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明細書 :貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法及び貴金属系触媒担持炭素化物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4423420号 (P4423420)
公開番号 特開2006-075709 (P2006-075709A)
登録日 平成21年12月18日(2009.12.18)
発行日 平成22年3月3日(2010.3.3)
公開日 平成18年3月23日(2006.3.23)
発明の名称または考案の名称 貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法及び貴金属系触媒担持炭素化物
国際特許分類 B01J  23/42        (2006.01)
B01J  32/00        (2006.01)
B01J  37/02        (2006.01)
B01J  37/08        (2006.01)
H01M   4/88        (2006.01)
FI B01J 23/42 M
B01J 32/00
B01J 37/02 101A
B01J 37/02 301P
B01J 37/08
H01M 4/88 K
請求項の数または発明の数 16
全頁数 13
出願番号 特願2004-261784 (P2004-261784)
出願日 平成16年9月9日(2004.9.9)
審査請求日 平成19年4月16日(2007.4.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
発明者または考案者 【氏名】出来 成人
【氏名】水畑 穣
個別代理人の代理人 【識別番号】100089196、【弁理士】、【氏名又は名称】梶 良之
【識別番号】100104226、【弁理士】、【氏名又は名称】須原 誠
審査官 【審査官】廣野 知子
参考文献・文献 特開平09-248464(JP,A)
特開2002-170574(JP,A)
特開2002-095969(JP,A)
調査した分野 B01J 21/00-38/74
特許請求の範囲 【請求項1】
ニトリル基を有する高分子、アミノ基を有する高分子、ピリジン環を含む高分子、アミド結合を有する高分子又はポリイミド系高分子を180~300℃で加熱処理する工程と、
加熱処理した前記高分子を貴金属錯体の水溶液中に浸漬して、その表面に貴金属イオンを吸着させ、貴金属系触媒を析出させる工程と、
表面に貴金属系触媒が析出された前記高分子を洗浄・乾燥する工程と、
洗浄・乾燥された前記高分子を、不活性ガス雰囲気下、400~800℃で加熱処理して、貴金属系触媒を前記高分子内部に分散させるとともに前記高分子を炭素化させる工程とを含む貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法。
【請求項2】
前記貴金属系触媒を析出させる工程において、前記貴金属錯体に加えて遷移金属錯体をさらに用いる請求項1記載の貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法。
【請求項3】
前記貴金属錯体が、白金錯体、パラジウム錯体、ロジウム錯体、ルテニウム錯体、イリジウム錯体及びレニウム錯体のうちから選択されるものである請求項1に記載の貴金属触媒担持炭素化物の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属錯体が、塩化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化クロム及び塩化マンガンのうちから選択されるものである請求項2記載の貴金属触媒担持炭素化物の製造方法。
【請求項5】
ニトリル基を有する高分子、アミノ基を有する高分子、ピリジン環を含む高分子、アミド結合を有する高分子又はポリイミド系高分子を180~300℃で加熱処理する工程と、
加熱処理した前記高分子の表面に蒸着又はスパッタリングによって貴金属又は貴金属イオンを吸着させ、貴金属系触媒を析出させる工程と、
貴金属系触媒が表面に析出した前記高分子を、不活性ガス雰囲気下、400~800℃で加熱処理して、貴金属系触媒を前記高分子内部に分散させるとともに前記高分子を炭素化させる工程とを含む貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法。
