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明細書 :細胞死を調節する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3586706号 (P3586706)
公開番号 特開平11-253164 (P1999-253164A)
登録日 平成16年8月20日(2004.8.20)
発行日 平成16年11月10日(2004.11.10)
公開日 平成11年9月21日(1999.9.21)
発明の名称または考案の名称 細胞死を調節する方法
国際特許分類 C12N 15/09      
A01H  1/00      
C12N  5/10      
C12N  9/50      
C12N 15/09      
C12R  1:91      
C12N  5/10      
C12R  1:91      
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 1/00 A
C12N 9/50
C12N 5/00 C
C12N 5/00 C
C12R 1:91
C12N 15/00 ZNAA
C12R 1:91
請求項の数または発明の数 4
全頁数 34
出願番号 特願平10-060158 (P1998-060158)
出願日 平成10年3月11日(1998.3.11)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用申請有り 平成9年11月15日 第20回日本分子生物学会年会準備委員会発行の「第20回日本分子生物学会年会プログラム・講演要旨集」に発表
審判番号 1999-017594
審査請求日 平成11年1月20日(1999.1.20)
審判請求日 平成11年11月1日(1999.11.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】大橋 祐子
【氏名】瀬尾 茂美
個別代理人の代理人 【識別番号】100078282、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 秀策
特許請求の範囲 【請求項1】
植物において細胞死を調節する方法であって、
DS9をコードする配列番号1の411~2240からなる核酸配列、または該配列番号1の411~2240からなるポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、葉緑体の恒常性を維持するために機能するメタロプロテイナーゼ活性を有するタンパク質をコードする、核酸配列からなるポリヌクレオチドで、植物細胞を形質転換する工程;および
該形質転換した植物細胞を再分化させて、植物を得る工程、
を包含し、
ここで、該ポリヌクレオチドは、該植物細胞中でATP依存性Zn型メタロプロテイナーゼの産生を増大させ、それによって該植物中の細胞の細胞死が抑制される、方法。
【請求項2】
植物において細胞死を調節する方法であって、DS9をコードする配列番号1の411~2240からなる核酸配列、または該配列番号1の411~2240からなるポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、葉緑体の恒常性を維持するために機能するメタロプロテイナーゼ活性を有するタンパク質をコードする、核酸配列からなるポリヌクレオチドの相補配列からなるアンチセンスを含むポリヌクレオチドで、植物細胞を形質転換する工程;および
該形質転換した植物細胞を再分化させて、植物を得る工程、
を包含し、
ここで、該植物中の細胞の細胞死が促進される、方法。
【請求項3】
植物の細胞死を促進することにより植物に環境ストレスに対する抵抗性を付与する方法であって、DS9をコードする配列番号1の411~2240核酸配列、または該配列番号1の411~2240からなるポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、葉緑体の恒常性を維持するために機能するメタロプロテイナーゼ活性を有するタンパク質をコードする、核酸配列からなるポリヌクレオチドの相補配列からなるアンチセンスを含むポリヌクレオチドで、植物細胞を形質転換する工程;および
該形質転換した植物細胞を再分化させて、植物を得る工程、
を包含する、方法。
【請求項4】
DS9をコードする配列番号1の411~2240からなる核酸配列、または該配列番号1の411~2240からなるポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、葉緑体の恒常性を維持するために機能するメタロプロテイナーゼ活性を有するタンパク質をコードする、核酸配列からなるポリヌクレオチドの選択的な阻害剤をスクリーニングする方法であって、
該DS9をコードする配列番号1の411~2240からなる核酸配列、または該配列番号1の411~2240からなるポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、葉緑体の恒常性を維持するために機能するメタロプロテイナーゼ活性を有するタンパク質をコードする、核酸配列からなるポリヌクレオチドを有する植物細胞に、阻害剤候補物質を暴露する工程;および、
該植物細胞において該DS9をコードする配列番号1の411~2240からなる核酸配列、または該配列番号1の411~2240からなるポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、葉緑体の恒常性を維持するために機能するメタロプロテイナーゼ活性を有するタンパク質をコードする、核酸配列からなるポリヌクレオチドがコードするタンパク質の産生が選択的に減少したか否かを同定する工程、を包含する、方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、細胞死を調節する方法に関する。さらに詳しくは、細胞死調節遺伝子の発現レベルを調節することにより、様々な環境ストレスに対して、植物に抵抗性を付与する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
植物は、病原体(例えば、ウイルス、細菌、糸状菌およびウイロイド)に感染すると、1)病原体が全身に広がって、増殖することにより病気になるか、または、2)感染部位に病原体を封じ込め、全身への広がりを抑えることにより病原体に対して抵抗性になるかのいずれかの反応を示す。病原体に対する植物の後者のような反応は、超過敏反応(hypersensitive response、HR)と呼ばれる。この反応においては、感染した部位に局所的な細胞死が生じ、壊死病斑が形成されることが知られている。このような病原体感染に伴う壊死病斑形成は植物の典型的な抵抗性反応であり、プログラム細胞死と考えられる。しかし、その分子機構はほとんど解っていない。
【0003】
HRは、全ての植物において生じるわけではない。植物において、感染した病原体に由来する病原性遺伝子の産物を認識する遺伝子が、内因的に存在する場合に生じる。このような遺伝子が存在しない場合、HRは生じず、植物は病原体感染に対して非抵抗性である。
【0004】
タバコモザイクウイルス(TMV)感染に対するタバコのHRは、従来から植物のHRを研究するために用いられてきたモデル系である。
【0005】
N遺伝子は、TMVの感染によるHR(すなわち、細胞死)に関与する細胞死調節遺伝子の1つである。TMV感染に対して、N遺伝子を有するタバコ(NNタバコ)はHRを生じるが、N遺伝子を有さないタバコ(nnタバコ)はHRを生じない(Holmes, Phytopathology 28, 553, (1938))ことが報告されている。NNタバコのHRは、24℃以下の温度においてのみ生じ、28℃以上では生じない。それゆえ、N遺伝子および温度条件の両方が、TMVに感染した細胞におけるHRの誘発に必須であると考えられてきた。
【0006】
しかし、本発明者らの研究により、アクチノマシシンD(AMD)および熱(50℃、2分)で処理した場合、通常はHRを生じない30℃の温度条件下でも、NNタバコにおいて、TMV感染に対するHRが誘発されることが見出された。さらに、TMV感染に対するHRは、AMDおよび熱での同様な処理によって、N遺伝子を有さないnnタバコにおいても誘発された。これらにより、TMV感染に対する細胞死が、N遺伝子の存在および非存在、ならびに温度とは無関係に生じ得ることが明らかになった(ShimomuraおよびOhashi, Virology, 43, 531,(1971);OhashiおよびShimomura, Virology, 48, 601(1972))。AMDは核におけるDNA依存性のRNA合成を阻害することが知られている。従って、植物において新規な細胞調節遺伝子が存在し、その転写および引き続くタンパク質合成の抑制によりHRが誘発される可能性が示された。
【0007】
このような細胞死調節遺伝子が同定されれば、その発現レベルをコントロールすることにより、植物細胞死を調節(促進または抑制)することが可能であると考えられる。特に、細胞死を調節することにより、環境ストレスに対する抵抗性を植物に付与することは、農業の分野において重要な課題である。
