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明細書 :コンダクタンスの制御が可能な電子素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4119950号 (P4119950)
公開番号 特開2002-076325 (P2002-076325A)
登録日 平成20年5月9日(2008.5.9)
発行日 平成20年7月16日(2008.7.16)
公開日 平成14年3月15日(2002.3.15)
発明の名称または考案の名称 コンダクタンスの制御が可能な電子素子
国際特許分類 H01L  29/06        (2006.01)
H01L  29/24        (2006.01)
H01L  49/00        (2006.01)
FI H01L 29/06 601N
H01L 29/24
H01L 49/00 Z
請求項の数または発明の数 12
全頁数 12
出願番号 特願2000-265344 (P2000-265344)
出願日 平成12年9月1日(2000.9.1)
審査請求日 平成16年4月7日(2004.4.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】青野 正和
【氏名】寺部 一弥
【氏名】長谷川 剛
【氏名】中山 知信
個別代理人の代理人 【識別番号】100110249、【弁理士】、【氏名又は名称】下田 昭
【識別番号】100110249、【弁理士】、【氏名又は名称】下田 昭
【識別番号】100113022、【弁理士】、【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
審査官 【審査官】恩田 春香
参考文献・文献 特開昭63-133465(JP,A)
特開平02-027739(JP,A)
調査した分野 H01L 29/06
H01L 29/66
H01L 29/24
H01L 49/00
JICST FILE(JOIS)
IEEE Xplore
特許請求の範囲 【請求項1】
イオン伝導性及び電子伝導性を有する混合導電体材料から成る第一電極と、導電性物質から成る第二電極とを備え、第一電極と第二電極との間に該混合導電体材料内の可動イオンから成る架橋の形成又は消滅により、電極間のコンダクタンスを制御することが可能な電子素子。
【請求項2】
前記混合導電体材料がAgS、AgSe、CuS又はCuSeである請求項1に記載の電子素子。
【請求項3】
前記電極間距離が100nm以下である請求項1又は2に記載の電子素子。
【請求項4】
消費電力が10-5W以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の電子素子。
【請求項5】
0.5V以下の電圧及び50μA以下の電流で用いる請求項1~4のいずれか一項に記載の電子素子。
【請求項6】
前記第一電極に対して第二電極が負となるように前記電極間に電圧を印加して可動イオンを前記第一電極から第二電極方向へ移動させることにより、前記電極間に架橋が形成された請求項1~5のいずれか一項に記載の電子素子。
【請求項7】
前記電極間のコンダクタンスが量子化されている請求項1~6のいずれか一項に記載の電子素子。
【請求項8】
前記コンダクタンス(G)が
【数1】
JP0004119950B2_000003t.gif
(式中、eは電気素量、hはプランク定数、Tiはi番目の伝導に寄与するチャンネルの透過確率である。)で表される請求項7に記載の電子素子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電子素子の第一電極に対して第二電極が負となるように前記電極間に電圧を印加し、可動イオンを前記第一電極から第二電極方向へ移動させることにより前記電極間に架橋を形成する段階、及び前記電極間の電圧極性を逆にすることによって前記架橋を細くし又は切断する段階の少なくとも一つの段階から成る電極間のコンダクタンスを制御する方法。
【請求項10】
前記電極間のコンダクタンスが量子化されている請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記コンダクタンス(G)が
【数1】
JP0004119950B2_000004t.gif
