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明細書 :撥水性を有するメッキ層を備えたメッキ製品及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4682318号 (P4682318)
公開番号 特開2006-057131 (P2006-057131A)
登録日 平成23年2月18日(2011.2.18)
発行日 平成23年5月11日(2011.5.11)
公開日 平成18年3月2日(2006.3.2)
発明の名称または考案の名称 撥水性を有するメッキ層を備えたメッキ製品及びその製造方法
国際特許分類 C25D  15/02        (2006.01)
C23C  18/52        (2006.01)
FI C25D 15/02 D
C23C 18/52 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 11
出願番号 特願2004-239648 (P2004-239648)
出願日 平成16年8月19日(2004.8.19)
審査請求日 平成19年7月17日(2007.7.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】高井 治
【氏名】齋藤 永宏
個別代理人の代理人 【識別番号】100117606、【弁理士】、【氏名又は名称】安部 誠
【識別番号】100115510、【弁理士】、【氏名又は名称】手島 勝
【識別番号】100136423、【弁理士】、【氏名又は名称】大井 道子
審査官 【審査官】市枝 信之
参考文献・文献 特開平08-211202(JP,A)
特開平09-087363(JP,A)
特開平07-090691(JP,A)
特開2003-161802(JP,A)
特開2002-327030(JP,A)
特開平10-328881(JP,A)
特開2002-326841(JP,A)
特開2003-146700(JP,A)
特開2003-164379(JP,A)
調査した分野 C25D 13/00 ~ 21/22
C25D 5/00 ~ 7/12
B05D 1/00 ~ 7/26
C23C 24/00 ~ 30/00
C23C 18/00 ~ 20/08
C01B 33/00 ~ 33/193
特許請求の範囲 【請求項1】
基材と該基材上の少なくとも一部に撥水性を有するメッキ層を備えたメッキ製品の製造方法であって、
セラミック微粒子を用意する工程と、
該セラミック微粒子の表面に、該セラミック微粒子に結合可能な官能基を有する有機高分子化合物からなる疎水性有機化合物層を形成して、撥水性付与粒子を得る工程と、
該撥水性付与粒子をメッキ液に分散させる工程と、
該撥水性付与粒子が分散したメッキ液を用いて基材上にメッキ層を形成する工程と、
を備え、
ここで前記撥水性付与粒子を得る工程は、
前記セラミック微粒子の表面に、前記有機高分子化合物の官能基を結合させ得る反応性基を、大気中又は減圧条件下で前記セラミック微粒子の表面に真空紫外光を照射することによって導入すること、ならびに、
該反応性基に前記有機高分子化合物の官能基を結合させることによって、前記セラミック微粒子の表面に化学的に結合した前記有機高分子化合物からなる疎水性有機化合物層を形成すること、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記メッキ層の形成を電気メッキ処理によって行う、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記疎水性有機化合物層を、前記セラミック微粒子に結合可能な官能基と、置換された又は置換されていないアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基とを備えた有機高分子化合物から形成する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基は、一部又は全部がフッ素で置換されている、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記セラミック微粒子は、前記有機高分子化合物の前記官能基と反応し得る反応性基が表面に導入されたシリカ微粒子である、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
