TOP > 国内特許検索 > 葉緑体で機能するホタルルシフェラーゼ遺伝子とそれを用いた葉緑体遺伝子発現のリアルタイムモニタリング > 明細書

明細書 :葉緑体で機能するホタルルシフェラーゼ遺伝子とそれを用いた葉緑体遺伝子発現のリアルタイムモニタリング

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4742258号 (P4742258)
公開番号 特開2006-211977 (P2006-211977A)
登録日 平成23年5月20日(2011.5.20)
発行日 平成23年8月10日(2011.8.10)
公開日 平成18年8月17日(2006.8.17)
発明の名称または考案の名称 葉緑体で機能するホタルルシフェラーゼ遺伝子とそれを用いた葉緑体遺伝子発現のリアルタイムモニタリング
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 101
C12Q 1/68 A
請求項の数または発明の数 5
全頁数 20
出願番号 特願2005-029217 (P2005-029217)
出願日 平成17年2月4日(2005.2.4)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2004年9月1日 日本遺伝学会第76回大会準備委員会発行の日本遺伝学会第76回大会プログラム・予稿集第120頁に発表
審査請求日 平成20年2月1日(2008.2.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】石浦 正寛
【氏名】松尾 拓哉
【氏名】小内 清
個別代理人の代理人 【識別番号】100147485、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 憲司
【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
【識別番号】100101096、【弁理士】、【氏名又は名称】徳永 博
【識別番号】100107227、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 史朗
【識別番号】100114292、【弁理士】、【氏名又は名称】来間 清志
【識別番号】100119530、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 和幸
審査官 【審査官】山中 隆幸
参考文献・文献 国際公開第2003/091413(WO,A1)
Plant Molecular Biology,1990年,vol.14,p.935-947
The Plant Journal,2002年,vol.30,p.733-744
Plant Molecular Biology,2001年,vol.47,p.353-366
調査した分野 C12N15/00-15/90
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
SwissProt/PIR/GeneSeq
PubMed
Science Direct
JSTPlus(JDreamII)
BIOSIS/WPI(DIALOG)
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)からなる核酸。
(a)配列表の配列番号1に示す、塩基配列番号1-1653で示される塩基配列からなる核酸
【請求項2】
請求項1に記載の核酸を組み込んだ形質転換体。
【請求項3】
請求項1に記載の核酸をレポータ遺伝子として葉緑体ゲノムへ組み込むことによって遺伝子の発現を測定する測定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の核酸を、葉緑体遺伝子psbDのプロモータと5’非翻訳領域の下流へレポータ遺伝子として接続し、概日リズムを測定する概日リズムの測定方法。
【請求項5】
請求項1に記載の核酸を、レポータ遺伝子として組み込んだレポーターベクター。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、葉緑体遺伝子発現のリアルタイムレポーターとして用いることが可能な新規核酸及び当該核酸を組み込んだ形質転換体に関する。
【背景技術】
【0002】
ホタルルシフェラーゼ遺伝子の産物は基質を外部から加えると、その発現量に応じた生物発光を発する。しかも、生きたままの細胞で発光させることができるので、系時的な遺伝子発現量の変化をリアルタイムに知ることができる。また、測定の準備作業は非常に簡便(基質を与えるのみ)であるので大規模測定も可能である。そのためホタルルシフェラーゼ遺伝子は遺伝子発現量を調べるレポーター遺伝子として幅広い生物種に応用されてきた。(Sherf, B. A., and Wood, K. V. 1994, Promega Notes 49:14-21)
