TOP > 国内特許検索 > 運動量空間における磁気単極子を用いたホール素子 > 明細書

明細書 :運動量空間における磁気単極子を用いたホール素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4006595号 (P4006595)
公開番号 特開2005-019894 (P2005-019894A)
登録日 平成19年9月7日(2007.9.7)
発行日 平成19年11月14日(2007.11.14)
公開日 平成17年1月20日(2005.1.20)
発明の名称または考案の名称 運動量空間における磁気単極子を用いたホール素子
国際特許分類 H01L  43/06        (2006.01)
FI H01L 43/06 M
請求項の数または発明の数 4
全頁数 15
出願番号 特願2003-185848 (P2003-185848)
出願日 平成15年6月27日(2003.6.27)
審査請求日 平成15年6月27日(2003.6.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】永長 直人
【氏名】十倉 好紀
【氏名】寺倉 清之
【氏名】川崎 雅司
【氏名】朝光 敦
【氏名】方 忠
【氏名】高橋 圭
【氏名】山田 浩之
【氏名】小笠原 剛
【氏名】マシュー・ローランド
【氏名】金子 良夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
審査官 【審査官】川村 裕二
参考文献・文献 特開2003-069107(JP,A)
特開2003-107419(JP,A)
L.Klein et al.,Extraordinary Hall effect in SrRuO3,PHYSIACL REVIEW B,米国,The American Physical Society,2000年 5月15日,Volume61,Number12,p.R7842-R7845
調査した分野 H01L 43/06
特許請求の範囲 【請求項1】
異常ホール効果を有する強磁性体薄膜の面内方向に電流を流し、この電流に直交する方向に外部磁場を印加し、この電流と外部磁場とに直交する方向に生ずるホール電圧から上記外部磁場を検出するホール素子において、
上記強磁性体薄膜として、電子スピン配置と電子構造とからエネルギーバンドが近接またはクロスする電子状態を有し、運動量空間における磁気単極子が生成しスピン軌道相互作用の非摂動論的効果による異常ホール効果を有する固体材料を用い
上記運動量空間における磁気単極子がブロッホ波動関数のベリー位相の項として定義され、上記ブロッホ波動関数が電子スピン配置と電子構造とからエネルギーバンドが近接またはクロスする電子状態を有する強磁性体のブロッホ波動関数であり、
上記強磁性体薄膜の膜厚が単原子層オーダーであり、
上記強磁性体薄膜の磁化容易化軸がこの薄膜平面に垂直であることを特徴とする、運動量空間における磁気単極子を用いたホール素子。
【請求項2】
前記強磁性体は、Aをアルカリ土類元素、Bを遷移金属元素、Oを酸素元素とし、x、y及びzを上記それぞれの元素の組成比として、組成式Ax y z で表される強磁性体であることを特徴とする、請求項に記載の運動量空間における磁気単極子を用いたホール素子。
【請求項3】
前記組成式Ax y z で表される強磁性体は、組成式ABO3 で表され、かつ、ペロブスカイト型結晶構造を有することを特徴とする、請求項に記載の運動量空間における磁気単極子を用いたホール素子。
【請求項4】
異常ホール効果を有する固体材料薄膜の面内方向に電流を流し、この電流に直交する方向に外部磁場を印加し、この電流と外部磁場とに直交する方向に生ずるホール電圧から上記外部磁場を検出するホール素子において、
上記固体材料薄膜として、電子スピン配置と電子構造とからエネルギーバンドが近接またはクロスする電子状態を有し、運動量空間における磁気単極子が生成するSrRuO3 強磁性体の薄膜を用い
上記SrRuO3 強磁性体薄膜の膜厚が単原子層オーダーであり、
上記SrRuO3 強磁性体薄膜の磁化容易化軸がこの薄膜平面に垂直であることを特徴とする、運動量空間における磁気単極子を用いたホール素子。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は運動量空間における磁気単極子を用いたホール素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
ホール効果を利用するホール素子は、磁気センサ、磁気メモリ、あるいは、磁気光学効果素子として広く一般に利用されている。
