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明細書 :人工血液用酸素輸液

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4803631号 (P4803631)
公開番号 特開2006-002077 (P2006-002077A)
登録日 平成23年8月19日(2011.8.19)
発行日 平成23年10月26日(2011.10.26)
公開日 平成18年1月5日(2006.1.5)
発明の名称または考案の名称 人工血液用酸素輸液
国際特許分類 A61K  31/409       (2006.01)
A61K  47/40        (2006.01)
A61P   7/08        (2006.01)
C07D 487/22        (2006.01)
C08B  37/16        (2006.01)
FI A61K 31/409
A61K 47/40
A61P 7/08
C07D 487/22
C08B 37/16
請求項の数または発明の数 4
全頁数 10
出願番号 特願2004-181125 (P2004-181125)
出願日 平成16年6月18日(2004.6.18)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成16年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第84春季年会(2004) 講演予稿集2」に発表
審査請求日 平成19年5月11日(2007.5.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】加納 航治
【氏名】北岸 宏亮
個別代理人の代理人 【識別番号】100076406、【弁理士】、【氏名又は名称】杉本 勝徳
審査官 【審査官】三木 寛
参考文献・文献 日本化学会講演予稿集,2003年,Vol.83 No.2,p.1092,G7-34,G7-35
Journal of Organic Chemistry,1994年,Vol.59(18),p.5149-5155
Journal of the American Chemical Society,1995年,Vol.117(6),p.1857-1858
包接化合物,株式会社東京化学同人,1989年 6月27日,p.11-18
Journal of Organic Chemistry,1995年,Vol.60(22),p.7293-7297
生体機能関連化学シンポジウム講演要旨集,2000年,Vol.15,p.36-37
生体機能関連化学シンポジウム講演要旨集,2003年,Vol.18,p.62-63
生体機能関連化学シンポジウム講演要旨集,2003年,Vol.18,p.352-353
生体機能関連化学シンポジウム講演要旨集,2001年,Vol.16,p.304-305
調査した分野 C08B 37/16
CA/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記の化学式(1)で示されるシクロデキストリン二量体が水溶性金属ポルフィリンを包接してなる包接錯体を有効成分として含有する人工血液用酸素輸液。
【化1】
JP0004803631B2_000006t.gif
(式中、mは1又は2の何れかの数字を表し、nは1、2又は3の何れかの数字を表す。)
【請求項2】
シクロデキストリン二量体が、m=1、かつn=2である請求項1に記載の人工血液用酸素輸液。
【請求項3】
水溶性金属ポルフィリンが、下記の化学式(2)又は(3)で示される請求項1又は請求項2の何れかに記載の人工血液用酸素輸液。
【化2】
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【化3】
JP0004803631B2_000008t.gif
(式中、R1及びR2は、それぞれカルボキシル基、スルホニル基、水酸基の何れかを表し、MはFe2+、Mn2+、Co2+、Zn2+の何れかを表す。)
【請求項4】
