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明細書 :テラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4147487号 (P4147487)
公開番号 特開2005-315708 (P2005-315708A)
登録日 平成20年7月4日(2008.7.4)
発行日 平成20年9月10日(2008.9.10)
公開日 平成17年11月10日(2005.11.10)
発明の名称または考案の名称 テラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置
国際特許分類 G01N  21/35        (2006.01)
FI G01N 21/35 Z
請求項の数または発明の数 11
全頁数 16
出願番号 特願2004-133564 (P2004-133564)
出願日 平成16年4月28日(2004.4.28)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2004年3月28日 (社)応用物理学会発行の「2004年(平成16年)春季 第51回応用物理学関係連合講演会講演予稿集 第3分冊」に発表
審査請求日 平成18年3月3日(2006.3.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】島野 亮
【氏名】五神 真
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
【識別番号】100069958、【弁理士】、【氏名又は名称】海津 保三
審査官 【審査官】遠藤 孝徳
参考文献・文献 特開2002-214137(JP,A)
特表2004-500582(JP,A)
特開2001-21503(JP,A)
特開2003-279412(JP,A)
特開2004-125712(JP,A)
特開2003-14620(JP,A)
特表2003-529760(JP,A)
特表2003-525446(JP,A)
国際公開第02/57750(WO,A2)
国際公開第00/79248(WO,A1)
特表2004-504591(JP,A)
特開2002-303574(JP,A)
特開2004-85359(JP,A)
特開2003-295104(JP,A)
R. Shimano, Y. Ino, Yu. P. Svirko, and M. Kuwata-Gonokami,"Terahertz frequency Hall measurement by magneto-optical Kerr spectroscopy in InAs",APPLIED PHYSICS LETTERS,米国,American Institute of Physics,2002年 7月 8日,第81巻、第2号,p.199-201
調査した分野 G01N 21/17 - 21/61
JSTPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
テラヘルツ電磁波を発生させる入射光学系と、
上記入射光学系から被測定材料へ入射されるテラヘルツ電磁波の偏光を制御する偏光子と、
上記該被測定材料から反射されるテラヘルツ電磁波の偏光を検知する検光子と、
上記被測定材料からの反射テラヘルツ電磁波の偏光を検出する検出光学系と、を含み構成され、
上記偏光子が上記検光子を兼ねていて、上記入射光学系と上記被測定材料との間に配置されており、
上記テラヘルツ電磁波が上記被測定材料へ垂直入射され、該被測定材料から反射されるテラヘルツ電磁波が上記偏光子により上記検出光学系へ出射される光学配置とされ、
上記テラヘルツ電磁波の上記被測定材料による反射波の偏光状態の変化を電場の直接測定によって検出し、上記被測定材料の物性定数である複素屈折率又は複素伝導度を上記テラヘルツ電磁波の関数として測定することを特徴とする、テラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置。
【請求項2】
パルスレーザと、該パルスレーザから発生するパルスレーザ光を分割し光時間遅延回路への入射光と参照光とするビームスプリッターと、上記光時間遅延回路を通過したパルスレーザ光を変調する光強度変調器と、光強度変調されたパルスレーザ光からテラヘルツ電磁波を発生させる素子と、からなる入射光学系と、
上記入射光学系から被測定材料へ入射されるテラヘルツ電磁波の偏光を制御する偏光子と、
上記被測定材料から反射されるテラヘルツ電磁波の偏光を検知する検光子と、
上記検光子から反射されるテラヘルツ電磁波及び上記参照光が入射されるテラヘルツ電磁波検知器を備えていて上記被測定材料からの反射テラヘルツ電磁波の偏光を検出する検出光学系と、を含み構成され、
上記偏光子が上記検光子を兼ねていて、上記入射光学系と上記被測定材料との間に配置されており、
上記テラヘルツ電磁波が上記被測定材料へ垂直入射され、該被測定材料から反射されるテラヘルツ電磁波が上記偏光子により上記検出光学系へ出射される光学配置とされ、
上記テラヘルツ電磁波の上記被測定材料による反射波の偏光状態の変化を電場の直接測定によって検出し、上記被測定材料の物性定数である複素屈折率又は複素伝導度を上記テラヘルツ電磁波の関数として測定することを特徴とする、テラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置。
【請求項3】
前記テラヘルツ電磁波が、非線形光学結晶による光整流法を用いて発生されるテラヘルツ電磁波パルスであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置。
【請求項4】
前記テラヘルツ電磁波が、光伝導素子による光整流法を用いて発生されるテラヘルツ電磁波パルスであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置。
【請求項5】
