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明細書 :タンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4388392号 (P4388392)
公開番号 特開2005-245228 (P2005-245228A)
登録日 平成21年10月9日(2009.10.9)
発行日 平成21年12月24日(2009.12.24)
公開日 平成17年9月15日(2005.9.15)
発明の名称または考案の名称 タンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
FI C12N 5/00 C
C12N 15/00 ZNAA
C12P 21/02 C
請求項の数または発明の数 14
全頁数 19
出願番号 特願2004-056912 (P2004-056912)
出願日 平成16年3月1日(2004.3.1)
審判番号 不服 2006-004428(P2006-004428/J1)
審査請求日 平成16年9月29日(2004.9.29)
審判請求日 平成18年3月9日(2006.3.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】森 正之
【氏名】土肥 浩二
【氏名】石川 雅之
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
参考文献・文献 特開2005-110594(JP,A)
新名惇彦他監修,植物代謝工学ハンドブック,2002年,p.236-243
Transgenic Research,2003,Vol.12,p.529-540
調査した分野 C12N15/00
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus(JDREAM)
特許請求の範囲 【請求項1】
ホルモンによって活性化される性質を有する転写因子をコードする遺伝子と転写因子発現用プロモーターとが連結されてなる転写因子発現用DNA断片を植物由来培養細胞に導入する第一形質転換工程と、
前記第一形質転換工程によって得られた植物由来培養細胞の中から前記転写因子を発現する植物由来培養細胞を選抜する選抜工程と、
植物のサイレンシングを抑制する因子を持つ植物ウイルス由来の、RNAを遺伝子とするウイルスに任意のタンパク質をコードする遺伝子を挿入したウイルスベクターのcDNAと、上記転写因子で転写誘導される転写誘導型プロモーターとが連結されてなるタンパク質発現用DNA断片を、前記選抜工程によって選抜された植物由来培養細胞に導入する第二形質転換工程とからなることを特徴とするタンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法。
【請求項2】
上記転写因子がエストロジェンレセプターを含むことを特徴とする請求項1に記載のタンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法。
【請求項3】
上記ホルモンが、エストロジェン、ステロイドホルモンまたはエクジソンであることを特徴とする請求項1または2に記載のタンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法。
【請求項4】
上記エストロジェンで活性化される性質を有する転写因子としてLexA-VP16-hERを用い、上記転写誘導型プロモーターとしてOLexA-46を用いることを特徴とする請求項3に記載のタンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法。
【請求項5】
上記ウイルスは、ポティ属ウイルス、ククモウイルス属ウイルス、ポテックスウイルス属ウイルス、トンブスウイルス属ウイルス、カルモウイルス属ウイルス、トバモウイルス属ウイルスからなる群より選択されるウイルスのいずれかであることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載のタンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法。
【請求項6】
上記ウイルスベクターが、トバモウイルス属に属するウイルス由来であることを特徴とする請求項に記載のタンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法。
【請求項7】
上記ウイルスベクターが、トマトモザイクウイルスベクターまたはタバコモザイクウイルスベクターであることを特徴とする請求項に記載のタンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法。
【請求項8】
上記ウイルスベクターのcDNAの3’末端に、上記任意のタンパク質をコードする遺伝子を挿入したウイルスベクターのcDNAから転写されたウイルスRNAの3’末端に付加された余分な配列を切断するリボザイム配列が結合していることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載のタンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法。
【請求項9】
上記余分な配列とは、ターミネーター由来の配列またはポリA配列であることを特徴とする請求項に記載のタンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法。
【請求項10】
上記リボザイム配列が、肝炎デルタウイルスのリボザイム配列、またはサテライトタバコリングスポットウイルスのリボザイム配列であることを特徴とする請求項またはに記載のタンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法。
【請求項11】
上記任意のタンパク質をコードする遺伝子が、上記ウイルスの外被タンパク質をコードする遺伝子と置換されていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載のタンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法。
【請求項12】
上記転写因子発現用DNA断片、および上記タンパク質発現用DNA断片が、アグロバクテリウム法により導入されていることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載のタンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法。
【請求項13】
上記植物由来培養細胞がタバコ由来細胞であることを特徴とする請求項に記載のタンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法。
【請求項14】
上記タバコ由来細胞がタバコBY2細胞であることを特徴とする請求項13に記載のタンパク質生産用植物由来培養細胞の生産方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質生産に用いる形質転換体であって、任意のタンパク質をコードする遺伝子が挿入されたウイルスベクターを誘導発現する形質転換体を高確率に生産する方法、および当該生産方法によって生産されたタンパク質生産用形質転換体、並びにその利用の一例に関するものである。
【0002】
より具体的には、転写因子発現用DNA断片を導入する第一形質転換工程と、前記工程によって得られた形質転換体の中から転写因子を発現する形質転換体を選抜する選抜工程と、タンパク質発現用DNA断片を前記選抜工程によって得られた形質転換体に導入する第二形質転換工程とからなるタンパク質生産用形質転換体の生産方法、および当該生産方法によって生産されたタンパク質生産用形質転換体、並びに上記タンパク質生産用形質転換体を用いたタンパク質の生産方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、植物を食糧のみならず医薬品をはじめとする有用タンパク質の生産工場として利用することを目指し、開発が進められている。このような試みは、分子農業と呼ばれ次世代農業として期待されている。
【0004】
現在植物における有用タンパク質の生産は、形質転換植物(植物細胞)を用いる方法(例えば非特許文献1参照)と、ウイルスベクターを植物に感染させる方法のいずれかで行われている(例えば非特許文献2参照)。前者は植物を栽培するだけで生産が可能であり、大規模化に適しているが、1細胞あたりの生産効率は著しく低い。一方、後者は前者に比べ高い生産効率を得ることができるが、接種作業およびウイルスの外界への飛散等が大規模化に際しての問題点となっている。
【0005】
本発明者らは、上記両者の利点、すなわち大規模生産能力・高い生産効率および安全性を併せ持つ新しいタンパク質合成系(高効率mRNA誘導増幅系)を開発した。この高効率mRNA誘導増幅系の特徴は、ウイルスの複製酵素遺伝子と、それにより増幅される有用タンパク質遺伝子とを、共に植物の染色体に組み込むことであり、さらに、その組み換え植物での複製酵素の発現を制御することにより、有用タンパク質の合成を制御する点である(非特許文献3参照)。
【0006】
さらに、本発明者らは、植物のサイレンシング反応に対するサプレッサーを持つウイルスを利用することにより、上記高効率mRNA誘導増幅系のmRNAの増幅効率を向上させることに成功した(非特許文献4および5参照)。
【0007】
また本発明者らは、上記高効率mRNA誘導増幅系において、ウイルスcDNAの3’末端にリボザイム配列を組み込みんだ結果、リボザイム配列無しの場合に比べてウイルスRNA増殖が顕著に増加することを発見した(例えば非特許文献5)。

【非特許文献1】Glynis Giddings, Gordon Allison, Douglas Brooks & Adrian Carter. Transgenic plants as factories for biopharmaceuticals. Nature Biotechnology 2000,18: 1151-1155.
