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明細書 :微細自己集合体の製法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4052553号 (P4052553)
公開番号 特開2003-259893 (P2003-259893A)
登録日 平成19年12月14日(2007.12.14)
発行日 平成20年2月27日(2008.2.27)
公開日 平成15年9月16日(2003.9.16)
発明の名称または考案の名称 微細自己集合体の製法
国際特許分類 C12P  19/44        (2006.01)
FI C12P 19/44
請求項の数または発明の数 4
全頁数 12
出願番号 特願2002-061797 (P2002-061797)
出願日 平成14年3月7日(2002.3.7)
審判番号 不服 2003-021076(P2003-021076/J1)
審査請求日 平成14年3月7日(2002.3.7)
審判請求日 平成15年10月30日(2003.10.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
発明者または考案者 【氏名】鵜沢 浩隆
【氏名】清水 敏美
【氏名】曽 暁雄
【氏名】箕浦 憲彦
【氏名】ジョージ,ジョン
個別代理人の代理人 【識別番号】100110249、【弁理士】、【氏名又は名称】下田 昭
参考文献・文献 特表平9-503905(JP,A)
特開平10-33194(JP,A)
Advanced Materials(2001)Vol.13,No.10,p.715-718
European Journal of Biochemistry(1990)Vol.191,p.75-83
調査した分野 C12P19/00-19/64
WPI
BIOSIS
MEDLINE
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式
【化1】
JP0004052553B2_000011t.gif
(式中、Gは2~6の単糖が結合したオリゴ糖残基を表し、Rは炭素数6~25の炭化水素基を表し、炭化水素基(R)は-O-G基に対してメタ位にある。)で表わされる構造を有するO-グリコシド型糖脂質から成る微細自己集合体の製法であって、1)下記一般式
【化2】
JP0004052553B2_000012t.gif
(式中、Xはグリコシル基又は2~5の単糖が結合したオリゴ糖残基を表し、Rは上記と同様であり、炭化水素基(R)は-O-X基に対してメタ位にある。)で表わされる構造を有するO-グリコシド型糖脂質から成る微細自己集合体、2)Xに含まれる糖とは異なる種類の単糖、及び3)糖転移酵素を水中で反応させることから成る微細自己集合体の製法。
【請求項2】
1)下記一般式
【化2】
JP0004052553B2_000013t.gif
(式中、X及びRは上記と同様である。)で表わされる構造を有するO-グリコシド型糖脂質から成る微細自己集合体、2)Xに含まれる糖とは異なる種類の単糖と核酸の複合体、及び3)糖転移酵素を水中で反応させることから成る請求項1に記載の製法。
【請求項3】
前記糖転移酵素がガラクトース転移酵素、シアル酸転移酵素、又はフコース転移酵素である請求項2に記載の製法。
【請求項4】
反応系に、ラクトアルブミン又はアルブミンを共存させる請求項2又は3に記載の製法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、糖脂質が自発的に集合して形成されるナノチューブ及びナノファイバーのような微細自己集合体に、水溶液中穏和な条件にて、酵素化学的に更に糖を付加させた微細自己集合体の製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の天然植物資源から分離精製したカルダノールを出発原料として合成されたグルコース置換長鎖アルキルフェノール誘導体であるカルダニルグルコシドは、水中において加熱溶解し徐冷することで糖鎖の水素結合によりナノチューブ状凝集体を形成することが知られている(G. John, M. Masuda, Y. Okada, K. Yase, and T. Shimizu, Adv. Mat., 13, 715 (2001))。