水溶性金属ポルフィリンが、5,10,15,20-テトラキス(4-スルホナトフィニル)ポルフィリン(II)鉄錯体である請求項3に記載の人工血液用酸素輸液。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、シクロデキストリン二量体水溶性金属ポルフィリンを抱接してなる包接錯体を、有効成分として含有する人工血液用酸素輸液に関する。
【背景技術】
【0002】
生命活動において最も重要な役割を演じている生体分子の一つに金属タンパク質を挙げることができ、これら金属タンパク質は活性中心を構成する金属錯体(ヘム)や金属イオンとそれを立体的に取り囲むタンパク質からなる。
【0003】
例えば、酸素の貯蔵を担う金属タンパク質であるミオグロビンは、ヘムと呼ばれるポルフィリン鉄錯体とそれを酸素結合サイトに埋め込んでいるグロビンタンパク質とを含んでいる。そして、この酸素結合サイトは疎水的アミノ酸残基によって構成されているため疎水的環境であり、ヘムに酸素がついたり離れたりしてもヘム鉄(II)は酸化されることなく、ヘムは可逆的に酸素を吸脱着することができる。
【0004】
また、酸素運搬を行うヘモグロビンは、ヘムとミオグロビンのグロビンタンパク質ときわめて類似した構造をもつ4つのサブユニットからなり、ミオグロビンと同様にヘムに酸素がついたり離れたりしてもヘム鉄(II)が酸化されることなく、可逆的かつ酸素分圧が一定になるように酸素を吸脱着できる。なお、酸素分圧が一定に保たれるのは、ヘム鉄への酸素の結合によって引き起こされるヘム周辺の局所的な構造変化がタンパク全体に伝達して酸素との結合力が変化すること、いわゆる正のアロステリック効果による。
【0005】
このように多くの金属タンパク質が生体において様々な働きを果たしているが、そのほとんどが基質の活性中心への配位結合の形成を駆動力とし、金属イオンと周囲のタンパク質との共同作業によって基質特異的な反応を行っている。そのため、従来から金属タンパク質の活性中心の構造に注目し、これを人工的に合成した分子を用いて模倣する試みを数多くの研究者が行っている。なかでも、分子状の酸素を吸脱着するヘムタンパク質のモデル化は、人工ミオグロビン、人工ヘモグロビン、酸素貯蔵材料及び、酸素選択膜の開発などにとって重要であるため、これまでに様々なアプロ-チによりモデル化が試みられている。
【0006】
例えば、グローブス(Groves)らは、シクロデキストリンの内側の水酸基をピリジンに置換し、外側の水酸基を疎水性基に置換した化合物にポルフィリン系化合物を包接させた包接錯体を製造し、その包接錯体が酸素を吸着することを報告している(非特許文献1参照)。

【非特許文献1】「バイオフィジカル ケミストリ(Biophysical Chemistry)」 ,(米国), 2003年 105巻 p.639-648
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の先行技術文献に記載のヘムタンパク質モデルは、そのほとんどが有機溶媒中においてのみ分子状酸素を可逆的に吸脱着でき、人や動物の血管内と同じ環境である水中では、分子状酸素を可逆的に吸脱着できなかった。そのため、これらモデルを人工ミオグロビンあるいは人工ヘモグロビンとする酸素輸液を作ることもできなかった。
【0008】
そこで、この発明は、水中で分子状酸素を可逆的に吸脱着することができヘムタンパク質モデルである包接錯体を有効成分として含有する人工血液用酸素輸液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる包接錯体は、下記の化学式(1)で示されるシクロデキストリン二量体が水溶性金属ポルフィリンを包接することを特徴とする。
【化1】
JP0004803631B2_000002t.gif
(式中、mは1又は2の何れかの数字を表し、nは1、2又は3の何れかの数字を表す)
【0010】
