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明細書 :熱電発電素子及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4576529号 (P4576529)
公開番号 特開2006-228991 (P2006-228991A)
登録日 平成22年9月3日(2010.9.3)
発行日 平成22年11月10日(2010.11.10)
公開日 平成18年8月31日(2006.8.31)
発明の名称または考案の名称 熱電発電素子及びその利用
国際特許分類 H01L  35/30        (2006.01)
H01L  35/22        (2006.01)
H02N  11/00        (2006.01)
FI H01L 35/30
H01L 35/22
H02N 11/00 A
請求項の数または発明の数 3
全頁数 14
出願番号 特願2005-041332 (P2005-041332)
出願日 平成17年2月17日(2005.2.17)
審査請求日 平成20年1月28日(2008.1.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】定金 正洋
【氏名】久保 純
【氏名】上田 渉
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】粟野 正明
参考文献・文献 特開2003-156461(JP,A)
特開平05-010901(JP,A)
特開平02-261079(JP,A)
特開昭63-042181(JP,A)
特開2003-206138(JP,A)
調査した分野 H01L 35/30
H01L 35/22
H02N 11/00
特許請求の範囲 【請求項1】
NaCoを含む熱電素子上に触媒部を備え
上記触媒部は、酸化反応を触媒するものであり、かつ上記熱電素子の片面に形成されていることを特徴とする熱電発電素子。
【請求項2】
上記触媒部はPt/Alを含むものであることを特徴とする請求項1に記載の熱電発電素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱電発電素子を用いることを特徴とする発電方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、温度差を利用して発電を行う熱電発電素子及びその利用に関し、特に、触媒反応により発生する反応熱による温度差を利用して発電を行う熱電発電素子及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器などの小型の電子機器の電源として利用可能な超小型のマイクロ電源が各所で研究開発されており、この種の電源として、熱電材料に温度差を与えたときに生じる熱起電力を利用して熱エネルギを電気エネルギに変換する熱電発電素子が注目されている。この種の熱電発電素子としては、燃焼熱、触媒燃焼熱、排気熱などを利用した熱源を備えたものが提案されており、触媒燃焼熱を利用した熱源を備えた熱電発電素子等は、燃料の流量調整によって容易に熱源の発熱温度を調節できるという特長や、燃料の流路を面状として燃焼熱を発電部へ効率的に熱入力できるという特長などを有している。
【0003】
従来、触媒燃焼熱を発生する熱源を備えた熱電発電装置として、例えば特許文献1に、熱電素子または複数個の熱電素子を直列に接続した面状発電ユニットが開示されている。また、例えば、特許文献2に、燃料用流路を通過する燃料を燃焼させるための触媒層が燃料用流路内に配設された燃焼器と、燃焼器を熱源として発電する発電ユニットたる熱電モジュールとを備えている熱電発電装置が記載されている。

【特許文献1】特開平9-329058号公報(公開:平成9(1997)年12月22日)
【特許文献2】特開2004-140048号公報(公開:平成16(2004)年5月13日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の熱電発電装置に用いられる熱電発電素子では、熱エネルギから電気エネルギへの変換効率が十全とはいえず、さらに発電効率を高めた熱電発電素子の開発が強く求められていた。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱エネルギから電気エネルギへの変換を効率的に行う熱電発電素子及びその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、触媒反応の反応熱により生じる温度差を利用して熱電発電を行ったところ、反応熱電発電がヒーター加熱による熱電発電よりも、発電効率が良いこと、反応熱電発電を行った後も用いた触媒の構造が、維持されていたこと、等の新事実を見出し、本願発明を完成させるに至った。本発明は、かかる新規知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
