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明細書 :グリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3阻害剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4828131号 (P4828131)
公開番号 特開2006-225362 (P2006-225362A)
登録日 平成23年9月22日(2011.9.22)
発行日 平成23年11月30日(2011.11.30)
公開日 平成18年8月31日(2006.8.31)
発明の名称または考案の名称 グリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3阻害剤
国際特許分類 A61K  31/047       (2006.01)
C12N   9/99        (2006.01)
A61K  36/25        (2006.01)
A61K  36/23        (2006.01)
A61P   3/08        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI A61K 31/047
C12N 9/99
A61K 35/78 M
A61K 35/78 N
A61P 3/08
A61P 43/00 111
請求項の数または発明の数 4
全頁数 14
出願番号 特願2005-044775 (P2005-044775)
出願日 平成17年2月21日(2005.2.21)
審査請求日 平成20年2月19日(2008.2.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】木村 賢一
【氏名】越野 広雪
【氏名】宮川 都吉
個別代理人の代理人 【識別番号】100106611、【弁理士】、【氏名又は名称】辻田 幸史
【識別番号】100087745、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 善廣
【識別番号】100098545、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 伸一
審査官 【審査官】伊藤 清子
参考文献・文献 特開平11-310527(JP,A)
TENG,C.M. et al,Antiplatelet actions of panaxynol and ginsenosides isolated from ginseng,Biochimica et biophysica acta,1989年,Vol.990, No.3,p.315-20
BERNART,M.W. et al,Cytotoxic falcarinol oxylipins From Dendropanax arboreus,Journal of Natural Products,1996年,Vol.59, No.8,p.748-753
調査した分野 A61K 31/00-31/047
A61K 36/00-36/25
A61P 3/08
A61P 43/00
C12N 9/99
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)


特許請求の範囲 【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるポリアセチレン化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とするグリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3阻害剤。
【化1】
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[式中、R、Rは、同一または異なって、それぞれ、保護されていてもよい水酸基を示す。Rは鎖中または鎖端に二重結合を有していてもよい炭素数5~20の炭素鎖を示す。]
【請求項2】
一般式(1)で表されるポリアセチレン化合物が下記の構造式(2)で表されるファルカリンディオール(falcarindiol)であることを特徴とする請求項1記載のグリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3阻害剤。
【化2】
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【請求項3】
一般式(1)で表されるポリアセチレン化合物が下記の構造式(3)で表されるデヒドロファルカリンディオール(dehydrofalcarindiol)であることを特徴とする請求項1記載のグリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3阻害剤。
【化3】
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【請求項4】
セリ科植物および/またはウコギ科植物からの抽出操作により、下記の一般式(1)で表されるポリアセチレン化合物を単離取得することを特徴とするグリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3阻害剤の調製方法。
【化4】
