TOP > 国内特許検索 > 常温溶融塩を用いた電気泳動法による希土類およびアルカリ土類元素の濃縮方法及び回収装置 > 明細書

明細書 :常温溶融塩を用いた電気泳動法による希土類およびアルカリ土類元素の濃縮方法及び回収装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4242313号 (P4242313)
公開番号 特開2005-264209 (P2005-264209A)
登録日 平成21年1月9日(2009.1.9)
発行日 平成21年3月25日(2009.3.25)
公開日 平成17年9月29日(2005.9.29)
発明の名称または考案の名称 常温溶融塩を用いた電気泳動法による希土類およびアルカリ土類元素の濃縮方法及び回収装置
国際特許分類 C25C   3/02        (2006.01)
C22B   3/00        (2006.01)
C22B   3/02        (2006.01)
C22B  26/20        (2006.01)
C22B  59/00        (2006.01)
C25C   3/34        (2006.01)
FI C25C 3/02 B
C22B 3/00 Z
C22B 3/02
C22B 26/20
C22B 59/00
C25C 3/34 Z
請求項の数または発明の数 8
全頁数 11
出願番号 特願2004-076644 (P2004-076644)
出願日 平成16年3月17日(2004.3.17)
審査請求日 平成18年1月11日(2006.1.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】松宮 正彦
【氏名】徳楽 清孝
【氏名】松浦 治明
個別代理人の代理人 【識別番号】100110168、【弁理士】、【氏名又は名称】宮本 晴視
審査官 【審査官】馳平 憲一
参考文献・文献 特開昭56-111026(JP,A)
特開2002-198104(JP,A)
国際公開第03/004727(WO,A1)
実開昭60-158148(JP,U)
特開昭63-212853(JP,A)
調査した分野 C25C 1/00-7/08
特許請求の範囲 【請求項1】
式NRで表される四級アンモニウムのカチオンと、[CF(CFSO、CFSO、PF、及びBFからなる群から選択される少なくとも一種のアニオンとから構成される常温(15℃以上20℃以下、JISK0211)の溶融塩中に希土類およびアルカリ土類元素に含まれる元素の少なくとも1種を含む資源を溶解させた後、常温において電気泳動により前記資源に含まれる前記元素を濃縮して回収する方法。(上記アンモニウムカチオンの式中R、R、R、Rは置換基を有していてもよい同一又は異なった炭素数1~6のアルキル基またはシクロアルキル基のいずれかである。また、nは0以上の整数を表す。)。
【請求項2】
前記常温溶融塩中において、資源に含まれる希土類およびアルカリ土類元素の濃度が1mol%以下である請求項1に記載の電気泳動による資源に含まれる前記元素を濃縮して回収する方法。
【請求項3】
前記常温溶融塩中における希土類およびアルカリ土類元素を電気泳動により濃縮する方法において電流密度を10mA/mm以下とする請求項1または2に記載の前記元素を濃縮して回収する方法。
【請求項4】
希土類およびアルカリ土類元素に含まれる元素の少なくとも1種を含む資源を溶解させた常温溶融塩(MB)を収容する常温溶融塩浴(B)、前記常温溶融塩中に浸漬された、常温溶融塩が浸透により流入する浸透部(PF)、電気泳動により濃縮・分離された元素の対流による拡散を防ぐ常温溶融塩で浸食されない充填材が充填され、浸透した常温溶融塩が陽極(AD)と接触する開口(OP)が設けられた分離管(ST)、電気泳動において前記陽極(AD)の対極として作用する常温溶融塩浴に配置された陰極(CD)、及び前記両電極間に電界を印加する電極(E)を有する常温溶融塩を用いた電気泳動法による希土類及びアルカリ土類元素の濃縮回収装置。
【請求項5】
常温溶融塩と陽極(AD)と接触する開口(OP)近傍に、分離管(ST)内の近傍に生成した濃縮溶融塩の取出手段(ET)を配置したことを特徴とする請求項4に記載の電気泳動法による希土類及びアルカリ土類元素の濃縮回収装置。
【請求項6】
濃縮溶融塩の取出手段を電気泳動法による希土類及びアルカリ土類元素の濃縮回収装置の常温溶融塩浴に供給するように配置し多段の濃縮を可能としたことを特徴とする請求項5に記載の電気泳動法による希土類及びアルカリ土類元素の濃縮回収装置。
