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明細書 :優れた熱電変換性能を有する複合酸化物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4320422号 (P4320422)
公開番号 特開2004-356476 (P2004-356476A)
登録日 平成21年6月12日(2009.6.12)
発行日 平成21年8月26日(2009.8.26)
公開日 平成16年12月16日(2004.12.16)
発明の名称または考案の名称 優れた熱電変換性能を有する複合酸化物
国際特許分類 H01L  35/22        (2006.01)
C01G   3/00        (2006.01)
C01G  45/00        (2006.01)
C01G  49/00        (2006.01)
C01G  51/00        (2006.01)
C01G  53/00        (2006.01)
H01L  35/34        (2006.01)
H02N  11/00        (2006.01)
FI H01L 35/22
C01G 3/00
C01G 45/00
C01G 49/00 A
C01G 51/00 A
C01G 53/00 A
H01L 35/34
H02N 11/00 A
請求項の数または発明の数 5
全頁数 31
出願番号 特願2003-154026 (P2003-154026)
出願日 平成15年5月30日(2003.5.30)
審査請求日 平成18年2月22日(2006.2.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
発明者または考案者 【氏名】三上 祐史
【氏名】舟橋 良次
個別代理人の代理人 【識別番号】100065215、【弁理士】、【氏名又は名称】三枝 英二
審査官 【審査官】▲高▼橋 英樹
参考文献・文献 岩崎航太、山根久典、窪田俊一、高橋純一、島田昌彦,Ca3Co2O6の電気的性質に及ぼすBi、Cu置換の影響,日本セラミック協会年会講演予稿集,日本,日本セラミック協会,2002年 3月24日,Vol.2002,120
調査した分野 H01L 35/22
C01G 3/00
C01G 45/00
C01G 49/00
C01G 51/00
C01G 53/00
H01L 35/34
H02N 11/00
特許請求の範囲 【請求項1】
一般式:(Ca1-mmx(Co1-nnyz(式中、Aは、Sr、Ba、Na、Pb及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素、Mは、Mn、Fe及びiからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、2.5≦x≦3.5;1.5≦y≦2.5;5≦z≦7;0m≦1;0n≦1である)で表される組成を有し、600℃において100μV/K以上の熱起電力を有し、且つ150mΩcm以下の電気抵抗率を有する複合酸化物。
【請求項2】
単結晶体である請求項1に記載の複合酸化物。
【請求項3】
幅0.5mm以上、厚さ0.5mm以上、且つ長さ5mm以上の針状の単結晶体である請求項に記載の複合酸化物。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載の複合酸化物からなるp型熱電変換材料。
【請求項5】
請求項に記載のp型熱電変換材料を含む熱電発電モジュール。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、p型熱電変換材料として優れた性能を有する複合酸化物、該複合酸化物からなるp型熱電変換材料、及び熱電発電モジュールに関する。
【0002】
【従来の技術】
我が国では、一次元供給エネルギーからの有効なエネルギーの得率は30%程度しかなく、約70%ものエネルギーを最終的には熱として大気中に廃棄している。また、工場やごみ焼却場などにおいて燃焼により生ずる熱も、その殆どが他のエネルギーに変換されることなく大気中に廃棄されている。このように、我々人類は、非常に多くの熱エネルギーを無駄に廃棄しており、限りある化石燃料の燃焼などの行為から僅かなエネルギーしか獲得していない。
