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明細書 :移乗作業支援器具

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4613312号 (P4613312)
公開番号 特開2006-247131 (P2006-247131A)
登録日 平成22年10月29日(2010.10.29)
発行日 平成23年1月19日(2011.1.19)
公開日 平成18年9月21日(2006.9.21)
発明の名称または考案の名称 移乗作業支援器具
国際特許分類 A61G   7/10        (2006.01)
A61G   5/00        (2006.01)
A61H   3/04        (2006.01)
FI A61G 7/10
A61G 5/00 509
A61H 3/04
請求項の数または発明の数 10
全頁数 16
出願番号 特願2005-067906 (P2005-067906)
出願日 平成17年3月10日(2005.3.10)
審査請求日 平成20年2月15日(2008.2.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
発明者または考案者 【氏名】小泉 邦雄
個別代理人の代理人 【識別番号】100088155、【弁理士】、【氏名又は名称】長谷川 芳樹
【識別番号】100092657、【弁理士】、【氏名又は名称】寺崎 史朗
審査官 【審査官】田中 玲子
参考文献・文献 特開2004-223151(JP,A)
特公昭30-004998(JP,B1)
特開平09-052501(JP,A)
実開平02-039725(JP,U)
特開2003-305096(JP,A)
特表昭62-502381(JP,A)
特開平08-229080(JP,A)
特開平11-070146(JP,A)
特開2004-243999(JP,A)
調査した分野 A61G 7/10
A61G 5/00
A61H 3/04
特許請求の範囲 【請求項1】
被介護者の抱き上げ、抱き下ろしをともなう移乗作業を支援する移乗作業支援器具であって、
上下に伸縮動作可能なアシスト手段と、
支柱を介して前記アシスト手段の上部に設けられ、被介護者の両脇下を支える支持アームと、
前記アシスト手段の下部に設けられた車輪と、
前記アシスト手段を伸縮動作させる操作部とを備え
前記支柱が前記支持アームに対して略垂直な方向で該支持アームと接続し、
前記アシスト手段と前記支柱とが同軸状に直列に配置されており、
前記車輪が前記移乗作業支援器具の任意の左右方向において1輪のみ設けられている、
ていることを特徴とする移乗作業支援器具。
【請求項2】
前記車輪が前記アシスト手段の下部に前後に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の移乗作業支援器具。
【請求項3】
前記移乗作業支援器具の前後方向の倒れにより接地して前記車輪を非作動状態とする前後方向接地部材を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の移乗作業支援器具。
【請求項4】
前記移乗作業支援器具の左右方向の倒れにより接地して前記車輪を非作動状態とする左右方向接地部材を備えていることを特徴とする請求項3に記載の移乗作業支援器具。
【請求項5】
前記左右方向接地部材の先端部には、被介護者の足を乗せるためのステップがヒンジを介して設けられていることを特徴とする請求項4に記載の移乗作業支援器具。
【請求項6】
前記アシスト手段の下部に、前記被介護者の足を乗せるためのステップをさらに備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の移乗作業支援器具。
【請求項7】
前記操作部は、前記アシスト手段の上部に同軸状に設けられており、前記操作部に前記支持アームが接続されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の移乗作業支援器具。
【請求項8】
前記被介護者の脛を前記アシスト手段に固定する脛固定具をさらに備えることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の移乗作業支援器具。
【請求項9】
前記アシスト手段はロック機構付スプリングであることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の移乗作業支援器具。
【請求項10】
前記アシスト手段は電動リニアモータであることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の移乗作業支援器具。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、介護者の移乗作業を支援する移乗作業支援器具に関する。