【0007】
(1)熱電素子上に触媒部を備える熱電発電素子。
【0008】
(2)上記触媒部は、酸化反応を触媒するものである(1)に記載の熱電発電素子。
【0009】
(3)上記熱電素子はNaCoを含むものであり、上記触媒部はPt/Alを含むものである(1)又は(2)に記載の熱電発電素子。
【0010】
(4)上記(1)~(3)のいずれかに記載の熱電発電素子を用いる発電方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る熱電発電素子によれば、触媒の反応熱を利用して熱電発電を行っている。このため、従来のヒータ等の発熱機器による熱電発電に比べて、格段に効率よく発電を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、熱電素子上に触媒を担持し、そこで起こる反応熱を起電力に変換する技術に関するものである。触媒反応熱を利用する利点として、反応が全て触媒表面で起きるため、反応熱は触媒表面に集中しており、熱エネルギーとして利用しやすいことが挙げられる。このため、まず触媒部を備える熱電発電素子について説明した後、その利用について説明する。
【0013】
<1.熱電発電素子>
本発明に係る熱電発電素子は、熱電素子上に触媒部を備えるものであればよく、大きさ、形状、材質等のその他の具体的な構成については特に限定されるものではない。本熱電発電素子は、熱電素子上に触媒を担持し、そこで起こる反応熱を起電力に変換するという原理に基づくものである。このため、触媒部と熱電素子上との接続形式についても、上記原理に反しない限度において、特に限定されるものではなく、従来公知の設置方式を採用することができる。例えば、後述する実施例に示すように、単純に触媒、熱電素子、及び電極等を雲母基板で挟持することにより行うことができる。これ以外にも、熱電発電が可能なあらゆる物理的接続の形式が可能であることはいうまでもない。
【0014】
ここで「熱電素子」とは、熱エネルギ(例えば、温度差)を電気エネルギに変換するものであればよく、従来公知の熱電素子を好適に用いることができ、その具体的な構成については特に限定されるものではない。例えば、後述する実施例では、上記熱電素子としてNaCoを含むものを用いている。
【0015】
また「触媒部」とは、化学反応を触媒するための部材であればよく、具体的には触媒とその他、当該触媒の機能を阻害しない多種多様な基材、添加剤等が含まれていてもよい。また、上記触媒部が反応する触媒反応の種類については、反応により熱が発生する化学反応であればよく、特に限定されるものではない。例えば、酸化反応、水和反応、水素化反応等を挙げることができる。このため、触媒部に含まれる触媒の種類も、上記反応に応じて、従来公知の触媒を好適に選択することができ、特に限定されない。また、用いる触媒の製造方法についても、触媒に応じて従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0016】
多数の触媒・反応のなかでも、特に、上記触媒部は、酸化反応を触媒するものであることが好ましい。酸化反応を触媒する触媒についても、従来公知の触媒を好適に用いることができ、その具体的な種類等については特に限定されるものではないが、特に上記触媒部は、Pt/Alを含む触媒やNaCoを含む触媒であることが好ましい。
【0017】
なお、Pt/Alを含む触媒やNaCoを含む触媒の製造方法としては、従来公知のものを好適に利用でき、特に限定されるものではなく、例えば、後述する実施例に示すような調製方法にて得ることができる。
【0018】
また、上記触媒部として、NaCoが含まれる触媒を用いる場合、NaCoが含まれる触媒において、片面にPt/Al層が形成されていることが好ましい。これは、後述する実施例に示すように、使用する触媒に対して、反応触媒と発電素子として両機能を同時に発現させるためという意である。なお、Pt/Al触媒層以外にも、かかる上記目的を達成できるものであれば種々の材料を用いることができ、例えば、Pt/Al触媒層以外の金属薄膜等を好適に用いることができる。
【0019】
本発明に係る熱電発電素子によれば、ヒータ等の発熱機器を用いる熱電発電に比べて、より少ない温度差で非常に大きな電位差を得ることができ、効率良く発電することができる。
【0020】
