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明細書 :エピタキシャル成長用基材の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4296276号 (P4296276)
公開番号 特開2006-032575 (P2006-032575A)
登録日 平成21年4月24日(2009.4.24)
発行日 平成21年7月15日(2009.7.15)
公開日 平成18年2月2日(2006.2.2)
発明の名称または考案の名称 エピタキシャル成長用基材の製造方法
国際特許分類 H01L  21/205       (2006.01)
H01L  21/20        (2006.01)
FI H01L 21/205
H01L 21/20
請求項の数または発明の数 6
全頁数 20
出願番号 特願2004-207782 (P2004-207782)
出願日 平成16年7月14日(2004.7.14)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2004年3月28日 社団法人応用物理学会発行の「2004年(平成16年)春季 第51回 応用物理学関係連合講演会講演予稿集 第1分冊」に発表
特許法第30条第1項適用 平成16年7月13日 名古屋大学主催の「平成16年度 結晶材料学位論文中間発表会」において文書をもって発表
審査請求日 平成19年5月9日(2007.5.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】酒井 朗
【氏名】田岡 紀之
【氏名】中塚 理
【氏名】財満 鎭明
【氏名】安田 幸夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100081776、【弁理士】、【氏名又は名称】大川 宏
審査官 【審査官】田代 吉成
参考文献・文献 特開2004-349522(JP,A)
調査した分野 H01L 21/205
H01L 21/20
特許請求の範囲 【請求項1】
シリコン含有基材と該シリコン含有基材上に層状に形成されたシリコンゲルマニウム膜とを備えたエピタキシャル成長用基材の製造方法であって
前記シリコン含有基材上にゲルマニウム膜を層状に形成するGe膜形成工程と、
前記ゲルマニウム膜が形成された前記シリコン含有基材を600~800℃の低温域で熱処理する低温域熱処理工程と、
前記ゲルマニウム膜が形成された前記シリコン含有基材を800~1300℃の高温域で熱処理する高温域熱処理工程とを備え、
前記低温域熱処理工程で、前記シリコン含有基材と前記ゲルマニウム膜との界面近傍に、連続的に伸びる90°転位の転位線により構成されたネットワーク状構造物を形成し、かつ、
前記高温域熱処理工程で、前記シリコン含有基材と前記ゲルマニウム膜との間でシリコン原子及びゲルマニウム原子を相互拡散させることにより両該原子同士を混合させて前記シリコンゲルマニウム膜を形成することを特徴とするエピタキシャル成長用基材の製造方法
【請求項2】
前記シリコン含有基材上に形成された前記ゲルマニウム膜上にさらにシリコン被膜を層状に形成するSi被膜形成工程をさらに備え、
前記高温域熱処理工程で、前記シリコン被膜と前記ゲルマニウム膜との間でもシリコン原子及びゲルマニウム原子を相互拡散させることを特徴とする請求項1記載のエピタキシャル成長用基材の製造方法
【請求項3】
前記Ge膜形成工程で、前記ゲルマニウム膜の膜厚を10~500nmにすることを特徴とする請求項1又は2記載のエピタキシャル成長用基材の製造方法
【請求項4】
シリコン含有基材と該シリコン含有基材上に層状に形成されたシリコンゲルマニウム膜とを備えたエピタキシャル成長用基材の製造方法であって、
前記シリコン含有基材上にゲルマニウム膜を層状に形成するGe膜形成工程と、
前記ゲルマニウム膜が形成された前記シリコン含有基材を800~1300℃の高温域で熱処理する高温域熱処理工程とを備え、
前記高温域熱処理工程で、前記シリコン含有基材と前記ゲルマニウム膜との界面近傍に、連続的に伸びる90°転位の転位線により構成されたネットワーク状構造物を形成するとともに、該シリコン含有基材と該ゲルマニウム膜との間でシリコン原子及びゲルマニウム原子を相互拡散させることにより両該原子同士を混合させて前記シリコンゲルマニウム膜を形成することを特徴とするエピタキシャル成長用基材の製造方法
【請求項5】
前記シリコン含有基材上に形成された前記ゲルマニウム膜上にさらにシリコン被膜を層状に形成するSi被膜形成工程をさらに備え、
前記高温域熱処理工程で、前記シリコン被膜と前記ゲルマニウム膜との間でもシリコン原子及びゲルマニウム原子を相互拡散させることを特徴とする請求項4記載のエピタキシャル成長用基材の製造方法
【請求項6】
前記Ge膜形成工程で、前記ゲルマニウム膜の膜厚を10~500nmにすることを特徴とする請求項4又は5記載のエピタキシャル成長用基材の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はエピタキシャル成長用基材の製造方法に関する。本発明に係るエピタキシャル成長用基材及びこのエピタキシャル成長用基材を備えた多層膜構造体は、例えば半導体素子、特にチャネル領域に歪みを導入した電界効果トランジスタ等の作製において好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
近年、MOS(金属-酸化膜-半導体)型電界効果トランジスタ等の高速化を図るべく、チャネル領域を構成するシリコン膜の結晶格子に引っ張り歪みを導入することにより、チャネル領域でのキャリア移動度を向上させる研究が盛んに行われている。
【0003】
シリコン膜に引っ張り歪みを与えて歪みシリコン膜とするには、シリコンよりも大きな格子定数をもつ下地層の上に化学的堆積又は物理的蒸着によってシリコン膜をエピタキシャル成長させる必要がある。この下地層としては、シリコン基板上に化学的堆積又は物理的蒸着によってエピタキシャル成長させて形成した、シリコンよりも大きな格子定数をもち、かつ、歪み緩和したシリコンゲルマニウム膜が通常用いられている。
【0004】
シリコン(001)基板上にシリコンゲルマニウム膜をエピタキシャル成長させると、格子不整合のためシリコンゲルマニウム膜内に歪みを内包して成長する。シリコンゲルマニウム膜の膜厚が増加するに連れてその歪みは大きくなり、臨界膜厚を越えるとシリコン基板とシリコンゲルマニウム膜との界面に転位が導入される。そして、この転位の導入により、シリコンゲルマニウム膜内の歪み緩和が達成される。このときに導入される転位は、{111}面の滑りによるダイヤモンド構造固有の60°転位(転位の変位ベクトル(バーガスベクトル)と転位線とが60°の角度をなす転位)である。
