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明細書 :果汁の殺菌方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4359680号 (P4359680)
公開番号 特開2006-061053 (P2006-061053A)
登録日 平成21年8月21日(2009.8.21)
発行日 平成21年11月4日(2009.11.4)
公開日 平成18年3月9日(2006.3.9)
発明の名称または考案の名称 果汁の殺菌方法
国際特許分類 A23L   1/212       (2006.01)
A23L   2/02        (2006.01)
A23L   2/42        (2006.01)
FI A23L 1/212 A
A23L 2/02 B
A23L 2/00 N
請求項の数または発明の数 4
全頁数 13
出願番号 特願2004-246344 (P2004-246344)
出願日 平成16年8月26日(2004.8.26)
審査請求日 平成19年6月14日(2007.6.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
発明者または考案者 【氏名】田村 勝弘
【氏名】村本 桂久
審査官 【審査官】田中 晴絵
参考文献・文献 国際公開第2004/045316(WO,A1)
特開昭60-037963(JP,A)
実開平01-082793(JP,U)
調査した分野 A23L 2/00-2/84
A23L 1/212
特許請求の範囲 【請求項1】
加圧と加熱を併用する果汁の殺菌方法であって、60℃以下の温度の果汁を酸素に直接接触させて加圧処理するものであり、該加圧処理の圧力が5MPa以上、10MPa以下であることを特徴とする、果汁の殺菌方法。
【請求項2】
果汁の温度が40℃以上、50℃以下である請求項1記載の果汁の殺菌方法。
【請求項3】
果汁が香酸柑橘果汁である請求項1又は請求項いずれか1項記載の果汁の殺菌方法。
【請求項4】
香酸柑橘がスダチである請求項記載の果汁の殺菌方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、果汁製造工程において加圧と加熱を併用する果汁の殺菌方法に関し、特にスダチなどの香酸柑橘果汁の品質劣化の主な原因となる酵母菌類の微生物を、簡易な方法で殺菌することにより、特有のさわやかな香味と風味を損なうことなく、酵母菌類の作用に伴う品質の劣化を防止するための果汁の殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
徳島県の特産果実として有名なスダチは香酸柑橘と呼ばれ、特有の香りと色をもち、搾った果汁はスダチ酢として醸造酢の代わりに使われるほか、ポン酢や清涼飲料水の原料としても利用されている。又その他の香酸柑橘としてカボス、レモン、ユズ等も、スダチに劣らず幅広く食用として愛用されている。これらの果汁は一般に果実の収穫期に集中生産され年間を通して出荷できるよう保管される。そのため香酸柑橘果汁特有の品質を安定して保持することは商品価値を確保するうえで農産物加工分野における重要な課題である。
【0003】
一般に果汁類の製造工程においては、原料である果実類の皮や実に含まれている香気成分や含有成分を生かすため皮を剥がさずに搾汁することが多い。しかし、果実類の皮の内外には天然由来の酵母等の真菌が存在しており、それらが搾汁後の果汁に混入することにより果汁中で発酵して褐変や品質劣化の原因の一つになることがあり、品質保持のためには酵母による発酵を防止する必要がある。この点に着目し従来から種々の殺菌方法が工夫されてきた。例えば濾過と添加物による方法(特許文献1参照)、高圧殺菌と果皮抽出成分添加による方法(特許文献2参照)、15℃以下の温度範囲で加圧処理する方法(特許文献3参照)、60℃以下の温度で100MPa以上の超高圧による殺菌及び酵素の失活を行う方法(特許文献4参照)、加速電子線照射による方法(特許文献5参照)などの提案がある。
【0004】