【請求項7】
常温溶融塩(MB)を収容する常温溶融塩浴(B)内に、陽極(AD)、前記常温溶融塩中に浸漬された、常温溶融塩が浸透により流入する浸透部(PF)、電気泳動により濃縮・分離された元素の対流による拡散を防ぐ常温溶融塩で浸食されない充填材が充填され、浸透した常温溶融塩と前記陽極(AD)が接触し、電気泳動により元素が濃縮・分離された常温溶融塩が回収できる開口(OP)が設けられた分離管(ST)、電気泳動において前記陽極(AD)の対極として作用する常温溶融塩浴に配置された陰極(CD)、及び前記両電極間に電界を印加する電極(E)を2以上並列に配置したことを特徴とする常温溶融塩を用いた電気泳動法による希土類及びアルカリ土類元素の並列濃縮回収装置。
【請求項8】
常温溶融塩と陽極(AD)と接触する開口(OP)近傍に、分離管(ST)内の近傍に生成した濃縮溶融塩の取出手段(ET)を配置し多段の濃縮を可能としたことを特徴とする請求項7に記載の電気泳動法による希土類及びアルカリ土類元素の並列濃縮回収装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類およびアルカリ土類元素の少なくとも1種を含む種々の資源を常温の溶融塩(または、イオン性液体)に溶解させ、前記溶液に電界を加え、電気泳動により前記資源中に含まれる前記元素を濃縮し、濃縮塩を回収する方法および前記方法を実施するための装置、特に濃縮塩を連続回収する手段を有する連続稼動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車排ガス触媒、超伝導体、蛍光発光体、磁性体等に稀少資源である希土類元素やアルカリ土類元素が高機能性を付与する成分として使用されている。これらの資源から前記有用元素を、環境に負荷を与えず、効率的に回収できる手段の確立は、日常生活レベルの安定な維持などの面からも熱望されている技術的課題である。これまでに、希土類元素回収に関する技術としては、鉱酸を用いた又は陽極酸化のような電気化学的な手段を用いる処理によって使用済希土類元素などを含む資源から希土類元素を溶解させ、得られた溶解液に蓚酸又は蓚酸アルカリ等の沈澱剤を添加し、希土類元素を蓚酸塩の形で回収し、次いでその蓚酸塩を酸化焙焼することにより希土類元素を酸化物の形で回収する方法が提案されている(特許文献1、三井金属鉱業(株))。また、希土類元素等を含む被処理溶媒に、炭酸ヒドラジンを含む水溶液を逆抽出液として混入し、混合液を水相と有機相に分離し、水相から前記希土類元素等を回収する方法が提案されている(特許文献2、石川島播磨重工業(株))。しかし、これらの湿式法では分離効率が悪く、多段プロセスになり、システムの簡素化・選択的回収の高効率化に欠ける。また、大量の酸や有機溶媒を使用し、二次廃棄物が低減できないという大きな問題がある。
【0003】
このような中で、非特許文献1には無機系溶融塩を用いた電気泳動法によりCs、SrおよびGdなどの多価金属イオンを濃縮・分離する方法が報告されている。この方法は主として、塩化リチウムと塩化カリウム等に代表される共晶塩を前記イオンの溶媒として使用し、排水を伴わない技術であるが、この方法では水分を嫌うために、コストの嵩む複雑な設備を要する不活性雰囲気下での操業が要求される。また、吸湿性の少ない塩化ナトリウムと塩化カリウムの混合物等の場合には、融点が800℃程度と非常に高温で行われるため、溶融炉の材料が腐食する不都合があり、取り扱いや操業上の配慮が必要となる。
このような溶媒として、最近では、Alやその合金の電析に利用されているN-アルキルイミダゾリウムと塩化アルミニウム等で構成される常温溶融塩の有用性が注目されている。しかしながら、前記常温溶融塩(ハロアルミネート系)には、アルミニウムが含有されているので、目的の希土類塩の価数と同じである場合でもアルミニウムの濃縮に電気エネルギーが使われるため、希土類塩のみを効率良く濃縮させることが困難である。
このように、通常の前記無機系溶融塩及び前記ハロアルミネート系常温溶融塩を用いた電気泳動法を用いた前記元素の濃縮・分離技術については、これまで、特に常温かつ大気中での連続的操業という点で十分満足できる方法が確立されておらず、操業を簡易な設備でかつ安全に、また容易に行うことができる前記希土類元素の濃縮技術の確立が要望されていた。
【0004】

【特許文献1】特開2000-087154
【特許文献2】特開平09-243788
【非特許文献1】H.Matsuura et al.,J. Nucl.Sci.Technol.34(3),304,1998.