【非特許文献2】Pogue GP, Lindbo JA, Garger SJ, Fitzmaurice WP Making an ally from an enemy: Plant virology and the new agriculture. Annu Rev Phytopathol. 2002, 40: 45-74.
【非特許文献3】Mori, M., Fujihara, N., Mise, K. and Furusawa, I. (2001) Inducible high-level mRNA amplification system by viral replicase in transgenic plants. Plant J 27(1), 79-86.
【非特許文献4】石川県農業短期大学附属農業資源研究所平成13年度年報 No.10 2001、p.14-15.(発行日:平成14年9月25日)
【非特許文献5】石川県農業短期大学附属農業資源研究所平成14年度年報 No.11 2002、p.14-15.(発行日:平成15年12月26日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者等が開発した上記高効率mRNA増幅系を用いた外来タンパク質の生産方法は、上述のとおり外来タンパク質を高効率・安価・安全に生産するための優れた手段である。
【0009】
しかし、形質転換体(細胞)を生産(作出)するにあたり、得られた形質転換体(細胞)のラインによって、ウイルスベクターの発現量および外来タンパクの発現量が大きく異なる場合が多い。この発現量の違いは、導入した転写因子をコードする遺伝子、およびウイルスベクターをコードする遺伝子が、染色体上のどの位置に組み込まれるかに起因するものであると考えられた。すなわち従来のウイルスベクターの導入方法は、ウイルスベクターと転写因子をコードする遺伝子を同一ベクター上で連結し、同時に宿主細胞へ導入していた。したがって、ウイルスベクターと転写因子をコードする遺伝子は、染色体上の同一の位置に組み込まれることとなる。しかしこのとき、ウイルスベクターの発現に好適な染色体上の位置と転写因子の発現に好適な染色体上の位置とが一致しているとは限らず、例えばウイルスベクターの発現には好適な染色体上の位置に組み込まれていながら転写因子の発現には好適でない場合や、逆に転写因子の発現には好適であるがウイルスベクターの発現には好適でない場合が起こりうる。かかる場合には、形質転換体(細胞)であってもウイルスベクターの誘導発現の効率が低く、外来の目的タンパク質の発現量も低くなってしまう。また、導入したベクターが染色体上のどこに組み込まれるかは、現在のところ全くの偶然によるほかはない。かかる事情によって、ウイルスベクターの発現効率・目的タンパク質の発現効率が高い形質転換体(細胞)が得られる確率は非常に低く、所望の形質転換体(細胞)ラインを選抜するためには、多数の形質転換体(細胞)からスクリーニングする必要があった。それゆえ、上記高効率mRNA増幅系を用いてタンパク質の生産を行なうためには、多大な時間と労力が必要であった。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高効率でウイルスベクターを誘導発現し、目的タンパク質を高発現する形質転換体(細胞)を高確率で生産(作出)することができる方法を開発し、高効率mRNA誘導増幅系を用いたタンパク質生産方法を実現することに有る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、転写因子をコードする遺伝子が、当該転写因子の発現に最も適した染色体上の位置に組み込まれた形質転換体(細胞)、換言すれば転写因子を安定的に高生産する形質転換体(細胞)をまず生産(さく作出)し、上記得られた形質転換体に、目的タンパク質をコードする遺伝子が挿入されたウイルスベクターを導入すれば、高効率でウイルスベクターを誘導発現し、目的タンパク質を高発現する形質転換体(細胞)を高確率で生産(作出)することができることを発見し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明のかかるタンパク質生産用形質転換体の生産方法は、転写因子をコードする遺伝子と転写因子発現用プロモーターとが連結されてなる転写因子発現用DNA断片を宿主細胞に導入する第一形質転換工程と、前記第一形質転換工程によって得られた形質転換体の中から前記転写因子を発現する形質転換体を選抜する選抜工程と、RNAを遺伝子とするウイルスに任意のタンパク質をコードする遺伝子を挿入したウイルスベクターのcDNAと、上記転写因子で転写誘導される転写誘導型プロモーターとが連結されてなるタンパク質発現用DNA断片を、前記選抜工程によって選抜された形質転換体に導入する第二形質転換工程とからなることを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、転写因子をコードする遺伝子が該転写因子の発現に最適な染色体上の位置に組み込まれた形質転換体(細胞)、換言すれば転写因子を安定的に高発現する形質転換体(細胞)をあらかじめ選抜することができる。ここで選抜された転写因子を安定的に高発現する形質転換体に目的タンパク質遺伝子が挿入されたウイルスベクター遺伝子を導入すれば、転写因子をコードする遺伝子およびウイルスベクターをコードする遺伝子の両者が、それぞれの発現に最適な染色体上の位置に組み込まれた形質転換体(細胞)を高確率に取得することが可能となる。
【0014】
また本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産方法は、上記構成に加えさらに上記転写因子が、ホルモンによって活性化される性質を有することを特徴としている。
【0015】
さらに上記ホルモンとしては、エストロジェンまたはステロイドホルモンであることが好ましい。
【0016】
より具体的には、エストロジェンで活性化される性質を有する転写因子としてLexA-VP16-hERを用い、上記転写誘導型プロモーターとしてOLexA-46を用いることができる。
【0017】
上記のごとく転写因子がホルモンによって活性化される性質を有するものとすることで、ウイルスベクターの発現および、目的タンパク質の発現を制御することが可能となる。それゆえ、安全に目的タンパク質を生産することが可能となる。
【0018】
また本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産方法において、上記ウイルスベクターは、一本鎖プラス鎖RNAを遺伝子とするウイルス由来であることを特徴としている。一本鎖プラス鎖RNAウイルスは、複製能力が高く目的タンパク質の高生産が可能となる。
【0019】
さらに上記ウイルスベクターが、植物ウイルス由来であることが好ましい。
【0020】
さらに上記ウイルスベクターが、植物のサイレンシングを抑制する因子を持つ植物ウイルス由来であることが好ましい。
【0021】
より具体的には、上記ウイルスベクターが、トバモウイルス属に属するウイルス由来であることが好ましい。
【0022】
さらに具体的には、トマトモザイクウイルスベクターまたはタバコモザイクウイルスベクターであることが好ましい。
【0023】
上記構成とすることにより、発現したウイルスベクターが植物のウイルスサイレンシングを受けることなく増幅することができる。それゆえ、ウイルスベクターの増幅効率が向上し、目的タンパク質の高生産が可能となる。
【0024】
また本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産方法は、さらに上記ウイルスベクターのcDNAの3’末端に、リボザイム配列が結合していることを特徴としている。
