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明細書 :磁気力顕微鏡用の磁性探針及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3926356号 (P3926356)
公開番号 特開2006-084449 (P2006-084449A)
登録日 平成19年3月9日(2007.3.9)
発行日 平成19年6月6日(2007.6.6)
公開日 平成18年3月30日(2006.3.30)
発明の名称または考案の名称 磁気力顕微鏡用の磁性探針及びその製造方法
国際特許分類 G01N  13/22        (2006.01)
FI G01N 13/22 B
請求項の数または発明の数 21
全頁数 17
出願番号 特願2004-272519 (P2004-272519)
出願日 平成16年9月17日(2004.9.17)
審査請求日 平成16年9月17日(2004.9.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】石尾 俊二
【氏名】斉藤 準
【氏名】林 映雨
個別代理人の代理人 【識別番号】100058479、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦
【識別番号】100103034、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信久
【識別番号】100113099、【弁理士】、【氏名又は名称】和田 祐造
【識別番号】100117547、【弁理士】、【氏名又は名称】須田 浩史
審査官 【審査官】秋田 将行
参考文献・文献 特開平05-196704(JP,A)
特開2003-166929(JP,A)
特開2002-202237(JP,A)
Y. Q. Wu, D. H. Ping, X. Y. Xiong, K. Hono,Magnetic properties and microstructures of α-Fe/Nd2F214B nanocomposite microalloyed with Zr,Journal of Applied Physics,2002年 5月15日,Vol.91, No.10,pp.8174-8176
Zhiyong Liu, You Dan, Qiu Jinjun, Yihong Wu ,Magnetic force microscopy using focused ion beam sharpened tip with deposited antiferro?ferromagnetic multiple layers,Journal of Applied Physics ,2002年 5月15日,Vol.91, No.10,pp.9943-8845
和泉望、北山穣、那須三郎、小野輝男,Fe/FePt(001)人工格子の作成と評価,日本金属学会秋季大会講演概要(2002),2002年11月 2日,554頁
M. R. Koblischka, U. Hartmanna, T. Sulzbach,Improvements of the lateral resolution of the MFM technique,Thin Solid Films ,2003年 3月20日,Vol. 428, Issues 1-2,pp.93-97
北山穣、篠田敦史、森本正太郎、小野輝男、那須三郎,L10-FePt/Fe多層膜の作成とその磁性,日本金属学会講演概要,2003年10月11日,646頁
D. H. Ping, K. Hono, T. Hidaka, T. Yamamoto, A. Fukuno,Microstructual characterization of α-Fe/Sm-Fe-N nanocomposite hard magnet,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,2004年 6月30日,Vol. 277, Issue 3,pp. 337-343
調査した分野 G01N 13/22
特許請求の範囲 【請求項1】
非磁性材料からなる針状部と、
この針状部の表面上に形成された第1のハード磁性体合金層、この第1のハード磁性体合金層上に形成されたソフト磁性合金層及びこのソフト磁性合金層上に形成された第2のハード磁性体合金層から成り、前記針状部先端に層状断面部が配置されている単相磁石としての特性を示す交換スプリング磁石と、
から構成されことを特徴とする磁気力顕微鏡用の磁性探針。
【請求項2】
前記交換スプリング磁石の層状断面部は、100nm以下の幅を有することを特徴とする請求項1の磁気力顕微鏡用の磁性探針。
【請求項3】
前記ソフト磁性合金層は、5nmから20nmの範囲の厚さを有することを特徴とする請求項1の磁気力顕微鏡用の磁性探針。
【請求項4】
前記第1及び第2のハード磁性合金層は、30nm以下の厚さを有することを特徴とする請求項1の磁気力顕微鏡用の磁性探針。
【請求項5】
前記非磁性針状部上には、セラミックス下地膜が形成され、このセラミックス下地膜上に前記交換スプリング磁石が形成されていることを特徴とする請求項1の磁気力顕微鏡用の磁性探針。
【請求項6】
前記セラミックス下地膜は、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化マグネシウム、窒化ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項に記載の磁性探針。
【請求項7】
前記針状部は、先端が切除された先端面を有し、その周囲に平坦面を有する錐体に形成され、この平坦面に前記交換スプリング磁石が前記針状部先端に向けて延出され、層状断面部が前記先端面に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の磁性探針。