(式中、eは電気素量、hはプランク定数、Tiはi番目の伝導に寄与するチャンネルの透過確率である。)で表される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記電極間にパルス状電圧を印加することによりコンダクタンスを制御する請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、対向する電極間において架橋、細線及び/又はポイントコンタクトを形成し、細くし又は切断し得る電子素子、並びにこの電子素子を用いてコンダクタンスを制御する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、架橋、細線、ポイントコンタクトを構築することによりコンダクタンスを制御する方法に関していくつか報告されているが(J.K.Gimzewski and R.Moller: Phys.Rev.B36(1987) 1284、J.L.Costa-Kramer, N.Garcia, P.Garcia-Mochales.P.A.Serena.M.I.Marques and A.Corrcia: Phys.Rev.B 55(1997)5416、 H.Ohnishi and Y.Kondo and K.Takayanagi: Nature 395(1998) 780など)これらは、図1に示すように、架橋、細線、ポイントコンタクトの構築が、ピエゾ素子を付けた金属針(金、銀、銅、タングステンなど)と対向する金属基板(金、銀、銅など)との間で行われている。はじめに、ピエゾ素子に電圧を加えることにより、ピエゾ素子を延ばして金属針を対向基板と接触させる。次に、ピエゾ素子に加えた電圧を徐々に小さくすることによりピエゾ素子を収縮させ、金属針と対向基板との間の接触を次第に切り離す。この切り離される過程において、金属針と対向基板との間で、金属原子(金、銀など)から構成される架橋(細線あるいはポイントコンタクトを含む)が構築される。
【0003】
しかし、この手法を用いて電子素子を構築した場合には電極(即ち、金属針)を移動させるピエゾ素子を必要とし、この電極が移動するために電気素子を回路内などに組み入れることは困難である。さらに、ピエゾ素子を駆動させるための電極が余分に必要であるため、高密度に集積化した回路に組み入れるのには適さない。また、量子化されたコンダクタンスを生じる細線あるいはポイントコンタクトを含む架橋を構築するには、ピエゾ素子の移動を複雑かつ精密に制御する必要がある。このような機能を持った電子素子を実用的に作成することは困難である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、電極間で量子化されたコンダクタンスを生じる細線あるいはポイントコンタクトを含む架橋を構築する手法を提供するとともに、その架橋のコンダクタンスを容易に制御する手法を提供する。さらに、電極間に構築した前記架橋、細線、ポイントコンタクトによるコンダクタンスの制御を利用した電子素子を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
(1)電子素子の一方の電極に、イオン導電性と電子導電性とを兼ね備えた混合導電体材料を用いる。
(2)この電子素子を使用するにあたり、前記混合導電体電極と対向する電極の間に電圧と電流を加えることにより、前記混合導電体材料内の可動イオンを移動させ、前記電極上にそのイオン(原子)から構成される原子スケールからナノメートルサイズの突起物を形成する。この突起物をさらに成長させて対向する電極と接触することによって、前記電極間に前記イオン(原子)から構成される架橋を構築する工程と、前記架橋の構築後、加える電圧極性を逆にすることにより、前記架橋を構成するイオン(原子)を元の混合導電体電極に戻して前記架橋を細くさせ又は切り離す工程とを、目的に応じて適宜繰り返すようにしたものである。
(3)上記の(2)において、電極間の電圧又は電流を制御することにより、コンダクタンスの量子化が生じる細線あるいはポイントコンタクトを含む架橋を構築するようにする。
(4)上記(2)または(3)によって構築された電極間の架橋、細線、ポイントコンタクトにおいて、そのコンダクタンスの制御を利用して電子素子として機能するようにした。
【0006】
即ち、本発明の主題は、イオン伝導性及び電子伝導性を有する混合導電体材料から成る第一電極と、導電性物質から成る第二電極とを備え、第一電極と第二電極との間に該混合導電体材料内の可動イオンから成る架橋の形成又は消滅により、電極間のコンダクタンスを制御することが可能な電子素子である。
本発明の別の主題は、前記第一電極に対して第二電極が負となるように前記電極間に電圧を印加して可動イオンを前記第一電極から第二電極方向へ移動させることにより、前記電極間に架橋が形成された上記の電子素子である。