【0008】
しかし、このような細胞死調節遺伝子はこれまでに同定されておらず、発現レベルを調節して細胞死を促進または抑制することにより、環境ストレスに対して抵抗性を付与するという研究は、全くなされていないのが現状である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の問題を解決するためのものであり、その目的とするところは、細胞死調節遺伝子の発現レベルを調節して、細胞死を促進または抑制する方法を提供することにある。また、本発明は、細胞死を調節することにより、環境ストレス(例えば、病害体感染)に対して抵抗性が付与された植物を作出する方法を提供する。さらに、本発明は、細胞死調節遺伝子の選択的な阻害剤をスクリーニングする方法を提供する。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、DS9もしくはそのホモログをコードする遺伝子、または、その一部を含むポリヌクレオチドで植物細胞を形質転換する工程、および上記の形質転換した植物細胞を再分化させて植物を得る工程、を包含する、植物において細胞死を調節する方法に関する。上記のDS9もしくはそのホモログはATP依存性Zn型メタロプロテアーゼであり、上記のポリヌクレオチドは、植物細胞中でATP依存性Zn型メタロプロテアーゼの産生を減少または増大させ、それによって植物中の細胞の細胞死が促進、または抑制される。DS9もしくはそのホモログをコードする遺伝子、またはその一部を含むポリヌクレオチドは、公知の遺伝子組換え技術により、植物細胞中の核内のDNAに組み込まれて存在する。なお、ポリヌクレオチドは、ヌクレオチドの重合体を意味し、特定の鎖長に限定されない。
【0011】
1つの実施態様においては、上記のポリヌクレオチドは、上記のDS9もしくはそのホモログをコードする遺伝子、またはその一部をアンチセンスで含み、上記の植物中の細胞の細胞死が促進される。
【0012】
本発明はまた、DS9もしくはそのホモログをコードする遺伝子、またはその一部を含むポリヌクレオチドで植物細胞を形質転換する工程、および上記の形質転換した植物細胞を再分化させて植物を得る工程を包含する、植物に環境ストレスに対する抵抗性を付与する方法に関する。ここで、上記のDS9もしくはそのホモログは、ATP依存性Zn型メタロプロテアーゼであり、上記のポリヌクレオチドは、植物細胞中でATP依存性Zn型メタロプロテアーゼの産生を減少または増大させる。
【0013】
1つの実施態様においては、上記の環境ストレスは、病原体感染である。
【0014】
1つの実施態様においては、上記のポリヌクレオチドは、上記のDS9もしくはそのホモログをコードする遺伝子、またはその一部をアンチセンスで含む。
【0015】
1つの実施態様においては、上記のホモログが、DS9に対して、ATPase領域において約70%以上の相同性を有する。
【0016】
さらに、本発明は、DS9もしくはそのホモログをコードする遺伝子を有する発現系に、阻害剤候補物質を導入する工程、および、上記の発現系においてDS9またはそのホモログの産生が選択的に減少したか否かを同定する工程、を包含する、DS9もしくはそのホモログをコードする遺伝子の選択的な阻害剤をスクリーニングする方法に関する。ここで、上記のDS9もしくはそのホモログは、ATP依存性Zn型メタロプロテアーゼである。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、高等植物から新たに単離したATP依存性Zn型メタロプロテアーゼの1種であるDS9およびそのホモログが、細胞死を調節する因子であることを解明した。この調節は、例えば、環境ストレス下においてDS9またはそのホモログの産生が抑制されることにより、植物細胞における細胞死が誘発されることで行われる。本発明は、この新規な知見に基づいて完成された。
【0018】
本発明者らは、タバコにおいてHRが生じる際に特異的に発現する6つのクローンを単離した。単離したクローンの1つを「DS9遺伝子」と名付け、その全塩基配列を決定した。
【0019】
DS9遺伝子がコードする推定のアミノ酸配列について、ホモロジー検索を行った。その結果、ATP依存性Zn型メタロプロテアーゼである、大腸菌のFtsH、酵母のOsd1p、シロイヌナズナのArFtsH、およびレッドペパーのPftfのアミノ酸配列と、それぞれ、40%、30%、79%および42%の相同性を示した。特に、ATPaseに特有の保存性領域において相同性が高かった。表1は、本発明におけるDS9と、大腸菌のFtsH、酵母のOsd1p、シロイヌナズナのArFtsH、およびレッドペパーのPftfとの間のアミノ酸配列を比較した表である。各アミノ酸は1文字表記で表している。
【0020】
【表1】
JP0003586706B2_000002t.gif
【0021】
DS9には、他のATP依存性Zn型メタロプロテアーゼと同様に、N末端側の膜を貫通すると考えられる疎水性領域(表中「WalkerモチーフA」および「WalkerモチーフB」で示す)、および中央部のATPase領域(「SRH」で示す)、ならびにC末端側のZn2+結合モチーフが存在した(図1)。また、大腸菌において組換え発現したDS9は、実際にATPase活性を示した(図2)。これらのことは、本発明におけるDS9が、ATP依存性Zn型メタロプロテアーゼであることを示している。
【0022】
DS9遺伝子のHR誘発時における挙動を解析した結果、DS9遺伝子は、HRが生じるまでの間に、転写レベルおよび翻訳産物であるタンパク質量の両方において抑制されていることが示された(図3および図4)。TMV感染したNNタバコの葉においては、30℃から20℃への温度シフト後1時間以内に、その転写レベルおよびタンパク質量が減少した。一方、模似感染した葉においては、DS9遺伝子の転写レベルおよびタンパク質量は一定であった(実施例4および6を参照)。また、HRを誘発することが知られているアクチノマイシン(AMD)および熱ショック(HS)処理を行うと、DS9のタンパク質量が劇的に減少した(実施例7を参照)。
【0023】
上記実験結果に基づいて、本発明者らは、DS9が植物において細胞死を調節する機能を有する因子であることを確認し、その利用方法を開発するために、さらに種々の実験を行った。その結果、以下のことを見出した。
【0024】
1)壊死病斑形成の誘導における各種プロテアーゼ阻害剤の効果を試験した結果、メタロプロテアーゼ阻害剤を用いた場合においてのみ、TMV感染タバコにおいて細胞死が誘導されたこと。
【0025】
2)DS9が葉緑体に局在すること。
【0026】
3)HRを生じるための条件とされている温度にシフトしなくても、メタロプロテアーゼ阻害および葉緑体の機能の低下のいずれの場合においてもHRが誘発されること。
【0027】
4)HR誘発における葉緑体の機能の低下は、DS9タンパク質量の減少と相関すること。
【0028】
5)アンチセンス方向でDS9遺伝子を導入して、DS9遺伝子の転写レベルおよびタンパク質量が減少された植物においては、細胞死が促進されること。このアンチセンス植物は、病害抵抗性を獲得したこと。
【0029】
6)センス方向でDS9遺伝子を導入してDS9遺伝子の転写レベルおよびタンパク質量が増加された植物においては、細胞死が抑制されること。このセンス植物は、スーパーオキシド発生型除草剤に対して、耐性を獲得したこと。
【0030】
DS9ホモログであるFtsHは細菌由来である。DS9が細菌起源とされる葉緑体において見出されたことは、その起源を考える上で興味深い。DS9のホモログであるArFtsHもまた、葉緑体に局在することが報告されている(Lindahlら、The Journal of Biological Chemistry. vol 271, pp29329-29334(1996))。従って、DS9ホモログが、全般に葉緑体で機能している可能性が示唆される。また、植物中で、DS9およびそのホモログは、同じく細菌起源と考えられるミトコンドリアにおいても機能をしていることが想定される。実際、酵母ミトコンドリアでは、未会合のチトクロームCオキシダーゼのサブユニット2の分解にFtsHホモログが関与することが示されている(Nakai, Tら、Mol.Cell.Biol., 15, 4441-4452 (1995))。
【0031】
哺乳動物において、アポトーシスがミトコンドリアにおける電子伝達系の阻害による膜電位の低下によって引き起こされること、およびこの膜電位の低下が細胞死抑制遺伝子産物であるBcl-2などにより阻害されることが報告されている(Zamzami, N.ら、Exp. Med., 182, 367-377(1995))。また、哺乳動物において、ミトコンドリアにおける電子伝達系が首尾良く機能しない場合に細胞死が生じることは、Kripperら(The Journal of Biological Chemistry, 271, 21629, (1996))およびQuillet-Maryら(The Journal of Biological Chemistry, 272, 21388, (1997))によっても報告されている。一方、葉緑体において、ある種のプロテアーゼが働くことにより、その恒常性が維持されていることが報告されている(Zatch Adam, Plant Molecular Biology 32:773-783, 1996)。