本発明において、シクロデキストリン二量体の原料として利用するシクロデキストリンとは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンのいずれかであり、中でも水溶性金属ポルフィリンを包接し易いためβ-シクロデキストリンを原料として利用するのが好ましい。また、本発明における水溶性金属ポルフィリンとは、中心に金属イオンを配位して水に溶けるポルフィリン系化合物のことであり、かつ、化学式(1)で示されるシクロデキストリン二量体(以下,シクロデキストリン二量体と略す)で包接できるものであれば特に限定されないが、分子状酸素を確実に吸脱着できる点から、下記の化学式(2)又は(3)などが挙げられ、より具体的には5,10,15,20-テトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリン(II)鉄錯体(以下、「Fe(II)TPPS」と省略する。)又は5,15-ビス(3,5-ジカルボキシラトフェニル)-10,20-ジフェニルポルフィリン(II)鉄錯体(以下、「Fe(II)-trans-2DC」と省略する。)などが挙げられる。
【化2】
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【化3】
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(式中、R1及びR2は、それぞれカルボキシル基、スルホニル基、水酸基の何れかを表し、MはFe2+、Mn2+、Co2+、Zn2+の何れかを表す)
【0011】
また、本発明にかかる包接錯体の製造方法は、例えばリン酸緩衝液などの水中で化学式(1)で示されるシクロデキストリン二量体と水溶性金属ポルフィリンとを混ぜ合わせることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる包接錯体は、水溶性金属ポルフィリンがシクロデキストリン二量体に包接されているので、生体内よりも広いpH領域で安定して繰り返し分子状酸素を吸脱着することができる。そして、この包接錯体は、本発明にかかるシクロデキストリン二量体や水溶性金属ポルフィリンから、本発明にかかる製造方法によって容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明にかかるシクロデキストリン二量体は、化学式(1)で示すように、全ての水酸基がメチル化した2つのシクロデキストリン分子がリンカー分子である3,5-ジメルカプトメチルピリジンを介して結合したものである。また、このシクロデキストリン二量体は、例えば、シクロデキストリンをトシル化してエポキシ化したのち、このシクロデキストリンの水酸基をメチル化し、メチル化したシクロデキストリンとリンカー分子とを結合して製造する。なお、シクロデキストリンの水酸基を予めメチル化したのは、水酸基によって生じる水素結合によりシクロデキストリンの内孔が硬くなり、内孔に水溶性金属ポルフィリンが包接され難くなるのを防ぐためである。
【0014】
また、本発明にかかる包接錯体は、上記のシクロデキストリン二量体が水溶性金属ポルフィリンを包接したものである。水溶性金属ポルフィリンとしては、特に限定することなく利用できるが、化学式(2)、(3)に示すもの、より具体的にはFe(II)TPPSやFe(II)-trans-2DC等を使用することができる。また、この包接錯体は、シクロデキストリン二量体と、水溶性金属ポルフィリンとを水中で混合して製造する。
【実施例1】
【0015】
以下に本発明の特徴をさらに具体的に明らかにするため、実施例としてβ—シクロデキストリン(以下、「β-CD」と省略する。)から(1)式で示すシクロデキストリン二量体(以下、「CD2」と省略する。)を製造し、このCD2とFeTPPSとの包接錯体を製造して、その特性を調べた。なお、その合成経路を図1に示す。また、本発明はこの実施例によって制限されるものではない。
【0016】
[CD2の製造]
(1)2-モノトシル-β-シクロデキストリン(以下、「2-monotosyl-β-CD」と省略する。)の合成
