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明細書 :光および熱応答性吸着材料、可溶性物質の回収方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4736362号 (P4736362)
公開番号 特開2005-103534 (P2005-103534A)
登録日 平成23年5月13日(2011.5.13)
発行日 平成23年7月27日(2011.7.27)
公開日 平成17年4月21日(2005.4.21)
発明の名称または考案の名称 光および熱応答性吸着材料、可溶性物質の回収方法
国際特許分類 B01J  20/26        (2006.01)
B01D  15/00        (2006.01)
B01J  20/34        (2006.01)
B01J  39/20        (2006.01)
C08F 220/38        (2006.01)
C08F 220/54        (2006.01)
C09K   3/00        (2006.01)
C22B   3/26        (2006.01)
C22B   3/24        (2006.01)
C22B   7/00        (2006.01)
FI B01J 20/26 E
B01J 20/26 G
B01D 15/00 G
B01J 20/34 G
B01J 20/34 H
B01J 39/20 G
C08F 220/38
C08F 220/54
C09K 3/00 E
C09K 3/00 U
C22B 3/00 J
C22B 3/00 L
C22B 7/00 G
請求項の数または発明の数 16
全頁数 19
出願番号 特願2004-194165 (P2004-194165)
出願日 平成16年6月30日(2004.6.30)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成16年3月11日社団法人日本化学会発行の「日本化学会第84春季年会2004年講演予稿集2」に発表
優先権出願番号 2003316307
優先日 平成15年9月9日(2003.9.9)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年3月1日(2007.3.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
発明者または考案者 【氏名】鈴木 隆之
個別代理人の代理人 【識別番号】100083806、【弁理士】、【氏名又は名称】三好 秀和
【識別番号】100100712、【弁理士】、【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
【識別番号】100100929、【弁理士】、【氏名又は名称】川又 澄雄
【識別番号】100095500、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 正和
【識別番号】100101247、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 俊一
【識別番号】100098327、【弁理士】、【氏名又は名称】高松 俊雄
審査官 【審査官】三崎 仁
参考文献・文献 特開平09-049830(JP,A)
特開2003-053185(JP,A)
特開2001-031723(JP,A)
特表平10-506132(JP,A)
特開2001-114823(JP,A)
特表2003-524680(JP,A)
調査した分野 B01J20/00-20/34
B01D15/00
C08F220/38,220/54
C09K3/00
C22B3/24,3/26,7/00
G01N30/48-30/88
特許請求の範囲 【請求項1】
可溶性物質溶液中で可溶性物質の吸着及び脱離の転移を光照射の有無により可逆的に示す光応答性と、溶解及び析出、もしくは膨潤及び収縮の転移を温度により可逆的に示す熱応答性とを有し、前記溶液中の可溶性物質は金属イオン、金属錯イオンまたは水素イオンである光および熱応答性吸着材料であって、
下式(a)に示すセグメントを含む共重合体を含み、
前記共重合体は、水素結合性溶媒中で、光照射の有無により前記(a)に示すセグメントが前記可溶性物質の吸着と脱離とを可逆的に示す
ことを特徴とする光および熱応答性吸着材料。
【化1】
JP0004736362B2_000007t.gif
(ただし、式(a)中、R、RおよびRは独立にH原子またはCH基であり、Rはアルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基またはアミド基であり、Xは炭素原子または窒素原子であり、Yは酸素原子または硫黄原子である。)
【請求項2】
前記金属は鉛、亜鉛、銅、ニッケル、パラジウム、リチウム、カドミウム、砒素、クロム、水銀、ベリリウム、バナジウム、マンガン、コバルト、鉄、金、銀、白金から選ばれる請求項1記載の光および熱応答性吸着材料。
【請求項3】
前記共重合体は、水素結合性溶媒中で、温度の変動により不溶性または難溶性と、可溶性とを可逆的に示請求項1または2記載の光および熱応答性吸着材料。
【請求項4】
前記共重合体は、架橋剤を含んでなり、水素結合性溶媒中で温度の変動により膨潤と収縮とを可逆的に示請求項1または2記載の光および熱応答性吸着材料。
【請求項5】
前記共重合体が下式(1)に示すセグメント(a)およびセグメント(b)を含む請求項1~4のいずれか記載の光および熱応答性吸着材料。
【化2】
JP0004736362B2_000008t.gif
(ただし、式(1)中、R、R、RおよびRは独立にH原子またはCH基であり、Rはアルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基またはアミド基であり、RおよびRは独立にH原子、ヘテロ原子を含む有機基で置換されていてもよいアルキル基またはシクロアルキル基であり、またはRおよびRは互いに結合したアルキレン基であっても良く、Xは炭素原子または窒素原子であり、Yは酸素原子または硫黄原子である。)
【請求項6】
前記共重合体が、1´,3´,3´-トリメチル-6-(アクリロイルオキシ)スピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール)と、N-イソプロピルアクリルアミドとを含む単量体の共重合体である請求項5記載の光および熱応答性吸着材料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか記載の光および熱応答性吸着材料溶液を、暗所下かつ前記吸着材料の転移温度より低い温度で得る工程と、