ところで、情報産業の発達に伴い、情報記憶装置の記憶容量増大の要求は留まるところを知らない。例えば、画像の記憶などは膨大なメモリ容量を必要とするが、将来の情報産業においては、現状よりもさらに、高精細な画像記憶、膨大な数の画像記憶、長時間動画像記憶等が必要になる。このような磁気記憶装置において、将来の記憶容量増大の要求を実現するためには、情報の記憶単位、すなわちメモリ素子サイズの微小化が必要不可欠である。例えば、2005年には100Gビット/(インチ)2 を実現するためにメモリ素子の磁性材料サイズは30nm(300Å)が必要であると予測され、さらに、2010年には1000Gビット/(インチ)2 を実現するためにメモリ素子の磁性材料サイズは10nm(100Å)が必要になると予測されている。
【0003】
【特許文献1】
特開平5-135569号公報
【非特許文献1】
R.Karplus and J.M.Luttinger,Phs.Rev.95,1154(1954)
【非特許文献2】
P.A.M.Dirac,Proc.Roy.A,133,60(1931);ibid,Phys.Rev.74,817(1948)
【非特許文献3】
G’t Hooft,Nucl.Phs.B79,276(1974);
A.M.Polyakov,Pis’ma Zh.Eksp,Teor.Fiz,20,430(1974)〔JETP Lett,20,194(1974)〕
【非特許文献4】
S.C.Gausephl,Mark Lee,R.A.Rao and C.B.Eom,Phs.Rev.54 8996(1996)
【非特許文献5】
Z.Fang,and K.Terakura,J.Phys.:Condens.Matt.14,3001(2002)
【非特許文献6】
C.S.Wang and J.Callaway,Phys.Rev.B9,4897(1974)
【非特許文献7】
G.Theurich,and N.A.Hill,Phys.Rev.B64,73106(2001)
【非特許文献8】
Z.Fang,N.Nagaosa,and K.Terakura,Phs.Rev.B,(2003),(also cond-mat/02120249;
T.Fujiwara and T.Hoshi,J.Phys.Soc.Jpn.66,1723(1997);
H.Kageshima and k.Shiraishi,Phys.Rev.B56,14985(1997)
【非特許文献9】
D.J.Singh,J.Appl.Phys.79,4818(1996)
【非特許文献10】
I.I.Mazin,and D.J.Singh,Phys.Rev.B56,2556(1997)
【非特許文献11】
P.Lambin and J.P.Vigneron,Phys.Rev.B29,3430(1984)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
大容量の情報記憶装置には、ホール効果を利用した磁気記憶装置がある。この磁気記憶装置は、ホール効果を示すGaAs等の半導体材料を使用し、磁性体の磁化をホール電圧として検出することによって情報を読み出す。このような磁気記憶装置においては上に述べたように情報の集積度を向上するために、情報を記憶する磁性材料のサイズを小さくする必要があるが、それに伴い読み出し素子の微少化、及びそれに伴う読み出し感度の向上が必要になる。このための工夫として異常ホール効果を利用する提案がなされている(特許文献1)。
しかしながら、この異常ホール効果を用いるホール素子は、固体のスピン-軌道相互作用に基づくもので(非特許文献1参照)、従来のホール素子に比べれば大きな読み出し電圧が得られるが、なお、将来必要とされる集積度を実現するうえで限界を生じさせるものである。
【0005】
上記課題に鑑み本発明は、磁性材料のサイズが従来より小さくても、例えば、格子サイズ程度、すなわち数Åのサイズであってもホール電圧が検出できる運動量空間における磁気単極子を用いたホール素子を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のホール素子は、異常ホール効果を有する強磁性体薄膜の面内方向に電流を流し、この電流に直交する方向に外部磁場を印加し、この電流と外部磁場とに直交する方向に生ずるホール電圧から上記外部磁場を検出するホール素子において、強磁性体薄膜として、電子スピン配置と電子構造とからエネルギーバンドが近接またはクロスする電子状態を有し、運動量空間における磁気単極子が生成しスピン軌道相互作用の非摂動論的効果による異常ホール効果を有する固体材料を用い、運動量空間における磁気単極子がブロッホ波動関数のベリー位相の項として定義され、ブロッホ波動関数が電子スピン配置と電子構造とからエネルギーバンドが近接またはクロスする電子状態を有する固体材料のブロッホ波動関数であり、強磁性体薄膜の膜厚が単原子層オーダーであり、強磁性体薄膜の磁化容易化軸がこの薄膜平面に垂直であることを特徴とする