これは、触媒表面の温度を測定することは不可能であり、実際は測定値よりも非常に高くなっているためと考えられる。また、従来のヒータ等の発熱機器を用いる場合、熱電素子との接触面積の大きいヒータは熱を熱電素子に伝導しやすく、熱が熱電素子に拡散しやすいと考えられる。そのため、熱電素子表面が均一に温められ温度を測定しやすいと考えられる。一方、本発明のように触媒を用いる場合、触媒粒子1つ1つは熱電素子との接触面積が小さいため、熱が熱電素子に伝導しにくく、熱が熱電素子に拡散しにくいと考えられる。
【0021】
また、触媒は熱電素子表面に分散して存在しているため、熱電素子を局所的に高温にでき、発生した熱エネルギーを効率的に電気エネルギーに変換できると考えられる。以上より、触媒反応による触媒表面に生じる反応熱は、拡散しにくく小さな触媒表面に集中しているので利用しやすく熱電発電に有利と考えられる。
【0022】
<2.熱電発電素子の利用>
上述のように、本発明に係る熱電発電素子は、非常に効率よく熱電発電を行うことができる。このため、本発明の熱電発電素子を用いる発電を行うことができる。すなわち、本発明には、上記<1>欄で説明した熱電発電素子を用いる発電方法が含まれる。
【0023】
特に、上記発電方法において、本発明に係る熱電発電素子は、繰り返し使用できることが好ましい。例えば、触媒NaCoは変化しやすい性質を有するが、Pt-Alを片面に形成することにより安定性が向上し、繰り返しの使用に堪え得るようになる。
【0024】
以上のように、本発明に係る発電方法によれば、効率的に発電を行うことができる。また、触媒が破壊されない条件下で温度等の条件を設定することにより、繰り返し発電を行うことができる。
【0025】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0026】
(実施例)触媒反応熱によるNaCoの熱電発電
新しい発電システムの構築として、NaCoに注目して触媒反応によって得られる酸化反応熱を利用して熱電発電できるか検討した。触媒反応熱を利用する利点として、反応が全て触媒表面で起きるため、反応熱は触媒表面に集中しており、熱エネルギーとして利用しやすいことが考えられる。そこで、単純にヒーターを用いて試料両面間に温度差を与えた場合と触媒反応熱を与えた場合における発電量(電位差)を測定、比較した。また、触媒反応熱による熱電発電を分析するために、酸化反応測定装置を利用して、酸化反応、電位、試料温度を同時に測定できる装置を製作した。
【0027】
(1)実験
(1-1)実験試薬
使用した試薬は以下の通りである。
・CHCOONa(関東化学 特級)
・(CHCOO)Co/4HO(関東化学 鹿特級)
・COH(関東化学 一級)
・CHCOCH(関東化学 鹿一級)
・Pt-Al(DASH-220)(エヌ・イー ケムキャット)
・蒸留水(和光純薬)
(1-2)試料の調製
(1-2-I)2cm NaCoペレットの調製
CHCOONa(5.00g,60.95mmol)と(CHCOO)Co/4HO(19.0g,76.28mmol)を秤量し、500mlテフロンビーカー内で蒸留水40mlを用いて溶解した。70℃で撹拌しながら水を蒸発乾固させて、一昼夜80℃で乾燥させた。乾燥させた試料をメノウ乳鉢でよく粉砕し電気炉で空気中750℃、5h仮焼きした。仮焼き後、4.00gを秤量しメノウ乳鉢でよく粉砕し30MPa、5minでペレット(直径2cm,圧さ約3mm)に成型して電気炉で空気中790℃,3h本焼きした。その後、メノウ乳鉢でよく粉砕し、再度30MPa,5minでペレット(直径2cm,圧さ約3mm)に成型して900℃,32h焼結した。
【0028】
(1-2-II)Pt/Al-NaCoの調製
Pt/Al(0.05g)をAl乳鉢でよく粉砕し、アセトン1ml中で乳鉢を用いて分散させた。ピペッターで15μlを取り、上記(1-2-I)で調製した直径2cmのNaCoペレットの片面に滴下した。これを5回繰り返し75μlを滴下し、室温で10min乾燥させた。Ptの担持量は13.433μgだった。
【0029】
(1-3)ヒーターによる温度差熱電発電測定
測定は図1に示した装置によって行った。雲母板を直径3cmの円盤状に切り出し、中心に直径1.3cmの加熱、冷却用の穴を開けた。上記(1-2-I)より得られた直径2cmのNaCoペレット試料を雲母基板の間に挟み、ステンレス製電極(SUS-304)と熱電対(チノー社製 シート・カップル熱電対)を雲母基板と試料の間に差し込み、ねじで四点をしっかりと締めた。試料の片面にヒーターの外に突き出たステンレスパイプを接して自然放熱させ、もう片面には半田ごてを接して加熱させた。半田ごてを昇温させながら、試料表面間の温度差と電位差を測定した。測定条件は以下の通りである。
【0030】
雰囲気温度:200℃、半田ごての温度:200~300℃、雰囲気:大気下.