本発明者らは、このような自己集合体の製造方法(特願2001-363762、特願2002-35035等)や糖鎖にオリゴ糖を用いた自己集合体(特願2002-49238)を開示している。これらにおいては、糖鎖として、グルコース、ガラクトース、マンノースなどの単糖やラクトースなどの多糖類が用いられており、これらの凝集体の表面は、均一(同一)の糖で覆われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、2種類以上の異なる種類の糖もしくは糖鎖を同時に有するナノチューブ及びナノファイバーは知られていない。
従来、固体表面上への糖鎖の導入、あるいは、既に存在する糖に、別の糖を導入する方法として、いわゆる固相合成法が知られているが(例えば、眞鍋、伊藤、高分子、47巻、96ページ、1998年)、ナノチューブ及びナノファイバーのような液晶と結晶の中間の性質を有する自己集合体に対しては、固相合成による糖鎖の導入、修飾などはおこなわれておらず、また、この固相合成法は、そのほとんどが、有機合成化学的アプローチである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上述した従来技術の実状に鑑みてなされたものであり、自己集合体の表面に存在する糖脂質を酵素化学的な穏和な条件下で第2の糖を結合させて、新規な糖鎖を表面に構築する方法を提供する。また、この方法を繰り返すことにより糖鎖を連続的に導入し、より複雑な糖鎖残基を構築することができる。
即ち、本発明は、下記一般式
【化1】
JP0004052553B2_000002t.gif(式中、Gは2~30の単糖が結合したオリゴ糖残基を表し、Rは炭素数6~25の炭化水素基を表す。)で表わされる構造を有するO-グリコシド型糖脂質から成る微細自己集合体の製法であって、1)下記一般式
【化2】
JP0004052553B2_000003t.gif(式中、Xはグリコシル基又は2~29の単糖が結合したオリゴ糖残基を表し、Rは上記と同様である。)で表わされる構造を有するO-グリコシド型糖脂質から成る微細自己集合体、2)単糖又はその誘導体、及び3)糖転移酵素又は糖分解酵素を水中で反応させることから成る微細自己集合体の製法である。
【0005】
この方法において、1)下記一般式
【化2】
JP0004052553B2_000004t.gif(式中、X及びRは上記と同様である。)で表わされる構造を有するO-グリコシド型糖脂質から成る微細自己集合体、2)単糖と核酸の複合体、及び3)糖転移酵素を水中で反応させてもよい。この糖転移酵素はガラクトース転移酵素、シアル酸転移酵素、又はフコース転移酵素であることが好ましく、この反応系が更に蛋白質を含むことが好ましい。
【0006】
また、上記方法において、1)下記一般式
【化2】
JP0004052553B2_000005t.gif(式中、X及びRは上記と同様である。)で表わされる構造を有するO-グリコシド型糖脂質から成る微細自己集合体、2)置換されていてもよいアリール基と単糖残基との結合体、及び3)糖分解酵素を水中で反応させてもよい。この糖分解酵素はアルファガラクトシダーゼ、ベータガラクトシダーゼ、シアリダーゼ、アルファグルコシダーゼ、又はベータグルコシダーゼであることが好ましい。
また、これらの製法において、前記反応を多段階行うことにより、糖を多段階で導入してもよい。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明で処理の対象となる自己凝集体を構成する化合物は、下記一般式
【化2】
JP0004052553B2_000006t.gifで表わされるO-グリコシド型糖脂質である。
本発明においては、炭化水素基(R)は-O-X基に対してo位、m位又はp位のいずれにあってもよいが、メタ(m)位にあることが好ましい。
前記一般式(化2)におけるXはグリコシル基又は2~29の単糖が結合したオリゴ糖残基、好ましくはグリコシル基又は2~4の単糖が結合したオリゴ糖残基2~5、より好ましくはグリコシル基である。このようなものとしては、例えばグルコピラノース、ガラクトピラノース、マンノピラノース、アロピラノース、アルトロピラノース、グロピラノース、イドピラノース、タロピラノースのようなアルドピラノース及び対応するアルドフラノースの還元末端の水酸基から水素原子を除いた残基、ラクトース、メリビオース、セロビオース、及びガラクトシル-α(1→4)ガラクトースなど市販で入手可能な化合物、又は化学合成あるいは酵素合成で得られるオリゴ糖などが挙げられる。還元末端のアノマー位のグリコシド結合はα-アノマー及びβ-アノマー及びそれらの混合物のいずれであってもよい。