【0003】
エネルギーの得率を向上させるためには、大気中に廃棄されている熱エネルギーを利用できるようにすることが有効である。そのための有効な一つの技術手段として、熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換する熱電変換がある。この熱電変換とは、ゼーベック効果を利用したものであり、熱電変換材料の両端に温度差を発生させることにより、電位差を生じさせて発電を行うエネルギー変換法である。熱電発電では、熱電変換材料の一端を廃熱により生じた高温部に配置し、もう一端を大気中(室温部)に配置して、それぞれの両端に導線を接続するだけで電気が得られるので、一般的な発電に必要なモータやタービンなどの可動装置は不要である。このため、設備コストも安く、燃焼などによるガスの排出もなく、熱電変換材料が劣化するまで継続的に発電を行うことができる。
【0004】
このように、熱電発電は今後予測されるエネルギー資源の枯渇という重大な問題に対する解決策の一端を担う技術して期待されているが、熱電発電を実現するためには、高い熱電変換効率を有し、耐熱性、化学的耐久性などに優れた熱電変換材料を大量に供給することが必要となる。
【0005】
現在、高い熱電変換効率を有する物質としては、金属間化合物が知られている。しかしながら、金属間化合物の熱電変換効率は最大でも10%程度であり、空気中では約300℃以下の温度でしか利用できない。また、金属間化合物の種類によっては毒性元素や希少元素を構成元素とするものもある。
【0006】
このため、廃熱を利用する熱電変換は未だ実用化されるには至っておらず、毒性が少なく現存量の多い元素により構成され、耐熱性、化学的耐久性などに優れ、高い熱電変換効率を有する材料の開発が期待されている。
【0007】
近年、高い熱電変換効率を有する材料として、Ca、Bi、Sr、Naなどを含有するCo系複合酸化物が報告されている(非特許文献1)。しかしながら、これらの複合酸化は化学的安定性から800℃以下の温度でしか利用できない。そこで、さらに耐熱性、化学的耐久性に優れ、しかも高い熱電変換効率を有する熱電変換材料の開発が必要とされている。
【0008】
【非特許文献1】
Xuら、Applied Physics Letters vol. 80, pp. 3760-3762 (2002)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、毒性が少なく存在量の多い元素により構成され、耐熱性、化学的耐久性等に優れ、しかも高い熱電変換効率を有する新規な熱電変換材料を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、CaとCoを含む特定組成を有し且つ特定構造の複合酸化物、及びこの一部又は全部が他の元素で置換された複合酸化物は、高い熱起電力と良好な電気伝導性を有するものであり、熱電変換材料としての利用に適した高い熱電変換効率を有するものであることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の複合酸化物、p型熱電変換材料、及び熱電発電モジュールを提供するものである。
1. 一般式:(Ca1-mmx(Co1-nnyz(式中、Aは、Sr、Ba、Na、Bi、Pb及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素、Mは、Mn、Fe、Ni及びCuからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、2.5≦x≦3.5;1.5≦y≦2.5;5≦z≦7;0≦m≦1;0≦n≦1である)で表される組成を有し、600℃において100μV/K以上の熱起電力を有する複合酸化物。
2. 一般式:(Ca1-mmx(Co1-nnyz(式中、Aは、Sr、Ba、Na、Bi、Pb及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素、Mは、Mn、Fe、Ni及びCuからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、2.5≦x≦3.5;1.5≦y≦2.5;5≦z≦7;0≦m≦1;0≦n≦1である)で表される組成を有し、600℃において150mΩcm以下の電気抵抗率を有する複合酸化物。