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[式中、R、Rは、同一または異なって、それぞれ、保護されていてもよい水酸基を示す。Rは鎖中または鎖端に二重結合を有していてもよい炭素数5~20の炭素鎖を示す。]
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、過剰免疫反応をはじめとする種々の疾患の予防や改善や治療に有用な、天然物由来の新規なCa2+シグナル伝達阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系の反応は、Ca2+によって活性化されたカルシニューリン(セリン・スレオニンフォスファターゼ2B)により、転写因子NFκBが脱リン酸化されて核内に移行し、IL-2に代表されるサイトカインの転写を活性化し、産生されたサイトカインにより免疫細胞が増殖して引き起こされることが明らかにされている。従って、亢進したCa2+シグナル伝達を抑制する物質は、カルシニューリンの活性化を抑制し、過剰免疫反応やアレルギー症状などに対する予防薬や治療薬として有用である。
また、Ca2+の細胞内への流入の調節機能の一つに、電位依存型L型Ca2+チャネルがある。このチャンネルに結合してCa2+の細胞内への流入を抑制する物質は、心筋や血管などの平滑筋細胞でCa2+と拮抗し、虚血性心疾患、高血圧、末梢血管障害、脳血管障害、心不整脈などに対する予防薬や治療薬として有用である。
さらに、Ca2+シグナル伝達系は、MAP(Mitogen Avtivated Protein kinase)キナーゼであるMpk1を活性化することから、Ca2+シグナル伝達を抑制する物質は、その活性化調節が異常となった各種の癌に対する予防薬や治療薬として有用である。また、Ca2+シグナル伝達系は、グリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3(Gsk-3:Glycogen Synthase Kinase-3)と関連していることから、Ca2+シグナル伝達を抑制する物質は、糖尿病、痴呆症などに対する予防薬や治療薬として有用である。
このように、生命の根幹を成すシグナル伝達系の一つであるCa2+シグナル伝達系を抑制する物質は、Ca2+シグナル伝達の亢進により引き起こされる様々な疾病(過剰免疫反応、アレルギー、癌、痴呆症、II型糖尿病、高血圧、狭心症など)を、そのシグナルを阻害することで、予防や改善や治療できることから注目されている。Ca2+シグナル伝達阻害剤の、免疫抑制剤や抗アレルギー剤への適用例としては、サイクロスポリンA、FK-506がある。また、Ca2+シグナル伝達阻害剤の、高血圧や狭心症に対する予防薬や治療薬への適用例としては、ニフェジピン、バラパミル、ジルチアゼムがある。しかしながら、これらは活性も強いが毒性も強いため、副作用が少ないまたは皆無のCa2+シグナル伝達阻害剤の探索はたいへん意義深い活動である。
【0003】
以上の観点から、本発明者らは、日常の食材からより安全なCa2+シグナル伝達阻害剤を見出すべく、研究を精力的に行っており、これまでに、Ca2+シグナル伝達阻害作用を有する物質として、モクレン科のホオノキから、ネオリグナン化合物[2個のC6C3単位が8,8’-結合(β,β’-結合)以外の結合により連結した炭化水素を基本構造とする化合物]である、下記の構造式(4)で表されるホノキオール(honokiol)と、下記の構造式(5)で表されるマグノールオール(magnolol)を見出している(非特許文献1)。
【0004】
【化6】
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【0005】
【化7】
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【0006】

【非特許文献1】日本農芸化学会2004年度大会講演要旨集p123「2B05p24 ホオノキに含まれるCa2+シグナル伝達阻害物質honokiol,magnolol」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、天然には更なる新規なCa2+シグナル伝達阻害作用を有する物質が存在することが考えられる。
そこで本発明は、新規なCa2+シグナル伝達阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意検討を行った結果、セリ、ミツバ、アシタバ、ニンジンなどのセリ科植物、ウドなどのウコギ科植物に含まれるポリアセチレン化合物が、Ca2+シグナル伝達阻害作用を有することを見出した。
【0009】
上記の知見に基づいてなされた本発明のグリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3阻害剤は、請求項1記載の通り、下記の一般式(1)で表されるポリアセチレン化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とする。
【0010】
【化8】
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【0011】
[式中、R1、R2は、同一または異なって、それぞれ、保護されていてもよい水酸基を示す。R3は鎖中または鎖端に二重結合を有していてもよい炭素数5~20の炭素鎖を示す。]
【0012】