【請求項8】
前記第1及び第2のハード磁性合金層は、希土類・鉄系磁石、希土類・コバルト系磁石、鉄・白金系磁石、鉄・コバルト系磁石、Mn化合物磁石、ハード・フェライト及びストロンチウム・フェライトから選定された磁性材料で作られていることを特徴とする請求項1に記載の磁性探針。
【請求項9】
前記第1及び第2のハード磁性合金層は、40~60原子パーセントのPt及びFe或いはCoのいずれか一方または両方を少なくとも含有する磁性合金材料で作られていることを特徴とする請求項1に記載の磁性探針。
【請求項10】
前記ソフト磁性合金層は、鉄コバルト系合金、鉄系合金、コバルト系合金、鉄・コバルト・ニッケル系合金、非晶質ソフト合金、微結晶ソフト合金、ソフト・フェライト合金から選定された磁性材料で作られていることを特徴とする請求項1に記載の磁性探針。
【請求項11】
前記ソフト磁性合金層は、飽和磁束密度1.8テスラ以上のFe、Coのいずれか一方または両方を少なくとも含有する合金から作られていることを特徴とする請求項1に記載の磁性探針。
【請求項12】
非磁性材料からなる針状部を用意し、
この針状部の表面上に第1のハード磁性体合金層を形成し、
この第1のハード磁性体合金層上にソフト磁性合金層を形成し、及び
このソフト磁性合金層上に第2のハード磁性体合金層を形成して前記針状部先端に層状断面部が配置されている積層構造を前記針状部に設け、
前記積層構造を熱処理して単相磁石としての特性を示す交換スプリング磁石とすることを特徴とする磁気力顕微鏡用の磁性探針の製造方法。
【請求項13】
前記積層構造の層状断面部を100nm以下の幅で形成することを特徴とする請求項12の磁気力顕微鏡用の磁性探針の製造方法。
【請求項14】
前記ソフト磁性合金層は、5nmから20nmの範囲の厚さに形成することを特徴とすることを特徴とする請求項12の磁気力顕微鏡用の磁性探針の製造方法。
【請求項15】
前記第1及び第2のハード磁性合金層は、30nm以下の厚さに形成することを特徴とすることを特徴とする請求項12の磁気力顕微鏡用の磁性探針の製造方法。
【請求項16】
前記非磁性針状部上にセラミックス下地膜を形成し、このセラミックス下地膜上に前記積層構造を形成することを特徴とする請求項12の磁気力顕微鏡用の磁性探針の製造方法。
【請求項17】
前記セラミックス下地膜は、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化マグネシウム、窒化ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項12の磁気力顕微鏡用の磁性探針の製造方法。
【請求項18】
前記第1及び第2のハード磁性合金層は、希土類・鉄系磁石、希土類・コバルト系磁石、鉄・白金系磁石、鉄・コバルト系磁石、Mn化合物磁石、ハード・フェライト及びストロンチウム・フェライトから選定された磁性材料で作られていることを特徴とする請求項12の磁気力顕微鏡用の磁性探針の製造方法。
【請求項19】
前記第1及び第2のハード磁性合金層は、40~60原子パーセントのPt及びFe或いはCoのいずれか一方または両方を少なくとも含有する磁性合金材料で作られていることを特徴とする請求項12の磁気力顕微鏡用の磁性探針の製造方法。
【請求項20】
前記ソフト磁性合金層は、鉄コバルト系合金、鉄系合金、コバルト系合金、鉄・コバルト・ニッケル系合金、非晶質ソフト合金、微結晶ソフト合金、ソフト・フェライト合金から選定された磁性材料で作られていることを特徴とする請求項12の磁気力顕微鏡用の磁性探針の製造方法。
【請求項21】
前記ソフト磁性合金層は、飽和磁束密度1.8テスラ以上のFe、Coのいずれか一方または両方を少なくとも含有する合金から作られていることを特徴とする請求項12の磁気力顕微鏡用の磁性探針の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気力顕微鏡用の磁性探針及びその製造方法に係り、特に、高い空間分解能を有する磁気力顕微鏡用の磁性探針及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のIT技術分野の進展により、磁気記録媒体の高密度化が進み、単位面積当りの記録密度が飛躍的に向上している。記録密度の向上とともにその検査方法もより微細な磁区構造まで観察できるよう改良が重ねられてきている。
【0003】
磁気情報の検査方法の1つとして、磁気情報に対応した磁化パターンを測定する磁気力顕微鏡(MFM)が非特許文献1或いは特許文献1で知られている。この磁気力顕微鏡は、走査型プローブ顕微鏡の1つであり、その測定は、強磁性体材料を有する磁性探針を磁化し、その先端を検査用被測定媒体である磁性体試料に近づけ、磁性探針上の磁極と磁性体試料上の磁極との間に働く磁気的相互作用(力)を直接検出している。即ち、その磁性探針を媒体面に沿って媒体を走査しながら磁気的相互作用を検出し、磁化パターン等を画像化して解析することによって検査がなされる。
【0004】
従来の磁性探針には、一般的に、ピラミッド型の四角錐形状を有する珪素(Si)よりなる非磁性探針の先端部全体が強磁性材料の単一薄膜で被覆された構造、又は、強磁性材料が探針形状に加工された構造等がある。磁性探針に用いられる強磁性材料としては、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、希土類元素、或いは、これらを含む磁性材料が知られ、特に、磁性材料としてコバルト(Co)-クロム(Cr)-白金(Pt)系合金等が一般的となっている。
【0005】
