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明細書 :触媒を用いたセルロースの加水分解方法および触媒を用いたグルコースの生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4604194号 (P4604194)
公開番号 特開2006-129735 (P2006-129735A)
登録日 平成22年10月15日(2010.10.15)
発行日 平成22年12月22日(2010.12.22)
公開日 平成18年5月25日(2006.5.25)
発明の名称または考案の名称 触媒を用いたセルロースの加水分解方法および触媒を用いたグルコースの生産方法
国際特許分類 C13K   1/02        (2006.01)
FI C13K 1/02
請求項の数または発明の数 6
全頁数 10
出願番号 特願2004-319926 (P2004-319926)
出願日 平成16年11月2日(2004.11.2)
審査請求日 平成19年10月12日(2007.10.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】松村 幸彦
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
【識別番号】100080034、【弁理士】、【氏名又は名称】原 謙三
【識別番号】100113701、【弁理士】、【氏名又は名称】木島 隆一
【識別番号】100116241、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 一郎
審査官 【審査官】石丸 聡
参考文献・文献 特開2002-085100(JP,A)
Ann. N. Y. Acad. Sci., vol. 434, pages 161-163 (1984)
調査した分野 C13K 1/02
CA/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
セルロースを含むセルロース原料と分散水とからなる反応液を、所定温度で加熱処理する工程を含むセルロースの加水分解方法であって、
上記反応液に、セルロースの加水分解反応を触媒し、かつ分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒が含まれ、上記固体触媒が活性炭であることを特徴とするセルロースの加水分解方法。
【請求項2】
上記反応液には、セルロースが水に対し重量比10%以上20%以下となるように含まれていることを特徴とする請求項1に記載のセルロースの加水分解方法。
【請求項3】
上記所定温度が100℃以上300℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースの加水分解方法。
【請求項4】
セルロースを含むセルロース原料と、分散水と、セルロースの加水分解反応を触媒し、かつ分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒とからなる触媒反応液を所定温度に加熱する加熱ステップを含み、上記固体触媒が活性炭であることを特徴とするグルコースの生産方法。
【請求項5】
上記反応液には、セルロースが水に対し重量比10%以上20%以下となるよう含まれていることを特徴とする請求項4に記載のグルコースの生産方法。
【請求項6】
上記所定温度が100℃以上300℃以下であることを特徴とする請求項4または5に記載のグルコースの生産方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースの加水分解反応を触媒し、分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒またはセルロースの加水分解反応を触媒する金属酸化物を用いてセルロースを加水分解する方法、およびグルコースを生産する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物系バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニン等よりなる天然の高分子である。このうちセルロースは、植物細胞壁の主成分をなし、自然界に産出する有機物中最も多量に存在するもので、グルコースがβ1→4結合により多数結合した鎖状高分子化合物である。
【0003】
セルロースは、例えばセルロースエステルやセルロースエーテル等の有用な誘導体の原料となる等、多様な用途を有し、エタノールの原料としても利用されている。セルロースからのエタノールの製造は、セルロースをグルコースに加水分解し、これを酵母でアルコール発酵させ、蒸留することにより行われる。セルロースの加水分解方法としては、セルラーゼによってセロデキストリン、セロヘキサオース、セロテトラオース、セロトリオース、セロビオース等に分解し、さらにβ—D-グルコシダーゼによりD-グルコースに分解する方法が一般的に知られている。また、セルロースを希酸やアンモニアと煮沸して加水分解することにより、D-グルコースとする方法も知られている。
【0004】
さらに、加圧熱水を用いた方法として、セルロース粉末を、200~300℃に加熱した加圧熱水と接触させて加水分解する方法や(特許文献1)、250℃付近の加圧熱水(飽和蒸気圧以上に加圧して液体状態を保った加圧熱水)のイオン積が室温の水の1000倍以上に上昇することに着目し、この加圧熱水を用いて植物系バイオマスを加水分解しながらそれを構成する成分を順次回収する方法(非特許文献1)、植物系バイオマスを140℃~230℃で飽和蒸気圧以上に加圧した加圧熱水で加水分解してセルロースを抽出し、前記セルロースを380~420℃に加熱された雰囲気中でニッケル系触媒により分解する方法(特許文献2)等が提案されている。
