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明細書 :アルカロイドの生産性制御因子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4465468号 (P4465468)
公開番号 特開2006-149333 (P2006-149333A)
登録日 平成22年3月5日(2010.3.5)
発行日 平成22年5月19日(2010.5.19)
公開日 平成18年6月15日(2006.6.15)
発明の名称または考案の名称 アルカロイドの生産性制御因子
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
C07K  14/415       (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12P  17/18        (2006.01)
C12R   1/91        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 5/00 A
C07K 14/415
C12N 5/00 103
C12P 17/18 C
C12P 17/18 C
C12R 1:91
請求項の数または発明の数 20
全頁数 21
出願番号 特願2004-348513 (P2004-348513)
出願日 平成16年12月1日(2004.12.1)
審査請求日 平成18年12月25日(2006.12.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】佐藤 文彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100106518、【弁理士】、【氏名又は名称】松谷 道子
【識別番号】100116311、【弁理士】、【氏名又は名称】元山 忠行
【識別番号】100122301、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 憲史
【識別番号】100127638、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 美苗
審査官 【審査官】光本 美奈子
参考文献・文献 Plant Cell Physiol., vol.48, p.8-18 (2007)
調査した分野 C12N 15/09
A01H 5/00
C07K 14/415
C12N 5/10
C12P 17/18
C12R 1/91
SwissProt/PIR/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
WPI(DIALOG)
BIOSIS(DIALOG)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号1で表される塩基配列の第86~772塩基からなるポリヌクレオチドを含む遺伝子。
【請求項2】
配列番号1で表される塩基配列の第86~772塩基からなるポリヌクレオチドにおいて1もしくは数個の塩基または塩基対が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなり、かつイソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子。
【請求項3】
配列番号1で表される塩基配列の第86~772塩基からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、イソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子。
【請求項4】
配列番号1で表される塩基配列の第86~772塩基からなるポリヌクレオチドとヌクレオチドレベルで90%以上の相同性を示し、かつ、イソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子。
【請求項5】
以下の(a)または(b)のタンパク質をコードする遺伝子:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつイソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子として作用するタンパク質。
【請求項6】
イソキノリンアルカロイド産生植物由来である請求項1から5のいずれかの遺伝子。
【請求項7】
オウレン由来である請求項6の遺伝子。
【請求項8】
以下の(c)または(d)のタンパク質:
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつイソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子として作用するタンパク質。
【請求項9】
以下の(e)または(f)のタンパク質:
(e)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(f)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質とアミノ酸レベルで90%以上の相同性を示し、かつ、イソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子として作用するタンパク質。
【請求項10】
請求項1から7のいずれかの遺伝子によってコードされるタンパク質。
【請求項11】
請求項1から7のいずれかの遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項12】
請求項11の組換えベクターを含む形質転換植物細胞。
【請求項13】
イソキノリンアルカロイド産生植物細胞である請求項12の形質転換植物細胞。
【請求項14】
オウレン細胞である請求項13の形質転換植物細胞。
【請求項15】
請求項12から14のいずれかの形質転換植物細胞を培養し、細胞内でイソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子を過剰発現させる工程、および、得られる培養物からイソキノリンアルカロイドを採取する工程を含む、イソキノリンアルカロイドの生産方法。
【請求項16】
イソキノリンアルカロイドがベルベリンである請求項15の方法。
【請求項17】
請求項12から14のいずれかの形質転換植物細胞を含む形質転換植物。
【請求項18】
形質転換植物が植物体、植物器官、植物組織または植物培養細胞である請求項17の形質転換植物。
【請求項19】
請求項1から7のいずれかの遺伝子の発現を阻害する工程を含む、植物においてイソキノリンアルカロイド生合成を阻害する方法。
【請求項20】
発現の阻害をRNAi法により行う請求項19の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の二次代謝産物の一つであり、医薬品として利用度の高いイソキノリンアルカロイドの生合成を制御する転写因子をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子、および該遺伝子によってコードされる転写因子、ならびに該遺伝子を用いるイソキノリンアルカロイドの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長い進化の過程で植物は特異的で高度な二次代謝系を獲得してきた。二次代謝産物の種類は数万から数百万ともいわれ、一般的にアルカロイド、テルペノイド、フラボノイド、フェニルプロパノイドに分類される。これら二次代謝産物の機能は主に外敵からの防御と考えられているが未だ得られている情報は非常に少ない。
【0003】
植物が生産する様々な二次代謝産物は香料、色素、医薬品などとして多用されているが、その生産効率ならびに品質の均質性に問題があり、化学合成への転換が行われてきた。しかし、化学合成にともなう様々な問題ならびに天然物指向の高まりとともに、植物が本来持つ生産性をもとにした物質生産系の開発が求められている。
【0004】
特に、多様な二次代謝産物のなかでも生理活性を有するアルカロイド種は、現在においても市販されている医薬品の成分として非常に高い需要があり、大量に供給する方法が検討されている。一般にアルカロイド種は含窒素複素環をもつ天然高分子で化学構造が複雑なために化学的合成は困難であり、植物体からの抽出が主たる生産法である。ところが植物から採取できる量は少なく、人為的改良を施した植物体による高生産システムの確立が要望されている。そこで、遺伝子工学的手法を導入することにより生合成効率の上昇、人工的な経路による新生成物の産出などを目的とした代謝工学という新たな分野が試みられている(非特許文献1、2参照)。
【0005】
植物の多くの代謝経路は転写制御を受け、代謝経路に関連する遺伝子の転写は発生、環境またはホルモンプロセスなどにより制御される。従来からの植物代謝経路を人為的に操作して有用物質を蓄積させる方法は、代謝経路の律速段階である工程を制御することによるものであった。しかし律速段階の同定は困難であることが多く、最終生成物の蓄積は複数の酵素活性によって制限されることが多いため、かかる方法はあまり成功していない。