本発明の更に別の主題は、上記の電子素子の第一電極に対して第二電極が負となるように前記電極間に電圧を印加し、可動イオンを前記第一電極から第二電極方向へ移動させることにより前記電極間に架橋を形成する段階、及び前記電極間の電圧極性を逆にすることによって前記架橋を細くし又は切断する段階の少なくとも一つの段階から成る電極間のコンダクタンスを制御する方法である。
本発明のまた別の主題は、前記電極間にパルス状の電圧を印加することによりコンダクタンスを制御する上記の方法である。
また、上記の電極間のコンダクタンスは量子化されていてもよく、特にコンダクタンス(G)が
【数1】
JP0004119950B2_000002t.gif(式中、eは電気素量、hはプランク定数、Tiはi番目の伝導に寄与するチャンネルの透過確率である。)で表されることが好ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】
固体結晶内でも水溶液内と同じようにイオンが容易に可動することが出来る物質が知られており、イオンのみが伝導する物資はイオン導電体と呼ばれ、イオンおよび電子が伝導する物質は混合導電体と呼ばれる。
本発明の可動イオン(原子)の移動により電極間に架橋を構築した電子素子の具体例を図2に示す。本発明は、図2に示す様に、対向する電極の一つに混合導電体材料から成る第一電極11を用いるものである。また、電極(11及び12)を基板13から少し浮かすような構造も考えられ、この場合には図2中の電極間に基板は存在しないことになり、架橋は空間で作成されることになる。
【0008】
二つの電極間距離は通常約100nm以下、好ましくは約10nm以下、より好ましくは約5nm以下である。但し、この電極間の最適な距離はその間の絶縁性や電極材料等により変化する。例えば、電極を半導体若しくは絶縁体の膜又は基板上に置く場合又は上述のように基板を用いない場合によって、最適な距離は変ってくるので、最適な結果が得られるよう、電極間距離を適宜調整する必要がある。上記の電極間距離はこのような事情を考慮しておよその目安を挙げたものである。
また、本発明の電極間には1V以下、好ましくは0.5V以下、より好ましくは0.1V以下の電圧を印加し、流れる電流は100μA以下、好ましくは50μA以下、より好ましくは10μA以下である。また、この電子素子の消費電力は10-4W以下、好ましくは10-5W以下、より好ましくは10-6W以下である。
【0009】
本発明の混合導電体材料としては、XY(式中、XはIb族金属(Cu,Ag,Au)、YはVIa属元素(O,S,Se,Te,Po)である。)表される化合物、複合カルコゲナイド系として、CuMo、AgMo、CuMoSe、AgMoSe、CuMo、AgMo、AgCrSe、金属間化合物として、LiAl(x=0より大3未満)、LiSi(x=0より大10未満、y=0より大25未満)、酸化物として、MWO(M;アルカリ金属、Ag又はH、x=0より大1未満)、MM’O(M;アルカリ金属、Ag又はH、x=0より大1未満、M’;Ti、Co又はCr)、カルコゲン層間化合物として、MM’X(M;アルカリ金属、Ag又はCu、M’;Ti、Zr、Nb、Ta又はMo、X;S又はSe)等が挙げられるが、XY(式中、XはIb族金属(Cu,Ag,Au)、YはVIa属元素(O,S,Se,Te,Po)である。)表される化合物が好ましく、この中でも特にXがCu又はAgであり、YがS又はSeの場合(AgS、AgSe、CuS、CuSe)が好ましい。更に、これらは単体でもよく、またこれらの混合物でもよい。
【0010】
第一電極に対向する第二電極としては導電性物質で作成したものであれば特に制限はないが、導電性物質としては導電性金属が好ましい。
図2に示す電子素子の第一電極に対して第二電極に適当な負電圧を加えると、電圧と電流の効果により、混合導電体内の可動イオン14が第一電極11の表面に析出する。可動イオン(原子)の析出により出来た突起物をゆっくり長く成長させることにより、対向する電極12と接触して架橋15ができる。
ここで、可動イオンは第一電極の混合導電体を構成する原子のうちの少なくとも一つがイオン化されたものであり、混合導電体内を動くと共に、条件によって混合導電体から中性原子となって流出する。即ち、第一電極に対して第二電極に適当な負電圧を加えると、混合導電体を構成する原子は可動イオンとなって第二電極の方向へ電極内を移動し、電極から外へ出て架橋を形成するがその段階では可動イオンは中性の原子状態となって架橋を形成する。例えば、この可動イオンは、混合導電体が上記XY(XYは上記と同様)の場合にはXであり、AgSの場合にはAgであり、電極間に形成される架橋は原子X又は銀原子から成る。この明細書ではこのような事情を考慮して可動イオン及び原子を可動イオン(原子)と略記することがある。