アルゴン雰囲気下、300 mLの三口フラスコに200 mLの無水DMFおよび乾燥β-CD (17.0g, 15.0 mmol)を加え、そこに水素化ナトリウム(60-70% in oil, 513 mg, 15.0 mmol)を加えて室温にて15時間かき混ぜた。そこへ塩化トシル(2.9 g, 15.2 mmol)を加えて室温でかき混ぜた。3時間後、反応溶液を3 Lのアセトンに注ぎ込み、生じた白色沈殿をろ過分離して減圧下で乾燥させた。その乾燥固体を蒸留水に溶解させ、ダイヤイオンHP20(三菱化学株式会社製)を充填したカラムに注入した。蒸留水のみを加えて未反応のβ-CDを溶出し、β-CDの溶出が終わってから展開溶媒を40%メタノール水溶液に変えて2-monotosyl-β-CDのみを溶出させた。溶出はTLC(展開溶媒n-BuOH:EtOH:H2O = 5:4:3、アニスアルデヒド発色、Rf = 0.45)によって確認した。溶出した部分の溶媒を減圧留去し、無色固体の2-monotosyl-β-CD (6.3g , 収率33%)を得た。
【0017】
(2)2,3-エポキシ-β-シクロデキストリン(以下、「2, 3-Epo-β-CD」と省略する。)の合成
500 mLのナス型フラスコに2-monotosyl-β-CD (6.0g, 4.7 mmol)および300 mLの0.2 M 水酸化ナトリウム水溶液を加え、室温にて40時間かき混ぜた。反応溶液を氷浴に浸し、希塩酸を用いて溶液を中和した。エバポレ-ターで溶媒を約100 mLまで留去し、その溶液を1 Lのアセトンに注ぎ込んだ。生じた白色沈殿を最小量のDMFに溶解させ、不溶の塩をろ過して取り除いた。ろ液を1 Lのアセトンに注ぎ込み、生じた白色沈殿をろ過分離して減圧下で乾燥させた。その乾燥固体を蒸留水に溶解させ、ダイヤイオンHP20を充填したカラムに注入した。2,3-Epo-β-CDの溶出はTLC (展開溶媒n-BuOH:EtOH:H2O = 5:4:3、アニスアルデヒド発色、Rf = 0.25)で確認し、水のみで溶出する部分を取り出した。取り出した部分の溶媒を減圧留去し、無色固体の2,3-Epo-β-CD (3.5g, 収率67%)を得た。
【0018】
(3)2,3-エポキシ-パーメチル-β-シクロデキストリン(以下、「2, 3-Epo-perMe-β-CD」と省略する。)の合成
アルゴン雰囲気下、200 mLの三口フラスコに2,3-Epo-β-CD (2.00g, 1.45 mmol)、80 mLの無水DMFおよび30 mLの無水THFを加え、容器を氷浴に浸した。そこへ水素化ナトリウム(へキサンで洗浄し真空乾燥させたもの(1.39g, 58.00 mmol)を加え、氷浴に浸して1時間かき混ぜた。そこへヨウ化メチル(3.60 mL, 58.00 mmol)を滴下し、室温に戻して一晩かき混ぜた。その後反応溶液へ4 mLのメタノールを加え、泡の発生がおさまった後にクロロホルムを加えて分液漏斗に移し、蒸留水およびチオ硫酸ナトリウム水溶液で洗浄、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒クロロホルムのみ→クロロホルム/アセトン = 5/2)にて精製し、無色固体である2,3-Epo-perMe-β-CD (1.50g, 収率61%)を得た。
【0019】
(4)3,5-ジメルカプトメチルピリジンの合成
還流管を取り付けた50 mLのナス型フラスコに3,5-ジクロロメチルピリジン(200 mg, 0.94 mmol)、チオ尿素(180 mg, 2.4 mmol)および6 mLのエタノールを加え、加熱還流を行った。2時間後、3 mLの5 M 水酸化ナトリウム水溶液を加えて、さらに3時間加熱還流を行った。室温まで冷却後、反応溶液を塩酸によって中和して分液漏斗に移し、塩化メチレンで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後溶媒を減圧留去し、褐色油状の3,5-ジメルカプトメチルピリジン(100 mg, 収率49%)を得た。
【0020】
(5)CD2の合成
還流管を取り付けた100 mLのナス型フラスコに2, 3-Epo-perMe-β-CD (1.0g, 0.72 mmol)および60 mLの0.1 M NaHCO3水溶液を加えた。そこに2 mLのメタノールに溶解させた3,5-ジメルカプトメチルピリジン(50 mg, 0.29 mmol)を加え、24時間加熱還流を行った。室温まで冷却後、溶液を分液漏斗に移してクロロホルムで3回抽出を行った。有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水後溶媒を減圧留去した。残渣をゲルろ過クロマトグラフィー(アマシャム バイオサイエンス株式会社製 Shephadex G-25)によって精製し、目的物を含む画分を集めて溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒クロロホルム/アセトン = 5/2 → クロロホルムのみ → クロロホルム/メタノール = 10/1)によって精製し、無色固体のCD2 (0.21g, 20%, 融点 126-127 oC)を得た。
