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明細書 :魚類胚の作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4696235号 (P4696235)
公開番号 特開2006-187210 (P2006-187210A)
登録日 平成23年3月11日(2011.3.11)
発行日 平成23年6月8日(2011.6.8)
公開日 平成18年7月20日(2006.7.20)
発明の名称または考案の名称 魚類胚の作製方法
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 5/00 102
A01K 67/027 ZNA
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 14
全頁数 19
出願番号 特願2004-382049 (P2004-382049)
出願日 平成16年12月28日(2004.12.28)
審査請求日 平成19年11月14日(2007.11.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】若松 佑子
【氏名】尾里 建二郎
個別代理人の代理人 【識別番号】110000110、【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
【識別番号】100105728、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 敦子
【識別番号】100139480、【弁理士】、【氏名又は名称】日野 京子
審査官 【審査官】長井 啓子
参考文献・文献 海洋と生物,vol.24(2), pp.120-125 (2002)
Nature Biotechnology, vol.20, pp.795-799 (2002)
Develop.Growth Differ., vol.41, pp.163-172 (1999)
Proc.Natl.Acad.Sci.USA., vol.98(3), pp.1071-1076 (2001)
調査した分野 C12N 5/00
C12N 15/00
A01K 67/027
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
魚類胚の作製方法であって、
内在性核を有する未受精卵において雌性発生を開始可能な刺激を付与する工程と、
活性化刺激付与後の前記未受精卵にその第二極体の放出又は第一卵分割を阻止若しくは抑制する物理的及び/又は化学的なストレスを付与する処理工程と、
前記ストレス付与後の前記未受精卵に魚類の細胞核を移植する工程と、
を備える、方法。
【請求項2】
前記物理的及び/又は化学的ストレスは、前記第二極体の放出を阻止又は抑制する物理的及び/又は化学的ストレスである、請求項に記載の魚類胚の作製方法。
【請求項3】
前記物理的及び/又は化学的ストレスは少なくとも前記未受精卵の環境温度についてのストレスを含む、請求項1又は2に記載の魚類胚の作製方法。
【請求項4】
前記未受精卵を活性化する刺激は電気的刺激である、請求項1~3のいずれかに記載の魚類胚の作製方法。
【請求項5】
前記未受精卵に移植される前記細胞核の供給細胞は体細胞及び培養細胞から選択される、請求項1~のいずれかに記載の魚類胚の作製方法。
【請求項6】
前記細胞核供給細胞は胚性細胞から選択される、請求項1~のいずれかに記載の魚類胚の作製方法。
【請求項7】
前記細胞核供給細胞の染色体上にDNA変異及び外来性DNAから選択される1種あるいは2種以上を備えている、請求項1~のいずれかに記載の魚類胚の作製方法。
【請求項8】
前記魚類はメダカ属又はその近縁に属する魚類から選択される、請求項1~のいずれかに記載の魚類胚の作製方法。
【請求項9】
前記魚類胚は二倍体である、請求項1~のいずれかに記載の魚類胚の作製方法。
【請求項10】
前記魚類胚から得られる個体が細胞核供給細胞にのみ由来する染色体を保持する細胞を有している、請求項1~のいずれかに記載の作製方法。
【請求項11】
移植された前記細胞核供給細胞にのみ由来する染色体を保持する前記細胞は、生殖細胞である、請求項10に記載の魚類胚の作製方法。
【請求項12】
魚類個体の作製方法であって、
請求項1~11のいずれかに記載の魚類胚の作製方法における各工程と、
作製された前記魚類胚を孵化まで発生させる工程と、
を備える、魚類個体の作製方法。
【請求項13】
前記魚類個体を繁殖させる工程を備える、請求項12に記載の魚類個体の作製方法。
【請求項14】
魚類細胞に外来DNAを導入して染色体上に外来DNAを有する魚類細胞を得る工程と、
内在性核を有する未受精卵に雌性発生を開始可能な刺激を付与する工程と、
活性化刺激後の前記未受精卵にその第二極体の放出又は第一卵割を阻止若しくは抑制する物理的及び/又は化学的なストレスを付与する処理工程と、
前記ストレス付与後の前記未受精卵に前記魚類細胞の細胞核を移植して魚類胚を作製する工程と、
該魚類胚を孵化まで発生させる工程と、
を備える、トランスジェニック魚類の作製方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類胚及び魚類個体の作製技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の哺乳類において体細胞由来の核を未受精卵に移植することよりクローンが作製されてきている。魚類においては、除核していない未受精卵をレシピエント細胞とし、このレシピエント細胞に胚細胞核を移植することによって3倍体個体を作製したことが報告されている(非特許文献1)。また、除核した未受精卵をレシピエント細胞とし、これに胚細胞核を移植することによるクローンの作製が報告されている(特許文献1、非特許文献2等)。
【0003】
他方、魚類におけるより効率的な個体作製あるいは遺伝子工学的な修飾を施した個体作製のためには、培養細胞や体細胞の核を用いた核移植個体の作製方法の開発が望まれている。そうした中、ゼブラフィッシュにおいて、除核した未受精卵に胚由来の培養細胞を移植して個体を作製したとの報告がある(非特許文献3)。また、メダカにおいて、除核しない未受精卵に培養細胞核を移植することによる個体の作製も試みられている(非特許文献4)。しかしながら、後者の報告では、一部の胚が孵化するものの成魚には至らず、程度の異なるものの奇形胚が多いこと、また、胚を構成する細胞は、その染色体の倍数性についてモザイクとなっていることが開示されている。

【特許文献1】特開2002-125517号公報
【非特許文献1】丹羽ら、CLONING, Vol.2, Number 1, p.23-24, 2000