【0006】
そのため、複数の代謝工程を制御しうる転写因子を操作する方法が提案されるが、転写制御は複雑なメカニズムであり、所望の代謝産物を得ることは困難であった。すなわち、転写制御を行うためには、標的配列に結合するか、あるいは転写を活性化する複数のタンパク質が必要であることが多い。さらに、転写因子を過剰発現させることにより代謝経路を活性化しようとしても、植物の成長・発達が阻害されることがあった。
【0007】
複数の代謝経路の工程を制御することによって所望の代謝産物を得る試みは有望であるが、植物の二次代謝経路は複雑であることからいままでアルカロイド生合成系を包括的に制御しうる転写因子は同定されていない。
【0008】
アルカロイドのなかでも、イソキノリン誘導体及び生合成的にこれに由来するイソキノリン系アルカロイドには、ベルベリン、モルフィン、パパベリンなど強い生理活性を有するものが多く、多くの医薬品に使用されている。このイソキノリンアルカロイドの生合成系の前半部分は各化合物で共通しているため、イソキノリンアルカロイドの生合成系の遺伝子ならびに制御遺伝子の単離、同定が不可欠である。
【0009】
本発明者は、アルカロイド高生産性オウレン細胞から、アルカロイド生合成酵素遺伝子ならびにその制御遺伝子を包括的に単離する方法を提案し、実際にベルベリン生合成系に関与すると期待できる多くの新規遺伝子・制御候補遺伝子を単離している(特許文献1)。
【0010】
具体的には、薬用植物として知られるオウレンのベルベリン生合成系の研究を進めた結果、現在までに多くのベルベリン生合成関連遺伝子を単離、同定することにより生合成経路の全貌を明らかにしつつある。
【0011】
即ち、ベンジルイソキノリンアルカロイドであるベルベリンは、図1に示すようにアミノ酸であるチロシン2分子から13段階の酵素反応によって生合成される。本発明者はこれまでにベルベリン生産性の高い培養細胞を材料として生合成酵素を精製し、それぞれの酵素に対応する遺伝子を単離、同定してきた。
【0012】
これまで、インドールアルカロイドを生産するニチニチソウにおいてアルカロイド生合成系遺伝子の転写因子ORCAが報告されているが、同遺伝子による発現制御は部分的であり、包括的な生合成制御遺伝子ではない。イソキノリンアルカロイド生合成系においても、複数の工程を包括的に制御する転写因子は今まで知られていない。

【特許文献1】特開2004-121233号公報
【非特許文献1】Current Opinion in Plant Biology 2004 7;202-209
【非特許文献2】Current Opinion in Biotechnology 2002 13;181-187
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、アルカロイド生合成系の複数の遺伝子の転写を包括的に制御することが出来る転写因子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明者は、新規な遺伝子機能解析法と、きわめてアルカロイド生合成能力の高いオウレン培養細胞から単離したcDNAライブラリーを用いることにより、オウレンのアルカロイド生合成系遺伝子を全て発現制御することが出来る転写因子の単離に成功した。このような、代謝経路の包括的な生合成制御因子の単離は初めてである。
【0015】
具体的には、ベルベリン高生産性オウレン株156-1のESTライブラリーを作成し、このライブラリーから転写制御に関わるタンパク質の遺伝子を選抜した。そしてオウレンプロトプラストにおける当該遺伝子の一過的RNAi法による抑制と、該一過性形質転換体におけるベルベリン生合成系酵素である6OMT(ノルコクラウリン-6-O-メチルトランスフェラーゼ)の発現レベルのモニターによって、イソキノリンアルカロイド生合成系を効果的に制御するトランスな転写因子をスクリーニングし、本発明の転写因子をコードするクローンを単離、同定した。
【0016】
すなわち、本発明は、配列番号1(図2、図5および配列表を参照されたい)で表される塩基配列の第86~772塩基からなるポリヌクレオチドを含む遺伝子を提供する。配列番号1で表される配列のうち、本発明による転写因子をコードする領域、即ちオープンリーディングフレーム(ORF)は塩基番号86-772である。したがって、本発明は、配列番号1で表される配列のうち、ヌクレオチド86-772からなる遺伝子を提供する。しかし、配列番号1の塩基番号86~772に相当する領域を含む限り、いずれの遺伝子も本発明の範囲に含まれる。
【0017】
また、本発明には、配列番号1で表される塩基配列の第86~772塩基からなるポリヌクレオチドにおいて1もしくは数個の塩基または塩基対が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなり、かつイソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子も含まれる。ここで、「1もしくは数個の塩基または塩基対が欠失、置換もしくは付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異導入法により置換、欠失、挿入、及び/または付加できる程度の数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/または付加されることを意味する。
【0018】
さらに本発明には、配列番号1で表される塩基配列の第86~772塩基からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、イソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子も含まれる。なお、本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、6M尿素、 0.4% SDS、0.5x SSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。
【0019】
本発明にはまた、配列番号1で表される塩基配列の第86~772塩基からなるポリヌクレオチドとヌクレオチドレベルで60%以上の相同性を示し、かつ、イソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子も含まれる。相同性は好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、80%以上、90%以上、さらに好ましくは、92.5%以上、95%以上、98%以上である。配列の同一性は、FASTA検索 (Pearson W.R. and D.J. Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85:2444-2448)やBLAST検索により決定することができる。
【0020】
本発明はまた、以下の(a)または(b)のタンパク質をコードする遺伝子:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつイソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子として作用するタンパク質、
を提供する。
【0021】
本発明において、「1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失、挿入、及び/または付加できる程度の数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/または付加されることを意味する。また、ここにいう「変異」は、主として公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異タンパク質を単離精製したものであってもよい。
【0022】
本発明によって提供される上記遺伝子は、イソキノリンアルカロイド産生植物由来であるのが好ましく、オウレン由来であるのがさらに好ましい。
【0023】
本発明は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を提供するが、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつイソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子として作用するタンパク質、ならびに、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質とアミノ酸レベルで60%以上の相同性を示し、かつ、イソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子として作用するタンパク質も本発明に含まれる。あるいは本発明によって提供される上記遺伝子によってコードされるタンパク質を提供する。ここで、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加なる語は上記の通りの意味であり、相同性は好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、80%以上、90%以上、さらに好ましくは、92.5%以上、95%以上、98%以上である。配列の同一性は上記のように、FASTA検索 (Pearson W.R. and D.J. Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85:2444-2448)やBLAST検索により決定することができる。