【0005】
この60°転位のバーガースベクトルは、基板平面に対して垂直方向及び水平方向の刃状転位成分と、螺旋転位成分とを有する。このため、60°転位によって歪み緩和されたシリコンゲルマニウム膜の結晶格子は、基板平面に対して微小傾斜するとともに、基板平面と平行な面内において微小回転して、基板平面方向に不均一なモザイク構造となる。
【0006】
このようなモザイク構造のシリコンゲルマニウム膜は、内部歪みが等方的かつ均一に緩和されていない。このため、このシリコンゲルマニウム膜上にシリコンチャネル層を形成してヘテロ接合電界効果トランジスタ構造を作製しようとしても、シリコンチャネル層に等方的かつ均一に引張歪みを付与することができず、シリコンチャネル層におけるエネルギーバンド構造変調が局所的に変化して、目的とする高いキャリア移動度を実現することができない。
【0007】
そこで、転位制御層として機能しうる界面層をシリコン基板とシリコンゲルマニウム膜との間に形成することにより、シリコンゲルマニウム膜のシリコン基板側に90°転位を導入する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
この90°転位を導入する技術は、シリコン基板上にゲルマニウム層(又はGaAs層)を形成すれば、その界面に60°転位ではなくて90°転位が優先的に導入されることを利用するものである。すなわち、この技術では、シリコン基板上に形成したゲルマニウム(又はGaAs)界面層を転位制御層として機能させることにより、このゲルマニウム(又はGaAs)界面層上に形成されるシリコンゲルマニウム層のシリコン基板側に90°転位を形成する。
【0009】
具体的には、シリコン基板を200℃に設定し、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシー)法等の成膜手法を用いることにより、シリコン基板上にまず5nmのゲルマニウム界面層を形成する。次いで、シリコン基板を同温度に保持した状態で、同じくMBE法などの成膜手法を用いて、ゲルマニウム界面層上に5nmのシリコンゲルマニウム中間層を形成する。なお、このシリコンゲルマニウム中間層は、後の熱処理に伴う平坦性の低下を抑制するためのものである。次いで、シリコン基板を400℃に設定し、同じくMBE法などの成膜手法を用いることにより、シリコンゲルマニウム中間層上にシリコンゲルマニウム膜を形成する。こうしてシリコン基板上にまずゲルマニウム界面層を形成し、この界面層を転位制御層として機能させることにより、この界面層上に形成されたシリコンゲルマニウム膜の、シリコン基板側に90°転位を形成するようにしている。
【0010】
このようにしてシリコンゲルマニウム中に導入された90°転位は、基板平面に対して垂直方向の刃状転位成分のみを有している。また、90°転位のバーガースベクトルは転位線に対して常に直交するので、基板平面と平行な面内の回転成分を有しない。このため、90°転位が導入されたシリコンゲルマニウム膜の結晶格子はもモザイク構造を呈することなく、等方的となる。

【特許文献1】特開2004-172276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来の90°転位が導入されたシリコンゲルマニウム膜では、基板平面と平行な面内において90°転位が周期的に配列されておらず、シリコンゲルマニウム膜の内部歪みが確実には均一に緩和されていないという欠点があった。
【0012】
すなわち、上記従来のシリコンゲルマニウム膜では、90°転位の転位線が短く途切れて、基板平面と平行な面内において短い転位線の90°転位が多数分散した構造を呈しており、90°転位が周期的に配列した構造となっていない。このため、シリコンゲルマニウム膜内において、90°転位が存在せずに結晶格子の歪みが緩和されていない部位と、90°転位が存在してこの90°転位により結晶格子の歪みが緩和された部位とが混在しており、結晶格子の歪みが確実には均一に緩和されていない。なお、上記従来のシリコンゲルマニウム膜で、転位線が短く途切れてしまい90°転位が周期的に配列しないのは、シリコン基板とゲルマニウム界面層との界面に導入される転位線の伸びはゲルマニウム界面層の膜厚及び処理温度の影響を受けるところ、ゲルマニウム界面層の膜厚が5nmと薄いこと及び処理温度が400℃と低いことの影響に因るものと考えられる。
【0013】
シリコンゲルマニウム膜における歪み緩和が均一になされていないと、これを下地層としてエピタキシャル成長させて形成されるシリコン膜においても、結晶格子に均一に引っ張り歪みを付与することが困難となる。したがって、このシリコン膜を歪みシリコンチャネル層として利用したときに高いキャリア移動度を実現することが困難となる。
【0014】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、例えばシリコン基板上のシリコンゲルマニウム膜における均一な歪み緩和をより確実に達成することを解決すべき技術課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本明細書において、シリコン含有基材とは、単一のシリコン基材(必要に応じて又は不可避的に不純物元素を含んでいてもよい)よりなる単層構造のものの他、このシリコン基材上にSiO等の熱酸化膜よりなる絶縁層を形成し、さらにこの絶縁層の上にシリコン層を形成してなる多層構造のものも含む意味である。具体的には、シリコン含有基材として、単層構造のシリコン基板や、シリコン層/シリコン酸化膜層/シリコン基板の多層構造となるSOI(Silicon on Insulator)基板等を用いることができる。
【0017】
また、90°転位とは、転位の変位ベクトル(バーガースベクトル)と転位線とが90°の角度をなす転位を意味する。
【0018】
また、ネットワーク状構造物とは、0.3μm(300nm)程度以上の長さでそれぞれ連続的に縦横に伸びる90°転位の転位線が略90°の角度で交差して網目状に配列してなるものである。このネットワーク状構造物における隣り合う転位線同士の間隔は等間隔であることを要しない。
【0023】
さらに、モザイク構造とは、シリコン含有基材とシリコンゲルマニウム膜との界面に対して個々の微小結晶が別々の方向に傾斜しており、該界面と平行な面内において不均一な歪み緩和状態になっていることをいう。より具体的には、シリコンゲルマニウム膜が膜中にモザイク構造を含んでいると、後述する実施例で示すように、エックス線回折法による逆格子空間2次元マップにおいて、シリコンゲルマニウム膜のピーク形状が略水平方向に広がった楕円形状を呈する。これに対し、シリコンゲルマニウム膜が膜中にモザイク構造を含んでいないと、エックス線回折法による逆格子空間2次元マップにおいて、シリコンゲルマニウム膜のピーク形状が対称性の良い円形状(略真円形状)を呈する。