【0025】
より具体的には上記リボザイム配列が、肝炎デルタウイルスのリボザイム配列、またはサテライトタバコリングスポットウイルスのリボザイム配列であることが好ましい。
【0026】
上記構成とすることによって、形質転換体の細胞内でcDNAから転写されるウイルスRNAの3’末端に付加され、ウイルスの複製能力低下の原因となるターミネーター由来の配列やポリA配列を切断することができる。それゆえウイルスの複製能力の低下を防止することができ、外来タンパク質の高生産が可能となる。
【0027】
また本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産方法は、上記任意のタンパク質をコードする遺伝子が、上記ウイルスの外被タンパク質をコードする遺伝子と置換されていることを特徴としている。
【0028】
上記構成とすることによってウイルスの外被タンパク質が産生されなくなり、増幅されるウイルス遺伝子は粒子化されず他の植物に感染することがなくなる。それゆえ、ウイルスの外界への飛散という問題を解消することが可能となる。
【0029】
また本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産方法は、上記転写因子発現用DNA断片、および上記タンパク質発現用DNA断片が、アグロバクテリウム法により導入されていることを特徴としている。
【0030】
上記構成とすることで、転写因子発現用DNA断片、および上記タンパク質発現用DNA断片を植物および植物細胞に好適に導入することができる。
【0031】
また本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産方法において、上記宿主細胞および形質転換体が、植物体または植物由来培養細胞であることが好ましい。
【0032】
より具体的には、上記植物由来培養細胞がタバコ由来細胞であることが好ましい。
【0033】
さらには、上記タバコ由来細胞がタバコBY2細胞であることが好ましい。
【0034】
一方、本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体は、上記タンパク質生産用形質転換体の生産方法によって生産されている。よって、転写因子をコードする遺伝子およびウイルスベクターをコードする遺伝子の両者が、それぞれ発現に最適な染色体上の位置に組み込まれている。それゆえ高効率でウイルスベクターを誘導発現し、目的タンパク質を高発現する形質転換体(細胞)であるといえる。
【0035】
一方、本発明にかかるタンパク質の生産方法は、上記タンパク質生産用形質転換体を用いることを特徴としている。それゆえ目的タンパク質を高生産することが可能となる。
【0036】
また、本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産キットは、上記本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産方法を行なうためのキットである。上記キットによれば、本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体(細胞)をより簡便に生産することが可能となる。それゆえ目的タンパク質の高生産が可能となる。
【発明の効果】
【0037】
本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産方法によれば、転写因子をコードする遺伝子が該転写因子の発現に最適な染色体上の位置に組み込まれた形質転換体(細胞)、換言すれば転写因子を安定的に高発現する形質転換体(細胞)をあらかじめ選抜することができる。ここで選抜された転写因子を安定的に高発現する形質転換体(細胞)にウイルスベクター遺伝子を導入すれば、転写因子をコードする遺伝子およびウイルスベクターをコードする遺伝子の両者が、それぞれ発現に最適な染色体上の位置に組み込まれた形質転換体(細胞)を高確率に取得することが可能となる。それゆえ、目的タンパク質を高生産することができる形質転換体(細胞)を少ない労力と時間で取得することができるという効果を奏する。
【0038】
また本発明にかかる形質転換体(細胞)、および本発明にかかるタンパク質の生産方法によれば、目的とするタンパク質を高生産することが可能となるという効果を奏する。
【0039】
さらに本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産キットによれば、より簡便に目的タンパク質を高生産することができる形質転換体(細胞)を少ない労力と時間で取得することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下の通りである。なお、本発明は、これに限定されるものではない。
【0041】
(A)本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産方法
本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産方法(以下、本形質転換体の生産方法と称する)は、(1)転写因子をコードする遺伝子と転写因子発現用プロモーターとが連結されてなる転写因子発現用DNA断片を細胞に導入する第一形質転換工程と、(2)前記第一形質転換工程によって得られた形質転換体の中から前記転写因子を発現する形質転換体を選抜する選抜工程と、(3)RNAを遺伝子とするウイルスに任意のタンパク質をコードする遺伝子を挿入したウイルスベクターのcDNAと、上記転写因子で転写誘導される転写誘導型プロモーターとが連結されてなるタンパク質発現用DNA断片を、前記選抜工程によって選抜された形質転換体に導入する第二形質転換工程とからなる。以下、工程ごとに説明する。
【0042】
(A-1)第一形質転換工程
本第一形質転換工程では、転写因子をコードする遺伝子と、該転写因子の発現を担うプロモーター(転写因子発現用プロモーター)とを連結して構築したDNA断片(転写因子発現用DNA断片)を、適当な宿主細胞に導入する工程である。当該工程によって、後述するウイルスベクター発現用プロモーターの転写誘導を行なう転写因子を安定的に高発現する形質転換体(細胞)の生産(作出)を行なう。すなわち宿主細胞の転写因子の発現に最適な染色体上の位置に、該転写因子をコードする遺伝子が組み込まれた形質転換体(細胞)候補を生産(作出)する工程である。
【0043】
上述のごとく、現時点では転写因子発現用DNA断片を宿主細胞に導入する場合、染色体上のどの位置に組み込まれるかを制御することは困難である。よって転写因子発現用DNAが宿主細胞に導入された形質転換体(細胞)であっても、該転写因子の発現に好適な染色体上の位置に組み込まれる場合もあれば、好適でない場合もある。その結果、形質転換体間で転写因子の発現量に差が生じてしまう。したがって本工程では、まず転写因子を安定的に高発現する形質転換体(細胞)を生産(作出)することを目的としている。
【0044】
<転写因子発現用DNA断片>
次に本第一形質転換工程で使用する転写因子発現用DNA断片について説明する。転写因子発現用DNA断片は、転写因子発現用プロモーターの下流に転写因子をコードする遺伝子が連結されている。またこの他、ベクター配列、ターミネーター、薬剤耐性マーカー等のDNAセグメントが含まれていてもよい。かかる転写因子発現用DNA断片の構築方法は、通常の遺伝子工学的手法を用いて行なえばよい。
【0045】