【非特許文献2】若松ら、PNAS, vol. 98, no.3, p.1071-1078, 2001
【非特許文献3】Ki-Young Leeら、Nature Biotecnology 20, p.795-799, 2002
【非特許文献4】B. Juら、Develop. Growth Differ. 45, p.167-174, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、現在までのところ、魚類においては、哺乳動物のように体細胞核や培養細胞核を移植して正しい染色体倍数性を維持した魚類胚を安定的に構築するには至っていない。また、こうした手法によっては必ずしも繁殖性のある個体が得られているわけではない。
【0005】
そこで、本発明は、魚類の外来性核を細胞質レシピエントに移植する核移植により正しい染色体倍数性を備える魚類胚を効率的に作製することを一つの目的とする。また、本発明は、体細胞核又は培養細胞核を細胞質レシピエントに移植する核移植により正しい染色体倍数性の魚類胚を効率的に作製することを一つの目的とする。さらに、本発明は、魚類の体細胞核又は培養細胞核を用いた核移植により繁殖能力のある個体を得ることを他の一つの目的とする。さらにまた、本発明は、体細胞核又は培養細胞核を用いた核移植により外来DNAを高率で保持する魚類胚及び個体を作製することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、レシピエント細胞に着目した。レシピエント細胞として一般的に使用される未受精卵(第二減数分裂のメタフェーズで停止した未受精卵)中には、雌由来の2セットの染色体が存在する。魚類の核移植においては、通常、ドナー核をレシピエント細胞に注入することにより未受精卵が活性化し、発生が開始され、第二極体の放出、染色体複製、卵割等一連の発生ステップが開始される。第二極体の放出は、卵細胞に内在していた2セットの染色体のうち1セットを卵外に放出するものである。
【0007】
本発明者らは、未受精卵に対して、その活性化後に生じる一連の発生ステップの比較的初期の段階で所定の物理的及び/又は化学的ストレスを与えることで、少なくとも胚の染色体の正しい倍数性を確保できることを見出し、本発明を完成した。さらに、本発明者らは、こうしたレシピエント細胞の処理によって、体細胞核又は培養細胞核の核移植によって効率的に正しい倍数性の胚を作製でき、妊性を有する個体が得られるとともに、外来性核由来の遺伝子を効率的又は優先的に発現させることができることを見出し、本発明を完成した。本発明によれば以下の手段が提供される。
【0008】
本発明の第1の形態によれば、
未受精卵に魚類の細胞核を移植して魚類胚を作製する工程を備え、
該魚類胚の作製工程は、前記未受精卵に対して物理的及び/又は化学的なストレスを付与する処理工程を含む、
魚類胚の作製方法が提供される。また、形態においては、前記処理工程は、発生を開始した未受精卵に染色体二倍体化を生じさせるか又はそれと同等の物理的及び/又は化学的ストレスを付与することを含む工程とすることができる。また、前記処理工程は、前記未受精卵に対してその第二極体の放出を阻止するか又は抑制する物理的及び/又は化学的ストレスを付与することを含む工程としてもよい。さらに、前記物理的及び/又は化学的ストレスは少なくとも前記未受精卵の環境温度についてのストレスを含むものとすることができる。
【0009】
さらに、前記処理工程は、前記物理的及び/又は化学的ストレスを付与するのに先だって前記未受精卵を活性化する刺激を付与することを含む工程とすることができる。この態様において、前記活性化する刺激の付与は魚類の細胞核の移植を伴わないことが好ましい。このような未受精卵を活性化する刺激は電気的刺激とすることができる。
【0010】
さらにまた、前記処理工程に供給される未受精卵は内在性核を有していることが好ましい。さらに、こうした未受精卵は、いずれの段階においても一般の除核処理が施されないことが好ましい。
【0011】
こうした第1の形態においては、前記未受精卵に移植される前記細胞核の供給細胞は体細胞及び培養細胞から選択することが好ましい。また、前記細胞核供給細胞は胚性細胞から選択されるようにしてもよい。
【0012】
また、本発明の第1の形態によれば、
内在性核を有する未受精卵に対し、該未受精卵を活性化する刺激と発生を開始した未受精卵に染色体二倍体化を生じさせるか又はそれと同等の物理的及び/又は化学的なストレスとを付与する処理工程と、
該処理工程後の未受精卵に魚類の体細胞又は培養細胞の細胞核を移植する核移植工程と、
を備える、魚類胚の作製方法も提供される。
【0013】
こうした本発明の第1の形態においては、前記細胞核供給細胞の染色体上にDNA変異及び外来性DNAから選択される1種あるいは2種以上を備えているようにすることができる。また、上記したいずれかの形態において、前記魚類はメダカ属又はその近縁に属する魚類から選択されるものとすることができる。さらに、前記魚類胚は二倍体とすることができる。
【0014】
さらにまた、前記魚類胚から得られる個体が前記細胞核供給細胞にのみ由来する染色体を保持する細胞を有している個体とすることもでき、前記細胞核供給細胞にのみ由来する染色体を保持する前記細胞は、生殖細胞とすることができる。
【0015】
本発明の第2の形態によれば、
上記いずれかの魚類胚の作製方法によって得られる魚類胚も提供される。
【0016】
さらに、本発明の第3の形態によれば、
上記いずれかに記載の魚類胚の作製方法における各工程と、
作製された前記魚類胚を孵化まで発生させる工程と、
を備える、魚類個体の作製方法が提供される。この形態においては、前記魚類個体を繁殖させる工程を備えることもできる。
【0017】
また、本発明の第4の形態によれば、
上記した魚類個体の作製方法によって得られる魚類個体が提供される。さらにまた、第5の形態によれば、この魚類個体の細胞が提供される。
【0018】
また、本発明の第6の形態によれば、
魚類細胞に外来DNAを導入して染色体上に外来DNAを有する魚類細胞を得る工程と、
未受精卵に前記外来DNAが染色体上に導入された魚類細胞核を移植して魚類胚を作製する工程と、
該魚類胚を孵化まで発生させる工程と、
を備え、
前記魚類胚の作製工程は、前記未受精卵に対して物理的及び/又は化学的なストレスを付与する処理工程を含む工程である、
トランスジェニック魚類の作製方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の魚類胚の作製方法は、魚類の未受精卵に対し該未受精卵を活性化する刺激と前記未受精卵に対する物理的及び/又は化学的なストレスとを付与する未受精卵の処理工程を備えることを特徴としている。こうした処理工程を行うことにより、正しい倍数性の魚類胚を効率的に得ることができる。以下、本発明の実施形態について図1及び2に基づいて詳細に説明する。