【0003】
概日時計はほぼ全ての細胞が持つ分子装置であり、外界の昼夜の環境変化に適応するため、多岐にわたる細胞内の生命現象を調節している。葉緑体のゲノムにコードされた遺伝子も概日時計による制御を受ける。その結果、葉緑体の重要な機能である光合成は昼に盛んになり、夜には休息するといった概日リズムを示す。

【非特許文献1】Sherf, B. A., and Wood, K. V. 1994, Promega Notes 49:14-21
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、概日時計がどのように葉緑体ゲノムを調節しているかは全くわかっていない。そのもっとも大きな要因はホタルルシフェラーゼの様な有効なリアルタイムレポーター遺伝子が存在しないことである。モデル植物であるクラミドモナスを含め、葉緑体ゲノムはATに富む配列であるケースが多い。そのため既存のルシフェラーゼ遺伝子が機能しにくい。
【0005】
そこで、本発明は、葉緑体で機能するホタルルシフェラーゼ遺伝子の提供、及び当該遺伝子を利用した、種々の測定を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、発明者らは、葉緑体におけるコドンの使用頻度に着目し、鋭意研究した結果、本発明の核酸及び当該核酸を組み込んだ形質転換体を見出すに至った。
【0007】
本発明の核酸は、以下の(a)又は(b)からなることを特徴とする。すなわち、
(a)配列表の配列番号1に示す、塩基配列番号1-1653で示される塩基配列からなる核酸。
(b)塩基配列番号1-1653の塩基配列の中で、既存のルシフェラーゼ遺伝子と比較して、葉緑体ゲノムにおいて使用頻度が低いコドンに係る塩基配列が置換されている核酸。
【0008】
本発明の核酸の好ましい実施態様において、前記葉緑体ゲノムにおいて使用頻度が低いコドンが、配列表の配列番号1-1653の塩基配列の中で、184~186、342~344、427~429、562~564、757~759、821~823、955~957、988~990、1008~1010、1024~1026、1375~1377、1588~1590、及び1615~1617からなる群から選択されることを特徴とする。
【0009】
本発明の形質転換体は、請求項1~3項のいずれか1項に記載の核酸を組み込んだことを特徴とする。
【0010】
本発明の遺伝子の発現を測定する方法は、請求項1~3項のいずれか1項に記載の核酸をレポータ遺伝子として葉緑体ゲノムへ組み込むことによって遺伝子の発現を測定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の概日リズムの測定方法は、請求項1~3項のいずれか1項に記載の核酸を、葉緑体遺伝子psbDのプロモータと5’非翻訳領域の下流へレポータ遺伝子として接続し、概日リズムを測定することを特徴とする。
【0012】
また、本発明のレポーターベクターは、請求項1~3項のいずれか1項に記載の核酸を、レポータ遺伝子として組み込んだことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の合成遺伝子の合成方法は、合成遺伝子を宿主又は細胞小器官において発現させるために、前記宿主又は細胞小器官において使用されるコドンの使用頻度が、他のコドンと比較して高いコドンを使用して、遺伝子を合成することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の合成遺伝子の合成方法の好ましい実施態様において、前記宿主又は細胞小器官において出現頻度が、1000分の1以下(であるコドンを置換して遺伝子を合成することを特徴とする。ただし、1つのアミノ酸をコードするコドンの内もっと使用頻度の高いものがこの数値以下になるものは例外とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の核酸によれば、葉緑体ゲノムで使用される頻度が高いコドンを使用しているので、効率よくルシフェラーゼ遺伝子が発現し、概日リズムなど葉緑体遺伝子の発現の様子を観察することが可能となるという有利な効果を有する。
【0016】
