TOP > 国内特許検索 > バイオディーゼル廃液からの水素およびエタノールの製造方法 > 明細書

明細書 :バイオディーゼル廃液からの水素およびエタノールの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4665157号 (P4665157)
公開番号 特開2006-180782 (P2006-180782A)
登録日 平成23年1月21日(2011.1.21)
発行日 平成23年4月6日(2011.4.6)
公開日 平成18年7月13日(2006.7.13)
発明の名称または考案の名称 バイオディーゼル廃液からの水素およびエタノールの製造方法
国際特許分類 C12P   3/00        (2006.01)
C12P   7/06        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
C12R   1/01        (2006.01)
FI C12P 3/00 Z
C12P 7/06
C12M 1/00 C
C12P 3/00 Z
C12R 1:01
C12P 7/06
C12R 1:01
請求項の数または発明の数 9
微生物の受託番号 NBRC 100048
全頁数 25
出願番号 特願2004-378043 (P2004-378043)
出願日 平成16年12月27日(2004.12.27)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成16年8月25日 社団法人日本生物工学会発行の「日本生物工学会大会講演要旨集」に発表
審査請求日 平成19年10月12日(2007.10.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】西尾 尚道
【氏名】中島田 豊
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
【識別番号】100080034、【弁理士】、【氏名又は名称】原 謙三
【識別番号】100113701、【弁理士】、【氏名又は名称】木島 隆一
【識別番号】100116241、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 一郎
審査官 【審査官】飯室 里美
参考文献・文献 特開2004-209415(JP,A)
特開平09-267082(JP,A)
特開平10-139610(JP,A)
特開平11-179337(JP,A)
特開平07-059582(JP,A)
特開平04-200382(JP,A)
特開2004-097116(JP,A)
特開2004-057045(JP,A)
International Journal of Hydrogen Energy,2002年,Vol.27,p.1399-1405
日本生物工学会大会講演要旨集,2004年 8月25日,p.197,2G09-4
調査した分野 C12P 1/00 - 41/00
C12N 1/00 - 1/38
C12N 11/00 - 11/16
C12M 1/00 - 1/42
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
原料液として、油脂をメチルエステル化して得られる生成物からメチルエステルを除去して得られるバイオディーゼル廃液を含むものを用い、
少なくともその表面に微生物を固定可能な担体が存在する条件下で、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌によって発酵させる発酵工程を含むことを特徴とする水素およびエタノールの製造方法。
【請求項2】
上記エンテロバクター(Enterobacter)属細菌が、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、エンテロバクター・ゲルゴビエ(Enterobacter gergoviae)、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、およびエンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii)からなる細菌群から選ばれる少なくとも1つ以上の細菌であることを特徴とする請求項1に記載の水素およびエタノールの製造方法。
【請求項3】
上記エンテロバクター(Enterobacter)属細菌が、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)HU101(受託番号:NBRC100048)であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素およびエタノールの製造方法。
【請求項4】
上記担体が、多孔質であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水素およびエタノールの製造方法。
【請求項5】
上記担体が、粒子状であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水素およびエタノールの製造方法。
【請求項6】
上記担体の平均粒子径が、3mm以上、20mm以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の水素およびエタノールの製造方法。
【請求項7】
上記担体が、貫通孔を有する多孔質担体であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の水素およびエタノールの製造方法。
【請求項8】
上記発酵工程が、連続培養により行なわれることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の水素およびエタノールの製造方法。
【請求項9】
上記原料液が、酵母抽出物およびカゼイン酵素分解物を含むことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の水素およびエタノールの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性油脂、動物性油脂、廃油等の油脂をメチルエステル化してバイオディーゼル燃料を製造する際に副生成物として得られる、いわゆるバイオディーゼル廃液の有効利用方法として、当該バイオディーゼル廃液から水素およびエタノールを効率良く製造する方法、並びに当該方法を行なうために用いられるキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、植物性油脂、動物性油脂、および廃油等の油脂をリパーゼの存在下でメタノールと反応(メタノリシス反応)させることにより得られる脂肪酸メチルエステルは、バイオディーゼル燃料と呼ばれ、軽油の代替燃料として注目されている。かかるバイオディーゼル燃料中には、(1)ほとんど硫黄分が含まれていないために酸性雨の原因となる硫黄酸化物(SO)が発生しないこと、(2)炭素および水素以外に酸素が含まれているため軽油に比べて黒煙発生が少なく排気ガスが清浄化すること等の理由から、環境負荷の少ない燃料として特に期待されている。かかるバイオディーゼル燃料は軽油に比べると若干発熱量が低いという物性を有しているが、自動車に適用した場合においてその走行にはほとんど影響が無いということが確認されている。さらには、動粘度が5.6m/sec、引火点が135~145℃であり、その性状も軽油と類似しているため、軽油の強制規格基準をほぼ満足している(非特許文献1参照)。かかるバイオディーゼル燃料の製造方法については、各所において開発研究が進められており、種々報告されている(例えば非特許文献2~5、特許文献1参照)。
【0003】
一方、上記バイオディーゼル燃料を生産する際には、以下の反応式(式I)に示すように副生成物としてグリセロールが生成される。
【0004】
【化1】
JP0004665157B2_000002t.gif

【0005】
(式中R~Rはアルキル基を示す)
上記反応式に示す生成物のうち、脂肪酸メチルエステルについては、既述のごとくバイオディーゼル燃料として有効に利用可能であるが、その残渣のグリセロールについては特に用途が無く、廃棄されているのが現状である。
【0006】
上記現状に鑑みて、廃棄物であるグリセロールを含む廃液の有効利用を行なうべく、上記廃液から水素を回収する方法の開発が試みられている。例えば、特許文献2においては副生成物であるグリセロールを加熱気化させて水素ガスを発生させ回収する装置について記載されている。
【0007】
一方、通性嫌気性細菌エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)は、グルコース等から水素を発酵生産することが知られている(非特許文献6参照)。本発明者らは、独自に分離したエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)HU101株の各種炭化水素に対する水素生産量について検討したところ、グリセロールを基質として発酵させた時に、最大の水素生産量が得られることを確認した(非特許文献7参照)。