【0020】
(魚類胚)
本発明において魚類胚とは、魚類個体を構築しうる遺伝物質を保持し、かつ魚類個体の孵化に至るまでの全ての段階にあるものをいう。また、ここで魚類個体とは、成魚のほか、一旦孵化したものは幼魚であっても個体というものとする。本発明は少なくとも魚類に適用される。魚類としては特に限定しないが、例えば、研究又は実験用途として、ゼブラフィッシュ、メダカ、キンギョ、ドジョウが挙げられる。また、鑑賞用途としては、コイ、フナ、メダカ、キンギョ等が挙げられる。さらに、食用としては、サケ、マス、ニジマス、ヤマメ、アマゴ、ウナギ、ブリ、コイ、ヒラメ、マダイ、ティラピア等が挙げられる。なかでも、特開2001-346480号公報に開示される透明メダカなどを含むメダカ属又はその近縁に属する魚類は各種のモデル魚など研究用途の他鑑賞用途にも適している。さらに、本発明を適用する魚類は、天然変異又は既に人工的に遺伝子が修飾された魚類も包含しており、これらの改変魚類の遺伝的性質を維持しあるいはさらに改変する場合にも有用である。
【0021】
(未受精卵)
本発明における未受精卵は、核移植による魚類胚作製にあたり、魚類胚に細胞質を提供するレシピエント細胞となることができる。本発明において用いる未受精卵は、第二減数分裂のメタフェーズで停止した未受精卵(いわゆる成熟した未受精卵)であることが好ましい。こうした未受精卵は、成熟した雌の個体の卵巣等から採取することもできるし、卵母細胞をインビトロで培養し第二減数分裂のメタフェーズを到来させることにより得ることもできる。
【0022】
本発明における処理工程を行うにあたり未受精卵は除核されていることを要しないし、除核されていないで内在性核を有していることがより好ましい。また、未受精卵に対する除核操作は、魚類胚を得るまでの工程において行われないことが好ましい。公知の除核操作によれば、魚類胚作製効率が低下する傾向にあるからである。ここでいう除核とは、未受精卵からの物理的及び/又は化学的な手段による雌由来の内在性核の除去を意味している。なお、除核の手段としては、一般的に紫外線などの電磁波照射、マイクロピペットによる核を含む細胞質の吸引、薬剤処理などが挙げられる。
【0023】
(細胞核供給細胞)
未受精卵への魚類の細胞核の供給細胞(以下、単にドナー細胞という。)は、レシピエント細胞である未受精卵へ核を提供する。ドナー細胞としては、少なくとも個体の発生に必要な染色体セットを有していれば特に限定されないで、胚性細胞、幼生及び成体の体細胞のいずれかを用いることができる。また、細胞核が提供されるのに適した時期も特に限定されず、ドナー細胞は二倍体であっても四倍体であってもよいが、二倍体が好ましい。なお、本明細書において、胚性細胞は、受精卵から孵化に到達するまでの全ての発生段階にある細胞を包含している。また、胚性細胞には、胚性幹細胞、始原生殖細胞から誘導した胚性細胞も包含される。以上のことから明らかなように、ドナー細胞は、未分化の細胞のみならず分化した細胞も包含している。また、ドナー細胞は、融合細胞に由来する細胞であってもよい。さらに、ドナー細胞は培養細胞であることが好ましく、体細胞の培養細胞であることがより好ましい。
【0024】
ドナー細胞としては、例えば、繊維芽細胞、外皮細胞、内皮細胞、神経細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、心臓、肝臓等の各種内蔵の構成細胞、赤血球等の血液細胞等が挙げられる。こうしたドナー細胞は、魚類胚、魚類個体の一部又は全体から採取することにより、また採取した細胞を培養することにより得ることができる。
【0025】
ドナー細胞と未受精卵とは同種の魚類に由来することを必ずしも要しないが、これらは同種の魚類の細胞であることが好ましい。なお、後述するように、ドナー細胞の染色体上には、未受精卵とは異種の魚類のDNAや同種魚類の他の個体のDNAの他、魚類以外の動物など異種生物のDNAや人工的なDNAを有していてもよい。
【0026】
(細胞核)
未受精卵に供給される細胞核は、ドナー細胞本来の内在性染色体DNAを含む。ドナー細胞の染色体には天然の又は人工的に導入された変異を備えていてもよい。人工的変異は化学的又は物理的な処理のほか、相同組換えにより導入されていてもよい。また、ドナー染色体には、外来性のDNAを備えていてもよい。外来DNAとしては所望のタンパク質をコードするDNAや選択マーカーをコードするDNAのほかプロモーター、エンハンサー等の各種調節領域をコードするDNA、RNA干渉を生じさせるRNAに対応するDNA等が挙げられる。これらの外来DNAは、染色体上にランダムに導入されていてもよいが、相同組換えにより染色体上に導入されていることが好ましい。
【0027】
未受精卵には、ドナー細胞の内在性染色体の他、ドナー細胞内あるいは核内に存在する染色体外DNAやRNAなどの核酸も核移植により移植されることができる。こうした染色体外核酸としては、染色体上に備え得る変異や外来性DNAのほか、ウイルスのほか、プラスミドあるいは人工染色体などを用いることができる。また、ドナー細胞には、モルフォリノアンチセンスオリゴの手法に基づくRNAやCaged技術に基づくRNAやDNAを保持していてもよい。このような染色体外核酸も染色体とともに未受精卵に移植されうる。
【0028】
こうした変異や外来核酸を染色体上あるいは染色体外に有するドナー細胞は、天然変異を備える魚類や遺伝子工学的に作製した魚類から採取し、必要に応じ培養することによって得ることができる。また、変異は、培養魚類細胞を化学的及び/又は物理的に処理して染色体上に導入することもできる。さらには、培養魚類細胞に対して、注入、細胞融合、各種のトランスフェクション法を用いて外来核酸を導入して染色体上あるいは染色体外に外来核酸を備える魚類細胞を得ることもできる。
【0029】
(未受精卵の処理)
(未受精卵への活性化刺激の付与)
図1には、本発明の魚類胚の作製方法における典型的なスキームを示す。図1に示すように、未受精卵への物理的及び/又は化学的なストレスの付与前に、活性化刺激を付与しておくことができる。活性化刺激は、未受精卵に発生を開始させることができるものであればよい。こうした刺激としては、未受精卵において一般に雌性発生を開始させることができるような刺激から適宜選択して用いることができる。刺激付与方法としては、例えば、DCパルスなどによる電気的刺激、紫外線、γ線、X線による照射等によって不活性化した精子による受精、精子抽出液との接触、エタノール処理、カルシウム濃度の調整等が挙げられる。これらの刺激は単独で又は二種類以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、電気的刺激が好ましい。電気的刺激は操作性がよいとともに、刺激付与の後段で物理的及び/又は化学的ストレスを付与する場合、これらのストレス付与ステップへ容易に移行できる。電気的刺激は、例えば、25℃、5V、50マイクロ秒間を2回など、適宜設定することができる。