【0024】
請求項に記載されたエピタキシャル成長用基材の製造方法は、シリコン含有基材と該シリコン含有基材上に層状に形成されたシリコンゲルマニウム膜とを備えたエピタキシャル成長用基材の製造方法であって、前記シリコン含有基材上にゲルマニウム膜を層状に形成するGe膜形成工程と、前記ゲルマニウム膜が形成された前記シリコン含有基材を600~800℃の低温域で熱処理する低温域熱処理工程と、前記ゲルマニウム膜が形成された前記シリコン含有基材を800~1300℃の高温域で熱処理する高温域熱処理工程とを備え、前記低温域熱処理工程で、前記シリコン含有基材と前記ゲルマニウム膜との界面近傍に、連続的に伸びる90°転位の転位線により構成されたネットワーク状構造物を形成し、かつ、前記高温域熱処理工程で、前記シリコン含有基材と前記ゲルマニウム膜との間でシリコン原子及びゲルマニウム原子を相互拡散させることにより両該原子同士を混合させて前記シリコンゲルマニウム膜を形成することを特徴とするものである。
【0025】
請求項に記載されたエピタキシャル成長用基材の製造方法は、シリコン含有基材と該シリコン含有基材上に層状に形成されたシリコンゲルマニウム膜とを備えたエピタキシャル成長用基材の製造方法であって、前記シリコン含有基材上にゲルマニウム膜を層状に形成するGe膜形成工程と、前記ゲルマニウム膜が形成された前記シリコン含有基材を800~1300℃の高温域で熱処理する高温域熱処理工程とを備え、前記高温域熱処理工程で、前記シリコン含有基材と前記ゲルマニウム膜との界面近傍に、連続的に伸びる90°転位の転位線により構成されたネットワーク状構造物を形成するとともに、該シリコン含有基材と該ゲルマニウム膜との間でシリコン原子及びゲルマニウム原子を相互拡散させることにより両該原子同士を混合させて前記シリコンゲルマニウム膜を形成することを特徴とするものである。
【0026】
請求項1又は4に記載されたエピタキシャル成長用基材の製造方法は、好適な態様において、前記シリコン含有基材上に形成された前記ゲルマニウム膜上にさらにシリコン被膜を層状に形成するSi被膜形成工程をさらに備え、前記高温域熱処理工程で、前記シリコン被膜と前記ゲルマニウム膜との間でもシリコン原子及びゲルマニウム原子を相互拡散させる。
【0027】
請求項1又は4に記載されたエピタキシャル成長用基材の製造方法は、好適な態様において、前記Ge膜形成工程で、前記ゲルマニウム膜の膜厚を10~500nmにする。
【0028】
本発明により得られたエピタキシャル成長用基材を用いて多層膜構造体とすることができる。この多層膜構造体は、本発明により得られたエピタキシャル成長用基材と、このエピタキシャル成長用基材上に形成された、シリコン膜、ゲルマニウム膜及びシリコンゲルマニウム膜よりなる群から選ばれる一種とを備えたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明に係るエピタキシャル成長用基材は、シリコン含有基材と、このシリコン含有基材上に層状に形成されたシリコンゲルマニウム膜とを備えている。そして、シリコン含有基材とシリコンゲルマニウム膜との界面近傍に、連続的に伸びる90°転位の転位線により構成されたネットワーク状構造物が設けられている。このネットワーク状構造物を構成する90°転位の転位線は短く途切れることなく長く連続的に伸びており、界面と平行な面内において90°転位が周期的に配列している。このため、界面と平行な面内において90°転位が均一に存在しており、シリコンゲルマニウム膜の結晶格子の歪みがより確実に均一に緩和されている。そして、このような90°転位のネットワーク状構造物の形成により、シリコンゲルマニウム膜は膜中にモザイク構造を含まないものとなっている。
【0030】
したがって、このシリコンゲルマニウム膜の上にエピタキシャル成長によりシリコン膜、ゲルマニウム膜又はシリコンゲルマニウム膜を形成して多層膜構造体とした場合、同シリコン膜、ゲルマニウム膜又はシリコンゲルマニウム膜の結晶格子に均一に引っ張り歪みを付与することができる。よって、この多層膜構造体を例えば電界効果トランジスタに適用して、前記シリコン膜、ゲルマニウム膜又はシリコンゲルマニウム膜を歪みシリコンチャネル層、歪みゲルマニウムチャネル層又は歪みシリコンゲルマニウムチャネル層として利用する場合には、この歪みチャネル層において高いキャリア移動度を実現することが可能となる。
【0031】
すなわち、本発明に係るエピタキシャル成長用基材と、このエピタキシャル成長用基材上に形成されたシリコン膜、ゲルマニウム膜及びシリコンゲルマニウム膜からなる群より選ばれる一種とを備えた多層膜構造体は、例えば電界効果トランジスタに適用して、前記シリコン膜、ゲルマニウム膜又はシリコンゲルマニウム膜を歪みシリコンチャネル層、歪みゲルマニウムチャネル層又は歪みシリコンゲルマニウムチャネル層として利用することにより、この歪みチャネル層において高いキャリア移動度を実現することが可能となる。
【0032】
ここに、上記90°転位の転位線の長さは0.3μm(300nm)以上であることが好ましい。90°転位の転位線が0.3μmよりも短いと、ネットワーク状構造物を形成することが困難になる。そして、この90°転位の転位線は長ければ長いほど好ましく、10μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることが特に好ましい。本発明に係るエピタキシャル成長用基材やこのエピタキシャル成長用基材を用いた多層膜構造体を利用して集積回路を構成する場合は、その集積回路の略全体(より好ましくは端から端まで)に及んで90°転位の転位線が連続的に伸びていることが好ましい。なお、通常の集積回路のチップサイズが10~30mm程度であることに鑑みれば、90°転位の転位線の長さの上限は50mm程度とすることができる。また、この90°転位の転位線はシリコン含有基材の略全体(より好ましくは端から端まで)に及んで連続的に伸びており、ネットワーク状構造物はシリコン含有基材の略全体に及んで形成されていることが好ましい。ネットワーク状構造物を構成する90°転位の転位線がシリコン含有基材の略全体に及んで連続的に伸びて、同ネットワーク状構造物がシリコン含有基材の略全体に及んで形成されていれば、シリコンゲルマニウム膜の歪み緩和をより確実に膜全体で等方的かつ均一なものとすることができる。