【0032】
これらを考慮すれば、本発明において調節される細胞死の機構は、下記のように説明することができる。もっともこれは、本発明の方法の範囲が、以下の機構によって限定または束縛されることを意図するものではない。
【0033】
メタロプロテアーゼであるDS9またはそのホモログは、未会合タンパク質または異常タンパク質などを分解することによって、葉緑体およびミトコンドリアの恒常性を維持している。環境ストレス下に植物がおかれると、葉緑体およびミトコンドリア中のDS9もしくはそのホモログをコードする遺伝子の転写が抑制され、翻訳産物のタンパク質レベル(すなわち活性レベル)が低下した組織が現れる。これらの組織では、本発明者により示されたように細胞死が誘導される。葉緑体およびミトコンドリアにおいて未会合タンパク質もしくは異常タンパク質などが増加し、そしてこれらが蓄積されて、葉緑体およびミトコンドリアの機能(ATPまたはNADPH生産)の低下が引き起こされる。光合成の場である葉緑体においては、この機能の低下により光エネルギーが首尾良く葉緑体の中で処理されなくなり、その結果、活性酸素が植物細胞内に発生する。このような細胞内の恒常性の崩壊(電子伝達系の崩壊およびそれによる活性酸素の蓄積)が生じることにより、細胞は最終的に死に至る。DS9もしくはそのホモログはこれらの不要なタンパク質を分解することによって細胞を死から救い、恒常性を維持させるために機能していると考えられる。
【0034】
従って、種々の要因により、同様な細胞死の機構は、植物細胞に限らず、真核細胞全般において存在する可能性が予想される。
【0035】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0036】
本発明者らは、上述のように、その発現レベルに応じて、細胞死を促進または抑制する、細胞死調節遺伝子の機能を解明し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0037】
本発明は、細胞死調節遺伝子の発現レベルを調節して、細胞死を促進または抑制する方法を提供する。本発明は、さらに、細胞死を調節することにより、環境ストレスに対して抵抗性が付与された植物を作出する方法を提供する。
【0038】
本明細書において、「細胞死調節遺伝子」とは、その発現レベルに応じて、細胞死を促進または抑制する遺伝子をいう。DS9およびそのホモログをコードする遺伝子、ならびにその一部は、本発明において意図される細胞死調節遺伝子である。
【0039】
遺伝子についての「発現」とは、DNAのmRNAへの転写をいう。mRNAへの転写の程度を発現レベルとして示す。従って、転写が抑制される場合は発現レベルが減少されることを、および転写が促進される場合は発現レベルが増大されることをいう。
【0040】
「DS9」は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するATP依存性Zn型メタロプロテアーゼである。「ATP依存性Zn型メタロプロテアーゼ」とは、その酵素作用のためにATPを必要とし、活性中心に2価の金属イオン(代表的にはZn2+)を含むプロテアーゼをいう。この酵素は、そのアミノ酸配列において、N末端側に1つ以上の疎水性領域、C末端側に金属イオン結合領域(代表的にはZn2+結合領域)、その中間にATPase領域を有する。代表的には、N末端側に2つの疎水性領域を有し、そしてC末端側にZn2+結合領域を有する。
【0041】
「DS9のホモログ」とは、DS9と同様のATP依存性メタロプロテアーゼであって、DS9と比較して、全アミノ酸配列について少なくとも約30%以上、好ましくは約40%以上の相同性を有し、さらにATPase領域のアミノ酸配列について少なくとも約60%以上、好ましくは約70%以上の相同性を有するタンパク質をいう。このようなホモログとしては、大腸菌のFtsH、酵母のOsd1p、シロイヌナズナのArFtsH、およびレッドペパーのPftfが挙げられる。
【0042】
DS9およびそのホモログをコードする天然由来の遺伝子を単離する方法としては、例えば、mRNA量の変化を示す遺伝子をクローニングするのに有効なディファレンシャルスクリーニングを用い得る。ディファレンシャルスクリーニングを行うための遺伝子ライブラリーの作製法、プローブとのハイブリダイゼーションに使用するストリンジェントな条件、および遺伝子のクローニング法は当業者に周知である。例えば、マニアティスらのMolecular Cloning, A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York(1989)を参照。
【0043】
新規なDS9のホモログをコードする遺伝子もまた、細胞死調節遺伝子として使用され得る。このような新規遺伝子は、DS9もしくは公知のそのホモログをコードする遺伝子、またはその断片をプローブとして、種々の生物の遺伝子ライブラリーから得ることができる。例えば、植物の遺伝子ライブラリー、大腸菌遺伝子ライブラリー、および酵母遺伝子ライブラリーが使用され得る。ライブラリーをスクリーニングするためのストリンジェントな条件は、当業者により適宜選択される。
【0044】
得られた遺伝子によりコードされるアミノ酸配列が、DS9のホモログであるか否かは、得られた遺伝子にコードされるアミノ酸配列とDS9のアミノ酸配列とを、市販のコンピューター解析ソフト(例えば、Gene Works(IntelliGenetics, Inc.))を使用してアラインメントし、両者の相同性を調べることにより、容易に決定され得る。
【0045】
DS9もしくはそのホモログをコードする遺伝子(以下、必要に応じて「DS9関連遺伝子」という)、またはその一部としては、天然由来の遺伝子だけでなく、人工的に合成した遺伝子またはその一部も用い得る。
【0046】
「その一部」とは、DS9またはそのホモログの細胞死調節機能を再現するのに十分な程度の長さを有する本発明における遺伝子の断片をいう。
【0047】
アンチセンスでDS9関連遺伝子を導入する場合における「その一部」は、植物内において、その一部から産生されるアンチセンスRNAが、センス鎖からなるmRNAの翻訳を阻害するのに十分な相補性および長さを有する断片をいう。断片は、当該植物中に存在する内因性のDS9関連遺伝子の相補的な領域と、塩基配列レベルで代表的には50%、好ましくは80%、より好ましくは90%、さらにより好ましくは95%以上の同一性(センス鎖として)を有する。断片の長さは、代表的には約20ヌクレオチド以上であり、好ましくは約50ヌクレオチド以上、より好ましくは約100ヌクレオチド以上、さらにより好ましくは200ヌクレオチドである。
【0048】
センスでDS9関連遺伝子を導入する場合における「その一部」とは、発現産物であるDS9またはそのホモログがメタロプロテアーゼ活性を有するに十分な領域をコードする配列を含む、当該遺伝子の断片をいう。この断片は、好ましくは、メタロプロテアーゼの金属イオン結合領域およびATPase領域をコードし、より好ましくは、目的のオルガネラに存在するための領域をさらにコードする。
【0049】
DS9関連遺伝子、またはその一部は、細胞死調節の目的に応じて、センスまたはアンチセンスで、適切な植物発現ベクターに組み込まれて植物に導入され得る。DS9関連遺伝子またはその一部をアンチセンスで導入する場合、代表的には、細胞死が促進される。DS9関連遺伝子またはその一部をセンスで導入する場合、代表的には、細胞死が抑制される。もっとも、導入遺伝子の発現レベルの程度に応じてコサプレッションが生じ得ることは、当該分野において周知の事項である。コサプレッションは、導入遺伝子のmRNAが過剰に産生される結果、導入遺伝子およびその相同遺伝子である内因性遺伝子の発現レベルが、両方とも抑制されることにより導かれ得る現象である。コサプレッションが生じると、DS9関連遺伝子の発現レベルが抑制されて、細胞死が促進され得る。
【0050】
当業者に明らかなように、コサプレッションにより本発明の効果が得られる場合には、上記の「その一部」は、メタロプロテアーゼ活性を有するに十分な領域をコードする必要はなく、アンチセンスの場合における「その一部」の定義が援用される。
【0051】
本願発明の方法が適用される「植物」は、単子葉植物および双子葉植物のいずれも含む。特に好ましい植物としては、タバコ、ピーマン、ナス、メロン、トマト、サツマイモ、キャベツ、ネギ、ブロッコリー、ニンジン、キウリ、柑橘類、白菜、レタス、モモ、イネ、ジャガイモ、オオムギ、コムギおよびリンゴが挙げられる。また、特に他で示さない限り、植物は、植物体、植物器官、植物組織、植物細胞、および種子のいずれをも意味する。植物器官の例としては、根、葉、茎、および花などが挙げられる。植物細胞の例としては、カルスおよび懸濁培養細胞が挙げられる。
【0052】
本発明の方法に用い得る細胞死調節遺伝子が、対象となる植物と同一種または近縁の種(例えば、同一の属、または同一の科に分類される種)に由来することは、好ましい態様であり得るが、必ずしも必要ではない。
【0053】
本発明に用いられる「ポリヌクレオチド」は、DS9感染遺伝子またはその一部、および所望の形質転換を達成するために必要な任意の付加的配列を有する。代表的には植物発現ベクターである。