【請求項6】
前記貴金属系触媒を析出させる工程において、前記貴金属又は貴金属イオンに加えて遷移金属をさらに用いる請求項5記載の貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法。
【請求項7】
前記貴金属又は貴金属イオンが、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム及びレニウムから選択されるものである請求項5記載の貴金属触媒担持炭素化物の製造方法。
【請求項8】
前記遷移金属が、鉄、コバルト、ニッケル、クロム及びマンガンのうちから選択されるものである請求項6記載の貴金属触媒担持炭素化物の製造方法。
【請求項9】
前記貴金属系触媒が、貴金属触媒又は貴金属同士の合金触媒である請求項1又は5に記載の貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法。
【請求項10】
前記貴金属系触媒が、貴金属と遷移金属との合金触媒である請求項2又は6に記載の貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法。
【請求項11】
前記貴金属触媒が、白金触媒、ロジウム触媒、ルテニウム触媒、イリジウム触媒、パラジウム触媒及びレニウム触媒のうちから選択されるものである請求項9記載の貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法。
【請求項12】
貴金属と遷移金属との前記合金触媒が、金-鉄触媒、白金-鉄触媒、白金-クロム触媒、白金-マンガン触媒、白金-コバルト触媒及び白金-ニッケル触媒のうちから選択されるものである請求項10記載の貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法。
【請求項13】
前記ニトリル基を有する高分子が、ポリアクリロニトリルである請求項1又は5に記載の貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法。
【請求項14】
前記アミノ基を有する高分子が、ポリエチレンオキサイドである請求項1又は5に記載の貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法。
【請求項15】
前記ピリジン環を含む高分子が、ポリビニルピロリドンである請求項1又は5に記載の貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれかに記載の製造方法により製造された貴金属系触媒担持炭素化物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属系触媒が内部に均一に分散してなる貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズの金属微粒子は高い表面活性や量子サイズ効果を示すなど、バルク材料とは異なる興味深い性質を有することから、基礎物性あるいは応用展開を目指した幅広い研究分野において注目を集めている。しかしながら、金属微粒子は高い表面エネルギを有するために単体での取り扱いは困難であり、金属微粒子表面の安定化並びに機能性の向上を目的とした各種マトリクスヘの担持あるいは分散など、複合化の手法の確立が不可欠である。その中でもマトリクスとして炭素薄膜を用いた複合材料は触媒、電気電子材料及び磁性材料などへの応用が期待されており、特に金属微粒子にPtを用いた複合材料は、燃料電池の電極用材料への応用が期待されている。
【0003】
この炭素薄膜は、高い電気伝導度特性、光学的異方性といった様々な興味深い物理的性質を示し、また化学的安定性といった見地からも工業的に最も重要な材料のひとつである。さらに、薄膜を構成する炭素ネットワークの微細構造により炭素薄膜自体の物性値が大きく変化する点も特筆すべき特徴である。このような特異性質は、6つの電子を持つ炭素原子の電子構造の特異性に由来する。また、炭素は2s22軌道の価電子がspn混成軌道(n=1,2,3)を形成するため、作製条件によって様々な軌道により構成される微細構造の炭素薄膜が得られる。さらに、アモルファス状炭素の結晶化過程において、発達する軌道(sp2あるいはsp3)の種類によっては、得られる薄膜の電気伝導度などの性質は大きく異なることが知られている。
