言われている。
【0028】
酸化反応の進行に伴い、コーティング種子はα、β、γ型オキシ水酸化鉄やマグネタイトに特有の色を呈する。その後、種子を40℃以下で通風乾燥し、酸化反応を停止する。コーティング種子は乾燥条件下で長期間保存することができる。しかも、この様にして作製したコーティング種子は、衝撃を与えても崩壊しがたい。
また、一度作製し、乾燥条件下で保存しているコーティング種子であっても、水をスプレーすることにより再度酸化反応を活性化し、崩壊率をさらに低下させることも可能である。
【0029】
本発明における鉄粉コーティングにおいては、従来知られている結合剤と組み合わせて行うこともできる。水に対して溶解度の大きい硫酸塩や塩化物で酸化反応を活性化した場合、コーティング層の表面に位置する金属鉄粉の酸化により、種子同士又は種子と容器が軽く付着する。この付着はコーティングを損傷するほどの大きな問題ではないが、作業効率を落とし、発生する微粒子の飛散により作業環境を不快にする。
そのため、請求項5に記載の本発明では、造粒直後に、溶解度の小さい硫酸カルシウム又はその水和物をコーティング種子の表面に付着させる。これにより、コーティング層表層の酸化が確実になると共に、コーティング種子同士又はコーティング種子と容器間の付着の問題が軽減され、また種子表面の鉄粉の飛散も抑えられ、後に続く作業を容易にすると共に、作業環境を清浄に保つことができる。特に、硫酸カルシウム0.5水和物は水と反応して凝結硬化する作用もあり、コーティングした種子の表面がざらつかずに滑らかになり、仕上がったコーティング種子の取り扱い作業を快適にする。

【0030】
本発明においては、別の態様として、鉄粉や硫酸塩・塩化物以外にも、稲の生長に有益な栄養分や農薬等の副資材を鉄粉と同時にコーティングすることも可能である。ここで、コーティング可能な栄養分の例としてはシリカゲルがある。シリカゲルは、移植栽培においては、健康な苗を作るため苗箱に施用されている。本発明は、直播栽培において、シリカゲルを施用して健康な稲を作る新たな手法を提供できる。
農薬の例としてはヒドロキシイソキサゾール・メタラキシル粉剤(商品名:タチガレエース粉剤、三共(株)社製及びノバルテス アグロ(株)社製、苗立枯れ病に有効)及びイミダクロプリド水和剤(商品名:アドマイヤー水和物、日本バイエルアグロケム(株)社製、ツマグロヨコバイ及びウンカ類に有効)がある。これら2農薬は、従来技術の酸素供給剤をコーティングする湛水直播に使用されているものである。従来技術の酸素供給剤をコーティングする技術においては、酸素供給剤が酸素を放出すると強いアルカリ性になるため、同時にコーティングできる農薬はこれら2種に限られていたが、鉄粉でコーティングする本発明においては、コーティングはpH6から7の中性であり、同時にコーティングできる農薬の数は多くなることが期待できる。
【0031】
ところで、鉄粉コーティング稲種子の強度については、公開された研究実施例はない。そこで、本発明では、コーティングの崩壊程度を、該コーティング種子が一定の機械的衝撃を受けたときに、崩壊して種子から剥離するコーティング層の重さの、機械的衝撃を受ける前のコーティング層の重さに対する百分比をもって示す。具体的には、機械的衝撃を、コーティング種子を1.3mの高さから厚さ3mmの鋼板への5回の落下によって発生させる。この衝撃によってコーティング層の65%が破損し、残り35%が稲種子に付着しているとき、崩壊率65%と定義する。本発明者は、崩壊率65%の場合、このコーティング種子は、播種時に、使用する機械の機種によっては破損することがありうるという経験的結果を得ている。
一方、同程度の機械的衝撃を与えたとき、崩壊率が5%であれば、機種によってコーティング種子が破損する場合があるという問題は発生していない。よって、実用的には崩壊率を65%以下になるように稲種子のコーティングを実施する必要があり、崩壊率は低いほど優れている。
