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明細書 :標的物質の生理的機能を解析する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4288571号 (P4288571)
公開番号 特開2004-347430 (P2004-347430A)
登録日 平成21年4月10日(2009.4.10)
発行日 平成21年7月1日(2009.7.1)
公開日 平成16年12月9日(2004.12.9)
発明の名称または考案の名称 標的物質の生理的機能を解析する方法
国際特許分類 G01N  33/566       (2006.01)
C09B  11/28        (2006.01)
C12Q   1/48        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
G01N  33/542       (2006.01)
FI G01N 33/566
C09B 11/28 J
C12Q 1/48
G01N 33/53 D
G01N 33/68
G01N 33/542
請求項の数または発明の数 10
全頁数 10
出願番号 特願2003-143932 (P2003-143932)
出願日 平成15年5月21日(2003.5.21)
審査請求日 平成18年3月31日(2006.3.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】永井 健治
【氏名】宮脇 敦史
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100095360、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 英二
【識別番号】100093676、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 純子
【識別番号】100112726、【弁理士】、【氏名又は名称】黒田 薫
【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100095360、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 英二
【識別番号】100093676、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 純子
【識別番号】100116850、【弁理士】、【氏名又は名称】廣瀬 隆行
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100124305、【弁理士】、【氏名又は名称】押鴨 涼子
審査官 【審査官】白形 由美子
参考文献・文献 特開2000-206116(JP,A)
特開2002-531810(JP,A)
調査した分野 G01N 33/48-G01N 33/98
C09B 11/28
C12Q 1/48
PubMed
JSTPlus(JDreamII)
JMEDPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
標的物質の生理的機能を不活性化することによってその標的物質の生理的機能を解析する方法であって、
(a)式(I):
【化1】
JP0004288571B2_000003t.gif
(式中、Qはこの化合物を標的物質と結合させるための基である)
で表される光活性化合物を標的物質に結合し、該標的物質と該光活性化合物を含む複合体を形成する工程、及び
(b)得られた複合体に光を照射してその光活性化合物が結合した標的物質の機能、あるいは、その光活性化合物が結合した部位における標的物質の機能を不活性化する工程を含む上記標的物質の生理的機能を解析する方法。
【請求項2】
前記光活性化合物と該標的物質との結合を、該標的物質と結合し得るパートナー物質を介して行う前記請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Qが、-A-Q1で表される、パートナー物質と結合し得る基であり、ここで、Aは化学結合又は鎖中に、炭素、酸素及び窒素から選択される1~9個の原子を含むスペーサー基であり、そしてQ1はイソシアネート基、イソチオシアネート基、塩化スルホニル基、4,6-ジクロロトリアジニルアミノ基、マレイミド基及びヨードアセトアミド基から選択される基である、前記請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