一般に加熱処理は65℃以上、通常90℃前後の温度で行われる。しかし、香りと色が特徴として重視される香酸柑橘の果汁では、加熱により香りが失われ、また褐変や加熱臭が発生するなどの問題がある。また、薬剤などの添加処理においても殺菌すると共に、香酸柑橘特有の香りと風味を損なうという問題がある。さらに熱量を多く必要とし、省エネルギーの観点でも問題がある。
【0005】
そのような加熱処理に代わる方法として圧力処理が着目され、室温における高圧力を用いた食品加工に関する研究が盛んに検討されてきた。食品に対する高圧力の利用は、1914年にHiteらが果汁などの保存に対する加圧処理の効果を報告しており(非特許文献1参照)、日本でも1990年ごろから林らを中心にデータの収集が進められ、ジャムなどで加圧食品が実用化されている(非特許文献2参照)。本発明者らもこれまで、大腸菌を始めグラム陰性または陽性細菌、さらには酵母に対する圧力の影響を調べるため、微生物に超高圧を加え、細胞膜疎水性の変化や細胞の伸張、生菌数の変化といった現象を観察してきた。その結果、加圧処理は食品中の微生物を殺菌する効果があることを確認した。
【0006】
また、柑橘果汁中の真菌類に対する加圧処理の効果については、小林らにより300
MPa、10分間の処理で死滅することが報告されている。また、スダチ果汁についても、林らは400MPa、2分間の処理で酵母が死滅したことを報告(非特許文献3参照)、また、本発明者と井内らは400MPa、10分間の処理を行うことで酵母およびカビを完全に殺菌でき、-20℃で120日間保存した後も香気成分など品質の低下が抑えられることを確認した(非特許文献4参照)。

【特許文献1】特開平5-137546号公報
【特許文献2】特開平5-146280号公報
【特許文献3】特開平5-328950号公報
【特許文献4】特開平6-217743号公報
【特許文献5】特開2001-8674号公報
【非特許文献1】Hite, B. H., Giddings,N. J. and Weakley, C. E., The effect of pressure on certain microorganismsencountered in the preservation of fruits and vegetables, Bulletin 146, WestVirginia University Agricultural Experiment Station, 3-67(1914)
【非特許文献2】「食品への高圧利用」林力丸編(さんえい出版)頁1-30(1989)
【非特許文献3】徳島県食品加工試験場研究報告、第37巻、頁22-30(1989)
【非特許文献4】Iuchi, A., Hayashi,K., Tamura, K., Kono, T., Miyashita, M. and Chakraborty, S. K., Technique of quality control for Sudachi (Citrussudachi Hort. ex Shirai)juice by high pressure treatment, High Pressure Biosience and Biotechnology, 387-390(1996)
【0007】
しかしながら、従来報告されてきた圧力処理は100MPaないし400MPa程度の高圧(以下「超高圧」という。)を使用するため、超高圧領域の特定設備と技術を必要とし、また果汁を充填する容器の問題、処理能力の問題、加圧臭の残存など、量産上および品質上の問題点があり、香酸柑橘果汁の殺菌方法として工業的に受け入れられるまでには至ることはなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは以上のような従来の加圧処理による殺菌方法における問題点に鑑み、添加物や高温、超高圧を必要とせず、簡易な技術と設備で処理する技術の開発を目指して研究・調査を行った。それによると酵母懸濁液をある種のガスで直接加圧することにより、酵母に対して増殖の遅延や静菌、さらには殺菌などの作用があることが分かってきた。