前記テラヘルツ電磁波の検出光学系が、非線形光学結晶による電気光学効果を用いた検知器と、該検知器からの偏光成分が入射され該偏光成分を互いに直交する偏光成分に分解する位相板及び検光子と、該検光子から互いに直交した偏光成分が入射され該偏光成分の差分を検出する光検知器と、を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置。
【請求項6】
前記テラヘルツ電磁波の検出光学系が、光伝導素子を用いた検知器を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置。
【請求項7】
前記テラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置が、さらに、ホール伝導度を測定するため
に、前記被測定材料に磁場を印加する磁場系を備えることを特徴とする、請求項1~6に記載のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置。
【請求項8】
前記磁場系が、磁場の向きを反転させる手段を備えることを特徴とする、請求項7に記載のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置。
【請求項9】
前記磁場の向きが反転及び非反転のときの前記反射テラヘルツ電磁波の電場の差分によ
って、前記被測定材料のホール効果による偏光成分だけを測定することを特徴とする、請
求項7又は8に記載のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置。
【請求項10】
前記テラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置が、さらに、コンピュータ系を備えること
を特徴とする、請求項1~9に記載のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置。
【請求項11】
前記検出光学系は、さらに前記テラヘルツ電磁波検知器に接続される増幅器を備え、該増幅器へ前記光強度変調器からの参照信号が入力され、該増幅器が、該参照光の位相に基づく信号を検出することを特徴とする、請求項2に記載のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ時間領域分光法を用いて半導体、金属、磁性体などの多様な物質に対して、電気伝導特性及び磁気特性とそれらの応答性能を非接触で精度よく測定できるテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、次世代のエレクトロニクスを開拓するために新しい機能性材料の開発が進められている。新規材料の伝導特性を広い周波数領域で決定することは、当該材料の潜在的な能力を評価する上で必須である。この新規機能とは、電場によって伝導特性、磁性、光学的性質を制御することである。このような新規材料として、各種のナノ構造材料、遷移金属酸化物に代表される強相関電子材料、半導体量子構造、機能性ガラスなどが注目されている。
これらの材料の電場に対する応答特性を通常の伝導測定で、直流からピコ秒の領域で調べることは、測定器の帯域、測定のための端子電極の設置など困難な問題があり、汎用性の高い簡便な方法は存在しない。これを解決する方法として、フーリエ変換分光法を応用した測定法の利用が知られている。
【0003】
さらに、光源として、極超短パルス光によって発生した遠赤外パルス電磁波(以下、テラヘルツ電磁波と呼ぶ)を用いた測定装置が数例報告されている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。非特許文献1には、テラヘルツ電磁波を被測定材料に透過させる配置による測定方法が報告されている。
しかしながら、透過法では、テラヘルツ電磁波を透過しない磁性体や金属などの不透明な被測定材料の測定を行うことができない。
【0004】
そこで、本発明者らにより、反射光のカー効果による偏光面の回転、所謂カー回転角を検出する分光法が提案され、透過法では測定できない磁性体や金属などの不透明な被測定材料の複素誘電率やホール(Hall)係数などを測定できることが報告されている(非特許文献2参照)。
【0005】
図9は、非特許文献2で報告されたテラヘルツ電磁波を用いた反射法によるホール係数測定装置を模式的に示す図である。図9において、テラヘルツ電磁波を用いた反射法によるホール係数測定装置100は、入射光学系110と、被測定材料102に磁場を印加する磁石105と、検出光学系120と、から構成されている。
入射光学系110は、極短光パルスレーザ111を光源として、電気光学結晶(ZnTe)112の光整流効果によりテラヘルツ電磁波パルスを発生する。このテラヘルツ電磁波パルスはレンズ112,113により集光され、入力側偏光子114を介して被測定材料102に照射される。
また、被測定材料102の表面で反射したテラヘルツ電磁波パルスは、出射側偏光子121を介して、検出光学系120へ出射する。この出射側検光子121においては、偏光が45°,-45°に切り替え可能となっている。出射側検光子121を通過した反射テラヘルツ電磁波パルス122は、レンズ123,124により集光され、電気光学結晶(ZnTe)125に入射し、反射テラヘルツ電磁波パルス122の偏光が検出される。
この際、電気光学結晶(ZnTe)125には、極短光パルスレーザ111からの参照光126が印加され、所謂電気光学サンプリング(EOサンプリング)により、反射テラヘルツ電磁波122 の電場に関する時系列信号が得られる。この信号をフーリエ変換して、被測定材料102のテラヘルツ電磁波領域のホール係数を測定している。
【0006】

【特許文献1】特開2001-21503号公報
【非特許文献1】S. Spielman 他7名, "Observation of the Quasiparticle Hall Effect in Superconducting YBa2Cu3O7- δ" 1994, Physical Review Letters, vo1.73, pp.1537-1540
