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明細書 :移植片対宿主病(GVHD)モデル動物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5242882号 (P5242882)
公開番号 特開2005-278558 (P2005-278558A)
登録日 平成25年4月12日(2013.4.12)
発行日 平成25年7月24日(2013.7.24)
公開日 平成17年10月13日(2005.10.13)
発明の名称または考案の名称 移植片対宿主病(GVHD)モデル動物
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
A61P  37/02        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01K 67/027
A61P 37/02
G01N 33/15 Z
請求項の数または発明の数 2
全頁数 19
出願番号 特願2004-100061 (P2004-100061)
出願日 平成16年3月30日(2004.3.30)
審判番号 不服 2010-011718(P2010-011718/J1)
審査請求日 平成18年10月2日(2006.10.2)
審判請求日 平成22年6月1日(2010.6.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】高井 俊行
【氏名】中村 晃
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
参考文献・文献 FASEB J.,18(4)(2004.3.23),A84 91.13
Nat. Immunol.,3(6)(2002),p.542-548
J. Immunol.,169(10)(2002),p.5581-5589
調査した分野 A01K67/027
C12N15/09-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamll)
PubMed
BIOSIS/MEDLINE/CA(STN)
WPI
特許請求の範囲 【請求項1】
PIR-Bをコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部が破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化され、PIR-Bを発現する機能を失なった非ヒト動物からなる移植片対宿主病(GVHD)モデル動物に、非自己の脾臓細胞と被検物質とを静脈内に投与し、移植片対宿主病(GVHD)の症状改善の程度をマクロファージ上のPIR-AとH-2との結合の程度を指標として測定・評価することを特徴とする移植片対宿主病(GVHD)の予防・治療剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
致死量以下の放射線照射を行った後に、非自己の脾臓細胞と被検物質とを静脈内に投与することを特徴とする請求項1記載の移植片対宿主病(GVHD)の予防・治療剤のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、移植片対宿主病(GVHD)モデル動物、詳しくはPIR-BノックアウトマウスからなるGVHDモデル動物や、かかるGVHDモデル動物を用いたGVHDの予防・治療剤のスクリーニング方法や、MHCクラスI分子を認識する受容体タンパク質PIR-B及びその遺伝子や、PIR-Bのヒトホモログを有効成分とするGVHDの予防・治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫システムは、2つの確立した自己認識機構を有している。すなわち、T細胞、NK細胞の、それぞれT細胞受容体(TCR)及びキラー受容体である。胸腺間質細胞上に自己ペプチドを有する主要組織適合複合体(MHC)クラスI及びクラスII分子は、自己に対する適切な反応性を有するTCRをもつT細胞の選択に使われる。他方で、同種MHCクラスIを有する細胞障害性T細胞(CTL)へのTCRの関与は、ターゲットの除去を誘発する。NK細胞上の抑制キラー受容体は自己組織に損傷を与えないように、クラスI分子を認識する(例えば、非特許文献1~3参照)。組織移植では、ドナーとレシピエントとの間のMHCのミスマッチは、レシピエントCTLによる移植片の拒絶を導く。反対に、免疫無防備状態の個体への骨髄移植は、移植片対宿主病(GVHD)の原因となり、ドナーのCTLが、同種のMHCクラスIを有する樹状細胞(DC)等のレシピエントの抗原提示細胞によって活性化され、宿主組織に有害なダメージを与える(例えば、非特許文献4参照)。
【0003】
最近、様々なヒトリンパ球及び骨髄細胞に発現するいくつかの白血球免疫グロブリン(Ig)様受容体(LILR、以前は、ILT/LIR/MIR/HM)が、MHCクラスI又はそれに関連する分子に結合することが示された(例えば、非特許文献5~7参照)。ITIM(Immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif)をハーバリングする抑制LILRである、MHCクラスIを有するLILRB1又はLILRB2の関与は、CD40リガンドを介してIL-1α、TNF-α、IL-6等の様々なサイトカインの骨髄単球性細胞による分泌をダウンレギュレートするネガティブシグナルを伝達する(例えば、非特許文献5、7、9参照)。さらに近年、LILRB2及びLILRB4が、同種間心臓移植における、移植片生着に関与していることが示唆された(例えば、非特許文献10参照)。しかし、適切な動物モデルが存在しないため、ヒトLILRの生理学的、病理学的な重要性に関する多くの解釈は、まだ確認されていない。
【0004】
対のIg様受容体(PIR)-A及び-B(例えば、非特許文献11、12参照)は、構造、発現形式及びゲノム位置の類似性により、ヒトLILRの関連体又はオルソログとして提案されている(例えば、非特許文献13~17参照)。PIR-A及び-Bは、B細胞、マスト細胞、マクロファージ、顆粒球及びDCを含む様々な造血細胞系譜で発現するが、T細胞やNK細胞では発現しない(例えば、非特許文献12、13参照)。PIR-A及びPIR-Bの外部ドメインのアミノ酸配列は、それらの中では、かなり相同性が高い(同一性92%以上)(例えば、非特許文献12、13参照)。PIR-Aは、数多くの遺伝子によりコードされ、細胞表面での発現と、活性化シグナルのデリバリーには、Fc受容体共通γ鎖(FcRγ)を必要としている(例えば、非特許文献14、18~20参照)。反対に、PIR-Bは、単一の遺伝子によってコードされ、その細胞質部分にITIMを有し、B細胞抗原受容体(BCR)などの他の活性化型受容体の細胞間の関与によって、インビトロの受容体を介しての活性化シグナルを抑制する(例えば、非特許文献19、21、22参照)。PIR-B欠損(PIR-B-/-)マウスを、T依存性抗原で免疫化したところ、増大したIL-4生成及び増強したIgG1及びIgE生成を含む、Tヘルパー2(TH2)応答が増強し、アレルギー反応等のTH2ゆがみ状況(TH2skewing condition)の発達におけるPIR-Bの制御的役割を示唆した(例えば、非特許文献23参照)。LILRBとの類似性と、及び脾細胞内のPIR-Bの恒常的なリン酸化が、β2-ミクログロブリン(β2m)欠損(β2-/-)マウスにおいて減少することを見い出したこと(例えば、非特許文献24参照)で、PIR-Bが、古典的又は非古典的なMHCクラスI分子を認識することを示唆した。胎児栄養芽細胞の非古典的なMHCクラスIbである、ヒトの組織適合白血球抗原(HLA)-Gが、PIR-Bと結合する(例えば、非特許文献25参照)との観察が、この点を裏付けている。しかし、PIRとMHCクラスI間の相互作用、又は生理学的な重要性に対する直接な証拠はない。
【0005】
他方、骨髄移植の際、免疫抑制剤(コルチコステロン(プレドニゾロン)、抗胸腺細胞グロブリン、シクロスポリン、など)が用いられている。これらの免疫抑制剤は、現在のところ拒絶反応を抑えるためには必須であるが、正常な免疫力低下(易感染症)以外にも、肝・腎機能を低下させるといった副作用がある。また、α-グリコシルセラミドを含有する移植片対宿主病(GVHD)を抑制し、かつ移植片の生着率を促進する薬剤(例えば、特許文献1参照)や、レチノイン酸レセプター(RAR)アゴニストを有効成分とする移植片対宿主疾患および臓器移植時の移植片拒絶反応の予防・治療剤(例えば、特許文献2参照)や、末梢血移植後に、ヒトG-CSFを移植レシピエントに投与することにより、GVHDを抑制する方法(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0006】
