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明細書 :糖由来のゲル化剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4164247号 (P4164247)
公開番号 特開2003-049154 (P2003-049154A)
登録日 平成20年8月1日(2008.8.1)
発行日 平成20年10月15日(2008.10.15)
公開日 平成15年2月21日(2003.2.21)
発明の名称または考案の名称 糖由来のゲル化剤
国際特許分類 C09K   3/00        (2006.01)
FI C09K 3/00 103M
請求項の数または発明の数 3
全頁数 9
出願番号 特願2001-239014 (P2001-239014)
出願日 平成13年8月7日(2001.8.7)
審査請求日 平成16年11月12日(2004.11.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
発明者または考案者 【氏名】ヂォンホア,ヂョン
【氏名】ジョージ,ジョン
【氏名】清水 敏美
個別代理人の代理人 【識別番号】100110249、【弁理士】、【氏名又は名称】下田 昭
審査官 【審査官】中野 孝一
参考文献・文献 特開平11-323309(JP,A)
特開2000-248258(JP,A)
特開2000-229992(JP,A)
調査した分野 C09K3/00、
C07H15/203、
CAplus(STN)、
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記化学式
JP0004164247B2_000005t.gif(式中、Aは糖の残基を表し、Rは炭素数が6~20の直鎖のアルキル基を表す。)で表されるゲル化剤。
【請求項2】
前記Aが、アルドピラノースの6員環に結合するいずれか一の水酸基の水素を除いた残基を表す請求項1に記載のゲル化剤。
【請求項3】
前記アルドピラノースがグルコピラノース又はガラクトピラノースである請求項2に記載のゲル化剤。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、有機溶媒及び水の双方に対しゲル形成能力を有するゲル化剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、超分子化学の分野では、単量体種を所望の高次構造に構成することに焦点が当たっている。微視的及び巨視的なスケールの双方で汎用的なゲル機能を有する結果、例えば、食品、脱臭剤、化粧品、競技用靴、及びクロマトグラフィーの分野のような工業的目的用の効果的で且つ調製可能な小分子のゲル化剤の開発に多くの関心が集まっている(Murata, K.; Aoki, M.; Suzuki, T.; Harada, T.; Kawabata, H.; Komori, T.; Ohseto, F.; Ueda, K.; Shinkai, S. J. Am. Chem. Soc. 1994, 116, 6664 and references therein.:James, T. D.; Murata, K.; Harada, T.; Ueda, K.; Shinkai, S. Chem. Lett. 1994, 273.:Jeong, S. W.; Murata, K.; Shinkai, S. Supramol. Sci. 1996, 3, 83;:Shinkai, S.; Murata, K. J. Mater. Chem. (Feature Article) 1998, 8, 485.:Yoza, K.; Amanokura, N.; Ono, Y.; Akao, T.; Shinmori, H.; Takeuchi, M.; Shinkai, S.; Reinhout, D. L. Chem. Eur. J. 1999, 5, 2722 :Wang, R.; Geiger, C.; Chen, L.; Swanson, B.; Whitten, D. G. J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 2399.:Duncan, D. C.; Whitten, D. G. Langmuir 2000, 16, 6445.:Geiger, C.; Stanescu, M.; Chen, L.; Whitten, D. G. Langmuir 1999, 15, 2241.:Terech, P.; Weiss, R. G. Chem. Rev. 1997, 3313.:Otsuni, E.; Kamaras, P.; Weiss, R. G. Angew. Chem., Int. Ed. 1996, 35, 1324 and references therein.:Terech, P.; Furman, I.; Weiss, R. G. J. Phy. Chem. 1995, 99, 9558 and references therein.:Abdallach, D. J.; Weiss, R. G. Adv. Mater. 