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明細書 :遺伝子導入細胞、及びそれを用いたテロメラーゼ誘導物質の検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4635196号 (P4635196)
公開番号 特開2006-238817 (P2006-238817A)
登録日 平成22年12月3日(2010.12.3)
発行日 平成23年2月16日(2011.2.16)
公開日 平成18年9月14日(2006.9.14)
発明の名称または考案の名称 遺伝子導入細胞、及びそれを用いたテロメラーゼ誘導物質の検出方法
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12Q   1/66        (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
FI C12N 5/00 102
C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/02
C12Q 1/66
G01N 21/78 C
請求項の数または発明の数 6
全頁数 12
出願番号 特願2005-060418 (P2005-060418)
出願日 平成17年3月4日(2005.3.4)
審査請求日 平成20年2月13日(2008.2.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】井出 利憲
【氏名】田原 栄俊
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
【識別番号】100101096、【弁理士】、【氏名又は名称】徳永 博
【識別番号】100086645、【弁理士】、【氏名又は名称】岩佐 義幸
【識別番号】100107227、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 史朗
【識別番号】100114292、【弁理士】、【氏名又は名称】来間 清志
【識別番号】100119530、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 和幸
【識別番号】100134005、【弁理士】、【氏名又は名称】澤田 達也
【識別番号】100135172、【弁理士】、【氏名又は名称】野田 裕子
審査官 【審査官】吉田 知美
参考文献・文献 国際公開第98/14593(WO,A2)
特表平10-505488(JP,A)
特開平11-123100(JP,A)
特表平8-501079(JP,A)
国際公開第00/46355(WO,A2)
特開2002-121(JP,A)
J. Biol. Chem.,1999年,Vol.274, No.52,p.37473-37478
上原記念生命科学財団研究報告集,2000年,Vol.14,p.442-444
調査した分野 C12N 5/10
C12N 15/09
C12Q 1/02
C12Q 1/66
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
テロメラーゼ触媒サブユニット(TERT)遺伝子と、該TERT遺伝子の上流に連結された構成的プロモーターとを有するTERT発現ベクターを導入することによって不死化した正常体細胞に、TERTのプロモーターと該TERTのプロモーターの下流に連結された外来遺伝子とを有するベクターを導入してなる遺伝子導入細胞。
【請求項2】
前記構成的プロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)プロモーター、及びマウスホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターからなる群から選択される少なくとも1種のプロモーターであることを特徴とする請求項1記載の遺伝子導入細胞。
【請求項3】
前記正常体細胞は、正常繊維芽細胞である請求項1又は2記載の遺伝子導入細胞。
【請求項4】
前記外来遺伝子は、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β-ガラクトシダーゼ、蛍光タンパク質からなる群から選択される少なくとも1種由来の遺伝子であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の遺伝子導入細胞。
【請求項5】