前記疎水性有機化合物層を単分子層に形成する、請求項1~5のうちのいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性を有するメッキ層を備えたメッキ製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車その他の乗り物の本体表面にメッキ層を形成することにより、種々の特性、例えば、防汚性、耐食性、耐摩耗性、及び/又は装飾性等を向上させている。また、単一の金属又は合金等のメッキ液に機能性粒子を分散させてメッキ層を形成する複合メッキにより、メッキ層の特性をさらに向上することができることが知られている。例えば、特許文献1及び2には、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と言う)粒子を分散させたメッキ液を用いて、撥水性を向上したメッキ層を形成する技術が記載されている。
【0003】
しかしながら、PTFE粒子は、高価な材料であり、PTFE粒子を使用することは、メッキ製品の製造コストを上昇させる要因となっていた。このため、より経済的に撥水性メッキ層を形成し得る他の方法が望まれている。即ち、PTFE粒子を用いた場合と同等若しくはそれ以上の撥水性を有するメッキ層を備えたメッキ製品を製造可能な新たな方法が求められている。
【0004】

【特許文献1】特開平6‐306626公報
【特許文献2】特開2002‐348699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、かかる従来の課題を解決すべく開発されたものであり、撥水性を有するメッキ層を備えたメッキ製品の新たな製造方法を提供することを目的とする。また、その製造に好適に用いられる撥水性付与粒子を提供することを目的とする。また、ここで開示された方法によって製造された撥水性を有するメッキ層を備えたメッキ製品を提供する。また、ここで開示される撥水性付与粒子を使用することを特徴とする撥水性メッキ層の形成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により提供される方法は、基材と該基材上の少なくとも一部に撥水性を有するメッキ層を備えたメッキ製品の製造方法である。この方法の好適な一態様は、セラミック微粒子を用意する工程と、該セラミック微粒子の表面に、該セラミック微粒子に結合可能な官能基を有する有機高分子化合物からなる疎水性有機化合物層を形成して、撥水性付与粒子を得る工程と、該撥水性付与粒子をメッキ液に分散させる工程と、該撥水性付与粒子が分散したメッキ液を用いて基材上にメッキ層を形成する工程と、を備える。そして、前記撥水性付与粒子を得る工程は、前記セラミック微粒子の表面に前記有機高分子化合物の官能基を結合させ得る反応性基を導入すること、ならびに、該反応性基に前記有機高分子化合物の官能基を結合させることによって前記セラミック微粒子の表面に化学的に結合した前記有機高分子化合物からなる疎水性有機化合物層を形成すること、を包含する。好ましくは、前記反応性基の導入は、大気中又は減圧条件下で前記セラミック微粒子の表面に真空紫外光を照射することにより行われる。また本発明は、他の側面として、上記各工程を備えた撥水性メッキ層の形成方法を提供する。
本明細書において「メッキ層」とは、金属やプラスチック等の基材表面に形成された、他の金属或いは合金、化合物等の被覆層をいう。例えば金属基材表面に形成された金属又は合金の被覆層はここでいうメッキ層の典型例であるがこれに限定されない。
また、本明細書において「基材」とは、かかるメッキ層を形成する支持材料(即ち、メッキ製品の構成物)をいい、所定の材質や形状、用途に限定されない。例えば、自動車や船舶等の乗り物の本体、建築部材、又は電子部品を構成する基体は、ここでいう基材に包含される典型例である。
【0007】
かかる構成の方法では、セラミック微粒子表面に疎水性有機化合物層を形成することによって、その表面を疎水性とし、即ち、撥水性の粒子(即ち、撥水性付与粒子)を得ることができる。そして、得られた撥水性付与粒子をメッキ液中に分散させ、メッキ層を形成することにより、該撥水性付与粒子を分散したメッキ層を形成することができる。得られたメッキ層は、その表面にも撥水性付与粒子が分散して配置されることにより、その表面に撥水性機能を付与される。
尚、本発明において、撥水性付与粒子は、安価なセラミック粒子を主成分(換言すれば、コア)としているために、経済的に有利となり得る。
【0008】
好ましくは、前記メッキ層の形成を電気メッキ処理によって行う。ここで、「電気メッキ処理」とは、典型的にはメッキ層を形成する金属イオンを含むメッキ液中に基材を浸漬し、これをカソード(陰極)とし、アノード(陽極)との間に直流電流を通じ、基材表面に目的とする金属メッキ層を電解析出させる処理をいう。
