TOP > 国内特許検索 > 加工性および高温における強度-延性バランスに優れるCr基合金 > 明細書

明細書 :加工性および高温における強度-延性バランスに優れるCr基合金

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3779131号 (P3779131)
公開番号 特開2001-342534 (P2001-342534A)
登録日 平成18年3月10日(2006.3.10)
発行日 平成18年5月24日(2006.5.24)
公開日 平成13年12月14日(2001.12.14)
発明の名称または考案の名称 加工性および高温における強度-延性バランスに優れるCr基合金
国際特許分類 C22C  27/06        (2006.01)
FI C22C 27/06
請求項の数または発明の数 3
全頁数 10
出願番号 特願2000-165983 (P2000-165983)
出願日 平成12年6月2日(2000.6.2)
審判番号 不服 2003-008101(P2003-008101/J1)
審査請求日 平成12年7月7日(2000.7.7)
審判請求日 平成15年5月8日(2003.5.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】594208536
【氏名又は名称】安彦 兼次
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】安彦 兼次
個別代理人の代理人 【識別番号】100080687、【弁理士】、【氏名又は名称】小川 順三
【識別番号】100077126、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 盛夫
【識別番号】100080687、【弁理士】、【氏名又は名称】小川 順三
参考文献・文献 Gaku,Kら”Mechanical Properties of a High-Purity 60 mass% Cr-Fe Alloy”Materials Transactions,JIM vol.41 no.1 January 2000 P.197-202
特許請求の範囲 【請求項1】
Cr:60mass%以上、C+N:50mass ppm以下、S:20mass ppm以下、O:100mass ppm以下、かつ酸化物、炭化物、窒化物を含む析出物としてのCr:100mass ppm以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、引張試験における断面積の減少率RAと引張強さTSとの積で表される、強度-延性バランスRA×TSが1200℃の温度で12000%・MPa以上であることを特徴とする加工性および高温における強度-延性バランスに優れるCr基合金。
【請求項2】
Cr:60mass%以上、C+N:50mass ppm以下、S:20mass ppm以下、O:100mass ppm以下、かつ酸化物、炭化物、窒化物を含む析出物としてのCr:100mass ppm以下を含有し、さらにW:0.1~10.0mass%、Ti:0.1~5.0mass%、Mo:0.1~5.0mass%およびRe:0.1~5.0mass%、のうちから選ばれるいずれか1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、引張試験における断面積の減少率RAと引張強さTSとの積で表される、強度-延性バランスRA×TSが1200℃の温度で12000%・MPa以上であることを特徴とする加工性および高温における強度-延性バランスに優れるCr基合金。
【請求項3】
Cr:99.9mass%以上のクロム原料を用いて、1.3×10-3Pa以下の真空度にてスカル溶解してなる、請求項1または2に記載のCr基合金。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷間加工性、被削性などの加工性のほか、 600℃以上の高温とりわけ1000℃以上の超高温域における強度-延性バランスに優れるCr基合金に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近の産業・工業の分野における技術進歩、また環境問題に対する関心の高まりなどから、600 ℃以上の高温、特に1000℃以上の超高温域において、高強度でしかも高延性を具えた金属材料の出現が強く要請されるようになってきた。
ところで、従来から用いられてきた高温材料は、主としてNi基、Cr基、Co基の合金であった。例えば、特開昭55-154542号公報には、Cr:20~35mass%、Si:1~8mass%、C:1.7 ~3.5 mass%を含み、M型の炭化物を形成させたNi基合金が、また特開昭55-154542号公報には、Ni:20~47mass%、Co:6~35mass%、Cr:18~36mass%、C:0.6 ~2.5 mass%、Si:0.5 ~2.5 mass%を含むNi-Co-Cr系合金がそれぞれ提案されている。