【背景技術】
【0002】
介護の現場では、介護者が被介護者をベッドから車椅子やトイレなどに移す移乗作業がしばしば行われる。通常の移乗作業では、介護者が腰を屈めて両腕を被介護者の脇の下から背に回し、抱きかかえて持ち上げつつ捻って下ろすという動作を行う。この抱き上げ・抱き下ろし動作による移乗作業は、被介護者のほぼ全体重が介護者の腰にかかるため、介護者の作業負担が非常に大きい。そのため、介護現場では、腰痛が職業病となっている。
【0003】
そこで、介護者の移乗作業の負担を軽減するための移乗機が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載の移乗機を利用した移乗作業は、次のように行われる。まず、介護者は、電動モータを駆動して身体支えが取り付けられた支柱を被介護者側に倒す。被介護者は身体支えの上面に覆い被さるようにして身体支えに身体をあずける。介護者は、電動モータを駆動して身体支えに被介護者を乗せた状態で支柱を直立させた後、被介護者の身体を支えながらターンテーブルを回転させ、被介護者の身体の向きを車椅子などが置かれている方向に変える。そして、電動モータを駆動し、支柱を傾斜させて被介護者を車椅子などに着座させる

【特許文献1】特開平10-192346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記移乗機を利用した移乗作業では、被介護者が自分の体重を胸や腹で支える必要があるため、被介護者の胸や内蔵が圧迫され、被介護者に苦痛を与えるおそれがある。また、不自然な姿勢をとらされることに対して、膝や腰関節の曲がりづらい高齢者が不安や恐怖を感じるおそれがある。このように、上記移乗機は、被介護者の立場を尊重したものとは言い難かった。そのため、介護の現場では、被介護者の立場を尊重し、被介護者に不安感や恐怖感を与えることなく、介護者の移乗作業の負担を軽減することが強く望まれていた。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、被介護者に不安感や恐怖感を与えることなく、介護者の移乗作業の負担を軽減することが可能な移乗作業支援器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る移乗作業支援器具は、被介護者の抱き上げ、抱き下ろしをともなう移乗作業を支援する移乗作業支援器具であって、上下に伸縮動作可能なアシスト手段と、アシスト手段の上部に連設されて被介護者の両脇下を支える支持アームと、アシスト手段の下部に設けられた車輪と、アシスト手段を伸縮動作させる操作部とを備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る移乗作業支援器具によれば、被介護者の両脇下を支える支持アームがアシスト手段により進退され、抱き上げ・抱き下ろし動作がアシストされる。また、車輪を備えることにより、捻り動作や移動が容易化される。このように、抱きかかえ姿勢を維持したまま、抱きかかえて持ち上げつつ捻って下ろすという一連の移乗作業をアシストすることができるため、被介護者に不安感や恐怖感を与えることなく、介護者の移乗作業の負担を軽減することが可能となる。
【0008】
本発明に係る移乗作業支援器具では、上記車輪がアシスト手段の下部に前後に配置されていることが好ましい。
【0009】
この場合、前後に配置された複数の車輪を備えることにより、移乗作業(抱き上げ作業、捻り作業、および抱き下ろし作業)における安定性をより向上することが可能となる。なお、本明細書においては、移乗作業支援器具の使用時における介護者の前方方向を「前方」と定め、「前」「後」「左」「右」等の方向を表わす語を用いることとする。
【0010】
本発明に係る移乗作業支援器具は、移乗作業支援器具の前後方向の倒れにより接地して車輪を非作動状態とする前後方向接地部材を備えていることが好ましい。
【0011】
このようにすれば、移乗作業支援器具が前後方向に倒れたときに前後方向接地部材が接地して自動的に車輪による動きを拘束することができるので、介護者が制動装置などを操作する必要がなく、移乗作業の負担をより軽減することが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る移乗作業支援器具は、移乗作業支援器具の左右方向の倒れにより接地して車輪を非作動状態とする左右方向接地部材を備えていることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、移乗作業支援器具が左右方向に大きく傾倒することがなく、被介護者の姿勢を左右方向に安定させることが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る移乗作業支援器具では、上記左右方向接地部材の先端部に非介護者の足を乗せるためのステップがヒンジを介して設けられていることが好ましい。