【0021】
[Fe(II)TPPSとCD2との包接錯体の製造と各種試験]
(6)pH4.5における酸素錯体の吸着性及びその可逆性試験
[Fe(III)TPPS] = 5 x 10-6 Mと[CD2] = 6 x 10-6 Mとの混合水溶液(0.1 M NaClO4を含むpH4.5,5 mMコハク酸緩衝液)をつくり、この混合水溶液を含む実験系から凍結-脱気-アルゴン導入により完全に酸素を除いたのち、亜ジチオン酸ナトリウム[Na2S2O4] = 1 x 10-5 Mを加え、水溶液中のFe(III)TPPS-CD2をFe(II)TPPS-CD2に還元した(このときの吸収スペクトルを図2の(a)に示す。)。つぎに、このFe(II)TPPS-CD2水溶液に室温で酸素を吹き込んで、酸素がFe(II)TPPS-CD2に配位した酸素錯体(以下、「Fe(II)TPPS(O2)-CD2」と省略する。)の水溶液を得た(このときの吸収スペクトルを図2の(b)に示す。)。さらに、このFe(II)TPPS(O2)-CD2の水溶液に室温で一酸化炭素を吹き込むと配位子が分子状酸素から一酸化炭素に置き換わった包接錯体(以下、「Fe(II)TPPS(CO)-CD2」と省略する。)の水溶液を得た(このときの吸収スペクトルを図2の(c)に示す。)。このように、吹き込む気体によって、すなわち配位子によって包接錯体の吸収スペクトルが変化したことから、この実施例の包接錯体は、pH 4.5の弱酸性水溶液中でも酸素を吸着でき、吸着した酸素を一酸化炭素と置換することが確認できた。
【0022】
(7)pH 6.0における酸素錯体の吸着性及びその可逆性試験
Fe(III)TPPS] = 5 x 10-6 Mと[CD2] = 6 x 10-6 Mとの混合水溶液(5 mM NaClO4を含むpH 6.0, 5mMリン酸緩衝液)をつくり、この混合水溶液を含む実験系から凍結-脱気-アルゴン導入により完全に酸素を除いたのち、亜ジチオン酸ナトリウム[Na2S2O4] = 1 x 10-5 Mを加え、水溶液中のFe(III)TPPS-CD2をFe(II)TPPS-CD2に還元した(このときの吸収スペクトルを図3の(a)に示す。)。つぎに、このFe(II)TPPS-CD2水溶液に室温で酸素を吹き込んで、Fe(II)TPPS(O2)-CD2の水溶液を得た(このときの吸収スペクトルを図3の(b)に示す。)。さらに、このFe(II)TPPS(O2)-CD2水溶液に室温で一酸化炭素を吹き込むとFe(II)TPPS(CO)-CD2の水溶液を得た(このときの吸収スペクトルを図3の(c)に示す。)。このように、吹き込む気体によって、すなわち配位子によって包接錯体の吸収スペクトルが変化したことから、この実施例の包接錯体は、pH 6.0の弱酸性水溶液中でも酸素を吸着でき、吸着した酸素を一酸化炭素と置換することが確認できた。
【0023】
(8)pH 7.5における酸素錯体の吸着性及び可逆性試験
(6)、(7)と同様の実験をpH7.5のリン酸緩衝液中でも行ったところ、pH7.5でもこれらの実験と同様に包接錯体は酸素を吸着でき、吸着した酸素を一酸化炭素と置換することが確認できた。
【0024】
(9)繰り返し試験
[Fe(III)TPPS] = 5 x 10-6 Mと[CD2] = 6 x 10-6 Mとの混合水溶液(0.1 M NaClO4を含むpH4.5,5 mMコハク酸緩衝液)をつくり、この混合水溶液を含む実験系から、凍結-脱気-アルゴン導入により完全に酸素を除いたのち、亜ジチオン酸ナトリウム[Na2S2O4] = 1 x 10-5 Mを加え、水溶液中のFe(III)TPPS-CD2をFe(II)TPPS-CD2に還元した。この溶液に酸素を吹き込み、吸収スペクトルを測定した(図4の(1))。そして、この水溶液にアルゴンガスを吹き込み(1回目)、酸素をアルゴンに置換したのち、吸収スペクトルを測定した(図4の(1’))。こののち、酸素とアルゴンを交互に吹き込んで吸収スペクトルを測定することを2回繰り返した。