【非特許文献2】J.Sun,M.Foryth,D.R.MacFarlane,J.Phys.Chem.B 1998,102,8858-8864
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第1の課題は、化学的に安定な常温溶融塩を用いた効率の良い希土類およびアルカリ土類元素の濃縮・回収方法を提供することである。特に前記希土類元素を室温付近の温度において前記元素を含む資源を常温溶融塩に溶解させ電気泳動により濃縮する方法を提供することであり、更に好ましくは、大気下において操業が可能である前記方法を提供することである。また、本発明の第2は、前記電気泳動により濃縮する方法を進行させる溶媒を構成する常温溶融塩の効率的な再生方法を可能とした、常温溶融塩の廃棄量を極力減少させた前記方法を実施する装置を提供することである。
前記課題を解決すべく、常温溶融塩として公知、例えば前記非特許文献2に記載の、カチオンが炭素数1~6のアルキル基またはシクロアルキル基を置換基とする4級アンモニウムカチオンである溶融塩を用い、これに希土類およびアルカリ土類元素に含まれる元素の少なくとも1種を含む資源を溶解させ、前記元素を溶解させた常温溶融塩浴を作成し、前記常温溶融塩浴中に、電気泳動により前記元素を濃縮した領域を維持させる手段、例えば対流による拡散を阻止する手段が充填された分離管を浸漬して配置し、前記分離管内の上部に設けた陽極、及び溶融塩浴中に設けた前記分離管内の溶融塩に電気泳動の電圧を加える陰極を配置し、前記電極間に電気泳動電流を通電し、前記分離管内に前記元素を濃縮した溶融塩域を陽極側に生成させ、前記元素濃縮溶融塩域を分離管内から取り出すことにより、電気泳動法により前記元素の濃縮方法を試みたところ、前記分離管内に元素濃縮溶融塩域が形成されることを確認し、前記第1及び第2の課題を解決することができた。また、前記元素濃縮溶融塩域を分離管内から取り出した後、前記分離管内に進入してくる溶融塩に再度電気泳動電流の通電を行い、濃縮工程と元素濃縮溶融塩域の取り出し工程を連続的に行えることを確認し、電気泳動による前記元素の濃縮を連続的に実施する方法及び実施装置を確立することができた。
【0006】
また、前記電気泳動法を実施する、前記元素を濃縮した溶融塩域を生成する分離管及び前記分離管の前記元素濃縮溶融塩域を分離管内から取り出す手段、例えば、分離管の近傍に間欠的に動作する前記元素濃縮溶融塩域の吸引手段を含む電気泳動濃縮装置である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は、(1)式NRで表される四級アンモニウムのカチオンと、[CF(CFSO、CFSO、PF、及びBFからなる群から選択される少なくとも一種のアニオンとから構成される常温(15℃以上20℃以下、JISK0211)の溶融塩中に希土類およびアルカリ土類元素に含まれる元素の少なくとも1種を含む資源を溶解させた後、常温において電気泳動により前記資源に含まれる前記元素を濃縮して回収する方法。(上記アンモニウムカチオンの式中R、R、R、Rは置換基を有していてもよい同一又は異なった炭素数1~6のアルキル基またはシクロアルキル基のいずれかである。また、nは0以上の整数を表す。)である。好ましくは、(2)前記常温溶融塩中において、資源に含まれる希土類およびアルカリ土類元素の濃度が1mol%以下である前記(1)に記載の電気泳動による資源に含まれる前記元素を濃縮して回収する方法であり、また、好ましくは、(3)前記常温溶融塩中における希土類およびアルカリ土類元素を電気泳動により濃縮する方法において電流密度を10mA/mm以下とする前記(1)または(2)に記載の前記元素を濃縮して回収する方法である。
なお、nの上限は、通常3程度の常温でイオン性液体形成を可能とする値である。
【0008】