また、生体内でのTh2型免疫応答の機構や、アレルギーの発症機構が解析することができ、かつB細胞の過剰応答のみならずアレルギーなどを発症しやすい、PIR-B遺伝子機能が染色体上で欠損したTh2型過剰免疫応答モデルマウスも知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】

【特許文献1】特開2002-284692号公報
【特許文献2】特開平10-158192号公報
【特許文献3】WO01/028581号公報
【特許文献4】特開2003-134964号公報
【非特許文献1】Scand. J. Immunol. 55, 221-228, 2002
【非特許文献2】Nat. Rev. Immunol. 1, 41-49, 2001
【非特許文献3】Science 290, 84-89, 2000
【非特許文献4】Science 285, 412-415, 1999
【非特許文献5】J. Leukoc. Biol. 66, 375-381, 1999
【非特許文献6】Cytokine Growth Factor Rev. 11, 209-217, 2000
【非特許文献7】Annu. Rev. Immunol. 17, 875-904, 1999
【非特許文献8】J. Exp. Med. 186, 1809-1818, 1997
【非特許文献9】J. Immunol. 160, 3096-3100, 1998
【非特許文献10】Nat. Immunol. 3, 237-243, 2002
【非特許文献11】J. Biol. Chem. 272, 7320-7327, 1997
【非特許文献12】Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 94, 5261-5266, 1997
【非特許文献13】J. Biochem. 123, 358-368, 1998
【非特許文献14】J. Exp. Med. 189, 309-318, 1999
【非特許文献15】Curr. Top. Microbiol. Immunol, 244, 137-149, 1999
【非特許文献16】Immunol. Rev. 181, 215-222, 2001
【非特許文献17】Nat. Rev. Immunol. 3, 445-453, 2003
【非特許文献18】J. Exp. Med. 188, 991-995, 1998
【非特許文献19】J. Immunol. 161, 4042-4047, 1998
【非特許文献20】J. Biol. Chem. 274, 30288-30296, 1999
【非特許文献21】Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 95, 2446-2451, 1998
【非特許文献22】J. Exp. Med. 187, 1355-1360, 1998
【非特許文献23】Nat. Immunol. 6, 542-548, 2002
【非特許文献24】Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 96, 15086-15090, 1999
【非特許文献25】Eur. J. Immunol. 32, 2418-2426, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
GVHDの抑制物質としてのT細胞およびNK細胞上に発現する分子が、T細胞およびNK細胞上に発現し、GVHDに関与する遺伝子欠損動物を用いたGVHDモデルなどで検討されているが、GVHDでの特異的な関与がまだ明確ではない。本発明の課題は、致死性の移植片対宿主病(GVHD)を発症するモデル動物や、かかるGVHDモデル動物を用いたGVHDの予防・治療剤のスクリーニング方法や、MHCクラスI分子を認識する受容体タンパク質PIR-B及びその遺伝子や、PIR-Bのヒトホモログを有効成分とするGVHDの予防・治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、PIR-B、及び実質的にPIR-Aも、様々なH-2分子と結合し、H-2結合後チロシン系細胞シグナリングを開始できることを見い出した。PIR-B分子の細胞外部分のリコンビナント蛋白を哺乳類細胞のシステムを用いて作製し、PIR-B蛋白とMHCクラスI分子との結合をBiacore assay(表面共鳴反応)を行い、具体的にはBiacoreのセンサーチップ上にMHCクラスI分子を固定したのちに、PIR-B蛋白を流し、解離定数を測定することにより、MHCクラスI分子がPIR-Bのリガンドであることを証明した。また、GVHDの抑制物質PIR-Bが、GVHDの起点となる樹状細胞上でMHCクラスI分子の認識機構において重要な役割を果たすことを見い出した。さらに、あらかじめ非致死線量である6Gyの放射線照射を行ったPIR-B-/-C57BL/6(B6、H-2b)マウスにBALB/c(H-2d)マウスの脾臓細胞を静脈注射したレシピエントマウスでは、樹状細胞(DC)の活性化が増加し、同時にPIR-Aのアップレギュレーションがおきるので、急激に致命的なGVHDを発症することを見い出した。PIR-Bは樹状細胞や、B細胞、マスト細胞をはじめとする骨髄球系細胞において、主要組織適合抗原MHCクラスI分子を認識する免疫グロブリン様受容体であり、その遺伝子欠損マウスは高感受性のGVHDモデル動物になるとの知見を得た。またPIR-BはGVHDの抑制物質として作用し、移植治療における新規の阻害物質となりうるとの知見を得た。本発明はこれらの知見に基づき完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち本発明は、PIR-Bをコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部が破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化され、PIR-Bを発現する機能を失なった非ヒト動物からなる移植片対宿主病(GVHD)モデル動物に、非自己の脾臓細胞と被検物質とを静脈内に投与し、移植片対宿主病(GVHD)の症状改善の程度をマクロファージ上のPIR-AとH-2との結合の程度を指標として測定・評価することを特徴とする移植片対宿主病(GVHD)の予防・治療剤のスクリーニング方法(請求項1)や、致死量以下の放射線照射を行った後に、非自己の脾臓細胞と被検物質とを静脈内に投与することを特徴とする請求項1記載の移植片対宿主病(GVHD)の予防・治療剤のスクリーニング方法(請求項2)に関する。
【発明の効果】
【0011】
骨髄移植後のGVHDは、移植された骨髄にあるドナーの免疫細胞が宿主の組織に対する抗体を作ることにより起こるものである。具体的には、骨髄移植後のGVHDは、ドナーの細胞障害性Tリンパ球(CTLs)がレシピエント(宿主)の抗原提示細胞(樹状細胞等)を活性化し、宿主組織を傷害することにより発症・増悪化する。本発明のGVHDモデル動物では、PIR-Bがノックアウトされているので、PIR-Bによる抑制がかからないため、PIR-Aが優位となり、ドナーのCTLsを活性化し、GVHDに高感受性となる。この結果、GVHD発症がPIR-Bにより抑制されることが明らかとなった。白血病や重度の免疫不全症などの根治治療法として骨髄移植が実施されているが、非血縁者からの骨髄移植でしばしば急性のGVHDを発症し、死を招くことがある。しかし、本発明により、PIR-BはGVHDの抑制物質として作用し、移植治療における新規の治療法を提供するものとして期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のモデル動物としては、PIR-Bをコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部が破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化され、PIR-Bを発現する機能を失ない、GVHDを発症する非ヒト動物であれば特に制限されないが、例えば6Gy程度の致死量以下の放射線照射を行い、非自己の脾臓細胞を静脈内に投与することにより、致死性のGVHDを発症するGVHDモデル動物を好適に例示することができる。上記非ヒト動物としては、PIR-Bの発現が認められるマウスやラットの他、PIR-BのトリホモログCHIR(Dennis G Jr, Kubagawa H, Cooper MD. Paired Ig-like receptor homologs in birds and mammals share a common ancestor with mammalian Fc receptors.Proc Natl Acad Sci U S A. 2000 Nov 21;97(24):13245-50.)をコードする内在性遺伝子が不活性化され、CHIRを発現する機能を失なったトリを便宜上例示することができる。以下、PIR-Bをコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部が破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化され、PIR-Bを発現する機能を失なったPIR-Bノックアウトマウスについて説明する。