【0030】
なお、未受精卵の活性化は、上記のような細胞核の移植を伴わないものに限られず細胞核を未受精卵に移植する際の刺激によって行うこともできる。すなわち、未受精卵の活性化は、細胞核の移植(導入)を伴っていてもよい。後述する各種方法による細胞核の未受精卵への移植は、一般に未受精卵を活性化することができるからである。
【0031】
なお、細胞核の移植を伴わないで未受精卵の活性化を行う場合には、外来の細胞核を導入するまで、第二極体の放出の阻止又は第一卵分割を阻止して未受精卵の二倍数体状態を維持することが好ましい。推論であって本発明を拘束しないが、レシピエントの雌性核を二倍体化することで、発生してくる胚が倍数性のモザイクになることを防いで、正常な倍数性の魚類胚を得られやすくなると考えられる。
【0032】
本発明においては、こうした未受精卵への活性化刺激は、除核されていない、すなわち、内在性核を有する未受精卵に対して行われることが好ましい。より具体的には除核されていない未受精卵である。除核されていない未受精卵にかかる処理を行うことにより、雌性核を保持する細胞質に外来の細胞核を受容することができ、孵化率の高い魚類胚を作製できる。また、推論であって本発明を拘束するものではないが、活性化の後段に実施するストレス付与処理により、未受精卵の発生初期段階を効果的に調節して、正常な倍数性の魚類胚を構築できると考えられる。
【0033】
(未受精卵に対する物理的及び/又は化学的なストレスの付与)
未受精卵に対する物理的及び/又は化学的ストレスは、未受精卵における発生開始の過程に抑制的に作用する物理的及び/又は化学的刺激を包含している。発生の開始の過程に抑制的に作用する刺激は、発生を開始した未受精卵に染色体二倍体化を生じさせるか又はそれと同等の物理的及び/又は化学的ストレスを含んでいる。より具体的には、発生を開始した未受精卵において染色体二倍体化を生じさせるか、染色体二倍体化を生じさせないにしても染色体の半減化を抑制ないし遅延するなど染色体二倍体化よりも低い程度で正常な発生開始の過程を抑制するような物理的及び/又は化学ストレスを含んでいる。なお、ここでいう「発生」とは単為発生を含んでいる。こうしたストレスは、好ましくは、染色体の半減化を抑制又は遅延させて二倍体化を促進するようなストレスである。より好ましくは、二倍体化を生じさせるストレスである。
【0034】
このような物理的及び/又は化学的ストレスは、少なくとも未受精卵において第二極体の放出及び第一卵分割のいずれかを阻止又は抑制するようなストレスであることが好ましい。かかるストレスの具体的態様は魚種によって様々であるが、物理的ストレスとしては、温度処理及び圧力処理が一般的である。また、化学的ストレスとしては、サイトカラシンB等による処理や、高pH処理や高濃度カルシウム処理などが挙げられる。これらの物理的及び化学的ストレスは、単独で又は2種類以上を組み合わせて付与することもできる。
【0035】
たとえば、第二極体放出阻止のための温度処理としては、一般にマダイ、ヒラメなどの比較的高温域に生息する魚類では低温処理が有効な場合が多く、サケ、マス類などの冷水性の魚類では、高温処理が有効な場合が多い。マダイやヒラメでは、活性化後3~5分後0℃付近で10~45分間程度、サケ、マス類では、活性化後10~60分後に25~30℃で10~20分間程度である。
【0036】
また、例えば、メダカでは、活性化直後から10分以内に温度処理を行うことができる。この時間内において温度処理を行うことで活性化しつつそれによって誘発される第二極体放出を抑制できるからである。好ましくは、1分以上経過後であり、より好ましくは2分以上経過後である。1分以上経過後であれば確実に活性化でき、2分以上経過後であればその後のストレス付与によって効果的に第二極体放出が阻止される。また、活性化後から6分以内に温度処理を開始することが好ましい。6分以内であればストレス付与により第二極体放出を抑制できるからである。より好ましくは4分以内である。4分以内であれば、第二極体放出をより効果的に阻止できる。さらに好ましくは、活性化後2分以上4分以内である。
【0037】
また、メダカにおける温度処理の温度は、37℃以上45℃以下とすることができる。この範囲であると第二極体放出を効果的に抑制できるからである。好ましくは、40℃以上である。40℃以上であると短時間の処理で有効だからである。さらに好ましくは41℃以上である。また、好ましくは43℃以下である。43℃以下であるとその後の胚発生を阻害しにくいからである。さらに好ましくは、42℃以下である。さらにまた、当該温度による処理時間は、5分以内とすることができる。この範囲であると、その後の魚類胚発生を抑制することなく第二極体の放出を抑制できるからである。より好ましくは4分以内であり、さらに好ましくは2~3分以内である。
【0038】
さらに、メダカにおける温度処理の温度は、-5℃以上15℃以下としてもよい。この範囲であっても第二極体放出を抑制することができる。なお、0℃以下の温度で処理を行う場合は、処理のための媒体はその温度で凍結しないものを使用する。好ましくは、0℃以上であるが、媒体が凍結しない限り0℃近傍であってもよい。また、好ましくは10℃以下であり、より好ましくは5℃以下である。
【0039】
こうした各種魚類における第二極体放出阻止のための条件は、活性化後の経過時間、温度ないし圧力条件などの処理条件、処理時間を適宜組み合わせ、染色体染色やフローサイトメトリーなどを採用することにより、適切な条件を見出すことができる。
【0040】
また、第一卵割阻止のための温度処理としては、一般に高温処理や高水圧処理が有効とされている。例えば、マダイでは活性化後46分後から700kg/cmで5分30秒、ヒラメでは、活性化後60分以後から650kg/cmで6分間、ニジマスでは、活性化後180~300分後に28~32℃で4~10分間、コイでは活性化後28~30分後から40℃で2分間などである。こうした第一卵割阻止のための条件は、魚種により様々であるが、活性化後の経過時間、温度ないし圧力条件などの処理条件、処理時間を適宜組み合わせ、染色体染色やフローサイトメトリーなどを利用することにより、適切な条件を見出すことができる。
【0041】
なお、こうした第二極体放出や第一卵分割の阻止又は抑制は、既に述べたように未受精卵の活性化刺激が前提となるが、必ずしも活性化刺激がストレス付与に先立つことが必要でない場合もありえ、ストレス付与下で活性化刺激が付与されたりしてもよい場合がありうる。活性化刺激の付与及びこうしたストレスの付与と核移植との時間的関係としては、例えば、以下の組み合わせがある。