Qが、イソチオシアネート基、塩化スルホニル基又はマレイミド基である前記請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記標的物質が、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、DNA、RNA、糖及びシグナル伝達物質から選択される、前記請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記パートナー物質が、抗体、scFv、Fab、RNA、DNA、タンパク質、ペプチド、炭水化物、糖、脂質、リガンド及びシグナル伝達物質から選択される前記請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記標的物質がタンパク質であり、前記パートナー物質が抗体、scFvまたはFabである前記請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
式(I):
【化2】
JP0004288571B2_000004t.gif
(式中、Qはこの化合物を標的物質と結合させるための基である)
で表される光活性化合物を含む、標的物質の機能を不活性化させるための光増感剤。
【請求項9】
Qが、-A-Q1で表される、パートナー物質と結合し得る基であり、ここで、Aは化学結合又は鎖中に、炭素、酸素及び窒素から選択される1~9個個の原子を含むスペーサー基であり、そしてQ1はイソシアネート基、イソチオシアネート基、塩化スルホニル基、4,6-ジクロロトリアジニルアミノ基、マレイミド基及びヨードアセトアミド基から選択される基である前記請求項8に記載の光増感剤。
【請求項10】
Qが、イソチオシアネート基、塩化スルホニル基又はマレイミド基である前記請求項8~9のいずれかに記載の光増感剤。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、標的物質の生理的機能を光照射によって不活性化することによってその標的物質の生理的機能を解析する方法、その解析方法に用いられる光増感剤等に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、標的タンパク質の機能部位を時空間的に不活性化して、そのタンパク質の機能性部位またはその機能を特定することによって、そのタンパク質の機能解析を行なう方法として、発色団補助光不活性化法(Chromophore-assisted lightinactivation;CALI)が知られている(特開2000-206116号公報(特許文献1)、特表2002-531810号公報(特許文献2)など参照)。これらの特許文献には、CALIにおいては、マラカイトグリーン、ローダミン誘導体、フルオレセイン誘導体等が光増感剤として使用され得ることが開示されている。CALIにおいて使用される光増感剤としては、マラカイトグリーンより、フルオレセイン誘導体が好適であることも知られている(Proc. Nat., Acad. Sci. USA, Vol.95, pp.4293-4298, April 1988 Biophysics(非特許文献1)参照)。そして、光増感剤としてフルオレセインを用いる場合は、一重項酸素が標的タンパク質の標的部位の機能破壊に寄与していることが知られている(Proteomics 2002, 2, 247-255(非特許文献2)参照)。
【0003】
一方、種々のフルオレセイン誘導体における、一重項酸素の産生については、Photochemistry and Photobiology, Vo.37, No.3, pp271-278, 1983(非特許文献3)に記載されている。
【0004】
【特許文献1】
特開2000-206116号公報
【特許文献2】
特表2002-531810号公報
【非特許文献1】
Proc. Nat., Acad. Sci. USA, Vol.95, pp.4293-4298, April 1988 Biophysics
【非特許文献2】
Proteomics 2002, 2, 247-255
【非特許文献3】
Photochemistry and Photobiology, Vo.37, No.3, pp271-278, 1983
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記文献に記載されるように、従来は光照射依存的な生体機能の時空間的な破壊の為に、マラカイトグリーンやフルオレセインが光増感剤として用いられてきた。しかし、これらの物質を用いると単位光照射当たりに産生する活性酸素の量が少ないため、光照射の量を多くするか、あるいは照射時間を長くする必要があった。従って、従来の光増感剤を用いると強光照射自身による光毒性が懸念されたり、より短い時間分解能が要求される生体機能解析研究を行なうことが出来なかった。ゆえに、より短くより弱い光照射で生体機能の時空間的な破壊を行なうことができる解析方法が望まれていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記従来技術の問題を解決するためになされたもので、本発明の第1の態様によれば、標的物質の生理的機能を不活性化することによってその標的物質の生理的機能を解析する方法であって、