【0015】
この場合、被介護者の足をステップに乗せることにより、移動時などに被介護者の足を引きずる必要が無くなるため、捻り作業や移動作業をより容易に行うことが可能となる。
【0016】
また、アシスト手段の下部に、被介護者の足を乗せるステップを備える構成としてもよい。
【0017】
この場合も、移動時などに被介護者の足を引きずる必要が無くなるため、捻り作業や移動作業をより容易に行うことが可能となる。
【0018】
本発明に係る移乗作業支援器具では、操作部が、アシスト手段の上部に同軸状に設けられており、操作部に支持アームが接続されていることが好ましい。
【0019】
操作部、アシスト手段、およびア支持ームをこのように配置することにより、移乗作業支援器具をコンパクトにすることができるので、介護者や被介護者の姿勢の自由度が増大し、移乗作業時に被介護者に違和感を与えることを抑制することが可能となる。
【0020】
本発明に係る移乗作業支援器具は、被介護者の脛をアシスト手段に固定する脛固定具をさらに備えることが好ましい。
【0021】
このようにすれば、抱き上げ・抱き下ろし時や移動時に、被介護者の身体が移乗作業支援器具から離れることを防止することが可能となる。
【0022】
本発明に係る移乗作業支援器具では、アシスト手段がロック機構付スプリングであることが好ましい。
【0023】
この場合、スプリングの弾性力を利用して支柱を進退させることにより、抱き上げ・抱き下ろし作業をアシストすることができる。また、抱き下ろし時に被介護者の体重を利用してスプリングにエネルギを貯えることができ、その状態でロックしておくことにより、次回の移乗作業時のエネルギ源として利用することができる。なお、その結果、電源などが不要となるため、器具を小型軽量化することができ、可搬性を向上することが可能となる。
【0024】
本発明に係る移乗作業支援器具は、アシスト手段が電動リニアモータであることが好ましい。
【0025】
この場合、電動式のリニアモータを用いることにより、より大きなアシスト力を得ることができる。そのため、非力な介護者であっても、より体重の重い被介護者を移乗することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、上下に伸縮動作可能なアシスト手段と、アシスト手段の上部に連接されて被介護者の両脇下を支える支持アームと、アシスト手段の下部に設けられた車輪とを備える構成としたので、被介護者に違和感や不安感を与えることなく、介護者の移乗作業の負担を軽減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。
【0028】
まず、図1を用いて、第1実施形態に係る移乗作業支援器具1の構成を説明する。図1は、移乗作業支援器具1の斜視図である。なお、以下、前後左右および上下の向きを、図1に示されるように定義して用いる。
【0029】
移乗作業支援器具1は、被介護者の両脇下を支える支持アーム10を備えている。支持アーム10は、略コ字状の部材であり、移乗作業時に被介護者の両脇下に当てられ、両脇下から身体を支える略平行に配置された一対の支持部11と、各支持部11の端部を連結する連結部12とを有している。支持アーム10は、例えば、アルミ合金製の軽量パイプにより形成されており、その表面に、高密度発泡材やゴム製の空気チューブ、またはゲル材などのクッション材13が被せられている。
【0030】
支持アーム10の連結部12の中央部分には、上記一対の支持部11により形成される面に対して略垂直な方向に、支柱20の上端が接続されている。したがって、支柱20を鉛直に立てたときに、支持アーム10はほぼ水平になる。支柱20もアルミ合金製の軽量パイプなどにより形成されている。
【0031】
支柱20の下端は、開口部を有する中空円筒形状の操作部30の上面に接続されている。また、操作部30の下面には、支柱20をその軸方向に進退させる油圧ロック機構付ガススプリング40が接続されている。支柱20、操作部30、および油圧ロック機構付ガススプリング40は、同軸状に直列に配置されている。操作部30は、油圧ロック機構付ガススプリング40を伸縮動作させて支柱20の進退量を調節するものである。
【0032】
操作部30の底面には、後述する油圧ロック機構付ガススプリング40のロック解除ピン33が突出している。また、中空円筒形状の操作部30の内部には、支点34を中心として上下に揺動するレバー35が、ロック解除ピン33に当接するように設けられている。開口部から突出したレバー35の先端部には、支柱20の進退量を調節する操作レバー32が接続されている。また、レバー35の先端部には、引張ケーブル36を介して操作ハンドル31が接続されている。より具体的には、開口部の下側にはつば部37が設けられており、引張ケーブル36を構成するアウタシースがレバー35に接続されるとともに、インナケーブルがつば部37に接続されている。
【0033】