前記吸着材料の溶液を暗所下かつ転移温度より高温に加熱して吸着材料中の共重合体を液中に析出させ、引き続き析出した該共重合体と添加された金属イオンとを液中で錯形成させる工程または、
前記吸着材料の溶液中で暗所下かつ転移温度より低温で、共重合体と添加された金属イオンとを錯形成させ、引き続き前記錯形成した共重合体を転移温度より高温に加熱して液中に析出させる工程と、
前記析出させた錯形成した共重合体を引き続き暗所下高温で液から分離する工程と、
前記分離した共重合体を暗所下溶媒中で転移温度より低温に冷却して溶解させて溶液とする工程と、
転移温度より低温で溶液に可視光を照射して金属イオンを共重合体から遊離させる工程と、
引き続き可視光を照射しながら溶液を転移温度より高温に加熱して共重合体を析出させる工程と、
引き続き高温で可視光を照射しながら前記析出させた共重合体を溶媒から分離する工程とを含むことを特徴とする可溶性物質の回収方法。
【請求項8】
前記錯形成させる工程では、金属イオン水溶液と、光および熱応答性吸着材料の水素結合性溶媒の溶液とを混合する請求項7記載の可溶性物質の回収方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか記載の光および熱応答性吸着材料を用いて、可溶性物質を含む溶液から前記可溶性物質を回収用溶媒中へ回収することを特徴とする可溶性物質の回収方法。
【請求項10】
(A)光および熱応答性吸着材料中の共重合体と可溶性物質とを、液中で吸着させて吸着化合物を得る工程と、
(B)前記吸着化合物を液から固液分離する工程と、
(C)分離した吸着化合物を回収用溶媒へ添加する工程と、
(D)可溶性物質と共重合体とを光応答性により遊離させる工程と、
(E)共重合体を回収用溶媒から取り出す工程と
を含む請求項9記載の可溶性物質の回収方法。
【請求項11】
前記可溶性物質と共重合体とを遊離させる工程(D)では、吸着材料の転移温度より低温で回収用溶媒中に溶解または膨潤している吸着化合物に、可視光を照射して遊離させる請求項10記載の可溶性物質の回収方法。
【請求項12】
前記工程(A)から工程(C)までを暗所下で行い、
前記工程(B)では転移温度より高温で液中に析出している前記吸着化合物を、固液分離し、
前記工程(C)では、転移温度より低温で吸着化合物を回収用溶媒に溶解させ、
さらに、前記工程(E)では、可視光を引き続き照射しながら、回収用溶媒を転移温度より高温に加熱して溶解していた共重合体を析出させ、次いで固液分離する請求項10または11記載の可溶性物質の回収方法。
【請求項13】
前記工程(A)から工程(C)までを暗所下で行い、
前記工程(E)では、可視光を引き続き照射しながら、膨潤または収縮している遊離の共重合体を固液分離で取り出す
請求項10または11記載の可溶性物質の回収方法。
【請求項14】
さらに工程(A)後に、暗所下で、得られた前記吸着化合物を転移温度より高温に加熱して液中に析出させる工程を含むか、または
工程(A)前に、暗所下で、前記共重合体が溶解している溶液を転移温度より高温に加熱して共重合体を析出させる工程を含む請求項10、11、12のいずれか記載の可溶性物質の回収方法。
【請求項15】
前記工程(A)では、可溶性物質の水溶液と、前記光および熱応答性吸着材料の水素結合性溶媒の溶液とを混合する請求項10、12、13のいずれか記載の可溶性物質の回収方法。
【請求項16】
前記回収する可溶性物質が金属イオン、金属錯イオンまたは水素イオンであり、前記金属は鉛、亜鉛、銅、ニッケル、パラジウム、リチウム、カドミウム、砒素、クロム、水銀、ベリリウム、バナジウム、マンガン、コバルト、鉄、金、銀、白金から選ばれる請求項9~15のいずれか記載の可溶性物質の回収方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光および熱応答性吸着材料と、それを用いて金属イオン等の可溶性物質を回収する回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場等から排出される産業廃液や産業廃棄物から、効率良く金属イオン等の可溶性物質、特に鉛イオン等の重金属イオンを回収する方法が、環境汚染防止、産業廃棄物の減量、資源再利用の理由から望まれている。
金属イオンを含む廃液を浄化する方法として、中和凝集沈殿法・硫化ソーダ法・重金属捕集剤法・フェライト法等が実用化されている。これらの方法で廃液を処理した後、金属を回収するステップ、さらに再利用するステップが設けられている。
このうち、重金属捕集剤法は、重金属イオンと錯化合物を形成する捕集剤(例えばシアン化合物。)を用いる。捕集処理後の捕集剤に吸着した金属イオンを回収するには、捕集剤を酸化処理等の化学反応処理を経て金属イオンから分離した後、金属を陽イオンとして溶液中に単離させて精製・回収している。
上記のような捕集剤による重金属捕集後の重金属回収ステップにおける化学反応処理の実施にあたっては、専門的な知識や技術が要求されるだけでなく、煩雑な操作と、それによる長い処理時間や多大な処理コストとを要した。
そこで、化合物への光の照射の有無により可逆的に変色するフォトクロミズムを示す化合物(以下、フォトクロミック化合物という。)の、金属イオンが可視光照射に応答して可逆的に錯形成して吸着する光応答性に着目して、溶液中の金属イオンの捕集と回収の両機能を備える金属イオン吸着材料が提案された(例えば、特許文献1参照。)。

【特許文献1】特開2003-053185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記のようなフォトクロミック化合物を共重合体のセグメントとして含む吸着材料は、金属イオンとの錯形成状態では水等の極性溶媒に不溶であるものが多く、この不溶物に金属イオン脱離のために光を照射すると、内部まで光が照射されにくいために内部に錯形成している金属イオンの脱離効率が低い、という問題点があった。
したがって、本発明の目的は、照射した光が溶液全体に行き渡ることにより効率良く金属イオン等の可溶性物質が回収できるように、可溶性物質吸着状態で溶媒中に溶解することができる吸着材料を提供することにある。
本発明者は、吸着材料に含まれる共重合体のセグメントのうち、ある温度を境に可逆的に相転移を示す性質(以下、熱応答性という。)、例えば溶媒中への可溶性および不溶性を可逆的に示す性質をもつ化合物により、吸着材料を制御することに着目し、諸条件を確立して本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は以下の(1)~(16)に関する。