3. 一般式:(Ca1-mmx(Co1-nnyzにおいて、
0<m≦1;0<n≦1である上記項1又は2に記載の複合酸化物。
4. 単結晶体である上記項1~3のいずれかに記載の複合酸化物。
5. 幅0.5mm以上、厚さ0.5mm以上、且つ長さ5mm以上の針状の単結晶体である上記項4に記載の複合酸化物。
6. 上記項1~5のいずれかに記載の複合酸化物からなるp型熱電変換材料。
7. 上記項6に記載のp型熱電変換材料を含む熱電発電モジュール。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の複合酸化物は、一般式:(Ca1-mmx(Co1-nnyzで表される組成を有するものである。
【0013】
上記一般式において、Aは、Sr、Ba、Na、Bi、Pb及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、Mは、Mn、Fe、Ni及びCuからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。
【0014】
また、式中、x値は、2.5≦x≦3.5、y値は、1.5≦y≦2.5、z値は、5≦z≦7であり、特に、x値は、2.8≦x≦3.2であることが好ましく、y値は、1.8≦x≦2.2であることが好ましく、z値は、5.5≦x≦6.5であることが好ましい。
【0015】
また、上記一般式において、m値は0≦m≦1であり、n値は0≦n≦1である。特に、上記一般式においてmが0を上回り、且つnが0を上回る場合、即ち、0<m≦1であり、0<n≦1である場合には、A成分及びM成分が必須の成分となり、これらの成分の種類、量などを適宜調整することによって、m=0且つn=0の複合酸化物と比較して、熱起電力を向上させることや、電気抵抗率、熱伝導率等を低下させることができ、有用性の高い熱電変換材料となる。
【0016】
特に、m値は、0<m≦0.3であることが好ましく、n値は、0<n≦0.3であることが好ましい。この様な範囲内であれば、A成分及びM成分を含む場合であっても、結晶構造の安定性が良好である。
【0017】
上記一般式で表される複合酸化物は、正の熱起電力を有するものであり、該複合酸化物からなる材料の両端に温度差を生じさせた場合に、熱起電力により生じる電位が、高温側の方が低温側に比べて低くなるp型熱電変換材料としての特性を示すものである。具体的には、該複合酸化物は、高温において正の熱起電力を示し、例えば600℃という高温において100μV/K以上の熱起電力を生じるものである。また、これを上回る温度においても、温度の上昇と共に熱起電力が低下する傾向を示す場合があるものの、同様に高い熱起電力を生じることができる。
【0018】
更に、該複合酸化物は、良好な電気伝導性を示し、600℃において150mΩcm以下の低い電気抵抗率であり、通常、これを上回る温度では更に電気抵抗率が低下する傾向となる。
【0019】
本発明の複合酸化物は、例えば、目的とする複合酸化物の元素成分比率と同様の元素成分比率となるように原料物質を混合し、焼成することによって製造することができる。
【0020】
原料物質としては、焼成により酸化物を形成し得るものであれば特に限定されず、元素単体、酸化物、各種化合物(炭酸塩等)等を使用できる。例えば、Ca源としては、カルシウム(Ca)、酸化カルシウム(CaO)、過酸化カルシウム(CaO2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、塩化カルシウム(CaCl2)およびその水和物、アルコキシド化合物(ジメトキシカルシウム(Ca(OCH3)2)、ジエトキシカルシウム(Ca(OC2H5)2)、ジプロポキシカルシウム(Ca(OC3H7)2)等)等を使用でき、Co源としては、コバルト(Co)、酸化コバルト(CoO、Co2O3、Co3O4)、炭酸コバルト(CoCO3)、硝酸コバルト(Co(NO3)2)、水酸化コバルト(Co(OH)2)、塩化コバルト(CoCl2)、アルコキシド化合物(ジプロポキシコバルト(Co(OC3H7)2等)等を使用できる。その他の元素についても同様に元素単体、酸化物、塩化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、アルコキシド化合物等を用いることができる。また本発明の複合酸化物の構成元素を二種以上含む化合物を使用しても良い。上記した原料物質は、各元素源の物質について、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0021】