【0013】
PIR-Bノックアウトマウスは、文献(Nature 379, 346-349, 1996)に記載する方法等によって作製することができる。具体的には、マウス遺伝子ライブラリーからPCR等の方法により得られた遺伝子断片を用いて、PIR-B遺伝子 をスクリーニングし、スクリーニングされたPIR-B遺伝子 を組換えDNA技術により、PIR-B遺伝子 の全部又は一部を、例えばネオマイシン耐性遺伝子等のマーカー遺伝子で置換し、5′末端側にジフテリアトキシンAフラグメント(DT-A)遺伝子や単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子等の遺伝子を導入してターゲティングベクターを作製し、この作製されたターゲッティングベクターを線状化し、エレクトロポレーション(電気穿孔)法等によってES細胞に導入し、相同的組換えを行い、その相同的組換え体の中から、G418やガンシクロビア(GANC)等の抗生物質に抵抗性を示すES細胞を選択する。この選択されたES細胞が目的とする組換え体かどうかをサザンブロット法等により確認することが好ましい。
【0014】
上記組換えES細胞をマウスの胚盤胞中にマイクロインジェクションし、かかる胚盤胞を仮親のマウスに戻し、キメラマウスを作製する。このキメラマウスを野生型のマウスと交配させると、ヘテロ接合体マウスを得ることができ、また、このヘテロ接合体マウスを交配させることによって、PIR-Bノックアウトマウスを得ることができる。そして、かかるPIR-BノックアウトマウスにおけるPIR-B遺伝子 が染色体上で欠損していることを確認する方法としては、例えば、上記の方法により得られたマウス脾臓B細胞からDNAを単離してサザンブロット法等により調べる方法や、このマウスの脾臓B細胞等から抽出したタンパク質をイムノブロット分析等により調べる方法等を挙げることができる。
【0015】
本発明のGVHDモデル動物は、GVHD発症のメカニズムの解析に有用であり、致死量以下の放射線照射を行い、非自己の脾臓細胞を静脈内に投与することにより、致死性のGVHDを発症することから、本発明のGVHDモデル動物を用いて、これらの生体反応を調節する物質のスクリーニングに使用することができる。すなわち、かかるGVHDモデル動物を用いると、PIR-Bと同様の抑制作用を有する物質等のGVHDの予防・治療剤のスクリーニングの予防・治療剤のスクリーニングを行うことができる。
【0016】
本発明のGVHDの予防・治療剤のスクリーニング方法としては、本発明のGVHDモデル動物に、非自己の脾臓細胞と被検物質とを静脈内に投与し、GVHDの症状改善の程度を測定・評価するスクリーニング方法であれば特に制限されず、非自己の脾臓細胞と被検物質との静脈内への投与は、例えば6Gy程度の致死量以下の放射線照射を行った後に行うことが好ましい。GVHDの症状改善の程度の測定・評価は、GVHDの発症の程度を対照となる野生型と目視により比較する方法の他、以下の実施例に記載されているように、B細胞及びマクロファージ上のネイティブPIRとH-2との結合の程度や、PIRを介してのH-2のシグナリング開始の程度や、レシピエントDCによるPIR-Aのアップレギュレートの程度を測定し、対照となる野生型と比較する方法を挙げることができる。
【0017】
かかるGVHDの予防・治療剤としては、LILRB1、LILRB2、LILRB3、LILRB4等のPIR-Bのヒトホモログを有効成分とする予防・治療剤を挙げることができ、これら予防・治療剤は、骨髄移植患者のGVHD発症の予防や、GVHDを発症した骨髄移植患者の治療等に用いることができる。医薬品として用いる場合、経口的あるいは非経口的に投与することができるが、静脈投与等の非経口的投与が好ましい。非経口投与剤として注射剤、経皮製剤あるいは座薬等とすることができる。また、経口投与剤としては散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤などの固形製剤あるいはシロップ剤、エリキシル剤などの液状製剤とすることができる。これらの製剤は活性成分に薬理学的、製剤学的に認容される助剤を加えることにより常法に従って製造することができる。助剤としては、例えば、経口剤および粘膜投与剤にあっては、軽質無水ケイ酸、澱粉、乳糖、結晶セルロース、乳糖カルシウム等の賦形剤、カルボキシメチルセルロ-ス等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシム等の滑沢剤などの製剤用成分が、また注射剤にあっては、生理食塩水、マンニトール、プロピレングリコ-ル等の溶解剤ないし溶解補助剤、界面活性剤などの懸濁化剤などの製剤用成分が、さらに外用剤にあっては、水性ないし油性の溶解剤ないし溶解補助剤、粘着剤などの製剤用成分が使用される。また、投与量は、対象疾患の種類、患者の年齢、性別、体重、症状、投与形態に応じて適宜決定することができる。
【0018】
本発明のMHCクラスI分子を認識する受容体タンパク質をコードするDNAとしては、(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列(PIR-Bの外部ドメイン)をコードする塩基配列;(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつMHCクラスI分子との結合活性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列;(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつMHCクラスI分子との結合活性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列;(D)配列番号1に示される塩基配列(PIR-Bの外部ドメインをコードするDNA);(E)配列番号1に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつMHCクラスI分子との結合活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;又は(F)配列番号1に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつMHCクラスI分子との結合活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;の何れかの塩基配列からなるDNAであれば特に制限されず、また、本発明のMHCクラスI分子を認識する受容体タンパク質としては、(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列;(B)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつMHCクラスI分子との結合活性を有するアミノ酸配列;又は(C)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつMHCクラスI分子との結合活性を有するアミノ酸配列;の何れかのアミノ酸配列からなるタンパク質であれば特に制限されず、ここで「MHCクラスI分子との結合活性を有するタンパク質をコードする塩基配列」とは、MHCクラスI分子との結合に何らかの形で関与するタンパク質をコードする塩基配列を意味し、その具体的な作用機構は特に限定されない。
【0019】