(1)核移植を伴わない活性化刺激後に、ストレスを付与しそれとともにあるいはその後核移植を行う。
(2)核移植を伴わない活性化刺激後に核移植を行い、その後ストレスを付与する。
(3)核移植を伴う活性化刺激後あるいはそれとともにストレスを付与する。
こうした各種の組み合わせのなかでも、上記(1)の組み合わせ、特に、核移植を伴わない活性化刺激の付与後に上記ストレスを付与し、その後に細胞核を移植すること(図1のスキーム参照)が、未受精卵の発生初期段階を効果的に調節して、正常な倍数性の魚類胚を構築するのに最も有効である。
【0042】
(核移植)
魚類胚は、未受精卵にドナー細胞の細胞核を移植することによって作製する。未受精卵に対するドナー核の移植タイミングは、上記のように各種のタイミングで可能であり、未受精卵の活性化刺激の付与と同時であってもよいが、ドナー核の移植を伴わない未受精卵の活性化刺激の付与後に移植することが好ましい。さらに好ましくは、細胞核の移植を伴わない活性化刺激の付与及びストレス付与後である。こうすることで、正しい染色体の倍数性を保持した魚類胚を効率的に得ることができるとともに、ドナー細胞の染色体を優勢的に有する細胞を高率で保持する魚類胚及び個体を得ることができる。
【0043】
核移植は、特に限定しないで従来公知の方法によることができる。手法としては、例えば、化学的、ウイルス的あるいは電気的手法を介した細胞融合や、無傷あるいは損傷した細胞の注入、溶解した細胞の注入、核の注入などによることができる。これらの核移植によれば、活性化されていない未受精卵であっても、また、活性化後上記ストレスが付与された後であっても、未受精卵において発生を誘導し開始させることができる。例えば、マイクロマニピュレーターによるマイクロインジェクションによってドナー細胞を注入することは、上記ストレスが付与された後の未受精卵における発生を誘導するのに十分に刺激的である。
【0044】
なお、トランスジェニック魚類を作製するのにあたり、作製した魚類胚に所望のDNAを備えるDNAコンストラクト(プラスミドベクターなど各種ベクターを含む)を導入することもできる。DNAコンストラクトに備えられるDNAとしては、所望のタンパク質をコードするDNAや選択マーカーをコードするDNAのほかプロモーター、エンハンサー等の各種調節領域をコードするDNA、RNA干渉を生じさせるRNAに対応するDNA等が挙げられる。こうした胚へのDNAコンストラクトの導入はマイクロインジェクションによるほかトランスフェクションなど従来公知の方法を採用することができる。また、モルフォルノアンチセンスオリゴの手法に基づくRNAやCaged技術に基づくRNAやDNAをドナー細胞に導入してもよい。
【0045】
(魚類胚の培養)
こうして得られた魚類胚は、魚種に応じた条件下で孵化するまで発生させる。孵化まで発生させるための培養条件は、魚種に応じて適宜選択することができる。例えば、メダカの場合には、核移植後から24時間程度は18℃程度で培養し、その後は、26℃程度の温度で培養することができる。培養液は、メチレンブルーを含む平衡塩類溶液(BSS)などを用いることができる。こうして魚類胚を孵化させることで魚類個体を得ることができる。得られた魚類個体は、魚種に応じた方法で飼育することができる。また、交配または染色体操作によりさらなる遺伝的改変が可能である。
【0046】
以上説明した本発明によれば、核移植により正しい染色体倍数性を有しドナー由来のDNAを保持する魚類胚及び魚類個体を得ることができる。本発明によれば、染色体の倍数性についてのモザイク性が回避されており、魚類胚及び魚類個体として正しい染色体倍数性が保持されている。魚類の染色体は二倍数性であるので、二倍数性の胚及び個体が得られる。また、本発明によって得られる魚類個体は、正常な生殖細胞を有しており繁殖性も有している。
【0047】
本発明によって得られる魚類胚及び個体は、ドナー細胞由来の染色体DNAを保持している。ドナー染色体に組み込まれた外来DNAとしてGFP(緑色蛍光タンパク質)を用いてドナー由来染色体上の遺伝子発現を視認化したとき、魚類胚及び個体においてGFPがドナー系統と同様の形態で発現することが確認されている。このような遺伝子発現形態及び上記した染色体倍数性から、本発明の魚類胚及び魚類個体は、ドナー染色体を未受精卵由来染色体に対して優勢的に保持するか、あるいはドナーのクローンに近い形態あるいはクローンである魚類胚及び魚類個体となっている。さらに、こうしたGFP発現形態を備える本発明の魚類個体と当該魚類個体のレシピエントとなった系統の個体と交配させた結果得られたF世代においてもドナー系統と同様の形態でGFP遺伝子を発現していることから、生殖細胞においても、ドナー染色体を優勢的にあるいはドナー染色体のみを保持している。
【0048】
さらに、ドナー核の染色体上に外来DNAや変異を備える場合、あるいは魚類胚にDNA構築物など外来性核酸を導入した場合には、本発明の魚類胚及び魚類個体はそのようなDNAにコードされる遺伝子産物が発現されるトランスジェニック魚類(ノックイン、ノックアウト、ノックダウンを含む)となっている。体細胞や培養細胞は遺伝子工学的な修飾を容易に実施できるため、本発明によれば、簡易に遺伝子工学的に修飾を施した魚類胚及び個体を得ることができる。また、本発明によれば、こうしたトランスジェニック魚類の作製方法として、魚類細胞に外来DNAを導入して染色体上に外来DNAを有する魚類細胞を得る工程と、未受精卵に前記外来DNAが染色体上に導入された魚類細胞核を移植して魚類胚を作製する工程と、該魚類胚を孵化まで発生させる工程と、を備え、前記魚類胚の作製工程は、前記未受精卵に対して物理的及び/又は化学的なストレスを付与する処理する工程を含む方法が提供されることになる。
【0049】
さらにまた、得られた魚類個体を繁殖させることにより、当該魚類個体の子孫を増やすことができるが、魚類一般に適用されている単為発生等の染色体操作によって、一旦作製した魚類個体からこの魚類個体に由来するクローンやその改変体を容易に得ることができる。また、本発明の魚類個体の交配試験結果によれば、本発明の魚類個体の生殖細胞はドナー染色体を優勢的にあるいはドナー染色体のみあるいはそれに近い形態で保持するものとなっている。
【0050】
また、本発明の魚類胚及び個体の作製方法によれば、保存すべき魚種や保存しすべき形質を保存しておくことができる。さらに、トランスジェニック魚を容易に作製できることから、魚類の品種改良や増産のみならず、毒性学におけるモデル魚類、各種疾患モデル魚類、環境ホルモン等化学物質の環境モニタリングのための環境モニタリング魚類を用意に作製でき、遺伝子発現解析、新薬探索及び環境評価のための有用なツールを提供することができる。
【0051】
さらに、こうした魚類個体の細胞は、各種研究用用途や医療用用途に用いられる。また、魚類個体の細胞には、体細胞、胚細胞、生殖細胞のほか、該細胞の集合体である組織や器官及び臓器も含めることができる。