【非特許文献1】福田 秀樹、「クリーンエネルギー(バイオディーゼル燃料)」日本農芸化学会シンポジウム:2002.3、p358
【非特許文献2】吉川 浩ら、「超臨界メタノールによる植物油からのバイオディーゼル燃料の製造」高圧討論会講演要旨集、VOL.42nd、p109(2001)
【非特許文献3】渡辺 嘉ら、「固定相型バイオリアクターを用いた廃食用油のバイオディーゼル燃料への連続変換」、酵素工学研究会講演会講演要旨集、VOL.46th、p42(2001)
【非特許文献4】FUKUDA H, KONDO A, NODA H,”Biodiesel Fuel Production by Transesterification of Oils” J Biosci Bioeng, VOL. 92, NO.5, p405-416(2001)
【非特許文献5】SAKA S, KUSDIANA D,「超臨界メタノールを利用した植物油廃棄物からバイオディーゼル燃料の生産」、資源処理技術、VOL.47、NO.2、p95-102
【非特許文献6】谷生 重晴ら、「Enterobacter aerogenes の発酵水素発生と利用基質について」、醗酵工学会誌、第67巻、第1号、p29-34、1989
【非特許文献7】Y.Nakashimada, M.A.Racman, T. kakizono, N. Nishio,”Hydrogen production of Enterobacter aerogenes altered by extracellular and intracellular redox states” International Jounal of Hydorogen Energy 27(2002),1399-1405
【特許文献1】特開2002-23393号公報(公開日:平成14年8月20日)
【特許文献2】特開2004-209415号公報(公開日:平成16年7月29日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のごとく、バイオディーゼル燃料の製造の副生成物であるグリセロールを含む廃液(以下、バイオディーゼル廃液という)の有効利用法の開発が求められている。しかしながら現在バイオディーゼル廃液の有効な利用方法が開発されていないのが現状である。上記例示した特許文献2に開示されている方法はバイオディーゼル廃液を加熱気化させて水素を回収しているが、加熱気化させるためには相当量の熱量を必要とし、設備面、コスト面、技術面において多くの課題を有している。
【0009】
そこで本発明の目的は、バイオディーゼル廃液の有効利用方法として、バイオディ-ゼル廃液から簡便かつ効率的に水素およびエタノールを生産する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記非特許文献7に記載されている通り、Enterobacter aerogenes (HU101)で、グリセロールを発酵させることによって水素を生産できるということは知られている。本発明者らの検討によれば、カラム型リアクターを用い、Enterobacter aerogenes (HU101)による市販グリセロール10(g/l)を使用した連続培養においては、多孔質担体を使用しない場合であっても、菌体はフロック状となりリアクター底部に高密度に堆積し、水素生産速度は80(mmol/l/h)に達した(後述する図6参照)。一方、バイオディーゼル廃液をグリセロール濃度が10(g/l)になるように希釈し、同条件で連続培養を行った場合、菌体のリアクター内での堆積量が市販グリセロールの場合と比較して明らかに少なく、最大水素生産速度は30(mmol/l/h)と極端に低くなった(後述する図5参照)。これは、市販グリセロール(純グリセロール)を原料とした場合Enterobacter aerogenes (HU101)は水素を効率良く生産することができるが、バイオディーゼル廃液を原料とした場合は、水素を効率良く生産することができないということを示している。よって、バイオディーゼル廃液を原料としてEnterobacter aerogenes (HU101)で発酵し、水素を生産することは、バイオディーゼル廃液の有効利用法とはいえない。
【0011】
鋭意検討の結果、本発明者等は、バイオディーゼル廃液を原料とした場合であっても、微生物を固定可能な多孔質担体を用いることにより、リアクター内の菌体堆積量が著しく上昇し、水素生産速度が60(mmol/l/h)に著しく向上するという新規知見を得た(後述する図4参照)。このことから、担体(より好ましくは、多孔質担体)の利用が、バイオディーゼル廃液利用の効率化において必要不可欠であることがわかった。
【0012】
本発明は、上記新規知見に基づきを完成されたものである。すなわち本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法は、上記課題を解決するために、原料液として、油脂をメチルエステル化して得られる生成物からメチルエステルを除去して得られるバイオディーゼル廃液を含むものを用い、少なくとも表面に微生物を固定可能な担体が存在する条件下で、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌によって発酵させる発酵工程を含むことを特徴としている。
【0013】
上記バイオディーゼル廃液は、その大部分がグリセロールである。エンテロバクター(Enterobacter)属細菌は、そのグリセロールを利用して水素およびエタノールを発酵生産することができる。また本発明の構成に含まれる上記担体は、少なくともその表面に微生物を固定可能である。よって当該担体が存在する条件下、バイオディーゼル廃液を含む原料液中でエンテロバクター(Enterobacter)属細菌を培養すれば、該担体に固定化される。担体に固定化されたエンテロバクター(Enterobacter)属細菌は、前記原料液中に浮遊することなく生育することができる。よって、発酵槽内の菌体密度を著しく向上させるとともに、原料液中に含まれるグリセロールとエンテロバクター(Enterobacter)属細菌との接触頻度も向上する。さらには、増殖したエンテロバクター(Enterobacter)属細菌が発酵槽からオーバーフローすることを効果的に防止することができる。それゆえ本発明の上記構成によれば、バイオディーゼル廃液からの水素およびエタノールの発酵生産の効率を従来法に比して格段に向上させることが可能となるという効果を奏する。
【0014】
また本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法は、上記課題を解決するために、上記エンテロバクター(Enterobacter)属細菌が、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、エンテロバクター・ゲルゴビエ(Enterobacter gergoviae)、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、およびエンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii)からなる細菌群から選ばれる少なくとも1つ以上の細菌であってもよい。
【0015】
上記エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、エンテロバクター・ゲルゴビエ(Enterobacter gergoviae)、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、およびエンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii)は、グリセロールまたはグルコースからの水素生産能が高い種である。それゆえ、本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法において、さらに水素生産量を向上させることができるという効果を奏する。
【0016】
また本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法は、上記課題を解決するために、上記エンテロバクター(Enterobacter)属細菌が、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)HU101であってもよい。
【0017】