(1)可溶性物質溶液中で可溶性物質の吸着及び脱離の転移を光照射の有無により可逆的に示す光応答性と、溶解及び析出、もしくは膨潤及び収縮の転移を温度により可逆的に示す熱応答性とを有することを特徴とする光および熱応答性吸着材料。
【0005】
(2)前記溶液中の可溶性物質は金属イオン、金属錯イオン、水素イオンまたはアミノ酸であり、前記金属は鉛、亜鉛、銅、ニッケル、パラジウム、リチウム、カドミウム、砒素、クロム、水銀、ベリリウム、バナジウム、マンガン、コバルト、鉄、金、銀、白金から選ばれる前記(1)記載の光および熱応答性吸着材料。
(3)水素結合性溶媒中で、温度の変動により不溶性または難溶性と、可溶性とを可逆的に示し、かつ光照射の有無により前記可溶性物質の吸着と脱離とを可逆的に示す共重合体を含む前記(1)または(2)記載の光および熱応答性吸着材料。
(4)架橋剤を含んでなり、水素結合性溶媒中で温度の変動により膨潤と収縮とを可逆的に示し、かつ光照射の有無により前記可溶性物質の吸着と脱離とを可逆的に示す共重合体を含む前記(1)または(2)記載の光および熱応答性吸着材料。
【0006】
(5)前記共重合体が下式(1)に示すセグメント(a)およびセグメント(b)を含む前記(3)または(4)記載の光および熱応答性吸着材料。
【化1】
JP0004736362B2_000002t.gif
(ただし、式(1)中、R、R、RおよびRは独立にH原子またはCH基であり、Rはアルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基またはアミド基であり、RおよびRは独立にH原子、ヘテロ原子を含む有機基で置換されていてもよいアルキル基またはシクロアルキル基であり、またはRおよびRは互いに結合したアルキレン基であっても良く、Xは炭素原子または窒素原子であり、Yは酸素原子または硫黄原子である。)
(6)前記共重合体が、1´,3´,3´-トリメチル-6-(アクリロイルオキシ)スピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール)と、N-イソプロピルアクリルアミドとを含む単量体の共重合体である前記(5)記載の光および熱応答性吸着材料。
【0007】
(7)前記(1)~(6)のいずれか記載の光および熱応答性吸着材料溶液を、暗所下かつ前記吸着材料の転移温度より低い温度で得る工程と、
前記吸着材料の溶液を暗所下かつ転移温度より高温に加熱して吸着材料中の共重合体を液中に析出させ、引き続き析出した該共重合体と添加された金属イオンとを液中で錯形成させる工程または、
前記吸着材料の溶液中で暗所下かつ転移温度より低温で、共重合体と添加された金属イオンとを錯形成させ、引き続き前記錯形成した共重合体を転移温度より高温に加熱して液中に析出させる工程と、
前記析出させた錯形成した共重合体を引き続き暗所下高温で液から分離する工程と、
前記分離した共重合体を暗所下溶媒中で転移温度より低温に冷却して溶解させて溶液とする工程と、
転移温度より低温で溶液に可視光を照射して金属イオンを共重合体から遊離させる工程と、
引き続き可視光を照射しながら溶液を転移温度より高温に加熱して共重合体を析出させる工程と、
引き続き高温で可視光を照射しながら前記析出させた共重合体を溶媒から分離する工程と
を含むことを特徴とする可溶性物質の回収方法。
(8)前記錯形成させる工程では、金属イオン水溶液と、光および熱応答性吸着材料の水素結合性溶媒の溶液とを混合する前記(7)記載の可溶性物質の回収方法。
【0008】
(9)前記(1)~(6)のいずれか記載の光および熱応答性吸着材料を用いて、可溶性物質を含む溶液から前記可溶性物質を回収用溶媒中へ回収することを特徴とする可溶性物質の回収方法。
(10)(A)光および熱応答性吸着材料中の共重合体と可溶性物質とを、液中で吸着させて吸着化合物を得る工程と、
(B)前記吸着化合物を液から固液分離する工程と、
(C)分離した吸着化合物を回収用溶媒へ添加する工程と、
(D)可溶性物質と共重合体とを光応答性により遊離させる工程と、
(E)共重合体を回収用溶媒から取り出す工程と
を含む前記(9)記載の可溶性物質の回収方法。
【0009】
(11)前記可溶性物質と共重合体とを遊離させる工程(D)では、吸着材料の転移温度より低温で回収用溶媒中に溶解または膨潤している吸着化合物に、可視光を照射して遊離させる前記(10)記載の可溶性物質の回収方法。
(12)前記工程(A)から工程(C)までを暗所下で行い、
前記工程(B)では転移温度より高温で液中に析出している前記吸着化合物を、固液分離し、
前記工程(C)では、転移温度より低温で吸着化合物を回収用溶媒に溶解させ、
さらに、前記工程(E)では、可視光を引き続き照射しながら、回収用溶媒を転移温度より高温に加熱して溶解していた共重合体を析出させ、次いで固液分離する前記(10)または(11)記載の可溶性物質の回収方法。
(13)前記工程(A)から工程(C)までを暗所下で行い、
前記工程(E)では、可視光を引き続き照射しながら、膨潤または収縮している遊離の共重合体を固液分離で取り出す前記(10)または(11)記載の可溶性物質の回収方法。
【0010】
(14)さらに工程(A)後に、暗所下で、得られた前記吸着化合物を転移温度より高温に加熱して液中に析出させる工程を含むか、または
工程(A)前に、暗所下で、前記共重合体が溶解している溶液を転移温度より高温に加熱して共重合体を析出させる工程を含む前記(10)、(11)、(12)のいずれか記載の可溶性物質の回収方法。
(15)前記工程(A)では、可溶性物質の水溶液と、前記光および熱応答性吸着材料の水素結合性溶媒の溶液とを混合する前記(10)、(12)、(13)のいずれか記載の可溶性物質の回収方法。
(16)前記回収する可溶性物質が金属イオン、金属錯イオン、水素イオンまたはアミノ酸であり、前記金属は鉛、亜鉛、銅、ニッケル、パラジウム、リチウム、カドミウム、砒素、クロム、水銀、ベリリウム、バナジウム、マンガン、コバルト、鉄、金、銀、白金から選ばれる前記(9)~(15)のいずれか記載の可溶性物質の回収方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回収対象である金属イオン等の可溶性物質が吸着した状態で溶解または膨潤している吸着材料に、照射した光が充分に行き渡るため、高い効率で可溶性物質を脱離させることができる。さらに吸着材料の析出・溶解を容易に制御できるため可溶性物質を簡便な操作で回収できる。また、可溶性物質を遊離させた後の吸着材料は、繰り返し使用でき、低コストで稼動できる。さらに、吸着材料内の共重合体を、温度により膨潤と収縮とを示す不溶性のゲルとすることにより、可溶性物質の回収工程を簡略化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の光および熱応答性吸着材料は、可溶性物質溶液中で可溶性物質の吸着及び脱離の転移を光照射の有無により可逆的に示す光応答性と、溶解及び析出、もしくは膨潤及び収縮の転移を温度により可逆的に示す熱応答性とを有することを特徴とする。
