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明細書 :ホスフィンの遊離方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4257414号 (P4257414)
公開番号 特開2005-097131 (P2005-097131A)
登録日 平成21年2月13日(2009.2.13)
発行日 平成21年4月22日(2009.4.22)
公開日 平成17年4月14日(2005.4.14)
発明の名称または考案の名称 ホスフィンの遊離方法
国際特許分類 C07F   9/50        (2006.01)
C07F   9/53        (2006.01)
C07F   9/655       (2006.01)
C07F   9/145       (2006.01)
FI C07F 9/50
C07F 9/53
C07F 9/655
C07F 9/145
請求項の数または発明の数 5
全頁数 10
出願番号 特願2003-330185 (P2003-330185)
出願日 平成15年9月22日(2003.9.22)
審査請求日 平成18年1月18日(2006.1.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】檜山 爲次郎
【氏名】マーク シュレーダー
【氏名】野崎 京子
個別代理人の代理人 【識別番号】100106611、【弁理士】、【氏名又は名称】辻田 幸史
【識別番号】100087745、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 善廣
【識別番号】100098545、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 伸一
審査官 【審査官】本堂 裕司
参考文献・文献 特開平11-302236(JP,A)
特開平4-290889(JP,A)
特表2001-513516(JP,A)
調査した分野 C07F 9/50
C07F 9/53
C07F 9/655
C07F 9/145
CA(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
モレキュラーシーブの存在下、アルコール溶媒中でホスフィンボランからホスフィンを遊離させる遊離方法。
【請求項2】
アルコール溶媒が、メタノール混合溶媒である請求項1記載の方法。
【請求項3】
アルコール溶媒として、さらに、THF又はジオキサンを含む請求項1又は2項記載の方法。
【請求項4】
モレキュラーシーブが、MS4Åである請求項1記載の方法。
【請求項5】
遊離を、不活性ガス雰囲気中で行なう請求項1記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスフィンの製造方法であって、特に、モレキュラーシーブの存在下のホスフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスフィンボランからホスフィンを遊離させるには、これまでジエチルアミンやモルフォリンのような第二級アミン、DABCOやトリエチルアミンなどの塩基を用いる方法が知られている(J.Am.Chem.Soc.、112、5244(1990);J.Am.Chem.Soc.、121、1090、(1999)。また、第三級アミンを過剰に用いる方法も知られている(LeGall,Miodkovski,J.Am.Chem.Soc.、1999、121、1090)。
【0003】
さらにまた、テトラフルオロホウ酸やトリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの強酸を用いる方法(Tetrahedron Lett、 35, 9319(1994);J.Organomet. Chem.,621, 120 (2001);J.Am.Chem.Soc.,120,1635(1998)も知られている。