現在のところ、磁気力顕微鏡に用いられている磁性探針の空間分解能は、30nm程度に留まり、高密度磁気記録媒体の開発に必要な20nm以下の高空間分解能、特に10nm以下で磁気パターンを解析することができる磁性探針が開発されていない状況にある。
【0006】
20nm以下の空間分解能が得られない主な原因は、探針先端の磁極密度が十分に大きくないことにある。磁極密度が小さいと、観察する磁気記録媒体試料から発生する漏洩磁場により磁性探針に働く力が小さくなり、高感度で磁化パターンを測定することができない問題がある。探針先端の磁極密度は、磁性探針材料の保磁力が小さい場合、磁性探針先端の磁化が磁気記録媒体試料からの漏洩磁場により揺らぐことで小さくなってしまう。
【0007】
探針先端の磁極密度を高めるためには、大きな保磁力と大きな飽和磁束密度を合わせもつ磁性探針構造が必要とされる。大きな保磁力と大きな飽和磁束密度とを合わせもつ磁性探針構造を探針先端に与えることで、探針先端の磁極密度が高まり検出感度が増加され、空間分解能を向上させることができることとなる。

【特許文献1】特開2003—34258
【非特許文献1】J. Appl. Phys. 70(4), 15 August 1991, P2413-2422, H. W. van Kesteren
【非特許文献2】伊藤弘高、斉藤準、石尾俊二:組成変調FePt薄膜のLl0規則化における成膜後熱処理の効果:日本金属学会誌、66巻、9号(2002)、889-892頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、超高密度磁気記録媒体等のナノ磁性体の研究及び開発には、ナノ領域での磁化状態計測法が必須とされている。特に、最も汎用性に優れ広く用いられている磁気力顕微鏡(MFM)において、現在最大でも10nm程度である空間分解能を10nm以下、好ましくは、数nmの理論的限界値まで高めることが要請されている。空間分解能が向上されることによって、高密度磁気記録媒体の微細な磁気ビットの磁化方向の変化並びに磁区構造等の観察が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされてものであり、その目的は、高い空間分解能を有する磁気力顕微鏡用の磁性探針及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
この発明によれば、
非磁性材料からなる針状部と、
この針状部の表面上に形成された第1のハード磁性体合金層、この第1のハード磁性体合金層上に形成されたソフト磁性合金層及びこのソフト磁性合金層上に形成された第2のハード磁性体合金層から成り、前記針状部先端に層状断面部が配置されている単相磁石としての特性を示す交換スプリング磁石と、
から構成されことを特徴とする磁気力顕微鏡用の磁性探針が提供される。
【0011】
また、この発明によれば、
非磁性材料からなる針状部を用意し、
この針状部の表面上に第1のハード磁性体合金層を形成し、
この第1のハード磁性体合金層上にソフト磁性合金層を形成し、及び
このソフト磁性合金層上に第2のハード磁性体合金層を形成して前記針状部先端に層状断面部が配置されている積層構造を前記針状部に設け、
前記積層構造を熱処理して単相磁石としての特性を示す交換スプリング磁石とすることを特徴とする磁気力顕微鏡用の磁性探針の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
この発明の磁気力顕微鏡用の磁性探針及びその製造方法によれば、10nm以下の空間分解能までも実現可能な交換スプリング機構を利用する磁気力顕微鏡用の磁性探針を提供することができる。従って、現行の記録密度100Gb/in2を超える高密度磁気記録媒体の微細な磁気ビットの磁化方向の変化並びに磁区構造等の観察が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
始めに、この発明の磁気力顕微鏡用の磁性探針及びその製造方法が次のような発明者らの知見並びに着想に基づいてなされている点を明らかにしておく。
【0014】
従来の探針は、単一層或いは単一材料の磁性体から作られ、その探針を先鋭化することにより高分解能化が実現されるとしている。しかし、探針の先鋭化には、限界があり、従来技術で述べたように大きな保磁力と大きな飽和磁束密度を磁性探針先端に与えることができない問題がある。発明者らは、「探針の先鋭化」は、「探針先端での磁化制御」に等価であることに着目し、この探針先端を積層薄膜構造とし、この積層薄膜によって磁化制御可能な交換スプリング機構とし、積層薄膜の断面構造を探針とする着想に至っている。交換スプリング磁石機構を利用することで、通常の単一磁性体探針では、困難な高保磁力並びに高飽和磁化の両立が探針中心部で可能となり、結果として大幅な分解能の向上が可能となる。即ち、探針先鋭化による高分解能化の本質は、探針中心部の磁気力が主になることで、探針内部で生じる磁気力の打ち消し合いが低減する点にある。従って、探針中心部の磁気力検出感度を向上できれば必ずしも探針の先鋭化は必要ではないこととなる。この実現には交換スプリング機構を用いた積層膜の断面を利用することが好適である。中心に高飽和磁化合金層を配しその両側を磁石合金層ではさむ構成の積層薄膜では、探針中心部で高保磁力と高飽和磁化の両立が可能であることから大幅な分解能の向上が期待できる。この交換スプリング機構のMFM探針へ応用に際しては、通常の磁石応用とは逆に高飽和磁化合金層を数nmと薄くするので、高飽和磁化合金層の更なる高保磁力化が可能となる。交換スプリング積層薄膜では総膜厚を厚くできるので、膜厚減少に伴う磁気特性の劣化も防止することができる。
【0015】