また、本発明の可溶性物質の回収方法は、本発明の吸着材料を用いて、可溶性物質を含む溶液から前記可溶性物質を回収用溶媒中へ回収することを特徴とする。
例えば、回収される可溶性物質として金属イオンを、温度による転移として溶解及び析出の相転移を示す場合を例として、以下に説明する。
【0013】
金属イオンを回収するには、例えば、光照射の有無により可溶性物質の吸着と脱離とを可逆的に示す光応答性を利用して、金属イオン溶液中、暗所で本発明の吸着材料中に含まれる共重合体に金属イオンを錯形成により吸着させて錯体とし、そのまま、固液分離して錯体を取り出し、回収用溶媒中に分散させる。次いで、この錯体に可視光を照射して共重合体から金属イオンを遊離させればよい。
このためには、まず、吸着材料中の共重合体は、少なくとも、金属イオンと錯形成した共重合体及び金属イオンが脱離した共重合体を溶媒から取り出す時では、好ましくは溶媒に不溶または難溶、より好ましくは不溶であり、一方、少なくとも金属イオンを遊離させる時には溶媒に可溶であるのが、作業性の上で好ましい。
本発明の吸着材料は、共重合体固有のある温度を境にして、その温度より高温に共重合体溶液を加熱すると、金属イオンが吸着しているか否かにかかわらず、共重合体が析出して不溶または難溶に転移し、上記温度より低温に冷却すると、析出していた共重合体は溶解状態に転移することができることが好ましい。熱応答性によるこのような相転移の境界の温度を、以下、転移温度ともいう。
すなわち、温度の変動により、前記共重合体が水素結合性溶媒中で、不溶性または難溶性と可溶性とを可逆的に示す熱応答性を示すのが好ましい。なお、本発明では水素結合性溶媒とは、水素結合による相互作用を可能とする溶媒であり、例えばアルコール類、水が挙げられ、特に水が好ましい。また、水素結合性溶媒は、2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0014】
これにより、例えば、まず、暗所下かつ転移温度より高温では吸着材料は液中で不溶または難溶なため、析出している。暗所及び温度を維持したまま、これに引き続き金属イオンを添加して錯形成により吸着させ、引き続き濾別等で固液分離する。得られた不溶または難溶の吸着材料を暗所のまま、水等の回収用の溶媒中に分散させ、転移温度より低温まで冷却して溶媒に溶解させる。これに低温のまま可視光を照射すれば、光が溶液全体を充分に照射するため、錯形成していた金属イオンは吸着材料から脱離して溶媒中に高い収率で遊離することができる。引き続き可視光を照射しながら再度転移温度より高温に加熱すれば、金属イオンが遊離したまま吸着材料は析出する。これを光照射及び高温を維持しつつ固液分離すれば溶媒中に金属イオンが残されて回収される。析出した吸着材料は繰り返し金属イオン回収に使用することができる。
本発明の光および熱応答性吸着材料は、この可逆的な光応答性と熱応答性との両方を有する共重合体を含むことにより、金属イオン溶液から金属イオンを吸着させて効率よく繰り返し回収することができる。光応答性において、共重合体の吸着・脱離と同時に可逆的に変色する吸着材料が、作業性の理由でより好ましい。
【0015】
可視光照射に応答して、金属イオン等の可溶性物質を可逆的に液中で吸着し、かつ可逆的に変色するフォトクロミック化合物として、本発明では、メロシアニン構造を取り得るスピロピランやスピロオキサジン分子を利用できる。また、熱応答性のために、例えばN-アルキル(メタ)アクリルアミドを利用できる。
すなわち、本発明の吸着材料に含まれる共重合体は、下記式(1)で示される、(a)のセグメントたとえばスピロピランセグメントまたはスピロオキサジンセグメントと、(b)のセグメント例えばN-アルキル(メタ)アクリルアミドセグメントとを含むのが好ましい。
【化2】
JP0004736362B2_000003t.gif
式(1)中、R、R、RおよびRは独立にH原子またはCH基であり、共重合体は、RおよびRがH原子であればアクリレート共重合体、CH基であればメタクリレート共重合体である。
はアルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基またはアミド基である。Rは、具体的にはメチル基、エチル基、ドデシル基等が例示される。
Xは炭素原子または窒素原子であり、Yは酸素原子または硫黄原子である。
セグメント(b)中、RおよびRは独立にH原子、ヘテロ原子を含む有機基で置換されていてもよいアルキル基またはシクロアルキル基である。ただし、RおよびRの両方がH原子である場合を除く。また、RおよびRは互いに結合したアルキレン基であっても良い。RおよびRのアルキル基は具体的には、イソプロピル基、プロピル基、エチル基、メチル基が挙げられ、シクロアルキル基としてはシクロプロピル基等が挙げられ、アルキレン基としてはブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。
特に、1´,3´,3´-トリメチル-6-(アクリロイルオキシ)スピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール)、およびN-イソプロピルアクリルアミドを含む単量体の共重合体であるのが好ましい。
【0016】
セグメント(a)とセグメント(b)との重合は、ブロック状の共重合であっても、ランダムな共重合であっても良く、特に限定されない。
例えばランダムな共重合の場合、(a)のセグメントと(b)のセグメントとのモル分率(モル比)は、特に限定されないが、それぞれn、(1-n)とすると、0<n≦0.5が好ましい。それ以外のブロック状やグラフト状の共重合の場合は、前記モル分率は特に限定されない。例えば上記nが0.8程度であってもセグメント(b)同士がブロック重合している個所があれば共重合体は充分な熱応答性を示すことができる。
以下、セグメント(a)について、式(1)のXが炭素原子で、Yが酸素原子の場合、すなわち共重合体がセグメント(a)としてスピロピラン系セグメントを有する場合を挙げて説明する。