上記、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)HU101は、本発明者らが自然界からグルコースからの水素生産菌として独自に分離してきた株であり、検討の結果、特にグリセロールからの水素生産能が高い株である。それゆえ、本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法において、さらに水素生産量を向上させることができるという効果を奏する。
【0018】
また本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法は、上記課題を解決するために、上記担体が、多孔質であってもよい。
【0019】
上記のごとく担体が多孔質であることによって、当該担体上に固定化される微生物の量を増加させることができ、水素およびエタノールの生産量をさらに向上させることが可能となる。
【0020】
また本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法は、上記課題を解決するために、上記担体が、粒子状であってもよい。
【0021】
上記担体は、既述の通り表面および内部に微生物が固定されることにより、菌体密度を向上させるための部材である。したがって菌体密度をさらに向上させるために、上記担体は、表面積が大きく、さらに発酵槽への充填率を高くできる粒子状であることが好ましいといえる。
【0022】
また本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法は、上記課題を解決するために、上記担体の平均粒子径が、3mm以上、20mm以下であってもよい。
【0023】
上記担体は、既述の通り少なくともその表面に微生物が固定されることにより、菌体密度を向上させるための部材である。したがって菌体密度をさらに向上させるためには、担体の粒子径はできるだけ小さいことが好ましいといえる。ただし、過度に粒子径が小さくなると原料液表面に浮遊してしまい、菌体密度を向上させることができなくなる。よって担体の平均粒子径を上記のごとく3mm以上、20mm以下にすることが好ましいといえる。平均粒子径が上記の範囲の担体を用いることで、菌体密度をさらに向上させることができ、水素およびエタノール生産量をさらに向上させることができるという効果を奏する。
【0024】
また本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法は、上記課題を解決するために、上記担体が、貫通孔を有する多孔質担体であってもよい。
【0025】
エンテロバクター(Enterobacter)属細菌が多孔質担体と接触する際に、当該多孔質担体の貫通孔を通過することができ、多孔質担体のさらに内部までエンテロバクター(Enterobacter)属細菌が入り込むことができる。それゆえ、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌の多孔質担体に対する固定化量を向上させることができ、水素およびエタノール生産量をさらに向上させることができるという効果を奏する。
【0026】
また本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法は、上記課題を解決するために、上記発酵工程が、連続培養により行なわれる構成であってもよい。
【0027】
連続培養は、連続培養は原料液の流入と、発酵液の流出を連続的に行なう培養法であるため、水素およびエタノールの生産を連続的に行なうことができるという効果を奏する。また新しい原料液を流入するために発酵液中に生産されるエタノールが希釈されることとなる。エタノールは微生物を死滅させるものであるため、発酵液中にこれが蓄積するとエンテロバクター(Enterobacter)属細菌が死滅し、水素およびエタノールの生産が継続できなくなる。上記構成によれば、エタノールを原料液によって希釈することができるため、エタノールによるエンテロバクター(Enterobacter)属細菌の死滅を防止し、水素およびエタノールの生産を長期間継続して行なうことができるという効果を奏する。
【0028】
また本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法は、上記課題を解決するために、上記原料液が、酵母抽出物およびカゼイン酵素分解物を含むものであってもよい。
【0029】
上記酵母抽出物およびカゼイン酵素分解物は、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌の生育、増殖を向上させることができる。それゆえ、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌の発酵力がさらに増加し、水素およびエタノール生産量をさらに向上させることができるという効果を奏する。
【0030】
一方、本発明にかかるキットは、上記課題を解決するために、上記本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法を行なうためのキットであって、少なくともその表面に微生物を固定可能な担体、およびエンテロバクター(Enterobacter)属細菌が含まれることを特徴としている。
【0031】
上記本発明にかかるキットによれば、バイオディーゼル廃液から水素およびエタノールを効率良く、且つ簡便に生産することができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0032】
上記のごとく本発明によれば、グリセロールを多量に含んでいるにも関わらず、これまで有効な処理方法が無かったために、廃棄物としていたバイオディーゼル廃液から、水素およびエタノールを微生物による発酵技術によって簡便かつ効率的に回収する方法を提供すことが可能となった。水素は燃料電池用の燃料としてその利用が期待されており、またエタノールも燃料、溶媒として広範囲に利用されているものである。よって本発明は、植物製油脂、動物性油脂を始めとするバイオマスを無駄にすることなく、有効に利用することができる方法および手段を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の実施の形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
<1.本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法>
本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法(以下「本発明の製造方法」という。)は、原料液として、油脂をメチルエステル化して得られる生成物からメチルエステルを除去して得られるバイオディーゼル廃液を含むものを用い、少なくとも表面に微生物を固定可能な担体が存在する条件下で、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌によって発酵させる発酵工程を含むことを特徴としている。以下、構成ごとに分けて具体的に説明する。
【0035】
(バイオディーゼル廃液)
本発明の製造方法の原料液を構成するバイオディーゼル廃液は、バイオディーゼル燃料を製造する際に副生成物として得られるグリセロールを多量に含むものである。バイオディーゼル燃料の製造原理は、既述の式Iに示す反応式に示すようにして行なわれる。より具体的には、油脂(別名:トリグリセリド、トリアシルグリセロール)とメタノールとが化学反応(メチルエステル化)によりメチルエステルおよびグリセロールが生成する。この生成したメチルエステルがバイオディーゼル燃料であり、この反応液からメチルエステル(バイオディーゼル燃料)を除去したものがバイオディーゼル廃液である。
【0036】
なおバイオディーゼル燃料を製造する際に油脂をメチルエステル化する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いればよい。例えば、油脂とメタノールとをリパーゼ等の触媒存在下で反応させる方法、または超臨界メタノールと油脂とを反応させる方法(非特許文献2、5参照)等を用いて行なうことができる。
【0037】
このバイオディーゼル燃料を製造する際に用いる油脂としては特に限定されるものではなく、植物性油脂、動物性油脂またはその廃油等を油脂として用いることが可能である。上記植物性油脂としては、パーム油、ナタネ油、ゴマ油、オリーブ油等が挙げられ、動物性油脂としては、ラード、牛脂、魚油等が挙げられる。また上記油脂には、不純物等が含まれるものであっても、試薬グレードの油脂を用いてもよい。試薬グレードの油脂を用いた場合には、メチルエステル化後の反応液中に含まれる不純物が少なく、バイオディーゼル燃料の回収が容易であること、バイオディーゼル廃液をエンテロバクター(Enterobacter)属細菌によって発酵させる際の効率が高いという理由から、純度の高い油脂を用いることが好ましいといえる。
【0038】