(a)式(I):
【化3】
JP0004288571B2_000002t.gif(式中、Qはこの化合物を標的物質と結合させるための基である)
で表される光活性化合物を標的物質に結合し、該標的物質と該光活性化合物を含む複合体を形成する工程、及び
(b)得られた複合体に光を照射してその光活性化合物が結合した標的物質の機能、あるいは、その光活性化合物が結合した部位における標的物質の機能を不活性化する工程を含む上記標的物質の生理的機能を解析する方法が提供される。光活性化合物と標的物質との結合は、直接、あるいは該標的物質に結合し得るパートナー物質を介して行われる。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、式(I)で表される光活性化合物を含む、標的物質の機能を不活性化させるための光増感剤が提供される。上記式(I)中、Qは、例えば、-A-Q1で表される、パートナー物質と結合し得る基であり、ここで、Aは化学結合又は鎖中に、炭素、酸素及び窒素から選択される1~9個の原子を含むスペーサー基であり、そしてQ1はイソシアネート基、イソチオシアネート基、塩化スルホニル基、4,6-ジクロロトリアジニルアミノ基、マレイミド基及びヨードアセトアミド基から選択される。より好適なQは、イソチオシアネート基、塩化スルホニル基又はマレイミド基である。
【0008】
上記式(I)の化合物は、フルオレセイン誘導体の1つであるテトラブロモフルオレセイン(以下、「エオシン」ともいう)にパートナー物質と結合し得る基を結合させた光活性化合物である。多くのフルオレセイン誘導体が光増感剤として用いられ得ることは知られていたが、本発明者らは、それらのフルオレセイン誘導体の中でエオシンが予期された以上の一重項酸素産生量を示すことを見出して、本発明を完成させたものである。後述の実施例に示すように、実際にアントラセン-9,10-ジプロピオニック酸(anthracene-9,10-dipuropionic acid)を一重項酸素のプローブとしてフルオレセインとエオシンの一重項酸素産生活性を測定したところ、驚くべきことに、フルオレセインに最適な488nmで励起しているにもかかわらず、エオシンはフルオレセインよりも2.5倍程度、単位光照射当たりの産生量が多いことが確認されている。実際にβ-ガラクトシダーゼに対する抗体をエオシンでラベルしたものをβ-ガラクトシダーゼと結合させると515nmの光照射によりβ—ガラクトシダーゼ活性を約3.5倍減弱させることができことも確認されている。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をその実施態様に基づいて詳細に説明する。
【0010】
本発明の第1の態様は、標的物質の生理的機能を不活性化することによってその標的物質の生理的機能を解析する方法であって、
(a)式(I)で表される光活性化合物を標的物質に、直接、あるいはその標的物質と結合し得るパートナー物質を介してその標的物質に結合して、該標的物質と該光活性化合物との複合体、あるいは該標的物質と該パートナー物質と該光活性化合物との複合体を形成する工程、及び
(b)得られた複合体に光を照射してその光活性化合物が結合した標的物質の機能、あるいは、その光活性化合物が結合した部位における標的物質の機能を不活性化する工程を含む上記標的物質の生理的機能を解析する方法に関する。
【0011】
本発明の好ましい態様においては、上記工程(a)において、式(I)で表される光活性化合物を、標的物質のパートナー物質を介して標的物質に結合して、該標的物質と、該パートナー物質と、該光活性化合物との複合体を形成する。
【0012】
式(I)の化合物は、光増感剤であるエオシンに、これを標的物質に結合させるための基「Q」を結合させた化合物である。Qは、エオシンを標的物質に直接的に、又は後述のパートナー物質等を介して間接的に結合させるための基であり、この目的を達成する限り、特に限定されるものではない。Qは、例えば、-A-Q1であり、ここで、Aは化学結合又は鎖中に、炭素、酸素及び窒素から選択される1~9個(通常は1~6個)の原子を含むスペーサー基であり、そしてQ1はイソシアネート基、イソチオシアネート基、塩化スルホニル基、4,6-ジクロロトリアジニルアミノ基、マレイミド基及びヨードアセトアミド基から選択される。スペーサー基「A」は、より好ましくは、化学結合、1~6個(通常2~4個)の炭素原子のアルキレン、-CONHCH2-、-NH(CONHCH2-)x、-NHCS(NHCH2CO)xNHCH2-(ここでxは1乃至3である)などである。より好適なQは、イソチオシアネート基、塩化スルホニル基又はマレイミド基である。なお、標的物質がアミノ基を有する場合は、Qとして、例えば、イソチオシアネート基、塩化スルホニル基、4,6-ジクロロトリアジニルアミノ基などが選択される。また標的物質がメルカプト基を有する場合は、Qとして、例えば、マレイミド基、ヨードアセトアミド基が選択される。このような結合基及びスペーサー基については、例えば、特開平5-310800号公報、特表平8-505121号公報などの記載が参照される。なお、エオシン及びそのイソチオシアネート体は公知であり、市販されている。上記置換基「Q」を有するエオシン誘導体は、当業者に公知の手法で合成することができる。