【0017】
上記共重合体におけるスピロピラン系セグメントは、可視光照射によって、電気的に中性な無色のスピロピラン構造体と、分子内に双性イオンを有するメロシアニン構造体とに、液中で可逆的に異性化する光応答性を有する。スピロピラン構造体と、メロシアニン構造体とを次の式(2)に示す。なお、式(2)中、Mは陽イオン化できる金属を示し、R~R、X、Yは式(1)と同様である。
【化3】
JP0004736362B2_000004t.gif

【0018】
そして、暗所下では、上記共重合体は、前記スピロピラン系セグメントが異性化して、メロシアニン構造体をとるため着色している。このとき、前記液中に金属Mの陽イオンが溶存していると、メロシアニン構造における酸素原子すなわち式(1)、式(2)におけるY原子は、電子密度が高く、この部位で、陽イオンである金属イオンと式(2)に示すように、錯形成を生じる。
【0019】
この錯形成はメロシアニン構造体が可視光照射によりスピロピラン構造体に戻ると解消する。すなわち、上記暗所下にあった共重合体に、外部から可視光を照射すると、メロシアニン構造体が閉環してスピロピラン構造体に異性化するため、共重合体は、溶解していれば無色、不溶または難溶では白色となる。そして、これまで錯形成していた金属イオンは、液中に遊離する。
次に、可視光の照射を停止し、共重合体を暗所下に置くと、再度、共重合体中のスピロピラン系セグメントはメロシアニン構造となり、遊離していた金属イオンと錯形成し、かつ共重合体は再度着色する。
【0020】
次に、セグメント(b)について説明する。本発明においては、共重合体が、熱応答性の(b)のセグメント例えばN-アルキル(メタ)アクリルアミドセグメントを有することにより、転移温度を境にして、例えばその温度より高温に共重合体溶液を加熱すると、金属イオンが吸着しているか否かにかかわらず、共重合体が析出して不溶または難溶となり、上記温度より低温に冷却すると、析出していた共重合体は溶解することができる。
【0021】
図2にセグメント(a)としてスピロピランアクリレート(以下、SPAともいう。)セグメントとセグメント(b)としてN-イソプロピルアクリルアミド(以下、NIPAAmともいう。)セグメントとの共重合体であって、前記NIPAAmセグメントが96mol%である式(1)の共重合体の溶液(破線)と、上記溶液に2価の鉛イオンを添加した場合(実線)との、10℃~30℃における560nmでの光透過率の一例のグラフを示す。なお、図2でSPA:2価の鉛イオンPb2+のモル濃度比は、1:10であり、溶媒は水:メタノール=9:1(容量比)の混合溶媒である。図2のグラフから、ここで用いた共重合体は、いずれも25℃を境に低温側で溶解し、高温側で析出することがわかる。
【0022】
上記溶解と析出との境界になる転移温度は、感熱性のセグメント(b)の割合により変動し、一般にセグメント(b)の含有率が高くなるほど上昇する。例えば、図2で用いた各セグメントをNIPAAmが99mol%以上とした共重合体では、転移温度は32℃となる。作業性の点から、転移温度が0℃~100℃、更に好ましくは10~40℃になるように、セグメント(b)の組成、セグメント比、水以外の水素結合性溶媒の種類などを設定するのが好ましい。また、転移温度は添加する金属イオン濃度によっても変動する場合がある。
【0023】
本発明の吸着材料において、感熱性のセグメント(b)の共重合体中含有率は、特に限定されないが、例えばランダムな共重合の場合には50mol%以上であるのが好ましい。この場合、50mol%以上であれば、共重合体が、各種溶剤中で充分に実用可能な程度の転移温度を境に、熱応答性を示すことができる。
一方、スピロピラン系セグメント(a)は金属イオンと錯形成する部位を有するため、該含有率が少なくなると錯形成される金属イオン量も減少する。よって、共重合体中のスピロピラン系セグメントの含有率は、熱応答性と錯形成能とに合わせて適宜選択される。セグメント(a)の含有率は、例えばセグメント(a)とセグメント(b)からなる共重合体の場合は、上述のモル分率nに相当する。
以上、共重合体が上記セグメント(a)とセグメント(b)を含み、析出及び溶解の熱応答性を示す吸着材料について説明したが、本発明の吸着材料には、光応答性は維持したまま、熱応答性として、共重合体が水素結合性溶媒中で、転移温度より低温では膨潤し、転移温度より高温では液分を放出して収縮して体積を減少する相転移を可逆的に示す吸着材料も含むことができる。この場合の共重合体として、架橋剤を含んで重合されたものが挙げられる。架橋剤は、アルキルジメタクリレート等の一般に用いられる架橋剤を、吸着材料の作用を妨げない範囲で適宜使用できる。架橋剤を含んで重合された本発明における共重合体は、一般に水に不溶なゲル状である。
【0024】
本発明の光および熱応答性吸着材料は、上記共重合体単独であってもよいし、共重合体の光応答性、および熱応答性を妨げない範囲で、例えば光増感剤等の他の成分が含まれていても良い。
さらに、共重合体中には、必要に応じて、他のセグメントを含んでも良い。これには、例えばエチレン性不飽和基を有する化合物や、(b)以外の構造の熱応答性セグメント等が挙げられる。
【0025】
本発明の可溶性物質の回収方法は、上記本発明の吸着材料を用いて、可溶性物質を含む溶液から前記可溶性物質を回収用溶媒中へ回収することを特徴とする。
以上の光および熱応答性吸着材料を用いた一連の金属イオン回収方法の流れの一例を表1に示す。
【0026】
【表1】
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【0027】
本発明の可溶性物質回収方法の一例として、溶解・析出の相転移を示す熱応答性を有する吸着材料で金属イオンを回収する方法を、上記表1に沿って説明する。
回収方法として、暗所下かつ転移温度より低温で、上記本発明の光および熱応答性吸着材料の溶液を得る工程と(表1の工程1参照。)、
前記吸着材料の溶液を暗所下かつ転移温度より高温に加熱して吸着材料中の共重合体を液中に析出させ(表1の工程2参照。)、引き続き析出した前記共重合体と添加された金属イオンとを液中で錯形成させる工程(表1の工程3参照。)または、
前記吸着材料の溶液中で暗所下かつ転移温度より低温で、共重合体と添加された金属イオンとを錯形成させ、引き続き前記錯形成した共重合体を転移温度より高温に加熱して液中に析出させる工程と、
前記析出させた錯形成した共重合体を引き続き高温で液から分離する工程と(表1の工程3参照。)、