例えば二酸化炭素は、水と反応することで炭酸を生成し細胞内のpHを低下せしめて微生物に致死的影響を与える。これは、pHが低くない果汁の場合、二酸化炭素のpH低下効果による殺菌効果が考えられる。しかし、スダチ果汁などもともとpHの低い果汁中に生息する酵母に対しては炭酸によるpHの低下は効果がなく、また炭酸の発生で食感が変化することから、好ましくない。また、不活性ガスとして窒素の使用も考えられるが、我々の研究によると、格別の殺菌効果が確認されなかった。そのため特に香酸柑橘果汁の製造工程において、果汁中の酵母を高温・超高圧を用いることなく効果的に殺菌できる技術、すなわち果汁中の酵母を不活性化するとともに特有の香りや色などの品質を保持し、酵母菌類の発酵に伴う品質の劣化を防止するための、果汁の殺菌に適したガスの開発と加圧処理方法の改善が必要であった。
【0009】
従って、本発明が解決しようとする課題は、加圧と加熱を併用する果汁の殺菌方法において、とくにスダチ果汁に代表される香酸柑橘果汁の独特の香りと風味を損なうことなく、酵母菌類の発酵に伴う品質の劣化を防止し、かつ高温、超高圧を必要としない、簡易で効率的な果汁の殺菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決する手段として加圧処理に用いるガスとその圧力及び加熱処理する温度に着目し、従来のような高温や超高圧を用いることなく殺菌できる簡易で効率的な技術を開発するべく鋭意研究した結果、果汁を酸素に直接接触させて加圧処理することが有効であることを見出し、これと比較的低温の加熱処理の併用により、香酸柑橘果汁に特有の香りや色を維持しながら効果的に殺菌できる方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、前記課題を解決するための第1の発明は、加圧と加熱を併用する果汁の殺菌方法であって、60℃以下の温度の果汁を酸素ガスに直接接触させて加圧処理するものであり、該加圧処理の圧力が5MPa以上、10MPa以下であることを特徴とする、果汁の殺菌方法である。本発明でいう「果汁を酸素ガスに直接接触させて加圧処理する」とは、酸素と果汁を直接的に接触させて加圧処理することであって、通常行われているような、果汁を可撓性のある袋体などの容器に収納して間接的に加圧するものではない。従って、加圧の方法としては、果汁を収納した容器に高圧酸素ガスを圧入してもよく、あるいは容器内に酸素ガスと果汁が共存する状態でピストンを利用して加圧してもよい。何れにしても本発明によると、果汁の製造工程において、従来食品の加圧処理のガスとして採用されることがなかった酸素を用いて加圧処理することを可能にし、比較的低温・短時間で効率的にかつ省エネルギーで量産に適した、果汁の殺菌方法が提供できる。果汁の殺菌には特に高温、高圧を長時間かけることは、品質上好ましくない。本発明によれば、加熱処理と酸素による加圧処理が相乗効果を発揮して殺菌作用を奏するので、加圧処理する圧力は5MPa以上、10MPa以下であり超高圧を必要とせず、加熱温度は60℃以下の比較的低温で目的を達することができる。
【0012】
なお、前述の加圧処理の圧力範囲に対し、圧力が5MPa以下においても加熱条件との組合せ次第により殺菌効果はあるが、極端に長時間を必要とする。又10MPa以上でも殺菌効果はあるが、高圧ガスとして設備的・技術的に負担が大きく、経済的にも不利である。本発明により超高圧を必要としない加圧処理が工業的に可能になる。
【0013】
の発明は、第1の発明の方法において、果汁の温度を40℃以上、50℃以下とする果汁の殺菌方法である。すなわち前記温度範囲において、5MPa以上、10MPa以下の圧力で約1分間という短時間での加圧により、果汁の品質を低下させることなく殺菌することができ、酵母菌類の発酵に伴う品質の劣化を防止する。これに対し40℃以下あるいは50℃以上の温度においても殺菌効果はあるが、前者は長時間を要し、後者は省エネルギー効果が低下する。
【0014】