焼成温度及び焼成時間については、目的とする複合酸化物が形成される条件とすれば良く、特に限定されないが、例えば、950~1200℃程度の温度範囲において、20時間~40時間程度焼成すれば良い。尚、原料物質として炭酸塩や有機化合物等を用いる場合には、焼成する前に予め仮焼きして原料物質を分解させた後、焼成して目的の複合酸化物を形成することが好ましい。例えば、原料物質として炭酸塩を用いる場合には、600~800℃程度で10時間程度仮焼きした後、上記した条件で焼成すれば良い。
【0022】
焼成手段は特に限定されず、電気加熱炉、ガス加熱炉等任意の手段を採用できる。焼成雰囲気は、通常、酸素気流中、空気中等の酸化性雰囲気中とすればよいが、原料物質が十分量の酸素を含む場合には、例えば、不活性雰囲気中で焼成することも可能である。
【0023】
生成する複合酸化物中の酸素量は、焼成時の酸素分圧、焼成温度、焼成時間等により制御することができ、酸素分圧が高い程、上記一般式における酸素比率を高くすることができる。
【0024】
以上の方法で得られる複合酸化物は、通常、多結晶体であるが、例えば、目的とする複合酸化物の元素成分比率と同様の元素成分比率となるように原料物質を混合し、加熱して溶融させた後、徐々に冷却する方法によれば、単結晶体を製造することができる。
【0025】
原料物質としては、原料混合物を加熱した際に均一な溶融物を形成し得るものであれば特に限定されず、元素単体、酸化物、各種化合物(炭酸塩等)等を使用できる。これらの原料物質としては、例えば、上記した焼成法と同様の原料物質を用いることができる。
【0026】
具体的な方法としては、溶融した原料混合物が均一な溶液状態となる条件で加熱した後、冷却すればよい。加熱時間については特に限定はなく、均一な溶液状態となるまで加熱すればよい。
【0027】
加熱手段は特に限定されず、電気加熱炉、ガス加熱炉等任意の手段を採用できる。溶融時の雰囲気は、通常、酸素気流中、空気中等の酸化性雰囲気中とすればよいが、原料物質が十分量の酸素を含む場合には、例えば、不活性雰囲気中で溶融することも可能である。
【0028】
冷却方法についても特に限定的ではなく、溶液状態の原料の全体を冷却しても良いが、均一な冷却が難しい場合には、例えば、冷却した白金線を浸漬して、その周囲に単結晶を析出させる方法等、部分的に冷却する方法を採用すればよい。
【0029】
冷却速度については、特に限定的ではないが、例えば、毎時50℃程度以下の冷却速度とすればよい。
【0030】
また、原料混合物を直接溶融することに代えて、原料混合物に、溶融物の融点調整などを目的として、その他の成分を添加し、この混合物を加熱して溶融させても良い。この様な複合酸化物の金属源となる物質以外の添加成分(フラックス成分)を加えて溶融させる方法は、いわゆる“フラックス法”と称される方法である。この方法によれば、原料混合物に含まれるフラックス成分の一部が加熱により溶融し、その化学変化、溶解作用などによって、原料物質全体が溶液状態となり、原料混合物を直接溶融させる方法と比べて低い温度で溶融物を得ることができる。そして、溶液状態の原料物質の冷却速度を適度に制御して冷却することによって、冷却に伴う過飽和状態を用いて目的とする単結晶を成長させることができる。この冷却過程においては、原料物質が溶融して形成された溶液と相平衡にある固相組成のCa、Co、A、及びMを含む複合酸化物の単結晶が成長する。よって、互いに平衡状態にある融液相と固相(単結晶)の組成の関係に基づいて、目的とする複合酸化物単結晶の組成に対応するCa源となる物質、Co源となる物質、A成分の供給源となる物質及びM成分の供給源となる物質の割合を決めることができる。