前記分離した共重合体を溶媒中で転移温度より低温に冷却して溶解させて溶液とする工程と(表1の工程4参照。)、
転移温度より低温で溶液に可視光を照射して金属イオンを共重合体から遊離させる工程と(表1の工程5参照。)、
引き続き可視光を照射しながら溶液を転移温度より高温に加熱して共重合体を析出させる工程と(表1の工程6参照。)、
引き続き高温で可視光を照射しながら前記析出させた共重合体を溶媒から分離する工程と(表1の工程6参照。)
を含む方法が例示される。
【0028】
すなわち、本発明の可溶性物質の回収方法として、まず、
(A)本発明の吸着材料中の共重合体と可溶性物質とを、液中で吸着させて吸着化合物を得る工程と、
(B)前記吸着化合物を液から固液分離する工程と、
(C)分離した吸着化合物を回収用溶媒へ添加する工程と、
(D)可溶性物質と共重合体とを光応答性により遊離させる工程と、
(E)共重合体を回収用溶媒から取り出す工程とを含む回収方法、が挙げられる。
【0029】
例えば、共重合体が溶解・析出の熱応答性を有する場合、表1のように、工程(A)から工程(C)までを暗所下で行い、
工程(B)では転移温度より高温で液中に析出している前記吸着化合物を、固液分離し、
表1の工程4のように、工程(C)では前記分離した吸着化合物を転移温度より低温で回収用溶媒に溶解させることが挙げられる。
次いで、工程(D)では、表1の工程5のように、前記吸着材料の転移温度より低温で回収用溶媒中に溶解している吸着化合物に、可視光を照射して可溶性物質と共重合体とを遊離させることが挙げられる。ここで吸着化合物が溶解状態であるため、効率よく受光することができる。
続いて、工程(E)では、表1の工程6のように、可視光を引き続き照射しながら、回収用溶媒を転移温度より高温に加熱して溶解していた共重合体を析出させ、次いで固液分離で該共重合体を取り出すことが挙げられる。
【0030】
なお、前記工程(A)の吸着を溶解状態で行う場合は、工程(A)にひき続いて暗所下で、得られた前記吸着化合物を転移温度より高温に加熱して液中に析出させ、
一方、工程(A)の吸着を析出状態で行う場合は、工程(A)前に予め表1の工程2のように、暗所下で、前記共重合体が溶解している溶液を転移温度より高温に加熱して共重合体を析出させることができる。
【0031】
一方、共重合体が膨潤・収縮の熱応答性を有する場合、共重合体は温度によらず不溶性であるため、温度は特に制限されず、回収方法は、例えば次の工程(A1)~(E1)のように簡易化できる。
すなわち、工程(A1)から工程(C1)までを暗所下で行い、
(A1)本発明の吸着材料中の共重合体と可溶性物質とを、液中で吸着させて吸着化合物を得る工程と、
(B1)前記吸着化合物を液から固液分離する工程と、
(C1)分離した吸着化合物を回収用溶媒へ添加する工程と、
(D1)可溶性物質と共重合体とを可視光を照射して遊離させる工程と、
(E1)可視光を引き続き照射しながら、膨潤または収縮している遊離の共重合体を固液分離により回収用溶媒から取り出す工程とを含む回収方法が挙げられる。
なお、上記工程(D1)では、膨潤により表面積が増加した共重合体から可溶性物質が遊離しやすくなるため、転移温度より低温として膨潤している共重合体に可視光照射するのが好ましい。
また、(E1)で、吸着材料内の残存溶媒量を低減したい場合は転移温度より高温として収縮させるのが好ましい。
【0032】
可溶性物質の回収方法の実施態様の一例として、上記式(2)に沿って、2価の鉛イオンを、共重合体が1´,3´,3´-トリメチル-6-(アクリロイルオキシ)スピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール)およびN-イソプロピルアクリルアミドの共重合体である吸着材料で吸着する際の、吸着材料の変化を以下に説明する。
【0033】
(吸着材料溶液調製工程)
まず、あらかじめ、メタノール:水=(1:9)(容量比)の混合液と、吸着材料とを転移温度より低温で混合すると、吸着材料中の共重合体は溶解して青色に呈色した水溶液が得られる(以下、溶液1という。)。これは共重合体中にメロシアニン構造がある程度安定に存在していることを示す。
このように転移温度より低温かつ暗所で、一度吸着材料を溶媒中に完全に溶解させることにより、溶媒が隅々に馴染んで行き渡る。
その後、この溶液1を暗所下のまま転移温度より高温にし、共重合体を不溶化させて析出物を得る(以下、溶液2という。)。
なお、暗所とは、金属イオンの有無にかかわらず、通常の室内光程度であれば問題はない。
【0034】
(金属イオン吸着(錯形成)工程)
次に、上記溶液2に、暗所下かつ高温を維持しつつ、2価鉛イオンの水溶液を添加して混合する。鉛イオンは式(2)のようにメロシアニン構造体に吸着されて錯体を形成する。高温により、共重合体は析出したまま錯形成する。共重合体による呈色は迅速に青色から黄色へ変化する。
【0035】
ここで、金属イオンと錯形成させる共重合体は溶液1のような低温の溶解状態、上述した溶液2のような高温の析出状態のどちらでもよい。言い換えれば、高温化して液中に共重合体を不溶化させる工程は、錯形成工程の後でも前でも良い。錯形成工程の共重合体は、錯形成の効率の点からは可溶化していることが好ましく、その後の分離回収工程では作業性の点から不溶化状態をとるのが好ましい。
もしも、錯形成工程終了後に、金属イオンと錯形成している吸着材料が溶解状態である場合、または析出が不完全である場合には、暗所下を維持したまま、転移温度より高く上記液を加熱する。これにより錯形成した共重合体(金属イオンと共重合体とが錯形成により吸着している吸着化合物)が不溶化して液中に充分な析出物が得られる。
【0036】
(吸着材料分離工程)
暗所下かつ転移温度より高温を維持したまま、黄色の上記析出物を液分から分離して回収用の水槽へ移す。
【0037】
(析出物可溶化工程)
分離した析出物を引き続き暗所下で水槽中の金属回収用溶媒と混合し、転移温度より低温に冷却する。冷却により析出物(錯形成した共重合体)は溶解し、黄色透明の溶液となる。
【0038】
(金属イオン脱離工程)
その後引き続き転移温度より低温で可視光(例えば>420nm)を照射する。可視光照射により、式(2)において左方向で示すように、メロシアニン構造体からスピロピラン構造体への光異性化と共に、共重合体と錯形成していた鉛イオンが溶液中に遊離する。このため溶液は無色透明を呈する。
なお、析出物可溶化と光照射とは、同時でも、析出物可溶化が先でも良い。
【0039】
(金属イオン回収工程)