の発明は、第1またはの発明のいずれか一の発明において、果汁が香酸柑橘果汁である果汁の殺菌方法である。香酸柑橘としては、スダチ、カボス、レモン、ユズ、へベス、シークワーサー等がある。いずれもさわやかな香りと色を有し、酸味が強くpH値として通常2.4ないし3.0の間の値を示す。本発明によると、香酸柑橘類が持っている特有のさわやかな香味と色を損なうことなく殺菌し、酵母菌類の発酵に伴う品質の劣化を防止する。
【0015】
の発明は、第の発明における香酸柑橘がスダチである果汁の殺菌方法であって、特にスダチ果汁の殺菌に好適な、加熱した果汁を酸素ガスに直接させて加圧処理することを特徴とする、果汁の殺菌方法である。スダチ果汁はpH値が2.4から2.5程度の低いpH値を示す。本発明者らは、スダチ果汁中において低いpH域に強い酵母菌の存在を確認(後述)し、これを加熱処理と加圧処理を併用することにより特に効果的に殺菌でき、酵母菌類の発酵に伴うスダチ果汁の品質劣化を防止する方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
酸素が微生物に対して毒性を有することは従来から知られているが、これを果汁の加圧処理による殺菌に利用することは、これまで知られておらず行われることもなかった。本発明により、比較的低温で、かつ従来知られている超高圧殺菌処理に比べて40分の1程度の圧力での加圧処理によって、果汁の殺菌処理が可能になる。
【0017】
すなわち果汁と酸素を直接接触させて加圧処理する本発明の方法は、温度については従来の65℃以上、通常90℃前後の加熱処理に比べて、品質への影響が少なく且つ省エネルギー効果があり、また圧力については従来の超高圧に比べて、極めて低い圧力で処理できることから、特殊な装置を必要とする超高圧による殺菌処理と比べて設備的・技術的に簡易であり、大量の果汁を一度にあるいは連続的にかつ短時間に処理することが可能となり、農産物加工分野にとって極めて有用な殺菌方法を提供できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施する形態について説明する。収穫された果実を常法により、水洗等で表面の汚れを落として搾汁し、篩等で固形物を取り除いた果汁を、高圧容器内において60℃以下、好ましくは40℃ないし50℃に保持しつつ、5MPaないし10MPaの圧力の酸素ガスにより直接酸素加圧する。なお、加圧中、果汁に攪拌・混合作用を加えることにより、果汁に対する溶存酸素の濃度を高め酸素の効果を効率よく発揮させることができる。攪拌はプロペラ攪拌機、容器自体の回転または揺動、インラインミキサー、バブリングによる攪拌等の効果が利用できる。
【0019】
容器内において前記温度と圧力に保つ時間、すなわち殺菌処理時間は、温度と圧力の設定条件及び果汁の状態により調節するが、好ましくはpHが2.5前後のスダチ果汁の場合、50℃かつ5MPaないし10MPaの条件下では約1分間、40℃かつ10MPaの条件下では約5分間、あるいは40℃かつ5MPaの条件下では約10分間とする。
【0020】
果汁は以上のように加熱処理と酸素による加圧処理との相乗効果により殺菌されるが、殺菌処理後は速やかに減圧・脱気して酸素を除去し、不活性ガス等での置換により果汁に対する酸素の影響を排除する。温度は果汁を容器から払出しする際に熱交換機を通して適宜冷却し、果汁製造における後工程に送る。以下に、実験例及び実施例によって説明するが、本発明はこれらの実験例及び実施例に限定されるものではない。
【0021】
(実験例)
1.実施方法
(1)供試菌
供試菌として、低いpH値の領域に強い酵母菌Candida boidinii(以下「菌A」という。)を用いた。
【0022】
(2)菌Aの試験液調製
スダチ果汁中に生存する酵母を以下の方法で分離し、確認した。スダチを圧搾して得た果汁(pH2.4)を採取した後、三角フラスコに入れて30℃の恒温槽内で48時間振とう培養した。その果汁から0.1mlを寒天培地に塗抹し、30℃で静置培養した後、形成されたコロニーから酵母と見られるものを掻き取り、YPD培地に移して懸濁するまで30℃で振とう培養した。菌懸濁液は斜面培地に塗抹し増殖させた後、冷蔵庫で保存した。このようにしてスダチ果汁より分離した酵母を、財団法人・日本食品分析センターにおいて属種の同定を行った。その結果、酵母は土壌やオリーブ、ブドウなどの果実表面からも分離することができる酵母で、特に低いpH領域において生存力が強いCandida boidinii (菌A)と同定された。