また、請求項2記載のグリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3阻害剤は、請求項1記載のグリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3阻害剤において、一般式(1)で表されるポリアセチレン化合物が下記の構造式(2)で表されるファルカリンディオール(falcarindiol)であることを特徴とする。
【0013】
【化9】
JP0004828131B2_000005t.gif

【0014】
また、請求項3記載のグリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3阻害剤は、請求項1記載のグリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3阻害剤において、一般式(1)で表されるポリアセチレン化合物が下記の構造式(3)で表されるデヒドロファルカリンディオール(dehydrofalcarindiol)であることを特徴とする。
【0015】
【化10】
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【0016】
また、本発明のグリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3阻害剤の調製方法は、請求項4記載の通り、セリ科植物および/またはウコギ科植物からの抽出操作により、下記の一般式(1)で表されるポリアセチレン化合物を単離取得することを特徴とする。
【0017】
【化11】
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【0018】
[式中、R1、R2は、同一または異なって、それぞれ、保護されていてもよい水酸基を示す。R3は鎖中または鎖端に二重結合を有していてもよい炭素数5~20の炭素鎖を示す。]
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、過剰免疫反応、アレルギー、癌、痴呆症、II型糖尿病、高血圧、狭心症などの予防薬や治療薬として有用な、天然物由来の新規なCa2+シグナル伝達阻害剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤は、請求項1記載の通り、下記の一般式(1)で表されるポリアセチレン化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とする。
【0024】
【化13】
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【0025】
[式中、R1、R2は、同一または異なって、それぞれ、保護されていてもよい水酸基を示す。R3は鎖中または鎖端に二重結合を有していてもよい炭素数5~20の炭素鎖を示す。]
【0026】
ここで、保護された水酸基としては、メトキシ基、エトキシ基、トリチルオキシ基などの炭素数1~4の低級アルコキシ基、ベンジルオキシ基などのアラルキルオキシ基などが挙げられる。R3の鎖中または鎖端に二重結合を有していてもよい炭素鎖の炭素数は、望ましくは5~10である。
【0027】
一般式(1)で表されるポリアセチレン化合物の内、代表的な化合物としては、下記の構造式(2)で表されるファルカリンディオールが挙げられる。ファルカリンディオールは、野菜ではセリ科植物に含まれ、漢方薬では防風(セリ科)、当帰(セリ科)、ビャクジュツ(別名オケラ、キク科)に含まれているポリアセチレン化合物として公知である他、ウコギ科植物に含まれていることも公知であり(但し、食用のウドに含まれていることは、今回、本発明者らによってはじめて見出された知見である)、有機溶媒を用いた自体公知の抽出操作により単離取得することができるが、有機合成によって製造することもできる。例えば、S. Tanaka, et al., Arzneim-Forsch./Drug Res., 27(2), 2039-2045,(1977)には、その抽出精製方法が記載されており、A. S. Ratnayake, et al., Organic Letters, 4(26), 4667-4669 (2002)には、その有機合成方法が記載されている。
【0028】
【化14】
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【0029】
また、下記の構造式(3)で表されるデヒドロファルカリンディオールも、ファルカリンディオールと同様に公知であり、ファルカリンディオールと同様に、有機溶媒を用いた自体公知の抽出操作により単離取得することができるが、有機合成によって製造することもできる。
【0030】
【化15】
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【0031】
なお、一般式(1)で表されるポリアセチレン化合物は、複数の不斉炭素を有するので、種々の立体異性体や光学異性体が存在し得るが、本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤の有効成分としては、そのいずれであってもよい。
【0032】
本発明における、一般式(1)で表されるポリアセチレン化合物の薬学的に許容される塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなどとの無機塩、低級アルキルアミン、低級アルコールアミンなどとの有機塩、リジン、アルギニン、オルニチンなどとの塩基性アミノ酸塩の他、アンモニウム塩などの公知のものが挙げられる。
【0033】
