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明細書 :シナプス成熟障害モデル動物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4550530号 (P4550530)
公開番号 特開2006-067944 (P2006-067944A)
登録日 平成22年7月16日(2010.7.16)
発行日 平成22年9月22日(2010.9.22)
公開日 平成18年3月16日(2006.3.16)
発明の名称または考案の名称 シナプス成熟障害モデル動物
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI A01K 67/027 ZNA
C12N 15/00 A
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
請求項の数または発明の数 8
全頁数 14
出願番号 特願2004-257060 (P2004-257060)
出願日 平成16年9月3日(2004.9.3)
審査請求日 平成19年8月14日(2007.8.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】白尾 智明
【氏名】児島 伸彦
【氏名】山崎 博幸
【氏名】関野 祐子
【氏名】花村 健次
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
審査官 【審査官】水落 登希子
参考文献・文献 Mol.Brain Res.,1993年,Vol.19,p.101-114
J.Neurosci.,1999年,Vol.19, No.10,p.3918-3925
調査した分野 C12N 15/00ー15/90
A01K 67/027
G01N 33/15ー33/50
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)

特許請求の範囲 【請求項1】
ドレブリン遺伝子のエクソン11aが欠失した変異遺伝子を有する全能性細胞を個体発生して得られる非ヒト哺乳動物及びその子孫動物であって、体細胞染色体中に上記ドレブリン変異遺伝子を保有し、ドレブリンAを発現する機能を失ない、かつドレブリンAに代えてドレブリンEを発現する機能を有する非ヒト動物からなるシナプス成熟障害モデル動物。
【請求項2】
Cre-loxPを用いてドレブリン遺伝子のエクソン11aが欠失した変異遺伝子であることを特徴とする請求項1記載のシナプス成熟障害モデル動物。
【請求項3】
ドレブリン遺伝子のエクソン11aが欠失した変異遺伝子が、ドレブリン遺伝子のエクソン11aの全部とエクソン11bの一部が欠失した変異遺伝子であることを特徴とする請求項1又は2記載のシナプス成熟障害モデル動物。
【請求項4】
非ヒト動物がマウスであることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載のシナプス成熟障害モデル動物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか記載のシナプス成熟障害モデル動物に対し、出生前または出生後に被検物質を投与し、テタヌス刺激により誘導される海馬シナプス伝達の長期増強の改善の程度を評価するシナプス成熟障害の予防・治療剤のスクリーニング方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか記載のシナプス成熟障害モデル動物に対し、出生前または出生後にシナプス成熟障害の候補治療薬を投与し、テタヌス刺激により誘導される海馬シナプス伝達の長期増強の改善の程度を指標としてシナプス成熟障害治療薬を特定する試験方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか記載のシナプス成熟障害モデル動物に由来する神経細胞に被検物質を投与し、シナプス成熟障害の程度を評価するシナプス成熟障害の予防・治療剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか記載のシナプス成熟障害モデル動物に由来する神経細胞にシナプス成熟障害の候補治療薬を投与し、シナプス成熟障害の程度を指標としてシナプス成熟障害治療薬を特定する試験方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、シナプス成熟障害モデル動物や、該シナプス成熟障害モデル動物を用いたシナプス成熟障害の予防・治療剤のスクリーニング方法や、シナプス成熟障害治療薬を特定する試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、発生過程の神経細胞に多量発現するアクチン結合タンパクドレブリン(Drebrin)を世界に先駆けて発見し(例えば、非特許文献1及び2参照)、このドレブリンがアクチンファイバーの性状を変えることにより神経細胞の形態形成、特に突起形成に関わっていること(例えば、非特許文献3~5参照)や、発生中で移動している神経細胞では、細胞体と突起全体に存在するが、成熟した神経細胞では棘構造中に特異的に存在すること(例えば、非特許文献6~8参照)を既に証明している。