操作ハンドル31を握ることにより、または操作レバー32を手前(図1の矢印Y1方向)に引くことにより、支点34を中心としてレバー35が下方(図2の矢印Y2方向)に押し下げられ、油圧ロック機構付ガススプリング40のロック解除ピン33が押し込まれる。その結果、油圧ロック機構付ガススプリング40のスプリング力により支柱20が進出する。また、この状態でスプリング力よりも大きな荷重が加えられたときには、支柱20が退行する。
【0034】
一方、操作ハンドル31または操作レバー32を解放することにより、ばね力により操作ハンドル31または操作レバー32が元の状態に戻され、支点34を中心としてレバー35が上方に押し上げられることによって、油圧ロック機構付ガススプリング40のロック解除ピン33が戻される。その結果、油圧ロック機構付ガススプリング40がロックされる。このように、支柱20の進退量の調節は、操作ハンドル31および操作レバー32の双方により行うことができる。すなわち、操作部30は、特許請求の範囲に記載された操作手段として機能する。なお、操作ハンドル31と操作レバー32のいずれを用いるかは、移乗作業時の姿勢などに応じて選択することができる。
【0035】
油圧ロック機構付ガススプリング40は、操作部30および支柱20を回動自在に支持するとともに、支柱20をその軸方向に進退させるものである。本実施形態では、ガス反力が約300(N)のものを使用した。ここで、被介護者を抱き下ろすときに、被介護者の体重を利用して油圧ロック機構付ガススプリング40にエネルギを貯えるため、ガス反力の値は、介護者の体力などを考慮しつつ、被介護者の体重よりも小さい値に設定される。
【0036】
図2に油圧ロック機構付ガススプリング40の断面図を示す。また、図3(a),(b)に油圧ロック機構付ガススプリング40のアンロック/ロック状態を示す。油圧ロック機構付ガススプリング40は、オイルと圧縮ガス(窒素ガス)が封入された有底筒状のシリンダチューブ41を有している。シリンダチューブ41内には、軸方向に摺動自在に設けられたピストン42と、一端がピストン42に固定され他端がシリンダチューブ41の外側に突出する中空のロッド43が挿入されている。ロッド43の他端には、操作部30が接続されている。
【0037】
シリンダチューブ41の上部には、ロッド43を摺動自在に軸支持すると共にシリンダチューブ41を封止するロッドガイド44と、ロッド43とロッドガイド44との間のオイルの漏れを防止するオイルシール45とが設けられている。
【0038】
シリンダチューブ41内は、ピストン42によって上部室Aと下部室Bとに隔成されており、下部室Bには、軸方向に摺動自在に設けられたフリーピストン46によって圧縮ガス室Cが隔成されている。油圧ロック機構付ガススプリング40では、フリーピストン46を介して下部室B内のオイルが加圧され、このオイルを介してガス反力がロッド43に伝達される。
【0039】
ピストン42には、上部室Aと下部室Bとを連通するオリフィス47が形成されている。また、ピストン42の下面には、オリフィス47を開閉することにより上部室Aと下部室Bとの連通を断続するバルブ48が設けられている。バルブ48には、ロッド43の中空部に設けられたロック解除ピン33が接続されている。
【0040】
図3(a)に示されるように、ロック解除ピン33が押し込まれることにより、バルブ48が開弁されて上部室Aと下部室Bとが連通され、ロッド43のロックが解除される。その結果、圧縮ガスの反力によりロッド43が押し出され、支柱20が進出する。逆に、この状態でロッド43(支持アーム10)にガス反力より大きい負荷が加えられたときには、ロッド43が押し戻され、支柱20が退行する。
【0041】
一方、図3(b)に示されるように、ロック解除ピン33の押し込みが解除された場合、ガス圧によりバルブ48が自動的に閉弁されて上部室Aと下部室Bとの連通状態が断たれ、ロッド43がロックされる。その結果、支柱20がロックされる。このように、油圧ロック機構付ガススプリング40は、特許請求の範囲に記載されたアシスト手段として機能する。
【0042】
図1に戻って説明を続ける。油圧ロック機構付ガススプリング40の外周部には、軸方向(上下方向)に移動可能に脛固定具50が取り付けられている。脛固定具50は、脛固定具50を移動して固定するベルトスライダ51と、被介護者の脛に巻きつけることにより、被介護者の脛を移乗作業支援器具1に固定する脛固定ベルト52とを有している。脛固定ベルト52の両端部には、面ファスナ53が取り付けられており、両端部が剥離可能に接合されている。
【0043】
油圧ロック機構付ガススプリング40を構成するシリンダチューブ41の基端部には、移動方向を自由に変えることができる1輪の自在キャスタ(車輪)60が取り付けられている。
【0044】