【0054】
「植物発現ベクター」とは、目的の遺伝子の発現レベルを調節するプロモーターなどの種々の調節エレメントが、宿主植物細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列の組換え構築物をいう。好適には、植物プロモーター、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子などのマーカー遺伝子、およびエンハンサーを含み得る。より好適には、複製起点を含み得る。植物発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの好適な種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0055】
当業者は、本発明の実施にあたって、プロモーター、エンハンサーなどの調節エレメントを適宜選択することにより、細胞死の程度を調節し得る。
【0056】
本発明に用いる植物発現ベクターはさらにT-DNA領域を有し得る。T-DNA領域は、特にアグロバクテリウムを用いて植物を形質転換する場合に遺伝子の導入の効率を高める。
【0057】
「植物プロモーター」とは、植物細胞において機能し得るプロモーターをいう。例えば、タバコの感染特異的タンパク質PR-1のプロモーター(以下、タバコPR-1プロモーターという)、熱ショックにより誘導されるプロモーターなどの、ある種のストレスにより発現が誘導されるプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ノパリン合成酵素のプロモーター(Pnos)のような恒常的なプロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
「ターミネーター」は、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現レベルに影響を及ぼすことが知られている。ターミネーターの例としては、CaMV35Sターミネーター、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)、タバコPR-1遺伝子のターミネーターが挙げられるが、これに限定されない。
【0059】
「薬剤耐性遺伝子」は、形質転換植物の選抜を容易にする遺伝子であることが望ましい。カナマイシン耐性を付与するためのネオマイシンフォスフォトランスフェレースII(NPTII)遺伝子、およびハイグロマイシン耐性を付与するためのハイグロマイシンフォスフォトランスフェレース遺伝子などが好適に用いられ得る。
【0060】
薬剤耐性遺伝子を発現させるプロモーターの例としては、上記植物プロモーター、例えば、タバコPR-1プロモーター、CaMV35Sプロモーター、ノパリン合成酵素プロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。エンハンサーとしては、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域が好適である。エンハンサーは、1つの目的遺伝子について複数個用いられ得る。
【0062】
植物発現ベクターの構築に用いるベクターとしては、pBI系のベクター、pUC系のベクターあるいはpTRA系のベクターが好適に用いられ得る。
【0063】
pBI系およびpTRA系のベクターは、アグロバクテリウムを介して植物に目的の遺伝子を導入し得る。pBI系のバイナリーベクターまたは中間ベクター系が好適に用いられ得る。例えば、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3などが挙げられる。これらのベクターは、植物に導入され得る領域(T-DNA領域)の遺伝子と、マーカー遺伝子として植物プロモーターの支配下で発現されるNPTII遺伝子(カナマイシン耐性を付与する)とを含む。
【0064】
pUC系のベクターは、植物に遺伝子を直接導入し得る。例えば、pUC18、pUC19、pUC9などが挙げられる。
【0065】
本発明の植物発現ベクターは、当業者に周知の遺伝子組換え技術を用いて作製され得る。好適には、上記ベクターのプロモーター下流にDS9関連遺伝子、またはその一部が、センスまたはアンチセンスで組み込まれる。
【0066】
植物細胞への植物発現ベクターの導入には、当業者に周知の方法、例えば、アグロバクテリウムを介する方法および直接細胞に導入する方法が用いられ得る。アグロバクテリウムを介する方法としては、例えば、Nagelらの方法(Micribiol. Lett., 67, 325(1990))が用いられ得る。この方法では、まず、例えば植物発現ベクターでエレクトロポレーションによってアグロバクテリウムを形質転換し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをPlant Molecular Biology Manual (S. B. Gelvinら、Academic Press Publishers)に記載の方法で植物細胞に導入する方法である。植物発現ベクターを直接細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、遺伝子銃法の他、リン酸カルシウム法およびポリエチレングリコール(PEG)法などがある。これらの方法は、当該分野において周知であり、形質転換する植物に適した方法が、当業者により適宜選択され得る。
【0067】
植物発現ベクターを導入することにより形質転換した細胞は、まずカナマイシン耐性などの薬剤耐性を指標として選択される。次いで、常法により、植物組織、植物器官および/または植物体に再分化され得る。さらに、再生された植物体から種子が取得され得る。このようにして、細胞死調節遺伝子を細胞内に有する植物が得られる。
【0068】
得られた植物において、DS9関連遺伝子、またはその一部が発現することにより、植物中の細胞の細胞死が促進または抑制され得る。
【0069】
DS9またはそのホモログの産生(すなわち、メタロプロテアーゼの産生)が減少された植物においては、通常、細胞死が促進される。細胞死を起こす傾向が適度に強められた植物においては、ある種の環境ストレスに対する抵抗性、特に、病斑形成による病害抵抗性が示され得る。これは主として、局所的な細胞死が促進されて感染領域で増殖する病原体が封じ込められることにより、感染部位の広がりが阻止されることによると考えられる。もともと天然の植物においても、病原体感染を受けた部位の細胞ではDS9のmRNAやタンパク質が減少するので、その部位のみが細胞死を起こし得る。DS9またはそのホモログの産生が減少するように作出された形質転換植物においては、病原体感染細胞はさらに死にやすくなり、その結果感染細胞の細胞死の反応が促進される(すなわち、抵抗性になる)。
【0070】
DS9またはそのホモログの産生が増大された植物においては、通常、細胞死が抑制される。細胞死を起こす傾向が適度に弱められた植物においても、様々な環境ストレスに対する抵抗性が示され得る。環境ストレス下に植物が曝されると、内因性のDS9関連遺伝子が不活性化されて、それによりオルガネラの恒常性が維持できなくなり、植物細胞中に有害な活性酸素が生じ得る。本発明の方法により、DS9またはそのホモログの産生が増大されてメタロプロテアーゼの活性値が上昇することより、オルガネラ(例えば、ミトコンドリアおよび葉緑体)の恒常性維持機能が向上する結果、活性酸素の発生が低くおさえられて細胞死が抑制されると考えられる。
【0071】
本明細書において、「環境ストレス」とは、自然界で植物が受け得る、その生育を妨げる任意のストレスをいう。環境ストレスの例としては、病原体感染、強光、低温、凍結、乾燥、高温、高塩濃度、UV照射、オゾン、および除草剤などが挙げられる。
【0072】
環境ストレスに対しての「抵抗性の付与」とは、植物に新たな抵抗性を付与すること、または既に抵抗性を有する植物のその抵抗性を増強することをいう。
【0073】
「病原体感染」とは、植物の病原因子による感染をいい、ウイルス、ウイロイド、糸状菌および細菌による感染を含む。
【0074】
環境ストレスに対する抵抗性の有無は、植物がある環境ストレス下におかれた場合の、形質転換植物とコントロール植物との間に観察され得る差異を評価することにより、確認できる。
【0075】
例えば、病原体感染に対する形質転換植物の病害抵抗性は、病原体(例えば、TMVなどのウイルス、およびキュウリ立ち枯れ病菌(Rhizoctonia solani)などの糸状菌)感染における、形質転換植物とコントロール植物との間の形態学的変化の差異として評価される。例えば、病原体感染後の形質転換植物において観察され得る病斑の程度が、コントロール植物に比べて有意に抑制されている場合は、その形質転換植物には抵抗性が付与されている。
【0076】
本発明に従って病原体感染に対する抵抗性が付与された形質転換植物には、TMVに対する抵抗性およびキュウリ立ち枯れ病菌に対する抵抗性の少なくとも1つについて抵抗性である植物が含まれる。
【0077】