この構成によれば、強磁性体薄膜の膜厚が単原子層オーダーであっても、薄膜の面内方向の磁化に依存したホール電圧を検出できる。また、磁化容易化軸が薄膜平面に垂直になるように成膜すれば、極めて高密度にホール素子を集積でき、高集積の磁気メモリを実現することができる。ここで、運動量空間で近接した2つのブロッホ波動関数の内積からベリー位相が定まり、ベリー位相からゲージ場が定まり、ゲージ場とフェルミ分布関数の積分から横伝導度が定まる。運動量空間のエネルギーバンドが近接またはクロスする点においてはゲージ場が特異的振る舞いを示し、108 ガウス・オーダーの巨大ゲージ場を有する磁気単極子が形成される。この巨大ゲージ場は実効的に巨大なホール係数を生じさせる。従って、この強磁性体をホール素子材料とすれば、格子サイズ程度、すなわち数Åのサイズであってもホール電圧が検出でき、極めて微細なホール素子が実現できる。
【0007】
また、強磁性体は、Aをアルカリ土類元素、Bを遷移金属元素、Oを酸素元素とし、x、y及びzを上記それぞれの元素の組成比として、組成式Ax y z で表される強磁性体であることが好ましい。組成式x y z で表される強磁性体は、組成式ABO3 で表され、かつ、ペロブスカイト型結晶構造を有することが好ましい
これらの強磁性体においては、電子スピン配置と電子構造とからエネルギーバンドが近接またはクロスする電子状態が実現されている。これらの強磁性体をホール素子材料とすれば、格子サイズ程度、すなわちÅのサイズであってもホール電圧を検出でき、極めて微細なホール効果を実現できる。
【0008】
また、本発明のホール素子は、異常ホール効果を有する固体材料薄膜の面内方向に電流を流し、この電流に直交する方向に外部磁場を印加し、この電流と外部磁場とに直交する方向に生ずるホール電圧から外部磁場を検出するホール素子において、固体材料薄膜として、電子スピン配置と電子構造とからエネルギーバンドが近接またはクロスする電子状態を有し、運動量空間における磁気単極子が生成するSrRuO3 強磁性体の薄膜を用い、このSrRuO3 強磁性体薄膜の膜厚が単原子層オーダーであり、このSrRuO3 強磁性体薄膜の磁化容易化軸がこの薄膜平面に垂直であることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
初めに、磁気単極子について説明する。電磁気学の法則では電場(E)と磁場(B)は非対称である。すなわち、電荷密度(ρ)に対しては、divE=4πρで示されるのに対し、磁荷密度に対してはdivB=0で示される。磁気は電流によって誘導されるので正の磁荷と負の磁荷とは常に対となって現れ、単一磁荷は存在しないことになっている。1931年Diracは、電場と磁場の対称性の研究において初めて磁気単極子の存在を主張し、磁気単極子は量子力学と結びつくとき深遠な結果をもたらすと予言した。彼は量子力学から、磁気単極子の磁荷はem =nh/4πe(n:正の整数、h:プランク定数、e:電子電荷)であることを導いた(非特許文献2参照)。この磁気単極子を発見する努力が宇宙線研究や加速器実験で精力的になされてきた。しかしながらその存在は現在に到るまで確証されていない。理論的には、磁気単極子は非Abelianゲージ理論の方程式からソリトン解として求められている(非特許文献3参照)。この理論の結果は、磁気単極子の質量は、~1016Gevと極めて重く、実験的に観測するのは困難であることを示している。この磁気単極子は実空間中での存在を仮定したものである。他方、運動量空間において磁気単極子を考えることも可能である。特に、固体中ではブロッホ波動関数ψnk(r)はエネルギーバンドnと第1ブリュアンゾーン中の結晶運動量kとで特徴づけられる。このn,kで特徴づけられる二重の空間において、強磁性体の異常ホール効果(AHE:Anormalous Hall Effect)において、エネルギー0.1~1eVの低いエネルギーの磁気単極子、すなわち、運動量空間(k空間)における磁気単極子を見いだすことが可能であることを、本発明者らは見いだした。
【0010】
次に、異常ホール効果について説明する。異常ホール効果はホール抵抗ρxyが、通常のHall効果項と強磁性体における磁荷Mに起因する寄与の項とが加算されて表される現象であり、Bを磁場強度、R0 を通常のホール係数、RS を異常ホール係数として、次式で表される。
【数1】
JP0004006595B2_000002t.gif【0011】