【実施例1】
【0052】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。本実施例は、メダカ(Oryzias latipes)の胚性細胞及び体細胞由来の培養細胞を用いて核移植を行った例である。実験1及び2では、β-アクチン-カセット-EGFP遺伝子を遺伝子導入されたヒメダカをドナーとして用い、異系交配系のヒメダカ(以下、ORと記す)をレシピエントとして用いて核移植を行った。核移植個体について性別、染色体倍数性、GFP蛍光、GFP遺伝子の検出について評価するともに、レシピエントであるヒメダカとの交配試験を行った。また、交配試験によって得られたF世代についての成長観察、GFP蛍光とGFP遺伝子の検出について評価した。
【0053】
1.核移植
(ドナー)
ドナーのβ-アクチン-カセット-EGFP系統はメダカβ-アクチン遺伝子の翻訳開始点より上流約2050bpとトレーラー配列(終止コドン直後より約800bp)との間にEGFP遺伝子を挿入した融合遺伝子をORに導入して得られた系統で導入遺伝子についてホモ接合体である。遺伝子導入は以下のようになされている。
【0054】
Takagiら( Mol Mar Biol Biotechnol3: 192-199,1994)に記載のメダカβ-アクチン遺伝子のDNA塩基配列をもとに、ORのゲノムDNAよりトレーラー配列(終止コドン直後より約800bp)をPCR(プライマー: act3’-FW & act3’-RV、下記)により増幅し、Not I / Nde I で切り出し、pEGFP(6077-1、Clontech)のNot I / Nde I site に挿入した。次に、翻訳開始点より上流約2050bpをPCR(プライマー: act5’-FW & act5’-RV 下記)増幅後、pEGFP(6077-1、Clontech)のSph I /Kpn I site に挿入した。これで、β-アクチン(5’)-EGFP-β-アクチン(3’)の構造をもつ融合遺伝子(β-アクチン-カセット-EGFP)が作製された。次に、第1卵割の前にプラスミドpβ-Act-cassete-EGFPをORの受精卵の細胞質にマイクロインジェクションした。β-アクチン-カセット-EGFPについての同型接合体は遺伝子導入魚の交配試験により作製した。こうした遺伝子導入魚では嚢胚期から全身においてGFP蛍光が観察された。
act3’-FW : CTGTAGCGGCCGCACAGACTTTCTCCTCCCCAG(配列番号1)
act3’-RV : TGCGTCTAGACGCATATGTTAAGCTTTAAAGAATCAATGGA(配列番号2)
act5’-FW : TATGAGATCTCATATGGTGAATGTATAGTAGCGTA(配列番号3)
act5’-RV : TCAAGGTACCAAGAATTCGGCTAAACTGGAAAAGAACA(配列番号4)
【0055】
(レシピエント)
実験1および実験2では、いずれも、レシピエントとして、遺伝子導入を行っていないORを用いた。なお、ORは、体色が緋色の異系交配系のメダカであり、また、1.5ヶ月で性的に成熟する。
【0056】
(飼育条件)
上記ドナー及びレシピエントの飼育は、14時間の明期と10時間の暗期からなる明暗周期により照明を調節した26℃の飼育室内の水槽内で行った。飼料は、ブラインシュリンプ幼生(Ocean Star International,Snowville,NH,USA)と粉末飼料(おとひめβ1、ニッシン飼料製)を与えた。
【0057】
(ドナー細胞の調製)
本核移植では、ドナー細胞として、実験1では胚の4体節期細胞を、実験2では成体尾ひれ培養細胞をそれぞれ用いた。4体節期細胞は、同期胚体を、0.03%トリプシン-0.4%EDTAを含むカルシウム-マグネシウム不含リン酸緩衝塩類溶液(CMF-PBS)中でピペッティングすることによって乖離し、得られた細胞浮遊液を遠心分離することにより得た。また、成体尾ひれ培養細胞は、ドナーの成体尾ひれを採取し、細切し、ゼラチンコーティングしたプラスチック培養皿でライボビッツL-15培地に牛胎児血清を20%添加した培養液を用いて25℃、空気中で6~10日間培養することによって得た。培養細胞は、CMF-PBSですすいだ後、0.1%トリプシンと0.01%EDTAを含むCMF-PBS処理を施し、単一の細胞に分離した。得られた細胞懸濁液を50×gで5分間、4℃で遠心分離した。
【0058】
こうしてペレットとして分離した各ドナー細胞を、アフリカツメガエル用の移植緩衝液の組成を変更して調製した移植緩衝液(以下、TBと略す。)の0.5mlに再懸濁した(Gurdon,J.B.,J.Embryol.Exp.Morphol.36,523(1976))。尚、TBの組成は以下の通りである;0.25mol/Lの蔗糖、120mmol/LのNaCl、0.5mmol/Lのスペルミントリヒドロクロライド、0.15mmmol/Lのスペルミンテトラヒドロクロライド、および15mmol/LのHEPES(pH7.3)。これらの各再懸濁液は、使用時まで4℃で保存した。
【0059】
(未受精卵の調製)
毎日産卵していた雌性魚を、実験前日に隔離タンクに移して隔離した。実験当日、明期の開始時から1~2時間以内にそれらを解剖し、卵巣から成熟した未受精卵(未受精卵)を回収し、懸濁培養用の35mmのプラスチック皿(ファルコン(商品名),ベクトン-ディッキンソン,Lincoln Park, NJ, USA)中で18℃で使用時まで維持した。この培養皿は、100U/mLのペニシリンと100μg/mLのストレプトマイシンを添加したメダカ用の平衡塩類溶液(以下、BSSと称す)を含む[Iwamatsu,T.,J.Exp.Zool.228,83(1983)]。
【0060】
次に、採取した未受精卵を以下の手順で操作して、細胞質レシピエントとしての未受精卵を調製した。
(1)未受精卵を、BSSを満たしたガラス製の電極間に載置し、25℃で5V、50マイクロ秒間の電気的刺激を2回繰り返すことによって活性化した。
(2)活性化後2~4分後に、付活卵をBSS中41.5℃で2分間、熱処理した。
(3)2分間経過後、直ちに25℃のBSS中に5分間維持した。
(4)5分間経過後、核移植までの4℃に維持した。
【0061】
(核移植)
核移植は、従来の方法と基本的に同様な方法を用いて核移植を行った[B. Juら、Develop. Growth Differ.(2003)45,168-169, K.Niwaら,Develop.Growth Differ,41,163(1999)、K.Niwaら,Cloning2,23(2000)]。移植は、倍率が80倍の実体顕微鏡下(MZAPO,Leica,Heerbrugg,スイス)で行った。
