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明細書 :プラズマCVD装置および硬質炭素膜の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4649605号 (P4649605)
公開番号 特開2006-057132 (P2006-057132A)
登録日 平成22年12月24日(2010.12.24)
発行日 平成23年3月16日(2011.3.16)
公開日 平成18年3月2日(2006.3.2)
発明の名称または考案の名称 プラズマCVD装置および硬質炭素膜の製造方法
国際特許分類 C23C  16/26        (2006.01)
C23C  16/509       (2006.01)
FI C23C 16/26
C23C 16/509
請求項の数または発明の数 3
全頁数 11
出願番号 特願2004-239669 (P2004-239669)
出願日 平成16年8月19日(2004.8.19)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2004年6月29日から7月2日 日本学術振興会第153プラズマ材料化学分科会主催の「アブストラクト第7回APCPST及び第17回SPSM アジア太平洋プラズマ科学シンポジウム及びプラズマ材料化学シンポジウム」において文書をもって発表
審査請求日 平成19年7月17日(2007.7.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】高井 治
【氏名】齋藤 永宏
【氏名】アニータ バイオレル
個別代理人の代理人 【識別番号】100117606、【弁理士】、【氏名又は名称】安部 誠
【識別番号】100115510、【弁理士】、【氏名又は名称】手島 勝
【識別番号】100136423、【弁理士】、【氏名又は名称】大井 道子
審査官 【審査官】宮澤 尚之
参考文献・文献 特開平01-294867(JP,A)
特公昭63-029583(JP,B1)
特開平11-074099(JP,A)
特開平06-252071(JP,A)
調査した分野 C23C 16/00-16/56
H01L 21/205-21/31
特許請求の範囲 【請求項1】
原料ガスを導入し得る反応容器と、
前記容器に装備されたカソード及びアノードと、
高周波電源を備え、プラズマを発生させるための高周波電力を前記二つの電極間に供給するように構成された電源部と、
前記容器内において被処理材の表面に原料ガス由来の生成物が蒸着され得るように該被処理材を配置する配置部と、
該配置部に配置された被処理材の裏面側に設けられた一又は二以上の磁石であって、該被処理材の表面側とその近傍に局部的に磁場を形成する磁石と、
を備え、
ここで前記配置部は前記磁石を内部に含むケーシングを備えており、
前記高周波電源から高周波電力が印可される前記カソードは前記アノードに対してより小さい面積のカソードであり、該カソードは前記配置部に備えられるとともに前記ケーシングの天板であって該ケーシングからみて垂直方向に可逆的に移動可能な天板として形成され、天板として形成されたカソード上に前記被処理材が配置されるように構成されていることを特徴とする、プラズマCVD装置。
【請求項2】
前記反応容器の側壁が前記アノードを構成していることを特徴とする、請求項1に記載のプラズマCVD装置。
【請求項3】
プラズマCVD法に基づいて被処理材の表面に硬質炭素膜を製造する方法であって、以下の構成のプラズマCVD装置:
原料ガスを導入し得る反応容器と、
前記容器に装備されたカソード及びアノードと、
高周波電源を備え、プラズマを発生させるための高周波電力を前記二つの電極間に供給するように構成された電源部と、
前記容器内において被処理材の表面に原料ガス由来の生成物が蒸着され得るように該被処理材を配置する配置部と、
該配置部に配置された被処理材の裏面側に設けられた一又は二以上の磁石であって、該被処理材の表面側とその近傍に局部的に磁場を形成する磁石とを備え、
ここで前記配置部は前記磁石を内部に含むケーシングを備えており、
前記高周波電源から高周波電力が印可される前記カソードは前記アノードに対してより小さい面積のカソードであり、該カソードは前記配置部に備えられるとともに前記ケーシングの天板であって該ケーシングからみて垂直方向に可逆的に移動可能な天板として形成され、該天板として形成されたカソード上に前記被処理材が配置されるように構成されていることを特徴とするプラズマCVD装置;
