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明細書 :補聴処理方法及びそれを用いた補聴器

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4127680号 (P4127680)
公開番号 特開2005-295119 (P2005-295119A)
登録日 平成20年5月23日(2008.5.23)
発行日 平成20年7月30日(2008.7.30)
公開日 平成17年10月20日(2005.10.20)
発明の名称または考案の名称 補聴処理方法及びそれを用いた補聴器
国際特許分類 H04R  25/00        (2006.01)
FI H04R 25/00 H
請求項の数または発明の数 4
全頁数 11
出願番号 特願2004-105909 (P2004-105909)
出願日 平成16年3月31日(2004.3.31)
審査請求日 平成17年12月20日(2005.12.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
発明者または考案者 【氏名】東山 三樹夫
【氏名】風間 道子
【氏名】高橋 義典
【氏名】寺田 清明
【氏名】坂本 真一
【氏名】中市 健志
個別代理人の代理人 【識別番号】100085257、【弁理士】、【氏名又は名称】小山 有
【識別番号】230100631、【弁護士】、【氏名又は名称】稲元 富保
審査官 【審査官】志摩 兆一郎
参考文献・文献 特開2003-264892(JP,A)
特開2003-210436(JP,A)
特開2001-095785(JP,A)
特開平05-199592(JP,A)
調査した分野 H04R 25/00
特許請求の範囲 【請求項1】
マイクロホンで入力した音声信号を補聴処理してイヤホンから音声信号を出力する補聴処理方法であって、入力音声信号の主要正弦波ピークに対する各聴覚フィルタの出力を周波数軸上畳み込み演算して健聴者及び難聴者の聴神経興奮パターンを算出し、難聴者の聴神経興奮パターンが、健聴者の聴神経興奮パターンと同一になるように、入力音声信号を補正処理して出力音声信号とすることを特徴とする補聴処理方法。
【請求項2】
前記聴神経興奮パターンは、入力音声信号のある特定の周波数成分を用いて算出される請求項記載の補聴処理方法。
【請求項3】
マイクロホンで入力した音声信号を補聴処理してイヤホンから音声信号を出力する補聴器であって、難聴者の聴神経興奮パターンが、健聴者の聴神経興奮パターンと同一になるように、入力音声信号を補正処理して出力音声信号とする補聴処理部を備え、この補聴処理部は、健聴者及び難聴者の聴覚フィルタ形状を記憶する聴覚フィルタ形状記憶部と、マイクロホンの出力信号を各種処理する信号処理部と、この信号処理部の出力信号に対する各聴覚フィルタの出力を周波数軸上畳み込み演算して健聴者及び難聴者の聴神経興奮パターンを算出する聴神経興奮パターン算出部と、難聴者の聴神経興奮パターンが健聴者の聴神経興奮パターンと同一になるためのゲイン係数を算出する比較部と、この比較部が算出したゲイン係数を用いて前記信号処理部の出力信号を補正処理する補正処理部からなることを特徴とする補聴器。
【請求項4】
前記聴神経興奮パターンは、入力音声信号のある特定の周波数成分を用いて算出される請求項記載の補聴器。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数選択性の劣化に基づいて補聴調整する補聴処理方法及びそれを用いた補聴器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在一般に普及している補聴器のほとんどは、数種類の調整機能を有する。これらの調整機能には、例えばサブボリューム、出力制限、音質調整(主にフィルタを用いた周波数特性変更装置)、自動利得調整(AGC)などがあり、各調整の度合はユーザ若しくは調整者(医師、販売店員等)が自由に変更することができる。これらの調整は、装用者のオージオグラム(最小可聴閾値の上昇)を特定の計算式に代入して得られた調整値に基づいて行われる。
【0003】
また、難聴の要因としては、オージオグラムの形状の他に、周波数選択性の劣化などが考えられる。オージオグラムの形状が殆ど同じであっても、周波数選択性の劣化の度合が異なると、オージオグラムの形状を基に補聴器を調整したとても、文章了解度が改善されない場合がある。また、同じタイプの補聴器を使用している難聴者であっても、周波数選択性の劣化の度合が異なり、雑音下での文章了解度が改善されない場合がある。