請求項1~4項のいずれか1項に記載の遺伝子導入細胞を被検物質と接触させて、外来遺伝子の発現の有無及び発現の程度を測定することによって、該被検物質がテロメラーゼを誘導するか否かを検出することを特徴とするテロメラーゼ誘導物質の検出方法。
【請求項6】
前記外来遺伝子の発現の有無及び発現の程度を、ルシフェラーゼの発光強度によって測定する請求項5記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入細胞、及びそれを用いたテロメラーゼ誘導物質の検出方法に関し、詳細には、テロメラーゼ触媒サブユニット(TERT)遺伝子と、該遺伝子の上流に連結された構成的プロモーターとを有するTERT発現ベクターを導入することによって不死化した正常体細胞に、TERTのプロモーターと該TERTのプロモーターの下流に連結された外来遺伝子とを有するベクターを導入してなる遺伝子導入細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
真核細胞の染色体の両末端には、それぞれテロメアと呼ばれる特殊な構造がある。ヒトの場合、テロメアは、テロメアに結合するタンパク質と5’-TTAGGG-3’の繰り返し配列からなるテロメアDNAからなる。テロメアDNAは、2~10kbp程度の二本鎖テロメア配列からなっているが、3’末端部分は、約500塩基ほど突出した一本鎖テロメアDNA配列からなる。テロメアDNAは、細胞分裂においてDNAが複製される際、新生鎖の5'末端を複製機構の持つ性質のために完全には合成できないことと、鋳型鎖の5'末端が複製後に一部分解されることから、短縮する。したがって、細胞分裂を繰り返す度にテロメアDNAが次第に短縮することになる。一般に、正常体細胞では、ある一定の回数細胞が分裂し、テロメアDNAがある一定の長さまで短縮すると、増殖が停止し、いわゆる細胞老化が起きると考えられている。
【0003】
一方で、生殖細胞、幹細胞、活性化リンパ球などの細胞や、90%以上の癌細胞では、テロメアDNAを延長する酵素であるテロメラーゼが発現しているため、分裂を繰り返してもテロメアDNAは短縮せず、分裂寿命がない。すなわち、これらの細胞は不死化している。テロメラーゼは、テロメアDNAの3’末端を逆転写して延長合成するTERTと呼ばれる触媒サブユニットと、それに結合する幾つかのテロメラーゼ結合タンパク質、およびテロメア配列合成に必要な鋳型RNAであるTR(Telomerase RNA)からなる。ヒトにおいては、TERT以外の遺伝子は、生体内のほとんどの細胞で発現が確認されているが、TERT遺伝子は、正常体細胞において通常は発現しておらず、テロメラーゼの活性制御はTERTの発現制御によってなされていることが知られている。
【0004】
TERT遺伝子のプロモーターの解析は主に癌細胞などテロメラーゼ活性のある細胞などを用いて解析され、様々な転写因子が結合して転写を亢進していることが知られている(非特許文献1)。しかし、正常体細胞でTERT遺伝子の転写が抑制され、がん細胞でその抑制が解除されているかについては全くわかっていない。また、正常体細胞で弱いながらもテロメラーゼを誘導できる遺伝子としてはc-mycなどの報告(非特許文献2)があるが、テロメラーゼを誘導できる薬剤などは全く知られていない。
【0005】
これらの結果を、総合的に解釈すると、テロメラーゼを誘導する物質をスクリーニングする試験方法ができれば、細胞の老化の回避等が可能になる物質を見出すことが考えられる。細胞の老化は、がん、糖尿病、動脈硬化などの成人病を引き起こす要因であることから、テロメラーゼを誘導する物質がこれら老化に伴う疾患の一助となるものとも考えられる。
【0006】

【非特許文献1】Horikawa, I., Cable, P. L., Mazur, S. J., Appella, E., Afshari, C. A., and Barrett, J. C. Downstream E-box-mediated regulation of the human telomerase reverse transcriptase (hTERT) gene transcription: evidence for an endogenous mechanism of transcriptional repression. Mol Biol Cell, 13: 2585-2597, 2002.