【0013】
本発明の方法において、標的物質とは、その生理的機能を解明する対象となる生体分子をいい、特にこれらに限定されないが、例えば、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、DNA、RNA、糖、シグナル伝達物質などが挙げられる。特に、本発明の方法が標的とする物質は、タンパク質であり、酵素、受容体タンパク質、リガンドタンパク質、シグナル伝達タンパク質、転写制御タンパク質、骨格タンパク質、細胞接着タンパク質、スキャホールドタンパク質等が好適なターゲットとして例示される。
【0014】
本発明で用いられるパートナー物質は、本発明の方法において対象となる標的物質に結合し得る物質をいう。本発明で用いられるパートナー物質は、特にこれらに限定されないが、抗体、scFv、Fab、RNA、DNA、その他標的タンパク質に結合し得る化合物(例えば、受容体に結合するリガンド、酵素に結合する基質、イノシトール三リン酸などの受容体に結合し得るシグナル伝達物質)などが挙げられる。パートナー物質は、特開2000-206116号公報に開示されているように、1段階選択(DE19802576.9号明細書を参照)、ファージディスプレイ(phage display)(Cwirla, S.E. et al. 1997, Science 273, 464-471)、プラスミド上のペプチド(Stricker, N.L.et al. 1997, Nature Biotechnology 15, 336-342)、SIP(Spada, S. et al.1997, Biol. Chem. 378, 445-456)、CLAP(Malmborg, A.-C. et al. 1997,JMB 273, 544-551)、リボソーム/ポリソームディスプレイ(Kawasaki, G. 1991,国際特許出願WO91/05058号明細書;Hanes, J. & Pluckthun, A. 1997, PNAS 94, 4937-4942)またはSELEX(Tuerk, C. & Gold, L. 1990, Science 249, 505-510)などの技術を利用して、組合せライブラリーから選択することもできる。このようなライブラリーとしては、例えば、タンパク質ライブラリー、ペプチドライブラリー、cDNAライブラリー、mRNAライブラリー、有機分子とのライブラリー、免疫グロブリンスーパーファミリーとのscFvライブラリー、タンパク質ディスプレーライブラリーなどが挙げられる。 なお、本発明の好ましい態様では、前記標的物質が酵素などのタンパク質であり、前記パートナー物質がそのタンパク質に結合し得る抗体、scFvまたはFabである。
【0015】
上記工程(a)においては、上記のような光活性化合物(L)を、標的物質に結合するパートナー物質(P)、例えば抗体を介して、標的物質(T)、例えばタンパク質に結合させて、それらが結合した複合体(L-P-T)を形成する。このような複合体(L-P-T)の形成は、パートナー物質(P)と光活性物質(L)とを結合させてから、これに標的物質(T)を結合させて行なうこともできるし、標的物質(T)とパートナー物質(P)を結合させてから、光活性物質(L)を結合させることによって行なうこともできる。
なお、上記工程(a)においては、光活性化合物を標的タンパク質に直接結合させることもできる。この場合は、光活性化合物を側鎖に持つ非天然アミノ酸を標的タンパク質の特異的な部位に導入する方法として、4塩基コドン又は5塩基コドンを利用することができる(T. Hohsaka, Biochemistry 2001, 40, p11060-11064等参照)。この場合、光活性化合物とそれを側鎖にもつアミノ酸のCαとの間には前述のスペーサー基「A」が介在してもよい。
【0016】
この複合体の形成は、標的物質の生理的機能が損なわれないような条件で行われる。このような条件は、標的物質及びパートナー物質などの性質を理解している当業者であれば、適宜、個別に設定できるものである。例えば、標的物質がタンパク質の場合は、複合体形成が生じてもそのタンパク質が変性されないような条件下で、両者が接触される。その条件は標的タンパク質の細胞環境の生理学的条件に対応することが好ましい。
【0017】