【0025】
なお、酸素を2回目に吹き込んだときの吸収スペクトルは図4の(2)に、アルゴンを2回目に吹き込んだときの吸収スペクトルは図4の(2’)に、酸素を3回目に吹き込んだときの吸収スペクトルは図4の(3)に、アルゴンを3回目に吹き込んだときの吸収スペクトルは図4の(3’)にそれぞれ示す。また、気体の吹き込みと吸収スペクトルの測定は室温で行った。
【0026】
吹き込む気体によって、すなわち配位子によって錯体の吸収スペクトルが変化したことから、包接錯体は酸素を吸着できるだけではなく、酸素を繰り返し吸着脱できることが確認できた。また、Fe(II)TPPS(O2)-CD2水溶液の吸光度のピーク(423nm)及びFe(II)TPPS-CD2水溶液の吸光度のピーク(434nm)が酸素吸脱着サイクルを繰り返すごとに減少しているのに対して、Fe(III)TPPS-CD2水溶液の吸光度のピーク(398nm)が増加していることから、この酸素吸脱着サイクルを何回か繰り返すうちに、Fe(II)TPPS-CD2が少しずつFe(III)TPPS-CD2に酸化していることも確認できた。
【0027】
(10)反応速度試験及びpH安定性試験
凍結-脱気-アルゴン導入により完全に酸素を除いた緩衝液(0.1 M NaClO4を含む,5 mMコハク酸またはリン酸緩衝液)を用いて、[Fe(III)TPPS] = 6 x 10-4 Mと[CD2] = 7.2 x 10-4 Mおよび亜ジチオン酸ナトリウム[Na2S2O4] = 1.2 x 10-3 MのpHの異なる混合水溶液を作成した。この混合水溶液から25 mL採り、そこへ空気飽和の緩衝液(0.1 M NaClO4を含む,5 mMコハク酸またはリン酸緩衝液)を加えて3mLに希釈し、吸収スペクトルを測定した。その後、二時間ごとに吸収スペクトルを測定し、423 nmの吸光度変化の対数を時間に対してプロットした。得られたプロットに対して、一次の反応速度に従って直線近似し、その傾きから分解速度kd(h-1)を求めた。またt1/2=ln2/kdより半減期t(h)を決定した。
【0028】
以上の操作によって、Fe(II)TPPS(O2)-CD2の消滅速度を分光学的に追跡し、Fe(II)TPPS(O2)-CD2の安定性を定量的に測定した。その結果を表1に示す。この表1にも示すように、酸素錯体は著しく安定しているとともに、その安定性はpHの影響をそれほど受けなかった。
【0029】
【表1】
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【0030】
Fe(III)TPPSは、pH8以上の水溶液中においてはμ-オキソダイマ-になるのが一般的である。しかし、実施例のようにCD2で包接することによって、μ-オキソダイマ-の生成が抑制された。また、Fe(III)TPPSは、酸性水溶液中では酸素錯体がプロトン化するため、その酸素錯体は一般的に容易に分解してしまうが、実施例のようにCD2で包接することにより、その分解を防ぐこともできた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
上記のように、本願にかかる包接錯体は、pHの異なる水溶液中で分子状酸素を繰り返し可逆的に着脱できることが確認でき、酸素が結合した酸素錯体についてもその安定性が確認できた。そのため、本発明に係る包接錯体は、人工ミオグロビン、人工ヘモグロビンなどの酸素の保持を目的とする人工血液の構成成分としての利用、酸素分離材などとしての利用などが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明にかかる包接錯体の合成経路の概略を示す図である。
【図2】pH4.5における吸着性及びその可逆性試験の結果を示す図である。
【図3】pH6.0における吸着性及びその可逆性試験の結果を示す図である。
【図4】包接錯体に対する酸素吸脱着繰り返し試験の結果を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3