【非特許文献2】Wu, K. J., Grandori, C., Amacker, M., Simon-Vermot, N., Polack, A., Lingner, J., and Dalla-Favera, R. Direct activation of TERT transcription by c-MYC. Nat Genet, 21: 220-224, 1999.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、テロメラーゼ触媒サブユニット(TERT)遺伝子の転写活性調節の研究を可能にし、テロメラーゼを誘導する物質をスクリーニングすることを可能にする手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、TERTを強制発現させるベクターを導入することによって不死化した正常体細胞に、TERTのプロモーターの下流に外来遺伝子を連結したベクターを導入により得られた遺伝子導入細胞を開発することによって、細胞の寿命を気にせず、テロメラーゼの転写活性を外来遺伝子の発現により持続的に見ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の遺伝子導入細胞は、テロメラーゼ触媒サブユニット(TERT)遺伝子と、該TERT遺伝子の上流に連結された構成的プロモーターとを有するTERT発現ベクターを導入することによって不死化した正常体細胞に、TERTのプロモーターと該TERTのプロモーターの下流に連結された外来遺伝子とを有するベクターを導入してなる。
【0010】
本発明の遺伝子導入細胞の他の好適例において、前記構成的プロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)プロモーター、及びマウスホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターからなる群から選択される少なくとも1種のプロモーターであることを特徴とする。
【0011】
本発明の遺伝子導入細胞の好適例において、前記正常体細胞は、正常繊維芽細胞であることを特徴とする。
【0012】
本発明の遺伝子導入細胞の他の好適例において、前記外来遺伝子は、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β-ガラクトシダーゼ、蛍光タンパク質からなる群から選択される少なくとも1種由来の遺伝子であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のテロメラーゼ誘導物質の検出方法は、上記遺伝子導入細胞を被検物質と接触させて、外来遺伝子の発現の有無及び発現の程度を測定することによって、該被検物質がテロメラーゼを誘導するか否かを検出することを特徴とする。
【0014】
本発明のテロメラーゼ誘導物質の検出方法の好適例において、外来遺伝子の発現の有無及び発現の程度を、ルシフェラーゼの発光強度によって測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の遺伝子導入細胞によれば、正常体細胞でのテロメラーゼ活性抑制のメカニズムを知る上で、細胞の寿命を気にせず、テロメラーゼ触媒サブユニット(TERT)遺伝子の転写活性調節の研究を行うことが可能であるという有利な効果を奏する。
【0016】
また、本発明の遺伝子導入細胞によれば、テロメラーゼ誘導物質の迅速かつ鋭敏なスクリーニングが可能となるという有利な効果を奏する。
【0017】
また、テロメラーゼ誘導物質の検出方法によれば、既知のもの、未知のものを問わず、テロメラーゼを誘導する作用があるか否かを検出することができるという有利な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の遺伝子導入細胞は、テロメラーゼ触媒サブユニット(TERT)遺伝子と、該遺伝子の上流に連結された構成的プロモーターとを有するTERT発現ベクターを導入することによって不死化した正常体細胞に、TERTのプロモーターと該TERTのプロモーターの下流に連結された外来遺伝子とを有するベクターを導入してなる。ここで、「正常体細胞」とは、造腫瘍性を有さない体細胞を意味し、「不死化した正常体細胞」とは、正常体細胞の性質を維持したまま、遺伝子導入などによって無限増殖が可能となった、すなわち不死化した体細胞であって、かつ造腫瘍性を有さないものを意味する。
【0019】
本発明の遺伝子導入細胞は、内在性のTERT遺伝子が発現していない正常体細胞内で、外因性にTERT遺伝子を強制発現させることによって、正常体細胞の性質を維持したまま不死化している。このため、本発明の遺伝子導入細胞は、正常体細胞でありながら、寿命を気にせずに使用することができる。
【0020】
