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明細書 :Psf1遺伝子欠損動物およびその利用方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4590629号 (P4590629)
公開番号 特開2006-055110 (P2006-055110A)
登録日 平成22年9月24日(2010.9.24)
発行日 平成22年12月1日(2010.12.1)
公開日 平成18年3月2日(2006.3.2)
発明の名称または考案の名称 Psf1遺伝子欠損動物およびその利用方法
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI A01K 67/027 ZNA
C12N 15/00 A
C12N 5/00 102
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 17
出願番号 特願2004-242022 (P2004-242022)
出願日 平成16年8月23日(2004.8.23)
審査請求日 平成19年7月13日(2007.7.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
発明者または考案者 【氏名】高倉 伸幸
【氏名】上野 将也
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100119183、【弁理士】、【氏名又は名称】松任谷 優子
審査官 【審査官】▲高▼ 美葉子
参考文献・文献 Genes Dev.(2003),Vol.17,No.9,p.1153-1165
分配機構平成9年度(1998),p.79-80
Mol Cell Biol.(2001),Vol.21,No.14,p.4598-4603
調査した分野 A01K 67/027
C12N 5/00
C12N 15/00
G01N 33/00
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
染色体上の一方のアレルにおけるPsf1遺伝子の機能が欠損している骨髄抑制モデル非ヒト哺乳動物。
【請求項2】
Psf1遺伝子の機能が、Psf1遺伝子またはその発現制御領域上における少なくとも一部の配列の欠失、置換、および/または他の配列の挿入によって染色体上の一方のアレルで欠損している、請求項1記載の骨髄抑制モデル非ヒト哺乳動物。
【請求項3】
以下の工程で作製される、請求項1または2に記載の骨髄抑制モデル非ヒト哺乳動物:
1)Psf1遺伝子またはその発現制御領域上における少なくとも一部の配列の欠失、置換、および/または他の配列の挿入を目的としたターゲッティングベクターを作製する;
2)上記ベクターをES細胞に導入し、該ベクターで相同組換えされたES細胞を得る;
3)上記組換えES細胞を初期胚に導入し、発生させてキメラ動物を得る;
4)上記キメラ動物を野生型動物と交配して得られるF1ヘテロ接合体動物同士を交配し、得られるF2動物またはその子孫から染色体上の一方のアレルにおけるPsf1遺伝子の機能が欠損している動物を得る。
【請求項4】
非ヒト哺乳動物がマウスである、請求項1~3のいずれか一項に記載の骨髄抑制モデル非ヒト哺乳動物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の骨髄抑制モデル非ヒト哺乳動物に、骨髄抑制剤を投与し、該動物の骨髄から造血幹細胞を取得する方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の骨髄抑制モデル非ヒト哺乳動物に被験物質を投与し、該動物における骨髄機能を改善する該被験物質の効果を評価することを含む、骨髄機能改善剤のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、Psf1遺伝子の機能が欠損した非ヒト哺乳動物とその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真核細胞におけるDNA複製の開始は、複製開始点への種々のタンパク質の作用によって制御されている。M期後期、複製開始点には6種のタンパク質(Orc1-6)が結合しているが、ここにCdc6とMcm複合体が結合して複製前複合体を形成し、さらにCdc6のリン酸化と分解を経て細胞はG1期からS期に移行する。そして、この複製前複合体にCdc7/Dbf4複合体が結合し、続くCdc45の結合がシグナルとなって、DNAポリメラーゼが動員され、DNA複製が開始される。
【0003】
Dpb11はDNAポリメラーゼεの補助因子として、複製開始機構(特にS期のチェックポイント)に関与するタンパクである。出芽酵母を用いた研究で、Dpb11と相互作用する因子として、Sld1/Dpb3、Sld2、Sld3、Sld4/ Cdc45、Sld5、Sld6/Rad53等が同定されており、さらにSld3-Cdc45複合体とDpb11との結合がDNAポリメラーゼの動員に不可欠であることが報告されている(非特許文献1参照)。
【0004】