電気メッキにより、メッキ液中に含まれるメッキ層を形成する金属イオンが基材表面上に移動、集積し、更には析出してメッキ層を形成する。同時に、メッキ液中に分散している撥水性付与粒子が金属イオンとともにメッキ層中に取り込まれ、結果、メッキ層中に均一に分散させることができる。このため、メッキ層を形成する金属中に撥水性付与粒子を分散したメッキ層を容易に得ることができる。
【0009】
また、好ましくは、前記疎水性有機化合物層を、前記セラミック微粒子に結合可能な官能基と、置換された又は置換されていないアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基とを備えた有機高分子化合物から形成する。
このような有機高分子化合物は、セラミック微粒子に結合可能な官能基を有することにより、セラミック微粒子表面に容易に有機化合物層を形成させることができる。また、かかる有機高分子化合物は、置換された又は置換されていないアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を備えることにより、高度な疎水性を有し得る。従って、形成された有機化合物層表面に好適な疎水性を付与することができる。
【0010】
この態様において、より好ましくは、前記アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基は、一部又は全部がフッ素で置換されている。フッ素置換した炭素鎖を有する化合物から疎水性有機化合物層を形成することにより、撥水性をより高めることができる。
【0011】
また上記態様の方法では、前記セラミック微粒子が反応性基を有することにより、セラミック微粒子(反応性基)と有機高分子化合物(官能基)との結合反応が促進される。従って、セラミック微粒子表面に疎水性有機化合物層をより容易に形成することができる。
【0012】
また好ましくは、前記疎水性有機化合物層を単分子層に形成する。かかる疎水性有機化合物層が単分子層であることにより、当該疎水性有機化合物層の厚さをほぼ一定とすることができる。このため、撥水性付与粒子の粒径を均一とし得、メッキ層中により均一に撥水性付与粒子を分散させることができる。また、撥水性の程度が均質化し得るため、メッキ層表面により均一な撥水性を付与することができる。
【0013】
本発明は、他の側面として、ここで開示したいずれかの製造方法に好適に用いられる撥水性付与粒子を提供する。即ち、ここで開示される撥水性付与粒子は、基材上に撥水性メッキ層を形成するためのメッキ液用添加剤を構成し得る。この撥水性付与粒子は、セラミック微粒子と、該セラミック微粒子の表面に形成された疎水性有機化合物層とを有する。
かかる構成の撥水性付与粒子では、基体(コア)を経済的に有利なセラミック微粒子としつつ、その表面に疎水性有機化合物層が形成されている。このため、従来のPTFE粒子と比べ経済的に有利となり得るとともに、高い撥水性を有する。従って、該粒子をメッキ層表面に分散して配置させることにより、メッキ層に容易に撥水性を付与することができる。
【0014】
好ましくは、前記疎水性有機化合物層は、単分子層によって構成されている。この構成により、上述の通り、該粒子は、メッキ層により均一に撥水性を付与することができる。
【0015】
また、本発明は、他の側面として、撥水性を有するメッキ層を備えたメッキ製品を提供する。このメッキ製品は、該メッキ層の表面に、疎水性有機化合物層が表面に形成されたセラミック微粒子が分散して配置されていることを特徴とする。かかる構成のメッキ製品は、好適には、ここで開示したいずれかの方法によって製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、セラミック微粒子及び疎水性有機化合物層の組成、疎水性有機化合物層の形成手段、並びにメッキ層を形成する手段)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、メッキ液の組成、基材の種類、及び撥水性付与粒子の分散手段)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
