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明細書 :化学物質発生源探索装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3834648号 (P3834648)
公開番号 特開2005-024426 (P2005-024426A)
登録日 平成18年8月4日(2006.8.4)
発行日 平成18年10月18日(2006.10.18)
公開日 平成17年1月27日(2005.1.27)
発明の名称または考案の名称 化学物質発生源探索装置
国際特許分類 G01N   5/02        (2006.01)
B25J   5/00        (2006.01)
B25J   9/10        (2006.01)
B25J  13/08        (2006.01)
FI G01N 5/02 A
B25J 5/00 Z
B25J 9/10 A
B25J 13/08 Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 10
出願番号 特願2003-191126 (P2003-191126)
出願日 平成15年7月3日(2003.7.3)
審査請求日 平成15年7月3日(2003.7.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
発明者または考案者 【氏名】神崎 亮平
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
審査官 【審査官】秋田 将行
参考文献・文献 特開昭62-66306(JP,A)
特開平6-259131(JP,A)
特開平7-12671(JP,A)
特開平7-260618(JP,A)
特開平8-261893(JP,A)
特開平9-304319(JP,A)
特開2001-91416(JP,A)
特開2001-150369(JP,A)
特開2002-166387(JP,A)
特表2003-501619(JP,A)
調査した分野 G01N 5/00- 5/02
B25J 5/00
B25J 9/10
B25J 13/08
特許請求の範囲 【請求項1】
化学物質発生源探索装置であって、
直進する第1の行動パターン、ジグザグターンで進みこのジグザグの直線部が次第に大きくなるように進むまたはその場に留まって前記装置の向きを所定の角度まで左右にシフトしこの所定の角度を次第に大きくしながら左右のシフトを繰り返すような第2の行動パターン、或いは、円を描くように旋回するまたはその場に留まって回転するような第3の行動パターンを用いて前記装置を自律的に移動させる移動手段と、
前記装置の左右にそれぞれ設けられている一対の化学物質検知手段と、
前記化学物質検知手段が化学物質を検出しているときは前記第1の行動パターンを取るよう前記移動手段を制御し、前記化学物質検知手段が化学物質を検出しなくなると前記第2の行動パターンを取るよう前記移動手段を制御し、前記第2の行動パターンを取ってから所定の時間が経過した場合或いは所定の距離を進行した場合は前記第3の行動パターンを取るよう前記移動手段を制御し、前記第2および第3の行動パターン中に化学物質を検出した場合は前記第1の行動パターンを取るよう前記移動手段を制御する、第1の制御手段と、
化学物質を含む気体または液体を前記化学物質検知手段へ供給する供給手段と、
前記第2の行動パターンを取っているときはジグザグターンの側またはシフトしている側の前記気体または前記液体を前記一対の化学物質検知手段のうちのジグザグターンまたはシフトの側の手段へ供給するよう前記供給手段を制御し、前記第3の行動パターンを取っているときは旋回または回転する側の前記気体または前記液体を前記一対の化学物質検知手段のうちの旋回または回転する側の手段へ供給するよう前記供給手段を制御し、進行方向が風下或いは液体の流れの下流側になったときは風上側或いは上流側からの前記気体または前記液体が前記化学物質検知手段へ供給されないよう前記供給手段を制御する第2の制御手段と、
を具えることを特徴とする探索装置。
【請求項2】
請求項1に記載の探索装置において、
前記第1の制御手段は、
前記一対の化学物質検知手段の左右どちらか一方のみが化学物質を検出した場合は、検出した側に進行方向を変化させるよう前記移動手段を制御し、
前記一対の化学物質検知手段の双方が化学物質を検出した場合は、双方の検出濃度が同一のときは直進するよう前記移動手段を制御し、双方の検出濃度に差があるときは、検出濃度が高い方へこの濃度差に応じた角度だけ進行方向を変化させるよう前記移動手段を制御する、