【0033】
さらに、前記ネットワーク状構造物は、0.3μm以上(より好ましくは10μm以上、特に好ましくは100μm以上)の長さで連続的に伸びる90°転位の転位線により構成されて、0.3μm以上(より好ましくは10μm以上、特に好ましくは100μm以上)の長さ範囲に渡って90°転位が周期的に配列した構造となっていることが好ましい。
【0034】
また、上記シリコンゲルマニウム膜の膜厚は10~500nmであることが好ましく、20~100nmであることが特に好ましい。シリコンゲルマニウム膜の膜厚が厚すぎると、成膜に多くのエネルギや時間を要し、コスト面でも不利となる。一方、シリコンゲルマニウム膜の膜厚が薄すぎると、上記90°転位の転位線が短く途切れるようになり、90°転位のネットワーク状構造物を形成することが困難となる。また、シリコンゲルマニウム膜をナノオーダーに薄膜化すれば、このエピタキシャル成長用基材を例えば電界効果トランジスタに利用する場合に、同電界効果トランジスタの薄膜化に貢献しうる。
【0035】
さらに、上記シリコンゲルマニウム膜の二乗平均表面粗さが5nm以下であることが好ましく、1nm以下であることが特に好ましい。シリコンゲルマニウム膜の表面粗さは、例えばこのシリコンゲルマニウム膜上にシリコン膜等をエピタキシャル成長させる場合に該シリコン膜等の結晶性に影響を与えるところ、シリコンゲルマニウム膜の二乗平均表面粗さを小さくすれば、該シリコン膜等中のキャリア移動度がラフネスによって低下するのを抑制することができる。なお、このシリコンゲルマニウム膜の表面粗さは、後述するように、800~1300℃の高温域で熱処理する前におけるゲルマニウム膜及びシリコン被膜の形成方法を変えることにより、調整することができる。
【0036】
加えて、上記シリコンゲルマニウム膜においては、シリコンとゲルマニウムとの組成比がSi:Ge=8:2~2:8であることが好ましく、7:3~6:4であることが特に好ましい。シリコンゲルマニウム膜におけるシリコンとゲルマニウムとの組成比は、シリコンゲルマニウム膜の歪み緩和に必要な転位線の数や転位線の間隔と関係があり、ゲルマニウム組成比が低下すれば、それに伴い歪み緩和に必要な転位線の数が減少して、転位線の間隔が広くなる。
【0037】
なお、シリコンゲルマニウム膜におけるシリコンとゲルマニウムとの組成比は、後述するように、ゲルマニウム膜上に形成するシリコン被膜の有無やその膜厚を変えたり、800~1300℃の高温域で熱処理する際の加熱温度や加熱時間を変えたりすることにより、適宜設定することができる。
【0038】
また、ネットワーク状構造物を構成する90°転位の転位線の平均間隔としては、10~45nmとすることが好ましく、25~35nmとすることが特に好ましい。ネットワーク状構造物を構成する90°転位の転位線の間隔が狭すぎると、シリコン含有基材との結晶定数差が大きくなりすぎ、その結果期待しない貫通転位が増加してしまう。一方、転位線の間隔が広すぎる状態は、シリコンゲルマニウム膜の歪みが十分に緩和されていない状態、あるいはシリコンゲルマニウム膜のゲルマニウム組成が低い状態に対応しており、本発明の目的上好ましくない。
【0039】
本発明に係るエピタキシャル成長用基材は、請求項1~3に記載されたエピタキシャル成長用基材の製造方法又は請求項4~6に記載されたエピタキシャル成長用基材の製造方法により製造することができる。
【0040】
請求項記載のエピタキシャル成長用基材の製造方法は、Ge膜形成工程と、ゲルマニウム膜が形成されたシリコン含有基材を600~800℃の低温域で熱処理する低温域熱処理工程と、ゲルマニウム膜が形成されたシリコン含有基材を800~1300℃の高温域で熱処理する高温域熱処理工程とを備えている。
【0041】
上記Ge膜形成工程では、シリコン含有基材上にゲルマニウム膜を層状に形成する。このとき、前述のとおりゲルマニウム膜の膜厚を10~500nmにすることが好ましい。ゲルマニウム膜の形成方法としては特に限定されず、シリコン含有基材を200~400℃の所定温度に設定し、MBE法などの公知の成膜手法を用いることにより、シリコン含有基材上にゲルマニウム膜を形成することができる。
【0042】
上記低温域熱処理工程では、ゲルマニウム膜が形成されたシリコン含有基材を600~800℃の低温域で熱処理することにより、シリコン含有基材とゲルマニウム膜との界面近傍に、連続的に伸びる90°転位の転位線により構成されたネットワーク状構造物を形成する。
【0043】
上記低温域熱処理工程における加熱温度が600℃未満になると、90°転位の転位線が短く途切れ易くなり、連続的に伸びた90°転位の転位線によるネットワーク状構造物を形成することが困難又は不可能となる。このため、低温域熱処理工程における加熱温度は700℃以上とすることが好ましい。なお、この低温域熱処理工程における加熱温度が800℃を越えると、シリコン含有基材とゲルマニウム膜との間でシリコン原子及びゲルマニウム原子の相互拡散が起こり、請求項に記載の製造方法との差別化を図れなくなる。また、この低温域熱処理工程における加熱時間は1~10分程度とすることができる。
【0044】
上記高温域熱処理工程では、ゲルマニウム膜が形成されたシリコン含有基材を800~1300℃の高温域で熱処理することにより、シリコン含有基材とゲルマニウム膜との間でシリコン原子及びゲルマニウム原子を相互に固相拡散させることにより両原子同士を混合させて、歪み緩和したシリコンゲルマニウム膜を形成する。
【0045】
上記高温域熱処理工程における加熱温度が800℃未満になると、シリコン含有基材とゲルマニウム膜との間でシリコン原子及びゲルマニウム原子を十分に相互拡散させることが困難となり、両原子同士が十分に混合しなくなる。このため、シリコンゲルマニウム層を形成することが困難又は不可能となる。一方、高温域熱処理工程における加熱温度が1300℃を越えると、シリコンゲルマニウム膜の融点に近くなるため、前記ネットワーク状構造物が崩壊してしまう。したがって、この高温域熱処理工程における加熱温度は1000~1200℃とすることが好ましく、1100~1200℃とすることが特に好ましい。なお、この高温熱処理工程における加熱時間は1~300分程度とすることができる。
【0046】
また、上記高温域熱処理工程における熱処理条件の制御によって、シリコンゲルマニウム膜におけるシリコンとゲルマニウムとの組成比、及びネットワーク状構造物を構成する90°転位の転位線の周期間隔を任意に制御することができる。例えば、熱処理温度を上昇させれば、シリコン含有基材からゲルマニウム膜へのシリコンの固相拡散を促進させて、シリコンゲルマニウム膜におけるゲルマニウム組成を低下させることができ、またこのゲルマニウム組成の低下に応じて、歪み緩和に必要な転位線の数を減少させて転位線のネットワーク状構造物を構成する転位線の周期間隔を広げることができる。