また、加える電圧の極性を逆に変えることにより、接触していた架橋15が電圧と電流の効果により細くなって接触が切り離される。
また、この時の電極間の電圧と電流を制御することによって、コンダクタンスの量子化が生じる細線あるいはポイントコンタクトを含む架橋を構築することや架橋により電極間のコンダクタンスを制御することが可能である。さらに、この構築された架橋のコンダクタンスの制御を利用して電子素子を作製することが可能になる。
【0011】
【実施例】
実施例1
まず、混合導電体AgS結晶の電極を気相成長法により作製する。本実施例では、対向する導電性の電極の材料として白金を用い、基板は絶縁性材料を用いた。これらの電極間の間隔を1ナノメートル程度にして電極間でトンネル電流が流れるようにした。
このようにして作成された電子素子を用いて、AgS電極と白金電極の間に電圧を加え、50mV/秒で電圧を掃引した。その電極間に架橋が構築される様子を図3に示す。図中の電圧は、AgS電極を基準として、AgS電極に対する導電性電極の電位を示す。加える電圧がV=0~-0.3V付近では、電極間の抵抗は比較的大きい値を持ち、その抵抗は電圧の増加に従い次第に低下する。これは、電圧の増加に伴いAgS電極内の可動銀イオン(原子)がAgS電極の表面に析出して、電極間の距離が狭くなることに起因する。電圧がV=-0.3V付近になると急激に抵抗値が減少する。これは、可動銀イオン(原子)の析出により形成された突起物が対向する電極する白金電極と接して架橋が形成されることによるためである。抵抗が急激に低下した後のV=-0.3V~-0.49Vの間では、抵抗値がゆっくり減少する。これは、可動銀イオン(原子)がAgS電極内からさらに移動して来ることにより、構築された架橋が次第に太くなるためである。
【0012】
実施例2
次に、実施例1と同じ電子素子を用いて、そこで構築された架橋が切り離される様子を図4に示す。ここでは、加える電圧の極性を架橋の構築時とは逆に切り替えた。電圧がV=0~0.20V付近までは、架橋の抵抗はゆっくり増加する。これは、架橋を構成する銀原子が少しずつ移動してAgS電極へ戻るために、架橋が次第に細くなるためである。そして、急激な抵抗の増加がV=0.20V付近で認められる。この抵抗の急激な抵抗の増加は、架橋が切り離されて、電流が架橋を通ってではなく、トンネル効果によって流れるようになるためである。
すなわち、電圧の極性を変化させることにより、銀突起物を伸ばして架橋を構築したり、反対に構築した架橋を細くして切り離すことができる。この架橋の構築は、電極間に加えた電圧と電流の効果により、AgS混合導電体電極内の可動銀イオンがその表面上に移動した後、銀金属原子となって析出して突起物を形成する。この突起物が長く成長して、対向する白金の電極と接合することにより架橋が構築される。一方、架橋の切り離しは、加える電圧の極性を逆にすることにより、架橋を構成している銀原子がAgS混合導電体電極に移動して戻ることにより、架橋が細くなるために生じる。
【0013】
実施例3
次に、実施例1の電子素子を用いて、コンダクタンスの量子化が生じる細線あるいはポイントコンタクトを含む架橋の構築される様子を図5に示す。実施例1では架橋の形成が急激に起こるため、コンダクタンスの量子化が生じる細線あるいはポイントコンタクトを安定に構築することは出来ない。そこで、本実施例では加える電圧をなるべく小さくして、銀突起物の成長をゆっくり行いながら架橋を形成した。
電極間に比較的小さな電圧V=-25mVを加え続けると、数分~数十分後に電極間に架橋が構築された。図5に架橋の構築の様子を示す。図5中の横軸の時間の始点は架橋が形成される直前の任意の時間を0とした。時間が5秒付近で架橋が形成され、時間の経過と共に電極間の抵抗はゆっくり減少した。この抵抗の減少は架橋が時間とともに次第に太くなるためである。この時、図5中の*印の矢印で示すように、抵抗値が階段状に減少する。これは、架橋が構築される段階において、コンダクタンスの量子化が生じる細線やポイントコンタクトが架橋内に形成されていることを示す。
実施例1のように50mV/秒で電圧を掃引した場合には、V=-0.3V以下で架橋が構築されるが、本実施例の場合のように、電極間に数十mV付近の弱い電圧をかけた場合であっても、時間さえかければ架橋は構築されうる。
【0014】
実施例4