上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1~20個、好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個の任意の数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を意味する。また、上記「1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列」とは、例えば1~20個、好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個の任意の数の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を意味する。
【0020】
例えば、これら1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNA(変異DNA)は、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により作製することもできる。具体的には、配列番号1に示される塩基配列からなるDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらDNAに変異を導入することにより、変異DNAを取得することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989.以後 "モレキュラークローニング第2版" と略す)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1~38,John Wiley & Sons (1987-1997)等に記載の方法に準じて行うことができる。この変異DNAを適切な発現系を用いて発現させることにより、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質を得ることができる。
【0021】
上記「配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも60%以上の相同性を有するアミノ酸配列」とは、配列番号2に示されるアミノ酸配列との相同性が60%以上であれば特に制限されるものではなく、例えば、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上であることを意味する。
【0022】
上記「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列」とは、DNA又はRNAなどの核酸をプローブとして使用し、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られる塩基配列を意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAまたは該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7~1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1~2倍程度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAをあげることができる。ハイブリダイゼーションは、モレキュラークローニング第2版等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0023】
例えば、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げることができ、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAを好適に例示することができる。
【0024】
本発明のDNAの取得方法や調製方法は特に限定されるものでなく、本明細書中に開示した配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列又は塩基配列情報に基づいて適当なブローブやプライマーを調製し、それらを用いて当該DNAが存在することが予測されるcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより目的の遺伝子を単離したり、常法に従って化学合成により調製することができる。
【0025】
本発明のMHCクラスI分子を認識する受容体タンパク質の取得・調製方法は特に限定されず、天然由来のタンパク質でも、化学合成したタンパク質でも、遺伝子組換え技術により作製した組み換えタンパク質の何れでもよい。天然由来のタンパク質を取得する場合には、かかるタンパク質を発現している細胞又は組織からタンパク質の単離・精製方法を適宜組み合わせることにより、本発明のタンパク質を取得することができる。化学合成によりタンパク質を調製する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って本発明のタンパク質を合成することができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して本発明のタンパク質を合成することもできる。遺伝子組換え技術によりタンパク質を調製する場合には、該タンパク質をコードする塩基配列からなるDNAを好適な発現系に導入することにより本発明のタンパク質を調製することができる。これらの中でも、比較的容易な操作でかつ大量に調製することが可能な遺伝子組換え技術による調製が好ましい。
【0026】
例えば、遺伝子組換え技術によって、本発明のMHCクラスI分子を認識する受容体タンパク質を調製する場合、かかるタンパク質を細胞培養物から回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法、好ましくは、高速液体クロマトグラフィーが用いられる。特に、アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、本発明のタンパク質に対するモノクローナル抗体等の抗体を結合させたカラムや、上記本発明のタンパク質に通常のペプチドタグを付加した場合は、このペプチドタグに親和性のある物質を結合したカラムを用いることにより、これらのタンパク質の精製物を得ることができる。また、本発明のタンパク質が細胞膜に発現している場合は、細胞膜分解酵素を作用させた後、上記の精製処理を行うことにより精製標品を得ることができる。
【0027】
さらに、配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列の一例を示す配列番号1に示される塩基配列の情報に基づいて当業者であれば適宜調製又は取得することができる。例えば、配列番号1に示される塩基配列又はその一部を有するDNAをプローブとしてマウス以外の生物より、該DNAのホモログを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる。このホモログDNAの全長DNAをクローニング後、動物細胞用発現ベクターに組み込み適当な動物細胞で発現させることにより、該ホモログDNAによりコードされるタンパク質を製造することができる。
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
[結果]
1.組換えPIR-Bの外部ドメインとH-2との結合
哺乳類細胞発現機構に、単一の抑制性のPIRアイソフォームであるPIR-Bの外部ドメインの組換えタンパク質を作製した。親和性を測定するために、H-2モノマーが固定されたバイオセンサーチップを装備した表面プラズモン共鳴(SPR)分析用のフローセル内に適用した。組換えPIR-B(rPIR-B)は、バイオセンサーチップ上で、Kd=2.4×10-11Mの高親和性で、抗PIR-A/Bモノクローナル抗体(6Cl)と結合できることを確認し(図1a)、その後、rPIR-BとH-2モノマー間の結合反応を評価した。不適切なタンパク質、ウシ血清アルブミンは、H-2モノマーと結合しなかったが、rPIR-BはH-2Ld、H-2Dd、H-2Kb、H-2Kk及びH-2KdのH-2分子とKd=1.9-5.6×10-7Mの親和性で結合した(図1b、c)。単量体H-2においては、PIR-B外部ドメインは、例えば、IgGと低親和性Fcγ受容体間の親和性(Curr. Opin. Immunol. 14, 798-802, 2002、Nat. Rev. Immunol. 8, 580-592, 2002)に匹敵する程度の低親和性を示した。低親和性のFcγ受容体は、インビトロ及びインビボで、多量体IgG又はIgG免疫複合体と非常に効率的に結合できる。予想通り、SPR分析でPIR-B外部ドメインは、H-2Ld、Kb、Dd、Kkにそれぞれ、Kd=2.6×10-9、1.0×10-8、1.2×10-8、1.4×10-8Mの高い親和性で、四量体H-2と結合した。