【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.、112、5244(1990);J.Am.Chem.Soc.、121、1090、(1999)
【非特許文献2】(Tetrahedron Lett、 35, 9319(1994);J.Organomet. Chem.,621,120 (2001);J.Am.Chem.Soc.,120,1635(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ジエチルアミンやモルホリンのような第二級アミンを過剰に用いる方法は、脱保護剤であるアミンを大過剰(場合によっては溶媒として)使用しなければならず、副生するアミンボラン錯体の除去が困難になることが多いという問題がある。また、かかる方法は、ホスファイト-ボラン錯体の脱保護には使えない。
【0005】
また、上述の第三級アミンを用いる方法は、すべてのホスフィン-ボランに適用できるわけではなく、使用できないものが多い。さらに、副生するアミンボラン錯体に昇華性があり、分離が困難である。また、第三級アミンは塩基性が強いため、塩基と反応する官能基をもつホスフィンには使えない。そして、ホスファイト-ボラン錯体の脱保護にも使えない。
【0006】
また、上述の強酸中で行なう方法は、通常酸を大過剰使用しなければならない。続いてアルカリ加水分解によりホフフィンを遊離させるので、しばしばホスフィンオキシドの生成が伴い、この間多くの官能基が変化してしまう。この方法もホスファイト-ボラン錯体には使用できない問題がある。
【0007】
いずれの遊離方法においても、上記遊離条件に耐えられない構造のホスフィンを合成することができないという問題を有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明の目的は、簡便な工程によってラセミ化等を伴わずに脱保護し得るホスフィンボランからのホスフィンの遊離方法を提供することにある。
【0009】
本発明のホスフィンの遊離方法は、モレキュラーシーブの存在下、アルコール溶媒中でホスフィンボランからホスフィンを遊離させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のホスフィンの遊離方法の好ましい実施態様において、アルコール溶媒が、メタノールを含む混合溶媒であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のホスフィンの遊離方法の好ましい実施態様において、アルコール溶媒中に、さらに、THF又はジオキサンを含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明のホスフィンの遊離方法の好ましい実施態様において、モレキュラーシーブが、MS4Åであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のホスフィンの遊離方法の好ましい実施態様において、遊離操作を、無水の不活性ガス雰囲気中で行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のホスフィンボランの遊離方法によれば、光学活性ホスフィンではラセミ化は認められない。ホスファイトを使用した場合、アルコール部の交換も抑えることができるという有利な効果を奏する。
【0015】
本発明のホスフィンボランの遊離方法によれば、ホスフィンボランのリン原子からボラン基を除いて容易に脱保護できるという有利な効果を奏する。
【0016】
本発明のホフフィンボランの遊離方法によれば、既知法に比較して反応が極めて容易であるという有利な効果を奏する。例えば、P-キラルの光学活性ホスフィンは、70℃以下なら、反転すなわちラセミ化を伴わずに脱保護できるという有利な効果を奏する。
【0017】
また、本発明のホスフィンボランの遊離方法によれば、アセタールや水酸基のような官能基を変化させずに行なうことができるという有利な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のホスフィンの遊離方法においては、モレキュラーシーブなどの脱保護剤の存在下、ホスフィンボランからホスフィンを遊離させる。モレキュラーシーブとしては、特に限定されないが、除くべきボランの大きさという観点から、MS4Åが好ましい。なお、モレキュラーシーブは、予め減圧下、100~300℃、好ましくは、約250℃近傍で活性化し、アルゴンガスなどの不活性ガスで空隙を置換したものを粉砕して使用することができる。
【0019】
本発明において、対象となるホスフィンボランも特に限定されず、ホスファイト-ボラン錯体などを含め、すべてのリン-ボラン錯体に適用することが可能である。
【0020】
本発明に使用可能なアルコール溶媒についても特に限定されない。好ましい実施態様において、アルコール溶媒としては、反応性の観点から、メタノール混合溶媒である。
【0021】
また、アルコールと共に、テトラヒドロフラン(THF)又はジオキサンを併用することができる。これらTHFやジオキサンは溶解力に優れ、いずれも安価で容易に入手可能であるという観点から好ましい。この他、アルコール溶媒中に使用可能な共溶媒としては、例えば、エーテル、ベンゼン、ヘキサン、ジクロロメタンを挙げることができる。
【0022】
また、好ましい実施態様において、遊離を、不活性ガス雰囲気中で行なう。このように不活性雰囲気中で反応させると、生成物であるホスフィンが酸素と接触してホスフィンオキシドに酸化されることを防止することができる。なお、反応は、室温で行なってもよく、必要に応じて溶媒の沸点まで加熱して行なってもよい。
【0023】
このように、モレキュラーシーブの存在下、アルコール溶媒中でホスフィンボランのリン-ホウ素結合を容易に切断することができる。本発明によって、リン原子からボラン基を除いて容易に脱保護することが可能となる。本発明は、上述したように、例えば、シュレンク管中で、不活性ガス雰囲気下で行なうのが好ましく、反応後の後処理は、単にろ過し、溶媒を濃縮するだけでよい。したがって、既知の方法に比較して、反応が容易であり、かつ、すべてのホスフィンボランにも適用可能であることなど有利な点が多い。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定して解釈される意図ではない。
【0025】
<出発物質の調製>
出発物質である種々のホスフィンボランを、文献どおり対応するホスフィンとボラン反応剤(通常ボラン-ジメチルスルフィド錯体)から調製した。具体的には、以下の手順で調製した。
【0026】
出発物質1
生成物をジクロロメタン/ヘキサンから再結晶して、トリフェニルホスフィン・ボラン錯体を無色結晶として得た(収率83%)。
【0027】
【化1】
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【0028】
出発物質2
この反応は-78℃でも可能で、生成物をトルエン/ヘキサンから再結晶して、無色微結晶として得た(収率68%)。
【0029】
【化2】
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【0030】
出発物質3
上述したものと同様の手順を行い、微量の不純物を除くためにシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、目的物を収率87%で得た。NMR収率は99%。
【0031】
【化3】
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【0032】
出発物質4
上述の出発物質2の調製例と同様に行い、生成物をジクロロメタン/ヘキサンより再結晶して目的物を収率87%で無色結晶として得た。
【0033】
【化4】
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【0034】
出発物質5
出発物質4の調製例と同様に、目的物を定量的(NMR)に得た。生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィーで精製して目的物を無色液体として収率83%で得た。
【0035】
【化5】
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【0036】
出発物質6
上式のように、フェニルジメチルホスフィンボランに(-)-スパルテイン共存下に-78℃でs-ブチルリチウムを作用させてアニオンを生成させてアニオンを生成させ、これをベンゾフェノンと-20℃で反応させて、目的物を定量的(NMR)に得た。酢酸エチル/ヘキサンから再結晶して、目的物を無色微結晶として得た(収率69%)。第一晶の鏡像体過剰率(ee)は96%。第二晶は88%eeであった。文献値は、79%ee.
【0037】
【化6】
JP0004257414B2_000007t.gif