ここで、交換スプリング磁石とは、高飽和磁束密度を有するソフト磁性合金とハード磁性合金とから構成される複合磁性材料であり、飽和磁束密度で制限されるハード磁性合金単体の磁石特性を、より飽和磁束密度の大きなソフト磁性合金をハード磁性合金と複合化させることで実現した永久磁石であり、ソフト磁性合金とハード磁性合金のサイズを数nm以下に微細化することで、ソフト磁性合金とハード磁性合金が交換結合を介して強く磁気結合して実現される。
【0016】
以下、このような交換スプリング磁石機構を利用するこの発明の一実施の形態に係る磁気力顕微鏡用の磁性探針及びその製造方法について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、この発明の一実施の形態に係る磁性探針が適用される磁気力顕微鏡を利用する垂直磁気記録媒体中の保磁力分布を解析する解析装置を示すブロック図である。この図1を参照して磁気力顕微鏡及びこの磁気力顕微鏡を用いた測定方法について説明し、この説明に続いて、この発明の一実施の形態に係る磁気力顕微鏡用の磁性探針及びその製造方法について説明する。
【0018】
図1において、符号100は、磁場印加機能を有した磁気力顕微鏡を示し及び符号200は、その自由端に後に詳述する探針202を設けた非磁性体で作られた磁気力顕微鏡の探査部としてのカンチレバーを示している。このカンチレバー200は、ピエゾ素子4に振動可能に支持され、カンチレバー先端の探査針202は、試料6上に配置されている。試料6の保磁力分布が解析される磁区観察モードでは、この探針202は、磁区の磁力に応じて作用力を受ける必要があることから、強磁性特性を有し、試料6の表面形状、即ち、凹凸を解析する形状観察モードでは、探針202は、試料6及び探針202間に働く磁力以外の作用力、例えば、原子間力を受ける必要があることから、非磁性材で作られた金属片等が利用される。従って、カンチレバー200は、ピエゾ素子4から、或いは、ピエゾ素子4とともに装置から取り外し可能に構成され、観察モードに応じたカンチレバー200に交換することができる。図1を参照する説明においては、磁性探針及び非磁性探針に同一符号202を付して説明している。後の説明において、磁性探針の構造並びにその製造方法が説明されているが、その説明においても磁性探針に同一符号202を付して説明されていることに注意されたい。
【0019】
試料6は、垂直磁気記録可能な強磁性薄膜、例えば、CoCrPt-SiOがフイルム状基板に形成された構造を有し、試料6をX-Y平面内で微小移動するX-Yステージ8上に支持されている。試料6の表面は、磁区単位では、通常、粒状に凹凸を有する形状であり、この凹凸が保磁力分布の解析に影響しないようにするために、好ましくは、その表面形状が観察され、この形状に応じて次に説明するように試料6がZ方向に制御される。
【0020】
X-Yステージ8は、試料6をZ方向に微小移動するZステージ10に支持されている。Zステージ10を制御することで、試料6と探針202との間を試料6の表面形状を観察する形状観察モードに適する第1距離に維持することができ、また、試料6と探針202との間を試料6の磁区を観察する磁区観察モードに適する第2距離に維持することができる。通常、この形状観察モードで設定される第1距離は、磁区観察モードで設定される第2距離に比べて十分に小さく、形状観察モードでは、試料6及び探針202間に働く作用力を利用することから、試料6に探針202が十分に接近される。磁区観察モードでは、磁区からの磁力が試料6及び探針202間に働く作用力(例えば、原子間力)よりも離れた距離にまで及ぶ為に探針202が試料6の表面から比較的離されて配置される。また、磁区観察モードでは、試料6の表面の形状に応じて、Zステージ10を制御することで、試料6の表面と探針202間の距離を略一定に維持することができ、試料6及び探針202間に働く作用力を略無視した状態で磁気力を測定することができる。試料6の表面が十分に平坦(数十ナノ単位で平坦)であれば、磁区観察モードにおいて、Zステージ10によって試料6の表面と探針202間の距離を略一定に維持する制御が実行されなくとも良い。
【0021】
ピエゾ素子4は、ピエゾ素子ドライバ34に接続され、このピエゾ素子ドライバ34から供給される高周波交流信号で駆動され、その先端の磁性探針202が試料6の表面上で上下に振動される。また、X-Yステージ8及びZステージ10は、ステージ制御部36に接続され、このステージ制御部36によってZステージ10が駆動されて試料6と磁性探針202間の距離が所定距離に制御される。また、X-Yステージ8は、ステージ制御部36によってX-Y平面内を微小移動される。従って、試料6は、この試料6の表面との間の距離を一定に保った状態で探針202によってその表面が走査される。
【0022】
試料6及びカンチレバー200が配置された空間は、図示しない排気機構によって略真空に維持され、また、観察中の位置ドリフトを除くため、電磁石及び周辺部が図示しない冷却装置によって冷却されて一定温度に維持されている。即ち、試料6及びカンチレバー200が熱的にその特性が変動しないように一定温度の雰囲気下に維持されている。従って、試料6は、熱的には、一定に維持された状態で測定される。上述した装置においては、観察時の最大磁場強度は、例えば、±6kOeであり、また、測定系が磁場の影響を受けることを除くために、試料ホルダー及び探針は、非磁性材で構成された磁気力顕微鏡(MFM)装置系に固定されている。
【0023】
試料6上には、第1のポールピース12が試料6に対向して配置され、また、試料6下には、第2のポールピース14が試料6に対向して配置され、この第1及び第2のポールピース12,14間に生ずる試料6を略垂直に通過する測定用垂直磁界(外部磁界)によって試料6を磁化或いは減磁することができる。
【0024】