【0031】
その際、原料中に含まれるフラックス成分は融液成分として残り、成長する単結晶の構成成分には含まれない。
【0032】
この様なフラックス成分としては、原料物質と比べて低融点であり、形成される融液中に原料物質を十分に溶解することができ、しかも目的とする複合酸化物の特性を阻害しない物質から適宜選択して用いればよい。例えば、アルカリ金属化合物、ホウ素含有化合物などを好適に用いることができる。
【0033】
アルカリ金属化合物の具体例としては、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)などのアルカリ金属塩化物、これらの水和物;炭酸リチウム(Li2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)などのアルカリ金属炭酸塩などを挙げることができる。ホウ素含有化合物の具体例としては、ホウ酸(B2O3)などを挙げることができる。これらの任意の添加成分についても、それぞれを単独あるいは二種以上混合して用いることができる。
【0034】
これらのフラックス成分の量については特に限定的ではなく、形成される融液中への原料物質の溶解度を考慮して、できるだけ高濃度の原料物質を含む溶液が形成されるように、実際の加熱温度に応じて使用量を決めればよい。
【0035】
原料混合物を溶融させる方法については特に限定的ではなく、溶融した原料混合物が均一な溶液状態となる条件で加熱すれば良い。実際の加熱温度は、使用するフラックス成分の種類などによって異なるが、例えば、800~1000℃程度の温度範囲において、20時間~40時間程度加熱して溶融させれば良い。
【0036】
加熱手段は特に限定されず、電気加熱炉、ガス加熱炉等任意の手段を採用できる。溶融時の雰囲気は、通常、酸素気流中、空気中等の酸化性雰囲気中とすればよいが、原料物質が十分量の酸素を含む場合には、例えば、不活性雰囲気中で溶融することも可能である。
【0037】
冷却速度については、特に限定的ではなく、冷却速度を遅くするほど単結晶を大型化することが可能であり、例えば、毎時50℃程度以下の速度で冷却すればよい。
【0038】
形成される複合酸化物単結晶の大きさ、収率などは、原料物質の種類と組成比、溶融成分の組成、冷却速度などによって変わり得るが、例えば毎時50℃程度以下の冷却速度で試料が固化するまで冷却する場合には、幅0.5mm程度以上、厚さ0.5mm程度以上、長5mm程度以上の針状の形状を有する単結晶を得ることができる。
【0039】
次いで、冷却により形成された固化物から、目的とする複合酸化物単結晶以外の成分を除去することによって、目的とする複合酸化物の単結晶を得ることができる。
【0040】
目的物以外の成分を除去する方法としては、複合酸化物単結晶に付着している水溶性の成分、例えば、塩化物などについては、蒸留水による洗浄と濾過を繰り返して行い、さらに必要に応じてエタノール洗浄などを併用することによって、目的生成物から除去することができる。また、非水溶性の残留物は、通常複合酸化物単結晶に比べて十分に大きい顆粒状あるいは十分に小さい粉体状となって存在するので、例えば篩などを用いる分離手法により、目的とする複合酸化物単結晶から除去することができる。
【0041】
本発明の複合酸化物の内で、後述する実施例1で得られた複合酸化物のX線回折図を図1(a)に示し、実施例190で得られた複合酸化物のX線回折図を図1(b)に示す。実施例1の複合酸化物及び実施例190の複合酸化物は、いずれも、組成式:Ca3Co26で表されるものであり、実施例1の複合酸化物は多結晶体、実施例190の複合酸化物は単結晶体である。これらのX線回折パターンから、不純物の存在が多少観察されるものの、いずれも、公知のCa3Co26と同様の結晶構造を有することが認められる。
【0042】
また、上記一般式において、A成分及びM成分を含む複合酸化物の例として、実施例17で得られた複合酸化物のX線回折図を図2(a)に示し、実施例206で得られた複合酸化物のX線回折図を図2(b)に示す。これらの複合酸化物は、いずれも、Sr3CoMnO6.3で表される組成を有するものであり、実施例17の複合酸化物は多結晶体、実施例206の複合酸化物は単結晶体である。これらのX線回折パターンからも、不純物の存在が多少観察されるものの、いずれも公知のCa3Co26とほぼ同様の結晶構造を有することが認められる。