を使用すること、
前記プラズマCVD装置の反応容器内の前記天板として形成されたカソード上に被処理材を配置すること、
前記磁石によって前記被処理材の表面側とその近傍に局部的に磁場が形成された状態において、前記反応容器内に原料ガスを導入すると共に前記高周波電源から前記カソードに高周波電力を印加して前記反応容器内に前記原料ガス由来のプラズマを発生させること、
を包含する、硬質炭素膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD法に基づいて硬質炭素膜を製造する方法と、その製造に使用され得るプラズマCVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるダイヤモンド・ライク・カーボン等の硬質炭素膜は、例えば高硬度、低摩擦係数、平滑性、化学的に不活性といった優れた膜特性を有する。このことから、基材の耐摩耗性、摺動性、耐腐食性等を向上させる目的で種々の用途に使用される。
硬質炭素膜を基材(被処理材)表面に製造(成膜)する方法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などが実用化されている。特にプラズマCVD法は比較的広い面積に成膜することが可能であり、樹脂成形体のような絶縁体から成る基材にも硬質炭素膜のコーティングが可能である。かかるプラズマCVD法を使用した硬質炭素膜の製造に、種々のプラズマCVD装置が利用されている。
例えば、特許文献1には、プラズマCVD法の一種である電子サイクロトロン共鳴を利用したECRプラズマCVD法によって硬質炭素膜を製造する方法が記載されている。
【0003】

【特許文献1】特開2002-20870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、プラズマCVD法による硬質炭素膜の成膜は、他の方法に比べて成膜速度が遅い。このため、より効率よく基材上に硬質炭素膜を形成し得るプラズマCVD法に基づく成膜方法の開発が求められている。
本発明は、かかる要求に応えるべく創出されたものであり、基材上に効率よく硬質炭素膜を形成(製造)する方法と該方法を好適に実施し得るプラズマCVD装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意検討の結果、プラズマが磁場により収束する性質に着目し、この特性を従来とは異なるアプローチで利用し、以下に説明する種々の発明を完成するに至った。
本発明は、プラズマCVD法に基づいて被処理材(基材)の表面に硬質炭素膜を製造する方法を提供する。この方法は、反応容器内に被処理材を配置する工程と、前記反応容器内に配置された被処理材の裏面側(すなわち炭素膜形成面とは反対の面側)に磁石を配置し、該被処理材の表面側とその近傍に局部的に磁場を形成する工程と、前記反応容器内に原料ガスを導入すると共に該容器内においてプラズマを発生させる工程とを包含する。好ましくは、ここで開示されるプラズマCVD装置を使用する。
【0006】
ここで「硬質炭素膜」とは、プラズマCVD法によって作製可能な硬さを有する炭素膜をいい、特定の硬さのものに限定されない。典型的には天然ダイヤモンドと同様に炭素のsp結合を有し、部分的にグラファイトと同様に炭素のsp結合を有する。一般にダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)と呼ばれる炭素質の膜はここでいう硬質炭素膜に包含される典型例である。
ここで開示される方法では、被処理材の裏面側(炭素膜形成面の反対側)に磁石を配置し、該磁石を構成要素とする磁気回路の形成によって被処理材の表面側とその近傍に局部的に強い磁場が形成される。これに伴い被処理材表面近傍において原料ガス由来のプラズマ密度を局部的に上昇させ得、結果、硬質炭素膜の成膜速度を向上させることができる。
【0007】
好ましくは、前記反応容器に高周波電力を供給することによって該反応容器内にプラズマを発生させる。そして、該高周波電力が印可される電極上に前記被処理材を配置する。
ここで「高周波電力」とは、高周波電源によって供給される電力であってプラズマを発生させ得る典型的には周波数:1~100MHzの電力をいう。例えば13.56MHz、27.12MHz、或いは40.68MHzの高周波電力が挙げられる。
かかる構成の方法によると、高周波電力の利用によって効率よく被処理材の表面近傍に高密度にプラズマを発生させることができる。
【0008】