しかしながら、これらの合金は、強度または延性のいずれかの特性が十分でないために、実用的には500 ℃程度の温度までしか使用することができなかった。また、これらNiやCoを多量に含む合金は、材料の価格自体が高価であり、熱膨張係数が大きく、被削性も劣るといった多くの問題も抱えていた。
【0003】
Ni基やCo基の合金より安価で、熱膨張係数の小さい高温材料としては、Cr系の合金が有望である。例えば、特開平11-80902 号公報には、C:0.5 ~1.5 mass%、Si:1.0 ~4.0 mass%、Mn:0.5 ~2.0 mass%、Cr:35~60mass%を含有する、高温でのエロージョン・コロージョン性を高めた高Cr合金が提案されている。しかし、この高Cr合金は、高温域とくに1000℃以上では、十分な強度を得ることが難しい上、C含有量が高いために冷間圧延性や被削性に劣るという問題があった。
このようなCr系合金の強度を高めるには、Cr量の一層の増加が必要である。ところが、従来の技術でCr量を60mass%以上にすると、延性がほとんどなくなってしまうために、溶製後の加工が不可能になるという問題があった。このため、60mass%以上のCr基合金は今なお実用化されるまでには至っていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、超高温環境での使用に耐えうる材料への要請が益々高まりつつある状況にもかかわらず、高温で十分な強度と延性を有し、冷間圧延性や常温での被削性を具えた実用的な材料はこれまでに存在しなかった。
そこで、本発明の目的は、従来技術が抱えている上記問題を解消することにあり、600 ℃以上の高温とくに1000℃以上の超高温域において、従来合金では達成しえなかった優れた強度-延性バランスを具えるとともに、優れた冷間圧延性や常温における被削性を有するCr基合金を提供することにある。なお、強度-延性バランスの具体的な目標値は、引張試験における断面積の減少率RAと引張強さTSとの積で表されるRA×TSが1000~1250℃の温度範囲で12000 %・MPa 以上であるものとする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、経済性や熱膨張係数の上から有利なCr基合金を対象にして、上記課題の解決に向けて鋭意研究した。その結果、60mass%以上のCrを含有するCr基合金であっても、合金中のC+N、S、Oおよび析出物としてのCrの含有量を限界量以下に低減することにより、常温における被削性、冷間圧延性などの加工性と、高温における強度-延性バランスとを両立させうることを見いだし、本発明を完成するにいたった。また、発明者らは高温におけるさらなる強度上昇には、W、Ti、Mo、Reの添加が有効であることをも知見した。
【0006】
このようにして完成した本発明は、Cr:60mass%以上、C+N:50mass ppm以下、S:20mass ppm以下、O:100mass ppm以下、かつ酸化物、炭化物、窒化物を含む析出物としてのCr:100mass pm以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、引張試験における断面積の減少率RAと引張強さTSとの積で表される、強度-延性バランスRA×TSが1200℃の温度で12000%・MPa以上であることを特徴とする加工性および高温における強度-延性バランスに優れるCr基合金である。また、本発明は、Cr:60mass%以上、C+N:50mass ppm以下、S:20mass ppm以下、O:100mass ppm以下、かつ酸化物、炭化物、窒化物を含む析出物としてのCr:100mass ppm以下を含有し、さらにW:0.1~10.0mass%、Ti:0.1~5.0mass%、Mo:0.1~5.0mass%およびRe:0.1~5.0mass%、のうちから選ばれるいずれか1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、引張試験における断面積の減少率RAと引張強さTSとの積で表される、強度-延性バランスRA×TSが1200℃の温度で12000%・MPa以上であることを特徴とする加工性および高温における強度-延性バランスに優れるCr基合金である。そして、上記各発明のCr基合金は、Cr:99.9mass%以上のクロム原料を用いて、1.3×10-3Pa以下の真空度にてスカル溶解したものであることが好ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】
まず、本発明を想到する契機となった実験について説明する。
原料の純度および溶解条件を変化させることにより、70mass%Crを含有するCr基合金を種々溶製し、熱間鍛造により25mmの棒状試片とした。これら棒状試片を1250℃に加熱後水冷したのち、直径6.5 mm、長さ120 mmの丸棒試験片を切り出した。この丸棒試験片を用いて、直接通電方式の高温引張り試験機(グリーブル試験機)により、1100℃における強度(引張強さ)と延性(断面積の減少率)を測定した。