ドレブリンには、胚性型(embryonic type)のドレブリンEと成体型(adult type)のドレブリンAという2つのアイソフォームが存在しており(例えば、非特許文献9参照)、成熟した神経細胞のスパインに特異的に見られるドレブリンAは、神経細胞にしか発現しないという特徴を有している(例えば、非特許文献10及び11参照)。ドレブリンAはalternative splicing機構によりドレブリンEに“ins2”と呼ばれる領域が加わった配列をしている。すなわち、5’側から956~1093baseにgtcgtccgtactgccctttcataaaggcatcggacagtgggccttcctcctcctcctcttcctcctcttcccctccacggactccctttccctatatcacctgccaccgcaccccaaacctctcttcctccctcccat(配列番号1)が挿入されて発現したものである(例えば、非特許文献12参照)。また、本発明者らは、ドレブリンAを初代培養神経細胞に発現させると自動的に樹状突起スパインに集まり、しかもその長さを長くすることを見い出した。この発見は、ある一つの蛋白合成量を変化させることによってスパインの形態を変化させることができることを発見した世界で最初の報告である(例えば、非特許文献13参照)。
【0003】

【非特許文献1】J. Neurochem. 44, 1210-1216, 1985
【非特許文献2】J. Biochem. 117, 231-236, 1995
【非特許文献3】J. Neurosci. Res. 38: 149-159, 1994
【非特許文献4】Exp. Cell Res. 215:145-153, 1994
【非特許文献5】J. Biol. Chem. 269:29928-29933, 1994
【非特許文献6】J. Neurosci. 15: 7161-7170, 1996
【非特許文献7】Dev. Brain Res. 29, 233-244, 1986
【非特許文献8】Brain Res. 413, 374-378, 1987
【非特許文献9】J. Biochem.117, 231-236, 1995
【非特許文献10】Dev. Brain Res. 29, 233-244, 1986
【非特許文献11】Brain Res. 413, 374-378, 1987
【非特許文献12】Mol. Brain Res. 19, 101-114, 1993、Neuroreport 3, 109-112, 1992
【非特許文献13】J. Neurosci. 19, 3918-3925, 1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹状突起スパインのアクチン結合蛋白ドレブリンAの減少は、シナプス機能に障害が生じることがわかっており、この技術を用いてシナプス機能障害治療薬の開発方法の可能性が考えられていた。しかし、従来の技術では、ドレブリンAの発現を減少させると、ドレブリン総量が減少してしまい、また、動物間での発現抑制が変動するので、多数の均一なドレブリンA発現抑制動物を作ることが困難であった。本発明の課題は、シナプスの成熟のみが障害され、その他のドレブリン関連機能が正常であるモデル動物や、このモデル動物を用いたシナプス成熟障害の候補治療薬のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究し、マウス由来のドレブリン遺伝子を単離し、ドレブリンA特異的エクソン11Aを挟むようにloxP配列を挿入したターゲティングベクターを作製し、ES細胞への相同組み換えを行い、組み換えES細胞を個体に導入し、ES細胞由来の体細胞を高割合で有するキメラ個体を親として、組み換え遺伝子を有する子孫F1を得て、この個体F1とCre遺伝子を発現するマウスとを交配させることによって2つのloxP配列に挟まれたドレブリンA特異的エクソン11Aを欠失させた個体を得た。