【非特許文献2】R. Shimano, Y. P. Svirko, M. Kuwata-Gonokami, "Teraherz frequency Hall measurement by magneto-optical Kerr spectroscopy in InAs", 2002, Applied Physics Letters, vol.81, No.2, pp.199-201
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のテラヘルツ電磁波を用いた複素誘電率などの測定装置において透過法を用いた場合には、透明材料や超薄膜などしか測定できず、応用上重要なバルク材料や不透明材料の測定ができないという課題がある。
【0008】
また、上記従来の反射法においては、偏光子及び検光子の機械的振動により偏光検出感度が10-2radであり、十分な感度が得られないという課題がある。
【0009】
上記課題に鑑み、本発明は、テラヘルツ電磁波が照射される被測定材料からの反射波の偏光変化によるホール係数などを、非接触で、高感度で、かつ、高精度で測定できる、テラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置は、テラヘルツ電磁波を発生させる入射光学系と、入射光学系から被測定材料へ入射されるテラヘルツ電磁波の偏光を制御する偏光子と、被測定材料から反射されるテラヘルツ電磁波の偏光を検知する検光子と、被測定材料からの反射テラヘルツ電磁波の偏光を検出する検出光学系と、を含み構成され、偏光子が検光子を兼ねていて、入射光学系と被測定材料との間に配置されており、テラヘルツ電磁波が被測定材料へ垂直入射され、該被測定材料から反射されるテラヘルツ電磁波が偏光子により検出光学系へ出射される光学配置とされ、テラヘルツ電磁波の被測定材料による反射波の偏光状態の変化を電場の直接測定によって検出し、被測定材料の物性定数である複素屈折率又は複素伝導度をテラヘルツ電磁波の関数として測定することを特徴とする。
本発明のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置は、パルスレーザと、パルスレーザから発生するパルスレーザ光を分割し光時間遅延回路への入射光と参照光とするビームスプリッターと、光時間遅延回路を通過したパルスレーザ光を変調する光強度変調器と、光強度変調されたパルスレーザ光からテラヘルツ電磁波を発生させる素子と、からなる入射光学系と、入射光学系から被測定材料へ入射されるテラヘルツ電磁波の偏光を制御する偏光子と、被測定材料から反射されるテラヘルツ電磁波の偏光を検知する検光子と、検光子から反射されるテラヘルツ電磁波及び参照光が入射されるテラヘルツ電磁波検知器を備えていて被測定材料からの反射テラヘルツ電磁波の偏光を検出する検出光学系と、を含み構成され、偏光子が検光子を兼ねていて、入射光学系と被測定材料との間に配置されており、テラヘルツ電磁波が被測定材料へ垂直入射され、該被測定材料から反射されるテラヘルツ電磁波が偏光子により検出光学系へ出射される光学配置とされ、テラヘルツ電磁波の被測定材料による反射波の偏光状態の変化を電場の直接測定によって検出し、被測定材料の物性定数である複素屈折率又は複素伝導度をテラヘルツ電磁波の関数として測定することを特徴とする。
上記構成においてテラヘルツ電磁波は、好ましくは、非線形光学結晶による光整流法を用いて発生されるテラヘルツ電磁波パルスである。または、テラヘルツ電磁波は、光伝導素子による光整流法を用いて発生されるテラヘルツ電磁波パルスであってもよい。
テラヘルツ電磁波の検出光学系は、好ましくは、非線形光学結晶による電気光学効果を用いた検知器と、検知器からの偏光成分が入射され偏光成分を互いに直交する偏光成分に分解する位相板及び検光子と、検光子から互いに直交した偏光成分が入射され偏光成分の差分を検出する光検知器と、を備える。或いは、光伝導素子を用いる検知器をそなえていてもよい。
【0011】
上記構成によれば、テラヘルツ電磁波パルスを用い、被測定材料からの反射テラヘルツ電磁波の偏光の時間波形を直接測定することで、 電場強度測定の場合の限界を1桁以上超える測定ができる。また、参照測定を加えることで、 複素屈折率又は複素伝導度の実部と虚部を、同時に、高精度で測定できる。
また、被測定材料へテラヘルツ電磁波を垂直入射させることにより入射側の偏光子と反射側の検光子とを、同一の偏光子はすることができる。このため、偏光子の機械的振動による測定誤差を著しく低減できる。
【0012】
上記構成において、テラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置は、さらに、好ましくは、ホール伝導度を測定するために、被測定材料に磁場を印加する磁場系を備える。
また、磁場系は、好ましくは、磁場の向きを反転させる手段を備える。また、磁場の向きが反転及び非反転のときの反射テラヘルツ電磁波の電場の差分によって、被測定材料のホール効果による偏光成分だけを測定するようにすれば好適である。
上記構成によれば、被測定材料へ磁場を印加することにより、ホール係数の測定を高精度で行うことができる。また、磁場の向きが反転及び非反転の差分測定によって、偏光素子の不完全性による非消光成分の除去を完全に行うことができる。
【0013】
テラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置は、さらに、好ましくは、コンピュータ系を備える。検出光学系は、好ましくは、さらにテラヘルツ電磁波検知器に接続される増幅器を備え、増幅器へ光強度変調器からの参照信号が入力され、増幅器が、参照光の位相に基づく信号を検出する。この構成によれば、ホール係数などの物性定数を高速かつ高感度で検出することが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置によれば、電極の設置をせずに非接触で、かつ、非破壊で、被測定材料の各種伝導特性をテラヘルツ電磁波の広帯域で測定できる。また、広い領域における伝導特性の空間分布の評価も可能である。さらに極限環境下(高温、 高磁場、 高圧下など)に配置された被測定材料の遠隔測定も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