さらに、本発明の遺伝子導入細胞には、TERTのプロモーターと該TERTのプロモーターの下流に連結された外来遺伝子が導入されている。このTERTのプロモーターは、正常体細胞において、TERTの転写を制御するものであり、通常はリプレッサー等何らかの抑制機構が働くことによって不活性化されている。よって、TERTプロモーターの下流に連結されている外来遺伝子は通常は発現していない。しかしながら、例えばTERTプロモーターを活性化する物質等によってTERTプロモーターが活性化すると、前記外来遺伝子は発現する。
【0021】
したがって、本発明の遺伝子導入細胞は、上記のように不死化していることに加えて、TERTプロモーターの活性化により発現する外来遺伝子が導入されているため、このような本発明の遺伝子導入細胞によれば、TERTプロモーターの活性、すなわちTERTの転写活性を持続的にモニターすることができる。
【0022】
以下、本発明の遺伝子導入細胞の作製方法について説明する。まず、テロメラーゼ触媒サブユニット(TERT)遺伝子と、該TERT遺伝子の上流に連結された構成的プロモーターとを有するTERT発現ベクターを正常体細胞に導入することによって、TERT遺伝子の強制発現により不死化した正常体細胞を得る。次に、不死化した正常体細胞に、TERTのプロモーターと該TERTのプロモーターの下流に連結された外来遺伝子とを有するベクターを導入し、本発明の遺伝子導入細胞を得る。
【0023】
まず、テロメラーゼ触媒サブユニット(TERT)発現ベクターの構築について説明する。本発明の遺伝子導入細胞に導入するTERT発現ベクターは、TERT遺伝子と、該TERT遺伝子を強制発現させるために、該TERT遺伝子の上流に連結された構成的プロモーターを有する。
【0024】
上記TERT遺伝子としては、哺乳類動物由来のものを使用することができる。例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ等由来のTERT遺伝子を使用することができる。ヒトを含めた多くの哺乳類動物のTERT遺伝子はクローニングされており、その配列情報は、NCBI、GenBank等のデータベースから入手可能である。遺伝子導入に用いるTERT遺伝子のDNAは、例えば、上記のようにして入手した配列情報に基づいてプライマーを設計し、該プライマーを用いて、cDNA又はmRNAライブラリーからクローニングして得ることができる。
【0025】
本発明の遺伝子導入細胞に導入するTERT発現ベクターの構築は、例えば、市販の強制発現が可能な構成的プロモーターを有するベクターに、予めプロモーター部分を除去したTERT遺伝子DNAを該構成的プロモーターの下流に市販の制限酵素、試薬等を用いて組み込むことによって行うことができる。
【0026】
上記構成的プロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)プロモーター、及びマウスホスホグリセリン酸キナーゼ(マウスPGK)プロモーターなどを挙げることができる。これらの中でも、正常細胞への感染効率が良いという観点から、マウスPGKプロモーターが好ましい。上記構成的プロモーターを有するベクターとしては、例えば、pMSCVpuro、pMSCVneo、pMSCVhyg(いずれもBDバイオサイエンス・クロンテック社から入手可能)を挙げることができるが、それらに限定されるものではなく、本技術分野で汎用されている種々のベクターを使用することができる。
【0027】
上記のようにして構築したTERT遺伝子発現ベクターの導入は、常法により行うことができる。遺伝子導入法としては、例えば、レトロウイルスによる形質導入、ファージによる形質導入、プラスミドによる形質導入、マイクロインジェクション法、エレクトロポーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法などを挙げることができる。これらの中でも、レトロウイルスによる形質導入が、遺伝子導入の効率が高いことから好ましい。
【0028】
本発明の遺伝子導入細胞において、遺伝子導入を行う正常体細胞としては、特に限定されないが、例えば、繊維芽細胞、上皮細胞等を挙げることができる。これらの中でも、細胞培養が一般的に安易であることから、繊維芽細胞が好ましい。
【0029】
TERT遺伝子発現ベクターを導入した正常体細胞では、形態はあまり変化せず、一般的に増殖が多少良くなる。前記TERT遺伝子発現ベクターを導入した正常体細胞が不死化したか否かの確認は、遺伝子導入を行った正常体細胞の種類にもよるが、遺伝子導入後に細胞を培養して、細胞が分裂寿命の2倍以上増殖するか否か確認することで行う。但し、分裂寿命が数代から10代程である正常体細胞は、遺伝子導入後、50PDL以上培養して不死化したか否か確認することが望ましい。