【0005】
その他、鉱酸および/または有機酸による加水分解によって熱水凝集性セルロースエーテルを解重合する方法についても報告されている(特許文献3)。

【特許文献1】特開平10-327900号公報(平成10年(1998年)12月15日公開)
【特許文献2】特開2002-59118号公報(平成14年(2002年)2月26日公開)
【特許文献3】特表2003-508597号公報(平成15年(2003年)3月4日公表)
【非特許文献1】九工研ニュース、199.10、Vol.7 No.3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の方法では、以下のような問題点を生じるため、セルロースの加水分解方法として、十分なものであるということはできない。
【0007】
すなわち、セルラーゼを用いる方法では、セルロースの強固な結晶構造のため、加水分解速度が極めて遅いという欠点がある。また、特許文献3に記載された発明のように、酸等の薬品を用いた加水分解は、コストが高いという問題や、刺激性を有するため環境に対する負荷が大きいという問題を生じる。さらに、特許文献1、2および非特許文献1に記載された発明のような、加圧熱水を用いる方法では、反応の進行が遅いため効率的に加水分解を行うことができないという問題がある他、熱水を加圧する必要があるため、加圧装置が必要となり、全体として装置が大型化するという問題も生じる。
【0008】
また、上述のように、従来、セルロースを加水分解する方法が種々知られているが、分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒を用いてセルロースを加水分解する方法または金属酸化物を用いてセルロースを加水分解する方法については、知見が存在しなかった。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒を用いてセルロースを加水分解する方法、金属酸化物を用いてセルロースを加水分解する方法、および分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒をセルロースに作用させてグルコースを生産する方法、金属酸化物をセルロースに作用させてグルコースを生産する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、セルロースの加水分解反応を触媒し、分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒またはセルロースの加水分解反応を触媒する金属酸化物を用いることで、安価に、かつ効率よくセルロースを分解し、生成物としてグルコースを得ることができることを初めて明らかにし、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係るセルロースの加水分解方法は、上記課題を解決するために、セルロースを含むセルロース原料と分散水とからなる反応液を、所定温度で加熱処理する工程を含むセルロースの加水分解方法であって、上記反応液に、セルロースの加水分解反応を触媒し、かつ分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒が含まれることを特徴としている。
【0012】
触媒反応は、反応物分子が触媒へ配位または吸着することにより開始され、触媒に配位または吸着した反応物分子が分子内の結合を弱めたり解離することによって同じ分子の均一系反応に比べて活性化エネルギーを著しく低下させ、これにより反応速度を増大させるものである。反応物分子が触媒へ配位または吸着する際は、触媒の有する表面積、表面電荷や酸性官能基・塩基性官能基などが重要な役割を果たすため、分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒を用いることにより、反応物分子が触媒へ配位または吸着する効率を高めることができる。
【0013】
上記方法によれば、セルロースの加水分解反応を触媒し、かつ分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒を用いるので、溶解したヘミセルロース成分が上記酸性官能基または塩基性官能基によって迅速に分解または有機酸化すると考えられる。そして、このヘミセルロース成分の分解物または有機酸化物がセルロースに作用することにより、セルロースの分解を促進することができると考えられる。したがって、上記従来技術のように、反応の進行が遅いため効率的に加水分解を行うことができないという問題は生じない。
【0014】
また、本発明に係る方法は、上記固体触媒を含む反応液を加熱処理するという簡単な手順を含んでいれば行うことができる。したがって、非常に簡便かつ安価に、効率よくセルロースを加水分解することができ、大規模な反応装置も必要としない。また、酸等の薬品を使用することもないので、環境に悪影響を与えることもない。
【0015】
本発明に係るセルロースの加水分解方法は、セルロースを含むセルロース原料と分散水とからなる反応液を、所定温度で加熱処理する工程を含むセルロースの加水分解方法であって、上記反応液に、セルロースの加水分解反応を触媒する金属酸化物が含まれることを特徴としている。
【0016】
上記方法によれば、金属酸化物は分子中に酸性官能基または塩基性官能基は有さないが、金属酸化物そのものが酸または塩基の効果を有するため、セルロースの加水分解反応を触媒することができる。
【0017】
また、本発明に係る方法は、上記金属酸化物を含む反応液を加熱処理するという簡単な手順を含んでいれば行うことができる。したがって、非常に簡便かつ安価に、効率よくセルロースを加水分解することができ、酸等の薬品を使用することもないので、環境に悪影響を与えることもない。