通常、RS はR0 の10倍程度であり、従来技術で述べた異常ホール効果を利用したホール素子はこのRS を利用したものである。
異常項4πRS Mは通常の摂動理論により、スピン-軌道カップリング係数λと磁化Mとに比例するとされているが、全ての異常ホール効果に当てはまるわけではなく、特に、異常ホール効果が単調な温度依存性を示さない物質については正しい表現ではない。このような異常ホール効果を説明する理論は今までになく、本発明者らが初めて明らかにした。
【0012】
次に、本発明のホール素子に利用する異常ホール効果を説明する。
電子スピン配置と電子構造とからエネルギーバンドが近接またはクロスする電子状態を有する固体材料において、キャリアの不純物散乱がない場合には、スピン-軌道相互作用が電子の結晶並進対称性を壊さないことから、ブロッホ(Bloch)状態が構成される。座標軸方向をx、y、z、及びブロッホ状態における互いに近接またはクロスするエネルギーバンドを、運動量(ベクトル)kの関数として、εn (k)(n=1、または2)とすれば、u=x、y、zとしてベリー(Berry)位相an u (k)は、運動量k空間において無限小離れた2つのブロッホ波動関数の内積として表される。ブロッホ波動関数を、電子の位置ベクトルをrとして、ψnk(r)=<r|nk>とすれば、ベリー位相an u (k)は、次式で表される。
【数2】
JP0004006595B2_000003t.gif【0013】
ベクトルポテンシャルであるゲージ場のz成分bnz(k)はベリー位相an u (k)から、次式で表される。ここに、単極子はベクトルポテンシャルであるゲージ場b(k)で表される。
【数3】
JP0004006595B2_000004t.gif【0014】
横伝導度σxyは、単極子もしくはゲージ場bnz(k)にフェルミ分布関数nf (εn (k))を乗じ、フェルミレベルμまで積算して与えられ、次式で表される。
【数4】
JP0004006595B2_000005t.gif【0015】
運動量k空間で、互いに近接またはクロスする二つのバンドのハミルトニアンのベクトルk点の行列H(k)は、パウリ行列σ1,2,3 、単位行列σ0 、及びそれらの行列の係数fv (k) を用いて次式のように表すことができる。
【数5】
JP0004006595B2_000006t.gif【0016】
ここで図1に示すように、k空間から次式で示すベクトルf(k)空間への射影を考える。なお、θk はベクトルfがf3 軸となす角であり、φk はベクトルfのf1 2 平面への写像がf1 軸となす角である。
【数6】
JP0004006595B2_000007t.giff(k)空間においてH(k)はたやすく対角化され、次式で示す2つのエネルギー固有値ε+ 、及びε- が得られる。
【数7】
JP0004006595B2_000008t.gifこのエネルギー固有値ε+ 、及びε- と(4)式を用いて、2つのエネルギーバンドが互いに近接またはクロスする場合すなわち、縮退したまたは縮退に近い場合の横伝導度σxy2-bands を次式のように計算できる。
【数8】
JP0004006595B2_000009t.gifここで、dΩf は、図1に示したk空間の微少面積dkx dky に対応するf(k)空間の立体角である。それ故、σxy2-bands はf(k)空間においても幾何学的意味を有している。また立体角dΩf は、ベクトルf=0において積分されたゲージ場、すなわち単極子であり、次式で表される。
【数9】
JP0004006595B2_000010t.gif【0017】
ゲージ場(単極子)は縮退した、もしくは縮退に近い場合、すなわちベクトルf(k)が単極子の近くにある場合に強くベクトルkに依存する。
縮退したバンドまたは縮退に近いバンドの実現には二つの場合が存在する。
一つは、三つの方程式f1(k)=f2(k)=f3(k)=0が、k=k0 で偶然に満足されて縮退した場合である。この場合は、fa (k) =Σb αab(kb -k0b)として展開できる。ここで、αabは定数であり、a,b=1,2,3 である。この場合、f空間はk空間と同一であり、k空間におけるk=k0 近傍に分布したゲージ場は、(9)式においてfをk-k0 で置き換えた式となる。化学ポテンシャルμ=ε+ (k0)、及びμ=ε- (k0)では、正及び負のkz -kz0項の相殺に起因してσxy2-bands は特異点をもたいないが、fa (k) のkに対する非線形依存性により、このエネルギーからわずかに離れた領域で、σxy2-bands は強いμ依存性を発生する。
【0018】