本発明によって得られる鉄粉コーティング稲種子の比重は、鉄粉の種類、コーティング方法等により異なるが、コーティング前の稲種子の比重が1.1であるとき、2倍量の鉄粉でコーティングすると、コーティング種子の比重は2.3~2.7程度である。このとき、コーティング種子全体の質量に対し、コーティング層は65~70%を占める。
【0032】
図1は、請求項1~3に記載した本発明の第一の実施形態を示したものであり、この図は鉄粉コーティング稲種子の断面図を模式的に示したものである。図中、円形内に鉄と表示した記号は、表面が酸化した金属鉄粉粒子を示し、小円形内に斜線を引いた記号は、コーティング実施前に酸化促進剤として鉄粉に混入させた硫酸イオン又は塩化物イオンを示す。この態様では、稲種子に付着した、表面が酸化した鉄粉粒子同士が互いに結合しあって、稲種子の表面をコーティングする。すなわち、酸化した鉄粉粒子同士が結合剤の役割を果たす。
【0033】
本発明の第二の実施形態を、図2に示す。図は鉄粉コーティング稲種子の断面図を模式的に示したものである。図中、円形内に鉄と表示した記号は、表面が酸化した金属鉄粉粒子を示し、小円形内に斜線を引いた記号は、コーティング実施前に酸化促進剤として鉄粉に混入させた硫酸イオン又は塩化物イオンを示し、長円形内の網目状線を描いた記号は、酸化鉄粉や副資材等を示す。また、最外層の実線は、水と反応して固化した結合剤(硫酸カルシウム)の層を示す。この場合も、鉄粉粒子自体が酸化されて結合剤の役割を果たしている。この例では、酸化鉄粉、シリカゲルまたは農薬などの副資材をコーティング層に取り込んでいるにもかかわらず、機械的衝撃に対する崩壊率は低い。
また、コーティングの最外層に硫酸カルシウム又はその水和物を付着させることにより、最外層における鉄の酸化を確実にすると共に、他の鉄粉コーティング稲種子との付着や容器との付着を軽減し、作業を快適にする。最外層に硫酸カルシウム0.5水和物を付着させれば、それ自体が水との反応に伴う凝結硬化作用を持っており、表層に位置した酸化鉄粉や副資材を固定する。そのため、稲種子へのコーティングはさらに強化される場合が多い。
【0034】
図3は、従来技術による鉄コーティング稲種子の断面図を模式的に示したものである。図中、円形内に鉄と表示した記号は、金属鉄粉粒子を示し、その周囲の網目状線を描いた部分は、硫酸カルシウム0.5水和物が、水と反応して凝結硬化した層を示す。すなわち、鉄粉は硫酸カルシウム0.5水和物と水との反応に基づく凝結硬化作用によって稲種子の表面に付着されている。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0036】
実施例1
稲種子(品種名ヒノヒカリ)50gに対して2倍重量の還元鉄粉(商品名:DSP317、同和鉄粉(株)製)及び鉄粉重量に対して百分比1(1g)の硫酸カリウム(粉末状)を添加して混合し、皿型回転造粒機(商品名:パン型造粒機PZ-01、アズワン(株)製)で、脱イオン水をスプレーしながら造粒した。なお、鉄粉DSP317の粒度分布はJISふるい規格45μm以下、85%;45μm以上63μm以下、15%である。次に、造粒したコーティング種子を造粒機から取り出し、バット(縦31cm、横24cm、深さ3.5cm)内に薄く広げ、外気と遮断した蓋つきのプラスチック製の箱(46x31x26cm)に入れ、この箱に加湿空気を毎分6リットル送風しながら、酸化反応を25℃室温で12時間継続した後、40℃で乾燥させ、鉄粉コーティング稲種子を作製した。
次に、得られたコーティング稲種子について、前記したコーティングの崩壊程度の測定法(以下、コーティングの崩壊試験という)、すなわち1.3mの高さから厚さ3mmの鋼板に5回落下させ、機械的衝撃を与える方法で測定した。その結果、コーティングの崩壊率は42.6%であり、実用的な強度であることが分かった。結果を表1に示す。
【0037】
実施例2
硫酸カリウムの代わりに同量の塩化カリウム(粉末状)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして鉄粉コーティング稲種子を作製した。次に、実施例1と同様にコーティングの崩壊試験を行った。その結果、崩壊率は2.9%であり、この値は、どのような播種機を用いても崩壊し難い強さであることを示している。
