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明細書 :ミジンコとイトミミズを含む培養系

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4228074号 (P4228074)
公開番号 特開2005-137236 (P2005-137236A)
登録日 平成20年12月12日(2008.12.12)
発行日 平成21年2月25日(2009.2.25)
公開日 平成17年6月2日(2005.6.2)
発明の名称または考案の名称 ミジンコとイトミミズを含む培養系
国際特許分類 A01K  61/00        (2006.01)
A01K  63/06        (2006.01)
C12N   1/12        (2006.01)
FI A01K 61/00 ZABL
A01K 63/06 A
A01K 63/06 C
C12N 1/12 A
請求項の数または発明の数 3
全頁数 6
出願番号 特願2003-376040 (P2003-376040)
出願日 平成15年11月5日(2003.11.5)
審査請求日 平成17年10月13日(2005.10.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301032942
【氏名又は名称】独立行政法人放射線医学総合研究所
発明者または考案者 【氏名】柳澤 啓
個別代理人の代理人 【識別番号】100082005、【弁理士】、【氏名又は名称】熊倉 禎男
【識別番号】100084009、【弁理士】、【氏名又は名称】小川 信夫
【識別番号】100084663、【弁理士】、【氏名又は名称】箱田 篤
【識別番号】100093300、【弁理士】、【氏名又は名称】浅井 賢治
【識別番号】100114007、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 孝二
審査官 【審査官】大塚 裕一
参考文献・文献 特開平08-000126(JP,A)
特開平04-346760(JP,A)
畠山成久,動物プランクトン、底生生物に対する有害汚染物質の影響評価法,水質汚濁研究,日本,社団法人 日本水質汚濁研究協会,1988年11月10日,第11巻第11号,p.8-12
調査した分野 A01K 61/00~63/06
C12N 1/12
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ミジンコ、イトミミズ、動物プランクトン及び/又は植物プランクトン、腐朽有機物質及び水を含む培養系であって、
培養系5リットル当たり、腐朽有機物質を乾燥質量で0.2~1.0質量%加え、これにイトミミズを20~30匹とミジンコを20~30匹入れ、15~30℃で、2000~50000ルックスの照明を、昼夜連続で、又は昼間のみ照射する条件下で、1ヶ月から6ヶ月培養することにより確立され、
平衡状態に於いてイトミミズ200~500匹、ミジンコ300~1000匹を含み、
空気に開放されており、自然蒸発により減少する水分を補充し、上記照明下で上記温度に保持することによりミジンコとイトミミズが世代交代しながら維持される培養系。
【請求項2】
請求項1記載の培養系を15~30℃で、2000~50000ルックスの照明を、昼夜連続で、又は昼間のみ照射する条件下で保持することを特徴とする培養系の維持方法。
【請求項3】
請求項1記載の培養系に、化学的及び/又は物理的刺激を与え、15~30℃で、2000~50000ルックスの照明を、昼夜連続で、又は昼間のみ照射する条件下で保持し、所定期間経過後に、ミジンコ及び/又はイトミミズの生息状態を観察し、該化学的又は物理的刺激が環境に与える影響を評価する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ミジンコとイトミミズを含む培養系に関するものである。さらに詳細には、環境保護技術の研究、有害因子や有害物質の生物に対する毒性を長期間曝露して試験するのに有用な培養系、実験系に関するものであり、環境科学、農学、生態学に応用しうる新規な培養系に関する。