本発明の第2は、(4)希土類およびアルカリ土類元素の少なくとも1種を含む資源を溶解させた常温溶融塩(MB)を収容する常温溶融塩浴(B)、前記常温溶融塩中に浸漬された、常温溶融塩が浸透により流入する浸透部(PF)、電気泳動により濃縮・分離された元素の対流による拡散を防ぐ常温溶融塩で浸食されない充填材が充填され、浸透した常温溶融塩が陽極(AD)と接触する開口(OP)が設けられた分離管(ST)、電気泳動において前記陽極(AD)の対極として作用する常温溶融塩浴に配置された陰極(CD)、及び前記両電極間に電界を印加する電極(E)を有する常温溶融塩を用いた電気泳動法による希土類及びアルカリ土類元素の濃縮回収装置である。好ましくは、(5)常温溶融塩と陽極(AD)と接触する開口(OP)近傍に分離管(ST)内の近傍に生成した濃縮溶融塩の取出手段(ET)を配置したことを特徴とする前記(4)に記載の電気泳動法による希土類及びアルカリ土類元素の濃縮回収装置である。より好ましくは、(6)濃縮溶融塩の取出手段を電気泳動法による希土類及びアルカリ土類元素の濃縮回収装置の常温溶融塩浴に供給するように配置し多段の濃縮を可能としたことを特徴とする前記(5)に記載の電気泳動法による希土類及びアルカリ土類元素の多段濃縮回収装置である。また、本発明の第3は、(7)常温溶融塩(MB)を収容する常温溶融塩浴(B)内に、陽極(AD)、前記常温溶融塩中に浸漬された、常温溶融塩が浸透により流入する浸透部(PF)、電気泳動により濃縮・分離された元素の対流による拡散を防ぐ常温溶融塩で浸食されない充填材が充填され、浸透した常温溶融塩と前記陽極(AD)が接触し、電気泳動により元素が濃縮・分離された常温溶融塩が回収できる開口(OP)が設けられた分離管(ST)、電気泳動において前記陽極(AD)の対極として作用する常温溶融塩浴に配置された陰極(CD)、及び前記両電極間に電界を印加する電極(E)を2以上並列に配置したことを特徴とする常温溶融塩を用いた電気泳動法による希土類及びアルカリ土類元素の並列濃縮回収装置である。好ましくは、(8)常温溶融塩と陽極(AD)と接触する開口(OP)近傍に、分離管(ST)内の近傍に生成した濃縮溶融塩の取出手段(ET)を配置し多段の濃縮を可能としたことを特徴とする請求項7に記載の電気泳動法による希土類及びアルカリ土類元素の並列濃縮回収装置である。
【発明の効果】
【0009】
発明の効果として、常温(15℃以上20℃以下、JISK0211)溶融塩を用いることにより、操作性の良い条件下において希土類およびアルカリ土類元素の少なくとも1種を含む資源から前記元素を濃縮して回収することが可能な方法、特に連続的、更には多段の濃縮、回収可能な方法、及び前記方法を実施する装置の設計を可能としたことを挙げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
A)本発明を実施する電気泳動装置の一態様を図1に示す。
具体的には、図1の電気泳動法は二電極法である。すなわち、陽極(アノード)ADは、腐食を防ぐための保護管PC、例えば直径7mmの軟質ガラス製管中に配置された黒鉛からできており、前記電極ADの先端は、前記保護管PC2に接続した、最下部に保護管PC形成材料と同材の多孔体PF、例えばフィルターが設けられており、保護管内に電気泳動により濃縮された回収元素を含む常温溶融塩が対流により拡散するのを防ぐための、例えばアルミナ等のセラミックス製の非導電性の粒子状(粒子径75μmのアルミナ製の粒子)あるいは繊維状の物質が充填された、例えば長さ100mmの分離管ST上部において、常温溶融塩浴の液面に浸漬している。また、陰極(カソード)CDは、腐食を防ぐ被覆管PC1中に設けられた、例えば直径2mmのタングステン製の陰極CDからなり、常温溶融塩浴MB中に浸漬している。この状態で電源Eから電極間に電界を加えると、回収元素のイオン半径、電荷数、分極性、および導電率などの特性による移動度差により分離される。
【0011】
B)使用される常温溶融塩は基本的には請求項1に記載のものであればよい。また、前記非特許文献2、その他の公知文献に報告されている、回収目的の元素を含む資源を溶解できるものを使用できる。
常温溶融塩として、具体的な例示として、以下のものを挙げることができる。