最初に、本発明による第1の実施形態に係るテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置について説明する。図1は第1の実施形態によるテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置の構成を示す模式図である。
図1において、テラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置1は、テラヘルツ電磁波を発生させる入射光学系10と、入射光学系10から被測定材料2へのテラヘルツ電磁波の偏光を制御し、かつ、被測定材料2から反射されるテラヘルツ電磁波の偏光を制御する偏光子25と、被測定材料2に磁場を印加する磁場系28と、この偏光されたテラヘルツ電磁波を検出する検出光学系30と、検出光学系30からの測定データの計算処理などを行うコンピュータ系40と、を含み構成されている。
【0016】
入射光学系10は、パルスレーザ11と、ミラー12,13,14,15,18と、ビームスプリッター16と、光時間遅延回路17と、電気光学結晶19と、レンズ21、光強度変調器6などから構成されている。
パルスレーザ11から発生するパルスレーザ光は、ミラー12,13,14,15と、ビームスプリッター16と、により、光時間遅延回路17への入射光と、後述する検出光学系30への参照光39と、に分波される。
光時間遅延回路17を通過したパルスレーザ光は、光強度変調器6により光強度変調されたパルスレーザ光11aとなり、二次の非線形光学効果を有する電気光学結晶19に照射される。また、光強度変調器6は、光強度変調器ドライバ7により駆動される。さらに、光強度変調器ドライバ7の出力の一部が、後述する検出光学系30内の増幅器37へ参照信号8として出力される。
【0017】
パルスレーザ光が照射された非線形光学結晶である電気光学結晶19に生じる過渡的な光電流、所謂光整流効果により、テラヘルツ電磁波パルス20(以下、適宜、テラヘルツ電磁波と呼ぶ)が発生する。このテラヘルツ電磁波は、凡そパルスレーザ光のパルス幅の逆数程度の帯域のテラヘルツ電磁波を発生させる。
このテラヘルツ電磁波はレンズ21aで集光され、平行光となり、さらに、レンズ21bにより被測定材料2に集光される。これらのレンズ21(21a,21b)の間には、フィルタ22が挿入され、パルスレーザ光11aを遮断し、テラヘルツ電磁波パルス20だけが被測定材料2に照射される。
ここで、パルスレーザ11は、例えばモード同期されたチタンサファイアレーザによる超短光パルスを発生できる光源を用いることができる。
なお、本発明におけるテラヘルツ電磁波は、波長3mm以下の短ミリ波からサブミリ波で、遠赤外光とも呼ばれる電磁波であり、周波数としては、0.1~30THz程度の電磁波である。
【0018】
偏光子25は、上記レンズ21bと被測定材料2との間の光路に配設されている。この偏光子25は、入射光学系10から被測定材料2へのテラヘルツ電磁波の偏光を制御し、かつ、被測定材料2から反射されるテラヘルツ電磁波の偏光を制御し、検出光学系30に出射させる。
また、偏光子25は、テラヘルツ電磁波、所謂遠赤外光やサブミリ波で使用できる偏光子であり、所謂ワイヤグリッド型偏光子を用いることができる。この偏光子25により入射テラヘルツ電磁波の垂直偏光成分23を被測定材料2に照射する。そして、この偏光子25には、被測定材料2からのテラヘルツ電磁波の反射波が再び入射し、反射テラヘルツ電磁波の垂直偏光成分24が取り出され、検出光学系30へ出射される(図1の偏光子25近傍部分の拡大図参照)。
【0019】
したがって、本発明のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置1においては、偏光子25が被測定材料2からの反射テラヘルツ電磁波の検光子を兼ねているので、被測定材料2にテラヘルツ電磁波23を垂直に入射させ、反射テラヘルツ電磁波も同一の偏光子25に出射させる光学配置となる。
このため、被測定材料2に磁化が存在する場合や後述するホール測定のために磁場を印加すると、被測定材料2からの反射テラヘルツ電磁波はホール効果によりその偏波面が傾き、かつ、楕円になり、その垂直の偏光成分24のみがワイヤグリッド偏光子25により検出光学系30へ出射する。
一方、被測定材料2に磁化がない場合や磁場を印加しない場合には、入射テラヘルツ電磁波23の垂直偏光成分が被測定材料から反射され、偏光子25によりその垂直偏光成分だけが取り出されるので、偏光の変化は理論的には生じなく、非消光成分のみが、偏光子25から出射する。
これにより、テラヘルツ電磁波の入射波と反射波にそれぞれ偏光子を設ける場合に比較すると、偏光子の機械的な振動による不安定性がなくなり、測定誤差を飛躍的に減少させることができる。
【0020】
磁場系28は、被測定材料2のホール測定を行うために、磁場を印加するのに設けている。磁場系28は、電磁石や永久磁石などからなり、被測定材料2に垂直、つまり、紙面の水平方向に磁場を印加し、さらに、その磁場を反転する手段を備えている(図1の±B参照)。磁場の反転は、電磁石を用いる場合には、その磁場発生のために印加する直流電流を反転すればよく、コンピュータ系40により制御することができる。
【0021】
次に、被測定材料からのテラヘルツ電磁波の反射光を検出する検出光学系について説明する。
検出光学系30は、レンズ31,32と、テラヘルツ電磁波検知器33と、位相板34と、検光子35と、光検知器36と、増幅器37とを、含み構成されている。そして、ミラー18を介してパルスレーザ11から分波された参照光39がテラヘルツ電磁波検知器33へ入射している。