また、本発明の遺伝子の合成方法によれば、コドンの使用頻度を最適化した形で所望の器官へ組み込み、発現させることが容易な所望の合成遺伝子を合成することが可能であるという有利な効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の核酸は、以下の(a)又は(b)、すなわち、
(a)配列表の配列番号1に示す、塩基配列番号1-1653で示される塩基配列からなる核酸、
(b)塩基配列番号1-1653の塩基配列の中で、既存のルシフェラーゼ遺伝子と比較して、葉緑体ゲノムにおいて使用頻度が低いコドンに係る塩基配列が置換されている核酸、からなることを特徴とする。配列表の配列番号1に示す塩基配列から成る核酸は、葉緑体においても発現し得るように最適化された合成遺伝子である。
【0018】
また、本発明の核酸は、塩基配列番号1-1653の塩基配列の中で、既存のルシフェラーゼ遺伝子と比較して、葉緑体ゲノムにおいて使用頻度が低いコドンに係る塩基配列が置換されている核酸、からなることを特徴とする。本発明の核酸は、既存のホタルルシフェラーゼ遺伝子と葉緑体ゲノムのコドンの使用頻度とが異なる場合に、葉緑体においてもルシフェラーゼタンパク質を発現し得るように最適化される。上記葉緑体のような核外の器官において使用頻度が低いコドンを適切に置換した核酸によって、外来遺伝子を発現させることが可能となる。
【0019】
好ましい実施態様において、前記葉緑体において使用頻度が低いコドンが、配列表の配列番号1-1653の塩基配列の中で、184~186、342~344、427~429、562~564、757~759、821~823、955~957、988~990、1008~1010、1024~1026、1375~1377、1588~1590、及び1615~1617からなる群から選択される(図9において赤いアンダーラインで示した部分)。これらのコドンは、既存のルシフェラーゼ遺伝子と比較して使用頻度が低く、本発明者らはこれらの使用頻度の違いが外来遺伝子のスムーズな発現を妨げているのではないかと推測した結果、これらのコドンを含め、使用頻度の低いコドンを、外来遺伝子を発現させたい器官において使用頻度が高いコドンと置換することによって、目的のタンパク質をコードする合成遺伝子を構築することを試みたものである。
【0020】
また、葉緑体においては、既存のルシフェラーゼ遺伝子と比較してコドンの使用頻度と異なっている場合があり、外来遺伝子の発現を非常に困難なものとしている。本発明の核酸によれば、コドンを最適化しているので、外来遺伝子を発現させることが可能であり、ひいては、例えば、大規模かつ高精度の遺伝子発現測定に必要不可欠なリアルタイム測定用のレポータ遺伝子を提供することも可能である。
【0021】
また、本発明の形質転換体は、請求項1~3項のいずれか1項に記載の核酸を組み込んだことを特徴とする。本発明の形質転換体は、上記本発明の核酸を常法により、適当なプロモーターと接続して、遺伝子移入することにより得ることができる。
【0022】
次に、本発明の核酸の利用方法について説明すると以下のようである。まず、本発明の遺伝子の発現を測定する方法は、上述の本発明の核酸をレポータ遺伝子として葉緑体ゲノムへ組み込むことによって遺伝子の発現を測定することを特徴とする。本発明の「核酸」については上述の説明をそのまま適用することができる。本発明の核酸は、葉緑体においても発現し得るように、最適化されているので、これをリポータ遺伝子として利用し、任意の遺伝子の発現の様子を観察することができる。例えば、好適には、上述の本発明の核酸を、葉緑体遺伝子psbDのプロモータと5’非翻訳領域の下流へレポータ遺伝子として接続し、遺伝子発現の概日リズムを測定することができる。本発明の核酸を利用することによって、簡便に、かつ同時に多検体のリズムを検定できる実験系を構築することができる。それによって、研究速度の劇的な加速をもたらすことができる。
【0023】
また、本発明のレポーターベクターは、上述の本発明の核酸を、レポータ遺伝子として組み込んだことを特徴とする。当該カセットは、常法の遺伝子移入法、例えば、相同組換えなどによってオルガネラの所望のターゲッティングサイトへ遺伝子移入することができる。
【0024】
次に、本発明の合成遺伝子の合成方法について説明する。本発明の合成方法は、合成遺伝子を発現させるために、宿主又は細胞小器官において使用頻度の高いコドンに置き換えて遺伝子を合成することを特徴とする。当該合成方法によれば、前記宿主又は細胞小器官において発現困難な外来遺伝子を、的確に発現し得る遺伝子を合成することができる。また、好ましい実施態様において、前記宿主又は細胞小器官において出現頻度が、1000分の25以下、より好ましくは、1000分の1以下であるコドンを置換して遺伝子を合成する。ただし、1つのアミノ酸をコードするコドンの内もっと使用頻度の高いものがこの数値以下になるのものは例外とする。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例を用いて説明するが、本発明は、これら実施例に限定して解釈される意図ではない。