1)TMHA・TfN(トリメチルヘキシルアンモニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド);
TMHA(トリメチルヘキシルアンモニウムカチオン)の臭化物(東京化成工業製)とTf(ビストリフルオロメチルスルホニルアミドアニオン)のリチウム塩(Fluka製)を蒸留水中、温度80℃で攪拌して反応させた。(TMHA+はトリメチルヘキシルアンモニウムカチオン、Tfはビストリフルオロメチルスルホニルアミドアニオン[CF(SO2)Nを示す。)前記反応で生じた常温溶融塩相をジクロロエタンで抽出し、エバポレーションにより溶媒を除去した。その後、真空乾燥してTMHA・TfNの常温溶融塩を得た。
2)TMHA・TfO(トリメチルヘキシルアンモニウム・トリフルオロメタンスルホン酸);
TMHAの臭化物(東京化成工業製)とTfOの銀塩(東京化成工業製)を蒸留水中、温度70℃で攪拌して反応させた。前記反応で生じた臭化銀の沈殿物をろ過した。常温溶融塩TMHA・TfOは、エバポレーションにより溶媒を除去し、その後、真空乾燥して得た。
【0012】
C)連続操業用の電気泳動装置の一態様を図2に示す。
常温溶融塩浴MBには、分離管STが設けられており、内部に前記充填材の充填層を有している。分離管ST内の充填層は、常温溶融塩の浸透部PFの上部、すなわち、陽極ADが接触する位置まで伸びている。前記分離管STの開口部OP近傍において常温溶融塩と接するように陽極(アノード)ADが取り付けられている。分離管は常温溶融塩に浸食されない非導電性の物質、例えば軟質ガラス等により形成されている。また、分離管内に形成する充填層は、前記したアルミナ等のセラミックス製の粒子状あるいは繊維状の物質から形成されている。粒子径の好ましい範囲は、前記濃縮元素の拡散を防止し、かつ、電気泳動による濃縮、回収の連続運転を効率的に実施できるように、常温溶融塩が浸透可能とする75~200μmである。陽極ADの構成材料は、黒鉛、白金、タングステン等の常温溶融塩浴中において安定であり、かつ、操作中に前記常温溶融塩から発生する第3級アミン類の気体に対して耐食性の物質が望ましい。また、陽極AD近傍には、前記陽極で発生する気体を除去する排気手段、例えばコックC2及びスクラバーSCが配置された、例えばアルゴン等の不活性ガスを流通させる排気構造を設けるのが好ましい。一方、電気泳動において、対極として作用する陰極CDは常温溶融塩浴MB中に設けられている。分離管STの下部の多孔体PFを通して、常温溶融塩が浸透するので、充填層中に十分に常温溶融塩が浸透した状態で、常温溶融塩の浸透部の上部に位置する常温溶融塩と接した陽極ADと常温溶融塩浴中に浸漬した陰極CDとの間に直流電源Eにより電気泳動電流を通電すると、充填層内を上昇するイオンが、電気泳動の作用によるイオンの移動度の違いによって押し戻される(counter flow)ことになる。前記押し戻される作用はイオン濃度の差による浸透圧により発生する。
【0013】
アルカリ土類イオンに比べて、希土類イオンは移動度が小さいので、陽極ADの近傍により多く濃縮されることになる。電気泳動によって濃縮された常温溶融塩は、分離管の陽極近傍に取り付けられた常温溶融塩取り出し管ETから吸引装置EPによって吸引され、充填層の上部の濃縮された部分のみが回収されて、濃縮物回収部RVへ集められる。回収された濃縮物はコックC1を開き流出管Dを経て回収される。前記濃縮常温溶融塩が分離されると下部から常温溶融塩が浸透し、分離管内の常温溶融塩の濃度が浴MB中の濃度と同程度になるが、再度電気泳動電流を通電すると、充填層内部の常温溶融塩浴の上部に目的成分が濃縮されるので、引き続き濃縮された常温溶融塩を分離して回収することができる。また、本発明の装置において、装置内に設ける分離管ST及び陽極ADを設けた電気泳動による濃縮、回収手段は1個に限定されず、並列的に多数配置し、陽極ADを電気的に並列接続することが効果的である。さらに、分離した濃縮塩を別に設けた常温溶融塩収容容器に集め、そこに前記電気泳動濃縮回収手段を配置した電気泳動濃縮回収装置とすることにより多段電気泳動濃縮回収装置を設計できる。前記多段装置とすることにより希土類及びアルカリ土類元素の濃度をさらに高めて、廃棄される常温溶融塩の消耗量を減少させることができる。