【0022】
ここで、テラヘルツ電磁波検知器33としては、二次の非線形光学効果を有する電気光学結晶33を用いることができる。また、位相板34としては直線偏光を円偏光にする1/4波長板を用いることができる。さらに、検光子35としては、1/4波長板からの円偏光を互いに直交する偏光成分に分解するウォラストンプリズムを用いることができる。これにより、検光子35で分割された偏光成分35a,35bは、参照光39の光検知器であるバランスド・フォトダイオード36に入射して、その差分が検出される。この差分は、ロックインアンプなどの増幅器37により増幅され、A/D変換されて、コンピュータ系40に出力される。この際、ロックインアンプなどの増幅器37は、光強度変調器ドライバ7から参照信号8が入力され、その位相に基づく信号検出を行うので、雑音成分が減少する。
なお、バランスド・フォトダイオード36は、パルスレーザ光からの参照光39に対しての検知器であり、差分測定のために2個の特性の揃ったフォトダイオード36a,36bから成る。
【0023】
上記検出光学系30に入射する被測定材料2からの反射テラヘルツ電磁波24は、被測定材料2への入射電場E(ω)と被測定材料2の複素反射率rsp(ω)との積、すなわち、E(ω)rsp(ω)である。ここで、rsp(ω)は、p偏光入射に対する反射テラヘルツ電磁波のs偏光成分である。
上記反射テラヘルツ電磁波24の電場成分は、電気光学結晶33と入射光学系10中の光時間遅延回路17と、による所謂電気光学サンプリング(EOサンプリング)により検出される。この電気光学サンプリングは、例えば光時間遅延回路17内のレンズを微小変位させるステージ17aをコンピュータ系40から制御し、ビームスプリッター16から被測定材料2に入射するまでの時間を変化させることにより行うことができる。
【0024】
次に、検出光学系30の動作について説明する。
被測定材料2がなく、反射テラヘルツ電磁波24が検出光学系30に入射しない場合には、参照光39だけが検出光学系30に入射している。この場合には、直線偏光の参照光39は電気光学結晶33を通過し、1/4波長板34により円偏光へと変換される。その後、検光子35により互いに直交する偏光成分35a,35bに空間的に分解され、それぞれ2つのフォトダイオード36からなるバランスド・フォトダイオードへと入射する。そして、2つのフォトダイオード36a,36bの出力は、差動検出される。これにより、参照光39が完全に直線偏光の場合は、それぞれのフォトダイオード36a,36bの出力は等しく、これらを差動検出した出力はゼロとなる。
一方、反射テラヘルツ電磁波24のパルスが検出光学系30に入射し、電気光学結晶33に反射テラヘルツ電磁波24のパルスが照射される場合には、電気光学結晶33中のその電界成分による非線形効果により参照光39の偏光が直線から楕円偏光へと変化する。これにより、2つのフォトダイオード36a,36bの出力は相殺せず、反射テラヘルツ電磁波24の電場の振幅に比例した信号を出力する。
【0025】
コンピュータ系40は、コンピュータと、光時間遅延回路17のステージ制御部と、ディスプレイ装置と、記憶装置などを備えて構成されている。コンピュータにより、反射テラヘルツ電磁波24の電場波形である時系列信号の所定の時間を、高速フーリエ変換(FFT)のアルゴリズムによりフーリエ変換すれば、計算時間の短縮ができる。このフーリエスペクトルを得る手段は、コンピュータによらない専用のDSP(デジタルシグナルプロセッサ)やFFT装置でも良い。
【0026】
以上のように構成されている本発明のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置1によれば、光時間遅延回路17によりパルスレーザ光に対して時間遅延を加えながら、反射テラヘルツ電磁波24の電場を測定することにより、この時間遅延に対する反射テラヘルツ電磁波24の電場波形、すなわち、時系列信号が得られる。
この時系列信号を、A/D変換によりデジタル変換し、コンピュータによりフーリエ変換をすることで、反射テラヘルツ電磁波24の周波数領域における振幅及び位相を得ることができる。そして、被測定材料2がない場合に生じる参照光スペクトルを基準として、被測定材料2による反射テラヘルツ電磁波24の振幅スペクトル及び位相スペクトルを得ることができる。
【0027】
次に、本発明による第2の実施形態に係るテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置について説明する。
図2は、本発明に係る第2の実施形態によるテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置の構成を示す模式図である。図2において、第2の実施形態によるテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置50が第1の実施形態のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置1と異なるのは、入射光学系10のテラヘルツ電磁波パルス発生用の光伝導素子26と、検出光学系30の光伝導素子53と、を用いる点である。
【0028】
図3は、第2の実施形態によるテラヘルツ電磁波パルス発生用の光伝導素子26の構造及び動作を模式的に示す図である。図示するように、光伝導素子26は半導体であるGaAsなどの絶縁性基板から成り、その表面には、中央に幅数μmの微小ギャップ26cを有する電極26a,26bが設けられている。この微小ギャップ26cには、電極26a,26bへ直流電圧27が印加されている。このため、微小ギャップ26cを有する電極26a,26b間には強い直流電界が加わっている。
これにより、微小ギャップ26c間に超短光パルスであるパルスレーザ光11aを照射すると、瞬間的に光キャリアが生成され導電性となる。そして微小ギャップ26c間には直流強電界が加わっているため、光照射によって瞬時的に電流が流れる。この瞬時電流を源としてテラヘルツ電磁放射が発生する。このようにして、光伝導素子26による光整流法を用いてテラヘルツ電磁波パルス20が発生し、GaAsなどの絶縁性基板の裏面から出射する。