また油脂をメチルエステル化して得られた生成物から、メチルエステル(バイオディーゼル燃料)を除去する方法としては、デカンテーション等の公知の方法を用いればよい。より具体的には、メチルエステル化後(メタノリシス後)、反応液を静置することにより、生成されたバイオディーゼル燃料は上層に、グリセロールを含むバイオディーゼル廃液部分は下層に分かれる。よって、デカンテーション等の方法により容易にバイオディーゼル燃料とバイオディーゼル廃液とを分離できる。上記のようにしてメチルエステル(バイオディーゼル燃料)を反応液中から除去した残渣、本発明の製造方法において利用するバイオディーゼル廃液である。
【0039】
かかるバイオディーゼル廃液には、主成分としてグリセロールが多量に含まれている。バイオディーゼル燃料の製造に用いる油脂に含まれる成分によって異なるが、バイオディーゼル廃液にはその他、乳酸、酢酸、エタノール等が含まれる場合がある。
【0040】
(原料液)
本発明の製造方法に用いる上記原料液は、上記バイオディーゼル廃液が含まれていれば特に限定されるものではなく、バイオディーゼル廃液そのものを原料液として用いても良く、また適宜、水等の溶媒を添加し原料液として用いてもよい。上記溶媒の添加率(換言すれば希釈率)は特に限定されるものではなく、後に行なうエンテロバクター(Enterobacter)属細菌による発酵工程に用いる原料液として好適なものとなるように適宜検討の上、決定すればよい。
【0041】
本発明者らは、原料液中に含まれるグリセロール濃度が高くなれば、目的とする水素およびエタノールの生産量が下がり、副生成物(乳酸、酢酸量、1,3-プロパンジオール等)が増加することを確かめている。なお原料液中に含まれるグリセロール濃度として好ましい範囲は、1.7(g/l)以上50(g/l)以下が好ましく、5(g/l)以上10(g/l)以下がさらに好ましい。したがって、上記のバイオディーゼル廃液の希釈率は、原料液中に含まれるグリセロール濃度が上記好ましい範囲になることを指標に決定すればよい。
【0042】
またその他、微生物(エンテロバクター(Enterobacter)属細菌)の生育に必要な培地成分が含まれていてもよい。当該培地成分が含まれることによって、微生物(エンテロバクター(Enterobacter)属細菌)の生育・増殖が活発になり、バイオディーゼル廃液からの水素・およびエタノールの発酵生産効率がさらに向上する。
【0043】
上記培地成分としては、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌の培養に好適なものを適宜選択の上、添加すればよい。特に、酵母抽出液、およびカゼイン酵素分解物は、一般に微生物用培地に用いられている成分であり、本発明に用いる培地成分としては好適である。後述する実施例において示すように、本発明者らは、酵母抽出液、およびカゼイン酵素分解物をバイオディーゼル廃液に添加した場合において、水素およびエタノールの生産量が向上することを確認している。
【0044】
なお、酵母抽出液(別名:イーストエキス、酵母エキス)とは、ビール酵母(Saccharomyces Cerevisiae )等の酵母の内容物を抽出したものであり、一般に市販されているものである。本発明においてもかかる市販されているものを適宜利用すればよい。例えば、粉末酵母エキスS(日本製薬株式会社製)、Yeast Extract, Bact(Difco社製)等を用いればよい。上記酵母抽出物の添加量としては、原料液に0.05重量%以上1重量%以下が好ましく、原料液に0.25重量%以上0.5重量%以下がさらに好ましい。
【0045】
また、上記カゼイン酵素分解物とは、牛乳カゼイン等のカゼインをペプシン、トリプシン等のタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)で処理したものであり、一般に市販されているものである。本発明においてもかかる市販されているものを適宜利用すればよい。例えば、ポリペプトン(日本製薬株式会社製)、Trypton, Bact(Difco社製)等を用いればよい。上記カゼイン酵素分解物の添加量としては、原料液に0.1重量%以上1重量%以下が好ましく、原料液に0.25重量%以上0.05重量%以下がさらに好ましい。
【0046】
その他の培地成分としては、(NHSO,MgSO、Co(NO、Fe(NHSO、NaMoO,CaCl,NaSeO,ニコチン酸、NiCl、その他ビタミン類等をミネラルとして添加してもよい。また、バッファー成分として、KHPO、KHPO等が含まれていてもよい。また微量元素としてMnCl、HBO、AlK(SO)、CuCl、EDTA等が含まれていてもよい。上記化合物は市販されているものを使用することができる。
【0047】
(微生物)
本発明の製造方法における発酵工程に用いる微生物は、通性嫌気性細菌のエンテロバクター(Enterobacter)属細菌である。エンテロバクター(Enterobacter)属細菌のグリセロールの代謝経路について図1に示す。エンテロバクター(Enterobacter)属細菌は、ブドウ糖などの解糖系で得られた余剰なNADHを2,3-ブタンジオール、エタノール、乳酸および酢酸などに配分することにより還元当量のバランスを保つ、いわゆる混合有機酸発酵を行なって生育する。この中で水素(図1中、H)は、以下の経路によって生成される。(1)エタノール(図1中、Ethanol)および酢酸(図1中、Acetate)生成の中間生成物であるピルビン酸(図1中、Pyruvate)がアセチルCoA(図1中、Acetyl-CoA)へと代謝される際に、ピルビン酸-ギ酸リアーゼによりギ酸(図1中、Formate)が生成される。(2)当該ギ酸(図1中、Formate)からヒドロゲナーゼの作用により水素(図1中、H)が生成される。
【0048】
よって、本発明の製造方法にエンテロバクター(Enterobacter)属細菌を用いることによって、バイオディーゼル廃液に含まれるグリセロールを利用して水素およびエタノールを発酵生産することができる。
【0049】
本発明者らは、このエンテロバクター(Enterobacter)属細菌のグリセロール代謝経路に着目し、上記各種エンテロバクター(Enterobacter)属細菌について、グルコースからの水素生産能を検討した。その結果、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、エンテロバクター・ゲルゴビエ(Enterobacter gergoviae)、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii)等が水素生産能を有していることを確認した。エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)としては、例えば、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes IFO802)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes JCM1235)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes HU10)が利用可能である。
【0050】
なお、上記エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes HU101)は、本発明者らがグルコースからの水素生産菌として独自に分離した新菌株であり、独立行政法人 製品評価技術基盤機構において、NBRC100048、Enterobacter aerogenes (HU101)として寄託されている(寄託日:平成15年3月24日)。
【0051】
またエンテロバクター・ゲルゴビエ(Enterobacter gergoviae)としては、例えばエンテロバクター・ゲルゴビエ(Enterobacter gergoviae JCM1234)が利用可能である。
【0052】
またエンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)としては、例えばエンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae JCM1232)が利用可能である。
【0053】
またエンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii)としては、例えばエンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii JCM1233)が利用可能である。
【0054】
なお上記エンテロバクター(Enterobacter)属細菌は、上記に掲げた菌株に限られるものではなく、グリセロールまたはグルコースから水素生産能を有する菌株であれば全て利用可能である。また、本発明における発酵工程では、上記で掲げた種々のエンテロバクター(Enterobacter)属細菌からなる細菌群から選ばれる1菌株を用いて発酵工程を行なってもよいし、2菌株以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0055】