【0030】
最近、LILRB1は、MHCクラスIのβ2mと結合することが報告されている(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 100, 8856-8861, 2003)。そこで次に、rPIR-Bが、マウスβ2mと結合できるかどうかを調べた。図1dに示すように、rPIR-Bは、Kd=4.6×10-8Mの親和性で、β2mと結合した。この結果は、rPIR-BとH-2間の少なくとも1つの接触面がβ2mに局在し、rPIR-BとH-2モノマーへの明らかに広範な結合特異性の理由を説明できるかもしれない。
【0031】
2.B細胞及びマクロファージ上のネイティブPIRとH-2との結合
本発明者らは、PIR-B-/-マウスの脾臓B細胞は、恒常的に活性化され、BCR刺激に対して反応性亢進(hyper-reactive)となることを既に報告している(Nat. Immunol. 6, 542-548, 2002)。上記の結果と合わせて、B細胞上のPIR-Bは、周囲の細胞又は自らの細胞上でH-2と結合し、それはB細胞の恒常的サイレンシングを導くかもしれない。そこで、本発明者らは、H-2とB細胞上のPIR-Bのインビトロでの結合を確認しようとした。未熟なB細胞が、Ly49D等のH-2結合分子を発現するにもかかわらず(J. Immunol. 171, 4630-4638, 2003)、脾臓B220+B細胞の大部分(90%以上)は成熟B細胞であり、PIR-A(Nat. Immunol. 6, 542-548, 2002)も他の周知のH-2結合分子も発現しない。したがって、脾臓B細胞は、H-2とPIR-Bの結合を調べるために適している。脾臓B220+B細胞は、FITC-共役H-2Ld四量体、及びPE標識抗PIR-A/Bモノクローナル抗体(6Cl)のいづれかで標識化し、その局在性を調べた。SPR分析と一致して、6Clの蛍光は、実質的に、H-2Ld四量体の蛍光と共在していた(図2a)。反対に、PIR-B-/-マウスの脾臓B細胞は、FITC標識H-2四量体又はPE-6Clと結合しない。これらの結果は、B細胞上のネイティブPIR-Bが、四量体H-2と結合することを強く示唆した。
【0032】
B細胞とは対照的に、マクロファージは、PIR-A及びPIR-B両方を発現する(Nat. Immunol. 6, 542-548, 2002)。PIR-B欠損マクロファージでは、抗PIR-A/Bモノクローナル抗体により認識されているターゲット分子は、PIR-Aである。これに対し、FcRγ欠損(FcRγ-/-)マウスのマクロファージでは、PIR-Bである(Nat. Immunol. 6, 542-548, 2002)。PIR-B-/-及びFcRγ-/-マウス並びに野生型マウスの腹膜マクロファージを、FITC-H-2Ld及びPE-6Clの両方で標識化したところ、全ての遺伝子型でこれらの細胞で、H-2Ld四量体とPE-6Cl結合の共在を観察し(図2b)、マクロファージの未変性PIR-A及びPIR-BのMHCクラスIとの結合を示唆した。PIR-B-/-及びFcRγ-/-マクロファージで観察したH-2Ld及び6Cl結合の蛍光強度は、野生型マクロファージのより小さく(図2b;各遺伝子型の上パネル)、それぞれPIR-B又はPIR-Aの貢献の減少を示唆した。この概念、すなわちPIR-AとMHCクラスIの結合は、PIR-AとPIR-Bの外部ドメインのアミノ酸配列の相同性が非常に高い(同一性92%)(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 94, 5261-5266, 1997、J. Biochem. 123, 358-368, 1998)ので、論理的である。これらの結果は、ネイティブPIR-B及び実質的にPIR-Aも、四量体H-2と効率的に結合することを強く示唆している。
【0033】
3.PIRを介してのH-2のシグナリング開始
H-2分子は、様々なマウス造血細胞及び非造血細胞に幅広く発現している。四量体H-2とB細胞のPIR-Bとの結合は、PIR-B細胞質部分中の恒常的なITIMのリン酸化により、B細胞が恒常的にサイレントになるので、隣接細胞又はそれ自体におけるH-2分子が、PIR-Bの恒常的なクラスター形成を誘導することを示唆した(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 96, 15086-15090, 1999、Eur. J. Immunol. 32, 2418-2426, 2002)。この点は、インビトロ及びインビボでBCRの特異的な刺激が欠如しているときの、PIR-B-/-マウスのB細胞の反応性亢進状態と一致している(Nat. Immunol. 6, 542-548, 2002)。そこで、四量体H-2分子と、B細胞のPIR-Bとの結合が、実際にPIR-Bのチロシンのリン酸化のアップレギュレーションを導くかどうかを調べた。様々なH-2四量体を、B220+脾臓B細胞に添加し、続いてPIR-Bのホスホチロシル化(phosphotyrosylation)を、免疫沈降法及びイムノブロット分析でモニターした。各H-2四量体での刺激後、著しく増強したPIR-Bのホスホチロシル化を観察したが、増強は、比較的少なく、最大でもコントロールの約1.8倍であった(図3a)。
【0034】
他方、PIR-Aと関連している(J. Exp. Med. 189, 309-318, 1999、J. Exp. Med. 188, 991-995, 1998、J. Immunol. 161, 4042-4047, 1998、J. Biol. Chem. 274, 30288-30296, 1999)FcRγのホスホチロシル化も、四量体H-2刺激後、野生型マウスの腹腔マクロファージで、著しくアップレギュレートした(図3b)。FcRγのホスホチロシル化は、特異的な刺激なしに、腹腔マクロファージで恒常的であり、かかる恒常的なホスホチロシル化は、PIR-Bを欠損しているときに著しく増加し(図3c)、細胞が静止状態のときも、PIR-BがFcRγの恒常的なホスホチロシル化を抑制することを示唆した。四量体H-2分子がPIR-A及びPIR-Bと相互作用し、チロシンのリン酸化を誘導するというこれらの結果は、H-2分子がPIR-A及びPIR-Bの生理学的なリガンドであると結論づけた。しかし、PIR-A/Bに他のリガンドが存在する可能性を否定したわけではない。PIR-Bのリン酸化状態が、MHCクラスI欠失(classI-less)β2m-/-マウスで著しく減少し、PIR-BのMHCクラスI又はクラスI様リガンドの間接的な論拠を提供したことは注目すべきである(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 96, 15086-15090, 1999)。ヒトBリンパ腫細胞における研究で、BCRを介した活性化のための許容限界レベルが、B細胞膜に存在するMHCクラスI分子の実際の数に依存するか、それにより決定されることを示唆している(Cell.Immumol. 173, 295-302, 1996)。
【0035】
4.PIR-B-/-マウスにおけるGVHDの増悪
同種個体間の、組織又は骨髄移植の成功に、MHCクラスI分子は重要である。免疫無防備状態の個体への骨髄移植は、GVHDを引き起こす。そこでドナー由来のアロ反応性CD4+T細胞は、樹状細胞(DC)等のレシピエントの活性化した抗原提示細胞上の同種のMHCクラスIIに反応する。その後、エフェクターCD4+T細胞となり、アロ反応性ドナーCD8+T細胞を活性化し、同種MHCクラスIを有するレシピエントDCと組み合わさり、活性化したCD8+CTLとなる。興味深いことに、心臓移植を受けた拒絶反応のなかった患者では、樹状細胞(DC)におけるLILRB2及びLILRB4の発現レベルは、アップレギュレートされ(Nat. Immunol. 3, 237-243, 2002、Transpl. Immumol. 11, 245-258, 2003)、同種移植片の拒絶又は生着に、LILR及びPIRを含む陽性又は陰性に制御する免疫受容体が関与する可能性を示唆している。PIRのリガンドとしてH-2分子が同定されたことは、PIR-Bと同種H-2間の相互作用が、造血細胞移植の拒絶又は生着に影響するかどうかを調べることの契機となった。
【0036】