ここで転写因子発現用プロモーターは、転写因子を発現することが可能なものであれば特に限定されるものではなく、また恒常的にプロモーター活性を有するもの(以下、恒常的プロモーターと称する)であってもよいし、さらに転写因子によってプロモーター活性が誘導されるものであってもよい。ただし、転写因子の発現をさらに別の転写因子で制御することは、タンパク質の発現系自体が複雑化すること、コスト面で不利等の理由により、上記転写発現用プロモーターとしては、恒常的プロモーターの方がより好ましいといえる。恒常的プロモーターの例としては、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、PG10-90(Ishige, F., Takaichi, M., Foster, R.,Chua, N. H. and Oeda, K.(1999) A G-box motif(GCCACGTGCC) tetramer confers high-level constitutive expression in dicot and monocot plants. Plant J. 20, 127-133. 参照)、ユビキチンプロモーター、アクチンプロモーター等が挙げられる。
【0046】
一方使用する転写因子は、特に限定されるものではなく、後述する第二形質転換工程において導入するタンパク質発現用DNA断片中に含まれるプロモーターを転写誘導するものを適宜選択して使用すればよい。特に上記転写因子は、ホルモンによって活性化される性質を有するものであることが好ましい。かかるホルモンとしては、エストロジェン、ステロイドホルモン、エクジソン等が挙げられる。かかる転写因子は、ホルモンが存在しない状態においては不活性型でありプロモーターの転写誘導を行なうことができないが、ホルモンが存在することによって活性型に変化しプロモーターの転写誘導を行なうことができる。この性質を利用すれば目的タンパク質の生産をより綿密に制御できるため、より安全に目的タンパク質の生産を行なうことができるといえる。すなわち、タンパク質生産を行なう必要がないとき、あるいはタンパク質生産を行なってはいけないときには、タンパク質生産系にホルモンを添加しなければよい。
【0047】
かかるホルモンによって活性化される性質を有する転写因子、および該転写因子によって転写誘導されるプロモーターの組み合わせとしては、例えば、ステロイドホルモンで活性化される転写因子であるGVGと該転写因子によって転写誘導されるプロモーターである6xUASgal4の組み合わせ、エストロジェンで活性化される転写因子LexA-VP16-hERと該転写因子によって転写誘導可能なプロモーターであるOLexA-46(Zuo J, Niu QW, Chua NH. “An estrogen receptor-based transactivator XVE mediates highly inducible gene exprssion in transgenic plants.” Plant J.2000, 24: 265-273 参照)の組み合わせ、エクジソンで活性化される転写因子であるエクジソンレセプターGR Act and DBDとヘルペスウイルストランスアクチベーションドメインHecR LBDのキメラタンパク質と該転写因子によって転写誘導可能なプロモーターGREの組み合わせ等が挙げられる。ただし、タンパク質生産用の宿主として植物体および植物細胞を利用する場合においては、活性化に用いるホルモンによる宿主への悪影響が少ないという理由からエストロジェンで活性化される転写因子LexA-VP16-hERと該転写因子によって転写誘導可能なプロモーターであるOLexA-46の組み合わせが好ましいといえる。
【0048】
図1(a)に転写因子発現用DNAの一例を示す。図1(a)は、形質転換用ベクターであるTiプラスミドpER8(-Stu)の一部分を示している。同図中左から転写因子発現用の恒常的プロモーターPG10-90、その下流にエストロジェンレセプターを含む融合転写因子LexA-VP16-hER、その3’末端にターミネーター配列TE9、またその下流に薬剤耐性マーカーとしてハイグロマイシン耐性遺伝子Hygrがある。
【0049】
<転写因子発現用DNA断片を導入する宿主細胞およびDNA断片導入方法>
上記転写因子発現用DNA断片が導入される宿主細胞は特に限定されるものではなく、動物由来細胞であっても植物由来細胞であってもよい。ただし、植物由来細胞は、動物由来細胞に比して、増殖速度が速くコンタミネーションのリスクが少ない点、培地作成費用が非常に安価であるという点において、植物由来細胞がより好ましい。なお、動物由来細胞および植物由来細胞とは、細胞、組織、並びに器官も含む意味である。特に液体培地等で培養可能な細胞(培養細胞)が好ましい。
【0050】
また由来となる動物としては、特に限定されるものでないが、ヒト、サル、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、チャイニーズハムスター、ウシ、ウマ、ブタ、メダカやゼブラフィッシュ等の魚類、カイコ、夜蛾(Spodoptera frugiperda)等が挙げられる。一方由来となる植物としては、特に限定されるものではないが、イネ、シロイナズナ、オオムギ、コムギ、タバコ、トマト、キュウリ、ダイズ、ジャガイモ、トウモロコシ、ニチニチソウ、シロイヌナズナ、アルファルファが挙げられる。その他、枯草菌や乳酸菌などの菌類、酵母など単細胞生物が宿主細胞として利用できる。
【0051】
また動物由来細胞の例としては特に限定されるものではないが、HeLa細胞、CHO細胞、メラノーマ細胞、マウス3T3細胞が挙げられる。また植物由来細胞の例としては、タバコBY2細胞、ジャガイモ由来、イネ由来、サツマイモ由来、ダイズ由来、パセリ由来、シロイヌナズナ由来、コムギ由来、トウモロコシ由来細胞、ニチニチソウ由来細胞が挙げられる。
【0052】
後述する実施例において、タバコBY2細胞を宿主として用いている。タバコBY2細胞(Toshiyuki nagata, Yasuyuki Nemoto, and Seiichiro Hasezawa “Tobacco BY-2 Cell Line as the “Hela” Cell in the Cell Biology of Higher Plants” International Review of cytology, vol.132, p.p. 1-30 (1992) 、および http://wwwriken.go.jp/r-wprld/info/release/press/2003/030620/ 参照)は、植物培養細胞株としては、世界中で最も広く用いられているものであり、最も増殖速度が速いこと、遺伝子操作が容易なこと、大量培養を容易に行うことができるという理由から採用した。
【0053】
また、転写因子発現用DNA断片を宿主細胞へ導入する形質転換方法は特に限定されるものではなく、宿主細胞の種類に応じた適切な形質転換方法を用いればよい。例えば、特別なベクター配列を有しないDNA断片を導入する場合には、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、リン酸カルシウム法等を用いることができる。また植物由来細胞への一般的な形質転換法としては、アグロバクテリウムを用いた形質転換法(アグロバクテリウム法)を挙げることができ、本発明でもアグロバクテリウム法を好適に用いることができる。ただしアグロバクテリウム法を用いて形質転換する場合には、本発明にかかるDNA断片を含むTiプラスミドを構築する必要がある。またその他プロトプラスト/スフェロプラスト法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0054】