尚、磁性探針202は、この測定用垂直磁場によって同様に減磁或いは着磁される。従って、磁性探針202には、測定用垂直磁場に応じて保磁力が与えられ、測定用垂直磁場が一定に維持されている限りにおいて、この測定用垂直磁場の影響を受けず、試料6の磁区からの漏洩磁界のみによって磁気反撥力或いは磁気吸引力を受けることとなる。
【0025】
第1及び第2のポールピース12,14は、磁気ヨーク16によって磁気的に連結され、第1及び第2のポールピース12,14の周囲には、夫々電磁石18,20が設けられている。電磁石18,20は、電流源22に接続され、この電流源22からの電流によって励磁され、この励磁によって第1及び第2のポールピース12,14間には、所定の磁界強度を有する測定用の垂直磁界が発生される。
【0026】
カンチレバー200の先端部の変位は、所謂、光梃子方式で検出される。カンチレバー200の先端部の背面は、このカンチレバー200の先端部の動きを測定する為に鏡面に形成され、この鏡面に向けてレーザビームを発生するレーザ24及び振動するカンチレバー200の鏡面から反射されたレーザビームを検出する光センサ26が設けられている。レーザ24は、レーザドライバ28によって駆動され、一定強度のレーザビームをカンチレバー200の先端部に向けて発生する。また、光センサ26からの検出信号は、検出信号処理部30に出力される。試料6の表面形状測定する形状測定モードでは、検出信号処理部30は、試料6の表面の凹凸に対応した出力レベルを有する表面形状信号が表面形状解析部38に出力され、磁区強度を検出する磁区観察モードでは、磁区からの漏れ磁束に対応する磁気強度検出信号が磁区画像処理生成部32に出力される。
【0027】
検出信号処理部30には、ピエゾ素子ドライバ34からピエゾ素子駆動信号が供給され、この駆動信号と光センサ26とからの出力信号を比較することによって表面形状信号及び磁気強度検出信号が抽出される。
【0028】
形状測定モードにおいて、試料6が全くの平坦であれば、試料6と探針202との間に働く作用力は、一定であり、光センサ26からの出力信号からノイズが除去されれば、この出力信号とピエゾ素子駆動信号とは、信号波形が実質的に相似であり、平坦に相当する表面形状信号が発生される。これに対して、形状測定モードにおいて、試料6に凹凸がある場合には、試料6と探針202との間に働く作用力が変動し、光センサ26からのノイズが除去された出力信号は、ピエゾ素子駆動信号と異なる信号波形となる。光センサ26からの出力信号からピエゾ素子駆動信号と相似となるように、ステージ制御部36によってZステージ10を駆動すると、Zステージ10を駆動する信号が試料6の凹凸に相当する表面信号となる。
【0029】
また、磁区観察モードにおいて、試料6に外部垂直磁界が印加された状態において、磁区から漏れ磁束が生じていなければ、磁区と磁性探針202との間には、吸引力或いは反発力が生ぜず、光センサ26からノイズが除去された出力信号とピエゾ素子駆動信号とは、同様に信号波形が実質的に相似であり、磁区から漏れ磁束に相当する磁気強度検出信号は、実質的に発生されない。これに対して、磁区観察モードにおいて、試料6に外部垂直磁界が印加された状態において、磁区から漏れ磁束が生じている場合には、磁区と磁性探針202との間に、吸引力或いは反発力が生じ、光センサ26からピエゾ素子駆動信号に相当する信号波形を除去すると、磁区からの漏れ磁束に相当する磁気強度検出信号が発生される。即ち、同様に、検出信号処理部30に設けられた比較器或いは加算器(図示せず)で光センサ26からの出力信号とピエゾ素子駆動信号とが比較されることによって磁区からの漏れ磁束に相当する磁気強度検出信号が発生される。物理的には、振動している磁性探針202に漏れ磁束が作用すると、その磁性探針202及びカンチレバー200の機械的な共振点がシフトされ、そのシフト量が漏れ磁束に対応して変化される。従って、信号処理部30では、共振点の変動が検出されてその変動が漏れ磁束に対応するような磁気強度検出信号に変換されて磁区画像処理生成部32に供給される。尚、外部垂直磁界は、後の説明から明らかなように磁界が発生されず、磁場ゼロの磁界を含むものである。
【0030】
表面形状信号は、表面形状解析部38に供給され、X-Y座標を関数としてそのZ方向の凹凸の信号に変換され、メモリ40に記憶される。このメモリ40に記憶された表面形状信号は、磁区観察モード時にX-Yステージ8の移動とともに読み出され、Zステージ10が上下動される。従って、既に説明したように磁性探針202は、磁性探針202と試料6との間を一定に保つように試料6の凹凸に沿って試料6を検索することとなる。
【0031】
磁区画像処理生成部32においては、入力された磁気強度検出信号がそのレベルに応じてX-Y座標を関数とする陰影データに変換され、磁性探針202が走査した領域が陰影の画像に変換される。この画像データは、測定用垂直磁場毎にフレーム画像としてフレームメモリ42に格納される。このフレーム画像は、入出力部44,例えば、キーボードからの指示に従ってCPU46の制御下で表示装置48に表示させることができ、必要に応じてプリンタ(図示せず)に出力することができる。
【0032】
次に、図2及び図3を参照してこの発明の一実施の形態に係る磁性探針202の構造並びにその製造方法を説明する。
【0033】
図2(a)は、カンチレバー200及びカンチレバー200の先端にその基部が一体化されている磁性探針202を概略的に示している。図2(b)は、図2(a)に破線Bで示された磁性探針202の先端部の背面を拡大し、図2(c)は、破線Bで示された磁性探針202の先端部の断面構造を示している。また、図2(d)は、図2(c)に示され磁性探針202の積層構造204にこの積層構造204を保護する保護層を設けた変形例に係る断面構造を示している。図2(a)~(d)に示される磁性探針202は、図3(a)~(d)に示される製造方法に基づいて製造される。
【0034】