【0023】
試験液は、菌AをYPD培地に植菌し、30℃で48時間、成長における定常期まで振とう培養した後、スダチ果汁で25倍希釈したものを試験液として用いた。予備実験から、試験液の菌数はおよそ9×10個/mlであった。なお前記スダチ果汁は予め冷凍保存し、使用前に解凍したものを使用した。
【0024】
(3) 加圧装置
加圧装置の概略を図1に示す。加圧装置は酸素の高圧ガスボンベ1、窒素の高圧ガスボンベ2、圧力調整弁3、圧力計4、圧力表示部5、分岐バルブ6、圧抜きバルブ7、遮断バルブ8および高圧容器9からなり、それぞれを接続する配管は、外径が1/16インチのステンレス製パイプを使用し、高圧に耐えられるようにした。高圧ガスボンベ1、2と高圧容器9を繋ぐ配管は、途中から分岐して圧力計4と圧抜きバルブ7にそれぞれ接続した。高圧容器9はステンレス製の容器部(容量約17ml)と蓋からなり、Oリングを蓋で締め付けて圧力の漏れを防いだ。また、異なる条件で同時に加圧実験ができるように、途中から配管を5本に分岐し、遮断バルブ8を通して高圧容器9に接続した。高圧ガスボンベ1、2はそれぞれ酸素、窒素の配管を通して分岐バルブ6に接続され、バルブの開閉により、使用するガスを選択できるようにした。
【0025】
(4)試験液の加圧、減圧
試験液を入れる高圧容器9は132℃、3時間乾熱殺菌装置で滅菌したものを使用した。高圧容器9を加圧装置に接続する際は、クリーンベンチ内で高圧容器9に試験液5.0mlを入れ、蓋を閉めた後、加圧装置の配管に接続した。加圧の際は、圧力調整弁3を徐々に開いて約30秒間で所定の圧力まで加圧した。減圧は、加圧と同じ約30秒間で、ガス抜きを開いてゆっくり減圧し、常圧になった後、高圧容器9を取り外した。加圧中は温度を一定に保つため、高圧容器9を恒温槽内に設置した。また、高圧容器9は試験液を所定の温度まで加温するため、加圧前に5分間恒温槽内に静置した。
【0026】
(5)酵母菌の生存率の算出
試験液を所定の条件で加圧した後の生存率は、加圧前と加圧後の生菌数を比較して算出した。生菌数はコロニーカウント法で直接計測した。試験液中の生菌数が適切な数になるよう、滅菌した脱イオン水で希釈した後、0.1mlを加熱滅菌(120℃、15分間)後に冷却固化した寒天培地(グルコース2.0%、ペプトン0.5%、酵母エキス0.3%、マルトエキス0.3%)に塗抹した。これを30℃の恒温庫内で72時間静置培養した後、形成されたコロニーをカウントした。生存率は次の式(数1)で表し、実験結果を示す各図の縦軸とした。
【0027】
【数1】
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【0028】
ここで、Nは所定時間(t)加圧後の生菌数であり、Nは加圧前の生菌数であり、Dは生菌数を1/10まで減少させるのに必要な時間(「D値」という。)である。D値は果汁など食品の殺菌速度を表す指標として用いられる。食品の殺菌に必要な条件は、生菌数を1/10まで減少させる能力とされる。
【0029】
(6)酸素ガス加圧殺菌前後のスダチ果汁品質の測定
酸素ガスで加圧殺菌した場合のスダチ果汁の成分への影響について、外観として色調、香気成分としてD-リモネン、及び栄養成分としてビタミンCをそれぞれ指標として選び、次の方法で評価した。すなわち、色調は分光式色差計(日本電色工業株式会社製)により、D-リモネンはブロム-ブロム酸滴定法により、ビタミンCはインドフェノール滴定法により、それぞれ日本農林規格検査法に従い測定した。
【0030】
2.実験結果
(1)菌Aの殺菌