本実施例では、実施例3で架橋が生成した電子素子を用いて、架橋が構築された電極間に、電圧V=-25mVではなく、反対の極性で比較的小さな電圧V=+5mVを加えたところ、数分~数十分後に架橋が切り離された。その様子を図6に示す。図6中の横軸の時間の始点は電圧を加える直前の任意の時間を0とした。実施例3とは反対に、時間の経過と共に電極間の抵抗はゆっくり増加した。この抵抗の増加は、構築した架橋が時間と共に次第に細くなるためである。図6の*印の矢印に示すように、架橋が切り離される寸前に抵抗が階段状に増加しており、これは架橋内にコンダクタンスの量子化が生じる細線あるいはポイントコンタクトが含まれていることを示す。
【0015】
実施例5
本実施例では、電極間に架橋を構築及び/又は切り離すことにより電極間のコンダクタンスを制御する。実施例1と同様に用意した電子素子を用いて、架橋の構築及び切り離しに伴う電圧並びに電流特性を制御する様子を図7に示す。
電圧を0.20V → 0V → -0.23V → 0V → 0.2Vと変化させて加えた時に流れる電流は、図中の矢印の番号で示したように21→22→23→24と変化する。
架橋がまだ構築されていない領域21では、わずかな電流がトンネル効果によって流れている。領域22では、架橋が構築され、さらに架橋の太さが変化することにより、電流が著しく流れるようになる。領域23では、構築した銀原子の架橋を電流が流れる。領域24では、構築した架橋が細くなり切り離されるため、電流量が急激に減少する。そして、また領域21で示すトンネル電流が流れる領域に戻る。
このように加える電圧の大きさや極性を変化させることにより、電極間の架橋の構築と切り離しを行うことが可能であり、すなわち、これらの過程に伴う電極間のコンダクタンスを制御することができる。
ここで示した架橋の構築と切り離しに伴ってコンダクタンスを制御することができるということを、スイッチング機能や電極の一方向側に電流が流れやすい機能を持った電子素子として利用することができる。
【0016】
実施例6
実施例1と同様に用意した電子素子を用いて、構築された架橋のコンダクタンスの制御を利用する例を図8に示す。
電極間に加える電圧の制御により、構築した架橋によるコンダクタンスの制御とそのコンダクタンスの制御を利用することができる。実施例1~4に示した架橋の構築時において、電極間に架橋を構築または切り離すために加えた電圧を著しく小さくするか又は無くすことにより、架橋が更に成長する又は細くなるのを止めることができる。その状態で、電極間に適当な電圧を一時的に加えることにより、架橋を任意の太さに成長させたり、あるいは細くさせたりすることができる。これは、電圧と電流の効果により、可動イオンである銀イオン(原子)が架橋とAgS電極間を移動するためである。すなわち、この架橋の太さの制御により、電極間のコンダクタンスを制御することができる。
【0017】
本実施例では、はじめに、電極間に量子化されたコンダクタンスを生じる架橋、細線又はポイントコンタクトを構築した後、加える電圧をV=-15mVと小さくすることにより架橋の成長を止める。この時、電極間の抵抗は量子化されたコンダクタンスの単位値2e2/h(eは電気素量、hはプランク定数である。)の逆数にあたる約13kΩの抵抗を持つようにする。次に、架橋が太く成長するように電圧(V=-50mV)をパルス状に加えることにより、架橋の抵抗が1/2倍の約6.5kΩになる。即ち、量子化されたコンダクタンスを単位値の2倍にすることができる。その後、架橋が細くなるように、極性を逆にした電圧(V=25mV)をパルス状に加えることにより、元の量子化されたコンダクタンスの単位値である約13kΩの抵抗に戻すことができる。
即ち、加える電圧を制御することにより、容易に量子化した架橋のコンダクタンスを任意の値に制御することができる。この手段は、量子化されて飛び飛びのコンダクタンスをとる細い架橋のみならず、量子効果が生じない比較的太い架橋の一般的なコンダクタンスの制御においても利用できる。
【0018】
また、このコンダクタンスの制御を利用する様々な電子素子を作成することが可能である。例えば、電極間に作成した架橋に、パルス状などにして制御した電圧を加えることにより、任意のコンダクタンスを持った架橋に変える。その後、架橋のコンダクタンスが変化しない小さい電圧、電流を加えてそのコンダクタンスの値を読み出す。このような機能は、データの記憶素子、スイッチング素子などとして利用可能である。また、加える電圧の大きさ、パルス回数や加えた時間により、得られるコンダクタンスが変化することを利用して、例えば学習する(パルス電圧を加える)と電気信号が流れやすくなる電子素子(脳神経素子)を作成することができる。