【0038】
出発物質7
従前どおりの方法で、目的物を定量的(NMR)に得た。トルエン/ヘキサンから再結晶して、淡黄色結晶として単離した(収率75%)。
【0039】
【化7】
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【0040】
出発物質8
従前どおりの方法で、目的物ホスファイト・ボラン錯体を定量的(NMR)に得た。ヘキサンから再結晶して目的物を無色結晶として得た(収率68%)。
【0041】
【化8】
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【0042】
使用したモレキュラーシーブ(MS)は、4オングストローム(
Å)の空隙をもつもので、減圧下250℃に加熱し、アルゴンを数回満たし、均一になるように粉砕し、これを再度減圧下加熱してアルゴンで常圧に戻す操作を数回繰り返した。
【0043】
モレキュラーシーブを好ましくは4Aを予め減圧下250度で活性化してアルゴンで空隙を置換したものを粉砕し、これを乾燥テトラヒドロフラン(あるいはジオキサン)とアルコール混合溶媒中に懸濁し、当該ホスフィンボランを加えて撹拌することにより、目的ホフフィンを得る。必要に応じて溶媒の沸点まで加熱してもよい。反応終了後、ろ過および濃縮によって目的ホスフィンを得る。
【0044】
本実施例では、2つの方法を用いて、ホスフィンの遊離を検討した。方法Aとして、ガス導入口と還流冷却管をつけたシュレンク管にモレキュラーシーブ(MS)4Åを加え、上記の方法で活性化した。ここにTHF(またはジオキサン)とメタノール混合溶媒を次いで基質を入れ、常圧下で反応式中に示した時間、加熱撹拌した。反応の後単にセライトろ過し、濃縮するだけで生成物をほとんど純品として得た。
【0045】
また、方法Bとして、ガス導入口をつけたシュレンク管にMS4Åを加えて、上記方法で活性化した。アルゴン雰囲気下に溶媒(及び共溶媒)と基質を加え、アルゴン2bar加圧下に表記時間、加熱撹拌した。こうして生成物が酸素と接触してホスフィンオキシドに酸化されるのを防ぐことができる。後処理は上述した方法Aと同じである。
【0046】
実施例1
以下に反応を示す。
【0047】
【化9】
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【0048】
実施例1は、上記方法Aに従って行い、アルコール溶媒として、THF/メタノールを用いて、106時間加熱還流を行った。その結果、収率100%でホスフィンを遊離することができた。
【0049】
実施例2
【0050】
以下に反応を示す。
【0051】
【化10】
JP0004257414B2_000011t.gif

【0052】
実施例2は、上記方法Bに従って行い、アルコール溶媒として、ジオキサン/メタノールを用いて、115℃、42時間反応させた。その結果、収率92%でホスフィンを遊離することができた。
【0053】
実施例3
以下に反応を示す。
【0054】
【化11】
JP0004257414B2_000012t.gif

【0055】
実施例3は、上記方法Bに従って行い、アルコール溶媒として、ジオキサン/メタノールを用いて、115℃、28時間反応させた。その結果、収率100%でホスフィンを遊離することができた。
【0056】
実施例4
以下に反応を示す。
【0057】
【化12】
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【0058】
実施例4は、上記方法Bに従って行い、アルコール溶媒として、THF/メタノールを用いて、100℃、22時間反応させた。その結果、収率100%でホスフィンを遊離することができた。
【0059】
実施例5
以下に反応を示す。
【0060】
【化13】
JP0004257414B2_000014t.gif

【0061】
実施例5は、上記方法Aに従って行い、アルコール溶媒として、THF/メタノールを用いて、22時間加熱還流を行なった。その結果、収率99%でホスフィンを遊離することができた。
【0062】
実施例6
以下に反応を示す。
【0063】
【化14】
JP0004257414B2_000015t.gif

【0064】
実施例6は、上記方法Bに従って行い、アルコール溶媒として、THF/メタノールを用いて、68℃、70時間反応させた。その結果、収率96%でホスフィンを遊離することができた。
【0065】
実施例7
以下に反応を示す。
【0066】
【化15】
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【0067】
実施例7は、上記方法Bに従って行い、アルコール溶媒として、THF/メタノールを用いて、室温、250時間反応させた。その結果、収率99%でホスフィンを遊離することができた。
【0068】
実施例8
以下に反応を示す。
【0069】
【化16】
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【0070】
実施例8は、上記方法Aに従って行い、アルコール溶媒として、THF/メタノールを用いて、75℃、22時間反応させた。その結果、収率86%でホスフィンを遊離することができた。なお、アセタールの脱保護、ラセミ化、エピマー化などはいずれもおこらなかった。
【0071】
実施例9
以下に反応を示す。
【0072】
【化17】
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【0073】
実施例9は、上記方法Bに従って行い、アルコール溶媒として、THF/メタノールを用いて、70℃、30時間反応させた。その結果、収率94%でホスフィンを遊離することができた。なお、脱水もラセミ化も全くおこらなかった。
【0074】
実施例10
以下に反応を示す。
【0075】
【化18】
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【0076】
実施例10は、上記方法Aに従って行い、アルコール溶媒として、THF/t-BuOHを用いて、室温、72時間反応させた。その結果、収率100%で目的のホスファイトを遊離することができた。なお、この条件下ではアルコール交換も加水分解もおこらなかった。メタノールを使用すると、一部アルコール交換がおこり、(PhO)n(MeO)
3-nPの副生が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
製薬企業において不斉合成など需要が高まっているホスフィン配位子を穏和な条件下で合成し得る。したがって、工業用触媒合成に利用され得る。