【0004】
炭素薄膜及びその作製方法としては、例えば、下記特許文献1に開示されているナノ金属微粒子含有炭素薄膜電極やいわゆる同時スパッタ法が挙げられる。この特許文献1のナノ金属微粒子含有炭素薄膜電極は、少なくとも一部が測定対象となる溶液に接触されて該溶液の電気化学反応により生じる電気的変化を検出する電気化学測定用のものであって、ナノメータのサイズのナノ金属微粒子が均一に分散したアモルファスのものである。この炭素薄膜電極の製造方法は、スパッタリング装置において、カーボンターゲットとメタルターゲットとを用いて、同時に炭素と金属とをスパッタして絶縁性基板上に炭素薄膜電極を形成するものである。

【特許文献1】特開2003-121407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の方法では、金属炭化物などの副生成物の形成を避けることは困難であり、また、炭素薄膜を構成する炭素ネットワークの微細構造制御に制限がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、金属炭化物などの副生成物を形成させることなく、炭素ネットワークの微細構造の制御を行うことができる貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法と、この製造方法により作製された貴金属系触媒担持炭素化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法は、ニトリル基を有する高分子、アミノ基を有する高分子、ピリジン環を含む高分子、アミド結合を有する高分子又はポリイミド系高分子を180~300℃、好ましくは200~230℃で加熱処理する工程と、加熱処理した前記高分子を貴金属錯体の水溶液中に浸漬して、その表面に貴金属イオンを吸着させ、貴金属系触媒を析出させる工程と、表面に貴金属系触媒が析出された前記高分子を洗浄・乾燥する工程と、洗浄・乾燥された前記高分子を、不活性ガス雰囲気下、400~800℃で加熱処理して、貴金属系触媒を前記高分子内部に分散させるとともに前記高分子を炭素化させる工程とを含むものである。
また、本発明の貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法は、ニトリル基を有する高分子、アミノ基を有する高分子、ピリジン環を含む高分子、アミド結合を有する高分子又はポリイミド系高分子を180~300℃、好ましくは200~230℃で加熱処理する工程と、加熱処理した前記高分子の表面に蒸着又はスパッタリングによって貴金属又は貴金属イオンを吸着させ、貴金属系触媒を析出させる工程と、貴金属系触媒が表面に析出した前記高分子を、不活性ガス雰囲気下、400~800℃で加熱処理して、貴金属系触媒を前記高分子内部に分散させるとともに前記高分子を炭素化させる工程とを含む方法であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高分子が分解する途上で、金属が還元・微粒化されるため、金属微粒子が高分子中において分散しやすくなるので、金属炭化物などの副生成物を形成させることなく、炭素ネットワークの微細構造の制御がなされた貴金属系触媒担持炭素化物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る貴金属系触媒担持炭素化物の製造方法は、ニトリル基を有する高分子、アミノ基を有する高分子、ピリジン環を含む高分子、アミド結合を有する高分子又はポリイミド系高分子を180~300℃で加熱処理する第1工程と、加熱処理した高分子を貴金属錯体の水溶液中に浸漬して、その表面に貴金属イオンを吸着させ、貴金属系触媒を析出させる第2工程と、表面に貴金属系触媒が析出された高分子を洗浄・乾燥する第3工程と、洗浄・乾燥された高分子を400~800℃で加熱処理して貴金属系触媒を高分子内部に分散させるとともに、高分子を炭素化させる第4工程とを含むものである。以下、具体的に各工程を説明する。
【0010】
第1工程は、空気雰囲気下で高分子を180~230℃、3~5時間の条件で加熱処理し、高分子を安定化させるものである。なお、本発明で用いられる、ニトリル基を有する高分子としてはポリアクリロニトリル(以下、PAN)、アミノ基を有する高分子としてはポリエチレンオキサイド、ピリジン環を含む高分子としては、ポリビニルピロリドンがそれぞれ挙げられるが、これらに限られない。アミド結合を有する高分子としては、ポリアミド6やポリアミド66等が挙げられるが、これらに限られない。ポリイミド系高分子としては芳香族ポリイミドやポリイミドシロキサン等が挙げられるが、これらに限られない。