また、シリンダチューブ41の基端部には、自在キャスタ60の前後を上方から覆うように略コ字状断面の前後方向接地部材70が取り付けられている。前後方向接地部材70は、支柱20が傾倒することによって接地し自在キャスタ60による動きを拘束するものである。前後方向接地部材70は、移乗作業支援器具1が鉛直に立てられたときに、その端部と床面との間に所定の隙間を有し、図4に示されるように、移乗作業支援器具1が前後に傾倒されたときに、端部が床面に押接されるように設けられている。そして、前後方向接地部材70の端部が床面に押接されることにより、自在キャスタ60が非動作状態にされ、移乗作業支援器具1の移動が拘束される。
【0045】
なお、移乗作業支援器具1は、自在キャスタ60や油圧ロック機構付ガススプリング40を備えることにより、前後移動、左右移動、前後傾倒(ピッチ)、左右傾倒(ロール)、旋回(ヨー)、および上下(リフト)の動きが可能であり、6自由度を有する。
【0046】
次に、移乗作業支援器具1の動作について、図5を参照しつつ説明する。図5は、移乗作業支援器具1を用いた標準的な移乗作業を説明するための図である。ここでは、被介護者をベッドから車椅子に移乗する場合を例に説明する。なお、図5において、ベッドおよび車椅子の図示は省略した。
【0047】
まず、介護者90は、端座位の姿勢でベッドに座っている被介護者92側に支持アーム10の開口部が向くようにして、移乗作業支援器具1を被介護者92の正面に立てる。次に、縮められた状態の支柱20を傾けて支持アーム10の支持部11を被介護者92の脇下に挟むとともに、脛固定ベルト52を被介護者92の脛に巻きつけ、被介護者92の脛を移乗作業支援器具1に固定する。続いて、介護者90は、軸足を被介護者92の両膝間に踏み出し、両腕で被介護者92の上体を抱きかかえる。このとき、介護者90は被介護者92の腰ベルトなどをつかむのがよい。また、被介護者92の手は、介護者90の肩などにつかまらせる(図5(a))。なお、このとき、前後方向接地部材70の前端部が床面に押接され、移乗作業支援器具1は固定される。
【0048】
次に、介護者90は、被介護者92を手前に引き寄せるようにして抱き上げる。また、被介護者92を抱き上げる際に、操作ハンドル31を握る(または操作レバー32を手前に引く)ことにより、油圧ロック機構付ガススプリング40のロックを解除する(図5(b))。ロックを解除された油圧ロック機構付ガススプリング40は、圧縮ガスの反力により支柱20を進出させ、抱き上げ作業をアシストする。そのため、介護者90は、被介護者92の体重と油圧ロック機構付ガススプリング40によるアシスト力との差分の力で被介護者92を抱き上げることができる。被介護者92の抱き上げが終了すると、介護者90は、握っていた操作ハンドル31を解放する。操作ハンドル31が解放されることにより、油圧ロック機構付ガススプリング40が再びロックされ、支柱20が固定される。なお、被介護者92を抱き上げるときには、前後方向接地部材70の後端部を足で押えることにより、安定して被介護者を抱き上げることができる。
【0049】
続いて、図5(c)に示されるように、支柱20を中心にして回転するように被介護者92を車椅子の方へ振ると、自在キャスタ60が回転して向きが変る。
【0050】
そして、操作ハンドル31を操作して油圧ロック機構付ガススプリング40のロックを解除するとともに移乗作業支援器具1を倒してゆくことにより、圧縮ガスの反力を利用して被介護者92をゆっくり抱き下ろし、車椅子に着座させる(図5(d))。被介護者92を抱き下ろす際に、被介護者92の体重で圧縮ガスが押し縮められ油圧ロック機構付ガススプリング40にエネルギが貯えられる。そして、油圧ロック機構付ガススプリング40にエネルギが貯えられた状態、すなわち支柱20が縮められた状態で操作レバーを解放して、油圧ロック機構付ガススプリング40をロックする。
【0051】
本実施形態によれば、被介護者の両脇下を支える支持アーム10が接続された支柱20が油圧ロック機構付ガススプリング40により進退され、抱き上げ・抱き下ろし動作がアシストされる。また、自在キャスタ60を備えることにより、捻り動作や移動が容易化される。このように、抱きかかえ姿勢を維持したまま、抱きかかえて持ち上げつつ捻って下ろすという一連の移乗作業をアシストすることができるため、被介護者に不安感や恐怖感を与えることなく、介護者の移乗作業の負担を軽減することが可能となる。
【0052】
また、油圧ロック機構付ガススプリング40を用いることにより、抱き下ろし時に被介護者の体重を利用してエネルギを貯えることができ、その状態でロックしておくことにより、次回の移乗作業時のエネルギ源として利用することができる。その結果、電源などが不要となるため、器具を小型軽量化することができ、可搬性を向上することが可能となる。
【0053】
また、油圧ロック機構付ガススプリング40を支柱20および操作部30と同軸状に配置することにより、移乗作業支援器具1の横幅を低減することができるので、被介護者の姿勢の自由度が増大し、移乗作業時に被介護者に違和感を与えることを抑制することが可能となる。
