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明細書 :抗ウイルス剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3689735号 (P3689735)
公開番号 特開2001-270836 (P2001-270836A)
登録日 平成17年6月24日(2005.6.24)
発行日 平成17年8月31日(2005.8.31)
公開日 平成13年10月2日(2001.10.2)
発明の名称または考案の名称 抗ウイルス剤
国際特許分類 A61K 38/17      
A61P 31/12      
A61P 31/18      
FI A61K 37/12
A61P 31/12
A61P 31/18
請求項の数または発明の数 2
全頁数 6
出願番号 特願2000-081476 (P2000-081476)
出願日 平成12年3月23日(2000.3.23)
審査請求日 平成12年3月23日(2000.3.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】玉田 靖
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
審査官 【審査官】八原 由美子
参考文献・文献 特許第2945954(JP,B2)
Hideki Nakashima et al.,Jpn. J. Cancer Res.,1987年,Vol.78,p.1164-1168
調査した分野 A61K 38/17
CA(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
硫酸化絹フィブロインまたは硫酸化絹セリシンを有効成分として含有する、抗ウイルス剤。
【請求項2】
ウイルスがヒト免疫不全ウイルス(HIV)である、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などに有効な抗ウイルス剤、詳しくは硫酸化絹タンパク質を有効成分として含有する抗ウイルス剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などに有効な抗ウイルス活性物質としては、これまでレトロウイルスに特徴的な逆転写酵素を標的としたアジドチミジン(AZT)やザルシタビン(ddC)等が知られており、これらは抗エイズ剤として臨床的に使用されている。また、ウイルスプロテアーゼ阻害剤としてのサキナビルやインジナビル等の物質が抗エイズ剤として実用化されている。さらに、近年ウイルスの宿主細胞への侵入や脱殻過程を阻害するとされる合成ポリペプチド物質も報告されている [H. Nakajima et al., Antimicrob. Agents Chemother., 36, 1249 (1992)] 。しかし、これらの物質は強い細胞毒性を示すとともに長期投与により骨髄傷害を起こしたり、末梢神経障害等の副作用が生じたりすること、耐性ウイルスの出現があるなどの問題点が指摘されている。
【0003】
一方、デキストラン硫酸を代表とする硫酸化多糖類がエイズの治療剤として有用であるという多くの研究報告がある(特公昭62-215529、特公平1-103601等)。これらの作用機序はウイルス感染の最初の過程であるウイルス粒子の宿主細胞への吸着を阻害する機構であると推定されているため、ウイルス感染の最も初期の段階を阻害する点において感染細胞を増やさないという利点がある。しかし、これらの物質は、分子量が大きすぎて吸収されにくい、血液凝固阻害がある、生体内で短期間で分解してしまう等の問題があり、未だ臨床的に実用化されていない。分子量を低下させた硫酸化オリゴ糖物質についても報告されている(特開平05-078382、特開平11-315101等)が、その合成工程が複雑であり生産性や価格の点で問題があり、またその分解性に関する課題は残されている。
【0004】