【0030】
次に、上記のようにして得られた不死化した正常体細胞に、TERT遺伝子のプロモーターと該TERT遺伝子のプロモーターの下流に連結された外来遺伝子とを有するベクターを導入して、本発明の遺伝子導入細胞を得る。
【0031】
以下、TERT遺伝子のプロモーターと該TERT遺伝子のプロモーターの下流に連結された外来遺伝子とを有するベクター(TERT遺伝子プロモーター-外来遺伝子発現ベクター)の構築について説明する。まず、TERTのプロモーターのDNAは、NCBI、GenBank等のデータベースで入手した配列情報に基づいてプライマーを設計し、該プライマーを用いて、ゲノムライブラリーからクローニングして得ることができる。
【0032】
外来遺伝子は、特に限定されるものではないが、いわゆるレポーター遺伝子のようなmRNAの確認をし易いもの、発現したタンパク質の確認をしやすいものが好ましい。特に高感度で、かつ迅速に確認し得るという観点から、外来遺伝子としては、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β-ガラクシダーゼ、蛍光タンパク質(例えば、GFP、dsRed、dsRed1-E5)などを挙げることができる。これらの中でも、ルシフェラーゼが高感度かつ定量的に検出することができることから好ましい。
【0033】
次に、本発明のテロメラーゼ誘導物質の検出方法について説明する。
本発明のテロメラーゼ誘導物質の検出方法は、上記本発明の遺伝子導入細胞を被検物質と接触させて、TERTプロモーターの活性化による外来遺伝子の発現の有無を測定することによって、該被検物質がテロメラーゼを誘導するか否かを検出する。
【0034】
まず、本発明のテロメラーゼ誘導物質の検出方法の原理について説明すると、上述のような遺伝子導入細胞を利用することにある。遺伝子導入細胞に接触したテロメラーゼ誘導物質は、何らかの形で、TERT遺伝子のプロモーター活性を不活性化している因子に作用するか、又は自ら該プロモーターに作用して遺伝子のコンホメーションの変化を引き起こし、該プロモーターに結合させた外来遺伝子の発現及び発現に必要な因子に作用するものと考えられる。それによって、前記プロモーターの下流の外来遺伝子を発現するようになる。
【0035】
したがって、外来遺伝子の発現の有無をチェックすることにより、被検物質がテロメラーゼを誘導するか否かを判定することができる。
【0036】
遺伝子導入細胞に関しては、上述の説明を参照されたい。外来遺伝子については、上述したように特に限定されるものではない。
【0037】
特に、高感度で迅速にテロメラーゼ誘導物質を検出し得るという観点から、外来遺伝子としては、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β-ガラクシダーゼ、蛍光タンパク質由来の遺伝子を挙げることができる。これらの中でも、薬剤スクリーニングに適用するに当たって、特に感度が良く、テロメラーゼ誘導物質の定量が可能であり、ハイスループットスクリーニングが可能であるという観点から、ルシフェラーゼ由来の遺伝子が特に好ましい。
【0038】
外来遺伝子として、ルシフェラーゼ由来の遺伝子を用いた場合、外来遺伝子の発現の有無と程度を、ルシフェラーゼ蛋白がルシフェリンなどの基質と反応することによって生じる発光の強度によって感度良く測定することができる。
【0039】
外来遺伝子として、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)由来の遺伝子を用いた場合、外来遺伝子の発現の有無を、酵素免疫測定法やアセチル基導入された放射ラベルクロラムフェニコールの放射線量等によって測定することができる。
【0040】
外来遺伝子として、β-ガラクシダーゼ由来の遺伝子を用いた場合、外来遺伝子の発現の有無を酵素免疫測定法や発色基質を用いた呈色反応の強度等によって測定することができる。
【0041】
外来遺伝子として、蛍光タンパク質由来の遺伝子を用いた場合、外来遺伝子の発現の有無を、特定の波長のレーザーで蛍光を励起させて、フローサイトメーター、蛍光プレートリーダー、蛍光顕微鏡等によって蛍光を検出することによって測定することができる。
【0042】
上記の検出方法を用いて、テロメラーゼ誘導物質をスクリーニングすることができる。スクリーニングの対象としては、特に限定されないが、例えば、種々の化学物質、微生物、植物等の抽出物等を挙げることができる。
【0043】