また、ここで開示される方法として特に好ましくは、前記反応容器内に配置された被処理材の表面上に磁力線ループが形成されるように、前記磁石を配置する。これにより、被処理材の表面近傍にプラズマを閉じこめ、効率よく硬質炭素膜を形成することができる。例えば、好ましい一態様として、前記磁石は、前記被処理材に少なくとも一つのS極と少なくとも一つのN極とが向けられた状態で該被処理材の裏面側に配置されることを特徴とする方法が挙げられる。
【0009】
また、本発明はここで開示される方法を好適に実施し得るプラズマCVD装置を提供する。この装置は、原料ガスを導入し得る反応容器と、前記容器内においてプラズマを発生させるプラズマ発生手段と、前記容器内において被処理材の表面に原料ガス由来の生成物が蒸着され得るように該被処理材を配置する配置部と、該配置部に配置された被処理材の裏面側に設けられた一又は二以上の磁石であって、該被処理材の表面側とその近傍に局部的に磁場を形成する磁石とを備える。
かかる構成のプラズマCVD装置によると、ここで開示される硬質炭素膜の製造方法を好適に実施し得る。
好ましくは、前記プラズマ発生手段は、前記反応容器内に高周波電力を供給するように構成されており、前記配置部は、高周波電力が印可される電極を備える。ここで開示されるプラズマCVD装置の好ましい一態様では、前記容器に装備されたカソード及びアノードと、高周波電源を備えてプラズマを発生させるための高周波電力を前記二つの電極間に供給するように構成された電源部とを備える。そして、前記配置部は前記磁石を内部に含むケーシングを備えており、前記高周波電源から高周波電力が印可される前記カソードは前記アノードに対してより小さい面積のカソードであり、該カソードは前記配置部に備えられるとともに前記ケーシングの天板であって該ケーシングからみて垂直方向に可逆的に移動可能な天板として形成され、天板として形成されたカソード上に前記被処理材が配置されていることを特徴とする。かかる構成によって効率よく被処理材の表面に硬質炭素膜を形成(製造)することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において特に言及している内容以外の技術的事項であって本発明の実施に必要な事項は、従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書によって開示されている技術内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0011】
本発明の硬質炭素膜製造方法は、プラズマCVDを実施する反応容器内に被処理材を配置し、更には該被処理材の裏面側に磁石を配置して該被処理材の表面側とその近傍に局部的に磁場を形成し、かかる状態で反応容器内に原料ガスを導入すると共に該容器内においてプラズマを発生させて硬質炭素膜を効率よく製造する方法である。これらのことが実現される限りにおいて、プラズマCVD法を行うに必要な種々のプロセスを種々の公知の材料、装置等を用いて行うことができる。
【0012】
本発明の硬質炭素膜製造方法に適用できる被処理材は、プラズマCVDによって炭素膜が形成可能な被処理材であって裏面側に磁石を配置した際に表面側に好適な磁場が形成され得る材質・形状のものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、シリコン基板その他の金属製基材、或いはアルミナ基板その他のセラミック製基材が被処理材として好ましく用いることができる。非磁性材料や軟磁性材料(例えばアモルファス金属から成る基材)が被処理材として好適に使用し得る。
【0013】
本発明の硬質炭素膜製造方法に使用する原料ガスとしては、グロー放電等によってプラズマ励起され、種々の被処理材の表面に炭素膜を形成(蒸着)させ得る組成のガスを特に制限なく使用することができる。例えば、メタン、エタン、プロパン等の飽和脂肪族炭化水素、或いはエチレン、アセチレン、プロピレン等の不飽和脂肪族炭化水素、或いはベンゼン、トルエン、ナフタレン等の芳香族炭化水素から成る単体ガス、又はそれらを構成要素とする混合ガスを使用することができる。或いは、これら炭素源ガスに、水素、窒素、酸素若しくはアルゴンの単体又はこれらの混合ガスを添加したものであってもよい。
これら原料ガスの容器内への供給方法(手段)は、従来のプラズマCVD法と同様でよく、典型的には真空ポンプ等で減圧状態となった反応容器内に所定のガス圧で原料ガスを供給する。例えば、好ましくは、原料ガス供給前に容器内を1.0×10-2Pa以下(例えば5~6×10-3Pa)程度になるまで減圧した後に、容器内が1~100Pa、好ましくは5~50Pa(例えば15~25Pa)程度の低圧条件となるように原料ガスを容器内に供給する。