図2、3及び4は、スダチ果汁中に菌Aを含む試験液の実験結果を示すグラフである。図において縦軸は対数表示で示す菌Aの生存率(数1)であり、横軸は酸素加圧の処理時間(分)である。図から、菌Aの試験液について、果汁温度を50℃(図2)、40℃(図3)、及び30℃(図4)とし、圧力については酸素ガス単独でそれぞれ0.1MPa、5.0MPa及び10.0MPaに変えたときの、菌Aの生存率変化が分かる。生存率は、試験した条件内では、酸素ガス圧力と果汁温度が高くなるに従い、短時間で減少している。50℃の場合は10.0MPa及び5MPaの加圧により約1分間で殺菌できた。40℃の場合は10MPaの加圧で5分間以内、5.0MPaの加圧では10分以内で殺菌できた。30℃の場合では10MPaないし5MPaの加圧で約10ないし15分間を要した。これらの結果から、清涼飲料水の殺菌条件である65℃、10分間(pH4.0未満のもの)及び85℃、30分間(pH4.0以上のもの)の加熱処理に比較して、より短時間又は
より低温での殺菌処理が可能であることが分かる。
【0031】
(2)酸素加圧処理による色調への影響
表1は、スダチ果汁に10.0MPaの酸素ガス圧力を果汁温度20℃で30分間、30℃で15分間、40℃で5分間および50℃で1分間加え、加圧前後の試験液の色調を比較したときのDL*(明度)、Da*(彩度)、Db*(色調)およびDE*(色差)を示す。スダチ果汁は通常、空気中に放置すると酸化により変色し、Db*およびDE*の絶対値が大きくなるが、調査した殺菌条件では値は小さく、色調に殆ど影響を及ぼさないことが分かる。
【0032】
【表1】
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【0033】
(3)酸素加圧処理によるD-リモネンへの影響
また、色調の比較と同じ条件で酸素ガス加圧を行ったスダチ果汁について、香気成分であるD-リモネンの含有量を測定した。D-リモネンの含有量は、加圧前が0.105mg/100mlであったのに対して、加圧後はどの条件も0.100ないし0.110mg/100mlの範囲内にあり、加圧前後に違いはなかった。酸素ガス加圧殺菌は低温で処理できることから、加熱殺菌で問題となる香りと色の変化が抑制されたと考えられる。
【0034】
(4)酸素加圧処理によるビタミンCへの影響
通常、食品における香味付けが目的のスダチ果汁などは、栄養素としてのビタミンC含有の程度はそれほど重要視されないが、酸素加圧による品質の変化の有無を確認するため、スダチ果汁中のビタミンC含有量に対する酸素加圧の影響を調べた。その結果を表2に示す。すなわち表2は、果汁中のビタミンC含有量と残存率について、酸素加圧前後の変化及び食品衛生法に定められている清涼飲料水の殺菌条件である65℃、10分間(pH4.0未満のもの)と、85℃、30分間(pH4.0以上のもの)の加熱を行った果汁中のビタミンC含有量の変化を示している。これによると、各温度条件において、高圧になるに従い残存率がやや減少する傾向があるが、50℃、5MPa及び10MPaの条件下でそれぞれ1分間の加圧処理で86.3%、78.3%であり、常圧下における清涼飲料水の殺菌条件65℃での80.0%、85℃での74.5%に比べてほぼ同等である。また、40℃ではそれぞれ5MPa、10MPaの条件下で5分間の加圧処理で64.8%、48.6%と低い傾向を示しているが、それでも約半分程度の残存率があり、酸素加圧によるビタミンC含有率に対する影響は比較的軽微であることが確認された。
【0035】
【表2】
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【実施例1】
【0036】
果汁の殺菌処理方法は回分式と連続式のいずれも可能である。図6は回分式による殺菌処理方法の例を示す。酸素ガス源に接続した高圧容器9と殺菌後の果汁貯蔵タンク10を設ける。高圧容器9には、安全弁11その他高圧容器として必要な装備を備えている。酸素ガスは、果汁に対して直接加圧処理に使用する圧媒として使用し、市販の酸素ガスボンベ或いはタンクローリーにより供給する。また高圧タンク9には果汁の溶存酸素濃度を高めるための攪拌装置12と加圧中の果汁温度を一定に保つための加熱保温用のジャケット14とを備える。
【0037】