Psf1は、Dpb11に関する研究で、Sld5に結合する因子(Partner of Sld Five)として見出された遺伝子である。Arakiらは、Sld5、Psf1、Psf2、Psf3からなる複合体が出芽酵母におけるDNA複製に不可欠であることを報告している(非特許文献2および3参照)。
【0005】
一方、Psf1は、ヒト、マウス等の哺乳動物にも広くそのオーソログの存在が確認されている。しかしながら、それらは単に配列の相同性から酵母Psf1のオーソログとして同定されただけで、当該哺乳動物における機能は全く解明されていない。そればかりか、酵母においても、Psf1の詳細な機能はほとんど解明されていない。
【0006】

【非特許文献1】Kamimura, Y., et al., EMBO J., 2001, 20(8), p2097-2107
【非特許文献2】Kubota, Y. et al., Genes & Development 2003, 17, p1141-1152
【非特許文献3】Takayama, Y. et al., Genes & Development 2003, 17, p1153-1165
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、Psf1の個体レベルでの機能を解明し、Psf1が関与する種々の病態を解明するとともに、Psfを利用した新たな研究ツールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、Psf1の個体レベルでの機能を解明する目的で、Psf1遺伝子欠損マウスを樹立した。そして、このマウスを解析した結果、Psf1遺伝子はホモで欠損すると致死的であるが、ヘテロで欠損した場合は、骨髄抑制疾患に良く似た重篤な骨髄抑制がみられることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、染色体上のPsf1遺伝子の機能が欠損している非ヒト哺乳動物(Psf1遺伝子欠損動物)に関する。
【0010】
前記動物において、Psf1遺伝子の機能は、Psf1遺伝子またはその発現制御領域上における少なくとも一部の配列の欠失、置換、および/または他の配列の挿入によって欠損させることができる。
【0011】
本発明のPsf1遺伝子欠損動物は、例えば、以下の工程で作製される。
1)Psf1遺伝子またはその発現制御領域上における少なくとも一部の配列の欠失、置換、および/または他の配列の挿入を目的としたターゲッティングベクターを作製する;
2)上記ベクターをES細胞に導入し、該ベクターで相同組換えされたES細胞を得る;
3)上記組換えES細胞を初期胚に導入し、発生させてキメラ動物を得る;
4)上記キメラ動物を野生型動物と交配して得られるF1ヘテロ接合体動物同士を交配し、得られるF2動物またはその子孫から染色体上のPsf1遺伝子の機能が欠損している動物を得る。
【0012】
本発明のPsf1遺伝子欠損動物としては、特にマウスが好ましい。
本発明のPsf1遺伝子欠損動物は、Psf1遺伝子の機能研究はもとより、骨髄抑制疾患のモデル動物としても好適に利用することができる。そのような骨髄抑制疾患としては、例えば、再生不良性貧血、抗がん剤投与、放射線被爆(照射)による遷延性の骨髄機能抑制症、自己免疫疾患に伴う骨髄抑制、種々の細菌、ウイルス感染による骨髄抑制、医薬品による副作用としての骨髄抑制、原因不明の骨髄抑制等を挙げることができる。
【0013】
本発明のPsf1遺伝子動物は骨髄機能が抑制されているため、簡単に造血幹細胞を取得することができる。取得された造血幹細胞は、種々の研究、スクリーニング系に有用である。
【0014】
本発明はまた、本発明のPsf1遺伝子欠損動物を利用した骨髄抑制疾患治療薬のスクリーニング方法を提供する。該方法は、被験物質の投与条件下と非投与条件下における動物の表現上の相違を指標として、該被験物質の骨髄抑制疾患治療薬としての効果を評価することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、Psf1遺伝子の機能が欠損した動物が提供される。このPsf1遺伝子欠損動物は骨髄機能抑制に起因する種々の症状を呈し、特に5-FU等の投与によって抗ガン剤投与後の重篤な骨髄抑制症状に良く似た症状を呈する。したがってかかる疾患の病態解明や薬剤開発、薬剤スクリーニングに有用である。また、本発明のPsf1遺伝子欠損動物を利用すれば、容易に造血幹細胞を調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
1.Psf1遺伝子欠損動物
本発明は、染色体上のPsf1遺伝子の機能が欠損している非ヒト哺乳動物に関する。
本発明にかかる「Psf1遺伝子」とは、出芽酵母Dpb11に関する研究で、SLD5に結合する因子(Partner of Sld Five)として見出された遺伝子である。Sld5、Psf1、Psf2、Psf3で形成される複合体は出芽酵母においてDNA複製に不可欠であることが報告されているが、その詳細な機能はわかっていない。
【0018】
Psf1遺伝子は、酵母のみならず、マウス、ヒト等の哺乳動物にもそのオーソログの存在が報告されている。例えば、ヒトのPsf1ホモログは、かずさDNAバンクにKIAA0186として登録されている。
【0019】