【0014】
そして原料ガスよりプラズマを発生させ、容器内に配置した被処理材(例えばシリコン基板)の表面に原料ガス分解物(炭素イオン等)を蒸着させることによって、DLC等の硬質炭素膜を製造(成膜)することができる。
プラズマ発生手段としては高周波電力やマイクロ波の付与が挙げられるが、特に高周波電力の利用が好ましい。高周波電力を利用することによって比較的低い温度条件下(典型的には200℃以下)で効率よく硬質炭素膜を成膜することができる。典型的には、反応容器に装備した二つの電極(アノード、カソード)間に高周波電力を供給することによって容器内にグロー放電を生じさせ、該グロー放電によって原料ガスを分解し、プラズマを発生させることができる。例えばアノード及びカソード間に1~100MHz程度の高周波(例えば13.56MHz)を典型的には10W~50kW(例えば10W~1000W、好ましくは100W~500W)程度の電力で印加するとよい。
【0015】
本発明の硬質炭素膜製造方法では、容器内に配置した被処理材の裏面側に磁石を配置して適当な磁気回路を形成し、それによって被処理材表面側に局部的な磁場を形成する。この目的を実現し得る限り、使用する磁石の種類や形状に限定はなく、CVD用反応容器の形状(特に被処理材の配置部の形状)や大きさによって異なり得る。電磁石又は永久磁石の使用が挙げられるが、永久磁石の使用が好ましい。
また、被処理材の表面側に磁力線ループが形成されるように磁気回路を構成することが好ましい。例えば、被処理材に向けられたN極とS極を相互に適当な間隔を設けて該被処理材近くに配置することによって、被処理材表面側に磁力線ループが形成され、プラズマ閉じこめに好適なクローズドな磁場領域を形成することができる。
この場合において形成する磁場の強さ(磁束密度)は特に限定されないが、被処理材と平行(パラレル)な関係にある磁束密度(Bparallel)として少なくとも0.005T(テスラ)又はそれ以上あることが望ましく、例えば0.01~0.2T程度が好ましい。特に0.03~0.1T程度の磁束密度(Bparallel)が硬質炭素膜を製造するのに好ましい。
【0016】
本発明の実施にあたっては、被処理材の裏面側に設ける磁気回路(すなわち磁石)は移動可能に構成することが好ましい。これによって、被処理材表面側の所定の部分の磁場の強さを変動させることができる。或いは、所定の強さの磁場が形成されている領域を被処理材の面方向に移動させることができる。
例えば、固定式の支持台(典型的にはカソード電極)上に被処理材を配置する一方で、該支持台の下側に上下方向及び/又は水平方向に移動可能に磁気回路(磁石)を設けることによって、上記磁場の強さの変動(典型的には被処理材と磁石との距離を異ならせ得る磁気回路(磁石)の上下方向への移動により実現し得る。)、及び/又は、被処理材の面方向への磁場領域の移動(典型的には被処理材裏面側における磁石の相対位置を異ならせ得る磁気回路(磁石)の水平方向への移動により実現し得る。)を行うことができる。
或いは、磁気回路を固定して設ける一方で、被処理材の支持台を移動可能に設けてもよい。例えば、X軸Y軸方向或いは更にZ軸方向に移動する従来公知のステージシステムを利用することができる。
【0017】
次に、ここで開示されるプラズマCVD法に基づく硬質炭素膜の製造方法を実施し得るプラズマCVD装置の好適な一実施形態について図面を参照しつつ説明する。但し、本発明の硬質炭素膜製造方法及びプラズマCVD装置を以下の形態に限定することを意図したものではない。
【0018】
図1に本実施形態に係るプラズマCVD装置1の構成を模式的に示す。この装置1は、大まかにいって、反応容器2と、該反応容器2の内部において被処理材3を支持する配置部5と、反応容器2内に高周波電力を供給する電源部10とから構成されている。
反応容器2は減圧可能な筒状に構成されており、その側壁8の一部には、図示しない種々のガス供給手段(典型的には真空ポンプ)及び原料ガス供給源に接続するガス供給管7が設けられている。さらに側壁8の他の一部には、図示しない種々のガス排出手段(典型的には真空ポンプ)に接続するガス排出管9が設けられている。
また、容器2の側壁8は、上記電源部10と電気的に接続した構成となっており、本装置1におけるアノードを構成している。かかる側壁8を利用することによってアノードの面積を比較的広く確保することができる。本実施形態におけるアノード(側壁)8の面積は約6000cmである。