【0026】
まず、本発明者らは、真核藻類の一つであるクラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)について着目した。当該クラミドモナスは、単細胞生物でその細胞内にただ一つの葉緑体を持つ。このシンプルさ故、葉緑体の研究をリードするモデル生物として広く利用されてきた。また、明確な概日リズムを持つため、概日リズムの研究にも適している。
【0027】
そこで本発明者らは、改変型ホタルルシフェラーゼ遺伝子(LUC+)のコドン使用頻度をクラミドモナスの葉緑体ゲノムに最適化した人工合成遺伝子LUC+cp(LUC+ gene for Chlamydomonas chloroplast)を作製し、それを利用したレポーターベクターを葉緑体ゲノムに移入した。そして、得られた形質転換体を用いて葉緑体ゲノムの遺伝子発現リズムを生物発光としてリアルタイムモニタリングすることに成功した。
【0028】
材料と方法
クラミドモナスの株と培養、大腸菌の菌株と培養
クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)野生株2137mt+(CC-1021)は、皆川純博士(北海道大学)より分譲して頂き、これを使用した。クラミドモナスの培養は、Tris-acetate phosphate(TAP)液体培地または1.5% 寒天(INA AGAR BA70; INA Foods, Nagano, Japan)を含むTAP固体培地(Harris、 1989)を用いて、通常は24℃、連続明、30μE/m2sec、白色蛍光灯下で行った。液体培養の場合は、180rpmで旋回培養を行った。
【0029】
大腸菌の菌株は、DH5α(Takara, Kusatsu, Japan)とXL10Gold(Stratagene Japan, Tokyo, Japan)を使用した。大腸菌の培養は、LB培地(Sambrookら、1989)を用いて行い、必要に応じてそれぞれ最終濃度50μg/ml アンピシリン、25μg/ml クロラムフェニコール、100μg/ml スペクチノマイシンを培地に添加した。
【0030】
DNAの操作、塩基配列の決定と解析
プラスミドDNAの抽出、DNAの制限酵素による消化、平滑化、ライゲーション、polymerase chain reaction(PCR)などの操作は、Sambrookらの記述(Sambrookら、1989)に従って行った。DNAの塩基配列の決定は、ABI373S自動シークエンサーシステム(Applied Biosystems Japan, Tokyo, Japan)とPRISM Dye-Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems Japan)とを用いて、メーカーのマニュアルに従って行った。決定した塩基配列は、塩基配列解析ソフトであるAnalysis(Applied Biosystems Japan)、AutoAssembler(Applied Biosystems Japan)、GENETYX-MAC(GENETYX Corp., Tokyo, Japan)およびGENETYX-WIN(GENETYX Corp.)を用いて解析した。PCRクローニングによって得たDNA断片やベクターのコンストラクションの各過程では、全て塩基配列の確認を行った。
【0031】
プラスミドDNA
<LUC+cp遺伝子の人工合成>
クラミドモナスの葉緑体ゲノムのコドン使用頻度に最適化した人工合成ホタルルシフェラーゼ遺伝子LUC+cpの合成はStemmerらの方法によって行った。クラミドモナスのコドン使用頻度は、かずさDNA研究所のデーターベースCodon Usage Database(http://www.kazusa.or.jp/codon/)を利用して調査した。
【0032】
<葉緑体ターゲッティングベクター(pCTS2XX)の作製>
葉緑体ゲノムのstuI断片(6.3kb; GenBank/DDBJ/EMBL accession no. BK000554のヌクレオチド75838~82122)をプラスミドベクターpUC118(TAKARA)にクローニングし、ポリリンカー(5’-cccgggatccactagtcgacgcatgcagatctaggcctgca-3’)をPstI site (BK000554の79351)に挿入した。ポリリンカー部位に選択マーカーaadA発現カセットを挿入した。このマーカーがゲノムに挿入されると、抗生物質スペクチノマイシンやストレプトマイシンに対する耐性を持つ。