(1-4)エタノール酸化反応熱熱電発電測定
エタノールの酸化反応熱を利用した発電を測定するために、反応装置を利用して反応活性、試料表面の温度差及び起電位を測定できる装置を作製した。反応は図2に示した装置によって行った。反応において、19℃に保ったエタノールにNとOを送りバブリングさせた。バブリングにより19℃での飽和蒸気圧分のエタノール蒸気を含んだ反応ガスを用いた。
【0031】
反応条件及び分析に使用した機器は、下記表1の通りである。
【0032】
【表1】
JP0004576529B2_000002t.gif

【0033】
反応生成物の転化率、選択率は下記表2のように求めた。
【0034】
【表2】
JP0004576529B2_000003t.gif

【0035】
また、起電位及びペレット試料表面の温度測定は図3の装置によって行った。上記(1-3)の「温度差発電測定」同様、雲母板を直径3cmの円盤状に切り出し、中心に直径1.3cmの加熱、冷却用の穴を開けた。上記(1-2-I)より得られた、Pt/Al-NaCoペレット試料を雲母基板の間に挟み、ステンレス製電極(SUS-304)と熱電対(チノー社製 シート・カップル熱電対)を雲母基板と試料の間に差し込み、ねじで四点をしっかりと締めた。Pt/Al触媒を担持した面の逆面に、直径1.3cmの円形にカットした放熱器を銅ワイヤーで取り付けた。これらを、ガラス反応管中に入れシリコンゴムで栓をした。シリコンゴムには電極、熱電対の素線および反応ガスを流通させるためのステンレス管を通した。上記の反応条件において、熱電対をSoftware Controlled Thermal Data Acquisition System E830(TECHNOL SEVEN CO. LTD.)に接続して試料表面間の温度差を測定した。また、電極をVStation(GL Sciences Inc.)に接続して電位差を測定した。
【0036】
(1-5)XRD(粉末X線回折)
粉末X線回折装置(Rigaku RINT-Ultima+)を用いて構造解析を行った。測定条件は以下の通りである。
【0037】
線源:CuKα、波長λ=0.154056nm、管電圧:40kV、管電流:20mA、測定範囲2θ=10~80°、走査軸2θ/θ、スキャンステップ0.02°、スキャンスピード:2°/min、発散スリット1/2°、散乱スリット1/2°、受光スリット0.15mm.
(2)結果と考察
(2-1)ヒーターを用いた温度差による熱電発電
上記(1-2-I)より得られた、Pt/Al-NaCoペレットを用いて、電極、熱電対と共に2枚の雲母基板で挟んだ。雰囲気温度を200℃に保った後、測定開始から約0.8hまでは雰囲気を200℃に保ち、ペレットの片面のみに半田ごてを利用したヒーターにより、200,220,250,270,300℃にそれぞれ加熱して、試料表面間の温度差とその時の電位差を測定した。測定結果を図4に示す。横軸に測定時間を取り、左の縦軸に電位差(実線)、右の縦軸にペレット試料の面間の温度差(点線)を取った。
【0038】
試料表面間の温度差が階段状に大きくなるにしたがって、電位差も同様に階段状に大きくなっているのがわかる。また、ヒーター温度を保って温度差がほぼ一定となっている時は、電位差もほぼ一定となった。温度差が拡大している時は、それに追随するように電位差も拡大した。最初の約0.8hの雰囲気温度200℃でヒーターを加熱していない状態での温度差と電位がほぼ一定した区間では、平均で温度差は7.7℃、電位差は40μVであった。ヒーターを200℃に加熱したところ、試料の片面が温度上昇し温度差が12.5℃,125μVとなった。その後も同様に、ヒーターを220,250,270,30℃にそれぞれ加熱すると、温度差が16.4,22.2,26.3,32.4℃と上昇し、電位差は210,335,430,575μVと拡大した。したがって、調製したNaCoペレットに温度差を与える事で電位差を測定でき、発電に成功した。
【0039】
図4の結果より、所定の温度において測定した温度差の平均値とその時に発生した電位差の平均値をプロットした結果を図5に示す。試料の温度差の上昇に伴って電位差も上昇しており、温度差と電位差は直線関係を示した。これは、熱電変換材料のゼーベック係数(熱電変換効率)の単位V/Kから考えても、起電位が温度差に比例しており熱電変換材料として妥当である。ところで、プロットに対して最小二乗法で引いた近似直線が原点を通っていない。これは、試料の片面を冷却して温度差をつけやすくするためのステンレスパイプがヒーター外に出ているために、試料に温度むらが生じてしまい熱電対の温度と実際の試料の温度に差が生じてしまったと考えられる。熱電対近傍にステンレスパイプがあるため、熱電対の近傍は冷却されて温度差は7.7Kを示したが、ステンレスパイプの接していないその他の部分では両面間の温度差はほぼ0であり電位差もほとんど発生しなかったと考えられる。