マウスPsf1遺伝子は、GenBank Accession No.AK013116(hypotehtical protein KIAA0186 homologue)として登録されているものがあるが、この配列は発明者らが単離、同定したマウスPsf1のCDSと完全に一致した。マウスPsf1のゲノム遺伝子は、7つのエクソンと6つのイントロンを含み、全長196aaのアミノ酸からなるPsf1タンパクをコードする(配列番号1に本発明者が同定したPsf1のCDS(配列番号2はそのアミノ酸配列)を示す)。
【0020】
公共データベースにその配列が登録されていない動物であっても、常法により、既知のPsf1遺伝子との相同性からそのPsf1遺伝子をクローニングし、配列を決定することができる。すなわち、当該動物のゲノムDNAライブラリーを作製し、遺伝的に最も近い種に由来する既知のPsf1遺伝子、またはその一部をプローブとして該ライブラリーをスクリーニングすれば、目的とするPsf1遺伝子を同定し、配列を決定すればよい。
【0021】
本発明にかかる「Psf1遺伝子」には、上記のようなPsf1遺伝子の全てのオーソログを含み、またゲノムDNAのみならず、mRNA、cDNAも含むものとする。
【0022】
本発明において、「Psf1遺伝子の機能が欠損している」とは、染色体上のPsf1遺伝子が破壊され、その機能が正常に発現されないことを意味する。すなわち、Psf1遺伝子産物が全く発現されない場合だけでなく、当該遺伝子産物が発現されてもPsf1として正常な機能を有しなければ、「Psf1遺伝子の機能が欠損している」ことになる。こうしたPsf1遺伝子の破壊は、Psf1遺伝子上、またはその転写調節領域やプロモーター領域を含む発現制御領域上の部分配列の欠失、置換、および/または他の配列の挿入等の改変によって生じさせることができる。
【0023】
なお、前記欠失、置換、または挿入を行う部位や、欠失、置換、または挿入される配列は、Psf1遺伝子の正常な機能が欠損しうる限り、特に限定されない。Psf1ゲノム遺伝子は長大であるため、そのコーディング領域の相当部分を欠失あるいは置換するような変異は、確実にPsf1遺伝子の機能を損なわせることができる。このPsf1遺伝子の機能を欠損させる手法については次項で詳細に説明する。
【0024】
本発明の非ヒト哺乳動物は、前記Psf1遺伝子機能の欠損を染色体上の一方のアレル(ヘテロ)に有する。両アレル(ホモ)でのPsf1遺伝子機能の欠損は動物にとって致死的だからである。
【0025】
また、本発明にかかる「非ヒト哺乳動物」は、ヒト以外の哺乳動物であれば特に限定されないが、マウス、ラット、ウサギ等の齧歯動物が好ましく、特にES細胞が確立し、遺伝子組換えが容易に実施できるマウスが最も好ましい。
【0026】
2.Psf1遺伝子欠損動物の作製方法
本発明のPsf1遺伝子欠損動物は、ジーンターゲッティング、Cre-loxPシステム、体細胞クローン等の技術を利用することにより作製することができる。
【0027】
2.1 ジーンターゲッティング
ジーンターゲッティングは、相同組換えを利用して染色体上の特定遺伝子に変異を導入する手法である(Capeccchi, M.R. Science, 244, 1288-1292, 1989, Thomas, K.R. & Cpeccchi, M.R. Cell, 44, 419-428, 1986)。
【0028】
1)ターゲティングベクターの構築
まず、Psf1遺伝子を欠損させるためのターゲッティングベクターを構築する。ターゲッティングベクターの構築に先立って、使用する動物のゲノムDNAライブラリーを調製する。このゲノムDNAライブラリーは、多型等による組換え頻度の低下が起こらないよう、使用する動物のES細胞、または当該細胞が由来する系統のゲノムDNAから作製したライブラリーを用いる必要がある。そのようなライブラリーとしては市販のもの(例えば、Stratagene社製 129Sv/Jゲノムライブラリー等)を用いてもよい。ゲノムライブラリーは、標的とするPsf1 cDNAまたはその部分配列をプローブとしてスクリーニングを行い、Psf1ゲノムDNAをクローニングする。
【0029】
クローニングされたゲノムDNAはシークエンシング、サザンブロッティング、制限酵素消化等を行うことにより、各エクソンの位置を明示した制限酵素地図を作成し、変異導入部位等を決定する。また、ターゲッティングベクターに使用する相同領域の外側には相同組換え体をスクリーニングするためのプローブ(external probe)を設定する。
【0030】
本発明において、染色体上に導入する変異(欠失、置換、または挿入)はPsf1遺伝子の正常な機能が損なわれる限り特に限定されない。例えば、欠失または置換される配列は、Psf1遺伝子のイントロン領域であってもエクソン領域であっても、あるいはPsf1遺伝子の発現制御領域であってもよい。特に、Psf1遺伝子のエクソン領域の相当部分を欠失、置換させるような変異であれば、確実にPsf1遺伝子の機能を欠損させることができる。また、挿入される他の配列も特に限定されないが、以下のような各マーカー遺伝子配列が好適に用いられる。
【0031】