【0018】
本発明に係るグルコースの生産方法は、セルロースを含むセルロース原料と、分散水と、セルロースの加水分解反応を触媒し、かつ分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒とからなる触媒反応液を所定温度に加熱する加熱ステップを含むことを特徴としている。
【0019】
上記方法によれば、加熱ステップにおいて、固体触媒が分子内の酸性官能基または塩基性官能基でセルロース原料中のセルロースを効率よく吸着し、セルロースの加水分解を促進する。したがって、セルロースの加水分解生成物としてのグルコースを迅速かつ効率的に得ることができる。
【0020】
また、本発明に係るグルコースの生産方法は、セルロースを含むセルロース原料と、分散水と、セルロースの加水分解反応を触媒する金属酸化物とからなる触媒反応液を所定温度に加熱する加熱ステップを含むことを特徴としている。
【0021】
上記方法によれば、加熱ステップにおいて、金属酸化物そのものが酸または塩基の効果を有するため、セルロースの加水分解を促進する。したがって、セルロースの加水分解生成物としてのグルコースを迅速かつ効率的に得ることができる。
【0022】
また、本発明に係るセルロースの加水分解方法およびグルコースを生産する方法では、反応液には、セルロースが水に対し重量比10%以上20%以下となるよう含まれていることを特徴としている。セルロースは水に不溶であるが、上記重量比で用いることにより、水に均一に分散することができるため、セルロースの加水分解反応を速やかに進行させることができる。
【0023】
また、本発明に係るセルロースの加水分解方法およびグルコースを生産する方法では、上記セルロースの加水分解反応を触媒し、かつ分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒は活性炭であることが好ましい。活性炭は、内部に大きな表面積を持つとともに、強い吸着性を有する。また、分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有している。そのため、セルロース原料に含まれるセルロースを効率よく加水分解することができる。
【0024】
また、本発明に係るセルロースの加水分解方法およびグルコースを生産する方法では、上記セルロースの加水分解反応を触媒し、かつ分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒がゼオライト系物質であることを特徴としている。
【0025】
ゼオライト系物質は、規則正しい網目構造を有するケイ酸塩であり、吸着作用を有し、分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有している。そのため、セルロース原料に含まれるセルロースを効率よく加水分解することができる。
【0026】
また、本発明に係るセルロースの加水分解方法およびグルコースを生産する方法では、上記セルロースの加水分解反応を触媒する金属酸化物が酸化マンガン、酸化コバルト、酸化鉄、酸化クロム、酸化モリブデンのいずれか1以上を含むものであることを特徴としている。これらの金属酸化物は、分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有さないが、金属酸化物そのものが酸または塩基の効果を有するため、触媒として用いることで、セルロース原料に含まれるセルロースを効率よく加水分解することができる。
【0027】
また、本発明に係るセルロースの加水分解方法およびグルコースを生産する方法では、上記所定温度が100℃以上300℃以下であることを特徴としている。反応温度が100℃未満であると加水分解反応の遅延を招き、300℃を超えると、グルコースの分解を生じてしまう。したがって、上記温度範囲で加水分解を行うことにより、加水分解を速やかに行うことができるとともに、生成物であるグルコースの分解を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るセルロースの加水分解方法は、以上のように、セルロースを含むセルロース原料と分散水とからなる反応液を、所定温度で加熱処理する工程を含むセルロースの加水分解方法であって、上記反応液に、セルロースの加水分解反応を触媒し、かつ分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒が含まれるものである。
【0029】
また、本発明に係るセルロースの加水分解方法は、以上のように、セルロースを含むセルロース原料と分散水とからなる反応液を、所定温度で加熱処理する工程を含むセルロースの加水分解方法であって、上記反応液に、セルロースの加水分解反応を触媒する金属酸化物が含まれるものである。
【0030】
また、本発明に係るグルコースの生産方法は、以上のように、セルロースを含むセルロース原料と、分散水と、セルロースの加水分解反応を触媒し、かつ分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒とからなる触媒反応液を所定温度に加熱する加熱ステップを含むものである。
【0031】
本発明に係るグルコースの生産方法は、以上のように、セルロースを含むセルロース原料と、分散水と、セルロースの加水分解反応を触媒する金属酸化物とからなる触媒反応液を所定温度に加熱する加熱ステップを含むものである。
【0032】
それゆえ、セルロース原料に含まれるセルロースの加水分解を迅速に行うことができ、生成物としてのグルコースを効率よく得ることができるという効果を奏する。また、非常に簡便な方法であるため、安価にセルロースを加水分解することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の一実施の形態について説明すれば、以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