【0047】
なお、上記高温域熱処理工程で高温域の熱処理をしても、上記低温域熱処理工程で形成された上記90°転位のネットワーク状構造物はそのまま維持される。
【0048】
一方、請求項に記載されたエピタキシャル成長用基材の製造方法は、請求項記載の製造方法と同様のGe膜形成工程と、ゲルマニウム膜が形成されたシリコン含有基材を800~1300℃の高温域で熱処理する高温域熱処理工程とを備えている。
【0049】
すなわち、このエピタキシャル成長用基材の製造方法は、請求項に記載された製造方法における上記低温域熱処理工程を省き、上記高温域熱処理工程のみで熱処理することにより、シリコン含有基材とゲルマニウム膜との界面近傍に、連続的に伸びる90°転位の転位線により構成されたネットワーク状構造物を形成するとともに、該シリコン含有基材と該ゲルマニウム膜との間でシリコン原子及びゲルマニウム原子を相互に固相拡散させることにより両該原子同士を混合させて、歪み緩和したシリコンゲルマニウム膜を形成する。
【0050】
したがって、請求項に記載の製造方法によれば、請求項に記載の製造方法と比べて、加熱工程を一つ省くことにより、製造時間の短縮化及び低コスト化を図ることができる。
【0051】
請求項に記載の製造方法における上記高温域熱処理工程の加熱温度は、請求項に記載の製造方法における上記高温域熱処理工程と同様、1000~1200℃とすることが好ましく、1100~1200℃とすることが特に好ましい。また、加熱時間も、請求項に記載の製造方法における上記高温域熱処理工程と同様、1~300分程度とすることができる。
【0052】
さらに、請求項に記載の製造方法における上記高温域熱処理工程と同様、請求項に記載の製造方法における上記高温域熱処理工程の熱処理条件を制御することによって、シリコンゲルマニウム膜におけるシリコンとゲルマニウムとの組成比、及びネットワーク状構造物を構成する90°転位の転位線の周期間隔を任意に制御することができる。
【0053】
ここに、請求項1又は4に記載されたエピタキシャル成長用基材の製造方法は、シリコン含有基材上に形成されたゲルマニウム膜上にさらにシリコン被膜を層状に形成するSi被膜形成工程をさらに備え、かつ、前記高温域熱処理工程で、シリコン被膜とゲルマニウム膜との間でもシリコン原子及びゲルマニウム原子を相互拡散させることが好ましい。シリコン含有基材上に形成されたゲルマニウム膜上にさらにシリコン被膜を層状に形成し、高温域熱処理工程で、シリコン被膜とゲルマニウム膜との間でもシリコン原子及びゲルマニウム原子を相互拡散させることにより、ゲルマニウム膜へのシリコン原子の固相拡散が促進され、シリコンゲルマニウム膜におけるゲルマニウム組成比を大きく、かつ、速やかに低下させることができる。また、シリコンゲルマニウム膜の表面平坦性を向上させる上でも有利となる。
【0054】
上記Si被膜形成工程では、シリコン含有基材上に形成されたゲルマニウム膜上にさらにシリコン被膜を層状に形成する。このとき、シリコン被膜の膜厚を1~50nmとすることが好ましく、5~20nmとすることが特に好ましい。シリコン被膜の膜厚が厚すぎると、成膜に多くのエネルギや時間を要し、コスト面でも不利となる。一方、シリコン被膜の膜厚が薄すぎると、平坦性改善の効果が小さくなってしまう。
【0055】
また、このシリコン被膜の形成方法としては特に限定されず、シリコン含有基材を600℃以下の所定温度に設定し、MBE法などの公知の成膜手法を用いることにより、シリコン含有基材上に形成されたゲルマニウム膜上にシリコン被膜を形成することができる。なお、室温でアモルファス状のシリコン層を成長させてシリコン被膜とすることもできる。
【0056】
そして、このSi被膜形成工程は、請求項記載の製造方法においては、上記低温域加熱工程を実施して、シリコン含有基材とゲルマニウム膜との界面近傍に90°転位のネットワーク構造物を形成した後に、実施することが好ましい。こうすることで、膜構造の均質性を向上させることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により、本発明を更に詳しく説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
[第1実施例]
(実施例1-1)
図1の模式構成図に示される本実施例の多層膜構造体は、エピタキシャル成長用基材10と、このエピタキシャル成長用基材10上に形成されたシリコン膜20とから構成されている。また、このエピタキシャル成長用基材10は、シリコン含有基材としてのシリコン基板1と、このシリコン基板1上に形成された膜厚70nmのシリコンゲルマニウム膜2とから構成されている。そして、シリコン基板1とシリコンゲルマニウム膜2との界面には、90°転位の転位線により構成されたネットワーク状構造物3が設けられている。なお、このシリコンゲルマニウム膜2におけるシリコンとゲルマニウムとの組成比は、Si:Ge=7:3である。
【0059】
この多層膜構造体は、図2に模式的に示される製造方法により、以下のようにして製造した。
【0060】
<Ge膜形成工程>
シリコン(001)基板1を準備し、このシリコン基板1の温度を200℃に保ち、MBE法を用いてエピタキシャル成長させることにより、シリコン基板1上に膜厚35nmのゲルマニウム膜4を形成した(図2(a)参照)。
【0061】
<低温域熱処理工程>
次いで、シリコン基板1を700℃で10分間保持して低温域で熱処理し、これによりシリコン基板1とゲルマニウム膜4との界面に90°転位のネットワーク状構造物3を形成して、ゲルマニウム膜4を歪み緩和させた(図2(b)参照)。
【0062】
<Si被膜形成工程>
さらに、シリコン基板1を300℃に保ち、MBE法を用いてエピタキシャル成長させることにより、ゲルマニウム膜4上に膜厚17nmのシリコン被膜5を形成して多層体とした(図2(c)参照)。
【0063】
<高温域熱処理工程>
最後に、上記多層体を950℃の高温域で2分間熱処理し、ゲルマニウム膜4とシリコン基板1及びシリコン被膜5との間で、シリコン原子及びゲルマニウム原子を相互に固相拡散させて、歪み緩和したシリコンゲルマニウム膜2を形成した(図2(d)参照)。
【0064】
なお、この高温域熱処理工程後においても、低温域熱処理工程で形成した90°転位のネットワーク状構造物は前記界面に形成されたままであった。
【0065】
こうしてエピタキシャル成長用基材10を完成した。そして、このエピタキシャル成長用基材10を600℃に保ち、MBE法を用いてエピタキシャル成長させることにより、エピタキシャル成長用基材10上にシリコン膜20を形成して、多層膜構造体を完成した。