ターゲッティングベクターは、変異導入部位の3’および5’側の相同領域とともに、組み換え体を選択するための適当な選択マーカーを含む。該マーカーとしては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子(pGKneo、pMC1neo等)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子等のポジティブセレクションマーカー、LacZやβラクタマーゼ遺伝子等の破壊対象遺伝子の発現レポーター、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV-TK)、ジフテリア毒素Aフラグメント(DT-A)等のネガティブセレクションマーカー等が挙げられるが、これらに限定されない。また、ベクターは相同領域の外側に、ベクターを直鎖化するための適当な制限酵素切断部位を含む。
【0032】
図5にマウスPsf1遺伝子欠損用のターゲッティングベクターの一例を示す。このコンストラクトは、Psf1遺伝子のイントロン4とイントロン5の遺伝子配列には変異を加えずに、Psf1遺伝子のエクソン5(マウスPsf1遺伝子のコーディング領域の約20%に相当する)のほぼ全ての配列がレポーター遺伝子としてのLacZ遺伝子とポジティブセレクションマーカーとしてのネオマイシン耐性遺伝子に置換されるように構築されている。また、ネガティブセレクションマーカーとしてジフテリア毒素Aフラグメント(DT)が挿入されている。
【0033】
こうしたターゲッティングベクターの構築は、市販のプラスミドベクター(例えば、pBluescriptII (Stratagene製)等)を利用して好適に行うことができる。
【0034】
2)ES細胞へのターゲッティングベクターの導入
次に、構築されたターゲティングベクターを胚性幹細胞(ES細胞)等の全能性を有する細胞に導入する。ES細胞は、マウス、ハムスター、ブタ等では細胞株が樹立されており、特にマウスでは、129系マウス由来のK14株、E14株、D3株、AB-1株、J1株や、R1株、TT2株等、複数の細胞株が入手可能である。また、マウスではES細胞に代えて胚性ガン腫細胞(EC細胞)を利用することもできる。
【0035】
ES細胞は、ターゲッティングベクターの導入に先立って、適当な培地で培養しておく。例えば、マウスES細胞であれば、マウス繊維芽細胞等をフィーダー細胞として、これにES細胞用の液体培地(例えば、GIBCO製)を加えて共培養する。
【0036】
ES細胞へのターゲッティングベクターの導入は、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リン酸カルシウム法等、公知の遺伝子導入法により実施することができる。ターゲッティングベクターが導入されたES細胞は、ベクター中に挿入されたマーカーにより容易に選択することができる。例えば、ネオマイシン耐性遺伝子をマーカーとして導入した細胞であれば、G418を加えたES細胞用培地で培養することにより、一次セレクションを行うことができる。
【0037】
ターゲッティングベクターが導入されたES細胞では、相同組換えによって、染色体上のPsf1遺伝子の一部が該ベクターで置換され、内因性のPsf1遺伝子が破壊される。所望の相同組換えがなされたか否かは、サザンブロティングやPCR法等を利用したジェノタイプ解析によって判定できる。サザンブロッティングによるジェノタイプ解析は、変異導入部位の外側に設定したプローブ(external probe)を用いて行うことができる。PCR法によるジェノタイプ解析は、それぞれ野性型と変異型Psf1遺伝子の特異的増幅産物を検出することにより実施できる。こうしてターゲッティングベクターが適切に導入されたES細胞は、さらに次の段階に備えて培養しておく。
【0038】
3)キメラ動物の作製
ターゲッティングベクターが導入されたES細胞(組換えES細胞)は、ES細胞が由来する系統とはコートカラーが明らかな相違を有する別な系統由来の初期胚に導入し、キメラ動物として発生させる。例えば、マウスであれば、アグーチ色の毛色を有する129系由来のES細胞に対しては、黒色の毛色を有し、マーカーとして利用できる各種遺伝子座が129系マウスとは異なっているC57BL/6マウス等の初期胚を用いることが望ましい。これにより、キメラマウスはその毛色によって、キメラ率を判断することができる。
【0039】
ES細胞の初期胚への導入は、マイクロインジェクション法(Hogan, B. et al. ”Manipulating the Mouse Embryo” Cold Spring Habor Laboratory Press, 1988)や、アグリゲーション法(Andra, N. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 8424-8428, 1993, Stephen, A.W. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 4582-4585, 1993)等により行うことができる。
【0040】
マイクロインジェクション法は、ES細胞を8細胞期胚~胚盤胞(ブラストシスト)に直接注入する方法である。すなわち、動物より採取した胚に、マイクロマニピュレーター等を用いて組換えES細胞を顕微鏡下で直接注入してキメラ胚を作製する。このキメラ胚を、仮親(偽妊娠動物)の子宮に移植し、発生させれば、所望のキメラ動物を得ることができる。
【0041】