【0054】
また、被介護者の脛を油圧ロック機構付ガススプリング40に固定する脛固定具50を備えることにより、抱き上げ・抱き下ろし時や移動時に、被介護者の身体が移乗作業支援器具1から離れることを防止ことが可能となる。
【0055】
また、前後方向接地部材70を備えることにより、支柱20が傾倒したときに自動的に自在キャスタ60による動きを拘束することができるので、介護者が制動装置などを操作する必要がなく、移乗作業の負担をより軽減することが可能となる。
【0056】
次に、移乗作業支援装置の第2実施形態について説明する。本実施形態が第1実施形態と異なるのは、油圧ロック機構付ガススプリング40に代えて与圧ロック機構付コイルスプリング400を用いている点である。その他の構成は、第1実施形態と同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0057】
図6に与圧ロック機構付コイルスプリング400の断面図を示す。なお、図6において第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号が付されている。与圧ロック機構付コイルスプリング400は、コイルスプリング402が封入される有底筒状のシリンダチューブ401を有している。シリンダチューブ401内は、仕切り部材406によって、上部室Dと下部室Eとに隔成されている。
【0058】
シリンダチューブ401を形成する上部室D、下部室Eには、支柱20が同軸状に外側から挿入されている。上部室D内には、支柱20に固定された略円柱状の与圧ロックガイド408が、軸方向に摺動自在に設けられ、コイルスプリング402は、この与圧ロックガイド408と仕切り部材406との間に支柱20と略同心円状に配置されている。
【0059】
シリンダチューブ401の上部には、支柱20を摺動自在に軸支持すると共にシリンダチューブ401を封止するストッパ404が設けられている。また、仕切り部材406には、支柱20を摺動自在に軸支持する支柱ガイド407が設けられている。支柱20が押し下げられ、与圧ロックガイド408が下方に移動することにより、コイルスプリング402が圧縮される。逆に、コイルスプリング402が伸張し、与圧ロックガイド408が押し上げられることにより、支柱20が進出する。
【0060】
シリンダチューブ401の外周面には、操作部30が取り付けられている。与圧ロックガイド408には、円周方向に凹部が形成されており、図6(a)に示されるように、操作レバー32がシリンダチューブ401方向(図6(a)の矢印Y3方向)に押された場合、操作レバー32に取り付けられたロックピン405がシリンダチューブ401の半径方向内側に押し出される。一方、シリンダチューブ401の外周面には、ロックピン405に対応する位置にロックピン挿入孔409が形成されており、操作レバー32によって押し出されたロックピン405と与圧ロックガイド408の凹部とが嵌合されることにより、コイルスプリング402がロックされる。
【0061】
逆に、図6(b)に示されるように、操作レバー32が手前(図6(b)の矢印Y4方向)に引かれた場合、操作レバー32に取り付けられたロックピン405がシリンダチューブ401の半径方向外側に引き出される。それにより、ロックピン405が与圧ロックガイド408の凹部から引き抜かれることにより、コイルスプリング402のロックが解除される。
【0062】
本実施形態によっても、上述した第1実施形態と同等の効果を得ることができる。
【0063】
次に、移乗作業支援装置の第3実施形態について説明する。本実施形態が第1実施形態と異なるのは、油圧ロック機構付ガススプリング40に代えて電動リニアモータ410を用いている点である。その他の構成は、第1実施形態と同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0064】
図7に電動リニアモータ410の要部断面図を示す。なお、図7において第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号が付されている。電動リニアモータ410は、電動モータ411、電動モータ411の駆動軸412に接続されたボールねじ413、およびボールねじ413に噛合されたスライドナット414を有している。ボールねじ413およびスライドナット414は、減速機構を構成する。また、スライドナット414には支柱20が接続されている。
【0065】
電動モータ411の回転運動は、ボールねじ413とスライドナット414によって直線運動に変換される。その結果、電動モータ411が正転または逆転されることにより、支柱20が進退される。なお、電動モータの駆動(正転、逆転)、停止は、操作部30に設けられた操作ハンドル31や操作レバー32によって制御される。
【0066】
本実施形態によれば、電動リニアモータ410を用いることにより、より大きなアシスト力を得ることができる。そのため、非力な介護者であっても、より体重の重い被介護者を移乗することが可能となる。