本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤を、医薬品としてヒトや動物に対して投与する場合の投与方法は、経口的な投与方法であってもよいし、非経口的な投与方法であってもよい。非経口的な投与方法としては、例えば、静脈注射、筋肉内注射、皮下注射、腹腔内注射、経皮投与、経肺投与、経鼻投与、経腸投与、口腔内投与、経粘膜投与などが挙げられ、この場合、本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤は、これらの投与方法に適した形態に自体公知の方法で製剤化されて投与される。この場合、有効成分となるポリアセチレン化合物は、高度に精製された形態で製剤化されてもよいし、セリ科植物やウコギ科植物などからの粗抽出物の形態で製剤化されてもよい。製剤形態としては、例えば、注射剤、坐剤、エアゾール剤、経皮吸収テープ、点眼剤、点鼻剤などが挙げられる。注射剤を調製する場合、適宜、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤などを添加して注射剤とする。経口投与製剤としては、例えば、錠剤(糖衣錠、コーティング錠、バッカル錠を含む)、散剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、顆粒剤(コーティングしたものを含む)、丸剤、トローチ剤、液剤、これらの製剤学的に許容され得る徐放化製剤などが挙げられる。液剤には、懸濁剤、乳剤、シロップ剤(ドライシロップを含む)、エリキシル剤などを含む。例えば、錠剤は、公知の製剤学的製造法に準じ、薬学的に許容され得る担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤などとともに調製することができる。この場合、担体や賦形剤としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末などを用いることができる。結合剤としては、例えば、デンプン、トラガントゴム、ゼラチン、シロップ、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボシキメチルセルロースなどを用いることができる。崩壊剤としては、例えば、デンプン、寒天、ゼラチン末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウムなどを用いることができる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴールなどを用いることができる。着色剤としては、医薬品に添加することが許容されているものを用いることができる。錠剤や顆粒剤は、必要に応じ、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、精製セラック、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート、メタアクリル酸重合体などで被膜してもよいし、2層以上の層で被膜してもよい。さらにエチルセルロースやゼラチンなどを用いてカプセル化してもよい。
【0034】
本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤が有効に作用する疾患としては、過剰免疫反応、アレルギー、癌、痴呆症、II型糖尿病、高血圧、狭心症などが挙げられる。本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤を患者に投与する場合、その投与量は、患者の年齢や体重、症状の程度、健康状態などの条件によって適宜設定すればよいが、標準的には、成人1日当たり約10mg~約10gを、経口的または非経口的に1日1回~数回にて投与すればよい。点眼剤の場合、有効成分の濃度が0.003~5(w/v)%の点眼剤を、1日数回、1回数滴投与すればよい。
【0035】
また、本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤は、種々の形態の食品(サプリメントを含む)に、Ca2+シグナル伝達阻害作用を発揮するに足る有効量を添加して食してもよい(体重1kg当たり0.1mg~100mgの摂取が標準的である)。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0037】
この実施例において、Ca2+シグナル伝達阻害作用の評価は、遺伝子Δzds1破壊酵母(Saccharomyces cerevisiae)がCa2+超感受性を示し、高濃度Ca2+を含む培地では増殖がG2期停止する表現型(Nature, 392, 303-306, 1998)を改良した系を用いて行った。
基本となる系の有用性は、微生物培養液や合成化合物ライブラリーを用いて既に実証済みであり、既知化合物であるラディシコールのCa2+シグナル伝達阻害作用がこの系により発見されている(生物工学, 77, 406-408, 1999)。この系は、高濃度のCa2+を含む培地では、Ca2+シグナルが超活性化され酵母は生育しないが、培地中にその経路を阻害する物質が含まれている場合には、酵母を生育させる(酵母の生育円が生じる)というポジティブスクリーニングである(図1参照)。そのため、毒性が無く、特異性の高い化合物の発見が可能である(Biosci. Biotechnol. Biochem., 64(9), 1942-1946, 2000)。実際に、この系を用いて、医薬品として実用化されている免疫抑制剤のFK506やサイクロスポリン、Ca2+拮抗剤のニフェジピンなどのCa2+シグナル伝達阻害作用が確認されている。さらに、図2に示した通り、この系によれば、Ca2+拮抗剤やカルシニューリン阻害剤以外にも、論理的にはMpk1阻害剤、Gsk-3阻害剤も選択が可能であり、実際に、Gsk-3β阻害剤は、酵母の生育円を生じさせることから、本発明者らは、後述の通り、この系を用いて、一般式(1)で表されるポリアセチレン化合物がGsk-3阻害作用を有することを確認している。