【0024】
本発明はまた、本発明により提供される遺伝子を含む組換えベクター、該組換えベクターを含む形質転換植物細胞および該形質転換植物細胞を含む形質転換植物も提供する。形質転換植物細胞および形質転換植物は好ましくは、イソキノリンアルカロイド産生植物である。本発明により形質転換される植物の具体例としては、オウレン属植物、ケシ、ハナビシソウなどが挙げられ、さらに好ましくはオウレンである。
【0025】
本発明は更に、本発明の形質転換植物細胞を培養し、細胞内でイソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子を過剰発現させる工程、および、得られる培養物からイソキノリンアルカロイドを採取する工程を含む、イソキノリンアルカロイドの生産方法を提供する。好ましくはイソキノリンアルカロイドはベルベリンである。本発明の方法により生産されるイソキノリンアルカロイドの他の具体例としては、モルヒネ、コデイン、テバイン、パパベリン、コプチシン、パルマチン、コロンバミン、シノメニン、ベルバミン、アロモリン、エメチン、レチクリン、コクラウリン、ノルコクラウリン、スコウレリン、ツボクラウリン、コリダリン等が挙げられる。
【0026】
本発明はまた、上記形質転換植物を培養または栽培する工程を含むイソキノリンアルカロイド生産性植物の製造方法、および上記遺伝子を含むポリヌクレオチドで植物細胞を形質転換する工程、および、該形質転換した植物を再分化させて植物体を得る工程を含むイソキノリンアルカロイド生産性植物の製造方法も提供する。
ここで、形質転換植物は、植物体、植物器官、植物組織または植物培養細胞のいずれであってもよい。
【0027】
本発明はまた、上記遺伝子の発現を阻害する工程を含む、植物においてイソキノリンアルカロイド生合成を阻害する方法を提供する。ここで本発明の遺伝子の発現の阻害は従来公知のいずれの手段によって行ってもよく、例えば、アンチセンス法やRNAi法が挙げられる。好ましくは発現の阻害はRNAi法により行う。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、イソキノリンアルカロイドの生合成系の制御により、イソキノリンアルカロイドである医薬として有用なベルベリンの大量生産が可能となる。また、イソキノリンアルカロイドにはモルヒネなどのその他の有用なアルカロイドも含まれるため、かかる有用二次代謝産物の大量生産を可能にする手段が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下本発明をさらに詳細に説明する。
本発明に係る遺伝子について
本発明は、イソキノリンアルカロイド生合成酵素発現を促す転写因子をコードする遺伝子を提供する。
配列番号1に示す塩基配列は、キンポウゲ科のセリバオウレン(Coptis japonica)の培養細胞から得られたcDNAライブラリーに含まれるEST(expression sequence tag:発現している遺伝子断片)として、本願発明者によって配列決定されたものである。そして、かかる塩基配列を有するESTは、データベース上の配列情報に基づいた相同性の解析から、イソキノリンアルカロイドの生合成を調節する転写因子をコードする遺伝子であることが示唆された。
【0030】
本発明に係る遺伝子は好ましくは、配列番号1に示す塩基配列の塩基第86~第772からなるポリヌクレオチドであるが、この部分に相当する部分が含まれる限り、いずれの遺伝子であってもよい。配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドは、イソキノリンアルカロイドであるベルベリンを高生産するオウレン培養細胞から従来公知の方法によって調製したcDNAライブラリーから得ることが出来る。
【0031】
上記配列番号1に示す塩基配列の塩基第86~第772からなるポリヌクレオチドは、イソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を正に制御する転写因子をコードするORFであると確認された。該転写因子は、シロイヌナズナのbHLHドメインと相同性を示すタンパク質である。これまでにアルカロイド生合成系を包括的に制御する転写因子は全く知られておらず、本発明の転写因子の利用によって、アルカロイド生合成系の遺伝子の包括的誘導が期待できるものである。
【0032】
本発明はまた、配列番号2に記載の転写因子として作用するタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする遺伝子を包含する。ここで「転写因子として作用するタンパク質と機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が配列番号2に記載のタンパク質と同等の生物学的機能、即ちイソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子の発現を調節する機能を有することを指す。イソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子としては、TYDC(チロシンデカルボキシラーゼ)、NCS(ノルコクラウリン合成酵素)、6-OMT(ノルコクラウリン-6-O-メチルトランスフェラーゼ)、CNMT(コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ)、CYP80B2(チトクロームP450 80B2)、4'OMT((S)-3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼ、BBE(ベルベリンブリッジ酵素)、SMT(スコウレリン-9-O-メチルトランスフェラーゼ)、CYP719A(チトクロームP450 719A:カナディン合成酵素)をコードする遺伝子などを挙げることができる。
【0033】
本発明の遺伝子には、例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする変異体、誘導体、アレル、バリアントおよびホモログが含まれる。
【0034】
アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードする遺伝子を調製するための当業者によく知られた方法としては、例えば、部位特異的突然変異誘発(site-directed mutagenesis)法(Kramer, W.& Fritz,H.-J. Methods in Enzymology, 154: 350-367(1987))が挙げられる。また、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは、自然界においても生じ得る。このように天然型の本発明の転写因子(配列番号2)をコードするアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であっても、天然型(配列番号2)の転写因子と同等の機能を有するタンパク質をコードする限り、本発明の遺伝子に含まれる。また、たとえ、塩基配列が変異した場合でも、それがタンパク質中のアミノ酸の変異を伴わない場合(縮重変異)もあり、このような縮重変異体も本発明の遺伝子に含まれる。対象となる遺伝子を構成するDNAの塩基の変異数は、アミノ酸レベルにおいて、典型的には、100アミノ酸以内、好ましくは50アミノ酸以内、さらに好ましくは20アミノ酸以内、さらに好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内)である。
【0035】
上記遺伝子を獲得する方法は特に限定されるものではなく、一般的な方法が採用される。例えば、該遺伝子を、それを有する生物のゲノムDNA、cDNAライブラリーなどから適切な制限酵素で切り出し、精製すればよい。即ち、本発明の転写因子をコードする遺伝子には、ゲノムDNA、cDNA、および化学合成DNAが含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、植物細胞または組織からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、本発明タンパク質をコードするDNA(配列番号1)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。
【0036】
また、本発明の転写因子をコードするDNA(配列番号1)に特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、植物細胞または組織から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0037】