本発明に係るグルコースの生産方法は、本発明に係るセルロースの加水分解方法を用いており、各構成及び工程は本発明に係るセルロースの加水分解方法を全て含むものである。したがって本発明に係るグルコースの生産方法の説明は、本発明に係るセルロースの加水分解方法の説明と共通するものである。以下に本発明に係るグルコースの生産方法について説明する。
【0035】
上記グルコースの生産方法は、セルロースを含むセルロース原料と、分散水と、セルロースの加水分解反応を触媒し、かつ分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒とからなる触媒反応液を所定温度に加熱する加熱ステップを含む。ここで、酸性官能基とは、分子中において水素イオンを放出する官能基のことをいい、塩基性官能基とは分子中において水素イオンを受け取る官能基のことをいう。
【0036】
セルロース原料としては、セルロースを含むものであれば特に限定されるものではないが、例えば植物系バイオマス、すなわち広葉樹(例えばシイ)、竹、針葉樹(例えばスギ)、ケナフ、家具の廃材、稲わら、麦わら、籾殻等の有機物を用いることができる。また、木材等から分離された化学セルロースを用いても構わない。セルロース原料のセルロース含有率は特に限定されるものではなく、含まれるセルロースを水に分散することができるものであればよい。セルロース原料の形状は、特に限定されるものではないが、水への分散が容易であるため、粉末状であることが好ましい。
【0037】
上記分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒は、セルロースの加水分解反応を触媒するものであれば特に限定されるものではないが、内部に大きな表面積を持ち、強い吸着性を有するとともに、分子内に多数の酸性官能基または塩基性官能基を有し、セルロースを効率よく加水分解できることから、活性炭を用いることが好ましい。
【0038】
活性炭としては、特に限定されるものではないが、セルロースを効率よく加水分解する観点から、特に比表面積が大きく、酸化処理等によって表面の酸性官能基や塩基性官能基を増加させたものが好ましい。活性炭の種類は特に限定されるものではなく、セルロースの加水分解反応を触媒するものであればよい。例えば、木材、石炭、ピート、ヤシガラ等をそれぞれ原料とする活性炭を用いることができる。また、活性炭の粒径も特に限定されるものではなく、粒状炭であっても、粉末炭であってもよい。
【0039】
また、上記分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒としては、ゼオライト系物質を好適に用いることもできる。ゼオライトは、結晶アルミノ・シリケートの含水アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩であり、金属としてはナトリウム、カリウム、カルシウム等が用いられる。ゼオライトは、極性の吸着作用を有し、分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有しているため、セルロース原料に含まれるセルロースを効率よく加水分解することができる。
【0040】
また、上記金属酸化物は、セルロースの加水分解反応を触媒するものであれば特に限定されるものではないが、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化鉄、酸化クロム、酸化モリブデンのいずれか1以上を含むものであることが好ましい。
【0041】
上記触媒反応液のセルロース含有量は、特に限定されるものではないが、セルロースが水に対し重量比10%以上20%以下となるよう含まれていることが好ましい。これにより、セルロースを沈殿させることなく水中に均一に分散することができるので、加水分解反応を速やかに行うことができる。
【0042】
なお、上記触媒反応液のpHは、特に限定されるものではなく、酸性、中性、アルカリ性のいずれであってもよい。セルロースの加水分解は、酸または塩基によって促進されるため、上記セルロース原料および触媒の他に、酸または塩基を添加し、pHを任意の値に調整してもよい。例えば、酸性側の条件としては、pH1以上pH5以下が好ましい。一方アルカリ性側の条件としては、pH9以上pH12以下が好ましい。
【0043】
本発明に係るグルコースの生産方法は、上記加熱ステップを含んでいれば実施することができる。加熱ステップは、上記触媒反応液を所定温度に加熱することにより、セルロースに上記固体触媒または上記金属酸化物を作用させるステップである。
【0044】
触媒反応液を所定温度に加熱する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、市販のオートクレーブを用いて加熱することができる。反応温度は、特に限定されるものではないが、100℃以上350℃以下であることがより好ましく、100℃以上300℃以下であることがさらに好ましく、200℃以上250℃以下が特に好ましい。反応温度を上記範囲内とすることで、セルロースに上記固体触媒または金属酸化物を効率よく作用させるとともに、生成物であるグルコースの分解を防ぐことができる。反応温度が100℃未満であると加水分解反応が遅延し、350℃を超えると、グルコースの分解を招来してしまうため好ましくない。
【0045】
触媒反応液の昇温速度および冷却速度は、特に限定されるものではないが、生成物の過分解を防ぐ観点から速い方が好ましく、100℃/min以上であることが特に好ましい。
【0046】