本発明はさらに、上記培養系の維持方法、上記培養系を利用して被験物質が環境に与える影響を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場廃水などに含まれる物質で有害作用が予想される産業廃棄物を環境中に放出する際には、環境に及ぼす影響を予測するために生物に対する毒性を試験する必要がある。こうした試験には実際に水中で生活する生物を用いた試験が行なわれている。OECDにおける生態影響試験法はこのような目的で開発された方法であり我が国においても各種有害物質の毒性を評価する方法として導入が検討されている(非特許文献1及び2参照)。
このうちミジンコ類急性遊泳阻害試験は、ミジンコが毒物に対して感受性が高い事を利用した簡便な試験法であるため、その試験キットが市販されている。この方法で毒性試験を行うと毒物添加後、24時間後、48時間後の観察結果より毒性が評価される。他にミジンコ類繁殖試験法が知られているが、これは親ミジンコの生死と状態および仔ミジンコの数と状態を観測する方法で試験期間は最長21日である。
しかし、上記の方法ではミジンコが数日で死ぬような毒物あるいは数週間で影響が現れる場合のみ生殖能力への影響等が観測される。これに対し短期間の曝露では影響が現れにくい低濃度の有害物質あるいは低線量の放射線照射の影響、さらにそれらの影響の世代継承を観測するためには、数ヶ月あるいはそれ以上の期間継続して飼育する必要がある。
【0003】

【非特許文献1】OECD GUIDELINES FOR THE TESTING OF CHEMICALS (http://www1.oecd.org/ehs/test/Biotec.htm)
【非特許文献2】OECD (1999):Environmental Health & Safety News, No.9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、数ヶ月あるいはそれ以上の期間継続してミジンコを飼育することができる培養系を提供することである。
本発明の他の目的は、環境保護技術の研究、有害因子や有害物質の生物に対する毒性を長期間曝露して試験するのに有用な培養系、実験系を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、環境科学、農学、生態学に応用しうる新規な培養系を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、上記培養系の維持方法を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、上記培養系を利用して化学的及び/又は物理的刺激が環境に与える影響を評価する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の培養系、この培養系の維持方法、及びこの培養系を利用して被験物質が環境に与える影響を評価する方法を提供するものである。
1.ミジンコ、イトミミズ、動物プランクトン及び/又は植物プランクトン、腐朽有機物質及び水を含む培養系。
2.上記1記載の培養系を15~30℃で、照明下に保持することを特徴とする培養系の維持方法。
3.上記1記載の培養系に、化学的及び/又は物理的刺激を与え、15~30℃で、照明下に保持し、所定期間経過後に、ミジンコ及び/又はイトミミズの生息状態を観察し、該化学的又は物理的刺激が環境に与える影響を評価する方法。
【発明の効果】
【0006】
水草や魚類の糞、プランクトンの死骸などが堆積して形成される水槽の底の沈殿物あるいは腐朽有機物質を容器に取りイトミミズとミジンコを入れる。照明下(蛍光灯のような人工照明でも天然光でも良い)で培養すると、イトミミズは沈殿物の中に入り、ミジンコは沈殿物の上の水中で生活する。平衡状態に於いては個体数が極端に増える事もなくまた死滅する事もなく共存し続ける。蒸発した水を補うと1年以上同じような状態で両者を観察する事ができる。