一方、絹タンパク質は、代表的には家蚕の繭からの抽出により得ることができ、比較的安価に提供される。また、絹タンパク質は、絹糸が手術用縫合糸として現在も実用化されている事実から、生体親和性に優れた物質であると考えられる。硫酸化絹タンパク質については、硫酸化フィブロインや硫酸化セリシンについて、その抗血液凝固活性や吸水・保水機能についてはすでに公表されている(特公平11-2945954、特開平11-60737)が、その抗ウイルス活性については報告されていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、低毒性で生体親和性に優れ、かつ製造工程が簡便で安価な抗ウイルス剤を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、硫酸化絹タンパク質がヒト免疫不全ウイルス(HIV)やインフルエンザウイルス等に対して優れた抗ウイルス活性を有することを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、硫酸化絹タンパク質を有効成分として含有することを特徴とする抗ウイルス剤である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の抗ウイルス剤に使用する絹タンパク質としては、家蚕、野蚕、天蚕等の蚕から生産されるものであればいずれでもよく、その製造方法としては、繭からの抽出、絹糸腺からの抽出等のような既知の如何なる方法を用いても良い。特に、製造工程の簡便性から家蚕の繭からの抽出が好ましい。絹タンパク質としては、フィブロイン、セリシン等が知られているが、特に生産性を考えるとフィブロインが好ましい。また、各種タンパク質の混合物としても使用することができる。
【0009】
本発明の抗ウイルス剤の有効成分である硫酸化絹タンパク質は、以下のようにして得ることができる。
まず、上記の絹タンパク質を反応溶媒中に分散する。反応溶媒としては、硫酸化剤と反応しないものであればいずれを用いても良いが、製造コスト等からピリジンやジオキサン等が好ましい。絹タンパク質の濃度は、総反応溶媒に対して0.1 ~50重量%、好ましくは0.1 ~30重量%である。ここで総反応溶媒とは、絹タンパク質の分散に使用する溶媒と、後述の硫酸化剤を混合する溶媒とを合わせたものを意味し、各操作において任意の量で使用される。絹タンパク質の濃度に関し、0.1重量%未満では、製造コスト上不利であり、また50重量%を超えると、硫酸化反応が均一に進行しない可能性がある。
【0010】
次に、この絹タンパク質分散液を予め調製しておいた硫酸化剤を混合した反応溶媒に添加する。硫酸化剤としては、特に制限はなく、例えば、通常使用されるクロロ硫酸や発煙硫酸等を用いることできる。
硫酸化剤と反応溶媒との混合比は、反応系において容量比で 1:1~1:100、好ましくは、1:2 ~ 1:20の範囲となるようにする。硫酸化剤1部に対し、反応溶媒が1部未満では、反応が十分に進行せず、100 部を超えると、製造コスト上不利になるとともに取り扱いが不便となる。
【0011】
反応系における硫酸化剤と絹タンパク質の量は、硫酸化剤1部(容量)に対し、絹タンパク質を0.5~50部(重量)、好ましくは、1~20部(重量)の範囲とする。硫酸化剤1部(容量)に対し、絹タンパク質が0.5部(重量)未満であると十分な反応が進まず十分な抗ウイルス活性が得られず、50部(重量)以上であると過剰な主鎖の分解等の副反応が進む危険性があり十分な抗ウイルス活性が期待できない。
【0012】
硫酸化反応の温度は、通常室温から溶媒の沸点の範囲であればいずれを用いても良いが、反応効率を高めるために出来るだけ高温、例えば50 ~90℃で実施するのが好ましい。
【0013】
また、反応時間に関しては、使用する硫酸化剤の濃度や絹タンパク質の量により変化するが、通常5分間 ~12時間、好ましくは10分間~10時間である。5分間未満では十分に反応が進行しない危険性があり、また12時間以上では過剰な主鎖の分解等の副反応の進行の可能性があり、また生産効率上不利になる。
【0014】
硫酸化反応後、反応液中に水を添加して、水溶性反応物を抽出する。添加する水の量は任意の量を用いればよいが、少なくとも反応液量と等量を用いるのが好ましい。添加する水の量が少ないと十分に抽出することが出来ない危険性があり、生産効率上不利になる。この反応液-水混合液に対し、濾過や遠心分離操作を行うことにより反応混合物中から不溶成分を除去する。
得られた可溶性成分に所定量の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物、水酸化マグネシウムや水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属、アンモニア等の塩基性化合物の水溶液を添加して中和する。塩基性化合物水溶液の添加量は、使用した硫酸化剤と等規定量を用いれば十分である。
【0015】
中和後、中和反応により生成した塩化合物やその他副反応等で生成した不純物を取り除く。除去方法としては、公知の如何なる方法を用いてもよいが、透析、ゲル濾過等のカラムクロマトグラフィー、限外濾過等が挙げられる。
【0016】
