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明細書 :赤外光学部品

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3339001号 (P3339001)
公開番号 特開2001-027701 (P2001-027701A)
登録日 平成14年8月16日(2002.8.16)
発行日 平成14年10月28日(2002.10.28)
公開日 平成13年1月30日(2001.1.30)
発明の名称または考案の名称 赤外光学部品
国際特許分類 G02B  1/02      
C01G 28/00      
FI G02B 1/02
C01G 28/00
請求項の数または発明の数 2
全頁数 6
出願番号 特願平11-199423 (P1999-199423)
出願日 平成11年7月13日(1999.7.13)
審査請求日 平成11年8月26日(1999.8.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】390014306
【氏名又は名称】防衛庁技術研究本部長
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
発明者または考案者 【氏名】和田 ▲英▼男
【氏名】柴田 憲一郎
【氏名】山下 正史
個別代理人の代理人 【識別番号】100064746、【弁理士】、【氏名又は名称】深見 久郎 (外2名)
審査官 【審査官】横井 康真
参考文献・文献 P.Klocek et al.,High resistivity and conductive gallium arsenide for IR optical components,SPIE,1760,p.74-85
調査した分野 G02B 1/02
特許請求の範囲 【請求項1】
多結晶ガリウム砒素を主成分とし、波長10μmの赤外光の直線透過率が70%以上であり、かつ300℃での放射率が5%以下であり、かつ前記ガリウム砒素の結晶粒子の平均粒径が1mm以上50mm以下の範囲内である、非冷却式赤外センサー窓用の赤外光学部品。

【請求項2】
殻状、曲率半径が25mm以上150mm以下の半球殻形状、錐殻状、および前記錐殻状の一部が切断された形状のいずれかの形状をなし、肉厚が2mm以上10mm以下である、高速飛翔耐久性に優れた請求項1に記載の非冷却式赤外センサー窓用の赤外光学部品。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は、多結晶ガリウム砒素(GaAs)を主成分とし、赤外線センサー、赤外画像処理装置、赤外レーザなどの用途に使用される波長8~12μm帯用の透過性および耐久性に優れた、赤外線センサーの保護用窓材および赤外レンズ、および赤外レーザ用窓材等の赤外光学部品に関するものである。

【0002】

【従来の技術】最近、安全性(セキュリティ)確保などのための人体検知用赤外線センサーや対象物体の温度分布を測定して省エネルギーを図ったり、航空機に搭載して資源探査を行なったりするための暗視機能のある赤外画像処理装置、また可視光より長波長でガス分析や加工に用いられる赤外レーザなど、赤外光を利用した多くの装置が開発されている。これに伴い、赤外光を透過、屈折し、種々の光学的機能を有する、窓材、レンズなどの赤外光学部品に対する要求はさらに高度になってきている。

【0003】
従来、波長8~12μm帯用の赤外光学部品の材料としては、単結晶ゲルマニウム(Ge)やCVD(化学気相蒸着)法で製造された多結晶セレン化亜鉛(ZnSe)、多結晶硫化亜鉛(ZnS)や赤外線透過性ガラスなどが用いられてきた。しかし、Geは資源枯渇の問題のため極めて高価であり、ZnSeは毒性ガスを原料とするため高価であり、また法律的に毒物であるなどの問題があるため、小型の光学部品や炭酸ガスレーザ用などの限定された用途のみに使用されている。単結晶の光学部品としては、特開昭63-38901号公報に示されるGaAs単結晶を用いたものもあるが、単結晶は成長に長時間を必要とするので高価である。また劈開性であるため小型のレーザ用光学部品等の限られた用途のみしか用いられていない。

【0004】
またZnSや上記の赤外線透過性ガラス系材料は、強度が低いため、航空機などに搭載して高速で飛しょうした場合に雨滴衝突による損傷で表面が荒れて透光性が低下したり、空力加熱による熱衝撃に弱く破損したりするおそれもある、あるいは熱放射率が数10%と高いので窓材が空力加熱で昇温した場合には熱放射による窓材自身からのノイズで対象の赤外画像が不明瞭になるなど、多くの問題点があった。

【0005】
これに対し、文献「SPIE Vol.1760 Window and Dome Technologies and Materials III(1992)」pp.74-85では、多結晶のGaAs製赤外光学部品が提示されている。これによれば、最大寸法約300mm角の平板窓材が得られており、厚さ3.18mm材で波長8~10μm帯での赤外透過率は約57%であり、結晶粒径が数cmで、強度は13.3kg/mm2、ワイブル係数は4.7の機械的特性を有し、導電性と高抵抗の両方の電気特性が調整できるとされている。