なお、上記遺伝子を有する生物としては、イソキノリンアルカロイド産生性植物、例えば、ケシ、ハナビシソウ、オウレン(培養細胞)などを挙げることができる。そして、上記オウレン培養細胞の中でも特に、ベルベリン生産性の高い培養細胞を用いて精製を行えば、より確実に目的の遺伝子を単離することができる。
【0038】
本発明の転写因子をコードするDNAは、例えば、イソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子の発現を活性化することにより、イソキノリンアルカロイドの大量生産に利用することが考えられる。イソキノリンアルカロイドの過剰発現は、産業上様々な利点を有する。例えば、オウレン培養細胞にて過剰発現させることにより、ベルベリンの大量生産や、ケシにて過剰発現させることにより、モルヒネの大量生産が可能となる。また、例えば、該転写因子の発現を抑制することにより、モルヒネを作らないケシの分子育種等、新たな園芸品種の作出も可能となる。
【0039】
本発明の転写因子は、bHLHモチーフを有するため、bHLH型の転写因子であると考えられる。実際、配列番号1に示す塩基配列を有するクローン48の発現を阻害したところ、イソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子の転写を顕著に阻害した。したがって、クローン48は、イソキノリンアルカロイド生合成系の遺伝子発現を活性化する転写因子である。
【0040】
イソキノリンアルカロイド生合成を制御する転写因子をコードする遺伝子の全長cDNAの単離方法
本発明に係る遺伝子は、オウレン培養細胞由来のイソキノリンアルカロイド生合成系を制御する転写因子をコードする遺伝子のESTであるため、それを用いて、オウレン属植物(オウレン培養細胞を含む)、あるいはその他の植物から上記イソキノリンアルカロイド生合成系転写因子をコードする遺伝子の全長cDNAをクローニングすることが可能である。この場合のクローニング方法としても、従来公知の方法を利用することが可能であり、特に限定されるものではない。
【0041】
イソキノリンアルカロイド生合成経路は広く植物界に共通して保存されているため、これに関与する遺伝子である6-OMT等の遺伝子、そして、これらの遺伝子の発現を制御する転写因子も多くの植物が共通して有している。従って、本発明の遺伝子は定法に従い、多くの植物から単離することができる。また、本発明の遺伝子は、ホスファイトトリエステル法(H.Hunkapiller et al.,Nature、vol.310、p.105-111、1984)等の一般的な方法により、化学合成して得ることもできる。
【0042】
具体的には、ゲノムの少なくとも一部がデータベース化されている植物の場合には、上記ポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて相同性のある塩基配列をデータベース中から検索すればよい。例えば、汎用されている相同性検索アルゴリズムであるBLASTによる塩基配列の相同性検索を好適に用いることができる。
【0043】
また、ゲノムがデータベース化されていない植物の場合には、例えば、従来公知のDNAライブラリーを用いたハイブリダイゼーション法を用いることもできる。具体的には、適切なクローニングベクターを使用して対象となる植物からゲノムライブラリー又はcDNAライブラリーを調製する工程と、上記ポリヌクレオチドの少なくとも一部をプローブとして用いてハイブリダイゼーションを行い、ライブラリーから上記プローブにポジティブの断片を検出する工程とを含む方法を用いることができる。このように、本発明に係る遺伝子はプローブとしても有用である。プローブに用いる領域には、目的とする遺伝子に特異的な配列が含まれることが好ましい。また、プローブとして使用されるポリヌクレオチドの長さは、100bp以上が好ましい。
【0044】
より具体的には、配列番号2に記載の転写因子と機能的に同等なタンパク質をコードする遺伝子を調製するために、当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E.M. Journal of Molecular Biology, 98, 503(1975))やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K. et al. Science, 230, 1350-1354(1985)、Saiki, R. K. et al. Science, 239,487-491(1988))を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者にとっては、本発明により提供される遺伝子であるクローン48(配列番号1)もしくはその一部をプローブとして、また該遺伝子に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、植物細胞から該遺伝子と高い相同性を有する遺伝子を単離することは通常行いうることである。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離しうる本発明の転写因子と同等の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子もまた本発明の遺伝子に含まれる。
【0045】
このような遺伝子を単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行う。本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、上記のように6M尿素、 0.4% SDS、0.5x SSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4% SDS、0.1x SSCの条件を用いれば、より相同性の高い遺伝子の効率的な単離を期待することができる。これにより単離された遺伝子は、アミノ酸レベルにおいて、本発明のタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)と高い相同性を有すると考えられる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%以上)の配列の同一性を指す。配列の同一性は、FASTA検索 (Pearson W.R. and D.J. Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85:2444-2448)やBLAST検索により決定することができる。
【0046】
ある遺伝子が転写因子としての機能を有するタンパク質をコードするか否かは、例えば当業者により一般的に行われているゲルシフトアッセイによって調べることができる。具体的には、次のような方法で行うことができる。まず被検DNAを、その遺伝子産物が例えばこれに限定されないが、GSTとの融合タンパク質を生成するようにベクターへ組み込み、該ベクターからの融合タンパク質を発現させる。発現産物をGSTを指標に精製し、bHLH結合モチーフを含む標識したDNAプローブと混合する。この混合液を、非変性アクリルアミドゲルを用いた電気泳動により解析を行う。検出されたゲル上のバンドの位置から、結合活性を評価することができる。
【0047】
また、ある遺伝子がイソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子の発現を活性化する機能を有するタンパク質をコードするか否かは、例えばレポーターアッセイにより調べることができる。具体的には、次のような方法で行うことができる。まず、イソキノリンアルカロイド生合成系酵素の1つのプロモーターの下流にレポーター遺伝子を連結させたベクターを構築する。該ベクターと、被検DNAの遺伝子産物を発現するベクターとをレポーターアッセイ用の細胞へ導入し、レポーター遺伝子産物の活性を測定することにより、被検DNA遺伝子産物の転写活性の評価を行う。該レポーターアッセイに使用することができるプロモーターとしては、例えば上記のTYDC、NCS、6-OMT、CNMT、CYP80B2、4'OMT、BBE、SMT、CYP719Aの上流のプロモーターを挙げることができる。レポーター遺伝子としては、その発現を検出し得るものであれば特に制限はなく、当業者が一般的に各種アッセイ系に使用するレポーター遺伝子を用いることができる。好適なレポーター遺伝子としては、例えば、β-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を挙げることができる。
【0048】
その他にも遺伝子が転写因子としての機能を有するタンパク質をコードするか否かは、当業者に周知のサウスウエスタン法、酵母ワンハイブリッド法などを用いて判定することが出来る。
【0049】
形質転換細胞の作製方法
本発明の遺伝子を発現する形質転換植物を作製する場合には、本発明のタンパク質をコードする遺伝子を適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させる。