【実施例1】
【0014】
本発明の実施例1;
実験に使用する希土類金属塩(La(TfN))の調製。
過剰量のランタン酸化物(Wako製)にビス(トリフルオロメチル)スルホニルアミン(TfNH、Fluka製)を加え、水溶液中で温度70℃にて反応させた後、未反応の酸化物をろ過した。さらにエバポレーションにより濃縮し、その後真空乾燥して調製した。
電気泳動浴の調製;
常温溶融塩TMHA・TfNに前記希土類金属塩La(TfN)を金属イオン濃度が1mol%となるように添加した。次いで、吸引減圧下、100℃で一昼夜乾燥させて電気泳動浴とした。
電気泳動による濃縮試験;図1の電気泳動装置を用いた。
浴塩温度20℃、電流密度0.1mA/mmで250分間の電気泳動電流を通電した。通電電流を遮断後、常温溶融塩浴MB中の分離管STを引き上げて、急速に冷却し、分離管ST中の常温溶融塩を固化させた。全電気量はCuクーロメータAMにより測定した。分離管ST中のフラクション(陽極側からナンバリングした。)ごとのランタン濃度と第4級アミンであるTMHAの濃度を、それぞれICP発光分析とイオンクロマトグラフ装置を用いた定量分析により決定した。移動度の差によりランタンが濃縮された一例を図3に示す。図3はTMHA・TfN系において、La(TfN)が溶解した常温溶融塩中で電気泳動処理した後の浴塩の陽イオン成分に対するランタン濃度比を示したもので、縦軸はランタンの濃度比、横軸は陽極からの距離(cm)とフラクションナンバーである。電気泳動濃縮効果が確認できた。
【実施例2】
【0015】
実験に使用するアルカリ土類金属塩(Ba(TfN))の調製。
過剰量のバリウム酸化物(Wako製)にビス(トリフルオロメチル)スルホニルアミン(TfNH、Fluka製)を加え、水溶液中で温度70℃にて反応させた後、未反応の酸化物をろ過した。さらにエバポレーションにより濃縮し、その後真空乾燥した。
電気泳動条件;
希土類金属塩として実施例1で使用したランタンの塩に加えて、前記調製したアルカリ土類金属塩Ba(TfN)を用い、全溶質塩の濃度を0.1mol%とした。浴塩温度50℃、電流密度0.1mA/mmで,通電時間を280分間とした以外は実施例1と同一条件下で試験した。
電気泳動結果;図1の装置を使用した。
泳動実験後のランタンとバリウムの濃縮結果を図4に示す。縦軸は濃度比、横軸は陽極からの距離とフラクションナンバーを表し、実施例1と同様に、ランタン(●)とバリウム(○)の濃縮が確認できた。
【実施例3】
【0016】
常温溶融塩浴をTMHA・TfNからTMHA・TfOに変え、希土類塩としてセリウム塩、アルカリ土類塩としてバリウム塩の濃度を0.01mol%とし、浴塩温度200℃、電流密度10mA/mmで通電時間を260分間とした以外は実施例1と同一条件下で試験した。
電気泳動結果
泳動実験後のセリウムとバリウムの濃縮結果を図5に示す。縦軸は濃度比、横軸は陽極からの距離とフラクションナンバーを表し、初期濃度が低くても電気泳動による濃縮の効果は顕著に現れ、かつ電流密度が高いほど濃縮度が高く、希土類とアルカリ土類元素の効率の良い濃縮が確認できた。
【実施例4】
【0017】
連続操業の実験のために図2に示した電気泳動装置を用いた。
本発明は、常温溶融塩中の充填層内に希土類・アルカリ土類元素が濃縮された常温溶融塩を取り出すことによって、充填層を形成した分離管を繰り返し使用することを可能とするとともに、実質的に連続的な濃縮操作により濃縮塩を分離できることを確認したものである。
電気泳動浴の調製;
常温溶融塩TMHA・TfNに対して、1mol%のランタン、セリウム、バリウムをそれぞれTfNH塩として混合して、泳動浴を調製し、反応容器を100℃に保持した。