【0067】
次に、移乗作業支援装置の第4実施形態について説明する。本実施形態は、図8に示されるように、油圧ロック機構付ガススプリング40を構成するシリンダチューブ41の基端部に、被介護者の足を乗せる板状部材であるステップ80をさらに備えている点が第1実施形態と異なる。その他の構成は、第1実施形態と同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0068】
本実施形態によれば、被介護者の足をステップ80に乗せることにより、移動時などに被介護者の足を引きずる必要が無くなるため、捻り作業や移動作業をより容易に行うことが可能となる。
【0069】
次に、図9を用いて、第5実施形態に係る移乗作業支援器具5の構成について説明する。図9は、移乗作業支援器具5の斜視図である。なお、図9において第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号が付されている。
【0070】
本実施形態が第1実施形態と異なるのは、前後方向接地部材70に代えて、油圧ロック機構付ガススプリング40の基端部に、自在キャスタ60の後を上方から覆うように略L字状断面の後方接地部材76が取り付けられている点、および、自在キャスタ60の車輪61を回動自在に支持するフォーク62に、車輪61を制動するブレーキシュー78が取り付けられた略L字状断面の板ばね部材77が取り付けられている点である。その他の構成は、第1実施形態と同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0071】
板ばね部材77に取り付けられたブレーキシュー78は、移乗作業支援器具5を前方に傾倒させたときに自在キャスタ60の車輪61を制動するものである。また、後方接地部材76は、移乗作業支援器具5を後方に傾倒させたときに接地して自在キャスタ60による移乗作業支援器具5の移動を拘束するものである。
【0072】
ブレーキシュー78は、移乗作業支援器具5が鉛直方向に立てられたときに、車輪61および床面との間に所定の隙間を有し、移乗作業支援器具5が前方に傾倒されたときに、ブレーキシュー78が取り付けられている板ばね部材77の屈曲部が床面に当接し、板ばね部材77が曲げられることにより車輪61に押圧されるように設けられている。そして、ブレーキシュー78が車輪61に押圧されることにより車輪61が制動される(図10参照)。本実施形態では、板ばね部材77および後方接地部材76が特許請求の範囲に記載された前後方向接地部材として機能する。
【0073】
本実施形態によっても、上述した第1実施形態と同等の効果を得ることができる。
【0074】
次に、図11を用いて、第6実施形態に係る移乗作業支援器具6の構成について説明する。図11は、移乗作業支援器具6の斜視図である。なお、図11において第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号が付されている。
【0075】
本実施形態は、油圧ロック機構付ガススプリング40の基端部に、油圧ロック機構付ガススプリング40や支柱20を前後方向に傾倒可能に支持するヒンジ部701を有する矩形の板状部材であるベース(ベース部材)700が取り付けられている点、このベース700に前後に2つの自在キャスタ60が取り付けられている点、および、支柱20が傾倒したときに前方の自在キャスタ60を制動するブレーキシュー78が取り付けられた略L字状の板ばね部材77が、ブラケット79を介してヒンジ部701に取り付けられている点で第1実施形態と異なる。その他の構成は、第1実施形態と同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。本実施形態では、板ばね部材77が特許請求の範囲に記載された前後方向接地部材として機能する。
【0076】
本実施形態によれば、2つの自在キャスタ60を備えることにより、移乗作業(抱き上げ作業、捻り作業、および抱き下ろし作業)における安定性をより向上することが可能となる。
【0077】
次に、図12を用いて、第7実施形態に係る移乗作業支援器具7の構成について説明する。図12は、移乗作業支援器具7の斜視図である。なお、図12において第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号が付されている。
【0078】
本実施形態が第1実施形態と異なるのは、シリンダチューブ41の基端部に、自在キャスタ60の左右側面を上方から覆うように略コ字状断面の左右方向接地部材85が設けられている点、および、この左右方向接地部材85の両端部にヒンジ86を介して被介護者の足を乗せるためのステップ87が設けられている点である。その他の構成は、第1実施形態と同一または同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0079】