【0050】
また、本発明に係る形質転換細胞は、上記遺伝子または組換えベクターが導入された形質転換細胞である。より具体的に言えば、本発明に係る形質転換細胞は、本発明による転写因子をコードする遺伝子が導入された形質転換細胞である。ここで、「遺伝子または組換えベクターが導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、宿主内に所望によりベクター内に組み込まれた遺伝子が例えばプロモーターの作用により、発現可能に導入されることを意味する。
【0051】
本発明に係る形質転換細胞は、上記遺伝子を直接、あるいは上記遺伝子が組み込まれたベクターを宿主に導入することによって得られる。上記宿主は、特に限定されるものではないが、例えば、酵母、大腸菌などの微生物、あるいは、植物、動物などを挙げることができる。しかしながら、上記ベクターに組み込まれた遺伝子が、植物の一種であるオウレン培養細胞由来のものであることから、上記宿主としては、植物が好ましく、植物の中でもオウレン属植物、ケシやハナビシソウのようなイソキノリンアルカロイドを生産する植物が特に好ましい。なお、上記植物の範疇には、上述のように、個体としての植物のみならず、植物の器官、組織、細胞なども含まれる。なお、形質転換は一過性でもよいが、好ましくは安定に上記遺伝子が組み込まれるものである。
【0052】
得られた遺伝子は、植物にて発現可能なプロモーター、例えば、カリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーター(CaMV35Sプロモーター)、ノパリンシンセターゼのプロモーター、リブロース2リン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼの小サブユニットのプロモーター等の下流域にセンス方向、あるいはアンチセンス方向に連結して使用する。なお、目的遺伝子(本発明において、発現の促進あるいは発現の抑制を図る対象となる遺伝子)の発現を促進するためには本発明の遺伝子をセンス方向にプロモーターに連結し、逆に、目的遺伝子の発現を抑制するためには、例えば、本発明の遺伝子をアンチセンス方向にプロモーターに連結する。あるいは2本鎖RNAを生産するようにプロモーターに連結する。また、目的遺伝子の発現促進を図る場合には、プロモーターにセンス方向に連結した本発明の遺伝子と共に、その目的遺伝子を他のプロモーターの下流域に連結したものを、一つのベクターに組込み、あるいは、別個のベクターとして植物細胞に導入してもよい。
【0053】
上記形質転換細胞を含む形質転換植物を作製する方法としては、具体的には、例えば、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki et al., Plant Physiol. 100:1503-1507(1995)参照)。例えば、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Datta,S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.) pp66-74)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Toki et al (1992) Plant Physiol. 100, 1503-1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et al. (1991) Bio/technology, 9: 957-962.)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et al. (1994) Plant J. 6: 271-282.)などを挙げることができるが、特に限定されるものではない。また、上記形質転換方法は、宿主となる植物などの種類(例えば、単子葉植物・双子葉植物)に応じて適宜選択されることが好ましい。
【0054】
一旦、ゲノム内に本発明の遺伝子が導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明の遺伝子が導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、並びに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。
【0055】
本発明において使用することができるベクターとしては、従来から微生物や植物、植物細胞などの形質転換に使用されているベクターを挙げることができる。そして、上記ベクターは、上記遺伝子またはその断片の他に、従来公知の遺伝子を発現させるための恒常発現型または発現制御型のプロモーター、形質転換体の選抜を容易にする薬剤耐性遺伝子、アグロバクテリウムのバイナリ-ベクター系を使用するためのバイナリ-ベクター系を使用するための複製開始点などを含んでいてもよい。
【0056】
より具体的には、大腸菌などの微生物へ導入される場合には、pBluescript系のベクターや、pETベクターなどを使用することができる。植物細胞の形質転換に用いられるベクターとしては、該細胞内で導入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターや外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーター(例えば、エチレン応答性PR5dプロモーター、水分ストレス誘導性rd29Aプロモーター等)を有するベクターを用いることも可能である。また、組織特異的な発現を保証するプロモーター(例えば、根特異的PR5dプロモーター、塊茎特異的パタチンプロモーター、緑葉特異的rbcSプロモーター等)を好適に用いることもできる。エレクトロポレーション法を用いて植物細胞への導入を図る場合には、ベクターに特に制限はない。また、上記薬剤耐性遺伝子としてはアンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などを挙げることができる。上記プロモーターとしては、カリフラワーモザイクウィルス由来の35Sプロモーター(恒常発現型)や熱ショック誘導タンパク質のプロモーター(発現制御型)を挙げることができる。
【0057】
複製開始点としては、Ti又はRiプラスミド由来の複製開始点などを挙げることができる。プロモーターに連結されたDNAは、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、融合法、高速バリスティックベネトレーション法等を用いて、そのまま植物細胞に直接導入することもできるが、植物への遺伝子導入用プラスミドに組込み、これをベクターとして、植物感染能のあるウィルスや細菌を介して間接的に植物細胞に導入することもできる。かかるウィルスとしては、例えば、カリフラワーモザイクウィルス、ジェミニウィルス、タバコモザイクウィルス、ブロムモザイクウィルス等が使用でき、また、細菌としては、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens 以下、A.ツメファシエンスと略す。)、アグロバクテリウム・リゾジェネス(Agrobacterium rhizogenes)等を使用することができる。A.ツメファシエンスを用いるアグロバクテリウム法により、植物への遺伝子導入を行う場合には、かかるプラスミドとして、例えばpBI101、pBI121(いずれもClontech社)等を用いることができる。
【0058】
本発明においてベクターが導入される植物細胞には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。
【0059】
単離した転写因子をコードする遺伝子を利用したアルカロイド生産
本発明者は、本発明以前に単離・同定されたアルカロイド生合成関連遺伝子を用いて、ハナビシソウのアルカロイド生合成活性を分子変換できること、あるいは、オウレンによるベルベリンの生合成活性を向上できること(Sato F et al. Proc Natl Acad Sci (USA) 98: 367-372(2001))を示している。
【0060】
一方、本発明の遺伝子の発現が抑制された形質転換植物を作製する場合には、実施例に記載のように当業者に周知のRNAi法を用いればよい。RNAi法によると、内在性遺伝子の発現の抑制は、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有するDNAの形質転換によって達成されうる。例えば、本発明の転写因子の発現が阻害された植物体を得るためには、配列番号1に記載の配列に基づいてインビトロで二本鎖RNA(dsRNA)を作成し、これを直接植物細胞に導入すればよい。あるいは当業者に周知のRNAi用コンストラクトである、inverted repeat を形成するように構築したベクターDNAを目的の植物へ形質転換することによっても達成されうる。RNAiに用いる配列は、標的遺伝子の配列と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%以上)の配列の同一性を有する。配列の同一性は、上記した検索を利用して決定することができる。dsRNAは、少なくとも、連続する18塩基、好ましくは20塩基、さらに好ましくは22塩基以上(例えば、25塩基)からなる。