致死性のGVHDモデルを用いた。その中で、致死量以下の照射を行った、PIR-B-/-又は野生型C57BL/6(B6、H-2b)宿主に、BALB/c(H-2d)脾臓細胞を静脈内に注入した。図4aに示されているように、宿主PIR-B-/-B6マウスの死亡率は、野生型B6宿主より再現性よく高かった。移植6日後に、レシピエントの脾臓細胞をフローサイトメトリーで分析したとき、IFN-γ+CD4+T細胞及びIFN-γ+CD8+Tの細胞集団は、両方とも、野生型B6レシピエントよりPIR-B-/-B6レシピエントが著しく高かった(図4b)。PIR-B-/-又は野生型BALB/cがB6脾臓細胞を受け入れた逆の場合にも、PIR-B-/-レシピエントにおけるIFN-γ+CD4+又はCD8+T細胞の死亡率及び活性化の増加は、同様であった。脾臓細胞において、移植6日後に観察されたT細胞集団は、ドナー脾臓細胞から独占的に派生することが確認された。なぜなら、PIR-B-/-BALB/cマウスがGFPトランスジェニックB6マウスから脾臓細胞を受け入れたときに、CD4+又はCD8+T細胞の100%近くが、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現したからである。
【0037】
5.レシピエントDCによるPIR-Aのアップレギュレート
アロ反応性CTLの活性化は、ドナーDC4+T細胞及びその活性化による、抗原提示細胞上のペプチドと宿主同種のMHCクラスI分子の前もっての認識を要求している(Science 285, 412-415, 1999)。この点と一致して、B6脾臓細胞を受け入れた4日目の宿主野生型又はPIR-B-/-BALB/cマウスの脾臓細胞DCは、移植を受けていないコントロールマウスと比較して、MHCクラスI及びCD40(図5a左)、CD80及びCD86を含む共刺激分子の発現増加の点で、同じ様に、著しく活性化した。興味深いことに、このDC活性化と同時に、PIR-A/Bの発現レベルは、野生型及びPIR-B-/-BALB/cマウスのDC上で著しく上昇し(図5a右)、アロ反応性CD4+及びCD8+T細胞の調節(modulation)における、PIR-A及びPIR-Bの役割の重要性を示唆した。PIR-B-/-レシピエントのDCは、コントロールレシピエントと比較してIFN-γが、著しく陽性であることを示唆し(図5b)、PIR-B欠損DCは、野生型マウスより、活性化していることを示した。
【0038】
[考察]
上記のように、H-2分子が、生理学的及び病理学的な意味を有するPIR-A及びPIR-Bの生理学的リガンドであると結論づけたが、PIR-A/Bに他のリガンドが存在する可能性を否定していない。MHCクラスI分子が、PIR-B(図1及び2a)及び実質的にPIR-A(図2b)とも結合することができ、細胞間のシグナリング現象を開始することができる(図3)という観察の重要性は、他の活性化/抑制性免疫制御受容体対と関連して、評価しなければならない。FcγR、LILRA/B及びKIR等のほとんどの制御受容体対は、それぞれの同一のリガンドを認識する。例えば、活性化FcγRI/IIIと抑制性FcγRIIBは、両方ともIgGを認識し、ITAM及びITIMリン酸化を介して、免疫細胞を対抗制御(counter regulate)する(Nat. Rev. Immunol. 8, 580-592, 2002)。マウスに活性化FCγRI/IIIが欠如すると、アレルギー反応及び自己免疫疾患は大幅に抑制されるが、FCγRIIBの欠失は、アナフィラキシーの増悪と自己免疫疾患を誘導する。MHCクラスIの受容体としてのPIR-A及びPIR-Bの解明は、かかる受容体対が免疫細胞を陽性及び陰性に制御することを示唆した。
【0039】
本発明者らは、PIR-B-/-マウスにおけるDCの成熟障害が、胸腺依存性抗原に反応して、TH2極性化の増大を導くことを既に提案している(Nat. Immunol. 6, 542-548, 2002)。PIR-B-/-マウスの骨髄由来の培養したDCは、攪乱した(perturbed)細胞間のチロシンのリン酸化を示し、GM-CSF刺激後、野生型DCより、GM-CSF共通β鎖のトランジェントなリン酸化を示した。上記観察結果を合わせ考慮すると、PIR-A/BとH-2の恒常的な相互反応は、DCを成熟に導くために発達させる特有のGM-CSFシグナリングに重要であると考えられる。H-2とPIRの恒常的な結合と、GM-CSFシグナリングの細胞間現象との関係の精密なメカニズムの解明は、サイトカインによる刺激が、生理学的な状況の下で、どのように継続的に制御されているかに関して重要な洞察を提供する。
【0040】
宿主DCは、GVHDの誘発に不可欠とされ(Science 285, 412-415, 1999)、ドナーT細胞-宿主抗原提示細胞の相互作用が、移植片対宿主反応を誘発するために不可欠であることを示唆している(図6)。PIR-Bの発現が、野生型DC及びマクロファージにおけるPIR—Aの発現を支配しているので、PIR-Bは、移植片対宿主反応の初期段階でH-2分子と優位に結合する。しかし、PIR-Bが欠失していると、PIR-Aは同種H-2と単体で接触し、レシピエントの抗原提示細胞及びPIR-A発現を活性化する。ドナーT細胞上の同種H-2分子と、レシピエントDC上でアップレギュレートされたPIR-A間の相互作用は、tDC活性化をさらに増強することがあり、その結果、主要なエフェクターサイトカインの一つであるIFN-γの生成を増加する。抑制性免疫グロブリン様受容体の1つであるプログラム死1(Programmed Death-1)をブロックすると、IFN-γ依存性機構を介して、GVHDの死亡率が加速するという近年の研究(J. Immunol. 171, 1272-1277, 2003)は、致死性のGVHDにおけるIFN-γの重要な役割を裏付けている。したがって、PIR-Bは、少なくともIFN-γ生成の抑制を介してCTLを制御することができるDC等の抗原提示細胞に付与することができる。
【0041】
第1及び第2のクラスI-認識システムは、それぞれTCR及びキラー受容体により達成されているが、PIR-B、及び実質的にPIR-Aが、第3のMHCクラスI認識システムを構成することを提案する。PIR-BによるクラスI認識の特異性は、幅広いように見えるが、この認識システムは、特にB細胞及びDC等の骨髄細胞にとって特に重要であり、自己及び非自己との間での識別をするとはかぎらない。PIR-Bのヒトのホモログと考えられるLILRB1及びLILRB2は、HLA-A、-B及び-C等の様々なMHCクラスI分子を結合し、明らかな対立遺伝子の特異性を有していない(J. Exp. Med. 186, 1809-1818, 1997、J. Immunol. 160, 3096-3100, 1998、Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 100, 8856-8861, 2003、Immunity 7, 273-282, 1997)。ヒトβ2mに実質的な親和性を示すヒトLILRBと同様(Nat. Immunol. 4, 913-919, 2003)、PIR-B外部ドメインはマウスβ2mと、4.6×10-8Mの親和性で結合することができる。これらの結果は、PIR-Bは、可変のMHCクラスI重鎖及び一定のβ2mの両方を認識し、少なくとも1つの結合部位がβ2mに属し、MHCクラスI重鎖の他の接触部位が、PIR-Bとの全体的な結合親和性を変更できることを示唆した。マウスPIR-B及びヒトLILRB1/2によるMHCクラスI分子の幅広い認識は、細胞の活性化に適切な許容限界を維持し、阻害しなければ自己免疫を導く、不適切な細胞活性化を阻害するために重要である。近年、ヒト抑制性キラー受容体遺伝子、LILRサブファミリー及びLILRは、自己免疫性関節炎と何らかの関連性があることが示された(Ann. Rheum. Dis. 60, 166-169, 2001、Int. Immunol. 14, 471-479, 2002、Arthritis. Rheum. 46, 2972-2982, 2002)。MHCクラスI遺伝子の多型性が、自己免疫性障害に対する感受性と関連していることは、広く受け入れられており、Ig様受容体と免疫エフェクター細胞上のMHCクラスI間の相互作用は、自己免疫の発達における重要な段階であることを示唆している。PIR-A/BによるMHCクラスI認識は、自己免疫や同種反応(allogeneic response)の制御にも関与する。PIR-A/B機構の調節は、自己免疫及び移植片拒絶を防ぐ新しい道を提供できるかもしれない。
【0042】
[方法]
1.マウス