【0008】
一方、前記一般式(化1又は2)におけるRは、炭素数が6~25、好ましくは14~16、より好ましくは15の炭化水素基であり、好ましくは飽和又は二重結合を1~5、好ましくは1~3含む不飽和の脂肪族炭化水素から成る脂肪族炭化水素である。この炭化水素は好ましくは直鎖である。このような炭化水素基としては、例えば、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基や、これらに不飽和結合としてモノエン、ジエン、トリエンなどを含むものが挙げられるが、原料の入手が容易であるという点で、8-ペンタデセニル基、8,10-ペンタデカジエニル基、8,10、12-ペンタデカトリエニル基が好ましい。
【0009】
前記一般式(化2)で表わされるO-グリコシド型糖脂質は例えば次に示す方法により製造することができる。
水酸基がすべてアセチル基で保護されたオリゴ糖を一般式
【化3】
JP0004052553B2_000007t.gif(式中、Rは前記と同様である。)で表わされる長鎖炭化水素フェノールに添加し、水酸基部分にグリコシド結合させ、次に糖残基のアセチル保護基を除去することにより、糖置換長鎖炭化水素フェノール誘導体を得ることができる。
アセチル化の手順として下記に一例を示す。オリゴ糖をドライピリジンに溶解させ、無水酢酸を加え、室温~40℃で1時間~1晩磁気撹拌する。この際、ジメチルアミノピリジンを反応系に加えておくと反応が速く進行する。トルエンとエタノール の混合溶媒で5~7回共沸させピリジンを除き、残渣をクロロホルムに溶かし、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び水で数回洗う。濃縮しシリカゲルカラムで精製し、濃縮して乾燥させる。
【0010】
本発明においては微細自己集合体の製法に特に制限はないが、上記O-グリコシド型糖脂質を水に分散後、マントルヒーターを用いて加熱、約20分沸騰し、室温まで自然冷却、微細自己集合体が出来るまで室温に放置することにより得ることができる(特願2000-271192、特願2001-363762等)。
【0011】
次に、本発明の微細自己集合体の合成法の一例について説明する。
まず、上記のようにして微細自己集合体(基質)を形成させ、この基質をHEPES緩衝液やリン酸緩衝液中で、糖転移酵素又は糖加水分解酵素、好ましくはの糖転移酵素存在下、単糖残基を含むドナーを基質に対して過剰量(例えば、基質に対して等重量~100倍重量)用いて、室温~50℃、好ましくは35℃近辺で、1分~30日間、緩やかに浸透又は放置して反応させる。
このHEPES緩衝液やリン酸緩衝液の濃度は、好ましくは0.01mM~10mM、より好ましくは10mM~100mMであり、pHは、好ましくは4~8、より好ましくは6.5~7.8である。
酵素の量は、基質に対して触媒量もしくは、過剰量(例えば、100倍)であり、これをユニットで表すと、1mU~10000000U、好ましくは10mU~1Uである。
【0012】
この反応は用いる酵素により異なる。それぞれの場合に分けて説明する。
(1)糖転移酵素を用いる場合:
水中で、1)上記基質、2)単糖と核酸の複合体、及び3)糖転移酵素を反応させる。
核酸としてはUDPやCMPなど用いる酵素の反応性を考慮して選択する。複合体はこの核酸のリン酸部位と単糖の主に1位の水酸基とが結合した複合体であり、リン酸部とナトリウムなどのアルカリ金属とが結合したものでもよい。また必要に応じて、触媒量(例えば、UDP-糖に対して1~10重量%)のMn2+(例えば、MnCl)を添加してもよい。このような複合体としては、例えば、UDP-糖 (例えば、uridine 5’-diphosphogalactose)、CMP-糖(例えば、cytidine 5’-monophospho-N-acetylneuraminic acid)などが挙げられる。
糖移転酵素としては、例えば、ガラクトース転移酵素(国際生化学連合(IUB)酵素委員会報告による番号:EC. 2.4.1.22)、シアル酸転移酵素(EC. 2.4.99.1)、フコース転移酵素(EC. 2.4.1.69)などが挙げられる。
【0013】