この雌雄を掛け合わせることによって得たドレブリンAノックアウトマウスが、シナプスの成熟のみが障害されその他のドレブリン関連機能が正常であるモデル動物となることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、(1)ドレブリン遺伝子のエクソン11aが欠失した変異遺伝子を有する全能性細胞を個体発生して得られる非ヒト哺乳動物及びその子孫動物であって、体細胞染色体中に上記ドレブリン変異遺伝子を保有し、ドレブリンAを発現する機能を失ない、かつドレブリンAに代えてドレブリンEを発現する機能を有する非ヒト動物からなるシナプス成熟障害モデル動物や(2)Cre-loxPを用いてドレブリン遺伝子のエクソン11aが欠失した変異遺伝子であることを特徴とする上記(1)記載のシナプス成熟障害モデル動物や(3)ドレブリン遺伝子のエクソン11aが欠失した変異遺伝子が、ドレブリン遺伝子のエクソン11aの全部とエクソン11bの一部が欠失した変異遺伝子であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のシナプス成熟障害モデル動物や(4)非ヒト動物がマウスであることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか記載のシナプス成熟障害モデル動物に関する。
【0007】
また本発明は、(5)上記(1)~(4)のいずれか記載のシナプス成熟障害モデル動物に対し、出生前または出生後に被検物質を投与し、テタヌス刺激により誘導される海馬シナプス伝達の長期増強の改善の程度を評価するシナプス成熟障害の予防・治療剤のスクリーニング方法や(6)上記(1)~(4)のいずれか記載のシナプス成熟障害モデル動物に対し、出生前または出生後にシナプス成熟障害の候補治療薬を投与し、テタヌス刺激により誘導される海馬シナプス伝達の長期増強の改善の程度を指標としてシナプス成熟障害治療薬を特定する試験方法や(7)上記(1)~(4)のいずれか記載のシナプス成熟障害モデル動物に由来する神経細胞に被検物質を投与し、シナプス成熟障害の程度を評価するシナプス成熟障害の予防・治療剤のスクリーニング方法や(8)上記(1)~(4)のいずれか記載のシナプス成熟障害モデル動物に由来する神経細胞にシナプス成熟障害の候補治療薬を投与し、シナプス成熟障害の程度を指標としてシナプス成熟障害治療薬を特定する試験方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシナプス成熟障害モデル動物を用いると、シナプス成熟障害治療薬のスクリーニングや、シナプス成熟障害治療薬を特定する試験が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のシナプス成熟障害モデル動物としては、ドレブリン遺伝子のエクソン11aを含む領域が欠失した変異遺伝子(アイソフォーム変換不能型の変異を導入したドレブリン変異遺伝子)を有する全能性細胞を個体発生して得られる非ヒト哺乳動物及びその子孫動物であって、体細胞染色体中に上記ドレブリン変異遺伝子を保有し、ドレブリンAを発現する機能を失ない、かつドレブリンAに代えてドレブリンEを発現する機能を有する非ヒト動物であれば特に制限されず、上記非ヒト動物としては、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター等を挙げることができるが、マウス等の齧歯類動物を好適に例示することができる。また、上記アイソフォーム変換不能型とは、変異を導入した結果、ドレブリンAに変換することがないことを意味し、上記全能性細胞としては、ES(embryonic stem)細胞、EG(embryonic germ)細胞等を例示することができ、ES細胞はマウス、ラット、サル、ウサギで、また、EG細胞はブタで確立している。
【0010】
上記ドレブリン遺伝子のエクソン11a(ins2)を含む領域が欠失した変異遺伝子としては、非ヒト動物の内在性ドレブリンA遺伝子のエクソン11aの全部又は一部とエクソン11bの一部が破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化され、エクソン11aとエクソン11bが転写されないが、エクソン11cは不活化されていないことにより転写されることにより、ドレブリンAに代えてドレブリンEを発現するようになったドレブリン変異遺伝子であれば特に制限されないが、Cre-loxPを用いてドレブリン遺伝子のエクソン11aを含む領域が欠失した変異遺伝子であることが好ましく、中でもドレブリン遺伝子のエクソン11aの全部とエクソン11bの一部が欠失した変異遺伝子が特に好ましい。以下、非ヒト動物がマウスの場合を例にとって説明する。
【0011】