ただし転写因子発現用DNA断片は、宿主細胞のゲノムに組み込まれることが好ましい。転写因子発現用DNA断片がゲノムに組み込まれることにより、細胞分裂後の娘細胞にもベクターの構成に含まれる遺伝子を確実に伝達することが可能となり、転写因子(タンパク質)の生産効率を維持することが可能となるからである。ゲノムは染色体(核ゲノム)に限定されるものではなく、ミトコンドリアゲノムや葉緑体ゲノムも含まれる。
【0055】
また転写因子発現用DNA断片が宿主細胞に導入されたか否かを確認する方法は、特に限定されるものではなく、公知の各種の方法を用いることができる。具体的には、各種マーカーを用いればよい。例えば、宿主細胞中で欠失している遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーと組み換え植物ウイルス遺伝子とを含むプラスミド等を発現ベクターとして宿主細胞に導入する。これによってマーカー遺伝子の発現から本発明の遺伝子の導入を確認することができる。例えば後述する実施例においては、薬剤耐性マーカー(ハイグロマイシン耐性遺伝子、Hygr)を用いており、ハイグロマイシンを含有する培地中で、形質転換候補株を培養することにより、生育してきた細胞株を形質転換体として選抜することが可能となる。その他のマーカーとしては、ビアラホス耐性マーカー、カナマイシン耐性マーカー等が植物細胞の選抜に有効であり、ピューロマイシン耐性マーカー、ブレオマイシン耐性マーカー、XGPRT遺伝子、DHFR遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子等が動物細胞の選抜には有効である。さらに酵母などでは、ウラシル要求性マーカーをはじめとする栄養要求性マーカーを選抜に用いることができる。但しこれら形質転換体の選抜方法は、限定されるものではなく、発現ベクターを導入する宿主等に応じて適宜選択して用いればよい。その他、宿主細胞から調製したゲノムDNAを鋳型とし、導入したタンパク質(転写因子)の遺伝子全長を特異的に増幅するいわゆるジェノミックPCR法を挙げることができる。この方法によって、目的タンパク質(転写因子)をコードする遺伝子が増幅されてくることを電気泳動法等によって確認できれば、該遺伝子の導入を確認することができる。
【0056】
(A-2)選抜工程
本形質転換体の生産方法における第2工程として、当該選抜工程がある。当該選抜工程では、上記第一形質転換工程によって得られた形質転換体(細胞)の中から前記転写因子を安定的に高発現する形質転換体(細胞)の選抜を行なう。すなわち転写因子の発現に最適な宿主細胞の染色体上の位置に、該転写因子をコードする遺伝子が組み込まれた形質転換体(細胞)を選抜(スクリーニング)する工程である。
【0057】
当該選抜工程における具体的選抜方法は上記第一形質転換工程で得られた形質転換体(細胞)の中から目的とする転写因子を安定的に高発現する形質転換体を選抜する方法であれば特に限定されるものではない。
【0058】
例えば、形質転換体(細胞)から発現タンパク質を抽出し、該転写因子特異抗体を用いてその発現量を検出する方法として、ウエスタンブロット法、エライザ法、ドットブロット法等が適用可能である。また、形質転換体(細胞)から発現RNAを抽出し、該転写因子の遺伝子配列に相補的なプローブを用いて転写因子のmRNAの発現量を検出する方法として、例えばノーザンブロット法、ドットブロット法等が適用可能である。さらに、例えばRT-PCR法、リアルタイムPCR法、マイクロアレイ法等によって該転写因子mRNAの発現量を検出することも可能である。
【0059】
(A-3)第二形質転換工程
当該第二形質転換工程は、上記選抜工程により選抜された転写因子を高発現する形質転換体(細胞)(以下転写因子高発現形質転換体(細胞)と称する)に、RNAを遺伝子とするウイルスに任意のタンパク質をコードする遺伝子を挿入したウイルスベクターのcDNAと、上記転写因子高発現形質転換体が発現する転写因子で転写誘導される転写誘導型プロモーターとが連結されてなるタンパク質発現用DNA断片を導入する工程である。あらかじめ転写因子を高発現する形質転換体に、目的とするタンパク質をコードする遺伝子が挿入されたウイルスベクターのcDNAを導入することにより、より高確率に目的タンパク質を高生産する形質転換体(細胞)を生産することができる。
【0060】
<タンパク質発現用DNA断片>
本タンパク質発現用DNA断片は、形質転換体(細胞)に任意のタンパク質を生産させるために使用するDNA断片であり、少なくともRNAを遺伝子とするウイルスに任意のタンパク質をコードする遺伝子を挿入したウイルスベクターのcDNAと、上記転写因子高発現形質転換体(細胞)が発現する転写因子で転写誘導される転写誘導型プロモーターとからなる。この他、任意のタンパク質をコードする遺伝子挿入用のクローニングサイト(好ましくはマルチクローニングサイト)・ベクター配列・ターミネーター・薬剤耐性マーカー等のDNAセグメントが含まれていてもよい。かかる転写因子発現用DNA断片の調製方法は、通常の遺伝子工学的手法を用いて行なえばよい。
【0061】
転写誘導型プロモーターは、転写因子高発現形質転換体が生産する転写因子に応じて選択すればよく、その組み合わせの一例については、(A-1)第一形質転換工程の項で述べたとおりである。
【0062】
細胞に生産させる任意のタンパク質は特に限定されるものではなく、外来の有用タンパク質であってもよく、当該植物が本来有するタンパク質であってもよい。例えば、医薬品として利用可能なヒトのタンパク質等が好適である。
【0063】
ウイルスベクターとしては、RNAを遺伝子とするウイルス由来のウイルスベクターであれば特に限定されるものではなく、二本鎖RNAウイルス、一本鎖マイナス鎖RNAウイルス、一本鎖プラス鎖RNAウイルス由来のウイルスベクターを用いることができる。中でも細胞内でcDNAから転写されたRNA自体がmRNAとして機能するという理由から、一本鎖プラス鎖RNAを遺伝子とするウイルス由来のウイルスベクターであることが特に好ましい。
【0064】
また、ウイルスベクターは植物ウイルス由来のウイルスベクターに限定されるものではなく、動物ウイルス、ファージを含むあらゆるRNAウイルス由来のウイルスベクターを用いることが可能である。しかしながら、植物細胞に任意のタンパク質を生産させる目的で使用する場合には、植物ウイルス由来のウイルスベクターであることが好ましく、中でも植物のサイレンシングを抑制する因子(サプレッサー)を持つウイルス由来のウイルスベクターであることが特に好ましい。サイレンシングのサプレッサーを持つウイルスベクターを用いることにより、増幅の後半においてもmRNAが分解される現象が生じない。サイレンシングのサプレッサーを持つ植物ウイルスとしては、例えば、ポティ属(Potyvirus属)ウイルス、ククモウイルス属(Cucumovirus属)ウイルス(例えばキュウリモザイクウイルス(CMV))、ポテックスウイルス属(Potexvirus属)ウイルス(例えばジャガイモXウイルス(PVX))、トンブスウイルス属(Tombusvirus属)ウイルス(例えばトマトブッシースタントウイルス(TBSV)、Cymbidiumu ringspot virus (CymRSV))、カルモウイルス属(Carmovirus属)ウイルス(例えば、Turnip crinkle virus (TCV))、トバモウイルス属(Tobamovirus属)ウイルス(例えば、タバコモザイクウイルス(TMV)、トマトモザイクウイルス(ToMV))が挙げられる。
【0065】