【0066】
(実施例1-2)
前記実施例1-1における高温域熱処理工程で、加熱温度を1000℃に変更すること以外は、前記実施例1-1と同様である。
【0067】
(実施例1-3)
前記実施例1-1における高温域熱処理工程で、加熱温度を1100℃に変更すること以外は、前記実施例1-1と同様である。
【0068】
[第2実施例]
(実施例2-1)
本実施例の多層膜構造体は、Si被膜形成工程で、室温にて、MBE法を用いてアモルファス状のシリコン層を成長させることにより、ゲルマニウム膜4上に膜厚17nmのアモルファス状のシリコン被膜5を形成すること以外は、前記実施例1-1と同様の方法により製造したもので、前記実施例1-1と同様の構成である。
【0069】
(実施例2-2)
本実施例の多層膜構造体は、Si被膜形成工程で、室温にて、MBE法を用いてアモルファス状のシリコン層をゲルマニウム膜4上に成長させることにより、ゲルマニウム膜4上に膜厚17nmのアモルファス状のシリコン被膜5を形成すること以外は、前記実施例1-2と同様の方法により製造したもので、前記実施例1-2と同様の構成である。
【0070】
(実施例2-3)
本実施例の多層膜構造体は、Si被膜形成工程で、室温にて、MBE法を用いてアモルファス状のシリコン層をゲルマニウム膜4上に成長させることにより、ゲルマニウム膜4上に膜厚17nmのアモルファス状のシリコン被膜5を形成すること以外は、前記実施例1-3と同様の方法により製造したもので、前記実施例1-3と同様の構成である。
【0071】
[第3実施例]
(実施例3-1)
本実施例の多層膜構造体は、基本的には前記実施例1-1と同様の構成である。
【0072】
この多層膜構造体は、図3に模式的に示される製造方法により、以下のようにして製造した。
【0073】
<Ge膜形成工程>
前記実施例1-1と同様のシリコン(001)基板1を準備し、このシリコン基板1の温度を200℃に保ち、MBE法を用いてエピタキシャル成長させることにより、シリコン基板1上に膜厚35nmのゲルマニウム膜4を形成した(図3(a)参照)。
【0074】
<Si被膜形成工程>
次いで、室温にて、MBE法を用いてアモルファス状のシリコン層をゲルマニウム膜4上に成長させることにより、ゲルマニウム膜4上に膜厚17nmのアモルファス状のシリコン被膜5を形成して、多層体とした(図3(b)参照)。
【0075】
<高温域熱処理工程>
最後に、上記多層体を950℃の高温域で2分間熱処理し、これによりシリコン基板1とゲルマニウム膜4との界面に90°転位のネットワーク状構造物3を形成すると同時に、シリコン基板1及びシリコン被膜5とゲルマニウム膜4との間でシリコン原子及びゲルマニウム原子を相互に固相拡散させて、歪み緩和したシリコンゲルマニウム膜(シリコンゲルマニウム混晶膜)2をシリコン基板1上に形成した(図3(c)参照)。
【0076】
こうしてエピタキシャル成長用基材10を完成した。そして、前記実施例1-1と同様の方法により、エピタキシャル成長用基材10上にシリコン膜20を形成して、多層膜構造体を完成した。
【0077】
(実施例3-2)
前記実施例3-1における高温域熱処理工程で、加熱温度を1000℃に変更すること以外は、前記実施例3-1と同様である。
【0078】
(実施例3-3)
前記実施例3-1における高温域熱処理工程で、加熱温度を1100℃に変更すること以外は、前記実施例3-1と同様である。
【0079】
(比較例1)
<第1SiGe膜形成工程>
前記実施例1-1と同様のシリコン(001)基板を準備し、このシリコン基板の温度を400℃に保ち、MBE法を用いてエピタキシャル成長させることにより、シリコン基板上に膜厚25nmの第1シリコンゲルマニウム膜を形成した。なお、この第1シリコンゲルマニウム膜におけるシリコンとゲルマニウムとの組成比は、Si:Ge=7:3とした。
【0080】
<Si被膜形成工程>
次いで、シリコン基板の温度を400℃に保ち、MBE法を用いてシリコン層をエピタキシャル成長させることにより、第1シリコンゲルマニウム膜上に膜厚5nmのシリコン被膜を形成した。
【0081】
<低温域熱処理工程>
さらに、シリコン基板を600℃で5分間保持して低温域で熱処理し、これによりシリコン基板と第1シリコンゲルマニウム膜との界面に60°転位のネットワーク状構造物を形成して、第1シリコンゲルマニウム膜を歪み緩和させた。
【0082】
<第2SiGe膜形成工程>
最後に、シリコン基板を600℃に保ち、MBE法を用いてエピタキシャル成長させることにより、シリコン被膜上に膜厚100nmの第2シリコンゲルマニウム膜を形成した。なお、この第2シリコンゲルマニウム膜におけるシリコンとゲルマニウムとの組成比は、Si:Ge=7:3とした。
【0083】
こうしてエピタキシャル成長用基材を完成した。
【0084】
(評価)
<平面透過電子顕微鏡像による評価>
高温域熱処理工程の加熱温度を1000℃とした前記第3実施例の実施例3-2において、得られたエピタキシャル成長用基材10の平面透過電子顕微鏡像を図4(a)に示す。
【0085】
同様に、高温域熱処理工程の加熱温度を1100℃とした前記第3実施例の実施例3-3において、得られたエピタキシャル成長用基材10の平面透過電子顕微鏡像を図4(b)に示す。
【0086】
なお、これらの図において、縦横に見える線が、シリコン基板1とシリコンゲルマニウム2との界面近傍に形成された90°転位の転位線に対応している。
【0087】
図4(a)及び(b)より、90°転位の転位線が短く途切れることなく、およそ500nm以上に渡って連続して観察領域全体に伸び、かつこれらの転位線の集合で網目状の周期構造たるネットワーク状構造物3を形成していることがわかる。そして、このネットワーク状構造物3は、500nm以上の長さ範囲に渡って90°転位が周期的に配列した構造となっていることがわかる。
【0088】
また、高温域熱処理工程における熱処理温度の上昇とともに転位線の間隔が広くなっていることがわかる。具体的には、高温域熱処理工程における熱処理温度が1000℃のときは、90°転位の転位線の平均的な間隔が約15nmであったのに対し(図4(a)参照)、高温域熱処理工程における熱処理温度が1100℃のときは、90°転位の転位線の平均的な間隔が約35nmであった(図4(b)参照)。これは熱処理温度の上昇に伴って、シリコンの固相拡散が促進された結果、よりゲルマニウム組成の低いシリコンゲルマニウム膜2が形成されていることに対応している。シリコンゲルマニウム膜2のゲルマニウム組成の低下に応じて、歪み緩和に必要な転位線の数は減少する。そして、高温の熱処理によって、個々の転位の垂直及び水平方向への移動が促進され、シリコンゲルマニウム膜2に生じる歪みを緩和するように、転位配置の再構成が行われる。その際には、シリコン基板1の垂直方向への転位の重複も生じる。図4(b)に見られるコントラストの強い太い転位線は、その様な90°転位が二重に重なった状態に対応している。