【0011】
第2工程は、第1工程で安定化させた高分子を、貴金属錯体のみ、又は、貴金属錯体及び遷移金属錯体を含む水溶液中に浸漬し、表面に、貴金属イオンのみ、又は、貴金属イオン及び遷移金属イオンを吸着させて、貴金属系触媒を析出させるものである。
【0012】
なお、貴金属錯体の例としては、塩化白金酸(H2PtCl6)、ヘキサアンミン白金塩化物([Pt(NH36Cl4])、ジニトロジアンミン白金(Pt(NO22(NH32)などの白金錯体、塩化パラジウム(PdCl2、H2PdCl4)、テトラアンミンパラジウム塩化物(Pd(NH34Cl2)などのパラジウム錯体、塩化ロジウム(RhCl3)などのロジウム錯体、塩化ルテニウム(RuCl3)などのルテニウム錯体、ヘキサクロロイリジウム酸(H2IrCl6)などのイリジウム錯体、及び塩化金酸(HAlCl4)などの金錯体を挙げることができる。なお、貴金属錯体は、上記の例に限定されるものではない。
【0013】
また、遷移金属錯体の例としては、塩化鉄(FeCl3)、塩化ニッケル(NiCl2)、塩化クロム(CrCl3)、塩化コバルト(CoCl2)、塩化マンガン(MnCl2)などを挙げることができる。なお、遷移金属錯体は、上記の例に限定されるものではない。
【0014】
また、析出する貴金属系触媒としては、貴金属触媒、貴金属と遷移金属との合金触媒、又は貴金属同士の合金触媒などを使用することができる。なお、本願明細書中の貴金属系触媒とは、貴金属単独の触媒に限定されるものではなく、貴金属と他の金属との合金触媒、又は貴金属同士の合金触媒を含むものをいう。
【0015】
なお、貴金属触媒としては、白金触媒、ロジウム触媒、ルテニウム触媒、イリジウム触媒、パラジウム触媒、レニウム触媒などを挙げることができる。
貴金属と他の金属との合金触媒の例としては、金-鉄触媒、白金-鉄触媒、白金-クロム触媒、白金-マンガン触媒、白金-コバルト触媒、白金-ニッケル触媒などが挙げられる。
【0016】
次の第3工程では、第2工程で高分子に付着した余分な水溶液を純水で洗浄し、高分子を真空乾燥させる。その後、第4工程では、アルゴン(Ar)ガス雰囲気下で400~800℃で10分間程度加熱処理を行うものである。
【0017】
上記構成により、高分子が分解する途上で、金属が還元・微粒化されるため、金属微粒子が高分子中において分散しやすくなるので、金属炭化物などの副生成物を形成させることなく、炭素ネットワークの微細構造の制御がなされた貴金属系触媒担持炭素化物を提供できる。
【0018】
なお、上記第2、第3工程の代わりに、加熱処理した前記高分子の表面に蒸着又はスパッタリングによって貴金属又は貴金属イオンを吸着させ、貴金属系触媒を析出させる工程を行うこととする製造方法によって、貴金属系触媒担持炭素化物を製造してもよい。
【実施例】
【0019】
(試料の作製)
脱脂洗浄済みのスライドガラス、シリコンウエハー及び金を蒸着したシリコンウエハーを基板として用いた。金の蒸着は室温下にて真空蒸着装置(ULVAC(株)製VPC260-F)を用い、1.3×10-3Paの減圧下において100nm蒸着した。PAN(Scientific Po1ymer Products,inc 製)は抵抗加熱式のモリブデン(Mo)ボートを用い、2.7×10-3Paの減圧下において各基板上にそれぞれ100nm蒸着した。蒸着量および蒸着速度(金;0.2オングストローム/sec,PAN;1.5オングストローム/sec)は、QCM(Quartz crystal Microbalance)を用いて制御した。
次に、蒸着PANを空気雰囲気下において、230℃、3時間の加熱処理を施した後、40℃に保持した恒温槽内において、5mMの[Pt(NH3)6Cl4]水溶液中に10時間浸漬させ、Ptイオンを吸着させた。この蒸着PANを3つ作製し、これらを洗浄・真空乾燥させた後に、Ar雰囲気下にて400、600、800℃の各温度において、それぞれ1つずつ10分間の加熱処理を施した。
このようにして作製した試料につき、下記のようにして評価を行った。
【0020】
(透過型電子顕微鏡(TEM)観察)