また上記ウイルスベクターのcDNAの3’末端には、リボザイム配列が結合していることが好ましい。形質転換体の細胞内でcDNAから転写されるウイルスRNAの3’末端に付加されウイルスの複製能力低下の原因となるターミネーター由来の配列やポリA配列を切断することができるからである。その結果ウイルスの複製能力の低下を防止することができ、目的タンパク質の高生産が可能となる。結合されるリボザイム配列は、上記3’末端に付加された余分な配列を切断できるものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、肝炎デルタウイルスのリボザイム配列(GenBank accession No. X77627他)またはサテライトタバコリングスポットウイルスのリボザイム配列(GenBank accession No. M17439)を用いることができる。
【0066】
また任意のタンパク質をコードする遺伝子は、ウイルスの外被タンパク質をコードする遺伝子と置換されていることが特に好ましい。この部位に目的のタンパク質遺伝子を挿入することによりウイルスの外被タンパク質が産生されなくなり、増幅されるウイルス遺伝子は粒子化されず他の植物に感染することがなくなるため、ウイルスの外界への飛散という問題を解消することが可能となる。
【0067】
図1(b)にタンパク質発現用DNA断片の一例を示す。図1(b)は、形質転換用ベクターであるTiプラスミドpBICER8-ToMVerG3(SF3)SRzの一部分を示している。同図中左からエストロジェンによって活性化される融合転写因子LexA-VP16-hERによって転写誘導されるプロモーターOLexA-46、その下流にレポーター遺伝子としてGreen Fluorescent Protein 遺伝子(以下GFP遺伝子と称す)を組み込んだトマトモザイクウイルスベクターToMV-GFP cDNA、その3’末端にサテライトタバコリングスポットウイルスリボザイム配列S-Rz、さらに35Sターミネーター配列35ST、またその下流に薬剤耐性マーカーとしてカナマイシン耐性遺伝子Kanrがある。なお、上記タンパク質発現用DNA断片の転写因子高発現形質転換体への導入方法は、(A-1)第一形質転換工程の項で述べた方法と同様に行なえばよい。
【0068】
上述のごとく本形質転換体(細胞)の生産方法の最大の特徴点は、同一ベクター上に転写因子発現用DNA断片とタンパク質発現用DNA断片とが挿入されたベクターを用いて宿主細胞を形質転換していた従来法と違い、転写因子発現用DNA断片とタンパク質発現用DNA断片をそれぞれ別個のベクターを用いて宿主細胞に導入していることに有る。本形質転換体の生産方法が上記特徴点を有するメリットは、以下に示すとおりである。(ア)ウイルスベクターおよびタンパク質の発現を制御する(影響を及ぼす)転写因子の発現量を常に一定に保つことができる。従って、転写因子を高発現する形質転換体(細胞)をまず生産(作出)しておき、該形質転換体を用いてさらにタンパク質発現用DNAを導入すれば、ウイルスベクターおよび目的タンパク質を高発現する形質転換体(細胞)を容易に取得することができる。(イ)転写因子の発現量が一定である形質転換体(細胞)に種々ウイルスベクターを含むタンパク質発現用DNA断片を導入することで、ウイルスベクターの発現効率等を比較することができる。それゆえ、ウイルスベクターの改良等を容易に行なうことができる。
【0069】
上記本形質転換体(細胞)の生産方法によれば、転写因子をコードする遺伝子およびウイルスベクターをコードする遺伝子の両者が、それぞれ発現に最適な染色体上の位置に組み込まれた形質転換体(細胞)を高確率に取得することが可能となる。
【0070】
(B)本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体およびその利用
本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体(以下本形質転換体)は、上記本形質転換体の生産方法によって生産されたタンパク質生産用形質転換体(細胞)である。本形質転換体は、転写因子をコードする遺伝子およびウイルスベクターをコードする遺伝子の両者が、それぞれ発現に最適な染色体上の位置に組み込まれた形質転換体であるため、本形質転換体を用いることによって、目的タンパク質を高生産することができるものといえる。
【0071】
また本発明にかかるタンパク質の生産方法(以下本タンパク質の生産方法)は、上記本形質転換体を用いることを特徴としている。すなわち、本タンパク質の生産方法は、目的タンパク質をコードする遺伝子が導入された本形質転換体から目的タンパク質を回収することにより行なう。さらに目的タンパク質をより大量に取得するためには、本形質転換体の数を培養・栽培・育成等によって増加させ、増加させた本形質転換体から目的タンパク質を回収することにより行なうことが好ましい。本形質転換体の培養・栽培・育成条件等は特に限定されるものではなく、本形質転換体に好適な条件を適宜選択して用いればよい。植物由来培養細胞を培養する際の培地としては特に限定されるものではないが、無機塩類、炭素源、ビタミン類、アミノ酸が加えられている場合がある。さらに、ココナツミルクや酵母エキスを加えて成長を促進させる場合がある。その他、オーキシンとサイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン等の植物ホルモンを添加する場合がある。また培養条件であるが、光、温度、通気の有無等を培養する細胞に応じて最適なものを採用すればよい。例えば、タバコBY2細胞を培養条件の一例としては、370mg/lリン酸二水素カリウム、1mg/lチアミン塩酸、3%スクロース、0.2mg/l 2,4-Dを含むMS培地を用い、暗所、26℃、135回転/分で旋回振盪培養後、1/100量を一週間ごとに継代することが挙げられる。
【0072】
また、本形質転換体の種類としては特に限定されるものではなく、植物・動物の個体であっても、植物・動物由来培養細胞であってもよい。ただし、迅速に大量にタンパク質を生産するためには、形質転換体は培養可能な細胞(培養細胞)であることが好ましい。さらには、細胞の取り扱いのしやすさ・培地が安価である等の理由から、植物由来培養細胞であることが好ましい。上記植物由来培養細胞としては、例えばタバコ由来BY2細胞が挙げられる。以下に、植物由来培養細胞を本発明にかかるタンパク質の生産方法に用いることの利点、特に植物個体を用いる場合との比較における利点を以下に示す。
【0073】
(a)植物個体を宿主とする場合と比較して、増殖速度が速く、形質転換細胞を短期間で増殖することができる。また大規模化、大量生産も容易である。
【0074】
(b)植物個体を宿主とする場合と比較して、生育させるための広大なスペース、施設(畑、温室)等を必要としない。また培養装置を容易に大型化することが可能である。
【0075】
(c)植物個体を宿主とする場合と比較して、カルスから植物個体を分化させる工程、花を咲かせて種子をとる工程、該種子を蒔いて増殖させるという工程が無いため、形質転換体の作成、スクリーニング、タンパク質生産の期間を著しく短縮することができる。
【0076】
(d)化学物質等の誘導物質によるタンパク質誘導発現を簡便に行うことができる。植物個体を宿主とする場合は、植物個体に化学物質等を直接塗布、散布等の方法によって、該植物個体全体に均一に投与する必要があり、非常に手間と時間がかかる。一方、植物由来細胞を宿主とした場合は、細胞培養の際に、該誘導物質等を培地中に添加するだけで足り、前細胞に対して、同時かつ均一に誘導をかけることが可能となる。
【0077】
(e)植物個体は、蒸散作用等によって厳密な表面温度の管理が困難であるが、液体培地中で生育する培養細胞の場合は、温度管理等が容易である。環境条件の変化等による種々のストレスに感受性の高いプロモーターを用いた際に、安定的にタンパク質の生産を行うことが可能である。