もう一つの縮退の場合は対称性に起因する。これは運動量k群が2以上の次元をもって非可逆的表現で与えられるからである。例として、立方晶ペロブスカイト構造におけるt2g 軌道のdyzやdzxの単純なタイトバインデイング模型を考えることができる(この構造は後述の実施例に示すSrRuO3 の縮退に相応する)。この場合、アップスピンに関連した二つのバンドに関するH(k)のfo (k) は次式で与えられる。
【数10】
JP0004006595B2_000011t.gifここで、t1 及びt2 はそれぞれ、実効的な、バンド内及びバンド間トランスファー積分である。ここで、λM=0の場合は、ベクトルk=(0,0,kz )に沿って縮退が発生する。さらにt2 =0である場合には、kx = ±ky に沿って縮退が発生する。
次に、t1 >>t2 >>λM の場合(これはSrRuO3 の場合に相当する)を考える。この場合には、kz =0でのゲージ場bnz(k)は、kx =ky =0において最大のピークをもち、kx = ±ky に沿って大きくなる。
【0019】
図2は、SrRuO3 場合のゲージ場の計算結果を示す図である。図から、ゲージ場bnz(k)はΓ(kx =ky =kz =0)点に最大のピークを有し、M(kx = ±ky )方向に沿って大きくなっていることがわかる。この場合には、kz に関する積分によるbnz(k)の相殺は発生しない。
【0020】
上記の議論はあらゆる縮退したバンド、または縮退に近いバンドに適用できるが、f空間における異なるバンドの交差によるゲージ場(特異点)は、時間反転対称性の存在、及びまたはスピン軌道相互作用の欠如により相殺される。時間反転対称性は有限のσxy2-bands を禁止する。スピン軌道相互作用が無い場合は、上向きスピンバンドと下向きスピンバンドが結合せず、各々のバンドはそれぞれ、時間反転対称性の破れなしのハミルトニアン行列で表現される。スピン軌道相互作用を有する強磁性体において、化学ポテンシャル、あるいは磁化のようなある種のパラメータを変化させることによって生ずるσxy2-bands の特異的な振る舞いは、k空間やf空間における単極子の存在を示すものである。
【0021】
強磁性体の磁化の大きさは、アップスピン状態密度とダウンスピン状態密度の相互のずれの大きさに依存するので、磁化の大きさを変えることによって、フェルミ面とエネルギーバンドの相対位置を変えることができる。
強磁性体の磁化の大きさは外部磁場によって若しくは温度によって変化する。これはとりもなおさず、運動している電子が感じるゲージ場の大きさ及び符合が、外部磁場や温度によって変化することを意味する。すなわち、外部磁場若しくは温度によって、異常ホール電流若しくは異常ホール電圧の大きさが変化し、または、異常ホール電流若しくは異常ホール電圧の符合が正から負へ若しくは負から正へ変化することを意味する。下記の実施例において、この現象が実際に生じることを示す。
【0022】
図2は、固体材料が強磁性体金属SrRuO3 の場合に、磁気単極子によるゲージ場を計算した結果を示す図である。
SrRuO3 は、下記の実施例で説明するように電子スピン配置と電子構造とからエネルギーバンドが近接またはクロスする電子状態を有する固体材料であり、運動量空間における磁気単極子を形成する固体材料である。
図からわかるように、Γ(kx =ky =kz =0)点において磁気単極子による極めて大きなゲージ場が生成している。このゲージ場の強度は、格子定数を4Åとして(4Å)2 の面積に単位磁束量子が貫く磁場強度、すなわち108 ガウスに相当する。この大きなゲージ場は(1)式におけるRS ~λMの磁化Mが極めて大きいことに相当し、極めて大きなホール抵抗ρxyを生じる。
Fe-Si等の磁性体を用いた電力変換トランスに用いられる磁場強度は0.5ガウス程度であり、AlnicoVと呼ばれる透磁率の大きい磁性体を使用したスピーカにおいて用いられる磁場強度は約600ガウスであり、また、最強の永久磁石といわれるSmCo5 でさえ104 ガウスの磁場強度である。運動量空間における磁気単極子の磁場強度は実にSmCo5 磁石の104 倍に達する。
【0023】
従来技術のホール素子に用いる異常ホール効果(特許文献1参照)は、スピン-軌道相互作用に関する一次の摂動効果である。本発明のホール素子に用いる異常ホール効果は、スピン-軌道相互作用に関する一次の摂動効果ではなく、スピン相互作用の非摂動論的効果であり、一次の摂動効果に比べて極めて大きい。本発明の異常ホール効果を従来の異常ホール効果と区別するために、本発明者らは本発明に用いる異常ホール効果をMMM(Magnetic Monopolein Momentum Space)異常ホール効果と名付ける。
【0024】
次に、本発明の運動量空間における磁気単極子を用いたホール素子の構成及び作用を説明する。