この実施例において用いた改良系は、遺伝子Δzds1Δsyr1Δpdr1Δpdr3破壊酵母を用いたものである。この遺伝子4重破壊酵母は、遺伝子1重破壊酵母の薬剤の膜透過性を高めるために、さらに膜成分と薬剤排出ポンプの遺伝子を自体公知の方法で破壊したものであり、薬剤感受性に優れることから、遺伝子1重破壊酵母を用いた基本系よりも精度よくCa2+シグナル伝達阻害作用の評価を行うことができる。
【0038】
参考例1:評価系の詳細
遺伝子4重破壊酵母をYPD培地(イーストエキストラクト10g/l、ペプトン20g/l、デキストロース20g/l、pH6.5)で28℃、一晩前培養し、培養液の1/10希釈液A590=0.2の液を3ml、5MのCaCl2を3ml、YPD寒天培地44mlをよく懸濁し、シャーレに12.5mlずつ分注した。測定用の各種濃度のサンプルをペーパーディスク(8mm、thick)に40μlしみ込ませてシャーレの上に載せ、28℃で3日間培養した後、生育円の大きさを測定し、Ca2+シグナル伝達阻害活性を評価した。ポジティブコントロールは、免疫抑制剤サイクロスポリンA(平均生育円20.9 mm、10μg/disc)またはFK506(平均生育円21.9 mm、0.02μg/disc)とした。この評価系で、セリ、ミツバ、アシタバ、ニンジン、ウド、セロリ、パセリのそれぞれについて、メタノール抽出物400μg/discでのCa2+シグナル伝達阻害活性を酵母の生育円の大きさで評価した結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
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【0040】
表1から明らかなように、セリ、ミツバ、アシタバ、ニンジン、ウドのメタノール抽出物にはCa2+シグナル伝達阻害作用があることがわかった。なお、各種機器分析により、これらのメタノール抽出物にはファルカリンディオールが含まれていること、ウドのメタノール抽出物にはファルカリンディオールに加えてデヒドロファルカリンディオールが含まれていることを確認した。また、セロリとパセリのメタノール抽出物にもファルカリンディオールが含まれていることを確認したが、その含量は僅かであった。
【0041】
実施例1:
(1)ミツバからのファルカリンディオールの単離精製
乾燥させたミツバ36.55gをメタノールで抽出し、その抽出物1.78gを得た。それをメタノール50mlに溶解した後、水450mlを加えてから等量の酢酸エチルで抽出し、抽出物0.15gを得た。これをメタノールに100mg/mlに溶解し、クロロホルム:メタノール=20:1の溶媒を用いシリカゲルTLCで展開し、Rf=0.21~0.30の活性バンドを得た。活性バンドをかきとり、メタノールで活性物質を溶出したところ12.9mgを得た。これをメタノールに溶解し、遠心した後、上清をHPLCにかけて、80%メタノール、3ml/min、PEGASIL ODS (10φx250mm)の条件で活性物質4.6mgを得た。この活性物質の各種機器分析を行うことで、この活性物質はファルカリンディオールと同定した。
【0042】
(2)ウドからのファルカリンディオールとデヒドロファルカリンディオールの単離精製
乾燥させたウドの葉30.51gをメタノールで抽出し、その抽出物6.03gを得た。それをメタノール50mlに溶解した後、水450mlを加えてから等量の酢酸エチルで抽出し、抽出物1.26gを得た。これをメタノールに100mg/mlに溶解し、シリカゲルカラムにてクロロホルム:メタノール=100:0 ⇒ 99:1 ⇒ 98:2 ⇒ 97:3 ⇒ 95:5 ⇒ 90:10 ⇒ 85:15の溶媒で展開し、活性部分0.58gを得た。これをメタノールに溶解し、LH-20カラム(3x30cm)によりメタノールで展開し、活性部分0.43gを得た。これをメタノールに溶解してHPLCにかけ、75%メタノール、3ml/min、PEGASIL ODS(10φx250mm)の条件で2種類の活性物質、物質A(12.2mg)と物質B(23.1mg)をオイル状で得た。物質Aと物質Bの各種機器分析を行うことで、物質Aはデヒドロファルカリンディオール、物質Bはファルカリンディオールと同定した。(M-H2O)+の高分解能のEI-MSの結果から、物質A:C17H20O(実測値:240.1515、理論値:240.1514)、物質B:C17H22O(実測値:242.1662、理論値:242.1670)が得られた。
【0043】
図3に単離精製されたファルカリンディオール10μgの3次元HPLC分析パターンを示す(カラム:CAPCELL PAK C18 UG120, 5μm(4.6φx150mm)、溶媒:80%MeOH、流速:1ml/min)。図4に単離精製されたデヒドロファルカリンディオール10μgの3次元HPLC分析パターンを示す(カラム:CAPCELL PAK C18 UG120, 5μm(4.6φx150mm)、溶媒:80% MeOH、流速:1ml/min)。図5にファルカリンディオールのUVスペクトルを示す。図6にデヒドロファルカリンディオールのUVスペクトルを示す。ファルカリンディオールとデヒドロファルカリンディオールの重クロロホルム中、400MHzでの1H NMRスペクトルをそれぞれ図7と図8に示す。ファルカリンディオールとデヒドロファルカリンディオールの重クロロホルム中、100MHzでの13C NMRスペクトルをそれぞれ図9と図10に示す。