【0043】
本発明複合酸化物の内で、m=0且つn=0の複合酸化物、即ち、A成分及びM成分を含まないCa、Co及びOからなる複合酸化物について、その結晶構造を図3に模式的に示す。これからわかるように、該複合酸化物は、Caが一次元的に連なった部分、即ちCaの一次元鎖と、Oが頂点部分を占め中心部にCoが位置する八面体と六面体の結晶格子が一次元的に連なった部分、即ち、即ち、CoとOからなる一次元鎖とが、同じ方向に配列して構成された一次元的な結晶構造を有するものと考えられる。
【0044】
また、本発明複合酸化物の内で、A成分及びM成分を含む複合酸化物の結晶構造を図4に模式的に示す。これからわかるように、該複合酸化物は、m=0且つn=0の複合酸化物と同様に、Caの一次元鎖と、CoとOからなる一次元鎖とが同方向に配列して構成された一次元的な結晶構造を有し、Caサイトの一部、及びCoサイトの一部がそれぞれA成分及びM成分によって置換されたものと考えられる。
【0045】
上記した本発明の複合酸化物は、多結晶体及び単結晶体のいずれについても、正のゼーベック係数を有し、600℃において100μV/K以上の熱起電力を示し、且つ150mΩcm以下の低い電気抵抗率を有するものであり、p型熱電材料として優れた熱電変換性能を発揮できる。更に、該複合酸化物は、耐熱性、化学的耐久性等が良好であって、毒性の少ない元素により構成されており、熱電変換材料として実用性の高いものである。
【0046】
特に、該複合酸化物の単結晶体は、その針状形状の長手方向、即ち、図3及び図4に記載した結晶構造におけるc軸方向について非常に低い電気抵抗率を示すものとなり、p型熱電変換材料として特に優れた熱電変換性能を発揮できる。
【0047】
本発明の複合酸化物は、上記した特性を利用して、空気中において高温で用いるp型熱電変換材料として有効に利用することができる。
【0048】
本発明の複合酸化物からなる熱電変換材料をp型熱電変換素子として用いた熱電発電モジュールの一例の模式図を図5に示す。該熱電発電モジュールの構造は、公知の熱電発電モジュールと同様であり、高温部用基板、低温部用基板、p型熱電変換材料、n型熱電変換材料、電極、導線等により構成される熱電発電モジュールであり、本発明の複合酸化物はp型熱電変換材料として使用される。
【0049】
【発明の効果】
以上の通り、本発明の複合酸化物は、正の熱起電力と低い電気抵抗率を有し、更に、耐熱性、化学的耐久性などにも優れた多結晶体又は単結晶体である。
【0050】
該複合酸化物は、この様な特性を利用して、従来の金属間化合物では不可能であった、高温空気中で用いるp型熱電変換材料として有効に利用することができる。よって、該複合酸化物を熱電発電モジュールのp型熱電変換素子としてシステム中に組み込むことにより、これまで大気中に廃棄されていた熱エネルギーを有効に利用することが可能となる。
【0051】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0052】
実施例1
Ca源として炭酸カルシウム(CaCO3)、及びCo源として酸化コバルト(Co3O4)を用い、Ca:Co(元素比)=3.0:2.0となる様に原料物質を十分に混合した後、アルミナ坩堝に入れ、電気炉を用いて空気中800℃で20時間仮焼きして、炭酸塩を分解した。この仮焼物を粉砕し、加圧成形後、空気中1000℃で40時間焼成して複合酸化物を合成した。
【0053】
得られた複合酸化物は、組成式:Ca3.0Co2.06.0で表されるものであった。
【0054】
得られた複合酸化物の100℃から800℃における熱起電力(S)の温度依存性を表すグラフを図6に示す。図6から、この複合酸化物が、600℃以上の温度において正の熱起電力を有するものであり、高温側が低電位となるp型熱電変換材料であることが確認できた。
【0055】
なお、すべての他の実施例においても、熱起電力は、600℃において、100μV/K以上という高い熱起電力を示し、実施例1と同様の傾向が示された。
【0056】