除草剤に対する形質転換植物の抵抗性は、例えば、スーパーオキシド発生型除草剤(例えば、パラコート(商品名)(1,1-dimethyl-4,4-bipyridinium dichloride))などの公知の除草剤処理に対する抵抗性として評価される。例えば、除草剤処理後の形質転換植物において、クロロフィルaおよびbの分解の程度が、コントロール植物に比べて有意に抑制されている場合は、その形質転換植物は抵抗性が付与されている。
【0078】
上述のように、(DS9に代表される)ATP依存性Zn型メタロプロテアーゼによる細胞死の調節は、植物に限らず真核生物全般においてその生体機能に深く関与していることが示唆される。従って、DS9関連遺伝子の選択的な阻害剤は、生体機能の選択的な抑制のための手段として重要であり得る。例えば、このような阻害剤は、農薬および医薬の候補物質として利用される。
【0079】
DS9関連遺伝子の選択的な阻害剤のスクリーニングは、DS9関連遺伝子を有する植物細胞に、阻害剤候補物質を導入して、上記の植物細胞においてDS9またはそのホモログの産生が選択的に減少したか否かを同定することにより行われる。このスクリーニングの方法を実施するための条件は、当業者により適宜選択され得る。スクリーニングは、例えば、N遺伝子を有さないタバコにTMVを接種した後に阻害候補物質で処理した場合に、TMV感染部に壊死病斑が形成されるかどうかを試験することにより行われる。処理葉片のみにおいてTMV感染部に壊死病斑が形成され、かつTMV感染していない処理葉片においては有意な形態学的変化が認められない場合には、この阻害剤候補物質はDS9関連遺伝子に対して選択的であるとする。
【0080】
例えば、スクリーニングに使用する植物細胞は、任意の形態の植物中に存在する。好ましくは、遊離の植物細胞として、インビトロで用いられる。植物細胞は、好ましくは、DS9関連遺伝子を内因性の遺伝子として有する。阻害剤候補物質は、タンパク質、核酸、糖、脂質などを含むが、これらに限定されない。植物細胞への導入のために、当業者は阻害剤の種類に応じて、適切な送達手段を選択し得る。
【0081】
阻害候補物質で処理した植物細胞においてDS9またはそのホモログの産生が減少したか否かは、当業者に周知の方法により適宜同定され得る。例えば、ウェスタンブロット解析により、阻害候補物質で処理した植物細胞と未処理の植物細胞との間の、DS9またはそのホモログのタンパク質量を比較することにより、容易に決定され得る。DS9およびそのホモログの産生が有意に減少した場合、その候補物質は、DS9関連遺伝子の阻害剤であると考えられる。
【0082】
【実施例】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。この実施例で使用した制限酵素、プラスミドなどは商業的な供給源から入手可能である。
【0083】
(実施例1:DS-9遺伝子の単離)
N. tabacum cv. Samsun NNおよびSamsun nnを、温度を調節した温室において、25℃、16時間の日長下、120μE/m/sの強度にて生長させた。TMVのOM株(農水省生物研ジーンバンク)をこの実施例において使用した。温度シフトアッセイのために、タバコの葉を、葉の上部表皮と、10mMリン酸緩衝液(pH7.0)中の十分な濃度のウイルス懸濁物とを穏やかに擦り合わせ、Carborundum(600番、Kishida Chemicals, Osaka, Japan)を湿らして、30分間室温に保ち、ウイルスの侵入を可能にすることによりTMVを接種した。感染した葉を水で洗浄してCarborundumを除去した後、それらを含む透明なプラスティックボックスを、30℃で、24時間の日長下、60μE/m/sの強度にて維持したインキュベーターに移した。48時間インキュベーションした後、20℃、60μE/m/sの光強度で維持したインキュベーターに移した。20℃および30℃両方のインキュベーションの間、湿らせたティッシュペーパーで覆うことにより、葉柄に水を与えた。
【0084】
ディファレンシャルスクーリーニングを、Seoら(Science, vol.270, 1995)に記載されるように行った。簡単には、TMV(10μg/ml)で感染し、30℃から20℃に温度シフトした3時間後または52時間後に採集した葉からポリ(A)+RNAを単離した。これらのポリ(A)+RNAから、放射標識した1本鎖cDNAプローブを2種類(プラスプローブ(温度シフト3時間後のポリ(A)+RNAから調製)およびマイナスプローブ(温度シフト52時間後のポリ(A)+RNAから調製))合成した。次いで、プラスプローブの合成について使用したポリ(A)+RNAから常法により調製したcDNAライブラリーに対して、これらの2種類のプローブを用いて、ディファレンシャルスクリーニングを行った。その結果、6つのクローンがプラスプローブにのみハイブリダイズすることが見出された。1つのcDNAをDS9と名付けた。このcDNAを、製造業者(Stratagene)の使用説明書にしたがって、R408ヘルパーファージで切り出し、そして再び環化させてpBluescript SKファージミドベクターにサブクローニングした。
【0085】
DS9の両方の鎖を、373A型 DNAシーケンサー(Applied Biosystems)を用いてダイデオキシチェーンターミネーション法により配列決定した。核酸およびアミノ酸配列を、GENE WORKSソフトウエアシステム(IntelliGenetics)を用いて解析した。
【0086】
DS9 cDNAによりコードされるアミノ酸配列は、ATP依存性Zn型メタロプロテアーゼである、大腸菌のFtsH、酵母のOsd1p、シロイヌナズナのArFtsH、およびレッドペパーのPftfのアミノ酸配列と、それぞれ、40%、30%、79%および42%の相同性を示し、特にATPaseの保存性領域において高かった。DS9は、他のATP依存性Zn型メタロプロテアーゼと同様に、N末端側の膜を貫通すると考えられる疎水性領域、および中央部のATPase領域、C末端側のZn2+結合モチーフが存在した(図1)。
【0087】
(実施例2:細菌における組換えGST-DS9タンパク質の発現)
GST-DS9融合遺伝子を作製するために、DS9コード領域(配列表の配列番号411~2240)を、プライマー:5’-ACGTGGATCCTTGAATGCTGTGAAAAAGGGTA-3’および5’-ACGTGAATTCTTATGCCTATTTCTCTTGCATC-3’を用いてPCRにより増幅した。BamHI-EcoRI断片をpGEX-2T(Pharmacia; Smith および Johnson, Gene, 67, 31(1988))のBamHI部位およびEcoRI部位にサブクローニングして、GSTタンパク質のC末端に融合した。得られた構築物(pGEX-DS9)をGST領域とDS9領域との間の接合部位周辺を配列決定して、それぞれのコード領域がインフレームで接合されていることを確認した。ほとんど全てのGST-DS9融合遺伝子がE.coliにおいて不溶性タンパク質として産生されたので、タンパク質を以下の手順のようにして不溶性画分から精製した。pGEX-DS9を、0.4mM IPTGとともに、12時間インキュベートすることによりE.coli株 JM109(Stratagene)において発現させた。細胞をペレット化し、洗浄し、そして緩衝液A(20mM Tris-HCl, pH 8.0, 30mM NaCl, 10mM EDTA, 2mM フェニルメタンスルホニルフルオリド(PMSF))中に懸濁した。10分の1容量のリゾチーム(緩衝液A中の20mg/ml)を加えた後、懸濁液を1時間氷上でインキュベートし、そして大腸菌を超音波により破砕した。不溶性画分を6,000×g、10分間、4℃での遠心分離により回収し、緩衝液B(20mM Tris-HCl, pH7.5, 30mM NaCl)で3回洗浄した。次いで、不溶性画分を8,000×g、10分間、4℃での遠心分離により回収し、そして10mM EDTA(pH8.0)中に再懸濁した。最終濃度が6.22Mになるように、8M グアニジン-HCl(pH8.3)を添加した後、溶解物を、12,000×g、30分間、4℃での遠心分離に供した。上清を、最初に緩衝液C(2M グアニジン-HCl, 0.2mM EDTA, pH 8.0, 5mM β-メルカプトエタノール)に対して2時間、4℃にて透析し、次いで、緩衝液D(20mM Tris-HCl, pH 7.5, 100mM NaCl, 0.5mM EDTA, 5mM EDTA, 5mM β-メルカプトエタノール)に対して4時間以上、4℃にて透析した。100,000×g、30分間、4℃での遠心分離による回収後、SmithおよびJohnsonら(前出の文献)の方法に従って、グルタチオン-アガロースビーズを用いる親和精製に供した。タンパク質濃度は、Coomassie dye-based protein assay kit(Bio-Rad)により決定した。
【0088】
(実施例3:ATPase活性のアッセイ)