高圧容器9に果汁を入れ、酸素ガスによって果汁を直接加圧する。酸素圧力は5MPaないし10MPaとし、果汁温度は40℃以上、50℃以下とする。処理時間は、処理量にもよるが、短時間が好ましく、長くとも約10分以下とし、より好ましくは5分以下とする。加圧中、攪拌を加えることにより、酵母の沈殿分離防止と果汁中の溶存酸素濃度を高め、殺菌効果を有効に発揮させる。酸素加圧後の減圧はガス抜きを開いてゆっくり減圧し、常圧に戻す。こうして殺菌処理した果汁は、殺菌後の果汁貯蔵タンク10へ払い出す。なお、本発明の殺菌工程の後、果汁中の溶存酸素は必要に応じて減圧脱気する方法或いは不活性ガスによるバブリング処理等を行い、溶存酸素の影響を排除する。
【実施例2】
【0038】
連続式による殺菌処理方法の例を図7に示す。殺菌処理前の果汁貯蔵タンク15と殺菌後の果汁貯蔵タンク25を設け、両タンクの間には、少なくとも送液ポンプ16、加熱装置17、酸素ガス供給装置18、攪拌混合装置19、酸素ガス源及び酸素ガス圧縮装置20、果汁貯蔵脱気装置21、送液ポンプ23、及び冷却装置24を備える。また各配管には安全装置及び逆流防止装置(図示なし)を備える。
【0039】
加熱装置17は、熱交換機であればよく例えばプレートヒーターを用い、果汁を少なくとも40℃以上、50℃以下に加熱調整できるものとする。酸素ガスは、市販の酸素ガスボンベ或いはタンクローリーにより供給する。また使用後の酸素を回収使用する場合は、酸素ガス圧縮装置20を使用する。この装置は酸素ガスの圧力が少なくとも5MPaないし10MPaに加圧調整できる圧縮ポンプとする。酸素ガス供給装置18は、少なくとも5MPaないし10MPaの酸素ガスを果汁に圧入する装置であり、酸素ガスインジェクション装置を用いることができる。攪拌混合装置19は、果汁と酸素を攪拌混合する機能を備えていればよいが、加圧と攪拌の機能を併せ持つ装置、例えばインラインミキサーを用いることができる。送液ポンプ16及び23は、ポンプ以外の方法例えば落差あるいは加圧による圧送等も利用できるが、送液量を調整して殺菌に必要な圧力と処理時間が確保できるものとする。殺菌処理後の果汁を受ける果汁貯蔵タンク21は、脱気により使用後の酸素を減圧して常圧に戻す機能を備えたフラッシュチャンバーとなっている。常圧となった酸素は、脱気装置を経て大気中へ排出することもできるが、酸素ガス圧縮装置19へ戻し、循環使用することができる。また、果汁貯蔵脱気装置21には、不活性ガスによる酸素置換機能を備える。
【0040】
以上の連続式の処理方法において、果汁の殺菌処理工程と殺菌条件は次のようにする。果汁を酸素ガスに直接接触させる加圧処理は、酸素ガス供給装置18と攪拌混合装置19を通過する間に行われる。果汁は注入前に加熱装置17で40℃ないし50℃の温度に予熱し、酸素供給装置18に注入する。一方、酸素ガスは酸素供給源から5MPaないし10MPaの圧力で酸素供給装置18に注入する。果汁と酸素は攪拌混合装置19のインラインミキサー中で自らの流れによって攪拌混合され、溶存酸素の濃度が高まり、短時間の内に効率的に殺菌が行われる。処理中の果汁は温度は40℃ないし50℃に保つ。この工程における果汁の処理時間が約1分間となるよう、果汁の流速を調整する。この後、果汁は殺菌後の果汁貯蔵タンク21で脱気し、払出ポンプ23、冷却装置24を経て殺菌後の果汁貯蔵タンク25に収納する。
【0041】
(参考例)
本発明者らは、本発明に至る基礎実験として、酸素加圧の殺菌効果確認のため、圧媒として窒素と酸素を用い、菌として一般的に指標菌として使用される酵母菌Saccharomyces cerevisiae(IFO 10149、以下「菌B」という。)を用い、下記の実験を行った。加圧装置は、前記段落「0024」に記載の加圧装置を用いた。
(1)菌Bの試験液調製
菌Bの冷蔵保存菌を、加熱滅菌(120℃、15分間)したYPD培地(グルコース2.0%、ペプトン2.0%、酵母エキス1.0%)に植菌した後、30℃の恒温槽内で72時間、成長における定常期まで振とう培養した。この培養液をYPD培地で20倍に希釈し、30℃で6時間振とう培養した後、OD660(分光光度計による波長660nmにおける濁度)を0.8に合せ菌数を調整した。実験に使用する場合はYPD培地で2倍希釈して試験液とした。予備実験から、定常期の培養液をYPD培地で20倍に希釈後、6時間培養した酵母は成長における対数期であること、OD660を0.8に調整した菌懸濁液は菌数がおよそ5×10個/mlであることを確認した。