また、該複合酸化物について、電気抵抗率の温度依存性を示すグラフを図7に示す。図7から、該複合酸化物の電気抵抗率は、600℃及びそれ以上の温度において、150mΩcm以下という低い値であることがわかる。
【0057】
実施例2~9
下記表1に示すCa:Coの元素比となる様に原料物質を混合して、実施例1と同様にして、複合酸化物を合成した。
【0058】
得られた複合酸化物は、不純物の存在が多少観察されるものの、公知のCa3Co26とほぼ同様の結晶構造を有するものであり、下記表1に示す通り、組成式:CaxCoyzにおいて、xが2.5~3.5、yが1.5~2.5、zが5~7の範囲内のものであった。
【0059】
下記表1に、得られた複合酸化物における各元素の元素比、600℃における熱起電力、及び600℃における電気抵抗率を示す。
【0060】
【表1】
JP0004320422B2_000002t.gif【0061】
実施例10~189
下記表2~10に示すCa:A:Co:Mの元素比となる様に原料物質を混合し、実施例1と同様にして、複合酸化物を合成した。
【0062】
原料物質としては、実施例1で用いた原料以外に、Sr源として炭酸ストロンチウム(SrCO3)、Ba源として炭酸バリウム(BaCO3)、Na源として炭酸ナトリウム(Na2CO3)、Bi源として酸化ビスマス(Bi2O3)、Pb源として酸化鉛(Pb3O4)、Mn源として酸化マンガン(Mn2O3)、Fe源として酸化鉄(Fe2O3)、Ni源として酸化ニッケル(NiO)、及びCu源として酸化銅(CuO)を用いた。
【0063】
焼成温度については、目的とする複合酸化物に応じて、900~1200℃の範囲で設定した。
【0064】
得られた複合酸化物は、不純物の存在が多少観察されるものの、公知のCa3Co26とほぼ同様の結晶構造を有するものであり、下記表2~10に示す組成を有するものであった。
【0065】
下記表2~10に、得られた複合酸化物における各元素の元素比、600℃における熱起電力、及び600℃における電気抵抗率を示す。
【0066】
【表2】
JP0004320422B2_000003t.gif【0067】
【表3】
JP0004320422B2_000004t.gif【0068】
【表4】
JP0004320422B2_000005t.gif【0069】
【表5】
JP0004320422B2_000006t.gif【0070】
【表6】
JP0004320422B2_000007t.gif【0071】
【表7】
JP0004320422B2_000008t.gif【0072】
【表8】
JP0004320422B2_000009t.gif【0073】
【表9】
JP0004320422B2_000010t.gif【0074】
【表10】
JP0004320422B2_000011t.gif【0075】
実施例190
Ca源として炭酸カルシウム(CaCO3)、及びCo源として酸化コバルト(Co3O4)を用い、Ca:Co(元素比)=3.0:2.0となる様に原料物質を十分に混合した後、炭酸カリウム(K2CO3)を、Ca:K(元素比)=1:40となるように添加し、アルミナ坩堝に入れ、電気炉を用いて空気中で950℃、20時間加熱保持して溶融させた。
【0076】
次いで、毎時5℃の速度で室温まで徐々に冷却し、室温で固化物を取り出した。得られた固化物に対して、蒸留水による洗浄及び濾過を3回繰り返した後、最終的にエタノールによる洗浄と濾過を行うことによって、組成式:Ca3.0Co2.06.0で表される複合酸化物単結晶を得た。
【0077】
得られた複合酸化物単結晶のX線回折図は、図1(b)に示す通りであり、公知物質であるCa3Co2O6の粉末X線回折図と酷似しており、得られた結晶がCa3Co2O6であることが容易に類推された。
【0078】
また、得られた単結晶体の形状を図8の光学写真に示す。図8から明らかなように得られた単結晶体は針状形状であり、図3に示すように結晶構造が一次元的な構造であることから、c軸方向に良く成長した単結晶であることが分かる。
【0079】
得られた複合酸化物単結晶の100℃~800℃における熱起電力(S)の温度依存性を表すグラフを図9に示す。図9から、この複合酸化物が、600℃以上の温度において正の熱起電力を有するものであり、高温側が低電位となるp型熱電変換材料であることが確認できた。