なお、GaAsなどの絶縁性基板の厚さは、パルスレーザ光11aの侵入深さよりも厚くし、テラヘルツ電磁波パルス20の侵入深さよりも薄くしておけばよい。
【0029】
図4は、第2の実施形態によるテラヘルツ電磁波パルス検知用の光伝導素子53の構造及び動作を模式的に示す図である。
光伝導素子53は、光伝導素子26と同様の素子を使用できる。光伝導素子53は絶縁性の半導体GaAsなどから成る。図示するように、その表面には、中央に幅数μmの微小ギャップ53cを有する電極53a,53bが設けられている。光伝導素子29と異なるのは、この実施形態では、これらの電極53a,53b間に後述する光電流を検出する電流計54が接続され、その電流が増幅器37に出力される点である。
また、図2に示すように、パルスレーザ光は、パルスレーザ11からミラー12と、ビームスプリッター16と、ミラー18(18a,18b,18c)と、により参照光39として、直接光伝導素子53の表面側の微小ギャップ53cに入射している。この際、パルスレーザ光のパルス幅はテラヘルツ電磁波パルスの振動周期より約1桁以上短いものを用いる。また、テラヘルツ電磁波パルス検知用の光伝導素子53の裏面には、反射テラヘルツ電磁波の垂直偏光成分24が、同時に集光されている。
【0030】
これにより、光伝導素子53はパルスレーザ光により生成されるキャリアによって、パルスレーザ光の照射時のみ導電性となる。但し、テラヘルツ電磁波パルス検知用の光伝導素子26と異なり直流バイアス電界は加えていない。このため、光電流は反射テラヘルツ電磁波の垂直偏光成分24の電界により誘起されることになる。この光電流信号を、反射テラヘルツ電磁波24の垂直偏光成分パルスとパルスレーザ光からの参照光39とが光伝導素子53に到達する時刻の差の関数として計測することで、反射テラヘルツ電磁波の垂直偏光成分24の時間波形を計測することができる。この到達時刻の差は入射光学系10に設置された光時間遅延回路17を用いることで発生させる。
なお、GaAsなどの絶縁性基板の厚さは、パルスレーザ光の侵入深さよりも厚くし、テラヘルツ電磁波パルスの侵入深さよりも薄くしておけばよい。
【0031】
光伝導素子53は、第1の実施形態によるテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置10のテラヘルツ電磁波パルス検知器36である電気光学結晶19と置き換えた構成であるが、上記した検知方法により、位相板34,検光子35,光検知器36は不要である。なお、第2の実施形態によるテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置50において、テラヘルツ電磁波パルスの発生及び検知用の光伝導素子26,53以外の構成は、本発明の第1の実施形態によるテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置10と同じであるので、説明は省略する。
【0032】
以上のように構成されている本発明のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置50によれば、光時間遅延回路17によりパルスレーザ光に対して時間遅延を加えながら、反射テラヘルツ電磁波24の電場を測定することにより、この時間遅延に対する反射テラヘルツ電磁波24の電場波形、すなわち、時系列信号を得ることができる。
この時系列信号を、A/D変換によりデジタル変換し、コンピュータによりフーリエ変換することにより、反射テラヘルツ電磁波24の周波数領域における振幅及び位相が得られる。そして、被測定材料2がない場合に生じる参照光スペクトルを基準として、被測定材料2による反射テラヘルツ電磁波24の振幅スペクトル及び位相スペクトルを得ることができる。
なお、本発明のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置1,50において、テラヘルツ電磁波パルスの発生に電気光学結晶19や光伝導素子26を用い、また、テラヘルツ電磁波検知器として、電気光学結晶33や光伝導素子53を用いたが、これらは、その測定目的に応じて、適宜に組み合わせて使用できる。
【0033】
次に、本発明のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置1,50による被測定材料の伝導度テンソル及びホール係数の導出方法を説明する。
検出光学系30で観測される信号は、 複素反射率と入射電場との積であるrsp(ω)E(ω)に対応する。 rsp(ω)は、p偏光入射に対する反射波のs偏光成分を意味し、テラヘルツ時間領域分光法では電場の振幅と位相を同時に測定することができるため、 複素反射率rsp(ω)の実部、 虚部を同時に決定できる。ただし、 入射波E(ω)は後述するように、別途参照測定をしておく。
最初に通常のテラヘルツ反射測定により、下記式(1)により複素反射係数から、複素屈折率を計算する。
【数1】
JP0004147487B2_000002t.gif
ここで、r(ω)は複素反射率、niiは複素屈折率である。i=x,yである。
【0034】
次に、上記入射波E(ω)の測定方法を説明する。
第1の方法は、ワイヤグリッド偏光子25を、ビームスプリッターに交換し、次に、被測定材料2を参照用素子(金ミラー、アルミミラーなど)に置き換える。この際、磁場は印加しない。この場合には、ワイヤグリッド偏光子25がなく、単にビームスプリッターだけを使用するので、入射テラヘルツ電磁波は偏光せずに、金ミラーによりテラヘルツ電磁波が100%の強度で反射して、検出光学系30に出射する。
このようにしてこの波形を測定することにより、磁場を加えることなく入射波E(ω)の時間波形が得られる。
第2の方法は、ワイヤグリッド偏光子25の非消光成分スペクトル特性を事前に調べておく方法である。この場合、被測定材料2を既知の参照用素子(金ミラー、アルミミラーなど)に置き換えるだけで、入射波E(ω)を決定することができる。