【0040】
(2-2)触媒反応熱を利用した熱電発電
触媒反応熱を得る際、完全酸化反応が進行した方がより多くの生成熱を得られると考えられる。また、用いる試料がペレットであり高温焼結しているため、表面積が非常に小さい。そこで、酸化反応が進行しやすい反応物としてエタノールを選択した。エタノールをNとOでバブリングして、エタノール混合ガスを流した。NaCoに酸化触媒能があることは以前の研究で明らかにした(データ不図示)が、同時に構造が壊れてしまうため、触媒と発電素子として両機能の発現は難しい。そこで、(1-2-I)に示した方法で、NaCoペレットの片面のみにPt/Alを担持したPt/Al-NaCoペレット試料を調製し、電極、熱電対と共に2枚の雲母基板で挟んだ。雰囲気温度を200℃にして所定の流量比の混合ガスを用いて酸化反応を行い、その時の温度差、電位差、酸化反応を測定した。温度差(点線)と電位差(実線)の測定結果を図6に、酸化反応結果を図7に示す。ここで、図6において混合ガスの流量比は、COH:O:N=0:20:20,2.3:20:20,0:20:40,3.5:20:40,0:20:60,4.6:20:60ml/minの順に変化させて流し、エタノールの流通、ガス流量の影響を観測した。
【0041】
図6において、測定開始から約0.5hまではエタノールを流さずにO:N=20:20ml/minの混合ガスを流すと、温度差も電位差もほぼ一定となった。0.5 hを過ぎたところで反応ガスをCOH:O:N=2.3:20:20ml/minで流すと、温度差が0.2℃に上昇し、それに追随して電位差も120μVまで増加し一定となった。エタノールを止めて、O:N=20:40ml/minとすると、温度差、電位差共にエタノールを流す前のベースラインまで戻った。次に、エタノールをバブリングによって混合させているため全流量を増加させ、エタノールの流量を増やしてCOH:O:N=3.5:40:20ml/minで流すと、温度差0.7℃、電位差240μVとなり、エタノールの流量を増やすことで温度差と電位差が増加した。再び、エタノールを止めて、O:N=20:60ml/minとすると、再び温度差、電位差共にベースラインまで戻った。さらに全流量を増加させてエタノールの流量を増やしてCOH:O:N=4.6:60:20ml/minで流すと、温度差1.3℃、電位差440μVとなり、さらに温度差と電位差が増加した。
【0042】
図7に示した通り、反応ガスの全流速を増加させることでエタノールの流速を増加させると、反応の転化率、選択性が変化した。全流速を2倍にすると、エタノールの転化率は36から47%に上昇し、Oの転化率も10から20%に倍増した。COの選択率も29から44%に1.5倍も上昇した。その他、アセトアルデヒドの選択率は62から25%に半分以上低下し、CHの選択率は5.0から28%と大きく上昇、酢酸の選択率はほぼ4%で変化しなかった。エタノールは供給ガスの全流速を増加させてバブリングにより混合させているため、エタノールの分圧は変化しない。Oの流量は変化させていないので分圧は減少したが、エタノールに対して大過剰に流しているため反応に影響はないと考えられる。Pt触媒上に接触したエタノールは全て反応してしまうので、エタノールの供給量を増やすとそれだけ多くのエタノールが反応する。しかし、エタノールの転化率が100%に達しなかったのは、本実験で用いた触媒は粉末状に充填したものではなく直径2cmのペレット上に担持しており、Pt/Al触媒は内径3cmの反応管の断面積において約半分の面積しか占めていないことから、流通している混合ガスのうちPt触媒と接触せずに約半分の反応ガスが通過してしまったと考えられる。全流速を上げてエタノールの供給量を増やすと、酸化反応がより多く進行しPt触媒の温度もより上昇する。反応温度上昇により、エタノールの酸化脱水素で生成するアセトアルデヒドから、さらに酸化が進行してCHや完全酸化反応により生成するCOの選択率が上昇したと考えられる。
【0043】