【0033】
<生物発光リズム発振カセットの作製>
人工合成したLUC+cp遺伝子の翻訳領域をpCR2.1-TOPO (Invitrogen)にクローニングしpCR2.1-TOPO/LUC+cpを作製した。人工合成の際、5’末端にはNdeI siteを、3’末端にはXbaI siteを付加した。葉緑体遺伝子psbDのプロモーター及び5’非翻訳領域(BK000554の175630-176055)はプライマーpsbD-F1とpsbD-R1を用いたPCRで増幅した。それをpT7Blue-T (Novagen)にクローニングしpT7BT/PpsbDを作製した。葉緑体遺伝子atpBの3’ターミネター領域(BK000554の159952-160185)はプライマーatpB-F1MとatpB-R1Mを用いたPCRで増幅、pT7Blue-TにクローニングしpT7BT/TatpBを作製した。
【0034】
pT7BT/PpsbDの0.43kb SmaI-XbaI断片をHincII/XbaI消化した pT7BT/TatpBに挿入しpT7BT/PpsbD::TatpBを作製した。pCR2.1-TOPO/LUC+cpの1.66kb NdeI-XbaI断片をNdeI/XbaI消化したpT7BT/PpsbD::TatpBに挿入し、生物発光リズム発振カセットを持つベクターpT7BT/PpsbD::LUC+cp::TatpBを作製した。
【0035】
使用したプライマー
psbD-F1: 5'-tatgaaattaaatggatatt-3'
psbD-R1: 5'-catatggtgtatctccaaaa-3'
atpB-F1M: 5'-gcttctagaaaagctgcttcattaaaataa-3'
atpB-R1M: 5'-tcccgggacgtttcctttagttttttgctg-3'
※アンダーラインは後のクローニングのステップを容易にするために付加した制限酵素サイトを示す。
【0036】
<レポーターベクターpCTS208の作製>
BamHIでpT7BT/PpsbD::LUC+cp::TatpBから切り出した生物発光リズム発振カセットを葉緑体ターゲッティングベクターのポリリンカー部位にあるBglII siteに挿入した。この際、選択マーカーaadA発現カセットと反対方向に挿入した。このベクターがゲノムに挿入されるとスペクチノマイシン/ストレプトマイシン耐性と生物発光リズムを発振する能力を持つ。
【0037】
クラミドモナス葉緑体ゲノムへの遺伝子移入
クラミドモナス葉緑体ゲノムへの遺伝子移入は、Finerらの記述(Finerら、1992)に従って、パーティクルインフローガン(皆川純博士によって作製)を用いたバイオリスティック形質転換法で行った。ベクターDNAを葉緑体へ導入するための担体には、タングステン粒子(BIO-RAD M-17; BIO-RAD Japan, Tokyo, Japan)を使用した。形質転換体の選択はスペクチノマイシン耐性遺伝子であるaadA遺伝子を選択マーカーとして、最終濃度50μg/ml スペクチノマイシン硫酸塩(BIOMOL, U.S.A.)を加えたTAP固体培地上で行った。出現した形質転換体のコロニーは、最終濃度100μg/ml スペクチノマイシンを含むTAP固体培地で3回の植え継ぎを行い形質転換体のホモプラズミック化を進行させた後、実験に用いた。形質転換体は100μg/ml スペクチノマイシンを含むTAP固体培地で維持した。
【0038】
サザンブロット解析
クラミドモナスのゲノミックDNAの抽出はRochaixの方法に従って行った(Rochaix, 1980)。サザンブロット解析のプローブには、PCRで得られたDNA断片(78658~79007, GenBank accession No. BK000554)を用いた。
【0039】
クラミドモナス発光レポーター株の生物発光測定
葉緑体ゲノムへ発光レポーター遺伝子を遺伝子移入した形質転換体の生物発光測定は、以下の手順で行った。まず、クラミドモナス形質転換体をTAPおよびHSM固体培地に播種し、24℃、連続明、30μmol/m2sec、白色蛍光灯下で5日間培養し、コロニーを形成させた。形成したコロニーを培地ごと内径6mmのガラス管で切り出し、これを96穴マイクロプレートのウェルに静置した。各ウェルにTAP培地に溶解した1mM D-Luciferin K-saltを25μl投与してから(最終濃度150mM;BIOSYNTH, Naperville, IL)、プレートをプレートシール(Plate Seal T, Sanplatec Corp., Osaka, Japan)でシールした。そして、12時間明期/12時間暗期(明期には30μmol/m2sec、白色蛍光灯を点灯)の明暗周期を1回与えて概日リズムの同調を行った後、連続明(30μmol/m2sec)また連続暗で60分ごとに生物発光を測定した。クロロフィルの遅延蛍光を減衰させるため、測定の直前に3.5分間の暗処理を行った。生物発光量の測定は、当研究室で開発した生物試料の生物発光測定装置(石浦、岡本、小内、古澤、特願2003-384577)を用いて行った。生物発光のリアルタイムモニタリングと測定結果の解析は、解析プログラムであるRAP(特願2003-061203)を用いて行った。