ことを特徴とする探索装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の探索装置において、
前記第3の行動パターンは、旋回するときに描かれる円が旋回するたびに次第に大きくなるように旋回する、
ことを特徴とする探索装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の探索装置において、
前記供給手段はファン或いはスクリューである、
ことを特徴とする探索装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の探索装置において、
前記化学物質検知手段は、生物或いは植物の感覚器を用いたセンサである、
ことを特徴とする探索装置。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の探索装置において、
前記化学物質検知手段は、昆虫の触角を用いたセンサである、
ことを特徴とする探索装置。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、匂いや味などの化学物質を自律的に探索する化学物質発生源探索装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
化学物質などから発生する匂いを検出する匂いセンサは、匂いの種類やその濃度を測定する手段として開発されてきた。このような匂いセンサを利用して、匂い発生源を探索する従来手法としては、匂いの濃度を指標として濃度の高い方向を検出し、この方向を辿って匂い発生源を見つけ出すことが試みられてきた。しかしながら、この手法は、匂いの濃度が連続的に分布しているような状態、即ち、匂い発生源の周りの空気が一番濃度が高く、そこから離れるに従って次第に濃度が低くなるような理想的な濃度分布をしている「実験室内のような流体モデル」の場合しか通用し得ない。しかしながら、前述したような理想的な匂いの濃度分布は、自然界のように非常に複雑で常に変化する風(風速や風向などの変化)、および構造物や地形などの影響を受ける流体モデルでは、匂い物質が気体や液体中に不連続(離散的)にフィラメント(匂いの塊)として存在し時々刻々とその分布状態を変化させ、さらに、その濃度分布も離散的かつ不連続であり、上記従来手法では、匂い発生源の探索は非常に困難であった。
【0003】
上述したように、自然環境では、匂いは空中に分布し、分布状態を絶え間なく複雑に変化させる。このような環境下で、昆虫は数キロメートルにもわたる匂い源定位(例えば、雄が雌の発する匂い物質(フェロモン)をたよりに定位する)を実現している。昆虫は、匂いの離散的分布や、匂い源に近づくほど匂いフィラメント密度が増加する自然界の情報を活用し、一過的なフィラメントとして存在する匂い情報によりドライブされ、匂い情報が消失しても継続する定型的行動パターン(匂いを検知している間は直進移動、匂いが途絶えると小さなターンから次第に大きくなるターンを繰り返し、その後、回転に移るような決まった移動パターン)を利用して匂い源探索を行っている。また、昆虫匂い源探索では、この一過的な匂い情報を受けるたびに、前記行動パターンをリセットし初めから(直進から)の行動パターンを繰り返す。このように、昆虫は、空中の匂いの離散的分布パターンに依存することにより、複雑な機構を利用することなく、プログラム化された定型的な行動パターンのセットとリセットを繰り返すだけで、複雑に変化する匂い環境下で、数キロメートルという長距離の匂い源探索に成功している。このような昆虫の匂い源探索手法(非特許文献1を参照されたい。)を本発明者は既に開示している。さらに、本発明者はこの手法のロボットへの応用の可能性も開示している(非特許文献2を参照されたい。)。
【0004】
【非特許文献1】
「昆虫の匂い源探索行動の神経機構」(AROMA REAEARCH Vol.1 No.3別冊、 2000年、フレグランスジャーナル社、神崎亮平)
【非特許文献2】
「昆虫の微小脳における匂い情報処理(—小型移動ロボットと超小型テレメトリによる昆虫の脳機能・運動機能の分析—)」(AROMA REAEARCH Vol.3 No.3別冊、 2002年、フレグランスジャーナル社、神崎亮平)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、従来の濃度に基づく匂いなどの化学物質発生源探索方法では、自然界のような複雑で離散的に分布する匂いに基づき、遠隔地から匂い源を探索することは事実上困難であった。従って、本発明の目的は、上述した諸課題を解決した化学物質発生源探索装置を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明による化学物質発生源探索装置は、