2000, 12, 1237.:Hanabusa, K.; Yamada, M.; Kimura, M.; Shirai, H. Angew. Chem. Int. Ed. 1996, 35, 1949.:Loos, M.; Esch, J. v.; Stokroos, I.; Kellogg, R. M.; Feringa, B. L. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 12675.:Schoonbeek, F. S.; Esch, J. v.; Hulst, R.; Kellogg, R. M.; Feringa, B. L. Chem. Eur. J. 2000, 6, 2633.:Esch, J. v.; Feringa, B. L. Angew. Chem., Int. Ed. 2000, 39, 2263.:Melendez, R.; Geib, S. J.; Hamilton, A. D. Molecular Self-Assembly Organic Versus Inorganic Approaches, Fujita, M., Ed.; Springer, 2000.:Carr, A. J.; Melendez, R.; Geib, S. J.; Hamilton, A. D. Tetrahedron Lett. 1998, 39, 7447.:Shi, C.; Kilic, S.; Xu, J.; Enick, R. M.; Beckman, E. J.; Carr, A. J.; Melendez, R. E.; Hamilton, A. D. Science 1999, 286, 1540.)。
【0003】
このようなゲル化剤をSEMやTEMで観察することにより、非共有結合相互作用により形成された低分子量の化合物の繊維状集合体が、このようなゲル化現象を引き起こすということが分かってきた。特に「水性ゲル」は、通常タンパク質やポリマーのような高分子から作られ、低分子量の一次元の集合体であって自己凝集によって形成される可逆性の高次構造を有する「有機ゲル」と異なって、この複雑な相互作用を特定するのが困難である。しかし、低分子量の化合物のこのような集合体から成る「水性ゲル」が少数存在する(Estroff, L. A.; Hamilton, A. D. Angew. Chem. Int. Ed. 2000, 39, 3447. : Fuhrhop, J.-H.; Schnieder, P.; Rosenbery, J.; Boekema, E. J. Am. Chem. Soc. 1987, 109, 3387. : Fuhrhop, J.-H.; Boettcher, C. J. Am. Chem. Soc. 1990, 112, 1768. : Yoza, K.; Ono, Y.; Yoshihara, K.; Akao, T.; Shinmori, H.; Takeuchi, M.; Shinkai, S.; Reinhout, D. L. Chem.Commun. 1998, 907. : Menger, F.; Caran, K. J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 11679. : Hanbusa, K.; Hirata, T.; Inoue, D.; Kimura, M.; Touhara, H.; Shirai, H. Colloid. Sur., A. 2000, 169, 387.)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
発明者らが知る限りにおいて、水性ゲルの微視的構造は未だにNMRやX線等の測定方法により詳細に明らかにされていない。発明者らは水中で形成される新規な糖由来の集合体の開発に焦点を当てた(John, G.; Masuda, M.; Okada, Y.; Yase, K.; Shimizu, T. Adv. Mater. 2001, 13, 715. : Masuda, M.; Hanada, T.; Okada, Y.; Yase, K.; Shimizu, T. Macromolecules 2000, 33, 9233. : Nakazawa, I.; Masuda, M.; Okada, Y.; Hanada, T.; Yase, K.; Asai, M.; Shimizu, T. Langmuir 1999, 15, 4757. : Shimizu, T.; Masuda, M. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 2812.)。
このシステムの利点は、炭水化物ファミリーの豊富な基本骨格を利用して、様々な集合体を系統的に設計できることである。
発明者らは、いくつかのゲル化剤を設計し、これらについてこのような解析を行うことにより、有機溶媒及び水の双方に対し優れたゲル形成能力を有するゲル化剤についての研究を行った。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは既にグルコース由来のゲル化剤が水/アルコール(容積比1:1)又は水/アセトン(容積比1:1)をゲル化することを見出した(John, G.; Masuda, M.; Okada, Y.; Yase, K.; Shimizu, T. Adv. Mater. 2001, 13, 715.)。この発見は、もし適当な疎水性基と同様に糖についても注意深く研究すれば、いくつかの新規な水性ゲル化剤が見つかるかもしれないということを示唆しており、これは水性ゲルを設計するための基本的構造要件が何であるかを特定するのに有用であると考えられる。このような目的の下に、糖部分、アミノフェニル及び長鎖アルキル基を有する新規なゲル化剤を設計した。