次いで、上記工程(b)においては、CALI技術を用いて、得られた複合体に光を照射してその光活性化合物が結合した標的物質、あるいは、光活性化合物が結合した部位の標的物質の機能を直接かつ特異的に不活性化する(PNAS,85,5454-5458,1988;Trends in Cell Biology,6,442-445,1996参照)。すなわち、本発明の光活性化合物の吸収波長である、480~540nmの波長の光を照射すると、この光は光活性化合物に吸収されて、一重項酸素(singlet oxygen)を産生し、約10~50Åの半径で光増感剤に結合された標的物質(例えば、タンパク質)あるいはその機能性部位を選択的に不活化する。なお、エオシンの吸収極大(maxλ)は、水中で、517nmであり、エタノール中で、523nmである(Photochemistry and Photobiology, Vo.37, No.3, pp271-278, 1983参照)。不活性化に必要な照射量は、例えば、0.1J/cm2から10J/cm2、好ましくは0.5から2J/cm2である。照射光の種類は、特にこれに限定されないが、例えば、キセノンアーク光、水銀アーク光、ハロゲンランプ、タングステンランプ、色素レーザーやアルゴンレーザー(488または514.5nmライン)、Nd:YAGレーザーの2倍波(532nm)などを用いることができる。
【0018】
このようにして、標的物質自体あるいは標的物質の特定部位を不活性化することによって、その標的物質の生理的機能を解析することができる。例えば、このような不活性化によって、タンパク質の機能性部位の同定、その機能性部位の機能の確認、リガンドの機能の確認、機能性部位のタンパク質寿命に及ぼす影響の確認、機能性部位のタンパク質動態に及ぼす影響の確認、機能性部位のタンパク質フォールディングに及ぼす影響の確認などを行なうことができる。なお、本発明の解析方法は、インビトロおよびインビボアッセイに、また細胞内外の標的分子に利用可能である。
【0019】
例えば、不活化されたタンパク質の機能性部位の特定は、特表2002-531810号公報に記載のように、不活性化されたタンパク質を断片化し、質量スペクトル測定に供することによって可能である。
【0020】
具体的には、不活性化されたタンパク質は、特定の位置で切断するプロテアーゼを用いて断片化する。そのようなプロテアーゼとしては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、パパインなどが挙げられる。タンパク質の化学的切断は、例えば臭化シアン(Metに特異的)、3—ブロモ-3-メチル-2-(2-ニトロフェニルメルカプト)-3H-インドール(BNPS-スカトール;Trpに特異的)、2-ニトロ-5-チオシアナト安息香酸(Cysに特異的)およびFe-EDTAによっても行なうことができる。
【0021】
切断された断片混合物は電気泳動により分別され、次いで、質量スペクトル測定および未処理標的タンパク質との比較により、不活性化された部位を特定することができる。標的タンパク質がCALIにより不活化されるとすぐに、タンデム質量スペクトル測定によって、不活化に関与している不活化タンパク質の変性アミノ酸を特定することができる(Rapid Commun.Mass Spectrom.,11,1015-1024,1997;Rapid Commun.Mass Spectrom.,11,1067-1075,1997参照)。質量スペクトル測定による分析は、種々の公知の手法で、例えば、ナノ電子スプレー(Wilm.M.and Mann,M.,Anal.Chem.68,1-8,1996)、マトリックス介助レーザー脱着およびイオン化(MALDI)(Siuzdak,G.Mass Spectrometry for Biotechnology,Academic Press Inc.1996)を含めた電子スプレーのようなイオン化源を用いて(Chapman,J.R.,et al.,Methods in Molecular biology,61,JR Chapman editor,Humana Press Inv.Totowa NJ,USA,1996)、またはトリプル、四重極、飛行時間型、磁気セクター、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴および四重極イオン捕捉のような質量分析の組合せを用いて行なうことができる。
なお、上記分析方法の詳細、あるいはこれを自動化した装置については、特表2002-531810号公報の記載が参照される。
【0022】
また、特開2000-206116号公報には、CALI技術を用いた標的リガンドの機能を確認する方法が記載されており、本発明の方法は、そのようなリガンド機能確認法にも応用することができる。
さらに、本発明に係る光増感剤は、効率良く一重項酸素を産生するので、光力学療法用治療薬としての応用も考えられる(特表2000-500741号公報参照)。
【0023】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。
【0024】
実験例1: 一重項酸素発生量の比較