【0078】
(f)種々の組織からなる植物個体とは異なり、培養細胞は均質であるため、組織特異的な影響が無く、タンパク質の発現コントロールが容易である。
【0079】
(g)細胞周期を高度に同調化できるため、厳密なタンパク質発現をコントロールすることが可能となる。
【0080】
(h)液体培養であるため、分泌型タンパク質を培地中に分泌させることによって、タンパク質の回収、精製が容易である。また、目的タンパク質が、分泌型タンパク質でない場合であっても、分泌型のタグを目的タンパク質に付加することによって、同様の効果が得られる。
【0081】
(i)植物個体と異なり、培養細胞は生育に光を必要としないため、照明設備、および照明にかかるコストを削減することが可能である。また、光に感受性なタンパク質を発現させる場合にも有利である。
【0082】
(j)培地中に種々の化学物質等を添加することによって、生産するタンパク質を化学修飾することが可能である。例えば、放射性同位元素を添加することによって、放射性標識がされたタンパク質を容易に作成することが可能となる。
【0083】
(k)形質転換体が外界に漏出した場合であっても、植物個体とは異なり自生することができず、死滅するために安全である。このことにより、植物個体、種子、花粉等の飛散防止、安全性試験、遺伝子組み換え生物に対するリスク管理に要する設備、費用、時間が軽減できる。
【0084】
(C)本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産キット
本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産キット(以下、本キットと称する)は、上記本形質転換体の生産方法を行なうためのキットである。本キットを構成するものについては特に限定されるものではないが、転写因子をコードする遺伝子と転写因子発現用プロモーターとが連結されてなる転写因子発現用DNA断片、および/またはRNAを遺伝子とするウイルスに任意のタンパク質をコードする遺伝子を挿入したウイルスベクターのcDNAと、上記転写因子で転写誘導される転写誘導型プロモーターとが連結されてなるタンパク質発現用DNA断片により構成されていることが好ましい。具体的には本キットが、転写因子発現用DNA断片の一例であるpER8(-Stu)、および/またはタンパク質発現用DNA断片の一例であるpBICER8-ToMVerG3(SF3)SRzにより構成されている例が挙げられる。
【0085】
本キットの利用者は、(a)転写因子発現用DNA断片を適当な宿主細胞に導入する工程、(b)その形質転換体の中から転写因子を高発現する形質転換体を選抜する工程、(c)該形質転換体に目的タンパク質をコードする遺伝子が挿入されているタンパク質発現用DNA断片を導入する工程を経てタンパク質生産用形質転換体が得られることとなる。なお本キットに含まれる転写因子発現用DNA断片に目的タンパク質をコードする遺伝子を挿入する方法は、遺伝子工学的手法により行なえばよい。
【0086】
さらに本キットは、上記転写因子高発現形質転換体および/またはタンパク質発現用DNA断片により構成されていることが好ましい。より具体的には後述する実施例において取得した転写因子高発現形質転換体の一例である転写因子高発現タバコBY2細胞ER8-20、および/またはタンパク質発現用DNA断片の一例であるpBICER8-ToMVerG3(SF3)SRzにより構成されている例が挙げられる。
【0087】
転写因子高発現形質転換体が既に取得されているため、本キットの利用者は(c)のみを行なえばよく、より迅速かつ簡便にタンパク質生産用形質転換体を得ることができる。
【0088】
この他本キットには、例えば、細胞、培地、制限酵素、修飾酵素類、転写誘導用化学物質(ステロイドホルモン、エストロジェン等)、培養フラスコ、アグロバクテリウム(植物細胞の場合)等が含まれていてもよい。
【0089】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0091】
(実施例1:GFP生産用形質転換タバコBY2細胞の生産)
〔転写因子発現用DNA断片導入用ベクターの構築〕
転写因子発現用DNA断片を宿主細胞(タバコBY2細胞)に導入するためのベクター(以下転写因子発現用DNA断片導入用ベクターと称する)として、TiプラスミドpER8(-Stu)を用いた。pER8(-Stu)は、恒常的プロモーターPG10-90の下流にエストロジェンレセプターを含む融合転写因子LexA-VP16-hERをコードする遺伝子、ターミネーターTE9を連結し、さらに薬剤耐性マーカーとしてハイグロマイシン耐性遺伝子(Hygr)を組み込んで構築した。図1(a)にpER8(-Stu)の構造を模式図として示した。
【0092】
〔タンパク質発現用DNA断片導入用ベクターの構築〕
ToMVの外被タンパク質をコードする遺伝子を、GFPをコードする遺伝子(以下、GFP遺伝子と称する)で置換したToMV変異体を用いた。形質転換用ベクターとしてエストロジェンで転写誘導可能なプロモーターOLexA-46を有するTiプラスミドを用い、OLexA-46の下流にToMV変異体のcDNAを連結し、さらにその3’末端にサテライトタバコリングスポットウイルスのリボザイム配列S-Rz、35Sターミネーター(35ST)、カナマイシン耐性遺伝子(Kanr)を組み込んだタンパク質発現用DNA断片を宿主細胞(タバコBY2細胞)に導入するためのベクター(以下タンパク質発現用DNA断片導入用ベクターと称する)pBICER8-ToMVerG3(SF3)SRzを構築した。図1(b)に、pBICER8-ToMVerG3(SF3)SRzの構造を模式図として示した。
【0093】
〔第一形質転工程:転写因子発現用DNA断片の宿主細胞への導入〕
転写因子発現用DNA断片導入用ベクターpER8(-Stu)を、タバコBY2細胞にアグロバクテリウム法により導入した。まずpER8(-Stu)をエレクトロポレーション法によってAgrobacterium Tumefacience EHA105系統に導入した。これをカナマイシン(50mg/l)を含むAB sucrose培地で前培養した。次にタバコBY2細胞と混合してシャーレに移し、26℃、暗所で42~48時間静置してタバコBY2細胞を形質転換した。タバコBY2細胞用培地にて洗浄した後、カルベニシリン(100mg/l)およびハイグロマイシン(20mg/l)を含むタバコBY2細胞用固形培地に広げ、形質転換タバコBY2細胞ER8を増殖させた。
【0094】
〔選抜工程:転写因子高発現形質転換体の選抜〕
形質転換タバコBY2細胞ER8のうち、26の細胞ラインをノーザンブロット法に供し、転写因子の発現量の高い3つの細胞ラインを選抜した。ここで「細胞ライン」とは、形質転換細胞を増殖させることにより形成された個々のコロニーのことを意味する。
【0095】
〔第二形質転換工程:タンパク質発現用DNA断片の導入〕
上記で得られた3つの転写因子高発現タバコBY2細胞ライン(ER8-17、ER8-20、ER8-32)各々に、ウイルスベクターpBICER8-ToMVerG3(SF3)SRzをアグロバクテリウム法により導入し形質転換細胞を得た。
【0096】
〔GFPの誘導発現〕
上記で得られた各形質転換細胞を1/100量になるよう継代し、継代培養後7日間前培養した細胞を、エストロジェンの終濃度が0.01mMとなるように加えた培地に1/20量になるように移した。さらに48時間培養した後、実体型蛍光顕微鏡装置(オリンパス社製)および正立型蛍光顕微鏡装置(ニコン社製)で細胞を観察した。