糖転移酵素を使用するときには、反応の経過にともない生成するジリン酸誘導体を分解するためのアルカリフォスファターゼのような酵素(その量は、1mU~10000U、好ましくは10mU~10Uである。)が必要となる場合がある。さらに、対象とする基質の糖脂質(例えば、グルコース)に第2の糖を導入する場合には、ラクトアルブミンやアルブミンのような共存蛋白質(通常は、糖転移酵素に対して等モル以上。)が必要となる場合がある。
この蛋白質は、任意成分であるが、反応液内において酵素と錯体を形成し、糖供給源を微細自己集合体表面に存在する糖残基に転移させる働きをすると考えられ、この蛋白質がないと、転移の効率が大幅に減少する場合がある(Schanbacher, F. and Ebner, k. E., J. Biol. Chem., vol.245, pp5057 (1970), Brew, K., et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.59, pp491 (1968), Fitzgerald, D.K., et al., J. Biol. Chem., vol.245, pp2103 (1970), Narimatsu, H., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.83, pp4720 (1986))。
【0014】
(2)糖加水分解酵素を用いる場合:
水中で、1)上記基質、2)置換されていてもよいアリール基と単糖残基との結合体、及び3)糖分解酵素を水中で反応させる。
アリール基は糖残基と結合することにより糖残基を活性化させ、糖加水分解酵素の攻撃を受けやすくするものと考えられ、好ましくはフェニル基である。この機能を強化するためにこのアリール基は例えばニトロ基のような置換基を有していてもよい。
このような結合体として、例えば、4-nitrophenyl 糖 (例えば、4-nitrophenyl β-D-galactopyranoside)、2-nitrophenyl 糖 (例えば、2-nitrophenyl β-D-galactopyranoside)、umbelliferyl 糖 (例えば、umbelliferyl β-D-galactopyranoside)のように、糖のアグリコン部分に芳香族を導入した活性化された糖が挙げられるが、フリーの糖そのもの、又は、糖-別の糖(例えば、ラクトースなど)を用いても反応を行うこともできる。
このような結合体又は糖は糖加水分解酵素により分解され、分解された糖残基は基質(先の微細自己集合体)の糖に結合する。
糖加水分解酵素としては、例えば、アルファガラクトシダーゼ(EC. 3.2.1.22)、ベータガラクトシダーゼ(EC. 3.2.1.23)、シアリダーゼ(EC. 3.2.1.18)、アルファグルコシダーゼ(EC. 3.2.1.20)、ベータグルコシダーゼ(EC. 3.2.1.21)などが挙げられる。
【0015】
このような酵素反応の好ましい反応時間は、24時間~240時間である。酵素及びドナーは、数回にわたり分割して加えてもよい。
また、反応が進行するに伴い、pHが減少(酸性サイドに傾く)するため、0.1N KOHやNaOHのような塩基性水溶液で中和をすることが望ましい。pHは、7.8を越えないようにするのが好ましい。
反応後の生成物の精製には、500-20000rpmで1分~1時間、遠心分離する。未反応試薬を除くため、同一の緩衝液又は、蒸留水などで数回洗浄をおこなう。
このようにして、第2の糖が導入したナノチューブ及びナノファイバーに対して、上記の方法を繰り返し行うことにより、既に存在する第2の糖に対して第3の糖を導入できる。これを繰り返して、n個の糖を順次導入し、糖鎖表面修飾ナノチューブ及びナノファイバーを構築できる。
【0016】