セラミック微粒子は、疎水性有機化合物層を形成可能な表面を有するものであればいずれのセラミックでも特に制限なく用いることができる。特に機械的強度、熱安定性等が高いセラミック、例えばシリカ、アルミナ、ジルコニア等の酸化物、窒化ケイ素、炭化ケイ素等の非酸化物、ガラス等から成る微粒子が好ましい。特にシリカやアルミナは比較的安価であることに加え、表面に有機化合物を結合させ得る反応性基(典型的にはシラノール基のような親水基)を容易に導入し得、有機化合物層の形成が容易であるために好適である。例えば、シリカ微粒子に種々の親水化処理を施すことによって、その表面にシラノール基(Si-OH)を導入することができる。
【0018】
尚、セラミック微粒子の大きさ(粒径)は、特に限定されず、メッキ層を形成する金属の種類やメッキ製品の内容、用途等によって適宜選択することができる。例えば、セラミック微粒子の平均粒径は、1nm~100μm、好ましくは10nm~50μm、より好ましくは500nm~30μm、さらに好ましくは100nm~10μm、特に好ましくは300nm~5μm程度である。この範囲の平均粒径のセラミック微粒子を用いることにより、メッキ層表面に得られた撥水性付与粒子を均一に分散して配置させることができる。この結果、メッキ層に均一な撥水性を付与することができる。
また、セラミック微粒子の形状は、特に限定されず、種々の形状、例えば、略球状、楕円形状、フレーク状、繊維状、扁平形状、又はブロック状であることができる。このうち、メッキ層表面において均一に分散し、均一な撥水性を付与し得る略球状であることが好ましい。
【0019】
疎水性有機化合物層は、疎水性を有する有機化合物から構成される。例えば、有機化合物としては、セラミック微粒子に結合可能な官能基と、置換された又は置換されていない比較的長い炭素鎖(好ましくは炭素鎖を構成するCの数が10以上、例えば10~30)のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等とを有する有機高分子化合物が好適に用いられる。
このような比較的長いアルキル(或いはアルケニル又はアルキニル)鎖を有する化合物は、セラミック微粒子表面に結合させた際に、それら鎖間のファンデルワールス力により、容易に高密度及び高配向の単分子層(即ち自己組織化単分子層;self-assembled monolayer)を形成し得るため好ましい。また、長鎖アルキル基(例えば、Cの数が10~30)は、疎水性が高いために特に好ましい。
例えば、セラミック微粒子がシラノール基を表面に備えたシリカである場合、有機化合物層を形成する有機化合物としては、比較的鎖長の長い主鎖又は側鎖を有し、メトキシ基のようなセラミック微粒子に結合可能な官能基(好ましくはセラミック微粒子表面に存在する反応性基と結合する)を有する有機ケイ素化合物が好適である。例えば一般式:C2n+1Si(OC2m+13で示されるアルキルトリアルコキシシラン(好ましくはnが10~30から選択される何れかの自然数であり、mが1又は2である。)が有機化合物の好適例として挙げられる。
【0020】
また、他の有機化合物の好ましい例としては、セラミック微粒子に結合可能な官能基と、一部又は全部がフッ素置換されたアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基等を備えた有機化合物が挙げられる。比較的長いアルキル(或いはアルケニル又はアルキニル)鎖を有する化合物は、単分子層を容易に形成し得るため好ましい。
フッ素の置換率は特に限定されないが、アルキル鎖(或いはアルケニル又はアルキニル)を構成する水素原子の過半数(例えば70個数%以上の水素原子)又は実質的にほぼ全ての水素原子がフッ素原子で置換されているものが好ましい。例えば、前記一般式で示されるアルキルトリアルコキシシランにおいて、アルキル鎖を構成する水素原子の70個数%以上の水素原子がフッ素に置換されたもの(後述の実施例参照)が好適である。
【0021】
セラミック微粒子表面に疎水性有機化合物層を形成する手段としては、従来公知の方法を特に制限なく適用することができる。
典型的には、図1に示すように、先ず、セラミック微粒子1の表面に対して、化学処理、プラズマ処理、紫外光照射処理等の活性化処理を施し、有機化合物層をセラミック微粒子1表面に化学的に結合させるための種々の反応性基(表面官能基)をセラミック微粒子1表面に導入する。例えば、セラミック微粒子1がシリカ微粒子である場合では、好ましくは例えば大気中又は減圧条件下で真空紫外光を照射してセラミック(シリカ)微粒子1表面を親水化(具体的にはシラノール基即ち水酸基を導入)し得る。また、酸素を含む雰囲気中で照射処理した場合には、当該紫外光照射により雰囲気酸素から発生したオゾンによってセラミック微粒子1表面に残存する有機含有物を除去することができる。
【0022】