直進する第1の行動パターン、ジグザグターンで進みこのジグザグの直線部が次第に大きくなるように進む、または、その場に留まって直進してきた方向を軸にして前記装置の向きを所定の角度まで左右にシフトし、この所定の角度を次第に大きくしながら左右のシフトを繰り返すような第2の行動パターン、或いは、円を描くように旋回する、またはその場に留まって回転するような第3の行動パターンを用いて前記装置を自律的に移動させる移動手段と、
前記装置の(前部の)左右にそれぞれ設けられている一対の化学物質検知手段と、
前記化学物質検知手段が化学物質を検出しているときは前記第1の行動パターンを取るよう前記移動手段を制御し、前記化学物質検知手段が化学物質を検出しなくなると前記第2の行動パターンを取るよう前記移動手段を制御し、前記第2の行動パターンを取ってから所定の時間が経過した場合或いは所定の距離を進行した場合は前記第3の行動パターンを取るよう前記移動手段を制御し、前記第2および第3の行動パターン中に化学物質を検出した場合は前記第1の行動パターンを取るよう前記移動手段を制御する、第1の制御手段と、
本装置の付近(前方、右側の前方、左側の前方など)に存在する化学物質を含む気体または液体を能動的に前記化学物質検知手段へ供給する供給手段と、
前記第2の行動パターンを取っているときはジグザグターンまたはシフトしている側の前記気体または前記液体を前記一対の化学物質検知手段のうちのジグザグターンまたはシフトの側の手段へ供給するよう前記供給手段を制御し、前記第3の行動パターンを取っているときは旋回または回転する側の前記気体または前記液体を前記一対の化学物質検知手段のうちの旋回または回転する側の手段へ供給するよう前記供給手段を制御し、進行方向が風下或いは液体の流れの下流側になったときは風上側或いは上流側から前記気体または前記液体が前記化学物質検知手段へ供給されないよう前記供給手段を制御する第2の制御手段と、
を具えることを特徴とする。
本発明によれば、匂いなどの化学物質検知によりリセットされる昆虫の行動パターンに類似した極めてシンプルな幾つかの定型行動パターンを繰り返すことによって、非常に効率的かつ迅速に匂いや味などの化学物質発生源を探索することが可能になる。また、本発明は、従来技術では事実上困難であった非常に離れた場所にある匂い発生源の探索が可能になる。また、本発明によれば、周りにある匂いなどを含む気体や液体などのセンサへの供給(取り込み)をその行動パターンの状態に応じて能動的に変化させることによって、より有効な発生源探索を可能にする。特に、上述したセンサへの供給を能動的に変化させる本発明の第2の制御手段は、匂いなどの化学物質発生源が固定された場合はもちろん、さらに発生源が移動する場合でさえも効率的かつ迅速な探索を可能にする。
【0007】
また、本発明による化学物質発生源探索装置は、
前記第1の制御手段が、
前記一対の化学物質検知手段の左右どちらか一方のみが化学物質を検出した場合は、検出した側に進行方向を変化させるよう前記移動手段を制御し、
前記一対の化学物質検知手段の双方が化学物質を検出した場合は、双方の検出濃度が同一のときは直進するよう前記移動手段を制御し、双方の検出濃度に差があるときは、検出濃度が高い方へこの濃度差に応じた角度だけ進行方向を変化させるよう前記移動手段を制御する、
ことを特徴とする。
本発明によれば、装置に装着された左右一対の検知手段(センサ)による検出状態に応じて進行方向を細かく修正することによって、より効率的かつ迅速な発生源の探索を可能にする。
【0008】
また、本発明による化学物質発生源探索装置は、
前記第3の行動パターンは、旋回するときに描かれる円が旋回するたびに次第に大きくなるように旋回する、
ことを特徴とする。
本発明によれば、旋回の円を次第に大きくすることによって、探索範囲を次第に拡大でき、より効率的かつ迅速な探索が可能となる。
【0009】
また、本発明による化学物質発生源探索装置は、
前記供給手段はファン或いはスクリューである、
ことを特徴とする。
本発明によれば、一般的なモータなどで動くファンやスクリューを利用することができ、より安価に装置を供給することが可能である。
また、本発明による化学物質発生源探索装置は、