【0089】
これらの作用の結果、ネットワーク状構造物3を構成する転位線の周期間隔は変化する。これは、高温域熱処理工程における熱処理条件の制御によって、任意の組成を有する歪み緩和シリコンゲルマニウム膜2を形成可能なことを示している。
【0090】
なお、第1実施例及び第2実施例で得られたエピタキシャル成長用基材10についても、同様の結果が得られた。
【0091】
<断面透過電子顕微鏡像による評価>
高温域熱処理工程の加熱温度を1000℃とした前記第3実施例の実施例3-2において、得られたエピタキシャル成長用基材10の断面透過電子顕微鏡像を図5(a)に示す。
【0092】
同様に、高温域熱処理工程の加熱温度を1100℃とした前記第3実施例の実施例3-3において、得られたエピタキシャル成長用基材10の断面透過電子顕微鏡像を図5(b)に示す。
【0093】
図5(a)及び(b)より、シリコン基板1上に、ゲルマニウムとシリコンが完全に混合した一層のシリコンゲルマニウム膜2が形成されていることがわかる。また、シリコン基板1とシリコンゲルマニウム膜2との界面に周期的な黒点が見られるが、これは周期的に配列した90°転位の転位線の断面に対応している。さらに、高温域熱処理工程における熱処理温度が1100℃のときは、図5(b)に楕円で囲んだように、90°転位の転位線がシリコン基板1の垂直方向に並んでいる様子が見られる。この基板垂直方向に90°転位の転位線が並んだ部位は、図4(b)に見られたコントラストの強い太い転位線に対応している。
【0094】
<エックス線回折法による評価>
高温域熱処理工程の加熱温度を1100℃とした前記第3実施例の実施例3-3で得られたエピタキシャル成長用基材10について、エックス線回折法を用いて、逆格子空間2次元マップを調べた結果を図6(a)に示す。
【0095】
同様に、前記比較例1で得られたエピタキシャル成長用基材について、エックス線回折法を用いて、逆格子空間2次元マップを調べた結果を図6(b)に示す。
【0096】
なお、これらの図において、縦軸及び横軸は、それぞれシリコン基板表面に対して水平方向及び垂直方向の結晶格子の大きさの逆数に対応している。また、信号強度のピーク位置が、観察している結晶の有する結晶面の大きさを示している。そして、どちらの図にも基板のシリコン及び形成されたシリコンゲルマニウム膜の結晶格子の(115)面にあたるピークが観察される。
【0097】
図6(b)より、比較例1におけるシリコンゲルマニウム膜のピーク形状は水平方向に広がった楕円形状をしていることがわかる。これは、シリコンゲルマニウム膜内に、垂直方向の歪み緩和に比較して、水平方向の歪み緩和について不均一性があることを示している。すなわち、シリコンゲルマニウム膜が、水平方向に個々の微小な領域に制限された結晶から構成されるモザイク状の構造を有していること、および個々の微小結晶が基板水平面に対して別々の方向に僅かに傾斜しており、それぞれが異なる歪み緩和状態にあることを示唆している。
【0098】
図6(a)より、実施例3-3で得られたエピタキシャル成長用基材におけるシリコンゲルマニウム膜2のピーク形状は対称性の良い円形(略真円形)をしている。このシリコンゲルマニウム膜2では、比較例1のシリコンゲルマニウム膜に見られる様なモザイク構造が生じておらず、基板全体に渡る広い範囲で、一様な歪み緩和が達成されていることがわかる。また、そのピーク位置からはこのシリコンゲルマニウム膜2が基板垂直方向および基板水平方向にほぼ等しい格子定数をもっていることが分かる。これは、このシリコンゲルマニウム膜2が完全に歪み緩和していることを示している。すなわち、90°転位によるネットワーク状構造物を形成することによって、面内に均一な構造を有して、完全に歪み緩和されたシリコンゲルマニウム膜2を、数十nmの極めて薄い膜厚で得ることができる。
【0099】
<原子間力顕微鏡による表面粗さ評価>
前記第1実施例の実施例1-1~1-3、前記第2実施例の実施例2-1~2-3及び前記第3実施例の実施例3-1~3-3でそれぞれ得られたエピタキシャル成長用基材について、原子間力顕微鏡を用いてシリコンゲルマニウム膜2の表面粗さを測定した。その結果として、表面粗さの熱処理温度依存性を図7に示す。
【0100】
なお、図7において、横軸は高温域熱処理工程における加熱温度を示し、縦軸はシリコンゲルマニウム膜2の二乗平均表面粗さを示している。また、図7の黒丸が前記第1実施例の実施例1-1~1-3に対応し、図7の四角(白抜き)が前記第2実施例の実施例2-1~2-3に対応し、図7の白丸が前記第3実施例の実施例3-1~3-3に対応している。また、図7のas-grownとは、高温熱処理を行う前の試料のことである。
【0101】
図7より、同様の90°転位ネットワークによって歪み緩和させたシリコンゲルマニウム膜2であっても、最終熱処理工程たる高温域熱処理工程前の多層体の形成法の違いによって、得られるシリコンゲルマニウム膜2の表面平坦性が大きく変わることがわかる。
【0102】
また、前記第3実施例の実施例3-1~3-3で得られたエピタキシャル成長用基材10においては、二乗平均表面粗さが1nm以下の、表面粗さの小さいシリコンゲルマニウム膜2を形成できることがわかる。
【0103】
<低温域熱処理工程後のSi/Ge界面の評価>
前記第1実施形態1の実施例1-1における低温域熱処理工程後に得られた試料について、平面透過電子顕微鏡像及び断面透過電子顕微鏡像を図8(a)及び(b)にそれぞれ示す。
【0104】
図8(a)において、縦横に見える直線が、シリコン基板1とゲルマニウム膜4との界面近傍に形成された90°転位の転位線に対応している。
【0105】
図8(a)より、90°転位の転位線が短く途切れることなく、観察領域全体に渡って連続して伸び、かつこれらの転位線の集合で網目状の周期構造たるネットワーク状構造物3を形成していることがわかる。
【0106】
また、図8(b)において、90°転位の転位線の断面を黒点として観察でき、シリコン基板1とゲルマニウム膜4との界面に90°転位の配列が周期的に形成されていることがわかる。
【0107】