【0004】
周波数選択性の劣化の度合については、聴覚フィルタ形状から個々の難聴者の度合を知ることができる。健聴者における聴覚フィルタ形状の個人差は小さいが、感音性難聴者における聴覚フィルタ形状は、周波数や音圧レベルに応じて様々に異なることが知られている。
【0005】
そこで、聴覚フィルタ形状を短時間で測定する方法としては,周波数分解能測定装置などが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また,聴覚フィルタ形状の他に、臨界帯域幅やマスキングパターンなどを用いても、周波数選択性の劣化度合を知ることができる。
【0006】

【特許文献1】特開2001-95785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、周波数選択性の劣化の度合については、聴覚フィルタ形状などから測定することは可能であるが、現在の補聴器が有する機能では、周波数選択性の劣化を補償することはできない。
そこで、周波数選択性の劣化に基づいて調整できる補聴器の出現が望まれる。
【0008】
本発明は、従来の技術が有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、補聴器装用者(難聴者)の周波数選択性の劣化に基づいて補聴調整することができる補聴処理方法及びそれを用いた補聴器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく請求項1に係る発明は、マイクロホンで入力した音声信号を補聴処理してイヤホンから音声信号を出力する補聴処理方法であって、入力音声信号の主要正弦波ピークに対する各聴覚フィルタの出力を周波数軸上畳み込み演算して健聴者及び難聴者の聴神経興奮パターンを算出し、難聴者の聴神経興奮パターンが、健聴者の聴神経興奮パターンと同一になるように、入力音声信号を補正処理して出力音声信号とするものである。
【0013】
請求項に係る発明は、請求項記載の補聴器において、前記聴神経興奮パターンは、入力音声信号のある特定の周波数成分を用いて算出される。
【0014】
請求項に係る発明は、マイクロホンで入力した音声信号を補聴処理してイヤホンから音声信号を出力する補聴器であって、難聴者の聴神経興奮パターンが、健聴者の聴神経興奮パターンと同一になるように、入力音声信号を補正処理して出力音声信号とする補聴処理部を備え、この補聴処理部は、健聴者及び難聴者の聴覚フィルタ形状を記憶する聴覚フィルタ形状記憶部と、マイクロホンの出力信号を各種処理する信号処理部と、この信号処理部の出力信号に対する各聴覚フィルタの出力を周波数軸上畳み込み演算して健聴者及び難聴者の聴神経興奮パターンを算出する聴神経興奮パターン算出部と、難聴者の聴神経興奮パターンが健聴者の聴神経興奮パターンと同一になるためのゲイン係数を算出する比較部と、この比較部が算出したゲイン係数を用いて前記信号処理部の出力信号を補正処理する補正処理部からなるものである。
【0018】
請求項に係る発明は、請求項記載の補聴器において、前記聴神経興奮パターンは、入力音声信号のある特定の周波数成分を用いて算出される。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように請求項1に係る発明によれば、難聴者の聴神経興奮パターンが、健聴者の聴神経興奮パターンと同一になるように、入力音声信号を補正して出力音声信号とするので、周波数選択性の劣化が補償され、健聴者と同じような感覚で音声を聴取することができる。
【0021】
また、周波数選択性の劣化の度合を表している聴覚フィルタ形状を用いて、難聴者の聴神経興奮パターンが、健聴者の聴神経興奮パターンと同一になるように、入力音声信号を補正して出力音声信号とするので、周波数選択性の劣化が補償され、健聴者と同じような感覚で音声を聴取することができる。
【0024】
請求項に係る発明によれば、聴神経興奮パターンが、入力音声信号のある特定の周波数成分を用いて算出されるので、演算処理の高速化が図れる。
【0025】
請求項に係る発明によれば、補聴処理部による補聴処理により、難聴者の聴神経興奮パターンが、健聴者の聴神経興奮パターンと同一になるように、入力音声信号を補正して出力音声信号とするので、周波数選択性の劣化が補償され、健聴者と同じような感覚で音声を聴取することができる。
【0026】
また、補聴処理部による補聴処理が、周波数選択性の劣化の度合を表している聴覚フィルタ形状を用いて、難聴者の聴神経興奮パターンが、健聴者の聴神経興奮パターンと同一になるように、入力音声信号を補正して出力音声信号とするので、周波数選択性の劣化が補償され、健聴者と同じような感覚で音声を聴取することができる。