エタノールの酸化反応において、生成物から考えて次に示す(1)COH+3O=2CO+3HO+1409.25kJ,(2)COH+1/2O=CHCHO+HO+216.89kJ,(3)COH+O=CH+CO+HO+518.85kJ,(4)COH+O=CHCOOH+HO+537.56kJの4つの熱化学方程式が考えられる。エタノール酸化反応の結果からエタノールの転化率と各生成物の選択率を用いて、各生成物の生成速度を求め、上記の熱化学方程式よりエタノールの酸化によって生成した反応熱の生成速度を計算した。反応熱の生成速度を用いて、試料の面間の温度差と電位差について酸化反応の影響を考察する。求めた反応熱の生成速度に対して、得られた試料の温度差(●)と電位差(○)をプロットし、その結果を図8に示す。反応熱の生成速度の増加によって、温度差も増加し直線的な比例関係となった。また、反応熱の生成速度の増加によって、電位差も直線的に増加した。したがって、エタノールの酸化反応熱によって試料の面間に温度差が生まれたと考えられる。さらに、反応熱によって与えられた温度差により熱電発電が起こり、電位差が生じたと考えられる。
【0044】
(2-3)2つの熱電発電の比較
(2-1)と(2-2)において測定した2つの熱電発電の結果を比較するために、図11に酸化反応条件と温度差に対する電位差をまとめて示した。また、それぞれの熱電発電において、温度差に対する電位差をプロットした結果を図9に示した。触媒反応による熱電発電の結果を●で、ヒーター加熱による熱電発電の結果を○で示す。
【0045】
触媒反応による熱電発電では、温度差が-0.4Kから1.3Kに大きくなったところ、電位差は4μVから440μVへと上昇し、温度差と電位差の関係は直線的になった。最小二乗法による近似直線を引き、その傾きを求めたところ255μV/Kであった。一方、ヒーター加熱による熱電発電では、温度差が7.7Kから32.4 Kに大きくなったところ、電位差は40μVから575μVへと上昇し、こちらの温度差と電位差の関係も直線的になった。同様に、最小二乗法により近似直線を引き、その傾きを求めたところ22μV/Kであった。以上より、2つの熱電発電の結果を比較すると、触媒反応を利用した発電の方が少ない温度差で非常に大きな電位差を得られた。同一の発電測定装置を用いて、同一の条件で、同一の試料について測定を行っているため、図9で得られた近似直線の傾きを比較することは、2つの熱電発電法における発電効率を比較することに相当する。
【0046】
したがって、触媒反応で行った熱電発電は、単にヒーターを用いて温度差を与える熱電発電よりも、約12倍も効率が良いことになる。これは、触媒表面の温度を測定することは不可能であり、実際は測定値よりも非常に高くなっているためと考えられる。しかし、単純に触媒表面の実温度が実測値より高いという理由だけではないと思われる。例えば、図9より500μVの電位差を出すためには、触媒反応で行うと約2K、ヒーター加熱で行うと約29Kの温度差が必要になる。熱電素子であるNaCoは同一のため、実際は同じ温度差が両面にかかっているはずである。
【0047】
しかし、本実験の測定では触媒反応とヒーター加熱では電位差に対する温度差が異なり、非常に大きな差が生じてしまったのは、発熱体から熱電素子への温度の伝わり方に差があったからではないかと考えられる。熱の伝導はΔQ=κAΔtΔT/a(ΔQ:移動した熱量、κ:熱伝導率、A:接触面積、Δt:経過時間、ΔT:温度差、a:熱が伝達する距離)で示される通り、接触面積に比例する。したがって、熱電素子との接触面積の大きいヒーターは熱を熱電素子に伝導しやすく、熱が熱電素子に拡散しやすいと考えられる。そのため、熱電素子表面が均一に温められ温度を測定しやすいと考えられる。一方、触媒粒子一つ一つは熱電素子との接触面積が小さいため、熱が熱電素子に伝導しにくく、熱が熱電素子に拡散しにくいと考えられる。また、触媒は熱電素子表面に分散して存在しているため、熱電素子を局所的に高温にでき、発生した熱エネルギーを効率的に電気エネルギーに変換できると考えられる。以上より、触媒反応による触媒表面に生じる反応熱は、拡散しにくく小さな触媒表面に集中しているので利用しやすく熱電発電に有利と考えられる。
【0048】
(2-4)触媒反応による熱電発電後のNaCoの構造
触媒反応による熱電発電後のNaCoペレットの両面について、XRD測定した結果を図10に示す。下から順に、(1)触媒反応熱電発電前、(2)触媒反応熱電発電後のPt/Alを担持した面、(3)触媒反応熱電発電後の放熱器を取り付けていた面のそれぞれのXRDパターンを示している。ただし、測定の際には、Pt/Alをふき取り、放熱器も取り外した。