前記化学物質検知手段が、生物或いは植物の感覚器(化学物質の刺激に応答し信号や刺激伝達物質を出力する機能を持つ細胞・組織・器官など)を用いたセンサである、或いは、昆虫の触角を用いたセンサである、
ことを特徴とする。
本発明者は昆虫の触角を用いた「匂いセンサ」の開発に成功しており(非特許文献2を参照されたい。)、このような生物の部位を用いたセンサ(例えば、昆虫の触角を用いた匂いセンサ、その他の生物の舌を用いた味センサ)は、非常に高感度であり、探索をより正確・迅速に行うことができるようになる。また、探索を所望する化学物質に応じて生物の種類を変更することで様々な化学物質を探索することが可能となる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、諸図面を参照しつつ本発明の実施態様を詳細に説明する。
本発明による装置を説明する前に、本発明で利用する匂い源を探索するときの昆虫の行動パターンやその行動アルゴリズムなどを説明する。本発明は、下記のような昆虫の行動パターンを巧みに利用して、現実の使用に耐え得る化学物質探索装置を提供するものである。
図1は、匂いのフィラメントによって駆動される昆虫の歩行パターンを示す図である。図に示すように、匂い源を探索する昆虫は、匂い刺激が匂いセンサ(触角)に入力されている「0.3秒間」は直進し、その後、匂い刺激が途絶えると、その場に留まって体の向き(体軸)を所定の角度まで左右にシフトしこの所定の角度を次第に大きくしながら左右のシフトを繰り返す。そして、この角度が大きくなっていくと、左右180度を超えて、その場で回転するような運動が観察される。このように、昆虫は、直進、左右へのシフト、さらに360度以上のシフトである回転という行動パターンを取る。この行動パターンは、新たに匂い刺激が入力されると、リセットされ、直進パターンに戻り、匂い刺激が途絶えるとまたこれらの所定のパターンを繰り返す。匂いのフィラメントの密度が高くなると、必然的にリセットの頻度が高くなり、ほぼ直線的に匂い源まで移動し匂い源を定位することになる。
【0011】
図2は、匂い源を探索するときの昆虫の行動パターンを表すモデル図である。図に示すように、昆虫は、匂いのフィラメントによって駆動されるプログラム化された行動パターンを取る。即ち、匂い刺激を受けている間は直進し、刺激が途絶えた後は図に示すように、その場に留まって段々と大きくなる左右の体軸シフトを繰り返し、その後、最終的には回転運動に移り、再度刺激を受けると直進に戻るという行動パターンを取る。
【0012】
図3は、匂い源を探索するときの昆虫の行動アルゴリズムを示す概略図である。図に示すように、左右のセンサへの匂い刺激の入力の有無やその濃度に応じて、直進、ジグザグターン(左右への体軸シフト)、回転などの行動を取る。この場合、行動の状態(どの行動要素の段階にあるか)によって、センサ入力によるプログラムのリセットが駆動されたり、駆動されなかったりする。昆虫は、これを活用することによってより有効に匂い源の探索を実現しており、特に移動する匂い源を探索する能力が高いと言える。
【0013】
図4は、歩行昆虫(カイコガ)が行動状態や周囲の状況に応じて羽根を使ってセンサ(触角)へ空気を能動的に供給する様子を示す模式図である。図においては、左から右へ風が吹いている状態で昆虫の動きを表したものである。図中のAは、左の匂い源から風によって右へ匂い(匂いの塊、図中のハッチング部)が流れている状況を示している。図に示すように、匂い源に向かって直進しているとき(図中のB)は、直進方向即ち昆虫の前方から匂いを含む空気をセンサへ供給する。そして、ジグザグ移動中や回転中(図中のC)には、羽根を巧みに操作してジグザグターンの側や回転する側の空気をセンサに供給する。この図中のCの場合は、昆虫は左(時計の反対回り)に回転している最中であり、回転する側(左)の空気をセンサに供給する。もしも、このとき昆虫が右(時計回り)に回転している最中である場合は、右の空気は取り込むが「匂いを含む空気」がある左側の空気の取り込みは行われない。さらに、昆虫の進行方向が風下になった場合(図中のD)は、センサに風上からの空気(即ち匂い成分)が供給されないように羽根を動かす。このように行動状態に応じて匂い情報をセンサに入力し、行動プログラムのリセットを能動的に作り出している。このような能動的なリセット発現機構により、直進・ジグザグターン・回転からなる歩行パターンのプログラムが有効に活用され、匂い源探索が実現している。本発明は、このような昆虫の羽根の動きと行動状態(直進、ジグザグ、回転)との関連を把握しこれに着目して、このような挙動を取りながらセンサへ化学物質を含む気体や液体を供給する供給手段を設けたものである。