次いで、活性化されたセラミック微粒子1を有機化合物の気相中において処理し、有機化合物層3を成長させ、撥水性付与粒子5を得ることができる(後述の実施例参照)。
好適には有機化合物層3として、有機化合物が所定方向に配向する単分子層に形成する。単分子層とすることにより、層の厚さを一定とし、均一な粒径で、メッキ液中に均一に分散可能な撥水性付与粒子5を形成可能である。有機化合物層3が単分子層よりも成長した場合には、所望により、過剰に吸着した分子を除去して単分子層に形成することができる。この単分子層形成手段としては、特に限定されず、使用した物質に応じて酸処理、アルカリ処理、水洗処理等を適宜組み合わせて行うことができる。
【0023】
メッキ液に含まれるメッキ層を構成する材料には特に制限がなく、種々のメッキ処理によりメッキ層を形成可能ないずれの金属又は金属及び非金属の合金であってもよい。好適な金属種としては、電気メッキ処理で容易にメッキ層を形成可能な金属、例えば、ニッケル、クロム、亜鉛、はんだ、錫、金、銅、白金、及び銀並びにこれらのいずれかの組合せの合金が挙げられるが、これらに限られず、鉄、コバルト、パラジウム、ルテニウム、ロジウムその他の白金族元素等を用いることができる。好ましくは、ニッケル及び/又はクロムである。
【0024】
メッキ液中に撥水性付与粒子を分散させる手段としては、従来公知のいずれの方法であってもよく、特に限定されない。典型的には、攪拌、例えば、マグネチックスターラーによる攪拌、超音波、或いは、メッキ液自体を機械的に又は手動で振動させることによって行うことができる。尚、撥水性付与粒子のメッキ液中への分散性を向上するために、メッキ液を加熱しながら撥水性付与粒子を添加してもよい。この場合の温度は、特に限定されないが、例えば、50~200℃、好ましくは80~120℃程度である。また、撥水性付与粒子のメッキ液中への分散性を向上するために、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤が好ましい。
メッキ液中に撥水性付与粒子を分散させる添加量としては、特に限定されず、要求される撥水性能、メッキ液の種類又は撥水性付与粒子の粒径等によって適宜決定することができる。例えば、メッキ液1リットルあたり0.1g~1kg、好ましくは1g~100g、より好ましくは1g~10g程度で添加することができる。
【0025】
次に、得られたメッキ液を用いて、基材表面にメッキ層を形成する。メッキ層を形成する手段としては、従来公知のメッキ処理方法、例えば、無電解メッキ、真空メッキ(PVD、CVD)、電気メッキが挙げられる。好適には、電気メッキであり、特に、パルスメッキが好ましい。
メッキ処理条件としては、メッキ層を構成する金属又は合金によってメッキ層が形成されるとともに、撥水性付与粒子がメッキ層中に分散して取り込まれ得る条件を適宜選択することができる。例えば、メッキ液の組成や濃度、メッキ温度或いは処理時間等を適宜決定すればよい。例えば、ニッケル析出の場合、50~60℃程度が好ましい。
【0026】
必要に応じて或いは所望により、好適なメッキ処理を行うために、基材に予め表面処理を行ってもよい。この前処理には、例えば電気メッキ処理の場合、脱脂、酸洗浄、水洗、研摩等が挙げられる。また、種々の活性化処理、反応促進処理等を行ってもよい。これらメッキ処理に伴う前処理は、従来公知の処理であればよく、本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0027】
なお、メッキ層は一層に限られず二層以上形成してもよい。例えば、先ず無電解メッキ(又は電気メッキ)処理により下地メッキ層(例えば、銅層又はニッケル層)を一層又は二層以上形成し、その後、撥水性付与粒子を分散させたメッキ液を用いて、電気メッキ(或いは無電解メッキ)処理により表面層となる撥水性メッキ層(例えば、ニッケル層)を積層してもよい。
【0028】
ここで開示される方法によってメッキ層を形成し得る基材としては、種々の材質及び形状の支持部材(基板)に対して適用可能であり、いずれの従来公知のメッキ層を有する製品の基材にも特に制限なく適用することができる。即ち、ここで開示されるメッキ製品は、特定の産業分野の特定の形状・用途に限定されない。例えば、基材の材質としては、メッキ処理可能な種々の金属、合金又はプラスチィックを用いることができる。特に、電気メッキ処理が可能な導電性基材が好ましい。導電性基材としては、例えば、ステンレス、アルミニウム、又は鉄が挙げられる。また、好適な用途としては、自動車、バス、電車、船舶等の乗り物のボディ又は付属部品(ドア等)、電気、電子製品又はその部品の基体、工具、建築物又はその部材の基体が挙げられる。このうち、乗り物、特に自動車等の車両ボディ部材を該方法によって製造し、優れた撥水性を付与することができる。