第3の方法は、被測定材料2と、ワイヤグリッド偏光子25との間に、適当な厚みの位相差板(水晶板など)を挿入する方法である。
例えば、特定の波長(λ)でλ/4の位相差を有する位相板を用いた場合に、その固有軸を入射テラヘルツ波23の偏光面に対して45度傾けて挿入する。被測定材料に入射するテラヘルツパルスは位相板を往復して、位相板の固有軸方向成分と直交する方向成分にλ/2の位相差を生じ、偏光面は90度回転する。この結果、被測定材料2を反射して戻ってきた反射テラヘルツ波24はワイヤグリッド偏光子25でほぼ100%反射され、検出光学系30に出射する。
これにより、被測定材料2を100%の反射波が得られる参照素子(金ミラー、アルミミラーなど)に切り替えておけば、入射波E(ω)を決定することができる。
なお、上記被測定材料2及びワイヤグリッド偏光子25間に挿入する位相板の屈折率と厚さが既知であれば、1/4波長板である必要はなく、任意の厚さで校正は可能である。
【0035】
次に、複素屈折率から、下記式(2)により誘電関数(誘電率テンソル)εiiを計算する。
【数2】
JP0004147487B2_000003t.gif

【0036】
上記rsp(ω)は、下記式(3)で表わされる誘電関数であるので、上記式(2)で求まる誘電率テンソルεii(ω)を用い、非対角誘電率εxy(ω)を求める。
【数3】
JP0004147487B2_000004t.gif

【0037】
次に、上記(3)で求めた非対角誘電率εxy(ω)から、下記式(4)により一意的に伝導度テンソルが計算され、複素伝導度を求めることができる。
【数4】
JP0004147487B2_000005t.gif
ここで、δijはクロネッカのデルタであり、εb は下地の誘電率である。
【0038】
次に、被測定材料2のホール係数の算出方法について説明する。
被測定材料2に磁場Bz を印加し、磁場の強度に対する上記式(4)により伝導度テンソルを求め、下記式(5)によりホール係数RH (ω)が求まる。
【数5】
JP0004147487B2_000006t.gif

【0039】
被測定材料2が半導体である場合には、その伝導型によりホール係数の符号が異なるので被測定材料2の伝導型を判定することができる。また、下記式(6)及び(7)から、n型及びp型の不純物密度を、それぞれ、n、pとして計算することができる。
【数6】
JP0004147487B2_000007t.gif
【数7】
JP0004147487B2_000008t.gif
ここで、eは電子の単位電荷であり、1.602×10-19 C(クーロン)である。
【0040】
この際、磁場の向きを反転させると、上記式(3)においてεxyの符号が反転する。このため、磁場の向きが反転及び非反転の場合に、上記式(3)で測定されるrsp(ω)の値に加えて、さらに偏光子25の不完全性により重畳して観測される非消光成分は同じであるので、その差分をとると、非消光成分が打ち消され、ホール係数RH (ω)に相当する時間系列信号だけが2倍の大きさとなる。
これにより、非消光成分を完全に除去でき、被測定材料2のホール係数RH (ω)の測定精度を著しく高めることができる。したがって、本発明のテラヘルツ電磁波による物性測定装置1,50を用いてホール係数を測定することによって、偏光子25の機械的な振動による不安定性と、偏光子25由来の不完全性がなくなり、測定誤差を飛躍的に減少させることができる。また、磁場の反転及び非反転による差分測定を行うことにより測定精度を著しく高めることができる。
【実施例1】
【0041】
次に、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1として、本発明のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置1を製作した。図1を参照して、その主要部分について説明する。
パルスレーザ11としては、モード同期されたチタンサファイアレーザ(米国コヒーレント社製、ReqA9000)による再生増幅システムを用い、波長800nm、パルス幅200fs、繰り返し周波数200kHzのパルスレーザ光を発生させた。このパルスレーザ光には、光強度変調器6により100kHzの強度変調を印加した。また、テラヘルツ電磁波パルス発生用及びテラヘルツ電磁波検知器用の電気光学結晶19,33は、何れもZnTeを用いた。テラヘルツ電磁波集光用のレンズ21,31,32は、何れも放物面鏡を使用した。さらに、偏光子25としては、ワイヤグリッド型偏光子を用いた。
【実施例2】
【0042】
本実施例のテラヘルツ電磁波による物性測定装置1を用いて、被測定材料2として半導体のInAs基板の室温下でホール効果の検出を行った。InAs基板2は、市販されているノンドープの単結晶基板を用いた。室温でのキャリア(電子)濃度は、通常の4端子法による直流ホール測定によれば、2×1016cm-3であった。
【0043】
図5は実施例2で測定した反射テラヘルツ電磁波による時間領域での電場波形を示す。図において、横軸は遅延時間(ps)を示し、縦軸は反射テラヘルツ電磁波24のテラヘルツ電場強度(任意目盛り)を示している。被測定材料2に磁場を印加しない場合(B=0ガウス)を実線で示し、90ガウスの磁場を加えた場合を点線で示している。
図から明らかなように、磁場がない場合にも観測される信号は、 被測定材料のInAsから反射されたテラヘルツ電磁波波24がワイヤグリッド偏光子25の不完全性により反射される非消光成分である。また、磁場を加えると、ホール効果による電場成分が生じることが分かる。
【0044】
図6は、実施例2で測定した反射テラヘルツ電磁波の時間領域での電場波形における印加磁場の方向依存性を示す図である。図において、横軸は遅延時間(ps)を示し、縦軸は反射テラヘルツ電磁波のテラヘルツ電場強度(任意目盛り)を示している。図では、被測定材料に90ガウスの磁場を加えた場合を実線で示し、-90ガウスの磁場を加えた場合を点線で示している。