【0006】
このような研究の結果、発明者らは下記化学式
JP0004164247B2_000002t.gif(式中、Aは糖の残基を表し、Rは炭素数が6~20の直鎖のアルキル基を表す。)で表されるゲル化剤が有機溶媒及び水の双方に対し優れたゲル形成能力を有することを見出した。
このゲル化剤の一端を成す長鎖アルキル基は有機溶剤への溶解性を向上させるが、同時にファンデアワールス力により繊維の集合を促進させ、最終的にゲルを形成させる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明を限定することを意図するものではない。
本発明のゲル化剤は下記化学式
JP0004164247B2_000003t.gifで表される。
ここで、Aは糖の残基を表す。この糖は単糖類、オリゴ糖類、又は多糖類のいかなる糖であってもよいが、単糖類であることが好ましい。この単糖類としては、グルコース、ガラクトース、N-アセチルグルコサミンなどのヘキソース、Lアラビノシドやキシロースのペント-スなどいずれでもよいが、特にアルドピラノースが好ましい。ピラノースにはα及びβの2種類があるがいずれでもよい。このアルドピラノースとして、α-D-グルコース、α-D-ガラクトース、α-D-マンノース、β-D-グルコース、β-D-ガラクトース、β-D-マンノース、p-ニトロフェニル-α-D-グルコピラノシド、p-ニトロフェニル-α-D-ガラクトピラノシド、p-ニトロフェニル-α-D-マンノピラノシド、p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド、p-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド、p-ニトロフェニル-β-D-マンノピラノシド等が挙げられる。アルドピラノースとしては、グルコピラノース又はガラクトピラノースが好ましい。
【0008】
また、残基とは糖のいずれか一の水酸基の水素を除いた残基を表すが、好ましくはアルドピラノースの6員環に結合するいずれか一の水酸基の水素を除いた残基を表す。
一方、上記化学式中のRは炭素数が6~20の直鎖のアルキル基を表す。炭素数は10~20がより好ましい。
【0009】
本発明のゲル化剤は、少量の固体ゲル化剤で大量の水分を固化することができるので、水の保水剤(砂漠緑化、植物栽培用土の保水剤など)、水分の吸収剤(ペット用トイレの尿吸収剤、生理用水分吸収剤など)、少量のアルコール成分も固化することからアルコール保持剤として燃料用固形物、有機溶媒や油も固化することが出来るので、家庭用油凝固剤、重油固化剤、有機廃液固化剤などとして、さらには、水分を多く含む柔軟な材料として生体適合性材料、組織・細胞培養マトリクス、タンパク質や核酸などの生体材料分離剤などへ応用できる。
【0010】
【実施例】
以下の実施例において、本発明によるゲル化剤を作製し、この水中における集合特性を、EF-TEM(エネルギーフィルター付透過型電子顕微鏡)(Nakazawa, I.; Masuda, M.; Okada, Y.; Hanada, T.; Yase, K.; Asai, M.; Shimizu, T. Langmuir 1999, 15, 4757.)、NMR、FT-IR及びXRDにより解析した。
【0011】
実施例1
p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド(東京化成製)(250mg)をメタノール/テトラハイドロフラン混合溶媒(20ml/5ml)に溶解させ、10%パラジウム炭素(250mg)をその溶液中に加えた。水素ガスを窒素ガス雰囲気下、室温で3時間、反応溶液中に導入した。反応混合物はパラジウム炭素を除去するために濾過を行い、ろ液を真空下蒸発させ、乾固させた。この残査をテトラハイドロフラン/クロロホルム混合溶媒(1/1,容積比)を溶離液とするシリカゲルカラムクトマトグラフィーを用いて精製して、p-アミノフェニル-β-D-グルコピラノシドを得た。
Yield 80-90 %; 1H NMR (300MHz, DMSO- d6): δ =3.44-4.10 (m, 6H), 4.76 (s, 2H), 5.25-5.31 (m, 3H), 5.60(s, 1H), 6.70 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 6.95 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 7.37-7.46 (m,5H); FT-IR (KBr): ν= 3312, 2909, 1635, 1510, 1364, 1217, 1089, 1005, 1035, 999, 806, 706 cm-1; MS (NBA): m/z: 360 [M+H]+; elemental analysis calcd (%) for C19H21NO6: C 63.50, H 5.89, N 3.90; found: C 63.18, H 6.04, N 3.78.