図3は本発明の運動量空間における磁気単極子を用いたホール素子の構成を示す図である。図3(a)は磁化容易化軸の方向が固体材料薄膜の面内方向の場合を示しており、(b)は磁化容易化軸の方向が固体材料薄膜の膜厚方向の場合を示している。なお、本発明のホール素子は従来のいずれのホール素子の構成も利用できるものであり、ホール効果を示す材料が運動量空間における磁気単極子を生成する固体材料である点が異なる。
図において、1は図2で説明した本発明の電子スピン配置と電子構造とからエネルギーバンドが近接またはクロスする電子状態を有する固体材料薄膜であり、2は外部磁場を示しており、3,4はホール電圧を検出する端子を示している。
【0025】
図3(a)に示すように、x方向に電流Iを流し、外部磁場2の印加方向を固体材料薄膜1の面内y方向とすれば、図2で説明した磁気単極子の効果により極めて大きなホール電圧VH が端子3,4間で得られる。従って、磁気メモリ素子のサイズを格子定数オーダーまで小さくしても、本ホール素子を用いれば、磁気メモリ素子の磁化による磁場2を読み出すことができる。
【0026】
また、図3(b)に示すように、固体材料薄膜1の磁化容易化軸を膜厚方向(z方向)とし、外部磁場2の方向を膜厚方向とすれば、図2で説明した磁気単極子の効果により極めて大きなホール電圧VH が端子3,4間で得られる。従って、磁気メモリ素子のサイズを格子定数オーダーまで小さくしても、本ホール素子を用いれば、磁気メモリ素子の磁化による磁場2を読み出すことができる。この場合には、検出する外部磁場の方向が膜厚方向であるので図3(a)の場合に比べてさらにホール効果素子のサイズを小さくすることがでる。磁化容易化軸を膜厚方向にするには、下記実施例に示すように固体材料薄膜1をエピタキシャル成長する際の基板材料を選択することによって可能である。
なお、上記説明では、磁気メモリへの適用を例に説明したが、極めて大きなホール電圧VH が得られることから、極めて微少な磁場を検知でき、極めて高感度な磁気センサーが実現できることは明かである。
また、大きなホール効果は、磁気光学効果(ファラデー効果やカー効果)を利用する画像表示素子として使用できる。
【0027】
次に実施例を示す。なお、この実施例は運動量空間における磁気単極子の存在と、巨大なホール効果の存在を実証するものである。
固体材料がSrRuO3 である場合の実施例を示す。SrRuO3 はペロブスカイト型結晶構造を有し、強磁性体転位温度Tc =150Kの強磁性体遍歴金属である。4個のt2g電子は高スピン配置をとり、局在イオンモデルにおける局在スピンはS=1である。また、4d軌道が相対的に広がっておりバンド幅はクーロン相互作用と比較して大きい。また、Ru原子の4d電子の質量は0.3eVのオーダーと重く、このためRu原子の4d電子の相対論的スピン軌道相互作用は大きい。これらの特徴は、運動量空間における磁気単極子の出現に適した状況を与えるものである。
【0028】
SrTiO3 (STO)の表面(100)上にSrRuO3 単結晶薄膜をレーザーアブレーション法によりエピタキシャル成長した。用いた成膜装置はSrTiO3 の単分子層(数Å厚)単位での膜厚制御が可能である。SrRuO3 多結晶ターゲットに100mJのレーザーパルスを照射してSrRuO3 薄膜をエピタキシャル成長した。4軸X線回折測定から、SrRuO3 薄膜の面内格子は圧縮されていることがわかった。これにより、SrRuO3 薄膜の磁化容易化軸は垂直な軸となる。
【0029】
図4は作製したSrRuO3 薄膜面内及び薄膜膜厚方向の磁化を温度の関数として測定した図であり、実線は薄膜面内の磁化(Magnetization)であり、点線は薄膜膜厚方向の磁化である。図から、このSrRuO3 薄膜の磁化容易化軸は膜厚方向であることがわかる。また、このSrRuO3 薄膜は強磁性転位温度Tc =150Kの強磁性的金属であり、飽和磁化は3000Oeであった。
【0030】
図5は、膜厚50ÅのSrRuO3 薄膜の横伝導度σxyの温度依存性を示す図である。図からわかるように、横伝導度σxyは温度によって正または負の値をとるという奇妙な振る舞いをする。この現象は既に知られていた(非特許文献4参照)が、今回本発明者らによる良質な単結晶薄膜を用いた測定によって、横伝導度σxyは30~40Kで負の最大値160Ω-1cm-1をとり、さらに低温では絶対値が小さくなるという複雑な挙動を示すことが明らかになった。以下に運動量空間における磁気単極子の存在を示す理論によって、これらの複雑な挙動を説明する。
【0031】