一方、アグリゲーション法では、透明帯を除去した1~2個の8細胞期胚とES細胞を共培養し、凝集させてキメラ胚を得る。このキメラ胚を、仮親(偽妊娠動物)の子宮に移植し、発生させれば、キメラ動物を得ることができる。
【0042】
4)Psf1遺伝子欠損動物の作製
仮親から得られたキメラ動物は、さらに同系の野性型動物と交配する。得られる動物の約半分は、Psf1遺伝子欠失染色体をヘテロで有するはずである。各個体のジェノタイプは、毛色等の外見上の特徴で一時判定できるほか、前述したサザンブロッティングやPCR法を利用したジェノタイプ解析によって決定することができる。こうして、ヘテロ型のPsf1遺伝子欠損動物が同定されたら、このヘテロ型のPsf1遺伝子欠損動物同士を交配して、Psf1遺伝子の欠損をホモで有する動物を得ることができる。
【0043】
上記のようにして作製されたPsf1遺伝子欠損動物の子孫も、染色体上のPsf1遺伝子の機能が欠損している限り、本発明のPsf1遺伝子欠損動物に含まれる。
【0044】
2.2 Cre-loxPシステムの利用
ジーンターゲッティングにバクテリオファージP1由来のCre-loxPシステムを利用して、部位特異的、時期特異的に標的遺伝子を欠損させる方法(Kuhn R. et al., Science, 269, 1427-1429, 1995)もある。loxP(locus of X-ing-over)配列は34塩基対からなるDNA配列でCre(Causes recombination)組換え酵素の認識配列である。遺伝子上の2つのloxP配列はCre蛋白の存在下で特異的組換えを起こす。すなわち、欠損させたい標的遺伝子をloxPで挟んだものに置換し、さらにCre発現ベクターを組み込めば、部位特異的・時期特異的なCre蛋白の産生により、loxPで挟まれた標的遺伝子を欠失させることができる。
【0045】
例えば、前項2.1の1)に準じて欠損させるPsf1遺伝子領域の5’側にloxP遺伝子を3’側にloxP遺伝子で挟んだマーカー遺伝子(ネオマイシン耐性遺伝子等)を組み込んだターゲッティングベクターを作製し、ES細胞に導入する。ES細胞はマーカーによる選択の後、サザンブロッティングあるいはPCR法によるジェノタイプ解析を行って相同組換えを確認する。この相同組換えES細胞に、さらにCre蛋白を特異的プロモーターに連結したCre発現ベクターを導入する。得られたES細胞から、loxP組換えによってマーカー遺伝子のみが欠失し、Psf1遺伝子領域は欠失していないES細胞クローンを同定する。このES細胞を前項2.2の3)および4)に準じて動物に導入し、Cre-loxP組換え動物を得る。
【0046】
あるいは、Psf1遺伝子両端にloxP遺伝子を組み込んだターゲッティングベクターを導入したloxP導入組換え動物と、Cre発現ベクターを導入したCre発現組換え動物を別個に作製し、両者を交配することによって、Cre-loxP組換え動物を作製してもよい。
【0047】
こうして得られたCre-loxP組換え動物は、Cre蛋白の発現に応じて、部位特異的、時期特異的にPsf1遺伝子を欠損しうる。したがって、特定時期、特定部位におけるPsf1遺伝子の機能解析に極めて有用である。
【0048】
2.3 体細胞クローン
ES細胞が利用できない動物の場合、体細胞クローン(I. Wilmut et al, Nature, Vol.385, 810-813, 1997、A. E. Schnieke et al, Science, Vol.278, 2130-2133, 1997)を利用してPsf1遺伝子欠損動物を作製することも可能である。体細胞クローンとは、体細胞から取り出した核を、脱核した未受精卵に移植してクローン胚を作製し、このクローン胚を仮親の子宮に移植して発生させたクローンである。この体細胞クローンに遺伝子導入技術を組み合わせれば、所望の組換え動物クローンを得ることができる。すなわち、予めPsf1遺伝子を欠損させる組換え操作を行った体細胞から核を取り出し、これを脱核した未受精卵に移植して、クローン胚を作製する。このクローン胚を仮親(偽妊娠動物)の子宮に移植して、体細胞クローン動物を得れば、この動物はPsf1遺伝子の欠損を有することになる。
【0049】
3.Psf1遺伝子欠損動物の表現型
本発明のPsf1遺伝子欠損動物において、同腹の野生型動物とは異なる表現型が現れた場合、それはPsf1遺伝子の欠損に起因することが予測される。例えば、Psf1遺伝子欠損マウスでは、以下に代表される変化が認められた。
1)ホモ欠損による着床後の早期致死
2)ヘテロ欠損マウスにみられる骨髄抑制(少量の5-FU投与で骨髄機能抑制で致死となる)
【0050】
4. Psf1遺伝子欠損動物の利用方法
(1)骨髄抑制モデル動物
従来より造血幹細胞移植には致死量放射線照射し骨髄機能を抑制する手段が一般的に使われてきたが、本発明のPsf1遺伝子欠損マウスでは少量の5-FU投与で骨髄機能抑制により致死となるため、放射線照射をしなくても造血機能を観察する実験系に使用することができる。
【0051】
白血病や抗ガン剤投与後、骨髄抑制が回復せず死亡する症例がある。Psf1遺伝子欠損マウスに5-FU投与した後の状況はこうした症例に類似していることから、本発明のPsf1遺伝子欠損動物をこのような重度骨髄抑制モデルとして使用することができる。当該モデル動物は、骨髄抑制を回復させる薬剤(骨髄機能改善剤)の開発やこうした薬剤のスクリーニングに使用できる。