【0044】
(3)ファルカリンディオールとデヒドロファルカリンディオールのCa2+シグナル伝達阻害作用
単離精製されたファルカリンディオールとデヒドロファルカリンディオールのそれぞれを、種々の濃度でペーパーディスクにしみ込ませ、そのCa2+シグナル伝達阻害活性を酵母の生育円の大きさで評価した。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
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【0046】
表2から明らかなように、ファルカリンディオールとデヒドロファルカリンディオールは、強力にCa2+シグナル伝達を阻害する結果、幅広い濃度範囲でFK506(0.02μg/disc)よりも大きな生育円を生じさせた。
【0047】
(4)ファルカリンディオールとデヒドロファルカリンディオールのGsk-3阻害作用
単離精製されたファルカリンディオールとデヒドロファルカリンディオールのそれぞれの10μMにおけるGsk-3βに対する阻害活性を、Leclerc S., et al., J. Biol. Chem., 276(1), 251(2001)記載の方法にて調べた。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
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【0049】
表3から明らかなように、ファルカリンディオールとデヒドロファルカリンディオールは、Ca2+シグナル伝達に機能する酵素であるGsk-3βを強力に阻害した。従って、ファルカリンディオールとデヒドロファルカリンディオールは、糖尿病、痴呆症などに対する予防薬や治療薬になり得ることが確認できた。
【0050】
製剤例1:注射剤
ファルカリンディオールまたはデヒドロファルカリンディオールのナトリウム塩1.5gを生理食塩水100mlに溶解し(合計1.5g/100ml)、バイアルに充填した後、加熱殺菌を行って、静注用注射剤を製造した。
【0051】
製剤例2:錠剤
以下の組成で各成分を混合し、打錠して、ファルカリンディオールまたはデヒドロファルカリンディオールを50mg含む500mgの錠剤400個を製造した。
ファルカリンディオールまたはデヒドロファルカリンディオール
・・・ 20g
馬鈴薯澱粉 ・・・ 6g
ステアリン酸タルク ・・・ 4g
6%HPC乳糖 ・・・ 170g
(合計200g)
【0052】
製剤例3:顆粒剤
以下の組成で各成分を混合し、圧縮成形し、粉砕し、整粒して、20~50メッシュの5%顆粒剤を製造した。
ファルカリンディオールまたはデヒドロファルカリンディオール
・・・ 10g
乳糖 ・・・ 187g
ステアリン酸マグネシウム ・・・ 3g
(合計200g)
【0053】
製剤例4:カプセル剤
以下の組成で各成分をよく混合し、混合物を1号カプセルに充填して、カプセル剤300個を製造した。
ファルカリンディオールまたはデヒドロファルカリンディオール
・・・ 5g
乳糖 ・・・ 40g
馬鈴薯澱粉 ・・・ 50g
ヒドロキシプロピルメチルセルロース ・・・ 3.5g
ステアリン酸マグネシウム ・・・ 1.5g
(合計100g)
【0054】
製剤例5:点眼剤
以下の各成分を滅菌精製水100mlに溶解し、常法により点眼剤を製造した。
ファルカリンディオールまたはデヒドロファルカリンディオール
・・・ 0.1g
塩化ナトリウム ・・・ 0.9g
塩化ベンザルコニウム ・・・ 微量
1N水酸化ナトリウム ・・・ 適量
1N塩酸 ・・・ 適量
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、過剰免疫反応をはじめとする種々の疾患の予防や改善や治療に有用な、天然物由来の新規なCa2+シグナル伝達阻害剤を提供することができる点において、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】遺伝子破壊酵母を用いたCa2+シグナル伝達阻害評価系の原理図。
【図2】遺伝子破壊酵母におけるCa2+シグナル伝達経路と期待できる活性を示す図。
【図3】実施例におけるファルカリンディオールの3次元HPLC分析パターンを示す図。
【図4】同、デヒドロファルカリンディオールの3次元HPLC分析パターンを示す図
【図5】同、ファルカリンディオールのUVスペクトルを示す図。
【図6】同、デヒドロファルカリンディオールのUVスペクトルを示す図。
【図7】同、ファルカリンディオールの1H NMRスペクトルを示す図。
【図8】同、デヒドロファルカリンディオールの1H NMRスペクトルを示す図。
【図9】同、ファルカリンディオールの13C NMRスペクトルを示す図。
【図10】同、デヒドロファルカリンディオールの13C NMRスペクトルを示す図。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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