図3(a)に示されるように非磁性材料、例えば、Siで作られた母材としての四角錐状の針状部206及びこの針状部206に一体的に作られ、この針状部206を支持するカンチレバー200から成る探針構造が用意される。ここで、図3(a)に示される針状部206は、一例として、カンチレバー200の先端にシリコン単結晶ブロックを残したまま、そのシリコン単結晶ブロックのみを異方性エッチングすることによって四角錐状に形成される。従って、図3(a)に示すように針状部206は、カンチレバー200の先端からカンチレバー200の延出方向に対して直交する方向に沿って突出されて設けられ、その側面に2つの三角形状の平坦な側面及びカンチレバー200の延出方向に互いに対向される2つの三角形状の平坦な前面及び背面を備えている。この図3(a)に示される構造体は、そのまま形状観察モードに利用される非接触原子間力顕微鏡用の非磁性探針として利用することができる。
【0035】
図3(b)に示すように、用意された非磁性探針としての針状部206の4つの面には、下地層(図示せず)が形成され、この下地層上に第1のハード磁性体合金層210、この第1のハード磁性体合金層210上にソフト磁性合金層212及びこのソフト磁性合金層212上に第2のハード磁性体合金層214が形成されて3層の積層構造204が形成される。ここで、3層の積層構造204は、第1及び第2のハード磁性体合金層210、214間にソフト磁性合金層212が挟み込まれた構造を意味し、第1及び第2のハード磁性体合金層210、214及びソフト磁性合金層212の夫々が複数の磁性層で形成される場合を含むものである。
【0036】
図3(b)に示す積層構造204においては、交換スプリング磁石を実現するに好ましいソフト磁性合金層212の層厚は、5~25nmの範囲に設定される。また、ハード磁性体合金層210、214の層厚は、30nm以下に設定される。
【0037】
下地層は、積層構造204と非磁性探針としての針状部206との間で原子拡散を防止するために設けられ、セラミックス材料(炭化物、酸化物、窒化物)が好適する。セラミックス下地層は、酸化珪素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、窒化珪素(SiN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化マグネシウム(MgN)、窒化ジルコニウム(ZrN)からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。セラミックス下地層の構造は、結晶でもガラス構造でもよい。
【0038】
また、ここで、ハード磁性合金層210、214としては、希土類・鉄系磁石(Nd-Fe-B(Nd2Fe14B)、Sm-Fe-N(Sm2Fe17Nx)、等)、希土類・コバルト系磁石(Sm-Co(SmCo5、Sm2(Co,M)17、等)、鉄・白金系磁石(Fe-Pt、等)、鉄・コバルト系磁石(Co-Pt、等)、Mn化合物磁石(Mn-Bi、Mn-Al、Mn-Al-C、等)、ハード・フェライト(バリウム・フェライト(BaO・6Fe2O3)、ストロンチウム・フェライト(SrO・6Fe2O3)等の磁性材料がある。これら磁性材料中で、探針として良好な耐食性を有するFe-Pt並びにCo-Ptが好適する。特に、ハード磁性合金層210,214としては、40~60原子パーセントのPtと、FeあるいはCoのいずれか一方または両方を少なくとも含有する合金よりなることが好ましい。交換スプリング磁石を実現するには、高い結晶磁気異方性を有する磁石材料が必要とされる。従って、形状磁気異方性を有するアルニコ磁石は、ハード磁性合金層110、114として不適とされる。
【0039】
更に、ソフト磁性合金層212としては、鉄コバルト系合金(Fe-Co、等)、鉄系合金(Fe、Fe-Si、Fe-Al、Fe-Ni、等)、コバルト系合金(Co、Co-Ni、等)、鉄・コバルト・ニッケル系合金(Fe-Co-Ni等)、非晶質ソフト合金(Fe-B、Fe-Si-B、Fe-Co-Si-B、Fe-Cr-Si-B、Fe-Ni-Si-B、Fe-P-B、Fe-P-C-B、等)、微結晶ソフト合金(Fe-Ta-C、Fe-Ta-N、Fe-Cu-Nb-Si-B、等)、ソフト・フェライト合金(Mn-Znフェライト、Ni-Znフェライト、等)がある。ソフト磁性合金層212としては、Fe2Coに相当する組成のFe-Co合金が合金中最大の飽和磁束密度2.4T(テスラ)を有することから、Fe-Co合金が好ましい。
【0040】
ハード磁性合金層はL1型規則構造を有し、ソフト磁性合金層は、飽和磁束密度1.8テスラ以上のFe、Coのいずれか一方または両方を少なくとも含有する合金よりなることが好ましい。鉄(Fe)の薄膜と白金(Pt)の薄膜を交互に積層してハード磁性合金層210,214にL1型規則構造を与える為には、鉄(Fe)の薄膜及び白金(Pt)の薄膜をそれぞれ1原子層以下の膜厚で積層することが好ましい。ここで、1原子層以下の膜厚とは、実際には連続的な薄膜が形成されておらず、平均膜厚として1原子層以下になっていることを意味する。積層周期を1原子以下にすることで、L10型FePt規則合金が得られる熱処理温度をより低下させることができる。
【0041】
積層構造204においては、ソフト磁性合金層212とハード磁性合金層210,214との界面部分にはソフト磁性合金層とハード磁性合金層間の交換結合を妨げない範囲で炭化物、酸化物、窒化物が存在しても良いことを付け加えておく。
【0042】