【0014】
図5は、本発明による化学物質発生源探索装置の具体的な外観を示す概略図である。図に示すように、本発明による化学物質発生源探索装置100は、化学物質検知手段として一対の化学センサ110と、供給手段として3つのファン120とを具える。また、本装置100は、図3で示したような昆虫の探索行動アルゴリズムに基づき移動し、移動手段として直進、ジグザクターン、回転などの行動パターンで移動が可能であり、任意の角度で進行方向を変え得る車輪(図示しない)および風向・風速センサ(図示しない)も具える。ファン120は、周囲に存在する風を送る方向を任意に変化し得るように、自在に首振りする機構を有しており、モータを逆回転して送風方向を逆にすることも可能である。また、ファン120は、例えば、ジグザグターンで右に進んでいるときや、右側に回転即ち時計周りの方向の回転しているときは、装置の右側に設けられたファン120を用いて、右側に存在する「匂い(化学物質)が離散的に分布している空間(プルーム)130」の空気を右側のセンサ110へ供給する。左に回転する場合も、同様に、左側に設けられたファン120を用いて、左側の空気を左側のセンサ110へ空気を供給する。他方、装置が直進(前進)している場合は、前方に設けられたファン110を用いて前方の空気を双方のセンサ110へ供給する。このようにファンなどを使って積極的に「匂いを含む可能性がある空気」をセンサに接触させることによって、普通に装置を移動させた場合をよりも多くの「匂いを含む可能性がある空気」をセンサに接触させることが可能となり、より効率的かつ迅速な匂い源探索を実現することができるというメリットもある。本装置100の進行方向が風下になった場合は、風速・風向センサでこの状態を感知し、これらのファン120を駆使してセンサ120へ空気が供給されない状態を作り出し、間違った方向へ移動するのを防止する。或いは、進行方向が風下になった場合は、センサから出力される信号を次工程で単純に無視するような処理をしてもよい。
【0015】
本発明者が研究している昆虫「カイコガ」は、匂い源定位に風向きの情報は使用していない。カイコガは、羽根を巧みに操作して、後方からの空気が触角に触れないような空気の流れを作り出している。そこで、このような空気の流れを作り出して、風速・風速センサを必要としない探索装置の構成を変形例として考える。図6は、本発明による化学物質発生源探索装置の変形例の具体的な外観を示す概略図である。図に示すように、本発明による化学物質発生源探索装置200は、化学物質検知手段として一対の化学センサ210と、供給手段として2つの横部ファン220と1つの後部ファン230とを具える。本装置200は、その前部に匂いを含む空気を取り入れる前部開口240、後部開口250、および横部開口260を具える。本装置200の上部は角筒状になっており、前部開口240と横部開口260とからファンを使って取り入れられた空気は、この角筒を通じて装置の前方から後方へ流され、そのときに、その空気がセンサ210に接触し匂いなどの化学物質を検知する。そして、装置内に取り入れられた空気は後部ファン230によって後部開口250から排出される。このように前方から後方への空気の流れを常に保持できれば、風速・風速センサは全く必要ない。即ち、本装置200は、ファンの位置および空気流路(角筒)を図のように構成させることによって、後方から空気が流入することを常に防止して匂い方向を間違うことを回避できるという利点を持つ。
従って、この変形例は、装置の構成を簡素化できるため低コストで作製でき、さらに、簡素化できるがゆえに、装置自体を極めて微小(1cm×1cm×1cm程度も十分可能と考えられる)に製作でき、極めて微小なスペースでの匂い源探索も可能となる。
【0016】
図7は、本発明による化学物質発生源探索装置の基本構成を示すブロック図である。図に示すように、本発明による化学物質発生源探索装置300は、第1~3の行動パターンで前記装置を自律的に移動させる移動手段310と、前記装置の左右にそれぞれ設けられている一対の化学物質検知手段(センサ)320と、化学物質を含む可能性がある気体または液体を能動的に化学物質検知手段320へ供給する供給手段330と、前記移動手段310を制御する第1の制御手段340と、供給手段330を制御する第2の制御手段350とを具える。