本発明のシナプス成熟障害モデルマウスは、配列番号1に示されるドレブリンA特異的挿入配列(ins2、エクソン11aに相当)をプローブとして、マウスの遺伝子ライブラリーをスクリーニングし、ドレブリンのコーディング領域を含む陽性クローンをいくつかの制限酵素で分断し、ドレブリンA特異的挿入配列(ins2)を含む断片を単離し、PCR等の方法によりエクソン11aの上流にloxPを、下流にfrtで挟んだneo耐性遺伝子、さらにこれより下流にもう一つのloxPを挿入し、5’末端側にジフテリアトキシンAフラグメント(DT-A)遺伝子や単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子等の遺伝子を導入してターゲティングベクターを構築するか、ドレブリンA遺伝子をスクリーニングし、スクリーニングされたドレブリンA遺伝子のエクソン11aの全部又は一部とエクソン11bの一部を相同組み換え等により、例えばネオマイシン耐性遺伝子等のマーカー遺伝子で置換し、5′末端側にジフテリアトキシンAフラグメント(DT-A)遺伝子や単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子等の遺伝子を導入してターゲティングベクターを構築し、この構築したターゲッティングベクターを線状化し、エレクトロポレーション(電気穿孔)法等によってES細胞に導入し、相同的組換えを行い、その相同的組換え体の中から、G418やガンシクロビア(GANC)等の抗生物質に抵抗性を示すES細胞を選択する。この選択されたES細胞が目的とする組換え体かどうかをサザンブロット法等により確認することが好ましい。
【0012】
上記組換えES細胞をマウスの胚盤胞中にマイクロインジェクションし、かかる胚盤胞を仮親のマウスに戻し、キメラマウスを作製する。このキメラマウスを野生型のマウスと交配させると、ヘテロ接合体マウスを得ることができ、また、このヘテロ接合体マウスを交配させることによって、ドレブリンノックアウトマウスを得ることができる。そして、かかるドレブリンノックアウトマウスにおけるドレブリン遺伝子 が染色体上で欠損していることを確認する方法としては、例えば、マウス尾部からゲノムDNAを単離してサザンブロット法等により調べる方法や、このマウスから抽出したタンパク質をイムノブロット分析等により調べる方法等を挙げることができる。
【0013】
例えば、ドレブリン遺伝子のエクソン11aを含む領域を欠失させるため、Cre-loxPシステムを採用すると、脳内部特異的に変異を持ち込むことが可能となり、シナプスの成熟障害(シナプスの脆弱性)を惹起させうることから、Cre-loxPを用いることによりドレブリン遺伝子のエクソン11aを含む領域が欠失するように構築された変異遺伝子は、種々のヒト精神疾患のモデルとなる。上記バクテリオファージP1由来のCre-loxPシステムに代えて、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来のFLP-FRTシステム、醤油酵母(Zygosaccharomyces rouxii)由来のR-RSシステム、バクテリオファージMu由来のGin-gixシステムも使用することができる。
【0014】
本発明のシナプス成熟障害モデル動物は、シナプス成熟障害発症のメカニズムの解析に有用であり、本発明のシナプス成熟障害モデル動物を用いると、シナプス成熟障害治療薬のスクリーニングや、シナプス成熟障害治療薬を特定する試験が可能となる。すなわち、かかるシナプス成熟障害モデル動物を用いると、精神分裂病、精神分裂病的挙動、うつ病、老人性脳機能低下、アルツハイマー病、パーキンソン病等のシナプス成熟障害の予防・治療剤のスクリーニングや、これらシナプス成熟障害治療薬を特定する試験を行うことができる。
【0015】
本発明のシナプス成熟障害の予防・治療剤のスクリーニング方法としては、本発明のシナプス成熟障害モデル動物に対し、出生前または出生後に被検物質を投与し、行動の変化の程度、及び/又は、テタヌス刺激により誘導される海馬シナプス伝達の長期増強の改善の程度を評価する方法や、本発明のシナプス成熟障害モデル動物に由来する神経細胞に被検物質を投与し、シナプス成熟障害の程度を評価する方法であれば特に制限されず、また、本発明のシナプス成熟障害治療薬を特定する試験方法としては、本発明のシナプス成熟障害モデル動物に対し、出生前または出生後にシナプス成熟障害の候補治療薬を投与し、行動の変化の程度、及び/又は、テタヌス刺激により誘導される海馬シナプス伝達の長期増強の改善の程度を指標とする方法や、本発明のシナプス成熟障害モデル動物に由来する神経細胞にシナプス成熟障害の候補治療薬を投与し、シナプス成熟障害の程度を評価する方法であればどのような方法でもよく、行動の変化の程度や海馬シナプス伝達の長期増強の改善の程度、及びシナプス成熟障害の程度の評価は、対照となる野生型、特に同腹の野生型と比較することが好ましい。