【0012】
このようにして得たp-アミノフェニル-β-D-グルコピラノシド(250mg)をテトラハイドロフラン(20ml)に溶解させ、ラウロイルクロリド(300mg)とトリエチルアミン(1.0g)を加えた。反応混合物は5時間、環流した。反応溶液は濾過して、固体を除去し、ろ液は真空下、蒸発させて乾固させた。残査はメタノール/クロロホルム(1/1,容積比)を溶離液としたシリカゲルクロマトグラフィーで精製して、ドデカノイルアミノフェニル-β-D-グルコピラノシドを得た。
Yield 80 %; 1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ = 0.9 (t, 3H), 1.5-3.0 (m, 15H), 3.50-4.13 (m, 6H), 4.76 (s, 2H), 5.25-5.31 (m, 3H), 5.63 (s, 1H), 6.70 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 6.98 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 7.30 (d, 2H); FT-IR (KBr): ν= 3340, 2912, 1630, 1510, 1364, 1217, 1089, 1005, 1035, 999, 806, 706 cm-1; MS (NBA): m/z: 452.27 [M+H]+; elemental analysis calcd (%) for C24H37NO7: C 63.84, H 8.26, N 3.10; found: C 62.15, H 8.37, N 3.30
【0013】
実施例2
実施例1のp-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシドの代わりにp-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド(東京化成製)を用いて同様の操作を行い、p-アミノフェニル-β-D-ガラクトピラノシドを得た。
更に、実施例1のp-アミノフェニル-β-D-グルコピラノシドの代わりにここでで得たp-アミノフェニル-β-D-ガラクトピラノシドを用いて同様の操作を行い、ドデカノイルアミノフェニル-β-D-ガラクトピラノシドを得た。
Yield 90 %; 1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ = 0.9 (t, 3H), 1.5-3.0 (m, 15H), 3.50-4.13 (m, 6H), 4.76 (s, 2H), 5.25-5.31 (m, 3H), 5.63 (s, 1H), 6.70 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 6.98 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 7.30 (d, 2H); FT-IR (KBr): ν= 3340, 2912, 1630, 1510, 1364, 1217, 1089, 1005, 1035, 999, 806, 706 cm-1; MS (NBA): m/z: 452.27 [M+H]+; elemental analysis calcd (%) for C24H37NO7: C 63.84, H 8.26, N 3.10; found: C 63.15, H 8.25, N 3.15.
【0014】
上記実施例で得たドデカノイルアミノフェニル-β-D-グルコピラノシド及びドデカノイルアミノフェニル-β-D-ガラクトピラノシド(各1mg)をそれぞれ試験管内に量り取り、水(900mg)とメタノール(100mg)の混合溶媒を加えた。完全に溶解させるために、加熱した。そのあと、ゆっくりと冷却し、約2~5時間、室温下で放置することにより、逆さまにしても形態がくずれない水和ゲルが得られた。
【0015】
ゲル形成能力の評価結果
ゲル形成能力の評価を以下のようにして行った。
溶媒として、水(微量のメタノールとエタノールを含む。)、メタノール、エタノール、1-ブタノール、t-ブタノール、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、n-ヘキサン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドを用いた。
実施例で作製した2種のゲル化剤をシールされた試験用チューブの中で上記いずれかの溶媒と、ゲル化剤の濃度を0.1~3.0重量%となるように混合し、この混合物を固形分が溶解するまで加熱する。その結果生成した溶液を1時間かけて25℃まで冷却した。このゲル化剤及び溶媒は隔膜でキャップされた試験管に入れられオイルバス中で固形物が溶解するまで加熱される。この溶液を25℃まで冷却する。
この段階で、1-ブタノール、t-ブタノール、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、n-ヘキサン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及び水の各溶剤についてはいずれのゲル化剤も安定なゲルを形成することが観測されたが、メタノールとエタノールについては溶解した。本発明のゲル化剤が0.1重量%以下の濃度で少量のアルコール(約1重量%、即ち、ゲル化剤1分子に対して水50000分子以上に相当する。)を含む水をゲル化したことは非常に興味のあることである。これらの結果は本発明のゲル化剤が水と有機溶媒の両方に機能する両性ゲル化剤であることを示している。
【0016】