【0052】
例えば、被験物質の投与条件下と非投与条件下でPsf1遺伝子欠損動物を飼育し、該被験物質の投与条件下と非投与条件下での骨髄機能の変化を骨髄MNC(単核球)等を指標として比較評価する。あるいは、被験物質を5-FU等の抗がん剤と同時投与して、動物の生存率や骨髄機能の変化を、同様に被験物質の投与条件下と非投与条件下で比較評価することにより、被験物質の骨髄機能改善剤としての効果を評価することができる。
【0053】
(2) 造血幹細胞の調整
本発明のPsf1欠損マウスに5-FUを投与すると、相対的に造血幹細胞が骨髄中に増加するため、細胞をソートすることなく簡単に造血幹細胞が高頻度に含まれる細胞集団を得ることができる。得られる造血幹細胞は、種々の実験や薬剤スクリーニングに有用である。
【0054】
(3) 幹細胞の試験管内増殖
Psf1遺伝子はいわゆる幹細胞レベルの細胞に広く発現しており、様々な幹細胞のDNA複製を制御していると予測される。したがって、Psf1遺伝子の制御(Psf1遺伝子の強制的高発現など)により、幹細胞の自己複製/増殖を誘導できる可能性がある。すなわち、Psf1遺伝子は、造血幹細胞をはじめ種々の幹細胞の試験管内増幅技術にも応用できる。特に、近年、がんはがん幹細胞による幹細胞システムの異常によると考えられているが、Psf1遺伝子の機能抑制によって、がん幹細胞の細胞死誘導法も開発することができる。
【0055】
(4) その他
本発明のPsf1遺伝子欠損動物は、個体レベルでのPsf1の機能や作用メカニズムの解明に有用である。こうした個体レベルでの機能解明には、恒常的なPsf1の発現抑制に加えて、前述したCre-loxPシステム等を利用した、部位特異的、時期特異的Psf1の発現抑制が有用である。
【0056】
Psf1遺伝子欠損胚はCdc45欠損胚と良く似た表現上の変化を示した。Cdc45はDNA複製の開始に不可欠なタンパクであり、Psf1も同様の機能を有することが示唆される。したがって、Psf1タンパクやPsf1遺伝子は、骨髄機能抑制やそれに伴う疾患の治療はもちろん、DNA複製の異常やそれに伴う疾患の病態解明や治療にも利用可能と考えられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0058】
〔実施例1〕 Psf1の発現解析
1.試験方法
(1)RT-PCR法によるマウスPsf1の発現解析
マウスの種々の組織(脳、心臓、肺、胸腺、肝臓、脾臓、骨髄、精巣、卵巣)から全RNAを抽出し、SuperscriptII逆転写酵素とoligo d(T) (共にInvitrogen製)を用いてcDNAを合成した。このcDNAを鋳型にしてExTaq DNAポリメラーゼ(TaKaRa製)を用いてPCRを行った。GAPDHの増幅には5’-acc aca gtc cat gcc atc ac-3’(配列番号3)と5’-tcc acc acc ctg ttg ctg ta-3’(配列番号4)を、Psf1の増幅には5’-tta aga aat aga cgc tgc acg a-3’ (配列番号5)と5’-tgc cat cat caa ctt caa att c-3’ (配列番号6)をプライマーに用いた。
【0059】
同様に、骨髄細胞を表面マーカによりFACS(ベクトン製)を用いて純化し同様にRT-PCRを行った。分化抗原(Lin)にはMac-1、Gr-1、Ter119、B220、CD4、CD8を選んだ。分化抗原およびSca-1とc-kitに対する特異抗体はすべてPharmingen製のものを用いた。また、白血病細胞株(BaF3)およびメラノーマ細胞株(B16)についても同様にRT-PCR法でPsf1の発現を解析した。。
【0060】
(2)免疫染色法によるPsf1の胎児組織内局在の解析
胎生11日のマウスのパラフィン包埋切片を作成し、抗Psf1抗体を用いて免疫染色法を行った。図3(A)の実験には2次抗体にビオチンで標識された抗ウサギIgG抗体を、3次試薬にABC-HRP複合体(Dako製)を用いた。発色にはDAB (Sigma製)を用いた。図3(B)ではCy3で標識された抗ウサギIgG抗体を2次抗体に用いた。
【0061】
(3)Psf1の細胞内局在(細胞周期との関係)
NIH3T3細胞について図3(B)と同様に蛍光免疫染色を行った。染色体DNAはDAPI(ナカライ製)を用いて染色した。
【0062】
2.試験結果
(1)マウスPsf1の発現解析結果
図2にマウスPsf1の発現解析結果を示す。マウスの成体組織ではPsf1転写産物は骨髄、胸腺、精巣、卵巣で確認された。骨髄細胞では分化・成熟した細胞群(Lin+)ではPsf1の発現は検出されなかったが、未分化な細胞群(Lin+KIT+、Lin-KIT+Sca-1-、Lin-KIT+SCA-1+)のうち特にLin+KIT+おおびLin-KIT+Sca-1-の細胞群でPsf1の高い発現を検出した。一方、腫瘍細胞株では恒常的にPsf1の発現が検出された。
【0063】
(2)マウスPsf1の組織内局在
図3にPsf1の胎児組織内局在を示す。胎児組織では間葉系細胞、AER領域、心臓、背側大動脈に特異的にPsf1が発現していた。
【0064】
(3)マウスPsf1の細胞内局在(細胞周期との関係)