アントラセン-9,10-ジプロピオニック酸(Molecular Probe)と各色素(エオシン、フルオレセインをそれぞれ100μMになるようにPBS(-)に溶解し100μLとした。参考のため、各色素の構造式を次に示す。
【0025】
次いで、得られた各試料について、テラサキプレート(Nalge Nunc)の2穴に20μlずつ分注し、一方の試料に2W/cm2の488nm レーザー光(Sapphire, Coherent)を60秒照射した。光照射した試料としていない試料それぞれにPBS(-)を300μL加えて、石英ガラスキュベットに移し、蛍光光度計(日立)を用いて、380nm励起による430nmの蛍光を測定した。なお、アントラセン-9,10-ジプロピオニック酸は380nm励起により430nmを極大ピークとする蛍光を発するが、一重項酸素により、酸化され無蛍光性となる。一重項酸素の測定はこの原理に基づいている。
【0026】
このようにして得られた結果を図1に示す。なお、図1に示すグラフは光照射していない試料の蛍光強度を100%とした時の光照射した試料の蛍光強度を示す。対照として色素を含まない試料を用いた(コントロール)。同様の実験を3回行ない平均値および標準誤差を求めた。図1に示されるように、フルオレセインに最適な488nmで励起しているにもかかわらず、エオシンはフルオレセインと比較すると、2.5倍効率よく一重項酸素を発生することが確認された。
【0027】
実施例1及び比較例1: β-ガラクトシダーゼの不活性化
抗β—ガラクトシダーゼ抗体を濃度が80μg/mLになるように0.5M 炭酸水素ナトリウム溶液(pH9.5)に溶解した後、40μg/mLのエオシンイソチオシアネート(EITC: Molecular Probe;実施例1)またはフルオレセインイソチオシアネート(FITC: Molecular Probe;比較例1)を加え、遮光し30分インキュベートした。試料をPD-10 プレパックカラム(amasham pharmacia biotech)を用いてゲルろ過し、色素標識された試料を回収した。抗ウサギIgG抗体も同様にFITCにより標識した。β—ガラクトシダーゼ(10μg/mL)、色素標識された抗β—ガラクトシダーゼ抗体(200μg/mL)、BSA(120μg/mL)を含むPBS(-)溶液をテラサキプレート(Nalge Nunc)の2穴に15μLずつ分注し、一方の試料に2W/cm2の488nm レーザー光(Sapphire, Coherent)を60秒照射した。
【0028】
β—ガラクトシダーゼ活性は、レポーター溶解バッファー(Reporter Lysis Buffer)を用いたβ—ガラクトシダーゼ・エンザイムアッセイシステム(Promega)を用いて測定した。対照として色素標識されていない抗β—ガラクトシダーゼ抗体およびフルオレセイン標識抗ウサギIgG抗体を用いた。同様の実験を3回行ない平均値および標準誤差を求めた。得られた結果を図2に示す。図2に示すグラフは、光照射していない試料のβ—ガラクトシダーゼ活性を100%とした時の光照射した試料のβ—ガラクトシダーゼ活性を示す。なお、図中、(1)は抗β—ガラクトシダーゼ抗体、(2)はフルオレセイン標識抗β—ガラクトシダーゼ抗体、(3)はエオシン標識抗β—ガラクトシダーゼ抗体、(4)はフルオレセイン標識抗ウサギIgG抗体の場合のβ-ガラクトシダーゼ活性を示す。
【0029】
図2に示されるグラフから明らかなように、エオシンでラベルされた抗β—ガラクトシダーゼ抗体を結合させたβ—ガラクトシダーゼ(実施例1)は、フルオレセインでラベルした場合(比較例1)に比較して、β-ガラクトシダーゼ活性を約3.5倍減弱させたことが確認された。
【0030】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、標的物質の生理的機能を光照射によって不活性化することによってその標的物質の生理的機能を解析する改良された方法及びその方法に用いられる光増感剤が提供される。本発明の方法では、単時間の光照射あるいは強度の弱い光照射で足りるので、従来法と比較して光毒性による心配がないという利点がある。また、本発明の方法は、より短い時間分解能が要求される生体機能解析研究にも有効に用いることができるという利点もある。
【0031】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実験例1における、光照射していない試料の蛍光強度を100%とした時の光照射した試料の蛍光強度を示す。
【図2】図2は、実施例1及び比較例1における、光照射していない試料のβ—ガラクトシダーゼ活性を100%とした時の光照射した試料のβ—ガラクトシダーゼ活性を示す。
図面
【図1】
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【図2】
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