左右方向接地部材85は、移乗作業支援器具7のロール方向の倒れ(左右傾倒)を可能としつつ、過度な倒れを制限するものである。左右方向接地部材85は、移乗作業支援器具7が鉛直に立てられたときに、その端部に取り付けられたヒンジ86と床面との間に所定の隙間を有し、図13に示されるように、移乗作業支援器具7が左右に傾倒されたときに、ヒンジ86が床面に押接されるように設けられている。そして、左右方向接地部材85の端部に取り付けられたヒンジ86が床面に押接されることにより、移乗作業支援器具7の過度な横倒れが制限される。
【0080】
ヒンジ86には、揺動可能にステップ87が取り付けられている。ステップ87は、端部が半円形に形成された板状部材である。また、ステップ87の底面縁部には、床面との摩擦を低減するための減摩擦材がコーティングされたスペーサ88が取り付けられている。被介護者の足がステップ87に乗せられると、ステップ87はヒンジ86を中心にして揺動し、スペーサ88を介して床面に接する。なお、ヒンジ86にねじりばねなどを設けることにより、移乗作業支援器具7が持ち上げられたときに、ステップ87が垂れ下がらないようにしてもよい。
【0081】
本実施形態によれば、左右方向接地部材85を設けることにより、移乗作業支援器具7の横倒れを安全な範囲に制限することが可能となる。また、本実施形態によれば、被介護者を移動させるときに、被介護者の足が乗せられたステップ87がスペーサ88を介して床面に接するので、移動時の安定性を向上することができる。さらに、スペーサ88の表面には減摩擦材がコーティングされているので、例えば被介護者の足を引きずって移動させる場合と比較して、摩擦抵抗を低減することができ、捻り作業や移動作業をより容易に行うことが可能となる。
【0082】
以上、本発明者らによってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、支持アーム10は被介護者の身体を両脇下から支えることができればよく、その形状は略コ字状に限定されることなく、例えば略U字状などでもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、車輪として自在キャスタを用いたが、全方向に移動することができるボール車輪や底面に減摩擦材が貼り付けられたソリなどを用いることもできる。
【0084】
第5実施形態や第6実施形態に係る移乗作業支援器具5,6に被介護者の足を乗せるステップを設けてもよい。なお、ステップの形状は板状に限られず棒状などでもよい。また、移乗作業支援器具5,6に左右方向接地部材および左右方向接地部材の両端部にヒンジ86を介して取り付けられたステップを設けてもよい。さらに、移乗作業支援器具5,6,7の油圧ロック機構付ガススプリングに代えて、与圧ロック機構付コイルスプリングや電動リニアモータなどを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】第1実施形態に係る移乗作業支援器具の斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る移乗作業支援器具を構成する油圧ロック機構付ガススプリングの断面図である。
【図3】油圧ロック機構付ガススプリングのアンロック/ロック動作を説明するための図である。
【図4】前後方向接地部材の動作を説明するための図である。
【図5】第1実施形態に係る移乗作業支援器具を利用した移乗作業を説明するための図である。
【図6】第2実施形態に係る移乗作業支援器具を構成する与圧ロック機構付コイルスプリングの断面図である。
【図7】第3実施形態に係る移乗作業支援器具を構成する電動リニアモータの要部断面図である。
【図8】第4実施形態に係る移乗作業支援器具を構成するステップの斜視図である。
【図9】第5実施形態に係る移乗作業支援器具の斜視図である。
【図10】ブレーキシューの動作を説明するための図である。
【図11】第6実施形態に係る移乗作業支援器具の斜視図である。
【図12】第7実施形態に係る移乗作業支援器具の斜視図である。
【図13】左右方向接地部材の動作を説明するための図である。
【符号の説明】
【0086】
1,5,6,7…移乗作業支援器具、10…支持アーム、20…支柱、30…操作部、40…油圧ロック機構付ガススプリング、50…脛固定具、60…自在キャスタ、70…前後方向接地部材、76…後方接地部材、77…ブレーキシュー、80…ステップ、85…左右方向接地部材、86…ヒンジ、87…ステップ、90…介護者、92…被介護者、400…与圧ロック機構付コイルスプリング、410…電動リニアモータ、700…ベース。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
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