【0008】
図1に、高温での強度-延性バランス(断面積の減少率RAと引張強さTSとの積)におよぼすC+N量の影響を示す。図1から、高温域における強度-延性バランスを改善するためには、S量およびO量を制限したうえで、C+N量を低減することが必要であることがわかる。
また、図2に、常温での被削性に及ぼす析出物としてしてのCr(以後、「析出Cr」と略記する)の影響を示す。ここに、被削性は、バイト:超硬P20、送り:0.155 mm/rev、切り込み:1.5 mmの条件で行う乾切削において、工具寿命が60分になるときの切削速度(V60)を、AISI規格のB1112(いおう快削鋼)でのV60の値を基準値:100として比較した、被削率で評価した。図2から、被削性は析出Cr量に大きく左右され、被削性の向上のためには析出Cr量を制限することが必要であることが示される。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0009】
次に、本発明の成分を上記範囲に限定した理由について説明する。
・Cr:60mass%以上
Crは、高温域における強度を確保するために必要な元素であり、その含有量が60mass%未満では、1000℃以上での強度確保が困難となるので、60mass%以上含有させることが必要である。なお、十分な特性を発揮させるには65mass%以上含有させることが好ましい。また、Cr量の上限はとくに定める必要がないが、溶製上の理由から99.99 mass%が限界である。
【0010】
・C+N:50 mass ppm 以下
CおよびNは、1000℃以下でCr炭・窒化物を形成して、合金の脆化による圧延性の低下および耐食性の低下を招く。また、このCおよびNは、600 ℃以上の高温域では固溶状態で存在し延性を低下させる。これらの特性低下を招かないようにするには、C+Nとしての含有量を50mass ppm以下とする必要がある。なお、延性の低下をより少なくするために、好ましくはC+Nを30 mass ppm 以下、より好ましくは20 mass ppm 以下にするのがよい。また、下限値は特に規定しないが、工業的には、溶製時間を考慮して、0.1 mass ppmまでとするのが望ましい。
【0011】
・S:20 mass ppm 以下
Sは、Cr基合金中にわずかに含まれる、Ti、Cu、Mnなどの微量金属元素と硫化物を形成して存在するか、固溶状態で粒界に偏析して存在し、いずれの場合とも高温での延性低下および冷間圧延性の低下を招く。このような悪影響は、S量が20 mass ppm を超えると著しくなるので、その上限を20 mass ppm とする。なお、延性低下をより少なくするためには、S量を10 mass ppm 以下に抑制するのが望ましい。また、Sの下限量については特に定めないが、溶製コストを考えると0.1 mass ppmまでとするのが望ましい。
【0012】
・O:100 mass ppm以下
Oは、合金中のCrのほか、わずかに含まれるAl、Siなどの微量金属元素と酸化物を形成し、延性の低下を招く。このような悪影響を避けるには、O量(全O量)を100 mass ppm以下に制限する必要がある。なお、より高い延性を維持するためには、O量を50 mass ppm 以下とするのが好ましい。O量の下限は定めないが、溶製コストを考えて、5 mass ppmとするのが好ましい。
【0013】
・析出物としてのCr:100 mass ppm以下析出Cr(析出物としてのCr)は、酸化物、炭化物、窒化物を含む析出物として存在する。従来の耐熱合金ではCr析出物を高温強度の向上のために利用していたが、本発明においては、このCr析出物とくにCr酸化物は、延性を低下させて1000℃以上での強度-延性バランスの確保を困難にする。また、Cr炭窒化物が昇温中に溶解すると、600~800℃付近における延性を低下させる。さらに、高純度の高Cr合金においては、Cr析出物は被削性を低下させるとともに、耐食性をも低下させる。このようなCr析出物による悪影響は、析出Crの量が100 mass ppmを超えると顕著にあらわれる。よって、析出Crの量は100 mass ppm以下に制限する。析出Cr量の下限はとくに定めないが、溶製技術、溶製時間の点から0.01 mass ppmとするのが好ましい。
【0014】
・W:0.1 ~10.0 mass %、Ti:0.1 ~5.0 mass%、Mo:0.1 ~5.0 mass%、Re:0.1 ~5.0 mass%