【0061】
あるいは、本発明のタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制するための遺伝子を適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させてもよい。「本発明のタンパク質をコードする遺伝子の発現の抑制」には、遺伝子の転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、遺伝子の発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
【0062】
RNAi法以外に、植物における特定の内在性遺伝子の発現を抑制する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者に最もよく利用されている。内在性遺伝子の発現の抑制は、また、リボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことをいう。標的を切断できるよう設計されたリボザイムは、植物細胞中で転写されるようにカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターなどのプロモーターおよび転写終結配列に連結される。リボザイムを用いて本発明で標的となる遺伝子の転写産物を特異的に切断し、該遺伝子の発現を抑制することができる。
【0063】
このような結果から、上記形質転換細胞を作製すれば、容易に植物の二次代謝機能を変換/向上できるとともに、微生物細胞系を用いた物質変換も可能となる。さらに、これらの遺伝子が過剰発現するようなプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウィルス由来の35Sプロモーターなど)を含むベクターに組み込んで、上記形質転換細胞を作製すれば、アルカロイド生合成系の酵素を大量生産することができる。
【0064】
上記形質転換細胞を含む形質転換植物には、完全な植物体のみならず、その一部、植物器官、植物組織または植物培養細胞も含まれるものとする。さらに、上記植物には、予め形質転換された遺伝子組み換え植物やその子孫を起源とする植物組織、プロトプラスト、細胞、カルス、器官、植物種子、胚芽、花粉、卵細胞、接合子などの増殖可能な植物材料;花、茎、実、葉、根などを含む植物の一部等も含まれるものとする。
【0065】
また、本発明には、上記形質転換植物を培養または栽培する工程を含むイソキノリンアルカロイド生産性植物の製造方法、および上記遺伝子を含むポリヌクレオチドで植物細胞を形質転換する工程、および、該形質転換した植物を再分化させて植物体を得る工程を含むイソキノリンアルカロイド生産性植物の製造方法も含まれる。かかる方法によれば、効率的かつ簡便に、イソキノリンアルカロイドを生産することができる。
【0066】
上述の方法を用いれば、オウレンひいてはその他種々の植物(例えば、ケシやハナビシソウ、エンゴサクのようなケシ科植物、タマサキツヅラフジのようなツヅラフジ科植物、メギのようなメギ科植物など)から、ベルベリン、マグノフロリン、モルフィン、パパベリン、サングイナリン、コリダリン、セファランチンなどといったイソキノリン系のアルカロイドを産生させることができる可能性が拓ける。
【0067】
本発明において、目的遺伝子の発現が促進・抑制された植物体は、上記のような方法により本発明の遺伝子が導入された植物細胞を、増殖・再分化させることにより得ることができる。かかる植物細胞の増殖・再分化のための条件は、植物の種類等に応じて適当に選択すればよい。
【0068】
本発明の遺伝子の過剰発現により、TYDC、NCS、6-OMT、CNMT、CYP80B2、4'OMT、BBE、SMT、CYP719A遺伝子等の発現を促進することができ、逆に本発明の遺伝子の発現阻害により、かかる酵素をコードする遺伝子の発現が抑制される。さらに、これらの遺伝子に限らず、これらが有する前記共通配列がその転写調節領域に存在している遺伝子であれば、いずれも、本発明の遺伝子及びベクターによりその発現を制御することができる。
【0069】
また、本発明により遺伝子の発現を促進・抑制できる植物も、特に限定されない。基本的に、イソキノリンアルカロイド生合成経路を有する植物であれば、本発明の効果を得ることができると考えられる。例えば、キンポウゲ科のオウレン、アキカラマツ、トリカブト、メギ科のメギ、ツヅラフジ科のオオツヅラフジ、コロンボ、ケシ科のケシ、エンゴサク、ハナビシソウ、ミカン科のキハダ等に本発明は適用することができる。
【0070】
本発明に係るタンパク質、それをコードする遺伝子およびその利用法
本発明に係るタンパク質は、上記遺伝子によってコードされる配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつイソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子として作用するタンパク質、もしくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質とアミノ酸レベルで60%以上の相同性を示し、かつ、イソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子発現を誘導する転写因子として作用するタンパク質である。
【0071】
また、本発明に係るタンパク質は、タンパク質の精製や検出等を容易に行うために、公知のHAやFlag等の付加配列を末端に含ませてもよいし、融合タンパク質であってもよい。また、N-グリコシル化などの各種修飾を受けていてもよい。
【0072】
本発明による組換えベクターは、上記遺伝子が組み込まれたものである。上記ベクターは、公知の形質転換方法によって植物や微生物などの宿主に発現可能に導入されることによって、当該宿主において組み込まれた遺伝子あるいは遺伝子断片を発現させて本発明によるタンパク質を得ることが出来る。なお、本発明によるタンパク質は下記のように組換え産生により得られたものでもよいし、植物細胞から単離、精製したものでもよく、その起源は特に限定されない。
【0073】
組み換えタンパク質を調製する場合には、通常、本発明のタンパク質をコードする遺伝子を適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な細胞に導入し、形質転換細胞を培養して発現させたタンパク質を精製する。組み換えタンパク質は、精製を容易にするなどの目的で、他のタンパク質との融合タンパク質として発現させることも可能である。例えば、大腸菌を宿主としてマルトース結合タンパク質との融合タンパク質として調製する方法(米国New England BioLabs社発売のベクターpMALシリーズ)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として調製する方法(Amersham Pharmacia Biotech社発売のベクターpGEXシリーズ)、ヒスチジンタグを付加して調製する方法(Novagen社のpETシリーズ)などを利用することが可能である。宿主細胞としては、組み換えタンパク質の発現に適した細胞であれば特に制限はなく、上記の大腸菌の他、例えば、酵母、種々の動植物細胞、昆虫細胞などを用いることが可能である。宿主細胞へのベクターの導入には、当業者に公知の種々の方法を用いることが可能である。例えば、大腸菌への導入には、カルシウムイオンを利用した導入方法(Mandel, M.& Higa, A. Journal of Molecular Biology, 53, 158-162(1970)、Hanahan, D. Journal of Molecular Biology, 166, 557-580(1983))を用いることができる。宿主細胞内で発現させた組み換えタンパク質は、該宿主細胞またはその培養上清から、当業者に公知の方法により精製し、回収することが可能である。組み換えタンパク質を上記したマルトース結合タンパク質などとの融合タンパク質として発現させた場合には、容易にアフィニティー精製を行うことが可能である。
【0074】
得られた組換えタンパク質を用いれば、これに結合する抗体を調製することができる。例えば、ポリクローナル抗体は、精製した本発明のタンパク質若しくはその一部のペプチドをウサギなどの免疫動物に免疫し、一定期間の後に血液を採取し、血ぺいを除去することにより調製することが可能である。また、モノクローナル抗体は、上記タンパク質若しくはペプチドで免疫した動物の抗体産生細胞と骨腫瘍細胞とを融合させ、目的とする抗体を産生する単一クローンの細胞(ハイブリドーマ)を単離し、該細胞から抗体を得ることにより調製することができる。これにより得られた抗体は、本発明のタンパク質の精製や検出などに利用することが可能である。本発明には、本発明のタンパク質に結合する抗体が含まれる。