【0029】
請求項に係る発明によれば、聴神経興奮パターンが、入力音声信号のある特定の周波数成分を用いて算出されるので、演算処理の高速化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、図1は本発明に係る補聴器のブロック構成図、図2は聴覚フィルタから聴神経興奮パターンを算出する方法の説明図、図3は聴覚フィルタ形状を用いた場合の補正処理手順を示すフローチャート、図4は聴神経興奮パターンの一例である。
【0032】
図1に示すように、本発明に係る補聴器1は、マイクロホン2、補聴処理部3、イヤホン4からなる。そして、補聴処理部3は、信号処理部5、聴神経興奮パターン算出部6,7、聴覚フィルタ形状記憶部8,9、比較部10、補正処理部11などを備えている。なお、健聴者の聴覚フィルタ形状のデータは予め聴覚フィルタ形状記憶部8に記憶され、難聴者(補聴器装用者)の聴覚フィルタ形状のデータも予め測定されて聴覚フィルタ形状記憶部9に記憶されている。
【0033】
マイクロホン2は、音声信号を電気信号に変換し、変換した電気信号を出力する。補聴処理部3は、マイクロホン2が出力した電気信号から各種の信号処理を行い、補聴処理を施した電気信号を出力する。イヤホン4は、補聴処理部3の出力信号を音響信号に変換し、音声信号として出力する。
【0034】
信号処理部5は、マイクロホン2が出力した電気信号からパワースペクトルを算出したり、ピークピッキングを行ったり、各種の信号処理を行い、処理を施した電気信号を出力する。
【0035】
聴神経興奮パターン算出部6は、信号処理部5の出力信号であるパワースペクトル又は特定の周波数成分と、聴覚フィルタ形状記憶部8に記憶されている健聴者の聴覚フィルタ形状から、健聴者の聴神経興奮パターンを算出する。また、もう一方の聴神経興奮パターン算出部7は、信号処理部5の出力信号であるパワースペクトル又は特定の周波数成分と、聴覚フィルタ形状記憶部9に記憶されている難聴者の聴覚フィルタ形状から、難聴者の聴神経興奮パターンを算出する。
【0036】
ここで、聴神経興奮パターンとは、蝸牛における基底膜の振動によって刺激された神経活動の分布であり、刺激によって引き起こされる興奮量を周波数の関数として表示したものである。図2に聴覚フィルタバンクに純音が入力された場合の聴神経興奮パターンの算出方法を示す。
【0037】
図2(a)は、入力された純音と健聴者の聴覚フィルタバンクを示す。入力された純音に対して、聴覚フィルタAの通過量はaであるため、出力値aが得られる。同様に聴覚フィルタB及び聴覚フィルタCからは出力値b及び出力値cがそれぞれ得られる。図2(b)に図2(a)で得られた聴覚フィルタの出力値をプロットする。これが聴神経興奮パターンとなり、過去の研究報告で、この聴神経興奮パターンが生理学データと一致することが確認されている。
【0038】
図2(c)は、入力された純音と難聴者の聴覚フィルタバンクの一例を示す。難聴者の場合、聴覚フィルタの形状が示すように、聴覚フィルタのバンド幅が健聴者に比べ広がっていることが多い。そこで、聴神経興奮パターンを算出すると、図2(d)に示すように、健聴者と異なることが分かる。
【0039】
比較部10は、健聴者の聴神経興奮パターンと難聴者の聴神経興奮パターンを比較して、難聴者の聴神経興奮パターンが、健聴者の聴神経興奮パターンと同一になるためのゲイン係数を算出する。
【0040】
補正処理部11は、比較部10で算出されたゲイン係数を用いて、入力音声信号に相当する信号処理部5の出力信号であるパワースペクトルに補正処理を行い、補正処理した電気信号を出力する。
【0041】
次に、本発明に係る補聴処理方法及びそれを用いた補聴器1の動作を、図3に示すフローチャートにより説明する。
先ず、ステップSP1において、マイクロホン2により音声信号を入力し、ある時間の音声データをN点で切り出してフレーム音声信号s(n)を作成する。ステップSP2において、音声信号s(n) にゼロ詰めを行い、M点とし、M点解析信号y(n)を作成する。M点解析信号y(n)から解析信号x(n)を作成する。
【0042】
次いで、ステップSP3において、M点解析信号x(n)より、FFT(高速フーリエ変換)によって、Y(k)を得る。ステップSP4において、M/2点のパワースペクトルP(k)を算出する。
【0043】