得られた複合薄膜中及び表面に存在する微粒子の形態、平均粒径および分散状態を調べるために、透過型電子顕微鏡(目立製作所製 TEM H-7500M 及び 日本電子(株)製JEM-2010)を用いて形状観察を行った。平面観察用試料はカーボンコーター(盟和商事(株)製 CC-40F カーボン・コーター)を用いて作製したカーボン蒸着膜で補強した電子顕微鏡用銅メッシュグリッド(応研商事(株)製)上に、フッ酸蒸気ではがしたガラス及びシリコンウエハー基板上の試料薄膜を移すことにより作製した。断面観察用試料は、ガラス及びシリコンウエハー基枝上の薄膜をフッ酸蒸気ではがした後、エポキシ樹脂(Struers(株)製)上にアルミニウムを蒸着したものですくい取り乾燥させた。その後エポキシ樹脂により固定した断面用試料をウルトラミクロトーム(LEICA製)を用いて60mmの超薄切片にした。この切片をカーボン蒸着したメッシュグリッドですくい取り、乾燥させることにより作製した。
【0021】
(X線光電子分光(XPS)測定)
試料中のPtの存在状態を調べるため、X線光電子分光装置(島津製作所(株)製 ESCA-3400)を用いて測定を行った。測定は以下の条件で行い、試料深さ方向でのPtの光電子強度分布はAr+ガスによる表面のエッチングを併用して測定した。
エッチングビーム :Ar+ X線 :MgKα
Ar+加速電圧 :2kV X線加速電圧 :10kV
イオン電流 :20mA フィラメント電流:20mA
Ar+ガス圧 :5×10-4Pa 真空度 :2×10-5Pa
【0022】
(赤外吸収スペクトル測定)
試料の赤外吸収スペクトルの測定には、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光工業(株)製 FT/IR-615)を用いた。基板にはシリコンウエハーにAuを100nm蒸着したものを用い、高感度反射吸収(RAS)用アタッチメント(日本分光工業(株)製 PR-510)を用いて測定を行った。入射角は73°、偏向角0°、分解能2cm-1、積算回数500回の条件で、MCT検出器を用いて行った。
【0023】
(ラマンスペクトル測定)
試料のラマンスペクトル測定には、堀場製作所製モノクロ分光器ラノマールT64000Xにて行った。励起光源には波長532.2nmのNd:YVO4を使用し、測定は薄膜ホルダーに試料を固定し、室温にて行った。
【0024】
次に、各観察及び測定の結果について説明する。
(Pt微粒子の形態及び分散状態)
図1(a)~(c)に、230℃、3時間の加熱処理を施したPAN薄膜を[Pt(NH36Cl4]水溶液に浸漬後、400℃、600℃及び800℃の各温度にて加熱処理を施した試料の平面TEM写真を順に示す。この観察より、いずれの試料においても微粒子は互いに凝集せず分散した状態で存在していることが明らかとなった。また、各試料の平均粒径及び標準偏差の値を下記表1に示した。Pt微粒子の平均粒径は加熱温度の上昇に伴って増加する傾向を示したが、800℃での加熱処理を施した試料においても4nm以下であった。
【0025】
【表1】
JP0004423420B2_000002t.gif

【0026】
本結果において観測されたPt微粒子の加熱処理に対する安定性は、マトリクスとして用いているPANの構造の特異性に起因するものと考えられる。金属微粒子のマトリクス内部における拡散及び安定化の機構は、金属とマトリクスとの相互作用の強弱により、2つの機構に分けられると考えられている。相互作用が強い場合、マトリクス表面及び内部にある金属超微粒子はマトリクス分子が金属表面に強く吸着しているため、加熱時にマトリクス内で粒子同士が衝突しても、マトリクス分子の吸着による保護効果のため粒子の凝集は抑制される。PANには側鎖のニトリル基にN原子が含まれており、Pt微粒子表面と強く相互作用していることが考えられる。このことは、加熱処理に伴う微粒子の顕著な凝集体が形成せず、マトリクス内部で安定化されているという結果を支持している。
【0027】
また、600℃にて加熱処理を施した試料の断面TEM写真(図2(a))及び高分解能TEM写真(図2(b))を示す。図2(a)の断面観察よりPt微粒子がマトリクスの最深部まで均一に分散していることが明らかとなった。また、図2(b)の高分解能TEM写真より結晶格子が観察され、この格子間隔がPtの(111)面(2.26オングストローム)に一致したことから、この微粒子がPtであることが確認された。
【0028】