糖鎖導入率を調べるためには、酵素反応終了後、いったん、ナノチューブ及びナノファイバーを0.1-1.0Mトリフルオロ酢酸のような強酸で、各糖及びアグリコン部分のアルコールとに完全加水分解を行い(80~100℃、10分~5時間)、ここで、脂溶性のアグリコン由来の長鎖芳香族アルコールを除去し、水溶性の各構成糖を4-アミノ安息香酸エチルエステルのような蛍光発色団又は紫外可視発色団を酢酸-BH・ピリジン錯体中、50-100℃で10分-3時間反応させ、蛍光標識した各糖誘導体へと変換する。つぎに、例えば、0.2Mホウ酸カリウム緩衝液(pH8.9)/アセトニトリル(93/7,v/v)、又は、0.02%TFA/アセトニトリル(1:1,v/v)などを溶離液に用い、逆相カラム(C-18など)で室温~40℃にてHPLC分析を行うと、ガラクトース、マンノース、グルコースなどが溶出され、それらのピーク面積より、各構成糖の割合を求めることができる。蛍光によるモニターは、Ex.305nm,Em.360nmで、UVによるモニターは、305nmが好ましい。通常、第2の糖の導入率は、1~30%程度である。また、HPLC分析においては、スタンダードとなる糖を上記と同様の方法により、サンプルと同時に誘導体へと変換し、検量線を作成することが好ましい。
【0017】
上記のHPLC分析の他、ナノチューブ及びナノファイバーに対して、新たに導入した糖を分析する方法として、蛍光標識したレクチンを利用することもできる。使用するレクチンには、導入した糖に対応して認識する標準レクチンが市販されている。例えば、グルコースに対しては、例えば、concanavalin A由来(以下、Con Aという。)の、ガラクトースに対しては、Erythrina由来(以下、ECAという。)のレクチンがそれぞれ対応する。また、蛍光発色団には、FITC標識、TRITC標識、texas redなどがあげられ、いずれもレクチンに結合したものが市販されている。
【0018】
上記蛍光標識したレクチンを用いた、糖残基の確認は、次のようにしておこなう。上記記載の糖脂質の自己集合化により形成されるナノチューブ及びナノファイバー(基質)をHEPES緩衝液やリン酸緩衝液(いずれも、0.01mM~10mM、通常は、10mM~100mMが好ましい。また、pHは、4~8であるが、pH6.5~7.8が好ましい)中、市販の蛍光標識レクチンを予想される糖残基に対して、等モル~100倍等量となるよう加える。通常は、数種類のモル等量の異なるレクチンを用意しておき、最適なものを選択する。レクチンにCon Aを使用するときには、この他に、マンガンイオン(通常は、1mM~100mM)が必要である。30分~2日間、0℃~40℃で、ゆっくりと浸透させるか、放置して反応させる。通常は、20時間、室温下で放置する。
反応終了後の「後処理」は、前記記載の方法と同様である。また、該ファイバー及びチューブの蛍光標識観察には、蛍光顕微鏡下でおこなう。
【0019】
また、対照実験として、糖に対して結合能を持たないレクチンを用いて、結合しないことの確認も必要である。さらに、必要であれば、阻害実験もおこなう。つまり、ナノチューブ及びナノファイバーの表面に存在する糖と同一の糖を、等モル~100倍過剰に加えておき、これに、蛍光標識レクチンを加え、該ファイバー及びチューブが標識されないことを確認することが好ましい。
必要に応じて、金コロイド微粒子などのレクチンを用いて、電子顕微鏡下(TEM,SEMなど)で、直接、糖残基の存在を確認することもできる。実験の手順は、上記と同様である。また、上記に記載の対照実験や阻害実験も必要に応じておこなうことが好ましい。
【0020】
【発明の効果】
本発明のような微細自己集合体の構造は、46℃以上の温度及び有機溶媒の存在下では安定ではなく、46℃以下の温度で、水の中でのみ安定に存在し得うる[cf. G. John, M. Masuda, Y. Okada, K. Yase, T. Shimizu, Advanced Materials, vol.13, pp715 (2001)]。このことは、仮に、該ナノチューブを修飾しようとするのであれば(例えば、該ナノチューブ表面に、別の糖鎖を導入しようとするのであれば)、有機合成化学的に種々の試薬を用い、有機溶媒中で糖を導入するか、もしくは、該ナノチューブが安定に存在し得る水溶液中にて、酵素を用いてマイルドに糖を導入するかのいずれかとなる。前者の場合、上記の理由により操作は困難である。本発明の方法によれば、自己集合時の水中もしくは、イオン強度の抑えられた緩衝液中で、有機溶媒を何ら使用することなく、生体反応に類似するほど穏和な条件で、酵素化学的に新規な糖もしくは糖鎖を導入することができる。
【0021】