第1の制御手段340は、センサが化学物質を検出しているときは前記第1の行動パターンを取るよう移動手段310を制御し、センサが化学物質を検出しなくなると第2の行動パターンを取るよう移動手段310を制御し、第2の行動パターンを取ってから所定の時間が経過した場合や所定の距離を進行した場合は第3の行動パターンを取るよう移動手段310を制御し、第2および第3の行動パターン中にセンサが化学物質を検出した場合は第1の行動パターンを取るよう移動手段310を制御する。第2の制御手段350は、第2の行動パターンを取っているときはジグザグターンの側の気体や液体を一対のセンサのうちのジグザグターン側のセンサへ供給するよう供給手段330を制御し、第3の行動パターンを取っているときは回転する側の気体や液体を一対のセンサのうちの回転する側のセンサへ供給するよう供給手段330を制御し、進行方向が風下或いは液体の流れの下流側になったときは気体や液体がセンサへ供給されないよう供給手段330を制御する。また、図示していないが、本装置300は、センサからの信号を増幅するアンプや信号を処理するA/Dコンバータ、各種信号を処理するDSP、数値演算などを行うMPUなども具えている。
【0017】
本明細書では、様々な実施態様で本発明の原理を説明してきたが、本発明は上述した実施例に限定されず幾多の変形および修正を施すことが可能であり、これら変形および修正されたものも本発明に含まれることを理解されたい。例えば、実施態様としては、地上を走行する装置を例示したが、本発明はこれに限定されず、空中や水中などでも匂い源などの化学物質発生源を探索することが可能である。また、供給手段としてはファンおよびスクリューを挙げたが、これは一例に過ぎず、所望の場所に存在する「気体や液体」を所望の場所(センサ)に供給できるようなものであればよく、「昆虫の羽根やその動作」を模したようなものや様々なものが供給手段として利用可能である。また、移動手段として車輪を挙げたが、これは一例に過ぎず、本装置を任意に進行方向を変化させつつ移動させ得るものや、移動中或いはその場に停止したまま装置の向きや姿勢を任意に変え得るものであればよく、地上であれば無限軌道、空中であれば回転翼、水中であればスクリューなど様々なものが移動手段として利用可能である。さらにまた、本発明の化学物質発生源検知手段としては、探索を所望する化学物質に応じて多様なセンサを使用し得るが、センサの時間分解能が十分に高いもの(5Hz程度の匂いパルス刺激に対して反応し得るセンサ)が好適である。例えば、化学物質発生源検知手段としては、化学センサやバイオセンサ(ガス、化学物質検知センサなど)、匂いセンサや味センサ(水晶振動子法、ガラス電極法、人工脂質膜法などを利用するセンサ)なども利用可能である。このような様々な変形例も本発明の範囲に含まれることを留意されたい。
本発明の利用分野としては、多くの用途が考えられる。例えば、人工の化学物質や自然界などに存在する特有の匂いを発する物質、生物、或いは植物などを迅速かつ効率良く探索する用途などが考えられる。また、本発明による探索装置は、自律式ロボットであるため、人が行けないような危険な場所における探索も可能である。また、本発明では、装置構成を簡素化できるため、人が入れないような微小な場所で探索可能な微小探索ロボットを提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 匂いのフィラメントによって駆動される昆虫の歩行パターンを示す図である。
【図2】 匂い源を探索するときの昆虫の行動パターンを表すモデル図である。
【図3】 匂い源を探索するときの昆虫の行動アルゴリズムを示す概略図である。
【図4】 昆虫が行動状態や周囲の状況に応じてセンサへ空気を能動的に供給する様子を示す模式図である。
【図5】本発明による化学物質発生源探索装置の具体的な外観を示す概略図である。
【図6】 本発明による化学物質発生源探索装置の変形例の具体的な外観を示す概略図である。
【図7】 本発明による化学物質発生源探索装置の基本構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
100 化学物質発生源探索装置
110 化学センサ
120 ファン
130 匂いが離散的に分布している空間
200 化学物質発生源探索装置
210 化学センサ
220 横部ファン
230 後部ファン
240 前部開口
250 後部開口
260 横部開口
300 化学物質発生源探索装置
310 移動手段
320 一対の化学物質検知手段(センサ)
330 供給手段
340 第1の制御手段
350 第2の制御手段
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6