【0097】
結果は、各細胞ラインにおいて、GFP蛍光が認められる細胞と認められない細胞をそれぞれ計数して発現率を算出し、1%以上の細胞でGFP蛍光が認められる細胞ラインをGFPの高発現細胞ラインとした。
【0098】
表1に各転写因子高発現タバコBY2細胞ラインから得られた形質転換細胞について、GFPの高発現細胞ラインの得られる割合を示す。なお表1は、ER8-17、ER8-20、ER8-32のみの結果を示す。
【0099】
【表1】
JP0004388392B2_000002t.gif

【0100】
その結果、各転写因子高発現タバコBY2細胞ラインのうち、ER8-20を用いた場合に、GFPの高発現細胞ラインが得られる割合が33%と最も高くなった。
【0101】
さらに各転写因子高発現タバコBY2細胞ラインについて、目的タンパク質としてGPFにMPT(movement protein tag)を付加した融合タンパク質を用いたタンパク質発現用DNA断片を導入し、上記と同様にしてGFPの高発現細胞ラインが得られる割合を検討した。
【0102】
その結果を表2に示す。なお表2は、ER8-20、ER8-17のみの結果を示す。
【0103】
【表2】
JP0004388392B2_000003t.gif

【0104】
その結果、前実験と同様、ER8-20を用いた場合にGFPの高発現細胞のラインが得られる割合が32%と最も高くなった。よって転写因子高発現タバコBY2細胞ラインER8-20に、タンパク質発現用DNA断片を導入すれば、目的タンパク質を高発現する形質転換細胞を高確率で得られるということがわかった。また目的タンパク質を変更しても同様の結果が得られたことから、転写因子高発現タバコBY2細胞ラインER8-20に対して、種々のタンパク質をコードする遺伝子が挿入された発現用DNA断片を導入しても、目的タンパク質高発現形質転換細胞を高確率に取得することができるといえる。
【0105】
(実施例2:GFP生産用形質転換タバコBY2細胞を用いたエストロジェンによるGFPの誘導発現)
実施例1において、転写因子高発現タバコBY2細胞ラインER8-20を形質転換して取得したGFP高発現細胞(E113株)を用いて、GFPのエストロジェンによる誘導発現を試みた。
【0106】
〔方法〕
E113株を1/100量になるよう継代し、継代培養後0日間から6日間前培養した。前培養を0日間、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間行なったE113株の培養液に対して、エストロジェンを終濃度0.01mM添加しGFPの誘導発現を行なった。
【0107】
エストロジェン添加後48時間のE113株から全RNAを抽出し、ノーザンブロット法によりToMVに特異的なRNAを検出した。解析には、ToMVの3’非翻訳領域約200塩基に相補的なRNAプローブを用いた。プローブのラベリングは、ロシュ・ディアグノスティック社のDIG RNA Labeling Kitを用いて行なった。検出には、同社のDIG Luminescent Ditection KitおよびCDP-Starを用い、それぞれキットのマニュアルに従って行なった。
【0108】
また、エストロジェン添加後48時間のE113株から全タンパク質を抽出し、ウエスタンブロット法によりGFPの検出を行なった。各レーン5μgのタンパク質をロードし、シグナルの検出にはGFP特異抗体を用いた。その他の方法については、ウエスタンブロットの標準法に準じて行なった。
【0109】
〔結果〕
ノーザンブロット法によるToMV特異的RNAの検出結果を図2(a)に示した。図2(a)の左から7レーンは、エストロジェンによる転写誘導を行なわなかった場合の結果(エストロジェン(-))を示し、残りの7レーンは、エストロジェンによる転写誘導を行った場合の結果(エストロジェン(+))を示している。図2(a)の結果から、エストロジェンによるToMVの明らかな転写誘導が確認された。特に0日間・1日間・2日間・3日間・4日間前培養した場合において、ToMVに特異的なゲノムRNAおよびサブゲノムGFPメッセンジャーRNAが検出できた。なお、図2(a)下図にリボゾームRNAを検出した結果を示し、リボゾームRNA量に差がないことを確認している。
【0110】
一方図2(b)はウエスタンブロット法によるGFPの検出結果である。図2(b)の左から7レーンは、エストロジェンによる転写誘導を行なわなかった場合の結果(エストロジェン(-))を示し、残りの7レーンは、エストロジェンによる転写誘導を行った場合の結果(エストロジェン(+))を示している。また同図中、右端のレーンにGFPの精製標品50ngをマーカーとして示している。図2(b)の結果から、エストロジェンによるGFPの誘導発現が確認された。特に0日間・1日間・2日間・3日間・4日間前培養した場合において、強いGFPシグナルを検出した。この結果は図2(a)のToMV特異的RNAの結果とリンクするものであり、ToMVベクターは単なる遺伝子挿入の手段というよりは、ToMVベクターの増殖およびmRNA増幅の手段であると考えられた。すなわち、図2(a)に示されたToMVベクターRNAの発現および複製、それに伴ったサブゲノムGFPメッセンジャーRNAの発現増加が、図2(b)に示されたGFPの発現量に反映していると考えられる。
【0111】
以上説示したごとく、第一形質転換工程および選抜工程によって転写因子高発現形質転換体(タバコBY2細胞)を取得(生産)しておき、当該転写因子高発現形質転換体にタンパク質生産用DNA断片を第二形質転換工程により導入すれば、ウイルスベクターを高効率で転写誘導し、目的タンパク質を高生産するタンパク質生産用形質転換体を高効率(高確率)で生産(作出)することができる。したがって、本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産方法、本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体、本発明にかかるタンパク質生産方法、本発明にかかるタンパク質生産用形質転換体の生産キットによれば、高効率にウイルスベクターを誘導発現できるタンパク質生産用形質転換体を生産する時間、費用、労力が著しく軽減され、有用タンパク質の高生産がより容易になるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明により、効率よく、かつ、安価、安全に有用タンパク質を大量生産することが可能となり、得られたタンパク質は医薬、化学工業、食品工業をはじめとする広範な分野で有効に利用できる。さらには、本発明にかかる形質転換体に導入されたベクター、宿主細胞等をタンパク質生産キットとして市販することも可能となるので、実験・研究用の試薬産業等にも応用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】(a)は転写因子発現用DNA断片導入用ベクターpER8(-Stu)の構造を示す模式図であり、(b)はタンパク質発現用DNA断片導入用ベクターpBICER8-ToMVerG3(SF3)SRzの構造を示す模式図である。
【図2】(a)は実施例2においてエストロジェンによるToMv特異的RNAの転写誘導をノーザンブロット法により確認した写真図であり、(b)は実施例2においてエストロジェンによるGFPの誘導発現をウエスタンブロット法により確認した写真図である。
図面
【図1】
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【図2】
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