これを各種有害因子や有害物質に曝露すると培養系の生物群集が死滅あるいは減少するなどの変化を観測する事ができる。同時に培養系内における物質の移行、化学変化や挙動を長期間、観察する事ができる。
このように、本発明の培養系は、ミジンコとイトミミズという複数の生物を同時に飼育する系であるため、長期間生物の群衆が維持できる。従って、この培養系は複数の生物種からなる生物群集を長期間にわたり観察することが可能であり、従来の培養実験や毒物曝露実験では知る事ができなかった有害因子の影響を明らかにすることが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の培養系に使用するミジンコとしては、ミジンコ、ハリナガミジンコ、ウスカワハリナガミジンコ、カブトミジンコ、カムリハリナガミジンコ、カワリハリナガミジンコ、オオミジンコ、アオムキミジンコ、オカメミジンコ、トゲオカメミジンコ、トガリオカメミジンコ、アミメネコゼミジンコ、キレオネコゼミジンコ、ヒメネコゼミジンコ、ネコゼミジンコ等が挙げられる。
ミジンコは通常は1週間に1回程度産卵または仔を生み、寿命は約3ヶ月である。
【0008】
本発明の培養系に使用するイトミミズとしては、イトミミズ、ユリミミズ、フトゲユリミミズ、エラミミズ、ヒメイトミミズ、シロイトミミズ等が挙げられる。
イトミミズは培養条件に応じて適時産卵し徐々に増殖する。寿命は通常約6ヶ月から1年である。
【0009】
本発明の培養系に使用する腐朽有機物質としては、魚類、例えば、グッピー、金魚等観賞魚飼育槽の底に堆積した堆積物、活性汚泥、下水汚泥、ホテイアオイやクロモ等の水生植物を水中で腐朽させたもの等が挙げられる。必要により、鶏糞等を添加して窒素、リンを補給しても良い。
【0010】
培養系を構成するには、水(水道水を使用する場合には1日程度放置して塩素を除去したもの)に対して培養系の規模が5リットル程度の量であれば腐朽有機物質を乾燥質量で0.2~1.0質量%程度(腐朽有機物質及び水槽沈殿物の水分含有率は約98%である)加え、これにイトミミズを20~30匹とミジンコを20~30匹入れ、15~30℃、好ましくは22~24℃の照明下で維持すれば良い。照明としては人工照明でも天然光でもよく、例えば、家庭用の蛍光灯1本でも十分である。照度は2000~50000ルックス、好ましくは3000~5000ルックス程度が適当である。環境によっては2000ルックス以下、又は50000ルックス以上でも生物を生存させることができる。照明は昼夜連続でも良いが、夜間は消灯して昼夜のサイクルがあるほうが望ましい。しかし、直射日光による照射は一般に避けた方が良い。
このような条件下で約1ヶ月から6ヶ月培養すると最初にミジンコの個体数が増加して平衡に達する。続いてイトミミズの個体数がほぼ一定になるがミジンコと比較して長期間を要する。通常は上に述べたような5リットル程度の量であれば平衡状態に於いてはイトミミズ200~500匹、ミジンコ300~1000匹の培養系が確立する。この場合ミジンコは1ヶ月以内にほぼ一定数に達するがイトミミズは数ヶ月の期間徐々に増殖する。ただし、照明がミジンコに与える影響は培養系の水深及び水の透明度に依存し、イトミミズに与える影響はさらに水槽底の堆積物の厚さにも依存する。従って所定の培養系のもとで培養を開始すると、しばらくは生物を観察し、平衡状態に達しないようであれば照度を調整することで環境を整えることができる。
【0011】
培養系を維持するには、培養系を空気に開放し、自然蒸発により減少する水分を適宜補充し、適当な照明下で上記温度に保持すれば良い。上記温度より低くても、短期間であれば培養系の維持に支障ない。
本発明の培養系では、有機腐朽物質を栄養源として動植物プランクトンが生育し、これをミジンコが摂取して増殖し、ミジンコあるいは他のプランクトンの死骸をイトミミズが摂取して増殖し、イトミミズの排泄物や死骸が有機腐朽物質の一部となって、動植物プランクトンが生育するという生態系が循環しているものと考えられる。
【0012】
本発明はまた、上記培養系に、化学的及び/又は物理的刺激を与え、15~30℃で、照明下に保持し、所定期間経過後に、ミジンコ及び/又はイトミミズの生息状態を観察し、該化学的又は物理的刺激が環境に与える影響を評価する方法を提供するものである。