【0075】
これらのタンパク質および遺伝子は、イソキノリンアルカロイド生合成の制御に関与する転写因子として作用するものであり、それ自体非常に有用なものである。さらに、これらのタンパク質およびこれらタンパク質をコードする遺伝子を用いて、アルカロイド生合成系の改変に利用することができる。また、本発明に係る形質転換細胞、または上記タンパク質を用いることで、in vivo、in vitroを問わず、イソキノリンアルカロイドを生産することもできる。また、同タンパク質と結合するゲノムタンパク質を単離することにより、新規な生合成遺伝子を単離することも可能である。すなわち、このイソキノリンアルカロイドの生産方法は、少なくとも上記タンパク質または形質転換細胞を用いていればよく、その他の具体的な方法、条件、材料(基質など)、酵素、緩衝液、pH、温度、反応時間などは、適宜設定可能であり、限定されるものではない。例えば、上記タンパク質以外の従来公知のイソキノリンアルカロイド生合成に関与する酵素、例えば、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ、N-メチル-コクラウリン-3'-ヒドロキシラーゼ、ベルベリンブリッジ酵素、スコウレリン-9-O-メチルトランスフェラーゼ、ノルコクラウリン-6-O-メチルトランスフェラーゼ、(S)-3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン4'-O-メチルトランスフェラーゼなどとともに用いてもよい。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0076】
ESTライブラリーの作成
特開2004-121233号に記載のように行った。以下にこれを簡単に説明する。
(1)ESTの単離と網羅的塩基配列決定
京都大学大学院生命科学研究科全能性統御機構学研究室で確立され、長年維持培養されてきたオウレン(Coptis japonica)培養細胞のベルベリン高生産株156-1株(選抜株)から、従来文献(Choi, et al., J. Biol. Chem, 277:830-835, 2002)に記載の方法によってmRNAを抽出した。
【0077】
なお、上記オウレンのベルベリン高生産株156-1株は、特開平11-178579号公報、特開平11-178579号公報、および、F. Sato, and Y.Yamada, Phytochemistry, 23(2):281-385(1984)などに記載の方法によって作製・選抜することも可能である。そして、該mRNAから、Gubler and Hoffmanの方法に従い、Rous associated virus 2 reverse transcriptase(Takara)ならびにSuperScript II reverse transcriptase(Invitrogen)を用いて逆転写を行った。得られたcDNAをpDR196ベクターにサブクローニングした後、ランダムに選抜した約5000個のクローンの5'側塩基配列をMegabase system(Amersham Pharmacia)を用いて決定した。
【0078】
ESTマクロアレーをもとにしたベルベリン生合成関連遺伝子の選択
EST解析に用いたクローンをPCR増幅した後、Biomek 2000ロボットを用いて0.38mm間隔で、Biodyne ATM(Pall)膜にブロットしたものをマクロアレーとした。マクロアレーに対して、異なるアルカロイド生産性を有するオウレン培養細胞株(高生産株として156-1SMT、低生産株としてCjY及びCj8)から抽出したmRNAをSuperscript II reverse transcriptase(Gibco BRL)によって、逆転写し、32P標識したものをプローブとしてそれぞれの細胞における遺伝子発現量を定量化した。
【0079】
マクロアレーにおける検出では、先ず、室温で0.5%SDS処理を5分間行い、弱く結合したDNAを除き、milliQ水で洗浄した。その後、100μg/ml ssDNAを含むExpressHyb(Clontech)溶液にて60℃、5-6時間プレハイブリダイゼーションを行った後、プローブを添加し、60℃で最低16時間ハイブリダイゼーションした。その後、60℃、30分間の2×SSC、1%SDS処理を4回、60℃、30分間の0.1×SSC、0.5%SDSを1回、室温で2×SSC処理を一回行い、Phosphor imaging plates(Fujix BAS2000)を用いて定量化した。データは、Array VisionTM(Imaging Research Inc.、Canada)で解析した。
【0080】
クローン48の配列決定と機能の推定
マクロアレー解析の結果、156-1SMT及びCj8において高い発現を示し、CjYにおいて発現の低い遺伝子がベルベリン生合成関連遺伝子としての可能性が高いと判断した。
【0081】
クローン48は、前述のESTライブラリーからランダムに単離したクローンの塩基配列を決定すると共に、Blastx検索を行い、既知の転写因子あるいはシグナル伝達因子と相同性を示すクローンとして単離してきたものである。実際に該クローンが転写因子として機能するかどうかは、後述の一過性RNAiによるスクリーニングにより評価し、約50クローンのスクリーニングの結果、新たに機能を見いだしたものである。
【0082】
そのなかから、アルカロイド生合成を促進する候補遺伝子と考えられたEST(転写因子としての機能を果たすと推定されたもの)クローン48をさらに配列決定した。即ち、Marathon cDNA Amplification Kit(Clontech)を用いて全長cDNAを単離し、その塩基配列決定を行った。決定されたその塩基配列は、配列番号1に示すものである。この配列を図2に示す。クローン48の全長配列(ORF 684bp)を元に、BLASTxにより相同性検索した結果、シロイヌナズナの推定bHLH転写因子(Arabidopsis thaliana, putative bHLH transcription factor protein)(E-value 1e-04)との相同性が見いだされた。
【0083】
クローン48の遺伝子機能解析およびノザン解析によるベルベリン生合成系酵素の発現量の確認
ベルベリン生産性の異なる培養細胞株(SMT:ベルベリン高生産株、Cj8:SMT株の高生産性は低いが生合成酵素遺伝子の発現が高い株、CjY:ベルベリン低生産株)の継代1週間目の細胞より抽出したトータルRNAをホルムアルデヒドを含むゲルで電気泳動し、Biodyne ATM(Pall)メンブレンにブロッティングした。相同性検索によってベルベリン生合成系の転写因子であることが推定されたクローン48の機能を確認するために、該3種のオウレン株におけるクローン48の発現レベルおよびベルベリン生合成遺伝子の1つである4'OMT((S)-3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼ)のmRNAの細胞における発現を、従来文献(Hibi N., Higashiguchi S., Hashimoto T., Yamada Y., 1994, Plant Cell 6: 723-735)に記載の方法に従って確認した。RNAの抽出は、TRIzolを用いたTIGR植物RNA抽出法(http://www.powow.com/akatlab/tigr.html)に従って行った。
【0084】
ノザン解析の結果を図3および図4に示す。
クローン48の発現レベルを測定した結果が図3である。クローン48のmRNAの発現レベルは明らかに、ベルベリン生合成系の酵素発現とよい相関を示した。
4'OMTの発現レベルを測定した結果が図4である。図3および図4から、クローン48の発現レベルとベルベリン生合成系酵素である4'OMTの発現レベルは明らかな正の相関を示した。即ち、クローン48のタンパク発現レベルの高い株SMT、中程度の株Cj8、低生産株CjYの4'OMTの転写レベルはそれぞれ、高レベル、中程度そして低レベルであった。
【0085】
RNAiによるクローン48の機能解析
クローン48の発現を抑制することによって、ベルベリン生合成系の遺伝子の発現にどのような影響が及ぼされるかを調べるために一過性RNAi法を用いた実験を行った。
【0086】
クローン48のdsRNA導入による一過性RNAi
従来から用いられているdsRNAを細胞内で発現するDNAコンストラクト(Inverted repeat structure)を作成し、これを細胞に導入して細胞内でdsRNAを発現させるRNAiプロトコールは非常に時間および手間のかかるものである。したがって本研究においては、インビトロで合成したdsRNAを用いる一過性RNAi法を用いた。オウレンベルベリン高生産株156-1を標的に用いた。
【0087】
dsRNAのインビトロ合成
dsRNAのインビトロ調製はR. Carthew and J. Kennerdell.(http://www.bioexchange.com/tools/protocol_detail. cfm? protocol_id=31#MMB101.