可視光照射を維持したまま溶液を転移温度より上に加熱すると、鉛イオンを遊離させたまま、共重合体が不溶化して液中に白色に析出する。これを可視光照射及び温度を維持しながら固液分離すると、液分には鉛イオンが残って回収され、一方、共重合体の析出物は再度新しい鉛イオンの水溶液に同様に混合して鉛イオン回収に使用できる。
以上のように、金属イオンの吸着および遊離は目視により色とその濃度で判断できる。
なお、上記実施態様及び表1中の呈色は、錯形成用にメタノール:水=(1:9)を用いた場合であり、例えば水のみを用いた場合は、上記吸着材料溶液調製工程の溶液1(表1の工程1)では赤紫色を、同工程の溶液2(表1の工程2)では白濁色を呈する。
【0040】
上述のように、共重合体は実用可能な転移温度より高温で、錯形成用の液および回収用の溶媒に不溶または難溶であるのが好ましく、この液および溶媒のための溶剤としては、水、アルコール類等の水素結合性溶媒、好ましくはセグメント(b)と水素結合できる溶媒が挙げられる。
【0041】
上記錯形成させる工程(A)では、上記のような、吸着材料の水素結合性溶媒の溶液に、金属イオン水溶液を添加する方法の他、逆に金属イオン水溶液に、共重合体を添加する方法、カラム等により連続的に金属イオン溶液と吸着材料とを接触させる方法も挙げられ、特に制限されない。
【0042】
上記した共重合体を含む吸着材料溶液の光応答性は、光の照射時間と同様に光の照射強度にも対応するため、例えば、可視光の照射強度や照射時間により、共重合体からの金属イオンの遊離速度を制御することができる。
また、暗所下とする際に、紫外光の照射で代用しても良く、この場合、次に可視光を照射する際は同時に紫外光照射を停止する。
【0043】
本発明の吸着材料及び回収方法により、溶液中から吸着して回収できる可溶性物質として、金属イオンまたは金属錯イオンが挙げられ、この金属としては、鉛、亜鉛、銅、ニッケル、パラジウム、リチウム、カドミウム、砒素、クロム、水銀、ベリリウム、バナジウム、マンガン、コバルト、鉄、金、銀、白金等が例示され、式(2)には2価のイオンが示されているが、特に価数に限定はない。例えば鉛、亜鉛、銅、ニッケル等は2価のイオン、パラジウム等は3価のイオンが挙げられる。さらに、グリシン、アラニン等のアミノ酸、水素イオンなども回収できる。
【0044】
以上、スピロピランのアクリレート(以下、SPAともいう。)として1´,3´,3´-トリメチル-6-(アクリロイルオキシ)スピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール)、およびN-イソプロピルアクリルアミド(以下、NIPAAmともいう。)を使用した場合の挙動について説明したが、他のスピロピラン、他の(メタ)アクリレートを使用した式(1)の共重合体も、同様な光および熱応答性の可溶性物質吸着を示す。また、スピロピランは式(1)におけるセグメント(a)のXが炭素原子、Yが酸素原子の場合であるが、他のX、Yの組み合わせの場合も同様である。また、NIPAAm以外のセグメント(b)を用いた共重合体も転移温度等に差異はあっても同様な熱応答性を示す。
また、逆に、熱応答性の相転移が、転移温度より低温で析出または収縮し、転移温度より高温で溶解または膨潤を示しても良いし、光応答性の相転移が、紫外光照射で吸着し、可視光照射または暗所で脱離しても良い。
【実施例1】
【0045】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、本実施例により本発明を限定するものではない。
(スピロピランアクリレート(SPA)の合成)
(1) 1´,3´,3´-トリメチル-6-ヒドロキシスピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール) 4.72g(0.0161mol)(ACROS ORGANICS社製、純度99%、Fw 293.37、品番42192-0050)をトルエン(関東化学株式会社製(蒸留後使用)、特級、純度99.5%、沸点110.625℃) 28.3ミリリットルに溶解させた。
(2) アクリル酸クロライド(東京化成工業株式会社製品番A0147(蒸留後使用)、Fw90.51) 1.59g(0.0176mol)を、トルエン(同上) 14.2ミリリットルに溶解させた。
【0046】
(3) 別に、トリエチルアミン(以下、TEAという。)(和光純薬工業株式会社製(蒸留後使用)、純度99%、品番202-02646) 1.79g(0.0114mol)を用意した。また、アンモニア(関東化学株式会社製、純度28.0~30.0%、品番01266-00) 400ミリリットルの純水 100ミリリットル溶液を1単位として、5単位用意した。
【0047】
(4) 二口なすフラスコ内に上記(1)で得たスピロピランのトルエン溶液と、上記(3)のTEAとを投入し、二口なすフラスコの一つの口には球入冷却器、もう一方の口には円筒型分液ロートを装着した。二口なすフラスコを60℃に保温しながら円筒型分液ロートで上記(2)のアクリル酸クロライドのトルエン溶液を少しずつ滴下した後、15時間反応させた。なお、この反応で発生した塩酸は、TEAで中和された。15時間後に、反応溶液から未反応のアクリル酸クロライドとTEAを取り除くために、反応溶液をトルエン100ミリリットルで希釈し、次いで分液ロート内に移して上記(3)のアンモニア水溶液を1単位加えた。分液ロートを振り混ぜ、静置して下層のアンモニア水溶液を取り出し、残りの(3)のアンモニア水溶液の1単位を加え、同様にして分液を計5回繰り返した。
【0048】
(5) アンモニア水溶液の代わりに純水を100ミリリットル加え、同様にしてpHが7になるまで計5回分液を繰り返した。
(6) 分液ロート上層の液を、エバポレータによりトルエンを蒸発させ、次いで減圧乾燥させた。これによって得られた褐色固体をジクロロメタンに溶かしてカラムクロマトグラフィにかけ、不純物を分離した。カラムはシリカゲル(関東化学株式会社製、品番:9385-4M、Rf:0.86)、展開溶媒はジクロロメタンを使用した。
【0049】
(7) カラムから排出した液を、エバポレータでジクロロメタンを蒸発させ、次いで減圧乾燥させてSPA単量体である、下式(3)で示される1´,3´,3´-トリメチル-6-(アクリロイルオキシ)スピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール)を3.10g(収率66%)得た。この得られたSPAをH-NMRで測定した結果を図1に示す。図1中のシグナルα、β、γは、それぞれ式(3)中のα、β、γ位置の構造に対応している。
【0050】
【化4】