(発酵工程)
本発明にかかる製造方法は、既述の原料液を、少なくとも表面に微生物を固定可能な担体、より好ましくは多孔質担体の存在下で、上記エンテロバクター(Enterobacter)属細菌によって発酵させる発酵工程を含んでいる。かかる発酵工程は、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌が原料液から水素およびエタノールを発酵生産する工程である。その発酵条件としては、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌が水素およびエタノールを発酵生産する条件として好ましい条件であれば特に限定されるものではなく、その発酵方法は連続培養であっても回分培養(バッチ培養)であってもよい。回分培養は、発酵槽に原料と微生物を仕込み発酵終了後に発酵液を抜き出すという培養方法であり、連続培養は微生物を固定化等により発酵槽の中に閉じ込め、原料の流入と発酵液の流出を連続的に行なう培養方法である。連続培養は、長期間連続的に発酵することにより、発酵槽の単位体積あたりの生産性が回分培養に比して高いというメリットがあるためにより好ましいといえる。
【0056】
また本発明における発酵工程は、通気培養であっても、静置培養であってもよい。ただし、通気培養では増殖にエネルギーを使うために目的とする水素およびエタノールの発酵生産の効率が下がる。よって、静置培養の方が好ましいといえる。
【0057】
また培養温度についてはエンテロバクター(Enterobacter)属細菌の生育に好適な条件を採用すれば良く、28℃~40℃が好ましく、30℃~37℃がさらに好ましく、37℃が最も好ましい。
【0058】
原料の流入と発酵液の流出を行なう連続培養では、その発酵液の流出の際に微生物が一緒に流出することを防止する必要がある。このために微生物の固定化等を行なって、発酵槽からの流出を防いでいる。上記微生物の流出を防ぐ方法としては、固定化担体を用いて発酵槽内に微生物を固定化してもよいし、特に固定化担体を用いることなく増殖した微生物同士が自己凝集体(フロック)を形成して発酵槽内に留まるという方法であってもよい。ただし、固定化担体の自重により固定化担体に固定化された微生物が発酵液の表層に浮遊することがなく、確実に発酵槽内に留まることができるということ、浮遊することが無いために原料液と微生物が接触する頻度が高まり発酵生産効率が向上すること、および発酵槽内の微生物の菌体密度を向上させることができる等の理由から、固定化担体を用いる方法が好ましいといえる。
【0059】
本発明の製造方法においても、上記の理由から発酵工程において、少なくともその表面に微生物を固定可能な担体を用いている。上記担体としては、少なくともその表面に、(より好ましくは、その表面および内部に)微生物を固定することが可能な担体であれば限定されるものではない。ただし、微生物が固定化しやすく、その微生物の固定量が増加するという理由から、上記担体は多孔質であることが好ましい。上記多孔質である担体(以下、「多孔質担体」という)は、文字通りその表面に多数の孔があり、その孔内部および表面に微生物、すなわちエンテロバクター(Enterobacter)属細菌が吸着し、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌を固定化することができる。
【0060】
担体(より好ましくは多孔質担体)にエンテロバクター(Enterobacter)属細菌を固定化する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば発酵槽内に原料液と担体(より好ましくは多孔質担体)を仕込み、そこにエンテロバクター(Enterobacter)属細菌を接種し培養する方法が挙げられる。すなわち特に、固定化操作を別途行なうのではなく、発酵工程によって増殖してきたエンテロバクター(Enterobacter)属細菌の培養液が担体(より好ましくは多孔質担体)と接触することにより、その表面および内部に固定化されるという方法である。なお、本発明の製造方法の発酵工程とは別に、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌を培養し、担体(より好ましくは多孔質担体)に固定化するという操作を行ない、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌が固定化された担体(より好ましくは多孔質担体)を発酵工程に導入するというものであってもよい。
【0061】
本発明の製造方法において使用する上記多孔質担体は、特に限定されるものではなく、連続培養用に市販されている固定化担体を適宜利用可能である。例えば、ナガオ株式会社製: ペレット状セラミックスSP1-4、協和エンジニアリング株式会社製: クラゲール、株式会社サンバイオ社製:バイオポーラスなどが利用可能である。
【0062】
なお本発明に使用する担体(より好ましくは多孔質担体)は、粒子状であることが好ましく、その平均粒子径が3mm以上20mm以下であることが好ましい。上記担体(より好ましくは多孔質担体)は、既述の通り表面および内部に微生物が固定されることにより、菌体密度を向上させるための部材である。したがって菌体密度をさらに向上させるためには、担体(より好ましくは多孔質担体)は粒子状であり、その粒子径はできるだけ小さいことが好ましいといえる。ただし、過度に粒子径が小さくなると原料液表面に浮遊してしまい、菌体密度を向上させることができなくなる。よって担体(より好ましくは多孔質担体)の平均粒子径を上記のごとく3mm以上20mm以下にすることが好ましいといえ、3mm以上10mm以下にすることがさらに好ましいといえる。平均粒子径が上記の範囲の担体(より好ましくは多孔質担体)を用いることで、菌体密度をさらに向上させることができ、水素およびエタノール生産量をさらに向上させることができるという効果を奏する。
【0063】
また本発明の製造方法は、上記多孔質担体が、貫通孔を有する多孔質担体であることが好ましい。多孔質担体に貫通孔がない場合、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌の培養液が、多孔質体の孔の内部まで入り込むことができないのに対し、多孔質担体に貫通孔がある場合は、当該多孔質担体の貫通孔をエンテロバクター(Enterobacter)属細菌の培養液が通過することができ、多孔質担体のさらに内部までエンテロバクター(Enterobacter)属細菌が入り込むことができる。それゆえ、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌の多孔質担体に対する固定化量を向上させることができ、水素およびエタノール生産量をさらに向上させることができるという効果を奏する。上記貫通孔を有する多孔質担体は、既述のナガオ株式会社製: ペレット状セラミックスSP1-4、協和エンジニアリング株式会社製: クラゲール、株式会社サンバイオ社製:バイオポーラスなどが利用可能である。
【0064】
なお使用する担体の材質は、特に限定されるものではなく、例えばレンガ様の素焼き材;セラミックス、ポリビニルアルコール等の高分子材料;木材チップ、セルロース等の生体高分子化合物が利用可能である。
【0065】
本発明の製造方法に使用する培養装置は、特に限定されるものではなく、公知の培養装置を適宜選択の上、利用が可能である。図2に連続培養を行なうための連続培養装置の模式図を示す。連続培養装置1は、発酵槽2、恒温ジャケット3、恒温水流出孔3a、恒温水流入孔3b、恒温水槽3c、細菌固定化多孔質担体4、原料液流入孔5、発酵液流出孔6、原料液タンク7、ポンプ8、排気口9、ガス回収槽10とからなっている。
【0066】
原料液は原料液タンク7からポンプ8によって、原料液流入孔5を通って発酵槽2に供給される。原料液は、細菌固定化多孔質担体4に固定化されたエンテロバクター(Enterobacter)属細菌によって発酵する。発酵後のエタノールを含む発酵液は、原料液の供給に伴い発酵液流出孔6を通って発酵槽2外へと流出し回収される。一方、発酵生産された水素ガスを含む気体成分は、排気口9を通って発酵槽2外へと排出され、ガス回収槽10において回収されるようになっている。なお発酵槽2内の温度は、発酵槽の外側面を覆うように設けられた恒温ジャケット3内に恒温水槽3cから供給される恒温水によって、一定に保たれている。恒温水は、恒温水槽3cから恒温水流入孔3bを通って恒温ジャケット3内に供給され、恒温水流出孔3aから再び恒温水槽3cに戻るという要領により循環している。
【0067】