【0049】
図10中(1)に示されたXRDパターンは、NaCoの典型的なXRDパターンを示しており、NaCoの以外のパターンは確認できなかった。触媒反応熱電発電後の図10中(2)に示された触媒担持面のXRDパターンも、NaCoの典型的なXRDパターンを示しており、NaCoの以外のパターンは確認できなかった。同様に、触媒反応熱電発電後の図10中(3)に示された放熱器設置面のXRDパターンも、NaCoのの典型的なXRDパターンを示しており、NaCo以外のパターンは確認できなかった。したがって、触媒反応熱電発電を行ってもNaCoのの構造に変化はなかった。これは、NaCoの表面上にPt/Alを担持することにより、Pt/Al上で反応が起こり、NaCoの格子酸素には影響を与えずにNaCoの構造を維持できたと考えられる。また、以前の研究から明らかなように、NaCoにおいて完全酸化反応が進行するのは250℃であり、200℃ではまだ進行しない。本実験における雰囲気温度は200℃であり、NaCoにおいて構造が変化する完全酸化反応は進行しないと考えられる。さらに、本実験では粉末ではなくペレットでNaCoを用いており、粉末と比較して非常に表面積が小さく、NaCo上ではより反応が進行しにくく構造の維持につながったと考えられる。
【0050】
(3)結論
NaCoについて、作製した熱電発電測定装置を用いて、ヒーターで温度差を与えることにより熱電発電することが確認できた。与える温度差に比例して電位差が大きくなった。
【0051】
Pt/Alを片面に担持したPt/Al-NaCo試料について、エタノールの酸化反応による生成熱で熱電発電できることを確認した。反応条件を変えることで試料表面間の温度差を調節し、その温度差と得られる電位差が比例関係になった。酸化反応熱電発電がヒーター加熱による熱電発電よりも、発電効率が良いことを確認した。酸化反応熱電発電を行った後のNaCoの構造が維持されていたことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明に係る熱電発電素子は、効率的に熱エネルギを電気エネルギに変換することができる。したがって、熱電発電装置等や携帯機器などの小型の電子機器用の電源等に利用可能であり、非常に産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施例において、温度差熱電発電測定に使用した装置の構成を模式的に示した図である。
【図2】本発明の実施例において、エタノール酸化反応を行う際に使用した装置の構成を模式的に示した図である。
【図3】本発明の実施例において、起電位及びペレット試料表面の温度測定を行う際に使用した装置の構成を模式的に示した図である。
【図4】本発明の実施例において、ヒーターを用いた温度差による熱電発電の測定結果を示す図である。
【図5】図4の結果より、所定の温度において測定した温度差の平均値とその時に発生した電位差の平均値をプロットした結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例において、触媒反応熱を利用した熱電発電を行った際の温度差(点線)と電位差(実線)の測定結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例において、触媒反応熱を利用した熱電発電を行った際の酸化反応結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例において、触媒反応熱を利用した熱電発電を行った際の反応熱の生成速度に対して、得られた試料の温度差(●)と電位差(○)をプロットした結果を示す図である。
【図9】本発明の実施例において、ヒータ熱による熱電発電と触媒反応熱による熱電発電において、温度差に対する電位差をプロットした結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例において、触媒反応による熱電発電後のNaCoペレットの両面について、XRD測定した結果を示す図である。
【図11】本発明の実施例の2つの熱電発電の結果において、酸化反応条件と温度差に対する電位差をまとめて示した図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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