このSrRuO3 薄膜の抵抗値は、ρxx=1mΩ・cmであった。図における30~40Kでのσxy=-160Ω-1cm-1を用いると、ホール抵抗ρxyは、ρxy=σxy×(ρxx2 =-1.6・10-4Ω・cmとなるので、ホール電圧VH は電流をI、外部磁場強度をBとし、膜厚tが50Åのとき、次式(11)で表される。
【数11】
JP0004006595B2_000012t.gif例えば、単位磁場強度(B=1)、電流I=1mAのとき、320mVのホール電圧(飽和ホール電圧)VH を取り出すことができる。すなわち小さな電流においても大きなホール電圧を取り出すことが可能となり、高感度で読み出しが可能なホール素子、すなわち高感度な磁気センサとなり得る。また、磁化容易化軸が膜厚方向であるから、磁気メモリ素子の読み出し素子に用いれば、磁性薄膜、書き込み線、読み出し線等の磁気メモリ素子の構成要素の幾何学的配置が容易になる。
【0032】
次に、このSrRuO3 薄膜の運動量空間における磁気単極子の存在を示す理論、すなわち(2)~(10)式に基づく理論計算結果と、実験値を比較する。
初めに、状態密度の計算方法、及びMMM異常横伝導度の計算方法について詳細に説明する。
SrRuO3 の光学的性質とMMM異常ホール効果は久保公式を用いた平面波基底擬ポテンシャル法に基づく密度汎関数理論により計算した(非特許文献5,6参照)。スピン-軌道相互作用は、スピン方位が任意である場合に用いる磁気公式の枠内で相対論的に完全に分離可能な擬ポテンシャルを使用して自己整合的に計算した(非特許文献7参照)。行列要素は波動関数の核の補償公式を用いて計算した(非特許文献8参照)。交換相互作用項と相関項は局在スピン密度近似法(LSDA:local spin density approximation)法を用いた。この方法はこの化合物の電子、磁気的性質を表現するのに大変良い描像を与える(非特許文献9,10参照)。実際のSrRuO3 薄膜はX線回折から格子定数や結晶構造は明かであるが、Ruに対するOの相対的位置まではX線回折で求まらないので、斜方晶SrRuO3 と、斜方晶SrRuO3 と同じRu-Oボンド長を持つ仮想立方晶SrRuO3 の場合について計算した。それぞれの結晶についてテトラへドロン法(非特許文献11参照)を用いて、k空間の(24×24×24)及び(12×12×12)メッシュ点で積分した。有限のライフタイムブロードニングδは実験から求めた残留抵抗と縦導電率σxxの拡張Drude解析から見積もった。
【0033】
図6は、計算で求めた斜方晶SrRuO3 の状態密度(DOS)を示す図である。図6(a)は状態密度のエネルギー依存性を示しており、細い実線はスピン-軌道相互作用(SOC)がある場合、太い実線はスピン-軌道相互作用が無い場合の状態密度を示している。縦軸の0を境に+側に記したグラフはアップスピンの状態密度を示し、-側に記したグラフはダウンスピンの状態密度を示している。図6(b)は横伝導度σxyのフェルミレベル位置依存性を示している。
図6(a)からわかるように、状態密度はスピン-軌道相互作用の有無にほとんど影響されない。また、アップスピンの状態密度とダウンスピンの状態密度は相対的にずれている。
図6(b)からわかるように、横伝導度σxyはフェルミレベルの位置に極めて敏感であり、この敏感性は磁気単極子の存在に依るものである。また、アップスピンの状態密度とダウンスピンの状態密度の相対的ずれを調節する、すなわち磁化の大きさを調節することによってフェルミレベルと状態密度の相対位置をずらすことができ、従って、磁気単極子に流れ込む磁場の向きを変えることができ、これはホール係数の符合が変わることに相当する。
上記の状態密度を用いて、下記に示す光学的縦伝導度及び光学的横伝導度の理論計算値を求めた。
【0034】
図7はSrRuO3 薄膜の光学的縦伝導度σxx及び光学的横伝導度σxyの理論計算値と実験値とを比較したものである。なお、光学的伝導度とは光を照射した場合の伝導度であり、理論計算値は、図6(a)に示した状態密度を基に光学的遷移確率を計算し(8)式を用いて計算したものである。
横軸は照射する光エネルギーを示し、縦軸は光学的伝導度を示し、実線は斜方晶SrRuO3 、点線は立方晶SrRuO3 の光学的伝導度を示している。上段のグラフは光学的縦伝導度σxxの光エネルギー依存性を示し、中段及び下段はそれぞれ光学的横伝導度σxyの実数部分、虚数部分の光エネルギー依存性を示している。図6(a)は理論計算値を示しており、(b)は実験値を示している。なお、(b)の中段及び下段のスケールは(a)のスケールに比べて4倍のスケールである。