上記の連続培養において、発酵槽2内への原料液の供給量(以下、原料液希釈率という)の好適な条件は、用いる原料液の組成,多孔質担体の種類,エンテロバクター(Enterobacter)属細菌の状態,培養条件等によって異なるために、限定されるものではないが、0.6h-1以上1.2h-1以下が好ましく、0.7h-1以上1.2h-1以下がさらに好ましい。上記好ましい範囲以上の希釈率で原料液を供給すると、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌の発酵能力を原料供給量が上まり、十分発酵していないにもかかわらず発酵槽2外へ流出してしまう状態となり、発酵効率が下がり、水素およびエタノールの回収量が少なくなってしまう。一方、上記好ましい範囲以下の希釈率で原料液を供給すると、発酵は十分に進むが生成物であるエタノール等によって菌体が死滅したり、雑菌の汚染の危険性が高くなるために好ましくない。なお「希釈率」とは、1時間当たりに供給される原料液量の全原料液量に対する割合のことである。
【0068】
(その他の工程)
本発明にかかる製造方法は、上記発酵工程のほかに、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌を予め増殖させておく前培養工程、多孔質担体に予めエンテロバクター(Enterobacter)属細菌を固定化しておく固定化工程、生成した水素またはエタノールを精製する精製工程、生成した水素またはエタノールをガスクロマトグラフィー等で分析する工程、バイオディーゼル燃料の製造工程等の工程が含まれていてもよい。
【0069】
<2.本発明にかかるキット>
本発明にかかるキットは、上記本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法を行なうためのキットであって、少なくともその表面に微生物を固定可能な担体、およびエンテロバクター(Enterobacter)属細菌が含まれることを特徴としている。
【0070】
本発明にかかるキットに含まれる担体は、特に限定されるものではなく、上記<1.本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法>の項において説明した種々の担体を適宜選択の上、適用すればよい。
【0071】
また本発明にかかるキットに含まれるエンテロバクター(Enterobacter)属細菌は、特に限定されるものではなく、上記<1.本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法>の項において説明した各種細菌を適宜選択の上、適用すればよい。
【0072】
上記のほか、本発明にかかるキットには、上記<1.本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法>の項において説明した説示したバイオリアクター(培養装置)が含まれていてもよく、さらにエンテロバクター(Enterobacter)属細菌の生育・増殖に利用される成分として酵母抽出液、カゼイン酵素分解物、ビタミン類、バッファー成分、および微量元素等が含まれていてもよい。
【0073】
以下添付した図面に沿って実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0074】
〔実施例1〕エンテロバクター(Enterobacter)属細菌の水素生産能の検討
各種エンテロバクター(Enterobacter)属細菌についてグルコースからの水素生産能を比較検討することにした。
【0075】
(菌株)
エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes IFO802)
エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes JCM1235)
エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes HU101)
エンテロバクター・ゲルゴビエ(Enterobacter gergoviae JCM1234)
エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae JCM1232)
エンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii JCM1233)
エンテロバクター・アスブリエ(Enterobacter asburiae JCM6051)
エンテロバクター・カンセロゲヌス(Enterobacter cancerogenus JCM3943)
エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans JCM1236)
エンテロバクター・アムンルゲヌス(Enterobacter amnlgenus JCM1237)
エンテロバクター・インテルメドラス(Enterobacter intermedlus JCM1238)
(培地・培養方法)
表1に示す培地を用いた。表1に示す培地成分は全て和光純薬工業株式会社から購入したものを使用した。
【0076】
【表1】
JP0004665157B2_000003t.gif

【0077】
なお培養は、初発pH6.8、37℃、24時間静置培養を行なった。
【0078】
(水素測定法)
水素の生産量の測定は、ガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、GC8A)にて行なった。具体的には、『Nishio N, Eguchi SY, Kawashima H, Nagai S. “Mutual conversion between H2 plus CO2 and formate by a formate-utilizing methanogen.”J Ferment Technol, 1983; 61(6):557-61』の記載に準じて行なった。
【0079】
(結果)
表2に結果を示す。なお表2には、グルコースの消費量(mM)、水素生成量(H(mM))、および水素収率(H収率(mol/mol-glucose))を示した。水素収率(H収率(mol/mol-glucose))とは、グルコース1モルから得られる水素のモル数である。
【0080】
【表2】
JP0004665157B2_000004t.gif

【0081】
上記表2によれば、Enterobacter aerogenes HU101の水素生産量が0.68(mol/mol-glucose)、Enterobacter gergoviae JCM1234の水素生産量が0.71(mol/mol-glucose)であり、本実施例において検討したエンテロバクター(Enterobacter)属細菌の中で、最も水素生産能が高い株であるということが分かった。
【0082】
またエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes IFO802)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes JCM1235)、エンテロバクター・ゲルゴビエ(Enterobacter gergoviae JCM1234)、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae JCM1232)、エンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii JCM1233)については、約0.4~0.5(mol/mol-glucose)と比較的水素生産量の高いものであった。
【0083】
上記検討では、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)に属する細菌は、いずれも水素生産量が比較的高く(0.4~0.7(mol/mol-glucose))、水素生産菌として好適な属であるということが分かった。
【0084】
〔実施例2〕各種炭素源に対するEnterobacter aerogenes HU101の水素およびエタノールの生産量
(培地・培養方法)
表1におけるグルコースを各種炭素源(フルクトース、ガラクトース、ソルビトール、マンニトール、グリセロール)に置き換えた各培地を作製した。
【0085】
培養方法は実施例1に準じて行なった。
【0086】
(菌株)
上記実施例1において、高い水素生産能を示したエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes HU101)を用いた。
【0087】
(分析方法)
エタノールの測定は、HPLCを用いて行なった。なお測定方法は、Fukuzaki S, Chang Y-J, Nishio N, Nagai S.”Characteristics of granular metanogenic sludge grown on lactate in a UASB reactor” J Ferment Bioeng, 1991;72(6):465-72 の記載に準じた。
【0088】
水素の測定は実施例1に準じて行なった。
【0089】
(結果)