次いで、ステップSP5において、ピークピッキングを行い、パワースペクトルP(k)からD本の主要正弦波ピークPL(kL)≡|Y(k)|k=kL≡|Y(kL)|(L=1,…D)を抽出する。例えば、D=10として、10本の主要正弦波ピークPL(kL)を抽出する。
【0044】
次いで、ステップSP6において、健聴者の聴神経興奮パターンE(k)を、次の式(1)に示すP(k)の周波数軸上畳み込み演算によって求める。なお、HL(k)は健聴者の聴覚フィルタを表す。
【0045】
E(k)≡ΣPL(kL)* HL(k) ……(1)
【0046】
次いで、ステップSP7において、難聴者の聴神経興奮パターンF(k)を、次の式(2)に示すP(k)の周波数軸上畳み込み演算によって求める。なお、GL(k)は健聴者の聴覚フィルタを表す。
【0047】
F(k)≡ΣPL(kL)* GL(k) ……(2)
【0048】
次いで、ステップSP8において、E(k)≡ΣB(kL)PL(kL)* GL(k)となるようなゲイン係数B(kL)を算出する。ここでは、D本の主要正弦波ピークPL(kL)に対するゲイン係数B(kL)を、E(k)≡ΣB(kL)PL(kL)* GL(k)に関する最小二乗誤差解として求める。
【0049】
ステップSP9において、求めたゲイン係数B(kL)をY(kL)に乗じたスペクトルY’(k) ≡(B(kL)) 1/2Y(kL)を算出し、スペクトルY’(k)のM点逆FFT(高速フーリエ変換)によって、合成復元波形y’(n)を求める。
【0050】
ステップSP10において、合成復元波形y’(n)をN点で打ち切って、解析的信号x’(n)を得た後、解析的信号x’(n)の実部(Re[x’(n)])を採用して復元信号(フレーム音声信号)s’(n)を得る。
【0051】
次いで、ステップSP11において、復元信号s’(n)をオーバラップなどの処理を施して波形を整えた後に、処理が施された復元信号s’(n)はイヤホン4から音声信号として出力される。そして、イヤホン4から出力される音声信号は、補聴器装用者(難聴者)にとって、聴神経興奮パターンが健聴者と同一となるような音声信号となるため、健聴者が感じるのと同様な音声信号として聴取される。
【0052】
図4に本発明の実施の形態を用いて算出した聴神経興奮パターンa,b,cを示す。aは健聴者の聴覚フィルタを用いて算出したものである。b及びcは聴覚フィルタのバンド幅が、健聴者に比べ3倍及び6倍に広がっていると仮定した難聴者の聴覚フィルタを用いて算出したものである。
【0053】
これら難聴者の聴神経興奮パターンが健聴者の聴神経興奮パターンと一致するようなゲイン係数B(kL)をステップSP8で算出し、次いでステップSP9で合成復元波形y’(n)を求めればよい。
【0054】
なお、本発明の実施の形態では、聴覚フィルタ形状を用いて聴神経興奮パターンを算出したが、聴覚フィルタ形状の代わりに臨界帯域幅又はマスキングパターンを用いて聴神経興奮パターンを算出することもできる。
【0055】
また、聴覚フィルタ形状、臨界帯域幅又はマスキングパターンを測定装置で測定する場合には、測定装置から聴覚フィルタ形状、臨界帯域幅又はマスキングパターンを求めるための検査音を出力しているため、補聴器を外す必要がある。
しかし、測定に際して補聴器を外す必要がないように、補聴器から聴覚フィルタ形状、臨界帯域幅又はマスキングパターンを求めるための検査音を出力することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る補聴器は、難聴者の聴神経興奮パターンが、健聴者の聴神経興奮パターンと同一になるように、入力音声信号を補正して出力音声信号とするため、周波数選択性の劣化が補償され、違和感なく健聴者と同じような感覚で環境音を聴取することができるので、快適に装用でき、補聴器の普及に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る補聴器のブロック構成図
【図2】聴覚フィルタから聴神経興奮パターンを算出する方法の説明図、(a)は入力された純音と健聴者の聴覚フィルタバンク、(b)は健聴者の聴神経興奮パターン、(c)は入力された純音と難聴者の聴覚フィルタバンクの一例、(d)は難聴者の聴神経興奮パターンの一例
【図3】聴覚フィルタ形状を用いた場合の補正処理手順を示すフローチャート
【図4】聴神経興奮パターンの一例
【符号の説明】
【0058】
1…補聴器、2…マイクロホン、3…補聴処理部、4…イヤホン、5…信号処理部、6,7…聴神経興奮パターン算出部、8,9…聴覚フィルタ形状記憶部、10…比較部、11…補正処理部。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
3