実施例1の結果と比べると、硫酸塩より塩化物を添加した場合に、相対的にコーティング強度が向上することが分かる。結果を表1に示す。
【0038】
実施例3
硫酸カリウムの代わりに同量の硫酸カルシウム2水和物(粉末状)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして鉄粉コーティング稲種子を作製した。次に、実施例1と同様にコーティングの崩壊試験を行った。その結果、崩壊率は49.2%であり、実用的な強度であることが明らかとなった。結果を表1に示す。
【0039】
実施例4
硫酸カリウムの代わりに同量の硫酸カルシウム0.5水和物(粉末状)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして鉄粉コーティング稲種子を作製した。コーティングの崩壊試験を行ったところ、崩壊率は14.4%であった。
実施例3の結果と比べると、硫酸カルシウム2水和物より硫酸カルシウム0.5水和物を添加した場合の方が崩壊率は小さいことが分かる。結果を表1に示す。
【0040】
実施例5
硫酸カリウムの代わりに同量の塩化カルシウム2水和物(粉末状)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして鉄粉コーティング稲種子を作製した。実施例1と同様にコーティングの崩壊試験を行ったところ、崩壊率は1.6%であり、どのような播種機を用いても崩壊し難い強さであることが判明した。結果を表1に示す。
【0041】
実施例6
稲種子(品種名ヒノヒカリ)50g及びその2倍重量のDSP317を皿型回転造粒機(商品名:パン型造粒機PZ-01、アズワン(株)製)に入れ、硫酸マグネシウム7水和物の13%水溶液をスプレーしながら造粒した。スプレーした液量から算出して、使用した硫酸マグネシウム7水和物は鉄粉重量の百分比0.9であった。次に、実施例1と同様に造粒したコーティング稲種子を薄く広げ、加湿空気を送風しながら酸化反応を25℃室温で12時間継続した後、該コーティング稲種子を40℃で乾燥させ、鉄粉コーティング稲種子を作製した。
このものについて、コーティングの崩壊試験を行ったところ、崩壊率は56.4%であり、実用的な強度であった。結果を表1に示す。
【0042】
実施例7
硫酸マグネシウム7水和物の代わりに塩化マグネシウム6水和物の7%水溶液をスプレーして造粒したこと以外は、実施例6と同様にして鉄粉コーティング稲種子を作製した。
実施例1と同様にコーティングの崩壊試験を行ったところ、崩壊率は5.5%であり、どのような播種機を用いても崩壊し難い強さであることが判明した。結果を表1に示す。
【0043】
実施例8
稲種子(品種名ヒノヒカリ)50gに対して0.5倍重量のDSP317及び、鉄粉重量に対して百分比1(0.25g)の塩化カリウム(粉末状)を添加して混合し、皿型回転造粒機(商品名:パン型造粒機PZ-01、アズワン(株)製)に入れ、これに脱イオン水をスプレーしながら造粒した。次に、実施例1と同様に造粒したコーティング稲種子を薄く広げ、加湿空気を送風しながら酸化反応を25℃室温で12時間継続した後、40℃で乾燥させ、鉄粉コーティング稲種子を作製した。
このものについて、コーティングの崩壊試験を行ったところ、崩壊率は3.0%であった。この結果は、どのような播種機を用いても崩壊し難い強さであることを示している。また、このことから、鉄粉の使用量を減らしても低い崩壊率を維持できることが分かる。結果を表1に示す。
【0044】
実施例9
DSP317の代わりに同量の鉄粉(商品名:270M-200、川崎製鉄(株)社製)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして造粒し、鉄粉コーティング稲種子を作製した。なお、鉄粉270M-200の粒度分布はJISふるい規格45μm以下、34.1%;45μm以上63μm以下、43.2%;63μm以上75μm以下、14.6%;75μm以上106μm以下、6.1%;106μm以上150μm以下、1.1%;150μm以上、0.9%である。