各発酵液から回収した水素およびエタノールの収率を表3に示す。
【0090】
【表3】
JP0004665157B2_000005t.gif

【0091】
表3の結果によれば、Enterobacter aerogenes HU101は、グリセロールを炭素源として用いた場合において、最も高い水素収率(6.69mmol/g-substrate)およびエタノール収率(7.05mmol/g-substrate)を示した。よって、Enterobacter aerogenes HU101による水素およびエタノールの発酵生産の炭素源としては、グリセロールが最適であるということが分かった。
【0092】
〔実施例3〕Enterobacter aerogenes HU101の水素およびエタノールの生産条件の検討1:グリセロール濃度の検討
(菌株)
上記実施例1において、高い水素生産能を示したエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes HU101)を用いた。
【0093】
(培地)
表1に示す培地のグルコースをグリセロールに置き換えた培地を用いた。なお、グリセロール濃度は、5.0(g/l)、10(g/l)、25(g/l)、50(g/l)となるように調整した。
【0094】
(培養方法)
37℃、静置条件で回分培養を行なった。
【0095】
(分析方法)
水素の測定は実施例1に記載の方法と同様にした。
【0096】
エタノール、1,3-プロパンジオール、乳酸、酢酸、ギ酸は、HPLCにより測定した(Fukuzaki S, Chang Y-J, Nishio N, Nagai S.”Characteristics of granular metanogenic sludge grown on lactate in a UASB reactor” J Ferment Bioeng, 1991;72(6):465-72 参照)。
【0097】
(結果)
表4には、各種グリセロール濃度の培地を用いた場合の、炭素源であるグリセロールが完全に消費されるまでに生産した全水素(H)量、全エタノール(Ethanol)量、全乳酸(Lactate)量、全酢酸(Acetate)量、全1,3-プロパンジオール(1,3-Propanediol)量、全ギ酸(Formate)量から計算した炭素源(グリセロール)当りの収率を示した。なお表4中の「Consumption time(hr)」は、炭素源であるグリセロールが完全に消費されるまでの時間を示す。
【0098】
【表4】
JP0004665157B2_000006t.gif

【0099】
表4の結果より、グリセロール濃度が高くなるにつれて、水素およびエタノール生産量が減少していた。一方、グリセロール濃度が高くなるにつれて、副生成物である乳酸、酢酸量、1,3-プロパンジオールが増加していた。よって、培地(原料液)中に含まれるグリセロール濃度は、10(g/l)以下であることが好ましいということが分かった。
【0100】
〔実施例4〕Enterobacter aerogenes HU101の水素およびエタノールの生産条件の検討2:塩濃度の検討
(菌株)
エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes HU101)を用いた。
【0101】
(培地・培養方法)
表1に示す培地からYeast extract(酵母抽出物)およびTrypton(カゼイン酵素分解物)を除き、グルコースをグリセロールに置き換え、さらにNaClを0(%)、0.5(%)、1(%)、3(%)となるように調整した培地をそれぞれ用いた。
【0102】
培養方法は、37℃、24時間静置培養を行なった。
【0103】
(結果)
表5に結果を示す。表5には水素生産量(H(mM))、および残存グリセロール濃度((Residual Glycerol(mM))を示した。
【0104】
【表5】
JP0004665157B2_000007t.gif

【0105】
表5によればNaCl濃度が、高くなるにつれて、残存グリセロール濃度が高くなるとともに水素生産量が減少しているということが分かった。したがって原料液中に含まれるNaCl濃度は低いほどよいということがいえる。
【0106】
〔実施例5〕Enterobacter aerogenes HU101の水素およびエタノールの生産条件の検討3:窒素源濃度の検討
(菌株)
エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes HU101)を用いた。
【0107】
(培地・培養方法)
表1に示す培地からYeast extract(酵母抽出物)およびTrypton(カゼイン酵素分解物)を除き、グルコースをグリセロールに置き換え、さらに(NHSOを0.1(g/l)、1(g/l)、5(g/l)、10(g/l)となるように調整した培地をそれぞれ用いた。
【0108】
培養方法は、37℃、24時間静置培養を行なった。
【0109】
(結果)
表6に結果を示す。表6には水素生産量(H(mM))、および残存グリセロール濃度((Residual Glycerol(mM))を示した。
【0110】
【表6】
JP0004665157B2_000008t.gif

【0111】
表6によれば(NHSOが1(g/l)の濃度の時に水素生産量が最大となり、残存グリセロール濃度が最小となった。よって、窒素源として原料液中に含まれる(NHSOの濃度は1(g/l)含まれていることが好ましいということが分かった。
【0112】
〔実施例6〕Enterobacter aerogenes HU101の水素およびエタノールの生産条件の検討3:マグネシウムイオン濃度の検討
(菌株)
エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes HU101)を用いた。
【0113】
(培地・培養方法)
表1に示す培地からYeast extract(酵母抽出物)およびTrypton(カゼイン酵素分解物)を除き、グルコースをグリセロールに置き換え、さらにMgSO・7HOを0.25(g/l)、0.5(g/l)、1(g/l)となるように調整した培地をそれぞれ用いた。
【0114】
培養方法は、37℃、24時間静置培養を行なった。
【0115】
(結果)
表7に結果を示す。表7には水素生産量(H(mM))、および残存グリセロール濃度((Residual Glycerol(mM))を示した。
【0116】
【表7】
JP0004665157B2_000009t.gif

【0117】
表7によればMgSOが0.25(g/l)の濃度の時に水素生産量が最大となり、残存グリセロール濃度が最小となった。よって、Mgイオン供給源として原料液中に含まれるMgSOの濃度は0.25(g/l)含まれていることが好ましいということが分かった。
【0118】
〔実施例7〕バイオディーゼル廃液を用いたEnterobacter aerogenes HU101による水素およびエタノールの発酵生産
(菌株)
エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes HU101)を用いた。
【0119】
(原料液(培地))
以下表8に示す組成のバイオディーゼル廃液に、表1に示す成分のうちグルコースを除く成分を加えて調製した原料液(以下、「複合原料液」という)、または表1に示す成分のうちグルコース、Trypton(カゼイン酵素消化物)、およびYeast extract(酵母抽出物)を除く成分を加えて調製した原料液(以下、「合成原料液」という)を培地として用いた。
【0120】
なお、バイオディーゼル廃液の希釈率の違いによって、原料液に含まれるグリセロール濃度が、それぞれ1.7(g/l)、3.3(g/l)、10(g/l)となった原料液を用いて試験を行なった。
【0121】
【表8】
JP0004665157B2_000010t.gif

【0122】
(培養方法)
37℃、静置条件で回分培養を行なった。
【0123】
(分析方法)
上記実施例に準じて行なった。
【0124】
(結果)
表9には、各種グリセロール濃度の培地を用いた場合の、炭素源であるグリセロールが完全に消費されるまでに生産した全水素(H)量、全エタノール(Ethanol)量、全乳酸(Lactate)量、全酢酸(Acetate)量、全1,3-プロパンジオール(1,3-Propanediol)量、全ギ酸(Formate)量から計算した炭素源(グリセロール)当りの収率を示した。なお表8中の「Consumption time(hr)」は、炭素源であるグリセロールが完全に消費されるまでの時間を示す。
【0125】
【表9】
JP0004665157B2_000011t.gif

【0126】
また表9中「with medium」は「複合原料液」の結果を示し、「without medium」は、「合成原料液」の結果を示す。
【0127】