図4にNIH3T3細胞におけるPsf1の細胞内局在を示す。Psf1の細胞内局在は細胞周期に依存して変化していた。すなわちPsf1は、間期では細胞核に局在し、M期では細胞質に局在していた。
【0065】
〔実施例2〕Psf1遺伝子欠損マウスの作製
1.試験方法
(1)Psf1遺伝子欠損マウスの作製
ジーンターゲッティングにより、以下のようにしてPsf1遺伝子欠損マウスを作製した。まず、129SV/Jマウスのゲノムライブラリー(Stratagene製)を、前述のmouse Psf1 cDNA配列(配列番号1)をプローブとしてスクリーニングを行い、マウスPsf1ゲノムクローンを複数個同定した。得られたクローンよりDNAを抽出し、pBluescriptII(Stratagene製)にサブクローニングした。配列決定、制限酵素消化、サザンブロット法等を行いPsf1遺伝子の制限酵素マップを作製した。得られたPsf1のゲノム断片を用いて以下のようにターゲッティングベクターを作製した。LacZ遺伝子(レポーター;pCMVb(Stratagene製)に由来)とpGKneo(ポジティブセレクションマーカー;金沢大、浅野雅秀より分与)をつないだLacZ-Neoカセットに、得られたゲノム断片を鋳型にてPCR法で増幅したShort Arm(イントロン5の5’末端領域)およびLA2(イントロン4の3’末端領域)をそれぞれ3’、5’側つないだ。さらにLA2の5’側にイントロン4の一部配列とネガティブセレクションマーカーとしてジフテリア毒素フラグメントA遺伝子(DT)を組換えた。このターゲティングベクターによりエクソン5のほぼ全てがLacZ-Neoカセットに置き換わり全長の約20%のアミノ酸が欠失することになる(図5)。
【0066】
このターゲティングベクターにより、GenBank Accession No. AL808125に示されるマウスPsf1ゲノムDNAの塩基配列中、92781-92897番目の塩基配列(エキソン5)が欠失し、該遺伝子がコードする全長196 アミノ酸のうち、39個のアミノ酸が欠失することになる。
【0067】
調製したターゲッティングコンストラクトはエレクトロポレーションにより129系マウス由来のES細胞(E14.1;金沢大、浅野より分与)に導入し、マウス繊維芽細胞をフィーダー細胞とするG418を含むES細胞用培地(GIBCO製)で選抜した。選抜されたES細胞は、さらに培養した後、相同組換え体を同定するために、常法に従ってDNA抽出を行った。抽出されたDNAは、前述のサザンブロット解析によりGenotypeスクリーニングを行った。サザンブロット解析は、DNAをEcoRIで消化後、標識したexternal probe(3’ probe)を用いて行った。このexternal probeには、ターゲッティングベクターに用いる相同領域の外側に位置するエキソン7を用いた。サザン解析により、野性型アレルからは約7.5kb、変異アレルからは約12.3kbのバンドが検出された(図6A)。
【0068】
相同組換えが確認されたES細胞は、常法に従いC57B6/Jマウスから摘出した8細胞期胚と凝集させてキメラ胚を作製した。キメラ胚は、仮親である偽妊娠ICRマウスの子宮角に移植してキメラマウスを樹立した。次いで、得られたキメラマウスの雄をさらに別の野性型C57B6/Jマウスの雌と交配してF1マウスを得た。
【0069】
さらに、F1マウスからPsf1遺伝子欠損を有するマウス(Psf1遺伝子欠損をヘテロで有する:ヘテロマウス)を選別し、このヘテロマウス同士をさらに交配した。
【0070】
マウスのGenotypingは、マウス尾部より常法に従って抽出したDNAを用いて、PCR法により行った。PCR条件、および用いたプライマーは以下のとおりである。
野生型アリル:
Forward primer: 5’-ggaattcggccccccaaaagcctatatat-3’ (配列番号7)
ReversPsf1imer: 5’-catcccagatcgttcttgttaacc-3’ (配列番号8)
変異アリル:
Forward primer: 5’-ccgaacgcgtataacttcgtatagc-3’ (配列番号9)
ReversPsf1imer: 5’-catcccagatcgttcttgttaacc-3’ (配列番号10)
表1にジェノタイピングの結果を示す。
【0071】
【表1】
JP0004590629B2_000002t.gif

【0072】
表1より明らかなように、Psf1遺伝子をホモで欠損した胚は着床後の早期致死である(ND; not determine(形態学的所見により判定)、NA; not available)。
【0073】
図6B(表中E6.5)にPsf1遺伝子ホモ欠損(-/-)胚と野生型の胚の組織切片を示す。ホモ欠損(-/-)胚は明らかに異常な形態を示した。
【0074】
〔実施例3〕 Psf1遺伝子ホモ欠損(-/-)胚とヘテロ欠損(+/-)胚の比較
・ 試験方法
(1)ブラストシストの試験管内培養(図7)
妊娠3.5日目に子宮を還流しブラストシストを採取する。これを0.1%ゼラチンでコートしたプラスチック皿上にES培地中で6日間培養した。BrdU(5-bromo-2'deoxy-Uridine)(Sigma製)の取込み実験では培地中に最終濃度が10mMになるようにBrdUを添加し12時間培養した。取り込まれたBrdUの検出は抗BrdU抗体(Zymed製)を用いた。