DS9がATPase活性を有するか否かを調べるために、37℃でArmonら(The Journal of Biological Chemistry, 265, 20723(1990))により記載されるようにATPase活性の測定を行った。ATP加水分解をアッセイするための、25μlの反応混合物以下の成分を含んだ:50mM Tris-HCl(pH7.6), 5mM MgCl, 2mM ジチオスレイトール(DTT),1mM ATP, 1mM [α-32P]ATP(約148TBq/mmol;ICN Biomedicals Inc.)および6μg/ml GST-DS9タンパク質を含んだ。放射活性を、チェレンコフ放射によって常法により測定した。
【0089】
結果を図2に示す。大腸菌内で発現させた組換えDS9タンパク質は、ATPase活性を有することが示された。
【0090】
(実施例4:TMV感染NNタバコにおける温度シフト後のDS9転写レベルの変動)
TMV感染NNタバコにおける温度シフト後のDS9の転写レベルの変動を調べるために、ノザン解析を行った。
【0091】
タバコ(N. tabacum cv. Samsun NN)の葉を、実施例1に記載のようにTMVで感染し、30℃で40時間培養した後、20℃への温度シフトを行った。また、TMVで感染せず、傷のみをつけたタバコの葉をコントロールとして用いた(模似)。
【0092】
20℃に温度シフトした後、0、1、3、4、8および24時間目の葉を回収し、全RNAを、Seoら(前出の文献)の方法に従ってそれぞれ調製した。
【0093】
DS9 cDNAについてはcDNAの3’非コード領域に対応する部分DNA断片を、プローブとして用いた。
【0094】
感染時特異的に発現する酸性タンパク質PR-1をコードするcDNAおよび塩基性タンパク質PR-1をコードするcDNAを、コントロールプローブとして用いた。酸性タンパク質PR-1をコードするcDNAプローブは、Matsuokaら(Plant Physiology, 85, 942(1987))に従い、プライマーA、5’-TACTAATTGAAACGACCTACGTCC-3’;プライマーB、5’-ATAATAATATCTGATCATACATCAAGC-3’を用いて常法によりPCRを行って合成した。また、塩基性PR-1タンパク質(Eyalら、Plant Molecular Biology 19, 589(1992))をコードするcDNAは、報告されている配列データから設計した合成プライマー(プライマーA、5’-ATCCCTTTGATTCCAAGGTTGG-3’;プライマーB、5’-CAAAACACATACATATACACACCTCC-3’)を用いて、常法によりPCRを行って合成した。
【0095】
ノザンハイブリダイゼーションを、Seoら(前出の文献)に記載されるように行った。各ブロットをXARフィルム(Kodak)に、Intensyfying Screen(Kodak)を用いて、-80℃にて48時間、露光した。DS9転写産物の相対的な強度をNIH Image 1.61(National Institute of Health)プログラムを用いて決定した。
【0096】
結果を図3に示す。HRが生じるまでの間に、DS9遺伝子の転写が抑制されていることが見出された。TMV感染した葉においては、30℃から20℃への温度シフト後1時間以内に、DS9 mRNAの発現レベルが減少した。さらに、温度シフト後8時間目には、DS9 mRNAの発現は検出されなかった。一方、模似感染した葉は、DS9遺伝子の転写は一定であり、抑制されなかった。
【0097】
(実施例5:抗DS9タンパク質抗体の産生)
抗体産生のために、2匹のウサギに、実施例2で得た組換えタンパク質(400μg/ウサギ)を腹腔内注射した。7日間の間にさらに3回の注射を行った(各100μg/ウサギ)。抗血清を、最後の注射の2週間後に得、そして免疫グロブリン画分をProtein A-sepharoseカラム(Pharmacia)におけるクロマトグラフィーにより精製した。抗DS9抗体を含有する画分を、PBS(20mM KHPO, 140mM NaCl, pH7.4)に対して透析した。抗体を、画分化したE.coliの全タンパク質を含むイムノブロットに対する、DS9タンパク質との交差反応性について試験した。
【0098】
(実施例6:TMV感染NNタバコにおける温度シフト後のDS9タンパク質量の変動)
TMV感染NNタバコにおける温度シフト後のDS9タンパク質量の変動を調べるために、ウエスタンブロッティングを行った。
【0099】
タバコ(N. tabacum cv. Samsun NN)の葉を、実施例1に記載のようにTMVで感染し、30℃で40時間培養した後、20℃への温度シフトを行った。また、TMVで感染せず、傷のみをつけたものをコントロールとして用いた(模似)。
【0100】
20℃に温度シフトした後、0、3、4、6時間目(模似については、0および6時間目)、の葉を回収した。回収した葉から常法により得たタンパク質サンプルを、8% SDS-ポリアクリルアミドゲルにより分離し、そして25mM Tris、192mM グリシン、および20% メタノールを含有する溶液中で、Immobilon membrane(Millipore)に移した。TBST(20mM Tris-HCl, pH7.5, 150mM NaCl)中の2% BSAでブロッキングした後、メンブレンを実施例5で調製した抗DS9抗体(1:3000希釈)とともに1時間、インキュベートした。メンブレンを0.05%Tween20を含むTBSで大量に洗浄し、そしてアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗ウサギIgG(Organon Teknika Corp., Durham)(1:2000希釈)とともに、30分間、インキュベートした。反応を基質としてテトラゾリウム-5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸の加水分解により可視化した。DS9タンパク質の相対的な強度をNIH Image 1.61(National Institute of Health)プログラムを用いて決定した。
【0101】
結果を図4に示す。20℃への温度シフト後、4および6時間目で、TMV感染した葉におけるDS9のタンパク質量は、それぞれ、78%および62%まで減少した。DS9タンパク質量はHR進行時に特異的に減少することが示された。
【0102】
(実施例7:AMDおよび熱処理後のTMV感染NNタバコにおける、DS9の転写レベルおよびタンパク質の変動)
試薬処理の前に、タバコの葉を分離してTMV(リン酸緩衝液(pH7.0)中の8μg/ml)で接種するか、または模似(緩衝液のみ)接種し、30℃で、40時間、インキュベートした。インキュベーション後、葉の葉柄を0.5mlの阻害剤溶液を含有するバイアルにおいた。AMD処理については、AMD(Sigma Chemical Co., St Louis, MO, USA)を、10%(v/v)メタノール水溶液として使用した。溶液を葉柄から吸収させ、そして1時間以内に滅菌水をバイアルに加えた。熱処理については、50℃で2分間処理することにより、TMV感染NNタバコに熱ショックを与えた。次いで処理した葉を、それぞれ、30℃にてさらにインキュベートした。ノザン解析およびウェスタンブロット解析は、実施例4および6に記載の方法と同様に行った。また、水処理したものコントロールとして用いた。
【0103】
結果を図5に示す。HRを誘発することが知られているAMDおよび熱処理により、TMV感染NNタバコのDS9の転写レベルおよびタンパク質量が非常に減少されることが示された。
【0104】
(実施例8:壊死病斑形成の誘導における各種プロテアーゼ阻害剤の効果)
セリンプロテアーゼ阻害剤としてAPMSF、Aprotininおよび3,4-Dを、システインプロテアーゼ阻害剤としてE-64を、メタロプロテアーゼ阻害剤としてEDTAを、ならびにセリン/システインプロテアーゼ阻害剤としてロイペプチンを用いた。各阻害剤は、以下のように調製した。
【0105】
EDTA(Wako Pure Chemicals. Ind. (Osaka, Japan)は、NaOHでpH8.0に調製した水性溶液として使用した。
【0106】
E-64は、メタノール/水(1:1, v/v)中の50mM E-64(Boehringer Mannheim, Germany)をストック溶液として使用し、続いて水中で希釈して示した濃度にした。
【0107】
3,4-Dは、ジメチルスルホキシド中の50mM 3,4-D(Boehringer Mannheim, Germany)をストック溶液として使用し、続いて水中で希釈して示した濃度にした。
【0108】
ロイペプチンおよびAPMSPは、水溶液として使用した。
【0109】
この実施例において、EDTAは、1mM、10mMおよび50mMの濃度で使用し、他の阻害剤は、0.01mM、0.1mMおよび1mMの濃度で使用した。
【0110】
試薬処理の前に、タバコの葉を分離してTMV(リン酸緩衝液(pH7.0)中の8μg/ml)で接種するか、または模似(緩衝液のみ)接種し、30℃で、40時間、インキュベートした。インキュベーション後、葉柄を0.5mlの阻害剤溶液を含有するバイアルにおいた。溶液を葉柄から吸収させ、そして1時間以内に滅菌水をバイアルに加えた。次いで処理した葉を、30℃にて、さらにインキュベートした。結果を表2に示す。
【0111】
【表2】
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【0112】