)によるプロトコールにしたがった。簡単に説明すると、以下のPCRプライマー(図5の破線部を参照)を用いてクローン48dsRNAをインビトロで作製した:
5'側:T7プロモーター配列+クローン48遺伝子特異的領域(小文字はT7プロモーター配列)
(5'-5'-taatacgactcactatagggagaccacGCACC AATAGATGCA CGAGA-3')(配列番号3)、
3'側:T7プロモーター配列+クローン48遺伝子特異的領域
(5'-taatacgactcactatagggagaccac GCAGAAGGTTCAGGAGCAAC-3')(配列番号4)
dsRNAのインビトロ合成にはRibomax Express kit (Promega)を用いた。dsRNAをフェノール-クロロホルム-イソプロパノール抽出によって精製し、RNAse-フリー水に溶解した。
【0088】
オウレンプロトプラストへの形質転換
オウレンプロトプラストを継代3週目のSMT細胞から、細胞壁消化用溶液(0.4% オノズカセルラーゼ R10 (Yakult Pharmaceutical Ind. Co.), 0.2% Macerozyme R10 (Yakult Pharmaceutical Ind. Co.), 0.01% Pectolyase, 0.6 M ソルビトール, 20 mM MES (pH 5.5)および 5 mM MgCl2を含有)を用いて調製した。約1gの細胞を10 mlの該溶液中で一晩28℃でインキュベートしてプロトプラストを得た。
【0089】
dsRNAのプロトプラストへの導入は、Chiu et al. Curr. Biol.,6, 325-330 (1996)に記載のようにして行った。簡単に説明すると、W5溶液(154 mM NaCl, 125 mM CaCl2.2H2O, 5 mM KCl および5 mMグルコース)で3回洗浄した後、プロトプラストをMaCaM 溶液に(0.4M マンニトール, 20 mM CaCl2.2H2Oおよび 5 mM MES(pH 5.8))に、2 x 106 プロトプラスト/mlにて懸濁した。
【0090】
dsRNAとプロトプラストを MaCaM溶液中で穏やかに混合し、等量のポリエチレングリコール(PEG)溶液(40% PEG、0.4 Mマンニトール 0.1 M Ca(N03)2.4H20、pH 10に溶解)を少しずつ添加した。穏やかに混合した後プロトプラストを28℃で30分インキュベートし、遠心後、4mlのW5溶液に再懸濁した。28℃、40 rpmにて24または72時間インキュベートした後、プロトプラストを回収し、標的クローン48、様々なアルカロイド生合成系遺伝子(具体的には、TYDC(チロシンデカルボキシラーゼ、NCS(ノルコクラウリン合成酵素)、6OMT(ノルコクラウリン-6-O-メチルトランスフェラーゼ)、CNMT(コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ)、CYP80B2(チトクロームP450 80B2:N-メチルコクラウリン-3'-ヒドロキシラーゼ)、4'OMT((S)-3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼ)、BBE(ベルベリンブリッジ酵素)、SMT(スコウレリン-9-O-メチルトランスフェラーゼ)、CYP719A(チトクロームP450 719A:カナディン合成酵素)。それぞれが関与する工程については、図7を参照)、およびコントロールとしてアルカロイド生合成に関係のないGAPDH、アクチンの転写レベルを測定した。
【0091】
トータルRNAの抽出および逆転写およびRT-PCR
約2~7μgのトータルRNAを3~4 x 105 のオウレンプロトプラストからRNeasy kit (Qiagen)を用いて製造業者の指示に従って抽出した。DNAse Iで処理した後、10 μlのアリコットをSuperscript III (Invitrogen)を用いた逆転写に供した。逆転写は42℃で行った。
【0092】
PCRはGoTaq DNAポリメラーゼ(Promega, USA)を用いてPE 9700 (Perkin-Elmer)中にて行った。各酵素について用いたプライマーについては以下に例示する。
SMT; (GGATTTCTTTCAGTATGCTGG およびTCTCTATCCGTCTCCCAATC), (配列番号5および6)
4'OMT; (ATGTTCTGGACATCAAAGCTCおよびACCAACATCAACAAGTGAGTC), (配列番号7および8)
6OMT; (GCAGTGCAACTTGATCTAGCCおよびAGCTGGTTTTTCTCAGGGTGC), (配列番号9および10)
CNMT; (GCAACAGAGGTTGAGACCTTG およびGCTGCTAGTCCTTTCTGGATG) (配列番号11および12)。
転写産物の量は、DyNAmoHS SybrGreen qPCRキットならびにMJ Research CFD-0200LCXを用いたリアルタイムPCRにより定量を行った。結果を図6および図7に示す。
【0093】
図6は、クローン48のdsRNAを導入した株でのクローン48、生合成系と関係のないGAPDHおよびアクチンの発現レベルを示す。クローン48のdsRNAの導入により、RNAi現象が効果的にクローン48の発現を阻害することが確認される。また、生合成系と関係のない遺伝子(アクチン、GAPDH)の発現はクローン48の発現レベルの抑制によっては影響を受けないことが確認された。
【0094】
図7は、クローン48のdsRNAを導入した株での様々なベルベリン生合成系遺伝子の発現レベルを示す。クローン48の発現をRNAiにより抑制することによって、ベルベリン生合成系の遺伝子の発現がすべて抑制されることが確認された。これらの実験からクローン48がベルベリン生合成系を正に調節する包括的な転写因子であることが支持された。
【0095】
以上のように本発明者らは、本発明による新規タンパク質がイソキノリンアルカロイド生合成酵素発現に関わる転写活性化因子であることを明らかにした。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明により、イソキノリンアルカロイド生合成系の転写因子をコードする遺伝子が提供される。かかる遺伝子の単離により、医薬品原料として有用なイソキノリンアルカロイドを工業的に大量生産する手段が確保されることになり、医薬品産業へ大きく貢献できる可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】イソキノリンアルカロイド生合成経路を示す図である。
【図2】本発明による転写因子をコードするクローン48の全長ヌクレオチド配列を示す図である。
【図3】ベルベリン生産性の異なる株におけるクローン48の発現量を示す図である。
【図4】ベルベリン生産性の異なる株における生合成酵素の1つ、4'OMTの発現量を示す図である。
【図5】本発明による転写因子をコードするクローン48および実施例に用いたプライマーを示す図である。
【図6】一過性RNAiによるクローン48の発現の特異的な抑制を示す図である。
【図7】クローン48の発現減少に伴うイソキノリンアルカロイド生合成経路の遺伝子の発現抑制を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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