C57BL/6(B6、H-2b)及びBALB/c(H-2d)は、Charles River Japan, Inc.より購入した。B6バックグラウンドのGFPトランスジェニックマウス(GFPtgB6)は、M. Okabe氏(大阪大学)から供与された。PIR-B-/-129/B6マウス(Nat. Immunol. 6, 542-548, 2002)を、B6に12世代に亘って、戻し交配した。PIR-B-/-129/B6マウスは、BALB/cに8世代に亘って、戻し交配した。マウスは、環境が管理された特定病原体除去施設である東北大学加齢医学研究所(IDAC)の動物飼育室で、施設が規定した実験動物の指針に従い、維持、飼育した。提出した動物プロトコールは、IDAC動物研究委員会により承認された。全ての実験は、年齢が一致した8~12週齢のマウスを用いて行った。
【0043】
2.MHCクラスIタンパク質
溶解性のビオチン標識したMHCクラスIモノマー(ペプチドTPHPARIGL(配列番号3)とH-2Ld;ペプチドVGPQKNENL(配列番号4)とH-2Dd;ペプチドTYQRTRALV(配列番号5)とH-2Kd;ペプチドSIINFEKL(配列番号6)とH-2Kb;及びペプチドHETTFNSI(配列番号7)とH-2Kk)及びβ2mは英国Proimmne社より購入した。FITC-共役H2Ld、Dd、Kd、Kb、Kk四量体も、Proimmne社より購入した。
【0044】
3.PIR-B外部ドメインの作製
PIR-Bの外部ドメインをコードするDNA(残基1~615)を、フォーワードプライマーとして、5'-GTGGTACCAGGGTCCCTC-3'(配列番号8)、リバースプライマーとして 5'-TGTCTAGATGAGCTCCACAGGG-3'(配列番号9)を用いて、pcEXV-3ベクターに挿入された全長PIR-B DNAから増幅した(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 94, 5261-5266, 1997)。その結果生じた断片を、制限酵素KpnI及びXbaIで処理し、pcDNA4/HisMax Bベクター(Invitrogen社製)内に結紮し、哺乳類細胞系発現システムにおける組換えタンパク質のグリコシル化を可能にした(J. Cell. Biochem. 77, 540-559, 2000)。プラスミドの完全性をシークエンシングにより確認した。プラスミドを、P3U1マウス骨髄細胞内に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen社製)を用いてトランスフェクトし、この形質転換細胞を、50μgml-1カナマイシン(Wako Pure Chemical Industries社製)を含むGIT培地(Nihon pharmaceutical社製)で培養した。2日培養後、0.8mg・ml-1ゼオシン(zeocine)(Invitrogen社製)を含む選択的培地を添加し、耐性コロニーが現れるまで、インキュベーションを37℃で行った。PIR-B細胞外ドメインタンパク質を効率的に生成する単細胞を入手するために、コロニーをスクリーニングした。5日培養後、細胞を回収した。細胞ペレットを、20mMのTris-HCl、pH8.0、0.1%のNonident P-40(Sigma社製)、1mMのPMSF(Sigma社製)、1%のProtease Inhibitor Cocktail(Sigma 社製)を含む氷冷の溶解緩衝液内に、1時間、4℃で可溶化した。溶解した細胞を、10,000×gで10分間、遠心分離し、上清(可溶化液)を回収した。PIR-B外部ドメインタンパク質を、可溶化液から、Ni-NTAクロマトグラフィー(Hitrap Chelating HP, Amersham Bioscience 社製)、続いてゲル濾過(Hiload 16/60Superdex 200prep grade, Amersham Bioscience社製)で精製した。
【0045】
4.バイオセンサー分析
MHCクラスI分子モノマー、β2m又は抗PIRA/B抗体(6Cl)とrPIB-B間の相互作用を分析するために、BIAcore 2000 biosensor system (BIAcore社製)を用いた。製造者推薦の手順に従って、6Clは、CM5-チップ(BIACore社製)上に、アミンカップリング(amine coupling)で固定した。ビオチン標識したMHCクラスIモノマーは、SA-チップ(BIACore社製)に、製造者推薦の手順に従って固定した。rPIR-Bを、室温で20mMのリン酸緩衝液内に固定化したフローセル上に注入した。MHCクラスIとrPIR-B間の結合相互反応は、短い注入時間(30秒)で、20μlmin-1で、分析した。各濃度の結合反応を、不適切なビオチン標識したタンパク質又はインタクトなフローセルにカップリングしたフローセルに対する非特異的反応から、サブトラクションした。運動定数(kinetic constant)は、BIA evaluation 3.02.2 プログラムを用いたsensorgramデータから引き出した。解離平衡定数(Kd)は、1:1Langmuir結合モデルの非直線的な回帰分析から引き出した。
【0046】
5.細胞の分離
脾臓懸濁液を、赤血球、顆粒球及びマクロファージの除去のために、Ficoll-paque(Amersham Bioscience社製)で処理した。PIR-B-/-B6及び野生型B6マウスから、脾臓B細胞を分離するために、B220+細胞を、MACSマグネチックセルソーター(Miltenyi Biotec GmbH, Bergish社製)を使用して、精製した。PIR-B-/-B6及び野生型B6マウスから、腹腔マクロファージを調製するために、氷冷したリン酸緩衝食塩水(PBS)で腹腔腔を洗浄し、腹腔細胞を単離した。細胞を1時間培養し、非付着細胞をPBSで洗浄し、付着細胞を腹腔マクロファージとして使用した。
6.フローサイトメトリー及び細胞質間サイトカイン染色
フローサイトメトリー分析に、下記の抗マウス抗体を使用した:FITC共役抗CD4抗体、抗CD8抗体並びに抗CD11抗体、PE共役抗CD40抗体、抗CD80抗体、抗PIR-B/A抗体並びに抗IFN-γ抗体、ビオチン共役抗Kb抗体、抗Kd抗体、抗CD4抗体及び抗CD8抗体、及びスルレプトアビジン-トリコロール。全ての抗体は、BDPharMingen社製である。細胞の表面を、従来の技術で染色し、フローサイトメトリー分析は、FACS LSR及びCellQuest software (Becton Dickinson社製)を使用して行った。細胞質間サイトカイン染色には、レシピエントの2×106脾臓細胞を、B6マウスのターゲットの腹腔付着細胞で、5時間、1μg・ml-1のbrefeldin A (BDPharMingen社製)の存在下で、37℃で、5ml培養培地(10%FCSを含むRPMI1640培地)で、6cmディッシュプレート(Becton Dickinson社製)上でインキュベートした。その後懸濁した細胞を0.5%BSA/PBSで洗浄し、FITC共役抗Kb抗体及びビオチン共役抗CD4抗体、抗CD8抗体、又は抗CD11c抗体で染色した。Cytofix/Cytoperm (BD PharMingen社製)で固定後、細胞を透過処理行った緩衝液(BD PharMingen社製)内で洗浄し、PE共役抗IFN-γ抗体で染色した。染色した細胞を、FACS LSR及びCellQuest softwareを使用して分析した。
【0047】
7.共焦点光学顕微鏡
脾臓B細胞及び腹腔マクロファージの共焦点レーザー顕微鏡は、4%パラホルムアルデヒドで固定したFITC共役H-2Ld四量体(10μgml-1、Proimmune社製)及びPE共役抗PIR-A/Bモノクローナル抗体(BD PharMingen社製)で染色した。FITC及びPE陽性シグナルを、共焦点レーザー顕微鏡(Radiance 2100, BIO-RAD社製)で回収した。蛍光強度の平均値は、共焦点顕微鏡システムの各低出力分野で測定した。
【0048】
8.免疫沈降
1mlのPBS内の脾臓B細胞(2×106細胞)を、0分又は30分間37℃で、H-2四量体(10μgml-1)とインキュベートした。細胞を、プロテイナーゼ抑制剤(Sigma社製)を補充した2mMのバナジン酸ナトリウム(sodium vanadate)を含む溶解緩衝液(1%NP-40、20mM Tris(pH7.3)、300mMのNaCl及び10mM EDTA)内に可溶化した。あらかじめ清澄化した溶解物は、経時的に抗PIR-A/B抗体(BD PharMingen社製)又はウサギ抗FcRγ抗体(ポリクロナールウサギIgG)及びタンパク質G共役セファロース4B(Amersham Bioscience社製)とインキュベートした。免疫沈降物をSDS-PAGEゲルで分離し、PVDF膜に移し、HRP抗ホスホチロシン抗体(マウスIgG2bにモノクローナル抗体4G10、Upstate Biotechnology 社製)により、電子化学ルミネッセンスシステム(Amersham Bioscience社製)で検出した。検出した膜を、62.5mMTris(pH6.8)、100μM2-メルカプトエタノール及び2%SDSを含むストリッピングバッファー(stripping buffer)での抗体検出で除去し、適切な抗体でブロットした。その結果、抗PIR-A/B抗体、HRP-ヤギ抗ウサギIgG抗体(Amersham Bioscience社製)又は抗FcRγ抗体及びHRPヤギ抗ウサギIgG抗体(Amersham Bioscience社製)であった。