EDTAで処理した場合に、壊死病斑が誘導された。さらに、N遺伝子を保持しないnnタバコにおいて、同様の病斑形成が観察された。また、他の各種プロテアーゼ阻害剤を用いた場合、壊死病斑は観察されなかった。これらの結果から、DS9タンパク質を含む少なくとも植物のメタロプロテアーゼ活性が阻害されると、細胞死が誘導されることが示される。
【0113】
(実施例9:DS9の細胞内の局在場所)
(9-1)免疫電子顕微鏡による実験
免疫電子顕微鏡研究を、葉を1×1mm片に切断し、そして減圧条件下、カコジル酸ナトリウム(pH7.4)中の0.1%グルタルアルデヒドよび4%パラホルムアルデヒドで固定した以外は、基本的には、SuzukiおよびKataoka(Journal of Histochemistry, 40,379(1992))、ならびにTomoyasuら(Journal of Bacteriology, 175, 1352(1993))に記載されるように行った。次いで、-20℃でLR White樹脂(The London Resin Co., London)中に包埋した組織を超ミクロトームで切断した。切片を抗DS9抗体(1:250希釈)とともにインキュベートし、次いで10nm 金結合ヤギ抗ウサギIgG(1:100希釈、Biocell Research Laboratories, Cardiff)と、30分間、37℃で反応させた。免疫標識化した後、切片を酢酸ウラニルで染色した。
【0114】
細胞化学的コントロールとして、標本を前血清(非免疫ウサギIgG)とともにインキュベートするか、または標識化プロセスを省略した一次抗体とともにインキュベートした。極薄の凍結切片を用いる免疫電子顕微鏡のために、Tokuyasu(Histochemical Journal, 21, 163, 1989)に記載される方法を用いて、固定化した組織のいくつかの小片に、20% ポリビニルピロリドン(分子量10,000:Sigma)および1.6M スクロースの混合物をを侵入させ、液体プロパン中で凍結させた。そして、これを低温切片化(cryo-sectioned)した。上述のLR Whiteで包埋したサンプルについてと同じ手順によりイムノゴールド標識し、そしてポリビニルアルコール(分子量10,000;Sigma)で吸着染色させた。サンプルを、透過型電子顕微鏡(H-7100、Hitachi, Japan)により観察した。
【0115】
(9-2)金粒子の画像化による実験
電子顕微鏡写真のネガを平盤型スキャナー(GT-9000、Epson;1800dpi)により数値化し、そしてTIFFフォーマットに保存した。コントラストを増強するために、Fukui(Theoretical and Applied Genetics, 72, 27(1986))の方法に従って、数値化した画像をAdobe Photoshop ver.3.0(Adobe Systems, Incorp.)により標準化した。核、葉緑体、ミトコンドリア、およびミクロソームの境界を各電子顕微鏡写真についてトレースし、そしてオルガネラの面積を数値化して計算した。次いで、金粒子の数をオルガネラのそれぞれについて視覚的にカウントした。
【0116】
これらの結果から、DS9が葉緑体に局在して存在することが示された(図6を参照)。
【0117】
(実施例10:EDTAおよびDCMU処置によるHRの誘発)
メタロプロテアーゼ阻害剤であるEDTA、および光化学系II(PSII)における電子伝達の阻害剤であるDCMU(3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア)(DCMU(Sigma Chemical Co., St Louis, MO, USA)を用いて、実施例8に記載のように、NNタバコおよびnnタバコを用いて、阻害剤処理を行った。EDTAは実施例8に記載のように調製し、およびDCMUはメタノール溶液として調製した。阻害剤の濃度は、EDTAおよびDCMUについて、それぞれ、5mMおよび100mMであった。処理した葉を、30℃にて、さらにインキュベートした後、壊死病斑の形成、HRタンパク質のマーカー遺伝子であるPR-1タンパク質の発現、およびHRのマーカーとして知られているサリチル酸の蓄積を調べた。PR遺伝子の発現については、実施例4に記載のようにノザン解析を行った。また、サリチル酸の定量については、以下のように行った。
【0118】
遊離サリチル酸を、Malamyら(The Plant Cell, 4 ,359(1992))により記載されるようにして、抽出および定量した。HPLC分析を、40℃に維持したμBondasphere、5-μm C-18(3.9mm×15cm)カラムに対して行った。Isocratic分離を、20mM 酢酸ナトリウム(pH5.0)中の23%(v/v)メタノールを用いて行った。蛍光検出を、Model RF-550A(Shimazu, Japan)を用いて1m/分で行った。全てのデータを、lossについて補正した。結果を図7、8および9に示す。NNタバコおよびnnタバコの両方において、EDTAおよびDCMUの両方が、それぞれ、HRを誘発し、メタロプロテアーゼの阻害および葉緑体の機能の低下により、HRが誘発されることが示された。
【0119】
(実施例11:HR誘発時の葉緑体の機能)
HR誘発時に葉緑体の機能の低下を、PSII活性を指標にして測定した。
【0120】
クロロフィル蛍光導入の動力学をpulse amplitude modulation fluorimeter(PAM-2000, Heinz Walz, Germany)を用いて測定した。TMV感染は、実施例1に記載のように行った。葉サンプルを葉表面に対して60℃の角度に保ち、そして葉の半分を化学光(600μE/m/s)に曝露した。蛍光導入の動力学を、Data Acquisition Software(DA-2000, Heinz Walz)をインストールした携帯用コンピューターに記録した。結果を図10に示す。TMVで感染したNNタバコの葉におけるPSII活性は、30℃での培養のみでは低下しなかった。しかし、20℃に温度シフトした後4時間目から、PSII活性は低下し始めた。この時間はDS9タンパク質量が減少する時間に一致する。この結果から、葉緑体の機能の低下は、DS9タンパク質量の減少と相関することが示された。
【0121】
(実施例12:トランスジェニック植物の作出)
DS9コード領域(配列番号1の21~2240位)を、プライマーA、5’-ACTATGGCCAATTCTCTCCTCTC-3’およびプライマーB、5’-TTATGCCTATTTCTCTTGCATC-3’を用いてPCRにより増幅した。
【0122】
センス構築物については、プライマーAおよびBの5’末端それぞれにBamHIおよびSacI部位を連結した。アンチセンス構築物については、プライマーAおよびBの5’末端それぞれにSacIおよびBamHI部位を連結した。
【0123】
PCR産物を、DNA配列決定により確認した。このPCR産物をBamHIおよびSacIで消化し、次いで、CaMV 35Sプロモーターに対してセンス方向およびアンチセンス方向に、予めBamHIおよびSacIで消化したバイナリーベクターpBI121(Clonetech)に連結した。センスおよびアンチセンスDS9発現構築物を、Agrobacterium tumefaciens LBA4404(Oomsら、Gene, 14, 33(1981))にエレクトロポレーション(Wen-JunおよびForde、Nucleic Acid Research, 17, 8385(1989))により導入した。Samsun NNタバコの形質転換を、葉片共存培養法(Horschら、Science, 227, 1229(1985))により行った。葉片を、細菌溶液中に浸し、次いで、ナフタレン酢酸(100μg/L)およびベンゾアミノプリン(1mg/L)を含有するインキュベーション培地(3%スクロースおよびB5ビタミンを有するMurashige-Skoog(MS)基本培地)に、2日間、25℃、白色蛍光灯の連続的な照射下、120μE/m/sの強度でおいた。次いで、この葉片を500mg/mlカルベニシリンをさらに含有した上述のインキュベーショ培地に移した。2日後、葉片を選択培地(500μg/mlカルベニシリンおよび100μg/mlカナマイシンを含有するインキュベーション培地)に移した。センスDS9遺伝子を発現する形質転換体の作出については、葉片を含むプレートを25℃、16時間の日長下、120μE/m/sの強度でインキュベートした。アンチセンスDS9遺伝子を発現する形質転換体の作出については、インキュベーションを、25℃、24時間の日長下、10μE/m/sの強度で行った。カナマイシンを含有する培地中で形成されたシュートを、ホルモンを減少させた選択培地に移した。根形成後、植物を土の入ったポットに移した。
【0124】
(実施例13:トランスジェニック植物における細胞死調節の解析)
(TMV感染)
実施例12により得られた、DS9 cDNAをセンスまたはアンチセンスで発現させたトランスジェニックタバコの自殖次世代の系統(センス植物;S1、S4、S5、S6、S9;アンチセンス植物;A9、A12)を用いて、実施例6に記載のようにウエスタンブロット解析を行い、タンパク質量を調べた(図11)。また、各系統を実施例1に記載のようにTMVで感染し、感染に対する病斑の大きさの変化を観察した(図12および13)。いずれの実験も、コントロールとして野生型タバコを用いた。