化学的及び/又は物理的刺激の例としては、各種有害因子、例えば、放射線、紫外線、電磁波、や有害物質、例えば、環境攪乱物質、重金属、農薬等が挙げられる。
【実施例】
【0013】
実施例1
培養系の確立
以下実施例を示し本発明をさらに具体的に説明する。
水槽でグッピー等の魚類を飼育した際に底に堆積してくる堆積物を採取した。これは魚類の糞や水中に繁殖したプランクトンの死骸が堆積したものである。この堆積物自体が培養系内の分解者であるバクテリアあるいはイトミミズの棲家となる。直径60mm深さ40mmの円筒形容器に70mlの培地(水70mlに堆積物0.4g乾燥重量で含む)を入れた。これにオオミジンコ10匹とイトミミズ10匹を入れ、22℃で蛍光灯の照明下(4000ルックス)、培養を行った。空気に開放して約1ヶ月間培養すると、オオミジンコは約20匹に増殖しほぼ平衡に達した。イトミミズはこの期間では個体数が変化しなかった。この培養系は、自然蒸発により減少する水分を適宜補充するだけでオオミジンコとイトミミズが徐々に世代交代しながら長期間維持される。培養系を攪拌する必要はない。これまでの実験では培養液が5リットルの場合少なくとも4年は培養系が維持されている。
上記培養系において、100ml以下の培養系ではオオミジンコあるいはイトミミズのみを入れて培養するといずれの場合も数ヶ月で死滅した。5リットル程度の規模では100mlよりも長期間生存する事があるが1年に達することはなかった。
【0014】
実施例2
放射線照射試験
オオミジンコとイトミミズを使用した本発明の培養系(70ml)に放射線を照射するとオオミジンコは1000Gyで約2日以内に全ての個体が死滅した。500Gy及び300Gyでは一部分生存するが仔を産まなくなり消滅した。しかし200Gy及び100Gy照射では仔を産む数が減少し、オオミジンコ全個体数の減少が観察されたが死滅する事はなかった。こうした個体数の少ない状態はしばらく続くものの次第に回復し、培養系内のオオミジンコの数は100Gyでは2ヶ月位の間に放射線照射以前の状態とほぼ同様に回復し、200Gyでは3ヶ月経過すると放射線照射以前の状態とほぼ同様に回復した。
なお上記照射線量のうち、200Gy及び100Gy照射ではイトミミズの死滅は認められなかった。
【0015】
実施例3
培養系の培養条件の検討
小分けした培養系を輸送する事を想定した環境下で以下のような実験も行った。
2リットルのペットボトルに本培養系を500ml入れ、残りの空間を酸素ガスで置換して密閉した。これを光が入らないように黒色フィルムで包み段ボール箱に入れて自動車のトランクに5日間放置した。その結果、このように振動する条件で、外気温11℃から20℃の間で変化する環境下においてもミジンコとイトミミズは死ななかった。その後これを明るい条件下(1日14時間 3000~5000ルックス)に出せば生き続けることがわかった。
上記密閉状態で3000~5000ルックスの光が当たり22~24℃の環境条件下では2ヶ月位の期間ミジンコとイトミミズが生き続けた。
【0016】
この培養系を種々の条件下で観察すると、沈殿物の上の水層が1cmくらいであれば2000ルックス以下でも生物が生存可能であるがミジンコの数が徐々に少なくなる傾向がある。一方で、沈殿物の上の水層が10cm位あると温室の天然光でミジンコの数が維持される。温室内が直射日光で高温にならなければ、10000ルックス以上で生存可能である。沈殿物を増量するとさらに効果があり、室温変動幅15℃から30℃、且つ昼間の天然光が10000~50000ルックスの照度の環境において、8ヶ月位の期間はミジンコとイトミミズが生き続けた。
【産業上の利用可能性】
【0017】
上に述べたように本発明は実際の環境を模擬した小規模生物群集をミジンコとイトミミズを用いて作ったものである。これらの生物が容器中で世代交代をするために各種負荷に対するその後の変化を継続して観察することが可能である。従来の技術では負荷による生物の死亡率を影響の指標にしてきたが本発明は死亡率のほかに世代交代に及ぼす影響や物質の挙動、化学変化、生物群集の回復過程などを知るために応用する事ができる。