【0075】
2. 試験結果
野生型のあるいはPsf1遺伝子のヘテロ欠損体のブラストシストを培養するとICM (inner cell mass)が盛んに分裂し、トロフォブラスが培養皿の表面に接着して増殖するが、Psf1遺伝子のホモ欠損体のブラストシストではICMの盛んな細胞分裂が見られなかった(図7)。さらにICMのBrdUの取込みもほとんど検出されなかった(図8)。このことからPsf1は初期胚の細胞分裂に必須である事が解った。
【0076】
〔実施例4〕 Psf1遺伝子欠損(+/-)マウスと野生型マウスの比較
1. 試験方法
実施例2で作製したPsf1遺伝子欠損(+/-)マウスと野性型マウス(6週齢、各N=5)に、150mg/kgの5-FU(Sigma製)を静脈投与し、その影響を比較した。結果を図9(A:生存、B:血中MNC、C:骨髄MNC)および図10に示す。
【0077】
2. 試験結果
(1)生存率
野生型マウスはすべて生存していたが、Psf1遺伝子欠損マウスは1週間以内に全て死んだ。野生型マウスは、350mg/kg(LD50に対応する)の5-FUを投与した場合でも、半数が生存していた。
【0078】
(2)血中MNCおよび骨髄MNC
両マウスで血中MNC変化に大きな違いは認められなかったが、骨髄MNCについては、野生型マウスでは回復がみられたのに対し、Psf1遺伝子欠損マウスでは全く回復がみられなかった。
【0079】
(3)骨髄細胞の解析
Psf1遺伝子欠損(+/-)マウスと野性型マウスの全骨髄細胞の形態をFACSで解析した。Psf1遺伝子へテロ欠損マウスでは5-FU投与後にFSCが高い細胞集団(リンパ球、単球、顆粒球などの白血球)の増加が殆ど見られなかった。野生型の場合はLin(Mac-1を除く)-Sca-1+KIT+の造血幹細胞は5-FU処理後はMac-1を中程度発現するようになるが、Psf1遺伝子へテロ欠損マウスではMac-1を発現する分裂中の幹細胞の出現がほとんど見られなかった。5-FU投与後5日に幹細胞集団(Lin(Mac-1を除く)-Sca-1+KIT+)のDNA含有率を解析するとPsf1遺伝子へテロ欠損マウスでは大部分の細胞でDNA合成が行われておらずG1期に留まっていることが解った。
【0080】
以上のとおり、Psf1遺伝子へテロ欠損マウスでは、骨髄機能不全に起因すると思われる種々の表現型の変化が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のPsf1遺伝子欠損動物は、骨髄機能抑制に起因する種々の症状を呈し、特に5-FU等の投与によって白血病や抗ガン剤投与後の重篤な骨髄抑制症状に良く似た症状を呈する。したがってかかる疾患の病態解明や薬剤開発、薬剤スクリーニングに有用である。また、本発明のPsf1遺伝子欠損動物は造血幹細胞のソースとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、Psf1蛋白の一次構造を示す。N末端側からcoiled-coilドメイン、アルギニンに富む塩基性ドメイン、PEST様ドメインがある。。
【図2】図2は、マウス各組織、骨髄細胞におけるPsf1遺伝子の発現解析結果を示す。BM;骨髄。
【図3】図3は、Psf1遺伝子欠損マウスの各種組織内局在を示す。msn;間葉系細胞、Hr;心臓、AER; apical ectodermal ridge、DA;dorsal aorta。
【図4】図4は、NIH3T3細胞における細胞内局在を示す。
【図5】図5は、Psf1遺伝子欠損用ターゲッティングベクターのコンストラクトを示す。E;EcoRI切断部位、B;BamHI切断部位。DT;ジフテリア毒素フラグメントA遺伝子、neo;ネオマイシン耐性遺伝子。
【図6】図6Aは、サザンブロット解析(上段)およびPCR解析(下段)の結果を示す(上段中左:野性型アレル、右:変異アレル)。図6Bは着床後の胚(胎生6.5日)の組織切片をHE染色したものを示す。
【図7】図7は、Psf1遺伝子ホモ欠損(-/-)胚と、ヘテロ欠損(+/-)胚の試験管内培養の結果を示す。
【図8】図8は、図7と同様に胚を4日間培養し、その後12時間BrdUを取り込ませ、固定後、取り込まれたBrdUを特異抗体で検出した結果を示す。盛んに分裂しBrdUを取り込んだICMを矢印で示す。
【図9】図9は、Psf1遺伝子のヘテロ欠損マウスと野性型マウスの5-FUを投与後の生存率、B:血中MNC、C:骨髄MNCを比較したグラフである。
【図10】図10は、Psf1遺伝子のヘテロ欠損マウスと野性型マウスの5-FUを投与後の骨髄中の細胞をFACSで解析したものである。上段は骨髄細胞の形態をFSCおよびSSCで解析したものを示す。中段は幹細胞集団についてMac-1の発現を解析したものである。図中の四角で囲った領域に幹細胞が含まれる。下段は幹細胞のDNA含有量を解析したものを示す。

【配列表フリ-テキスト】
【0083】
配列番号3-プライマー
配列番号4-プライマー
配列番号5-プライマー
配列番号6-プライマー
配列番号7-プライマー
配列番号8-プライマー
配列番号9-プライマー
配列番号10-プライマー
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9