【0006】
また同文献によれば、上記の平板型窓材の他にわずかな曲面を呈する窓材も写真で提示されている。しかし、その窓材は、曲率半径がかなり大きく、平板窓材を熱間鍛造法によりわずかに曲面状に変形させて製造されたことが記載されている。

【0007】

【発明が解決しようとする課題】しかし、航空機搭載用赤外機器などで要求される赤外光学部品は、比較的大型で急峻な曲面を有し、空力抵抗が小さく、曲率半径も小さな半球殻(ドーム)状の赤外窓材であり、この内部でセンサーやレーザが回転可能で走査できる構造になっている。このため、このドーム状の赤外窓材を製造するためには上記の熱間鍛造法によるわずかな曲面では不十分であった。

【0008】
一方、赤外窓材と組合せて使用される赤外センサーの技術も、最近になって大きく進歩している。すなわち、従来の赤外センサーには波長10μm帯用としてはHgCdTe系の材質が使用されており、この材質では液体窒素などにより作動可能な低温にまで冷却することが必要であった。しかし、近年になってボロメータ型素子などを用いた非冷却式のセンサーが実用化され始めた。

【0009】
しかし、この非冷却式赤外センサーは、従来の冷却式センサーに比べて赤外のノイズに弱い特性を有しており、従来のZnSなどの従来窓材を使用した場合には、空力加熱により昇温した場合、窓材自身の熱放射により赤外画像の識別能力が低下するという問題があった。

【0010】
本発明の1の目的は、各種の赤外線利用機器に用いられ、比較的経済的に製造が可能で、毒物ではなく、高強度で熱衝撃に強く、かつ熱放射率の小さい多結晶GaAsを主成分とする赤外光学部品のさらなる改良、応用およびそれにかかわる特殊形状光学部品を提供するものである。

【0011】
この中でも特に今後の赤外センサーの主流となる非冷却式センサーに用いられる赤外窓材は、その感度特性から高い赤外透過率と低い熱放射率とが要求される。したがって具体的には、ZnSやGeなどの従来材料は、波長8~12μm帯での赤外光の高い透過率と高温での低い放射率とを必要とする同センサー用窓材として用いられる場合、前述のような問題に加え性能上十分とはいえなかった。

【0012】
それゆえ、本発明の他の目的は、非冷却式センサー用窓材として用いた場合でも、赤外光の高い透過率と高温での低い放射率とを有する赤外光学部品を提供することである。

【0013】
また本発明の他の目的は、従来材料および従来方法では経済的な製造が困難であった比較的大型の殻状の窓材、たとえば急峻な曲面を有し曲率半径の小さなドーム状のものを提供することであり、中でも特に高速で飛行する航空機などに搭載され、センサーやレーザがドーム内部で回転可能な赤外機器用ドームに適した窓材となる赤外光学部品を提供することである。

【0014】
さらに本発明の他の目的は、たとえば上記と同様の機能を有するドーム状以外の形状の殻状部品、たとえば角錐形およびその一部が切断されたような形状の窓材となる赤外光学部品を提供することである。

【0015】

【課題を解決するための手段】本発明の赤外光学部品は、多結晶GaAsを主成分とし、波長10μmの赤外光の直線透過率が70%以上であり、かつ300℃での放射率が5%以下であり、かつGaAsの結晶粒子の平均粒径が1mm以上50mm以下の範囲内である、非冷却式赤外センサー窓用の赤外光学部品である。

【0016】
本発明の赤外光学部品は、多結晶GaAsを主成分としているため、比較的経済的に製造が可能で、毒物でなく、かつ高強度で熱衝撃に強い赤外光学部品を得ることができる。また、本発明の赤外光学部品を窓材として用いる場合には通常、その表面に反射防止被膜が施され、これによって窓材の透過率が波長10μmで70%以上となる。さらに本発明の光学部品では、300℃に昇温した場合の放射率が5%以下である。したがって、本発明の光学部品を窓材に用いることによって、赤外のノイズに弱い非冷却式センサーの欠点をカバーでき、これらの組合せで良好な赤外画像を得ることができる。