図から明らかなように、ホール効果によるテラヘルツ波の偏光変化成分の時間軸上の波形において、その符号が磁場により反転していることが分かる。
【0045】
図7は、実施例2において、磁場の符号を反転させて、それぞれ、反射テラヘルツ時間波形を測定し、その差分を記録して積算した波形を示す図である。図において、横軸は遅延時間(ps)を、縦軸は反射テラヘルツ電磁波のテラヘルツ電場強度(任意目盛り)を示している。磁場として11ガウス及び22ガウスの磁場を印加した。
図から明らかなように、非消光成分が除去され、ホール効果成分だけが明瞭に検知されていることが分かる。磁場強度が11ガウスと低いにもかかわらず、振幅からその偏光回転角が0.4mradと、従来の反射テラヘルツ電磁波による測定よりも約20倍以上高感度であることが分かった。
なお、本実施例では、磁場の反転、非反転を交互に行い、それぞれの場合のテラヘルツ時間波形の記録及び積算を50回繰り返した。そして、これらの時間波形の平均操作により得た時間波形をデータとして、FFTを行い、後述するホール係数やその導出に必要な誘電関数及び伝導度などの計算を行った。
【0046】
次に、磁場強度を変化させて、反射テラヘルツ時間波形を測定し、観測されたホール効果信号からホール係数を測定した。
図8は、実施例2で測定したInAsのホール係数の周波数依存性を示す図である。図において、横軸は周波数(THz)を示し、縦軸はホール係数の実部(m3 /C)を示している。
図から明らかなように、反射テラヘルツ電磁波の約0.5~2THzの領域においてホール係数の実部は、-300×10-63 /Cとほぼ一定であり、マイナスの符号からその導電型がn型であることが分かる。また、ホール係数の値から、キャリア密度が約2.1×1022-3、すなわち、約2.1×1016cm-3であることが分かる。この値は、直流電流印加による通常のホール効果測定と比較すると、妥当な値である。
【0047】
上記結果から、本発明のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置によれば、被測定材料に非接触で、高感度、かつ、高精度でホール係数の測定ができることが分かる。
【0048】
本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。上述した実施形態においては、主としてホール係数の測定について説明したが、複素屈折率や複素伝導度テンソルの測定も行うことができる。
【産業上の利用の可能性】
【0049】
本発明のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置によれば、ホール伝導度をテラヘルツ周波数領域で非接触、 高感度、 高精度に決定することができる。また、不透明材料を含む様々な物質のホール伝導度、 移動度を高帯域で非接触に評価することが可能となる。さらに、電極の形成が困難な半導体、 種々の強相関電子材料、 磁性体材料、 金属材料、 有機材料等の幅広い材料系の非接触評価が可能となる。
また、本発明のテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置によれば、被測定材料に非接触で、その物性測定を高速に行うことができる。このため、 産業上、重要な半導体基板材料のホール伝導度を効率よくかつ非破壊で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る第1の実施形態によるテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明に係る第2の実施形態によるテラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置の構成を示す模式図である。
【図3】第2の実施形態によるテラヘルツ電磁波パルス発生用の光伝導素子の構造及び動作を模式的に示す図である。
【図4】第2の実施形態によるテラヘルツ電磁波パルス検知用の光伝導素子の構造及び動作を模式的に示す図である。
【図5】実施例2で測定した反射テラヘルツ電磁波による時間領域での電場波形を示す図である。
【図6】実施例2で測定した反射テラヘルツ電磁波の時間領域での電場波形における印加磁場の方向依存性を示す図である。
【図7】実施例2において、磁場の符号を反転させて、それぞれ、反射テラヘルツ時間波形を測定し、その差分を記録して積算した波形を示す図である。
【図8】実施例2で測定したInAsのホール係数の周波数依存性を示す図である。
【図9】非特許文献2で報告されたテラヘルツ電磁波を用いた反射法によるホール係数測定装置を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1,50:テラヘルツ電磁波を用いた物性測定装置
2:被測定材料
6:光強度変調器
7:光強度変調器ドライバ
8:参照信号
10:入射光学系
11:パルスレーザ
11a:パルスレーザ光
12,13,14,15,18:ミラー
16:ビームスプリッター
17:光時間遅延回路
17a:ステージ
19:電気光学結晶
20:テラヘルツ電磁波パルス
21,31,32:レンズ
22:フィルタ
23:入射テラヘルツ電磁波の垂直偏光成分
24:反射テラヘルツ電磁波の垂直偏光成分
25:偏光子
26:電磁波パルス発生用の光伝導素子
26a,26b:光伝導素子の電極
26c:光伝導素子電極間の微小ギャップ
27:直流電圧
28:磁場系
30:検出光学系
33:テラヘルツ電磁波検知器(電気光学結晶)
34:位相板(1/4波長板)
35:検光子(ウォラストンプリズム)
35a,35b:偏光成分
36:光検知器
36a,36b:光検知器出力
37:増幅器(ロックインアンプ)
39:参照光
40:コンピュータ系
53:光伝導素子
53a,53b:光伝導素子の電極
53c:光伝導素子電極間の微小ギャップ
54:電流計
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8