また、本発明の方法によれば、一旦ナノファイバーのような微細自己集合体を形成させて、その糖鎖に更に所望の糖鎖を結合させることができる。例えば、NeuAcアルファ2-3(又は6)Galベータ1-4GlcNAc(Y. Suzuki et al., J. Biol.Chem., vol.261,pp17057-17061.)のようなインフルエンザウイルスと結合できる天然のリガンド糖鎖をα2→6結合で結合させることができれば、インフルエンザウイルスなどの病原性ウイルスを、捕捉・中和できる。更に、O-157又はそれの生産するベロ毒素と結合するGalアルファ1-4Galの構造を有する糖鎖(K. Karlsson et al., J. Biol. Chem., vol.260, pp8545 (1985).)をα1→4結合で導入できれば、病原性大腸菌O-157そのもの、もしくは、それの生産するベロ毒素を効果的に結合できる。このように、導入する糖鎖として、意義のある配列を有する糖鎖(これをリガンド糖鎖という)を導入できれば、特定の有害ウイルス、病原性細菌、毒素などを特異的に結合できるナノチューブ及びナノファイバーを提供することができる。
【0022】
【実施例】
以下、実施例にて本発明を例証するが、本発明を限定することを意図するものではない。
製造例1
カシューナッツオイルを約400Paで2回真空蒸留し、220℃から235℃の沸点をもつ成分を集めてカルダノールを得た。そのカルダノール1.52g(5ミリモル)を無水塩化メチレン(10ml)に溶解させ、2gのモレキュラーシーブ4Aの存在下、β-D-グルコースペンタアセテート3.9g(5ミリモル)と三フッ化ホウ素ジエチルエーテル0.62ml(5ミリモル)を加えた。この反応混合物を室温で24時間かきまぜたのち、5%-炭酸水素ナトリウム水溶液中に注ぎ込んだ。有機相を分別し、炭酸水素ナトリウム水溶液、続いて水で洗浄したのち、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた。有機溶媒を減圧下で完全に留去し、得られた粗生成物をエタノールから再結晶させた。得られた生成固体をヘキサン/酢酸エチル(容積比7/3)混合溶媒を溶出液としてカラムクロマトグラフイーを行い、白色固体の1-(O-β-D-グルコピラノシドテトラアセテート)カルダノール2.36g(収率75%)を得た。
この生成物の物理的性質は次のとおりである。
JP0004052553B2_000008t.gif【0023】
次に、45質量%のトリメチルアミン水溶液を4倍体積のメチルアルコールと混合させ、得られた1-(O-β-D-グルコピラノシドテトラアセテート)カルダノール(1.26g、2ミリモル)と24時間反応させた。溶媒を減圧下、留去したのち、得られたシロップ状残査をメチルアルコール/アセトニトリル(体積比1/2)混合溶媒から結晶化させ、さらに同一溶媒から再結晶することにより、目的とする脱アセチル化した1-(O-β-D-グルコピラノシド)カルダノール(「カルダニルグルコシド」という。)をほぼ定量的に白色固体0.88g(収率95%)として得た。
この生成物の物理的性質は次のとおりである。
JP0004052553B2_000009t.gifこのカルダニルグルコシドに、メタノール(和光純薬)中、パラジウム(小島化学)の存在下、水素気流下で接触水添を行い、飽和カルダニルβ-D-グルコピラノシドを得た。
【0024】
製造例2
超純水(ミリQ)100mlの入った耐圧ガラス製のオートクレーブ(耐圧硝子工業株式会社製、ハイパークラスターTEM-V100、容量200ml)に製造例1で得た飽和カルダニルβ-D-グルコピラノシド(2.5mg)を加え、Nガスを導入して容器中の酸素ガスと溶存酸素を除去した後、密閉した。攪拌しながら、昇温速度2℃/分で、115℃(分散温度)まで加熱した。この分散温度における系の加圧圧力は0.12MPaであった。この温度に溶液を20分間保持(分散時間)、ヒーターの電源を切り自然に室温まで冷却される条件(冷却速度1.6℃/分)で室温(25℃)に放置した。この温度で3日間保存した後、液中に綿状の浮遊物(ナノファイバー)が肉眼で観察された。
【0025】
実施例1
製造例1で得たナノファイバー3mgを10mMのHEPES緩衝液(関東化学製(18356-40)、pH7.4,0.4mL)にけん濁させ、これに、4mgのUDP-α-D-galactopyranoside 2Na塩(CalBioChem社製(670111))、0.4mgのα-ラクトアルブミン(Sigma製(L5385))、15mUのβ-1,4-galactosyltransferase(CalBioChem社製(345649))、5mMのMnCl(関東化学製(25009-30))、2Uのアルカリフォスファターゼ(和光純薬製(016-14631))を加え、25℃で24時間インキュベートした。反応混合液を6400rpmで遠心分離し(約10分、ミリポア、チビタン使用)、上澄液を捨て、残さに上記の緩衝液及び試薬をすべて加え、同温、同時間インキュベートした。これを合計三回繰り返した。これにより、ナノファイバー表面に存在するグルコース残基にガラクトースを導入した。