【0019】
配置部5は、プレート状の被処理材3を配置し得る直径約10cmの円盤状の天板14と、該天板14の下面に設けられたケーシング13とから構成されている。天板14は上記電源部10と電気的に接続した構成となっており、本装置1におけるカソードを構成している。かかるカソード(天板)14の面積は約78.5cmである。すなわち、本実施形態に係る装置1では、CVDに利用するカソード14とアノード8のサイズ及び形成位置がいずれも非対称である。このような非対称系の電極(例えば比較的大きな面積のアノードに対してより小さい面積のカソードを使用)を配置することによって、被処理材3の表面近傍への局所的なプラズマ密度の上昇を容易に実現することができる。
【0020】
一方、ケーシング13の内部には、永久磁石15a,15bを備えた磁気回路が形成されている。これによって天板(カソード)14上に配置された被処理材3の表面側とその近傍に局部的な磁場を形成することができる。また、図示されるように、本実施形態では、ケーシング13内の永久磁石15a,15bのN極とS極の配置を工夫しており、具体的には、円盤状天板14の中心部分には、被処理材3の配置される方向にN極が向けられた磁石15bが配置されている。他方、被処理材3の配置される方向にS極が向けられた環状磁石15aが円盤状天板(カソード)14の円周(外縁)に沿って配置されている。この結果、模式的に図示するように、S極近傍部分(天板14の円周部分)からN極近傍部分(天板14の中心部分)への磁力線ループ23が形成される。このような磁力線ループ23を伴う磁場の形成によって、高密度の状態でプラズマを閉じこめる空間を被処理材3の表面近傍に形成することができる。図1において符号25を付して示す部分は、高密度にプラズマが閉じこめられ得る部分(プラズマリング)を模式的に描いたものである。
なお、図2に模式的に示すように、天板14はケーシング13からみて垂直方向に可逆的に移動されるように設けられている。これにより、被処理材3の表面側に形成される磁場の強度を調整することができる。すなわち、ケーシング13(すなわち磁石15a,15b)に天板(カソード)14を近づけることによって上記磁場の強度を大きくすることができる一方、ケーシング13から天板14を離すことによって上記磁場の強度を小さくすることができる。本装置1では、図示しない一般的なZ軸ステージ機構が設けられており、磁石15a,15bと被処理材3との距離(D)を3mm~18mmの範囲内で変動させることができる。
【0021】
次に、本実施形態に係るプラズマCVD装置1におけるプラズマ発生手段を構成する電源部10を説明する。図1に示すように、この電源部10は、上記カソード(天板14)及びアノード(容器側壁8)と電気的に接続する高周波電源(RF)11を主体に種々の素子類を用いて構成されており、電源部11の出力インピーダンス(ここでは50Ω)と反応容器2内のプラズマインピーダンスを整合するためのマッチング回路19及びコンデンサ18を備えている。高周波電源(RF)11は、13.56MHzの周波数の電力を出力し得る。出力値は10W~500Wの範囲で設定することができる。
また、電源部10は、上記カソード(天板14)と電気的に接続するインダクタンス22及び電圧計21を含む自己バイアス回路20を備えている。
かかる構成の結果、上記カソード(天板14)とアノード(容器側壁8)との間(すなわち反応容器2の内部空間)に、所定の値の高周波電力を供給することができる。同時に、所定の値の高周波電力を供給した際の自己バイアス電圧を測定することができる。なお、電源部を構成する高周波電源(RF)11、マッチング回路19、自己バイアス回路20等の詳細な回路構成(使用素子類)は一般的なプラズマCVD装置と同様でよく、特に本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0022】
以上の構成のプラズマCVD装置1を典型的には以下のような条件で使用することによって所定の被処理材表面に硬質炭素膜を製造することができる。
すなわち、先ずカソード(天板)14上に被処理材3を配置する。そして、減圧条件下の反応容器2内に、外部のガス供給源よりガス供給管7を介して原料ガスを供給する。一方、高周波電源11からカソード14に所定の出力で高周波電力を印加する。同時にカソード14上に配置した被処理材3の表面には自己バイアス電圧が印加される。