なお、末端基に-NH2基を有するポリエチレンオキサイド(PEO)、あるいは側鎖にピリジン環を含むポリビニルピロリドン(PVP)が金属微粒子の安定化に対して有効であり、いずれの場合も分子鎖に含まれている窒素原子が金属表面との強い相互作用に関与していることがわかっている。このため、これらの高分子も本発明に適用可能である。
【0029】
図3に、Ptイオン吸着後、600℃にて加熱処理を施した試料のPtについてのXPSスペクトルのグラフを示す。金属状態のPtの4f軌道から放出された光電子の運動エネルギから算出された結合エネルギに帰属される91.1eV付近のピークが現れていることがわかる。このことからPANマトリクスに吸着させたPtイオンが加熱処理を施すことにより起こる熱分解によって還元され、金属Ptの状態で存在していることが考えられる。
【0030】
(PANマトリクスの構造変化についての分析)
図4に、加熱によるPANマトリクスの構造変化について調べるため、Ptイオン吸着直後の試料((a))、230℃にて第1工程の加熱処理を施した試料((b))、及び、さらに第2工程のPtイオン吸着後、第3工程を経て、400℃、600℃、800℃の各温度にて第4工程の加熱処理を施した試料(順に(c)、(d)、(e))について行ったIR測定の結果のグラフを示す。図4(b)~(e)に示されるように、PANの安定化のための230℃での加熱処理を施すことにより、PANのニトリル基に帰属される2245cm-1のピーク及び2900cm-1を中心としたC-H結合に関する情報が含まれているピークが消失した。また、それと同時に注目すべき点は1630cm-1、1580cm-1付近に出現した強いピークである。これらのピークはそれぞれ-(C=C)X-、あるいは-(C=N)X-共役系、-NH2に帰属されると考えられる。また3300cm-1付近のブロードなピークはC=N-HのN-Hに帰属される。これらの結果から230℃になるとニトリル基が共役系に変化することにより1630cm-1、1580cm-1にピークの強度の増大が見られ、ほぼ完全に-C≡Nから-(C=N)X-に変化していると考えられる。また、図4(b)~(e)に示されるように、加熱温度の上昇に伴い、共役系及びイミンに帰属されるピーク強度の増大が見られた。なお、このようなPANの熱分解に伴う構造の変化については、下記(化1)、(化2)、(化3)を経て、最終的にグラファイト化すると考えられる。一般にポリマーは蒸着時に熱エネルギにより小さな分子に分解することが知られており、そのため分子鎖の解離が起こりラジカルを生じる。生成したラジカルはPAN分子のニトリル基(-CN)を求核攻撃し-C≡Nから-C=N・を生じる。この反応が進むにしたがってPAN分子の環化が起こるということが考えられる。このPAN分子の環化が、PANマトリクスのグラファイト化に対して重要な役割を果していると考えられる。
【0031】
【化1】
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【化2】
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【化3】
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【0032】
(sp2炭素ネットワークの発達及びPt微粒子のグラファイト化への影響)
図5のグラフに、第1、第2工程を行ったPtイオン吸着直後の試料((a))、及び、さらにPtイオンを吸着した後、第3工程を経て、400、500、600、700、800℃の各温度で第4工程の加熱処理を施した試料(順に(b)~(f))それぞれの炭素ネットワークを分析するためのRaman測定結果を示す。加熱処理、及び加熱処理温度の増加に伴い、1350cm-1と1580cm-1付近に2つのバンドが見られた。一般に1580cm-1のバンドは、炭素のグラファイト構造に起因することが知られており、単結晶グラファイトにおいてはこのバンドだけが現れる(G-band)。また1350cm-1付近に見られるバンドはG-bandに対してD-bandと呼ばれており、膜中の無秩序な構造の部分、あるいは非常に小さなsp2ネットワークに起因して現れると考えられる。上記試料においては、低温での加熱処理を施した段階で明確なG-band及びD-bandが観察された。
【0033】