【0017】
また、GaAsの結晶粒子の平均粒径は1mm以上50mm以下の範囲内である。

【0018】
結晶粒子の平均粒径を上記範囲にコントロールするのは次の理由に基づく。1mm未満では、急速な冷却が必要となるため多結晶内部に気泡が残留しやすくなり、光散乱により透過率が低下しやすいためである。また50mmを超えると、多結晶体自体の曲げ強度が低くなり、仕上げ加工、アッセンブリー時または実用時の外力に対し弱くなるからである。この範囲内に平均粒径をコントロールすることによって、10MPa以上の3点曲げ強度のものが得られる。特にドーム状などの殻状の形の大型の部品では同じ理由から5mm以上10mm以下の範囲とするのがより望ましい。

【0019】
不純物量は遷移金属などの陽イオン量としてその合計で200ppm以下にコントロールするのが、高い赤外光直線透過率を維持するためには望ましい。なお、これらの不純物は主にGaAsの結晶粒界に存在する。またその気孔率は0.5%以下とするのが望ましく、したがってその相対密度(理論密度に対する実測密度の割合)は99.5%以上であるのが望ましい。

【0020】


【0021】
上記の赤外光学部品において好ましくは、窓材が高速飛翔耐久性に優れた非冷却式赤外センサ窓用の赤外光学部品であり、かつ殻状、曲率半径が25mm以上150mm以下の半球殻形状、錐殻状、および錐殻状の一部が切断された形状のいずれかの形状をなし、肉厚が2mm以上10mm以下である。

【0022】


【0023】
ドーム状赤外窓材の曲率半径および肉厚を上記範囲とするのは次の理由に基づく。曲率半径が25mm未満では、内部の回転スペースが小さくなりすぎ、赤外センサーや赤外レーザ、回転機構などを収納しがたいためである。曲率半径が150mmを超える大型ドームでは、空力抵抗が大きくなり、また多結晶GaAsの製造は実用上可能でも、生産コスト、生産品質を考慮すると現実的でないためである。

【0024】
肉厚が2mm未満では、航空機などが高速で飛行する場合の空力加熱による耐圧強度が不十分であると考えられる。肉厚が10mmを超えると、窓材の重量が必要以上に大きくなり、航空機などに搭載するのに適当でない。また、あまりに肉厚が厚すぎると赤外光の透過率が低下しやすくなる。むろん上記の寸法上の制約については、航空機用などの大型形状を想定したものであり、その用途以外のものについては、必ずしもこの限りではない。

【0025】


【0026】


【0027】
多結晶GaAsを用いた多角錐殻は各々の平板を加工し、組合せて接着する方法によっても製造できるため、角錐の底面の対角線の長さで300mm程度のかなり大きな寸法のものまで製造可能である。しかし、肉厚についてはドームと同様な理由で2mm以上10mm以下であることが望ましい。

【0028】
上記の赤外光学部品は非冷却式赤外センサーの窓材として用いられる。このように高い赤外線透過率と低い熱放射率を有する赤外光学部品を窓材として用いるため、非冷却式赤外センサーに要求される高い感度特性が満たされる。

【0029】

【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。

【0030】
図1は、本発明の一実施の形態における半球殻形状の赤外光学部品を非冷却式赤外センサーの赤外透過窓材として使用した例を示す模式的断面図である。図1を参照して、多結晶GaAs製のドーム状赤外窓材1aの内部には、ボロメータ型の非冷却式赤外センサーまたは半導体赤外レーザなどの赤外光学素子2と、その赤外光学素子2を支持する回転走査機構3とが配置されている。この回転走査機構3により、赤外窓材1a内で赤外光学素子2を付随の光学系とともに前後左右に回転し走査することができる。

【0031】
この赤外窓材1aは、多結晶GaAsを主成分として、波長10μmの赤外光の直線透過率が70%以上であり、300℃での放射率が5%以下である。またこの赤外窓材1aの表面には反射防止被膜が施されている。

【0032】
図2は、本発明の一実施の形態における角錐形状の赤外光学部品を非冷却式赤外センサーの赤外透過窓材として使用した例を示す模式的断面図である。角錐形状の場合、半球殻形状に比較して空力抵抗が小さくなるため、より高速度の飛しょう体に適している。