【0042】
(2)菌Bの殺菌
図5は、菌Bの試験結果を示すグラフである。図において縦軸は対数表示の生存率(数1)であり、横軸は酸素加圧の処理時間(時間)である。図から、菌Bの試験液について、YPD培地温度を50℃とし、圧力については酸素ガスと窒素ガスの混合気体で全圧が10.0MPaとなるように加圧し、酸素ガスの分圧を0.0、2.5、5.0、7.5、及び10.0MPaに変えた場合の、菌Bの生存率変化が分かる。生存率は、酸素ガス圧力とYPD培地温度が高くなるに従い、短時間で減少している。50℃、10.0MPaないし5MPaの加圧で約15分で1/10まで生存率を減少させることができた。すなわち、酸素ガスによる直接加圧処理によると、菌Aのみならず、一般的な酵母菌についても効果的に殺菌できることが明らかとなった。なお,本参考例は栄養培地(YPD培地)中で行ったため、スダチ果汁に比べ殺菌に長時間を要した。
【0043】
(3)窒素加圧と酸素加圧の殺菌効果における差異
また、同じく図5に示す実験の範囲内では菌Bは、酸素分圧が高くなるに従い生存率が急激に低下するが、逆に窒素分圧が高いほど生存率の低下が少ない。窒素ガスの分圧7.5MPaの加圧では,処理時間2時間経過後においても1/10程度までの減少であり,さらに窒素ガス単独の10MPaの加圧では、処理時間5時間経過後において生存率は1/10程度までの減少に留まっている。すなわち10MPa程度の空気による加圧では殺菌効果は期待できないと言える。以上の結果から、前記酵母菌に対する酸素加圧の効果は単なる圧力効果ではなく、酸素そのものに由来するものであることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上に詳述したように、本発明の方法によると、高温・超高圧を使用することなく、かつ短時間に果汁の殺菌ができるので、農産物加工の分野、特に香酸柑橘果汁の生産工程において、有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】果汁の殺菌試験に用いる高圧装置の例を示す概念図である。
【図2】菌Aの生存率と果汁温度50℃における酸素加圧の圧力及び加圧時間との関係を示すグラフである。
【図3】菌Aの生存率と果汁温度40℃における酸素加圧の圧力及び加圧時間との関係を示すグラフである。
【図4】菌Aの生存率と果汁温度30℃における酸素加圧の圧力及び加圧時間との関係を示すグラフである。
【図5】菌Bの生存率とYPD培地温度50℃における窒素と酸素による加圧の圧力及び加圧時間との関係を示すグラフである。
【図6】回分式による果汁の殺菌処理方法を示す概念図である。
【図7】連続式による果汁の殺菌処理方法を示す概念図である。
【符号の説明】
【0046】
1・・・・・・・・・酸素の高圧ボンベ
2・・・・・・・・・窒素の高圧ボンベ
3・・・・・・・・・圧力調整弁
4・・・・・・・・・圧力計
5・・・・・・・・・圧力表示部
6・・・・・・・・・分岐バルブ
7・・・・・・・・・圧抜きバルブ
8・・・・・・・・・遮断バルブ
9・・・・・・・・・高圧容器
10、25・・・・・殺菌後の果汁貯蔵タンク
11・・・・・・・・安全弁
12・・・・・・・・攪拌装置
13、16、23・・送液ポンプ
14・・・・・・・・ジャケット
15・・・・・・・・果汁貯蔵タンク
17・・・・・・・・加熱装置(熱交換機プレートヒーター)
18・・・・・・・・酸素ガス供給装置(酸素ガスインジェクション装置)
19・・・・・・・・攪拌混合装置(インラインミキサー)
20・・・・・・・・酸素ガス圧縮装置
21・・・・・・・・殺菌後の果汁貯蔵タンク(フラッシュチャンバー)
22、24・・・・・冷却装置(熱交換機プレートヒーター)
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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