【0062】
移植床は、60mmのプラスチック皿(ファルコン(商品名),ベクトン-ディッキンソン, Lincoln Park, NJ, USA)中の2%寒天上に形成した1mm幅のV型の溝を形成し、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを含有するBSSを満たした。移植用のマイクロピペットは、プーラーを用いて外径1mmのガラスキャピラリーを引いて作製した。マイクロピペットの開口部の内径は、約10~13μmであり、これは核ドナー細胞の直径と同じか若干小さいものである。
【0063】
核移植の具体的操作は以下の通りに行った。
(1)実体顕微鏡のステージに配置した冷却板上(Thermo Plate;東海ヒット)に前記プラスチック皿を載置し、寒天プレートの温度を約10℃に維持した。
(2)調製した移植床のV字溝に調製した未受精卵を動物極が移植針の方向に向くように固定した。
(3)核ドナー細胞も同じ寒天プレート上に分散した。
(4)三次元マイクロマニプレーターに接続した油圧インジェクター(CellTram Oil,エッペンドルフ,ハンブルグ、ドイツ)により、胚に細胞を移植する方法(Wakamatsu,Y.,Hashiomoto,H.,Kinoshita,M.らMol.Mar.Biol.Biotechnol.2,325(1993))を一部変更した方法により、前記マイクロピペット中に1つの核ドナー細胞を吸引した。なお、
(5)未受精卵の動物極の細胞質中に前記マイクロピペットを突き刺して、核ドナー細胞を未受精卵に移植した。
【0064】
(魚類胚の培養)
2ppmのメチレンブルーを含むBSSを満たした24穴のプラスチックプレート(スミロン、住友ベークライト社)に、施術した卵を1個ずつ移した。始めの24時間は18℃で、次に26℃で前記プレートをインキュベートし、孵化するまで、毎日、観察を行った。孵化した稚魚は、若松らの方法(Wakamatsu,Y.(1993)前掲を参照されたい)により飼育した。
【0065】
実験1において孵化した2例の稚魚に付した認識番号は、それぞれ1NT1、1NT2である。また、また、実験2において孵化し、成長した4例の稚魚に付した認識番号は、それぞれ2NT1~2NT4である。成体個体まで成熟した核移植個体は、交配試験に使用し、その後は各種評価を行うために屠殺した。
【0066】
2.評価
(GFP蛍光の検出)
GFP蛍光の検出は、全ての核移植個体及びF世代について行った。GFPの検出は、蛍光装置を具備した実体顕微鏡(FLII,Leica)を使用して胚および魚におけるGFPの蛍光を観察することにより行った。蛍光イメージは、当該実体顕微鏡に装着したデジタルカメラ(浜松フォトニクス社製)を使用して撮影した。
【0067】
(GFP遺伝子の検出)
GFP遺伝子の検出は、各核移植体およびINT2とORとのF世代の2例及び2NT1~2NT3とORとのF世代の各2例の計14例について試験した。
GFP遺伝子の検出は、以下のように行った。まず、ブリンおよびスタッフォードの方法[N.BlinおよびD.M.Stafford,Nucleic Acid Res.3,2303(1976)]を変更した方法により、ゲノムDNAを成体鰭または孵化した稚魚から抽出し、その20~30ngを核PCR増幅の鋳型に使用した。プライマーとして、のβ-アクチン-カセット-EGFP遺伝子に特異的な以下のプライマー(配列番号5、6)を利用して検出した(予想サイズ717bp)。なお、PCRは、0.5ユニットのExTaqDNA(タカラ)を用いた。
PR1:5’-ATGGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTG-3’(配列番号5)
PR2:5’-CTTGTACAGCTCGTCCATGCCGAG -3’(配列番号6)
【0068】
DNA抽出と、続くPCRの成功を確認するために、内在性EF-1α-A遺伝子を、メダカEF-1α-A遺伝子に特異的な以下のプライマー(配列番号7、8)を利用して検出した(予想サイズ519bp)。
PR3:5’-CAGGACGTCTACAAAATCGG-3’(配列番号7)
PR4:5’-AGCTCGTTGAACTTGCAGGCG-3’(配列番号8)
【0069】
なお、これらのPCR法は、94℃で30秒間、60℃で30秒間および72℃で1分間のサイクルを30サイクル行った。PCR産物は1%アガロースゲル上で電気泳動した。
【0070】
(染色体数)
染色体数は、全ての核移植体について評価した。染色体数は、成体の尾ひれの組織片を細切し、0.1%ゼラチン溶液によりコートした4穴プラスチックプレート(Nunc社製)中で20%ウシ胎児血清及び100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを含むライボヴイッツL-15培地(Leiboviz’sL-15medium,Gibco社)で培養した。培養開始5日後に0.01%コルヒチン溶液で6時間処理した後、標準的な方法に従い、染色体標本を作製した[T.LadyginaおよびY.Wakamatsu,Fish Biol.J.MEDAKA.10,33(1999)]。なお、分裂中期にある10~20個の細胞について染色体数を調べた。
【0071】
(交配試験)
成体となった各核移植魚をORと交配し、それらの繁殖能を調べた。毎日、雌性魚の腹部から卵を回収し、得られた卵を、0.5ppmのメチレンブルーを含有する蒸留水を満たした60mmのプラスチックディッシュ中で26℃でインキュベートした。それらの胚発生を、孵化段階まで実体顕微鏡下で毎日観察した。ORにおける胚発生を対照とした。以下、核移植魚とORとの交配の結果得られた交配第1世代をFと示す。
【0072】
3.結果
(核移植個体及び繁殖能力)
表1に実験1及び実験2におけるGFP蛍光を示す核移植個体の発生結果を示す。表1に示すように、実験1(4体節期胚)において核移植が施された250個のうち2個体(0.8%)が孵化し成魚となった。また、実験2(成体尾ひれ由来培養細胞)において核移植が施された1236個のうち4個体(0.3%)が孵化し成魚となった。いずれも雌であった。これらの個体については、目視観察によれば特段奇形も認められなかった。なお、実験1では、1NT2のみが孵化後1.5ヶ月で性的に成熟した。また、1産卵あたり、約20個の卵を有しており正常な1腹サイズであり、正常な繁殖能力を有し、正常なF世代を産出した。INT1は生殖能力を有さなかった。したがって、実験1においては、繁殖能力のある核移植個体としては1個(0.4%)であった。実験2において得られた核移植個体は、いずれも孵化後1.5ヶ月で性的に成熟した。また、1産卵あたり、約20個の卵を有しており正常な1腹サイズであり、正常な繁殖能力を有し、正常なF世代を産出した。なお、各核移植個体から200個以上採卵し、95~97%が正常に孵化し、そのうち30個体を育成し、その90%以上が成魚期に達した。