【0040】
結果
葉緑体ゲノムにおけるターゲッティングサイトの開発
クラミドモナス葉緑体においては、外部から移入した相同遺伝子はゲノム中の相同領域と組換えを起こす、いわゆる相同組換が起こる(Rochaixら、1998)。したがって、相同組換を利用することで、葉緑体ゲノムの特定の部位に遺伝子を組み込むこと(遺伝子ターゲッティング)が可能である。この相同組換えを利用した遺伝子移入によって、発光レポーター遺伝子を組み込む際には、葉緑体ゲノム上の遺伝子発現に影響を与える可能性の低い領域(ターゲッティングサイト)に選択マーカー遺伝子と発光レポーター遺伝子を組み込むことが重要である。そこで、葉緑体遺伝子マップ上で遺伝子の転写終結領域と他の遺伝子の転写終結領域とが向き合う領域を検索した。その結果から、psbT遺伝子とpsbN遺伝子との間の領域が適当であると判断し、その領域をターゲッティングサイト2(cTS2)と命名した(図1)。
【0041】
人工合成ホタルルシフェラーゼ遺伝子LUC+cpの人工合成
クラミドモナスの葉緑体ゲノムにおけるコドン使用頻度は極めて特異であり、外来遺伝子の発現が極めて難しい原因となっている。例えば、一般的に使用されている発光レポーター遺伝子の一つであるホタルルシフェラーゼ遺伝子のコドン使用頻度は、クラミドモナスの葉緑体ゲノムのコドン使用頻度と大きく異なっている。そこで、葉緑体ゲノムのコドン使用頻度に最適化した人工合成ホタルルシフェラーゼ遺伝子、LUC+cp(LUC+ gene for Chlamydomonas chloroplast)を完全合成した。LUC+cpから翻訳される蛋白質のアミノ酸配列はLUC+遺伝子から翻訳される蛋白質と全く同じになるように設計を行った。人工合成遺伝子の作製方法は図2に、LUC+cp遺伝子の塩基配列は図3に、人工合成に用いた合成オリゴヌクレオチドの一覧は表1に示した。LUC+cp遺伝子の人工合成に用いたオリゴヌクレオチドの名前、配列を示した。
【0042】
【表1】
JP0004742258B2_000002t.gif

【0043】
人工合成遺伝子LUC+cpを用いた葉緑体発光レポーター株の作製
クラミドモナス葉緑体遺伝子であるpsbDは光化学系IのD2蛋白質をコードし、mRNAレベルが日周変動していることが知られている(Rochaixら、1998)。そこで、クラミドモナス葉緑体ゲノムに最適化した人工合成ホタルルシフェラーゼ遺伝子LUC+cpをpsbD遺伝子のプロモーター領域(PpsbD)と接続して発光レポーター遺伝子カセットPpsbD::LUC+cpを作製した。PpsbD::LUC+cp遺伝子カセット及び選択マーカー遺伝子カセットPpsbA::aadAをcTS2ターゲッティングベクターへ組み込んでpCTS208を作製した。pCTS208の構造は図4Aに示した。
【0044】
pCTS208をバイオリスティック法によってクラミドモナス葉緑体上のcTS2へ遺伝子移入し、psbD::LUC+cp株を作製した。クラミドモナスの葉緑体ゲノムはおよそ80コピーあり、それら全てが形質転換型になったことを確かめるため、制限酵素で消化したゲノミックDNAのサザンブロット解析を行った。その結果、psbD::LUC+cp株の葉緑体ゲノミックDNAは、ほぼ全コピー形質転換型になっていた。(図4B,C)
【0045】
葉緑体発光レポーター株の生物発光リズムの測定
完成したpsbD::LUC+cp株の生物発光を連続明条件下で測定した結果、20時間以上にわたり有意な発光が観察された。一方、野生株では有意な発光は全く検出できなかった。
【0046】
次にpsbD::LUC+cp株の生物発光が概日リズムであるかどうかを検証した。概日リズムは以下の3つの現象で定義されている。1:恒常条件下でおよそ24時間周期の変動(リズム)が継続する。2:そのリズムは明暗周期でリセットされる。3:そのリズムの周期には温度補償性がある。
【0047】