テロメラーゼ誘導物質のスクリーニングは、例えば、以下のようにして行うことができる。まず、96ウェルのプレートに、1000細胞/wellになるように本発明の遺伝子導入細胞を蒔く。なお、ポジティブコントロールとして、例えばRKO細胞のような内在性のテロメラーゼ活性を有する細胞にTERTプロモーター-外来遺伝子発現ベクターを導入したものを、ネガテュブコントロールとして、遺伝子導入されていない正常体細胞(本発明の遺伝子導入細胞と同種の正常体細胞)をそれぞれ2つずつ蒔く。次に、各細胞を蒔いたウェルにスクリーニング対象物を加えて2日後に、外来遺伝子の発現の確認を行う。
【0044】
この一時スクリーニングで得られた候補化合物は同様の方法で二次スクリーニングを行い、テロメラーゼ誘導活性があるかどうかを確認する。
二次スクリーニングを通過したものは、テロメラーゼ活性がない正常体細胞において、そのテロメラーゼ誘導活性に濃度依存性があるか、テロメラーゼの活性を誘導しているかを調べる。さらに、テロメラーゼ活性がない正常体細胞において、長期培養により誘導されたテロメラーゼ活性によってテロメアの延長がおこっているか否かを確認する。同時に、テロメラーゼ活性がない正常体細胞において、細胞の寿命の延長あるいは不死化がおこるかどうか、細胞の機能的若返りがあるかどうかを調べる。
【実施例】
【0045】
本発明を下記実施例にて詳細に説明するが、これら実施例は本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0046】
実施例1
(hTERT強制発現ベクターの構築)
まず、Nakamura, T. M.ら Science, 277: 955-959, 1997に記載された方法に従って、酵母のテロメラーゼ触媒遺伝子の相同性を利用してヒトのデーターベース(Genbank AA281296)と比較し、候補となる遺伝子断片を見つけ、最終的にはテロメラーゼ活性が強い293細胞のcDNAライブラリーをスクリーニングすることによって、配列番号1に示すようなhTERT遺伝子の完全長cDNAを得た。次に、得られたhTERT遺伝子の完全長cDNAを、pMSCVpuro(BDサイエンス・クロンテック社製)、pLXIN(BDサイエンス・クロンテック社製)のEcoRIサイトにhTERT遺伝子の完全長cDNAを含むものをクローニングして、pMSCVpuro-hTERT、pLXIN-hTERTを作製した。
【0047】
(hTERT強制発現ベクターを含むレトロウイルスの作製)
パッケージング細胞(PT67およびGPE86)を10%FBS DMEM high glucose培地にて培養し、トランスフェクションの前日に、10%FBS DMEM high glucose培地を入れたT-25フラスコに5x105 細胞/フラスコになるように蒔いた。翌日、Effecten transfection Reagent(キアゲン社製)を用いて、製造元のプロトコールに準じて、pMSCVpuro-hTERT又はpLXIN-hTERTをパッケージング細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後、2mlの新しい培地に替えてさらに24時間培養を行った。
【0048】
培養上清を15mlチューブに回収し、ウイルスの保存を行った。パッケージング細胞の方は、2mlのPBS(-)で洗浄後、トリプシン-EDTA液1mlを入れて細胞をはがし、3mlの血清入り培地をいれて良くサスペンドし、15mlのピューロマイシン(2μg/ml)(pMSCVpuro-hTERTを用いた場合)又はG418(1000μg/ml)(pLXIN-hTERTをを用いた場合)を含んだ培地を入れたT75フラスコに0.5mlずつ蒔き、37℃の炭酸ガスインキュベーターで5日培養し、薬剤選択を行った。薬剤選択による死細胞が出てきたときは、ピューロマイシン(2μg/ml)又はG418(1000μg/ml)を含んだ10%FBS DMEM high glucose培地で培地替えを行った。逆に、死細胞がほとんど出ずコンフルエントになったときは、選択薬剤を含んだ培地で10倍希釈して、継代を行った。
【0049】
薬剤選択終了後、サブコンフルエントの細胞の状態になったところで、T25フラスコの場合は2ml、T75フラスコの場合は8mlの選択薬剤を含まない10%FBS DMEM high glucose培地に交換して約24時間後にウイルスを含んだ培養上清を15mlチューブに回収した。
【0050】
回収した培養上清を、0.45μmのフィルターで濾過して、1mlずつサンプルチューブに分注して-80℃で保存した。
【0051】
(ヒト正常繊維芽細胞NHF細胞及びMRC-5細胞へのトランスフェクション)