【0029】
ここで開示された方法によると、得られるメッキ製品は、好ましい形態において、メッキ層の表面に、前記撥水性付与粒子(即ち、疎水性有機化合物層が表面に形成されたセラミック微粒子)が分散して配置されている。好ましくは、撥水性付与粒子は、メッキ層表面において、1nm~20μm、より好ましくは2nm~20μm、さらに好ましくは20nm~10μm、特に好ましくは100nm~10μm程度の間隔で分散して配置されている。また、撥水性付与粒子は、メッキ層の表面から、好ましくは高さ10nm~50μm、より好ましくは10nm~25μm、さらに好ましくは50nm~5μm、特に好ましくは100nm~3μm程度(例えば、500~600nm)突出している。
【0030】
特に好ましい形態において、図2に示すように、撥水性付与粒子13を分散させたメッキ層15を基材11上に形成したメッキ製品10は、表面に微小な水滴17を乗せたとき、水滴17がメッキ層15からはじかれる。即ち、得られるメッキ製品10は、メッキ層15表面と水滴17のなす角である接触角(即ち、水滴接触角)が140°以上、特に好ましくは150°を超える撥水性を実現することができる。尚、この水滴接触角は、従来公知の種々の手段によって測定することができる。例えば、蒸留水の静的接触角(液滴直径約2mm)を液滴法により25℃の雰囲気下で接触角計(例えば、協和界面科学株式会社製の「CA‐X150型」)を用いて測定することができる。
【0031】
以下に説明する実施例によって、本発明を更に詳細に説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
<実施例1>
(1)シリカ微粒子の表面処理
まず、シリカ微粒子の表面を洗浄及び親水化処理した。
即ち、シリカ微粒子(平均粒径約1μm)を用意した。これをエキシマランプ(ウシオ電気株式会社、型式UER20-172V、波長λ=172で出力10mWcm-2の仕事密度)から生じる真空紫外線光(UVU)によって約20分間暴露した。本実施例では、ランプからシリカ微粒子までの空気中における距離は10mmとした。以上の処理により、シリカ微粒子表面に水酸基(シラノール基)を導入することができた。また、このUVU照射によって、雰囲気空気中に存在する酸素分子の光励起によって酸素原子及びオゾン分子(以下「活性酸素種」という。)が発生し、シリカ微粒子表面に存在する不純物としての有機分子は、その炭素-炭素及び炭素-水素結合が解離的に励起するとともに、発生した活性酸素種による酸化によって、分解された。従って、シリカ微粒子表面の有機分子の光化学的脱離によって、光照射されたシリカ微粒子表面は洗浄された。
【0032】
(2)疎水性有機化合物層の形成
疎水性有機化合物、ここではフルオロアルキルシラン、具体的にはFC(CF(CHSi(OCHで示される、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロ-デシル-1-トリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を用意した。
而して、前記表面処理されたシリカ微粒子を0.2cmの疎水性有機化合物液で満たされたガラスカップとともに65cm容積のTeflon(登録商標)容器中に配置し、該容器をシールした後、150℃に保持した炉中に入れ、そこで3時間保持した。
この処理によって、シリカ微粒子表面上の末端水酸基とヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロ-デシル-1-トリメトキシシランのメトキシ基、さらにこのメトキシ基間において脱離反応(脱アルコール反応)が起り、図3に示すように、シリカ微粒子21表面にフッ素置換されたアルキル基を側鎖とするポリシロキサン膜が形成された。
図示されるように、この膜の側鎖は一軸方向に延びる単分子層を形成しており、この単分子層が本実施例に係る疎水性有機化合物層に相当する。このようにして、撥水性付与粒子を得た。
【0033】
(3)メッキ液中への撥水性付与粒子の分散