而して、反応容器2内の空間にグロー放電が生じ、それによって原料ガス由来のプラズマが発生する。このとき、被処理材3の表面近傍には磁石15a,15bによって局部的に磁場が形成され、容器2内で発生したプラズマを高密度に閉じこめることができる。ところで、本装置1では、図1の磁力線ループ23に示すような被処理材3(すなわちカソード14)とパラレルな磁場の影響を受け、自己バイアス電圧値が変化する。具体的には、平行磁場の強度(磁束密度:Bparallel)がより強い部分は自己バイアス電圧がより低くなる。これにより、被処理材3表面に印加された自己バイアス電圧が低い部分はプラズマインピーダンスが低下し、プラズマが当該部分において収束し得る。その結果、被処理材3表面の磁場の強い部分の成膜速度は加速され、高い成膜速度で硬質炭素膜を得ることができる。
また、磁石15a,15bと被処理材3との距離(D)を変更することにより磁束密度(Bparallel)を異ならせることによって成膜速度を調整することができる。
【0023】
<試験例1>
被処理材3としてシリコン製の薄い基板(直径約10cm)を用いて本プラズマCVD装置1を利用し、上記磁石15a,15bと被処理材3との距離(D)を3mm、6mm、9mm、12mm、15mm及び18mmに変化させ、各距離のときの被処理材3の表面上に形成される磁場の強さを、平行磁場の強度(磁束密度:Bparallel)を指標にして一般的な磁束密度計(テスラメータ)を用いて測定した。
すなわち、被処理材3をカソード14上に配置した後、テスラメータのホールプローブで被処理材3の表面を走査し、被処理材3の各部分における磁束密度(Bparallel)を測定した。結果を図3に示す。図3の横軸は円盤状天板(カソード)14の中心を0としたときの該中心位置からの半径距離(radial distance:mm)を示す。図3の縦軸は磁束密度(Bparallel:T)を示す。
図3に示す結果から明らかなように、被処理材3の表面における平行磁束密度(Bparallel)の大きさは、図1に模式的に示したN極15bからS極15aに亘る磁力線ループ23に同調する。すなわち、平行磁束密度(Bparallel:T)の大きさは同心円状に変化し、磁気回路を構成するN極15bとS極15aの間のほぼ中間に位置する部分で最大の磁束密度を示す。このことは、本プラズマCVD装置1において、被処理材の裏面側における磁気回路の構成、具体的には、N極15bとS極15aの配置を適宜異ならせることによって、平行磁束密度(Bparallel:T)が最大となる位置を被処理材3の表面側(すなわちカソード14の表面側)の任意の位置に設定できることを意味する。例えば、N極とS極を適当に配置することによって、円盤状天板(カソード)14の中心部分を平行磁束密度(Bparallel:T)の最大値を示す部分とすることができる。
また、図3に示す結果から明らかなように、磁石15a,15bと被処理材3との距離(D)を変更することによって、磁束密度の大きさを適当に調節することができる。ここでは、距離(D)を3mm~18mm間で変動させることによって、平行磁束密度(Bparallel:T)の最大値を概ね0.02~0.07Tの間で調節することができた。
【0024】
<試験例2>
次に、上記試験例1(図3)に示す条件のうち、磁石15a,15bと被処理材3との距離(D)を3mmに設定して被処理材3の表面に磁場を形成した状態で、実際に被処理材3上に硬質炭素膜(DLC膜)を製造した。
すなわち、予め反応容器2内を約6×10-3Paとなるまで減圧した後、容器内圧が20Paとなるように原料ガスとしてメタンガスを容器2内に供給した。この状態で、高周波電源(周波数13.56MHz)11から出力400W又は80Wで高周波電力をカソード14に印可し、プラズマCVDを行った。所定時間後、この処理を終了し、被処理材3の表面に形成された硬質炭素膜の性状を調べた。なお、比較試験として、磁気回路(すなわち磁石15a,15b)を取り外した状態で同様のプラズマCVD(高周波出力:400W)を行った。結果を図4に示す。図4は、被処理材3の各表面部分における成膜速度を示している。横軸は、カソード14の中心を0とし、該中心位置からの半径距離(mm)を示す。縦軸は炭素膜の成膜(蒸着)速度(deposition rate:nm/min)を示す。図中の丸プロットは出力400Wの場合の成膜速度を表し、三角プロットは出力80Wでの成膜速度を表し、四角プロットは比較試験すなわち磁場が形成されていない場合(出力400W)の成膜速度を表している。
【0025】