ここで、UDP-α-D-galactopyranoside 2Na塩は付加する単糖であるガラクトースの供給源であり、β-1,4-galactosyltransferaseは転移酵素であり、α-ラクトアルブミンは反応液内においてこの酵素と錯体を形成し、ガラクトースをナノファイバー表面に存在するグルコース残基に対して4位に選択的に転移させる働きをすると考えられる。
【0026】
次に、ナノファイバー表面に存在するグルコース残基にガラクトースを導入したことを確認するために、ABEE糖鎖標識化キット(生化学工業製(400871))を用いて、糖導入率を測定した。
10μlの8M TFAに、上記サンプル300μgを加え、100℃で3時間加熱した。室温にまで冷却後、6400rpmで遠心分離し(約10分)、残さを100℃で加熱乾燥させた。乾固した残さを40μlの2-プロパノールに溶かし、再び減圧濃縮した。その残さに、予めメタノールに溶解した蛍光標識薬4-アミノベンゾイルエチルエステルを16.8mgとなるように加え、酢酸170μl,pyridine・BH complex 3.58mgとなるように加え、80℃で60分反応させた。反応後、室温に放置し、それぞれ200μlの蒸留水とクロロホルムを加え、分液し、1000rpmで遠心し、水溶液画分を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析に供した。
【0027】
HPLC分析において、カラムには、Honenpak C18(ホーネン(株)製(800445)、75mm×4.6mm i.d.)を用い、40℃で1.0ml/minの流速で、溶出した。Ex.305nm,Em.360nmでモニターした。同時に、305nmのUVでもモニターした。7%のアセトニトリルを含む0.2Mホウ酸カリウム緩衝液(pH8.9)を溶離液に用いた。その結果を表1に示す。
【表1】
JP0004052553B2_000010t.gifこの結果より、このナノファイバーには、6.6%のガラクトースが新たに導入されたことがわかる。残り(93.4%)は、もともとナノファイバー表面に存在したグルコースである。
【0028】
次に、ナノファイバー表面に導入されたガラクトースを直接確認するため、標識したレクチンをガラクトースと結合させて、蛍光顕微鏡により観察した。
蛍光標識したレクチン(Sigma社製(L3391)、FITC標識したErythrina由来のレクチンで、β-ガラクトース残基に対して結合能(アフィニティー)を有する蛍光標識された蛋白質)0.1mgをとり、これを0.5mlの10mM HEPES(pH7.4)緩衝液に溶解した。次に、上記で作成した該ナノファイバーを約0.1mgとり、同緩衝液で数回置換し、先の蛍光レクチン溶液を300μl加えた。混合物を18時間放置し、上記と同様にして遠心分離を行い、残さに200μlの同HEPES緩衝液を加え、蛍光顕微鏡及び通常の光学顕微鏡で観察した(図1)。
また、グルコース残基を特異的に認識できる別のFITC標識レクチン(Con A、Sigma社製(C7642))を用い、上記と同様の観察を行った(図2)。
これらから、繊維状の像が観察され、ナノファイバー表面に存在するグルコース残基にガラクトースが導入されたことが直接確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】ナノファイバー表面に存在するグルコース残基に導入されたガラクトースと、蛍光標識したレクチンとを結合させたものの蛍光顕微鏡写真(縦75μm×横100μm)を示す図である。
【図2】ナノファイバー表面に存在するグルコース残基に導入されたガラクトースと、FITC標識したレクチンとを結合させたものの蛍光顕微鏡写真(縦75μm×横100μm)を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
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