次いで、ニッケルメッキ液中に前記(2)により得られた撥水性付与粒子を分散させた。まず、ビーカー中に市販の硫酸ニッケル240g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸30g/L、1・5ナフタレン・ジスルホン酸ナトリウム8g/Lを入れた。そして、ビーカー中に攪拌子をセットして、該ビーカーをマグネチックホットスターラーに配置した。マグネチックホットスターラーによって、該ビーカー中の液を60℃に加熱しつつ攪拌し、ニッケルメッキ液を得た。その後、得られたニッケルメッキ液中に前記(2)で得られた撥水性付与粒子1~10g/L程度及び界面活性剤ゼラチン0.008g/Lを添加し、攪拌を30分間行った。このようにして、撥水性付与粒子をニッケルメッキ液中に分散させた。
【0034】
(4)メッキ層形成処理
次いで、前記(3)で得られたメッキ液を用いて、基材にメッキ層を形成した。基材としては、メッキ層形成前に行われる従来公知の表面処理、即ち、脱脂、酸洗浄、水洗、及び研摩が予め行われている銅板を用意した。メッキ処理には、図4に示すような電気パルスメッキ装置31(即ち、北斗電工株式会社製の型式「HC‐110」)を用いた。メッキ装置31は、電源33と、メッキ槽35とを備えている。
まず、カソード(陰極)37として基材を配置し、一方、アノード(陽極)39としてニッケル板を配置した。そして、このメッキ槽35に、前記(3)で得られた撥水性付与粒子41を分散させたメッキ液43を入れた。その後、メッキ液43を60℃に加熱しつつ、電源33から短周期のパルス電流を20分間通電し、カソード37(基材)にニッケルを析出させ、カソード37(基材)表面にニッケルメッキ層を形成した。
次に、カソード37(基材)をこの溶液から取り出し、超純水を入れた超純水槽中に浸漬して洗浄した。以上の工程によって、ニッケルメッキ製品を完成した。
得られたメッキ製品の撥水性を測定した。尚、撥水性評価は、蒸留水の静的接触角(液滴直径約2mm)を液滴法により25℃の雰囲気下で接触角計(協和界面科学株式会社製の「CA‐X150型」)を用いて測定して行った。この結果、得られたメッキ製品の静的接触角は、150°を超えており、優れた撥水性を示していた。
また、本実施例において得られたメッキ製品は、撥水性に優れるとともに、耐摩耗性が高く、低摩擦であった。また、電気メッキをパルス電流によって行ったために、撥水性付与粒子が均一にメッキ層に分散し、より均一な撥水性を得ることができた。
【0035】
(5)他の撥水性付与粒子の調製
疎水性有機化合物として、アルキルトリアルコキシシラン、具体的にはHC(CH17Si(OCHで示されるn-オクタデシルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)を用意した。
而して、前記(1)と同様に表面処理したシリカ微粒子を、0.2cmの疎水性有機化合物液で満たされたガラスカップとともに65cm容積のTeflon(登録商標)容器中に配置し、該容器をシールした後、150℃に保持した炉中に入れ、そこで3時間保持した。
この処理によって、シリカ微粒子表面上の末端水酸基とn-オクタデシルトリメトキシシランのメトキシ基、さらにこのメトキシ基間において脱離反応(脱アルコール反応)が起り、図5に示すように、シリカ微粒子23表面に、炭素数18の長鎖アルキル基を側鎖とするポリシロキサン膜が形成された。
図示されるように、この膜の側鎖は一軸方向に延びる単分子層を形成しており、この単分子層が本実施例に係る疎水性有機化合物層に相当する。
得られた撥水性付与粒子を用いて、前記(3)及び(4)と同様にして、該撥水性付与粒子が分散されたメッキ層を備えたメッキ製品を得た。このメッキ製品は、撥水性に優れるとともに、耐摩耗性が高く、低摩擦であった。
【0036】
以上、本発明の好適な実施態様を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した態様を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】撥水性付与粒子の製造工程の一例を模式的に示す説明図。
【図2】一実施形態に係るメッキ製品の撥水性を模式的に示す説明図。
【図3】一実施例における疎水性有機化合物層の化学構造を示す説明図。
【図4】実施例において用いたメッキ装置を模式的に示す説明図。
【図5】他の実施例における疎水性有機化合物層の化学構造を示す説明図。
【符号の説明】
【0038】
1,21,23…シリカ微粒子
3…有機化合物層
5,13,41…撥水性付与粒子
10…メッキ製品
11…基材
15…メッキ層
17…水滴
31…メッキ装置
37…カソード(基材)
39…アノード
43…メッキ液
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4