トランスフェクションの前日に、翌日に30%~40%程度の細胞密度になるように希釈したヒト正常繊維芽細胞のNHF細胞およびMRC-5細胞を10%FBS DMEM high glucose培地4mlを入れたT25フラスコ蒔いた。
【0052】
上記hTERT強制発現ベクターを含むウイルス培養上清にポリブレンを最終濃度で8μg/mlになるように加えた。NHF細胞およびMRC-5細胞の培養上清を取り除き、PBS(-)2ml加えてアスピレーターを用いて十分にPBS(-)を取り除いた。次に、hTERT強制発現ベクターを含むウイルス上清(ポリブレン+)を1ml加えて2分間程おだやかに細胞表面を流すように振盪した。
【0053】
ディスポーザブルの1.0mlのピペットを用いてウイルスを取り除き、新たにhTERT強制発現ベクターを含むウイルス(ポリブレン+)を1ml加え、細胞の表面を十分に覆うように混合し、34℃または37℃のCO2インキュベーターで1~4時間培養した。さらに、新鮮な培地を2ml加え、穏やかに混合し、培養を行った。細胞がサブコンフルエントになるまで(通常3日程度)培養を行い、経代培養の時の要領で細胞を剥がしてG418(500μg/ml)又はピューロマイシン(0.5μg/ml)の入った10%FBS DMEM high glucose培地12mlを入れたT-75フラスコ2枚に蒔き、2週間、薬剤選択を行った。
【0054】
上記のようにしてhTERT強制発現ベクター導入したNHF細胞(以下、NHFT細胞と呼ぶ)及びMRC-5細胞(以下、MRCT細胞と呼ぶ)は、200代以上培養することが可能であり、よってこれらの細胞は不死化したと判断した。
【0055】
実施例2
(hTERTプロモーター-ルシフェラーゼ遺伝子発現ベクターの構築)
まず、hTERTプロモーターを含む正常細胞TIG-3-20(繊維芽細胞)(ヒューマンサイエンス研究資源バンクから入手可能、登録番号:JCRB0506)のゲノムDNAを、2種のプライマー(TRP3p28U:5'-TGCTCACATGTTCTTTCCTGCGTTAT-3'(配列番号2)、及びTRP3PE2473L:5'-GCGGACTGGGTGCTCAGGTAGTGGTT-3'(配列番号3))を用いてPCRを行うことによって増幅し、インビトロジェン社のTA-Cloning Kitを用いて、添付のプロトコールに準拠して、pCR2.1ベクター(kitに含まれる)にクローニングした。
【0056】
得られたhTERTプロモーターを含むゲノムDNAから制限酵素SacIおよびBamHIで切り出したもの(hTERTプロモーター、配列番号4)をpGL3Basic vector (プロメガ社)のSacI/BglIIサイトにクローニングしてpGL3-TRP-Luc DNAを作製した。さらに、pGL3-TRP-Luc DNAを、2種のプライマー(TRPLUC44U-XHOI:5'-AATCTCgAggACACACTAACTgCACCCATA-3'(配列番号5)、及びTRPLUC3861L-NOTI:5'-ATTCgCggCCgCCTgTCCTACgAgTTgCAT-3'(配列番号6))を用いてPCRを行い増幅させた。PCRは、KOD Plus DNA polymerase (東洋紡社製)を用いて製造元のプロトコールに準じて、94℃で2分間加熱後、94℃で15秒、68℃で3分を1サイクルとして25サイクル反応を行い、続いて68℃で3分間加熱を行った後、氷上に置いた。これを、制限酵素XhoIおよびBamHIで切断して、pSIR retoro virus vector(BDサイエンス・クロンテック社製)のXhoI/BamHIサイトに挿入して、hTERTプロモーター-ルシフェラーゼ遺伝子発現ベクターpSIR-TRP-Lucを完成させた。
【0057】
(NHFT細胞及びMRCT細胞へのトランスフェクション)
上記のように作製したhTERTプロモーター-ルシフェラーゼ遺伝子発現ベクターpSIR-TRP-Lucを用いて、前述のhTERT強制発現ベクターを含むレトロウイルスの作成と同様の手順でウイルスを作成し、標的細胞である繊維芽細胞(NHFT及びMRCT)に感染させ、細胞を樹立した。
【0058】
得られた細胞(以下、NHF-TRPLuc細胞およびMRCT-TRPLuc細胞と呼ぶ)において、導入したhTERT-Luc遺伝子が染色体上に組み込まれていることを、本技術分野における通常の方法に従って、PCRおよびサザン解析によって確認した。
【0059】
(ルシフェラーゼアッセイ)