糖部分から生じるキラル集合を視覚的に観察するために、本発明のゲル化剤による水性ゲルのEF-TEM及びSEM画像を図1~3に示す。図1及び図3は本発明のゲル化剤による水性ゲルの典型的な写真である。これらの写真はこのゲル化剤が直径が20~500nmのしわ状繊維から成る3次元ネットワークを形成していることを明らかにしている。SEM写真(図3)から判断すると、いくつかのリボン状構造体がよじれており、左らせん性を有していることがわかる。更に、キラル集合体のTEM分析によれば、繊維が、幅が約85nmでピッチが約315nmで長さが数μmである、よじれたらせん状リボンであって、特異的に左らせん性であることがわかる(図2)。これらのらせん状集合体は、熱的に安定な結晶ではなく順安定なゲルを形成することを説明するものである。
【0017】
更に、本発明のゲル化剤による水性ゲルのH-NMR測定結果はこの水性ゲルが自己集合していることの別の証拠となる。図4左に示すように、27℃において、集合体のゲル相の芳香族のピークが7.43ppm(d、J=8.61Hz、H(Hについては下記化学式参照))と7.38ppm(d、J=8.61Hz、H(Hについては下記化学式参照)))に見られる。
JP0004164247B2_000004t.gif加熱するに従って、徐々に7.60ppm(d、J=8.61Hz、H)と7.28ppm(d、J=8.61Hz、H)の新しいピークが現れ、7.43ppmと7.38ppmのピークは消えてゆく。芳香族プロトンH及びHの化学シフトの差はπ-πスタッキングと水素結合に起因するものであろう。このことは、水素結合の誘導効果が大きすぎて、π-πスタッキング相互作用によるHの上方へのシフトを相殺することができないという事実を考慮することにより説明がつく。同様の現象が糖部分のC-1位の芳香族プロトンにおいて観察された(図4右)。集合体と非集合体で別のスペクトルが現れたということは、化学交換がNMRの時間スケールよりも遅いことを示している。この結果は、ゲル相における水素結合とπ-πスタッキング相互作用によって安定化された集合体をH-NMRスペクトルにより初めて観察したものであり、芳香族単位が構造上の強度を引き起こし、また水性ゲルの形成を手助けすることを強力に支持するものである。FT-IRの観察によって、水性ゲルにおける分子内水素結合相互作用についての有用な情報を得ることは非常に困難でありほとんど不可能であるので、発明者らはDOシステム内において分子内水素結合相互作用の証拠を確認した。重水素化された水性ゲルのFT-IRスペクトルは1645cm-1(-C=O、アミドI)及び1514cm-1(-NH、アミドII)における吸収バンドにより特徴付けられた。更に、シクロヘキサンゲルについても、3398cm-1(-OH)、3298cm-1(-NH)及び1658cm-1(-C=O)のIRバンドが観察され、同様の結果が得られた。これらの結果は水性ゲルのアミド基が、ゲル相の分子内水素結合を形成するだけでなく、シクロヘキサンゲルよりも強い水素結合相互作用があることを示すものである。
【0018】
最近、ゲル相のゲル化剤の分子充填を確認するためのX線結晶学的手法に関していくつかの報告がなされており、低分子量のゲル化剤のゲル化機構を明らかにするため用いられつつある(Terech, P.; Weiss, R. G. Chem. Rev. 1997, 3313. : Hanabusa, K.; Matsumoto, M.; Kimura, M.; Kakehi, A.; Shirai, H. J. Colloid Interface Sci. 2000, 224, 231. : Abdallah, D. J.; Sirchio, S.; Weiss, R. G. Langmuir 2000, 16, 7558. : Sakurai, K.; Ono, Y.; Jung, J. H.; Okamoto, S.; Sakurai, S.; Shinkai, S. J. Chem. Soc., Perkin Trans. 2 2001, 108.)。しかし、ゲル化剤分子の分子充填と物理的ゲル化特性との間の関係は未だによく分かっていない。凍結法によって水から得られた本発明のキセロゲルはスポンジ状集合体となるが、典型的な結晶にはならない。発明者らは、このキセロゲルのX線回折から整然としたゲルにおけるゲル化剤分子の分子充填モードに関する情報を得た。本発明のキセロゲルの回折パターンは周期的な回折ピーク(図5)を示し、このことはこのキセロゲルが実際層状組織となって集合していることを示している。XRD法によって得られた集合体の間隔(d)は約2.90nm、1.46nm及び0.97nmであり、これはほぼ正確に1:1/2:1/3の比であり、ゲル化剤の分子長(CPK分子モデルによれば、2.45nm)の2倍より短く、1分子より長い。キセロゲルで観測されたこの2.90nmのピークはゲル状態においても観察された(図6)。これらの結果は本発明の水性ゲルが、厚さが2.90nmの(100)面に相当する分子膜を有する指組状の2分子膜構造を有していることを強く示唆する(図7)。更に、本発明の水性ゲルの広角X線ダイアグラムは、一連の鋭い反射ピークを示しており、このことは、長鎖アルキル基が、指組状の疎水性相互作用により規則的な層状高密度充填を形成するとの仮説的見方を指示する。これはよく整った2分子層の水性ゲルが形成したことの最初の例である。XRD、FT-NMR及びFT-IRの結果から、本発明の水性ゲルは水素結合、π-π相互作用及び疎水性力の組み合わせにより安定化していることをが分かった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のゲル化剤を用いて作製した水性ゲルのEF-TEM写真である。
【図2】本発明のゲル化剤を用いて作製した水性ゲルのEF-TEM写真であり、図1の拡大図である。矢印はらせん状繊維を示す。
【図3】本発明のゲル化剤を用いて作製した水性ゲルのSEM写真である。
【図4】DO及びメタノール-d(容積比:1/1)中の水性ゲルのH-NMRスペクトルである。
【図5】キセロゲルのXRDスペクトルである。
【図6】水性ゲルのXRDスペクトルである。
【図7】水性ゲルの自己凝集の様子を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6