上記被検物質やシナプス成熟障害の候補治療薬としては、抗精神薬、神経興奮薬、麻酔薬など、神経細胞の興奮を変化させる薬を好適に例示することができる。また、行動の変化としては、学習や記憶を調べる実験、反射的行動を取り入れた実験を具体的に挙げることができ、テタヌス刺激としては、条件刺激と無条件刺激の組合せ刺激を挙げることができ、海馬シナプス伝達の長期増強の改善の程度としては、コンテクスト依存性の恐怖反応(すくみ反応、フリージング)の程度を挙げることができる。
【0016】
上記本発明のシナプス成熟障害の予防・治療剤のスクリーニング方法により得られる予防・治療剤を医薬品として用いる場合、経口的あるいは非経口的に投与することができるが、静脈投与等の非経口的投与が好ましい。非経口投与剤として注射剤、経皮製剤あるいは座薬等とすることができる。また、経口投与剤としては散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤などの固形製剤あるいはシロップ剤、エリキシル剤などの液状製剤とすることができる。これらの製剤は活性成分に薬理学的、製剤学的に認容される助剤を加えることにより常法に従って製造することができる。助剤としては、例えば、経口剤および粘膜投与剤にあっては、軽質無水ケイ酸、澱粉、乳糖、結晶セルロース、乳糖カルシウム等の賦形剤、カルボキシメチルセルロ-ス等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシム等の滑沢剤などの製剤用成分が、また注射剤にあっては、生理食塩水、マンニトール、プロピレングリコ-ル等の溶解剤ないし溶解補助剤、界面活性剤などの懸濁化剤などの製剤用成分が、さらに外用剤にあっては、水性ないし油性の溶解剤ないし溶解補助剤、粘着剤などの製剤用成分が使用される。また、投与量は、対象疾患の種類、患者の年齢、性別、体重、症状、投与形態に応じて適宜決定することができる。
【0017】
以下、実施例により本発明のノックアウトマウスの作製方法をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
(ドレブリン遺伝子の単離)
ラットドレブリンcDNAのA型特異的挿入配列(ins2)をプローブとして、B6JマウスBACライブラリー(RPCI-23)(アメリカ合衆国Children’s Hospital Oakland Research Institute BAC/PAC Resources)をスクリーニングし、ドレブリンのコーディング領域を含む陽性クローンを得た。
【実施例2】
【0019】
(ターゲティングベクターの構築)
陽性クローン(全長約200kbp)をいくつかの制限酵素で分断し、A型特異的挿入配列(ins2、エクソン11aに相当)を含む断片 HK(13.5kb)(図1;drebrin gene HK 13.5Kb 参照)を単離した。PCRの方法を使ってエクソン11aの216塩基上流にloxPを、154塩基下流にfrtで挟んだneo耐性遺伝子(pKG-neo)、さらにこれより67塩基下流にもう一つのloxPを挿入した。これにより、ドレブリンA特異的エクソン11aはfrtで挟まれたneo遺伝子とともに2つのloxPで挟まれた形(…〈エクソン10〉…〈loxP〉…〈エクソン11a〉…〈frt・neo・frt〉…〈loxP〉…〈エクソン11c〉…)となる(図1;targeting vector 参照)。また、ターゲティングベクター5’端となるBサイトに後の組み換え体のネガティヴ選別のためにジフテリア毒素A遺伝子を挿入した。図1には、ターゲティングベクター構築の概略が示されている。
【実施例3】
【0020】
(ES細胞への相同組み換え)
実施例2で構築したターゲティングベクターを直鎖状として、C57BL/6Jマウスで樹立したES細胞(MS12)にエレクトロポレーション(電気穿孔法)により導入し、G418存在下で生存、増殖するESクローンを単離した。単離したESクローンのうちターゲティングベクターが相同組み換えされたものをサザンブロットで選別した(図2参照)。すなわち、ES細胞のゲノムDNAをKpnIで消化しアガロースゲル電気泳動後ナイロン膜に転写し、RI標識したドレブリン遺伝子SacI-EcoRI断片あるいはエクソン11Aをプローブとしてハイブリッド形成させ、オートラジオグラムにより陽性バンドを検出した。野生型では、いずれのプローブによっても約5.8kbのバンドのみ検出されるが、相同組み換えを起こしたものでは野生型のバンドの他に約7.9kbのバンドも検出される。