また、一般に、G-bandとD-bandの強度比(IG/ID ratio)はグラファイト化の目安として知られており、Ptのグラファイト化に対する触媒効果について検討するため、PANのみの試料とPtイオン吸着直後のPAN試料(Pt/PAN系)とについて、400、500、600、800℃に加熱した場合のIG/ID ratioをプロットしたものを図6のグラフに示した。何れの系においても加熱温度の増加に伴い強度比が増加することが明らかとなった。また、IG/ID ratioの増加の割合がPAN単体の場合に比べてPt/PAN系では大きくなっていることから、Pt微粒子の存在がPANのグラファイト化に大きな役割を果していることが示唆された。アモルファス炭素においては、D-bandの成長は2nm以下のsp2ネットワークの発達を示し、IG/ID ratioはグラファイトの結晶子サイズが2nm以上に成長するにつれ増加することが知られている。以上のことから、今回の試料においては、200℃から400℃の比較的低温での加熱処理を施すことにより局所的なsp2炭素が形成し、その後500℃以上で熱処理温度の増加に伴い、sp2ネットワークの発達が起こっていると考えられる。
【0034】
(PANマトリクスのグラファイトへの構造変化)
図7に、本発明の第1から第3工程までを経て、800℃で第4工程の加熱処理を施した試料の高分解能TEM写真を示す。この写真に図示したように、Pt微粒子の表面付近にPtとは異なる格子間隔を有する結晶格子が観察され、この格子間隔がグラファイトの(002)面(3.35オングストローム)に一致することが確認された。このことからPAN分子のグラファイトヘの構造変化が金属微粒子の触媒効果によって促進されることが示唆され、このことはRaman測定の結果とも一致している。
【0035】
(酸素還元反応の測定)
本発明の第1から第3工程までを経て、800℃で第4工程の加熱処理を施してPt微粒子を含有させた試料(Pt/PAN)と、Pt微粒子を含有させない試料(PAN)とをそれぞれ作成し、酸素をバブリングにより溶解飽和させた硫酸0.1mol/l中に浸漬し、各試料の酸素還元反応を測定した。参照電極には銀・塩化銀電極を用いた。図8に、測定された酸素還元反応の電流電位曲線のグラフを示す。図8より、白金を含有する試料(Pt/PAN)は、0.1V付近に酸素還元波がみられ、触媒活性が認められることがわかる。
【0036】
これらの測定結果より、Pt微粒子が凝集することなく、均一に分散した炭素薄膜を作製できたことが確認できた。
【0037】
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態や実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る貴金属系触媒担持炭素化物は、燃料電池用触媒等、様々な用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明により作製された炭素薄膜の平面TEM写真である。
【図2】(a)が本発明により作製された試料の断面TEM写真、(b)が(a)の高分解能TEM写真である。
【図3】本発明により作製された試料のXPSスペクトルを示すグラフである。
【図4】Ptイオン吸着直後の試料((a))、230℃にて第1工程の加熱処理を施した試料((b))、及び、さらに第2工程のPtイオン吸着後、第4工程の400℃、600℃、800℃の各温度にて加熱処理を施した試料(順に(c)、(d)、(e))について行ったIR測定の結果のグラフである。
【図5】第1、第2工程を行ったPtイオン吸着直後の試料((a))、及び、さらにPtイオンを吸着した後、第3工程を経て、400、500、600、700、800℃の各温度で第4工程の加熱処理を施した試料(順に(b)~(f))のRaman測定の結果を示すグラフである。
【図6】PANのみの試料とPtイオン吸着直後のPAN試料とについて、400、500、600、800℃に加熱した場合のIG/ID ratioをプロットしたグラフである。
【図7】本発明の第1から第3工程までを経て、800℃で第4工程の加熱処理を施した試料の高分解能TEM写真である。
【図8】Pt微粒子を含有させた試料(Pt/PAN)と、Pt微粒子を含有させない試料(PAN)とについて測定した酸素還元反応の電流電位曲線を示すグラフである。
図面
【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図7】
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