【表1】
JP0004696235B2_000002t.gif

【0073】
(GFP蛍光及びGFP遺伝子)
表2に、核移植魚およびそのF世代における各種評価結果を示す。表2に示すように、全ての核移植個体においてGFP蛍光が観察されGFP遺伝子も検出された。GFP蛍光は、ドナー系統と同様に全身で強く発現した。また、INT2のF世代については、ドナー系統と同様のGFP蛍光が観察されるとともにGFP遺伝子が検出された。また、2NT1~2NT3のF世代においてドナー系統と同様のGFP蛍光が観察されるとともにGFP遺伝子が検出された。なお、。内在性EF-1α-A遺伝子の検出により、全てのPCR分析が適切に行われたことを示していた。
【表2】
JP0004696235B2_000003t.gif

【0074】
こうしたGFP蛍光及びGFP遺伝子の発現態様からすると、核移植個体においてはドナー核由来染色体が優勢に保持されていること、なかでも生殖細胞において優勢に又は当該染色体のみが保持されている可能性が示唆された。
【0075】
(染色体の倍数性)
全ての核移植個体について、染色体数を調べて倍数性を評価したところ、表2に示すように、1NT1が76の3倍体であった以外は48の二倍体であった。
【0076】
以上のことから、本実施例の核移植によって、正しい染色体倍数性でかつ繁殖力を有し、ドナー核染色体上の遺伝子を発現する魚類胚及び個体が得られることがわかった。従来、未受精卵に対して尾ひれ組織由来培養細胞の核移植(核移植により活性化)を行った得られた結果では、染色体の倍数性についてモザイクでありしかも成熟個体が得られず、さらにドナー核染色体上の遺伝子発現もモザイクであったことからすると、本実施例において活性化後に付与した温度ストレスが正しい染色体倍数性でかつ繁殖力を有し、ドナー核染色体上の遺伝子を発現する魚類胚及び個体の作製に寄与していることが明らかであった。
【実施例2】
【0077】
(高温処理による第二極体放出の抑制のための条件の検討)
毎日産卵しているヒメダカの成熟した雌を、実験前日に隔離水槽に移した。実験当日、明期開始後の1~2時間以内に解剖し、卵巣から成熟未受精卵を回収した。他方、雄を解剖して、精巣を摘出し、BSS中で組織を潰すことによって、精子浮遊液を得た。エッペンドルフチューブ中の50μlのBSSに未受精卵を入れ、精子浮遊液を添加することで媒精した。チューブを一定時間、25℃に保ち、その後、37℃または41℃のウオーターバス中に移し、一定時間、設定温度に保った。この処理の後、卵をプラスチック培養皿のBSS中に移し、26℃の恒温機中で5~7日間発生させた。これらの胚から卵膜をピンセットで取り除き、1mlのイーグルMEM培地中で胚体をゆるくピペッティングして細胞浮遊液を調製した。これらの細胞の核を4-6-diamidino-2-phenylindole dihydrochloride (DAPI)で染色し、フローサイトメーター(Ploidy Analyser、Partec社製、ドイツ)にかけ、細胞の倍数性を解析した。
【0078】
この実験において媒精後25℃に保った時間は90秒、135秒、180秒間の3種類とした。その後の高温処理の時間は37℃の場合は10分または15分、41℃の場合は2分であった。対照は、実験群と同様に媒精の後、26℃の恒温機中に保ち、発生させた。一実験条件につき20~45個の未受精卵を用いた。各実験条件を表3に示す。
【表3】
JP0004696235B2_000004t.gif

【0079】
この実験では無処理の精子で媒精しているので、第二極体の放出を抑制することができれば、胚は三倍体になると考えられる。従って、三倍体を効率よく作製できる条件を検討した。結果を表3に示す。表3に示すように、37℃の温度処理でも低率(3%)ながら三倍体が作製された。41℃の処理では、媒精の135秒後、および180秒後に温度処理を施した実験群に高率で三倍体が見られた。これらの群において三倍体の作製率は16-22%であった。また、対照では、95%以上が正常に発生し、全て二倍体であった。以上のことから、高温処理温度としては、37℃以上が可能であること、また、41℃近傍が使用できることがわかった。
【実施例3】
【0080】
(低温処理による第二極体放出の抑制のための条件の検討)
毎日産卵しているヒメダカの成熟した雌を実験前日に、隔離タンクに移した。実験当日、明期開始後の1~2時間以内に解剖し、卵巣から成熟未受精卵を回収した。他方、雄を解剖して、精巣を摘出し、BSS中で組織を潰すことによって、精子浮遊液を得た。エッペンドルフチューブ中の50μlのBSSに未受精卵を入れ、精子浮遊液を添加することで媒精した。その後、チューブを一定時間、25℃に保ち、その後、直ちに氷上に移し、一定時間0℃に保った。この処理の後、卵をプラスチック培養皿のBSS中に移し、26℃の恒温機中で5~7日間発生させた。これらの胚から卵膜をピンセットで取り除き、1mlのイーグルMEM培地中で胚体をゆるくピペッティングして細胞浮遊液を調製した。これらの細胞の核を4-6- diamidino-2-phenylindole dihydrochloride (DAPI)で染色し、フローサイトメーター(Ploidy Analyser、Partec社製、ドイツ)にかけ、細胞の倍数性を解析した。
【0081】
この実験において、媒精後25℃に保った時間は60秒、90秒、105秒、120秒、180秒間の5種類とした。その後の氷上での低温処理の時間は10分、15分、20分であった。対照は、実験群と同様に媒精の後、26℃の恒温機中に保ち、発生させた。一実験条件につき20-45個の未受精卵を用いた。各実験条件を表4に示す。
【表4】
JP0004696235B2_000005t.gif

【0082】
この実験では無処理の精子で媒精しているので、第二極体の放出を抑制することができれば、胚は三倍体になると考えられる。従って、三倍体を効率よく作製できる条件を検討した。結果を表4に示す。三倍体が高率で作製できたのは、媒精の60秒から105秒後に0℃で10~20分間の低温処理を施した実験群に見られた。これらの群において三倍体の作製率は高いもので44~47%であった。また、対照では、95%以上が正常に発生し、全て二倍体であった。以上のことから、低温処理温度としては、0℃近傍の温度を使用できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の核移植による魚類胚の作製方法の一例を示す図である。

【配列表フリ-テキスト】
【0084】
配列番号1~配列番号8:合成プライマー
図面
【図1】
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