【0125】
野生型タバコの2倍のDS9タンパク質量を有するセンス系統(S6)では、壊死病斑の大きさが野生型の2倍に達した。一方、野生型タバコの半分のタンパク質量を有するアンチセンス系統(A9)では、壊死病斑の大きさ(すなわち、細胞死)は、野生型の約半分であった。壊死病斑が小さいことは、細胞死が速やかに生じ(すなわち、促進され)、感染した菌の広がりを阻止していることを示す。この結果から、DS9タンパク質量が少ない細胞においては、細胞死が促進され、タンパク質量が多い細胞においては、細胞死が抑制されることが示された。また、DS9 cDNAをアンチセンスで発現させたトランスジェニックタバコは、TMV感染に対する抵抗性が増強されたことが明らかである。
【0126】
(キュウリ立ち枯れ病菌感染)
カナマイシン50μg/mlを含む寒天培地に、A9(実施例12により得られた、DS9 cDNAをアンチセンスで発現させたトランスジェニックタバコ)の自殖次世代の系統の種子、およびコントロールとして35S-GUSを導入したタバコの種子を、MS寒天培地(Murashige,T.およびSkoog,F. (1962) A reversed medium for rapid grouth and bioassays with tobacco tissue cultures. Physiologia Plantarum 15巻 473-497頁を参照)を含む直径9cmのシャーレに播種した。キュウリ苗立ち枯れ病菌をPDA培地(39g/l Bacto(登録商標)Poteto Dextrose Agar)で5日間、25℃で前培養した。次いで、播種の7日目の芽生え、それぞれ30個体に、前培養により得られる菌そうを3mm角に切り取り、シャーレ当たり1片を寒天上に置くことにより、菌を接種して、これを25℃に保温した。接種後7日目に緑色を示して生存している個体を抵抗性植物体とした。結果を図14に示す。7日目の生存率は、A9植物が63%(30個体中の19個体)およびコントロール植物が0%(30個体中の0個体)であった。
【0127】
DS9 cDNAをアンチセンスで発現させたトランスジェニックタバコは、キュウリ立ち枯れ病菌に対して抵抗性を示した。
【0128】
(実施例14:トランスジェニック植物におけるパラコート(商品名)耐性)
パラコートは、クロロプラスト中でスーパーオキシドを発生する除草剤である。S4トランスジェニック植物(実施例12により得られたDS9 cDNAをセンスで発現させたトランスジェニックタバコ)および野生型タバコ(コントロール)を、温室において生長させた。次いで、0、10、および20μMのパラコート溶液中に円形に切り取ったタバコ葉片を浸漬し、25℃、5000luxにて45時間処理した。結果を図15に示す。野生型タバコでは、10μMの濃度におけるパラコート処理において、重度の白変化が生じたのに対して、S4トランスジェニック植物では、20μMの濃度におけるパラコート処理後も緑色を示し、葉緑体の分解が顕著に抑制された。
【0129】
DS9 cDNAをセンスで発現させたトランスジェニックタバコは、パラコートに対して抵抗性を示した。
【0130】
【発明の効果】
本発明により、細胞死調節遺伝子の発現レベルを調節することにより細胞死を調節する方法が提供される。さらに、細胞死を調節することにより、様々な環境ストレスに対して、植物に抵抗性を付与する方法が提供され、農業上および育種上有用な植物が作出され得る。また、DS9関連遺伝子の選択的な阻害剤をスクリーニングする方法が提供される。
【0131】
【配列表】
【0132】
【配列番号:1】
JP0003586706B2_000004t.gifJP0003586706B2_000005t.gifJP0003586706B2_000006t.gifJP0003586706B2_000007t.gifJP0003586706B2_000008t.gifJP0003586706B2_000009t.gif
【0133】
【配列番号:2】
JP0003586706B2_000010t.gifJP0003586706B2_000011t.gifJP0003586706B2_000012t.gifJP0003586706B2_000013t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】DS9と他のATP依存性Zn型メタロプロテアーゼとの構造比較を示す模式図である。DS9は、他のATP依存性Zn型メタロプロテアーゼと同様に、N末端側の膜を貫通すると考えられる疎水性領域、および中央部のATPase領域、ならびにC末端側のZn2+結合モチーフが存在した。
【図2】GST-DS9融合タンパク質のMg2+依存性のATPase活性を示す図である。
【図3】TMV感染NNタバコにおける、30℃から20℃への温度シフト後のDS9の転写の変動を示したノザン解析の結果を示す電気泳動写真である。変動のコントロールとして、傷をつけたのみの葉(模似)を用いた。発現のコントロールとしてrRNAを用いた。そしてHRの指標を示すコントロールとして感染時特異的に発現するPR-1を用いた。また、上部の各数字は30℃から20℃への温度シフト後の時間を示す。
【図4】TMV感染NNタバコにおける、30℃から20℃への温度シフト後のDS9タンパク質量の変動を示したウエスタンブロット解析の結果を示す電気泳動写真である。変動のコントロールとして、傷をつけたのみの葉(模似)を用いた。抗体として、抗DS9抗体を用いた。また、上部の各数字は30℃から20℃への温度シフト後の時間を示す。また、下部の各数字は、模似の感染後0時間目のタンパク質量を100%としたときの、各時間におけるタンパク質量を示す。
【図5】AMDおよび熱処理後のTMV感染NNタバコにおける、DS9の転写レベルおよびタンパク質の変動を示したノザン解析およびウエスタンブロット解析の結果を示す電気泳動写真である。
【図6】DS9が葉緑体に局在して存在することが示す電子顕微鏡写真である。図6Aは、抗DS9抗体および10nm金粒子結合抗ウサギIgGで処理した葉肉細胞におけるDS9タンパク質の局在を示す電子顕微鏡写真である。横棒は1μmを示す。図6Bは、図6Aの高倍率の電子顕微鏡写真である。横棒は0.1μmを示す。図6Cは、前血清(コントロール)および10nmの金粒子結合抗ウサギIgGで処理した葉肉細胞の電子顕微鏡写真である。横棒は0.1μmを示す。図6Dは、抗DS9抗体および10nm金粒子結合抗ウサギIgGで処理した葉肉細胞の凍結切片におけるDS9タンパク質の局在を示す電子顕微鏡写真である。横棒は0.1μmを示す。
【図7】TMV感染タバコ(NNおよびnn)を、30℃で40時間培養し、メタロプロテイン阻害剤(EDTA)および葉緑体電子伝達系阻害剤(DCMU)処理して、さらに30℃で培養した24時間後の壊死病斑の程度を示す生物の形態を示す写真である。
【図8】TMV感染タバコ(NNおよびnn)を、30℃で40時間培養し、メタロプロテイン阻害剤(EDTA)および葉緑体電子伝達系阻害剤(DCMU)処理して、さらに30℃で培養した24時間後のPR-1の発現レベルの程度を示したノザン解析の結果を示す電気泳動写真である。
【図9】TMV感染タバコ(NNおよびnn)を、30℃で40時間培養し、メタロプロテイン阻害剤(EDTA)および葉緑体電子伝達系阻害剤(DCMU)処理して、さらに30℃で培養した24時間後のサリチル酸量を示す図である。
【図10】HR誘発時に葉緑体の機能が低下することを、PSII活性を指標にして測定した図である。
【図11】DS9遺伝子を、センス(S)およびアンチセンス(A)で導入したトランスジェニックタバコにおけるDS9タンパク質量を示すウエスタンブロット解析の結果を示す電気泳動写真である。抗体として抗DS9抗体を用いた。タンパク質量のコントロールとして、野生型タバコを用いた。
【図12】DS9遺伝子を、センス(S)およびアンチセンス(A)で導入したトランスジェニックタバコにおけるTMV接種5日後の壊死病斑の直径を示すグラフである。コントロールとして、野生型タバコを用いた。
【図13】DS9遺伝子を、センス(S)およびアンチセンス(A)で導入したトランスジェニックタバコ(A9およびS6)における、TMV感染後5日目の壊死病斑形成の程度を示す生物の形態を示す写真である。壊死病斑形成の程度のコントロールとして、野生型タバコを用いた。
【図14】DS9遺伝子を、アンチセンスで導入したトランスジェニックタバコ(A9)における、キュウリ立ち枯れ病菌感染後7日目の生物の形態を示す写真である。コントロールとして、35S-GUSを導入したトランスジェニックタバコを用いた。
【図15】DS9遺伝子を、センスで導入したトランスジェニックタバコ(S4)における、パラコート処理後の生物の形態を示す写真である。コントロールとして、野生型タバコ(WT)を用いた。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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