【実施例4】
【0021】
(組み換えES細胞の個体への導入及びFloxマウスの作製)
組み換えES細胞をICR由来の桑実胚へマイクロインジェクションし、これを偽妊娠の仮親子宮内に移植した。ES細胞由来の体細胞を高割合で有するキメラ個体を親として、組み換え遺伝子を有する子孫F1を得た。また、組み換え遺伝子を有する個体F1と、C57BL/6とを掛け合わせて得た受精卵に組み換え酵素flippaseの発現ベクターをマイクロインジェクションし、それを仮親に移植し組み換えfrtで挟まれたneo遺伝子を欠失した個体を得た。この個体では組み換えES細胞クローンの選別に用いたneo遺伝子を欠失している(…〈エクソン10〉…〈loxP〉…〈エクソン11a〉…〈frt〉…〈loxP〉…〈エクソン11c〉…)が、2つのloxPがドレブリンA特異的なエクソン11a(ins2)を挟む形で挿入されている。このFloxマウスでは細胞種、発生時期や薬物誘導などにより時期限定して組み換え酵素Creを発現するマウスとの掛け合わせにより、loxPで挟まれた領域(ins2を含む)を条件性(conditional)に欠失させることが可能となる。
【実施例5】
【0022】
(Cre-loxPを使った遺伝子組み換えによるドレブリンAノックアウトマウスの作製)
組み換え遺伝子を有する個体F1を片親とし、発生初期から全細胞で組み換え酵素Creを発現しているトランスジェニックマウス(E2A-Cre)をもう一方の片親とし、これらを掛け合わせることで、2つのloxPで挟まれた領域(ins2とneo遺伝子を含む)を欠失したマウスのヘテロ個体を得た。この結果生じた2つのloxP配列にはさまれたドレブリンA特異的エクソン11Aを欠失させたヘテロマウスの雌雄を掛け合わせることによってドレブリンA特異的ノックアウトマウスを得た。ノックアウトのホモ個体は尾のDNAを使ったgenotyping(PCRによる)によって同定した。すなわち、エクソン11A周辺のプライマーを使うことにより野生型(WT:1,171bp)、ノックアウトヘテロ(802bpと1,171bp)、ノックアウトホモ(KO:802bp)を判別した。このドレブリンA特異的ノックアウトマウスではドレブリンAアイソフォームだけが欠失し、ドレブリンAの代わりにドレブリンEが発現されることから、ドレブリンEアイソフォームは残っている(…〈エクソン10〉…〈loxP〉…〈エクソン11c〉…)。
【実施例6】
【0023】
(ドレブリンの発現)
(1)ウェスタンブロット分析1
生後5~6週齢のドレブリンAノックアウトマウス(ホモ)と生後11週齢の野生型マウスとをエーテルで麻酔後、頚椎を脱臼させ、大脳皮質を取り出し、それぞれ100μg(湿重量)を用いてウェスタンブロット分析を行った。結果を図3に示す。図3において、1,3,5レーンは野生型マウス、2,4,6レーンはドレブリンAノックアウトマウスであり、1,2レーンにはドレブリンA及びドレブリンEのC末端を共に認識するM2F6モノクローナル抗体を用い、2,4レーンにはシナプスタンパク質であるPSD95を認識する抗PSD95抗体を用い、5,6レーンにはドレブリンA及びドレブリンEのN末端を共に認識する抗ドレブリンADF-Hドメイン血清を用いた。図3の1レーンのバンドはドレブリンAを示し(本来大脳皮質においてはドレブリンAのみが発現する)、2レーンは(ドレブリンAより分子量が小さい)ドレブリンEを示しており、ノックアウトマウスではドレブリンAを発現することはないが新たにドレブリンEを発現していることがわかる。また、図3の3レーンのバンドに比べて4レーンのバンドは薄く、ノックアウトマウスではシナプス異常が生じていることが示唆されている。図3の5レーンのバンドはドレブリンAを示し、6レーンは(ドレブリンAより分子量が小さい)ドレブリンEを示しており、本ノックアウトマウスではドレブリンのN末端部を有するドレブリン分解物ではなく、ドレブリンAの代わりに完全長のドレブリンEが発現していることがわかる。
【0024】
(2)ウェスタンブロット分析2
上記ウェスタンブロット分析1で用いたドレブリンAノックアウトマウス(KO(-/-))と野生型マウス(WT(WT / WT))の大脳皮質のホモジェネートを8%ゲルで泳動して、ウェスタンブロット分析を行った。1次抗体としては、ドレブリンAを特異的に認識するDAS2抗血清(×10000)を用い、2次抗体としてはHRP α mouse(×10000)を用いた。結果を図4に示す。図4から、ドレブリンAノックアウトマウス(ホモ)は、野生型マウスが発現するドレブリンAを発現していないことがわかる。
【0025】
(3)ウェスタンブロット分析3