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【0051】
(共重合体の合成)
上記で得た単量体SPA:1´,3´,3´-トリメチル-6-(アクリロイルオキシ)スピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール) (分子量347.41)を66mg(0.19mmol)用意した。また、N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)(分子量113.15)を566mg(5.0mmol)用意した。
他に、エタノール 3ミリリットル、重合開始剤AIBN 8.4mg(SPAとNIPAAmの合計モル数の1/100)、重合禁止剤ハイドロキノン(東京化成工業株式会社製、99.0%、品番H0186) 3.75mg、ジエチルエーテルを用意した。
【0052】
まず、上記SPAをエタノール 2ミリリットル、NIPAAmをエタノール 1ミリリットルにそれぞれ溶かして得た2種の溶液を、一つの口には球入冷却器、もう一方の口にはゴム栓付きパスツールピペットを装着した二口なす形フラスコに入れて混合した。
前記フラスコ内に乾燥窒素をパスツールピペットから30分間フローさせて装置内から湿気および空気を除去した。
重合開始剤を加えて引き続き乾燥窒素を20分間フローさせた後、オイルバスでフラスコの温度を60℃に上げ、さらに3時間反応させた後、重合禁止剤を加えて反応を止めた。
【0053】
フラスコ内の反応生成物を、大量のジエチルエーテル中に少しずつ滴下して沈殿精製した。この沈殿を、ろ紙で濾別し、減圧乾燥して1´,3´,3´-トリメチル-6-(アクリロイルオキシ)スピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール)とN-イソプロピルアクリルアミドとの共重合体(以下、P(SPA-NIPAAm)という。) 281.7mg(収率45%)を得た。この共重合体中の各セグメントのモル比を、H-NMRの積分値の結果から算出したところ、SPA:NIPAAmは4:96(スピロピランセグメント含有率が4mol%。)であった。また、この共重合体のMwは63,000であり、Mw/Mnは35であった。
【0054】
(共重合体の感熱性測定) 上記で合成した、SPAセグメントが4mol%である共重合体P(SPA-NIPAAm) 10mgを、メタノール1ミリリットルおよび純水9ミリリットルの混合溶剤に添加した(A液)。
同様に調製したA液に、さらにPb(II)を、SPA:2価の鉛イオンPb2+のモル濃度比が、1:10(鉛イオン濃度が0.01mM)となるように過塩素酸鉛三水塩の形態で添加した(B液)。
A液およびB液それぞれを、撹拌しながら10℃~30℃における560nmでの光透過率を測定したグラフを図2に示す。図2中、A液を破線、B液を実線で示す。図2に示すように、A液、B液いずれも、25℃を境にして高温側では析出し、低温側では溶解した。
【0055】
(鉛イオンとの錯形成と光応答型脱離) 鉛イオンを含む上記B液の、10℃での吸光度を測定したグラフを図3に示す。暗所下の状態を実線で、可視光を照射した状態を破線で、両者の中間を点線で示す。暗所下ではB液は435nmに吸収帯を持ち黄色を呈した。これは液中の共重合体に鉛イオンが錯形成(吸着)したことを示す。さらに可視光(>420nm)を照射すると、直ちにこの吸収帯は消失した。これは、吸着していた鉛イオンが脱離したことを示す。吸収帯の完全消失は、吸着していた鉛イオンを可視光照射により完全に脱離回収できることを意味する。この光照射と暗所との繰り返しによる色の変化は、繰り返し観測された。
【0056】
(鉛イオンの脱吸着率) 鉛イオンPb2+の10、20、30および40μM水溶液において矩形波ボルタンメトリ(SWV)を行い電流-濃度の検量線を求めた。次に、Pb2+の40μM水溶液を暗所下10℃にてSWVを行った。結果のグラフを図4の(a)に示す。
Pb2+の40μM水溶液に、共重合体P(SPA-NIPAAm)溶液を、Pb2+と共重合体が同モル濃度比となるように添加した(C液)。
前記C液を、暗所下で、10℃から40℃まで昇温後にろ過してろ液を得た。このろ液のSWVを暗所下10℃にて行った。結果のグラフを図4の(b)に示す。
前記C液を、可視光を照射下で、同様に昇温後ろ過してろ液を得た。このろ液のSWVを暗所下10℃にて行った。結果のグラフを図4の(c)に示す。
図4(a)に示すように、Pb2+の40μM水溶液の還元電位は-0.504V、還元電流値は4.74μAであった。(b)に示すように、暗所下でC液の昇温ろ過した溶液の還元電流値は0.99μAとなり、また検量線から算出したこの溶液中のPb2+濃度は2.24μMであり、吸着率は95%であった。(c)に示すように、可視光照射下でC液の昇温ろ過した溶液の還元電流値は2.87μAとなり、検量線から算出したこの溶液中のPb2+濃度は18.4μMであり、脱離効率は40%であった。
この光応答性錯形成は、SWVにより可逆的に観測された。
別に、紫外可視吸収スペクトル測定及びSWVとの組み合わせからも、光可逆性性錯形成が確認された。
以上より、共重合体P(SPA-NIPAAm)溶液の可逆的相転移が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施例において合成したSPAをH-NMRで測定したグラフである。
【図2】熱および光応答性を有する共重合体P(SPA-NIPAAm)溶液(ただし、SPAは4mol/%)(破線)と、上記溶液に2価の鉛イオンを添加した場合(実線)との、10~30℃における560nmでの光透過率を示すグラフである。
【図3】図2で用いた共重合体P(SPA-NIPAAm)溶液の10℃での吸光度を示すグラフであり、暗所下で前記溶液に2価の鉛イオンを添加して錯形成した黄色の状態(実線)、これに可視光を照射して鉛イオンが脱離した状態(破線)、および両者の中間の状態(点線)である。
【図4】10℃での2価の鉛イオンの脱吸着を示すグラフであり、(a)は2価の鉛イオン溶液40μM水溶液の還元電位値及び還元電流値(銀/塩化銀電極)、(b)は(a)に暗所下で前記共重合体P(SPA-NIPAAm)溶液を添加して昇温ろ過した溶液の還元電流値、および(c)は前記(a)に前記共重合体を添加して可視光を照射下にて昇温ろ過した溶液の還元電流値を示す。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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