【0049】
9.GVHDの誘導
フローサイトメトリー分析用に、GFPtgB6マウスの4×107脾臓細胞を、致死量以下(6Gy)照射したBABL/c又はPIR-B-/-BABL/cマウスに、静脈内に注入した。宿主の生存率分析及び細胞間のサイトカイン染色用には、BABL/cマウスの4×107脾臓細胞を、致死量以下(6Gy)照射したB6又はPIR-B-/-B6マウスに、静脈内に注入した。マウスの死亡率を24時間毎に21日間観察した。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】rPIR-B外部ドメインとMHCクラスI間の相互作用のバイオセンサー分析結果を示す図である。(a)rPIR-B外部ドメインと抗PIR-A/Bモノクローナル抗体間の相互作用のバイオセンサー分析。表面プラズモン共鳴(SPR)分析におけるrPIR-Bの信頼度を確認する、rPIR-Bの抗PIRモノクローナル抗体への結合反応を陽性コントロールとして、及び空のセンサーチップへの非特異的な反応を示した。rPIR-Bと抗PIR抗体の相互反応の親和性値(Kd)は、高親和性(Kd=2.4×1011M)を示した。(b)rPIR-B外部ドメインとMHCクラスI間の相互反応のバイオセンサー分析。H2-Ld、Dd、Kb、Kk、Kdモノマーに注入したrPIR-V(50nM)の結合反応の比較を示した。陰性コントロールとして、BSA又は空のセンサーチップとH-2分子との結合反応も示した。rPIR-B調製物の中への、抗PIRモノクローナル抗体の抱合は、MHCクラスIへの結合に影響せず、抗PIRモノクローナル抗体は、PIRのH-2への結合を妨害しないこと(示されていない)を示唆した。(c)MHCクラスIモノマーとrPIR-B間の、指定された濃度での結合反応曲線(RU)。各曲線の傾斜は、H-2分子とrPIR-B間のKdを示す。各センサーグラムに、空のセンサーチップへの非特性反応をサブトラクションした。黒い四角は、H-2Ld;白い四角は、D-2Dd:黒い三角は、H-2Kb;白い三角は、H-2Kk;黒い丸はH-2Kdを示す。(挿入図)MHCクラスIモノマーとrPIR-B間のKdを示す。(d)β2mとrPIR-B間の、指定された濃度での結合反応曲線(RU)。曲線の傾斜は、β2mとrPIR-B間のKd(4.6×10-8M)を示す。結果は、3回の別個の実験の代表例である。
【図2】H-2四量体は脾臓B細胞でPIR-Bと結合し、腹腔マクロファージでPIR-Aと結合し、チロシンのリン酸化を誘導することを示す図である。(a)H-2四量体と脾臓B細胞のPIR-Bへの結合反応の、共焦点光学顕微鏡分析。上パネル;野生型B6マウスの脾臓B細胞を、FITC共役H-2Ld四量体及びPE共役抗PIR-A/B抗体、6C1で二重染色した後の低倍率(最初の倍率;×40)と高倍率(最初の倍率;×60)の、共焦点光学顕微鏡の画像。組み合わせた画像は、B6マウスの細胞表面のH2-Ld及びPIR-Bの共在を証明した。下パネル:PIR-B-/-マウスのB細胞内で、H-2Ldと抗PIR-A/B抗体は、有意な結合を示さなかった。H-2Ldと抗PIR-A/B抗体結合の蛍光強度の平均値(mean fluorescent intensity)は、低倍率の画像で示す。(b) B6、PIR-B-/-及びFcRγ-/-マウスの腹腔マクロファージのH-2四量体と抗PIR-A/B抗体間の結合の共焦点光学顕微鏡分析は、(a)と同様に行った。PIR-B-/-B6マウスの細胞の組み合わせた画像は、H-2Ldと抗PIR-A/B抗体の共在を示した。H-2Ldと抗PIR-A/B抗体結合の蛍光強度の平均値(mean fluorescent intensity)を、低倍率の画像で示す。これらの結果は、3回の別個の実験の代表例である。
【図3】PIR-B及びPIR-Aが、H-2結合後、チロシン系細胞間シグナリングを開始できることを示す図である。(a)H-2四量体で刺激したB細胞のPIR-Bのチロシンのリン酸化状態。上パネル;脾臓細胞は、指定されたH-2四量体で30分刺激した。抗PIRモノクローナル抗体沈殿後、ウェスタンブロット分析をホスホチロシンとPIRに行った。下のグラフ;チロシン-リン酸化したPIR-Bタンパク質のシグナル強度を、濃度測定スキャニングで測定した。各強度をPIR-Bの強度でノーマライズし、コントロールと比較した。各MHCクラスI四量体は、脾臓B細胞のPIR-Bチロシンのリン酸化を誘導した。パネルは、代表例で、増加を示す値は、3回の別個の実験の平均値±SD(標準偏差)を示す。*P<0.05。(b)H-2四量体で刺激した腹腔マクロファージ内の、PIR-Aを含む免疫受容体の膜アダプターであるFcRγのチロシンのリン酸化。刺激及びウェスタンブロット分析をaと同様に行った。パネルは、代表例で、増加を示す値は、3回の別個の実験の平均値±SDを示す。*P<0.05。(c)PIR-B-/-マウスの腹腔マクロファージで、FcRγのチロシンのリン酸の状態は、アップレギュレートした。パネルは、代表例で、増加を示す値は、3回の別個の実験の平均値±SDを示す。*P<0.05。
【図4】PIR-B-/-における致死性GVHDの誘導を示す図である。(a)PIR-B-/-B6(n=16、黒い四角)又はB6マウス(n=16、黒い丸)におけるGVHDの生存曲線。4×107BALB/c脾臓細胞を、6Gy照射PIR-B-/-B6又はB6レシピエントに注入した。死亡率を24時間毎に、21日間評価した。統計学的分析をFisher's exact testを使用して行った。*PIR-B-/-B6とB6マウス間では、P<0.05。(b)移植6日後の、PIR-B-/-B6又はB6レシピエントからのドナー脾臓細胞の細胞間IFN-γ生成のフローサイトメトリー分析。上パネル;B6レシピエント。下パネル;PIR-B-/-B6レシピエント。パネルは、代表例で、パーセンテージは、3回の別個の実験の平均値±SDを示す。**PIR-B-/-とB6レシピエント間では、P<0.01。
【図5】GVHDにおけるレシピエントの活性化したDCは、PIR-A/Bの発現をアップレギュレートすることを示す図である。(a)移植4日後に、CD11c+レシピエント脾臓細胞のフローサイトメトリー分析を行った。左パネル;CD40発現。右パネル;PIR-A/B発現。太い赤線;BALB/cレシピエント。太い黒線;コントロールPIR-B-/-BALB/cマウス。黒点線;イソ型コントロール(ラットIgG1)。3回の別個の実験のPIR-A/B発現の蛍光強度の平均値(mean fluorescent intensity)±SDを示した。(b)移植4日後に、Kb陽性CD11c+レシピエント脾臓細胞における細胞間IFN-γ生成のフローサイトメトリー分析。左パネル;B6レシピエント。右パネル;PIRB-/-B6レシピエント。パネルは、代表例で、パーセンテージは、3回の別個の実験の平均値±SDを示す。**PIR-B-/-とB6レシピエント間では、P<0.01。
【図6】GVHDのDC上のPIR-A/Bと同種MHCクラスI分子との相互作用中の役割を示す図である。DCのPIR-B及びPIR-Aは、周囲細胞又は自己細胞上で自己MHCクラスI分子を認識する。PIR-Bは、PIR-Aを含む活性化型受容体により誘導された細胞間シグナリングを陰性に調節する。GVHDの発達中、ドナー由来のアロ反応性CD4+T細胞は、活性化したレシピエントDCの同種MHCクラスII分子に反応し、エフェクターCD4+T細胞となり、その後アロ反応性ドナーCD8+T細胞を活性化し、活性化したCD8+細胞障害性Tリンパ球になる。活性化したドナーCD8+T細胞は、IFN-γ等のエフェクター分子を介してレシピエントの組織をターゲットとし、GVHDを誘導する。PIR-Bが欠如していると、レシピエントDCは、PIR-Aの発現が増加したため、さらに活性化し、アロ反応性エフェクターCD4+及びCD8+T細胞を活性化し、結果としてGVHDの増悪を導く。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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