表9によれば、グリセロール濃度が最も低い1.7(g/l)の場合が、最大の水素およびエタノールの収率を示し、またこの時、副生成物である乳酸(Lactate)、酢酸(Acetate)、1,3-プロパンジオール(1,3-Propanediol)、ギ酸(Formate)の収率が最も低いということが分かった。さらにはグリセロールを消費するまでの時間が早いということが分かった。これは実施例3を再現する結果であり、バイオディーゼル廃液を含む原料液を用いた場合であってもグリセロール濃度が低いほど、効率良くかつ高純度に水素およびエタノールを生産することができるということがわかった。
【0128】
また、図3にグリセロール濃度が10(g/l)の複合原料液(図3(a)に示す)、および合成原料液(図3(b)に示す)の場合の各種成分の経時変化を示した。図3中黒丸のシンボルはグリセロールの消費率を示す結果を示し、黒ひし形のシンボルはエタノールの生産量を示し、白丸のシンボルは水素の生産量を示し、白ひし形のシンボルは1,3-プロパンジオールの生産量を示し、白三角のシンボルは乳酸の生産量を示し、アスタリスクのシンボルがギ酸の生産量を示し、黒三角のシンボルは酢酸の生産量を示している。
【0129】
図3および上記表8の結果から、合成原料液に比べて複合原料が明らかに、水素およびエタノールの収率が高く、また発酵速度が速いということが分かった。したがって、原料液にはYeast extract(酵母抽出物)、Tripton(カゼイン酵素分解物)が含まれていることが好ましいということがいえる。
【0130】
〔実施例8〕連続培養による水素およびエタノール発酵生産
(菌株)
エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes HU101)を用いた。
【0131】
(装置)
連続培養装置は、自作のガラス製カラム型リアクター(直径2.7cm×高さ17cm、容量60ml)。その概略は図2に示すとおりである。
【0132】
(原料液(培地))
実施例7において調製した複合原料液(グリセロール濃度10g/l)、または表1に示す培地のグルコースをグリセロール(グリセロール濃度10g/l)に置き換えた培地(以下、「グリセロール原料液」という)を用いた。
【0133】
(培養方法)
培養温度37℃で連続培養を行なった。また培養液の希釈率は0.1h-1~1.6h-1の間で適宜変更して各々試験を行なった。
【0134】
発酵槽内には、多孔質担体として発泡錬石(ナガオ株式会社製: ペレット状セラミックスSP3平均粒子径10mm)を導入して培養を行なった。なお比較として上記発泡錬石を導入せずに培養を行なった場合についても検討した。
【0135】
(分析方法)
上記実施例に準じて行なった。
【0136】
(結果)
図4に複合原料液を原料とし、発泡錬石を導入して培養を行なった場合の結果を示した。図4(a)は水素生産速度(mmol/l/h)を示し、図4(b)は各種成分の濃度(mM)を示した。
【0137】
また図5には比較例として、複合原料液を原料とし、発泡錬石を導入せずに培養を行なった場合の結果を示した。図5(a)は水素生産速度(mmol/l/h)を示し、図5(b)は各種成分の濃度(mM)を示した。
【0138】
また図6には比較例として、グリセロール原料液を原料とし、発泡錬石を導入せずに培養を行なった場合の結果を示した。図6(a)は水素生産速度(mmol/l/h)を示し、図6(b)は各種成分の濃度(mM)を示した。
【0139】
なお図4(b)、図5(b)、図6(b)における各シンボルは、黒ひし形はエタノール、黒丸がグリセロール、白三角が乳酸、黒三角が酢酸、白ひし形が1,3-プロパンジオール、アスタリスクがギ酸の結果をそれぞれ示している。
【0140】
図4と図5の結果を比較すると、発泡錬石を使用せずに培養を行った場合は、希釈率0.7h-1の時に最良の結果を示し、水素生産速度30(mmol/l/h)、エタノール生産量80(mM)であった(図5(a)(b))。一方発泡錬石を使用して培養を行った場合は、希釈率1.2h-1の時に最良の結果を示し、水素生産速度63(mmol/l/h)、エタノール生産量88(mM)であった(図4(a)(b))。したがって発泡錬石を使用することで、水素生産速度が2.2倍に増加し、エタノール生産量が1.2倍に増加するという顕著な効果が得られるということが分かった。この図4に示す結果は、グリセロール原料液(発泡錬石使用せず)の場合の結果(希釈率1.3h-1の時、水素生産速度80(mmol/l/h)、エタノール生産量84(mM)、図6(a)(b))と遜色の無いものであり、本発明にかかる水素およびエタノールの生産方法が、水素およびエタノールの生産量、廃棄物の有効利用の観点、コスト面等において極めて優れているということが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0141】
上記説示したように、本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法のよれば、バイオディーゼル燃料製造時の副生成物として廃棄されていたバイオディーゼル廃液から、燃料電池用燃料、燃料等に有効な水素およびエタノールを効率的かつ簡便に回収することが可能となる。また自然界に存在する微生物の発酵によって製造することから、環境負荷の少ないエネルギー製造手段であるといえる。よって本発明は、バイオマスの有効利用を行なうための極めて優れた手段を提供することができる。
【0142】
本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法は、本発明者らが開発した高速メタン発酵プロセス(特開2001-149983号公報参照)と連結されることにより、さらに有効な発酵プロセスを実現することができる。UASBリアクターに代表される高速メタン発酵法は、ビール工場廃液を始めとする食品廃水処理方法として、近年広範囲に利用されている。本発明者らは、上記高速メタン発酵法は、有機酸はもちろんエタノール、フェノールなどの廃水も良好に処理可能であり、この時メタンが回収されることを報告している。よって、本発明にかかる水素およびエタノールの製造方法を行なうための連続発酵槽を1槽目とし、上記高速メタン発酵槽を2槽目とした発酵プロセスを構築すれば、1槽目で得られた水素およびエタノール、並びに2槽目で得られるメタンを燃料電池等の燃料として利用し、当該発酵プロセスの運転に必要な電力を供給することができるようになる。さらには燃料電池からの廃熱を利用して発酵プロセスの温度制御に利用することができる。したがって、バイオマス資源の限りなく有効に利用することができる廃水、廃液処理システムを構築することができる。
【0143】
よって本発明は、食品工業、化学工業、エネルギー産業等広範な産業において廃水、廃液処理の工程として利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】エンテロバクター(Enterobacter)属細菌のグリセロールの代謝経路を示す模式図である。
【図2】本発明の水素およびエタノールの製造方法に利用可能な連続培養装置(一例)の概略図である。
【図3】図3(a)は実施例7において複合原料液を用いて水素およびエタノールを生産した際の、グリセロール、エタノール、水素、1,3-プロパンジオール、乳酸、ギ酸、酢酸の各濃度の経時変化を示す折れ線図であり、図3(b)は合成原料液を用いて水素およびエタノールを生産した際の、グリセロール、エタノール、水素、1,3-プロパンジオール、乳酸、ギ酸、酢酸の各濃度の経時変化を示す折れ線図である。
【図4】図4は実施例8において、複合原料液を原料とし、発泡錬石を導入して連続培養を行なった結果を示しており、図4(a)は水素生産速度(mmol/l/h)を示す折れ線図であり、図4(b)はグリセロール、エタノール、水素、1,3-プロパンジオール、乳酸、ギ酸、酢酸の濃度(mM)を示す折れ線図である。
【図5】図5は実施例8における比較例として、複合原料液を原料とし、発泡錬石を導入せずに連続培養を行なった結果を示しており、図5(a)は水素生産速度(mmol/l/h)を示す折れ線図であり、図5(b)はグリセロール、エタノール、水素、1,3-プロパンジオール、乳酸、ギ酸、酢酸の濃度(mM)を示す折れ線図である。
【図6】図6は実施例8における比較例として、グリセロール原料液を原料とし、発泡錬石を導入せずに連続培養を行なった結果を示しており、図6(a)は水素生産速度(mmol/l/h)を示す折れ線図であり、図6(b)はグリセロール、エタノール、水素、1,3-プロパンジオール、乳酸、ギ酸、酢酸の濃度(mM)を示す折れ線図である。
【符号の説明】
【0145】
1 連続培養装置
2 発酵槽
3 恒温ジャケット
3a 恒温水流出孔
3b 恒温水流入孔
3c 恒温水槽
4 細菌固定化多孔質担体
5 原料液流入孔
6 発酵液流出孔
7 原料液タンク
8 ポンプ
9 排気口
10 ガス回収槽
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5