【0080】
また、該複合酸化物単結晶について、電気抵抗率の温度依存性を示すグラフを図10に示す。図10から、該複合酸化物の電気抵抗率は、600℃以上の温度範囲において、150mΩcm以下という低い値であることがわかる。
【0081】
実施例191~198
下記表11に示すCa:Coの元素比となる様に原料物質を混合して、実施例190と同様にして、複合酸化物単結晶を合成した。
【0082】
得られた複合酸化物単結晶は、既知のCa3Co26とほぼ同様の結晶構造を有するものであり、下記表11に示す通り、組成式:CaxCoyzにおいて、xが2.5~3.5、yが1.5~2.5、zが5~7の範囲内のものであった。
【0083】
下記表11に、得られた複合酸化物における各元素の元素比、600℃における熱起電力、及び600℃における電気抵抗率を示す。
【0084】
【表11】
JP0004320422B2_000012t.gif【0085】
実施例199~378
下記表12~20に示すCa:A:Co:Mの元素比となる様に原料物質を混合し、実施例190と同様にして複合酸化物単結晶を合成した。
【0086】
原料物質としては、実施例190で用いた原料以外に、Sr源として炭酸ストロンチウム(SrCO3)、Ba源として炭酸バリウム(BaCO3)、Na源として炭酸ナトリウム(Na2CO3)、Bi源として酸化ビスマス(Bi2O3)、Pb源として酸化鉛(Pb3O4)、Mn源として酸化マンガン(Mn2O3)、Fe源として酸化鉄(Fe2O3)、Ni源として酸化ニッケル(NiO)、及びCu源として酸化銅(CuO)を用いた。
【0087】
溶融温度については、目的とする複合酸化物に応じて、900℃~1200℃の範囲で設定した。
【0088】
得られた複合酸化物は、既知のCa3Co26とほぼ同様の結晶構造を有する単結晶体であり、下記表12~20に示す組成を有するものであった。
【0089】
下記表12~20に、得られた複合酸化物における各元素の元素比、600℃における熱起電力、及び600℃における電気抵抗率を示す。
【0090】
【表12】
JP0004320422B2_000013t.gif【0091】
【表13】
JP0004320422B2_000014t.gif【0092】
【表14】
JP0004320422B2_000015t.gif【0093】
【表15】
JP0004320422B2_000016t.gif【0094】
【表16】
JP0004320422B2_000017t.gif【0095】
【表17】
JP0004320422B2_000018t.gif【0096】
【表18】
JP0004320422B2_000019t.gif【0097】
【表19】
JP0004320422B2_000020t.gif【0098】
【表20】
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【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた複合酸化物のX線回折図(a)と実施例190で得られた複合酸化物単結晶のX線回折図(b)。
【図2】実施例17で得られた複合酸化物のX線回折図(a)と実施例206で得られた複合酸化物単結晶のX線回折図(b)。
【図3】Ca,Co及びOからなる複合酸化物の結晶構造を模式的に示す図面。
【図4】A成分及びM成分を含む複合酸化物の結晶構造を模式的に示す図面。
【図5】本発明の複合酸化物を熱電変換材料として用いた熱電変換モジュールを模式的に示す図面。
【図6】実施例1で得られた複合酸化物の熱起電力の温度依存性を示すグラフ。
【図7】実施例1で得られた複合酸化物の電気抵抗率の温度依存性を示すグラフ。
【図8】実施例190で得られた複合酸化物単結晶の形状を示す図面代用写真。
【図9】実施例190で得られた複合酸化物単結晶の熱起電力の温度依存性を示すグラフ。
【図10】実施例190で得られた複合酸化物単結晶の電気抵抗率の温度依存性を示すグラフ。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9