さらに、図8(a)より、90°転位の転位線の平均間隔は約10nmと見積もられる。そして、この転位線の平均間隔から90°転位によるゲルマニウム膜4の歪み緩和割合を予測すると、ゲルマニウム膜2は完全に歪み緩和した状態であると考えられる。なお、エックス線回折法を用いて測定されたこのゲルマニウム膜4の格子定数は、完全に歪み緩和した場合のゲルマニウム膜4の格子定数に一致した。したがって、実施例1-1における低温域熱処理工程後のシリコン基板1とゲルマニウム膜2と界面に形成された90°転位のネットワーク状構造物によって、このゲルマニウム膜2の完全な歪み緩和が達成されていることがわかる。
【0108】
また、ゲルマニウム膜4の膜厚を35nmではなく20nmとすること以外は、前記第1実施形態1の実施例1-1と同様にして低温域熱処理工程後に得られた試料について、平面透過電子顕微鏡像を図9に示す。
【0109】
図9より、ゲルマニウム膜4の膜厚を35nmとした場合と同様に、90°転位のネットワーク状構造物が観察できる。90°転位の転位線の平均間隔も、ゲルマニウム膜4の膜厚を35nmとした場合と同様であり、したがってこのゲルマニウム膜4においても完全に歪み緩和されていることがわかる。よって、ゲルマニウム膜4の膜厚を20nmとした場合も、35nmとした場合と全く同様に、90°転位のネットワーク状構造物によって完全に歪み緩和したゲルマニウム膜2を形成できることが分かる。
【0110】
ただし、低温域熱処理工程のみでは、得られる歪み緩和層はあくまでもゲルマニウム膜24であり、ゲルマニウム固有の格子定数をもつ膜しか実現できない。これは、700℃、10分間という低温短時間で行う低温域熱処理工程によっては、ゲルマニウム原子及びシリコン原子がほとんど拡散せず、原子同士の混合が生じないためである。任意の格子定数をもった歪み緩和層を実現するためには、高温域熱処理工程を経ることにより得られた、その混合組成比によって格子定数を変化させることのできるシリコンゲルマニウム膜2が必要であり、シリコンゲルマニウム膜2を90°転位のネットワーク状構造物によって歪み緩和させることが必要となる。
【0111】
(比較例2)
<Ge界面層形成工程>
前記実施例1-1と同様のシリコン(001)基板を準備し、このシリコン基板の温度を200℃に保ち、MBE法を用いてエピタキシャル成長させることにより、シリコン基板上に膜厚2.5nmのゲルマニウム界面層を形成した。
【0112】
<SiGe中間層形成工程>
次いで、前記シリコン基板を同温度に保持した状態において、前記ゲルマニウム界面層上にMBE法によってシリコンゲルマニウム中間層を厚さ5nmで形成した。なお、このシリコンゲルマニウム中間層におけるシリコンとゲルマニウムとの組成比は、Si:Ge=7:3とした。
【0113】
<SiGe膜形成工程>
さらに、前記シリコン基板を400℃にまで加熱し、MBE法を用いることによって前記シリコンゲルマニウム中間層上にシリコンゲルマニウム膜を厚さ65nmで形成した。なお、このシリコンゲルマニウム膜におけるシリコンとゲルマニウムとの組成比は、Si:Ge=7:3とした。
【0114】
<Si被膜形成工程>
さらに、前記シリコン基板を400℃に維持したまま、MBE法を用いることによって前記シリコンゲルマニウム膜上にシリコン被膜を厚さ5nmで形成し、多層体とした。
【0115】
<熱処理工程>
最後に、上記多層体に対して700℃、10分間の熱処理を施して、エピタキシャル成長用基材を完成した。
【0116】
得られたエピタキシャル成長用基材の平面透過電子顕微鏡像を図10に示す。図10より、シリコン基板と平行な面内において、100nm以下の非常に短い転位構造が不規則に分散している様子が分かる。断面電子顕微鏡像の観察から、これらの転位の多くが90°転位であることが確認できた。これらの転位構造は、明らかに90°転位が周期的に配列した構造とはなっていなかった。これは、ゲルマニウム界面層の膜厚が5nmと薄く、膜全体における歪みが小さかったためと考えられる。すなわち、90°転位が伸びていく為の駆動力となる大きな歪みが十分に与えられず、そのため、個々の90°転位は発生するものの、転位線が極短く伸びた時点でその伸びが停まってしまったと考えられる。また、最大の熱処理温度が700℃と低く、そのため転位の運動に必要な熱量が与えられなかったことも、転位が十分に伸びなかった原因と考えられる。
【0117】
したがって、90°転位の周期的ネットワーク構造を形成するためには、ゲルマニウム界面層を十分に厚くして、ある程度大きな格子歪みを与えること、及びより高温の熱処理を施して、発生した90°転位が伸びるのを促進させることが重要といえる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の第1実施例に係り、エピタキシャル成長用基材及び多層膜構造体を模式的に示す構成図である。
【図2】本発明の第1実施例に係り、エピタキシャル成長用基材の製造方法を模式的に示す構成図である。
【図3】本発明の第3実施例に係り、エピタキシャル成長用基材の製造方法を模式的に示す構成図である。
【図4】本発明の第3実施例に係り、(a)は実施例3-2で得られたエピタキシャル成長用基材の平面透過電子顕微鏡像であり、(b)は実施例3-3で得られたエピタキシャル成長用基材の平面透過電子顕微鏡像である。
【図5】本発明の第3実施例に係り、(a)は実施例3-2で得られたエピタキシャル成長用基材の断面透過電子顕微鏡像であり、(b)は実施例3-3で得られたエピタキシャル成長用基材の断面透過電子顕微鏡像である。
【図6】エックス線回折法を用いて測定した各試料の逆格子空間2次元マップを示し、(a)は本発明の第3実施例の実施例3-3で得られたエピタキシャル成長用基材についてのもの、(b)は比較例1で得られたエピタキシャル成長用基材についてのものえある。
【図7】第1実施例、第2実施例及び前記第3実施例でそれぞれ得られたエピタキシャル成長用基材について、原子間力顕微鏡を用いてシリコンゲルマニウム膜の表面粗さを測定した結果として、表面粗さの熱処理温度依存性を示す図である。
【図8】第1実施形態1の実施例1-1における低温域熱処理工程後に得られた試料についての透過電子顕微鏡像であり、(a)が平面透過電子顕微鏡像、(b)が断面透過電子顕微鏡像である。
【図9】ゲルマニウム膜の膜厚を20nmとすること以外は、第1実施形態1の実施例1-1と同様にして低温域熱処理工程後に得られた試料についての、平面透過電子顕微鏡像である。
【図10】比較例2で得られたエピタキシャル成長用基材の平面透過電子顕微鏡像である。
【符号の説明】
【0119】
1…シリコン基板 2…シリコンゲルマニウム膜
3…90°転位のネットワーク状構造物
4…ゲルマニウム膜 5…シリコン被膜
10…エピタキシャル成長用基材 20…シリコン膜
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9