まず1の点を検証するため、明暗周期を与えた後、恒常条件下でpsbD::LUC+cp株の生物発光を測定した。その結果、恒常条件下で5日間にわたり生物発光リズムが観察された(図5、6)。リズムの周期は、連続明条件下で23.7±0.6 h (n=47,TAP培地)、24.8±0.6 h (n=44,HSM培地)であった(図5)。連続暗条件下では23.5±0.3 h (n=34,TAP培地)、24.1±0.2 h (n=33,HSM培地)であった(図6)。
【0048】
次に2の点を検証するため、同一条件で培養した細胞に対し、半日(12時間)ずらした明暗周期を与えた後、連続明条件下で生物発光を測定した。その結果、観察された生物発光の位相は、予想通り明暗周期に同調し、約半日ずれたリズムを示した(図7)。
【0049】
最後に3の点の検証として、温度の変化に伴う生物発光リズムの周期の変化を調べた。さまざまな温度条件下で測定した結果、このリズムの周期は23.7±0.6 h (n=47,24℃)、23.1±0.8 h (n=34,19℃)、22.4±0.4 h (n=41,14℃)であった(図8)。周期の逆数を反応速度として計算した温度係数Q10は0.95であった。通常の化学的反応を含む生物学的過程のQ10は2~3であり、0.95という値は温度変化の影響を非常に受けにくいことを意味する。
【0050】
以上の実験結果から、psbD::LUC+cp株の生物発光リズムは、1:恒常条件下で継続し、2:明暗周期でリセットされ、3:周期が温度補償されていた。よって、このリズムは概日リズムであると結論した。
【0051】
考察
本実施例では、クラミドモナスの葉緑体ゲノムにおける発光レポーター系の開発を試みた。葉緑体ゲノムのコドン使用頻度に最適化したLUC+cp遺伝子の人工合成を行い、これを発光レポーター遺伝子として使用することでpsbD::LUC+cp株の生物発光リズムのリアルタイム測定に成功した(図5~8)。この生物発光リズムは、概日リズムの3つの条件を満たしていた。すなわち、恒常条件下において、約24時間周期の明確なリズムを示し(図5,6)、明暗周期でリセットされ(図7)、リズムの周期は温度補償されていた(図8)。したがって、psbD::LUC+cp株の生物発光リズムは概日リズムであると結論した。本研究で成功した葉緑体ゲノムにおける概日リズムのリアルタイムモニタリングは世界初である。今後この成果により、概日時計がいかにして葉緑体ゲノムをコントロールするかというメカニズムが解明されると期待される。
【0052】
引用文献
Bruce,VG (1972), Genetics, 70:537-548.
Finer,JJ, Vain,P, Jones,MW, and McMullen,MD (1992), Plant Cell Rep., 11:323-328.
Harris,EH (1989), The Chlamydomonas Soucebook., Academic Press, San Diego.
Harris,EH (1999), Annu. Rev. Plant Mol. Biol., 52:363-406.
Lumsden,PJ and Millar,AJ (1998), Biological Rhythms and Photoperiodism in Plants., BIOS Scientific Publishers, Oxford, UK.
Nelson,W, Tong,YL, Lee,JK, and Halberg,F (1979), Chronobiologia, 6:305-323.
Rochaix,J-D, Goldschmidt-Clermont,M, and Merchant,S (1998), The Molecular Biology of Chloroplasts and Mitochondria in Chlamydomonas., Kluwer Academic Publisher, Netherlands.
Rochaix,J-D (1980), Methods Enzymol., 65:785-795.
Sambrook,J., Fritsch,EF, Maniatis,T (1989), Molecular cloning., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Sprong Horbor, New York.
Stemmer, W. P., Crameri, A., Ha, K. D., Brennan, T. M. & Heyneker, H. L. (1995), Gene 164, 49-53.
Shimogawara,K, Fujiwara,S, Grossman,A, and Usuda,H (1998), Genetics, 148:1821-1828.