実験値の縦伝導度σxxは、通常の反射スペクトルからKramers-Kronig変換を使用して求めた光学的縦伝導度σxxであり、実験値の光学的横伝導度σxyは、フーリエ分光において光-弾性変調素子CaF2 を用いて測定した磁気光学Kerrスペクトルと回折格子を用いて測定した磁気光学Kerrスペクトルとから求めた光学的横伝導度である。測定温度は10Kである。
【0035】
図からわかるように、光エネルギーが0.2eV以上の領域で光学的横伝導度σxyの計算値と実験値が良く一致する。3.0eV付近における大きな立ち上がりは主にO-2p軌道からRu-4d軌道への電荷移動である。0.2eV以下の領域は技術的理由から測定できなかったが、MMM異常ホール係数の測定(光周波数ω=0の測定に相当)によりσxy=-160Ω-1cm-1の負の値を持つことが判明していることから、光学的横伝導度σxyは0.2eV以下の領域で負の最小値を持ち、その後負から正へ鋭く立ち上がることが予測できる。
図に見られるように計算値と実験値が良く一致する。このことは運動量空間において磁気単極子が存在することの確証の一つである。
【0036】
次に、MMM異常横伝導度σxyの磁化依存性について説明する。
図8は横伝導度σxyの磁化依存性の理論計算値と実験値を示す図である。図において●は実験値を示し、実線は理論計算値を示している。理論計算値は、(8)式に基づいて電子が占有された磁気単極子についてk空間で積分して求めたものであるが、図の実線で示すように、横伝導度σxyは磁化に対して単調な依存性を示さない。
図からわかるように、実験値と理論値はよく一致する。このことは運動量空間において磁気単極子が存在することの確証の一つである。
また、図5に示した横伝導度σxyの特異な温度依存性は、温度の低下と共に磁化が大きくなることから、図8と同じ理由に基づくものである。このこともまた、運動量空間において磁気単極子が存在する確証の一つである。
【0037】
上記実施例から以下のように結論することができる。
遍歴強磁性体SrRuO3 についてMMM異常ホール効果の詳細な実験結果を示し、また理論的に実験結果をよく説明できることを示した。その結果、ブロッホ波動関数のベリー位相の項として定義された、運動量空間における磁気単極子の存在に関する確かな証拠を得た。このことは、基本的な観点から磁気材料の電子状態の理解の再構築を促すことになると共に、極めて大きなホール効果を与えることから実用上極めて重要である。例えば、SrRuO3 の良質単結晶薄膜の実験データ、及び理論解析結果から、ペロブスカイト型結晶構造の酸化物でABO3 (A:アルカリ土類元素、B:遷移金属元素、O:酸素元素)においては、運動量空間で磁気単極子が存在し、その結果MMM異常ホール効果が発生することは明かである。このMMM異常ホール効果は、160Ω-1cm-1といった巨大な値を示し、従来の半導体ホール素子の数10倍から数100倍の感度を示す。また、SrRuO3 を用いた実施例では30~40Kといった低温を必要とするが、冷却技術の進んだ今日、この程度の低温を生成するのは容易である。また、この現象は低温下のみで生ずる現象ではなく、同様の電子構造を持ち、室温付近に強磁性転位温度を有する材料であれば常温で同一の現象が起こり得ることは明かである。
【0038】
【発明の効果】
上記説明から理解されるように、本発明によれば、極めて大きなホール電圧が得られることから、従来のホール効果を用いた磁気メモリー素子に比べて素子サイズを極めて小さくでき、また、極めて高感度な磁気センサーが実現できる。
また、ファラデー効果やカー効果を利用する画像表示素子として使用でき、この場合には、素子のサイズを極めて小さくできることから、極めて高密度な画像表示が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】k空間からf空間への射影を示す図である。
【図2】固体材料が強磁性体金属SrRuO3 の場合に、磁気単極子によるゲージ場を計算した結果を示す図である。
【図3】本発明の運動量空間における磁気単極子を用いたホール素子の構成を示す図である。
【図4】SrRuO3 薄膜面内及び薄膜膜厚方向の磁化を温度の関数として測定した図である。
【図5】膜厚50ÅのSrRuO3 薄膜の横伝導度σxyの温度依存性を示す図である。
【図6】計算で求めた斜方晶SrRuO3 の状態密度(DOS)及び横伝導度のフェルミレベル依存性を示す図である。
【図7】SrRuO3 薄膜の光学的縦伝導度σxx及び光学的横伝導度σxyの理論計算値と実験値とを比較したものである。
【図8】横伝導度σxyの磁化依存性を理論計算値と実験値とで比較した図である。
【符合の説明】
1 固体材料薄膜
2 外部磁場、磁化
3 端子
4 端子
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7