次に、コーティングの崩壊試験を行ったところ、崩壊率は2.2%であり、粒度分布の異なる鉄粉を使用しても、低い崩壊率を維持できることが分かった。結果を表1に示す。
【0045】
実施例10
鉄粉DSP317の代わりに同量の還元鉄粉(商品名:DNC-300、同和鉄粉(株)社製)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして鉄粉コーティング稲種子を作製した。なお、鉄粉DNC-300の粒度分布はJISふるい規格45μm以下、85%;45μm以上63μm以下、10%;63μm以上75μm以下、5%である。
次に、コーティングの崩壊試験を行ったところ、崩壊率は4.1%であり、粒度分布の異なる鉄粉を使用しても、低い崩壊率を維持できることが分かる。結果を表1に示す。
【0046】
実施例11
還元鉄粉DSP317の代わりに同量のアトマイズ鉄粉(和光純薬工業(株)製)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして鉄粉コーティング稲種子を作製した。使用したアトマイズ鉄粉の粒度分布は180μm以下である。
次に、乾燥物について実施例1と同様にコーティングの崩壊試験を行った。その結果、崩壊率は22.8%であり、アトマイズ鉄粉を用いても、実用的な強度を維持できることが判明した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
JP0004441645B2_000002t.gif

【0048】
実施例12
稲種子(品種名ヒノヒカリ)50gに対して2倍重量の鉄粉(商品名:DSP317、同和鉄粉(株)製)及び、鉄粉重量に対して百分比1(1g)の塩化カリウム(粉末状)を添加して混合し、脱イオン水をスプレーしながら皿型回転造粒機(商品名:パン型造粒機PZ-01、アズワン(株)製)で造粒し、稲種子に鉄粉をコーティングした後、鉄粉重量に対して百分比9.7の硫酸カルシウム0.5水和物(粉末状)を添加し、鉄粉コーティングの表層に付着させた。次に、実施例1と同様に造粒した該コーティング種子を薄く広げ、加湿空気を送風しながら酸化反応を25℃室温で12時間継続した後、40℃で乾燥させ、図2に示したタイプの鉄粉コーティング稲種子を作製した。
このようにして得られたコーティング稲種子の崩壊試験を行ったところ、崩壊率は4.5%であった。このものは、乾燥後に種子同士や種子と器壁との付着は軽減され、鉄粉の微粉末の発生は少なく、作業環境は清浄である。結果を表2に示す。
【0049】
実施例13
塩化カリウムの代わりに同量の硫酸カリウム(粉末状)を用いたこと、及び硫酸カルシウム0.5水和物の添加量を鉄粉重量に対して百分比5としたこと以外は、実施例12と同様にして鉄粉コーティング稲種子を作製した。次に、実施例12と同様にコーティングの崩壊試験を行った。その結果、崩壊率は45.6%であった。乾燥後の種子同士や種子と器壁の付着は軽減され、鉄粉の微粉末の発生は少なく、作業環境は清浄である。結果を表2に示す。
【0050】
実施例14
硫酸カリウムの代わりに同量の硫酸カルシウム0.5水和物(粉末状)を用いたこと以外は、実施例13と同様にして鉄粉コーティング稲種子を作製した。次に、実施例12と同様にコーティングの崩壊試験を行った。その結果、コーティング稲種子の崩壊率は6.2%であった。このものは、乾燥後における種子同士や種子と器壁の付着は軽減され、鉄粉の微粉末の発生は少なく、作業環境は清浄である。結果を表2に示す。
【0051】
実施例15
稲種子(品種名ヒノヒカリ)50gに対して2倍重量の鉄粉(商品名:DSP317、同和鉄粉(株)製)及び、鉄粉重量に対して百分比1(1g)の硫酸カリウム(粉末状)と百分比50のシリカゲル粉末(乾燥剤として使用されたものを微粉砕したもの)を添加して混合し、脱イオン水をスプレーしながら皿型回転造粒機(商品名:パン型造粒機PZ-01、アズワン(株)製)で造粒しながら稲種子にコーティングした。次に、得られた該コーティング稲種子を薄く広げ、加湿空気を送風しながら酸化反応を25℃の室温で12時間継続した後、40℃で乾燥させ、図2に示したタイプの鉄粉コーティング稲種子を作製した。