第2のハード磁性体合金層214上には、図2(d)に示すようにこれら磁性層を保護するために必要に応じて保護層216が形成されて積層構造204が形成されても良い。この保護層216としては、例えば、セラミック性炭化物、或いは、カーボン(DLC:Diamond like carbon)等が好適する。この積層構造204は、カンチレバー200を被覆膜で被覆した状態で、真空中(例えば、3×10-5Paの真空度中)におけるマグネトロン・スパッタ法を用いて成膜される。また、後に説明するように積層構造204は、針状部206の先端部では、その背面のみが残されることから、この背面に主に成膜することが好まし。従って、このマグネトロン・スパッタ法では、この背面に向けて成膜材をスパッタする斜め方向からのスパッタが実施されることが好ましい。
【0043】
次に、図3(c)に示すように針状部206の先端部周囲からは、積層構造204が除去されて針状部206の背面にのみ積層構造204が帯状に残されるように加工される。その後、針状部206の先端がその軸線に対して直交する面に沿って切除される。従って、針状部206は、裁頭四角錐に形成され、針状部206の周囲には、略台形状の面が配置され、その先端の裁頭面には、積層構造204の断面が露出されることとなる。ここで、針状部206の先端部の加工並びに積層構造204の除去は、集束性イオンビームを針状部206に向けてこの針状部206を加工する集束性イオンビーム加工装置が利用される。
【0044】
図3(d)に示すように図3(c)に示される構造が用意されると、この構造が真空中(例えば、2×10-4Paの真空度中)で600~700℃で熱処理されて積層構造204に磁気的特性が与えられる。この熱処理には、赤外線急速加熱装置が利用される。
【0045】
熱処理前の積層構造204は、ソフト磁性合金層212がTa及びCを含む場合には、ソフト磁性合金層212とハード磁性合金層220,214の組成を有する磁性合金層との間に炭素層とタンタル層が形成され、また、炭素層とタンタル層にある炭素原子とタンタル原子の比率は、4:6から6:4の間となる。また、この熱処理前の炭素層とタンタル層よりなる2層の厚さは1.5nm以下に形成される。更に、熱処理前のハード磁性合金組成層210、214は、1原子層以下の膜厚で形成され、PtとFeあるいはCoが交互に積層されたFePt、CoPtあるいはFeCoPt多層膜で形成されることが好ましい。
【0046】
この温度条件の加熱によって、交換スプリング磁石としての機能を発揮する積層構造204には、ソフト磁性合金層212の飽和磁束密度がハード磁性合金層210,214の飽和磁束密度よりも大きく設定される。即ち、飽和磁束密度(ソフト磁性合金層212)>飽和磁束密度(ハード磁性合金層210,214)に設定される。また、交換スプリング磁石としての機能を発揮する積層構造204として、ソフト磁性合金層212の保磁力がハード磁性合金層210,214の保磁力よりも小さく設定される。即ち、保磁力(ハード磁性合金層210,214)>保磁力(ソフト磁性合金層210)が成立される。
【0047】
図3(a)~(d)に示される製造工程を経て、図2(b)~(d)に示すような構造を有する磁性探針202が製造される。
【0048】
図2(b)に示すように磁性探針202の基部には、その周囲に亘って磁性薄膜積層構造204の領域204Aが形成されている。また、この磁性探針202には、既に述べたようにその背面(カンチレバー200の軸に交差される面内に配置される面であってカンチレバー200の取り付け側の面)の基部から先端に亘って磁気フイルム層構造204が帯状の領域204Bに延出されている。この磁気フイルム層構造204の領域204Bは、一例として、その幅Wが100nm以下に、好ましくは、10~20nmに定められ、その長さLが200nm以下に定められる。図2(c)は、磁性探針202の断面を示しているが、この断面に示されるように四角錐状の針状部206上に第1のハード磁性体合金層210、この第1のハード磁性体合金層210上にソフト磁性合金層212及びこのソフト磁性合金層212上に第2のハード磁性体合金層214が形成された3層の積層構造204が形成されている。この3層の積層構造204は、交換スプリング磁石としての機能を発揮し、大きな保磁力並びに大きな飽和磁束密度とを合わせもつ磁性探針構造を探針先端に与えることができ、磁性探針202に高い分解能を与えることができる。
【0049】
ここで、大きな飽和磁束密度を有するソフト磁性層212の層厚のみがナノサイズに設定されることによって、探針先端の先鋭化のためにナノサイズまで微細加工することが不要とされる。また、磁性薄膜積層構造204とすることで、ハード磁性層210,214がナノサイズの厚さで形成されてもその磁石特性が劣化されることがない。
【0050】
(実施例1)
下記表1を参照してこの発明の磁性探針202の実施例1について説明する。
【表1】
JP0003926356B2_000002t.gif

【0051】
上記表1から明らかなように、磁性探針202の試作例A-1~A-3は、積層構造204がSiの単結晶上に形成され、積層構造204は、下地層なしで、表1に示されるように第1層から7層まで形成される。各層の組成及び膜厚は、表1に示す通りである。この製造方法について以下に説明する。
【0052】
積層構造の作成には、6つのターゲットを有し、成膜状態にあるターゲット上で基板ホルダーが回転可能とされるRFマグネトロン・スパッタリングが用いられている。ここでは、Fe,Pt,C,Ta及びFe70Co30合金の5つのターゲットが使用される。第1層から第7層は、このマグネトロン・スパッタリングを用いて作成した。基板ホルダーを設置したSi探針が成膜状態にあるFeターゲット及びPtターゲット上で回転されて、平均膜厚0.15nmのFe層及び平均膜厚0.17nmのPt層が積層周期100回で積層されて第1層としての積層膜、[Fe(0.15nm)/Pt(0.17nm)]100が成膜された。第1層の膜厚は、30nmである。次いで、第2層から第6層は、夫々基板ホルダーが対応するターゲット位置に移動された後に、基板ホルダーが静止されて、所定の膜厚が成膜されて形成された。最後に、第7層が第1層と同様の方法で成膜された。この際、成膜前の真空度は、3×10-5Paであり、成膜中のArガス圧は、0.5Paに設定され、基板ホルダーの温度は、室温に設定されている。