【0033】
これらの多結晶GaAsの結晶粒子の平均粒径は1mm以上50mm以下の範囲内であり、結晶粒界には不可避不純物が存在することが好ましい。また不純物量は遷移金属などの陽イオン量としてその合計で200mmp以下にコントロールするのが、高い赤外光直線透過率を維持するためには望ましい。また、その気孔率は0.5%以下にするのが望ましく、したがってその相対密度(理論密度に対する実測密度の割合)は99.5%以上であるのが望ましい。

【0034】

【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。

【0035】
実施例1
長さ100mmの半円柱形(曲率半径50mm)の石英ガラス製ボートに液体ガリウム(Ga)を満たし、近辺に当量の砒素(As)を配置し、全体を石英管内に真空封入した。この石英管を炉中に入れ、Asを石英管内で蒸発させ、石英ボート内のGaと反応せしめ、GaAs融液を生成した。1300℃でGaAs融液の均一性を確認した後、炉冷し、凝固させた。

【0036】
半球状の多結晶GaAsインゴットを取出し、内外球面を加工し、外半径45mm、内半径38mm、厚さ7mmの半球状ドームとした。さらにこの両面をきれいに加工して厚さ5mmに仕上げた。

【0037】
この多結晶GaAsの結晶粒径は5~10mmと観察された。また、この多結晶体の比重をアルキメデス法にて測定したところ、5.32であり、気孔等などの欠陥は認められなかった。また、この多結晶体の曲げ強度を、JIS R1601の3点曲げ法に準じて測定したところ、平均値で約100MPaが得られた。

【0038】
上記の多結晶GaAsインゴットから、テストピースを切り出し、厚さ4mmに加工して、赤外透過率スペクトルの温度依存性をFTIR装置を用いて測定した結果を図3に示す。波長8~12μm帯で安定した赤外透過率を示しており、常温から300℃の範囲での透過率低下は良好であり、実用上問題ない範囲であると判った。

【0039】
上記の多結晶GaAsインゴットから、テストピースを切り出し、厚さ2mmに加工して、赤外放射率スペクトルの温度依存性をFTIR装置を用いて測定した結果を図4に示す。室温から300℃の範囲では、波長8~12μm帯で低い放射率を示しており、波長10μmでは、さらに低い放射率であることが判った。

【0040】
次に、このドーム状赤外窓材の両面に波長10μmの赤外光に対応した反射防止コーティングを行なった。赤外透過率を上記と同様に測定したところ、波長10μmで約90%の高い透過率が得られ、上記の放射率の測定結果も合わせて、非冷却赤外センサー用窓材として最適であることを確認した。

【0041】
実施例2
長方形石英ガラス製ボート(100×150mm)に液体Gaを満たし、実施例1と同様にして、平板状の多結晶GaAsインゴットを作製した。各種加工により、80×130×6mmの平板状赤外窓材とした。この板をさらに三角形状に切り出し、各平板が正六角錐殻状ドームの一面を形成するように加工した。両面に反射防止コーティングを行なった後、6枚の板を接着して組立て、図2に示す正六角錐殻状ドームを作製した。

【0042】
上記の方法で得られた多結晶GaAs六角錐殻は、外周が直径150mmの円に内接する正六角形で、高さが100mm、厚さが8mmの素材で、割れ、欠け、気泡などの欠陥は認められなかった。B23を除去した後、六角錐殻の一部を切断し、厚さ6mmに加工し測定を行なった。

【0043】
赤外透過率は波長10μmで約57%(反射防止膜なし)であったが、多層膜の反射防止コーティングを行なうことにより約85%に向上した。

【0044】
素材の300℃での放射率は2.7%(波長10μm)であり、アルキメデス法による密度は、5.32g/cm3で、外観的に気孔は認められなかった。エッチングにより結晶粒径を測定したところ、平均で約10mmであり、JISR1601による3点曲げ強度は100MPaであった。本実施例で得られた錐形赤外窓材は、波長10μmでの高い透過率と高温での低い放射率とを有することから、非冷却赤外センサー用窓材として最適であることを確認した。

【0045】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【0046】

【発明の効果】本発明の赤外光学部品は、波長10μm帯で優れた赤外透過率を示し、かつ小さい熱放射率を示すので、非冷却式赤外センサーとともに使用するのに最適な赤外光学窓材を得ることができる。材質的には多結晶GaAsが主成分とされているため、高強度で空力加熱などの熱衝撃に強く、法律的な毒物でないので取扱いやすい。また、形状的にはドーム状や多角錐状が採られるため、空力抵抗が小さくその内部でセンサーなどを回転走査することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3