生後10週齢のドレブリンAノックアウトマウスと同腹の野生型マウス(KO(WT / WT))をエーテルで麻酔後、頚椎を脱臼させ、脳を取り出し、大脳、小脳、海馬を分離し、各々について50×量のサンプルバッファーでホモゲナイズし、各5μLを用いてウェスタンブロット分析を行った。1次抗体としては、ドレブリンのC末端エピトープを認識するM2F6モノクローナル抗体(×10000)を用い、2次抗体としてはHRP α mouse(×10000)を用いた。KO(WT / WT)と同様に、ノックアウトヘテロ(KO(WT/-))や、ドレブリンAトランスジェニックマウス(No43+)や、(No43+)と同腹の野生型マウス(No43-)についても、ウェスタンブロット分析を行った。なおウェスタンブロットにおける陽性対照としてベーターアクチン(×10000)を用いた。結果を図4に示す。図5において、左のレーンからKO(-/-)、KO(WT/-)、No43+、No43-を示す。大脳や海馬では本来ドレブリンAのみが発現し、小脳ではドレブリンEが発現する。図5の大脳や海馬におけるKO(WT / WT)、(No43+)及び(No43-)のバンドはドレブリンAを示し、KO(WT/-)の上下近接した2つのバンドはドレブリンAと(ドレブリンAより分子量が小さい)ドレブリンEを示しており、ドレブリンAとドレブリンEが共に発現していることがわかる。図5の小脳におけるバンドは(小脳において本来発現する)すべてドレブリンEを示している。
【0026】
(4)まとめ
図3~5に示される結果から、ドレブリンAノックアウトマウス(ホモ)は、ドレブリンAを発現しない(図4)が、本来ドレブリンAが主に発現する大脳皮質や海馬においては、ドレブリンAに代わってドレブリンEが発現し、ドレブリンとしての発現総量は、野生型マウスのドレブリン発現総量に匹敵していることから、ドレブリンA欠損に起因するシナプスの成熟のみが障害され、その他のドレブリン関連機能が正常であることが示唆された。
【実施例7】
【0027】
(ドレブリンA特異的欠失によるコンテクスト依存性恐怖条件づけの障害)
(1)方法
ドレブリンA特異的ノックアウトマウス(KO、n=9)およびその同腹の野生型マウス(WT、n=10)をショック箱に入れ1分後に条件刺激(70dBの10kHzトーンを10秒間)と無条件刺激(0.5mAの床からの電撃ショック、1秒間)の組合せ刺激(トーンの開始から9秒後にショック)を20秒間隔で2回提示し、その後1分後にホームケージに戻した。条件づけの1日後にマウスを再びショック箱に入れ、コンテクスト依存性の恐怖反応(すくみ反応、フリージング)を調べた。
【0028】
(2)結果
WTは1日前にショックを受けた箱に入れられると直ちに強いフリージングを起こした(コンテクスト依存性の恐怖反応、2分間の計測の平均71.5±4.9%)。一方KOではフリージングのレベルはWTに比べ有意に低かった(2分間の計測の平均44.3±11.7%、p<0.05)。生得的な情動を調べる行動テストではKOとWTに大きな違いはなかった。したがってドレブリンAアイソフォームの欠失は基本的な行動には影響しないが、少なくともある種の学習を障害する。学習記憶はそれに関連する神経回路上の機能的、構造的変化が必要であると考えられており、樹状突起スパインにおけるドレブリンAがその機序の鍵となる分子であることが示唆される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のドレブリンAノックアウトマウス作製に用いられるターゲティングベクターの構築の概略を示す図である。
【図2】本発明のドレブリンAノックアウトマウス(KO(-/-))の構築に用いられるターゲティングベクターのサザンブロットの結果を示す図である。
【図3】本発明のドレブリンAノックアウトマウス(KO(-/-))と野生型マウス(WT(WT / WT))の大脳皮質におけるドレブリンの発現結果やシナプスタンパク質PSD95の発現結果を示す図である。
【図4】本発明のドレブリンAノックアウトマウス(KO(-/-))と野生型マウス(WT(WT / WT))の大脳皮質におけるドレブリンAの発現結果を示す図である。
【図5】本発明のドレブリンAノックアウトマウスと同腹の野生型マウス(KO(WT / WT))、ノックアウトヘテロ(KO(WT/-))や、ドレブリンAトランスジェニックマウス(No43+)や、(No43+)と同腹の野生型マウス(No43-)の脳(大脳、小脳、海馬)におけるドレブリンAの発現結果を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
3
【図5】
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