上記のようにして得られた硫酸化絹タンパク質は、凍結乾燥等により回収し、固体のまま用いてもよいが、あるいは医学的に許容できる溶剤、賦形剤、担体、補助剤等を使用し、自体公知の方法に従って、液剤、注射剤、錠剤、散剤、顆粒剤等に製剤化することができる。
【0017】
上記の硫酸化絹タンパク質は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV) をはじめ、オルソミキソウイルス、パラキソウイルス、コロナウイルス、トウガウイルス等に抗ウイルス活性を有する。
【0018】
従って、本発明の抗ウイルス剤は、エイズ、インフルエンザ、気管支炎、麻疹、肺炎、日本脳炎、風疹等の各種のウイルス感染症の予防、治療に有用である。
【0019】
本発明の抗ウイルス剤は、例えばヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳類動物に対して経口的または非経口的に投与する。本製剤の投与量は、剤形、投与ルート、症状等により、適宜変更しうるが、例えば、ヒトを含む哺乳動物に投与する場合、硫酸化絹タンパク質量として、0.1 ~200mg/kg体重を1日に数回適用する。
【0020】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕 (硫酸化絹タンパク質の調製)
トルエン/メタノールにより抽出処理した家蚕繭(しんあけぼの)を0.5%炭酸ナトリウム水溶液中で1時間煮沸処理して精練し、絹タンパク質を準備した。この絹タンパク質0.5gを8mlのピリジン中に分散し、この分散液を予め2mlのクロロ硫酸を12mlのピリジン中に混合して調製しておいた反応液中に添加した。80℃の恒温漕中所定時間(3時間、8時間)撹拌しながら反応を進めた。反応終了後、40mlの蒸留水を加え、減圧濾過により可溶分を回収した。回収した反応液を2.5 N 水酸化ナトリウム水溶液で中和し、100mlのエタノールを加えて硫酸化絹タンパク質を回収し、さらに水に対して透析したのち、凍結乾燥した。得られた乾燥物をIRスペクトル分析したところ、硫酸エステルに帰属される特性ピークが見られ、用いた絹タンパク質が硫酸化されていることが確認された。表1に反応時間と収率の関係を示した。
【0021】
【表1】
JP0003689735B2_000002t.gif
【0022】
〔実施例2〕(抗HIV活性測定)
実施例1で調製した硫酸化絹タンパク質(反応時間3時間で得られた方をSF-1、反応時間8時間で得られた方をSF-2と称する) を試験物質とし、これらの抗HIV活性測定を、MT-4細胞(HTLV-1感染ヒトT4抗原陽性細胞株)のHIV感染による細胞障害抑制効果とウイルス特異性抗原の発現の抑制効果 [Nakajima et al, Antimicrob. Agents Chemother, (1992)] を調べることにより実施した。
96穴プレート内で、2.5×104/wellのMT-4細胞に、0.01 MOI (Multiplicity of Infection)の X4HIV-1ウイルス株を感染させ、感染直後に種々の濃度の試験物質を添加した。CO2インキュベーターで37℃、5日間培養した後、MTT法により生存細胞数を測定した。同時に試験物質の細胞毒性を知るために、ウイルス非感染細胞を同様に種々の濃度の試験物質と共に培養した。
抗ウイルス活性は、HIV感染による細胞障害を50%抑制する試験物質の濃度(EC50) 、細胞毒性は、細胞障害を50%起こす試験物質の濃度(CC50) で表した。得られた結果を表2に示す。比較例として、現在抗HIV剤として使用されているAZT(アジドチミジン)を試験物質として用いて同様の評価を行い、結果を表2に示す。
【0023】
【表2】
JP0003689735B2_000003t.gif
【0024】
また、HIV特異的抗原を産生しているMT-4細胞の割合を間接蛍光抗体法により測定した結果を表3に示した。
【0025】
【表3】
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【0026】
表2、表3の結果から、本発明による硫酸化絹タンパク質には抗HIV活性があることがわかる。また、硫酸化絹タンパク質には、細胞毒性が観察されず、従来の抗HIV剤であるAZTに比べて極めて安全性の高い物質であることがわかる。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)等に対して高い抗ウイルス活性を有する抗ウイルス剤が提供される。本発明の抗ウイルス剤に有効成分として含まれる硫酸化絹タンパク質は、蚕または蚕繭由来の絹タンパク質から硫酸化処理という簡単な製造工程で製造でき、しかも生体親和性に優れ細胞毒性が低いので、本剤は経済的でかつ安全性が高い。