【0053】
既に説明した製造方法に従って、第1層から7層まで形成される。各層の組成及び膜厚は、表1に示す通りである。このような組成に係る磁性探針202の積層構造204は、夫々600℃、650℃及び700℃で10分間熱処理されて磁気的に単相の磁化曲線を有する磁気的特性が与えられる。これら試作例A-1~A-3の比較から明らかなように、試作例A-1における650℃での熱処理では、磁性探針202がスプリング磁石特性を示すが、試作例A-3における700℃以上の熱処理では、スプリング磁石特性が消滅し、空間分解能が減少される。試作例A-2における磁性探針202では、スプリング磁石特性が与えられて高い分解能が8.6nmが実現される。試作例A-2における磁性探針202では、図4(a)及び(b)に示すように磁気的に単相の磁化曲線を有する磁気的特性が与えられる。ここで、図4(a)及び(b)には、熱処理前の積層構造204で、ソフト磁性合金層21が実施例の試作例A-2にあるTa及びC層を含む場合に、650℃で10分間熱処理した後に測定した磁化曲線及び減磁過程における可逆磁化成分及び不可逆成分の磁界依存性を示している。
【0054】
この試作例A-2においては、図4(a)及び(b)より可逆磁化成分が保磁力付近で最大となることから、薄膜中心部の大きなMsを有するFeCo層の磁化が、その両側のFePt層の磁化と交換結合した交換スプリング磁石が実現していることが推察される。Ta/C層は熱処理によりFePt/FeCo界面で粒状のTaCに変化し、FePtのL10規則化と同時に起こることが危惧される界面での合金化による磁気特性の劣化を抑制しているものと考えられる。
【0055】
(実施例2)
下記表2を参照してこの発明の磁性探針202の実施例2について説明する。
【表2】
JP0003926356B2_000003t.gif

【0056】
上記表2から明らかなように、磁性探針202の試作例B-1~B-3は、積層構造204がSiの単結晶上に形成され、積層構造204は、下地層なしで、表2に示されるように既に説明した製造方法に従って、第1層から7層まで形成される。各層の組成及び膜厚は、表2に示す通りである。このような組成に係る磁性探針202の積層構造204は、夫々600℃、650℃及び700℃で10分間熱処理されて磁気的に試作例B-1には、2相の磁化曲線を有する磁気的特性が与えられ、試作例B-2及びB-3には、磁気的に単相の磁化曲線を有する磁気的特性が与えられる。これら試作例B-1~B-3の比較から明らかなように、試作例B-1における650℃での熱処理では、スプリング磁石特性が消滅し、空間分解能が減少され、試作例B-3における700℃以上の熱処理では、スプリング磁石特性が与えられ、空間分解能が良好となる。試作例B-2における磁性探針202では、スプリング磁石特性が与えられて十分に高い分解能が7.6nmが実現される。
【0057】
下記表3を参照して磁性探針202の比較例について説明する。
【表3】
JP0003926356B2_000004t.gif

【0058】
この比較例に係る磁性探針202は、従来構造のMFM探針に相当している。上記表3から明らかなように、この比較例に係る磁性探針202は、下地なしで単層造がSiの単結晶上に形成されている。この単層の組成及び膜厚は、表3に示す通りである。このような組成に係る磁性探針202は、熱処理なしに磁気的に単相の磁化曲線を有する磁気的特性が与えられている。この比較例における磁性探針202は、スプリング磁石特性が与えられていない為に保持力が小さく、空間分解能が30nmと小さく、10nm以下の分解能を実現することができなかった。
【0059】
以上のように、実施例1及び2と比較例と比較から明らかなように、単に、飽和磁束密度の大きな永久磁石材料が使用される場合には、検出感度が永久磁石材料の飽和磁束密度で制限されていたが、交換スプリング磁石としての磁性薄膜積層構造204とすることで、ソフト磁性層212の大きな飽和磁束密度を利用することができ、探針202の先端部に設けられたソフト磁性層21の部分で永久磁石材料単体よりも大きな飽和磁束密度を得ることができる。その結果として、10nm程度を超える5~8nmの高い空間分解能を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】この発明の磁気力顕微鏡用の磁性探針を備える磁気力顕微鏡システムを示すブロック図である。
【図2】(a)は、カンチレバー及び磁性探針を概略的に示す側面図、(b)は、図2(a)の破線Bで示された磁性探針の先端部の背面を拡大して概略的に示す平面図、(c)は、図2(a)の破線Bで示された磁性探針の先端部を概略的に示す断面図、(d)は、図2(c)に示され磁性探針の積層構造の変形例を概略的に示す断面図である。
【図3】(a)~(d)は、図2(a)に示す磁性探針の製造方法を概略的に示す斜視図である。
【図4】この発明の磁気力顕微鏡用の磁性探針に係る実施例1におけるヒステリシス特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
6...試料、8、10...ステージ、12、14...ポールピース、18,20...電磁石、36...ステージ制御部、100...磁気力顕微鏡、200...カンチレバー、202...探針、204...積層構造、210...第1のハード磁性体合金層、212...ソフト磁性合金層、214...第2のハード磁性体合金
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3