常温溶融塩浴MB中に直径4mmの軟質ガラス管の下部にフィルターPFを設けて、粒子径75μmのアルミナ粒子の充填層を形成した分離管STを充填層の上部が常温溶融塩浴の液面と一致するようにして取り付けた。充填層の上面に浸透した常温溶融塩部には、直径1mmの白金線の陽極を接触させた。他方の常温溶融塩の液面には直径1mmのタングステン線の陰極CDを配置した。両電極に電界を加え、電気泳動電流を通電した。平均228分間の電気泳動電流の通電後、通電電流を遮断し、ローラーポンプEPを用いて分離管STから吸引し、常温溶融塩中の分離管上部の常温溶融塩を濃縮物回収部RVへ回収した。以上の電気泳動電流の通電並びに濃縮物の分離操作を計12回繰り返した。取り出し濃縮塩の濃度分析結果を図6に示す。得られた常温溶融塩のランタン、セリウム、バリウムの平均濃度はそれぞれ23.8、20.7、15.9mol%であった。この結果ランタン、セリウム、バリウムは連続的に濃縮・回収されたことが分かる。
【実施例5】
【0018】
常温溶融塩浴MBとしてTMHA・TfNに替えてTMHA・TfOを使用し、0.1mol%のランタン、セリウム、バリウムを含み、反応容器を150℃に保持したこと以外は、実施例4と同じ条件で連続電気泳動による濃縮を実施した。平均287分間の電気泳動電流の通電後、通電電流を遮断し、ローラーポンプEPを用いて吸引し、常温溶融塩中の分離管上部の常温溶融塩を濃縮物回収部RVへと導入した。以上の電気泳動電流の通電並びに濃縮物の分離操作を計10回繰り返した。取り出し濃縮塩の濃度分析結果を図7に示す。得られた常温溶融塩のランタン、セリウム、バリウムの濃度はそれぞれ1.75、1.62、0.86mol%であった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の希土類・アルカリ土類イオンを溶解させたアンモニウムイミド系常温溶融塩を用いた電気泳動法により、従来、操業が困難であった希土類・アルカリ土類元素の濃縮を室温にて効率良く行うことが可能である。常温溶融塩中に蓄積する希土類・アルカリ土類塩を効率的に除去する装置の開発により、溶媒を繰り返し使用することが可能となり、二次廃棄物の量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の常温溶融塩を利用した電気泳動法を行う装置の一例の概略図E:直流電源、AD:黒鉛棒(陽極)、ST:分離管、PF:多孔体、MB:常温溶融塩浴、AM:銅クーロメータ、CD:タングステン線(陰極)、PC1,PC2:被覆管、B:電気泳動槽、
【図2】本発明の常温溶融塩を利用した電気泳動法において、連続的に濃縮物を取り出すことを目的とした装置の概略図;E:直流電源、AD:白金線(陽極)、ST:分離管、PF:多孔体、MB:常温溶融塩浴、AM:銅クーロメータ、CD:タングステン線(陰極)、PC1,PC2:被覆管、B:電気泳動槽、C1,C2:コック、OP:開口、ET:常温溶融塩取り出し管、EP:吸引装置、RV:濃縮物回収部、D:流出管、SC:スクラバー
【図3】実施例1に記載の電気泳動条件で実施した分離管内の各フラクションのランタン濃度比を示す分布図 ●:ランタン
【図4】実施例2に記載の電気泳動条件で実施した分離管内の各フラクションのランタン、バリウム濃度比を示す分布図 ●:ランタン、○:バリウム
【図5】実施例3に記載の電気泳動条件で実施した分離管内の各フラクションのセリウム、バリウム濃度比を示す分布図 ▲:セリウム、○:バリウム
【図6】実施例4に記載の電気泳動条件で実施した泳動回数と取り出し濃縮塩の濃度比を示す分布図●:ランタン、▲:セリウム、○:バリウム
【図7】実施例5に記載の電気泳動条件で実施した泳動回数と取り出し濃縮塩の濃度比を示す分布図●:ランタン、▲:セリウム、○:バリウム
【符号の説明】
【0021】
E:直流電源、AD:白金線(陽極)、ST:分離管、PF:多孔体、MB:常温溶融塩浴、AM:銅クーロメータ、CD:タングステン線(陰極)、PC1,PC2:被覆管、B:電気泳動槽、C1,C2:コック、OP:開口、ET:常温溶融塩取り出し管、EP:吸引装置、RV:濃縮物回収部、D:流出管、SC:スクラバー
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6