【産業上の利用可能性】
【0053】
生物に発光遺伝子を組み込んで生きたままの細胞で遺伝子発現の変動を連続的に測定する生物発光リアルタイム測定法(図1A)は、任意の鍵遺伝子の発現制御に関与する突然変異体の網羅的分離に極めて有効な実験法であり、ポストゲノム時代の網羅的ゲノム機能解析の切札である。本発明によれば、葉緑体ゲノムにおいてこのような解析が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、クラミドモナス葉緑体のターゲッティングサイトcTS2とその周辺領域の遺伝子構造を示す。クラミドモナス葉緑体上のpsbTとpsbN遺伝子は、それぞれの転写方向が逆方向である。これら2つの遺伝子に挟まれた領域をターゲッティングサイトcTS2として遺伝子移入に利用するため、cTS2の図中左側領域(cTS2L)と図中右側領域(cTS2R)を組み込んだターゲッティングベクター系pCTS2XXを作製した。矢印は各遺伝子の転写方向を表す。P, プロモーター領域; Ter, 転写終結領域。
【図2-1】図2-1は、人工合成ホタルルシフェラーゼ遺伝子LUC+cpの合成方法を示す。クラミドモナス葉緑体ゲノムのコドン使用頻度に最適化したホタルルシフェラーゼ遺伝子LUC+cpの合成方法を示した。約1.6 kbの遺伝子の全長を4分割してそれぞれ合成を行った後、4つの領域を結合しPCRで増幅した。各領域の合成は、長鎖オリゴヌクレオチドの重合とPCRによる増幅によって行った。
【図2-2】図2-2は、人工合成ホタルルシフェラーゼ遺伝子LUC+cpの合成方法を示す。クラミドモナス葉緑体ゲノムのコドン使用頻度に最適化したホタルルシフェラーゼ遺伝子LUC+cpの合成方法を示した。約1.6 kbの遺伝子の全長を4分割してそれぞれ合成を行った後、4つの領域を結合しPCRで増幅した。各領域の合成は、長鎖オリゴヌクレオチドの重合とPCRによる増幅によって行った。
【図3】図3は、人工合成ホタルルシフェラーゼ遺伝子LUC+cpの塩基配列を示す。クラミドモナス葉緑体ゲノムのコドン使用頻度に最適化したホタルルシフェラーゼ遺伝子LUC+cpの塩基配列を示した。塩基配列はコドンごとに区切って記した。塩基配列の下には一文字表記で各コドンに対応するアミノ酸を記した。塩基配列の上の数字は、開始コドンATGのAからの塩基数を表している。
【図4】図4は、発光レポーターベクターpCTS208の構造とpsbD::LUC+cp株のサザンブロット解析を示す。A;LUC+cpを用いたクラミドモナス葉緑体における発光レポーターベクターpCTS208の構造を示した。プラスミドの複製開始点や大腸菌細胞内での抗生物質耐性遺伝子などは省略して示した。cTS2L, クラミドモナス葉緑体ターゲッティングサイトcTS2左側領域; cTS2R, クラミドモナス葉緑体ターゲッティングサイトcTS2右側領域; PpsbA, クラミドモナス葉緑体遺伝子psbAのプロモーター領域; aadA, スペクチノマイシン・ストレプトマイシン耐性遺伝子; TatpB, クラミドモナス葉緑体遺伝子atpBの転写終結領域; PpsbD, クラミドモナス葉緑体遺伝子psbDのプロモーター領域; LUC+cp, クラミドモナス葉緑体ゲノムに最適化した人工合成ホタルルシフェラーゼ遺伝子。B;野生型(2137mt+)及び形質転換型の葉緑体ゲノムにおけるcTS2近傍の制限酵素部位と切り出される断片の長さを示した。青いバーはサザンハイブリダイゼーションに用いたプローブの位置を示している。C;野生株(WT)およびpsbD::LUC+cp株(208)のサザンハイブリダイゼーションの結果を示した。用いた制限酵素、及びサンプル名は上に表示した。
【図5】図5は、連続明条件下におけるpsbD::LUC+cp株の発光リズムを示す。1サイクルの明暗周期の後、連続明条件下で5日間にわたり発光リズムを測定した結果を示した。グラフ上部のバーは明暗条件を示している。白い部分、明期。黒い部分、暗期。
【図6】図6は、連続暗条件下におけるpsbD::LUC+cp株の発光リズムを示す。2サイクルの明暗周期の後、連続暗条件下で5日間にわたり発光リズムを測定した結果を示した。
【図7】図7は、発光リズムの明暗周期への同調を示す。位相を12時間ずらした明暗周期を与えた後、連続明条件下で発光リズムを測定した結果を示した。測定にはHSM個体培地を用いた。青いグラフは上の明暗バー、赤いグラフは下の明暗バーに対応している。グラフには12~20サンプルのデータの平均値と標準偏差をプロットしてある。
【図8】図8は、発光リズムの周期の温度補償性を示す。24℃、19℃、14℃で生物発光リズムを連続明条件下で測定し、その周期を調べた。測定にはTAP個体培地を用いた。グラフには周期の平均値±標準偏差がプロットしてある。
【図9】図9は、本発明の一実施態様における既存のルシフェラーゼ遺伝子LUCから変更した塩基を黒く反転して示す図である。LUCには、クラミドモナスの葉緑体において、極めて使用頻度が低いコドンが存在するが、これらを赤いアンダーラインで示した。
図面
【図1】
0
【図2-1】
1
【図2-2】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9】
9