反応時間は、特に限定されるものではなく、触媒反応液は、設定した反応温度に到達した直後に冷却してもよいし、設定した反応温度に任意の時間保持してもよい。例えば、反応温度が300℃である場合は、300℃に到達後数秒で冷却することが好ましい。
【0047】
また、上記加熱ステップは、触媒反応液を攪拌しながら行うこともできる。攪拌の方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、公知のスターラーバーを用いて攪拌すればよい。触媒反応液を攪拌することにより、上記固体触媒または上記金属酸化物とセルロースとの接触頻度を増加させることができるため、セルロース加水分解反応の効率を高めることができる。
【0048】
加水分解反応終了後の残存セルロース、生成したグルコース等の定性分析および定量分析は、従来公知の方法を用いて行う。例えば、ポストラベル蛍光検出法を用いたHPLCによる単糖の定性および定量、エキソグリコシダーゼによる逐次分解とMALDI-TOF/MSおよびHPLCを利用した2次元マップ法による糖鎖構造の決定等の手法を用いることができる。
【0049】
また、反応時の圧力は、特に限定されるものではないが、例えば反応器内の自生圧(水の飽和蒸気圧)以上25MPa以下で反応を行うことができる。ただし、反応条件を一定に保つため、圧力は一定に保持することが好ましい。したがって、反応は耐圧密閉容器中で行うことが好ましい。
【0050】
以上のように、本発明に係るグルコースの生産方法では、加熱ステップにおいて上記固体触媒または上記金属酸化物を用いてセルロースを加水分解し、グルコースを生成する。これにより、セルロース原料に含まれるセルロースの加水分解を促進することができる。
【0051】
本発明により、セルロースの加水分解反応を触媒し、分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒またはセルロースの加水分解反応を触媒する金属酸化物を用いてセルロースを加水分解できることが初めて明らかになり、セルロースの加水分解を迅速に行うことができることが分かった。このような方法では、加圧熱水を用いる方法のように、反応の進行が遅いため効率的に加水分解を行うことができないという問題は生じない。また、非常に簡便なステップによって反応を行うことができ、反応装置も簡易なもので足りるため、容易かつ安価にセルロースを加水分解し、グルコースを得ることができる。
【0052】
なお本発明に係るグルコースの生産方法には、上記の工程の他、グルコース回収工程、グルコース精製工程が含まれていてもよい。グルコース回収工程は、特に限定されるものではないが、例えばゲルろ過、イオン交換樹脂を用いる方法等公知の方法が適宜利用可能である。またグルコース精製工程としては、再結晶等の操作が挙げられる。
【0053】
なお、本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0054】
以下、本発明について、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【実施例】
【0055】
[実施例1]
粉砕したセルロース系バイオマス10.0g(アルドリッチ社製)を耐圧密閉容器に封入し、水60.0gを加え、粉末ヤシガラ活性炭10.0gを添加して、触媒反応液を調製した。次に、上記触媒反応液を、攪拌翼を用いて攪拌しつつ、昇温速度10℃/minで加熱し、セルロースの加水分解反応を行った。なお、反応は、反応器内の自生圧(水の飽和蒸気圧)下で行った。触媒反応液の液温が表1に記載した所定温度に到達次第、触媒反応液をほぼ3℃/minの速度で室温まで冷却した。ここで、室温とは、一般的な室温の範囲内(15~25℃)を示すものとする。
【0056】
冷却後、容器内の生成物を回収し、反応終了後の残存セルロース量を滴定法で検出した。活性炭を添加して加水分解反応を行った場合のセルロース残存率を、反応終了後の触媒反応液に含まれる固形物の重量に対するセルロースの重量比(%)として反応温度ごとに求めた。その結果を表1に示す。
[比較例]
活性炭を添加しないこと以外は実施例1と同様にして、セルロースの加水分解を行った。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
JP0004604194B2_000002t.gif

【0058】
表1に示した結果から明らかなように、反応温度125℃において、活性炭を添加しなかった場合のセルロース残存率が80.3%であったのに対し、活性炭を添加した場合のセルロース残存率は26.6%となり、セルロースの加水分解が最も迅速に進行した。その他の温度においては、活性炭を添加しなかった場合のセルロースの残存率が、表1に示した125℃以外の全ての温度で90%以上であったのに対し、活性炭を添加した場合のセルロース残存率は40~45%となり、セルロースの加水分解が迅速に進行した。
【0059】
表1の結果から明らかなように、活性炭を触媒として用いることにより、セルロースを効率的に加水分解することができるので、本発明に係るセルロースの加水分解方法およびグルコースの生産方法は非常に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明では、セルロースの加水分解反応を触媒し、分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒またはセルロース分解能を有する金属酸化物を触媒として用いるため、非常に簡便かつ安価に、効率よくセルロースを加水分解し、グルコースを得ることができる。そのため、本発明は、グルコースの原料としてのセルロースの利用を促進することができ、エタノールの原料等としてグルコースを利用することが考えられる分野、例えばエネルギー分野、食品分野、薬品分野等に利用することが可能である。