このコーティング種子について、同様の方法で崩壊試験を行った。その結果、崩壊率は6.0%であった。結果を表2に示す。なお、シリカゲルは、稲種子が発芽後、稲にケイ酸を供給し、稲の健常な発育に寄与するものである。
【0052】
実施例16
稲種子(品種名ヒノヒカリ)50gに対して2倍重量のショットブラスト工程から排出される鉄粉及び、鉄粉重量に対して百分比1(1g)の塩化カリウム(粉末状)を添加して混合し、脱イオン水をスプレーしながら皿型回転造粒機(商品名:パン型造粒機、アズワン(株)製)でコーティングした。この鉄粉の粒度は46μm以下が80%を占める微細なものであり、金属鉄粉と酸化鉄粉を様々な比率で含んでいる。
次いで、造粒したコーティング稲種子を薄く広げ、加湿空気を送風しながら酸化反応を25℃室温で12時間継続した後、40℃で乾燥させ、鉄粉コーティング稲種子を作製した。
次に、実施例12と同様にコーティングの崩壊試験を行ったところ、崩壊率は46.8%であった。ショットブラスト工程から排出される鉄粉は産業廃棄物であるが、本発明に有効利用できることが分かる。結果を表2に示す。
【0053】
実施例17
使用する鉄粉のうち、半量をDSP317としたこと以外は、実施例16と同様にして鉄粉コーティング稲種子を作製した。次に、実施例12と同様にコーティングの崩壊試験を行った。その結果、崩壊率は11.9%であった。
実施例16の結果と比べると、金属鉄粉を部分的に用いることにより、産業廃棄物の鉄粉を用いても十分な強度のコーティング種子を提供できることが分かる。
【0054】
実施例18
稲種子(品種名ヒノヒカリ)50gに対して2倍重量の鉄粉(DSP317)及び、鉄粉重量に対して百分比50(50g)の酸化鉄粉(和光純薬工業(株)製)、百分比1(1g)の塩化カリウム(粉末状)を添加して混合し、脱イオン水をスプレーしながら皿型回転造粒機(商品名:パン型造粒機、アズワン(株)製)でコーティングした。
次いで、造粒したコーティング稲種子を薄く広げ、加湿空気を送風しながら酸化反応を25℃室温で12時間継続した後、40℃で乾燥させ、鉄粉コーティング稲種子を作製した。
このものについて実施例12と同様にコーティングの崩壊試験を行ったところ、崩壊率は27.1%であった。この結果は、酸化鉄粉も本発明において有効利用できることを示している。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
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【0056】
比較例1
稲種子(品種名ヒノヒカリ)100gに対して2倍重量の還元鉄粉(商品名:DSP317、同和鉄粉(株)製)及び、鉄粉重量に対して百分比15(30g)の硫酸カルシウム0.5水和物(粉末状)を混合して、皿型回転造粒機(商品名:パン型造粒機PZ-01、アズワン(株)製)に入れ、脱イオン水をスプレーしながら造粒した。この様にして造粒したコーティング種子を造粒機から取り出し、その3分の1相当量をバット(縦31cm、横24cm、深さ3.5cm)内に薄く広げ、平均温度25℃、平均相対湿度45%の室内に放置し、大気に12時間開放した。その後、コーティング種子を40℃で乾燥させ、鉄粉コーティング稲種子を作製した。
次に、得られたコーティング稲種子について、実施例1に記載した崩壊試験に供した。その結果、コーティングの崩壊率は94.5%であり、機械的強度は実用に供し得ない程度であった。結果を表3に示す。
【0057】
実施例19
比較例1において造粒し、薄く広げた種子を置いたバットの一つを、外気と遮断した蓋つきのプラスチック製の箱(46x31x26cm)に入れ、この箱に加湿空気を毎分6リットル送風しながら、酸化反応を25℃室温で12時間継続した後、40℃で乾燥させて鉄粉コーティング稲種子を作製した。