W、Ti、MoおよびReは、Cr基合金の高温強度を、延性を損なうことなく上昇させるのに有効な元素である。このような効果は、いずれの元素とも0.1 mass%以上の添加により発現させられるが、多量の添加は延性を低下させるので避けなければならない。このため、Wの含有量は10.0 mass %以下、Ti、MoおよびReの含有量は、いずれも5.0 mass%以下とする。なお、これら元素の好ましい含有範囲は、W:1.0 ~9.0 mass%、Ti:1.0 ~4.0 mass%、Mo:1.0 ~4.0 mass%、Re:1.0 ~4.0 mass%である。また、これら元素を複合添加する場合には、延性確保の上から合計量で15mass%以下に止めるのが望ましい。
【0015】
以上述べた成分元素以外は、Feおよび不可避的不純物とする。なお、残余の元素をFeとしたのは、Cr-Fe合金が延性とコストの点からもっとも有利であるからである。
本発明合金は、とくに1000℃以上の高温域において優れた強度と延性を有しているが、かかる合金は、とくに高純度の原料を用いることと、溶解条件について留意する以外は常法にしたがって製造することができる。これらのうち、例えば、クロム原料としてCr:99.9mass%以上の純度のものを使用すること、溶解条件として、ルツボからの不純物の混入が少ないスカル溶解法により、圧力が1.3 ×10-3Pa以下(10-5 Torr 以下)、好ましくは1.3 ×10-4Pa以下(10-6 Torr 以下)の高真空の下で溶解することが望ましい。
【0016】
【実施例】
表1に示す成分からなる各種Cr基合金を溶製した。溶製には、原料として高純度クロム(純度99.95 mass%)、超高純度電解鉄(純度99.998mass%)を使用し、1.3 ×10-4Paの真空下で水冷銅るつぼを用いるスカル溶解法を採用した。このインゴットを1050~1200℃で熱間鍛造して直径25mmの棒状試片とした。
これら棒状試片を1250℃に加熱後水冷してから、直径6.5 mm、長さ120 mmの丸棒試験片を切り出した。この試験片を用いて、直接通電方式の高温引張り試験機(グリーブル試験機)により高温での延性(断面積の減少率)および引張強さを測定した。比較のために、同様の試験を商用の耐熱材料である54 mass %Ni-18
mass %Cr-3 mass %Mo合金についても実施した。
【0017】
【表1】
JP0003779131B2_000002t.gif
【0018】
また、常温における被削性は、AISI規格のB1112(いおう快削鋼)の切削において、工具寿命が60分となるときの切削速度(V60)の値を100とし、この値を基準とする相対値で表した被削率で評価した。
冷間圧延性は以下の方法で調査した。溶解後のインゴットを1250℃に再加熱し、熱間圧延機にて5.0 mm厚まで圧延した。この熱延板を1100℃で10分間焼鈍したのち、室温にて圧延率50%(板厚2.5 mm)で冷間圧延し、全長1.5 mの冷延板とした。冷延板の先・後端部を除いた1mの範囲において、耳割れの有無、深さを測定することにより、次の基準にしたがって冷間圧延性を評価した。
○:割れなし又は割れの深さ0.5 mm未満
△:割れの深さ0.5 ~5 mm未満
×:割れの深さ5 mm以上
なお、上記○で評価したもののうち、圧延率90%で冷間圧延した場合でも耳割れが発生しなかったものは◎とした。
【0019】
得られた試験結果を表2に示す。Cr量が60mass%未満の合金A1およびA2は1000℃での強度が低下している。また、従来から耐熱材料として用いられている54 mass %Ni-18 mass %Cr-3 mass%Mo合金は、1000℃を超えると急激に延性が低下し、1200℃でのRAは0%となる。
これに対して、発明合金は1000℃以上の高温でいずれも強度-延性バランスを表すRA×TSが12000 (%・MPa)以上を示し、きわめて優れた強度-延性バランスを有していることが分かる。また、W、Ti、MoおよびReのうちのいずれか1種以上を添加した発明合金は、一層優れた強度-延性バランスを示す。
また、発明合金の被削性は良好であり、表3に示す従来の耐熱合金のそれに比べても優れている。発明合金の冷間圧延性も被削性と同様に良好であり、とくにC+N、Sを低減した場合には、圧延率90%の冷間圧延を施した場合でも、耳割れがまったく発生しなかった。
【0020】
【表2】
JP0003779131B2_000003t.gif
【0021】
【表3】
JP0003779131B2_000004t.gif
【0022】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、1000℃以上の高温域における強度-延性バランスに優れ、被削性、冷間圧延性にも優れたCr基合金を提供することが可能になる。従って、本発明は、高温材料が必要とされる各種の産業分野に利用され、地球環境の改善にも寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】C+N量が1100℃における強度-延性バランスに及ぼす影響を示すグラフである。
【図2】析出Cr量が被削性に及ぼす影響を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1