図4から明らかなように、本発明の製造方法によって、磁場をかけない比較試験に比べて著しく高い速度で硬質炭素膜を製造(成膜)することができた。また、高周波出力が高いほど成膜速度をより向上させ得ることが認められた。具体的には、印加高周波電力400Wの場合において、磁場をかけない比較試験での成膜速度が47nm/minであったのに対して、磁場をかけた試験例での成膜速度は最大1029nm/minであった。
また、一般的傾向として、平行磁束密度(Bparallel:T)の高い部分において、より高い成膜速度を実現し得た。このことを確認するべく以下の試験を行った。印加高周波電力を50Wに設定して、上記試験と同様の成膜を行い、平行磁束密度(Bparallel:T)が0.015T、0.025T、0.035T、0.045T、0.055T及び0.065Tである部位の成膜速度を測定した。結果を図5に示す。横軸に磁束密度、縦軸に成膜速度を示す。図5から明らかなように、一般に平行磁束密度(Bparallel:T)が高いほど硬質炭素膜の成膜速度も高くなることが確認された。
【0026】
<試験例3>
次に、得られた硬質炭素膜の硬度(hardness:GPa)及び弾性率(elastic modulus:GPa)を測定した。この試験では、印可する高周波出力を50W、100W、150W、200W、250W、300W、350W及び400Wの8通りとした。
すなわち、磁石15a,15bと被処理材3との距離(D)を3mmに設定して上記試験例と同様のプラズマCVDを行った。被処理材表面の平行磁束密度が0.065Tである部位の硬度及び弾性率をナノインデンテーション法により測定した。結果を図6に示す。横軸に高周波出力値(W)を示し、左縦軸に硬度(GPa)、右縦軸に弾性率(GPa)を示す。図中の四角プロットは硬度を表し、三角プロットは弾性率を表している。
図6に示すように、高周波電力値に拘わらず、得られた炭素膜の硬度及び弾性率はいずれも高い値を示した。特に電力が50~300Wの場合に高い硬度及び弾性率を示した。電力値が150~250Wである場合が更に好ましく、特に200Wでは、硬度が16.2GPa、弾性率が121.6GPaであった。一方、入力高周波電力値が400Wの場合、成膜速度は最速であり、単位時間あたりでもっとも厚い硬質炭素膜が得られたが、応力特性はわずかに低下した。これは、高エネルギー付与によるイオン衝突の増大によって、炭素膜中のsp結合が増大したことが影響していると考えられる。従って、応力特性(硬度、弾性率)に優れる硬質炭素膜(典型的にはDLC膜)を製造するには、50~300Wの入力高周波電力が好ましく、100~250Wが特に好ましい。
【0027】
<試験例4>
上記試験例3において印可高周波電力が50W、200W、400Wで製造した硬質炭素膜表面を原子間力顕微鏡で観察し、表面粗さを示す指標値である二乗平均平方根偏差(RMS値)を計算した。その結果、該個所におけるRMS値は50Wが8.41nm、200Wが3.34nm、400Wが1.69nmであった。これらRMS値から、印可高周波電力が高いほど硬質炭素膜の平滑性が向上することがわかる。
本開示による方法で平滑性が良好な硬質炭素膜を製造するには、より高い印可高周波電力で実施するのが好ましく、例えばここに示した例では、300~400Wで実施したものが好ましい。
【0028】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のプラズマCVD装置の一例を示す模式図である。
【図2】図1の要部を拡大して示す模式図である。
【図3】カソード(被処理材)表面の半径距離と平行磁束密度との関係を示すグラフである。
【図4】カソード(被処理材)表面の半径距離と被処理材表面における硬質炭素膜の成膜速度との関係を示すグラフである。
【図5】平行磁束密度と被処理材表面における硬質炭素膜の成膜速度との関係を示すグラフである。
【図6】平行磁束密度が0.065Tの部位における印加高周波電力と硬度及び弾性率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1 プラズマCVD装置
2 反応容器
3 被処理材(シリコン基板)
5 配置部
8 側壁(アノード)
10 電源部
11 高周波電源
14 カソード
15a,15b 磁石
23 磁力線ループ
25 プラズマの高密度領域(プラズマリング)
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
4
【図6】
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