【0019】
実施例7、8
実施例7では、実施例1の混合導電体材料電極としてAgSを用いる代わりにAgSeを用いて同様に試験を行った。電極間に銀原子による架橋が構築されていく様子を図9に示す。
更に、実施例8では、実施例1の混合導電体材料電極としてAgSを用いる代わりにCuSを用いて同様に試験を行った。本実施例では電極間に銅原子による架橋が構築された。その様子を図10に示す。
これらの混合導電体材料電極を用いた場合にも、電極間に架橋が構築され、図には示さないが、上記の実施例と同様に架橋の切り離しやコンダクタンスの量子化が観察された。これらの実施例では、用いた混合導電体材料や電極間距離が実施例1~6とは異なっているために、電極間の抵抗や架橋が構築される電圧が異なる。
【0020】
本発明を利用すれば、上述の用途に加えて以下のような様々な電子素子が可能になる。
架橋の構築により電極間のコンダクタンスが量子化されて階段状の値をとることを利用した多重メモリーとして利用することができる。例えば、量子化されたコンダクタンス(G)は、チャンネル透過確率(Ti)が1の場合には、
G=n × 2e/h (n=1,2,3・・)
(式中、eは電気素量、hはプランク定数である。)で表される。このn値は、例えば、実施例6の図8で示したように、適当な電圧を加えることにより任意の値をとることができる。そのため、この架橋を用いたメモリデバイスでは、一つのビットにn=1,2,3・・と複数の状態を記録することができるので、記録密度を格段に向上させることができる。
【0021】
また、本発明を低消費型デバイスとして利用することができる。既存のメモリデバイスでは作動電圧が1V以上、電流がミリアンペアのオーダーが一つのデバイス(即ち、1ビットの書き込みや読み込み)に必要である。本発明を利用すれば、上記実施例に示したように、作動電圧が1V以下で電流がマイクロアンペアのオーダー以下のような低消費電力で、デバイスを作動することができる。即ち、1ビットあたりの動作電力が10-6ワット以下のメモリデバイスが可能である。
更に、実施例1~4(図3~6)に示したように、電極間の架橋の構築又は切り離しに伴い、電極間のコンダクタンスは数倍から10倍程度変化する。このコンダクタンス変化をコンダクタンスの変化が起こらない小さな電圧を加えて読み取ることにより、デバイスのスイッチが開いた状態であるか閉じた状態であるかを容易に読み取ることができる。このスイッチング機能を有するデバイスを多数配置することにより、コンピュータに用いられるANDやOR理論ゲートやメモリー機能を有する電子回路の構築が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来のピエゾ素子を用いた金属針による架橋、細線、ポイントコンタクトを構築する方法を示す図である。
【図2】本発明の架橋、細線、ポイントコンタクトを構築する方法とその方法を利用した電子素子の具体例を示す図である。
【図3】混合導電体材料としてAgSを用いて、電極間に架橋が構築される様子を示す図である。
【図4】電極間に構築された架橋が切り離される様子を示す図である。
【図5】量子化されたコンダクタンスが生じる架橋が構築される様子を示す図である。
【図6】量子化されたコンダクタンスを有しながら架橋が切り離される様子を示す図である。
【図7】架橋の構築及び切り離しに伴う電圧並びに電流変化を制御する様子を示す図である。
【図8】コンダクタンスの制御を利用する例を示す図である。
【図9】混合導電体材料としてAgSeを用いて、電極間に架橋が構築される様子を示す図である。
【図10】混合導電体材料としてCuSを用いて、電極間に架橋が構築される様子を示す図である。
【符号の説明】
1 金属針(金、銀、銅、タングステンなど)
2 1の金属針を移動させるためのピエゾ素子
3 導電性の基板(金、銀、銅、鉛など)
4 1又は3の金属から構成される架橋
5 電圧、電流を供給する電源
11 イオン導電性と電子導電性とを兼ね備えた混合導電体材料からなる第一電極
12 電子導電性を有する材料からなる第二電極
13 半導体若しくは絶縁体の膜又は基板
14 可動イオン
15 可動イオン(原子)から構成された架橋(量子化されたコンダクタンスを生じる細線あるいはポイントコンタクトを含む)
17 電極間に電圧、電流を供給する電源
21 架橋がまだ構築されていない領域
22 架橋が構築される領域
23 架橋を電流が流れる領域
24 構築した架橋が切り離される領域
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9