次に、得られたコーティング稲種子について、崩壊試験に供した。その結果、コーティングの崩壊率は1.8%であった。比較例1の結果と比べると、酸化反応の促進は機械的強度を実用程度に高めている。結果を表3に示す。
【0058】
比較例2
稲種子(品種名ヒノヒカリ)100gに対して2倍重量の還元鉄粉(商品名DSP317、同和鉄粉(株)製)及び、鉄粉重量に対して百分比1(2g)の塩化カリウム(粉末状)を混合して、皿型回転造粒機(商品名パン型造粒機PZ-01、アズワン(株)製)に入れ、脱イオン水をスプレーしながら造粒した。この様にして造粒したコーティング種子を造粒機から取り出し、その4分の1相当量をバット(縦31cm、横24cm、深さ3.5cm)内に薄く広げ、平均温度25℃、平均相対湿度45%の室内に放置し、大気に12時間開放した。その後、コーティング種子を40℃で乾燥させ、鉄粉コーティング稲種子を作製した。
次に、得られたコーティング稲種子について、崩壊試験に供した。その結果、コーティングの崩壊率は87.7%であった。造粒後の酸化反応が十分に進行していないためと思われるが、機械的強度は実用に供し得ない程度であった。結果を表3に示す。
【0059】
実施例20
比較例2において造粒し、薄く広げた種子を置いたバットの一つを、平均温度25℃、平均相対湿度45%の室内に放置し、大気に12時間開放した。その後、脱イオン水をスプレーし、再び大気に12時間開放した。なお、スプレーした水の量は、コーティング種子の5%(質量)程度である。その後、40℃で乾燥させ、鉄粉コーティング稲種子を作製した。
次に、得られたコーティング稲種子について、実施例1に記載した崩壊試験に供した。その結果、コーティングの崩壊率は20.4%であり、機械的強度は実用的である。比較例2の結果と比較して、酸化反応が進行したため機械的強度が上がったと考えられる。結果を表3に示す。
【0060】
実施例21
比較例2において造粒し、薄く広げた種子を置いたバットの一つを、水を薄く張った大型のバットの中に入れた。さらに、薄く広げた種子の周りをステンレス鉄線の枠で囲み、種子に接触しないように濡れたペーパータオルで被って、種子の水含有量が低下しないようにして、12時間酸化反応を進行させた。この時、ペーパータオルと大型のバットの中で薄く張られた水は接触しており、ペーパータオルには毛管現象により常に水が供給されるようにした。この後、コーティング種子は40℃の乾燥機中で乾燥された。
次に、得られたコーティング稲種子について、実施例1に記載した崩壊試験に供した。その結果、コーティングの崩壊率は7.7%であり、機械的強度は実用的である。造粒後のコーティング種子の鉄粉の酸化は、湿度を上げることにより、比較例2のように大気に開放する場合に比べて酸化反応が進行することを示している。結果を表3に示す。
【0061】
実施例22
比較例2において造粒し、薄く広げた種子を置いたバットの一つを、外気と遮断した蓋つきのプラスチック製の箱(46x31x26cm)に入れ、この箱に加湿空気を毎分6リットル送風しながら、酸化反応を25℃室温で12時間継続した後、40℃で乾燥させ、鉄粉コーティング稲種子を作製した。
次に、得られたコーティング稲種子について、実施例1に記載した崩壊試験に供した。その結果、コーティングの崩壊率は8.8%であり、機械的強度は実用的である。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
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【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第一の実施形態を示す鉄コーティング稲種子断面の模式図である。
【図2】本発明の第二の実施形態を示す鉄コーティング稲種子断面の模式図である。
【図3】従来技術による鉄コーティング稲種子断面の模式図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2