NHF-TRPLuc細胞およびMRCT-TRPLuc細胞に、それぞれ、hTERTプロモーターのリプレッサーとして知られているMenin遺伝子(MEN1)の発現を抑制するMenin遺伝子(MEN1)のsiRNAを以下の方法に従って導入した細胞と、正常細胞でhTERTの転写活性を上げる遺伝子として知られているc-myc遺伝子を以下の方法に従って導入した細胞のルシフェラーゼアッセイを行い、ルシフェラーゼ遺伝子が発現するかどうか調べた。陰性コントロールとして、遺伝子導入されていないNHF細胞及びMRC-5細胞、hTERT強制発現ベクターを導入したNHFT細胞及びMRCT細胞を用い、陽性コントロールとして、内在性のテロメラーゼ活性を有するRKO細胞に、上記hTERTプロモーター-ルシフェラーゼ遺伝子発現ベクターを上記と同様の方法により導入した細胞(RKO-TRPLuc)を使用した。
【0060】
なお、ルシフェラーゼアッセイは、プロメガ社のBright-Glo Luciferase assay system又はSteady-Glo Luciferase assay systemを用い、製造元のプロトコールに準じて行った。
【0061】
(1) Menin遺伝子(MEN1)のsiRNAの導入
Menin遺伝子(MEN1)のsiRNA :5’-CAGCCUCAGCCGCUCCUACdTdT-3’(dTdTを除いたRNA部分を配列番号7に示す)、5’-GUAGGAGCGGCUGAGGCUGdTdT-3’(dTdTを除いたRNA部分を配列番号8に示す)を、それぞれ、Fugene6(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いて、製造元のプロトコールに準拠して、NHFT-TRPLuc細胞及びMRCT-TRPLuc細胞にトランスフェクションした。
【0062】
(2) c-mycの導入
pMyc6514(ヒューマンサイエンス研究資源バンクから入手可能、登録番号 CO025)からc-mycのエキソン2~3に相当する部分をSacI/EcoRIで切り出し、pSV2neoベクター(American Type Culture Collection(ATCC)から入手可能、ATCC No. 37149)にクローニングすることによって、c-myc発現ベクターpSV2neo c-mycを作製した。得られたpSV2neo c-mycを、Fugene6試薬(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いて、製造元のプロトコールに準拠して、NHFT-TRPLuc細胞及びMRCT-TRPLuc細胞にトランスフェクションした。
【0063】
NHFT-TRPLuc細胞についての結果を図1に、MRCT-TRPLuc細胞についての結果を図2に示す。
【0064】
陰性コントロールであるNHF細胞及びNHFT細胞では、ルシフェラーゼ活性は検出されなかった。ルシフェラーゼ遺伝子が導入されているNHFT-TRPLuc細胞でも、NHF細胞及びNHFT細胞と同様にルシフェラーゼ活性は検出されなかった。MRC-5細胞についてもNHF細胞と同様の実験結果が得られ、このことから、内因性のhTERT活性がNHFT細胞及びMRCT細胞にはないことが明らかになった。
【0065】
一方で、hTERTプロモーターのリプレッサーとして知られているMenin遺伝子(MEN1)のRNAi法による発現抑制、及びhTERTの転写活性を上げる遺伝子として知られているc-myc遺伝子の導入によって、NHFT-TRPLuc細胞のルシフェラーゼ活性が顕著に増加した。したがって、NHFT-TRPLuc細胞が、正常体細胞でのhTERT転写制御の研究およびhTERTの転写活性を誘導する物質のスクリーニングに有用であることが明らかになった。また、MRC-5細胞についてもNHFT-TRPLuc細胞と同様の実験結果から、該MRCT-TRPLuc細胞が、正常体細胞でのhTERT転写制御の研究およびhTERTの転写活性を誘導する物質のスクリーニングに有用であることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、本発明の一実施例であるNHFT-TRPLuc細胞のルシフェラーゼアッセイ結果を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明の一実施例であるMRCT-TRPLuc細胞のルシフェラーゼアッセイ結果を示すグラフである。
図面
【図1】
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【図2】
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